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特表2024-507736COVID-19の治療のためのプロバイオティクス組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】COVID-19の治療のためのプロバイオティクス組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20240214BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20240214BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240214BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240214BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61K35/747 ZNA
A61K35/744
A61P11/00
A61P37/04
A61P29/00
A61P1/12
A61P31/14
C12N1/20 A
C12N1/20 E
C12N1/20 C
A23L33/135
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547666
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 EP2022053332
(87)【国際公開番号】W WO2022171779
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/053539
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523297907
【氏名又は名称】アーベー-バイオティクス,ソシエダ アノニマ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】ホルディ エスパダレル マソ
(72)【発明者】
【氏名】アリアナ サラベルト ラロサ
(72)【発明者】
【氏名】セルヒ アウディベルト ブルゲ
(72)【発明者】
【氏名】ミケール アンヘル ボナチェラ シエルラ
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF05
4B018MF06
4B018MF14
4B065AA30X
4B065AA30Y
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD05
4B065BD06
4B065BD07
4B065BD09
4B065BD10
4B065CA41
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087CA09
4C087MA02
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA07
4C087ZA08
4C087ZA59
4C087ZA73
4C087ZB09
(57)【要約】
Lactobacillus plantarum CECT 30292、Lactobacillus plantarum CECT 7484、Lactobacillus plantarum CECT 7485、及びPediococcus acidilactici CECT 7483を含む、プロバイオティクス組成物が提供される。プロバイオティクス組成物は、COVID-19及び他の感染症の治療、予防、又は改善において有用である。それはまた、免疫応答の増強においても有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブダペスト条約の下で、スペイン培養細胞系統保存機関(CECT)に受託番号CECT 30292で寄託されたLactobacillus plantarum株、又はそれに由来する細菌株を含む、プロバイオティクス組成物であって、前記それに由来する細菌株が、
(a)対応する寄託株のゲノムと少なくとも99.90%同一のゲノムを有し、かつ
(b)対照と比較して、前記対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持し、前記能力が、以下:
-SARSCoV-2ウイルスに対するIgG及びIgM抗体の産生を刺激する(具体的には、IgG抗体レベルが少なくとも倍増する);
-インターフェロン-βレベルを増加させる(具体的には、インターフェロン-βレベルが少なくとも20%増加する);
-CXCL13レベルを低下させる;
-少なくとも前記寄託株のplnG遺伝子のコピー数を有する;並びに
-プランタリシンGを過剰発現させる(具体的には、プランタリシンGが少なくとも4倍過剰発現される)からなる群から選択される、プロバイオティクス組成物。
【請求項2】
Lactobacillus plantarum株が、ブダペスト条約の下で、スペイン培養細胞系統保存機関(CECT)に受託番号CECT 30292で寄託された株である、請求項1に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項3】
Lactobacillus plantarum CECT 7484、Lactobacillus plantarum CECT 7485、及びPediococcus acidilactici CECT 7483を更に含む、請求項1又は2に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項4】
約10cfu~約1012cfuの各株を含む凍結乾燥細菌バイオマスと、
凍結保護剤と、
乳剤、懸濁剤、ゲル剤、ペースト剤、顆粒剤、散剤、及びガム剤から選択される薬学的に許容される担体と、を含む、固体組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項5】
50%の前記株L.plantarum CECT 30292と、50%のL.plantarum CECT 7485、CECT 7484、及びP.acidilactici CECT 7483の混合物と、を含む、請求項4に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項6】
医薬として使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項7】
COVID-19を治療、予防、又は改善する方法において使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項8】
前記プロバイオティクス組成物の投与が、以下:
-発熱;
-咳;
-頭痛;
-息切れ;
-身体の痛み;
-低酸素血症、特に、92%未満のSaO又はSpO;及び
-下痢からなる群から選択される少なくとも1つの症状の治療、予防又は改善をもたらす、請求項7に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項9】
ウイルス感染によって引き起こされる感染症を治療、予防、又は改善する方法において使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項10】
前記ウイルス感染が、アデノウイルス、ウイルス性肝炎ウイルス性脳炎、ヒトボカウイルス、ヒトライノウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ニューモウイルス、コロナウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、及びライノウイルスからなる群から選択される、請求項9に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項11】
前記ウイルス感染が、コロナウイルス、インフルエンザ又は呼吸器合胞体ウイルス感染である、請求項10に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項12】
前記ウイルス感染が、コロナウイルス感染である、請求項11に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項13】
前記コロナウイルスが、SARS-CoV-2ウイルス、SARS-CoV-1ウイルス、又はMERS-CoVウイルスである、請求項12に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項14】
前記感染性疾患が、呼吸器疾患をもたらす、請求項9~13のいずれか一項に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項15】
前記呼吸器疾患が、息切れ及び/又は低酸素血症、特に、92%未満のSpOを特徴とする、請求項14に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項16】
前記呼吸器疾患が、上気道に影響を及ぼす、請求項14又は15に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項17】
前記呼吸器疾患が、下気道に影響を及ぼす、請求項14又は15に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項18】
前記呼吸器疾患が、肺炎である、請求項14又は15に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項19】
前記呼吸器疾患が、ARDSである、請求項14又は15に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項20】
前記プロバイオティクス組成物の投与が、以下:
-発熱;
-咳;
-頭痛
-息切れ;
-身体の痛み;
-低酸素血症、特に、92%未満のSaO又はSpO;及び
-下痢からなる群から選択される少なくとも1つの症状の治療、予防又は改善をもたらす、請求項14~19のいずれか一項に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項21】
免疫応答の増強に使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項22】
前記プロバイオティクス組成物の投与が、抗体、特に、IgG及びIgMの産生を刺激し、具体的には、IgG抗体レベルが少なくとも倍増する、請求項21に記載の使用のためのプロバイオティクス組成物。
【請求項23】
ワクチンと組み合わせて同時に使用するための、請求項21又は22に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項24】
抗炎症薬と組み合わせて同時に使用するための、請求項13~20のいずれか一項に記載のプロバイオティクス組成物。
【請求項25】
請求項1~5のいずれか一項に記載のプロバイオティクス組成物と、少なくとも1つの食用成分と、を含む、食用製品。
【請求項26】
乳製品、ミルク、ヨーグルト、又はカードである、請求項25に記載の食用製品。
【請求項27】
請求項1~5のいずれか一項に記載のプロバイオティクス組成物と、少なくとも1つの許容される賦形剤と、を含む、栄養補助食品。
【請求項28】
カプセル剤、錠剤、丸剤、サシェ剤、又は懸濁剤の形態である、請求項27に記載の栄養補助食品。
【請求項29】
有効量の請求項1~5のいずれか一項に記載のプロバイオティクス組成物と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項30】
ブダペスト条約の下で、スペイン培養細胞系統保存機関(CECT)に受託番号CECT 30292で寄託された、Lactobacillus plantarum株。
【請求項31】
CECT 30292で寄託されたLactobacillus plantarum株の変異株を得るための方法であって、以下のステップ:
(i):L.plantarum CECT 30292の変異体を作製するステップ;
(ii):ステップ(i)で得られた前記変異体を分析し、前記寄託株の少なくとも1つの能力を保持又は改善する変異株を同定するステップ;及び
(iii):ステップ(ii)で同定された前記変異株を単離し、それによって、前記L.plantarum CECT 30292の変異株を得るステップであって、前記変異株が、前記寄託株の少なくとも1つの能力を保持又は改善する、ステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学及び微生物学の分野に関し、具体的には、ヒト及び家畜の健康に恩恵を与え、特にCOVID-19疾患及び他の感染症の治療に有用であり、かつSARSCoV-2ウイルスに対する抗体を増加させる、プロバイオティクス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願の出願日において、ウェブページclinicaltrials.gov(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04517422)は、タイトル「Efficacy of L.plantarum and P.acidilactici in adults with SARS-CoV-2 and COVID-19」として、識別番号NCT04517422を有する臨床試験のデザインを開示している。この開示は、2020年8月18日に公開された。スポンサー及び責任者(情報の提供者)は、AB-Biotics,S.Aである。本願の出願人は、AB-Biotics,S.Aである。したがって、議論されるウェブページでの公開は、いわゆる「発明者起源の開示」とみなされ得る(すなわち、公の開示における主題は、発明者、1人又は複数の共同発明者、あるいは発明者又は共同発明者から直接又は間接的に主題を取得した別の者に帰せられなければならない)。
【0003】
上記のウェブページの公開には、以下が記載されている(強調表示は追加したものである):
「Lactobacillus plantarum CECT 7481、Lactobacillus plantarum CECT 7484、Lactobacillus plantarum CECT 7485 y P.acidilactici CECT 7483の安全性及び有効性を評価するための無作為化比較試験(randomized controlled trial、RCT)における、軽度のCOVID-19を有する対象が中等度又は重度の病気に罹患するリスクを低減するための1日1回投与」
介入モデルの説明:無作為化比較試験。300人の対象(18~60歳)を、Lactobacillus plantarum CECT7481、Lactobacillus plantarum CECT 7484、Lactobacillus plantarum CECT 7485、及びP.acidilactici CECT 7483(ブランチ1)又はプラセボ(ブランチ2)の組み合わせの投与を受けるよう割り当てる。」「実験:プロバイオティクス
活性試験製品は、欧州食品安全機関(European Food Safety Authority、EFSA)による安全性適格推定(Qualified Presumption of Safety、QPS)ステータスを有する4種の乳酸菌株:Lactobacillus plantarum CECT 7481、Lactobacillus plantarum CECT 7484、Lactobacillus plantarum CECT 7485、及びPediococcus acidilacti-ci CECT 7483を含む...。」
【0004】
本出願は、Lactobacillus plantarum CECT 30929(本明細書ではDSM 33765とも呼ばれる)、Lactobacillus plantarum CECT 7484、Lactobacillus plantarum CECT 7485及びPediococcus acidilactici CECT 7483の組み合わせに関する。この組み合わせは、本特許出願の出願日の上記公開には開示されていない。
【0005】
COVID-19の治療のためのプロバイオティクス組成物の使用に関して、上述の刊行物は、いかなる重要な実験データも開示しておらず、すなわち、組み合わせに関連する記述は、いかなる重要な検証可能な実験データによっても支持されない単なる記述として見ることができる。
【0006】
国際公開第2011/092261(A1)は、L.plantarum CECT 7484、L.plantarum CECT 7485 y P.acidilactici CECT 7483により形成された、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群又は腹部膨満及び腹部膨満感などの、胃腸疾患又は症状の治療のためのプロバイオティクス組成物を開示している。
【0007】
19型コロナウイルス(COVID-19)は、2型新型コロナウイルス(SARS-CoV-2、以前は2019-nCoVとして知られていた)によって引き起こされる。SARS-CoV-2感染は無症状であり得るか、又は症状軽快(例えば、軽度から中等度の呼吸異常、発熱及び/又は頭痛、非肺炎又は軽度の肺炎を伴う)から重度の症状(例えば、重度の呼吸異常、動脈血酸素分圧対吸気酸素分圧比<300、及び/又は重度の肺炎)まで、時には重篤な症状(例えば、呼吸不全、敗血性ショック、及び/又は死に至る多臓器不全又は不全)までの範囲の、広範囲の症状を引き起こし得る。具体的には、低動脈血酸素飽和度は、他の症状に関係なく、疾患の進行及びその後の死亡の危険因子であることが繰り返し示されている。
【0008】
したがって、より重度の疾患への進行を回避するために、大多数の症例を構成する軽度の個体の迅速な寛解を確実にすることは非常に興味深い。しかしながら、軽度から中等度の疾患を有する人々に対する有効な治療は、より曖昧であった。例えば、コルチコステロイドの抗炎症効果は、重度のCOVID-19において有益であることが見出されているが、その効果は、軽度又は中等度の疾患を有する患者において臨床転帰を実際に悪化させ得ると考えられる。
【0009】
L.plantarum株は、呼吸器感染症において有益であることが以前に示されている。[Chong et al.2019]。しかしながら、免疫細胞に対するL.plantarumの効果強度は、株が異なることにより広範な変動性を有する[Meijerink et al.2010]。
【0010】
最近の研究は、プロバイオティクス混合物とともに薬剤療法(ヒドロキシクロロキン、抗体、及びトシリズマブの単独又は組み合わせ)が、すでに中等度から重度の症状を示し、入院を必要としたCOVID-19陽性患者における症状の全体的な持続時間を短縮することを報告している。ただ、この研究は無作為化されておらず、病気の寛解、ウイルス負荷の減少又は抗体応答の増強に対する効果は、この研究において報告されていない[D’Ettorre et al.2020]。
【0011】
また、株P.acidilactici K15が最近、感冒及びインフルエンザシーズン中の就学前児童における感冒予防及びインフルエンザについて研究されている。しかしながら、プロバイオティクスは、研究集団全体において発熱の持続時間又はインフルエンザの発生率を短縮することができず、発酵食品をほとんど消費しなかった対象において発熱の持続時間を短縮することしかできなかったため、研究において報告されたのは限られた効果であった。更に、このプロバイオティクスは、インフルエンザに特異的な抗体のレベルをブーストすることができなかった。[Hishiki et al.2020]。
【0012】
プロバイオティクスの特徴は、同じ種の細菌の間であっても株依存的である。したがって、全てのプロバイオティクス要件においてより良好な性能を有する株を見出すことが重要である。特に、免疫学的効果は、プロバイオティクスではまれであり、したがって、高度に株特異的であると考えられている[Hill et al.2014]。
【0013】
上記を考慮すると、より重度の疾患への進行を回避するための、COVID-19の軽度から中等度の症状に罹患している対象に対する新規な治療方法を見出すことは非常に興味深い。
【発明の概要】
【0014】
本明細書の実施例は、ヒトにおけるCOVID-19の治療のための本明細書に開示されるプロバイオティクス組成物の使用に関して顕著な正の効果を実証する詳細な実験データを提供する。
【0015】
実施例2は、本明細書に開示されるプロバイオティクス組成物が、疾患の完全寛解率(介入30日目)を有意に増加させることを示す。更に、症状の寛解は、プロバイオティクス組成物を受けた患者においてより早く達成される。具体的には、プロバイオティクス組成物は、介入の間に鼻咽頭スワブ中のウイルス量を有意に減少させ、介入の30日目に平均で9倍(すなわち、ほぼ1log)減少させる。更に、プロバイオティクス組成物は、抗体の産生を増強し、IgG及びIgMの有意に高い濃度をもたらす。最後に、COVID-19の様々な特定の症状(例えば、発熱、咳、頭痛、息切れ、身体的疼痛、低酸素血症及び下痢)の持続時間は、プロバイオティクス組成物を受けた患者において有意に減少する。
【0016】
実施例3は、一方で、インターフェロン-βの血清濃度が、15日及び30日の介入後の両方でプラセボと比較してプロバイオティクス群において有意に増加したことを示す。I型インターフェロン(インターフェロンα及びインターフェロンβ)は、脊椎動物細胞におけるウイルス複製を制限する能力を有するタンパク質である。この直接的な抗ウイルス効果に加えて、I型インターフェロンはまた、Bリンパ球(B細胞)及びナチュラルキラーリンパ球(NK細胞)を刺激することによって、間接的な抗ウイルス効果を有する。B細胞は、ウイルス粒子に結合することによってウイルス拡散を防止する、ウイルス特異的抗体を産生する。
【0017】
したがって、I型インターフェロンは、広域スペクトルの抗ウイルス活性を有する。したがって、ヒトにおけるI型インターフェロン応答の障害は、様々なウイルス、特にSARS-CoV2、SARS-CoV1(SARS)及びMERS-CoV(MERS)などのコロナウイルスであるが、インフルエンザウイルス、ヒトライノウイルス又は呼吸器合胞体ウイルスにもよる肺感染、更にはC型肝炎ウイルスのような非肺ウイルス感染又は単純疱疹ウイルスによって引き起こされる脳感染(脳炎)によるより重篤な病気に関連している[Channapannavar et al.2019;Haagmans et al.2004]。
【0018】
したがって、当業者は、高I型インターフェロンが有益であり得る疾患、具体的にはウイルス感染、具体的には呼吸器ウイルス感染、より具体的には肺ウイルス感染を治療するために、患者においてインターフェロン-βを増加させることができる、本明細書で提供されるプロバイオティクス組成物の有用性を認識するであろう。
【0019】
一方、実施例3はまた、CXCL13の血清濃度がプラセボと比較してプロバイオティクス群において経時的に有意に低下したことを示す。CXCL13は、ウイルス感染中にI型インターフェロンによって誘導され、感染部位へのB細胞の動員を開始するのを助けるタンパク質である。しかしながら、CXCL13は、強力な炎症促進効果を有し、COVID-19から肺線維症及び慢性閉塞性肺疾患までの広範囲の状態にわたる肺障害に関連している。注目すべきことに、CXCL13の遮断は、かかる肺損傷を制限することが示されている。
【0020】
CXCL13を誘導することが知られているウイルス性呼吸器病原体としては、SARS-C0V2、インフルエンザ及び呼吸器合胞体ウイルスが挙げられる。したがって、CXCL13レベルを経時的に制限しながらI型インターフェロンを誘導することは、かかるウイルス感染において、過剰な炎症、特にSARS-CoV2、インフルエンザウイルス又は呼吸器合胞体ウイルスによる感染による肺組織の老化を予防しながら抗ウイルス応答を刺激するのに有用であり得る。CXCL13は、I型インターフェロンによって誘導されることが知られているため、I型インターフェロンのこの増加と同時にCXCL13の減少は、本明細書で提供されるプロバイオティクス組成物の驚くべき効果である。注目すべきことに、このCXCL13の減少は、実施例2に示される免疫グロブリンIgG及びIgMのレベルの増加によって示されるように、B細胞の活性を損なわなかった。更に、これらの結果は、実施例3に示されるように、臨床症状のわずかな期間及びウイルスクリアランスと相関する。
【0021】
実施例4は、L.plantarum CECT 30292が、WCFS1型株と比較して、また他の試験した全ての株と比較して、プランタリシンG(plnG)遺伝子を有意に過剰発現することを示す。プランタリシンGは、Lactobacillus plantarum種のいくつかの株において見出される細菌表面タンパク質である。このタンパク質は、競合する病原体の増殖を阻害する機構に特異的に関与する。重要なことに、一般的にL.plantarumにより一般に産生されるタンパク質のうち、plnGは、抗原提示細胞(Antigen-Presenting Cell、APC)、すなわち潜在的病原体の探索を担当する免疫細胞によって、特異的に認識される。APCは、活性化の際にインターフェロン及び他の免疫調節シグナルを放出し、したがって、抗体産生B細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞などの他の免疫細胞の活性化を助ける。
【0022】
clinicaltrials.govにおけるウェブページ開示に関して上述したように、このウェブページの開示における記述は、いかなる有意な検証可能な実験データによっても支持されない単なる記述とみなされ得、このウェブページの開示に基づいて、本明細書において関連する正の効果がヒト患者において得られ得ることは、妥当でも/信頼できることでもなかったことは明らかである。
【0023】
当業者は、先行技術の知識に基づいて、本明細書に実験的に記載された有意な正の効果を合理的な成功予測で予見することができなかった。注目すべきことに、臨床結果は、最初の研究設計仮説による予想を超えている。したがって、本明細書に実験的に記載された有意な正の効果は、当業者にとって予想外であり、当技術分野への大きな貢献とみなすことができる。
【0024】
したがって、本発明の一態様は、以下:
ブダペスト条約の下で、スペイン培養細胞系統保存機関(Spanish Type Culture Collection、CECT)に受託番号CECT 30292で寄託されたLactobacillus plantarum株、又はそれに由来する細菌株;
ブダペスト条約の下で、CECTに受託番号CECT 7484で寄託されたLactobacillus plantarum株、又はそれに由来する細菌株;
ブダペスト条約の下で、CECTに受託番号CECT 7485で寄託されたLactobacillus plantarum株、又はそれに由来する細菌株;及び
ブダペスト条約の下で、CECTに受託番号CECT 7483で寄託されたPediococcus acidilactici株、又はそれに由来する細菌株を含む、プロバイオティクス組成物に関し、
それに由来する細菌株の各々は、
(a)対応する寄託株のゲノムと少なくとも99.90%同一のゲノムを有し、かつ
(b)対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持し、この能力は、以下からなる群から選択される:
-COVID-19の寛解を増加させる;
-COVID-19の症状の持続期間を減少させる;
-SARSCoV-2ウイルス負荷を減少させる;
-SARSCoV-2ウイルスに対する抗体の産生を刺激する(すなわち、抗体レベルを増加させる);
-血中酸素飽和度を改善する;及び
-血液中の低酸素飽和度(すなわち、低酸素血症)の持続時間を低減する。
【0025】
別の態様は、ブダペスト条約の下で、スペイン培養細胞系統保存機関(CECT)に受託番号CECT 30292で寄託されたLactobacillus plantarum株、又はそれに由来する細菌株に関し、それに由来する細菌株は、
(a)対応する寄託株のゲノムと少なくとも99.90%同一のゲノムを有し、かつ、
(b)対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持し、この能力は、以下からなる群から選択される:
-COVID-19の寛解を増加させる;
-COVID-19の症状の持続期間を減少させる;
-SARSCoV-2ウイルス負荷を減少させる;
-SARSCoV-2ウイルスに対する抗体の産生を刺激する(すなわち、抗体レベルを増加させる);
-血中酸素飽和度を改善する;及び
-血液中の低酸素飽和度(すなわち、低酸素血症)の持続時間を低減する。
【0026】
本発明はまた、Lactobacillus plantarum株CECT 30292、又は上述の特徴を有するそれに由来する細菌株を含む、プロバイオティクス組成物に関する。
【0027】
別の態様は、ブダペスト条約の下で、スペイン培養細胞系統保存機関(CECT)に受託番号CECT 30292で寄託されたLactobacillus plantarum株、又はそれに由来する細菌株を含む、プロバイオティクス組成物に関し、それに由来する細菌株は、
(a)対応する寄託株のゲノムと少なくとも99.90%同一のゲノムを有し、かつ、
(b)対照と比較して、対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持し、この能力は、以下からなる群から選択される:
-SARSCoV-2ウイルスに対するIgG及びIgM抗体の産生を刺激する(具体的には、IgG抗体レベルが少なくとも倍増する);
-インターフェロン-βレベルを増加させる(具体的には、インターフェロン-βレベルが少なくとも20%増加する);
-CXCL13レベルを低下させる;
-少なくとも寄託株のplnG遺伝子のコピー数を有する;並びに
-プランタリシンGを過剰発現させる(具体的には、プランタリシンGが少なくとも4倍過剰発現される)。
【0028】
別の態様は、ブダペスト条約の下で、スペイン培養細胞系統保存機関(CECT)に受託番号CECT 30292で寄託されたLactobacillus plantarum株に関する。
【0029】
別の態様は、CECT 30292で寄託されたLactobacillus plantarum株の変異株を得るための方法に関し、この方法は、以下のステップを含む:
(i):L.plantarum CECT 30292の変異体を作製するステップ;
(ii):ステップ(i)で得られた変異体を分析し、寄託株の少なくとも1つの能力を保持又は改善する変異株を同定するステップ;及び
(iii):ステップ(ii)で同定された変異株を単離し、それによって、L.plantarum CECT 30292の変異株を得るステップであって、変異株が、寄託株の少なくとも1つの能力を保持又は改善する、ステップ。
【0030】
「プロバイオティクス組成物(複数可)」は、本明細書において、本発明の様々な態様及び実施形態による様々な組成物を指すために使用される。
【0031】
本明細書に記載のプロバイオティクス組成物は、本明細書に詳細に記載される様々な医療用途/使用のために使用することができる。あるいは、本明細書に記載される全ての使用は、本明細書に開示される疾患の予防及び/又は治療のための医薬製品、獣医学的製品、医薬、食用製品、栄養補助食品、又はダイエット製品の製造のための、本明細書に記載の組成物のうちのいずれかの使用として処方することができる。あるいは、これはまた、本明細書に記載の疾患又はその症状及び/若しくは合併症の治療又は予防を必要とする対象においてそれを行う方法としても処方され得、この方法は、本明細書に記載のプロバイオティクス組成物を対象に投与することを含む。
【0032】
本発明の一態様は、医薬として使用するための(すなわち、疾患の治療又は予防において使用するための)、プロバイオティクス組成物に関する。あるいは、この態様は、プロバイオティクス治療のための方法として処方することができ、この方法は、その治療を必要とする対象に、有効量の本発明のプロバイオティクス組成物を投与することを含む。本明細書で使用される「プロバイオティクス」という用語は、適切な量で投与された場合に宿主に健康利益を与える生きた微生物を指す。
【0033】
本発明の一態様は、COVID-19又はその症状、合併症及び/若しくは続発症を治療、予防又は改善する方法において使用するための、本発明によるプロバイオティクス組成物に関する。あるいは、この態様は、COVID-19又はその症状及び/若しくは合併症の治療、予防、又は改善を必要とする対象においてそれを行う方法として処方することができ、この方法は、対象に、本明細書に記載のプロバイオティクス組成物を投与することを含む。
【0034】
別の態様は、感染症又はその症状、合併症及び/若しくは続発症を治療、予防又は改善する方法において使用するための、本発明によるプロバイオティクス組成物に関する。あるいは、この態様は、感染症又はその症状及び/若しくは合併症の治療、予防、又は改善を必要とする対象においてそれを行う方法として処方することができ、この方法は、対象に、本明細書に記載のプロバイオティクス組成物を投与することを含む。
【0035】
別の態様は、免疫応答を増強する際に使用するための(すなわち、免疫応答又は免疫を促進、刺激又はブーストする際に使用するための)、本発明によるプロバイオティクス組成物に関する。あるいは、この態様は、免疫応答の増強を必要とする対象においてそれを行う方法として処方することができ、この方法は、対象に、本明細書に記載のプロバイオティクス組成物を投与することを含む。
【0036】
別の態様は、本明細書に記載されるプロバイオティクス組成物と、少なくとも1つの許容される賦形剤と、を含む、栄養補助食品に関する。
【0037】
別の態様は、有効量の本明細書に記載のプロバイオティクス組成物と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤と、を含む、医薬組成物に関する。
【0038】
別の態様は、本明細書に記載されるプロバイオティクス組成物と、少なくとも1つの食用成分と、を含む、食用製品に関する。
【0039】
特許請求の範囲及び本発明の態様において使用される用語は、本明細書において広く一般的な意味で理解される。それにもかかわらず、いくつかは、本発明の詳細な説明において以下に定義される。
【0040】
明細書及び特許請求の範囲の全体を通して、「含む」という語及びその変形は、他の技術的特徴、添加剤、構成要素、又はステップを除外することを意図するものではない。本発明の更なる目的、利点、及び特徴は、本明細書を検討すると当業者に明らかになるか、又は本発明の実施によって知ることができる。更に、本発明は、本明細書に記載の特定の好ましい実施形態の全ての可能な組み合わせを包含する。以下の実施例及び図面は、例示の目的で本明細書に提供されているのであり、本発明に限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】ANI(平均ヌクレオチド同一性)に基づくツリー分析を示し、L.plantarum DSM 33765は、CECT 7484と同じクレードに属するが(99.71%のANI)、参照株WCFS1、並びにATCC 202195及びCECT 7485とはより遠縁である(98.7~98.8%のANI値)。更なる詳細については本明細書の実施例を参照されたい。
図2】パルスフィールドゲル電気泳動(pulse-field gel electrophoresis、PFGE)を示し、L.plantarum DSM 33765株(2つの複製されたrep1及びrep2)は、再現可能なPFGEプロファイルを有し、これは密接に関連する株L.CECT 7484のプロファイルとは異なる。具体的には、CECT 7484と比較して、DSM 33765株は、97kDaのバンドを欠くが、48.5~32.1kDaの間に更なるバンドを有する。したがって、密接に関連しているが、両方の株は互いに異なることが示される。更なる詳細については本明細書の実施例を参照されたい。
図3】プロバイオティクス群及びプラセボ群についての、介入の0日目、15日目及び30日目における鼻咽頭スワブ中のSARS-CoV-2のウイルス負荷の濃度を示す。30日目に、差は平均0.9 logであり、したがって濃度は平均で9倍減少した。更なる詳細については本明細書の実施例を参照されたい。
図4】プロバイオティクス群及びプラセボ群についての、介入の0日目、15日目及び30日目におけるSARS-CoV-2に対するIgG抗体及びIgM抗体の濃度を示す。30日目に、プロバイオティクスを受けた対象は、プラセボ群の対象の2倍高いIgGレベルを有していた。更なる詳細については本明細書の実施例を参照されたい。
図5】プロバイオティクス群及びプラセボ群についての、介入の0日目、15日目及び30日目におけるインターフェロン-β1a(INFb)の血清濃度を示す。30日目に、プロバイオティクスを受けた対象は、プラセボ群に対して有意に増加したINFbレベルを有した。更なる詳細については本明細書の実施例を参照されたい。
図6】プロバイオティクス群及びプラセボ群についての、介入の0日目、15日目及び30日目におけるCXCL13の血清濃度を示す。プロバイオティクス群における濃度は、プラセボと比較して、15日目及び30日目の両方で有意に低かった。更なる詳細については本明細書の実施例を参照されたい。
図7】L.plantarum株CECT 30292、CECT 7483、CECT 7484、CECT 7485、CECT 7481,299v及びWCFS1のプランタリシンG(PlnG)タンパク質の倍増を示す。L.plantarum CECT 30292は、WCFS1型株と比較して、また他の試験した全ての株と比較して、plnG遺伝子を顕著に過剰発現した。更なる詳細については本明細書の実施例を参照されたい。
【発明を実施するための形態】
【0042】
定義
由来する:本明細書で使用される「由来する」、「誘導体」、「改変体」、「変異体」(例えば、「変異株」)という用語、又はそれらの任意の文法的変形は、特定の分子(例えば、本開示の株)から単離されるか、又はそれを使用して作製される成分を指す。例えば、第1の細菌株(例えば、寄託株)に由来する細菌株は、第1の株と同一又は実質的に類似する株であり得る。細菌株の場合、例えば、その由来株は、自然に生じる変異誘発(人工的に誘導された変異誘発又は人工的にランダムな変異誘発)によって得られることができる。
【0043】
賦形剤:「賦形剤」及び「担体」という用語は交換可能に使用され、化合物、例えば、本開示の細菌株の投与を更に容易にするために、例えば、医薬組成物に添加される不活性物質を指す。
【0044】
同一性:本明細書で使用される場合、「同一性」という用語は、重合分子間のモノマー配列(例えば、DNA分子及び/又はRNA分子間)の全体の保存を指す。いかなる付加的な修飾子も伴わない「同一」という用語は、配列が100%同一(100%配列同一性)であることを意味する。2つの配列を、例えば、「70%同一」として説明することは、それらを、例えば、「70%の配列同一性」を有するものとして説明することと同等である。
【0045】
2つのポリマー分子、例えば、ポリヌクレオチド配列の同一性パーセントの計算は、例えば、最適な比較目的のために2つの配列を整列させることによって実施することができる(例えば、最適なアラインメントのために、第1及び第2のポリヌクレオチド配列の一方又は両方にギャップを導入することができる)。特定の態様では、比較目的のために整列される配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%又は約100%である。次いで、ポリヌクレオチドの場合、対応する塩基位置の塩基が比較される。
【0046】
2つの配列間の同一性パーセントは、ギャップの数、及びそれぞれのギャップの長さを考慮に入れて、配列によって共有される同一の位置の数の関数であり、それは数学的アルゴリズムを用いて決定することができる。好適なソフトウェアプログラムを、タンパク質配列及びヌクレオチド配列の両方のアラインメントに利用することができる。パーセント配列同一性を決定するための1つの適切なプログラムは、bl2seqであり、これは、BLASTN(核酸配列を比較するために使用される)又はBLASTP(アミノ酸配列を比較するために使用される)アルゴリズムのいずれかを使用して、2つの配列間の比較を行う。他の適切なプログラムは、例えば、バイオインフォマティクスプログラムのEMBOSSサイトの一部である、Needle、Stretcher、Water、又はMatch-erである。配列アラインメントは、MAFFT、Clustal(ClustalW、ClustalX又はClustal Omega)、MUSCLE、MAUVE、MUMMER、RASTなどの当該技術分野で知られている方法を使用して行うことができる。
【0047】
ある特定の態様において、第1の配列と第2の配列との同一性のパーセンテージ(%ID)は、%ID=100×(Y/Z)として計算され、ここで、Yは、第1及び第2の配列のアラインメントで同一の一致として(例えば、目視検査若しくは特定の配列アラインメントプログラムによって整列されたものとして)スコア付けされたアミノ酸残基又は核酸塩基の数であり、Zは、第2の配列の残基の総数である。完全又はほぼ完全なゲノム核酸塩基配列を比較する場合、%IDは、ANI(平均ヌクレオチド同一性)と呼ばれることもある。
【0048】
予防する:本明細書で使用される用語「予防する」、「予防すること」、「予防」及びそれらの変形は、例えば、以下を指す:
(i)本明細書に開示される疾患、障害及び/又は症状の発症を部分的に又は完全に遅延させること、
(ii)本明細書に開示される特定の疾患、障害、及び/又は症状の1つ以上の症状、特徴、又は臨床症状、合併症、又は続発症の発症を部分的に又は完全に遅延させること、
(iii)本明細書に開示される特定の疾患、障害、及び/又は症状の1つ以上の症状、特徴、又は症状、合併症、又は続発症の発症を部分的に又は完全に遅延させること、
(iv)本明細書に開示される特定の疾患、障害及び/若しくは状態からの進行を部分的若しくは完全に遅延させる、並びに/又は
(v)本明細書に開示される疾患、障害、及び/又は症状に関連する病状を発症するリスクを減少させること。
【0049】
対象:「対象」、「患者」、「個体」、及び「宿主」という用語、及びそれらの変形は、本明細書で交換可能に使用され、限定されないが、診断、治療、又は治療法が所望されるヒト、飼育動物(例えば、イヌ、ネコなど)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)、及び実験動物(例えば、サル、ラット、マウス、ウサギ、モルモットなど)を含む、任意の哺乳動物対象、特にヒトを指す。本明細書に記載の方法は、ヒトの療法及び獣医学的用途の両方に適用可能である。
【0050】
それを必要とする対象:本明細書で使用される場合、「それを必要とする対象」という句は、本開示の組成物の投与から利益を得るであろう哺乳動物対象などの対象を含む。
【0051】
治療有効量:本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、所望の治療効果、薬学的及び/又は生理学的効果を必要とする対象において、それを生み出すのに十分な本開示の組成物の量である。
【0052】
治療:本明細書で使用される「治療する」、「治療」、「療法」という用語は、例えば、本明細書に開示される疾患又は症状の重症度を低減させること;本明細書に開示される病気(例えば、COVID-19などのコロナウイルス病)に関連する1つ以上の症状、併発症、又は続発症を改善又は排除すること;疾患又は症状を必ずしも治癒することなく、本明細書に開示される状態/疾患を有する対象に有益な効果を提供すること、を指す。この用語はまた、疾患若しくは状態若しくは症状、合併症、又はその続発症の予防(prophylaxis)又は防止(prevention)を含む。
【0053】
この用語は、疾患若しくは症状を予防するための臨床的若しくは栄養的介入、疾患若しくは症状を治癒すること、疾患若しくは症状の発症を遅延させること、症状、合併症若しくは続発症の発症を遅延させること、疾患若しくは症状の重症度を減少させること、症状、合併症、若しくは続発症の重症度を減少させること、1つ以上の症状を改善すること、1つ以上の合併症を改善すること、1つ以上の続発症を改善すること、1つ以上の症状を予防すること、1つ以上の合併症を予防すること、1つ以上の続発症を予防すること、1つ以上の症状を遅延させること、1つ以上の症状を遅延させること、1つ以上の合併症を遅延させること、1つ以上の続発症を遅延させること、1つ以上の症状を改善すること、1つ以上の合併症を改善すること、1つ以上の続発症を改善すること、1つ以上の症状の持続時間を短縮すること、1つ以上の合併症の持続時間を短縮すること、1つ以上の続発症の持続期間を短縮すること、1つ以上の症状の頻度を減少させること、1つ以上の合併症の頻度を低減すること、1つ以上の続発症の頻度を減少させること、1つ以上の症状の重症度を減少させること、1つ以上の合併症の重症度を減少させること、1つ以上の続発症の重症度を低下させること、生活の質を改善すること、生存率を増加させること、疾患若しくは症状の再発を予防すること、疾患若しくは症状の再発を遅延させること、又はそれらの任意の組み合わせのことを指し、例えば、本開示の組成物による処置の非存在下で予想されるものとの比較においてなされるものである。
【0054】
症状(symptom):本明細書で使用される場合、「症状」という用語は、対象によって観察される疾患又は身体的障害の主観的又は身体的徴候、兆候、又は証拠を指す。一般に、この用語は、患者が経験し、疾患を示す、構造、機能、又は感覚における任意の病的現象又は正常からの逸脱を指す。症状は、症状を経験している個人によって感じられるか又は気付かれるが、他者によって容易に気付かれない場合がある。一部の態様では、症状は、軽度の症状、中程度の症状、又は重度の症状であり得る。本明細書で使用される場合、「軽度の症状」という用語は、生命を脅かさず、例えば、集中治療(例えば、病院ICUにおける)を必要としない症状を指す。本明細書で使用される場合、「中等度の症状」という用語は、生命を脅かす可能性があり、例えば入院を必要とする可能性があるため、モニタリングを必要とする症状を指す。本明細書で使用される場合、「重度の症状」という用語は、生命を脅かし、例えば、集中治療(例えば、病院ICUにおける)を必要とする症状を指す。
【0055】
合併症:本明細書で使用される場合、「合併症」という用語は、疾患又は症状の間に起こる病理学的プロセス又はイベントであって、疾患又は症状の本質的な部分ではないものを指し、疾患/状態から、又は独立した原因から生じ得る。したがって、合併症という用語は、本明細書に開示される病気又は症状、例えばCOVID-19と診断された対象において観察される医学的/臨床上の問題を指す。いくつかの態様では、合併症は一時的であり得る。いくつかの態様において、合併症は、慢性又は永久的であり得る。本明細書で使用される場合、「続発症」という用語は、長期の、慢性の、又は永続的な合併症を指す。
【0056】
プロバイオティクス組成物
前述したように、本発明の一態様は、受託番号CECT 30292で寄託されたLactobacillus plantarum株、又はそれに由来する細菌株を含むプロバイオティクス組成物に関する。
【0057】
一実施形態では、Lactobacillus plantarum株は、受託番号CECT 30292で寄託された株である。
【0058】
一実施形態では、プロバイオティクス組成物は、Lactobacillus plantarum CECT 7484、Lactobacillus plantarum CECT 7485、及びPediococcus acidilactici CECT 7483を更に含む。
【0059】
Lactobacillus plantarum CECT 30292(本明細書中ではDSM 33765とも呼ばれる)は、ヒト(糞便試料)及びチコリ(cichorium intybus)から単離された。この株は、Leibniz-Institut DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroogranismen und ZellKulturen GmbH,Inhoffenstr,7B D-38124 Braunschweig,Germanyの住所を有するドイツ微生物細胞培養コレクション(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(DSMZ))に寄託された 寄託株は、受託番号DSM 33765及び寄託日2021年1月27日(27.01.2021)を受けた。この株はまた、2021年1月26日(26.01.2021)に、スペイン培養細胞系統保存機関(CECT,Parc Cientific de la Universitat de Valencia,Carrer del Catedratic Agustin Escardino Benlloch,9,46980 Paterna,Valencia,Spain)に受託番号CECT 30292で寄託された。両方の寄託は、ブダペスト条約の条件下で行われ、生存可能であり、それらの寄託に関連するそれらの特徴の全てを保持する。それらは同じ出願人によって寄託された。
【0060】
特定の実施形態は、ブダペスト条約の下で、スペイン培養細胞系統保存機関(CECT)に受託番号CECT 30292で寄託されたLactobacillus plantarum株に関する。本発明はまた、Lactobacillus plantarum株CECT 30292を含むプロバイオティクス組成物に関する。
【0061】
Lactobacillus plantarum株CECT 7485及びCECT 7484並びにPediococcus acidilactici株CECT 7483は、国際公開第2011/092261(A1)に記載され、保護されており、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これらの3つの株は、2009年2月4日(04.02.2009)に、本出願の同じ出願人によってスペイン培養細胞系統保存機関(Parc Cientific de la Universitat de Valencia,Carrer del Catedratic Agustin Escardino Benlloch,9,46980 Paterna,Valencia,Spain)に寄託された。
【0062】
本文脈において当業者によって理解されるように、細菌株は、その自然環境から単離されており、すなわち、その自然環境には存在せず、したがって、自然環境に存在する他の生物及び物質を含まない。
【0063】
Lactoplantibacillus plantarum(L.plantarum)は、以前はLactobacillus plantarumとして知られていたため、Lactoplantibacillus plantarum及びLactobacillus plantarumは、本明細書では区別せずに使用される。
【0064】
多種多様な乳酸菌種が、明らかに安全に使用されている長い歴史を有する。欧州食品安全機関は、明らかに安全な使用の証明された長い歴史を有する分類単位に「安全性の適格推定」(QPS)ステータスを付与するシステムを開発した。菌株P.acidi-lactici CECT 7483、L.plantarum CECT 7484及びL.plantarum CECT 7485及びL.plantarum DSM 33765は、QPSステータスを有する細菌種に属する。
【0065】
細菌における抗菌剤に対する耐性の出現及び広がりは、ヒト及び動物の健康に対する脅威をもたらし、主要な財政的及び社会的費用を増加させる。全ゲノム配列分析により、新規株L.plantarum DSM 33765は、抗生物質耐性遺伝子を有さないことがわかった。CECT 7483株、CECT 7484株及びCECT 7485株も、抗生物質耐性を有していない。全体として、これらの結果は、病原性種への抗生物質耐性の潜在的な転移の危険性を排除する。
【0066】
寄託された株を出発物質として使用することによって、当業者にとり、慣用的な突然変異誘発又は再単離技術(すなわち、再培養)によって、本発明の組成物を形成する株の本明細書に記載される関連する特徴及び利点を保持又は増強するその更なる改変体又は変異体をルーチン的に得ることができることが明らかである。したがって、本発明はまた、本明細書に開示される株の改変体に関する。本明細書で使用される場合、株の「改変体」又は「突然変異体」という用語は、寄託株の上記の少なくとも1つの能力を保持する、主に突然変異によって寄託参照株から得られた任意の天然に存在する又は特異的に開発された株を指す。
【0067】
実施例5は、同じ株(DSM 33765)の2つの異なるバッチのゲノム間の可変性を示す。同じ株の2つの単離物は、平均ヌクレオチド同一性(average nucleotide identity、ANI)の0.01%だけ異なり得ることが証明されている。したがって、対応する寄託株のゲノムに対して99.99%のANIを示す株は、同じ寄託株CECT 30292とみなされる。
【0068】
特定の実施形態では、寄託株に由来する細菌株は、対応する寄託株のゲノムと少なくとも99.90%同一のゲノムを有し、より具体的には、同一性%は、99.91%、99.92%、99.93%、99.94%、99.95%、99.96%、99.97%、99.98%、又は99.99%である。具体的には、同一性%は、少なくとも99.95%である。
【0069】
特定の実施形態では、変異体は、組換えDNA技術を使用することによって得られる。別の実施形態では、変異体はランダム変異誘発によって得られる。別の実施形態では、変異体は、天然に存在する改変体である。別の実施形態では、この変異体は、寄託株を再培養することによって得られる。したがって、本発明の別の態様は、寄託株(特にL.plantarum CECT 30292)に由来する株を得る方法に関し、方法は、出発材料として寄託株を使用することと、変異誘発又は再培養を適用することと、を含み、得られた改変体又は変異体は、寄託株の少なくとも1つの能力が更に保持又は増強されている。
【0070】
あるいは、これは、寄託株(特に、L.plantarum CECT 30292)の変異株を得るための方法として表現することができ、この方法は、以下のステップを含む:
(i):L.plantarum CECT 30292の変異体を作製するステップ;
(ii):ステップ(i)で得られた変異体を分析し、寄託株の少なくとも1つの能力を保持又は改善する変異株を同定するステップ;、及び
(iii):ステップ(ii)で同定された変異株を単離し、それによって、L.plantarum CECT 30292の変異株を得るステップであって、変異株が、寄託株の少なくとも1つの能力を保持又は改善する、ステップ。
【0071】
いくつかの実施形態では、得られた変異体は、対照と比較して、対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持(又は改善)し、この能力は、以下からなる群から選択される:
-COVID-19の寛解を増加させる;
-COVID-19の症状の持続期間を減少させる;
-SARSCoV-2ウイルス負荷を減少させる;
-SARSCoV-2ウイルスに対する抗体の産生を刺激する(特に、SARSCoV-2ウイルスに対するIgG及びIgM抗体の産生を刺激する;より具体的には、IgG抗体レベルが少なくとも倍増する);
-低酸素血症を改善する;
-低酸素血症の持続期間を短縮する;
-インターフェロン-βレベルを増加させる(具体的には、インターフェロン-βレベルが少なくとも20%増加する);
-CXCL13レベルを低下させる;
-少なくともplnG遺伝子のコピー数又は寄託株の遺伝子のより多くのコピーを有する;並びに
プランタリシンGを過剰発現させる(具体的には、プランタリシンGが少なくとも4倍過剰発現される)-。
【0072】
対照は、かかる特定の能力を有さないプラセボ又は対照株として理解される。
【0073】
特定の実施形態では、得られた変異体は、対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持(又は改善)しており、この能力は、以下からなる群から選択される:
-COVID-19の寛解を増強する;-COVID-19の症状の持続期間を減少させる;-SARSCoV-2ウイルス負荷を減少させる;-SARSCoV-2ウイルスに対する抗体の産生を刺激する;(特に、SARSCoV-2ウイルスに対するIgG及びIgM抗体の産生を刺激する;より具体的には、IgG抗体レベルが少なくとも倍増する);-低酸素血症を改善する、及び低酸素血症の持続期間を短縮する。特定の実施形態では、かかる能力の対照はプラセボである。
【0074】
特定の実施形態では、得られた変異体は、対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持(又は改善)しており、その能力は、SARSCoV-2ウイルスに対する抗体の産生を刺激することであり、特に、SARSCoV-2ウイルスに対するIgG及びIgM抗体の産生を刺激すること、より具体的には、IgG抗体レベルが少なくとも倍増する。特定の実施形態では、かかる能力の対照はプラセボである。
【0075】
特定の実施形態では、得られた変異体は、対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持(又は改善)し、その能力は、インターフェロン-βレベルを増加させることであり、具体的には、インターフェロン-βレベルは、少なくとも20%増加する。特定の実施形態では、かかる能力の対照はプラセボである。
【0076】
特定の実施形態では、得られた変異体は、対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持(又は改善)し、その能力は、CXCL13レベルを低下させることである。特定の実施形態では、かかる能力の対照はプラセボである。
【0077】
特定の実施形態では、得られた突然変異体は、対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持(又は改善)しており、その能力は、少なくとも、寄託株のplnG遺伝子のコピー数又は遺伝子のより多くのコピーを有することである。特定の実施形態では、かかる能力についての対照は、例えば、WCSF1株などの、1コピーのplnG遺伝子のみを有する株である。
【0078】
特定の実施形態では、得られた変異体は、対応する寄託株の少なくとも1つの能力を保持(又は改善)し、その能力は、プランタリシンGを過剰発現することであり、具体的には、プランタリシンGは、少なくとも4倍過剰発現される。特定の実施形態では、かかる能力についての対照は、例えば、WCSF1株である。
【0079】
当業者は、対応する寄託株に関して得られた変異体の能力を決定するために使用される適切な方法を決定する。これらの能力を測定するための可能な方法の例は、実施例のセクションに示す。
【0080】
実施例6は、株CECT 30292がプラスミド中にplnG遺伝子の更なるコピーを有することを示す。したがって、当業者は、plnG遺伝子を含有するプラスミドのコピー数を増加させること、又はplnG遺伝子の更なるコピーを寄託株の細菌DNAに挿入することを試みることができる。したがって、一実施形態では、寄託株に由来する細菌株は、細菌染色体又はプラスミドのいずれかにplnG遺伝子の追加コピーを挿入することによってそれから得られる。
【0081】
ゲノム配列の知識がなくても、CECT 30292の変異株を得ることは当業者にとってルーチン的な作業であることは明らかである。
【0082】
本発明の組成物の一部を形成する株は、生細胞の形態であってもよい。あるいは、株は非生存細胞の形態であってもよい。これは、熱的に死滅させた微生物、又は変更されたpH、超音波処理、放射線若しくは高圧への曝露によって死滅させた微生物を含み得る。細胞は食餌、医薬製品又は食用製品に容易に組み込むことができ、保存要件は生存細胞よりもはるかに制限されないため、非生存細胞を用いた製品調製はより単純である。
【0083】
本明細書に開示される株は、適切な人工培地中で適切な条件下で細菌を培養(又は発酵)することによって産生される。微生物のための「人工培地」という表現は、天然物質、及び場合により、それらの機能のいくつかを再現することができるポリマーポリビニルアルコールなどの合成化学物質を含有する培地であると理解される。一般的な適切な人工培地は、細菌増殖に必要な炭素源(例えば、グルコース)、窒素源(例えば、アミノ酸及びタンパク質)、水及び塩を含む要素を含有する栄養ブロスである。増殖培地は、液体形態であり得るか、又はしばしば寒天若しくは別のゲル化剤と混合されて固体培地を得ることができる。これらの株は、単独で培養されて純粋な培養物を形成し得るか、又は他の微生物と一緒に混合培養物として培養され得るか、又は異なる型の細菌を別々に培養し、次いでそれらを所望の割合で組み合わせることによって培養され得る。培養後、最終製剤に応じて、菌株を精製細菌として使用してもよく、あるいは、細菌培養物又は細胞懸濁液をそのまま、又は適切な後処理後のいずれかで使用してもよい。本明細書において、「バイオマス」という用語は、培養(又は培養と同義の用語としての発酵)後に得られる細菌株培養物であると理解される。
【0084】
特定の実施形態では、菌株を人工培地中で発酵させ、発酵後に後処理に供して細菌細胞を得、得られた細菌細胞は液体培地中又は固体形態である。具体的には、後処理は、乾燥、凍結、凍結乾燥、流動床乾燥、噴霧乾燥及び液体媒体中での冷蔵からなる群から選択され、より具体的には凍結乾燥である。
【0085】
「後処理」という用語は、本文脈において、貯蔵可能な細菌細胞を得る目的でバイオマスに対して実施される任意の処理と理解されるべきである。後処理の目的は、バイオマス中の細胞の代謝活性を減少させ、したがって、細胞有害反応の速度を遅くすることである。後処理の結果として、細菌細胞は固体又は液体形態であり得る。固体形態では、貯蔵細菌細胞は粉末又は顆粒であり得る。いずれにしても、細菌細胞を含有する固体形態及び液体形態の両方は、天然に存在しない。
【0086】
なぜなら、それらは人工的な後処理プロセスの結果であるからである。後処理プロセスは、特定の実施形態では、いわゆる後処理剤の1つ以上の使用を必要とし得る。本発明の文脈において、「後処理剤」という表現は、本明細書に記載の後処理プロセスを実施するために使用される化合物を指す。後処理剤の中には、脱水剤、静菌剤、凍結保護剤(抗凍結剤)、不活性充填剤(凍結乾燥保護剤としても知られる)、担体材料(コア材料としても知られる)などが含まれるが、これらに限定されず、単独で又は組み合わせて使用される。
【0087】
細菌細胞の代謝活性を低下させるための2つの基本的なアプローチがあり、したがって、後処理を行うための2つのアプローチがある。第1の方法は、全ての化学反応の速度を低下させることであり、これは、冷蔵庫、機械式冷凍機、及び液体窒素冷凍機を使用して冷蔵又は冷凍することによって温度を下げることによって行うことができる。あるいは、全ての化学反応の速度を減少させることは、細菌細胞の増殖を阻害する物質、すなわち静菌剤(Bstaticと略される)を添加することによって達成され得る。
【0088】
後処理を実施するための第2のアプローチは、バイオマスから水を除去することであり、凍結乾燥機を使用した水の昇華を含み得るプロセスである。バイオマスから水を除去するための適切な技術は、乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥又は流動床乾燥である。固体形態をもたらす後処理は、乾燥、凍結、凍結乾燥、流動床乾燥、又は噴霧乾燥であり得る。
【0089】
後処理は、具体的には凍結乾燥であり、これは減圧下での昇華による凍結細菌懸濁液からの水の除去を含む。このプロセスは、生成物を予備凍結して凍結構造を形成し、一次乾燥して大部分の水を除去し、二次乾燥して結合水を除去する、という3つのステップからなる。凍結乾燥細菌培養物の製造及び単離のための工業プロセスの目的及び予想される変動性に起因して、後者は、一般に、凍結乾燥保護剤としても知られるある量の不活性充填剤を含有する。その役割は、製品中の生きたプロバイオティクス細菌の含有量を標準化することである。市販の凍結乾燥培養物中の以下の不活性充填剤が使用される:スクロース、サッカロース、ラクトース、トレハロース、グルコース、マルトース、マルトデキストリン、コーンスターチ、イヌリン、及び他の薬学的に許容される非吸湿性充填剤。必要に応じて、アスコルビン酸のような他の安定化剤又は凍結保護剤もまた、粘性ペーストを形成するために使用され、これは、凍結乾燥に供される。いずれの場合も、そのようにして得られた材料は、粉末を含む適切なサイズに粉砕することができる。
【0090】
バイオマスを固体形態で保存する代わりに、バイオマスを液体形態で保存してもよい。これは、細菌増殖を停止させるために上記のような静菌剤を培養培地に添加することによって、又は細胞を回収し、静菌剤を含む生理食塩水溶液中にペレットを再懸濁し、任意選択でそれを冷蔵する中間ステップによって行うことができる。
【0091】
時には、例えば流動床乾燥プロセスにおいて上述したように、プロバイオティクス調製物は、貯蔵寿命及び/又は機能性を改善するために、固定化及び/又はコーティング、又はカプセル化プロセスに供される。細菌の固定化、コーティング又はカプセル化のためのいくつかの技術が、当該分野で公知である。
【0092】
組成物中の各株についてのコロニー形成単位(colony forming unit、cfu)の有効量は、当業者によって決定され、最終製剤に依存する。用語「コロニー形成単位」(「cfu」)は、寒天プレート上の微生物計数によって明らかにされる細菌細胞の数として定義される。
【0093】
いくつかの実施形態では、例えば、食用製品(例えば、ヨーグルト、キャンディ)において、株は、10cfu/g~1012cfu/g、より具体的には10cfu/g~1011cfu/gの量で存在する。いくつかの実施形態では、例えば、栄養補助食品(例えば、錠剤)において、株は、用量(例えば、錠剤)当たり10~1012cfu、具体的には、用量当たり10~1011cfuの範囲の量で存在する。
【0094】
特定の実施形態では、プロバイオティクス組成物は、50%の株L.plantarum CECT 30292(例えば、10億cfu)と、50%のL.plantarum CECT 7485、CECT 7484、及びP.acidilactici CECT 7483の混合物(例えば、同等の割合の3つの株及び合計10億cfuを有する混合物)と、から構成される。
【0095】
当業者に知られているように、コロニー単位の有効量は、活性蛍光単位(active fluorescent unit、afu)の有効量によって測定することもできる。用語「活性蛍光単位」(「afu」)は、推定される生細胞の蛍光特性に特異的なゲートにおけるフローサイトメトリー計数によって明らかにされる細菌細胞の数として定義される。したがって、当業者は、コロニー形成単位(cfu)の上記特定量は、活性蛍光単位(afu)の量とほぼ同じであると考えるであろう。
【0096】
一実施形態では、プロバイオティクス組成物は固体組成物である。
【0097】
別の実施形態では、プロバイオティクス組成物は、約10cfu~約1012cfuの各株を含む凍結乾燥細菌バイオマスと、抗凍結剤とを含む固体組成物である。
【0098】
具体的には、プロバイオティクス組成物は、アレルゲンフリーの抗凍結剤である少なくとも1つの抗凍結剤を含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、麦芽糖、トレハロース、マンニトール(特に、d-マンニトール)、サッカロース、ラクトース(lectose)、デキストロース、アスコルビン酸ナトリウム、又はクエン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つの抗凍結剤を含む。
【0100】
より具体的には、組成物は、エマルジョン、懸濁液、ゲル、ペースト、顆粒、粉末、及びガムから選択される薬学的に許容される担体を更に含む。具体的には、担体は、アレルゲンフリー担体である。
【0101】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、マルトデキストリン、セルロース、様々な種類のデンプン、イヌリン、ラクトース、又は水分活性が低下した担体からなる群から選択される1つ以上の担体を含む。
【0102】
プロバイオティクス組成物の医学的使用-COVID-19又はその症状、合併症及び/若しくは続発症を治療、予防、又は改善する方法
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物の投与は、以下からなる群から選択されるCOVID-19の少なくとも1つの症状の治療、予防又は改善をもたらす:
-発熱;
-咳、特に空咳;
-頭痛;
-息切れ;
-身体の痛み、特に筋肉痛;
-血液中の低酸素飽和度(低酸素血症)、特に、92%未満の酸素飽和度SaO又はSpO;及び
-下痢。
【0103】
当業者に知られているように、SaOは、血液中の酸素飽和度の代替的な尺度であり、動脈において測定された酸素飽和度を指し、その後、パルスオキシメトリによって測定された酸素飽和度を指す。SpO測定値と等価なSaO測定値は、この説明において区別なく使用することができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物の投与は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの結果(すなわち、効果)をもたらす:
-COVID-19の寛解;
-COVID-19の症状の持続期間の減少;
SARS-CoV-2ウイルス負荷の減少;
-SARS-CoV-2ウイルスに対する抗体産生の刺激(すなわち、抗体レベルの増加)(特に、SARSCoV-2ウイルスに対するIgG及びIgM抗体産生の刺激;より具体的には、IgG抗体レベルが少なくとも倍増する);
-血中酸素飽和度(低酸素血症)の改善;及び
-血液中の低酸素飽和度(すなわち、低酸素血症)の持続時間の減少。
【0105】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物の投与は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの結果(すなわち、効果)をもたらす:
-インターフェロン-βレベルの増加、具体的には、インターフェロン-βレベルが20%増加する;及び
-CXCL13レベルの減少。
【0106】
いくつかの実施形態では、対象へのプロバイオティクス組成物の投与により、対象は、入院の回避若しくは入院時間の低減、ICU入院の回避(すなわち、ICU治療の必要性の排除)、ICU治療の必要性の遅延、ICU治療時間の低減(短縮)、患者死亡率の低減、患者生存率の増加、患者の死亡の可能性の減少、患者の生存の可能性の増加、患者の死亡のリスクの減少、少なくとも1つの症状の重症度の低減、少なくとも1つの合併症の重症度の低減、少なくとも1つの続発症の重症度の低減、少なくとも1つの症状の持続期間の減少、少なくとも1つの合併症の持続期間の減少、少なくとも1つの続発症の持続期間の減少、又はそれらの任意の組み合わせを行うことができる。したがって、本開示は、対象における、入院の回避若しくは低減、ICU治療時間の低減(短縮)、ICU治療の必要性の遅延、ICU入院の回避(すなわち、ICU治療の必要性の排除)、患者死亡率の低減、患者生存率の増加、患者の死亡の可能性の減少、患者の生存の可能性の増加、患者の死亡のリスクの減少、少なくとも1つの症状の重症度の低減、少なくとも1つの合併症の重症度の低減、少なくとも1つの続発症の重症度の低減、少なくとも1つの症状の持続期間の減少、少なくとも1つの合併症の持続期間の減少、少なくとも1つの続発症の持続期間の減少、又はそれらの任意の組み合わせを行うための方法を提供し、これは、プロバイオティクス組成物を対象に投与することを含む。
【0107】
プロバイオティクス組成物の医学的使用-感染症又はその症状、合併症及び/若しくは続発症を治療、予防、又は改善する方法。
【0108】
本明細書で考察されるように、プロバイオティクス組成物は、COVID-19患者の寛解を誘導すること、並びに症状(例えば、息切れ、低酸素血症、下痢)の持続期間を短縮すること、及びウイルス特異的抗体を増加させることにおいて高い効力を示す。更に、組成物は、血液中の低酸素飽和度(低酸素血症)の持続時間を減少させるのに有意な有益な効果を示した。
【0109】
したがって、本明細書における実験データは、プロバイオティクス組成物が他の感染症において有意な正の効果を有することを裏付ける証拠を提供する。具体的には、プロバイオティクス組成物は、上述の呼吸器及び/又は胃腸の症状のうちの1つ以上を呈することを特徴とする他の感染症において有意なプラスの効果を有する。
【0110】
特に、本明細書における実験データは、プロバイオティク組成物が、息切れ及び低酸素血症(特に、92%未満のSpO)を伴う他のウイルス性呼吸器感染症、例えば、SARS、MERS、ヒトアデノウイルス55、A型インフルエンザ、特にH1N1、又は新規新興ウイルスの治療において有意な正の効果を有する可能性があるという証拠を提供する。
【0111】
特に、低酸素血症は、幼児及び小児における肺のウイルス性細気管支炎感染に関連する呼吸器感染症において生じる。ウイルス性細気管支炎は、最も典型的には呼吸器合胞体ウイルスによって引き起こされるが、ライノウイルス、アデノウイルス、ニューモウイルス、ヒトボカウイルス、インフルエンザウイルス又はパラインフルエンザウイルスによっても引き起こされ得る。同じ個体における2つ以上のウイルスによる同時細気管支炎がしばしば報告される。低酸素血症はまた、ウイルス性インフルエンザによる死亡の危険因子として同定されている。本明細書に記載されるプロバイオティクス組成物は、気道感染に関連する症状の低減において高い有効性を示す。特に、本明細書の実験データは、プロバイオティク組成物が、息切れ又は低酸素血症(特に、92%未満のSaO又はSpO)を生じる他の呼吸器感染症(例えば、ウイルス性)、例えば、重度のインフルエンザ又はウイルス性細気管支炎の治療において有意な正の効果を有することを裏付ける証拠を提供する。具体的には、本明細書における実験データは、プロバイオティクス組成物が血液中の低酸素飽和度(特に、92%未満のSpO)を治療する際に有意なプラス効果を有することを裏付ける証拠を提供する。
【0112】
したがって、いくつかの実施形態では、感染症は、細菌、ウイルス、寄生虫及び/又は真菌感染によって引き起こされる。
【0113】
特定の実施形態では、感染性疾患は、ウイルス感染によって引き起こされる。より具体的には、ウイルス感染は、アデノウイルス、ウイルス性肝炎(特にC型肝炎)、ウイルス性脳炎(特に単純ヘルペス脳炎)、ヒトボカウイルス、ヒトライノウイルス、インフルエンザウイルス、特にA型インフルエンザウイルス(特にH1N1及びその変異体)、パラインフルエンザウイルス、ニューモウイルス、コロナウイルス、特にβ-コロナウイルス(より詳細にはSARS-CoV1、SARS-COV2又はMERS-CoV)、呼吸器合胞体ウイルス、ライノウイルス及び新規又は新興ウイルスからなる群から選択される。より具体的には、ウイルス感染は、コロナウイルス、インフルエンザ又は呼吸器合胞体ウイルス感染である。
【0114】
特定の実施形態では、ウイルス感染はコロナウイルス感染症である。コロナウイルスは、ヒト及び他の哺乳動物において見出される大型のエンベロープを有する一本鎖RNAウイルスである。コロナウイルス(CoV)は急性及び慢性疾患を誘発する。コロナウイルスは、呼吸器疾患、胃腸疾患、及び神経疾患を引き起こす。ヒトにおいて疾患を引き起こす7つの既知のコロナウイルスが存在し、一方、229E、OC43、NL63、及びHKU1は、典型的には、他の呼吸器ウイルスによって引き起こされる症状から容易に分離できない風邪症状を生じさせ、免疫無防備状態の個体において息切れ及び合併症がない。したがって、いくつかの実施形態では、コロナウイルスは、例えば、229E、OC43、NL63、及びHKU1又はそれらの変異体である。
【0115】
一方、SARS-CoV-1、MERS-CoV及びSARS-CoV-2(3つ全てがβ-コロナウイルスサブグループに属する)は、呼吸困難(息切れ)及び低血中酸素飽和度(低酸素血症)から死亡までの範囲のより重篤な疾患を生じさせ得る。特に、SARS-CoV-2は、過去20年間にヒトに重篤な疾患を引き起こして世界的に広がった第3のコロナウイルスである。これらの3つのタイプのCoVは、CoV関連重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2)及びCoVに関連する中東呼吸症候群(MERS-CoV)である。
【0116】
特定の実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。
【0117】
特定の実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2ウイルス、SARS-CoV-1ウイルス、又はMERS-CoVウイルスである。
【0118】
いくつかの態様において、ウイルス感染は、2003年に同定されたウイルスであるSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルス又はSARS-CoV-1によって引き起こされる。SARSは、2003年2月にアジアで最初に報告された。この病気は、2003年のSARSの世界的流行が含まれる前に、北米、南米、欧州、及びアジアの2ダース以上の国に広がっている。2004年以来、世界中のどこにもSARSの既知の症例は報告されていない。一部の態様では、コロナウイルス感染は、MERS(中東呼吸器症候群)ウイルス又はMERS-CoVによって引き起こされる。MERSは、ヒトにとって新しいウイルス性呼吸器疾患である。それは、2012年にサウジアラビアで最初に報告され、それ以来、合衆国を含むいくつかの他の国に広がっている。MERS-CoVに感染したほとんどの人々は、発熱、咳、及び息切れを含む重度の呼吸器疾患を発症した。
【0119】
いくつかの態様において、ウイルス感染はSARS-CoV-2によって引き起こされる。本明細書で使用される場合、「SARS-CoV-2」、「SARS-CoV-2ウイルス」、及び「COVID-19ウイルス」という用語は、互換的に使用されて、COVID-19(コロナウイルス病2019)を引き起こすコロナウイルスを指す。本明細書で使用される場合、「COVID-19」という用語は、SARS-CoV-2によって引き起こされるウイルス感染を指す。COVID-19は、重症急性呼吸器症候群2コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる新たな感染疾患である。COVID-19病は、2019年12月1日に初めて記載され、数週間で世界的に流行した。研究は、SARS-CoV-2が、COVID-19病の重篤度及びその予後に関連するサイトカインストームを誘導することを実証する。COVID-19患者は、症状軽快(発熱、筋肉痛などを伴う上気道における局所的症状)、中等度(軽度の肺炎)又は重症肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、セプシス及びセプティックショックを含む重症を発症し得る。それにもかかわらず、SARS-CoV-2に感染したほとんどの個体は、いかなる病気も有さない可能性があるか、又は軽度の病気を発症し得るが、SARS-CoV-2感染は、単なる感冒ではない。
【0120】
いくつかの実施形態では、ウイルス感染は、例えば、ヒトアデノウイルス55、インフルエンザウイルス(例えば、A型インフルエンザ、特にH1N1)又は呼吸器合胞体ウイルスなどの他のウイルスによって引き起こされ得る。
【0121】
一実施形態では、感染症は、呼吸器疾患をもたらす(又は誘発する)。
【0122】
特定の実施形態では、呼吸器疾患は、息切れを特徴とする。
【0123】
特定の実施形態では、呼吸器疾患は、低酸素血症(特に、92%未満のSaO又はSpO)を特徴とする。
【0124】
特定の実施形態では、呼吸器疾患は、上気道に影響を及ぼす。
【0125】
特定の実施形態では、呼吸器疾患は、下気道(すなわち、肺、肺胞)に影響を及ぼす。
【0126】
特定の実施形態では、呼吸器疾患は肺炎、特に軽度又は重度の肺炎である。
【0127】
特定の実施形態では、呼吸器疾患はARDSである。
【0128】
本明細書中で使用される場合、用語「急性呼吸窮迫症候群」及び「ARDS」とは、肺への感染(例えば、ウイルス感染)又は損傷が、肺の炎症、肺胞気嚢における水分貯留、低血中酸素濃度、及び呼吸困難を導く、肺の病気又は症状をいう。したがって、いくつかの実施形態では、本開示は、本開示のプロバイオティクス組成物を投与することを含む、ARDSを治療する方法を提供する。
【0129】
ARDSは生命を脅かす状態であり、重篤な損傷が両肺の大部分又は全てに生じる。ARDSは、特に酸素を取り込む能力に関して、肺の進行性機能不全の急速な発症であり、通常、他の器官の機能不全に関連する。ARDSは、透過性の増加、したがって非心原性肺水腫をもたらす散在性肺微小血管傷害を特徴とする。ARDSにおける基本的な異常は、正常な肺胞毛細血管関門の破壊である。ARDSに言及するために頻繁に使用される代替的な用語としては、とりわけ、成人硝子膜疾患、成人呼吸機能不全症候群、うっ血性無気肺、出血性肺症候群、ダナン肺病、スティッフ肺病、ショック肺、白色肺病及び湿性肺病が挙げられる。
【0130】
いくつかの実施形態では、以下の症状が存在する場合、患者は「ARDS」に罹患しているとみなされる。
1)呼吸困難の臨床的証拠。
2)びまん性両側性気腔疾患(「肺水腫」)を明らかにする胸部X線写真。
3)酸素補給で矯正することが困難な低酸素血症。
4)<18mmHgの肺動脈閉そく(楔)圧の血行力学的証拠。
5)40mL/水cm未満の胸部静的コンプライアンス。
【0131】
いくつかの実施形態では、ARDSの原因は、例えば、重度の広範な感染(敗血症)、重度の低血圧(ショック)、肺炎、肺への食物の吸引(吸入)、高濃度の酸素を呼吸することによる肺への損傷、肺塞栓症、胸部損傷、火傷、薬物の過量投与、又は播種性血管内凝固である。
【0132】
いくつかの実施形態では、ARDS患者における肺から生じる続発症としては、肺容量の減少、コンプライアンス、及び大きな肺内シャント(肺の換気されていない部分を灌流する血液)が挙げられる。肺容量(残留容量)の減少は、換気/灌流不均衡に寄与する。肺コンプライアンスの減少は、臨床的に呼吸仕事量を増加させ、呼吸筋疲労をもたらす、浮腫性肺臓の肺反跳圧の増加によって引き起こされる。ARDSは肺血管系に影響を及ぼす。低酸素血症に関連しない肺高血圧症は、ARDSを有する患者において非常に一般的である。肺高血圧は、肺血管抵抗(pulmonary vascular resistance、PVR)の3~5倍の増加によって引き起こされ、右心室の仕事の増加に関連する。
【0133】
ARDSの一般的な症状としては、呼吸困難、タキプニア、空咳、胸骨後の不快感、及び動揺が挙げられる。いくつかの態様では、患者は中等度から重度の呼吸困難を示し、紫藍症を有し得る。いくつかの態様では、肺の検査は、粗いクラックル及び気管支呼吸音を明らかにする。いくつかの態様では、患者は、補助機械換気を必要とする。
【0134】
SARS-CoV-2はまた、微小炎症、血管ダム、及び胃腸管のディスバイオシスに起因する胃腸疾患を有し得る。その結果、COVID-19患者の9%~34%が下痢に罹患する。本明細書で論じられるように、本発明のプロバイオティクス組成物は、COVID-19患者における下痢の持続期間を有意に短縮する。プロバイオティクス組成物を受けた患者における下痢の平均持続時間は、プラセボ群の平均持続時間の半分未満であった。したがって、本明細書における実験データは、プロバイオティクス組成物が、COVID-19以外の疾患及び感染症によって引き起こされる下痢などの胃腸症状の持続期間において有意な正の効果を有することを裏付ける証拠を提供する。
【0135】
したがって、一実施形態では、感染症は、胃腸疾患をもたらす(すなわち、誘発する)。
【0136】
一実施形態では、胃腸疾患は、胃腸管の微小炎症、血管損傷及び/又はディスバイオシスを特徴とする。
【0137】
いくつかの実施形態では、感染症並びに結果として生じる呼吸器疾患及び/又は胃腸疾患に関連して、プロバイオティクス組成物の投与は、以下からなる群から選択される症状の少なくとも1つを治療し、予防し、又は改善する:
-発熱、
-咳、特に空咳、
-頭痛、
-息切れ、
-身体の痛み、特に筋肉痛、
-血液中の低酸素飽和度(低酸素血症)、特に酸素飽和度SaO又はSpO<92%、及び
-下痢。
【0138】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物の投与は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの結果(すなわち、効果)をもたらす:
-感染症の寛解、
-症状の持続期間の減少、
-ウイルス負荷の減少、
-抗体産生の刺激(すなわち、抗体レベルの増加)、特に、IgG及びIgM抗体産生の刺激、より具体的には、IgG抗体レベルが少なくとも倍増する、
-血中酸素飽和度(低酸素血症)の改善、及び
-血液中の低酸素飽和度(すなわち、低酸素血症)の期間の減少。
【0139】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物の投与は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの結果(すなわち、効果)をもたらす:
-インターフェロン-βレベルの増加、具体的には、インターフェロン-βレベルが20%増加する、及び
-CXCL13レベルの減少。
【0140】
いくつかの実施形態では、本開示は、本発明によるプロバイオティクス組成物を用いた治療のために、本明細書に開示される疾患又は症状(例えば、COVID-19)を有する対象を選抜する方法であって、リンパ球減少、好中球増多症、凝固の活性化(例えば、D-ダイマー値の増加によって示される)、急性腎臓損傷(例えば、増加した血液尿素及びクレアチニンによって示される)、IL-6の増加したレベル、プラズマの心筋トロポニンIの増加、プラズマの乳酸デヒドロゲナーゼの増加、プラズマのフェリチンの増加、IL-10の増加したレベル、TNFαの増加したレベル、CD4+T細胞の減少したレベル、CD8+T細胞の減少したレベル、白血球増多症、プロカルシトニンレベルの増加、CD4+T細胞のIFNγの発現の減少、炎症性マクロファージによって産生されるサイトカインレベルの増加、又は、それらの組み合わせからなる群から選択されるバイオマーカーが存在するか否かを決定することを含む方法を提供し、ここで、バイオマーカーの存在は、対象が本明細書に開示されるプロバイオティクス組成物で治療され得ることを示した。
【0141】
免疫応答を増強するプロバイオティクス組成物の医学的使用
COVID-19に対する防御は、大部分がSARS-CoV-2スパイク(S)タンパクに対する免疫反応によって媒介される。Sタンパク質はウイルス-細胞結合に関与し、ウイルス中和抗体の標的である。感染、ワクチン接種、又はその両方の後に産生されるSARS-CoV-2に特異的な機能的中和抗体(抗スパイク糖タンパク質及び抗RBD)は、ウイルス中和及びウイルスクリアランスにとって重要であると考えられ、インビトロ中和アッセイの使用によって定量化される。したがって、SARS-CoV-2に特異的な抗体の産生を増強することは、初期感染及び/又はワクチンの両方に由来する長期免疫を達成するために非常に興味深い。特に、IgA型の抗体は、感染の初期にSARS-CoV-2に対する免疫応答を支配するが、感染の第3週後に急速に衰え、一方、IgG型の抗体は、それらの陽性率を顕著に増加させることが示されている。
【0142】
本明細書で考察されるように、本発明のプロバイオティクス組成物は、患者の免疫応答を増強し、IgG型及びIgM型の抗体の濃度の有意な増加をもたらす(p<0.001)。注目すべきことに、介入の30日目に、プロバイオティクス組成物を受けた対象は、プラセボ群の対象の2倍高いIgGレベルを有していた。したがって、本明細書における実験データは、プロバイオティクス組成物が、患者の免疫応答の刺激、特に、初期感染及び/又はワクチンの両方に由来する抗体の産生において有意な正の効果を有することを裏付ける証拠を提供する。
【0143】
更に、上記の証拠から、プロバイオティクス組成物が、他の感染(例えば、細菌又はウイルス感染)又はワクチン、特にウイルス感染及び/又はウイルスワクチンに由来する免疫応答の刺激(例えば、抗体の産生を増加させる)においても有意な正の効果を有することが裏付けられる。
【0144】
したがって、いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、免疫系応答を増強、加速及び延長するのに使用される。
【0145】
特定の実施形態では、プロバイオティクス組成物の投与は、抗体(特に、IgG及び/又はIgM)の産生を刺激する。
【0146】
一実施形態では、免疫系応答は、抗体(特に、IgG及び/又はIgM)の産生を含み、具体的には、IgG抗体レベルは、少なくとも倍増する。
【0147】
他の実施形態では、プロバイオティクス組成物は、アジュバント、免疫刺激剤、免疫増強剤、又は免疫調節剤として使用される。
【0148】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるプロバイオティクス組成物は、他の治療的及び/又は予防的処置(例えば、抗凝固剤、抗炎症剤、又は血圧調節剤)と組み合わせて投与することができる。プロバイオティクス組成物及び他の処置は、別々の、連続的な、同時投与のために、又は混合して処方することができる。
【0149】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、呼吸器感染、特に低酸素血症を引き起こすウイルス起源の呼吸器感染、特にCOVID-19に使用される他の治療、例えば、限定されないが、コルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン、プレドニゾン、メチルプレドニソロン、又はヒドロコルチゾン)、解熱剤(例えば、アセトアミノフェン又は非ステロイド抗炎症薬、例えば、イブプロフエン及び類似の化合物)、ウイルス特異的中和抗体(例えば、REGN-COV2)、ワクチン(例えば、RNAワクチン、組換えキメラウイルス又はペプチドワクチンを使用するワクチン)、抗ウイルス活性を有する分子(例えば、インターフェロン、プリチデプシン、レムデシビル、オセルタミビル及び類似の化合物)又はサイトカインシグナル伝達遮断(例えば、トシリズマブ)と同時に使用される。
【0150】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、ワクチンと組み合わせて投与される。一実施形態では、プロバイオティクス組成物は、ワクチンと組み合わせて併用するためのものである。
【0151】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、抗炎症薬、例えば、抗炎症性コルチコステロイドと組み合わせて投与される。コルチコステロイドの例は、メチルプレドニソロン、フルドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、フルニソリド、フルチカゾン、ベクロメタゾン、ブデゾニド、シクレソニド、モメタゾン、及びそれらの任意の組み合わせである。一実施形態では、プロバイオティクス組成物は、抗炎症薬と組み合わせて併用するためのものである。
【0152】
一実施形態では、プロバイオティクス組成物は、解熱薬と組み合わせて投与される。
【0153】
プロバイオティクス組成物を含む製品
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される細菌株は、別個の、連続的な、同時の投与のために、又は混合して、処方することができる。投与レジメン及び投与形態は、当業者によって決定される。細菌株の投与は、別々に(第1の細菌株及び第2の細菌株の投与の間の時間間隔を待って)、連続して(順々に)、付随して(同時に)、又は混合して(一緒に)投与することができる。したがって、それらは、別個の形態として、又は単一組成物の一部として投与することができる。生成物が別々の剤形で投与される場合、剤形は、同じ若しくは異なる容器、又は例えば、カプセル若しくは丸薬中にあり得る。特定の実施形態では、本明細書に記載される株は、単一組成物、例えば錠剤で投与される。
【0154】
本明細書に記載されるプロバイオティクス組成物は、食用製品、医薬製品又は獣医学的製品として処方することができ、ここで、株は、唯一の活性剤であるか、あるいは1つ以上の他の活性剤と混合され、かつ/あるいは薬学的若しくは獣医学的に許容される賦形剤(医薬製品若しくは獣医学的製品の場合)又は適切な添加剤(食用製品の場合)と混合される。好ましくは、追加の活性薬剤(単数又は複数)は、本発明の組成物を形成する株に拮抗しない他のプロバイオティクス細菌である。製剤に応じて、菌株は、精製された細菌として、細菌培養物として、細菌培養物の一部として、後処理された細菌培養物として、単独で、又は適切な担体若しくは成分とともに、添加され得る。フラクトオリゴ糖(特にイヌリン)、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、アラビノキシランオリゴ糖、ペクチン、β-グルカン又は部分加水分解グアーガムなどのプレバイオティクスも添加することができる。
【0155】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、有効量のプロバイオティクス組成物と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤と、を含む、医薬組成物の形態である。
【0156】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、医薬製品として、特に栄養補助食品として処方される。「医薬製品」という用語は、本明細書においてその最も広い意味で理解され、活性成分、この場合、特に薬学的に許容される賦形剤とともに組成物の形態で本明細書に記載される株を含む任意の組成物が挙げられる。この用語は医薬に限定されない。
【0157】
「薬学的に許容される」という用語は、当技術分野で認識されており、健全な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症を伴わずに、対象(例えば、ヒト)の組織と接触させて使用するのに好適であり、満足できる利益/リスク比に見合った化合物、材料、組成物、担体、ビヒクル及び/又は剤形を含む。各担体、賦形剤などはまた、製剤の他の成分と適合性であるという意味で「許容可能」でなければならない。適切な担体、賦形剤などは、標準的な薬学の技術文献に見出すことができる。薬学的に受容可能な担体として役立ち得る物質のいくつかの非限定的な例としては、以下が挙げられる:糖(例えば、ラクトース、グルコース及びスクロース)、デンプン類(例えば、コーンスターチ、バレイショデンプン等)、セルロース及びその誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース)、トラガント末、麦芽、ゼラチン、タルク、カカオ脂及び坐剤ワックス、油(例えば、落花生油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びダイズ油)、グリコール(例えば、プロピレングリコール)、ポリオール(例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール)、エステル(例えば、オレイン酸エチル、ラウリン酸エチル)、寒天、緩衝剤(水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム)、アルギン酸、パイロジェンフリーの水、等張生理食塩水、リンガー溶液、エチルアルコール、リン酸塩緩衝溶液、及び医薬製剤に使用される他の非毒性適合性物質。
【0158】
賦形剤は、限定されるものではないが、充填剤/希釈剤/増量剤、結合剤、付着防止剤、崩壊剤、コーティング剤、固化防止剤、抗酸化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤、着色剤、界面活性剤及び他のクラスの薬学的及び獣医学的に許容される賦形剤を含む群から選択される。
【0159】
充填剤は、限定されるものではないが、イヌリン、オリゴフルクトース、ペクチン、修飾ペクチン、微結晶性セルロース、ラクトース、デンプン、マルトデキストリン、サッカロース、グルコース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、非結晶性ソルビトール、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム、他の不活性無機及び有機の薬学的に許容される充填剤、並びにこれらの物質の混合物を含む群から選択される。経口懸濁剤の剤形において、充填剤又は希釈剤は、植物油、オレイン酸、オレイルアルコール、液体ポリエチレングリコール、他の薬学的に許容される不活性液体、又はこれらの物質の混合物を含む群から選択される。
【0160】
結合剤は、例えば、錠剤中の成分を一緒に保持するために、錠剤及び顆粒が必要とされる機械的強度で形成され得ることを確実にするために、及び低活性用量錠剤に容量を与えるために、固体剤形において使用される。錠剤のような固体剤形中の結合剤は、ラクトース、スクロース、トウモロコシ(maize)デンプン、加工デンプン、微結晶性セルロース、加工セルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methylcellulose、HPMC)及びヒドロキシエチルセルロース)、他の水溶性セルロースエーテル、ポビドンとしても知られるポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone、PVP)、ポリエチレングリコール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール及び第二リン酸カルシウム、他の適切な薬学的に許容される結合剤、又はこれらの物質の混合物である。
【0161】
付着防止剤は、粉末(顆粒)とパンチ表面との間の付着を減少させ、したがって錠剤パンチへの粘着を防止するために使用される。それらはまた、錠剤を粘着から保護するのを助けるために使用される。最も一般的に使用されるのはステアリン酸マグネシウムである。
【0162】
錠剤及びカプセル剤のような固体剤形における崩壊剤及び超崩壊剤として、以下の物質が使用されるが、これらに限定されない:架橋ポリビニルピロリドン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、及びホルムアルデヒド-カゼイン、他の適切な薬学的に許容される崩壊剤及び超崩壊剤、又はそれらの混合物。
【0163】
錠剤及びカプセル充填用顆粒などの固体剤形の場合のコーティングは、成分を空気中の水分による劣化から保護し、大きくて不快な味の錠剤を嚥下しやすくし、及び/又は腸溶コーティングの場合には胃液の強酸性媒体(pH約1)を完全に通過させ、十二指腸又は回腸(小腸)での放出を可能にする。ほとんどのコーティング錠剤では、セルロースエーテルヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)フィルムコーティングが使用される。場合によっては、他のコーティング材料、例えば、ポリビニルアセテートフタレート(polyvinylacetate phthalate、PVAP)のような合成ポリマー及びコポリマー、アクリル酸メチル-メタクリル酸のコポリマー、メチルメタクリレート-メタクリル酸のコポリマー、シェラック、トウモロコシタンパク質ゼイン又は他の多糖類、ワックス又はワックス様物質(例えば蜜蝋)、ステアリン酸、セチル又はステアリルアルコールのような高級脂肪アルコール、固体パラフィン、モノステアリン酸グリセロール、グリセロールジステアレート、又はそれらの組み合わせが使用される。カプセルは、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロースでコーティングされる。
【0164】
腸溶コーティングは、薬物放出速度を制御し、薬物が消化管内のどこで放出されるかを決定する。腸溶コーティングに使用される材料としては、脂肪酸、ワックス、シェラック、プラスチック、及び植物繊維並びにそれらの混合物が挙げられ、他の上述のコーティングと組み合わせてもよい。
【0165】
固化防止剤は、塊の形成(固化)を防止し、包装、輸送、及び消費を容易にするために、粉末状又は顆粒状の材料中に添加される添加剤である。錠剤、カプセル剤又は散剤のような固体剤形における固化防止剤として、以下のものが使用される:ステアリン酸マグネシウム、コロイド状シリカ、タルク、他の薬学的に許容される固化防止剤、又はそれらの混合物。
【0166】
滑沢剤は、固体剤形、特に錠剤及びカプセル剤において、成分が互いに凝集すること、及び錠剤パンチ又はカプセル充填機に付着することを防止するために、並びにハードカプセルにおいても、使用される。滑沢剤として、タルク又はシリカ、及び脂肪、例えば、植物性ステアリン、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸、及びそれらの混合物が、錠剤又はハードゼラチンカプセルにおいて最も頻繁に使用される滑沢剤である。
【0167】
甘味剤は、特に固体剤形、例えばチュアブル錠において、並びに咳用シロップのような液体剤形において、成分をより美味にするために添加される。甘味料は、人工、天然又は合成又は半合成甘味料から選択され得る。甘味料の非限定的な例は、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、シクラメート、スクラロース、サッカリン、糖又はそれらの任意の混合物である。
【0168】
香味料は、任意の剤形中の不快な味の活性成分をマスクするために使用することができる。香味料は、天然物(例えば、果実抽出物)であっても人工物であってもよい。例えば、以下のような改善がなされる:(1)苦い製品では、ミント、チェリー又はアニスが使用され得、(2)塩味のある製品では、モモ又はアプリコット又はカンゾウが使用され得、(3)酸味のある製品では、ラズベリーが、(4)過度に甘い製品では、バニラが使用され得る。
【0169】
賦形剤のクラスからの助剤を除いて、本発明からの製剤は、限定されないが、薬学的に許容される化学形態、塩又は誘導体のビタミンD(カルシフェロール)などのビタミン、薬学的及び栄養的に許容される化学形態の形態のミネラル、並びにL-アミノ酸など、他の薬学的に活性な物質又は栄養物質を含有することができる。本発明の製剤の調製に関して、それは当業者の範囲内であり、最終的に投薬する製剤に依存する。例えば、限定されるものではないが、最終剤形が錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、経口懸濁剤などの経口固体剤形である場合、製剤の固体剤形の調製のためのプロセスは、
(1)少なくとも1つ以上の後処理された本発明のプロバイオティクス細菌を有効量で含む活性成分を、(2)1種以上の賦形剤とホモジナイズして均質な混合物を形成し、これを例えば必要に応じてステアリン酸マグネシウム又は他の滑沢剤で潤滑化して粉末の最終剤形を得ることを含む。かかる均質な粉末を通常のゼラチンカプセルに充填するか、あるいは胃耐性カプセルに充填する。錠剤の場合、それらは直接圧縮又は造粒によって製造される。第1の場合には、活性成分と適切な賦形剤(例えば、無水ラクトース、非結晶性ソルビトールなど)との均質な混合物が調製される。第2の場合には、錠剤は顆粒形態の混合物から加工される。顆粒剤は、製剤の活性成分を適切な充填剤、結合剤、崩壊剤、及び少量の精製水とともに造粒するプロセスによって調製される。このように調製した顆粒を篩にかけ、含水量が<1%w/wになるまで乾燥させる。
【0170】
液体剤形(例えば、経口懸濁液)の調製方法に関しては、本発明の少なくとも1つ以上の後処理されたプロバイオティクス細菌を有効量で含む製剤の活性成分を、ヒマワリ油、ダイズ油、又はオリーブ油などの様々な植物油、オレイン酸、オレイルアルコール、PEG 200、PEG 400又はPEG 600のなどの液体ポリエチレングリコール、又は他の不活性な薬学的に許容される液体、などの不活性液体希釈剤(充填剤)中でホモジナイズすることを含む。本方法は更に、以下を含む群から選択される1つ以上のプロセスにより、ホモジナイズされた混合物を処理することを含む:
(1)蜜蝋、コロイド状シリカなどの懸濁安定剤の添加及び均質化による製剤の安定化、(2)甘味料の添加及び均質化による、製剤への甘味付与、(3)香味料の添加及び均質化による、製剤への香味付与。製剤のかかる形態は、当技術分野で通常使用される他の賦形剤又は成分も含有することができる。
【0171】
医薬製品は、製品承認ルートに応じて、また国に応じて異なる形態又は名称を採用することができる。例えば、医薬は、特定の医薬製品である。医療用食品は、別の特定の医薬製品である。「医療用食品」又は「特別な医療目的のための食品」という用語は、一部の国では、通常の食事だけでは満たすことができない特有の栄養要求を有する疾患の食事管理のために特別に処方され、意図された食品を指すために使用される。これらは、米国におけるFood and Drug Administration’s 1988 Orphan Drug Act Amendments、及び欧州におけるCommission Directive 1999/21/ECなどの規則において定義されている。医療用食品は、より広いカテゴリーの栄養補助食品及び健康表示を有する伝統的な食品とは異なる。したがって、特定の実施形態では、本発明の株は、医療用食品として処方される。
【0172】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、プロバイオティクス組成物と、少なくとも1つの許容可能な賦形剤とを含む栄養補助食品の形態である。
【0173】
具体的には、プロバイオティクス組成物は、カプセル剤、錠剤、丸剤、サシェ剤、又は懸濁液(例えば、油中)の形態である。具体的には、カプセル剤、錠剤、又は丸剤は、約350mg~約450mg、より具体的には400mgの重量を有する。特に、サッシェは約2g~約6gの重量を有する。
【0174】
特定の実施形態では、プロバイオティクス組成物は、植物性カプセルの形態であり、HMPCを含む。
【0175】
栄養補助食品(dietary supplement)又は栄養補助食品(nutritional supplement)としても知られる栄養補助食品は、他の特定の医薬製品とみなされる。これは、通常の食事では通常摂取されないか、又は十分な量で消費されない可能性がある栄養素又は有益な成分を提供する、食品で通常使用される化合物から作製される、食事を補うことを意図した調製物又は製品である。ほとんどの場合、栄養補助食品は食品とみなされているが、時には薬物、天然健康製品、又は栄養補助食品として定義されることもある。本発明の意味において、栄養補助食品には、ニュートラシューティカルも含まれる。栄養補助食品は、通常、「店頭販売(OTC)」で、すなわち処方箋なしで販売される。栄養補助食品が丸剤、カプセル剤、錠剤又は散剤の形態をとる場合、それは、医薬において使用されるものと同じ賦形剤を含む。しかし、栄養補助食品は、いくつかの栄養素で強化された食品(例えば、バー又はヨーグルト)の形態をとることもできる。
【0176】
したがって、特定の実施形態では、プロバイオティクス組成物は、栄養補助食品(dietary supplement)又は栄養補助食品(nutritional supplement)として処方される。栄養補助食品は、それ自体で投与することもでき、水、ヨーグルト、ミルク又はフルーツジュースなどの適切な飲用液体と混合することもでき、あるいは固体又は液体食品と混合することもできる。これに関連して、栄養補助食品は、錠剤又はトローチ剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、懸濁剤、サシェ剤、甘味剤、バー剤、シロップ剤の形態、及び対応する投与形態、通常は単位用量の形態であり得る。
【0177】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、単独で又は液体と混合して投与される油性懸濁液の形態である。油性懸濁液は、オリーブ油、トウモロコシ油、ダイズ油、アマニ油、ヒマワリ油又は米油などの少なくとも1種の食用油を含む。油は、少なくとも70%(重量/重量)の量で存在する。特定の実施形態では、油性懸濁液はまた、乳化剤、安定剤又は固化防止剤である少なくとも1つの賦形剤を0.1~15%w/wの量で含む。適切な薬剤は、シリカ、シリカゲル、コロイド状シリカ、沈降シリカ、タルク、ケイ酸マグネシウム、レシチン、ペクチン、デンプン、加工デンプン、コンニャクガム、キサンタンガム、ジェランガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール又はモノオレイン酸グリセロールなどの脂肪酸モノ又はジグリセリド、及びモノ又はジグリセリドのクエン酸エステルである。
【0178】
具体的には、プロバイオティクス組成物は、油性懸濁液の形態の乳児用栄養補助食品の形態である。特定の実施形態では、油性懸濁液は、ヒマワリ油及びコロイド状シリカ(具体的には1重量%)、並びに細菌細胞を含む。
【0179】
別の実施形態では、油性懸濁液は、ヒマワリ油と、レシチン、脂肪酸のモノ又はジグリセリド、カラギーナン及びアルギン酸ナトリウムから選択される薬剤と、細菌細胞とを含む。
【0180】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、プロバイオティクス組成物及び少なくとも1つの食用成分を含む食用製品の形態である。具体的には、食用製品は、乳製品、ミルク、ヨーグルト、カードであり得る。
【0181】
本発明の組成物は、乳製品(ヨーグルト、チーズ、発酵乳、粉乳、ミルクベースの発酵製品、アイスクリーム、発酵シリアルベースの製品、ミルクベースの粉末)、パン、バー、スプレッド、ビスケット及びシリアル、飲料、異なる種類の油、又はドレッシングなどの様々な食品又は食用組成物に含めることもできる。「食品」という用語は、本明細書ではその最も広い意味で使用され、動物が摂取することができる任意の種類の製品を任意の提示形態で含むが、医薬製品及び獣医学的製品は除外する。他の食品の例は、肉製品、チョコレートスプレッド、フィリング及びフロスティング、チョコレート、菓子、焼き菓子、ソース及びスープ、フルーツジュース及びコーヒーホワイトナーである。特に興味深い食品は、栄養補助食品及び乳児用調製乳である。食品は、具体的には、オートミール粥、乳酸発酵食品、難消化性デンプン、食物繊維、炭水化物、タンパク質及びグリコシル化タンパク質などの担体材料を含む。特定の実施形態では、本発明の株は、カプセル化又はコーティングされる。具体的には、ミルクは、動物又は植物起源のいずれであってもよい。
【0182】
一実施形態では、プロバイオティクス組成物は、担体(例えば、マルトデキストリン、ジャガイモデンプン、デキストロース)と一緒に、L.plantarum CECT 7484、L.plantarum CECT 7485及びP.acidilactici CECT 7483(例えば、10億の凍結乾燥コロニー形成単位(CFU)とともに、L.plantarum DSM 33765(例えば、10億の凍結乾燥CFU)を含有する散剤を充填された植物性カプセルの形態である。
【0183】
別の実施形態では、プロバイオティクス組成物は、細菌株(例えば、上記と同じ量で)、担体(例えば、マルトデキストリン、デキストロース、米繊維、ジャガイモデンプン)、甘味料(例えば、スクラロース、サッカリンナトリウム)及び香味剤を含有するアルミニウムサッシェの形態である。
【0184】
別の実施形態では、プロバイオティクス組成物は、液滴として投与される、ヒマワリ油中に懸濁した細菌株(例えば、上記と同じ量で)を含有するボトルの形態である。
【0185】
いくつかの実施形態では、本開示のプロバイオティクス組成物は、本明細書に開示される疾患の発症直後又は感染症の検出後に投与される。いくつかの実施形態では、追加用量の本開示の組成物は、その後、最初の用量の後に投与される。
【0186】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、単回用量又は特定の時間間隔で反復用量で投与され、例えば、特定の日数にわたって毎日、又は特定の投薬スケジュールに従って投与することができる。具体的には、プロバイオティクス組成物は、10日間~90日間投与される。より具体的には、それは10日間~60日間又は15~45日間、より具体的には30日間投与される。
【0187】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、3日毎に1回から1日3回、特に、1日1回投与される。
【0188】
いくつかの実施形態では、本開示のプロバイオティクス組成物は、例えば、経口、肺内、静脈内、筋肉内、又は皮下を介して投与することができる。具体的には、プロバイオティクス組成物は、経口投与される。他の実施形態では、プロバイオティクス組成物は、経鼻吸入、経口スプレー又は経鼻胃経路によって投与することができる。
【実施例
【0189】
実施例1:菌株L.plantarum CECT 30292(DSM 33765)
寄託番号CECT 30292及びDSM 33765は区別せずに使用される。
【0190】
1.1. 株の単離
DSM 33765として寄託されているL.plantarumの新規株は、ヒト(糞便試料)及びチコリ(cichorium intybus)の両方から、リン酸緩衝化生理食塩水緩衝液(phosphate-buffered saline、PBS)上で植物抽出物を希釈し、続いてMan-Rogosa-Sharpe寒天プレート(Man-Rogosa-Sharpe、MRS)上に播種し、微好気性条件下(5%CO2)、37℃でインキュベートすることによって、単離した。
【0191】
1.2. 全ゲノム配列決定
株L.plantarum DSM 33765を、MRS液体ブロス中で37℃で8時間増殖させ、初期対数期に遠心分離によって細胞を回収した。20mg/mLのリゾチーム(Sigma Aldrich、Steinheim am Albuch,Germany)及び40U/mLのムタノリシン(Sigma Aldrich)を添加した溶解緩衝液中で、細胞を37℃で10分間インキュベートする追加の溶解ステップにより、製造者の指示に従って、QIAampDNAミニキット(Quiagen)を用いて、全ゲノム及びプラスミドを抽出した。Sequel II Binding Kit 2.0(Pacific Bioscience)を用いて鋳型DNAを調製し、TAKARA BIO INC(Kaneka、Japan)においてPacBioRSIIを用いて配列決定し、ソフトウェアSMRT Link v8.0.0(Pacific Bioscience)を用いてアセンブルした。
【0192】
DSM 33765と、参照L.plantarum WCSF1株[Kleerebezem et al.2003]のゲノム、並びにL.plantarum CECT 7484、CECT 7485及びATCC 202195のゲノムとの間の染色体アラインメントは、プログレッシブMAUVEアルゴリズム[Darling et al.2004]を使用して実施した。
【0193】
全ゲノム比較の結果(表1)は、株DSM 33765が、>98.5%の全ゲノムにわたる平均ヌクレオチド同一性(ANI)に基づいて、95%の種境界よりも明らかに高い[Jain et al.2018]ため、同じL.plantarum種であることを明白に示している。
【0194】
【表1】
【0195】
更に、ANIに基づくツリー分析(図1)は、この株がCECT 7484(99.71%のANI)と同じクレードに属するが、参照株WCFS1、並びにATCC 202195及びCECT 7485(98.7~98.8%のANI値)に対してより遠縁であることを示す。
【0196】
1.3. 分子フィンガープリンティング
DSM 33765株を、以前に記載されたプロトコル[Rodas et al.2005]にわずかな変更を加えて試験した。株をMRS寒天プレート上で増殖させ、37℃、5%CO2で18時間インキュベートした。細胞を回収し、8mLのPET(10mM Tris pH7.6、1M NaCl)中で3回洗浄し、次いで6000rpmで10分間遠心分離した。ペレットを700mLの溶解緩衝液(6mM Tris、1M NaCl、0.1M EDTA、0.5%SLS、0.2%デオキシコール酸、1mg/mLリゾチーム、40U/mLムタノリシン、20mg/mL RNase)に再懸濁した。等量の1.6%低融点アガロース(FMC BioProducts、Rockland,ME,USA)を再懸濁細胞に添加し、4℃で1時間固化させた。インサートを2mLの溶解緩衝液II(0.5M EDTA pH9.2、1% N-ラウリルサルコシン及び1mg/mLプロナーゼ)に移し、50℃で48時間インキュベートした。次いで、インサートを室温でTE緩衝液(10mM Tris、1mM EDTA pH8.0)で洗浄した。Sma-I制限酵素(Roche Diagnostics)によって全DNA消化を行った。
【0197】
パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を、CHEF DRIII装置(BioRad Laboratories)を使用して二連で行った。インサートを1%アガロースゲル(SeaKem MEアガロース、FMC Bi-oProducts、ME,USA)にロードした。DNA MW(分子量)マーカーは、Lambda ladder PFGマーカー及びLow Range PFGマーカー(New England Biolabs)とした。電気泳動後、GelDoc System(BioRad)を用いて、ゲルを臭化エチジウム及びUVで染色した。
【0198】
結果はL.plantarum DSM 33765株は、再現可能なPFGEプロファイルを有し、これは密接に関連する株L.plantarum CECT 7484のプロファイルとは異なる。具体的には、CECT 7484と比較して、DSM 33765株は、97kDaのバンドを欠くが、48.5~32.1kDaの間に更なるバンドを有する。したがって、密接に関連しているが、両方の株は互いに異なることが示される。
【0199】
1.4. ゲノムアノテーション
一般的なゲノムアノテーションを、tRNAscan及びProdigal特徴を含むソフトウェアDFAST[Tanizawa et al.2018]、並びにConserved Domain Database[Shennan et al.2020]を用いて行った。PlasmidDBソフトウェア[Galata et al.2019]を用いてプラスミドを同定した。
【0200】
可能な抗生物質耐性(antibiotic resistance、AR)遺伝子の存在を同定するために、L.DSM 33765を、デフォルトパラメータを使用して全ゲノムの分析を支持するResistance Gene Identifier(RGI)を使用して、Comprehensive Antibiotic Resistance Database(CARD)の最終バージョン、耐性遺伝子のバイオインフォマティクスデータベース、それらの産物、及び関連する表現型[Alcock et al.2020]に対して比較した。ダブルチェックとして、ゲノム配列をResFinderデータベースの最後のバージョン[Bortolaia et al.2020]に対しても比較した。
【0201】
結果を表2に示す。L.plantarum DSM 33765は、3,322,082bpを含む4つのコンティグをもたらした。より大きなコンティグ(3,237,983bp)は染色体配列として同定されたが、3つの更なるコンティグ(41,908bp、35,007bp及び7,184bp)は異なるL.plantarumのプラスミドに対応することが見出された。細菌染色体又は3つのプラスミドのいずれにも抗生物質耐性遺伝子は見出されなかった。2つのピリン遺伝子及び10のムチン結合遺伝子が同定され、粘液及び上皮に結合する株の適応を強調し、したがって腸にコロニー形成するその能力を支持した。
【0202】
【表2】
【0203】
1.5. CECT 30292株の胃条件に対する耐性
蒸留水中に7.3g/Lの塩化ナトリウム、0.5g/Lの塩化カリウム、3.8g/Lの炭酸水素ナトリウム及び3g/Lのペプシンを含有する人工胃培地を調製した。当該模擬培地の試料を、1N塩化水素を用いてpH2.3及びpH3に調整した。CECT 30292株の一晩培養物0.1mLを、pH2.3又はpH3の人工胃培地10mLに接種し、十分に混合し、37℃で30分間又は90分間インキュベートした。続いて、緩衝生理食塩水培地中で10倍連続希釈物を調製した。0.1mLの一晩培養物及び0.1mLの種々の連続希釈物の両方を、それぞれ異なるMRS寒天プレートに播種した。嫌気性条件下、37℃で48時間インキュベートした後、コロニーを計数した。実験は四連で行った。
【0204】
以下の表3の結果は、この株が胃培地への曝露に対して高度に耐性であることを示す。
【0205】
【表3】
【0206】
実施例2:臨床試験
2.1. 試験製品
植物カプセル(ヒドロキシメチルプロピル-セルロース、HMPC)に、10億の凍結乾燥cfuの新規株L.plantarum DSM 33765の株とともに、10億の凍結乾燥cfuのL.plantarum CECT 7484、L.plantarum CECT 7485及びP.acidilactici CECT 7483を使用し、マルトデキストリン担体と混合した。カプセルのCFU負荷を、PBS緩衝液中で連続希釈し、続いてMRS寒天中に播種し、微好気性条件下で37℃で48時間インキュベートした後にコロニーを計数することによって検証した。
【0207】
2.2. 試験デザイン
プラセボに対して四重盲検(患者、ケア提供者、アウトカム評価者及び主任治験責任医師)無作為化臨床試験を行って、株の組み合わせの安全性及び有効性を評価した(L.plantarum DSM 33765及び株L.plantarum CECT 7484、L.plantarum CECT 7485及びP.acidilactici CECT 7483の総用量20億 CFUで、軽度のCOVID-19を有する対象において1日1回投与した。試験はヘルシンキ宣言の倫理規定に従い行った。
【0208】
第1の目的は、世界保健機関スケール[WHOワーキンググループ2020]に従って、COVID-19重篤度を改善することとした。第2の目的は、個々のCOVID-19症状の頻度及び重篤度の低減、ウイルス負荷の低減、並びに免疫グロブリン抗体IgG及びIgMのレベルの増加における上記組み合わせの効果を評価することであった。
【0209】
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応法(Polymerase Chain Reaction、PCR)によるSARSCoV-2の鼻咽頭検出が陽性であり、COVID-19の症状軽快(WHO COVID-19重篤度尺度による)を有し、書面によるインフォームドコンセントを提供している18~60歳の300人の成人を無作為化した。血中酸素飽和度(SpO)が90%未満であり、免疫抑制剤を服用しているか、急性膵炎を有するか、又は研究開始の2週間以内に他のプロバイオティクスを定期的に使用している個体は、参加から除外した。無作為化は、コンピュータで作成したリストに従って実施し、全ての試験参加者(患者、ケア提供者、アウトカム評価者及び主任研究者)は、プラセボ又はプロバイオティクスカプセルに割り当てられたかどうかについて盲検化した。プロバイオティクスカプセルとプラセボカプセルは、互いに区別できなかった。コンピュータから出力したリストは、本研究に参加していない薬剤師によって施錠され、密封された封筒内に保管された。
【0210】
プロバイオティクス又はプラセボのいずれかに無作為化された個体に、30日間連続して1日1回、彼らの署名された介入の1カプセルを投与した。COVID-19症状を5日毎に評価した。鼻咽頭スワブ中のSARSCoV-2ウイルス負荷の定量化を、介入の0日目、15日目及び30日目に行った。SARSCoV-2に対する特異的IgG及びIgM抗体の定量化を、介入の0日目、15日目及び30日目に血液試料中で行った。
【0211】
2.3. ベースラインで募集された対象の特徴
試験におけるプロバイオティクス群及びプラセボ群は、ベースラインでの臨床特性及び人口統計学的特性に関してバランスをとった(表4)。
【0212】
【表4】
【0213】
2.4.結果
30日間の介入中に、プロバイオティクス群では3人の対象のみが試験から脱落し、プラセボ群では4人の対象のみが試験から脱落した。30日間の介入中に死亡した患者も集中治療室を必要とした患者もいなかった。
【0214】
COVID-19の完全な寛解:COVID-19の完全な寛解は、陰性のPCR結果(すなわち、WHO COVID-19重篤度スケールにおける0のスコア)を伴う完全な症状消失として定義される。介入の15日目に完全寛解を示した患者はいなかった。しかしながら、介入の30日目にプラセボ群よりもプロバイオティクス群においてはるかに多くの患者が完全寛解を示し、その差は非常に統計的に有意であった(カイ二乗検定によるp値<0.001)。表5を参照のこと。
【0215】
症状寛解:症状寛解は、PCR結果にかかわらず完全な症状消失として定義された(すなわち、WHO COVID-19重篤度スケールにおいて0又は1のスコア)。プロバイオティクスを受けた患者は、プラセボを受けた患者よりも介入の初期段階(すなわち、10日目、15日目及び20日目)で寛解を示した。表5を参照のこと。
【0216】
【表5】
【0217】
ウイルス量:30日間の介入中、鼻咽頭スワブ中のウイルス量の濃度は、プラセボ群よりもプロバイオティクス群において更に減少し、その差は、図3に見られるように、非常に統計的に有意であった(p<0.001、反復測定ANOVAによる)。30日間の介入の終わりに、差は平均0.9logであり、したがって、濃度は25平均で9倍減少した。
【0218】
IqG及びIqM抗体の濃度:30日間の介入の間、SARS-CoV-2に対するIgG及びIgM抗体の濃度は、プラセボ群よりもプロバイオティクス群において更に増加し、その差は、図4に見られるように、非常に統計的に有意であった(p<0.001、反復測定ANOVAによる)。30日間の介入の終わりに、プロバイオティクスを受けた対象は、プラセボ群の対象の2倍高いIgGレベルを有していた。
【0219】
統計的調整を行って、年齢、血液型、肥満度指数、併発糖尿又は併発高血圧が、寛解率、ウイルス量及び抗体レベルに対するプロバイオティクスの効果を調節したかどうかを評価した。注目すべきことに、これらの変数のいずれも、プロバイオティクス介入の効果を調節することが見出されなかった。したがって、プロバイオティクスは、年齢、血液型、肥満度指数、併発糖尿病又は併発高血圧にかかわらず、その有益な効果を達成した。
【0220】
COVID-19の特異的症状の軽減:30日間の介入の間、プロバイオティクス介入はまた、プラセボと比較して、COVID-19の様々な特定の症状の持続期間、並びに血中酸素飽和度が92%未満の日(低酸素血症)を有意に減少させることが見出され、後者は、プロバイオティクス群においてベースラインで92%未満の飽和を有する被験体の割合がより高いにもかかわらずであった(全てp<0.05、Mann-Whitney検定による)。表6を参照のこと。
【0221】
【表6】
【0222】
実施例3:インターフェロン-β(IFNb)及びケモカインCXCL13の血清濃度測定
3.1. 方法
実施例2に記載した300人の個人から70人の個人を無作為に選択した。無作為化は、35人がプラセボ群に対応し、35人がプロバイオティクス群に対応することを確実にするために介入群によって、並びに、70人の選択された亜集団が300人の全集団と同様の分布を有することを確実にするために、介入の開始時の肺浸潤状態によって、及び介入の終了時の応答者状態によって、階層化した。
【0223】
介入の0日目、15日目及び30日目に採取した保存凍結血清試料(実施例2参照)を使用して、標準的なEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)実験室キットを使用してインターフェロン-β(IFNb)及びケモカインCXCL13を測定した。0日目、15日目及び30日目に撮影したデジタル肺X線スキャンも患者記録から検索し、確認されたBrixiaスコア(スコアが高いほど、炎症浸潤が重度である)を使用して、存在する場合はいつでも、肺炎症浸潤をスコア化した[Borghesi et al.,2020]。
【0224】
3.2. 結果
被験体の臨床的特徴:70人の対象の亜集団におけるプロバイオティクス群及びプラセボ群は、ベースラインにおける臨床的特徴及び人口統計的特徴に関してバランスをとった(表7)。
【0225】
【表7】
【0226】
インターフェロン-βの血清濃度:ベースラインでは、IFNbのレベルはプロバイオティクス群とプラセボ群とで区別できなかった。30日間の介入中、IFNbのレベルは、図5に見られるように、プラセボと比較してプロバイオティクス群において有意に増加した(p<0.001、反復測定ANOVA)。より正確には、プロバイオティクス群における濃度は、プラセボと比較して15日目及び30日目の両方で有意に高かった(p<0.05)。
【0227】
CXCL13の血清濃度:ベースラインでは、CXCL13のレベルはプロバイオティクス群とプラセボ群とで区別できなかった。30日間の介入の間、CXCL13のレベルは、図6に見られるように、プラセボと比較してプロバイオティクス群において経時的に有意に減少した(p<0.001、反復測定ANOVA)。より正確には、プロバイオティクス群における濃度は、プラセボと比較して15日目及び30日目の両方で有意に高かった(p<0.05)。
【0228】
症状の解消:70人の被験者は、患者の電子日記に彼らの症状を毎日報告した。いくつかの症状の持続期間は、表8に示すように、プラセボ群と比較してプロバイオティクス群において有意に短かった。
【0229】
【表8】
【0230】
ウイルス感染に対するI型インターフェロンの正の役割の更なる確認として、より高いレベルのインターフェロン-βは、70人の被験体の全集団において、より少ない発熱日数(スピアマン相関=-0.24、p値=0.042)及びより少ない咳日数(スピアマン相関=-0.26、p値=0.033)と相関した。同様の傾向(すなわち、p値が0.05を超えるが0.10未満である)は、身体の痛みについても観察された(スピアマン相関=-0.21、p値=0.075)。更に、より低いレベルのCXCL13はまた、発熱を有するより少ない日数と相関した(スピアマン相関=0.27、p値=0.024)。
【0231】
ベースラインで肺炎症性浸潤を有する患者のサブグループ(プロバイオティクスにおいてn=15及びプラセボにおいてn=11)において、浸潤の減少は、より高いインターフェロン-β(スピアマン相関=0.46、p値=0.018)及び特により低いCXCL13(スピアマン相関=0.69、p<0.001)と相関し、肺炎症を減少させるためのCXCL13を低下させる保護効果と一致した。
【0232】
ウイルスクリアランス:70人の対象全員が、PCR分析による介入の開始時にSARS-CoV2について陽性であった(実施例2を参照されたい)。30日間の介入の終わりに、プロバイオティクス群の35人の対象のうち17人(48.6%)及びプラセボ群の35人のうち8人(22.9%)が、PCR分析による完全なウイルス寛解を達成した。したがって、プロバイオティクスの効果は、プラセボの2倍を超えて高く、この差は統計的に有意であった(カイ二乗検定p値=0.026)。
【0233】
実施例4:プランタリシンGの血清濃度測定
4.1. 方法
L.plantarum株(CECT 30292、CECT 7483、CECT 7484、CECT 7485、CECT 7481、299v及びWCFS1)をMRSブロス中、37℃で増殖させた。細菌細胞を、遠心分離によって対数期(OD620約0.6)及び定常期(OD620>1.5)で回収した。
【0234】
製造業者のプロトコルに従ってRNeasy Mini Kitを用いて総RNAをペレットから単離した。次に、NxGen Reverse Transcriptase Kitを用いてRNAをcDNAに変換した。ABI7900装置でSYBRGreenを用いてリアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)を実施し、サイクル閾値(Ct)値を記録した。データをハウスキーピング遺伝子RecAで正規化し、WCSF1型株の発現を参照として使用して、デルタ-デルタCt法を使用して遺伝子発現を表した。実験で使用したRT-qPCRプライマーを表9に示す。
【0235】
【表9】
【0236】
4.2. 結果
RT-qPCR実験はL.plantarum CECT 30292が、WCFS1型株と比較して(4倍の増加、p<0.001)、また他の試験した全ての株と比較して(p<0.05)、plnG遺伝子を有意に過剰発現することを明らかにした。この効果は、株が指数増殖期にある場合及び定常状態にある場合の両方で一貫している(図7)。したがって、株L.plantarum CECT 30292は、他のL.plantarum株よりも免疫細胞によって感知される可能性が高い。
【0237】
実施例5:株内変動性の評価
5.1. 方法
株内変動性を評価するために、全ゲノム配列決定を、実施例1にすでに記載された同じ方法を使用して、株DSM 33765の2つの異なるバッチについて実施した。
【0238】
5.2. 結果
同じ株(DSM 33765)の2つの異なるバッチのゲノム間のペアワイズ平均ヌクレオチド同一性(ANI)は99.99%であった。この株のゲノムのサイズが3,322,082塩基対であることを考慮すると、この0.01%の差異は、約330ヌクレオチド多型に達する。
【0239】
実施例6:plnG遺伝子のコピー
6.1. 方法
プランタリシンG遺伝子(plnG)の配列を、UniProtデータベースからダウンロードし(https://www.uniprot.org/uniprot/Q1WFD0、UniProtKB-Q1WFD0(Q1WFD0_LACPN)、エントリーバージョン73、29 Sep 2021)、L.plantarum株CECT 7484、CECT 7485、DSM 33765、並びに参照株WCSF1(実施例1を参照されたい)のゲノムに対して検索した。検索は、BLASTプログラムからの「tblastn」アプリケーションを使用して実施した(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE_TYPE=BlastDocs&DOC_TYPE=Download)。
【0240】
6.2. 結果
分析された4種のL.plantarum株の細菌染色体は、1コピーのプランタリシンG(plnG)遺伝子を有する。注目すべきことに、株DSM 33765は、以下の表10に示すように、plnG遺伝子を保有するプラスミドも含有する唯一の株であった。これは、この株によって達成された著しく高いプランタリシンG発現を説明することができた(実施例4)。
【0241】
【表10】
【0242】
参考文献
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WO2011092261A1
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024507736000001.app
【国際調査報告】