IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メムジェット テクノロジー リミテッドの特許一覧

特表2024-507691ゴースティングアーチファクトを最小化するためのインクジェットインク
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ゴースティングアーチファクトを最小化するためのインクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20240214BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545965
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 EP2022054152
(87)【国際公開番号】W WO2022184478
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】63/156,546
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522074028
【氏名又は名称】メムジェット テクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】プラシャール,ジョグナンダン
【テーマコード(参考)】
2C056
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056FA03
2C056FC01
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE28
4J039BE30
4J039CA03
4J039CA06
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
インクジェットインクが、インクビヒクルと;ポリマーと;5~10の範囲内のHLB値を有するエトキシル化アセチレン系非イオン界面活性剤を含有する界面活性剤パッケージと;ABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物と、を含む。該インクは、26~31mN/mの範囲内の表面張力を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクビヒクルと;
ポリマーと;
5~10の範囲内のHLB値を有するエトキシル化アセチレン系非イオン界面活性剤を含む界面活性剤パッケージと;
式(I):
(式中、
aは、1、2、3、4又は5であり;
及びRは、それぞれ独立して、式(II):
の部分であり;
pは、1、2、3、4又は5であり;
qは、0~200であり;
rは、0~200であり;
q+rは、1より大きい)のABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物と、
を含む、インクジェットインクであって、
前記インクの表面張力が、26~31mN/mの範囲内である、インクジェットインク。
【請求項2】
前記エトキシル化アセチレン系非イオン界面活性剤と、前記式(I)のABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物と、の合計量が、少なくとも1wt%である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
さらに両性イオン化合物を含む、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記両性イオン化合物が、グリシンである、請求項3に記載のインクジェット。
【請求項5】
前記ポリマーが、スチレン-アクリル系ポリマーを含む、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
前記エトキシル化アセチレン系非イオン界面活性剤が、7~9の範囲内のHLB値を有する、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項7】
前記界面活性剤パッケージが、さらにポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル界面活性剤を含む、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項8】
前記界面活性剤パッケージが、陰イオン界面活性剤を含む、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項9】
前記インクビヒクルが、水と、1種又は複数の共溶媒と、を含む、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項10】
前記インクビヒクルが、グリコールエーテル、1,2-アルキルジオール、トリエチレングリコール及びグリセロールからなる群から選択される1種又は複数の共溶媒を含む、請求項9に記載のインクジェット。
【請求項11】
さらに顔料を含む、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項12】
インクジェットノズルデバイス内の抵抗発熱体のコゲーションを最小化する方法であって、前記方法が、
請求項1に記載のインクジェットインクを前記インクジェットノズルデバイスに供給すること、及び
前記発熱体を作動させること、
を含み、
前記界面活性剤パッケージと前記式(I)の化合物とが一緒になって、金属酸化物表面のポリマーのコゲーションを最小化する、方法。
【請求項13】
前記発熱体が、前記インクと接触した金属酸化物表面を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
複数のインクジェットノズルデバイスを有するプリントヘッドと、
前記プリントヘッドと流体連通したインクリザーバと、
を含む、インクジェットプリンタであって、
前記インクリザーバが、請求項1に記載のインクを含有する、インクジェットプリンタ。
【請求項15】
各インクジェットノズルデバイスが、金属酸化物表面を有する抵抗発熱体を含む、請求項14に記載のインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクに関する。それは、主としてサーマルインクジェットプリントヘッドにおけるコゲーション、特に新しいプリントヘッドの最初のバーニング期間に画像強度の低減をもたらすコゲーションを最小化するために、開発されている。
【背景技術】
【0002】
本出願者は、媒体幅全体に広がる固定Memjet(登録商標)プリントヘッドを用いた多数の高速インクジェット式プリンタを開発している。対照的に、ほとんどの他のタイプのインクジェット式プリンタは、媒体幅を横断するスキャニングプリントヘッドを使用する。
【0003】
高速ページワイド印刷では必然的に、伝統的タイプのインクジェットプリントヘッドに比較してプリントヘッドの設計に更なる要件が求められる。ノズルデバイスは、自己冷却設計と、高いインク補充速度と、高い熱効率と、を有さなければならない。この目的のために、本出願者は、吊下げ式の抵抗発熱体を有するプリントヘッド(例えば、内容が参照により本明細書に援用される米国特許第6,755,509号;米国特許第7,246,886号;米国特許第7,401,910号;及び米国特許第7,658,977号各明細書に記載)及び埋込型(「結合型」)抵抗発熱体を有するプリントヘッド(例えば、内容が参照により本明細書に援用される米国特許第7,377,623;米国特許第7,431,431号;米国特許第9,950,527号;米国特許第9,283,756号及び米国特許第9,994,017号各明細書に記載)などの様々なサーマルバブル形成プリントヘッドを開発した。
【0004】
インクジェットインクは、プリントヘッドの有効期間、ノズル脱水、ノズル補充速度、乾燥時間、印刷品質、及び印刷耐久性などの複数の異なる性能特徴を制御するために特性のバランスを必要とする。過去30年ほどにわたり、インク配合分野の化学者は、インク性能を調整するために配合「レバー」の能力を開発した。例えば、顔料分散体、共溶媒、界面活性剤及び他のインク添加剤の変化が、インク性能を制御するために用いられてもよい。しかし、インク配合物の変化を介して1つの性能特徴を改善する試みは、別の性能特徴への有害作用を有する場合が多い。それゆえインク配合の目標は、所与の利用例に許容できる特性バランスを有するインクを提供することである。
【0005】
サーマルインクジェットノズルデバイスは、特にインク特性への要件を設けている。非常に高い温度及び圧力を発生するMEMSノズルチャンバ内部の過酷な環境は、インクに高度の要件を求める。ポリマー分散剤を含有する顔料系インクの場合、インクと抵抗発熱体との相互作用が、典型的にはコゲーション-発熱体への顔料及び/又はポリマー粒子の付着を説明する用語-を引き起こす。コゲーションの度合い、及びその結果である印刷品質の変化は、インク配合と発熱体の表面特性の両方による影響を受ける。コゲーションは、典型的にはインクに移動するエネルギーを小さくして、液滴吐出速度の低減(当該技術分野では「ディセル」として知られることもある)及び/又は液滴容量の減少を生じ、典型的には印刷画像においてより低い画像強度(L値により測定)という形で現れる。
【0006】
コゲーションは、永久的-つまりプリントヘッドの有効期間に徐々に蓄積する場合があり、一時的-つまり印刷時に発熱体に一過性に付着し、その後、印刷作業の間にリセットする場合があり、又は半永久的-つまりプリントヘッド内の全てのインクジェットノズルが相対的に安定した液滴吐出特性を有するようになるまで、プリントヘッドの最初の「バーニング」期間に付着及び再分散する場合がある。典型的には3タイプ全てのコゲーションが、ある程度は、任意の所与の印刷作業でのプリントヘッドの性能に作用し、影響を及ぼす。
【0007】
本明細書で用いられる用語「ゴースティング」又は「ゴースティングアーチファクト」は、プリントヘッドの最初のバーニング期間(典型的には100万~5000万回吐出)により低いL値を呈するタイプの半永久的コゲーションを記載するために用いられる。印刷画像のいわゆるゴースティングアーチファクトの程度は、新しいプリントヘッドではノズル使用に依存する。1セットのみのノズルが、最初の期間に用いられるならば(例えば、実線の水平線を印刷する場合)、そのノズルセットは、未使用のノズルより相対的に多くのコゲーションを有する傾向がある。したがって、次にコントーン画像が、プリントヘッドの全てのノズルを利用して印刷される場合、相対的により多くのコゲーションを有する最初に用いられたノズルセットは、最初に未使用であったノズルよりも、印刷されたコントーン画像でより低いL値を呈する(より低い液滴容量のため)。これは、最初に用いられたノズルの「ゴースト」が印刷されたコントーン画像でより低いL値(即ち、より低い画像強度)として可視になる「ゴースティング」アーチファクトという形で現れる。奇妙なことに、この傾向は、経時的に逆転し、最初に用いられたノズルセットは、ある程度回復し(おそらく、半永久的コゲートの少なくとも一部の再分散を介して)、最初に未使用だったノズルは、バーニング期間を経る。数100万回の吐出(例えば、100万~5000万回の吐出)の後、プリントヘッド内の全てのノズルは通常、相対的に一定した液滴容量及びL値を有する安定した状態に達する。プリントヘッド内の全てのノズルはその後、典型的には数10億回の液滴吐出の有効期間にわたり一定して作動する。
【0008】
上述のこと、及びインクの特徴により、コゲーションは、発熱体の表面特性による影響を受ける場合もある。例えば発熱体表面の微視的表面混入物が、コゲーション性付着の原因として作用する場合がある。内容が参照により本明細書に援用される2020年6月1日出願の米国特許出願第16/889,734号明細書は、微視的無機混入物からのMEMS構造の混入を最小化するウエハ取扱い工程を記載している。
【0009】
ウエハ取扱い工程の改善は、いわゆる「ゴースティング」アーチファクトの軽減を支援し得るが、インク配合の改善をとおしてそのようなアーチファクトを最小化することが、依然として求められている。
【0010】
サーマルインクジェットプリントヘッドでのコゲーションを最小化するための先行技術のアプローチは一般に、発熱体表面のコゲーティング化学種の斥力を支援すると考えられるリン酸塩及び関連の塩の使用に照準を合わせている。例えば、米国特許第8,770,736号、米国特許第6,592,657号及び米国特許第6,533,851号各明細書(Hewlet-Packard Companyに譲渡)は、コゲーションを低減するための、リン酸エステル界面活性剤とホスホン酸とホスホン酸塩との使用を記載している。同様に米国特許第6,902,264号明細書(キャノン株式会社に譲渡)は、コゲーションを低減するためのポリリン酸の使用を記載している。しかし、リン酸塩タイプの添加剤は、ポリマー分散を不安定化することに関して不利である。分散の不安定化は、典型的には顔料の凝集及び長期貯蔵問題をもたらす。
【0011】
米国特許第5,169,437号明細書(Hewlet-Packard Companyに譲渡)は、サーマルインクジェットプリントヘッドにおけるコゲーションを低減するためのエトキシル化グリセロール保湿剤の使用を記載している。
【0012】
特定の先行技術の添加剤は、一部のサーマルインクジェットプリントヘッドにおいて永久的コゲーションを低減するのに効果的になり得るが、そのような添加剤は、上記のとおり、いわゆる「ゴースティング」アーチファクトを引き起こすタイプのコゲーションを低減するのに特に効果的であることが見出されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
それゆえ、プリントヘッドの最初の「バーニング」期間に半永久的及び/又は一時的コゲーションにより引き起こされる印刷アーチファクトを最小化するインクを提供することが、望ましいであろう。さらに、そのようなインクがインク特性の全体的バランスを乱さない成分を含有することが、望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第一の態様において、
インクビヒクルと;
ポリマーと;
5~10の範囲内のHLB値を有するエトキシル化アセチレン系非イオン界面活性剤を含む界面活性剤パッケージと;
式(I):
【0015】
【0016】
(式中、
aは、1、2、3、4又は5であり;
及びRは、それぞれ独立して、式(II):
の部分であり;
pは、1、2、3、4又は5であり;
qは、0~200であり;
rは、0~200であり;
q+rは、1より大きい)のABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物と、
を含む、インクジェットインクが提供され、
該インクの表面張力は、26~31mN/mの範囲内である。
【0017】
第一の態様によるインクは、有利には、おそらく以下により詳細に説明されるとおり、プリントヘッドの最初のバーニング期間の発熱体表面の半永久的及び/又は一時的コゲーションを改良することにより、サーマルインクジェットプリントヘッドにおける「ゴースティング」性能を改善する。
【0018】
好ましくは、pは、3であり;q≠0であり;r≠0である。例えばqは、1~100であってもよく、rは、1~100であってもよい。例えば、ABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物は、式(IV):
【0019】
のものでもよい。
【0020】
市販の式(IV)によるABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物の具体的例は、Dow Corning Additive 8526である。
【0021】
好ましくは式(I)の化合物は、4000~10,000g/mol、又は好ましくは6000~8000g/molの範囲内の分子量を有する。
【0022】
好ましくはABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物は、0.1~1wt%の範囲内の量で存在する。有利には式(I)のABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物は、相対的に低い界面活性性(surfactancy)を有し、インクの表面張力への最小の影響でコゲーションの低減(及び印刷インクの耐久性の改善)を支援するのに充分な量で添加され得る。
【0023】
表面張力範囲は、高周波印刷(例えば、15kHz印刷以上)の間の急速なノズルチャンバ補充に適する。それゆえ、インク中に存在する界面活性剤、及びその量は、注意深く選択及び制御される必要がある。好ましくはインクの表面張力は、27~30mN/mの範囲内である。
【0024】
好ましくはインクは、0.1wt%未満の式(III):
【0025】
【0026】
(式中、
b及びcは、それぞれ独立して、1、2、3、4又は5であり;
は、それぞれ独立して、先に定義された式(II)の部分である)の熊手型モノアルコキシル化シリコーン化合物を含有する。
【0027】
式(III)の熊手型シリコーンは、高度の界面活性性を有し、それえゆえ約0.1wt%を超える量で用いることができないが、一方で必須である26~31mN/mのインク表面張力範囲に適合する。
【0028】
幾つかの実施形態において、インクは、アミノ酸などの両性イオン化合物を含む。好ましくは両性イオン化合物は、グリシンである。両性イオン化合物は、発熱体表面の二重層効果を介して帯電したコゲーティングポリマー化学種(例えば、スチレン-アクリル系)のポリマーの斥力を支援すると考えられる。好ましくは両性イオン化合物は、0.05~1wt%、より好ましくは0.05~0.5wt%の範囲内の量で存在する。
【0029】
幾つかの実施形態において、界面活性剤パッケージは、同じくコゲーティングポリマー化学種の斥力を支援すると考えられる陰イオン界面活性剤を含む。適切な陰イオン界面活性剤の好ましい例は、内容が参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2020/0062982号明細書に記載されたスルホン酸塩界面活性剤(例えば、ジ(C6~30アルキル)スルホコハク酸ナトリウム塩)である。他のタイプの陰イオン界面活性剤は、本明細書の以下に記載される。好ましくは陰イオン界面活性剤は、0.05~1wt%、より好ましくは0.05~0.5wt%の範囲内の量で存在する。
【0030】
ポリマーは、顔料を分散するのに適したスチレン-アクリル系ポリマーなどのイオンポリマー(例えば、陰イオンに帯電したポリマー)であってもよい。
【0031】
典型的にはインクは、ポリマーにより分散される顔料を含有する。しかし幾つかの実施形態において、インクは、例えばポリマーを含有するが顔料などの任意の着色剤が存在しないバインダ流体であってもよい。
【0032】
エトキシル化アセチレン系非イオン界面活性剤は、式(I)のアルコキシル化シリコーン化合物と併せて優れたゴースティング性能を提供するためにインクに含まれる。好ましくはエトキシル化アセチレン系非イオン界面活性剤は、0.2~1.5wt%、より好ましくは0.4~1.2wt%の範囲内の量で存在する。好ましくは、エトキシル化アセチレン系非イオン界面活性剤と、式(I)のアルコキシル化シリコーン化合物と、の合計量は、少なくとも0.8wt%、少なくとも1wt%、又は好ましくは0.8~1.5wt%の範囲内である。
【0033】
好ましくはエトキシル化アセチレン系非イオン界面活性剤は、7~9の範囲内のHLB値を有する。
【0034】
驚くべきことに、米国特許出願公開第2020/0062982号明細書に記載されたチオエーテル界面活性剤などの非エトキシル化非イオン界面活性剤は、式(I)のアルコキシル化シリコーン化合物と併せて用いられた場合であっても、相対的に不充分なゴースティング性能を有する。
【0035】
好ましくは界面活性剤パッケージはさらに、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル界面活性剤を含む。ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルは、インク中のエトキシル化アセチレン系界面活性剤の安定化を支援して、HLBの相対的に高い界面活性剤の使用をとおして引き起こされ得る潜在的相分離を最小化する。好ましくはポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル界面活性剤は、0.05~0.5wt%の範囲内の量で存在する。
【0036】
好ましい実施形態において、インクは、式(I)によるABA型ビスアルコキシル化シリコーンと、5~10の範囲内のHLB値を有するエトキシル化アセチレン系非イオン界面活性剤と、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル界面活性剤と、両性イオン化合物及び陰イオン界面活性剤のうちの少なくとも一方と、を含む。1つの好ましい実施形態において、インクは、両性イオン化合物と陰イオン界面活性剤の両方を含有する。
【0037】
好ましくはインクビヒクルは、水と、1種又は複数の共溶媒と、を含む。
好ましくはインクは、グリコールエーテル、トリエチレングリコール及びグリセロールからなる群から選択される1種又は複数の共溶媒を含む。
典型的にはインクは、7を超える、8を超える、又は9を超えるpHを有する。
【0038】
第二の態様において、インクジェットノズルデバイス内の抵抗発熱体のコゲーションを最小化する方法が提供され、該方法は、
先に記載されたインクジェットインクをインクジェットノズルデバイスに供給すること、及び
発熱体を作動させること、
を含み、
界面活性剤パッケージと式(I)の化合物とが一緒になって、金属酸化物表面のポリマーのコゲーションを最小化する。
典型的には発熱体は、インクと接触した金属酸化物表面を有する。
【0039】
第三の態様において、
複数のインクジェットノズルデバイスを有するプリントヘッドと、
プリントヘッドと流体連通したインクリザーバと、
を含むプリンタが提供され、前記インクリザーバは、先に記載されたインクを含有する。
【0040】
典型的には各インクジェットノズルデバイスは、金属酸化物表面を有する抵抗発熱体を含む。
【0041】
用語「アルキル」は、典型的には1~30個の炭素原子を有する、直鎖及び分枝鎖形態の両方のアルキル基をいうために本明細書で用いられる。他に断りがなければ、アルキル基はまた、1つ、2つ、又は3つの二重結合及び/又は三重結合で中断されてもよい。しかし用語「アルキル」は通常、二重又は三重結合の中断を有さないアルキル基をいう。用語「アルキル」は通常、非環式アルキル基をいうが、それはまた、シクロアルキル基を含んでもよい。
【0042】
本明細書のビスアルコキシル化シリコーン化合物を参照すると、これは通常、ビス-C2~3アルコキシル化シリコーン化合物をいう。
【0043】
本明細書で用いられる用語「インク」は、インクジェットプリントヘッドから印刷され得る任意の印刷流体を意味すると見なされる。インクは、着色剤を含有しても、又は含有しなくてもよい。したがって用語「インク」は、従来の染料系又は顔料系インク、赤外線透過インク、定着剤(例えば、プレコート及びフィニッシャ)、3D印刷流体(例えば、ポリマーを含有し得るバインダ流体)、機能性流体(例えば、ソーラインク、センサー対応インクほか)、生体液、及び同様のものを包含し得る。流体又は印刷流体を参照すると、これは、本明細書の「インク」の意味を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明者らは、インクジェットプリントヘッドの最初のバーニング期間に最小化されたゴースティングアーチファクトの問題の解決策を模索した。先に議論されたとおり、発熱体への一時的及び半永久的コゲーションは、そのようなゴースティングアーチファクトを担うと考えられ、本発明者らは、アンチコゲーション添加剤に注意を向けてこの問題に取り組んだ。Liponic(登録商標)EG-1などのエトキシル化グリセロールは、染料系インクにおけるコゲーションを低減するために本出願者により過去に用いられた(例えば、国際公開第2016/078859号パンフレット参照)。しかし、エトキシル化グリセロールは、本出願者の顔料系インクにおいてコゲーションを低減することにわずかしか成功を見出せず、それゆえ、代わりのアンチコゲーション添加剤を同定する必要があった。ABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物(例えば、Dow Corning Additive8526)は、特に光沢媒体では、印刷されたインクの耐久性を改善する能力のため、インクジェットインク中の有用な成分である。そのようなシリコーンは、低い界面活性のために魅力的なインク添加剤であり、つまりインク特性の全体的バランスを崩さずに効果的量で添加され得る。本発明者らは、そのようなシリコーンが発熱体表面の潤滑性を上昇させ、それによりポリマーが発熱体表面に吸着され得る度合いを最小化することにより、コゲーションを低減することに有用になり得る、と仮定した。しかし、ABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物と、非エトキシル化界面活性剤との組合わせが、ゴースティングに関して相対的に不充分な結果を提供した。
【0045】
複数の異なるインク添加剤を異なる組合わせでスクリーニングしたところ、驚くべきことに、エトキシル化アセチレン系界面活性剤への切り替えが、ゴースティング性能において適度な改善を提供することが見出された。その上、ABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物と、5~10の範囲内のHLB値を有するエトキシル化アセチレン系界面活性剤との組み合わせが、ゴースティング性能の有意な改善を提供した。インク中の充分な量のエトキシル化化学種が、発熱体表面の一時的及び/又は半永久的コゲーションを低減するのに必要と思われた。しかし、HLBの高い界面活性剤(即ち、HLB>10)の使用は、あまり効果的でなく、インクの若干の相分離を引き起こした。
【0046】
一部のインクでは、この改善は、グリシン及び/又は陰イオン界面活性剤をさらに添加しても強化された。理論に結びつけるのを望むものではないが、両性イオンアミノ酸は、発熱体表面での電気二重層の形成に関与して、さらにポリマー分散剤の斥力を支援し得ると考えられる。陰イオン界面活性剤は、同様に発熱体表面でポリマー分散剤に反発することに関与すると考えられる。
【0047】
着色剤
本発明で用いられるインクは、典型的には染料系又は顔料系インクであり、好ましくは顔料系である。
【0048】
インクジェット染料は、当業者に周知であり、本発明は、任意の特別なタイプの染料に限定されない。例として、本発明での使用に適した染料としては、アゾ染料(例えば、フードブラック2)、金属錯体染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カルボニウム染料、キノン-イミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料(ナフタロシアニン染料を含む)、及び金属フタロシアニン染料(内容が参照により本明細書に援用される米国特許第7,148,345号明細書に記載されたものなどの金属ナフタロシアニン染料を含む)が挙げられる。
【0049】
適切な染料の例としては、CIダイレクトブラック4、9、11、17、19、22、32、80、151、154、168、171、194及び195;CIダイレクトブルー1、2、6、8、22、34、70、71、76、78、86、142、199、200、201、202、203、207、218、236及び287;CIダイレクトレッド1、2、4、8、9、11、13、15、20、28、31、33、37、39、51、59、62、63、73、75、80、81、83、87、90、94、95、99、101、110、189、225及び227;CIダイレクトイエロー1、2、4、8、11、12、26、27、28、33、34、41、44、48、86、87、88、132、135、142及び144;CIフードブラック1及び2;CIアシッドブラック1、2、7、16、24、26、28、31、48、52、63、107、112、118、119、121、172、194及び208;CIアシッドブルー1、7、9、15、22、23、27、29、40、43、55、59、62、78、80、81、90、102、104、111、185及び254;CIアシッドイエロー1、3、4、7、11、12、13、14、19、23、25、34、38、41、42、44、53、55、61、71、76及び79;CIリアクティブブルー1、2、3、4、5、6、7、8、9、13、14、15、17、18、19、20、21、25、26、27、28、29、31、32、33、34、37、38、39、40、41、43、44及び46;CIリアクティブレッド1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、15、16、17、19、20、21、22、23、24、28、29、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、49、50、58、59、63、64、及び180;CIリアクティブウエロー1、2、3、4、6、7、11、12、13、14、15、16、17、18、22、23、24、25、26、27、37及び42;CIリアクティブブラック1、3、4、5、6、8、9、10、12、13、14及び18;Pro-Jet(登録商標)Fast Cyan 2(Fujifilm Imaging Colorants);Pro-Jet(登録商標)Fast Magenta 2(Fujifilm Imaging Colorants);Pro-Jet(登録商標)Fast Yellow 2(Fujifilm Imaging Colorants);並びにPro-Jet(登録商標)Fast Black 2(Fujifilm Imaging Colorants)が挙げられる。
【0050】
本発明での使用に適した従来の顔料は、無機顔料又は有機顔料でもよい。従来の顔料の例は、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、ジケトピロロピロール、アントラキノン、ベンゾイミダゾロン、アントラピリミジン、アゾ顔料、フタロシアニン顔料(ナフトロシアニン顔料を含む)、キナクリドン顔料(uinacridone pigments)、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、インダントレン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、キノフタロン顔料、及び金属錯体顔料である。
【0051】
適切な顔料の例としては、Cyan COJ450(Cabot)、D71C及びD75C(Diamond Dispersions);Magenta COJ465(Cabot)、D71M、D75M、D71PV19(Diamond Dispersions)、Hostajet Magenta E-PT VP2690及びHostajet Magenta E5B-PT VP3565(Clariant);Yellow COJ270及びCOJ470(Cabot)、又はD71Y、D71Y155、D75Y(Diamond Dispersions)及びHostajet Yellow 4G-PT VP2669(Clariant);Black CW1、CW2、CW3(Orient)又はCOJ200、COJ300、COJ400(Cabot)、又はSDP1000、SDP2000(Sensient)、又はD71K、D75K、D77K、D80K(Diamond Dispersions)及びHostajet Black O-PT(Clariant);Red D71R(Diamond Dispersions);Blue D71B(Diamond Dispersions)が挙げられる。
【0052】
顔料は、表面改質顔料などの自己分散型顔料であってもよい。表面改質は、顔料表面の陰イオン基、陽イオン基を介して、又は直接改質のどれであってもよい。典型的な表面改質基は、カルボン酸基及びスルホン酸基である。しかし陰イオンリン酸基又は陽イオンアンモニウム基などの他の表面改質基に、用いられてよい。
【0053】
適切な水性表面改質顔料分散体の具体的例は、Sensijet(登録商標)Black SDP-2000、SDP-1000及びSDP-100(Sensient Colors Inc.から入手)、並びにCAB-O-JET(登録商標)200、300、250C、260M及び270Y(Cabot Corporationから入手)である。
【0054】
或いは顔料は、非改質顔料粒子を封入するためのポリマー分散剤を含む従来の顔料分散体でもよい。適切な顔料分散体及びその調製の例は、例えば内容が参照により本明細書に援用される米国特許第9,834,694号明細書に記載される。
【0055】
インクジェットインク中の顔料粒子の平均粒子径は、典型的には50~500nmの範囲内である。
【0056】
顔料及び染料は、個別又は2種以上の組合せのどちらかとしてインクジェットインク中で用いられてもよい。
【0057】
インクビヒクル
本発明で用いられるインクビヒクルは、典型的には少なくとも40wt%の水、少なくとも50wt%の水、又は少なくとも60wt%の水を含む従来の水性インクビヒクルである。通常、インクジェット中に存在する水の量は、40wt%~90wt%、又は場合により50wt%~70wt%の範囲内である。
【0058】
本発明によるインクは、さらに共溶媒(保湿剤、浸透剤、湿潤剤ほかを含む)、界面活性剤、殺生物剤、金属封鎖剤、pH調整剤、粘度調整剤ほかを含んでもよい。
【0059】
共溶媒は、典型的には水溶性有機溶媒である。適切な水溶性有機溶媒としては、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール及び2-プロパノールなどのC1~4アルキルアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールなどのアルキレングリコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-イソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-イソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、1-メチル-1-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-イソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-イソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテルなどのグリコールエーテル;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビトール、ソルビタン、グリセロールモノアセテート、グリセロールジアセテート、グリセロールトリアセテート、並びにスルホラン;又はそれらの組合せが挙げられる。
【0060】
共溶媒として用いられ得る他の有用な水溶性有機溶媒としては、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、ε-カプロラクタム、ジメチルスルホキシド、モルホリン、N-エチルモルホリン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及びそれらの組合せなどの極性溶媒が挙げられる。
【0061】
インクジェットインクは、水分保持能及び湿潤特性をインク組成物に付与するために、湿潤剤又は保湿剤として役立ち得る共溶媒としての別の高沸点水溶性有機溶媒を含有してもよい。高沸点水溶性有機溶媒の例は、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルグリコール、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコール、2000以下の分子量を有するポリエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパン、エリトリトール、ペンタエリトリトール及びそれらの組合せである。
【0062】
他の適切な湿潤剤又は保湿剤としては、糖類(単糖、オリゴ糖及び多糖を含む)及びその誘導体(例えば、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、ヒアルロン酸塩、アルドン酸、ウロン酸ほか)が挙げられる。
【0063】
インクジェットインクはまた、記録媒体への水性インクの浸透を加速するために浸透剤を共溶媒の1種として含有してもよい。適切な浸透剤としては、多価アルコールアルキルエーテル(グリコールエーテル)及び/又は1,2-アルキルジオールが挙げられる。適切な多価アルコールアルキルエーテルの例は、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-イソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-イソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、1-メチル-1-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-イソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-イソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテルである。適切な1,2-アルキルジオールの例は、1,2-ペンタンジオール及び1,2-ヘキサンジオールである。浸透剤はまた、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、及び1,8-オクタンジオールなどの直鎖状炭化水素ジオールから選択されてもよい。グリセロールもまた、浸透剤として用いられてよい。
【0064】
国際公開第2020/038726号パンフレットに記載された通り、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(n-ブチルジグリコール)などのジエチレングリコールモノアルキルエーテルは、典型的には乾燥時間を改善する観点からインクビヒクル中に含まれる。インクビヒクル中に存在するグリコールモノアルキルエーテルの量は、典型的には1~10wt%の範囲内である。
【0065】
典型的にはインク中に存在する共溶媒の合計量は、約5wt%~60wt%、又は場合により10wt%~50wt%の範囲内である。
【0066】
界面活性剤
界面活性剤パッケージは、先に記載されたものに加えて、界面活性剤を含有してもよい。例えば、陰イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤が、インク特性の調整を支援するために界面活性剤パッケージに含まれてもよい。有用な陰イオン界面活性剤としては、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸、アシルメチルタウリン、及びジアルキルスルホコハク酸などのスルホン酸系;アルキル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;カルボン酸系例えば、脂肪酸塩及びアルキルサルコシン塩;並びにアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、及びグリセロリン酸エステル塩などのリン酸エステル系が挙げられる。陰イオン界面活性剤の具体的例は、ジ(C6~30アルキル)スルホコハク酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩である。
【0067】
両性イオン界面活性剤の例としては、N,N-ジメチル-N-オクチルアミンオキシド、N,N-ジメチル-N-ドデシルアミンオキシド、N,N-ジメチル-N-テトラデシルアミンオキシド、N,N-ジメチル-N-ヘキサデシルアミンオキシド、N,N-ジメチル-N-オクタデシルアミンオキシド及びN,N-ジメチル-N-(Z-9-オクタデセニル)-N-アミンオキシドが挙げられる。
【0068】
非イオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、及びポリオキシエチレンアルキルアミドなどのエチレンオキシド不可物系;グリセロールアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、及び糖アルキルエステルなどのポリオールエステル系;多価アルコールアルキルエーテルなどのポリエーテル系;並びにアルカノールアミン脂肪酸アミドなどのアルカノールアミド系が挙げられる。非イオン界面活性剤の具体的例は、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル);並びにポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンオレエートエステル、ポリオキシエチレンジステアレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、及びポリオキシエチレンステアレートなどのエステルである。
【0069】
追加的なアセチレングリコール界面活性剤もまた、界面活性剤パッケージに含まれてよい。そのような非イオン界面活性剤の具体的例は、Surfynol(登録商標)(Air Products and Chemicals, Incから市販)である。
【0070】
熊手型アルコキシル化シリコーン界面活性剤もまた、少量(例えば、0.1wt%以下)用いられてよい。熊手型エトキシル化シリコーン界面活性剤の具体的例は、BYK-345、BYK-346及びBYK-349(BYK Japan K.K.により製造)、並びにSilface(商標)SAG-002、SAG-005、SAG-008、SAG-KB及びSAG-503A(日信化学工業株式会社により製造)である。
【0071】
インク中に存在する界面活性剤(複数可)の合計量は、典型的には0.05wt%、2wt%又は0.1~1.5wt%の範囲内の量である。
【0072】
他の添加剤
水性インクジェットインクはまた、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、フタル酸水素カリウム、及び酒石酸水素カリウムなどのpH調整剤又はバッファ;アンモニア;並びにメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン、プロパノールアミン、4-モルホリンエタンスルホン酸、及び4-モルホリンプロパンスルホン酸(「MOPS」)などのアミンを含んでもよい。存在する場合のpH調整剤の量は、典型的には0.01~2wt%又は0.05~1wt%の範囲内である。
【0073】
水性インクジェットインクはまた、安息香酸、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ソルビン酸、ヒドロキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ベンゾチアゾリン-3-オン(1,2-benthiazolin-3-one)(Arch Chemicals, Inc.から入手される「Proxel(登録商標)GXL)、3,4-イソチアゾリン-3-オン又は4,4-ジメチルオキサゾリジンなどの殺生物剤を含んでもよい。存在する場合の殺生物剤の量は、典型的には0.01~2wt%又は0.05~1wt%の範囲内である。
【0074】
水性インクジェットインクはまた、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属封鎖剤を含有してもよい。
【0075】
水性インクジェットインクは、プリントヘッドの有効期間にわたりノズルチャンバ内のシリカの溶解を最小化する目的で、特定の金属塩、特にアルミニウム塩及び/又はガリウム塩などの三価金属塩を含有してもよい。適切な三価金属塩は、例えば内容が参照により本明細書に援用される国際公開第2012/151630号パンフレットに記載される。
【0076】
水性インクジェットインクは、発熱体の剥離を最小化すること、及びプリントヘッドの有効期間を延長すること、を目的として、追加的に少量(例えば、2~90ppm)のアンモニウム塩(例えば、硝酸アンモニウム、ギ酸アンモニウムほか)を含有してもよい。そのようなアンモニウム塩を含有するインク配合物は、内容が参照により本明細書に援用される国際公開第2020/038725号パンフレットに記載される。
【0077】
インクジェットプリントヘッド
本発明によるインクは、主としてサーマルインクジェットプリントヘッドと連結した使用のためのものであるが、もちろんそれらは、他のタイプのプリントヘッドで用いられてもよい。インクジェットプリントヘッドの例示的タイプは、例えば内容が参照により本明細書に援用される米国特許第9,950,527号、米国特許第号9,283,756号及び米国特許第9,994,017号各明細書に記載される。
【0078】
実験の項
ゴースティング性能テスト
インクのゴースティング性能が、出願者により開発された標準プロトコルを利用してテストされた。サーマルインクジェットノズルデバイスを有する米国特許第9,950,527号明細書(内容が参照により本明細書に援用される)に記載されたタイプの新たに製造されたプリントヘッドが、最初に、100%密度の三重に配列された水平の実線を印刷するために用いられた。約91m(300フィート)の三重線を印刷した後、全てのノズルが、50%の密度の無地のグレースケール背景画像を印刷するために用いられた。40ページの背景画像を印刷した後、L値が、三重線領域(即ち、あらかじめ印刷された三重線に対応するそれらの領域)と、三重線の外側の背景領域と、について背景画像内で決定された。特徴として三重線領域は、40ページの後に背景領域より低いL値を有する。L値におけるこの差は、ゴースティング性能を示すΔL値として記録され、ΔL値が大きいほど(例えば、3以上)、相対的に不充分なゴースティング性能を示し(言い換えれば、三重線の「ゴースト」が、バックグランド画像においてより低い画像強度で可視となり)、ΔL値が小さいほど、良好なゴースティング性能を示す。
【0079】
インク配合物
水性顔料系インクは、表1に記載された通り配合され、使用前に濾過された(0.2ミクロン)。インクの成分は、wt%で示されており、全てのインクが、2ppmのアルミニウムイオンを硝酸アルミニウムとして含有した。全てのインクは、27~31mN/mの範囲内の表面張力を有した。
【0080】
a.Dynol(商標)360は、3~4のHLB値を有する非エトキシル化非イオンチオエーテル界面活性剤である。
b.BYK-3410は、スルホコハク酸陰イオン界面活性剤である。
c.Dow Corning Additive 8526は、式(IV)のABA型ビスアルコキシル化シリコーン化合物である。
d.Emulgen(商標)120は、花王株式会社から入手されたポリオキシエチレンラウリルエーテルである。
e.Surfynol(登録商標)440は、日信化学工業株式会社から入手された8のHLB値を有する非イオンアセチレン系界面活性剤である。
【0081】
先に記載されたテスト方法を利用したインク1~6のゴースティング性能が、以下の表2に示される。
【0082】
【0083】
表2の結果は、Surfynol(登録商標)440とDow Corning Additive 8526との組み合わせを含有するインク3~6がゴースティングに関してインク1及び2より有意に優れることを実証している。インク3は、優れたゴースティング性能を有したが、相対的に多量のSurfynol(登録商標)440(登録商標)は、インクの安定性に関しては不利である。インク4では、追加的な非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)が、インク安定性の改善を援助し、一方でインク1及び2に比較して改善されたゴースティング性能を有する。インク5及び6では、ゴースティング性能が、さらにグリシンの添加(インク5)又は陰イオン界面活性剤を伴ったグリシンの添加(インク6)を行っても改善された。インク6は、インク特性の全体的バランスの観点から、テストされたインクのうちで最良のゴースティング性能を呈したが、観察されたより低い発泡特性により、インク5が概ね好適であった。
【0084】
品質としては、HLBのより高い界面活性剤(例えば、Surfynol(登録商標)465)を配合されたインクは、相分離が多いため安定性が低く、不充分な貯蔵性能を有した。そのようなインクが、配合及びテストされ得る範囲では、ゴースティング性能は、インク3~6より有意に劣っていたが、そのようなインクは、安定性が不充分なため実用可能と見なされなかった。
【0085】
もちろん、本発明が例示として記載されたに過ぎず、詳細の改変が本発明の範囲内で施され得て、本発明が添付の特許請求の範囲で定義されることは、認識されよう。
【国際調査報告】