(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】セラミックケーシング要素、特に時計製作用のセラミックケーシング要素の製造方法及び対応するケーシング要素
(51)【国際特許分類】
C04B 35/645 20060101AFI20240214BHJP
C09C 3/00 20060101ALI20240214BHJP
C04B 35/488 20060101ALI20240214BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20240214BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C04B35/645
C09C3/00
C04B35/488
B32B18/00 A
G04B37/22 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528183
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(85)【翻訳文提出日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2021081855
(87)【国際公開番号】W WO2022101504
(87)【国際公開日】2022-05-19
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520032996
【氏名又は名称】マニュファクチュール ドルロジュリー オーデマ ピゲ エスアー
【氏名又は名称原語表記】Manufacture d’Horlogerie Audemars Piguet SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225543
【氏名又は名称】上原 真
(72)【発明者】
【氏名】シバウト レ ロアレル
(72)【発明者】
【氏名】マキシム ゴヴァーツ
(72)【発明者】
【氏名】ダンカン デレツィニエール
【テーマコード(参考)】
4F100
4J037
【Fターム(参考)】
4F100AD00A
4F100AD00B
4F100AD00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA13A
4F100CA13B
4F100EJ30
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4F100GB51
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4F100YY00B
4F100YY00C
4J037AA30
4J037EE26
4J037FF03
(57)【要約】
本発明は、時計製作又は宝飾品製作の分野におけるセラミック製ケーシング要素を製造するための方法に関する。この方法により、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質であり、また、表面上に独創的かつ独特の様々な色相及び/又は色を有するケーシング要素を得ることができる。製造方法は、特に、ケーシング要素(1)の表面上でそれぞれ異なって目に見える性質の異なる層を作製することが意図される機械加工ステップを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計製作又は宝飾品の分野におけるセラミックケーシング要素(1)を製造する方法であって、
第1の基本組成物を調製するステップであり、前記第1の基本組成物は、セラミックの製造を目的とする焼結作業を受けることが意図される粉末を含む、ステップと、
第2の基本組成物を調製するステップであり、前記第2の基本組成物は、セラミックの製造を目的とする焼結作業を受けることが意図される粉末を含む、ステップと、
前記焼結作業を実施する前に、前記第1及び第2の基本組成物のうちの少なくとも1つを処理し、それにより、前記第1及び第2の基本組成物のうちの少なくとも1つに少なくとも1種の顔料を導入して、第1及び第2の反応材(100、200)をそれぞれ規定するステップであり、前記第1及び第2の反応材(100、200)は、互いに類似するが異なっている性質を有し、それにより、前記第1及び第2の反応材(100、200)が一緒に焼結作業を受けたときに、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質なセラミック製品(10)が得られ、また最終的に得られる前記セラミック製品(10)が、色相及び/又は色の変化を示すようにする、ステップと、
少なくとも2つの層の間に予め定められた形態の境界面を規定するように少なくとも部分的に隣接する前記少なくとも2つの層の形態で、前記第1及び第2の反応材(100、200)を鋳型内に入れるステップと、及び
前記第1及び第2の反応材(100、200)を包含する前記鋳型に施される焼結作業を実施するステップと、
を含み、前記方法は、
前記焼結作業の後に得られる前記セラミック製品(10)を機械加工するステップを少なくとも1つ含み、前記機械加工するステップは、前記ケーシング要素(1)の表面上に前記境界面(2)の少なくとも一部が見えるように、また前記ケーシング要素(1)が前記ケーシング要素(1)の表面上に色相及び/又は色の変化を有する独特の外観を示すように、前記境界面(2)と交差する経路に沿って少なくとも1回の材料除去作業を含み、前記変化の分布は、ほぼ不規則であるように見え、また予め定められたいかなる模様、及び表示ディスプレイに関連付けられるいかなる機能とも無関係であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記第1及び第2の反応材(100、200)を前記鋳型の内部で互いに対して分布させて、予め定められた模様を生成することを目的とするやり方に関して、いかなる精密な制御も行われずに、前記第1及び第2の反応材(100、200)が前記鋳型内に入れられることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、前記方法は、
第3の反応材(300)を調製する補足的なステップを含み、前記第3の反応材(300)は、セラミックの製造を目的として焼結作業を受けることが意図される粉末を含み、前記第3の反応材(300)は、前記第1及び第2の反応材(100、200)のうちの少なくとも1つの性質と類似するが異なる性質を有し、また、前記第1、第2及び第3の反応材(100、200、300)が一緒に焼結作業を受けたときに、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質なセラミック製品(10)が得られるように、前記第3の反応材(300)が選択され、また
前記第3の反応材(300)も、前記第1及び第2の反応材(100、200)のうちの少なくとも1つと一緒に少なくとも1つの補足的境界面(4)を規定するように、前記第1及び第2の反応材(100、200)と一緒に前記鋳型内に入れられ、前記補足的境界面(4)及び各前記補足的境界面の少なくとも一部は、前記材料除去作業の実施時に、前記ケーシング要素(1)の前記表面上に見えるようにされることを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法であって、前記境界面(2)は正中面を有し、また、前記機械加工するステップが実行されることにより、前記ケーシング要素(1)が、前記境界面(2)の前記正中面に対して10~90°の勾配を示す正中面を規定する少なくとも1つの面を有することを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法であって、前記境界面(2)及び前記補足的境界面(4)若しくは複数の前記補足的境界面(4)のそれぞれは、すべての前記境界面(2、4)に対して正中面を規定するように、前記境界面(2)と前記補足的境界面(4)の間に0~20°の1つ以上の勾配を示し、また、前記機械加工するステップが実行されることにより、前記ケーシング要素(1)が、すべての前記境界面(2、4)の前記正中面に対して10~90°の勾配を示す正中面を規定する少なくとも1つの面を有することを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法であって、前記反応材(100、200、300)はそれぞれ、最大で15重量%の割合の顔料を含むことを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法であって、前記反応材(100、200、300)は、同一の顔料を異なる割合で含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法であって、前記反応材(100、200、300)のうちの少なくとも1つが、少なくとも1種の貴金属の粒子を含有することを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法であって、前記焼結作業は、フラッシュ焼結作業から構成されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記フラッシュ焼結作業は、互いに離れて位置する2つの電極に連結された導電性の鋳型を使用するステップを含み、前記2つの電極の間に、1ボルトより大きく且つ10ボルト以下の電圧が印加され、好ましくは、前記使用するステップは、前記2つの電極の間に1~25000Aの電流を流すことを伴い、好ましくは、前記2つの電極の間に、2~30分の持続時間にわたって、5~100MPaの圧力がかけられることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の方法であって、前記フラッシュ焼結作業は、少なくとも前記第1及び第2の反応材(100、200)を含有している最中の前記鋳型に施される単一の熱処理操作を構成することを特徴とする、方法。
【請求項12】
時計製作又は宝飾品の分野におけるセラミックケーシング要素(1)であって、少なくとも第1及び第2の部分を備え、前記第1及び第2の部分は、前記ケーシング要素(1)の表面上に少なくとも部分的に見える境界面を介して隣接し、前記第1及び第2の部分は、それぞれ異なる色相及び/又は色を示し、また、それぞれの性質を有しており、前記性質により、前記ケーシング要素(1)は、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質となり、
前記ケーシング要素(1)は、相互に直交する少なくとも2つの横方向切削面を有し、前記横方向切削面はそれぞれ、前記少なくとも2つの部分を切削し、また
前記ケーシング要素(1)は、表面上に色相及び/又は色の変化を有する独特の外観を示し、前記変化の分布は、ほぼ不規則であるように見え、また、予め定められたいかなる模様、及び表示ディスプレイに関連付けられるいかなる機能とも無関係であることを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【請求項13】
請求項12に記載のケーシング要素(1)であって、
前記ケーシング要素(1)は少なくとも第3の部分を備え、前記第3の部分は、前記第1及び第2の部分とは異なり、また、前記ケーシング要素(1)が構造及び機械的特性の観点からほぼ均質となるような性質を有し、また
前記横方向切削面はそれぞれ、前記3つの部分のうちの少なくとも2つを切削することを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のケーシング要素(1)であって、前記部分のそれぞれの最小寸法が、5mm未満である又は5mmにほぼ等しいことを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載のケーシング要素(1)であって、前記ケーシング要素(1)は、時計製作用ケーシング要素、とりわけ、中央部、ベゼル若しくは底部等の時計ケースの構成要素であり、又は、リンク、スタッド若しくはバックル等の腕時計用の腕輪であり、あるいは、宝飾品のケーシング要素であることを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか一項に記載のケーシング要素(1)であって、前記2つの隣接する部分間の靭性が、前記境界面の範囲に沿って最大で5%だけ変化することを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計製作又は宝飾品の分野におけるセラミックケーシング要素を製造するための方法に関し、この方法により、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質であり、また、表面上に様々な色相及び/又は色を示すケーシング要素を得ることができる。
【0002】
また、本発明は、時計製作又は宝飾品の分野で使用されることが意図されるそのようなケーシング要素に関する。
【背景技術】
【0003】
セラミック要素を製造するための様々な方法が知られており、これらの方法により、対応するケーシング要素は、表面上にいくつかの色を示す。
【0004】
したがって、例えば特許文献1(CH707424 B1)は、時計製作用のセラミックケーシング要素を製造する方法を開示しており、この方法により、異なる色の2つの部分を有するそのようなケーシング要素を得ることができる。そのような結果を得るために、組成物が調整されて成形され、この組成物は、セラミックを製造するための焼結作業を受けることが意図される粉末及び第1の顔料を含む。焼結作業後に最終的に得られるケーシング要素が、第2の顔料で処理された部分と処理されなかった部分とで2つの異なる色を示すように、成形片は、焼結作業の実施前に、第2の顔料で、好ましくは1つ以上の金属で露出部分をドープすることを目的とする処理に、部分的に晒される。特許所有者によれば、好都合なことに、この方法により、2つの部分の間の明確かつ正確な境界を示すケーシング要素を製造することができる。この方法は、とりわけ、例えば潜水時計又はGMT機能用の2色ベゼルの製造に特に適している。この場合、一方の色は昼の時間に関連付けられ、他方の色は夜の時間に関連付けられる。
【0005】
特許文献2(JP 2014-12615 A)は、ケーシング要素を製造するための別の方法、とりわけ時計製作用のケーシング要素、例えば、潜水時計用のベゼル等を製造するための方法を開示している。特許文献2に記載されている実施形態によれば、そのようなベゼルは、予め定められた第1の色を有する第1のセラミックによって形成される一般的なエンベロープと、その内部に作製される、予め定められた第2の色を有する第2のセラミックから構成される刻銘と、を示すように製造することができる。そのような結果を達成するために、対応する発明は、同一の鋳型の中に2つの異なる組成物を注入してから、これらの組成物を一緒に焼成して従来の焼結作業を受けさせることから構成される。この焼結作業の直後に、「HIP」(「熱間静水圧」)処理操作が続く。HIP処理操作は、最終的に得られるセラミックの良好な緻密化、したがって、異なる組成物に基づいてそれぞれ生成される最終製品の異なる領域間における良好な結合を確実にするために必須なものとして提示されている。
【0006】
どのような場合でも、特許文献2(JP 2014-12615 A)に提示される方法は、表示又は装飾のために、正確かつ予め定められた模様を生成することを目的とする。上記のように、特許文献1に開示される方法は、表示機能を有するケーシング要素の製造にも関連し、この方法は、予め定められた模様を製造する場合と同様に、異なる色のセラミックを正確に分布させることの実施を伴う。したがって、これらの2つの方法は、産業研究の一般的な傾向の範囲内に収まっており、この傾向は製造方法のパラメータを定義することを目的とし、このパラメータにより、互いに同一だがより多い又はより少ない数で製造される部品を製造するための再現可能な作業条件を実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】スイス国特許第707424号明細書
【特許文献2】特開2014-12615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、公知の方法の代わりとなる、セラミックケーシング要素を製造するための方法を提案することである。この方法により、新規且つ独特の外観を示すケーシング要素を得ることができる。本発明の別の目的は、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質であり、また、先行技術から知られるケーシング要素と比較して、独創的な外観、とりわけ、全体的に得られる少なくとも2つの異なる色相及び/又は色を示す、時計製作又は宝飾品用のセラミックケーシング要素を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明は、より詳細には、上記のタイプの時計製作又は宝飾品の分野におけるセラミックケーシング要素を製造するための方法に関し、この方法は、
第1の基本組成物を調製するステップであり、第1の基本組成物は、セラミックの製造を目的とする焼結作業を受けることが意図される粉末を含む、ステップと、
第2の基本組成物を調製するステップであり、第2の基本組成物は、セラミックの製造を目的とする焼結作業を受けることが意図される粉末を含む、ステップと、
焼結作業を実施する前に、第1及び第2の基本組成物のうちの少なくとも1つを処理し、それにより、第1及び第2の基本組成物のうちの少なくとも1つに少なくとも1種の顔料を導入して、第1及び第2の反応材をそれぞれ規定するステップであり、第1及び第2の反応材は、それぞれ互いに類似するが異なっている性質を有し、それにより、第1及び第2の反応材が一緒に焼結作業を受けたときに、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質なセラミック製品が得られ、また最終的に得られるセラミック製品が、色相及び/又は色の変化を示すようにする、ステップと、
少なくとも2つの層の間に予め定められた形態の境界面を規定するように少なくとも部分的に隣接する少なくとも2つの層の形態で、第1及び第2の反応材を鋳型内に入れるステップと、及び
第1及び第2の反応材を包含する鋳型に施される焼結作業を実施するステップと、
を含む。
【0010】
本発明による方法は、焼結作業の後に得られるセラミック製品を機械加工するステップを少なくとも1つ含み、機械加工するステップは、ケーシング要素の表面上に境界面の少なくとも一部が見えるように、またケーシング要素がケーシング要素の表面上に色相及び/又は色の変化を有する独特の外観を示すように、境界面と交差する経路に沿って少なくとも1回の材料除去作業を含み、変化の分布は、ほぼ不規則であるように見え、また予め定められたいかなる模様、及び表示ディスプレイに関連付けられるいかなる機能とも無関係であることを特徴とする。
【0011】
異なる色は、例えばL*a*b*空間におけるそれらの座標によって、従来通りに特定することができる。
【0012】
有利には、顔料の導入後に素地タイプの反応材が得られるように、各基本組成物は、焼結作業を受けたときにセラミックを形成することが意図される粉末、並びに公知の安定剤を含み、場合によっては公知の結合剤も含む。
【0013】
これらの特徴により、焼結作業中に、2つの層の境界面における顔料の移動の自由度を維持しながら、セラミック製品が色及び色相の観点から合わせられる一般的な傾向を制御することが可能であり、したがって、焼結後に得られる製品の外観に不規則な寄与をする。
【0014】
また、後続の機械加工ステップにより、材料の除去を行うために辿る経路に基づいて、焼結によって得られる同一のセラミック製品とは著しく異なる外観の2つのケーシング要素を製造することもできる。したがって、製造者は、焼結によって得られる同一のセラミック製品に基づいて、ケーシング要素の表面上の色相及び/又は色の変化を、さらに強調するか、あるいは逆に弱めるか、選択することができる。
【0015】
一般に、セラミック素子の製造の分野で知られている1つの課題は、最終製品の色及び色相の良好な再現性を得ることにあることにも留意されたい。特に、要素の寸法が大きければ大きいほど、表面全体にわたって色及び色相の完全な均質性を保証することがより困難になる。同様に、例えば、腕時計の中央部、ケースの底部、時間設定用のクラウン、存在し得るボタン、ベゼル、場合によってはリンク、スタッド、又は腕輪のバックルのような、複合製品における別個の異なる構成要素について、同一の色及び色相を得ることは困難である。実際、これらの構成要素が互いに組み立てられると、2つの隣接する構成要素間に、色又は色相について存在し得るわずかな変化がすぐに見える。
【0016】
本発明による製造方法に戻ると、従来のアプローチは、製造されるケーシング要素において得られる色相及び色を正確に制御することによって、とりわけこのような場合に、製造方法の再現性を改善することを目的とするが、本発明による製造方法は、従来のアプローチとは反対側の見方も取る。実際、この方法は、逆に、色及び色相の範囲を調節することにより、所与の構成要素の表面上だけでなく、該当する場合には隣接する構成要素間の変化も強調することができる。そうすることで、この方法により、製造者が製造する製品の色相及び色相を正確に制御するために製造者にかかる負荷を軽量化できるだけでなく、均一な外観の構成要素を製造することを目的とする現在の一般的な傾向に反して、独創的且つ独特の外観を有する製品を製造することを可能にする。
【0017】
最後に、本発明によるケーシング要素は、上述の従来の方法の実施によって得られるケーシング要素の場合のように、予め定められた模様を含むことを意図していないので、本発明による方法は、本発明による方法は目標とされる結果、すなわち、すべてが互いに同一である製品の製造ではなく、むしろ独自の製品の製造によって、上記の従来の方法とは明確に区別され、それだけでなく、本発明による方法は、焼結作業前の鋳型内への反応材の配置作業の大幅な簡略化によっても、上記の従来の方法とは明確に区別されることに留意されたい。同様に、予め定められた模様を得るために不可欠である、焼結前に鋳型内に入れられる異なる反応材に由来する色又は色相の分布を特に考慮することなく、製造されるケーシング要素の一般的な形態から解放することのみを目的とするので、機械加工ステップは、上述の日本の文献に開示されたものと比較して、明らかに単純化されている。
【0018】
本発明の場合、有利には、第1及び第2の反応材を鋳型の内部で互いに対して分布させて、予め定められた模様を生成することを目的とするやり方に関して、いかなる精密な制御も行われずに、第1及び第2の反応材が鋳型内に入れられるようにすることができる。
【0019】
一般に、鋳型内に入れられた層間の境界面が正中面を有するようにすることができ、また、機械加工ステップが実行されることにより、ケーシング要素が、境界面の正中面に対して10~90°の勾配を示す正中面を規定する少なくとも1つの面を有するようにすることができる。したがって、材料の除去の際に辿る経路を修正するだけで、焼結によって得られる所与のセラミック製品から、無限に異なるケーシング要素を潜在的に製造することができる。
【0020】
有利には、本発明による方法は、第3の反応材を調製する補足的なステップを含み、第3の反応材は、セラミックの製造を目的として焼結作業を受けることが意図される粉末を含み、第3の反応材は、第1及び第2の反応材のうちの少なくとも1つの性質と類似するが異なる性質を有し、また、第1、第2及び第3の反応材が一緒に焼結作業を受けたときに、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質なセラミック製品が得られるように、第3の反応材が選択される。第3の反応材も、第1及び第2の反応材のうちの少なくとも1つと共に少なくとも1つの補足的境界面を規定するように、第1及び第2の反応材と一緒に鋳型内に入れられ、1つ又は複数の補足的境界面の少なくとも一部は、材料除去作業の実施時に、ケーシング要素の表面上に見えるようにされる。
【0021】
こうして、このようにして製造されるケーシング要素における色相及び色について、より広範囲の実現可能な変化が得られる。
【0022】
この場合、境界面及び補助境界面若しくは補助境界面のそれぞれが、すべての境界面に対して正中面を規定するように、境界面と補足的境界面の間に0~20°の1つ以上の勾配を示し、また、機械加工ステップが実行されることにより、ケーシング要素が、すべての境界面の正中面に対して10~90°の勾配を示す正中面を規定する少なくとも1つの面を有するようにすることもできる。
【0023】
有利には、反応材がそれぞれ、最大で15重量%の割合の顔料を含むようにすることもできる。
【0024】
一般に、焼結作業は、フラッシュ焼結作業から構成されることが好ましい。
【0025】
この場合、有利には、フラッシュ焼結作業が、互いに離れて位置する2つの電極に連結された導電性の鋳型を使用するステップを含み、2つの電極の間に、1ボルトより大きく且つ10ボルト以下の電圧が印加され、好ましくは、使用するステップが、2つの電極の間に1~25000Aの電流を流すことを伴い、好ましくは、2つの電極の間に、2~30分の持続時間にわたって、5~100MPaの圧力がかけられるようにすることができる。
【0026】
さらに、好ましくは、フラッシュ焼結作業が、反応材を含有している最中の鋳型に施される単一の熱処理操作を構成するようにすることができる。
【0027】
また、本発明は、時計製作又は宝飾品の分野におけるセラミックケーシング要素に関し、ケーシング要素は、第1及び第2の部分を備え、第1及び第2の部分は、ケーシング要素の表面上に少なくとも部分的に見える境界面を介して隣接し、第1及び第2の部分は、それぞれ異なる色相及び/又は色を有し、また、それぞれの性質を有しており、性質により、ケーシング要素は、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質となる。
本発明によるケーシング要素は、
ケーシング要素が、相互に直交する少なくとも2つの横方向切削面を有し、横方向切削面はそれぞれ、少なくとも第1及び第2の部分を切削し、また
ケーシング要素が、表面上に色相及び/又は色の変化を有する独特の外観を示し、変化の分布は、ほぼ不規則であるように見え、また、予め定められたいかなる模様、及び表示ディスプレイに関連付けられるいかなる機能とも無関係であることを特徴とする。
【0028】
好ましくは、本発明によるケーシング要素は、異なる色のそれぞれの最小寸法が、5mm未満である又は5mmにほぼ等しいような構造を有する。
【0029】
有利には、本発明によるケーシング要素は、時計製作用ケーシング要素、とりわけ、中央部、ベゼル若しくは底部等の時計ケースの構成要素であり、又は、リンク、スタッド若しくはバックル等の腕時計用の腕輪であり、あるいは、宝飾品のケーシング要素であってもよい。
【0030】
一般に、好ましくは、異なる色相及び/又は色の2つの隣接する部分間の靭性は、境界面の範囲に沿って最大で5%だけ変化させる場合がある。
【0031】
本発明の他の特徴及び利点は、好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読んだ際に、よりはっきりと明らかになるであろう。好ましい実施形態は、非限定的な例として与えられる添付の図面を参照して与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の好ましい実施形態による方法の実施における第1のステップを示す概略図である。
【
図2】本発明の好ましい実施形態による方法の実施における第2のステップを示す概略図である。
【
図3】本発明の好ましい実施形態による方法の実施における第3のステップを示す概略図である。
【
図4】補足的な実施例に関連して、本発明の好ましい実施形態による方法の実施のステップを示す概略図である。
【
図5】本発明によるケーシング要素の特徴づけにおける好ましいモードを示す。図
図5aは、本発明の特徴に合致しないケーシング要素に対応する。
図5bは、本発明によるケーシング要素に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
前述のように、全ての反応材を同時に焼結して、互いに異なる色相及び/又は色を示す部分を有するセラミック製品を獲得するために、本発明による製造方法は、とりわけ、いくつかの反応材を結合させることから構成される。反応材のうちの少なくとも1つは、少なくとも1種の顔料を含有する。
【0034】
この製造方法は、得られるケーシング要素が構造的均一性を示す、すなわち、ケーシング要素を脆化させる可能性のある継ぎ目を一切含まないという原理、及び、表面全体にわたって均一であり、さらには体積全体にわたっても均一である特性、とりわけ機械的特性に基づく。
【0035】
したがって、焼結後に異なる色相及び/又は色の異なる部分を示そうとするケーシング要素を得るために、焼結を受けることになる非常に異なる性質の反応材の層を並べて置いても、そうして得られるケーシング要素が求められている均質性を示そうとしないので、満足のいく解決策は現れない。
【0036】
特に、求められている均質性を達成するために考慮すべき重要な特徴は、関連する異なる反応材が、互いに化学的に不活性であり、且つ、類似の焼結温度を有しなければならないということである。
【0037】
本発明の意味の範囲内における類似の温度は、使用される異なる反応材の異なる焼結温度が、好ましくは20℃のオーダーの範囲内にあるべきことを意味すると理解されるべきである。
【0038】
したがって、好ましくは、類似の焼結温度を示す粉末形態の組成物のみが、本方法の文脈中で使用されるべきである。さらに、結合剤が使用される場合、互いに関連する異なる組成物に対して同一の結合剤を使用できるとしても、結合剤は、好ましくは同系統の結合剤から選択される。同じことは、互いに関連する異なる組成物に使用される安定剤にも当てはまる。各結合剤の割合、また該当する場合には、異なる組成物中で使用される各安定剤の割合は、異なる組成物の焼結温度が互いに類似したままとなるように選択されるべきである。
【0039】
最後に留意されたいのは、基本組成物に1種以上の顔料を添加すると、そうして形成される素地の焼結温度にも影響が及ぶことである。このため、同一の基本組成物から始まる場合、焼結温度の変動を制限するには、素地中における顔料の重量割合を15%に制限することが好ましい。
【0040】
以下の詳細な説明は、本発明の好ましい実施形態による、時計製作又は宝飾品の分野のためのセラミックケーシング要素を製造するための方法を、非限定的且つ例示的な実施例として説明するために記載する。
【0041】
より具体的には、図示及び記載されている実施形態によれば、この製造方法の実施によって製造されるケーシング要素1は、時計ケース用のベゼルの形態をとるが、もちろん、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、特許請求の範囲に定義されるように本発明による製造方法を実施して、他のケーシング要素を製造することができる。
【0042】
本発明による方法は、少なくとも1種の顔料を少なくとも1つの基本組成物に導入して反応材又は素地のうちの一方を規定することにより、反応材又は素地が鋳型内に一緒に入れられたときに反応材又は素地の焼結を実施するために、異なる反応材又は素地を調製することから構成される。
【0043】
少なくとも1つの他方の素地は、必ずしも顔料を含まずとも、反応材として使用することができる。
【0044】
代替として、最終的に得られるケーシング要素上で色相の変化を得るために、同一の顔料を異なる割合で、他の基本組成物に添加することが可能である。
【0045】
上述のように、所望のケーシング要素を製造するために使用される各基本組成物に、少なくとも1種の異なる顔料を導入することも可能である。
【0046】
図1~3は、好ましい実施形態による製造方法における異なるステップを示す概略図を表す。このステップでは、同一の顔料又は同一の顔料混合物が、同一の基本組成物に、しかし異なる割合で添加され、それにより、各焼結温度が類似する4つの異なる反応材又は素地が規定される。
【0047】
例えば、焼結作業後にセラミックをもたらすことが意図される基本組成物を、ジルコニア(ZrO2)から、とりわけ、得られるセラミックにとって望ましい特性に適した粒度分布で調製することについて考えることができる。当業者は、特に困難もなく、自身の特定の必要性に応じて、粉末及びその粒度分布を選択するであろう。
【0048】
基本組成物は、安定剤、例えば、この場合では酸化イットリウム(Y2O3)を含んでもよく、並びに随意的に、結合剤、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)も含んでもよく、安定剤及び結合剤のそれぞれの割合は、0~10重量%であってもよい。
【0049】
本発明によれば、上記の基本組成物に、同一の顔料を異なる割合で添加することによって、いくつかの異なる反応材を調製することができる。最終素地中のジルコニアの重量割合は、好ましくは80~98%である。
【0050】
例えば、非限定的で例示的な実施例として、酸化鉄(鉄の酸化度に応じて、赤色、又は褐色から黒色)、酸化アルミニウム(白色)、酸化ビスマス(青色)及び/又は酸化クロム(緑色)を使用することができる。
【0051】
好ましくは、顔料が0~15重量%程度の割合を示す素地を得るように、顔料又は顔料混合物を導入することができる。
【0052】
したがって、例えば、上述の組成に基づいて、以下の表の情報に従う異なる割合の顔料を含有する4つの反応材又は素地100、200、300及び400を調製することが可能である。
【0053】
【0054】
次いで、これらの反応材100~400は、
図1に示されるように、互いに隣接する層の形態で鋳型内に入れられて、焼結作業を受ける。反応材100は、非限定的で例示的な実施例として、本明細書では2つの層を生成するために使用される。
【0055】
有利には、各層は、0.5~5mm、好ましくは0.5~3mm程度の平均厚さを有することができる。
【0056】
層の分布は、本明細書ではほぼ平面状であり、層の分布によって4つの境界面2、4、6及び8が生じ、各境界面は、2つの隣接する層の間の接合部で定義される。
【0057】
これらの境界面2、4、6、及び8はすべて、非限定的な例示的な例として、本明細書ではほぼ平面状且つ平行であり、すべての境界面に対する正中面の向きを規定する。もちろん、当業者は、特定の必要性に応じて、異なる層、とりわけ厚みが可変の層を、おそらく必ずしも互いに平行ではない境界面を規定させながら、堆積させることができる。
【0058】
上述のように、本発明による方法が、最終的に得られるケーシング要素上に予め定められた模様を生成することを目的としないことを考慮すると、鋳型内に異なる反応材を入れるのに、異なる層を互いに対して配置するやり方についてのいかなる特定の精密な制御も必要ではない。
【0059】
焼結作業により、セラミック製品がブロック10の形態でもたらされ、ブロック10の形状は、使用される鋳型の形状によって規定され、
図2に模式的に図示される。
【0060】
このセラミック製品は、全体として異なる部分を有し、異なる部分は、対応する反応材のドープに使用される顔料の割合の関数として、互いに異なる色相を示すことが分かる。
【0061】
一般に、本発明による焼結作業は、好ましくはフラッシュ焼結作業(又はSPS、すなわち「放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)」、又は電流支援焼結、又はFAST、すなわち「電場支援焼結(Field-Assisted Sintering Technique)」)の形態をとる。
【0062】
より具体的には、このフラッシュ焼結作業は、互いに離れて位置する2つの電極に連結された導電性の鋳型を使用することを構成するステップを含んでもよく、2つの電極の間には、0ボルトより大きく且つ10ボルト以下の電圧が印加され、好ましくは、フラッシュ焼結作業は、2つの電極の間に1~25000Aの電流を流すことを伴う。この電流によって、少なくとも鋳型を加熱することができる。加熱は非常に迅速(500~1000℃/分のオーダー)に行うことができ、また、反応材が導電性である場合でも迅速に加熱することができる。
【0063】
5~1000MPaの圧力を加えることにより、焼結を加速させることができ、場合によっては、焼結温度(したがって、印加される電流の強度)を低下させ、焼結後に得られる生成物の緻密化を改善することができる。一般に、圧力は、電極自体によって直接印加され、したがって一方向性である。
【0064】
典型的に、フラッシュ焼結作業は、保持される反応材の性質及び作業条件に応じて、2~30分の持続時間を有する。生成物は、鋳型を真空又は制御雰囲気(例えば、アルゴン、水素又は窒素中)に保ちながら製造することができる。
【0065】
フラッシュ焼結の場合、結合剤を使用する必要がないことに留意されたい。また、この場合、脱結合剤のステップが必要でないことを考慮すると、フラッシュ焼結作業は、反応材を含有している最中の鋳型に施される唯一の熱処理操作を構成する。
【0066】
上記の特許文献2を参照すると、本発明の方法により、焼結作業の時間を、数時間から最大で数十分に短縮できるだけでなく、最終製品に望ましい機械的特性を得るために従来の方法で必須であった熱間等方圧縮(HIP)のステップも省くことができることに留意されたい。
【0067】
本発明による製造方法は、得られたセラミック製品を機械加工するステップを提供し、このステップによって、表面上に色相及び/又は色の変化を示すケーシング要素1を得ることができ、本明細書では、時計ケース用のベゼルを得ることができる。
【0068】
この目的のために、有利には、機械加工ステップは、境界面2、4、6及び8のうちの少なくとも1つと交差する経路に沿って少なくとも1回の材料除去作業によって、この境界面の少なくとも一部が、ケーシング要素1の表面上で見えるようにする操作を含む。
【0069】
図2は、セラミックブロック10内におけるベゼルのあり得る位置決めを概略的に示し、この位置決めにより、機械加工ステップが完了したとき、ベゼルの表面上で全ての境界面2、4、6、及び8を同時に見えるようにすることができる(ベゼルは、非限定的且つ例示的な実施例として、本明細書では八角形である。八角形であることは、周囲に規則的に分布する角が存在することを説明する)。この目的のために、本明細書では全体的な正中面を規定できる一般的な形状を有するケーシング要素1において、材料の除去が辿る経路は、好ましくは、この全体的な正中面が、すべての境界面に対する全体的な正中面に対して傾斜するように選択される。
【0070】
所望の最終的な効果、層の数、層の厚さ、並びにケーシング要素の形状及び寸法に応じて、所与のセラミックブロック10における材料の除去を行うために辿る経路の向きによって、無限に異なる結果を得ることができる。
【0071】
一般に、ブロック10が少なくとも2つの境界面を含む場合、この2つの境界面はとりわけ、有利には、0~20°程度の相対的勾配を示す2つの正中面をそれぞれ規定することができる。さらに、ケーシング要素1の全体的な正中面、あるいは該当する場合、少なくとも1つの境界面の正中面が、すべての境界面の正中面に対して10~90°の勾配を有するようにすることも可能である。
【0072】
次いで、セラミックブロック10は、好ましくはCNC工作機械を使用して、場合によってはレーザーによって機械加工され、それにより、
図3に示されるように、セラミックブロック10からベゼルが削り出される。
【0073】
図3は、4つの境界面2、4、6、及び8がそれぞれ、ケーシング要素1の表面上に見えることを示す。
【0074】
したがって、本発明による機械加工ステップは、焼結作業後に得られるセラミックブロックからケーシング要素を単に削り出すことから構成されるので、比較的単純であり、製造されるケーシング要素の形状に依存する。ケーシング要素の全体的な形状が規定されると、異なる色の領域間の1つ以上の境界面を切削可能な向きで、単に機械加工ステップをセラミックブロックに適用しなければならない。
【0075】
一般に、使用される素地が、一緒に焼結作業を受けたときに、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質なセラミック製品が得られるような素地である限り、当業者は、特に困難もなく、適切な数の層、及び厚さ若しくは組成物の性質を定めるために、必要性に合わせて本教示を適合させるであろう。
【0076】
ここで、補足的で非限定的な例として、異なる素地、及び、本発明によるケーシング要素1を製造することができる関連運用条件を提示する。
【0077】
したがって、例えば、ジルコニアをベースとし、ジルコニアに対して1~5%の割合の酸化イットリウムを安定剤として有する組成物を調製することができる。
【0078】
有利には、結合剤を添加して、セラミックペーストに対して0~7重量%の割合の結合剤を含むセラミックペーストを得ることができる。非限定的には、結合剤は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシメチレン(POM)、又はポリビニルピロリジンを含むグループから選択することができる。
【0079】
既に上述したように、有利には、次いで基本組成物に、同一の又は異なる顔料を、同様の又は異なる割合で添加することによって、いくつかの異なる素地が調製される。
【0080】
例えば、先述の顔料、とりわけ酸化鉄(鉄の酸化度に応じて赤色、又は褐色から黒色)、酸化アルミニウム(白色)、酸化ビスマス(青色)及び/又は酸化クロム(緑色)を使用することができる。好ましくは、顔料の添加は、顔料が0~15重量%程度の割合を示す素地を得るように行うことができる。
【0081】
このようにして得られた素地は、本発明の観点から、互いに適合性がある。すなわち、各素地は、互いに類似する焼結温度を有する。
【0082】
素地は、上記のように、鋳型の中に層の形態で交互に、好ましくは圧力をかけた注入によって、堆積させることができる。とりわけ、上記の反応材から白色、緑色、赤色(及び/又は褐色から黒色)並びに青色の層を、任意の順序で交互に配置することができる。好ましくは、各層は、0.5~5mm程度の厚さを有してもよい。
【0083】
次いで、反応材又は素地の異なる層を含有する鋳型に対して、従来の焼結作業が、800~1600℃の温度で施される。
【0084】
代替的且つ好ましくは、結合剤が使用されず、フラッシュ焼結用の鋳型の中に粉末(典型的には、例えば、グラファイト、シリコンカーバイド又は炭化タングステン)が入れられ、次いで、粉末はフラッシュ焼結作業を受ける。
【0085】
当業者は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、フラッシュ焼結作業を実施するための任意の適切な装置を使用することができる。例として、当業者は、株式会社富士エレクトロニクス(https://www.fdc.co.jp/sps/products/e_products.htmlを参照)によって販売されているSPS工作機械を使用することができる。
【0086】
フラッシュ焼結作業は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、処理される反応材の性質に応じて、1回以上の温度上昇を含むことができる。
【0087】
焼結後に得られるセラミックブロックは、冷却後に、例えばCNC工作機械を使用して機械加工され、それにより、セラミックブロックから所望のケーシング要素が、とりわけ、時計製作又は宝飾品の分野で使用されることが意図されるケーシング要素が削り出される。
【0088】
図2及び
図3に図示された実施例に関連して既に述べたように、有利には、この機械加工ステップにおいて、ケーシング要素の正中面、あるいは該当する場合、少なくとも1つの境界面の正中面は、すべての境界面の正中面に対して10~90°の勾配を示す。
【0089】
これらの特徴のおかげで、最終的に得られるケーシング要素の表面上に、異なる層間における最大数の境界面が見えることが保証され、したがって、ケーシング要素の表面上に、非常に多様な色相及び/又は色が与えられる。
【0090】
本発明によるセラミックケーシング要素を得るための条件、すなわち、セラミック要素が構造及び機械的特性の観点からほぼ均質であると考えることができる条件を特徴付けるために、付加的で例示的な実施形態について、本明細書で説明する。
【0091】
例として、この付加的な実施例は、以下の表に示されるように、2つの異なる顔料又は顔料混合物(C1及びC2)を異なる割合で使用することにより、それぞれ異なる色及び色相を示す6つの異なる部分を含むセラミックケーシング要素の製造を提供する。
【0092】
【0093】
図4は、上記で提示された条件に従って得られるセラミックブロック40の模式図を表す。
【0094】
実際、本発明の補足的で例示的な実施形態は、同一の基本組成物に、異なる割合の2つの顔料又は異なる2つの顔料混合物を可変の割合で添加することにより、いくつかの異なる素地を調製し、それから、重なり合った層の形態でこれらの素地を鋳型内に堆積させて、焼結作業にかけることを提供する。
【0095】
次にブロック40が得られ、
図4に図示されるように、6つの異なる部分は、層104、204、304、404、504及び604に対応する。
【0096】
ブロック40の許容可能な水準の構造的均質性を定義するために、異なる層に対して横方向で、すなわち、
図4で参照される平面Pに対してほぼ平行な方向でブロック40に負荷を加えることによって、靭性の測定を実施することができる。
【0097】
図5aは、平面Pに対して平行な方向における、本発明に対応しないセラミックブロックの異なる地点における靭性と、第1の層104の靭性との比率を示す概略図である。
【0098】
とりわけ、靭性がセラミックブロックに沿って変化することが分かる。このことは、所定の特定の機械的歪みによってブロックの破断を生じさせる可能性のある所定の構造的不均一性によって反映され、本発明の文脈において望ましくない。
【0099】
図5bは、平面Pに対して平行な方向における、本発明によるセラミックブロックの異なる地点における靭性と、第1の層104の靭性との比を示す概略図を表す。
【0100】
図5bの図は、靭性が平面Pに沿って全て一定である理想的な場合を概略的に表す。このことは、本発明の判定基準に従えば、対応するセラミックブロックが、構造及びその機械的特性の観点から均質であるということを反映する。
【0101】
実際、好ましくは、本発明による均質性の判定基準は、2つの隣接する層間の靭性が最大で5%だけ変化するときに満たされると考えることができる。
【0102】
これまで提示してきた製造方法により、複数の色相及び/又は色にわたって独創的且つ独特の外観を有し、また、色相及び色が均一な従来のセラミックケーシング要素と同等の機械的特性を有するセラミックケーシング要素を製造することができる。
【0103】
本発明の実施形態は、非限定的な例として提供される組成物に限定されない。実際、当業者は、特に困難もなく、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から決して逸脱することなく、記載されている性質とは異なる性質のセラミックケーシング要素の製造方法の実施形態、及び、提供される実施例の性質とは異なる性質の組成物から製造されるセラミックケーシング要素の実施形態に
本教示を適合させるであろう。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計製作又は宝飾品の分野におけるセラミックケーシング要素(1)を製造する方法であって、
第1の基本組成物を調製するステップであり、前記第1の基本組成物は、
焼結作業を受けたときにセラミックを製造するのに適した粉末を含む、ステップと、
第2の基本組成物を調製するステップであり、前記第2の基本組成物は、
焼結作業を受けたときにセラミックを製造するのに適した粉末を含む、ステップと、
前記焼結作業を実施する前に、前記第1
の基本組成物及び
前記第2の基本組成物のうちの少なくとも1つを処理し、それにより、前記第1及び第2の基本組成物のうちの少なくとも1つに少なくとも1種の顔料を導入して、第1及び第2の反応材(100、200)を
それぞれ規定するステップであり、前記第1及び第2の反応材(100、200)は、
それぞれ互いに類似するが異なっている性質を有し、それにより、前記第1及び第2の反応材(100、200)が一緒に焼結作業を受けたときに、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質なセラミック製品(10)が得られ、また最終的に得られる前記セラミック製品(10)が、色相及び/又は色の変化を示すようにする、ステップと、
少なくとも2つの層の間に予め定められた形態の境界面を規定するように少なくとも部分的に隣接する前記少なくとも2つの層の形態で、前記第1及び第2の反応材(100、200)を
それぞれ鋳型内に入れるステップと、及び
前記第1及び第2の反応材(100、200)を
それぞれ包含する前記鋳型に施される焼結作業を実施するステップと、
を含み、前記方法は、
前記焼結作業の後に得られる前記セラミック製品(10)を機械加工するステップを少なくとも1つ含み、前記機械加工するステップは、前記ケーシング要素(1)の表面上に前記境界面(2)の少なくとも一部が見えるように、また前記ケーシング要素(1)が前記ケーシング要素(1)の表面上に色相及び/又は色の変化を有する独特の外観を示すように、前記境界面(2)と交差する経路に沿って少なくとも1回の材料除去作業を含み、前記変化の分布は、ほぼ不規則であるように見え、また予め定められたいかなる模様、及び表示ディスプレイに関連付けられるいかなる機能とも無関係であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記第1及び第2の反応材(100、200)を
それぞれ前記鋳型の内部で互いに対して分布させて、予め定められた模様を生成することを目的とするやり方に関して、いかなる精密な制御も行われずに、前記第1及び第2の反応材(100、200)が前記鋳型内に入れられることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の方法であって、前記方法は、
第3の反応材(300)を調製する補足的なステップを含み、前記第3の反応材(300)は、
焼結作業を受けたときにセラミックを製造するのに適した粉末を含み、前記第3の反応材(300)は、前記第1及び第2の反応材(100、200)の
それぞれのうちの少なくとも1つの性質と類似するが異なる性質を有し、また、前記第1
及び第2
の反応材(100、200)並びに前記第3の反応材
(300)が一緒に焼結作業を受けたときに、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質なセラミック製品(10)が得られるように、前記第3の反応材(300)が選択され、また
前記第3の反応材(300)も、前記第1及び第2の反応材(100、200)のうちの少なくとも1つと一緒に少なくとも1つの補足的境界面(4)を規定するように、前記第1及び第2の反応材(100、200)
のそれぞれと一緒に前記鋳型内に入れられ、前記補足的境界面(4)及び各前記補足的境界面の少なくとも一部は、前記材料除去作業の実施時に、前記ケーシング要素(1)の前記表面上に見えるようにされることを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項
1に記載の方法であって、前記境界面(2)は正中面を有し、また、前記機械加工するステップが実行されることにより、前記ケーシング要素(1)が、前記境界面(2)の前記正中面に対して10~90°の勾配を示す正中面を規定する少なくとも1つの面を有することを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法であって、前記境界面(2)及び前記補足的境界面(4)若しくは複数の前記補足的境界面(4)のそれぞれは
、前記境界面(2
)及び前記補足的境界面(4)
のすべてに対して正中面を規定するように、前記境界面(2)と前記補足的境界面(4)の間に0~20°の1つ以上の勾配を示し、また、前記機械加工するステップが実行されることにより、前記ケーシング要素(1)が
、前記境界面(2
)及び前記補足的境界面(4)
のすべての前記正中面に対して10~90°の勾配を示す正中面を規定する少なくとも1つの面を有することを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項
1に記載の方法であって、前記
第1及び第2の反応材(100、20
0)はそれぞれ、最大で15重量%の割合の顔料を含むことを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項3に記載の方法であって、前記第1及び第2の反応材(100、200)並びに前記第3の反応材(300)はそれぞれ、最大で15重量%の割合の顔料を含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項
1に記載の方法であって、前記
第1及び第2の反応材(100、20
0)は、同一の顔料を異なる割合で含むことを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項3に記載の方法であって、前記第1及び第2の反応材(100、200)並びに前記第3の反応材(300)は、同一の顔料を異なる割合で含むことを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項
1に記載の方法であって、前記
第1及び第2の反応材(100、20
0)のそれぞれのうちの少なくとも1つが、少なくとも1種の貴金属の粒子を含有することを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項
1に記載の方法であって、前記焼結作業は、フラッシュ焼結作業から構成されることを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項
11に記載の方法であって、前記フラッシュ焼結作業は、互いに離れて位置する2つの電極に連結された導電性の鋳型を使用するステップを含み、前記2つの電極の間に、1ボルトより大きく且つ10ボルト以下の電圧が印加され、好ましくは、前記使用するステップは、前記2つの電極の間に1~25000Aの電流を流すことを伴い、好ましくは、前記2つの電極の間に、2~30分の持続時間にわたって、5~100MPaの圧力がかけられることを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項
11に記載の方法であって、前記フラッシュ焼結作業は、少なくとも前記第1及び第2の反応材(100、200)を
それぞれ含有している最中の前記鋳型に施される単一の熱処理操作を構成することを特徴とする、方法。
【請求項14】
時計製作又は宝飾品の分野におけるセラミックケーシング要素(1)であって、少なくとも第1及び第2の部分を備え、前記第1及び第2の部分は、前記ケーシング要素(1)の表面上に少なくとも部分的に見える境界面を介して隣接し、前記第1及び第2の部分は、それぞれ異なる色相及び/又は色を示し、また、それぞれの性質を有しており、前記性質により、前記ケーシング要素(1)は、構造及び機械的特性の観点からほぼ均質となり、
前記ケーシング要素(1)は、相互に直交する少なくとも2つの横方向切削面を有し、前記横方向切削面はそれぞれ、前記少なくとも
第1及び第2の部分を切削し、また
前記ケーシング要素(1)は、表面上に色相及び/又は色の変化を有する独特の外観を示し、前記変化の分布は、ほぼ不規則であるように見え、また、予め定められたいかなる模様、及び表示ディスプレイに関連付けられるいかなる機能とも無関係であることを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【請求項15】
請求項
14に記載のケーシング要素(1)であって、
前記ケーシング要素(1)は少なくとも第3の部分を備え、前記第3の部分は、前記第1及び第2の部分とは異なり、また、前記ケーシング要素(1)が構造及び機械的特性の観点からほぼ均質となるような性質を有し、
前記第3の部分は、前記第1及び第2の部分を有する少なくとも1つの補足的境界面を規定し、また
前記横方向切削面はそれぞれ、前記
第1、第2及び第3の部分のうちの少なくとも2つを切削することを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【請求項16】
請求項
14に記載のケーシング要素(1)であって、前記
第1及び第2の部分のそれぞれの最小寸法が、5mm未満である又は5mmにほぼ等しいことを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【請求項17】
請求項15に記載のケーシング要素(1)であって、前記第1、第2及び第3の部分のそれぞれの最小寸法が、5mm未満である又は5mmにほぼ等しいことを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【請求項18】
請求項1
4に記載のケーシング要素(1)であって、前記ケーシング要素(1)は
、中央部、ベゼル若しくは底部等の時計ケースの構成要
素、又は、リンク、スタッド若しくはバックル等の腕時計用の腕輪
を含む時計用ケーシング要素であり、あるいは、宝飾品のケーシング要素であることを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【請求項19】
請求項
14~18のいずれか一項に記載のケーシング要素(1)であって
、2つの隣接する部分間の靭性が、
対応する境界面の範囲に沿って最大で5%だけ変化することを特徴とする、ケーシング要素(1)。
【国際調査報告】