IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 正大天晴薬業集団股▲分▼有限公司の特許一覧

<>
  • 特表-二重特異性抗体 図1
  • 特表-二重特異性抗体 図2
  • 特表-二重特異性抗体 図3
  • 特表-二重特異性抗体 図4
  • 特表-二重特異性抗体 図5
  • 特表-二重特異性抗体 図6
  • 特表-二重特異性抗体 図7
  • 特表-二重特異性抗体 図8
  • 特表-二重特異性抗体 図9
  • 特表-二重特異性抗体 図10
  • 特表-二重特異性抗体 図11
  • 特表-二重特異性抗体 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20240214BHJP
   C07K 14/74 20060101ALI20240214BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K14/74
C07K19/00
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545974
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 CN2022074133
(87)【国際公開番号】W WO2022166728
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】202110178932.5
(32)【優先日】2021-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110937430.6
(32)【優先日】2021-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516089784
【氏名又は名称】チア タイ ティエンチン ファーマシューティカル グループ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Chia Tai Tianqing Pharmaceutical Group Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.369 Yuzhou South Rd.,Lianyungang,Jiangsu 222062 China
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(72)【発明者】
【氏名】ワン、リアンリアン
(72)【発明者】
【氏名】ザン、ゼンピン
(72)【発明者】
【氏名】スン、コンコン
(72)【発明者】
【氏名】ザオ、ロンジュアン
(72)【発明者】
【氏名】リ、イマン
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085AA16
4C085CC05
4C085DD62
4H045AA11
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、第1抗原結合部分のペアードドメインが、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列及び工学的改変β2Mのアミノ酸配列を含む、抗体を提供する。二重特異性抗体の発現方法、前記二重特異性抗体をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含有するベクター及びホスト細胞、前記二重特異性抗体を含む医薬組成物、並びに融合タンパク質及びコンジュゲートをさらに提供する。提供される二重特異性抗体は、異なる特異性を有する重鎖及び軽鎖のミスマッチを防止又は低減させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの異なる抗原又は同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合する第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、
前記第1抗原結合部分は、
N末端からC末端まで、第1重鎖可変ドメイン及び前記第1重鎖可変ドメインに作動可能に連結された第1ペアードドメインを含む第1ポリペプチドと、
N末端からC末端まで、第1軽鎖可変ドメイン及び前記第1軽鎖可変ドメインに作動可能に連結された第2ペアードドメインを含む第2ポリペプチドと、を含み、
ここで、前記第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインのうちの一方のペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含み、他方のペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含む、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインは二量体を形成でき、前記第1ペアードドメインと第2ペアードドメインとの間に少なくとも1つの非天然鎖間結合を形成でき、且つ前記非天然鎖間結合は前記二量体を安定化させることができる、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記第1ペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含み、前記第2ペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含み、又は、
前記第1ペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含み、前記第2ペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有し、前記工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記工学的改変HLA-Iα3は、SEQ ID NO:1においてアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンは、SEQ ID NO:2においてアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
工学的改変HLA-Iα3及び工学的改変β2ミクログロブリン中の前記アミノ酸置換は、いずれも、両方の接触界面で発生し、互いにジスルフィド結合を形成し得るシステイン残基置換を含み、
前記システイン残基置換は、次の群から選択される1対から複数対である、請求項5に記載の二重特異性抗体。
(1)SEQ ID NO:1におけるR60CとSEQ ID NO:2におけるY26C
(2)SEQ ID NO:1におけるA62CとSEQ ID NO:2におけるR12C
(3)SEQ ID NO:1におけるG63CとSEQ ID NO:2におけるY67C
【請求項7】
工学的改変HLA-Iα3又は/及び工学的改変β2ミクログロブリン中のアミノ酸置換は、ペアードドメインによって形成された二量体又は二重特異性抗体の等電点を向上させるアミノ酸置換を含み、
ここで等電点を向上させるアミノ酸置換は、工学的改変HLA-Iα3においてSEQ ID NO:1配列のE3、D22、E48、D53、E90、E101のうちの1つ又は複数の位置で正に帯電したアミノ酸により置換されていることを含むか、又は/及び
等電点を向上させるアミノ酸置換は、工学的改変β2ミクログロブリンにおいてSEQ ID NO:2配列のE74、E47、E69、D34、E16、D53、E44、E50、E36のうちの1つ又は複数の位置で正に帯電したアミノ酸により置換されていることを含み、好ましくは、
等電点を向上させるアミノ酸置換は、前記工学的改変HLA-Iα3がSEQ ID NO:1配列でアミノ酸置換D22R、E48K及びD53Kを含み、且つ前記工学的改変β2ミクログロブリンがSEQ ID NO:2配列でアミノ酸置換E69Rを含むことを含む、請求項5~6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記工学的改変HLA-Iα3は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンは、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含み、又は、
前記工学的改変HLA-Iα3は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンは、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
前記第2抗原結合部分はFabを含み、好ましくは、
EU番号により、前記FabのCLドメインのF118位にあるアミノ酸がアラニンで置換されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記二重特異性抗体が2価である、請求項1~8のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
第2抗原結合部分と同じ抗原エピトープに結合し、又は、
第1抗原結合部分と同じ抗原エピトープに結合する
第3抗原結合部分をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
前記二重特異性抗体が3価である、請求項10に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
安定に会合可能な2つのFcポリペプチドからなるFcドメインをさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
前記第1抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、又は、
前記第1抗原結合部分の第1ポリペプチドは、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、Fabを含み、そのFab重鎖がそのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される、請求項13に記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
安定に会合可能な2つのFcポリペプチドからなるFcドメインをさらに含む、請求項11~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項16】
前記第1抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第3抗原結合部分は、そのC末端において第1抗原結合部分のN末端又は第2抗原結合部分のN末端に作動的に連結され、又は、
前記第3抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第1抗原結合部分は、そのC末端において前記第3抗原結合部分のN末端に作動的に連結され、第2抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、又は、
前記第3抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、そのC末端において前記第3抗原結合部分のN末端に作動的に連結され、第1抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される、請求項15に記載の二重特異性抗体。
【請求項17】
必要とされる被験体において疾患を治療するための方法であって、
治療有効量の請求項1~16のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を被験体に投与することを含み、
好ましくは、前記疾患は、白血病、リンパ腫、骨髄腫、卵巣癌、乳癌、子宮内膜癌、結腸癌、直腸癌、腎臓癌、膀胱癌、尿路上皮癌、肺癌、気管支癌、骨癌、前立腺癌、膵臓癌、胃癌、肝細胞癌、胆嚢癌、胆管癌、食道癌、腎細胞癌、甲状腺癌、頭頸部癌、精巣癌、内分泌腺癌、副腎癌、下垂体癌、皮膚癌、軟部組織癌、血管癌、脳癌、神経癌、眼癌、髄膜癌、中咽頭癌、下咽頭癌、子宮頸部癌、子宮癌、神経膠芽腫、髄芽腫、星細胞腫、神経膠腫、髄膜腫、ガストリノーマ、神経芽腫、黒色腫、骨髄異形成症候群又は肉腫を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体に関し、特に、抗体の軽鎖及び重鎖のミスマッチを改善する二重特異性抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
1960年代初頭、Nisonoffらは、2つの異なる抗原結合部分を持つ人工抗体分子-二重特異性抗体(BsAb,bispecific antibody)の概念を初めて提出した(Nisonoffら, Science 132, 1770-1771(1960))。彼らはわずかな再酸化で異なる特異性を持つウサギ抗原結合フラグメント(Fab)を結合させ、この2つの抗原結合フラグメントが媒介する2つの異なるタイプの細胞の凝集作用を表現させた(Fudenbergら, A. J.Exp. Med. 119, 151-166 (1964))。一連の概念や技術革新が行われてから、抗体工学と抗体生物学の画期的な進展に伴い、二重特異性抗体の概念は、革新的でユニークな治療法を生み出すために、バイオテクノロジー企業や製薬企業によって商業化されつつある。
【0003】
二重特異性抗体の研究開発設計において、臨床治療目的を基礎とし、特異性の異なる2対の軽鎖と重鎖の正確なペアリングを確保する必要があり、また、各モノクローナル抗体のそれぞれの結合ドメインの独立性を維持し、異なるエピトープに結合する際に立体障害の干渉が生じないことを確保する必要があり、さらに、抗体分子が哺乳動物細胞で発現しやすく、複雑なタンパク質修飾技術が必要でないことも必要である。ここで非対称性分子設計形態の二重特異性抗体は、関連する機能的特徴と有利な品質の特性を維持するために、天然抗体の天然構造をできるだけ保持する。抗体H2L2エレメントの対称性を破壊することにより、鎖ミスマッチの問題を解決する。
【0004】
二重特異性抗体は、その二重標的性の優位性により、現在腫瘍治療の新規薬物研究領域の1つになり、二重特異性抗体の構築と製造技術も、一連の革新を経験し、その目的の1つはミスマッチ問題を解決し、生産効率を高めることである。いくつかの二重特異性抗体は、2本の異なる重鎖と2本の異なる軽鎖を共発現する必要があり、しかも多種の組換え産物の中から目的の二重特異性抗体を選択しなければならず、これもずっと二重特異性抗体の開発における難題の1つである。鎖ミスマッチを解決するために、近年、科学者は多くの戦略と技術プラットフォームを開発し、様々な構造の二重特異性抗体を設計し、表現することを可能にする。現在、二重特異性抗体の構造は、すでに、異なる製造プラットフォームによる数十種類も多く、比較的成熟したのはGenentech/Roche knob-into-hole、Amgen BiTe、Chugai/Roche ART-Igプラットフォームであり、その中で、Knob-into-holeは重鎖ミスマッチの問題を解決する古典的な技術であり、その他の技術プラットフォーム、例えばDVD-Ig、TrioMab、DART、FIT-Ig、WuXiBodyなどがある。
【0005】
ほとんどの非対称形態の二重特異性抗体は、Fc領域に突然変異(Ridgwayら, Protein Engineering, Design and Selection, 9(7), 617-621.)を導入し、重鎖間のペアリングを強制的に矯正し、促進することによって、2つの異なる重鎖のヘテロダイマーの集合を達成する。次に、分化型Protein A結合設計精製戦略と、逐次アフィニティークロマトグラフィー、分子量差クロマトグラフィー精製戦略とを組み合わせることにより、所望の最終産物を分離する。軽鎖と重鎖のミスマッチを回避する戦略としては、通常、二重特異性分子を半分子として、或いは親抗体として別々に発現し、それから、抗体半分子を集合するのが一般的であり、重鎖の突然変異を設計することによって重鎖のヘテロ二量体を実現することができる。しかし、個々の抗体のそれぞれの軽鎖と重鎖の選択的なペアリングは依然として困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Science,(米),1960,Vol.132,No.3441,p.1770-1771
【非特許文献2】Jornal of Experimental Medicine,(米),1964,Vol.119(1),p.151-166
【非特許文献3】Protein Engineering, Design and Selection,(英),1996,Vol.9(7),p.617-621.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、異なる特異性を有する重鎖及び軽鎖のミスマッチを防止又は低減させる、構造設計を改良した二重特異性抗体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、本発明は、
2つの異なる抗原又は同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合する第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、前記第1抗原結合部分は、
N末端からC末端まで、第1重鎖可変ドメイン及び前記第1重鎖可変ドメインに作動可能に連結された第1ペアードドメインを含む第1ポリペプチドと、
N末端からC末端まで、第1軽鎖可変ドメイン及び前記第1軽鎖可変ドメインに作動可能に連結された第2ペアードドメインを含む第2ポリペプチドと、を含み、
ここで、前記第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインのうちの一方のペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含み、他方のペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含む、二重特異性抗体を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態では、前記第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインは二量体を形成でき、前記第1ペアードドメインと第2ペアードドメインとの間に少なくとも1つの非天然鎖間結合を形成でき、且つ前記非天然鎖間結合は前記二量体を安定化させることができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有し、前記工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有する。
【0011】
いくつかの具体的な実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3はSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンはSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含む。
【0012】
いくつかの具体的な実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3はSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンはSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記第2抗原結合部分は、第2重鎖可変ドメイン及び第2軽鎖可変ドメインを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記第2抗原結合部分はFabを含む。前記Fabは、前記第2重鎖可変ドメイン及び第2軽鎖可変ドメインを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、2つの異なる抗原又は同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合する第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、前記第1抗原結合部分は、
N末端からC末端まで、第1重鎖可変ドメイン及び前記第1重鎖可変ドメインに作動可能に連結された第1ペアードドメインを含む第1ポリペプチドと、
N末端からC末端まで、第1軽鎖可変ドメイン及び前記第1軽鎖可変ドメインに作動可能に連結された第2ペアードドメインを含む第2ポリペプチドと、を含み、
ここで、前記第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインのうちの一方のペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含み、他方のペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含む二重特異性抗体を提供し、
前記工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列、工学的改変β2ミクログロブリンは、それぞれ、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有し、前記第2抗原結合部分は、Fabを含む。このようないくつかの実施形態では、EU番号により、前記FabのCLドメインのF118位にあるアミノ酸がアラニンで置換されている。いくつかの実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3はSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンはSEQ ID NO:4又はSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、2つの異なる抗原又は同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合する第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、前記第1抗原結合部分は、
N末端からC末端まで、第1重鎖可変ドメイン及び前記第1重鎖可変ドメインに作動可能に連結された第1ペアードドメインを含む第1ポリペプチドと、
N末端からC末端まで、第1軽鎖可変ドメイン及び前記第1軽鎖可変ドメインに作動可能に連結された第2ペアードドメインを含む第2ポリペプチドと、を含み、
ここで、前記第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインのうちの一方のペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含み、他方のペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含む二重特異性抗体を提供し、
前記第2抗原結合部分はFabを含み、EU番号により、前記FabのCLドメインのF118位にあるアミノ酸がアラニンで置換されている。いくつかのこのような実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列、工学的改変β2ミクログロブリンは、それぞれ、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有する。さらに、いくつかの実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3はSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンはSEQ ID NO:4又はSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む。
【0017】
上記のいくつかの実施形態では、前記第1ペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含み、前記第2ペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含む。
【0018】
上記のいくつかの実施形態では、前記第1ペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含み、前記第2ペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含む。
【0019】
上記のいくつかの実施形態では、前記二重特異性抗体はFcを含む。
【0020】
一態様では、本発明は、本発明に記載の二重特異性抗体をコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。
【0021】
一態様では、本発明は、本発明に記載のポリヌクレオチドを含む単離ベクターを提供する。
【0022】
一態様では、本発明は、本発明に記載の単離ポリヌクレオチド又は単離ベクターを含むホスト細胞を提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、前記二重特異性抗体の発現方法であって、前記二重特異性抗体が発現される条件下で前記ホスト細胞を培養することを含む、方法を提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、本発明に記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、本発明に記載の二重特異性抗体と、前記二重特異性抗体に連結又はコンジュゲートする治療薬と、を含むコンジュゲートを提供する。
【0026】
別の態様では、本発明は、融合して発現された融合成分と、前記二重特異性抗体とを含む融合タンパク質を提供する。
【0027】
さらに別の態様では、本発明は、本発明に記載の二重特異性抗体、医薬組成物、コンジュゲート又は融合タンパク質の治療有効量を被験体に投与することを含む、これを必要とする被験体において疾患を治療するための方法を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の二重特異性抗体では、第1抗原結合部分におけるペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3及び工学的改変β2ミクログロブリンを利用することにより、鎖のミスマッチを改善することができ、例えば、第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分が共に天然Fabの対応部分である場合に比べて、前記第1抗原結合部分及び前記第2抗原結合部分にミスマッチが起こりにくいようにし、これにより、目的抗体の収率及び純度を向上させることができる。
【0029】
特に、設計された二重特異性抗体は、抗原に対して良好な親和性又は/及び熱安定性を維持する。いくつかの側面では、設計された二重特異性抗体は免疫原性リスクを低減する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】HLA-I-B分子α鎖の定常領域の一致性配列である。
図2】MHC-Iエレメントに基づいて構築された抗CD3/CD38二重特異性抗体の構造概略図である。
図3】MHI383-ccff-IgG1の分子構造の概略図である。
図4】MHI383-ccff-IgG1分子のSEC精製マップである。
図5】MHI383-ccff-IgG1の完全な分子量の質量スペクトルである。
図6】MHCICα、MHCICβ、CH1、CLドメインを含む重鎖と軽鎖が互いにペアリングして組み合わされて発現する非還元性SDS-PAGEである。
図7】HZ5G11VL-IgK又はそれにアミノ酸突然変異を導入したものとHZ14A9VH-Cα-IgG1との組み合わせ発現産物の非還元性SDS-PAGEである。
図8】MHC-Iエレメントに基づいて構築されたMHL147-3322-IgG1-wt二重特異性抗体の構造概略図である。
図9】MHC-Iエレメントに基づいて構築されたMHL147-3322-IgG1-F118A二重特異性抗体の構造概略図である。
図10】異なる濃度の二重特異性抗体MHL147-3322-IgG1-wtとMHL147-3322-IgG1-F118Aが赤血球凝集に及ぼす影響である。
図11】抗体HZ5G11とHZ14A9のCLにF118Aを導入した後の非還元性SDS-PAGEである。
図12】本発明の二重特異性抗体のいくつかの例示的な構造形態図であり、(A)FcポリペプチドのN末端にそれぞれ連結された特異性の異なるMHC修飾抗原結合部分(第1抗原結合部分)とFabの「1+1」の形態であり、(B)Fcポリペプチドにそれぞれ連結された特異性の異なるMHC修飾抗原結合部分(第1抗原結合部分であって、Cα及びCβの配向が(A)と異なる)とFabの「1+1」の形態であり、(C)第1抗原結合部分と一方のFabがそれぞれFcポリペプチドに連結され、他方のFabが第1抗原結合部分のN末端に連結された「2+1」の形態であり、(D)(C)とは異なり、2つのFabが直列連結された「2+1」の形態であり、(E)2つのFabがそれぞれFcポリペプチドに連結され、第1抗原結合部分が1つのFabのN末端に連結された「2+1」の形態であり、(F)(E)とは異なり、第1抗原結合部分がFcポリペプチドのC末端に連結された「2+1」の形態であり、(G)抗原結合部分がFcのN末端に連結された「2+2」の形態であり、(H)第1抗原結合部分がすべてFcのC末端に連結された「2+2」の形態である。Fcドメインはまた、KIHなどのアミノ酸置換を持ってもよく、CLはF118Aを持ってもよいが、この例では、アミノ酸置換が示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[用語]
「抗体」という用語は、本明細書において最も広い意味で使用され、抗原結合部分を含むタンパク質を指し、モノクローナル抗体、単一特異性抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体、三重特異性抗体など)、一本鎖抗体などを含むが、これらに限定されない、様々な構造の天然抗体及び人工抗体を包含する。
【0032】
「多重特異性」という用語は、抗体が少なくとも2つの異なる抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。一般に、二重特異性抗体は2つの抗原結合部分を含み、それぞれが異なる抗原決定基に特異的である。異なる抗原決定基は、同一又は異なる細胞上で発現することができる。異なる抗原決定基は抗原の種類(例えば結合抗原PDL1とCD47)によって異なってもよいし、同じ種類の抗原上に存在してもよい。抗原決定基は、抗原物質分子の表面やその他の部位で一定の組成と構造の特殊な化学基を持ち、それに対応する抗体や感作性リンパ球と特異的に結合する構造である。抗原決定基の一例として、抗原決定基CD47は、構造が決定された複数の抗原決定基又は構造が決定されていない複数の抗原決定基を有する抗原物質である。1つの特定の二重特異性抗体は、例えばPDL1及びCD47に結合することができる。
【0033】
用語「特異的結合」は、結合が抗原に対して選択的であり、不必要又は非特異的な相互作用から区別できることを意味する。
【0034】
「…価」抗体という用語は、抗体中に存在する抗原結合部位の数を意味する。「2価」抗体は抗体に2つの抗原結合部位が存在すること、「3価」は抗体に3つの抗原結合部位が存在することを意味する。天然のヒト免疫グロブリン分子は通常2つの抗原結合部位を有し、Fabは通常1つの抗原結合部位を有する。単一可変ドメイン、ScFvは通常単一抗原結合部位を有する。
【0035】
「抗原結合部分」という用語は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。具体的な抗原結合部分は、Fab、ScFv、単一可変ドメインなどであってもよい。本明細書における抗原決定基は抗原エピトープと同義である。
【0036】
抗原結合部分、抗原、重鎖可変ドメイン、軽鎖可変ドメイン、Fcポリペプチドなどに関して本発明で使用される用語「第1」、「第2」、又は「第3」は、それぞれのタイプの部分が1つ以上存在する場合の区別を容易にするために使用される。明示的に示されない限り、これらの用語は、二重特異性抗体の特定の順序又は配向を与えることを意図して使用されるものではない。
【0037】
「作動可能に連結される」又は「作動的に連結される」という用語は、スペーサー又はリンカーの有無にかかわらず、目的の方法で作用させるような関係にあるように、2つ以上の目的生物学的配列が並列されていることを意味する。ポリペプチドについて使用する場合、この用語は、連結された産物が目的の生物学的機能を有するように、ポリペプチド配列が連結されていることを意味することを意図している。例えば、抗体可変領域は、抗原結合活性を有する安定な産物を形成するために、定常領域に作動可能に連結され得る。前記用語は、ポリヌクレオチドについても使用することができる。例えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー配列など)に作動可能に連結されている場合、この用語は、前記ポリヌクレオチド配列が、前記ポリペプチドが前記ポリヌクレオチドによって調節された発現を可能にするように連結されていることを意味することを意図する。
【0038】
主要組織適合性複合体(MHC:major histocompatibility complex)は動物の主要組織適合性抗原をコードする遺伝子群の総称である。マウスのMHCはH-2遺伝子複合体と呼ばれ、ヒトのMHCはHLA(HLA:human leukocyte antigen)遺伝子複合体と呼ばれ、そのコード産物はHLA分子、HLA抗原やヒト白血球抗原と呼ばれる。HLA遺伝子複合体はヒト6番染色体の短腕6p21.3に位置し、同時に220以上の機能の異なる遺伝子を含む。これらの遺伝子の多くは免疫系のタンパク質をコードしている。MHC-クラスI分子はほぼすべての有核細胞表面に発現し、CD8+T細胞に認識される。MHC-クラスII分子は抗原提示細胞表面に発現し、CD4+T細胞に認識される。MHCは多型性を持ち、大部分の人は主に6種類の古典的なMHC分子、すなわち、3種類の古典的なMHC-クラスI分子(HLA-A、HLA-B、HLA-C)と3種類の古典的なMHC-クラスII分子(HLA-DR、HLA-DP、HLA-DQ)を含む。ヒトのMHC-クラスI分子(HLA-1)は重鎖(α鎖)とβミクログロブリン(βm、又はβ鎖)からなり、その中、α鎖の細胞外セグメントに3つのドメイン(α1、α2、α3)があり、膜の遠端の2つのドメインα1とα2は抗原結合溝を構成し、ドメインα3はヒト免疫グロブリンの定常領域と相同である。
【0039】
「可変ドメイン」又は「可変領域」という用語は、抗体と抗原との結合に関する抗体のドメインを意味する。例えば、天然の4本鎖抗体(例えば、ヒト、マウスなどに由来する)は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を有し、ラクダ科又はサメなどの動物に由来する重鎖抗体のみは、単一可変ドメインを有する。天然抗体の各可変ドメインは、実質的に4つの「フレームワーク領域」と3つの「相補性決定領域」からなる。4つのフレームワーク領域は、それぞれフレームワーク領域1(又はFR1)、フレームワーク領域2(又はFR2)、フレームワーク領域3(又はFR3)、及びフレームワーク領域4(又はFR4)と呼ばれる。前記フレームワーク領域は、当技術分野及び以下では、それぞれ相補性決定領域1(又はCDR1)、相補性決定領域2(又はCDR2)、及び相補性決定領域3(又はCDR3)と呼ばれる3つの相補性決定領域(又はCDR)によって間隔をあけて配置される。したがって、可変ドメインの一般的な構造は、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4と表される。可変ドメインは、抗原結合部位を有することにより、抗原に対する特異性を抗体に付与する。
【0040】
「CDR」(相補性決定領域)は、「超可変領域(HVR)」とも呼ばれる。天然の4本鎖抗体は、一般に6つのCDRを含み、3つは重鎖可変領域(HCDR1、HCDR2、及びHCDR3)にあり、3つは軽鎖可変領域(LCDR1、LCDR2、及びLCDR3)にある。重鎖抗体のみ又は単一可変ドメインは、通常、3つのCDR(CDR1、CDR2及びCDR3)を有する。
【0041】
現在、CDRを分割して定義する方法はいくつかある。その中で、Kabat定義は配列可変性に基づいてCDRを分割し、最も一般的に使用されている(Elvin A.Kabat, et al,Sequences of Proteins of Immunological Interest , 第5版, Public Health Service , National Institutes of Health , Bethesda , Md .(1991))。一方、Chothia定義は、構造ループの位置に基づいている(Cyrus Chothia, et al, Canonical Structures for the Hypervariable Regions of Immunoglobulins, J .Mol .Biol .196:901-917(1987))。AbM定義は、Kabat定義とChothia定義の間のトレードオフであり、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアで使用されている。「接触(contact)」がCDRを定義する基礎は、利用可能な複合体の結晶構造の解析である。ただし、異なる方法に基づいて定義され得られた同一抗体可変領域のCDRの境界は異なる可能性があること、すなわち、異なる方法に基づいて定義され得られた同一抗体可変領域のCDR配列は異なる可能性がある。したがって、本発明で定義された特定のCDR配列を用いて抗体を限定することに関連する場合、前記抗体の範囲は、他の任意の定義(例えば、Chothia、AbM定義など)に変換されたCDR配列によって限定された抗体をも包含する。
【0042】
「フレームワーク領域」又は「FR」という用語は、本明細書で定義されるCDR残基以外の可変ドメインのアミノ酸残基である。
【0043】
「Fab」という用語は、免疫グロブリンの重鎖のVHとCH1、軽鎖のVLとCLドメインからなるタンパク質を指す。本明細書において、Fabは、その天然型の又は修飾されたFabを意味し、これは、重鎖可変領域及び定常領域CH1からなるFab重鎖(VH-CH1、N-C末端方向)と、軽鎖可変領域及び定常領域CLからなるFab軽鎖(VL-CL、N-C末端方向)とを含む。修飾Fabは、例えば、CH1/CLドメイン又は/及びVH/VLドメインにアミノ酸置換が導入されたFabであってもよく、具体例として、修飾Fabは、CLドメインにアミノ酸置換が導入されたFabであってもよい。
【0044】
「Fc構造ドメイン」、「Fc」又は「Fcドメイン」という用語は、本明細書では、少なくとも部分的に定常領域を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語には、自然配列Fc及びバリアントFcが含まれる。FcのC末端リジン(Lys447)は存在していても、存在しなくてもよい。特に明記されていない限り、Fc中のアミノ酸残基の番号は、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに基づいており、(Kabat,E.Aら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版, Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD (1991) ,NIH Publication 91-3242)に記載されている。第1ペアードドメインと第2ペアードドメインがアミノ酸位置の記述に関わる場合、対応する配列の開始アミノ酸を第1位として順次番号を付けることを指し、例えば、SEQ ID NO:1におけるR60C置換とは、SEQ ID NO:1における最初のアミノ酸を位置1として順次番号を付け、当該配列における第60位のRをCに置換することを指す。本明細書で使用されるFcドメインのうちの1つの「Fcポリペプチド」は、ダイマーFc構造ドメインを形成する2つのポリペプチドのうちの1つを指す。例えば、IgG FcドメインのFcポリペプチドは、IgG CH2及びIgG CH3定常領域を含む。
【0045】
「KD」という用語は、本明細書で使用される場合、平衡解離定数を指し、モル濃度(M)で表される。抗体のKD値は、当業者に公知の方法を用いて測定することができる。抗体KDの測定方法の1つとして、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance)を用いて、例えば、Biacoreシステムのようなバイオセンサシステムを用いる。抗体KDの測定方法の1つとして、例えばForteBioシステムのような生物層干渉法(BLI:Bio-Layer Interferometry)を用いる。
【0046】
「治療」という用語は、治療対象の疾患の自然なプロセスを変更しようとする試みを指し、予防的又は臨床病理学のプロセスの間に実施される臨床的介入とすることができる。治療の期待される効果には、疾患の発症又は再発の予防、症状の緩和、疾患のいかなる直接的又は間接的な病理学的結果の低下、転移の予防、疾患の進行率の低下、疾患状態の改善又は軽減、及び退治又は予後改善が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
「被験体」という用語は、任意のヒト又は非ヒト動物を含む。「非ヒト動物」という用語は、哺乳類、及び非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などの非哺乳類などのすべての脊椎動物を含む。本発明に係る被験体は、ヒトであることが好ましい。明示されていない限り、「患者」又は「被験体」という用語は、交換して使用されてもよい。
【0048】
「単離」という用語は、その天然環境から単離された標的化合物(例えば、VHH、多重特異性抗体、抗体、又は核酸)を意味する。
【0049】
アミノ酸配列の「同一性のパーセント(%)」とは、アラインメントすべき配列を本明細書に示す特定のアミノ酸配列とアラインメントし、必要に応じて配列同一性の最大パーセントを達成するためにキャップを導入した後、配列同一性の一部としていかなる保存的置換を考慮せずに、アラインメントすべき配列のうち本明細書に示す特定のアミノ酸配列のアミノ酸残基と同じアミノ酸残基のパーセントをいう。同一性のアミノ酸配列アラインメントは、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなど、当該分野における多くの方法で実施できる。当業者は、比較配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要ないかなるアルゴリズムを含む、配列のアラインメントに用いる適切なパラメータを決定することができる。
【0050】
本発明の文脈において、アミノ酸置換は、原アミノ酸-位置-置換アミノ酸として表され、アミノ酸残基は、コードXaa及びXを含む3文字コード又は1文字コードを使用して表される。したがって、例えば「H435R」は、435位でのアミノ酸Hをアミノ酸Rに置換することを意味し、置換されたアミノ酸は、1つより多く含むことができ、例えば、T366Y/Wは、366位でのアミノ酸Tをアミノ酸Y又はWに置換することを意味する。
【0051】
用語「含む」、「含有」、又は「包含」、及びそれらの変形は、「含むが限定されない」と理解されるべきであり、記載されたエレメント、構成エレメント、及びステップに加えて、他の不特定のエレメント、構成エレメント、及びステップが含まれ得ることを意味する。
【0052】
本明細書では、文脈上別段に明示的に規定されない限り、単数の用語は複数形をカバーし、その逆も同様である。
【0053】
すべての特許、特許出願及び他の特定された出版物は、説明及び開示の目的のために、ここにおいて明示的に本明細書に引用によって組み込まれる。これらの出版物は、その公開が出願の出願日より前であることのみを理由として提供される。これらの文献の日付又は文献の内容に関するすべての表示は、出願人が入手可能な情報に基づくものであり、文献の日付又は文献の内容の正当性に関するいかなる承認も構成しないものとする。さらに、いずれの国においても、本明細書におけるこれらの出版物へのいかなる引用も、その出版物がその分野の公知の常識の一部であるという認識を構成するものではない。本発明の様々な態様は、以下のセクションにおいてさらに詳細に説明される。
【0054】
本発明の様々な態様について、以下のセクションでさらに詳細に説明する。
【0055】
[二重特異性抗体]
本発明は、抗原結合部分のうちの1つの定常領域を改変することにより、異なる特異性の重鎖及び軽鎖のミスマッチを防止又は低減させることができる二重特異性抗体を構築し、目的抗体の収率又は/及び純度を向上させることができる。具体的には、ヒトMHC-I分子のα3ドメインとβ2ミクログロブリンを工学的に改変し、第1ペアードドメインと第2ペアードドメインを構築して抗体のCH1とCLドメインを置換することで、例えば第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分がすべて天然Fabの対応部分である場合に比べて、前記第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分にミスマッチが発生しにくいように、鎖のミスマッチを改善する。
【0056】
現在、生物薬の免疫原性の由来は主に内因性と外因性に分けられる。内因性免疫原性は、非ヒト由来のアミノ酸配列、非ヒト由来の構造形態、及び一連の化学修飾(点突然変異、ドメイン融合、糖型改変など)に由来する。外因性免疫原性は主に生産技術、薬品輸送、患者の遺伝背景、薬剤使用量、投与頻度や方式などに由来する。生物薬の種類と量が次第に増加し、その応用が広がるのに伴い、免疫原性と関連する問題も人々により高く注目されてきた。MHC(主要組織適合性複合体)は免疫系による識別の基礎であり、生体の適応免疫プロセスに関与する。MHC分子組成に基づいて二重特異性抗体を設計することは人体免疫環境と良好な互換性がある。MHC-クラスII分子に対して、MHC-クラスI分子は広く分布しており、ほぼすべての有核細胞表面に発現し、CD8+T細胞に認識される。HLA-I分子のうち、HLA-I-BクラスのヒトのMHC-I分子の数が最も多いため、HLA-I-BクラスのヒトのMHC-I分子の定常領域に基づいて二重特異性抗体の構造エレメントを構築することで、免疫原性リスクを低減することができる。
【0057】
さらに、HLA-I-BクラスのヒトのMHC-I分子の定常領域は、N-が連結するとともにO-が連結するグリコシル化部位を含まず、開発性が良好で免疫原性が低い。
【0058】
実験により、改変して構築した二重特異性抗体は依然として良好な抗原結合性能を持っていることを発見した。
【0059】
本発明による二重特異性抗体は、2つの異なる抗原又は同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合する第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分を含み、前記第1抗原結合部分は、
N末端からC末端まで、第1重鎖可変ドメイン及び前記第1重鎖可変ドメインに作動可能に連結された第1ペアードドメインを含む第1ポリペプチドと、
N末端からC末端まで、第1軽鎖可変ドメイン及び前記第1軽鎖可変ドメインに作動可能に連結された第2ペアードドメインを含む第2ポリペプチドと、を含み、
ここで、前記第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインのうちの一方のペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含み、他方のペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、前記第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインは二量体を形成でき、前記第1ペアードドメインと第2ペアードドメインとの間に少なくとも1つの非天然鎖間結合を形成でき、且つ前記非天然鎖間結合は前記二量体を安定化させることができる。
【0061】
第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインは、第1抗原結合部分の異なる位置に配向している(例えば、軽鎖可変領域又は重鎖可変領域に連結している)場合にも、抗原に対して優れた結合親和性を有する二量体を形成することができる。
【0062】
一実施形態では、前記第1ペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含み、前記第2ペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含む。
【0063】
別の実施形態では、前記第1ペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含み、前記第2ペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含む。
【0064】
非天然鎖間結合は、第1ペアードドメインと第2ペアードドメインとによって形成される二量体を安定化させることができ、前記非天然鎖間結合を形成するアミノ酸残基は、第1ペアードドメインと第2ペアードドメインとの接触界面にあり、効果的に結合を形成し得る。「接触界面」という用語は、前記ポリペプチドが相互に作用/会合する、前記ポリペプチドの特定の領域を意味する。接触界面は1つ又は複数のアミノ酸残基を含み、相互作用の際に接触又は会合した対応するアミノ酸残基と相互作用することができる。接触界面でのアミノ酸残基は、連続した配列に存在していてもよいし、存在していなくてもよい。例えば、前記界面が3次元である場合、前記界面内のアミノ酸残基は、線状配列上の異なる位置に個別に配置されていてもよい。
【0065】
前記非天然鎖間結合の数は1~3個、例えば1個、2個又は3個であってもよく、天然抗体にできるだけ類似するように、前記非天然鎖間結合の数は1個であることが好ましい。一実施形態では、前記非天然鎖間結合はジスルフィド結合である。
【0066】
いくつかの実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有し、前記工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有する。いくつかの実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列、工学的改変β2ミクログロブリンは、それぞれ、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2で示される配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有する。
【0067】
SEQ ID NO:1で示される配列は複数のHLA-I-Bクラス分子の定常領域配列をアライメントして生成した一致性配列に由来し、それを利用するか或いはそれを改変してペアードドメインを形成することには良好な汎用性がある。
【0068】
いくつかの実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3は、SEQ ID NO:1においてアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンは、SEQ ID NO:2においてアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。
【0069】
工学的改変HLA-Iα3、工学的改変β2ミクログロブリン中の前記アミノ酸置換は、非天然鎖間結合(例えば、ジスルフィド結合)を形成するアミノ酸置換、又は/及びペアードドメインによって形成された二量体又は二重特異性抗体を向上させるアミノン酸置換を含む。
【0070】
いくつかの実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3と工学的改変β2ミクログロブリン中の前記アミノ酸置換はいずれも両方の接触界面で発生し、且つ互いにジスルフィド結合を形成し得るシステイン残基置換を含む。1つの具体的な実施形態では、前記システイン残基は、SEQ ID NO:1におけるR60C及びSEQ ID NO:2におけるY26Cに置換される。1つの具体的な実施形態では、前記システイン残基は、SEQ ID NO:1におけるA62C及びSEQ ID NO:2におけるR12Cに置換される。1つの具体的な実施形態では、前記システイン残基は、SEQ ID NO:1におけるG63C及びSEQ ID NO:2におけるY67Cに置換される。別の具体的な実施形態では、前記システイン残基置換は、上記のR60C/Y26C、A62C/R12C、G63C/Y67Cから選択される2対又は3対であってもよい。
【0071】
いくつかの実施形態では、前記工学的改変HLA-Iα3又は/及び工学的改変β2ミクログロブリン中のアミノ酸置換は、ペアードドメインによって形成された二量体又は二重特異性抗体の等電点を向上させるアミノ酸置換を含む。これらのアミノ酸置換は、2つのペアードドメインの両方、又はいずれか1つのペアードドメインで発生することができる。生産プロセスの開発を容易にし、薬剤化性を改善するために、一般的に、ペアードドメインによって形成された二量体又は二重特異性抗体の等電点を6.5~9.0に向上させる。いくつかの実施形態では、ペアードドメインによって形成された二量体又は二重特異性抗体の等電点を、6.5~8.5、7.0~8.5、7.0~9.0、7.0~7.8、7.0~8.0、7.5~7.8又は7.5~8.0に向上させる。いくつかの具体的な実施形態では、ペアードドメインによって形成された二量体又は二重特異性抗体の等電点を、6.5、6.7、6.9、7.1、7.3、7.5、7.7、7.8、7.9、8.0、8.2、8.3、8.5、8.7又は9.0に向上させる。等電点は実験的に測定し、理論的に計算することができ、等電点の理論的な計算は、例えば、オンライン計算解析ツールExpasy-Compute pI/Mw tool (http://web.expasy.org/compute_pi/)を使用することができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、等電点を向上させるアミノ酸置換は、工学的改変HLA-Iα3においてSEQ ID NO:1配列のE3、D22、E48、D53、E90、E101のうちの1つ又は複数位置で正に帯電したアミノ酸により置換されていることを含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、等電点を向上させるアミノ酸置換は、工学的改変β2ミクログロブリンにおいてSEQ ID NO:2配列のE74、E47、E69、D34、E16、D53、E44、E50、E36のうちの1つ又は複数の位置で正に帯電したアミノ酸により置換されていることを含む。
【0074】
いくつかの具体的な実施形態では、等電点を向上させるアミノ酸置換は、前記工学的改変HLA-Iα3がSEQ ID NO:1配列のD22、E48及びD53の位置で正に帯電したアミノ酸により置換され、前記工学的改変β2ミクログロブリンがSEQ ID NO:2配列のE69の位置で正に帯電したアミノ酸により置換されていることを含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、正の電気的アミノ酸はK又はRである。
【0076】
1つのより具体的な実施形態では、等電点を向上させるアミノ酸置換は、前記工学的改変HLA-Iα3がSEQ ID NO:1配列でアミノ酸置換D22R、E48K及びD53Kを含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンがSEQ ID NO:2配列でアミノ酸置換E69Rを含むことを含む。
【0077】
いくつかのより具体的な実施形態では、前記アミノ酸置換は、前記工学的改変HLA-Iα3がSEQ ID NO:1配列においてアミノ酸置換A62C、D22R、E48K及びD53Kを含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンがSEQ ID NO:2配列においてアミノ酸置換R12C、E69Rを含むことを含む。さらなる形態では、前記工学的改変β2ミクログロブリンは、SEQ ID NO:2配列のカルボキシル末端に付加された「GP」を含む。
【0078】
具体例として、前記工学的改変HLA-Iα3はSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンはSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含む。
【0079】
別の例として、前記工学的改変HLA-Iα3はSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンはSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む。
【0080】
いくつかの実施形態では、前記第2抗原結合部分は、第2重鎖可変ドメイン及び第2軽鎖可変ドメインを含む。前記第2抗原結合部分は、本発明に記載の第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインを含まない。1つの具体的な実施形態では、前記第2抗原結合部分はFabを含む。前記第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分は、2つの異なる抗原又は同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合し、いくつかの実施形態では、前記第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分は、それぞれの抗原に1価で結合する。
【0081】
いくつかの実施形態では、EU番号により、前記FabのCLドメインのT/S114、T/F116、F118位にある1つ又は複数が疎水性アミノ酸に置換され、いくつかの実施形態では、前記疎水性アミノ酸は、メチオニン、アラニン、バリン、イソロイシン、又はロイシンなどの非芳香族から選択される。第2抗原結合部分のFabのCLドメインに適切なアミノ酸置換を導入することにより、軽鎖と重鎖のミスマッチをさらに低減することができる。具体例としては、EU番号により、前記FabのCLドメインのF118位にあるアミノ酸はアラニン(A)に置換されている。別の実施形態では、前記FabのCLドメインはEU番号によるF118位でアラニンに置換され、前記CLドメインは、例えば、工学的改変HLA-Iα3を含むペアードドメインとのCLのミスマッチをさらに低減するような他の置換も含む。
【0082】
いくつかの実施形態では、前記CLドメインは、ヒトκ軽鎖CLドメイン又はヒトλ軽鎖CLドメインに由来することができる。具体例として、F118Aを含むCLドメインは、SEQ ID NO:44で示されるアミノ酸配列を含む。具体例として、F118Aを含むCLドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:44で示される。
【0083】
いくつかの実施形態では、前記FabのCH1ドメインは、ヒトIgG(IgG1-4)、IgM、IgA、IgD、又はIgEのCH1ドメインであってもよく、具体例としては、前記FabのCH1ドメインはヒトIgG1のCH1ドメインである。具体例として、CH1のドメインは、SEQ ID NO:34で示されるアミノ酸配列を含む。具体例として、CH1のドメインのアミノ酸配列はSEQ ID NO:34で示される。具体例として、前記FabのCH1ドメインはヒトIgG4のCH1ドメインである。
【0084】
SEQ ID NO:34で示されるアミノ酸配列は以下のとおりである。
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKV
SEQ ID NO:35で示されるアミノ酸配列は以下のとおりである。
RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
SEQ ID NO:44で示されるアミノ酸配列は以下のとおりである。
RTVAAPSVFIAPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0085】
いくつかの具体的な実施形態では、前記FabのCLドメインのF118位にあるアミノ酸はアラニンに置換され、前記FabのCH1ドメインは128位(EU番号)、141位(EU番号)、185位(EU番号)、11位(IMGT番号)、28位(IMGT番号)、又は139位(Kabat番号)にアミノ酸置換を含まない。別の実施形態では、前記FabのCLドメインは、EU番号によるF118位でアラニンに置換され、前記CLドメインは、他の置換(例えば、工学的改変HLA-Iα3を含むペアードドメインとのCLのミスマッチをさらに低減する置換)をさらに含み、前記FabのCH1ドメインは、128位(EU番号)、141位(EU番号)、185位(EU番号)、11位(IMGT番号)、28位(IMGT番号)、又は139位(Kabat番号)にアミノ酸置換を含まない。
【0086】
いくつかの具体的な実施形態では、前記FabのCLドメインのF118位にあるアミノ酸はアラニンに置換され、前記FabのCH1ドメインは、L128F(EU番号)、A141L位(EU番号)、V185A/L(EU番号)、L11K/F/W(IMGT番号)、L28N/R(IMGT番号)、又はA139W/V/I(Kabat番号)のアミノ酸置換を含まない。別の実施形態では、前記FabのCLドメインは、EU番号によるF118位でアラニンに置換され、前記CLドメインは他の置換(例えば、工学的改変HLA-Iα3を含むペアードドメインとのCLのミスマッチをさらに低減する置換)をさらに含み、前記FabのCH1ドメインは、L128F(EU番号)、A141L位(EU番号)、V185A/L(EU番号)、L11K/F/W(IMGT番号)、L28N/R(IMGT番号)、又はA139W/V/I(Kabat番号)のアミノ酸置換を含まない。
【0087】
いくつかの具体的な実施形態では、前記FabのCLドメインのF118位にあるアミノ酸はアラニンに置換され、前記FabのCH1ドメインは、野生型免疫グロブリンのCH1ドメイン、例えばヒトIgGのCH1ドメインを用いる。別の実施形態では、前記FabのCLドメインはEU番号によるF118位でアラニンに置換され、前記CLドメインは他の置換(例えば、工学的改変HLA-Iα3を含むペアードドメインとのCLのミスマッチをさらに低減する置換)をさらに含み、前記FabのCLドメインは、野生型免疫グロブリンのCH1ドメイン、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)のCH1ドメインを用いる。
【0088】
いくつかの具体的な実施形態では、前記FabのCLドメインは、SEQ ID NO:44で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記FabのCH1ドメインは、SEQ ID NO:34で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。さらに、本実施形態では、前記FabのCLドメインは、F118Aを含む。さらに、本実施形態では、前記FabのCH1ドメインは野生型免疫グロブリンのCH1ドメインであり、又は、前記FabのCH1ドメインは、128位(EU番号)、141位(EU番号)、185位(EU番号)、11位(IMGT番号)、28位(IMGT番号)、又は139位(Kabat番号)にアミノ酸置換を含まない。
【0089】
いくつかの具体的な実施形態では、前記FabのCLドメインはSEQ ID NO:44で示されるアミノ酸配列を含み、前記FabのCH1ドメインはSEQ ID NO:34で示されるアミノ酸配列を含む。
【0090】
いくつかの具体的な実施形態では、前記FabのCLドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:44で示され、前記FabのCH1ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:34で示される。
【0091】
いくつかの実施形態では、前記第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分の一方はT細胞特異的受容体分子及び/又はナチュラルキラー細胞特異的受容体分子に結合し、他方は腫瘍関連抗原に結合する。
【0092】
T細胞特異的受容体分子は、T細胞の結合を可能にし、追加のシグナルが存在する場合、抗原提示細胞又はAPCと呼ばれる別の細胞によって提示されたエピトープ/抗原によって活性化され、それに応答する。T細胞特異的受容体分子は、TCR、CD3、CD28、CD134(OX40とも呼ばれる)、4-1BB、CD5、又はCD95(Fas受容体とも呼ばれる)であり得る。
【0093】
NK細胞特異的受容体分子の例としては、CD16、低親和性Fc受容体とNKG2D、及びCD2が含まれる。
【0094】
「腫瘍関連抗原」という用語は、腫瘍細胞の表面に提示されるか、又は腫瘍細胞の表面に提示され得るとともに、腫瘍細胞上又は腫瘍細胞内に存在する抗原を意味する。いくつかの実施形態では、腫瘍関連抗原は、正常細胞すなわち非腫瘍細胞ではなく、腫瘍細胞のみによって提示されてもよい。他のいくつかの実施形態では、腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞上でのみ発現することができ、又は非腫瘍細胞と比較して腫瘍特異的突然変異を表すことができる。他のいくつかの実施形態では、腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞及び非腫瘍細胞において見出されてもよいが、非腫瘍細胞と比較して腫瘍細胞上で過剰に発現され、又は非腫瘍組織と比較して腫瘍組織のあまり密でない構造のために、腫瘍細胞内で抗体に結合してもよい。いくつかの実施形態では、腫瘍関連抗原は、腫瘍の脈管系上に位置する。いくつかの例示的な腫瘍関連抗原は、CD38、CD47、PD-L1、PD-1などである。
【0095】
いくつかの実施形態では、前記第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分の一方はCD3に特異的に結合し、他方は腫瘍関連抗原に特異的に結合する。例えば、第1抗原結合部分はCD3に特異的に結合し、第2抗原結合部分は腫瘍関連抗原に特異的に結合し、又は、第2抗原結合部分はCD3に特異的に結合し、第1抗原結合部分は腫瘍関連抗原に特異的に結合する。いくつかの具体例では、第1抗原結合部分はCD3に特異的に結合し、第2抗原結合部分はCD38に特異的に結合し、又は、前記第1抗原結合部分はCD38に特異的に結合し、第2抗原結合部分はCD3に特異的に結合する。
【0096】
いくつかの実施形態では、前記第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分は、いずれも腫瘍関連抗原に特異的に結合する。いくつかの具体例では、前記第1抗原結合部分はPD-L1に特異的に結合し、第2抗原結合部分はCD47に特異的に結合し、又は、前記第1抗原結合部分はCD47に特異的に結合し、第2抗原結合部分はPD-L1に特異的に結合する。
【0097】
いくつかの実施形態では、前記二重特異性抗体は、安定に会合可能なる2つのFcポリペプチドからなるFcドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記二重特異性抗体は2価である。
【0098】
いくつかの実施形態では、前記第1抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される。いくつかのより具体的な実施形態では、前記第1抗原結合部分の第1ポリペプチドは、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、Fabを含み、そのFab重鎖がそのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される。いくつかのより具体的な実施形態では、第1抗原結合部分の第1ポリペプチドは、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、第2抗原結合部分は、Fabを含み、そのFab軽鎖がそのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される。
【0099】
いくつかの実施形態では、前記二重特異性抗体は、第3抗原結合部分をさらに含む。いくつかの具体的な実施形態では、前記二重特異性抗体の抗原に対する結合は3価である。
【0100】
いくつかの実施形態では、前記第3抗原結合部分は、第2抗原結合部分と同じ抗原エピトープに結合し、好ましくは、前記第3抗原結合部分は、第2抗原結合部分と同一である。別の実施形態では、前記第3抗原結合部分は、第1抗原結合部分と同じ抗原エピトープに結合し、好ましくは、前記第3抗原結合部分は、第1抗原結合部分と同一である。
【0101】
いくつかの実施形態では、前記第3抗原結合部分は、第1抗原結合部分のN末端又はC末端に作動的に連結される。
【0102】
別の実施形態では、前記第3抗原結合部分は、第2抗原結合部分のN末端又はC末端に作動的に連結される。
【0103】
いくつかの実施形態では、前記二重特異性抗体は、第3抗原結合部分を含み、安定に会合可能な2つのFcポリペプチドからなるFcドメインをさらに含む。
【0104】
いくつかの具体的な実施形態では、前記第1抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第3抗原結合部分は、そのC末端において第1抗原結合部分のN末端又は第2抗原結合部分のN末端に作動的に連結される。
【0105】
他の具体的な実施形態では、前記第3抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第1抗原結合部分は、そのC末端において前記第3抗原結合部分のN末端に作動的に連結され、第2抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される。
【0106】
他の具体的な実施形態では、前記第3抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、そのC末端において前記第3抗原結合部分のN末端に作動的に連結され、第1抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される。
【0107】
第1抗原結合部分への上記第3抗原結合部分の作動的な連結は、ペプチドリンカーを介した連結であってもよい。
【0108】
第2抗原結合部分への上記第3抗原結合部分の作動的な連結は、ペプチドリンカーを介した連結であってもよい。ペプチドリンカーは、任意の適切なものを用いることができ、例えば、帯電性及び/又は柔軟なリンカーポリペプチドとしてもよい。具体的な実施形態では、ペプチドリンカーは、ペプチド結合を介して連結された1~50個のアミノ酸からなり、前記アミノ酸は、天然に存在する20個のアミノ酸から選択され、より好ましい実施形態では、1~50個のアミノ酸は、グリシン、アラニン、プロリン、セリン、アスパラギン、グルタミン及びリジンから選択される。したがって、例示的なペプチドリンカーは、ポリグリシン(特に(Gly)4、(Gly)5)、ポリ(Gly-Ser)、(Gly)3AsnGlySer(Gly)2、(Gly)3Cys(Gly)4、GlyProAsnGlyGly、又は特許出願WO2019195535の表4に開示されているものなどであり得る。いくつかの実施形態では、前記ペプチドリンカーはグリシン及びセリンからなるペプチドリンカーであってもよい。いくつかの実施形態では、前記ペプチドリンカーが含むアミノ酸の数は、0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、又は20個以上であってもよい。
【0109】
抗原結合部分がFcドメイン又はFcポリペプチドに作動的に連結される場合、典型的にはヒンジ領域を介して連結する。ヒンジは、例えば、ヒトIgGのヒンジ領域のアミノ酸を含む。
【0110】
[Fcドメイン]
二重特異性抗体のFcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖からなる。例えば、免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは二量体であり、その各FcポリペプチドはCH2及びCH3 IgG重鎖定常領域を含む。Fcドメインの2つのFcポリペプチドは、互いに安定に会合することができる。例えば、2つのFcポリペプチドは、リンカー、ジスルフィド結合、水素結合、静電的相互作用、塩橋、疎水性-親水性相互作用のうちの1つ又はいくつかを介して安定に会合する。一実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、1つのFcドメインを含む。
【0111】
一実施形態では、二重特異性抗体のFcドメインはIgG Fcドメインである。1つの具体的な実施形態では、FcドメインはIgG1 Fcドメインである。別の実施形態では、FcドメインはIgG4 Fcドメインである。1つのより具体的な実施形態では、Fcドメインは、S228位でのアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228Pを含むIgG4 Fcドメインであり、このアミノ酸置換はIgG4抗体のインビボFabアーム交換を減少させる。さらに別の具体的な実施形態では、FcドメインはヒトFcドメインである。より具体的な実施形態では、FcドメインはヒトIgG1 Fcドメインである。
【0112】
いくつかの実施形態では、前記Fcドメインは、アミノ酸置換などの修飾を含む。前記修飾は、例えば、ヘテロ二量化を促進する修飾、エフェクターの機能を変化させる修飾、Aタンパク質との結合能を変化させる修飾などであってもよい。
【0113】
いくつかの実施形態では、前記Fcドメインはヘテロ二量化を促進する修飾を含む。
【0114】
本発明の二重特異性抗体は、Fcドメインの2つのFcポリペプチドの一方又は他方に融合する異なる抗原結合部分を含み、したがって、2つのFcポリペプチドは、通常、2つの異なるポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチドの組換え共発現及びその後の二量化は、2つのポリペプチドのいくつかの可能な組み合わせを生成する。組換え産生における多重特異性抗体の収率及び純度を向上させるためには、この二重特異性抗体のFcドメインに所望のポリペプチド結合を促進する修飾を導入することが有利である。したがって、具体的な実施形態では、前記Fcドメインは、前記Fcドメインの2つのFcポリペプチドの会合を促進するアミノ酸置換を含む。
【0115】
ヒトIgG Fcドメインの2つのFcポリペプチド間の最も広範なタンパク質-タンパク質相互作用部位は、FcドメインのCH3ドメインにある。したがって、一実施形態では、この修飾は、FcドメインのCH3ドメインにある。
【0116】
具体的な実施形態では、この修飾は、Fcドメインの2つのFcポリペプチドのうちの1つにおける「ノブ」修飾と、Fcドメインの2つのFcポリペプチドのうちの他方における「ホール」修飾とを含む、いわゆるノブイントゥーホール(knob-into-hole)修飾である。一般に、この方法は、一方のFcポリペプチドの界面に突起(「ノブ」)を導入し、他方のFcポリペプチドの界面に対応する凹部(「ホール」)を導入し、この凹部内に突起が位置決めされることで、ヘテロダイマー形成を促進し、ホモダイマー形成を妨げることを可能にする。一方のFcポリペプチドの界面からの小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファンなど)に置換することにより、突起が構築される。大きなアミノ酸側鎖をより小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニン又はトレオニンなど)に置換することにより、他方のFcポリペプチドの界面に突起と同一又は類似の大きさを有する相補的な凹部が形成される。
【0117】
したがって、具体的な実施形態では、この二重特異性抗体の一方のFcポリペプチドのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基を側鎖体積のより大きなアミノ酸残基で置換することにより、当該FcポリペプチドのCH3ドメインにおいて他方のFcポリペプチドのCH3ドメインの凹部に位置決めすることができる突起を形成し、他方のFcポリペプチドのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基を側鎖体積のより小さなアミノ酸残基で置換することにより、当該FcポリペプチドのCH3ドメインにおいて凹部を形成することができる。
【0118】
いくつかの特定実施形態では、Fcドメインの一方のFcポリペプチドは、T366Y/W又は/及びS354Cを含み、他方のFcポリペプチドは、Y407T/V、Y349C、T366S又は/及びL368Aを含む。より具体例として、前記Fcドメインの一方のFcポリペプチドは、アミノ酸置換T366Y/W及びS354Cを含み、他方のFcポリペプチドは、アミノ酸置換Y407T/V、Y349C、T366S及びL368Aを含む。より具体例では、FcはヒトIgG1のFcであってもよい。
【0119】
いくつかの実施形態では、前記Fcドメインは、Fcドメイン内の1つのFcポリペプチドのCH3領域とAタンパク質(Protein A from Staphylococcus aureus)との結合を減少又は排除する修飾を含む。いくつかの実施形態では、この修飾はアミノ酸置換である。いくつかの実施形態では、前記Fcドメインは、一方のFcポリペプチドでのみ発生し、他方のFcポリペプチドでは発生しないアミノ酸置換H435R又は/及びY436Fを含む。1つの具体的な実施形態では、前記Fcドメインは、Fcポリペプチドの一方でのみ発生するアミノ酸置換H435R又は/及びY436Fを含む。このような具体的な実施形態では、このFcはIgG1Fcであり、特にヒトIgG1Fcである。
【0120】
[組成物]
本発明は、二重特異性抗体を含む医薬組成物であって、1種又は複数種の薬学的に許容される担体をさらに含む医薬組成物を提供する。薬学的に許容される担体は、例えば、賦形剤、希釈剤、カプセル化剤、充填剤、緩衝剤、又は他の試薬を含む。
【0121】
[単離核酸]
本発明は、前記二重特異性抗体をコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。いくつかの二重特異性抗体のポリペプチド鎖の核酸配列が、配列表に例示的に列挙されている。
【0122】
[ベクター]
本発明は、前記ポリヌクレオチドを含む単離ベクターを提供する。いくつかの実施形態では、前記ベクターはクローニングベクターであり、別の実施形態では、前記ベクターは発現ベクターであり、具体例として、発現ベクターはpcDNA3.1である。前記発現ベクターは、本明細書に記載の多重特異性抗体を発現することができる任意の発現ベクターであってもよい。
【0123】
[ホスト細胞]
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明のベクター又はポリヌクレオチドを含むホスト細胞を提供し、このホスト細胞は、多重特異性抗体をクローニング又はコードするのに適切なホスト細胞である。いくつかの実施形態では、ホスト細胞は原核細胞である。別の実施形態では、ホスト細胞は真核細胞である。いくつかの実施形態では、ホスト細胞は、酵母細胞、哺乳細胞、又は多重特異性抗体の製造に適した他の細胞から選択される。哺乳細胞は、例えば、チャイニーズハムスター(CHO)卵巣細胞、CHO-S細胞である。
【0124】
[二重特異性抗体の発現方法]
本発明は、本発明の二重特異性抗体の発現方法であって、前記二重特異性抗体が発現される条件下でホスト細胞を培養することを含む方法を提供する。
【0125】
前記二重特異性抗体を産生するために、前記二重特異性抗体をコードするポリヌクレオチドを単離し、ホスト細胞内でさらにクローニング又は/及び発現するために1つ又は複数のベクターに挿入する。前記ポリヌクレオチドは、遺伝子スプライシング、化学合成など、当業者に周知の様々な方法を用いて取得することができる。
【0126】
[コンジュゲート]
本発明は、本発明に記載の二重特異性抗体と、前記二重特異性抗体に結合又はコンジュゲートする治療薬と、を含む、コンジュゲートを提供する。
【0127】
[融合タンパク質]
本発明は、融合成分が本発明に記載の二重特異性抗体と融合して発現する融合タンパク質を提供する。遺伝子工学手段により融合タンパク質分子の構築と発現を実現することができる。
【0128】
[使用]
本発明は、本発明に記載の二重特異性抗体、医薬組成物、コンジュゲート又は融合タンパク質の治療有効量を被験体に投与することを含む、必要とされる被験体における疾患を治療するための方法を提供する。
【0129】
前記疾患の例は、癌であってもよく、いくつかの癌の例は、白血病、リンパ腫、骨髄腫、卵巣癌、乳癌、子宮内膜癌、結腸癌、直腸癌、腎臓癌、膀胱癌、尿路上皮癌、肺癌、気管支癌、骨癌、前立腺癌、膵臓癌、胃癌、肝細胞癌、胆嚢癌、胆管癌、食道癌、腎細胞癌、甲状腺癌、頭頸部癌、精巣癌、内分泌腺癌、副腎癌、下垂体癌、皮膚癌、軟部組織癌、血管癌、脳癌、神経癌、眼癌、髄膜癌、中咽頭癌、下咽頭癌、子宮頸部癌、子宮癌、神経膠芽腫、髄芽腫、星細胞腫、神経膠腫、髄膜腫、ガストリノーマ、神経芽腫、黒色腫、骨髄異形成症候群又は肉腫から選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0130】
本発明は、また、以下のいくつかの具体的な実施形態を提供するが、これらに限定されるものではない。
【0131】
実施形態1.2つの異なる抗原又は同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合する第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、
前記第1抗原結合部分は、
N末端からC末端まで、第1重鎖可変ドメイン及び前記第1重鎖可変ドメインに作動可能に連結された第1ペアードドメインを含む第1ポリペプチドと、
N末端からC末端まで、第1軽鎖可変ドメイン及び前記第1軽鎖可変ドメインに作動可能に連結された第2ペアードドメインを含む第2ポリペプチドと、を含み、
ここで、前記第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインのうちの一方のペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含み、他方のペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含む、二重特異性抗体。
実施形態2.前記第1ペアードドメイン及び第2ペアードドメインは二量体を形成でき、前記第1ペアードドメインと第2ペアードドメインとの間に少なくとも1つの非天然鎖間結合を形成でき、且つ前記非天然鎖間結合は前記二量体を安定化させることができる、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
実施形態3.前記第1ペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含み、前記第2ペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含む、実施形態1又は2に記載の二重特異性抗体。
実施形態4.前記第1ペアードドメインは、工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列を含み、前記第2ペアードドメインは、工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列を含む、実施形態1又は2に記載の二重特異性抗体。
実施形態5.前記非天然鎖間結合は1~3個、好ましくは1個である、実施形態1~4のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態6.前記非天然鎖間結合を形成するアミノ酸残基は、第1ペアードドメインと第2ペアードドメインとの接触界面にある、実施形態1~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態7.前記非天然鎖間結合はジスルフィド結合である、実施形態1~6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態8.前記工学的改変HLA-Iα3のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有し、前記工学的改変β2ミクログロブリンのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2で示される配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性を有する、実施形態1~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態9.前記工学的改変HLA-Iα3は、SEQ ID NO:1においてアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンは、SEQ ID NO:2においてアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、実施形態1~8のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態10.工学的改変HLA-Iα3及び工学的改変β2ミクログロブリン中の前記アミノ酸置換は、いずれも、両方の接触界面で発生し、互いにジスルフィド結合を形成し得るシステイン残基置換を含む、実施形態9に記載の二重特異性抗体。
実施形態11.前記システイン残基置換は次の群から選択される1対から複数対である、実施形態10に記載の二重特異性抗体。
(1)SEQ ID NO:1におけるR60CとSEQ ID NO:2におけるY26C
(2)SEQ ID NO:1におけるA62CとSEQ ID NO:2におけるR12C
(3)SEQ ID NO:1におけるG63CとSEQ ID NO:2におけるY67C
実施形態12.工学的改変HLA-Iα3又は/及び工学的改変β2ミクログロブリン中のアミノ酸置換は、ペアードドメインによって形成された二量体又は二重特異性抗体の等電点を向上させるアミノ酸置換を含む、実施形態9~11のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態13.ペアードドメインによって形成された二量体又は二重特異性抗体の等電点を6.5~9.0に向上させる、実施形態12に記載の二重特異性抗体。
実施形態14.等電点を向上させるアミノ酸置換は、工学的改変HLA-Iα3においてSEQ ID NO:1配列のE3、D22、E48、D53、E90、E101のうちの1つ又は複数の位置で正に帯電したアミノ酸により置換されていることを含む、実施形態12~13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態15.等電点を向上させるアミノ酸置換は、工学的改変β2ミクログロブリンにおいてSEQ ID NO:2配列のE74、E47、E69、D34、E16、D53、E44、E50、E36のうちの1つ又は複数の位置が正に帯電したアミノ酸により置換されていることを含む、実施形態12~14のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態16.等電点を向上させるアミノ酸置換は、前記工学的改変HLA-Iα3においてSEQ ID NO:1配列のD22、E48及びD53位が正に帯電したアミノ酸により置換され、前記工学的改変β2ミクログロブリンにおいてSEQ ID NO:2配列のE69位が正に帯電したアミノ酸により置換されていることを含む、実施形態15に記載の二重特異性抗体。
実施形態17.前記正に帯電したアミノ酸はK又はRである、実施形態14~16のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態18.等電点を向上させるアミノ酸置換は、前記工学的改変HLA-Iα3がSEQ ID NO:1配列でアミノ酸置換D22R、E48K及びD53Kを含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンがSEQ ID NO:2配列でアミノ酸置換E69Rを含むことを含む、実施形態12~13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態19.前記工学的改変HLA-Iα3は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンは、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含む、実施形態1~18のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態20.前記工学的改変HLA-Iα3は、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含み、前記工学的改変β2ミクログロブリンは、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、実施形態1~18のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態21.前記第2抗原結合部分は、第2重鎖可変ドメイン及び第2軽鎖可変ドメインを含む、実施形態1~20のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態22.前記第2抗原結合部分はFabを含む、実施形態1~21のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態23.EU番号により、前記FabのCLドメインのF118位にあるアミノ酸がアラニンで置換されている、実施形態22に記載の二重特異性抗体。
実施形態24.前記CLドメインは、SEQ ID NO:44で示されるアミノ酸配列を含む、実施形態23に記載の二重特異性抗体。
実施形態25.前記第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分の一方はT細胞特異的受容体分子及び/又はナチュラルキラー細胞特異的受容体分子に結合し、他方は腫瘍関連抗原に結合する、実施形態1~24のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態26.前記第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分の一方はCD3に特異的に結合し、他方は腫瘍関連抗原に特異的に結合する、実施形態1~24のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態27.前記第1抗原結合部分及び第2抗原結合部分の両方は腫瘍関連抗原に特異的に結合する、実施形態1~24のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態28.前記腫瘍関連抗原はCD38、CD47、PD-L1又はPD-1である、実施形態25~27のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態29.前記第1抗原結合部分はCD3に特異的に結合し、第2抗原結合部分はCD38に特異的に結合し、又は、第1抗原結合部分はCD38に特異的に結合し、第2抗原結合部分はCD3に特異的に結合する、実施形態26に記載の二重特異性抗体。
実施形態30.前記第1抗原結合部分はPD-L1に特異的に結合し、第2抗原結合部分はCD47に特異的に結合し、又は、第1抗原結合部分はCD47に特異的に結合し、第2抗原結合部分はPD-L1に特異的に結合する、実施形態27に記載の二重特異性抗体。
実施形態31.前記二重特異性抗体が2価である、実施形態1~30のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態32.第2抗原結合部分と同じ抗原エピトープに結合する第3抗原結合部分をさらに含み、好ましくは、前記第3抗原結合部分は、第2抗原結合部分と同一である、実施形態1~30のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態33.第1抗原結合部分と同じ抗原エピトープに結合する第3抗原結合部分をさらに含み、好ましくは、前記第3抗原結合部分は、第1抗原結合部分と同一である、実施形態1~30のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態34.前記第3抗原結合部分は第1抗原結合部分のN末端又はC末端に作動的に連結される、実施形態32又は33に記載の二重特異性抗体。
実施形態35.前記第3抗原結合部分は第2抗原結合部分のN末端又はC末端に作動的に連結される、実施形態32又は33に記載の二重特異性抗体。
実施形態36.前記二重特異性抗体が3価である、実施形態32~35のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態37.安定に会合可能な2つのFcポリペプチドからなるFcドメインをさらに含む、実施形態1~31のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態38.前記第1抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される、実施形態37に記載の二重特異性抗体。
実施形態39.前記第1抗原結合部分の第1ポリペプチドは、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、Fabを含み、そのFab重鎖がそのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される、実施形態38に記載の二重特異性抗体。
実施形態40.安定に会合可能な2つのFcポリペプチドからなるFcドメインをさらに含む、実施形態32~36のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態41.前記第1抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第3抗原結合部分は、そのC末端において第1抗原結合部分のN末端又は第2抗原結合部分のN末端に作動的に連結される、実施形態40に記載の二重特異性抗体。
実施形態42.前記第3抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第1抗原結合部分は、そのC末端において前記第3抗原結合部分のN末端に作動的に連結され、第2抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される、実施形態40に記載の二重特異性抗体。
実施形態43.前記第3抗原結合部分は、そのC末端において一方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結され、前記第2抗原結合部分は、そのC末端において前記第3抗原結合部分のN末端に作動的に連結され、第1抗原結合部分は、そのC末端において他方のFcポリペプチドのN末端に作動的に連結される、実施形態40に記載の二重特異性抗体。
実施形態44.第1抗原結合部分への前記第3抗原結合部分の作動的な連結はペプチドリンカーを介した連結であるか、又は第2抗原結合部分への前記第3抗原結合部分の作動的な連結はペプチドリンカーを介した連結である、実施形態41~43に記載の二重特異性抗体。
実施形態45.前記FcドメインはIgG Fcドメインである、実施形態37~44のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態46.前記IgG FcドメインはヒトIgG Fcドメイン、好ましくはヒトIgG1又はヒトIgG4のFcドメインである、実施形態45に記載の二重特異性抗体。
実施形態47.2つのFcポリペプチドは、リンカー、ジスルフィド結合、水素結合、静電的相互作用、塩橋、疎水性-親水性相互作用のうちの1つ又はいくつかを介して安定に会合する、実施形態37~46のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態48.前記Fcドメインは、前記Fcドメインの2つのFcポリペプチドの会合を促進する修飾を含む、実施形態37~47のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態49.EU番号により、前記Fcポリペプチドの一方のFcポリペプチドはT366Y/W及びS354Cを含み、他方のFcポリペプチドはY407T/V、Y349C、T366S及びL368Aを含む、実施形態37~48のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態50.前記Fcドメインは、Fcドメイン内の1つのFcポリペプチドのCH3領域とAタンパク質との結合を減少又は排除する修飾を含む、実施形態37~49のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態51.EU番号により、前記Fcドメインは、Fcポリペプチドの一方でのみ発生するアミノ酸置換H435R又は/及びY436Fを含む、実施形態37~50のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
実施形態52.実施形態1~51のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードする単離ポリヌクレオチド。
実施形態53.実施形態52に記載のポリヌクレオチドを含む単離ベクター。
実施形態54.実施形態52に記載の単離ポリヌクレオチド、又は実施形態51に記載の単離ベクターを含むホスト細胞。
実施形態55.二重特異性抗体が発現される条件下で実施形態52に記載のホスト細胞を培養することを含む、実施形態1~51のいずれか1項に記載の二重特異性抗体の発現方法。
実施形態56.実施形態1~51のいずれか1項に記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
実施形態57.実施形態1~51のいずれか1項に記載の二重特異性抗体と、該二重特異性抗体に結合又はコンジュゲートする治療薬と、を含むコンジュゲート。
実施形態58.融合して発現された融合成分と、実施形態1~51のいずれか1項に記載の二重特異性抗体と、を含む融合タンパク質。
実施形態59.必要とされる被験体における疾患を治療するための方法であって、実施形態1~51のいずれか1項に記載の二重特異性抗体、実施形態56に記載の医薬組成物、実施形態57に記載のコンジュゲート、又は実施形態58に記載の融合タンパク質の治療有効量を被験体に投与することを含む、方法。
【実施例1】
【0132】
〔MHC-Iエレメント配列の設計〕
IPD-IMGT/HLA(https://www.ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/stats.html)データベース(バージョン3.42)の統計(表1)によると、HLA-IはHLA-IIよりもアリルの数が多く、分布が広いので、HLA-I分子を用いて二重特異性抗体の構造エレメントを設計することで、免疫原性リスクを低減する。
IPD-IMGT/HLAデータベース(バージョン3.42)の統計(表2)によると、HLA-I分子では、HLA-I-Bアレルの数が最も多いので、HLA-I-B分子を用いて二重特異性抗体の構造エレメントを設計することで、免疫原性リスクをさらに低減する。
【表1】
【表2】
【0133】
(1.1 MHC-Iエレメントの初期配列の決定)
Uniprot(https://www.uniprot.org/)データベースから、一連の天然HLA-I-B分子α鎖の全長配列(表3)を取得した。Uniprotデータベースから、HLA-I分子のβ鎖(βミクログロブリンとも呼ばれる)の全長配列(Uniprot ID:P61769)を取得した。Uniprotデータベースページのクロスインデックスシステムにより、さらにHLA-I-B分子α鎖を含有するタンパク質結晶データの情報を取得し、結晶データの正確性を確保するために、高解像度の結晶構造(Resolution<2Å)を選択した(表4)。
配列解析を行い、これらの結晶構造の情報を組み合わせて、天然HLA-I-B分子α鎖の定常領域(ここでは、MHCICα、constant region alpha of MHC Iと定義され、又はCαと略する)の相対的な開始位置を決定した。HLA-I-B分子α鎖の定常領域には一定の配列多様性があり、オンラインアラインメントツールClustalW2(https://www.ebi.ac.uk/Tools/phylogeny/simple_phylogeny/)を用いて表3の配列について複数配列のアラインメントを行い、アラインメント結果をweb Logo(http://weblogo.berkeley.edu/)で解析して表示し、各位置におけるアミノ酸の出現頻度からHLA-I-B分子α鎖の定常領域の一貫性配列を得て(図1)、且つHLA-I-B分子α鎖の定常領域の一貫性配列をその後の操作や改変のための初期配列とした。ヒトのβ2ミクログロブリンには配列の多様性がないため、配列(Uniprot ID:P61769)を解析することにより、天然β2ミクログロブリンとMHCICαとのペアリング領域(ここでは、MHCICβ、constant region beta of MHC Iと定義され、又はCβと略する)の配列を決定した。
MHC-Iエレメントの初期配列は次のとおりである。
> MHCICαori(SEQ ID NO:1)
GKETLQRADPPKTHVTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDRTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWEPS
>MHCICβori (SEQ ID NO:2)
IQRTPKIQVYSRHPAENGKSNFLNCYVSGFHPSDIEVDLLKNGERIEKVEHSDLSFSKDWSFYLLYYTEFTPTEKDEYACRVNHVTLSQPKIVKWDR
【表3】
【表4】
【0134】
(1.2 MHC-Iエレメントの初期配列の最適化)
{1.2.1、MHC-Iエレメントのペアリング安定性を高めるための鎖間ジスルフィド結合の導入}
上記のMHCICα oriとMHCICβ oriアミノ酸配列を同時にMOE(Molecular Operating Environment)ソフトウェアにロードし、MOEのHomology modelingモジュールを通じてそれに対してヘテロダイマーモデリングを行い、それによって、MHC-Iエレメントのシミュレーション構造を取得した。天然状態では、MHC分子の定常領域間にジスルフィド結合は存在しない。MHC-I定常領域のペアリング安定性を高め、その開発性を最適化するために、MHCICαとMHCICβのドメインの接触界面で、MHCICα oriに対して、R60、A62又はG63位にシステイン(Cys)を導入することができ、MHCICβ oriに対して、Y26、R12又はY67位にシステイン(Cys)を導入することができる。MOEのDisulfide scanモジュールを通じて、ジスルフィド結合導入後のdelta Stabilityをシミュレーションして計算し、MHCICα oriにA62C突然変異を導入し、MHCICβ oriにR12C突然変異を導入したところ、delta stabilityが-1.62kcal/molと最も低くなり、この2つの位置の突然変異がCαとCβの界面で最も安定なジスルフィド結合を形成できることを示した(表5)。
【表5】
【0135】
{1.2.2、等電点の最適化}
初期配列にジスルフィド結合(表5のA62CとR12C)を導入したMHC-Iエレメントの理論等電点(pI、isoelectric point)は5.80であり、後続のプロセスの開発には不利であった。そのため、MHC-Iエレメントに対して関連する電荷変更を行い、その薬剤形成性を改善した。MOEソフトウェアのProtein-propertiesモジュールを通じてMHC-Iエレメントの溶媒可接触表面(SAS、solvent accessible surface)や帯電アミノ酸残基などについて解析を行った。MHC-Iエレメントでは、アミノ酸残基の溶媒暴露程度が>40%であり、且つ負帯電/酸性を示すアミノ酸残基を表6に示す。また、関連する残基が置かれている構造環境、化学環境及び応用目的に合わせて、これらの酸性アミノ酸残基のうち1つ又は複数を塩基性アミノ酸残基(アルギニン(R)又はリジン(K))に置換し、MHC-Iエレメントの理論等電点を6.5~9.0に向上させた。具体的な形態として、MHCICαにD22R、E48K、及びD53Kの3つの部位の突然変異を導入し、MHCICβにE69R単一点突然変異を導入し、MHC-Iエレメントの理論等電点を7.8まで向上させた。
【表6】
【0136】
{1.2.3、その他の最適化}
C領域の末尾にある4つのアミノ酸(-KWDR)の側鎖が大きいことを考慮すると、潜在的な立体障害効果をもたらす可能性がある。可撓性のG4S連結ペプチドを用いるとタンパク質のコンホメーションの安定性が低下する。グリシン(G)とプロリン(P)の構造的特徴により、この2つのアミノ酸は主に規則性なくカール又は曲がった位置にあり、また、グリシンは側鎖基がなくて、立体障害効果をよく緩和することができ、一方、プロリンは側鎖が5員環構造で、一定の剛性を持って、立体障害効果を高めることができ、従って、最終的にCβ領域のカルボキシル末端にGPを追加することで、潜在的な立体障害効果とコンホメーションの安定性のバランスを取る。
MHC-Iエレメントの最適化配列は以下のとおりである。
> Cα(SEQ ID NO:3)
GKETLQRADPPKTHVTHHPISRHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGKDQTQKTELVETRPCGDRTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWEPS
>Cβ (SEQ ID NO:4)
IQRTPKIQVYSCHPAENGKSNFLNCYVSGFHPSDIEVDLLKNGERIEKVEHSDLSFSKDWSFYLLYYTRFTPTEKDEYACRVNHVTLSQPKIVKWDRGP
【実施例2】
【0137】
〔MHC-Iエレメント修飾二重特異性IgG4抗体の構築及び特徴付け〕
MHC-Iエレメントが二重特異性抗体に使用できることを確実にするために、ダラツムマブ(daratumumab)抗体とヒトを標的とするCD3抗体SP34を選択して、CD3とCD38を標的とする二重特異性抗体を構築し、概念初期を検証し、CαとβCの相対配向がMHC-Iエレメント修飾抗原結合部分に与える影響を検討した。IgG重鎖間のミスマッチを回避或いは緩和するために、後続に構築した二重特異性抗体はすべて「ノブイントゥーホール」」構造(knobs into holes)を用いた。SP34 FabのIgG定常領域のドメインCH1/CLはそれぞれ対応するCα/CβとCβ/Cαで置換され、相対配向の異なるMHC-I修飾抗原結合部分を構築し、SP34アームの重鎖は「ホール」構造、すなわちCH3-holeを用いた。ダラツムマブのFabはそのままに保持され、その重鎖は「ノブ」構造、すなわちCH3-knobを用いた。MHC-Iで修飾されたCD3を標的とする抗原結合部分をダラツムマブと組み合わせることにより、それぞれMHI383-1122-IgG4とMHI383-1133-IgG4(分子構造は図2を参照)と命名された2種類の異なる二重特異性抗体を生成し、これらの配列を表7に示す。MHC-Iエレメントは、SEQ ID NO:3で示される配列のCαとSEQ ID NO:4で示される配列のCβを用いた。
【表7】
各二重特異性抗体について、抗体を構成する各ポリペプチド鎖をコードするDNA配列をそれぞれベクターに挿入し、対応するポリペプチド鎖を発現する発現ベクターを得た。各種の多重特異性抗体ポリペプチド鎖をコードする発現ベクターを25μgずつExpiCHO-S細胞(メーカー:上海医薬工業研究院、品番:127200005)に共トランスフェクションし、トランスフェクション発現体積は100ml、細胞密度は6E+06 cells/mlであった。
トランスフェクション後、細胞を32℃、5%CO、130rpmの条件下で発現して培養し、8日目に細胞上清を採取し、Protein A磁気ビーズ(メーカー:ジェンスクリプト社、品番:L00695-20)で抗体タンパク質を一段で精製した。細胞上清を4ml磁気ビーズに加えて50 ml遠心分離管に入れ、回転式脱色ロッカー(メーカー:上海智城社、型番:ZHWY-304)に置いた。室温で2時間インキュベーションした。磁気スタンドベースで磁気ビーズを吸着し、上清を捨て、緩衝液で磁気ビーズを十分に洗浄し、pH 3.0の0.1mol/Lグリシン(メーカー:国薬集団社、品番:62011516)を用いて抗体タンパク質を溶出し、溶出液を限外濾過管(メーカー:Millipore社、品番:UFC501096)に入れて濃縮し、1×PBS(メーカー:上海生工社、品番:B040100-0005)で緩衝液を置換し、精製してMHI383-1122-IgG4とMHI383-1133-IgG4を得た。
【0138】
(2.1 BLIによる二重特異性抗体と抗原との結合親和性の検出)
それぞれヒトのCD38タンパク質(北京ACROBiosystems、品番:CD8-H5224)とヒトのCD3E(北京ACROBiosystems、品番:CDE-H5223)を抗原とし、生物干渉膜技術(BLI)によりそれぞれヒトのCD38とCD3Eタンパク質に対するMHI383-1122-IgG4とMHI383-1133-IgG4の親和性を測定した。具体的な実験方法は以下のとおりである。
親和性アッセイはヒトのCD38及びCD3Eタンパク質に対するMHI383-1122-IgG4及びMHI383-1133-IgG4の親和性を評価することに用いた。親和性アッセイは主にBLI技術によって行われた。MHI383-1122-IgG4又はMHI383-1133-IgG4をそれぞれセンサーに固定し、センサーをそれぞれ一定濃度勾配のヒトのCD38及びCD3Eタンパク質溶液に浸漬し、Data Acquisition 11.0.0.64で結合解離曲線をリアルタイムで収集し、Data Analysis 11.0でデータ解析を行い、結合速度定数Ka、解離速度定数Kd、平衡定数KDを得て、平衡定数KDは親和性を示した。
【表8】
実験結果により、Cα/Cβ配向の異なる二重特異性抗体MHI383-1122-IgG4及びMHI383-1133-IgG4は、いずれもヒトのCD38とCD3Eタンパク質に対して良好な親和性を示し、相互間の親和性KD数値の差は<3倍であり、主にその解離速度定数Kdの損失による(表8)。したがって、MHC-Iエレメント(Cα及びCβ)は、CH1及びCLドメインの代わりに二重特異性抗体を構築することができる。
【実施例3】
【0139】
〔MHC-Iエレメント修飾二重特異性IgG1抗体の構築及び特徴付け〕
IgG重鎖間のミスマッチを回避或いは緩和するために、構築した二重特異性抗体はすべて「ノブイントゥーホール」構造(knobs into holes)を用いた。MHC-Iエレメント(SEQ ID NO:3で示される配列のCαとSEQ ID NO:4で示される配列のCβ)が異なるIgGサブタイプの二重特異性抗体に与える影響を調べるために、上記のMHI383-1122-IgG4をIgG1の形態にし、MHI383-ccff-IgG1と命名した新しい二重特異性抗体を生成した(構築構造は図3のようである)。この抗体の2本の重鎖のCH2ドメインはいずれもLALA(L234A+L235A)二重突然変異を用いて、潜在的なFc effector効果を除去した。本実施例では、MHC-Iエレメント修飾重鎖のCH3ドメインにH435R+Y436F(EU番号)二重突然変異を導入すると、H435R+Y436F二重突然変異を含有する重鎖ミスマッチ産物はprotein Aに結合しないので、protein Aアフィニティークロマトグラフィー精製において除去され、目的とする二重特異性抗体の純度及び精製効率が向上する。
MHI383-ccff-IgG1は、以下の配列を有する4本のポリペプチド鎖(Hc、Lc、Hf及びLf)を有する。
Hc:アミノ酸配列はSEQ ID NO:18で示され、ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:19で示される。
Lc:アミノ酸配列はSEQ ID NO:20で示され、ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:21で示される。
Hf:アミノ酸配列はSEQ ID NO:22で示され、ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:23で示される。
Lf:アミノ酸配列はSEQ ID NO:24で示され、ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:25で示される。
溶出した目的タンパク質ピークはSuperdexTM 200 Increase 10/300GLカラム及びGEのAKTAシステムを用いて分取サイズ排除クロマトグラフィーにより精製を続けた。この精製実験は平衡液(50mM Tris-HAc,150mM L-Arg-HCl,pH7.5)を用い、0.8ml/minの流速で行った。図4はMHI383-ccff-IgG1分子のSEC精製マップであり、SECの主ピーク(保持時間RT=7.174 min)を収集し、その後の質量分析に用いた。前記SECの主ピークについて液体クロマトグラフィー-質量分析法により完全な分子量同定を行った。
【0140】
Waters LC-MSシステム(Waters,Singapore,USA,UK)を用いて完全な分子量解析を行った。MAbPac RP 4μm 2.1×50 mm (Thermo, USA)カラムを用いて、A相(0.1%ギ酸水溶液)、B相(0.1%ギ酸アセトニトリル水溶液)を移動相とし、検出波長を280nmとした。タンパク質1μgを液体クロマトグラフィー-質量分析計に注入し、勾配を5.5分以内、5%B~100%Bとした。質量分析計は正イオンモードを用い、走査範囲が200~4000m/zであった。MassLynx 4.1でデータを収集し、UNIFI 1.8.2.169でデータを処理した。質量分析の結果、149934Daでのピーク(図5)は、所望の正しく集合された二重特異性抗体MHI383-ccff-IgG1の完全な分子量と一致することが示された。
【0141】
配列パターンに基づいてMHC-Iエレメントのアミノ酸配列を解析したところ、N-連結グリコシル化部位モチーフ(NXS/T、X=プロリン以外の任意のアミノ酸)は認められなかった。しかし、O-連結グリコシル化部位は配列から予測することが困難であった。そこで、さらに、上記SECの主ピークタンパク質に存在するN糖を、グリコシダーゼPNGaseFを用いて加水分解により切断した。タンデム質量分析法を用いて、N糖切断後のタンパク質をペプチドグラムで特徴付け(タンパク質配列決定)、O-グリコシル化部位の可能性の有無を調べた。
【0142】
Waters LC-MSシステム(Waters,Singapore,USA,UK)を用いてペプチド配列カバレッジ解析を行った。AdvanceBio Peptide Map 2.1×150 mm 2.7-Micron(Aglient,USA)カラムを用いて、A相(0.1%ギ酸水溶液)、B相(0.1%ギ酸アセトニトリル水溶液)を移動相とし、検出波長を214nmとした。PNGaseFで処理されたタンパク質を変性、還元、アルキル化した後、トリプシンで一晩酵素消化した。酵素消化後のタンパク質を適量で液体クロマトグラフィー-質量分析計に注入して検出した。溶出勾配を13min以内、0%B~15%B;45min以内:15%B~40%Bとした。質量分析計は正イオンモードを用い、走査範囲が100~2000m/zであった。MassLynx 4.1でデータを収集し、UNIFI 1.8.2.169でデータを処理した。
ペプチドマッピング実験の実験結果は、また、MHI383-ccff-IgG1分子中にいかなるO-連結グリコシル化の修飾も存在しないことを明らかにし、それによって、MHC-Iエレメント中にいかなるO-連結グリコシル化部位も存在しないことを明らかにした。MHC-Iエレメント修飾二重特異性抗体は、TCR修飾に基づく二重特異性抗体よりもグリコフォームの不均一性が低く、下流のプロセス開発と品質管理により有利である。
【実施例4】
【0143】
〔突然変異部位の設計及び鎖ミスマッチの検証〕
抗体HZ5G11はヒトPD-L1タンパク質の細胞外セグメントを標的とし、抗体HZ14A9はヒトCD47タンパク質の細胞外セグメントを標的とし、いずれも対応する抗原でマウスを免疫した後、ハイブリドーマでスクリーニングし、そしてヒト化して得られたモノクローナル抗体である。
ヒトを標的とするPD-L1モノクローナルIgG1K抗体HZ5G11は、重鎖HZ5G11VH-CH1-IgG1(重鎖アミノ酸配列はSEQ ID NO:26、ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:27で示される)と軽鎖HZ5G11VL-IgK(軽鎖アミノ酸配列はSEQ ID NO:28、ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:29で示される)からなり、ヒトを標的とするCD47モノクローナルIgG1K抗体HZ14A9は、重鎖HZ14A9VH-CH1-IgG1(重鎖アミノ酸配列はSEQ ID NO:45で示される)と軽鎖HZ14A9VL-IgK(軽鎖アミノ酸配列はSEQ ID NO:46で示される)からなる。さらに、MHC-Iエレメントに基づくHZ14A9とHZ5G11に関連するバリアントを構築し、すなわち、HZ14A9抗体重鎖のIgG1定常領域のドメインCH1を対応するMHC-Iエレメント中のMHCICα(SEQ ID NO:3)で置換し、重鎖HZ14A9VH-Cα-IgG1を生成し(重鎖アミノ酸配列はSEQ ID NO:47で示される)、HZ14A9抗体軽鎖のIgK定常領域のドメインCLを対応するMHC-Iエレメント中のMHCICβ(SEQ ID NO:4)で置換し、軽鎖HZ14A9VL-Cβを生成し(軽鎖アミノ酸配列はSEQ ID NO:48で示される)、HZ5G11抗体重鎖のIgG1定常領域のドメインCH1を対応するMHC-Iエレメント中のMHCICαで置換し、重鎖HZ5G11VH-Cα-IgG1を生成し(重鎖アミノ酸配列はSEQ ID NO:30、ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:31で示される)、HZ5G11抗体軽鎖のIgK定常領域のドメインCLを対応するMHC-I定常領域エレメントのMHCICβで置換し、軽鎖HZ5G11VL-Cβを生成した(軽鎖アミノ酸配列はSEQ ID NO:32、ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:33で示される)。
【0144】
MHC-IエレメントMHCICα、MHCICβと抗体定常領域CH1、軽鎖定常領域CLとの間に可能な相互作用があるか否かを検証するために、表9に示すように、異なる重鎖又は軽鎖をコードするプラスミドをそれぞれ構築し、これらを組み合わせた後にペアリングして発現させ、精製を行った。具体的には、DNA配列を合成し、重鎖と軽鎖をコードするDNA配列をそれぞれベクター(例えば、CN107001463Aに開示されたpcDNA3.1ベクター、CN109422811Aに開示されたpCHO1.0ベクターなど)に挿入し、対応する重鎖又は軽鎖を発現する組換え発現ベクターを得た。重鎖と軽鎖を発現する組換え発現ベクターを質量比1:1でExpiCHO-S細胞(メーカー:上海医薬工業研究院、品番:127200005)に共トランスフェクションし、発現体積が0.1~1L、細胞密度が6E+06 cells/mlのExpiCHO-S(メーカー:上海医薬工業研究院、品番:127200005)にトランスフェクションした。
トランスフェクション後に細胞をExpiCHOTM培地(メーカー:Thermo社、品番:A2910001)に入れて、32℃、5%CO、130rpmの条件で発現して培養し、10日目に細胞上清を採取し、GE社製のAKTA Pure 25Lシステム及びMabSelect SuRe LX充填材を用いて目的タンパク質をproteinAアフィニティークロマトグラフィーで精製した。溶出後、NanoDrop Lite(Thermo Fisher Scientific社)を用いて溶出により得られたタンパク質濃度を測定し、SEC-HPLCにより溶出タンパク質純度を検出し、試験に用いたサンプルタンパク質純度は80%以上であった。サンプルごとに総量5mgのタンパク質を取り、非還元SDS-PAGE電気泳動を行い、クマシーブリリアントブルー染色を行った後、電気泳動結果を観察した。
【表9】
図6に示すように、実験結果により、HZ5G11とHZ14A9モノクローナル抗体の間でそれぞれ軽重鎖を交換することに基づいて、依然としてヘテロ接合ペアリング産物が生成され、しかも、ヘテロ接合ペアリング産物の分子量はHZ5G11とHZ14A9モノクローナル抗体の間にあることを示した。HZ5G11VH-Cα-IgG1とHZ14A9VL-IgK、及びHZ14A9VH-Cα-IgG1とHZ5G11VL-IgKの共発現精製後、多種の産物が生成された。その中、HZ5G11VH-Cα-IgG1とHZ14A9VL-IgKの組み合わせは、ヘテロ接合ペアリング産物の分子量が130~180kDaの間にあり、HZ5G11とHZ14A9モノクローナル抗体に近い。しかし、HZ14A9VH-Cα-IgG1とHZ5G11VL-IgKの組み合わせは、ヘテロ接合ペアリング産物の分子量が100~130kDaの間にあり、HZ5G11とHZ14A9モノクローナル体と区別しやすい。以上より、CLドメインとMHCICαとの間にある相互作用が存在し、さらに軽重鎖ミスマッチ産物の産生を促進することを示した。HZ14A9VH-CH1-IgG1とHZ5G11VL-Cβ、及びHZ5G11VH-CH1-IgG1とHZ14A9VL-Cβの共発現精製後、対応する非還元SDS-PAGEのレーンに明らかなバンドを発見しなかった、すなわち、明らかなヘテロ接合ペアリング産物の生成がなく、CH1ドメインとMHCICβとの間に顕著な相互作用がないことを示した。
【0145】
MHCICαを含む重鎖とCLドメインを含む軽鎖のミスマッチの問題を解決するために、MHCICα(SEQ ID NO:3)/MHCICβ(SEQ ID NO:4)及びIgG1定常領域CH1(SEQ ID NO:34)/IgK定常領域CL(SEQ ID NO:35)のドメインの接触界面について構造解析を行い、配列解析と組み合わせると、CLドメインの114(EU番号)、116(EU番号)、118(EU番号)の部位が、後続の二重特異性抗体集合におけるMHCICβとCLドメインの交換プロセスに関与して、交換ミスマッチ産物を生成する可能性があると考える。IgK定常領域のCLドメインのS114(EU番号)、F116(EU番号)、F118(EU番号)の単一点突然変異がMHCICαとCLドメインのペアリング過程に及ぼす影響を検証するために、軽鎖HZ5G11VL-IgKのCLドメインのS114(EU番号)、F116(EU番号)又はF118(EU番号)の部位にそれぞれ非芳香族の疎水性アミノ酸(M:メチオニン、A:アラニン、V:バリン、I:イソロイシン、又は、L:ロイシン)を導入し、重鎖HZ14A9VH-Cα-IgG1と組み合わせて発現させた。構築された突然変異を含む抗体の一部の軽鎖配列情報を表10に、異なる重鎖/軽鎖のペアリング発現の組み合わせの一部を表11に示す。
【表10】
【表11】
二重特異性抗体の開発に関しては、分子量>100kDaのミスマッチ産物は目的産物から効果的に分離できないか、分離が困難になり、二重特異性抗体産物の品質に影響を及ぼす可能性がある。結果により、HZ5G11VL-IgK-F118AとHZ14A9VH-Cα-IgG1のペアリング組み合わせは分子量>100kDaのペアリング産物の生成を著しく減少させることができ(図7)、F118Aの単一点突然変異はMHCICαとCLドメインとの間の作用力を低減させることができ、それによって、後続の二重特異性抗体集合におけるMHCICβとCLドメインの交換をさらに解決或いは緩和し、それによって、二重特異性抗体製品の品質を向上できることを明らかにした。
【実施例5】
【0146】
〔CLドメインにおけるF118A突然変異がモノクローナル抗体集合に及ぼす影響〕
IgK定常領域のCLドメインにおけるF118A(EU番号)の単一点突然変異がモノクローナル抗体集合に及ぼす影響を検証するために、CD47及びPD-L1を標的とするモノクローナル抗体(HZ14A9及びHZ5G11)の軽鎖IgK定常領域にそれぞれF118A単一点突然変異を行い、突然変異した軽鎖をそれぞれ本来のそれぞれの重鎖とペアリングして発現させ、HZ14A9-F118A及びHZ5G11-F118Aを得た。また、CD47及びPD-L1を標的とする野生型のモノクローナル抗体(HZ14A9とHZ5G11)をそれぞれ発現して対照とした。抗体の構築及び発現方法は、実施例4を参照する。
図11に示すように、非還元SDS-PAGE実験の結果は、すべての検出サンプルのバンドが150kDa付近にあることを示した。IgK定常領域のCLドメインにおけるF118A(EU番号)の単一点突然変異がモノクローナル抗体の集合に影響しないことが示された。
【実施例6】
【0147】
〔anti-PDL1*CD47二重特異性抗体の構築及び性能の特徴付け〕
(5.1 構築及び表現)
IgK定常領域のCLドメインにおけるF118A(EU番号)の単一点突然変異が二重特異性抗体に及ぼす影響を検証するために、CD47とPD-L1を標的とする二重特異性抗体を2種類構築し、ここで、PD-L1を標的とする抗原結合部分はMHC-Iエレメント修飾抗原結合部分であり、抗体HZ5G11のCH1/CLはMHCICα/MHCICβに置換され、CD47を標的とする抗原結合部分はFabであり、抗体HZ14A9に基づいて構築され、Fab軽鎖の定常領域のCLドメインでは、F118(EU番号)部位に突然変異がなく、F118A単一点突然変異が持たされなかった。すべての抗体の2本の重鎖のCH2ドメインはLALA(L234A+L235A)二重突然変異を採用し、潜在的なFc effector効果を除去し、CH3ドメインはKIH突然変異を持ってヘテロダイマーの形成を促進する。これにより、CD47とPD-L1を同時に標的とする2種類の二重特異性抗体、すなわち、MHL147-3322-IgG1-wt(分子構造図8参照)とMHL147-3322-IgG1-F118A(分子構造図9参照)が生成された。
【表12-1】
【表12-2】
【0148】
各ポリペプチド鎖を構成するDNA配列をそれぞれベクター(例えば、CN107001463Aに開示されたpcDNA3.1ベクター、CN109422811Aに開示されたpCHO1.0ベクターなど)に挿入して、対応するポリペプチド鎖を発現する発現ベクターを得た。各種のポリペプチド鎖をコードする発現ベクターをそれぞれ等質量比でExpiCHO-S細胞(メーカー:上海医薬工業研究院、品番:127200005)に共トランスフェクションし、発現体積が0.1~1L、細胞密度が6E+06 cells/mlのExpiCHO-S(メーカー:上海医薬工業研究院、品番:127200005)にトランスフェクションした。トランスフェクション後に細胞をExpiCHOTM培地(メーカー:Thermo社、品番:A2910001)に入れて、32℃、5%CO、130rpmの条件で発現して培養し、10日目に細胞上清を採取し、GE社製のAKTA Pure 25Lシステム及びMabSelect SuRe LX充填材を用いて目的タンパク質のproteinAアフィニティークロマトグラフィーを行った。溶出後、NanoDrop Lite(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、溶出により得られたタンパク質濃度を測定し、SEC-HPLCにより溶出タンパク質純度を検出した。
【表12-3】
1段proteinAアフィニティークロマトグラフィーによる精製の結果、MHL147-3322-IgG1-F118AはMHL147-3322-IgG1-wtよりも高い発現量と純度を示し(表12)、CLドメインにおけるF118A(EU番号)の単一点突然変異は、細胞内での二重特異性抗体の集合やペアリングの過程を改善し、ミスマッチ産物の形成を減少させ、二重特異性抗体の発現量と純度を向上させることができた。
【0149】
(5.2 熱安定性)
Nano DSF(Nano Temper社)により、HZ14A9、HZ5G11、MHL147-3322-IgG1-wt及びMHL147-3322-IgG1-F118Aの熱安定性を特徴付けた。測定対象サンプルの濃度を1.0mg/ml程度に調整し、それから、石英毛細管で少量のサンプルをそれぞれ吸引し、Nano DSFサンプルサスペンションに置き、一定速度1.0℃/minで20.0℃~95.0℃区間においてプログラム昇温を行い、タンパク質サンプルの光学信号変化を収集し、タンパク質の熱安定性を解析した。
【表13】
Nano DSF実験の結果、HZ14A9、HZ5G11、MHL147-3322-IgG1-wt及びMHL147-3322-IgG1-F118Aは、いずれも良好な熱安定性を持ち、すべてのサンプルの融解温度Tm1は65℃より高かった(表13)。CLドメインにおけるF118A(EU番号)の単一点突然変異は、二重特異性抗体の熱安定性に有意な影響を及ぼさなかった。
【0150】
(5.3 親和性)
Biacoreにより、HZ5G11モノクローナル抗体、HZ14A9モノクローナル抗体、MHL147-3322-IgG1-wt及びMHL147-3322-IgG1-F118Aの二重特異性抗体の親和性を特徴付けた。捕獲法により、HZ5G11モノクローナル抗体、HZ14A9モノクローナル抗体、MHL147-3322-IgG1-wt及びMHL147-3322-IgG1-F118A二重特異性抗体をそれぞれセンサーチップに固定し、一定濃度勾配のヒトPDL1(メーカー:ACROBiosystems、品番:PD1-H52H3)やヒトのCD47(メーカー:ACROBiosystems、品番:CD7-H5227)タンパク質抗原溶液を注入し、Biacore 8K Control Software 3.0で結合解離曲線をリアルタイムで採集し、そしてBiacore Insight Evaluation Software 3.0でデータ解析を行い、結合速度定数Ka、解離速度定数Kd及び平衡定数KDを得た。
【表14】
【表15】
実験の結果、二重特異性抗体MHL147-3322-IgG1-wt及びMHL147-3322-IgG1-F118Aは、いずれもヒトのPDL1とCD47タンパク質に対して良好な親和性を示した(表15、表16)。
【0151】
(5.4 赤血球凝集実験)
ヒト赤血球凝集実験により、MHL147-3322-IgG1-wt及びMHL147-3322-IgG1-F118Aの潜在的な血液安全性を特徴付けた。赤血球を十分に洗浄して、赤血球膜の表面に付着した血漿を除去した。等張希釈液を用いて赤血球を3回洗浄し、最初の2回では2000rpm/minで5min遠心分離し、最後の1回では2000rpm/minで10min遠心し、上清を捨てた。PBSを用いて赤血球を2%細胞懸濁液とし、100μLを吸引し96ウェルUプレートに入れ、1500rpm/minで5min遠心分離し、上清を捨てた。MHL147-3322-IgG1-wt、MHL147-3322-IgG1-F118A及びアイソタイプ対照hIgG1サンプルを8つの濃度勾配(0、0.1、0.2、0.7、2、6、17、50μg/ml)に調整し、96ウェルUプレートに抗体希釈液を加え、反応総体積を100μLとし、再懸濁させて均一に混合した後、37℃インキュベータで2h静置し、2hインキュベートした後、結果を観察した。図10に示すように、二重特異性抗体濃度が≧2μg/mlの条件下では、MHL147-3322-IgG1-F118AはMHL147-3322-IgG1-wtよりも赤血球凝集能が弱いことから、IgK定常領域のCLドメインにおけるF118A(EU番号)変異はミスマッチ産物の生成を効果的に減少させ、二重特異性抗体の均一性を向上させることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】