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特表2024-507571モノクローナル抗体の改善されたタンパク質配列決定のための電子移動解離及び質量分析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】モノクローナル抗体の改善されたタンパク質配列決定のための電子移動解離及び質量分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240213BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
G01N27/62 E ZNA
G01N27/62 V
G01N27/62 X
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551677
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-09-08
(86)【国際出願番号】 US2022017935
(87)【国際公開番号】W WO2022183010
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】63/153,886
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】チェン シャオジン
(72)【発明者】
【氏名】チェイコフ ミロス
(72)【発明者】
【氏名】グリア タイラー
(72)【発明者】
【氏名】オブライエン ジョンソン リード
【テーマコード(参考)】
2G041
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041FA13
2G041GA08
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041KA01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、疾患又は障害を治療するためにヒト対象に投与するのに好適であるように、タンパク質の均一性を保証するために、治療用タンパク質、特に抗体のアミノ酸配列を正確に測定するための改善された方法を提供する。本方法は、分析的物理化学技術、特に、高い精度及び使用速度での分子の強力な配列カバレッジのための誘導電子移動解離(ETD)及び質量分析(MS)アプローチを使用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドの配列カバレッジを改善するための方法であって、以下:
(a)配列カバレッジに影響を与える、タンデム質量分析のための少なくとも2つのパラメータを選択する工程と、
(b)前記少なくとも2つのパラメータの各々の値を決定するために、D-最適実験設計を使用する工程であって、前記値が、配列カバレッジを最大化することに基づいて選択される、前記使用する工程と
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、抗体、二重特異性抗体、モノクローナル抗体、融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート、抗体断片、抗体サブユニット、宿主細胞タンパク質、タンパク質医薬、又はそれらの消化断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
あるポリペプチドの2つ以上のサブユニットに対して、前記方法を連続して又は並行して実施する工程
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記サブユニットが、抗体のFc/2サブユニット、Fdサブユニット、又はLCサブユニットを含む群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンデム質量分析が、ミドルダウン質量分析である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベースの質量分析計である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記タンデム質量分析が、電子移動解離、衝突誘起解離、電子移動/衝突誘起解離、電子移動/高エネルギー衝突解離、紫外線光解離、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記タンデム質量分析が、自動利得制御を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記質量分析計が、液体クロマトグラフィシステムと連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記液体クロマトグラフィシステムが、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも2つのパラメータが、m/z単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、MS AGC標的、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するための方法であって、以下:
(a)D-最適実験設計を使用して、ポリペプチドのタンデム質量分析のための少なくとも2つのパラメータの値を決定する工程であって、前記値が、配列カバレッジを最大化することに基づいて選択される、前記決定する工程と、
(b)前記ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するために、前記少なくとも2つのパラメータの前記値を使用して、前記ポリペプチドをタンデム質量分析に供する工程と
を含む、前記方法。
【請求項13】
前記ポリペプチドが、抗体、二重特異性抗体、モノクローナル抗体、融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート、抗体断片、抗体サブユニット、宿主細胞タンパク質、タンパク質医薬、又はそれらの消化断片である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
あるポリペプチドの2つ以上のサブユニットに対して、前記方法を連続して又は並行して実施する工程
を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記サブユニットが、抗体のFc/2サブユニット、Fdサブユニット、又はLCサブユニットを含む群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記タンデム質量分析が、ミドルダウン質量分析である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベースの質量分析計である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記タンデム質量分析が、電子移動解離、衝突誘起解離、電子移動/衝突誘起解離、電子移動/高エネルギー衝突解離、紫外線光解離、又はそれらの組み合わせを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記タンデム質量分析が、自動利得制御を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記質量分析計が、液体クロマトグラフィシステムと連結されている、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記液体クロマトグラフィシステムが、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記パラメータが、m/z単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、MS AGC標的、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
タンデム質量分析の前に、前記ポリペプチドを酵素消化に供する工程
を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
前記酵素消化が、前記ポリペプチドをIdeSに接触させることを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
タンデム質量分析の前に前記ポリペプチドを還元に供する工程
を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項26】
前記方法を独立して2回以上実施する工程、及び前記ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するために、各タンデム質量分析から同定された断片を組み合わせる工程
を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項27】
ポリペプチドの配列カバレッジを改善するための方法であって、以下:
(a)異なる断片サイズの選択の各々に関して断片の数に影響を与える、タンデム質量分析のための少なくとも2つのパラメータを選択する工程と、
(b)前記少なくとも2つのパラメータの各々の値を決定するために、D-最適実験設計を使用する工程であって、前記値が、前記選択された断片サイズの各々について最大数の断片を生成することに基づいて選択される、前記使用する工程と
を含む、前記方法。
【請求項28】
前記ポリペプチドが、抗体、二重特異性抗体、モノクローナル抗体、融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート、抗体断片、抗体サブユニット、宿主細胞タンパク質、タンパク質医薬、又はそれらの消化断片である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
あるポリペプチドの2つ以上のサブユニットに対して、前記方法を連続して又は並行して実施する工程
を更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記サブユニットが、抗体のFc/2サブユニット、Fdサブユニット、又はLCサブユニットを含む群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記タンデム質量分析が、ミドルダウン質量分析である、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベースの質量分析計である、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記タンデム質量分析が、電子移動解離、衝突誘起解離、電子移動/衝突誘起解離、電子移動/高エネルギー衝突解離、紫外線光解離、又はそれらの組み合わせを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記タンデム質量分析が、自動利得制御を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項35】
前記質量分析計が、液体クロマトグラフィシステムと連結されている、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
前記液体クロマトグラフィシステムが、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記少なくとも2つのパラメータが、m/z単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、MS AGC標的、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項38】
前記断片サイズが、約5,000Da未満の断片、約5,000Da~約10,000Daの断片、及び約10,000Da超の断片を含む群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項39】
ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するための方法であって、以下:
(a)D-最適実験設計を使用して、ポリペプチドのタンデム質量分析のための少なくとも2つのパラメータの値を決定する工程であって、前記値が、異なる断片サイズの選択の各々について最大数の断片を生成することに基づいて選択される、前記決定する工程と、
(b)各選択された断片サイズについての前記少なくとも2つのパラメータの前記値を使用して、前記ポリペプチドをタンデム質量分析に供する工程と、
(c)前記ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するために、各選択された断片サイズについての前記少なくとも2つのパラメータの前記値を使用して、前記タンデム質量分析から同定された断片を組み合わせる工程と
を含む、前記方法。
【請求項40】
前記ポリペプチドが、抗体、二重特異性抗体、モノクローナル抗体、融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート、抗体断片、抗体サブユニット、宿主細胞タンパク質、タンパク質医薬、又はそれらの消化断片である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
あるポリペプチドの2つ以上のサブユニットに対して、前記方法を連続して又は並行して実施する工程
を更に含む、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記サブユニットが、抗体のFc/2サブユニット、Fdサブユニット、又はLCサブユニットを含む群から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記タンデム質量分析が、ミドルダウン質量分析である、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベースの質量分析計である、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
前記タンデム質量分析が、電子移動解離、衝突誘起解離、電子移動/衝突誘起解離、電子移動/高エネルギー衝突解離、紫外線光解離、又はそれらの組み合わせを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項46】
前記タンデム質量分析が、自動利得制御を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項47】
前記質量分析計が、液体クロマトグラフィシステムと連結されている、請求項39に記載の方法。
【請求項48】
前記液体クロマトグラフィシステムが、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記少なくとも2つのパラメータが、m/z単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、MS AGC標的、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項50】
タンデム質量分析の前に、前記ポリペプチドを酵素消化に供する工程
を更に含む、請求項39に記載の方法。
【請求項51】
前記酵素消化が、前記ポリペプチドをIdeSに接触させることを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
タンデム質量分析の前に前記ポリペプチドを還元に供する工程
を更に含む、請求項39に記載の方法。
【請求項53】
前記方法を独立して2回以上実施する工程、及び前記ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するために、各タンデム質量分析から同定された断片を組み合わせる工程
を更に含む、請求項39に記載の方法。
【請求項54】
抗体のアミノ酸配列を決定するための方法であって、
(a)抗体の各サブユニットについての配列カバレッジに影響を与える、ETD-MSのための少なくとも2つのパラメータを選択する工程であって、前記サブユニットが、Fd、Fc/2、及びLCを含む、前記選択する工程と、
(b)前記サブユニットの各々についての前記少なくとも2つのパラメータの各々の値を決定するために、D-最適実験設計を使用する工程であって、前記値が、前記サブユニットの配列カバレッジを最大化することに基づいて選択される、前記使用する工程と、
(c)前記サブユニットを生成するために、前記抗体をIdeS及び還元剤に接触させる工程と、
(d)前記サブユニットの各々の断片のアミノ酸配列を同定するために、前記少なくとも2つのパラメータの前記値を使用して、前記サブユニットの各々をETD-MS分析に供する工程と、
(e)前記サブユニットの各々の追加の断片のアミノ酸配列を同定するために、独立して、ステップ(d)を少なくとももう1回繰り返す工程と、
(f)前記抗体のアミノ酸配列を決定するために、(d)及び(e)の前記断片の前記アミノ酸配列を組み合わせる工程と
を含む、前記方法。
【請求項55】
抗体のアミノ酸配列を決定するための方法であって、
(a)抗体の各サブユニットの小断片、中断片、及び大断片の数に影響を与える、ETD-MSのための少なくとも2つのパラメータを選択する工程であって、前記サブユニットが、Fd、Fc/2、及びLCを含み、前記小断片が、約5,000Daより小さい断片からなり、前記中断片が、約5,000Da~約10,000Daの断片からなり、前記大断片が、10,000Da超の断片からなる、前記選択する工程と、
(b)D-最適実験設計を使用して、前記サブユニットの各々についての前記断片サイズの各々についての前記少なくとも2つのパラメータの各々の値を決定する工程であって、前記値が、前記サブユニットについての前記サイズの最大数の断片を生成することに基づいて選択される、前記決定する工程と、
(c)前記サブユニットを生成するために、前記抗体をIdeS及び還元剤に接触させる工程と、
(d)前記サブユニットの各々の断片のアミノ酸配列を同定するために、前記断片サイズの各々についての前記少なくとも2つのパラメータの前記値を使用して、前記サブユニットの各々をETD-MS分析に供する工程と、
(e)前記サブユニットの各々の追加の断片のアミノ酸配列を同定するために、独立して、ステップ(d)を少なくとももう1回繰り返す工程と、
(f)前記抗体のアミノ酸配列を決定するために、(d)及び(e)の前記断片の前記アミノ酸配列を組み合わせる工程と
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年2月25日に出願された米国仮特許出願第63/153,886号の優先権及び利益を主張するものであり、これは、参照により本明細書に援用される。
【0002】
分野
本発明の態様は、概して、抗体配列の忠実度を特徴付けるための方法を対象とする。より具体的には、本開示は、電子移動解離(ETD)及び質量分析(MS)を使用して、より高い配列決定精度及びカバレッジを達成するための分析物理化学技術、タンパク質断片選択基準、及び多変量分析を提供する。
【背景技術】
【0003】
背景
モノクローナル抗体(mAb)治療薬は、それらの高い特異性及び好ましい薬物動態特性のため、バイオ医薬品市場において主要な勢力であり続ける態勢が整っている(Walsh,2018,Nat Biotechnol,36:1136-1145(非特許文献1)、Kaplon et al.,2020,Mabs,12:1703531(非特許文献2)、Mould and Meibohm,2016,BioDrugs,30:275-293(非特許文献3))。モノクローナル抗体(mAb)の適切な機能に対するグリコシル化及びジスルフィド結合の重要性が理由で、mAbは、しばしば、哺乳動物細胞系において産生される。
【0004】
しかしながら、mAb機能に必要な修飾を適用することのほかに、哺乳動物細胞系における産生は、産物の不均一性をもたらすことが知られている(Meibohm et al.,2019,Pharmaceutical Biotechnology Fundamentals and Applications,5th ed.(非特許文献4))。翻訳後修飾(PTM)の微小不均一性は、安定性、溶解度、及び薬力学的特性及び薬物動態特性を含む、mAb治療薬の重要な品質属性に影響を及ぼす可能性があるため、規制当局は、製品の品質及び一貫性を確実にするために広範な分析的特性評価を要請している(Meibohm et al.)。
【0005】
質量分析(MS)技術、特に、トップダウンMS及びボトムアップMSは、抗体の構造特性評価において強力なツールであることが証明されている。各アプローチは、タンパク質構造及び潜在的な翻訳後修飾に関する固有の情報を提供する(Fornelli et al.,2018,Anal Chem,90:8421-8429(非特許文献5)、Wang et al.,2019,Sci Rep,9:2345(非特許文献6))。質量分析は、分析物(例えば、抗体)を特徴付ける能力を更に強化するために、液体クロマトグラフィと組み合わせて(例えば、液体クロマトグラフィ-質量分析(LC-MS)又は液体クロマトグラフィ-タンデム質量分析(LC-MS又はLC-MS/MS))使用することができる。
【0006】
トップダウンMSは、インタクトな質量分析とタンデム質量分析(MS)を組み合わせ、酵素消化を必要とせず、例えば、翻訳後修飾、タンパク質構造、及び薬物標的相互作用に関する豊富な情報を提供する(Donnelly et al.,2019,Nat Methods,16:587-594(非特許文献7))。しかしながら、抗体のような大きなバイオ医薬のトップダウンMSには制限がある。これらのうちの主なものは、巨大分子のサイズが非常に大きく、酵素処理なしで可能な配列カバレッジが制限されることである(Fornelli et al.)。
【0007】
ボトムアップMSは、代替的なアプローチであり、アミノ酸レベルの分解能を有する配列カバレッジを提供することができる。この技術の1つの欠点は、高い配列カバレッジには、例えば、目的のタンパク質のタンパク質変性、ジスルフィド還元、システインアルキル化、及び/又は酵素消化を含む、多大な試料調製が必要になることである(Nielsen et al.,2008,Nat Methods,5:459-460(非特許文献8)、Lippincott et al.,1999,Anal Biochem,267:57-64(非特許文献9))。ボトムアップMSは、労働集約的であるだけでなく、試料調製中に化学修飾アーチファクトが導入される可能性がある。このリスクのため、ボトムアップMSは、試料調製に起因するアーチファクトを最小限に抑える最適化された方法を生成するために多大な開発を必要とする。
【0008】
ミドルダウンMSは、抗体特性評価に対する代替的なアプローチであり、トップダウンMS分析及びボトムアップMS分析の利点を組み合わせたものである(Chait,2006,Science,314:65-66(非特許文献10)、Fornelli et al.,2014,Anal Chem,86:3005-3012(非特許文献11)、Tsybin et al.,2011,Anal Chem,83:8919-8927(非特許文献12)、Fornelli et al.,2012,Mol Cell Proteomics,11:1758-1767(非特許文献13))。ミドルダウンMS分析は、しばしば、S.ピオゲネス(S.pyogenes)の免疫グロブリンG分解酵素(immunoglobulin G-degrading enzyme of S. pyogenes)(IdeS)を使用して、モノクローナル抗体(mAb)をそのサブユニットに切断する。mAbサブユニットのミドルダウンMS分析は、電子移動解離(electron-transfer dissociation)(ETD)と連結され得、これは、限定的なプロテアーゼ消化によって生成された大きなサブユニットが、ETD断片化分析に好ましい+3よりも大きい電荷を有するためである。これらの高度に帯電した気相の前駆体イオンをETDで断片化して、c-及びz-イオン系列を生成し、これにより、アミノ酸配列及びPTM同一性などの、目的のタンパク質に関する構造情報が明らかになる(Mikesh et al.,2006,Biochim Biophys Acta,Proteins Proteomics,1764:1811-1822(非特許文献14)、Syka et al.,2004,PNAS,101:9528-9533(非特許文献15)、Zhurov et al.,2013,Chem Soc Rev,42:5014-5030(非特許文献16))。
【0009】
ETDによる前駆体イオンの断片化は、イオン-イオン相互作用中に低エネルギー電子を利用し、発熱プロセスを介して進行し骨格切断を誘導するので、不安定なPTMはMSスペクトル中に保存され、その同定及び特定のアミノ酸への局在化を示すことになる(Brodbelt,2016,Anal Chem,88:30-51(非特許文献17))。インタクトなモノクローナル抗体の電子移動解離断片化は、Tsybinらによって最初に報告され、モノクローナル抗体のサブユニットのETD断片化は、Fornelliらによって最初に発表された。
【0010】
ETDを使用したミドルダウン分析に関する以前の研究は、逆相液体クロマトグラフィ質量分析(RPLC-MS)の実行ごとに、Fc/2サブユニットについて最大49%の配列カバレッジが達成され、少なくとも6回のETDの実行を組み合わせることによって、このカバレッジを最大68%まで増加させ得ることを実証した(Fornelli et al.2014)。より最近では、複数の断片化技術を組み合わせて、3回のETDの実行(59.8%)、1回の電子移動高エネルギー衝突解離(EThcD)の実行(51.7%)、及び2回の紫外線光解離(UVPD)の実行(61.2%)を分析に統合することによって、カバレッジが更に87%に改善されることが示された(Fornelli et al.2018、Fornelli et al.2014)。
【0011】
現在市場に出回っている質量分析計は、幅広い用途向けに構築されているため、特定の用途に最適なパラメータを見つけるには、広範な機器パラメータの最適化が必要となる。満たされていないニーズは、mAbサブユニットのETD MS配列カバレッジを最大化するのに最適なパラメータを決定する方法である。
【0012】
ハイブリッド断片化法及びUVPDを含む質量分析計及び断片化法の進歩により、分析者が考慮すべき機器パラメータの数が比例して増加してきた。抗体サブユニットの配列カバレッジを増加させるための多くの異なるアプローチ及びパラメータを用いて最適なセットの条件を見出すことは、大きな課題となり得る。ETDの場合、多くの利用可能なパラメータ間の相互作用、及びそれらが電荷低減、断片化効率、及びMSスペクトルの品質にどのように影響を及ぼすかはしばしば見落とされ、典型的には、分析に使用される設定は、確立された理論、以前の経験、又は公開された方法に基づいていることが多い。Orbitrap Fusion Lumos Tribridのようなより最近の質量分析計には、ETDのための洗練された較正ルーチンが含まれているが、これは、アンジオテンシンのような比較的小さな分析物を使用して実行されるものであって、大きなタンパク質のトップダウン又はミドルダウン分析中に断片化された大きなイオンを表すものではない。更に、これらのルーチンは、ETD断片の生成に影響を与える可能性のある機器ドリフトの全ての原因及びそれに続く最適なパラメータへの影響を考慮していない。
【0013】
したがって、最大のMS配列カバレッジを提供し、全ての質量分析計に適用され得る機器ETD動作条件を最適化するための体系的なアプローチが必要とされている。
【0014】
したがって、タンパク質、特に、抗体及び抗体サブユニットの正確かつ精密な配列決定のための単純な方法を提供することが望ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Walsh,2018,Nat Biotechnol,36:1136-1145
【非特許文献2】Kaplon et al.,2020,Mabs,12:1703531
【非特許文献3】Mould and Meibohm,2016,BioDrugs,30:275-293
【非特許文献4】Meibohm et al.,2019,Pharmaceutical Biotechnology Fundamentals and Applications,5th ed.
【非特許文献5】Fornelli et al.,2018,Anal Chem,90:8421-8429
【非特許文献6】Wang et al.,2019,Sci Rep,9:2345
【非特許文献7】Donnelly et al.,2019,Nat Methods,16:587-594
【非特許文献8】Nielsen et al.,2008,Nat Methods,5:459-460
【非特許文献9】Lippincott et al.,1999,Anal Biochem,267:57-64
【非特許文献10】Chait,2006,Science,314:65-66
【非特許文献11】Fornelli et al.,2014,Anal Chem,86:3005-3012
【非特許文献12】Tsybin et al.,2011,Anal Chem,83:8919-8927
【非特許文献13】Fornelli et al.,2012,Mol Cell Proteomics,11:1758-1767
【非特許文献14】Mikesh et al.,2006,Biochim Biophys Acta,Proteins Proteomics,1764:1811-1822
【非特許文献15】Syka et al.,2004,PNAS,101:9528-9533
【非特許文献16】Zhurov et al.,2013,Chem Soc Rev,42:5014-5030
【非特許文献17】Brodbelt,2016,Anal Chem,88:30-51
【発明の概要】
【0016】
概要
したがって、本発明の目的は、モノクローナル抗体サブユニットの配列カバレッジを最大化するために、最適な電子移動解離(ETD)パラメータを決定するために使用され得る統計的な実験設計(design of experiment)(DOE)アプローチを用いることである。加えて、各抗体が電子移動解離(ETD)実験中にわずかに異なって断片化し得るため、この方法を一連の治療用モノクローナル抗体に適用して、分子特異的パラメータを決定することができる。
【0017】
具体的には、本発明は、ETD及びMS(例えば、LC-MS)を使用した、タンパク質(例えば、抗体又は抗体サブユニット)の正確なデノボ配列決定に有用な方法を提供する。本方法は、D-最適な機器設定が特定かつ選択されるように、DOEによって情報を得ている。
【0018】
最適なETD MSパラメータを見出すための1つのアプローチは、実験設計(DOE)を利用することであり、これは、異なる組み合わせのパラメータをスクリーニングすることを可能にして、サブユニットの最大配列カバレッジを提供するものを見出す。MS機器パラメータの数を考慮すると非効率である「一度に1つの因子(one-factor at a time)(OFAT)」を評価するのではなく、DOEは、機器の多くの異なるパラメータを同時に評価することを可能にする。
【0019】
具体的には、m/z(質量電荷比)単離域、ETD反応時間、ETD試薬標的、及びMS AGC標的(自動利得制御を伴うタンデム質量分析)は、ETD MSスペクトルの品質に影響を与える重要なパラメータであり、したがって、全体的なMSサブユニット配列カバレッジに影響を及ぼし得る。
【0020】
作業負荷を軽減し、意味のあるモデルを維持するために、D-最適設計を採用した。D-最適設計は、コンピュータ支援設計であり、全ての可能な組み合わせのサブセットは、DOEのD-効率を最大化することを目的として選択される(de Aguiar et al.,1995,Chemom Intell Lab Syst,30:199-210)。D-最適設計をETDに適用して、ETD MS配列カバレッジを制御する関連パラメータを推定し(選択された結果に影響を与える、ユーザによって選択されたパラメータのグループを、基礎として使用して)、各パラメータ及び相互作用の効果量(effect size)を推定し、これらの選択されたパラメータの組み合わせから生じる応答を予測し、最終的に最大カバレッジを達成するための改善された動作条件を決定することができる(Randall et al.,2013,J Am Soc Mass Spectrom,24:1501-1512、Kelstrup et al.,2012,J Proteom Res,11:3487-3497、Sun et al.,2013,Rapid Commun Mass Spectrom,27:157-162、Coffey and Yang,2018,Statistics for Biotechnology Process Development)。
【0021】
したがって、DOEは、特に、ETD MS分析に適用される場合、ポリペプチド(例えば、mAb又はmAbサブユニット)の配列カバレッジを改善するために、本発明の方法を使用して適用することができる強力な数学的ツールである。
【0022】
本発明はまた、本発明の方法に従って配列決定されたタンパク質(例えば、抗体、バリアント、又は抗体融合物)を提供する。
【0023】
本発明の利点は、タンパク質(例えば、治療用抗体)の高速かつ正確なデノボ配列決定のための分析物理化学を使用した堅牢で高精度のアッセイ;製造トレインの一部として、上記の結果としてより高いレベルの配列信頼性で産生された治療用抗体;臨床開発及び商業使用における抗体の製造を完成させるための幅広い用途;任意の公開されたETDアプローチよりも高い、モノクローナル抗体サブユニットの配列カバレッジ;試料アーチファクト(すなわち、不安定なPTM)が保存されていないインタクトなPTM情報を用いた、より高い配列カバレッジ;より高い配列カバレッジ(SC)(例えば、既知の方法よりも19~26%の改善)及びSCが100%に達する可能性;並びに最小ステップ、使いやすさ、及び低コストが含まれるが、これらに限定されない。
【0024】
本開示は、ポリペプチドの配列カバレッジを改善するための方法を提供する。一部の例示的な実施形態では、本方法は、以下:
(a)配列カバレッジに影響を与える、タンデム質量分析のための少なくとも2つのパラメータを選択する工程と、
(b)当該少なくとも2つのパラメータの各々の値を決定するために、D-最適実験設計を使用する工程であって、当該値が、配列カバレッジを最大化することに基づいて選択される、使用する工程と
を含む。
【0025】
一態様では、当該ポリペプチドは、抗体、二重特異性抗体、モノクローナル抗体、融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート、抗体断片、抗体サブユニット、宿主細胞タンパク質、タンパク質医薬、又はそれらの消化断片である。
【0026】
一態様では、本方法は、あるポリペプチドの2つ以上のサブユニットに対して、本方法を連続して又は並行して実施する工程を、更に含む。特定の態様では、当該サブユニットは、抗体のFc/2サブユニット、Fdサブユニット、又はLCサブユニットを含む群から選択される。
【0027】
一態様では、当該タンデム質量分析法は、ミドルダウン質量分析法である。
【0028】
一態様では、当該質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベース質量分析計である。
【0029】
一態様では、当該タンデム質量分析は、電子移動解離、衝突誘起解離、電子移動/衝突誘起解離、電子移動/高エネルギー衝突解離、紫外線光解離、又はそれらの組み合わせを含む。別の態様では、当該タンデム質量分析は、自動利得制御を含む。
【0030】
一態様では、当該質量分析計は、液体クロマトグラフィシステムに連結され得る。特定の態様では、当該液体クロマトグラフィシステムは、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む。
【0031】
一態様では、当該少なくとも2つのパラメータは、m/z単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、MS AGC標的、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0032】
本開示はまた、ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するための方法を提供する。一部の例示的な実施形態では、本方法は、以下:
(a)D-最適実験設計を使用して、ポリペプチドのタンデム質量分析のための少なくとも2つのパラメータの値を決定する工程であって、当該値が、配列カバレッジを最大化することに基づいて選択される、決定する工程と、
(b)当該ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するために、当該少なくとも2つのパラメータの当該値を使用して、当該ポリペプチドをタンデム質量分析に供する工程と
を含む。
【0033】
一態様では、当該ポリペプチドは、抗体、二重特異性抗体、モノクローナル抗体、融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート、抗体断片、抗体サブユニット、宿主細胞タンパク質、タンパク質医薬、又はそれらの消化断片である。
【0034】
一態様では、本方法は、あるポリペプチドの2つ以上のサブユニットに対して、本方法を連続して又は並行して実施する工程を、更に含む。特定の態様では、当該サブユニットは、抗体のFc/2サブユニット、Fdサブユニット、又はLCサブユニットを含む群から選択される。
【0035】
一態様では、当該タンデム質量分析法は、ミドルダウン質量分析法である。
【0036】
一態様では、当該質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベース質量分析計である。別の態様では、当該タンデム質量分析は、電子移動解離、衝突誘起解離、電子移動/衝突誘起解離、電子移動/高エネルギー衝突解離、紫外線光解離、又はそれらの組み合わせを含む。更なる態様では、当該タンデム質量分析は、自動利得制御を含む。
【0037】
一態様では、当該質量分析計は、液体クロマトグラフィシステムに連結され得る。特定の態様では、当該液体クロマトグラフィシステムは、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む。
【0038】
一態様では、当該少なくとも2つのパラメータは、m/z単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、MS AGC標的、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0039】
一態様では、本方法は、タンデム質量分析の前に、当該ポリペプチドを酵素消化に供する工程を、更に含む。特定の態様では、当該酵素消化は、当該ポリペプチドをIdeSに接触させることを含む。別の態様では、本方法は、タンデム質量分析の前に、当該ポリペプチドを還元に供する工程を、更に含む。
【0040】
一態様では、本方法は、本方法を独立して2回以上実施する工程、及び当該ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するために、各タンデム質量分析から同定された断片を組み合わせる工程を、更に含む。
【0041】
本開示は、ポリペプチドの配列カバレッジを改善するための追加の方法を提供する。一部の例示的な実施形態では、本方法は、以下:
(a)異なる断片サイズの選択の各々に関して断片の数に影響を与える、タンデム質量分析のための少なくとも2つのパラメータを選択する工程と、
(b)当該少なくとも2つのパラメータの各々の値を決定するために、D-最適実験設計を使用する工程であって、当該値が、当該選択された断片サイズの各々について最大数の断片を生成することに基づいて選択される、使用する工程と
を含む。
【0042】
一態様では、当該ポリペプチドは、抗体、二重特異性抗体、モノクローナル抗体、融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート、抗体断片、抗体サブユニット、宿主細胞タンパク質、タンパク質医薬、又はそれらの消化断片である。
【0043】
一態様では、本方法は、あるポリペプチドの2つ以上のサブユニットに対して、本方法を連続して又は並行して実施する工程を、更に含む。特定の態様では、当該サブユニットは、抗体のFc/2サブユニット、Fdサブユニット、又はLCサブユニットを含む群から選択される。
【0044】
一態様では、当該タンデム質量分析法は、ミドルダウン質量分析法である。
【0045】
一態様では、当該質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベース質量分析計である。
【0046】
一態様では、当該タンデム質量分析は、電子移動解離、衝突誘起解離、電子移動/衝突誘起解離、電子移動/高エネルギー衝突解離、紫外線光解離、又はそれらの組み合わせを含む。別の態様では、当該タンデム質量分析は、自動利得制御を含む。
【0047】
一態様では、当該質量分析計は、液体クロマトグラフィシステムに連結され得る。特定の態様では、当該液体クロマトグラフィシステムは、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む。
【0048】
一態様では、当該少なくとも2つのパラメータは、m/z単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、MS AGC標的、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0049】
一態様では、当該断片サイズは、約5,000Da未満の断片、約5,000Da~約10,000Daの断片、及び約10,000Da超の断片を含む群から選択される。
【0050】
本開示は、ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するための別の方法を更に提供する。一部の例示的な実施形態では、本方法は、以下:
(a)D-最適実験設計を使用して、ポリペプチドのタンデム質量分析のための少なくとも2つのパラメータの値を決定する工程であって、当該値が、異なる断片サイズの選択の各々について最大数の断片を生成することに基づいて選択される、決定する工程と、
(b)各選択された断片サイズについての当該少なくとも2つのパラメータの当該値を使用して、当該ポリペプチドをタンデム質量分析に供する工程と、
(c)当該ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するために、各選択された断片サイズについての当該少なくとも2つのパラメータの当該値を使用して、当該タンデム質量分析から同定された断片を組み合わせる工程と
を含む。
【0051】
一態様では、当該ポリペプチドは、抗体、二重特異性抗体、モノクローナル抗体、融合タンパク質、抗体-薬物コンジュゲート、抗体断片、抗体サブユニット、宿主細胞タンパク質、タンパク質医薬、又はそれらの消化断片である。
【0052】
一態様では、本方法は、あるポリペプチドの2つ以上のサブユニットに対して、本方法を連続して又は並行して実施する工程を、更に含む。特定の態様では、当該サブユニットは、抗体のFc/2サブユニット、Fdサブユニット、又はLCサブユニットを含む群から選択される。
【0053】
一態様では、当該タンデム質量分析法は、ミドルダウン質量分析法である。
【0054】
一態様では、当該質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベース質量分析計である。別の態様では、当該タンデム質量分析は、電子移動解離、衝突誘起解離、電子移動/衝突誘起解離、電子移動/高エネルギー衝突解離、紫外線光解離、又はそれらの組み合わせを含む。更なる態様では、当該タンデム質量分析は、自動利得制御を含む。
【0055】
一態様では、当該質量分析計は、液体クロマトグラフィシステムに連結され得る。特定の態様では、当該液体クロマトグラフィシステムは、逆相液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、混合モードクロマトグラフィ、又はそれらの組み合わせを含む。
【0056】
一態様では、当該少なくとも2つのパラメータは、m/z単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、MS AGC標的、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0057】
一態様では、本方法は、タンデム質量分析の前に、当該ポリペプチドを酵素消化に供する工程を、更に含む。特定の態様では、当該酵素消化は、当該ポリペプチドをIdeSに接触させることを含む。別の態様では、本方法は、タンデム質量分析の前に、当該ポリペプチドを還元に供する工程を、更に含む。
【0058】
一態様では、本方法は、本方法を独立して2回以上実施する工程、及び当該ポリペプチドのアミノ酸配列を決定するために、各タンデム質量分析から同定された断片を組み合わせる工程を、更に含む。
【0059】
本開示は、抗体のアミノ酸配列を決定するための更なる方法を提供する。一部の例示的な実施形態では、本方法は、以下:
(a)抗体の各サブユニットについての配列カバレッジに影響を与える、ETD-MSのための少なくとも2つのパラメータを選択する工程であって、当該サブユニットが、Fd、Fc/2、及びLCを含む、選択する工程と、
(b)当該サブユニットの各々についての当該少なくとも2つのパラメータの各々の値を決定するために、D-最適実験設計を使用する工程であって、当該値が、当該サブユニットの配列カバレッジを最大化することに基づいて選択される、使用する工程と、
(c)当該サブユニットを生成するために、当該抗体をIdeS及び還元剤に接触させる工程と、
(d)当該サブユニットの各々の断片のアミノ酸配列を同定するために、当該少なくとも2つのパラメータの当該値を使用して、当該サブユニットの各々をETD-MS分析に供する工程と、
(e)当該サブユニットの各々の追加の断片のアミノ酸配列を同定するために、独立して、ステップ(d)を少なくとももう1回繰り返す工程と、
(f)当該抗体のアミノ酸配列を決定するために、(d)及び(e)の当該断片の当該アミノ酸配列を組み合わせる工程と
を含む。
【0060】
本開示は、抗体のアミノ酸配列を決定するための別の方法を提供する。一部の例示的な実施形態では、本方法は、以下:
(a)抗体のサブユニットの小断片、中断片、及び大断片の数に影響を与える、ETD-MSのための少なくとも2つのパラメータを選択する工程であって、当該サブユニットが、Fd、Fc/2、及びLCを含み、当該小断片が、約5,000Daより小さい断片からなり、当該中断片が、約5,000Da~約10,000Daの断片からなり、当該大断片が、10,000Da超の断片からなる、選択する工程と、
(b)D-最適実験設計を使用して、当該サブユニットの各々についての当該断片サイズの各々についての当該少なくとも2つのパラメータの各々の値を決定する工程であって、当該値が、当該サブユニットの当該サイズの最大数の断片を生成することに基づいて選択される、決定する工程と、
(c)当該サブユニットを生成するために、当該抗体をIdeS及び還元剤に接触させる工程と、
(d)当該サブユニットの各々の断片のアミノ酸配列を同定するために、当該断片サイズの各々についての当該少なくとも2つのパラメータの当該値を使用して、当該サブユニットの各々をETD-MS分析に供する工程と、
(e)当該サブユニットの各々の追加の断片のアミノ酸配列を同定するために、独立して、ステップ(d)を少なくとももう1回繰り返す工程と、
(f)当該抗体のアミノ酸配列を決定するために、(d)及び(e)の当該断片の当該アミノ酸配列を組み合わせる工程と
を含む。
【0061】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮すると、よりよく理解され、理解されるであろう。以下の説明は、その様々な実施形態及び多数の具体的な詳細を示すが、限定ではなく、例証として与えられる。多くの置換、修飾、追加、又は再配置は、本発明の範囲内で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
本明細書に援用され、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本開示のいくつかの実施形態を例示し、説明とともに本開示の原理を説明する役割を果たす。
【0063】
図1】示されるように、4つのステップを有する、本発明のアッセイの概略図を示す。ステップ1は、3つの25キロダルトン(kD)ポリペプチド結果が得られるように、IdeS酵素によって媒介される消化ステップを示し、それらは、示されるように、Fd(抗体の重鎖可変領域)、Fc/2(抗体の定常領域のFc断片)、及びLC(抗体の軽鎖可変領域)である。ステップ2は、上述の抗体断片の配列カバレッジのためのETDの最適な使用のための例示的なDOEモデリングを示す。ステップ3は、DOEエンベロープ内に適用され得る3つの異なる設定の例示的な適用を示す。ステップ4は、抗体サブユニットの改善された配列カバレッジ(SC)の例示的な出力を示し、残基の大部分が正確に同定される。
図2A】例示的な実施形態による、本発明の方法を使用した、抗体のFc/2サブユニット、LCサブユニット、及びFdサブユニットの予測及び観察された配列カバレッジの比較を示す。Fc/2サブユニットの配列カバレッジの決定には、G1Fのみが含まれた。
図2B】例示的な実施形態による、本発明の方法を使用した、抗体のLCサブユニットの低質量サイズ、中質量サイズ、及び高質量サイズの各々の断片の予測及び観察された数の比較を示す。
図2C】例示的な実施形態による、低質量断片、中質量断片、及び高質量断片を生成するように最適化された設定を使用した、抗体のFc/2サブユニット、LCサブユニット、及びFdサブユニットの断片のサイズ分布を示す。
図3A】例示的な実施形態による、各サブユニットについての3つの独立したETD断片化の実行を組み合わせた後の、抗体のFc/2サブユニット、LCサブユニット、及びFdサブユニットの配列カバレッジを示す。
図3B-1】例示的な実施形態による、低質量断片、中質量断片、及び/又は高質量断片を生成するように最適化された設定を使用して、複数の独立したETD断片化の実行を組み合わせた後の、抗体のFc/2サブユニット、LCサブユニット、及びFdサブユニットの配列カバレッジを示す。
図3B-2】図3B-1の説明を参照。
図3B-3】図3B-1の説明を参照。
図4】本発明のモデリング及びアッセイに供するのに好適な、治療用抗体の例示的な抗体の軽鎖配列及び重鎖配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
詳細な説明
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に説明されるものと類似の又は同等の任意の方法及び材料を実施又は試験において使用することができるが、特定の方法及び材料をこれから説明する。
【0065】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることが意図され、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)を意味することが理解される。
【0066】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「目的のタンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含むことができる。タンパク質は、一般に「ポリペプチド」として当該技術分野で既知の1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して連結された、アミノ酸残基、関連する天然に存在する構造バリアント、及びそれらの合成の天然に存在しない類似体で構成される、ポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、天然に存在しないペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が、当業者に既知である。タンパク質は、単一の機能的生体分子を形成する、1つ又は複数のポリペプチドを含み得る。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。目的のタンパク質は、バイオ治療用タンパク質、研究又は療法で使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体のうちのいずれかを含み得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルスシステム、酵母システム(例えば、ピキア属の種(Pichia sp.))、及び哺乳類システム(例えば、CHO細胞、及びCHO-K1細胞などのCHO派生物)などの組換え細胞ベースの産生システムを使用して産生され得る。バイオ治療用タンパク質とその産生を論じる最近の総説については、Ghaderi et al.,“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,”(Darius Ghaderi et al.,Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,28 BIOTECHNOLOGY AND GENETIC ENGINEERING REVIEWS 147-176(2012)を参照されたい(その教示の全体が参照により本明細書に援用される)。一部の例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合で連結された部分を含む。それらの修飾、付加物、及び部分は、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖類)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識、及び他の色素などを含む。タンパク質は、組成物及び溶解度に基づいて分類され得、したがって、単純タンパク質(例えば、球状タンパク質及び線維性タンパク質)、複合タンパク質(例えば、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リン酸化タンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質)、並びに誘導タンパク質(例えば、一次誘導タンパク質及び二次誘導タンパク質)を含むことができる。
【0067】
本明細書で使用される場合、「組換えタンパク質」という用語は、好適な宿主細胞に導入された組換え発現ベクター上に担持された遺伝子の転写及び翻訳の結果として産生されるタンパク質を指す。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、抗体(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト抗体)であり得る。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、以下からなる群から選択されるアイソタイプの抗体であり得る:IgG、IgM、IgA1、IgA2、IgD、又はIgE。特定の例示的な実施形態では、抗体分子は、完全長抗体(例えば、IgG1)であるか、又は代替的に、抗体は、断片(例えば、Fc断片若しくはFab断片)であり得る。
【0068】
「抗体」という用語は、疾患又は障害(例えば、免疫障害又は腫瘍学的障害)を調節するために対象に導入するのに好適な治療用免疫結合剤(例えば、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、又は多重特異性抗体)を指す。「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性を有する抗体組成物、並びに抗体断片又はサブユニット(例えば、Fab、F(ab’)2、scFv、Fv、Fd、Fc/2、及びLC)、抗体誘導体、融合物、バリアント、及び類似体を記載するものとして広く解釈されるべきである。
【0069】
「抗体」という用語には、ジスルフィド結合によって2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖が相互接続されている4本のポリペプチド鎖を含む免疫グロブリン分子が含まれ、並びにその多量体(例えば、IgM)が含まれる。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVR又はVHと略記される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、及びCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてLCVR又はVLと略記される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に更に細分化され得、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域によって散在している。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、以下の順序で配置された3つのCDR及び4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。本発明の異なる実施形態では、抗ビッグET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得るか、又は天然であり得るか、若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの対比分析(side-by-side analysis)に基づいて定義され得る。本明細書で使用される「抗体」という用語には、完全な抗体分子の抗原結合断片も含まれる。
【0070】
本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の、天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成若しくは遺伝子操作ポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質消化などの任意の好適な標準技術、又は抗体の可変ドメイン及び任意選択的に定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴う組換え遺伝子操作技術を使用して、完全な抗体分子に由来し得る。かかるDNAは既知であり、かつ/又は、例えば、商業的供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、若しくは合成することができる。DNAを、配列決定し、化学的に又は分子生物学的技術を使用すること(例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/若しくは定常ドメインを好適な構成に配置するか、又はコドンを導入するか、システイン残基を作製するか、アミノ酸を改変するか、付加するか、若しくは欠失させるかなど)によって操作してもよい。
【0071】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、インタクトな抗体の一部、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などを含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びに抗体断片から形成されるトリアボディ、テトラボディ、線状抗体、単鎖抗体分子、並びに多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域の組み合わせである。ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖可変領域がペプチドリンカーによって連結された組換え単鎖ポリペプチド分子である。一部の例示的な実施形態では、親抗体と同じ抗原に結合する断片である、親抗体の十分なアミノ酸配列を、抗体断片は含み、一部の例示的な実施形態では、ある断片は、親抗体と同等の親和性で抗原に結合し、かつ/又は抗原への結合について親抗体と競合する。抗体断片は、任意の手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、インタクトな抗体の断片化によって酵素的又は化学的に産生されてもよく、かつ/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に産生されてもよい。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、完全に又は部分的に合成的に産生され得る。抗体断片は、任意選択的に、単鎖抗体断片を含んでもよい。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結される複数の鎖を含んでもよい。抗体断片は、任意選択的に、多分子複合体を含んでもよい。機能的抗体断片は、典型的には、少なくとも約50アミノ酸を含み、より典型的には、少なくとも約200アミノ酸を含む。
【0072】
本明細書で使用される場合、「Fd」という用語は、約25kDである抗体の重鎖可変領域を含む抗体サブユニットを指す(図1も参照)。本明細書で使用される場合、「Fc/2」という用語は、約25kDである抗体の重鎖定常領域を含む抗体サブユニットを指す(図1も参照)。本明細書で使用される場合、「LC」という用語は、約25kDである抗体の軽鎖可変領域を含む抗体サブユニットを指す(図1も参照)。
【0073】
「二重特異性抗体」という用語は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体を含む。二重特異性抗体は、概して、2つの異なる重鎖を含み、各重鎖が、2つの異なる分子(例えば、抗原)上又は同じ分子(例えば、同じ抗原)上のいずれかで、異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープ及び第2のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第1の重鎖の第1のエピトープに対する親和性は、概して、第1の重鎖の第2のエピトープに対する親和性よりも少なくとも1~2桁又は3桁若しくは4桁低くなるであろうし、逆もまた同様である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ又は異なる標的上(例えば、同じ又は異なるタンパク質上)であり得る。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合され得、かかる配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞で発現させることができる。
【0074】
典型的な二重特異性抗体は、2つの重鎖を有し、その各々は、3つの重鎖CDRを有し、続いて、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを有し;免疫グロブリン軽鎖であって、抗原結合特異性を付与しないが、各重鎖と会合することができるか、又は各重鎖と会合することができ、かつ重鎖抗原結合領域が結合するエピトープのうちの1つ以上と結合することができるか、又は各重鎖と会合することができ、かつ一方若しくは両方の重鎖が一方若しくは両方のエピトープと結合することを可能にする、免疫グロブリン軽鎖、を有する。BsAbは、Fc領域を有するもの(IgG様)と、Fc領域を欠くものとの、2つの主要なクラスに分類することができ、後者は、通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、異なる形式、例えば、限定されないが、トリオマブ、ノブ・イントゥ・ホールIgG(kih IgG)、クロスMab、オルト-Fab IgG、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツー・イン・ワンFab若しくは二重作用Fab(DAF)、IgG-単鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλボディを有することができる。非IgG様の異なる形式としては、タンデムscFv、ダイアボディ形式、単鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重親和性再標的化分子(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドック・アンド・ロック(DNL)法によって産生される抗体(Gaowei Fan,Zujian Wang & Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications,8 JOURNAL OF HEMATOLOGY & ONCOLOGY 130;Dafne Muller & Roland E.Kontermann,Bispecific Antibodies,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES 265-310(2014)、これらの教示全体は、本明細書に援用される)が挙げられる。bsAbを産生する方法は、2つの異なるハイブリドーマ細胞株の体細胞融合に基づくクアドローマ技術、化学的架橋剤を伴う化学的コンジュゲーション、及び組換えDNA技術を利用した遺伝的アプローチに限定されない。
【0075】
本明細書で使用される場合、「多重特異性抗体」とは、少なくとも2つの異なる抗原に対する特異性を有する抗体を指す。かかる分子は、通常、2つの抗原のみに結合するが(すなわち、二重特異性抗体、bsAb)、三重特異性抗体及びKIH三重特異性抗体などの追加の特異性を有する抗体は、本明細書に開示されるシステム及び方法によっても対処することができる。
【0076】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術を通して産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当該技術分野で利用可能又は既知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一のクローンに由来し得る。本開示に有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当該技術分野で既知の多種多様な技法を使用して調製することができる。
【0077】
本明細書で使用される場合、「NISTmAb」という用語は、モノクローナル抗体標準「National Institute of Standards & Technology Humanized IgG1κ Monoclonal Antibody standard (NISTmAb)」を指す。
【0078】
本明細書で使用される場合、「翻訳後修飾」又は「PTM」という一般用語は、ポリペプチドがリボソーム合成中(翻訳時修飾)又は合成後(翻訳後修飾)のいずれかで受ける共有結合修飾を指す。PTMは、一般に、特定の酵素又は酵素経路によって導入される。多くは、タンパク質骨格内の特定の特徴的なタンパク質配列(シグネチャー配列)の部位で生じる。数百のPTMが記録されており、これらの修飾は必然的に、タンパク質の構造又は機能の一部の態様に影響を与える(Walsh,G.“Proteins”(2014)second edition,published by Wiley and Sons,Ltd.,ISBN:9780470669853)。様々な翻訳後修飾には、切断、N末端伸長、タンパク質分解、N末端のアシル化、ビオチン化(ビオチンによるリジン残基のアシル化)、C末端のアミド化、グリコシル化、ヨウ素化、補欠分子族の共有結合、アセチル化(アセチル基の付加、通常はタンパク質のN末端)、アルキル化(通常はリジン又はアルギニン残基におけるアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル)の付加)、メチル化、アデニル化、ADP-リボシル化、ポリペプチド鎖内又は間の共有結合架橋、スルホン化、プレニル化、ビタミンC依存性修飾(プロリン及びリジンのヒドロキシル化及びカルボキシ末端のアミド化)、ビタミンK依存性修飾(ビタミンKがグルタミン酸残基のカルボキシル化における補因子であり、γ-カルボキシグルタミン酸(グルタミン酸残基)の形成をもたらす)、グルタミル化(グルタミン酸残基の共有結合)、グリシル化(グリシン残基の共有結合)、グリコシル化(アスパラギン、ヒドロキシリジン、セリン、又はスレオニンのいずれかへのグリコシル基の付加、糖タンパク質をもたらす)、イソプレニル化(ファルネソール及びゲラニルゲラニオールなどのイソプレノイド基の付加)、リポイル化(リポ酸官能基の付加)、ホスホパンテテイン化(脂肪酸、ポリケチド、非リボソームペプチド、及びロイシン生合成における、補酵素Aからの4’-ホスホパンテテイニル部分の付加)、リン酸化(通常はセリン、チロシン、スレオニン、又はヒスチジンへのリン酸基の付加)、並びに硫酸化(通常はチロシン残基への硫酸基の付加)が含まれるが、これらに限定されない。アミノ酸の化学的性質を変化させる翻訳後修飾には、シトルリン化(脱イミノ化によるアルギニンからシトルリンへの変換)、及び脱アミド化(グルタミンからグルタミン酸へ又はアスパラギンからアスパラギン酸への変換)が含まれるが、これらに限定されない。構造変化を伴う翻訳後修飾には、ジスルフィド架橋の形成(2つのシステインアミノ酸の共有結合)及びタンパク質分解切断(タンパク質のペプチド結合における切断)が含まれるが、これらに限定されない。例示的な一実施形態では、翻訳後修飾は、タンパク質C末端におけるリジンの切断である。特定の翻訳後修飾は、他のタンパク質又はペプチドの付加、例えば、ISG化(ISG15タンパク質への共有結合(インターフェロン刺激遺伝子))、SUMO化(SUMOタンパク質への共有結合(低分子ユビキチン様修飾因子))、及びユビキチン化(タンパク質ユビキチンへの共有結合)を伴う。UniProtによって精選されたPTMのより詳細な統制語彙については、European Bioinformatics InstituteProtein Information ResourceSIB Swiss Institute of Bioinformatics,European Bioinformatics Institute Drs-Drosomycin precursor-Drosophila melanogaster(Fruit fly)-Drs gene & protein,http://www.uniprot.org/docs/ptmlistを参照されたい。一部の例示的な実施形態では、本発明の方法は、ポリペプチド(例えば、抗体)の翻訳後修飾を同定、定量化、及び/又は特徴付けるために使用され得る。
【0079】
本明細書で使用される場合、「試料」は、細胞培養液(CCF)、採取された細胞培養液(HCCF)、下流処理における任意のステップ、原薬(DS)、又は最終的に製剤化された産物を含む医薬(DP)などの、バイオプロセスの任意のステップから得ることができる。一部の特定の例示的な実施形態では、試料は、清澄化、クロマトグラフィ生成、又は濾過の下流プロセスの任意のステップから選択され得る。
【0080】
一部の例示的な実施形態では、目的のタンパク質を含む試料は、LC-MS分析の前に調製され得る。調製ステップは、変性、アルキル化、希釈、還元、及び消化を含み得る。
【0081】
本明細書で使用される場合、「タンパク質アルキル化剤」又は「アルキル化剤」という用語は、タンパク質中の特定の遊離アミノ酸残基をアルキル化するために使用される作用物質を指す。タンパク質アルキル化剤の非限定的な例は、ヨードアセトアミド(IOA/IAA)、クロロアセトアミド(CAA)、アクリルアミド(AA)、N-エチルマレイミド(NEM)、メタンチオスルホン酸メチル(MMTS)、及び4-ビニルピリジン、又はこれらの組み合わせである。
【0082】
本明細書で使用される場合、「タンパク質変性」又は「変性」は、分子の三次元形状をその天然の状態から変化させるプロセスを指し得る。タンパク質変性は、タンパク質変性剤を使用して実施することができる。タンパク質変性剤の非限定的な例としては、熱、高pH又は低pH、DTTなどの還元剤、又はカオトロピック剤への曝露が挙げられる。いくつかのカオトロピック剤をタンパク質変性剤として使用することができる。カオトロピック溶質は、水素結合、ファンデルワールス力、及び疎水性効果などの非共有結合力によって媒介される分子内相互作用を妨げることによって、系のエントロピーを増加させる。カオトロピック剤の非限定的な例には、ブタノール、エタノール、塩化グアニジニウム、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、塩化マグネシウム、フェノール、プロパノール、ドデシル硫酸ナトリウム、チオ尿素、N-ラウロイルサルコシン、尿素、及びそれらの塩が挙げられる。
【0083】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語は、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解を指す。適切な加水分解剤、例えば、酵素消化又は非酵素消化、を使用して、試料中のタンパク質の消化を行うためのいくつかのアプローチがある。タンパク質の構成ペプチドへの消化は、「ペプチド消化物」を生成することができ、これは、ペプチドマッピング分析を使用して更に分析され得る。「ペプチド消化物」という用語は、本発明の方法を使用して、適切なサイズのポリペプチドを調べることができるように、抗体タンパク質配列を消化することができる1つ以上の酵素(例えば、IdeS)とインキュベートした場合、本明細書に記載されるポリペプチド(例えば、抗体)を曝露することから生じる、ペプチド混合物を指す。
【0084】
本明細書で使用される場合、「消化酵素」という用語は、タンパク質の消化を行うことができる多数の異なる作用物質のうちのいずれかを指す。酵素消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus Saitoi)由来プロテアーゼ、エラスターゼ、サブチリシン、プロテアーゼXIII、ペプシン、トリプシン、Tryp-N、キモトリプシン、アスペルギロペプシンI、LysNプロテアーゼ(Lys-N)、LysCエンドプロテイナーゼ(Lys-C)、エンドプロテイナーゼAsp-N(Asp-N)、エンドプロテイナーゼArg-C(Arg-C)、エンドプロテイナーゼGlu-C(Glu-C)、又は外膜タンパク質T(OmpT)のプロテアーゼ、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、V8プロテアーゼ、若しくは生物活性断片、若しくはそれらのホモログ、又はそれらの組み合わせが挙げられる。タンパク質消化のための利用可能な技術を論じる最近の総説については、Switazar et al.,“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(Linda Switzar,Martin Giera & Wilfried M.A.Niessen,Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments,12 JOURNAL OF PROTEOME RESEARCH 1067-1077(2013))を参照されたい。
【0085】
本明細書で使用される場合、「タンパク質還元剤」又は「還元剤」という用語は、タンパク質中のジスルフィド架橋の還元のために使用される作用物質を指す。タンパク質を還元するために使用されるタンパク質還元剤の非限定的な例は、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、エルマン試薬、ヒドロキシルアミン塩酸塩、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、又はそれらの組み合わせである。従来のタンパク質分析方法である還元ペプチドマッピングは、LC-MS分析前のタンパク質還元を伴う。対照的に、非還元ペプチドマッピングは、内因性ジスルフィド結合を保存するために、還元の試料調製ステップを省略する。一部の例示的な実施形態では、還元剤は、IdeSを使用した消化後に抗体のサブユニットを分離するために使用される。
【0086】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィ」という用語は、液体によって担持される生体/化学混合物が、静止した液体又は固相を通って(又はその中に)流れる成分の差次的分布の結果として、複数の成分に分離され得るプロセスを指す。液体クロマトグラフィの非限定的な例としては、逆相液体クロマトグラフィ(RPLC)、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、又は混合モードクロマトグラフィが挙げられる。一部の態様では、少なくとも1つの目的のタンパク質又はペプチド消化物を含有する試料は、上述のクロマトグラフィ方法のうちのいずれか1つ又はそれらの組み合わせに供され得る。クロマトグラフィを使用して分離された分析物は、分析物がクロマトグラフィカラムを通過する速度を反映する、独特の保持時間を特徴とする。分析物は、1つの軸上に保持時間をプロットし、別の軸上に測定されたシグナルをプロットするクロマトグラムを使用して比較され得、測定されたシグナルは、例えば、UV検出又は蛍光検出から生成され得る。
【0087】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、特定の分子種を同定し、それらの正確な質量を測定することができるデバイスを含む。この用語は、ポリペプチド又はペプチドを特徴付けることができる任意の分子検出器を含むことを意味する。質量分析計は、3つの主要な部分であるイオン源、質量分析器、及び検出器を含むことができる。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。分析物の原子、分子、又はクラスターを、同時に(エレクトロスプレーイオン化(ESI)のように)又は別々のプロセスを介してのいずれかで、気相に移し、イオン化することができる。イオン源の選択は、用途に依存する。
【0088】
一部の例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析」という用語は、複数の段階の質量選択及び質量分離を使用することによって、試料分子に関する構造情報が得られる技術を含む。前提条件は、第1の質量選択ステップの後、断片が予測可能かつ制御可能な様式で形成されるように、試料分子を気相に移し、イオン化することである。MS/MS、又はMSは、まず、前駆体イオン(MS)を選択して単離し、それを断片化して有意義な情報を得ることによって実施することができる。タンデムMSは、多種多様な分析器の組み合わせで成功裏に実行されている。特定の用途のためにどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、及び速度などの多くの異なる因子によって決定することができるが、サイズ、コスト、及び可用性も同様である。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリは、タンデム・イン・スペース(tandem-in-space)及びタンデム・イン・タイム(tandem-in-time)であるが、タンデム・イン・タイム分析器が空間的に結合されるか、又はタンデム・イン・スペース分析器と連結されるハイブリッドも存在する。タンデム・イン・スペース質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化デバイス、及び少なくとも2つの非捕捉型質量分析器を含む。
【0089】
タンデム質量分析は、ポリペプチド分析物の断片化パターンに応じて、イオンシリーズ(例えば、a-及びx-イオン、b-及びy-イオン、又はc-及びz-イオン)を生成し得る。本明細書で使用される場合、「c-イオン」及び「z-イオン」という用語は、ポリペプチドが分析技術ETDに供される場合に観察される主なイオンを指す。
【0090】
本明細書で使用される場合、「全イオンクロマトグラム」又は「全イオン電流クロマトグラム」(TIC)という用語は、保持時間に対する全シグナル強度をプロットするLC-MSデータの表現を指す。
【0091】
本明細書で使用される場合、「トップダウン」という用語は、入力試料が、例えば、インタクト質量分析において、大きな又はインタクトなタンパク質/ポリペプチドである、分析技術を指す。本明細書で使用される場合、「ボトムアップ」という用語は、入力試料が、例えば、ペプチドマッピングにおいて、小さなサブユニットに還元されたタンパク質/ポリペプチドである、分析技術を指す。本明細書で使用される場合、「ミドルダウン」という用語は、入力試料が、例えば、IdeSによる抗体の消化を使用して、中サイズのサブユニットに還元されたタンパク質/ポリペプチドである、分析技術を指す。
【0092】
本明細書で使用される場合、「m/z」又は「質量電荷比」という用語は、例えば、LC-MS、LC-MS/MS、及び/又はETDを使用してポリペプチドの態様を特徴付けるための分析パラメータを指し、mは、質量を表し、zは、観察されたイオンの電荷数を表す。特定のm/z分離機能は、機器のあるセクションでイオンが選択され、中間領域で解離され、次いで、プロダクトイオンが、m/z分離及びデータ収集のために別の分析器に伝送されるように設計することができる。タンデム・イン・タイム質量分析計では、イオン源で生成されたイオンを、同じ物理デバイスで捕捉、単離、断片化、及びm/z分離することができる。
【0093】
質量分析計によって同定されたペプチドは、インタクトなタンパク質、それらの存在量、それらの翻訳後修飾、又は他の修飾の代替の代表物として使用することができる。これらは、実験データと理論的MS/MSデータとを相関させることによって、タンパク質の特徴付けに使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース内の可能性のあるペプチドから生成される。この特徴付けには、限定されないが、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質配列の決定、タンパク質デノボ配列決定、翻訳後修飾若しくは配列バリアントの位置決定、又は翻訳後修飾若しくは配列バリアントの同定、又は比較可能性分析、又はそれらの組み合わせが含まれる。
【0094】
一部の例示的な態様では、質量分析計は、ナノエレクトロスプレー又はナノスプレーで動作し得る。本明細書で使用される「ナノエレクトロスプレー」又は「ナノスプレー」という用語は、しばしば外部溶媒送達を使用せずに、非常に低い溶媒流量(典型的には、毎分数百ナノリットル以下の試料溶液)でのエレクトロスプレーイオン化を指す。ナノエレクトロスプレーを形成するエレクトロスプレー注入装置は、静的ナノエレクトロスプレーエミッタ又は動的ナノエレクトロスプレーエミッタを使用することができる。静的ナノエレクトロスプレーエミッタは、長期間にわたって少量の試料(分析物)溶液の連続分析を実行する。動的ナノエレクトロスプレーエミッタは、質量分析計による分析の前に、毛細管カラム及び溶媒送達システムを使用して、混合物のクロマトグラフィ分離を行う。
【0095】
一部の例示的な実施形態では、質量分析器は、四重極質量分析器、例えば、トリプル四重極質量分析計であってもよい。本明細書で使用される場合、「RF」という用語は、高周波(RF)衝突四重極を使用してポリペプチドを特徴付けるための分析技術を指す。
【0096】
質量分析計は、例えば、衝突誘起解離(CID)、電子移動解離(ETD)、電子移動/衝突誘起解離(ETciD)、電子移動/高エネルギー衝突解離(EThcD)、又は紫外線光解離(UVPD)を含む、様々な断片化又は分析技術のうちの1つ以上を使用することができる。
【0097】
一部の例示的な実施形態では、質量分析は、自動利得制御(AGC)を使用することができる。AGCは、機器の供給源から伝送される動的イオンフラックスに自動調節を提供し、質量分析器内のイオン集団をより一定にして、試料における広範囲の相対存在量を調整することができる。本明細書で使用される場合、「MS AGC」という用語は、自動利得制御を伴うタンデム質量分析を指す。
【0098】
一部の例示的な実施形態では、質量分析は、ネイティブな条件下で行われ得る。本明細書で使用される場合、「ネイティブな条件」という用語は、分析物中の非共有結合相互作用を保存する条件下で質量分析を行うことを含み得る。ネイティブMSの詳細な総説については、総説:Elisabetta Boeri Erba & Carlo Petosa,The emerging role of native mass spectrometry in characterizing the structure and dynamics of macromolecular complexes,24 PROTEIN SCIENCE 1176-1192 (2015)を参照されたい。
【0099】
本明細書で使用される場合、「データベース」という用語は、例えば、FASTA形式のファイルの形態での、試料中に存在し得るタンパク質配列のコレクションを指す。関連するタンパク質配列は、研究対象の種のcDNA配列に由来し得る。関連するタンパク質配列を検索するために使用され得る公開データベースには、例えば、Uniprot又はSwiss-protによってホストされているデータベースが含まれた。データベースは、本明細書で「バイオインフォマティクスツール」と称されるデータベースを使用して検索され得る。バイオインフォマティクスツールは、データベース内の全ての可能な配列に対して解釈されていないMS/MSスペクトルを検索する能力を提供し、解釈された(注釈付けられた)MS/MSスペクトルを出力として提供する。そのようなツールの非限定的な例は、Mascot(www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(www.chem.agilent.com)、PLGS(www.waters.com)、PEAKS(www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(download.appliedbiosystems.com/proteinpilot)、Phenyx(www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(www.sagenresearch.com)、OMSSA(www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(www.proteinmetrics.com/products/byonic)、又はSequest(fields.scripps.edu/sequest)である。
【0100】
本明細書で使用される場合、「DOE」という用語は、選択された機器設定、多変量分析、並びに/又はコンピュータ支援設計及びソフトウェアによって促進され得る実験設計を指す。
【0101】
本明細書で使用される場合、「D-最適設計」という用語は、例えば、ETD及びMSを使用したポリペプチドの配列決定に好適なDOEパラメータのセットを指す。パラメータには、例えば、m/z単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、及びMS AGC標的が含まれ得る。重要であると見なされる場合、ETD MSスペクトル品質に影響を与えるパラメータは、全体的なポリペプチド断片/サブユニット配列カバレッジを達成するために最適化され得る。パラメータは、以前のユーザ経験及び以前の文献に基づいて重要であるとみなされ得る。プロセスは、コンピュータ支援設計を含み、全ての関連する組み合わせのサブセットは、設計のD-効率を最大化することを目的として選択される。
【0102】
本明細書で使用される場合、「D-効率」という用語は、作業負荷を低減し、有意義なモデル又はD-最適実験設計(DOE)を提供するためのコンピュータ支援設計を指す。
【0103】
本明細書で使用される場合、「THRASHアルゴリズム」という用語は、DOE及びD-最適の態様を実施するための分析ソフトウェアを指す。
【0104】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての用語及び語句は、当該用語又は語句が使用される文脈から明確に示されるか、又は明確に明らかでない限り、当該用語及び語句が当該技術分野で達成された意味を含む。
【0105】
本開示は、ポリペプチド、特に、抗体断片(Fd、Fc/2、及びLCなど)の高忠実度アミノ酸残基配列決定を、以前に達成又は報告されたものよりも高い精度で正確に行う方法を提供する。本発明のアッセイは、例えば、臨床試験又は商業使用において、抗体候補を評価するために不可欠な品質管理ツールである。
【0106】
図1に、本発明の方法の例示的なワークフローが示されており、例示的なステップは、実験設計(DOE)入力パラメータによって通知される。このDOEは、電子移動解離(ETD)及び質量分析(MS)の適用を通知して、以前に達成されたものよりも高い所与の抗体サブユニットの配列カバレッジ(SC)を与える。
【0107】
実験設計(DOE)パラメータの新規のセットを使用した本発明のアッセイを較正して、非常に正確な測定値を提供することができる。このアッセイの忠実性は、複合タンパク質分子、特に、ヒト対象に導入されるように設計された治療用抗体の製造にとって重要である。
【0108】
DOEアプローチを使用した抗体配列決定の力を実証するために、本方法は、国立標準技術研究所(National Institute of Standards & Technology)のヒト化IgG1κモノクローナル抗体標準(NISTmAb)に適用された。DOEアプローチを使用することによって、ETD断片化及び効率に影響を与えるMSパラメータを最適化し、続いて、NISTmAbモノクローナル抗体標準の配列カバレッジを最大化した。最適なパラメータを使用して3回のLC-MS取得を組み合わせると、Fc/2、LC、及びFdについて、それぞれ71%、74%、及び58%の、非常に高い配列カバレッジをもたらした。「低」、「中」、及び「高」m/z範囲における断片の数を最大化するために必要なパラメータをモデル化するこのDOE戦略の能力が、NISTmAbサブユニットの更に高い配列カバレッジをもたらすことが更に実証された。
【0109】
このDOE戦略は、最終的に、合計6回の実行を組み合わせた場合、Fc/2、LC、及びFdについて、それぞれ80%、84%、及び72%の、NISTmAbサブユニットの更に高い配列カバレッジをもたらした。これらの結果は、以前に報告された方法と比較した場合、モノクローナル抗体サブユニットのより高いETD配列カバレッジを実証する。このアプローチは、図3A及び図3Bに示されるように、他のmAb分子にも適用され、同様の結果が達成された。
【0110】
本発明は、PTMをインタクトに保ちながら、治療用抗体の微細構造及び正確なアミノ酸配列の正確な決定を提供することを理解されたい。したがって、本発明は、治療用抗体などの任意の市販の治療用抗体のCMC(化学、製造、及び品質管理)を補完及び改善する(例えば、図4参照)。
【0111】
例えば、本発明は、いくつかの抗体療法の製造を改良し、かつ均一性を守ることを可能にする。かかる抗体療法には、例えば、アブシキシマブ、アダリムマブ、アダリムマブ-atto、ado-トラスツズマブ、エムタンシン、アレムツズマブ、アリロクマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ・ベドチン、ブロダルマブ、カナキヌマブ、カプロマブ・ペンデチド、セルトリズマブ・ペゴル、セツキシマブ、ダクリズマブ(Zenapax)、ダクリズマブ(Zinbryta)、ダラツムマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、エクリズマブ、エロツズマブ、エボロクマブ、ゴリムマブ、ゴリムマブ、イブリツモマブ・チウキセタン、イダルシズマブ、インフリキシマブ、インフリキシマブ-abda、インフリキシマブ-dyyb、イピリムマブ・イキセキズマブ、メポリズマブ、ナタリズマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビルトキサキシマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レスリズマブ、リツキシマブ、セクキヌマブ、シルツキシマブ、トシリズマブ、トシリズマブ、トラスツズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、サリルマブ、リツキシマブ及びヒアルロニダーゼ・グセルクマブ、イノツズマブ・オゾガマイシン、アダリムマブ-adbm、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、ベバシズマブ-awwb、ベンラリズマブ、及びエミシズマブ-kxwh、トラスツズマブ-dkst、インフリキシマブ-qbtx、イバリズマブ-uiyk、チルドラキズマブ-asmn、ブロスマブ-twza、並びにエレヌマブ-aooeが含まれる。
【0112】
本発明の対象となる様々な適応症のための他の目的の治療用抗体、抗体断片、抗体融合タンパク質、受容体、又は受容体タンパク質としては、(例えば、眼障害を治療するための)アフリベルセプト、(例えば、失明及び転移性大腸がんを治療するための)リロナセプト、(例えば、家族性高コレステロール血症又は臨床的アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を治療するための)アリロクマブ、(例えば、アトピー性皮膚炎を治療するための)デュピルマブ、(例えば、関節リウマチ及びCOVID-19を治療するための)サリルマブ、(例えば、PD-1関連疾患を治療するための)セミプリマブ、並びにエボラを治療するための抗体が挙げられる。
【0113】
本開示は、ポリペプチドを配列決定するための方法を提供する。一部の例示的な実施形態では、本方法は、より小さなポリペプチド配列が得られるように、ポリペプチドを消化に曝露する工程と;ETD及びMSのD-最適パラメータを選択する工程と;タンパク質消化物をD-最適パラメータ下でETD及びMSに供する工程と;ポリペプチドのアミノ酸配列を決定する工程と、を含む。
【0114】
一態様では、ポリペプチドは、抗体、抗体バリアント、又は抗体融合物である。
【0115】
一態様では、消化は、IdeS酵素によって媒介される。別の態様では、より小さいポリペプチドは、Fd、Fc/2、及びLCを含む群から選択される。
【0116】
一態様では、D-最適パラメータは、ETD、MS、MS、MS、MS AGC、LC-MS、及びLC-MSを含む群から選択される分析化学のために選択される。
【0117】
一態様では、ETDは、EThcD、ETciD、及びUVPDを含む群から選択される。
【0118】
一態様では、MSは、MS、MS、MS AGC、LC-MS、及びLC-MSを含む群から選択される。
【0119】
一態様では、ポリペプチドアミノ酸配列の決定は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、及び100%である。
【0120】
本開示は、ポリペプチドを配列決定するための追加の方法を提供する。一部の例示的な実施形態では、本方法は、より小さなポリペプチド配列が得られるように、ポリペプチドを消化に曝露する工程と;ETD及びLC-MSのD-最適パラメータを選択する工程と;タンパク質消化物をD-最適パラメータ下でETD及びLC-MSに供する工程と;ポリペプチドのアミノ酸配列を決定する工程と、を含む。
【0121】
一態様では、ポリペプチドは、抗体、抗体バリアント、又は抗体融合物である。特定の態様では、抗体又は抗体融合物は、アフリベルセプト、リロナセプト、アリロクマブ、デュピルマブ、サリルマブ、セミプリマブ、及び抗エボラ抗体を含む群から選択される。
【0122】
本開示はまた、上記の方法のうちのいずれかに従って配列決定されたポリペプチドも提供する。
【0123】
一態様では、ポリペプチドは、抗体、抗体バリアント、及び抗体融合物を含む群から選択される。別の態様では、ポリペプチドは、アフリベルセプト、リロナセプト、アリロクマブ、デュピルマブ、サリルマブ、セミプリマブ、及び抗エボラ抗体を含む群から選択される。
【実施例
【0124】
以下の実施例は、例示的な目的で提供され、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。本出願内で列挙された全ての参考文献及び特許は、参照により本明細書に含まれる。
【0125】
材料及び方法
本発明は、当業者によって実施される場合、薬化学、免疫学、分子生物学、細胞生物学、組換えDNA技術、及びアッセイ技術の分野における従来の技術を利用することができ、例えば、Sambrook et al.“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,3rd ed.2001、Ausubel et al.“Short Protocols in Molecular Biology”,5th ed.1995、“Methods in Enzymology”,Academic Press,Inc.、MacPherson,Hames and Taylor(eds.).“PCR 2:A practical approach”,1995、“Harlow and Lane(eds.)“Antibodies,a Laboratory Manual”1988、Freshney(ed.)“Culture of Animal Cells”,4th ed.2000、“Methods in Molecular Biology”vol.149(“The ELISA Guidebook”by John Crowther)Humana Press 2001、及びこれらの専門書の以降の版(例えば、“Molecular Cloning”by Michael Green(4th Ed.2012)及び“Culture of Animal Cells”by Freshney(7th Ed.,2015)、並びに現在の電子版に記載されている。
【0126】
ペプチド及びタンパク質、特に、抗体及びそのサブユニットの物理化学分析を行うのに有用な方法は、本開示内に提供されるとともに、以下の参考文献及び現在の電子版、例えば、“Introduction to Protein Mass Spectrometry” by Pradip Kumar Ghosh,2015、“Analytical Characterization of Biotherapeutics” by Jennie R.Lill and Wendy Sandoval,2017、“Mass Spectrometry of Proteins and Peptides:Methods and Protocols Second Edition (Methods in Molecular Biology)”by Mary S.Lipton and Ljiljana Pasa-Tolic,2008、“Protein Therapeutics,Methods and Principles in Medicinal Chemistry”by Tristan Vaughan,Jane Osbourn,et al.,2017、“Advancements of Mass Spectrometry in Biomedical Research” by Alisa G.Woods and Costel C.Darie,2019、及び“Protein Analysis using Mass Spectrometry:Accelerating Protein Biotherapeutics from Lab to Patient”by Mike S.Lee and Qin C.Ji,2017に記載されている。
【0127】
試薬
液体クロマトグラフィ-質量分析(LC-MS)グレードの水、イソプロパノール(IPA)、及びアセトニトリル(ACN)は、Fisher Chemical(FareLawn,NJ)から購入した。ギ酸(FA)、ジチオスレイトール(DTT)、8M塩酸グアニジンは、Thermo Scientific(Rockford,IL)から購入した。FabRICATOR(IdeS)プロテアーゼは、Genovis(Cambridge,MA)から購入した。
【0128】
試料の調製
市販のヒト化IgG1モノクローナル抗体標準であるNISTmAbは、MilliporeSigma(St.Louis,MO)から購入した。100μgのNISTmAbを、37℃で30分間、10ユニット/μLのFabRICATORプロテアーゼで消化した。消化後、100μLの塩酸グアニジン及び25μLの1.0MのDTTを添加し、試料を37℃で45分間インキュベートして、Fdサブユニット、Fc/2サブユニット、及びLCサブユニットに対する抗体を還元した。
【0129】
液体クロマトグラフィ
逆相液体クロマトグラフィ(RPLC)は、Waters Corp.(Milford,MA)の、バイナリソルベントマネージャ(BSM)を備えたI-class UPLC(登録商標)機器で行った。MS分析の前に、全ての試料を、Waters Corp.(Milford,MA)の、Protein BEH C4 VanGuard(商標)カラムを使用して脱塩した。脱塩ステップの後、断片を、Waters Corp.の、1mm×150mmのProtein BEH C4(300Å、1.7μm)カラムを使用して分離した。移動相A(MPA)は、水中0.1%のFAであり、移動相B(MPB)は、60%のACN、39.9%のIPA、及び0.1%のFAであった。
【0130】
各実験について、1μgの、消化かつ還元された抗体を、カラムにロードした。試料をロードした後、試料を5%のMPBで5分間脱塩した。次いで、勾配を2分間にわたって20%のMPBに増加させ、続いて、28分間にわたって60%のMPBに増加させた。流量は、100μL/分であった。タンパク質溶出に続いて、次の試料を注入する前に、カラムを5%のMPBに復元した。
【0131】
質量分析
機器の前面に位置するETD試薬ソースを備えたThermo Scientific Fusion Lumos Tribrid質量分析計のESIソースに、I-クラスの機器を連結した。スプレー電圧を3700Vに設定し、イオントランスファーチューブ温度を350℃に設定した。実験設計(DOE)の実行の前に、3回のMS実験を実施して、各サブユニットの溶出ウィンドウ及び電荷分布を決定し、実行間の保持時間のシフトが最小限であることを確かめた。
【0132】
3回のMS実験からの情報を使用して、DOEに基づいて異なる標的化MSを設定した。MS実験では、Orbitrap分解能を120,000に設定し、質量範囲を標準(350~2000m/z)に設定し、RFレンズの割合(%)を30に設定した。各MSスキャンは、10回のマイクロスキャンの複合体であった。四重極を前駆体の分離に使用し、最初のMS実験に基づいて、単離ウィンドウを最も強力な電荷状態を中心に設定した。
【0133】
データ分析
JMP統計ソフトウェアを使用して、選択された因子に基づいて異なるDOE実行を生成した。各実行について、まず、全イオンクロマトグラム(TIC)をXcaliburで評価して、各サブユニットのスキャン範囲を決定した。次いで、ProSight PC4.0のTHRASHアルゴリズムを使用して、Xcaliburから決定された各スキャン範囲のMSスペクトルの同位体クラスターをデコンボリューションした。ProSight PCのTHRASHパラメータを以下のように設定した:最小シグナル対ノイズ比を8に設定し、最小RL(信頼度)値を0.95に設定した。MS断片の質量許容値を20ppmに設定した。
【0134】
デコンボリューション後、ProSightの結果をProSight Liteにエクスポートし、適切な翻訳後修飾(PTM)をサブユニット配列に追加し、MS断片に基づいて総サブユニットカバレッジを決定した。次いで、配列カバレッジの結果をJMP統計ソフトウェアにエクスポートし、各サブユニットについてモデリングを実施して、選択された因子と測定された応答との間の関係を決定した。
【0135】
以下の実施例は、ポリペプチド、特に、抗体サブユニットの改善されたアミノ酸配列決定のための例示的な方法を示す。
【0136】
実施例1.実験設計(DOE)戦略
本実施例は、抗体サブユニットの正確な配列決定のための電子移動解離(ETD)パラメータを最適化するための実験設計(DOE)の検討事項を記載する。
【0137】
まず、以前の知識及び経験、並びに公開された文献からの情報を使用して、ETD MS因子を決定し、設計空間の境界を評価及び設定した。設計空間の外側にある境界の設定は、因子と応答の間に意味のある関係を提供しないため、除外された。関連する結果に影響を与えるパラメータ、例えば、配列カバレッジ又は所与のサイズの同定された断片の数は、当業者によって選択され得ることを理解されたい。
【0138】
ETD MS配列カバレッジ又は同定された断片の数に関連すると見なされる選択された因子には、単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、及びMS AGC標的が含まれた。因子間に曲線関係があるかどうかを決定するために、各因子を3つの異なるレベルで評価した。単離ウィンドウを、100、400、及び700m/zで評価した。ETD反応時間を、5、10、及び15msで評価した。ETD試薬標的を、1.0E5、5.5E5、及び1.0E6で評価した。MS AGC標的を、5.0E4、5.3E5、及び1.0E6で評価した。
【0139】
ETD MSスペクトルに影響を及ぼす因子間の関係を評価するために、1つの可能なアプローチは、全因子DOEを進めることである。しかし、選択された因子の数及びレベルでは、全因子DOEは81回の実行を必要とし、実行時間及びデータ分析の観点からかなりのリソースを占有する。代わりに、D-最適DOEを使用してより効率的なアプローチが選択され、DOEのD-効率パラメータを最大化するために必要なUPLC-MS実行回数はわずか28回であった。
【0140】
したがって、この実施例は、正確性及び配列カバレッジを維持しながら、ポリペプチドの配列決定における使用の容易さのためにDOEパラメータを最適化する価値を例示する本発明の態様を表す。
【0141】
実施例2.最大配列カバレッジを生成するための、予測モデルからの最適条件
本実施例は、抗体サブユニットの最大アミノ酸残基カバレッジを生成するための例示的な最適なアッセイ条件を記載する。
【0142】
第1の目標は、一度の実行でETDミドルダウン配列カバレッジを最大化する、DOEを使用する最適なセットの条件を見出すことであった。ETD最適化のために、評価単離ウィンドウ、ETD反応時間、ETD試薬標的、及びMS AGC標的を選択した。
【0143】
MS ETDのためにリニアイオントラップに送られるイオンのm/z範囲を制御する単離ウィンドウは、各サブユニットについてMSスペクトルで観察された最も強力な電荷状態を中心に設定した。
【0144】
電子移動解離の反応時間は、フルオランテンアニオンが前駆体イオンと反応する時間のことを指し、ETD試薬標的は、リニアイオントラップに注入されて前駆体イオンと反応させるフルオランテンアニオンの量を指す。
【0145】
観察は、言及されたパラメータが、MS ETDスペクトルの品質に直接関与し、したがって、MS配列カバレッジに影響を及ぼすことを示した。当初、JMP統計ソフトウェアを使用して、選択されたパラメータの全ての可能な組み合わせからサブセットを決定した。
【0146】
これらのモデルのD-効率を最大化するために、各DOEに対して合計28回の実行を収集し、各サブユニットのETD MSスペクトルに影響を及ぼすパラメータを別々にモデル化して、最大の配列カバレッジを提供する最適なパラメータ設定を決定した。
【0147】
ProSight PCでTHRASHアルゴリズムを使用してデータを処理した後、結果をProSight Liteにエクスポートした。ここで、Fc/2サブユニットのN結合グリコシル化及びFdサブユニットのN末端グルタミンのピログルタミン酸への変換などの翻訳後修飾が記録された。Fc/2については、G1FがNISTmAbの最も豊富なグリコフォームであるため、G1F種のみが配列カバレッジの計算に含まれた。Fdについては、ほとんどのグルタミンが急速にピログルタミン酸に変換され、したがって、主要な種と見なされるため、ピログルタミン酸を有する配列が考慮された。
【0148】
DOEの結果に基づいて、最適なFc/2パラメータは、単離幅、ETD反応時間、ETD試薬標的、及びMS AGC標的について、それぞれ539.8m/z、15ms、9.2E5、及び9.5E5であることが見出された。図2AのパネルAに示されるように、Fc/2のモデルは、モデル予測配列カバレッジ及び観察された実測配列カバレッジの間の強い相関を示す。最適なETDパラメータを使用した3回の実行の平均ミドルダウン配列カバレッジは、Fc/2サブユニットについて61.0%であった。
【0149】
DOEモデルは、図2AのパネルBに示されるように、単離幅、ETD反応時間、ETD試薬標的、及びMS AGC標的について、それぞれ397.1m/z、15ms、9.3E5、及び1E6が、NISTmAb軽鎖(LC)の最大配列カバレッジを達成するための最適な操作パラメータであることを示した。最適なETD断片化のためのパラメータを使用した3回の実行を平均した場合、軽鎖の62.0%の配列カバレッジが達成されたことが観察された。
【0150】
最後に、図2AのパネルCに示されるように、ETDを使用して、Fdサブユニットについて、503.6m/zの単離幅、15msのETD反応時間、7.9E5のETD試薬標的、及び8.0E5のMS AGC標的が、最大配列カバレッジのための最適な動作パラメータであると決定された。
【0151】
DOEモデルからの最大配列カバレッジのための最適パラメータを決定したのち、これらのパラメータを使用して三重に実験を実行して、モデル予測値が実測値とどのように比較されるかを決定した。図2Aに示されるように、実測実験値は、最小のパーセント誤差で、モデル予測値と強い相関を示す。
【0152】
したがって、この実施例は、本発明のDOE戦略により、ポリペプチド(例えば、抗体サブユニット)のアミノ酸配列カバレッジを最大化するための最適パラメータ設定の導出がもたらされ、観察された配列カバレッジとよく対応したことを、実証する。
【0153】
実施例3.複数回のLC-MSの実行からの、組み合わせた配列カバレッジ
この実施例は、ポリペプチド(例えば、抗体断片)の最大アミノ酸残基配列カバレッジを生成するための例示的なアッセイ条件を説明する。
【0154】
複数回のMSの実行からのETD断片化の実行を組み合わせると、モノクローナル抗体サブユニットの配列カバレッジを更に増加させることができることが示されている(Fornelli et al.2018、Fornelli et al.2012)。本発明のDOE戦略を使用して最大配列カバレッジのための最適ETDパラメータを決定した後、3回の独立したETD RPLC-MSの実行から同定された断片を組み合わせて、各サブユニットの組み合わせた配列カバレッジを決定した。図3Aに示されるように、このアプローチは、Fc/2サブユニット、LCサブユニット、及びFdサブユニットの配列カバレッジを、10~12%増加させた。
【0155】
したがって、この実施例は、本発明の方法を使用して、独立したETDLC-MS実験から同定された断片を組み合わせることによって、抗体配列カバレッジを更に改善することができることを実証する。
【0156】
実施例4.改善された抗体サブユニット配列カバレッジのための低質量、中質量、及び高質量の断片の最大数を得ること
この実施例は、ポリペプチド(例えば、抗体サブユニット)の最大アミノ酸残基配列カバレッジを生成するためのアッセイ条件を設計するための新規の方法を実証する。
【0157】
最初のDOEの知見は、最適化されたETDパラメータによって生成されたc-及びz-イオンの大部分が、各mAbサブユニットのN末端及びC末端近くに集中する傾向があることを明らかにした。これらの知見に基づいて、異なるサイズの断片(例えば、低質量サイズ、中質量サイズ、及び高質量サイズの断片)を生成することができるETD MSパラメータを決定するDOEモデルを作成することによって、各サブユニットの配列カバレッジを最大化するように新しいアプローチを設計した。これらの実験では、低質量を5,000Daより小さい断片として定義し、中質量を5,000Da~10,000Daの断片として定義し、高質量を10,000Da超の断片として定義した。低質量、中質量、及び高質量の条件を使用して得られたRPLC-MSの実行の結果を組み合わせることで、配列カバレッジ並びに断片サイズの多様性が潜在的に増加する可能性がある。このアプローチは、各質量領域について生成されたETD MS断片の数を測定する予測DOEモデルを生成した。DOEの結果に基づいて、3つのサブユニットについて最大数の低質量断片、中質量断片、及び高質量断片を生成するETDパラメータを決定した。図2Bは、低質量、中質量、及び高質量の条件のDOEモデルを示し、実測の断片数とモデルで予測された断片数との間の強い相関性、並びに高いモデル有意性を実証する。更に、各断片サイズカテゴリについて最適なETD MSパラメータを使用した場合に実験的に観察された断片の平均数は、各モデルによって予測されたものと同等であった。
【0158】
DOEモデルを使用して生成された生のMSスペクトルの調査は、スペクトルプロファイル間の劇的な差異を明らかにした。図2Cに示されるように、Fc/2、LC、及びFdの場合、断片の質量分布は、使用したETD MSパラメータに応じてシフトした。Fc/2の場合、低質量、中質量、及び高質量の条件では、下位四分位及び上位四分位、並びに中央値断片質量の増加が観察された。ETDを使用して高いFd配列カバレッジを達成することは、以前に報告された困難さにもかかわらず、Fdについて同様であるがそれほど顕著ではない傾向が観察された。LCサブユニットについては、低質量条件と中質量条件との間で、下位四分位と上位四分位、並びに中央値断片質量で実質的な差異が観察されたが、中質量条件と高質量条件との間ではわずかな差異しか観察されなかった。それにもかかわらず、高質量ETD MSパラメータは、追加の高質量断片を提供し、LCサブユニットに関する配列カバレッジ情報を更に増加させた。
【0159】
ETD MSを使用してポリペプチドの異なるサイズの断片(例えば、低質量、中質量、及び高質量の断片)を得るためのDOE最適化の新規の方法を使用して、改善された配列カバレッジを得ることができることを、この実施例は実証する。
【0160】
実施例5.低質量、中質量、及び高質量の条件からの、組み合わせた配列カバレッジ
図2Cに示されるように、低質量、中質量、及び高質量の条件を使用して、Fc/2サブユニット、LCサブユニット、及びFdサブユニットについて観察された中央値断片質量のシフトは、これらの異なる条件が、有意に異なるイオン集団を生成したことを示し、組み合わせた場合、mAbサブユニットに関する配列カバレッジ情報の増加を提供し得る。したがって、各サブユニットの配列カバレッジの全体的な増加を測定するために、低質量、中質量、及び高質量のETD RPLC-MSの実行からの断片化の結果を組み合わせることによって、本発明の方法を更に最適化した。
【0161】
2回の低質量、2回の中質量、及び2回の高質量RPLC-MSの実行を、前述のように断片質量DOEから決定されたETDパラメータを使用して、合計6回の独立した実行について組み合わせた。2回のRPLC-MSの実行からの断片化データをその後追加するたびに、各サブユニットの配列カバレッジが更に増加した。図3Bに示されるように、このアプローチは、Fc/2、LC、及びFdの配列カバレッジの改善をもたらした。非グリコシル化Fc/2並びに全ての豊富なグリコフォームからの断片の追加は、Fc/2の配列カバレッジを更に増加させた。ETD単独で得られたこれらの配列カバレッジの結果は、複数回のRPLC-MSの実行及び6つの異なるETD反応時間を使用した以前の報告と比較して優れている。6回超のRPLC-MSの実行からの断片化データを組み合わせると、装置及びデータ分析時間を犠牲にしても、配列カバレッジは、わずかに増加したか又は全く増加しなかった。
【0162】
モノクローナル抗体サブユニットの配列カバレッジを最大化するために、ETD MS機器の動作パラメータの最適化のための包括的なワークフローを開発した。配列カバレッジを最大化するために、2つの異なるアプローチを用いた。第1の方法は、配列カバレッジを最大化するために、DOEモデルを介して最適なETD MSパラメータを決定した。第2の方法は、低質量範囲、中質量範囲、及び高質量範囲の断片を生成するETD条件を決定することによって、配列カバレッジを改善した。この方法を使用し、Fc/2サブユニット、LCサブユニット、及びFdサブユニットの配列カバレッジを組み合わせることで、mAb全体の配列カバレッジの改善がもたらされた。
【0163】
本明細書に記載のDOEアプローチを使用して、追加の断片化技術を必要とすることなく、異なる質量分析計プラットフォームにわたってmAbのミドルダウン配列カバレッジを増加させる予測モデルを生成することができる。このアプローチは、EThcD、ETciD、及びUVPDを含む他の断片化方法に拡張されて、アミノ酸配列カバレッジを更に改善し、モノクローナル抗体又は他のポリペプチドの完全に近い配列カバレッジを達成することができる。
【0164】
前述の明細書において、本発明を、その特定の実施形態との関連で説明し、例示の目的で多くの詳細を述べてきたが、本発明には追加の実施形態を受け入れる余地があること、及び本明細書に記載される詳細のいくらかは、本発明の基本原理から逸脱することなく変更することができることは当業者には明白であろう。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B-1】
図3B-2】
図3B-3】
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-10-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2024507571000001.app
【国際調査報告】