(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】二層配列に基づく電気メモリスタデバイス
(51)【国際特許分類】
H10B 63/00 20230101AFI20240214BHJP
H10N 70/20 20230101ALI20240214BHJP
【FI】
H10B63/00
H10N70/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540887
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-07-04
(86)【国際出願番号】 IB2022051532
(87)【国際公開番号】W WO2022185144
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(74)【復代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【復代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【復代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】オフライン,バート ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ブラガリア,ヴァレリア
(72)【発明者】
【氏名】ホルスト,フォルカート
(72)【発明者】
【氏名】ラ ポルタ,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ダンジェル,ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ジュビン,ダニエル
【テーマコード(参考)】
5F083
【Fターム(参考)】
5F083FZ10
5F083JA39
5F083JA40
5F083JA60
5F083KA01
5F083KA05
5F083LA12
5F083LA16
5F083PR21
(57)【要約】
電気メモリスタデバイスは、層構造を有する。層構造は、2つの電極と、前記2つの電極をつなぐ二層材料配列を備える。前記二層材料配列は、例えば、前記2つの電極と直接接触するように前記2つの電極によって挟まれてもよい。前記二層材料配列は、HfO
y層(式中、yは1.3±0.1≦y<1.9±0.1を満たす)と、前記HfO
y層と直接接触するWO
x層(式中、xは2.5±0.1≦x<2.9±0.1を満たす)を含む。この二層配列は、HfO
yとWO
xのサブストイキオメトリ層を含み、前記WO
x層は有利には単斜晶相に多結晶構造を持ち、前記HfO
y層は好ましくはアモルファスである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの電極と、
前記2つの電極をつなぎ、HfO
y層(式中、yは1.3±0.1≦y<1.9±0.1を満たす)及び前記HfO
y層と直接接触するWO
x層(式中、xは2.5±0.1≦x<2.9±0.1を満たす)を備える二層材料配列と
を備える層構造を有する電気メモリスタデバイス。
【請求項2】
前記WO
x層が、単斜晶相に多結晶構造を有する請求項1に記載の電気メモリスタデバイス。
【請求項3】
前記HfO
y層と前記WO
x層が、前記二層材料配列の平均平面に対して垂直な方向に沿って積層され、
前記WO
x層の結晶粒の平均寸法が、前記方向に沿って20nm以上であり、かつ前記二層材料配列の前記平均平面において、10nm以上である、
請求項2に記載の電気メモリスタデバイス。
【請求項4】
前記WO
x層が、10
-2ohm-cmと10
2ohm-cmの間にある電気抵抗率を有する請求項3に記載の電気メモリスタデバイス。
【請求項5】
前記HfO
y層が、アモルファスである請求項3に記載の電気メモリスタデバイス。
【請求項6】
前記2つの電極のそれぞれが、Pt、W、及びTiNのうちの1つ以上を含む請求項1に記載の電気メモリスタデバイス。
【請求項7】
前記2つの電極が、それぞれ層として形成された第1電極と第2電極を含み、
前記第1電極が前記HfO
y層と直接接触し、第2電極が前記WO
x層と直接接触しており、
前記電気メモリスタデバイスが、前記第1電極を支持する基板と、前記第2電極と電気通信する電気コンタクトと、前記第2電極を埋め込む電気絶縁層とを更に備える、
請求項1に記載の電気メモリスタデバイス。
【請求項8】
前記基板が、シリコンを含み、
前記電気メモリスタデバイスが、前記電気絶縁層及び前記HfO
y層に形成されたビアを通して、前記第1電極と電気通信する追加の電気コンタクトを更に備え、前記追加の電気コンタクトが、前記第2電極に関して前記基板に対向して延びる請求項7に記載の電気メモリスタデバイス。
【請求項9】
前記WO
x層の厚さが、10nmと100nmの間である請求項1に記載の電気メモリスタデバイス。
【請求項10】
前記HfO
y層の厚さが、3nmと10nmの間である請求項9に記載の電気メモリスタデバイス。
【請求項11】
前記2つの電極のうち1つ又はそれぞれの厚さが、10nmと100nmの間である請求項10に記載の電気メモリスタデバイス。
【請求項12】
各電気メモリスタデバイスが、2つの電極と、前記2つの電極をつなぎ、HfO
y層(式中、yは1.3±0.1≦y<1.9±0.1を満たす)及び前記HfO
y層と直接接触するWO
x層(式中、xは2.5±0.1≦x<2.9±0.1を満たす)を備える二層材料配列とを備える層構造を有する複数の電気メモリスタデバイスと、
前記複数の電気メモリスタデバイスを動作可能とするために、前記複数の電気メモリスタデバイスに接続された入力回路と、
動作時に前記複数の電気メモリスタデバイスの電気伝導度によって影響を受ける電気信号を感知するように構成され、前記複数の電気メモリスタデバイスに接続された読み出し回路と
を備える装置。
【請求項13】
複数の入力ラインと複数の出力ラインとを含むクロスバーアレイ構造を有する人工ニューラルネットワークハードウェアとして構成され、
前記クロスバーアレイ構造の前記複数の入力ラインと前記複数の出力ラインが、複数の接合点で相互接続され、各接合点が、前記複数の電気メモリスタデバイスの1つを含み、前記電気メモリスタデバイスが、前記人工ニューラルネットワークハードウェアのシナプス素子として構成される請求項12に記載の装置。
【請求項14】
基板を用意するステップと、
前記基板の上に延びて前記基板と電気接触する第1電極と、前記第1電極の上に延びて前記第1電極と電気通信するHfO
y層(式中、yは1.3±0.1≦y<1.9±0.1を満たす)と、前記HfO
y層と直接接触するWO
x層(式中、xは2.5±0.1≦x<2.9±0.1を満たす)と、前記WO
x層の上に延びて前記WO
x層と電気通信する第2電極とを得るステップと
を含む、電気メモリスタデバイスの作製方法。
【請求項15】
前記第1電極層と前記HfO
y層のそれぞれが、原子層堆積によって得られ、前記HfO
y層が、前記第1電極層を空気にさらすことなく前記第1電極層に続いて堆積される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記WO
x層が、
タングステン層を得るために真空中でタングステンをスパッタリングするステップと、
WO
3層を得るために前記タングステン層を300℃と450℃の間の温度で酸化するステップと、
WO
x層を得るために、得られたWO
3層を還元するステップと
によって得られる請求項15に記載の方法。
【請求項17】
堆積された前記タングステン層が、7nmの厚さを有し、
前記タングステン層を酸化するための温度と時間が、23nmの厚さを有するWO
3層を得るために選択される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記温度が、前記WO
3層におけるWO
3の結晶化温度である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2電極が、スパッタリングによりTiN電極として得られる請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記TiN電極をSiO
2で被覆するステップと、
スパッタ堆積により、前記TiN電極と直接接触するタングステン電気コンタクトを得るステップと
を更に含む請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、電気メモリスタデバイス(electrical memristive device)及びそのようなデバイスを含む装置、特に人工ニューラルネットワークハードウェア装置及びそのようなデバイスの作製方法の分野に関するものである。特に、本発明は、HfOy及びWOxのサブストイキオメトリ層の二層配列を備える電気メモリスタデバイスに向けられ、前記WOx層は単斜晶相に多結晶構造を有する。
【背景技術】
【0002】
機械学習は、人間又は動物の脳にある生物学的なニューラルネットワークにヒントを得た計算モデルである人工ニューラルネットワーク(ANN)を利用することが多い。ANNは、人工ニューロンと呼ばれる接続されたユニット又はノードのセットを含む。信号は、シナプスと同様に、人工ニューロン間の接続(エッジとも呼ばれる)に沿って伝達される。すなわち、信号を受け取った人工ニューロンは、その信号を処理後、接続されたニューロンに信号を送る。接続の重み(シナプスの重みとも呼ばれる)は、接続とノードに関連付けられる。各ニューロンは幾つかの入力を持つことができ、接続の重みは各入力(その特定の接続の重み)に帰着する。このような重みは、学習が進むにつれて調整される。
【0003】
多層パーセプトロン、ディープニューラルネットワーク、及び畳み込みニューラルネットワーク等のフィードフォワードニューラルネットワークに始まる、多くの種類のニューラルネットワークが知られている。更に、スパイキングニューラルネットワーク等の新しいタイプのニューラルネットワークも出現している。ニューラルネットワークは、典型的には、ソフトウェアで実行される。しかし、ニューラルネットワークは、電気信号又は光信号を処理するハードウェア(例えば、シナプス相互接続操作を行うためのクロスバーアレイ構造として)でも実行されることがある。すなわち、ハードウェアで実行されたANNは、(訓練目的もしくは推論目的又は両目的で)ANNを実行するために主に特別に設計されているという点で、古典的なコンピュータ(汎用又は特定目的のコンピュータ)とは明らかに異なる物理機械である。
【0004】
行列演算(特にバックプロパゲーションANNアルゴリズム)をメモリスタのクロスバーアレイで処理することは、ソフトウェアで実行されたANNと比較して、ハードウェアで実行されたANNの性能と効率を改善する可能性がある。シナプス素子の特性は、ハードウェアで実行されたANNの性能への鍵となっている。
【0005】
ニューロモルフィックハードウェア装置で使用されるシナプス素子は、例えば、相変化メモリ(PCM)デバイス、抵抗ランダムアクセスメモリ(RRAM)、又は磁気ランダムアクセスメモリ(SRAM)等のメモリスタデバイスを典型的には含む。メモリスタは、電流の流れを制御し、その導電状態を記憶する非線形2端子電気コンポーネントである。更に、メモリスタの抵抗は、デバイスに加えられた電気信号の履歴に依存する。また、低バイアス(V<0.3V)で読み出しを行うとき、メモリスタは、電源がなくても記憶を保持し、小さな電気信号でも状態を変化させない限り、不揮発性である。
【0006】
メモリスタデバイスは、典型的にはナノスケールのメモリデバイスとして具現化されている。このようなメモリデバイスの最近の進歩は、この技術を産業的応用にますます関連付けている。例えば、メモリスタデバイスは、ブレイン・インスパイヤード・コンピューティングやメムコンピューティング(memcomputing)等の新しいコンピューティングパラダイムを構成するブロックとして使用することができる。特に、上述のように、このようなデバイスは、抵抗処理ユニットのクロスバーアレイ構造等、ハードウェアで実行されたANNに使用することができる。しかし、必要とされる高いプログラミング電力、ノイズ、及びメモリスタの抵抗ドリフト等、克服すべき重要な課題が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1のアスペクトによれば、本発明は、層構造を有する電気メモリスタデバイス(又はメモリスタ)として具現化される。層構造は、2つの電極と、2つの電極をつなぐ二層材料配列とを備える。二層材料配列は、例えば、2つの電極によって挟まれ、2つの電極と直接接触してもよい。二層材料配列は、HfOy層(式中、yは1.3±0.1≦y<1.9±0.1を満たす)と、HfOy層と直接接触するWOx層(式中、xは2.5±0.1≦x<2.9±0.1を満たす)を含む。すなわち、HfOy層とWOx層の二層配列は、HfO2とWO3のサブストイキオメトリ層を含み、メモリスタの特性にたまたま有利な影響を与える。
【0008】
好ましい実施形態では、WOx層は単斜晶相の多結晶構造を有し、WOx層の結晶粒(grain、グレイン)の平均寸法は、二層材料配列の平均平面で10nm以上であり、垂直方向で20nm以上である。HfOy層は、好ましくはアモルファスである。
【0009】
別のアスペクトによれば、本発明は、上述のような複数の電気メモリスタデバイスを含む装置として具現化される。装置は、動作時に、複数の電気メモリスタデバイスを動作できるように、複数の電気メモリスタデバイスに接続された入力回路を更に含む。装置は、読み出し回路を更に含み、この読み出し回路は、複数の電気メモリスタデバイスに接続されている。読み出し回路は、動作中に、複数の電気メモリスタデバイスの電気伝導度(電気コンダクタンス)によって影響を受ける電気信号を感知するように構成される。
【0010】
装置は、好ましくは、人工ニューラルネットワークハードウェアとして構成され、複数の電気メモリスタデバイスは、シナプス素子として機能する。装置は、複数の入力ラインと複数の出力ラインとを有するクロスバーアレイ構造を含み、複数の入力ラインと複数の出力ラインは複数の接合点で相互接続され、各々が複数の電気メモリスタデバイスの1つを含む。
【0011】
最後のアスペクトによれば、本発明は、電気メモリスタデバイスを作製する方法として具現化される。この方法は、基板を用意するステップと、前記基板の上に延びて前記基板と電気的に接触する第1電極と、前記第1電極の上に延びて前記第1電極と電気通信するHfOy層と、前記HfOy層と直接接触するWOx層と、前記WOx層の上に延びて前記WOx層と電気通信する第2電極とを連続して得るステップを含む。本発明の第1のアスペクトと同様に、x及びyは、2.5±0.1≦x<2.9±0.1及び1.3±0.1≦y<1.9±0.1を満たす。
【0012】
好ましくは、第1電極層及びHfOy層のそれぞれは、原子層堆積によって得られる。HfOy層は、第1電極層を空気にさらすことなく、第1電極層に続いて堆積される。また、WOx層は、好ましくは、タングステン層を得るために真空中でタングステンをスパッタリングするステップと、WO3層を得るために300℃と450℃の間の温度で前記タングステン層を酸化するステップと、WOx層を得るために、得られたWO3を還元するステップとにより得られる。
【0013】
本発明のこれら及び他の目的、特徴及び利点は、添付の図面と関連して読まれる、本発明の例示的な実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。図解は、当業者が詳細な説明と関連して本発明を理解するのを容易にするために、明確にするためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る、縦型配置の2端子電気メモリスタデバイスの2次元断面図である。
【
図2】
図2は、第2の実施形態に係る、平面配置の2端子電気メモリスタデバイスの2次元断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態における、
図1に示すようなデバイスを含む接合点を持つクロスバーアレイ構造を有する人工ニューラルネットワークハードウェアとして構成された装置のコンポーネントの立体図である。
【
図4】
図4は、実施形態における、電気メモリスタデバイスの高レベルな作製ステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付の図面は、実施形態に関わるデバイス及び装置、又はその一部を簡略化して示したものである。図面に描かれた技術的特徴は、必ずしも縮尺通りではない。図中の類似又は機能的に類似な要素には、特に断りのない限り、同じ数字が割り当てられている。
【0016】
次に、本発明を具現化したデバイス、装置及び作製方法を、非限定的な例によって説明する。
【0017】
本作製方法及びその変形を総称して「本方法」と称する。すべての参照Snは、
図4のフローチャートの作製ステップを指し、参照数字は、
図1~3に示すようなデバイス又は装置の物理的な部品又はコンポーネントに関係する。
【0018】
図1及び
図2を参照して、電気メモリスタデバイス1、2、又はメモリスタに関する本発明のアスペクトを最初に説明する。基本的に、デバイス1、2は、層構造、すなわち、材料のナノスケール層の積層を有する。積層は、特に、層又は層部分として形成される2つの電極11、12を含む。また、層構造は、2つの電極を電気的につなぐ二層材料配列を含む。二層配列は、HfO
y層14とWO
x層15を含み、WO
x層15はHfO
y層14と直接に接触している。重要なのは、HfO
y層とWO
x層のそれぞれが、サブストイキオメトリ層であることである。
【0019】
すなわち、yは1.3±0.1≦y<1.9±0.1であり、xは2.5±0.1≦x<2.9±0.1である。例えば、二層配列は、yとxが1.5±0.1≦y<1.7±0.1及び2.6±0.1≦x<2.8±0.1である層を含み得る。精度である0.1は、最後の桁で与えられる。換言すれば、xは厳密に3より小さく、yは厳密に2より小さい、すなわち、層の予想されるストイキオメトリに対応する値である。
【0020】
エネルギー分散型X線分光法(EDX)分析及び透過型電子顕微鏡(TEM)分析により補完されたX線光電子分光法は、サブストイキオメトリ(x<2.9±0.1及びy<1.9±0.1)の程度を特徴付けるために使用できる。本発明者らが実現したように、得られたデバイスは、特に、メモリとして、又はハードウェアで実行された人工ニューラルネットワーク(ANN)のシナプス要素として使用するために、顕著に改善された特性を有するようである。特に、上記のようなサブストイキオメトリWOx/HfOy二層配列に基づくメモリスタデバイスは、アナログ抵抗変化、ノイズ、又はSET動作の抑制された偶然性に関して、改善された性能が得られることを可能にする。
【0021】
このような改良の実際の理由は、一部不明なままである。物理的なメカニズムは、WOx層15と、HfOy層14に形成された導電性フィラメントとの間の酸素交換に関係している。界面の酸素交換、結晶粒界を通るドリフト、欠陥、及びWOx層における価数変化に関係する、複雑な現象が働いている。WOx層は良好なイオン導電体として機能し、適切な不揮発性抵抗性スイッチング特性を有する。
【0022】
積層は、本発明の別のアスペクトを参照して後述するように、原子層堆積、スパッタリング、及び急速熱酸化アニールを用いてかなり容易に作製することができる。
【0023】
本発明のメモリスタデバイスは、特に抵抗変化型メモリ(RRAM)デバイスとして使用することができる。典型的なTi/HfO2 RRAMデバイスと比較して、本デバイスは、高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)との間のより緩やかな移動を生じる。また、本デバイス1、2は、プログラミング信号(例えば、電圧バイアスのパルス)の印加により、より調整可能な状態(HRS及びLRS)を生じる。更に、異なるプログラム状態において、大きなドリフトは観察されない(0.2%未満)。
【0024】
このようなデバイスの動作は、非常にシンプルである。本デバイスは、ハードウェアへの統合に従順である。特に、本デバイス1、2は、クロスバーアレイ構造におけるシナプス要素の重みを記憶及び修正するために、ニューロモルフィック回路におけるシナプス要素として有利に使用することができる。
【0025】
このすべてを、次に、本発明の特定の実施形態を参照しながら、詳細に説明する。まず始めに、WOx層15は、好ましくは、単斜晶相に多結晶構造を有する。このような多結晶配列は、TEM分析により確認された。多結晶構造は、結晶粒界(grain boundary)を生じる。そのような結晶粒(grain)、及びその寸法は、現在のところ、本デバイスの特性に重要な役割を果たす(かつ有利に寄与する)と考えられている。
【0026】
図1及び
図2に見られるように、HfO
y層14及びWO
x層15は、積層方向z、すなわち二層材料配列の平均平面に垂直な方向に沿って積層される。好ましい実施形態では、多結晶WO
x層15は、WO
x層15の結晶粒の平均寸法が、前記積層方向に沿って20nm以上であり、かつ二層材料配列の平均平面において10nm以上であるように処理される。結晶粒径は、例えば、TEM画像から容易に測定することができる。スケール(TEM画像に組み込まれている)は、結晶粒径を測定するために使用できる。同じことを幾つかのTEM画像について繰り返すことができる(TEMは局所的な特性評価技術である)。
【0027】
上記のような多結晶材料15は、WOx層15が、10-2Ω・cmと102Ω・cmとの間である電気抵抗率ρを有することを可能にする。すなわち、この層の抵抗率は、最大4桁まで変化することができ、これは、後述する用途におけるように、HRSとLRSとの間でデバイスを切り替えるのに適切である。抵抗率は、ホール測定から、例えばvan der Pauw法を用いて測定できることに留意されたい。
【0028】
多結晶構造を有するWOx層15とは対照的に、HfOy層14は、好ましくはアモルファスであるように作製される。これは、X線回折分析によって確認され、X線スペクトルは、いかなる実質的な回折ピークも示さない。また、その場合のTEM画像には、結晶粒は確認できない。アモルファスHfOy層14に頼ることは、安定性と耐久性の両方に関して、デバイス1、2の性能に有利な影響を与えるようである。変形例では、結晶性HfO層を使用することができるが、入手がより困難であると考えられる。
【0029】
実施形態では、電極11、12は、不活性金属で作られている。そのような電極は、好ましくは、
図1及び
図2で想定されるように、層又は層部分として形成される。例えば、2つの電極11、12の各々は、Pt、W及びTiN等の1種以上の金属を含むか、又は実質的に構成されていてもよい。不活性金属は、アルミニウム等の金属とは反対に、化学的に活性でない金属を指す。
【0030】
図1及び
図2に示すデバイス1、2の各々は、2つの電極11、12を含み、第1電極11は層として形成され、第2電極12は層部分として形成される。2つの電極のそれぞれは、その対向する側で、二層配列に直接接触している。第1電極11は、HfO
y層14に(HfO
y層14の下方で)直接接触しており、第2電極12は、WO
x層15に(WO
x層15の上方で)直接接触している。すなわち、電極層14、15は、二層配列14、15を挟んでいる。
【0031】
図1及び
図2に示すデバイス1、2は、第1電極11を支持する基板10、10aを更に備える。基板10、10aは、デバイス1、2に機械的安定性を与え、更にデバイス1を(
図1で想定されるように、電極層11を介して)接地する役割を果たすことができる。デバイス1、2は、第2電極12と電気通信する電気コンタクト16を更に含む。
図1及び
図2の例では、電気コンタクト16は、電極12の上にパターン形成されている。更に、電気絶縁層17が第2電極12を埋め込んでいる。
【0032】
例えば、2つの電極11、12の各々は、非常に反応性の高い材料であるTiNを含んでもよい。しかし、これらの電極11、12は、当該電極を覆い又は埋め込む隣接材料によって保護されている。すなわち、第1電極11は、片側が基板10(
図1)又は絶縁層18(
図2)によって被覆され、反対側がHfO
y層14によって被覆されている。同様に、第2電極12は、片側がWO
x層15によって、反対側が上部電気コンタクト16及び絶縁材料17によって被覆されている(
図1及び
図2)。
【0033】
電気絶縁層17、18は、
図4のフローで想定したように、典型的には、SiO
2を含み、又はSiO
2からなる。電気コンタクト16(上側)は、上部電極12の望ましくない酸化を防止するため上部電極12を部分的に被覆し、上部電極12は、そうでなければSiO
2層17に埋め込まれている。変形例では、電気絶縁層17、18は、SiN等の別の材料を含んでもよい。
【0034】
基板10は、例えば、(
図1で想定されるように)高濃度ドープシリコンを含んでもよく、その場合、第2電極への電気的接触が、ドープシリコン基板を介して確保され得るようにする。印加された電気信号は、上部電気コンタクト16(例えば、タングステン製)から基板10に流れる。電気伝導度値は、デバイスの出力で(電極12と基板10を介して)読み取ることができる。
【0035】
変形例では、デバイスは、
図2に示されるように、平面デバイス2として構成されてもよい。この場合、基板10aは、シリコンを含むか、又は実質的にシリコンで構成されてもよい。しかし、追加の絶縁層18が、例えば、基板10aを酸化することによって、基板10aの上に提供される。
図1のように、電気コンタクト16は、第2電極12(例えば、TiN)の上にパターン形成され、第2電極12は、そうでなければSiO
217に埋められる。デバイス2は、更に追加の電気コンタクト19を備え、第1電極11との電気通信を確実にする。電気コンタクト19が第1電極11に到達するように、電気絶縁層17及びHfO
y層14を貫通してビアが形成される。コンタクト19は、そうでなければ、上から接触するように、第2電極12に関して、基板10に対向して延びる。
【0036】
本デバイス1、2は、典型的には、ナノスケールデバイスとして作製される。WOx層15の厚さは、好ましくは、10nmと100nmとの間である。好ましい実施形態では、HfOy層14の厚さは3nmと10nmとの間であり、2つの電極11、12の各々の厚さは好ましくは10nmと100nmとの間である。それでも、電極層11、12の1つ又は各々は、より厚くすることができ、これは、使用される作製プロセス及び意図される用途に依存する。層11、層12、層14、層15の厚さは、添付の図面において、積層方向zに沿って測定される。デバイスの横方向寸法は、典型的には20nmより大きく、横方向寸法は、添付図面において(x、y)平面に平行な方向で測定される。上記の厚さは、EDXによって決定され、TEM分析及びX線反射率測定によって確認されている。このような寸法は、以下に説明するような装置に容易に組み込むことが可能である。
【0037】
次に、
図4のフローチャートを参照して、上述したような電気メモリスタデバイス1、2の作製方法に関する、本発明の別のアスペクトを説明する。
【0038】
まず、基板10、10aを用意する、ステップS10。次に、以下に説明するように、各種層11、14、15、12を連続して得るS20~S50。
【0039】
第1電極11が、例えば、層として得られ、基板10、10aと電気的に接触して基板10、10aの上に延びる(ステップS20)。この層11は、
図1において想定されるように、場合により基板10と直接接触していてもよい。そうでなければ、
図2のように、中間酸化物層18を基板10a上に形成してもよい(ステップS15)。
【0040】
次に、第1電極11の上に延び、第1電極11と電気通信している、HfO
y層14が得られる。先に述べたように、yは、1.3±0.1≦y<1.9±0.1を満たす。HfO
y層14は、好ましくは、電極11と直接接触している。次に、WO
x層15(式中、xは2.5±0.1≦x<2.9±0.1を満たす)を得る。層15は、先に喚起されたような酸素交換を可能にするために、HfO
y層14と直接接触しなければならない。続いて、第2電極12が、例えば、層部分として形成される。第2電極12がWO
x層15と電気通信するように、電極12は、WO
x層15の上に延びる。WO
x層15は、
図1及び
図2において想定されるように、通常、電極12と直接接触している。
【0041】
好ましい実施形態では、第1電極層11及びHfOy層14の各々は、原子層堆積(ALD)によってS20及びS30において得られる。HfOy層は、第1電極層11に続いて、例えば直後に、第1電極層11を空気にさらすことなく、S30において堆積される。その目的は、先に述べたように、好ましくはTiNを含む第1電極11の酸化を防止することである。得られたHfOy層14は、通常、アモルファスで準絶縁性(quasi-insulating)であり、すなわち、どのような印加(ゼロでない)電圧バイアスに対しても、小さな漏れ電流が層全体に発生する。
【0042】
WOx層15は、好ましくは、後述する3つのステップのプロセスS42~S46を経て得られる。まず、タングステンを真空中でスパッタリングし(ステップS42)、その結果、タングステン層を形成する。次に、タングステン層は、少なくとも300℃の温度で酸化される(ステップS44)。その結果、WO3層となる。例えば、特に好ましい実施形態では、ステップS42は、7nmの厚さを有するタングステン層を達成するように実行される。その後、S44においてタングステン層を酸化するための温度と時間は、23nmの厚さを有するWO3層を得るように選択される。ステップS44の完了時に得られたWO3層は、その後還元されて(ステップS46)、WOx層15(式中、xはx<3を満たす)を得る。
【0043】
酸化ステップS44は、通常、O2の雰囲気下、オーブン内で、制御された温度で、制御された時間内で実現される。その後の還元S46は、同じオーブン内で実現できる。WO3層は、好ましくは、Ar(又はN)及びH2を含むガス中で還元S46される。このプロセスは、先に述べたような結晶粒の平均寸法にて、単斜晶相の多結晶WOx層を得るように制御できる。この目的のために、多結晶の単斜晶のWO3層を得るように、ステップS44を実行する温度をWO3層の結晶化温度として選択できる。このような結晶化温度は、膜厚及びアニール時間の長さに依存して、典型的には300℃と600℃との間である。しかし、本文脈で適用される温度は、プロセスがCMOS互換性を保つように、好ましくは300℃と450℃との間である。変形例では、WOx層は、ALD又は他の既知の堆積技術によって得ることができる。
【0044】
第1電極と同様に、第2電極12は、例えば、TiN電極(又は別の不活性金属)としてS50において得ることができ、これは、最も好都合には、スパッタリングによって達成される。そして、これも先に述べたように、TiN電極は、好ましくは、絶縁材料17、例えばSiO2で、S60において被覆(clad)される。必要であれば、次に、電気コンタクト16の挿入を可能にするように、絶縁材料17にトレンチを開けることができ、電気コンタクト16が上部電極12に到達する。この電気コンタクト16は、ステップS70においてスパッタ堆積により得られ、TiN電極に直接接触する。このコンタクト16は、必要に応じて、標準的な加工技術を使用して更にパターン形成することができる。
【0045】
本作製方法の上記実施形態を簡潔に説明した。すなわち、高レベルの作製ステップのみが記載されている。しかしながら、上記のステップは、当該技術分野における通常のように、層を正確に構造化するために、通常のリソグラフィステップによって補完される必要があるかもしれない。
【0046】
好ましい作製フローを
図4に示す。まず、高濃度ドープ(n-ドープ)シリコン基板10を用意する(ステップS10)。次に、ALDプロセスを使用して、第1TiN電極11を堆積し(ステップS20)、次にHfO
y層14を堆積する(ステップS30)。HfO
y層は、その酸化を防ぐために、TiNを空気に触れさせることなく、TiN電極を堆積した直後に堆積する。次に、7nmのタングステン層を、真空中(酸素は存在すべきでない)でスパッタリングして得る(S42)。次に、タングステン層を高温(すなわち、300℃と450℃との間、例えば、いまだにCMOS互換である350℃)で酸化する(S44)。ステップS44で使用する時間と温度を適切に制御することにより、タングステン層は、23nmの厚さのWO
3の層に変化する。前述のように、酸化S44は、好ましくは、WO
3層の結晶化温度で行われ、多結晶の単斜晶WO
3を得る。この層は、その後、Ar+H
2のガス中で還元され、先に述べたような結晶粒径を有するサブストイキオメトリWO
x層を得る(S46)。次に、WO
x層15の上にスパッタリングにより第2TiN電極12を得る(S50)。次に、電極12は、ステップS60で、SiO
2被覆材(cladding)17に埋め込まれる。絶縁層17は、例えば、プラズマエンハンスド化学気相成長(PECVD)により得ることができる。その後、被覆材17は、必要に応じて、例えば、物理的研磨もしくは化学的研磨又は両研磨によって、更に処理してもよい。前記したように、SiO
2の代わりにSiNを使用することができる。必要であれば、トレンチを更に開けてもよい。続いて、タングステンの上部電気コンタクト16のスパッタ堆積が行われる(S70)。上部電気コンタクト16は、適切な電気コンタクトパッド16を得るために、必要に応じて、更にパターン形成されてもよい。
【0047】
平面デバイス2(例えば
図2に示されたもの)の作製プロセスは、
図1に示す垂直デバイス1の作製に使用されるプロセスと実質的に類似しているが、
図4において点線枠で示すように、追加のステップS15、S80、S90が必要である。すなわち、シリコン基板10aを用いるS10を開始し、S15において、シリコン基板10aを酸化して、シリコン基板10aの上にSiO
2層18を得る。最終的には、S80において、HfO
y層14とその下のSiO
2層18にビアを開け、下部電極11を上からアクセスできるようにする。最後に、ステップS90において、追加の電気コンタクト19(例えば、タングステンの)のスパッタ堆積が行われる。第1コンタクト16と同様に、第2コンタクト19は、デバイス2を接続するための適切なコンタクトパッドを得るために、更に処理してもよい。
【0048】
このような作製プロセスは、後述するような装置を作製するプロセスに容易に挿入することができる。
【0049】
次に、
図3を参照して、本発明の最後のアスペクトを説明するが、これは、装置100に関する。この装置は、上述したような複数の電気メモリスタデバイス1、2を備える。また、本装置は、入力回路150を更に含み、入力回路150は、動作時に、電気メモリスタデバイス1、2を動作できるように、適切な電気コネクタ155を介して電気メモリスタデバイス1、2に接続される。更に、本装置は、その出力において、同じくデバイス1、2に接続される、読み出し回路160を更に含む。読み出し回路は、デバイス1、2からの電気信号を感知するように構成される。動作時に、そのような信号は、電気的メモリスタデバイス1、2の現在の電気伝導度によって影響を受ける。一般に、このような装置100は、メモリとして使用できる。
【0050】
コントローラ170(すなわち、プログラミング回路)及び処理装置(図示せず)のような更なるコンポーネントが、後に明らかになる理由により、必要とされ得る。
図3において、入力回路150、読み出し回路160、及びコントローラ170は、典型的には、電気伝導体155及び165によって形成される接続構造とともに、同じ処理コアの一部を形成することを意味することに留意されたい。しかしながら、変形例では、コンポーネント150、160、及び170は、例えば、別々のチップ上に提供され得る。
【0051】
実施形態では、装置100は、
図3に想定されるように、ANNハードウェアとして構成される。装置100は、入力ライン155及び出力ライン165を含むクロスバーアレイ構造を有する。入力ライン155と出力ライン165は、通常のように、接合点で相互接続される。しかしながら、本実施例では、各接合点は、先に説明したような電気メモリスタデバイス1を含む。電気メモリスタデバイス1は、このように、ANNハードウェアのシナプス要素として構成される。電気メモリスタデバイスは、好ましくは、入力ラインと出力ラインとの間の接続を容易にするために、(
図1に示すように)垂直な構成を有する。
【0052】
図3に示されるような装置100の動作は、それ自体既知である。シナプス更新機能は、
図3に描かれているようなANNハードウェアを訓練する際に最も要求の厳しいタスクであり、性能の良いシナプス素子を必要とする。本明細書でも提案されているように、特に不揮発性の抵抗変化を通してシナプスの動作をエミュレートするために、数多くの電子デバイスのコンセプトが提案されている。ナノメートルの厚さのHfO
y層のフィラメント伝導に基づくシナプスデバイスは、シナプスの重みを表現する有望な候補である。このようなRRAMデバイスをクロスバーアレイに配置することは、各層が多数のニューロンを含む可能性のあるANN層間で、アナログのシナプス信号処理を可能にする。HfO
yをベースとしたRRAMデバイスは、CMOS互換性があり、緩やかな抵抗変化、デバイスの安定性と信頼性、消費電力、及び拡張性に関して優れた可能性を有する。特に、緩やかな抵抗変化の厳密な制御が、RRAMのコンダクタンスの微細な制御と信頼性の高い変化を実現するために不可欠である。
【0053】
Ti/HfO2 RRAMデバイスでは、例えば、Ti膜がHfO2層の酸素捕捉層として機能する。フィラメント形成後、界面酸化還元反応は、外部からの電気刺激によって正確に制御することが難しく、その結果、HRSとLRSに特徴的な突然のプログラミングが発生する。Ti/HfO2システムの典型的なDCセット/リセット動作は、LRSとHRSとの間の突然の移動を示す。本明細書で提案するように、HfOy<2膜(HfO2層の代わりに)と酸素交換層として機能する、適切に設計された薄いWOx膜で、Ti層を置き換えることにより、著しい改善を得ることができる。WOx結晶マトリックスは、良好なイオン伝導体として作用し、適切で不揮発性の抵抗スイッチング特性を示す。Ti/HfO2 RRAMと比較して、WOx/HfOy積層に基づくRRAMは、HRSからLRSへの移動がより緩やかで、プログラミング電圧パルスの適用によりHRS及びLRSがより調整可能であることがわかる。更に、異なるプログラム状態において、大きなドリフトは観察されない(0.2%未満)。
【0054】
図3の例では、N本の入力ライン155とM本の出力ライン165によって、クロスバーアレイ構造が形成されている。この例では、描写の都合上、5本の入力ラインと5本の出力ラインのみが描かれている。しかし、実際には、数百(又は数千)の入力ラインが関与するであろう。同様に、数百(又は数千)本の出力ラインが使用されるであろう。ある用途では、NがMと異なることを要求してもよい。入力ラインと出力ラインは、接合点において、N×M個の電子デバイスを介して相互接続されており、これらの電子デバイスは、それぞれ、前述のようなメモリスタデバイス1を含む。
【0055】
コントローラ170は、有利には、アナログ回路であってよい。コントローラは、デバイス1が、値を記憶するために、又はより正確には、そのような値として解釈可能な特性(例えば、電気伝導度)を有するために、入力回路150を介して、デバイス1をプログラムするために使用される。デバイス1は、それに応じて、シナプスの重みを記憶するようにプログラムされ得る。コントローラ170は、入力ライン155に入力信号を結合する(例えば、電圧バイアスを印加する)ために、入力回路150を場合によっては備えてもよい。変形例では、
図3で想定されるように、入力信号を入力ライン155に結合するために、別個のアナログ回路150(コントローラ170とは異なる)が使用されてもよい。
【0056】
読み出し回路160は、装置1の出力において、M個の出力ライン165から得られるM個の出力信号(例えば、電流)を読み出すように構成される。読み出しは、典型的には、入力ライン155の各々に結合された信号(例えば、電流)を考慮する、乗累算(multiply-accumulate)演算に従って行われる。実行される乗累算演算に従って、デバイス1の各々に記憶された値が読み出しに影響を与える。乗累算演算は、典型的には、入力ラインに結合された信号が、接合点においてデバイス1上に記憶された値によってそれぞれ乗算されるという結果をもたらす。
【0057】
図3に示すアーキテクチャは、多層ネットワークではなく、ANNのノードの単層に対応するものであることに留意されたい。このアーキテクチャは、原理的には、場合によって拡張(又は積み重ね)することができ、幾つかの接続された層を実現する(したがって、多層ネットワークを表現することができる)。すなわち、
図3に示すような幾つかのクロスバーアレイ構造が、コアからコア(core to core)通信バスを介して場合によっては相互接続されてもよい。変形例では、同じANNハードウェアが、各ANN層をエミュレートするために使用される。それでも、クロスバーアレイ構造は、例えばデジタル処理装置を含むプロセッサに接続することができ、必要な層操作を連続的に実行するために必要なすべての情報を受け渡す。回路150~170のそれぞれ又はいずれかは、信号を翻訳するために適切な変換器が提供されると仮定して、デジタル処理ユニットとして場合によっては具現化されてもよいことに留意されたい。しかし、効率上の理由から、アナログ回路に依存することが好ましい。
【0058】
デバイス1に記録された重みは、推論目的では一定であるが(デバイス1の安定性から恩恵を受ける)、学習目的では反復的に再プログラムする必要があり、そのため、例えばバックプロパゲーションアルゴリズムによって達成される更新が必要となる。重みの更新の計算は、通常、外部の処理装置によって実行される。クロスバーアレイ構造(複数可)は、大きなベクトル・行列の乗算を伴う基本的な演算(すなわち、フォワード評価のための行列ベクトル積、バックワード評価のための転置行列と誤差勾配(error gradient)ベクトルの積、及び重み更新のためのベクトル外積)をすべて実行するために使用される。学習段階の間、コントローラ(例えば、アナログ回路)170は、選択された学習アルゴリズムに従ってデバイス1に記憶されたシナプス重みを変更するために、デバイス1を再プログラムするために使用される。
図3に示すような構造体100は、学習と推論の両方の目的で機能することができる。
【0059】
完全性のために、そしてニューラルネットワークを超えて、我々は、
図3に示されるようなクロスバーアレイ構造も、決定木演算を捕捉する行列演算を実行するために使用され得ることに注目する。より一般的には、本デバイス1、2は、様々な用途においてメモリ素子又は電子コンポーネントとして使用できる。特に、このようなデバイスは、回路を含むシリコンCMOSウェハ上に場合によっては共集積されてもよい。
【0060】
本発明は、限られた数の実施形態、変形例及び添付の図面を参照して説明されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされ、同等物が代替され得ることは、当業者には理解されよう。特に、所定の実施形態、変形例、又は図面に記載された特徴(装置等又は方法等)は、本発明の範囲から逸脱することなく、別の実施形態、変形例、又は図面の別の特徴と組み合わせることができ、又は置き換えることができる。したがって、添付の特許請求の範囲の範囲内にとどまる、上記の実施形態又は変形例のいずれかに関して記載された特徴の様々な組み合わせが、想定され得る。また、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために、その範囲から逸脱することなく、多くの小さな修正を行うことができる。それ故、本発明は開示された特定の実施形態に限定されるのではなく、本発明が添付の請求項の範囲に入るすべての実施形態を含むことが意図される。また、上記で明示的に触れた以外の多くの他の変形例が想定され得る。例えば、特に、基板、電極、及び絶縁(誘電)層については、本明細書で明示的に触れた以外の材料が想定され得る。
【国際調査報告】