(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】垂直共振器型面発光レーザを備えた乱数発生器
(51)【国際特許分類】
G06F 7/58 20060101AFI20240214BHJP
H01S 5/062 20060101ALI20240214BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G06F7/58 680
H01S5/062
H01S5/183
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546506
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 EP2022052221
(87)【国際公開番号】W WO2022162225
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523290263
【氏名又は名称】キューサイド テクノロジーズ ソシエダッド リミターダ
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】アベリャン カルロス
(72)【発明者】
【氏名】アマヤ ヴァルディマー
(72)【発明者】
【氏名】トゥーリ ドメニコ
(72)【発明者】
【氏名】ルーデ ミケル
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173MF40
5F173SA14
5F173SC10
(57)【要約】
垂直共振器型面発光レーザと、モード分離器と、受光素子と、を備えた乱数発生器であって、垂直共振器型面発光レーザを直接変調モードで駆動するための電源をさらに備えており、垂直共振器型面発光レーザは、放出部から垂直共振器型面発光レーザ空洞の外部の空間に、当該放出部から離れていく伝播方向に伝播し得るランダム相対強度の2つの異なるレーザモードを有するレーザ光を放出するように構成されており、モード分離器は伝播方向において受光素子と垂直共振器型面発光レーザとの間に配置されており、モード分離器は、2つの異なるレーザモードを互いに分離し、2つの異なるレーザモードのうち一方を受光素子に送出するように配置されている乱数発生器。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直共振器型面発光レーザと、モード分離器と、受光素子と、を備えた乱数発生器であって、
前記垂直共振器型面発光レーザを直接変調モードで駆動するための電源をさらに備えており、
前記垂直共振器型面発光レーザは、放出部から垂直共振器型面発光レーザ空洞の外部の空間に、当該放出部から離れていく伝播方向に伝播し得るランダム相対強度の2つの異なるレーザモードを有するレーザ光を放出するように構成されており、
前記モード分離器は前記伝播方向において前記受光素子と前記垂直共振器型面発光レーザとの間に配置されており、
前記モード分離器は、前記2つの異なるレーザモードを互いに分離し、前記2つの異なるレーザモードのうち一方を前記受光素子に送出するように配置されている
ことを特徴とする乱数発生器。
【請求項2】
前記受光素子に接続されたデジタル変換ユニットをさらに備えており、
前記デジタル変換ユニットは、前記受光素子から取得した信号が閾値を上回る場合に第1の値を出力し、前記受光素子の前記信号が前記閾値を下回る場合に前記第1の値とは異なる第2の値を出力できるように、前記受光素子の前記信号をデジタル変換するように構成されている、
請求項1記載の乱数発生器。
【請求項3】
前記デジタル変換ユニットはアナログデジタル変換器である、
請求項2記載の乱数発生器。
【請求項4】
前記垂直共振器型面発光レーザ空洞は、前記2つの異なるレーザモードのうち一方を抑制するモード抑制要素を備えていない、
請求項1から3までのいずれか1項記載の乱数発生器。
【請求項5】
前記閾値は、前記垂直共振器型面発光レーザにより出力可能な最大エネルギーの少なくとも90%、又は少なくとも75%、又は少なくとも50%、又は少なくとも25%に相当する値を有する、
請求項2記載の乱数発生器。
【請求項6】
前記垂直共振器型面発光レーザは前記レーザ光を生成するための活性媒質として量子ドット又は量子井戸を備えている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の乱数発生器。
【請求項7】
前記モード分離器は偏光ビームスプリッタ又はフィルタ又は偏光依存型の光アイソレータを備えている、
請求項1から6までのいずれか1項記載の乱数発生器。
【請求項8】
前記モード分離器と前記垂直共振器型面発光レーザの前記放出部との間及び/又は前記モード分離器と前記受光素子との間に光アイソレータが配置されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の乱数発生器。
【請求項9】
垂直共振器型面発光レーザと、モード分離器と、受光素子と、を備えた乱数発生器を用いて乱数を発生するための方法であって、
前記乱数発生器は、前記垂直共振器型面発光レーザを直接変調モードで駆動する電源をさらに備えており、
前記垂直共振器型面発光レーザは、放出部から垂直共振器型面発光レーザ空洞の外部の空間に、当該放出部から離れていく伝播方向に伝播するランダム相対強度の2つの異なるレーザモードを有するレーザ光を放出し、
前記モード分離器は前記伝播方向において前記受光素子と前記垂直共振器型面発光レーザとの間に配置されており、
前記モード分離器は、前記2つの異なるレーザモードを互いに分離して、前記2つの異なるレーザモードのうち一方を前記受光素子に送出し、
前記受光素子は、前記垂直共振器型面発光レーザから前記モード分離器を介して当該受光素子にて受け取った前記レーザ光の強度に応じた信号を出力する
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記乱数発生器は、前記受光素子に接続されたデジタル変換ユニットをさらに備えており、
前記デジタル変換ユニットは、前記受光素子から出力された信号が閾値を上回る場合に第1の値を出力し、前記受光素子の前記信号が前記閾値を下回る場合に前記第1の値とは異なる第2の値を出力できるように、前記受光素子の前記信号をデジタル変換する、
請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記閾値は、前記垂直共振器型面発光レーザにより出力される最大エネルギーの少なくとも90%、又は少なくとも75%、又は少なくとも50%、又は少なくとも25%に相当する値を有する、
請求項10記載の方法。
【請求項12】
制御ユニットによって、単位時間あたりで生成する乱数の個数に応じて前記直接変調モードの周波数を調整する、
請求項9から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1から8までのいずれか1項記載の乱数発生器を備えたシステムであって、チップ上に実装されていることを特徴とするシステム。
【請求項14】
請求項1から8までのいずれか1項記載の複数の乱数発生器をアレイに配列したものを備えたシステムであって、
全ての前記乱数発生器に対して前記モード分離器が1つ設けられ、若しくは前記各乱数発生器に対して前記モード分離器が1つずつ設けられており、及び/又は、
全ての前記乱数発生器に対して光アイソレータが1つ設けられ、若しくは前記各乱数発生器に対して光アイソレータが1つずつ設けられている
ことを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)を備えた乱数発生器と、請求項9に記載の垂直共振器型面発光レーザを備えた乱数発生器を用いて乱数を発生するための方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直共振器型面発光レーザ(以下「VCSEL」という)は、通信技術において広く知られている。VCSELは半導体レーザダイオードの一種であり、上面のうち1つから垂直にレーザビーム又はレーザパルスを放出するものである。これは、レーザビームが半導体レーザの端面部から放出される通常のレーザ発振とは異なる。
【0003】
VCSELでは、レーザ共振器は通常、例えば量子ドット又は量子井戸等の活性領域を含む構造に対して平行な2つの分布ブラッグ反射器を備えている。このブラッグ反射器は、異なる屈折率の層を交互に配置したものを備えており、これらの層は通常、当該反射器の材料中におけるレーザ波長の1/4の厚さを有し、これにより高い強度の反射性が得られる。
【0004】
VCSELは通常、モード抑制要素を備える。このモード抑制要素はVCSELの空洞内又はVCSELそのものの中に組み込まれ、これにより、VCSELから周辺環境すなわちVCSELの外部に放出されるレーザビーム又はレーザパルスのモードが1つのみとなるようにする。このようにモードを1つのみとする理由は、通信技術では、使用されるVCSELのモードを1つにする必要があり、また、1つのモードでのレーザビームの強度が累積することが好適であるからである。これは例えば、専用のモード抑制要素を適用して達成することができる。
【0005】
VCSELは1MHz以上又は最大数GHzの高い周波数で動作することが知られており、かかる動作周波数は通信技術で特に有利である。というのも、情報伝送では高い周波数が必要となるからである。
【0006】
現在、VCSELはギガビット・イーサネットの分野やファイバチャネル技術で用いられており、1GB/sから400GB/sを超える幅のリンク帯域幅を提供し、これにより高い伝送レートが実現される。
【0007】
上記のことから、かなりの情報量を短時間で生成及び出力することができる。
【0008】
近年、物理的な乱数発生器の分野では、システムの物理的特性を利用して真の乱数を生成する開発がなされている。当該分野ではレーザダイオードも用いられている。というのも、放出されるレーザパルスの品質はレーザの量子物理的特性に依存するからである。これらは真に予測不能であるため、上記技術で得られる乱数やランダムなビット列は高い信頼性を有し、例えばセキュリティ関連データの暗号化、コンピューティング用途又はゲーミング等において利用することができる。
【0009】
物理的な乱数発生器を構築する際には、統合レベル、品質、及び実際の動作速度が重要となる。この点に関しては、十分に高い速度又は十分に高いレートで乱数(又は一般的にエントロピー)を得ることが難しい用途があり、特に、サイズを非常に小さくしてコストを低く抑える必要がある用途では難しい。
【発明の概要】
【0010】
上記に鑑みて、本発明の解決すべき課題は、時間当たりのエントロピー(すなわち乱数)の高い出力を達成すると同時に、好適には製造における費用対効果が比較的高く、好適にはサイズが小さくて品質面で特異な利点を奏する乱数発生器を提供することである。
【0011】
前記課題は、独立請求項1に記載の垂直共振器型面発光レーザを備えた乱数発生器と、独立請求項9に記載の垂直共振器型面発光レーザを備えた乱数発生器を用いて乱数を発生するための方法と、によって解決される。従属請求項に本発明のさらなる好適な実施形態が記載されている。
【0012】
本乱数発生器は、垂直共振器型面発光レーザと、モード分離器と、受光素子と、を備えており、前記垂直共振器型面発光レーザを直接変調モードで駆動するための電源をさらに備えており、前記垂直共振器型面発光レーザは、放出部から垂直共振器型面発光レーザ空洞の外部の空間に、当該放出部から離れていく伝播方向に伝播し得るランダム相対強度の2つの異なるレーザモードを有するレーザ光を放出するように構成されており、前記モード分離器は前記伝播方向において前記受光素子と前記垂直共振器型面発光レーザとの間に配置されており、前記モード分離器は、前記2つの異なるレーザモードを互いに分離し、前記2つの異なるレーザモードのうち一方を前記受光素子に送出するように配置されている。
【0013】
本発明においてモード分離器は、VCSELから放出された第1のモードを、当該VCSELから放出された第2のモードから分離する能力を有する全ての物理的主体と解される。例えば、モード分離器はフィルタ又は偏光フィルタ等を備えることができる。このことは特に、複数の分離された異なるレーザモード(例えば約90°回転したレーザモード、空間的に分離されたレーザモード等)を放出するVCSELに関する。他のモード分離態様、例えばモードを周波数で分離する態様等も包含される。本発明は、特定の種類のモード分離器に限定されることはない。
【0014】
直接変調モードは、レーザ発振閾値未満とレーザ発振閾値超とで交互にVCSELを駆動することによりVCSELからパルスを放出することを含む。VCSELをレーザ発振閾値未満及びレーザ発振閾値超で駆動する持続時間は本発明では限定されず、要求に応じて変えることができる。乱数又はランダムビットを得るために十分な数のレーザパルスを得るためには、レーザ発振閾値超でVCSELを駆動してレーザパルスを放出する周波数を例えば1Hz超又は1GHz超に設定することができる。しかし、本発明は特定のパルス周波数(毎秒パルス数)に限定されることはなく、許容される全ての周波数又はVCSELが動作可能な全ての周波数を使用することができる。
【0015】
好適には、各パルスのレーザの出力パワーを互いに略同一とすることができるが、空洞内で生成される複数の異なるレーザモードの相対強度はランダムである。上記のモードのうち一方をブロックすることにより、他の光の強度もランダムになる。その後、このランダム強度を使用して、受光素子で検出された信号から情報の「ランダム」なビットを得ることができる。例えば、モード分離器によって分離除去されずに受光素子に伝送された他方のレーザモードの強度が受光素子の検出閾値未満である場合、受光素子において信号が生成されず、この信号が生成されなかったということを後で、この時点における“0”ビットに変換することができる。上記の他方のレーザモードの強度が受光素子の検出閾値を上回る場合には、“1”ビットを生成することができる。これにより、本発明の乱数発生器によって、その実装を比較的高い費用対効果にしつつ、値“0”と“1”のランダムなビット列を高効率で生成することができる。
【0016】
一実施形態では前記乱数発生器は、前記受光素子に接続されたデジタル変換ユニットをさらに備えており、前記デジタル変換ユニットは、前記受光素子から取得した信号が閾値を上回る場合に第1の値を出力し、前記受光素子の前記信号が前記閾値を下回る場合に前記第1の値とは異なる第2の値を出力できるように、前記受光素子の前記信号をデジタル変換するように構成されている。
【0017】
かかる実施形態により、受光素子で検出された信号を、例えば通信を暗号化する後続の演算主体等によりさらに処理可能なデジタル信号に変換することができる。デジタル変換ユニットとしては、VCSELの能力をフル活用できるように十分に高い周波数で信号をデジタル変換できるデジタル変換ユニットを選択することができる。
【0018】
より具体的な一実施形態では、前記デジタル変換ユニットはアナログデジタル変換器である。アナログデジタル変換器はアナログ信号を高効率かつ高い処理速度でデジタル信号に変換することができ、このことにより、デジタル変換処理において全てのランダム値を利用しつつ、上記の実施形態の乱数発生器を高い周波数で駆動することが可能である。
【0019】
他の一実施形態では、前記垂直共振器型面発光レーザ空洞は、前記2つの異なるレーザモードのうち一方を抑制するモード抑制要素を備えていない。モード抑制要素を設けないことにより、2つの異なるレーザモードが両方ともVCSELからVCSEL空洞外部の空間内に出射することができる。このことにより、上記の引き続き設けられるモード分離器を用いて、上記2つのモードを分離して受光素子で信号を生成するために当該モードのうちいずれか一方を使用することができる。
【0020】
また、前記閾値が、前記垂直共振器型面発光レーザにより出力可能な最大エネルギーの少なくとも90%、又は少なくとも75%、又は少なくとも50%、又は少なくとも25%に相当する値を有するように構成することも可能である。デジタル変換ユニットで用いられる閾値は、電圧値又は電流値とすることが可能であると解すべきである。ここで「閾値が、垂直共振器型面発光レーザにより出力可能な最大エネルギーのうち或る割合に相当する」との文言は、どちらかというと、垂直共振器型面発光レーザにより出力可能な最大エネルギーのレーザパルスを受光したときに受光素子が生成する電圧値又は電流値のうち或る割合に相当する閾値の電圧値又は電流値を指すと解される。上記構成により、受光素子から出力された信号の高信頼性のデジタル変換を実現することができる。
【0021】
他の一実施形態では、前記垂直共振器型面発光レーザは前記レーザ光を生成するための活性媒質として量子ドット又は量子井戸を備えている。
【0022】
また、前記モード分離器は偏光ビームスプリッタ又はフィルタ又は偏光依存型の光アイソレータを備えることも可能である。モード分離器の上記の具体的な構成は有利には、事情に応じて、かつ上記の異なるレーザモードを互いに分離する態様に応じて具現化することができる。例えば、2つのモードの相対的な偏光に基づいて両モードを分離する方が高効率である場合には、グレーティング又は偏光依存型の光アイソレータを用いることができる。両モードを構成する周波数は異なっているが、両モード相互間の相対的な偏光は大きな角度(例えば90°等)ではない場合には、周波数に基づく分離がより適し得る。
【0023】
他の一実施形態では、前記モード分離器と前記垂直共振器型面発光レーザの前記放出部との間及び/又は前記モード分離器と前記受光素子との間に光アイソレータが配置されている。かかる実施形態により、信号生成や受光素子に影響し得る雑音を抑制することができる。
【0024】
本発明の乱数発生器を用いて乱数を発生するための方法では、前記乱数発生器は垂直共振器型面発光レーザと、モード分離器と、受光素子と、を備えており、前記乱数発生器は、前記垂直共振器型面発光レーザを直接変調モードで駆動する電源をさらに備えており、前記垂直共振器型面発光レーザは、放出部から垂直共振器型面発光レーザ空洞の外部の空間に、当該放出部から離れていく伝播方向に伝播するランダム相対強度の2つの異なるレーザモードを有するレーザ光を放出し、前記モード分離器は前記伝播方向において前記受光素子と前記垂直共振器型面発光レーザとの間に配置されており、前記モード分離器は、前記2つの異なるレーザモードを互いに分離して、前記2つの異なるレーザモードのうち一方を前記受光素子に送出し、前記受光素子は、前記垂直共振器型面発光レーザから前記モード分離器を介して当該受光素子にて受け取った前記レーザ光の強度に応じた信号を出力する。
【0025】
上記方法により、コストを削減しつつエントロピーを高速で生成することができ、ひいては乱数を高速で生成することができる。
【0026】
一実施形態では、前記乱数発生器は、前記受光素子に接続されたデジタル変換ユニットをさらに備えており、前記デジタル変換ユニットは、前記受光素子から出力された信号が閾値を上回る場合に第1の値を出力し、前記受光素子の前記信号が前記閾値を下回る場合に前記第1の値とは異なる第2の値を出力できるように、前記受光素子の前記信号をデジタル変換する。この実施形態により、受光素子のアナログ信号の高効率なデジタル変換が実現される。
【0027】
他の一実施形態では、前記閾値は、前記垂直共振器型面発光レーザにより出力可能な最大エネルギーの少なくとも90%、又は少なくとも75%、又は少なくとも50%、又は少なくとも25%に相当する値を有する。デジタル変換ユニットで使用される閾値を上記のような値にすることにより、デジタル変換ユニットにより生成されるランダムビットの信頼性を向上することができる。
【0028】
他の一実施形態では、制御ユニットによって、単位時間あたりで生成する乱数の個数に応じて前記直接変調モードの周波数を調整する。ここで「乱数の個数」とは、単位時間あたりで生成されるランダムなビット数と解することができる。例えば、毎秒40GBのランダムビットを生成する場合、直接変調モードの周波数を40GHzに調整することができる。VCSELは高い周波数で使用することができるので、直接変調モードを駆動する周波数の値をほぼ任意の値に設定することができる。具体的には、本発明の一部の実施形態では、数Hzから最大数十GHzまでの範囲の周波数が想定される。上記の上下限値の間の任意の周波数を実現することができ、また本願開示に包含される。
【0029】
一実施形態では、上記の実施形態のシステムはチップ上に実装されている。かかるシステムにより、上記の実施形態の乱数発生器を集積回路として、例えばパーソナルコンピュータ又はスマートフォン等の計算機システムで使用することも可能である。
【0030】
他の一実施形態では、上記のいずれかの実施形態の複数の乱数発生器がアレイに配列されており、全ての前記乱数発生器に対して前記モード分離器が1つ設けられ、若しくは前記各乱数発生器に対して前記モード分離器が1つずつ設けられており、及び/又は、全ての前記乱数発生器に対して光アイソレータが1つ設けられ、若しくは前記各乱数発生器に対して光アイソレータが1つずつ設けられている。
【0031】
上記の実施形態により、乱数発生器を複数設けることの構造的複雑性を抑えつつ、単位時間あたりで生成されるランダムなビット数を増加することができる。また、必要とされる別個の構成要素の個数が削減されるので、コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】一実施形態の垂直共振器型面発光レーザを備えた乱数発生器の概略図である。
【
図2】複数の異なる実施形態における複数の乱数発生器を備えたシステムの複数の異なる実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の一実施形態の乱数発生器100の概略図である。
【0034】
乱数発生器は基本的に4つの構成要素を備えている。下記にて詳細に説明するように、乱数発生器100は垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)101と、モード分離器102と、受光素子103と、電源105と、を備えている。
【0035】
VCSEL101は当業者に知られているように、少なくとも1つのレーザ空洞111を備えており、このレーザ空洞111には活性領域113が設けられている。レーザ空洞111の両側(
図1では左右両側)、しかも必ず、レーザ空洞111に対して平行な平面内に、ブラッグ反射器を構成し得る複数のミラー114が配置されており、かかるミラー114やブラッグ反射器により、生成された光の内部反射を生じさせて最終的にレーザビームを出力することができる。
【0036】
さらに、VCSELの活性領域から放出されたレーザ光120を集光できる閉じ込め構造112を設けることもできる。VCSELはさらに、当該VCSELにより生成されたレーザ光が当該VCSELから外部空間に実際に出射する放出部115も備えている。上記の外部空間は例えば、レーザ光が入射する光アイソレータ又は自由空間、又は、ガラスファイバ若しくは(透明)ポリマーファイバ、若しくはレーザパルス等の光信号を内部で伝播させることが可能な「光学」ファイバ全般等の他の任意の媒質とすることができる。
【0037】
従来公知の技術におけるVCSELの構造では、当該VCSELで生成されたレーザ光のモードのうちいずれか1つを抑制するモード抑制要素が設けられ、VCSELを特定の態様で駆動した際に、当該1つのモードがVCSELから出射することをモード抑制要素が阻止していた。具体的には、VCSELから出力される全エネルギー出力が略完全に、2つのモードのうち一方のモードのみで提供され、この一方のモードがVCSELから出射する。
【0038】
当業者に知られている通り、VCSELはレーザ光を2つの異なるレーザモードで生成し、これら2つのレーザモードは、相互間の相対強度がランダムであるが、両レーザモードは同一方向又は略同一方向に伝播する。
【0039】
上記2つのモードのうち一方を抑制することにより、VCSELの放出部115は、当該VCSELの全エネルギー出力を有する一方のモードのレーザビームのみを放出する。本発明における認識は、通例のVCSELにおけるVCSEL内部の上述のようなモード抑制が、VCSELを乱数発生技術の分野において利用することを妨げていた、というものである。
【0040】
よって本発明の好適な実施形態では、グラフ141に示すように、放出部115が、2つの異なるレーザモードM1及びM2を有するレーザ光を放出するように構成を想定している。これは、VCSELがモード抑制要素を備えないように構成することにより達成される。放出部115から出射する上記2つのモードは例えば偏光モードとすることができ、その際には、第1のモードM1が第2のモードM2に対して、例えば90°又は60°又は他の任意の角度で偏光している。代替的又は追加的に、上記2つのモードM1及びM2はそれぞれ異なる周波数を有し、又は同一周波数の異なる割合を有し、又は時間遅延を有し、又は、当該2つのモードが互いに異なるが同一のレーザパルスに属することを特定できる他の任意の物理量を有することができる。VCSELの量子力学的特性に起因して、当該VCSELの放出部115から出射する2つの異なるモードの相対強度は任意となり、それゆえ各レーザパルスごとにランダムとなる。
【0041】
ここで留意すべき点として、VCSEL空洞内で競合する際に2つのモードに影響する非線形作用を示さない「完璧な(perfect)」システムでは、2つのモードM1及びM2のうちVCSELから実際に出射するのは常に1つのみとなり、この1つのモードがレーザパルスの全エネルギーをもって出射する。しかし、実際のVCSELは通常、例えば弛緩振動、キャリアダイナミクス等の非線形性を免れないので、VCSEL空洞内で競合する際に2つのモード間で何らかのエネルギー伝達が生じ得る。かかるエネルギー伝達は、両方のモードが空洞から出射する結果となり得、通常は、両モードのうち一方が一部のエネルギーを運び、エネルギーの大半は他方のモードによって運ばれる。
【0042】
VCSELを駆動するためにモードスイッチングを適用する際には、2つのモード間での上記の競合は各レーザパルスごとにVCSEL内で行われる。その結果として2つのモードのうちどちらが実際にエネルギーの大半をもって出射するかは、パルスが放出されるまで未知であり、真にランダムとなる。
【0043】
上記点に鑑みて、本発明における認識は、VCSEL内で2つのモードM1及びM2が競合すると、物理的にデジタルの信号が得られ(1つのモードのみが打ち勝って、M1又はM2のいずれかがVCSELから出射する)、このようにして得られた信号自体が既に、その全エネルギー(若しくは略全エネルギー)を第1のモードで提供するか、又は全エネルギー(若しくは略全エネルギー)を第2のモードで提供することである。また本発明では、上記の認識をモード分離器と共に利用して、簡単なデジタル変換プロセスでランダムビットを生成できるという認識が得られている(その理由は、信号は既にデジタル又は略デジタルとなっており、アナログデジタル変換器によって加わる雑音が無いからである)。
【0044】
また本発明では、上記の構成により、下記にて説明する他の手段や手順により乱数を発生できるという認識が得られている。
【0045】
放出部115から出射したレーザパルスの伝播方向(矢印により示されている)に、モード分離器102が配置されている。
【0046】
このモード分離器102は、最も一般的な意味において、2つの異なるレーザモードを互いに分離して、当該モード分離器102より下流において両モードのうち一方のみを矢印の方向に受光素子103に向かってさらに伝播させるように構成されている。グラフ142にこのことが示されており、同グラフではレーザモードM1のみが含まれているがレーザモードM2は含まれなくなり、又は少なくともレーザモードM2の大半が抑制されている。好適にはモード分離器は、第2のレーザモードにより提供されるエネルギーの少なくとも10%又は少なくとも45%又は少なくとも75%又は少なくとも90%が第1のレーザモードM1と同一方向に伝播するのを阻止する程度まで当該第2のモードの伝播を抑制する。
【0047】
モード分離器がレーザモードM1及びM2相互の分離を達成する態様は限定されず、任意の適切な態様で実現することができる。もちろん、放出部115から出射された後にモード分離器102に到達したレーザモードM1及びM2にモード分離器102が実際に作用し得る態様は、これら異なるレーザモードM1及びM2の物理的特性及び差異に依存する。
【0048】
一実施形態では、上記の複数の異なるレーザモードは、異なる軸に沿って異なる偏光状態となっている。例えば、異なるレーザモードのうち一方がx方向に偏光すると共に、当該異なるレーザモードのうち他方がy方向に偏光することができる。
【0049】
このことは座標
図144に示されている。レーザパルスの伝播方向はk方向で示されており、偏光軸X及びYは伝播方向Kに対して垂直な平面内にある。
【0050】
より簡単に説明するため、第1のモードM1が例えば電界成分についてx方向に沿って偏光していると共に、他方のモードM2が例えば電界成分についてy方向に沿って偏光していると仮定する。かかる場合、適切なモード分離器102は、モードM1を通過させることができるがモードM2を通過させることができないように配置されたフィルタ又はグレーティングとなり得る。上記のような場合、第1のモードM1の偏光方向と第2のモードM2の偏光方向との間の角度が90°となるので、モード分離器102は第2のモードM2を(略)完全に消失させ、又は第2のモードM2の通過を阻止することができると共に、第1のモードM1は(ほぼ)元の強度でモード分離器102を通過することができる。
【0051】
モード分離器の他の実現態様も同様に可能である。
【0052】
具体的には、モード分離器を偏光ビームスプリッタとして実現し、第1のモードM1及び第2のモードM2を分離しても、どちらのモードも実際に抑制しないように構成することができる。これにより、第2のモードM2を他の伝播方向に方向転換することが可能になる。代替的に、第1のモードM1を通過させると共に第2のモードM2を通過させない偏光依存型の光アイソレータを用いることもできる。
【0053】
しかし、本発明はモード分離器を実際にどのように実現するかについて限定されず、異なるレーザモードM1及びM2を互いに分離できるものであれば如何なる実現態様も可能である。好適には上記の分離は、一方のモードが他のモードから完全に分離されるように完全又は略完全な分離である。
【0054】
レーザ光の伝播方向においてモード分離器102より下流に受光素子103が配置されている。モード分離器102の実現態様如何にかかわらず、モード分離器102が実際にどのように両モードを分離するかに応じてモードM1又はM2のうち一方のみが受光素子103の方向に送られ、実際に受光素子103に入射することが意図されている。
【0055】
より実際的な事例では、モード分離器はモードM1及びM2を互いに完璧には分離しない。かかる場合であっても、モード分離器(例えばフィルタ等)によって、モードM1及びM2の強度が常に区別可能となる。よって、モード分離が完璧でない場合であっても、両モードがモード分離器に通された後は、一方のモードを他方のモードと区別することが可能となる。
【0056】
さらに、上記にて説明したように多くの事例では、レーザパルスのエネルギーの略全部がモードM1又はM2の一方によって運ばれる。モード分離器が完璧にはモードを分離しない場合であっても、一部の実施形態では、モード分離器102を通過可能なモードがパルスのエネルギーの大半を運ぶ場合のみ、受光素子において検出可能な信号が存在する。これに対応して、モード分離器102によって分離除去されて受光素子に入射しないはずのモードがパルスのエネルギーの大半を運ぶ場合、信号は存在しない。上記にて既に説明したこの自動的なデジタル変換は、実際にランダムビットを生成するために、モード分離器と共に適切に使用されることができる(具体的には例えば、パルスエネルギーの大半を運ぶモードがモード分離器を通過した場合には1、パルスのエネルギーの大半を運ぶモードがモード分離器を通過しなかった場合には0となる)。その理由は、モード分離器によって分離除去されるモードが受光素子において検出可能な信号を生成せず(これは、フィルタリングや分離が完璧でない場合であっても同様である)、モード分離器を通過したモードがパルスエネルギーの大半の割合を運ぶ場合に受光素子において信号を生じさせるからである。このことは、モード分離器が完璧に動作しない場合、すなわち、モード分離器が他方のモードに影響せず、モードを完全に分離せずに一方のモードを分離してしまった場合も同様である。
【0057】
上記の構成と、VCSELから放出された各レーザパルスの第1のモードM1及び第2のモードM2の相対強度が量子力学の法則に支配され、これにより真のランダムになるという事実とにより、受光素子に到達するモードの強度は予測不能となり、これにより真のランダムとなる。このことにより、受光素子に実際に当たったモードの強度に依存して受光素子が任意に光信号を検出することとなる。
【0058】
このことにより、ランダムに得られたモードM1を示すものとして受光素子の出力を利用することにより、乱数を生成することができる。
【0059】
しかし一部の実施形態では、ランダムなビット列又はビットストリーム(複数の0及び1)を得ることが有利となり得る。これにより、コンピューティング環境において乱数を利用する場合に、乱数発生器によって生成されたランダム値の後続の処理がより便利になる。
【0060】
以上の点に鑑みて、乱数発生器はさらに、受光素子103に接続されたデジタル変換ユニット104を備えることができる。このデジタル変換ユニット104は、受光素子から受け取った信号をデジタル変換するように構成することができ、例えばアナログデジタル変換器として実装することができる。
【0061】
受光素子から出力されてデジタル変換ユニットにより処理された信号は、通常又は一般的に、受光素子の雑音に相当する最小値と、少なくともVCSELのパルスごとの最大エネルギー出力に相当する最大値と、の間のいずれかの値をとり得る電流値又は電圧値となる。かかる信号をデジタル変換するためには、デジタル変換ユニットは、受光素子から受け取った信号(例えば電圧値又は電流値)と基準信号とを比較するように構成することができる。受光素子から受け取った信号が上記の基準信号を上回る場合、デジタル変換ユニットの出力を1とすることができる。受光素子の信号が上記の基準信号を下回る場合、デジタル変換ユニットの出力を0とすることができる。もちろん、上記の逆も可能である。
【0062】
これにより、デジタル変換ユニット104は受光素子から受け取った信号のデジタル変換を比較演算により行う。デジタル変換ユニットの好適な一実施形態はアナログデジタル変換器となり得る。というのも、かかる変換器は費用対効果が高く、アナログ信号(例えば受光素子から受け取った電流信号等)を高い周波数でデジタル値(0及び1)に変換できるからである。これにより、全てのエントロピー(すなわち、受光素子から出力される全ての各値)をデジタル値に変換することができる。
【0063】
デジタル変換ユニットに入力され又は使用される基準信号は「閾値」又は「閾値信号」と称され得る。この基準信号は基本的に任意の値を有し得る。しかし一部の実施形態では、閾値は1つのレーザパルスあたりのVCSEL出力エネルギーに基づいて設定される。
【0064】
例えば、最初のレーザパルスについては、全エネルギー出力の50%を第1のモードM1で提供し、残りの50%は第2のモードM2で提供することができる。モード分離器102が第1のモードM1を第2のモードM2から完璧に分離し、第1のモードのみを通過させて受光素子103の方向にさらに伝播させると仮定すると、VCSELの全出力の50%に等しいエネルギーを有するモードM1が受光素子103に当たり、ここで信号を生成することができる。この信号は電流に変換されることができ、その後にデジタル変換ユニットに入力され、このデジタル変換ユニットにおいて電流は基準信号と比較され、一部の実施形態ではこれにより上記信号がデジタル変換される。第2のレーザパルスを考察すると、このレーザパルスではVCSELの全エネルギー出力の50%超、例えば90%が第2のモードM2で提供され、エネルギーの10%のみが第1のモードM1で提供されるとする。しかし、モード分離器は第2のモードM2を第1のモードM1から分離し、VCSELのエネルギーの全出力の10%のみが第1のモードM1で提供されて受光素子103に当たる。その後、この信号も同様に、受光素子103によって電気信号(電流信号等)に変換され、デジタル変換ユニットに入力されてデジタル変換される。好適にはデジタル変換ユニットは、エネルギーの大半が一方のモードにより運ばれていることを示す信号により、どちらのモードがより多くのエネルギーを運んでいるかに応じて、受光素子で得られた信号が1又は0にデジタル変換されるように、当該受光素子に到達した信号をデジタル変換することができる。
【0065】
本発明における認識は、大半の事例においてレーザパルスの略全てのエネルギーが2つのモードのうち一方により運ばれるということである(上記参照)。この認識は有利には、デジタル変換ユニットの閾値を選択する際に用いられる。よって、基準信号をVCSELにより出力される最大エネルギーの少なくとも25%又は少なくとも50%又は少なくとも75%又は90%に相当する値(「閾値」ともいう)に設定することにより、モード分離器102を通過したモードがVCSELから放出されたパルスの略全てのエネルギーを運ぶことを示す受光素子103の信号のみが第1のデジタル値(例えば1)として計数され、上記の閾値を下回る全ての信号が第2のデジタル値(例えば0)であると判定されるようにデジタル変換が実現される。
【0066】
通常、受光素子がVCSEL及びモード分離器と共に遮光されている場合であっても、受光素子は任意の強度のモードM1を受光するだけでなく、周辺環境からの他の信号も受け取る。その原因は例えば熱的ゆらぎ等であり、上記の他の信号は「ノイズ」との呼称や、(本発明において記載されているVCSEL作用のような)信頼できるプロセス(trusted process)による乱数発生に対して「信頼できない(untrusted)信号」との呼称で知られている。
【0067】
しかし、本発明は上記の例の閾値の値に限定されず、他の値に設定することも可能である。閾値は例えば、VCSELにより出力可能な最大エネルギーのちょうど90%又は95%に相当することができ、これにより、モードM1がVCSELにより出力されたエネルギーの略全てをレーザ部分に対して運ぶ場合にのみ信号が生成されることを保証することができる。具体的には、モードのうち1つにおけるエネルギー分布は通常は100%近くになるので(すなわち、大半のパルスにおいてエネルギーの略全てが一方又は他方のモードで提供される)、高い閾値を用いることが有利となり得る実施態様もある。
【0068】
レーザパルスを生成するためにVCSEL101を駆動するためには、乱数発生器100は当該VCSELを直接変調モードで駆動するための電源105をさらに備えることができる。この直接変調モードでVCSELを駆動するためには、電源105は
図1のグラフ143に示されているような電流信号を生成するように構成することができる。グラフ143では電流Iは、グラフ143中Lが付されているVCSELのレーザ発振閾値を上回る最大値I1と、VCSELのレーザ発振閾値を下回る最小値I2との間で変化し、レーザ発振期間と無発振期間とが交互に切り替わるようになっている。
【0069】
電源105は好適には、VCSELを直接変調モードで駆動する周波数を変化させるように構成されている。例えば、電源は、レーザ発振閾値に達する周波数を10Hz未満から数十GHz又は数百GHzまで変化させる構成とすることができる。要求されていることに応じて、上記構成により任意の個数の乱数又はランダムビット列を生成することができる。さらに、必要以上のエントロピーが生成されることもなくなり、これによりVCSELにかかる応力を低減することができる。
【0070】
図1では他の構成要素131及び132が設けられている。これらの構成要素131及び132はあくまでオプションであり、光アイソレータである。光アイソレータ131はVCSELの放出部115とモード分離器102との間に配置され、レーザ部分120の伝播領域内にある。
【0071】
光アイソレータ131は、外部からの散乱光がシステム内に侵入するのを阻止することができ、乱数を発生する効率及び信頼性を向上することができる。具体的には、上述のような光アイソレータ131を適用することにより、受光素子で得られるランダム信号に対する雑音を抑えることができる。
【0072】
図1に示されているように、放出部115とモード分離器102との間に光アイソレータを配置する必要は必ずしもないが、これと共に、又はこれに代えて、モード分離器102と受光素子103との間に光アイソレータ132配置することもできる。モード分離器102は好適には散乱光を通過させずに一方のモードのみを通過させるので、この時点で既に雑音量が低減している。よって、モード分離器102と受光素子103との間でのみさらに雑音を低減させる必要があり得る。
【0073】
以上、
図1のシステムの特異な構成要素について、その寸法や実際の配置について詳細に言及することなく、
図1のシステムを説明した。
【0074】
好適には、乱数発生器100はチップに集積されて設けられる。具体的には、VCSEL及び他の構成要素、特に受光素子、デジタル変換ユニット及び電源がチップ上に配置され、有利には1cm未満の寸法に小型化される。しかし、本発明はかかる寸法に限定されることはなく、システム全体について数センチメートルのオーダの大型の実現態様も可能である。
【0075】
本発明の実施形態の一利点は、(受光素子から放出される)ランダム信号のランダムビットを生成する周波数を広い周波数範囲で略任意に調整することができることである。しかし、一部の用途では単位時間あたりに生成される乱数の個数を一層多くする必要があり得る。
【0076】
モード分離器により分離された第2のモードは、基本的に第2の受光素子に伝播させることができるが、上記の場合、第2のモードを使用することができない。というのも、このモードは冗長的な情報を表すものに過ぎないからである。その理由は、第1のモードが検出されれば、第2のモードはこれ以上のエントロピーを提供することがないからである。モード分離器102によって分離される第2のモードM2が完全に消されない場合には制御信号として使用することができるが、第2のモードM2はさらなるランダム性を提供することがないので、実際のエントロピーを構成しない。しかしながら一部の実施態様では、例えば第2の受光素子と、オプションとして当該受光素子に対して設けられた他のデジタル変換ユニットとを用いて、第2のモードを検出することも可能である。かかる実施態様は、デジタル変換ユニットによって得られるランダム値の信頼性を評価する際に有利となり得る。例えば、パルスのエネルギーのうち第2のモードで運ばれた割合が本当に50%未満であったか否かの判定を行うことができる。デジタル変換ユニット104によって生成されたビットの値と、第2のモードの信号をデジタル変換するデジタル変換ユニットにより生成されたビットの値との和が1に等しい場合のみ、デジタル変換ユニット104によって生成されたビットがさらに使用され、又は出力されるように構成することができる。
【0077】
VCSEL及びモード分離器と受光素子とを用いて乱数を発生するレートを引き上げるため、
図2a~2cには統合構成が示されており、同図では複数の乱数発生器を備えたシステムが示されている。
【0078】
図2aの実施形態では、システム201は4つの乱数発生器261~264を備えている。
【0079】
これら4つの各乱数発生器それぞれにより真の乱数を発生するためには、各乱数発生器が、分離され又は別個のVCSEL211~214を備え、各VCSEL211~214が各乱数発生器に係るレーザビーム又はレーザパルスのみを生成する。さらに、各乱数発生器は各自の受光素子251~254を備えている。
【0080】
ここでは図示されていないが、一部の実施形態では全ての乱数発生器が1つの電源を共用して当該1つの電源が各乱数発生器に接続されており、これにより全ての乱数発生器が同一の電流信号を同時に、かつ同一の周波数で受け取り、レーザパルスの生成を同期させるように構成することができる。一部の実施形態では、同一の電流信号を提供する代わりに、特定のVCSELに対して供給される電流信号を調整することができる。例えば、電流信号が発せられるタイミングと周波数との関係を変えずに維持しつつ、複数のVCSELのうち特定のVCSELに対して供給される電流(すなわち電流量)を調整することができる。これにより、VCSELのうち少なくとも1つについては、実際に提供される電流が他のVCSELに対して提供される電流とは異なるものとしつつ、全てのVCSELに電流信号が同時に、かつ同一の周波数で提供される。かかる構成には、各VCSELに提供される電流が、他の各VCSELに提供される電流とは異なる構成も含まれる。さらに、一部の実施形態では、VCSELに提供される電流又は電流信号を一パルス群について、又は1つのパルスについて、他のVCSELに提供される電流とは無関係に調整可能とすることができる。
【0081】
上記の構成は、各乱数発生器の各VCSELから出力される第1のモードと第2のモードとの相対強度が完全に任意であり、VCSEL211から出力されるレーザパルスのモードの相対強度がほぼ常に、VCSEL212で同時に出力されるレーザパルスのモードの相対強度と異なるので、モードの乱数発生を妨げることがない。これに応じて、受光素子251~254で検出される信号は、通常は互いに異なる。
【0082】
図2aの実施形態に示されているように、各乱数発生器は各自のモード分離器231~234と、オプションの対応する光アイソレータ221~224及び/又は241~244と、を備えている。これら複数の異なる乱数発生器は1つのチップ上に集積することができ、また、各乱数発生器ごとにデジタル変換ユニットを1つずつ設けて、各信号の高信頼性のデジタル変換を可能にすることができる。しかし、全ての乱数発生器に対して1つのデジタル変換ユニットを設けることも可能である。1つのデジタル変換ユニットのみ設けられている場合、まず全ての受光素子の出力をまとめ、それからこのまとめた出力をデジタル変換ユニットに供給するのが好適となり得る。VCSELが同時にパルスを放出しないように当該VCSELをそれぞれ異なる周波数又はタイミングで駆動する場合には、受光素子の出力をまとめることは不要となり、各受光素子をそれぞれデジタル変換ユニットの入力ポートに接続することがあり得る。特定の一時点においてデジタル変換ユニットに到達するのは1つの受光素子のみからの1つの信号のみであり、これによりクリアな信号分離が保証される。その1つの信号を実際に出力したのがどの受光素子であるかをデジタル変換ユニットは知る必要あるいは把握する必要がないので、このことは乱数発生に悪影響を及ぼすことなく高い費用対効果の実装となり得る。
【0083】
図2a及び
図2b及び
図2cには乱数発生器が4つ示されているが、本実施形態はこの点について限定されることはなく、他の任意の個数の乱数発生器を設けることが可能である。この点については、例えば1アレイあたりのVCSEL数が最大20、又は最大50、又は最大100のVCSELアレイを(これに対応する構成要素、例えば光アイソレータ、モード分離器、受光素子等と共に)設けることができる。
【0084】
図2bの実施形態では、システム202は4つの乱数発生器261~264を備えている。これらの乱数発生器の構造は基本的に、
図2aを参照して説明したものと同一であるが、本実施形態は全ての乱数発生器に対して1つのモード分離器230を備えている。例えば、全ての乱数発生器のVCSELのレーザパルスが各受光素子251~254の方向に進行する領域全体に及ぶグレーティング又はフィルタ又は偏光依存型の光アイソレータによって、上記の1つのモード分離器を実現することができる。
【0085】
かかる実施形態により、使用する必要がある個別部品点数を削減し、システムの統合を容易化することができる。
【0086】
図2cの実施形態では一層進んで、モード分離器230を1つとする他にさらに、光アイソレータ220及び/又は光アイソレータ240を全ての乱数発生器に対して1つの光アイソレータ220又は240とされている。これにより、調整と他の部品に対する相対配置とを要する別個の独立した部品点数が一層削減される。
【0087】
一部の実施形態では、受光素子251~254に代えて、全てのVCSELに対して、又は、VCSEL数が1より多くVCSELの総数より少ない少なくとも一群のVCSELに対して、1つの受光素子のみが設けられる。
【0088】
VCSELから出力された信号は、例えば(1つ又は複数の)モード分離器を用いて上記の1つの受光素子に導かれて検出されることができる。
【0089】
この実施形態は、VCSELを同一の周波数で駆動するが僅かな時間遅延で駆動することにより、複数の異なるVCSELから同時に放出される信号を無くして、受光素子及び/又はこれに対応するデジタル変換ユニットにおいて分離信号の分離を行えるようにする場合に、特に有利となり得る。
【0090】
複数のVCSELに対して受光素子が1つである実施形態や、ここで述べた他の実施形態(具体的には、複数の受光素子が設けられている実施形態)では、(1つ又は複数の)受光素子から受け取った(1つ又は複数の)信号を変換するマルチビットデジタル変換ユニット、好適にはマルチビットアナログデジタル変換器を設けることも可能である。
【国際調査報告】