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特表2024-507780生体分子の半減期を延長するための化合物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】生体分子の半減期を延長するための化合物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20240214BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20240214BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240214BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20240214BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20240214BHJP
   A61K 31/704 20060101ALN20240214BHJP
   C07H 15/252 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C12N15/31
C07K14/195 ZNA
C12P21/02 C
C07K19/00
C12N15/62 Z
A61K38/02
A61K31/7088
A61K47/62
A61K35/12
A61P43/00 121
A61P35/00
A61P3/00
A61P25/00
A61P29/00
A61P37/02
A61K39/395 U
A61K39/395 D
A61K31/704
C07H15/252
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548819
(86)(22)【出願日】2022-02-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2022053476
(87)【国際公開番号】W WO2022171852
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】21305193.1
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515292543
【氏名又は名称】アフィロジック
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】シニエ マチュー
(72)【発明者】
【氏名】キトゥン オリヴィエ
【テーマコード(参考)】
4B064
4C057
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4C057BB02
4C057BB05
4C057CC04
4C057DD01
4C057JJ50
4C076AA94
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC21
4C076CC27
4C076CC29
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF31
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA03
4C084MA01
4C084MA05
4C084NA03
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZB07
4C084ZB11
4C084ZB26
4C084ZC21
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA33
4C085AA34
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA06
4C086NA03
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZC21
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA12
4C087CA20
4C087MA01
4C087MA05
4C087NA03
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZB07
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZC21
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA11
4H045EA65
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ヒトおよびマウス血清アルブミンに結合し、それに関連する要素の血清中半減期を増大するために使用できる、OBフォールドタンパク質のバリアント、特にSac7dファミリーのバリアントに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトおよびマウス血清アルブミンに結合するSac7dファミリーのメンバーのバリアントを含むタンパク質であって、該バリアントがSac7dファミリーのメンバーのその天然リガンドへの結合の界面における4~20個の変異残基を含み、かつ該バリアントがSac7d配列SEQ ID NO: 1における位置に対応する付番でK22W、W24L、T33K、R42Y変異を含む、タンパク質。
【請求項2】
Sac7d配列SEQ ID NO: 1における位置に対応する付番で、D16E、N37Q、およびM57Lから選択される少なくとも1つの変異をさらに含む、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
Sac7dファミリーのメンバーのその天然リガンドへの結合の界面における変異残基が、Sac7dのV2、K3、K5、K7、Y8、K9、G10、E14、T17、K21、K22、W24、V26、G27、K28、M29、S31、T33、D36、N37、G38、K39、T40、A44、S46、E47、K48、D49、A50、およびP51からなる群より選択される、請求項1または2記載のポリペプチド。
【請求項4】
Sac7d配列SEQ ID NO: 1における位置に対応する付番で、Y8F、Y8P、A44F、A44Vから選択される少なくとも1つの変異をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項5】
スルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)由来のSac7d、スルホロブス・アシドカルダリウス由来のSac7e、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)由来のSSo7d、スルホロブス・シバタエ(Sulfolobus shibatae)由来のSsh7b、スルホロブス・シバタエ由来のSsh7a、スルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)由来のDBP7、スルホロブス・アイランディカス(Sulfolobus islandicus)由来のSis7a、メタロスファエラ・セデュラ(Metallosphaera sedula)由来のMse7、メタロスファエラ・クプリナ(Metallosphaera cuprina)由来のMcu7、アシディアヌス・ホスピタリス(Acidianus hospitalis)由来のAho7a、アシディアヌス・ホスピタリス由来のAho7b、アシディアヌス・ホスピタリス由来のAho7c、およびスルフリスファエラ・トコダイイ(Sulfurisphaera tokodaii)由来のSto7からなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項6】
SEQ ID NO: 38またはSEQ ID NO: 38のアミノ酸1~54を含む、請求項1~5のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項7】
SEQ ID NO: 48、SEQ ID NO: 51、SEQ ID NO: 55、SEQ ID NO: 58 SEQ ID NO: 62、SEQ ID NO: 65、およびこれらの配列のアミノ酸1~57から選択される配列を含む、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項8】
SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 72、SEQ ID NO: 76、SEQ ID NO: 79、SEQ ID NO: 83、SEQ ID NO: 86、およびこれらの配列のアミノ酸1~55から選択される配列を含む、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項9】
ヒトおよびマウス血清アルブミンに結合するSac7dファミリーのメンバーのバリアントにおいて構成される、請求項1~8のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項10】
ヒトおよびマウス血清アルブミンに結合するSac7dファミリーのメンバーのバリアントが有機分子にコンジュゲートされている、請求項1~8のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項11】
ヒトおよびマウス血清アルブミンに結合するSac7dファミリーのメンバーのバリアントが別のポリペプチド、特にSac7dファミリーのタンパク質の別のバリアントにコンジュゲートされている、請求項1~8のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項12】
請求項1~9および11のいずれか一項記載のポリペプチドをコードする、核酸分子。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項記載のポリペプチド、または請求項12記載の核酸、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項14】
請求項1~9および11~12のいずれか一項記載のポリペプチドを製造するための方法であって、
(a) 細胞培養物を培養する段階であって、該細胞が請求項12記載の核酸によって形質転換されている、段階
および
(b) 該ポリペプチドを回収する段階
からなる段階を含む、方法。
【請求項15】
医薬としての請求項10または11のいずれか一項記載のポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の血漿中半減期を延長する分野におけるものであり、特にそのような目的に使用可能なアルブミンへの新規結合体の開発に関する。
【背景技術】
【0002】
はじめに
分子の安全性および有効性を評価するために、実験室での実験をインビボの環境に置き換えるには、さらなるパラメータを考慮に入れる必要がある。全身循環に曝される製品の場合、最も重要な変化は、血管流における製品の滞留時間の影響である。血流中での滞留時間を管理することが必要であり、最も豊富な循環タンパク質であるアルブミンを一時的な担体として用いることにより実現することができる。これは、関心対象の化合物を血清アルブミンに、当該化合物に融合またはコンジュゲートされた特異的なリガンドによって一時的に連結させることにより達成することができる。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、Sac7dタンパク質またはSac7dファミリーのタンパク質、特にアルブミンに結合するAho7cのバリアントを含むポリペプチド、および特にインビボでそれに結合された分子(ペプチドまたはポリペプチドを含む)の半減期を延長するためのその使用に関する。
【0004】
このバリアントはヒトとマウスの両方の血清アルブミンに結合するため、製品の臨床開発や動物からヒトへの移行を迅速化するのに有益である。実際、血清アルブミンに対する結合体のほとんどはマウスとヒトの間で交差反応しない。さらに、親和性は重要であり、したがって血清アルブミンへのバリアントの強い結合(および低い代謝回転)を保証する(ゆえにバリアントに関連する生体分子の血清中半減期が増加する)。バリアントはまた、血清アルブミンのFcRへの結合を妨げない血清アルブミンのエピトープに結合し、したがって生体分子に関連する複雑な血清アルブミン/バリアントが再利用され、これは生体分子に関連するバリアントの血清中半減期の増加にとって興味深いことを証明している。バリアントは小さなタンパク質であるため、それが関連している生体分子自体の生物学的活性を低下させない。
【0005】
特に、ある種の態様において、該バリアントは、Sac7dタンパク質に基づいており、SEQ ID NO: 45、SEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 47、SEQ ID NO: 48、SEQ ID NO: 49、SEQ ID NO: 50、SEQ ID NO: 51、SEQ ID NO: 52、SEQ ID NO: 53、SEQ ID NO: 54、SEQ ID NO: 55、SEQ ID NO: 56、SEQ ID NO: 57、SEQ ID NO: 58、SEQ ID NO: 59、SEQ ID NO: 60、SEQ ID NO: 61、SEQ ID NO: 62、SEQ ID NO: 63、SEQ ID NO: 64、またはSEQ ID NO: 65を含む。ある種の態様において、該バリアントは、Ahocタンパク質に基づいており、SEQ ID NO: 66、SEQ ID NO: 67、SEQ ID NO: 68、SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 70、SEQ ID NO: 71、SEQ ID NO: 72、SEQ ID NO: 73、SEQ ID NO: 74、SEQ ID NO: 75、SEQ ID NO: 76、SEQ ID NO: 77、SEQ ID NO: 78、SEQ ID NO: 79、SEQ ID NO: 80、SEQ ID NO: 81、SEQ ID NO: 82、SEQ ID NO: 83、SEQ ID NO: 84、SEQ ID NO: 85、またはSEQ ID NO: 86を含む。明細書と配列表との間に矛盾がある場合、明細書に記載されている配列が優先される。
【0006】
特に、バリアントは、SEQ ID NO: 38またはSEQ ID NO: 38のアミノ酸1~54を含む。
【0007】
特に、バリアントは、SEQ ID NO: 48、SEQ ID NO: 51、SEQ ID NO: 55、SEQ ID NO: 58、SEQ ID NO: 62、SEQ ID NO: 65、およびこれらの配列のアミノ酸1~57から選択される配列を含む。
【0008】
特に、バリアントは、SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 72、SEQ ID NO: 76、SEQ ID NO: 79、SEQ ID NO: 83、SEQ ID NO: 86、およびこれらの配列のアミノ酸1~55から選択される配列を含む。
【0009】
本発明はまた、バリアントをコードする核酸、バリアントおよび活性物質を含むポリペプチド、単独でのまたは活性物質と組み合わせたバリアントの製造方法、ならびに使用方法に関する。
【0010】
特に、本発明は以下に関する:
-ヒトおよびマウス血清アルブミンに結合するSac7dファミリーのメンバーのバリアントにおいて構成される、本明細書において開示されるポリペプチド。
-ヒトおよびマウス血清アルブミンに結合するSac7dファミリーのメンバーのバリアントが有機分子にコンジュゲートされている、本明細書において開示されるポリペプチド。
-ヒトおよびマウス血清アルブミンに結合するSac7dファミリーのメンバーのバリアントが別のポリペプチドにコンジュゲートされている、本明細書において開示されるポリペプチド。
-他のポリペプチドがSac7dファミリータンパク質の別のバリアントである、本明細書において開示されるポリペプチド。
-本明細書において開示されるポリペプチドをコードする、核酸分子。
-本明細書において開示される核酸分子を含む、発現ベクター。
-本明細書において開示される核酸分子、または本明細書において開示される発現ベクターを含む、宿主細胞。
-本明細書において開示されるポリペプチド、本明細書において開示される核酸、本明細書において開示される発現ベクター、または本明細書において開示される宿主細胞、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物
-本明細書において開示されるポリペプチドを製造するための方法であって、
(a) 本明細書において開示される発現ベクターによって細胞が形質転換された細胞培養物を培養する段階、および
(b) ポリペプチドを製造する段階
を含む、方法。
-医薬としての本明細書において開示されるポリペプチド。
-疾患の治療または予防に用いるための本明細書において開示されるポリペプチドであって、バリアントが疾患の治療または予防のために活性な物質と関連している、ポリペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
上記の配列は、そのN末端にメチオニンを含んでいてもよいこと、しかし各配列のN末端に記載されたそのようなメチオニンが含まれない場合にも本発明を実施することが可能であることに留意されたい。同様に、タンパク質の末端に位置するアミノ酸が省かれてもよい。特に、Sac7dの残基L58の後に位置するアミノ酸(SEQ ID NO: 16のL60の後に位置する残基)が省かれてもよい。その結果、バリアントは、SEQ ID NO: 45~SEQ ID NO: 65のいずれかのアミノ酸1~57、1~58、1~59、1~60、1~61、1~62、または1~63を含んでいてもよい。
【0012】
Aho7c足場に基づく場合、バリアントは、SEQ ID NO: 66~SEQ ID NO: 86のいずれかのアミノ酸1~55、1~56、1~57、または1~58を含んでいてもよい。
【0013】
そのようなバリアントは、生体分子に融合され、および/または小さな化学的実体に結合されることができ、分子の血漿中半減期を延長することができるため、効力または生物学的利用能を高め、またはより少ない量の使用を可能にする。そのような半減期延長を必要とする典型的な分子は、小さな化学分子(例えばオーリスタチンまたはドキソルビシンなどのがんに対する細胞毒性剤)、ペプチド(GLP-1などのインスリン類似体)、スルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)由来のSac7d (およびAho7cまたはSso7dなどの類似体)誘導体などの小さなタンパク質足場、抗体模倣体、例えばアフィボディ、アフィリン、アフィマー、アルファボディ、アンチカリン、アビマー、DARPins、フィノマー、クニッツ(Kunits)ドメインペプチド、モノボディ、プロテインAのZドメイン、ガンマB結晶、ユビキチン、シスタチン、リポカリン、膜タンパク質のAドメイン、アンキリンリピートモチーフ(motive)、FynのSH3ドメイン、プロテアーゼ阻害剤のクニッツドメイン、フィブロネクチンの10番目のIII型ドメイン、3-または4-ヘリックスバンドルタンパク質、アルマジロリピートドメイン、ロイシンリッチリピートドメイン、PDZドメイン、SUMOまたはSUMO様ドメイン、免疫グロブリン様ドメイン、ホスホチロシン結合ドメイン、プレクストリン相同ドメイン、src相同2ドメインまたは合成ペプチドリガンド、抗体断片(Fab、VHH、ScFvを含む)、酵素、治療用核酸、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNAである。
【0014】
これは、サイトカイン(例えばIL-17、TNF-α...)、成長因子、ホルモン、抗菌ペプチド、補体因子、凝固因子などの循環分子の中和を目的とした生体分子の場合に特に興味深く; 同様に中和、動員または活性化に向けて免疫細胞(T-リンパ球、マクロファージ、抗原提示細胞...)などの循環細胞と相互作用する生体分子の場合に特に興味深く; 組織および臓器への拡散を必要とする生体分子の場合に特に興味深く、それゆえ、例えば脳への取り込み、肝臓、肺、または骨の標的化の場合、血管外漏出および/または組織への取り込みを増強するために血管系における長時間の曝露から恩恵を受け; 同様に、循環中の長い滞留時間は固形腫瘍へのより高い拡散に好ましく、抗腫瘍活性の増強につながり(例えばPD-L1またはEGF-Rを中和する場合); より一般的な感染症による敗血症を治療するための抗菌活性または抗ウイルス活性を有する分子の場合に特に興味深い。
【0015】
バリアントが融合される生体分子に依り、融合産物はがん、代謝性疾患(糖尿病などの)、神経疾患、炎症性疾患および自己免疫疾患(関節リウマチ、乾癬、狼瘡もしくは多発性硬化症などの)、または特に脳における酵素欠損症を処置するために用いることができる。
【0016】
生体分子(ポリペプチドまたは有機分子)は、好ましくは生物学的に活性である。これは、この生体分子が対象の体内に存在する分子(受容体、リガンド、抗原など)と相互作用し、対象に有益な効果(治癒、緩和、症状の減少、処置すべき疾患に関連するマーカーの減少(例えばウイルス感染の場合にはウイルス量の減少))を有利に提供することを示す。実際、活性物質とは、医薬(または診断製品)の製造に使用することを意図した物質または物質の混合物であり、その製造に使用された場合、生理学的機能の回復、修正もしくは変更を目的とした薬理学的作用、免疫学的作用もしくは代謝学的作用を発揮すること、または医学的診断を行うことが意図された製品の活性成分となるものである。
【0017】
本明細書はSac7dのバリアントを開示するが、本教示はSac7dファミリーの他のタンパク質に適用可能であることに留意されたい。この教示は、WO2007139397に開示されているように、他のOBフォールドドメインにも適用可能である。本発明は、当初、ウイルスアダプタータンパク質v-Crkにおける保存配列として記述され、PFAMデータベースにおいてPF00018の下に記述されている、約60アミノ酸残基の小さなタンパク質ドメインであるSH3ドメインにも適用可能である。SH3ドメインは、2つの密集した逆平行βシートとして配置された5本または6本のβ鎖からなる特徴的なβバレルフォールドを有する。リンカー領域は短いヘリックスを含みうる。OBフォールドドメインおよびSH3ドメインは相同性を共有していること、ならびにこれらのドメインの配列および構造に関する知見を考慮して、OBフォールドドメインまたはSH3ドメインのいずれにおいても、Sac7dについて以下に開示されるアミノ酸にどのアミノ酸が対応するかを決定することが可能であることに留意されたい。
【0018】
WO2012069654には、関心対象の分子の薬物動態または薬力学を改善するためのアルブミン結合DARPin(アンクリンリピートを含む)の作出が記述されている。
【0019】
EP1930342には、OBフォールドタンパク質バリアントの単離が記述されている。
【0020】
WO2012150314には、あるSac7dファミリータンパク質から別のSac7dファミリータンパク質へ、関心対象の標的への結合能を移す可能性が記述されている。
【0021】
EP3483180には、Sac7dバリアント-抗体複合体が記述されている。
【0022】
Robinsonら(Nature, 1998 vol. 392, no. 6672, 202-205)は、Sac7d、およびDNAへのその結合について記述している。
【0023】
Sac7dファミリーのコンセンサス配列(SEQ ID NO: 16)に基づくバリアントの説明
Sac7dファミリーの特定のメンバーに対するバリアントが本明細書において開示される。図1に示されるように、Sac7dファミリータンパク質の配列の類似性、およびあるタンパク質から別のタンパク質へ変異を運ぶことが可能であるという事実を考慮して、Sac7dファミリーのコンセンサス配列において変異を描くことができる。
【0024】
配列SEQ ID NO: 17~SEQ ID NO: 37において、位置8~10、22、27、30、32、42、46、および48のXまたはXaaとして指定されるアミノ酸は、表2に示される通りである。X (またはXaa)として指定される他のアミノ酸は、表1または表3 (ここで「-」はアミノ酸なしを指定する)に示される。
【0025】
(表1)SEQ ID NO: 17~SEQ ID NO: 37におけるアミノ酸の説明
【0026】
表1に開示されているアミノ酸は、図1にも示されているように、Sac7dファミリーのタンパク質で観察されたバラツキに対応している。
【0027】
表2に開示されているアミノ酸は、本明細書において開示されるバリアントにおいて、アルブミン結合に関与するアミノ酸に対応している。そのようなバリアントは、以下のアミノ酸について野生型タンパク質とさらに異なることに留意されたい:
位置23: Wの存在; 位置25: Lの存在; 位置34: Kの存在; 位置44: Yの存在。
【0028】
これらのアミノ酸は、アルブミンへの結合に重要であると本発明者らにより示されている(アミノ酸の変化は、アルブミンに結合する能力またはアルブミンに対する親和性を劇的に低下させる)。対照的に、表2にしたがって、最適化された結合体(SEQ ID NO: 20、SEQ ID NO: 23、SEQ ID NO: 27、SEQ ID NO: 30、SEQ ID NO: 34、またはSEQ ID NO: 37)からの他のアミノ酸を修飾することが可能である。特に、これらの結合体の位置22、27、30、32、42、または48のアミノ酸を別のアミノ酸により置換しても、結合またはその特性を本質的に改変しなかったことが注目されている。これらの結合体における位置8および10のアミノ酸に関しては、表2に記載されているように、疎水性/芳香族および極性/荷電性アミノ酸によりそれぞれ変化させることができる。
【0029】
また、コンセンサス配列のD17 (アスパラギン酸) (結合に関与しない)は、E (グルタミン酸)により置き換えることができることも示されている。これは、上記の配列(位置17においてXを保有するSEQ ID NO: 20、SEQ ID NO: 23; D17を保有するSEQ ID NO: 27およびSEQ ID NO: 30; E17を保有するSEQ ID NO: 34およびSEQ ID NO: 37)において表される。
【0030】
(表2)SEQ ID NO: 17~SEQ ID NO: 37においてXaaとして表示されるアミノ酸の説明。この表は、保有するXaaに対して、上記の配列に用いられることに留意されたい。一部の配列では、表2の一部の位置でアミノ酸が指定されているため、表の行は適用されない。
【0031】
上記のように、SEQ ID NO: 17~37の位置1のメチオニンは省くことができる。SEQ ID NO: 17~37のアミノ酸61~68も同様でありうる。
【0032】
1つの態様において、ポリペプチドは、SEQ ID NO: 17または表3からの配列の1つのアミノ酸2~60を含む。
【0033】
(表3)Sac7dファミリーのタンパク質のコンセンサス配列に基づくバリアント配列のリスト。Xの性質は表1および2に提供されている。位置17のXはEまたはDでありうる。
【0034】
Sac7dおよびAho7cに基づくバリアントの説明
Sac7dおよびAho7cは、大きな類似性を有するタンパク質である。
【0035】
SEQ ID NO: 87は、Sac7d (SEQ ID NO: 1)のアミノ酸2~66およびAho7c (SEQ ID NO: 14)のアミノ酸3~60のアライメント後のコンセンサス配列に対応する。開始アミノ酸は、タンパク質の構造において必須ではないので省かれている。
【0036】
このコンセンサス配列において、X (またはXaa)は表4の通りである。
【0037】
(表4)SEQ ID NO: 87およびSEQ ID NO: 38~44においてXaaとして表されるアミノ酸の説明
【0038】
そのようなバリアントは以下によって表される。
【0039】
(表5)Sac7d-Aho7cのコンセンサス配列に基づくバリアントの配列。Xにより表されるアミノ酸は、表4、6、および7にさらに説明されている。
【0040】
(表6)SEQ ID NO: 38~SEQ ID NO: 86においてXaaとして表示されるアミノ酸の説明。この表は、保有するXaaに対して、上記の配列に用いられることに留意されたい。一部の配列では、表6の一部の位置でアミノ酸が指定されているため、表の行は適用されない。
【0041】
これらの配列では、結合に関与しない一部のアミノ酸もバリアントにて修飾することができる(特にSEQ ID NO: 38~SEQ ID NO: 86を参照されたい)。それらは表7において表されている。
【0042】
(表7)SEQ ID NO: 36~44、SEQ ID NO: 45~51、およびSEQ ID NO: 66~72においてXaaとして表されるアミノ酸。位置56のXaaはSEQ ID 45~51においてのみ存在する。
【0043】
Sac7d (SEQ ID NO: 1)に基づくバリアントの説明
ヒトおよびマウス血清アルブミンに結合するSac7dのバリアントは、SEQ ID NO: 45~SEQ ID NO: 65により描かれている。
【0044】
これらの配列において、Sac7dタンパク質の開始メチオニン(M)は省かれている。このアミノ酸が欠失されてもタンパク質の活性が変化しないことは、本出願人によって実際に示されている。同様に、バリアントから最後の7アミノ酸を省いても活性を保持することが可能である。
【0045】
その結果、SEQ ID NO: 45~SEQ ID NO: 65のいずれかのアミノ酸1~57により描かれているタンパク質も、本発明によるバリアントである。SEQ ID NO: 45~SEQ ID NO: 65のいずれかのアミノ酸1~58、1~59、1~60、1~61、1~62、1~63により描かれているタンパク質を挙げることもでき、これらも本発明によるバリアントである。
【0046】
その結果、ポリペプチドは、SEQ ID NO: 45~SEQ ID NO: 65のいずれか、またはこれらの配列に基づく、上記に開示されている、任意の短縮型タンパク質を含む。
【0047】
そのようなバリアントは以下によって表される。
【0048】
(表8)Sac7dに基づくバリアントの配列。Xにより表されるアミノ酸は、表6および7にさらに説明されている。
【0049】
上記のように、表7に開示されるように、Sac7dのD16 (Sac7dに存在するM1が省略されているため、SEQ ID NO: 45~65における位置15に位置する)、Sac7dのN37 (本明細書では位置36に位置する)またはSac7dのM57 (本明細書では位置56に位置する)を修飾することが可能である。
【0050】
Sac7d/Aho7cのコンセンサス配列に関しては、配列表に全てが描かれているわけではないが、置換の任意の組み合わせが予測される(付番はSEQ ID NO: 45~65を基準にしている):
【0051】
上記のように、配列は全て、Sac7dにおいて天然に存在するアミノ酸とは異なる、変異アミノ酸W21、L23、K32、Y41 (SEQ ID NO: 1の位置22、24、33、および42にそれぞれ対応し、N末端メチオニンを含む)を含む。
【0052】
本出願人は、これらのアミノ酸が血清アルブミンに結合するさまざまなバリアントに存在すること、およびそのような修飾が結合の減少(親和性の損失または結合の喪失)をもたらすことを実際に見出した。他のアミノ酸は、表6に記載されている条件の下で、可変でありうる。
【0053】
非常に興味深いバリアントは、SEQ ID NO: 47、SEQ ID NO: 48、SEQ ID NO: 50、SEQ ID NO: 51、SEQ ID NO: 54、SEQ ID NO: 55、SEQ ID NO: 57、SEQ ID NO: 58、SEQ ID NO: 61、SEQ ID NO: 62、SEQ ID NO: 64、およびSEQ ID NO: 65により描かれている。
【0054】
特に、非常に興味深いバリアントは、SEQ ID NO: 48、SEQ ID NO: 51、SEQ ID NO: 55、SEQ ID NO: 58、SEQ ID NO: 62、およびSEQ ID NO: 65により描かれている。
【0055】
SEQ ID NO: 62 (F06と命名)は、SEQ ID NO: 55と同様に、特に興味深い。SEQ ID NO: 62のL56はM56により置き換えることができることに留意されたい。
【0056】
SEQ ID NO: 58 (B11と命名)も、SEQ ID NO: 65と同様に、特に興味深い。
【0057】
Aho7c (SEQ ID NO: 14)に基づくタンパク質の説明
ヒトおよびマウス血清アルブミンに結合するAho7cのバリアントは、SEQ ID NO: 66~SEQ ID NO: 86により描かれている。上記のように、そのようなタンパク質はSac7dに非常に類似している。また、Sac7dの変異はSac7dから別のタンパク質に運ばれうることが本明細書で示され、想起されている(WO 2012/150314)。
【0058】
これらの配列において、Aho7cタンパク質(SEQ ID NO: 14)の開始メチオニンおよびアラニン(MA)は省かれている。これらのアミノ酸が欠失されてもタンパク質の活性が変化しないことは、本出願人によって実際に示されている。同様に、バリアントから最後の4アミノ酸を省いても活性を保持することが可能である。
【0059】
その結果、SEQ ID NO: 66~SEQ ID NO: 86のいずれかのアミノ酸1~55により描かれているタンパク質も、本発明によるバリアントである。SEQ ID NO: 66~SEQ ID NO: 86のいずれかのアミノ酸1~56、1~57、1~58により描かれているタンパク質を挙げることもでき、これらも本発明によるバリアントである。
【0060】
その結果、ポリペプチドは、SEQ ID NO: 66~SEQ ID NO: 86のいずれか、またはこれらの配列に基づく、上記に開示されている、任意の短縮型タンパク質を含む。
【0061】
そのようなバリアントは以下によって表される。
【0062】
(表9)Ao7cに基づくバリアントの配列。Xにより表されるアミノ酸は、表6および7にさらに説明されている。
【0063】
上記のように、表7に開示されるように、Aho7cのD17 (Aho7cに存在するM1A2が省略されているため、SEQ ID NO: 66~86における位置15に位置する)、またはAho7cのN38 (本明細書では位置36に位置する)を修飾することが可能である。
【0064】
Sac7d/Aho7cのコンセンサス配列に関しては、配列表に全てが描かれているわけではないが、置換の任意の組み合わせが予測される(付番はSEQ ID NO: 66~86を基準にしている):
【0065】
上記のように、配列は全て、Aho7cにおいて天然に存在するアミノ酸とは異なる、変異アミノ酸W21、L23、K32、Y41 (SEQ ID NO: 14の位置23、25、34、および43にそれぞれ対応し、N末端においてメチオニンおよびアラニンを含む)を含む。
【0066】
本出願人は、これらのアミノ酸が血清アルブミンに結合するさまざまなバリアントに存在すること、およびそのような修飾が結合の減少(親和性の損失または結合の喪失)をもたらすことを実際に見出した。他のアミノ酸は、表6に記載されている条件の下で、可変でありうる。
【0067】
非常に興味深いバリアントは、SEQ ID NO: 68、SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 71、SEQ ID NO: 72、SEQ ID NO: 75、SEQ ID NO: 76、SEQ ID NO: 78、SEQ ID NO: 79、SEQ ID NO: 82、SEQ ID NO: 83、SEQ ID NO: 85、およびSEQ ID NO: 86により描かれている。
【0068】
特に、非常に興味深いバリアントは、SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 72、SEQ ID NO: 76、SEQ ID NO: 79、SEQ ID NO: 83、およびSEQ ID NO: 86により描かれている。
【0069】
SEQ ID NO: 83 (F06に基づく)は、特に興味深い。
【0070】
SEQ ID NO: 86 (B11に基づく)も特に興味深い。
【0071】
特定の態様において、ポリペプチドは、ヒト血清アルブミン(HSA)に結合するSac7dファミリーのタンパク質のバリアントにおいて構成される。
【0072】
特定の態様において、HSAに結合するSac7dファミリーのタンパク質のバリアントは、別のタンパク質またはポリペプチドに連結または融合される(本明細書では会合しているとも示される)。
【0073】
本発明はまた、本明細書において説明されるポリペプチドをコードするDNA配列を含む遺伝子コンストラクト、そのような遺伝子コンストラクトを含むベクター、およびそのゲノム中に遺伝子コンストラクト(核酸またはベクター)を含む宿主細胞に関する。
【0074】
本発明はまた、本明細書において開示されるポリペプチドを製造するための方法であって、
a. 細胞培養物を培養する段階であって、該細胞が開示される遺伝子コンストラクトによって形質転換されている、段階
および
b. 該ポリペプチドを回収する段階
からなる段階を含む、方法に関する。
【0075】
本発明はまた、本明細書において医薬として開示されるポリペプチドに関する。
【0076】
本発明はまた、医薬として治療的活性を有するペプチドまたはタンパク質に融合している本明細書において開示されるバリアントを含む融合タンパク質に関する。
【0077】
本発明はまた、特に対象ががん、代謝性疾患(糖尿病などの)、神経疾患、炎症性疾患もしくは自己免疫疾患(関節リウマチ、乾癬、狼瘡もしくは多発性硬化症などの)、または特に脳における酵素欠損症を有する場合、対象に本明細書において開示されるポリペプチドの治療量を投与する段階を含む、その必要がある対象を処置するための方法に関する。対象に投与されるポリペプチドは、処置される疾患に対する治療的活性を有するタンパク質またはペプチドに融合している、ヒト血清アルブミンに結合する、Sac7dファミリーのタンパク質のバリアントを含む。例えば、乾癬を処置するためにインターロイキン-17を中和するタンパク質、関節リウマチの処置のために腫瘍壊死因子αを中和するタンパク質、プログラム死リガンド1とがん細胞表面のその受容体との相互作用を阻止するタンパク質、ヒートショックプロテイン(特にHSP 110)などのストレス耐性因子を中和するタンパク質である。
【0078】
治療量(または有効量)は、臨床結果などの、有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な量であり、したがって、それが適用されている状況に依存する。HSAに結合するバリアントを含むポリペプチドおよび治療的活性を有するペプチドまたはポリペプチドを、本明細書において開示される疾患を有する患者に投与するという状況において、薬剤の有効量は、例えば、薬剤の投与なしに得られた応答と比較して、患者の治癒、患者の状態の改善、患者の治癒の加速を達成するのに十分な量である。また、疾患の進行を停めるまたは遅らせる量とすることもできる。疾患の退行、または特定の疾患に関連する生物学的マーカーの退行を可能にする量とすることもできる。
【0079】
治療的活性を有する薬剤(または治療剤)は、疾患を有する対象に効率的な量を投与することにより、対象の状態を改善し、または疾患に関連するバイオマーカーを低下させる薬剤である。
【0080】
Sac7dの配列は以下であることに注意されたい:
【0081】
本明細書において開示されるHSAに結合するバリアントは、Sac7配列の位置7、8、9、21、22、24、26、29、31、33、40、42、44、および46 (SEQ ID NO: 38~86の位置6、7、8、20、21、23、25、28、30、32、39、41、43、および45)に対応する位置に変異を含む。SEQ ID NO: 1における位置21のリジンは、いくつかのバリアントにおいて維持されうる。SEQ ID NO: 1における位置8のリジン、SEQ ID NO: 1における位置26、29、31、40、もしくは46の天然アミノ酸、またはSEQ ID NO: 1における位置43のフェニルアラニンも、いくつかのバリアントにおいて維持されうる。
【0082】
しかしながら、バリアントは、SEQ ID NO: 1においてW22、L24、K33、およびY42 (SEQ ID NO: 38~86においてW21、L23、K32、およびY41)である天然配列と比較して少なくとも4個の変異アミノ酸、好ましくは少なくとも6個、より好ましくは少なくとも9個、または少なくとももしくは正確に12個の変異アミノ酸を含む。
【0083】
HSAに結合するSac7dファミリーのタンパク質のバリアントが、別のタンパク質またはポリペプチドに連結または融合されている場合が好ましい。
【0084】
これは、Sac7dファミリーのタンパク質の別のバリアント、ペプチド、または抗体に結合または融合されていてもよい(WO2019096797に記述されている通り)。
【0085】
特に、Sac7dファミリーのタンパク質の他のバリアントは、IL-17 (WO2019096797参照)、またはTNF-α(W02020074402参照)に結合しうる。
【0086】
別の態様において、ポリペプチドは有機分子にコンジュゲートされている。
【0087】
これは、上記で定義されたポリペプチドをコードするDNA配列を含む遺伝子コンストラクト、そのような遺伝子コンストラクトを含むベクター、およびそのゲノム中にそのような遺伝子コンストラクトを含む宿主細胞を得ることも可能にする。そのようなベクターは、ポリペプチドの転写および翻訳を可能にする要素(プロモーター、ターミネーター、エンハンサー...など)も含む。
【0088】
細胞培養物を培養する段階であって、該細胞が遺伝子コンストラクトによって形質転換されている、段階および該ポリペプチドを回収する段階を含む、ポリペプチドを製造するための方法を実施することが可能である。
【0089】
また、医薬として開示されたポリペプチド、特に治療的活性を有する別のペプチドまたはポリペプチドと融合している、HASに結合するバリアントを含むポリペプチドを具体化することもできる。
【0090】
上記の配列は、そのN末端にメチオニンを含んでいてもよいこと、しかし各配列のN末端に記載されたそのようなメチオニンが含まれない場合にも本発明を実施することが可能であることに留意されたい。同様に、タンパク質の末端に位置するアミノ酸が省かれてもよい。特に、Sac7dの残基L58の後に位置するアミノ酸(SEQ ID NO: 16のL60の後に位置する残基)が省かれてもよい。
【0091】
本明細書は、実例として、Sac7dのバリアントを開示するが、本教示はSac7dファミリーの他のタンパク質に適用可能であることに留意されたい。この教示は、WO2007139397に開示されているように、他のOBフォールドドメインにも適用可能である。特に、図1に示されるアライメントを用いて、Sac7dファミリーのある配列から別の配列へ変異を運ぶことが可能であることを実証するWO2012150314について言及する。本発明は、当初、ウイルスアダプタータンパク質v-Crkにおける保存配列として記述され、PFAMデータベースにおいてPF00018の下に記述されている、約60アミノ酸残基の小さなタンパク質ドメインであるSH3ドメインにも適用可能である。SH3ドメインは、2つの密集した逆平行βシートとして配置された5本または6本のβ鎖からなる特徴的なβバレルフォールドを有する。リンカー領域は短いヘリックスを含みうる。OBフォールドドメインおよびSH3ドメインは相同性を共有していること、ならびにこれらのドメインの配列および構造に関する知見を考慮して、OBフォールドドメインまたはSH3ドメインのいずれにおいても、Sac7dについて以下に開示されるアミノ酸にどのアミノ酸が対応するかを決定することが可能であることに留意されたい。
【0092】
Sac7dタンパク質ファミリー
Sac7dファミリーは、Sac7dタンパク質に関するものと定義され、好極限性細菌から単離された7 kDaのDNA結合タンパク質のファミリーに相当するものである。本明細書では、本発明の文脈において好ましく用いられる、OBフォールドドメインの代表種として開示される。SH3ドメインはOBフォールドドメインと相同性を共有しているので、Sac7dに関する教示はSH3足場にも適用可能である。
【0093】
これらのタンパク質およびこのファミリーは、特にWO 2008/068637に記述されている。したがって、本発明の文脈のなかで、タンパク質は、配列SEQ ID NO: 1~SEQ ID NO: 15のうちの1つを有する場合に、またはコンセンサス配列(SEQ ID NO: 1~SEQ ID NO: 9およびSEQ ID NO: 12~SEQ ID NO: 15から得られる。このコンセンサス配列において、ダッシュ「-」は、アミノ酸がないことを示し、タンパク質が全て同じサイズを有しているわけではないことを示す)である配列SEQ ID NO: 16に対応する配列を有する場合に、Sac7dファミリーに属する。このSac7dファミリーは、特にスルホロブス・アシドカルダリウスに由来するSac7dまたはSac7eタンパク質、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)に由来するSso7dタンパク質、スルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)に由来するSto7タンパク質とも呼ばれるDBP 7、スルホロブス・シバタエ(Sulfolobus shibatae)に由来するSsh7bタンパク質、スルホロブス・シバタエに由来するSsh7aタンパク質、メタロスファエラ・セデュラ(Metallosphaera sedula)に由来するMse7、メタロスファエラ・クプリナ(Metallosphaera cuprina)に由来するMcu7、アシディアヌス・ホスピタリス(Acidianus hospitalis)に由来するAho7aまたはAho7bまたはAho7c、スルホロブス・アイランディカス(Sulfolobus islandicus)に由来するSis7aまたはSis7b、およびスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)に由来するp7ssタンパク質を含む。Sac7dファミリータンパク質の配列の広範な類似性を考えると、Sac7dの所与のアミノ酸に対応するSac7dとは別のタンパク質のアミノ酸を同定することが直接的に可能かつ容易である。特に、そのようなタンパク質が重ね合わせ可能であることを(図中で)示し、(明細書中で)説明しているWO 2008/068637の教示を用いることもできる。
【0094】
WO 2012/150314には、Sac7dファミリーのあるタンパク質からの変異が同じファミリーの別のタンパク質に持ち込まれうることが示されている。この移行性は、Sac7dファミリーの1つのタンパク質の変異体から出発して、Sac7dファミリーの別のタンパク質の変異体を作出することに相当する。最初の変異体は、特にWO 2008/068637のプロセスを実行することにより得られたものでありうる。その結果、特にWO 2012/150314の教示および図1の教示を用いて、Sac7dファミリーの任意のタンパク質の変異体を、そのようなファミリーの任意の他のタンパク質の変異体から出発して、得ることが可能である。実例として、Sac7dの変異体の場合、図1の配列アライメントを用いて、Sac7d変異体の変異したアミノ酸を別のタンパク質足場に導入することができる。実例として、本明細書において開示されるSac7dバリアントから得られるAho7cのバリアントは、SEQ ID NO: 66~SEQ ID NO: 86として記述される。
【0095】
バリアントを得るために野生型タンパク質配列に導入される変異残基の数は、好ましくは4~25個であり、またはより具体的には4~22個である。したがって、野生型OBフォールドタンパク質(またはドメイン)と比較して、少なくとも4個、より好ましくは少なくとも5個、より好ましくは少なくとも6個、より好ましくは少なくとも7または8個、さらにより好ましくは少なくとも10個、しかし一般には25個未満、より好ましくは22個未満、さらにより好ましくは20個未満、または15個もしくは14個未満の置換アミノ酸を好ましくは有するバリアントを得ることが可能である。本明細書では全てのおよび任意の範囲(5~20または7~25などのような)が考慮されることに留意されたい。特に好ましい範囲は、4~17および6~17、4~11、4~12、5~12、6~12、4~14および6~14である。
【0096】
野生型OBフォールドドメインと比べて、OBフォールドドメインの結合部位において7、8、9、10、11、12、13、または14個のアミノ酸が変異している場合が、好ましい。これらの変異は、Sac7d(SEQ ID NO: 1)のV2、K3、K5、K7、Y8、K9、G10、E11、K13、E14、T17、K21、K22、W24、V26、G27、K28、M29、S31、T33、Y34、D36、N37、G38、K39、T40、R42、A44、S46、E47、K48、D49、A50、およびP51に対応するアミノ酸、好ましくはK7、Y8、K9、K21、K22、W24、V26、M29、S31、T33、T40、R42、A44、およびS46に対応するアミノ酸に導入される。
【0097】
特に、変異アミノ酸の数が7~14(両端の値を含む)である場合が興味深い。特に、バリアントは、上記のようにアミノ酸の挿入を含むこともできる。
【0098】
示されるように、Sac7dファミリータンパク質は、スルホロブス・アシドカルダリウスに由来するSac7dまたはSac7e、スルホロブス・ソルファタリカスに由来するSso7d、スルホロブス・トコダイイに由来するSto7とも呼ばれるDBP 7、スルホロブス・シバタエに由来するSsh7b、スルホロブス・シバタエに由来するSsh7a、メタロスファエラ・セデュラに由来するMse7、メタロスファエラ・クプリナに由来するMcu7、アシディアヌス・ホスピタリスに由来するAho7aまたはAho7bまたはAho7c、スルホロブス・アイランディカスに由来するSis7aまたはSis7b、およびスルホロブス・ソルファタリカスに由来するp7ssを含む。Sac7d、Sso7d、Sac7e、Ssh7b、Ssh7a、DBP7、Sis7a(3対立遺伝子)、Mse7、Mcu7、Aho7a、Aho7b、Aho7c、およびSto7dタンパク質のさまざまな配列は、それぞれSEQ ID NO: 1~SEQ ID NO: 15によって表される。
【0099】
このSac7dファミリータンパク質のバリアントは、ナノフィチンと呼ばれうる。したがって、本発明は、SEQ ID NO: 1~SEQ ID NO: 15によって表されるタンパク質、または配列SEQ ID NO: 16を有するタンパク質のバリアントに対して、特にSac7dのバリアントに対して選択的に実施される。
【0100】
Sac7dタンパク質とOBフォールドタンパク質およびSH3ドメインとの関連
OBフォールドタンパク質は、当技術分野において公知である。それらは特に、上記で引用した書面に、またArcus(Curr Opin Struct Biol. 2002 Dec; 12(6):794-801)にも記述されている。OBフォールドは、5枚のベータ(β)シートを有する円柱の形態である。大部分のOBフォールドタンパク質は、オリゴ糖、オリゴヌクレオチド、タンパク質、金属イオン、または触媒基質でありうる天然リガンドと同じ結合界面を使用する。この結合界面は、主にβシートに位置する残基を含む。ループに位置する特定の残基も、OBフォールドタンパク質とその天然リガンドとの結合に関与しうる。したがって、WO 2007/139397およびWO 2008/068637の出願ならびにArcusの書面(2002, op. cit.)には、その天然リガンドと結合するためのOBフォールドタンパク質ドメインが記述されている。
【0101】
特に、書面WO 2008/068637には、OBフォールドタンパク質の結合ドメインを特定する方法が正確に記述されている。OBフォールドドメインを有するタンパク質のいくつかの配列および3次元構造を重ね合わせることにより、ウェブサイトWU-Blast2(http://www.ebi.ac.uk/blast2/index.html)(Lopez et al., 2003, Nucleic Acids Res 31, 3795-3798)、T-COFFEE(http://www.ch.embnet.org/software/TCoffee.html)(Notredame et al., 2000, J Mol Biol 302, 205-217)およびDALI lite(http://www.ebi.ac.uk/DaliLite/)(Holm and Park, 2000, Bioinformatics 16, 566-567)を用いて、結合ドメインの位置、および特に改変することができるアミノ酸を特定することが可能である。Sac7dの配列(SEQ ID NO: 1)を参照すると、これらには残基V2、K3、K5、K7、Y8、K9、G10、E11、K13、E14、T17、K21、K22、W24、V26、G27、K28、M29、S31、T33、Y34、D35、D36、N37、G38、K39、T40、G41、R42、A44、S46、E47、K48、D49、A50、およびP51、好ましくはK7、Y8、K9、K21、K22、W24、V26、M29、S31、T33、T40、R42、A44、およびS46がある。図1に示すアライメントを用いて、Sac7dのこれらのアミノ酸に対応するアミノ酸を、各タンパク質において、特定することが可能である。
【0102】
WO 2008/068637には、DALIウェブサイト(http://www.ebi.ac.uk/dali/interactive.html)(Holm and Sander, 1998, Nucleic Acids Res 26, 316-319)を用いて、OBフォールドタンパク質またはドメイン(本出願では、Sac7dを含めて、10ドメインを用いた)の3次元構造の重ね合わせを実施することが可能であると記述されている。したがって、任意のOBフォールドタンパク質(または任意のOBフォールドドメイン)について、結合部位に関与し、上記のSac7dアミノ酸に対応するアミノ酸を特定することは容易である。その結果として、これらのタンパク質の1つにおいて変異させることができるアミノ酸を提供することにより、他の任意のOBフォールドドメインについて対応するアミノ酸を特定することが可能になる。
【0103】
OBフォールドドメインがSH3ドメインに似ていること、およびSH3ドメインにおけるSac7dのアミノ酸の等価体を特定することも可能であることにも留意されたい。
【0104】
OBフォールドドメインまたはSH3ドメインの例
本発明によって使用することができるOBフォールドタンパク質の非限定的な例は、Sac7d、Sso7d、SEBのN末端ドメイン(Papageorgiou et al., 1998)、志賀様毒素IIeの鎖A(PDB 2bosa)、ヒト好中球アクチバチンペプチド-2(Neutrophil Activatin Peptide-2)(NAP-2, PDB 1tvxA)、アゾトバクター・ビネランジィ(Azotobacter vinelandii)のモリブデン結合タンパク質(modg)(PDB 1h9j)、SPE-CのN末端ドメイン(Roussel et al., 1997)、大腸菌(E. coli) 志賀様毒素のB5サブユニット(Kitov et al., 2000)、Cdc13(Mitton-Fry et al., 2002)、ヒトYボックスタンパク質YB-1の冷ショックDNA結合ドメイン(Kloks et al., 2002)、大腸菌無機ピロホスファターゼEPPase(Samygina et al., 2001)、または(Arcus, 2002)による論文の表3に記載されているタンパク質のいずれか、例えば1krs(リシル-tRNAシンテターゼLysS, 大腸菌)、1c0aA(Asp-tRNAシンテターゼ, 大腸菌)、1b8aA(Asp-tRNAシンテターゼ, P.コダカラエンシス(P. kodakaraensis))、1lylA(リシル-tRNAシンテターゼLysU, 大腸菌)、1quqA(複製タンパク質A, 32 kDaサブユニット, ヒト)、1quqB(複製タンパク質A, 14 kDaサブユニット, ヒト)、1jmcA(複製タンパク質A, 70 kDaサブユニット(RPA70)断片, ヒト)、1otc(テロメア末端結合タンパク質, O.ノバ(O. nova))、3ullA(ミトコンドリアssDNA結合タンパク質, ヒト)、1prtF(百日咳毒素S5サブユニット, 百日咳(B. pertussis))、1bcpD(百日咳毒素S5サブユニット(ATP結合), 百日咳)、3chbD(コレラ毒素, V.コレラエ(V. cholerae))、1tiiD(易熱性毒素, 大腸菌)、2bosA(ベロ毒素-1/志賀毒素, B-五量体, 大腸菌)、1br9(TIMP-2, ヒト)、1an8(超抗原SPE-C, 化膿性連鎖球菌(S. pyogenes))、3seb(超抗原SPE, 黄色ブドウ球菌(S. aureus))、1aw7A(毒素性ショック症候群毒素, 黄色ブドウ球菌)、1jmc(主要な冷ショックタンパク質, 大腸菌)、1bkb(開始翻訳因子5a, P.アエロフィラム(P. aerophylum))、1sro(PNPaseのS1 RNA結合ドメイン, 大腸菌)、1d7qA(開始翻訳因子1, elF1a, ヒト)、1ah9(開始翻訳因子1, IF1, 大腸菌)、1b9mA(Mo依存性転写調節因子ModE, 大腸菌)、1ckmA(RNAグアニリルトランスフェラーゼ, クロレラウイルス, PBCV-1)、1a0i(ATP依存性DNAリガーゼ, バクテリオファージT7)、1snc(ブドウ球菌ヌクレアーゼ, 黄色ブドウ球菌)、1hjp(DNAヘリカーゼRuvAサブユニット, N末端ドメイン, 大腸菌)、1pfsA(遺伝子Vタンパク質, 緑膿菌バクテリオファージpf3)、1gvp(遺伝子Vタンパク質, 糸状バクテリオファージ(f1, M13))、1gpc(遺伝子32タンパク質(gp32)コア, バクテリオファージT4)、1wgjA(無機ピロホスファターゼ, 出芽酵母(S. cerevisiae))、および2prd(無機ピロホスファターゼ, 高度好熱菌(T. thermophilus))である。
【0105】
SH3ドメインを有するタンパク質の非網羅的な例は、シグナル伝達アダプタータンパク質、CDC24、Cdc25、PI3キナーゼ、ホスホリパーゼ、Ras GTPase活性化タンパク質、Vavがん原遺伝子、GRB2、p54 S6キナーゼ2 (S6K2)、SH3D21、C10orf76 (可能性)、STAC3、いくつかのミオシン、SHANK1,2,3、ARHGAP12、C8orf46、TANGO1、インテグラーゼ、局所接着キナーゼ(FAK, PTK2)、プロリンリッチチロシンキナーゼ(Pyk2, CADTK, PTK2beta)、またはTRIP10 (cip4)である。
【0106】
同定されたバリアントの製造
同定されたバリアントの配列は、当技術分野において公知の任意の分子遺伝学的方法によって任意の適切なベクターにクローニングすることができる。
【0107】
上記のバリアントを含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むこれらの組換えDNAコンストラクトは、プラスミド、ファージミド、ファージ、またはウイルスベクターなどの、ベクターに関連して使用される。
【0108】
これらの組換え酸分子は、Sambrook et al., 1989(Sambrook J, Fritschi EF and Maniatis T (1989) Molecular cloning: a laboratorymanual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)に記述されている技法によって製造することができる。あるいは、DNA配列は、例えば、合成機を用いて化学的に合成されてもよい。
【0109】
本発明の組換えコンストラクトは、RNAを発現することができる、かつしたがって上記遺伝子配列からのタンパク質の産生をもたらす発現ベクターを含む。したがって、ベクターは、本明細書において開示される遺伝子配列の読み取り枠(ORF)に機能的に連結された適当なプロモーターを含めて、調節配列をさらに含みうる。ベクターは、抗生物質耐性遺伝子などの選択可能なマーカー配列をさらに含みうる。細菌を発現宿主として使用する場合、コード配列の効率的な翻訳には、特定の開始シグナルおよび細菌分泌シグナルも必要とされうる。
【0110】
分子の産生
細胞は、上記に開示されたようなバリアントを含むポリペプチドをコードする配列を含むベクターでトランスフェクトまたは形質転換される。
【0111】
細胞は、タンパク質が発現され、良好に分泌されるような条件において培養される。細胞の培養条件は、一般に組換え抗体産生に用いられる条件であり、当技術分野において公知である。当技術分野において公知であるそのような条件も、必要に応じて当業者により最適化されうる。KunertおよびReinhart(Appl Microbiol Biotechnol. 2016; 100: 3451-3461)には、そのような方法が概説されており、それに対する十分な参考文献が提供されている。
【0112】
一つには、細菌、ファージ(Shukra et al, Eur J Microbiol Immunol (Bp). 2014; 4(2): 91-98)、または真核生物の産生系を用いることができる。
【0113】
一つには、グリコシル化などの適切な翻訳後修飾を得るために真核細胞を用いることが好ましいであろう。
【0114】
特に、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞、PER.C6細胞(ヒト細胞株、Pau et al, Vaccine. 2001 21;19(17-19):2716-21)、HEK 293b細胞(ヒト胎児腎臓細胞293)、NS0細胞(非分泌性マウス骨髄腫に由来する細胞株)、またはEB66細胞(アヒル細胞株Valneva, Lyons, France)を用いることができる。
【0115】
また、本開示によって提供されるのは、本明細書において開示されるバリアントを含むポリペプチドをコードするDNAコンストラクトの少なくとも1つを含む宿主細胞である。宿主細胞は、発現ベクターが利用可能な任意の細胞でありうる。上記のように、それは哺乳類細胞などの高等真核生物宿主細胞、酵母細胞などの低級真核生物宿主細胞、または細菌細胞などの原核生物細胞でありうる。
【0116】
宿主細胞への組換えコンストラクトの導入は、当技術分野において公知の任意の方法(リン酸カルシウムトランスフェクション、リポフェクション、DEAE、デキストラン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、またはファージ感染などの)によって実施される。ベクターは、宿主細胞のゲノム内に挿入することができ、またはゲノム外ベクター(細菌人工染色体もしくは酵母人工染色体などの)として維持することができる。細胞ゲノム内に導入される場合、そのような導入は、当技術分野において公知の方法(相同組換えなど)を用いてターゲティングされてもよいし、ランダムであってもよい。
【0117】
細菌宿主および発現
細菌用に有用な発現ベクターは、適当な翻訳開始および終結シグナルとともに組換えDNA配列を、機能的プロモーターとの機能的な読み取り相に挿入することによって構築される。ベクターに1つまたは複数の表現型選択マーカーおよび複製起点を含めて、ベクターの維持を確実にし、望ましい場合には、宿主内での増幅を提供する。
【0118】
形質転換に適した原核生物宿主は、大腸菌、枯草菌(Bacillus subtilis)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ならびにシュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、およびスタフィロコッカス(Staphylococcus)属内のさまざまな種を含む。
【0119】
真核生物宿主および発現
真核生物宿主細胞の例としては、脊椎動物細胞、昆虫細胞、および酵母細胞が挙げられる。特に、上記の細胞を用いることができる。
【0120】
形質転換またはトランスフェクトされた細胞は、当技術分野において公知の方法により培養され、ポリペプチドは細胞内または細胞外画分(分泌されるか否かに依る)から回収される。
【0121】
分子の単離
産生された組換えタンパク質は、タンパク質の物理的または化学的特性を利用した公知の各種分離方法のいずれかにより、細胞内または細胞外画分から分離および精製することができる。
【0122】
特に、沈殿、タンジェンシャルフローろ過、限外ろ過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、およびアフィニティークロマトグラフィーなどの各種の液体クロマトグラフィー、透析、ならびにそれらの組み合わせなどの方法を用いることができる。
【0123】
一般に、組換えポリペプチドを精製するために知られ、用いられている任意の方法が、本明細書において開示される分子の精製に適応される。
【0124】
組換え配列内にタグ(ポリヒスチジンタグなどの)が導入されている場合は、このタグを用いて分子を精製することができる。しかしながら、親和性を用いて分子を精製することが好ましい。
【0125】
特に、本明細書において産生される分子は特定の標的に結合するという事実を用い、および任意のアフィニティー方法(アフィニティーカラム、FACS、ビーズ)を用いて、そのような分子を単離することができる。
【0126】
本明細書において開示される分子の1つの特別の利点は、それらが活性であるためにグリコシル化される必要はなく、したがって任意のタイプの細胞において産生されてもよく、必ずしも真核細胞でなくてもよいということである。それらは細菌細胞において特によく産生される。
【0127】
バリアントの改変
ヒト血清アルブミンおよびマウス血清アルブミンに結合する能力を有する上記のバリアントは、当技術分野において公知の任意の方法によって修飾することができる。
【0128】
バリアントを含むポリペプチドの調製
1つは本明細書において開示されるバリアントに対するものであり、もう1つは関心対象のタンパク質またはペプチド(特に治療的活性を有する)に対するものである、2つのコード配列を含むDNA配列を調製することが可能である。したがって得られる発現タンパク質は、両方のタンパク質を含むポリペプチドである。ベクターは、発現されたポリペプチド中の2つのタンパク質の間に位置するリンカーをコードする配列を含むように構築されうる。
【0129】
その結果、本発明はまた、HSAに結合するOBフォールドタンパク質(好ましくはSac7dファミリー)のタンパク質のバリアントを含むポリペプチドを包含し、このポリペプチドは別のタンパク質またはポリペプチドに(好ましくは上記に開示したように結合したアミンを通じて)連結されている。
【0130】
特定の態様において、他のタンパク質またはポリペプチドは、Sac7dファミリーのタンパク質の別のバリアントを含む。
【0131】
特に興味深いのは、以下である:
- HSAに結合するSac7dファミリーのOBフォールドタンパク質のバリアントを含むポリペプチドであって、インターロイキン-17に(N末端またはC末端において)結合し、かつ乾癬または乾癬性関節炎などの自己免疫疾患の処置のためにその受容体との相互作用を中和するSac7dファミリーのOBフォールドタンパク質のバリアントと融合している、ポリペプチド。
- HSAに結合するSac7dファミリーのOBフォールドタンパク質のバリアントを含むポリペプチドであって、プログラム死リガンド1に(N末端またはC末端において)結合し、かつ固形腫瘍(特に乳がん、肺がん、腎臓がん、膵臓がん)などのがんの処置のためにその同族受容体とのその相互作用を中和するSac7dファミリーのOBフォールドタンパク質のバリアントと融合している、ポリペプチド。
- HSAに結合するSac7dファミリーのOBフォールドタンパク質のバリアントを含むポリペプチドであって、ヒートショックプロテイン110に(N末端またはC末端において)結合し、ストレスに対する細胞耐性およびマクロファージの極性化を誘導するその能力を中和し、それによって抗がん薬に対する耐性を緩和し、および/またはそれ自体の抗がん活性を惹起するSac7dファミリーのOBフォールドタンパク質のバリアントと融合している、ポリペプチド。
- HSAに結合するSac7dファミリーのOBフォールドタンパク質のバリアントを含むポリペプチドであって、腫瘍壊死因子αに(N末端またはC末端において)結合するSac7dファミリーのOBフォールドタンパク質のバリアントと融合している、ポリペプチド。そのようなポリペプチドは、TNFαによって媒介される炎症性シグナルの阻害剤として作用し、関節リウマチ、クローン病、およびより一般的には炎症性腸疾患などの疾患における炎症を軽減するのに役立つ。
【0132】
別の態様において、他のタンパク質またはポリペプチドは抗体である。この態様において、OBフォールドドメインのバリアントは、免疫グロブリン単量体の重鎖または軽鎖の少なくとも一方に、好ましくは軽鎖または重鎖のN末端またはC末端に、融合される。別の態様において、バリアントは重鎖または軽鎖の両方に融合されうる。
【0133】
そのような化合物を得るために、以下からなる群より選択されるDNA配列を含む遺伝子コンストラクトを用いることができる:
a. 抗体の重鎖をコードする配列がその3'末端で、OBフォールドタンパク質のバリアントをコードする配列と(潜在的にはリンカーをコードする配列により)融合している、配列
b. 抗体の重鎖をコードする配列がその5'末端で、OBフォールドタンパク質のバリアントをコードする配列と(潜在的にはリンカーをコードする配列により)融合している、配列
c. 抗体の軽鎖をコードする配列がその3'末端で、OBフォールドタンパク質のバリアントをコードする配列と(潜在的にはリンカーをコードする配列により)融合している、配列
d. 抗体の軽鎖をコードする配列がその5'末端で、OBフォールドタンパク質のバリアントをコードする配列と(潜在的にはリンカーをコードする配列により)融合している、配列。
【0134】
この融合は、抗体鎖(重鎖および/または軽鎖)のN末端および/またはC末端の位置で行うことができる。特に、Sac7dファミリー由来のタンパク質などの小さなOBフォールドドメイン(約70アミノ酸)を使用する場合、抗体領域、および改変されたOBフォールドドメインからなるさらなる結合領域を有する、抗体の構造(2つの重鎖に対合された2つの軽鎖、およびそのような共に対合された二量体)を有する分子を得ることが可能であることに留意されたい。
【0135】
特定の態様において、本明細書において開示されるタンパク質の抗体部分は、IgG分子である。
【0136】
別の態様において、本明細書において開示されるタンパク質の抗体部分は、IgA分子である。
【0137】
別の態様において、本明細書において開示されるタンパク質の抗体部分は、IgM分子である。
【0138】
別の態様において、本明細書において開示されるタンパク質の抗体部分は、IgD分子である。
【0139】
別の態様において、本明細書において開示されるタンパク質の抗体部分は、IgE分子である。
【0140】
抗体は、ヒト抗体、げっ歯類抗体(マウス抗体もしくはラット抗体などの)、ネコ抗体、イヌ抗体、ニワトリ抗体、ヤギ抗体、ラクダ類抗体(ラクダ抗体、ラマ抗体、アルパカ抗体もしくはナノボディなどの)、サメ抗体、または任意の他の種由来の抗体でありうる。抗体はキメラ抗体やヒト化抗体でありうる。ウィキペディアにおいて想起されるように、ヒト化抗体は、ヒトで自然に産生される抗体バリアントとの類似性を高めるためにタンパク質配列が改変されている非ヒト種由来の抗体である。キメラ抗体は、異なる種由来の配列を含む。
【0141】
本明細書において開示される分子の一部である抗体が、2つの同一の重鎖(約400~500アミノ酸、一般的には450アミノ酸前後)および2つの同一の軽鎖を含む抗体である場合が好ましい。その結果、抗体は同じFab可変領域を含む。この抗体はそれゆえ、抗体の両方の部分(軽鎖および重鎖の組み合わせ)が抗原の同じエピトープに結合する単一特異性抗体である。
【0142】
しかしながら、抗体は、異なる重鎖および/または軽鎖を提示しうる。特に、いくつかの態様において、抗体は二重特異性抗体である。したがって、「抗体」という用語は、同一の重鎖および軽鎖を有する上記に開示されたような「古典的抗体」、しかし同様に2つ以上の特異性を有する操作された抗体の両方を包含する。
【0143】
特定の態様において、抗体は、1つの抗体由来の1つの重鎖および軽鎖ならびに別の抗体由来の別の重鎖および軽鎖を提示する。
【0144】
抗体は、以下からなる群の中で選択される標的に結合しうる:
細胞表面受容体: インスリン受容体、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1、トランスフェリン受容体、上皮成長因子受容体、上皮成長因子受容体バリアントIII、血管内皮成長因子受容体1、血管内皮成長因子受容体2、Her2、Her3、Her4、PMSA、IGF-1R、GITR、RAGE、CD28。
細胞表面タンパク質: メソテリン、EpCam、CD19、CD20、CD38、CD3、TIM-3、CEA、cMet、ICAM1、ICAM3、MadCam、a4b7、CD7、CD4、CD138;αVβ6、α4β7、α4β1、αEβ7などのインテグリン。
血管新生因子および成長因子: VEGF、アンジオポエチン2、HGF、PDGF、EGF、GM-CSF、HB-EGF、TGF
免疫チェックポイント阻害剤または活性化剤: PD-1、PD-L1、CTLA4、CD28、B7-1、B7-2、ICOS、ICOSL、B7-H3、B7-H4、LAG3、KIR、4-1BB、OX40、CD27、CD40L、TIM3、A2aR
循環タンパク質: TNFa、IL23、IL12、IL33、IL4、IL13、IL5、IL6、IL4、IFNg、IL17、RANKL、Bace1、αシヌクレイン、タウ(Tau)、アミロイド。
【0145】
ゆえに、以下が特に予見される:
- HSAに結合する上記に開示されているバリアントと、乾癬などの自己免疫疾患の処置のためのIL-17またはIL-17Rに結合する抗体(イキセキズマブ(ixekizumab)またはブロダルマブなどの)とを含む、ポリペプチド
- HSAに結合する上記に開示されているバリアントと、腎臓がん、肺がん、乳がん、膵臓がんなどのがんおよび多発性骨髄腫、リンパ腫などのさまざまなタイプの血液がんの処置のためのPD-L1に結合する抗体(アテゾリズマブ、アベルマブ、またはデュルバルマブなどの)とを含む、ポリペプチド。
- HSAに結合する上記に開示されているバリアントと、固形腫瘍を処置するためのEGFRに結合する抗体(セツキシマブ、パニツムマブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ、およびマツズマブなどの)とを含む、ポリペプチド。
【0146】
あるいは、ポリペプチドは、上記に開示されているバリアント、およびエリスロポエチン、インターフェロン、リソソーム障害酵素、またはエタネルセプトなどの生物学的に活性な分子を含んでいてもよい。
【0147】
別の態様において、OBフォールドドメインのバリアント(特に、Sac7dファミリータンパク質のバリアント)は、有機分子にコンジュゲートする。これは、当技術分野において公知の任意の方法によって行われうる。特に、分子をタンパク質に化学的に連結させることができる。分子として、細胞毒性化合物(例えば、広域スペクトル)、血管新生阻害剤、細胞周期進行阻害剤、PBK/m-TOR/AKT経路阻害剤、MAPKシグナル伝達経路阻害剤、キナーゼ阻害剤、タンパク質シャペロン阻害剤、HDAC阻害剤、PARP阻害剤、Wnt/ヘッジホッグシグナル伝達経路阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤およびプロテアソーム阻害剤を含む抗増殖剤(細胞毒性剤および細胞増殖抑制剤)を挙げることができる。抗炎症性分子を用いることもできる。
【0148】
特に、DNA結合性薬物またはアルキル化薬物、例えばアントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ダウノルビシン)およびその類似体、アルキル化剤、例えばカリケアマイシン、ダクチノマイシン、ミトロマイシン、ピロロベンゾジアゼピンなどを挙げることができる。CDK阻害剤、Rhoキナーゼ阻害剤、チェックポイントキナーゼ阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤、PLK阻害剤、およびKSP阻害剤などの細胞周期進行阻害剤を挙げることもできる。サリドマイドならびにその誘導体であるレナリドミドおよびポマリドミドを挙げることもできる。炎症障害を治療するために、バリアントを含むポリペプチドにコンジュゲートする分子として、シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤、5-リポキシゲナーゼ阻害剤、ケルセチンおよび/またはレスベラトロールを用いることもできる。
【0149】
ゆえに、特に以下のものが予見される
- HSAに結合する、上記に開示されているバリアント、ならびに炎症性疾患、特にクローン病の処置のためのヤヌスキナーゼ阻害剤を含む、ポリペプチド
- HSAに結合する、上記に開示されているバリアント、ならびに膵臓がん、卵巣がん、肺がん、腎臓がん、肝臓がん、乳がんなどの固形腫瘍の処置のためのドキソルビシンを含む、ポリペプチド。
【0150】
興味深い分子および好ましい分子も上記に開示されている。
【0151】
バリアントの使用
とりわけ、バリアントは治療方法、特にがん、代謝性疾患(糖尿病などの)、神経疾患、炎症性疾患および自己免疫疾患(関節リウマチ、乾癬、狼瘡もしくは多発性硬化症などの)、または特に脳における酵素欠損症を処置するための治療方法において、そのような疾患の処置のための活性を有する生体分子を使って、用いることができる。
【0152】
本発明はしたがって、分子(処置される疾患に対して治療効果を有するポリペプチドまたは他の分子)に融合している、本明細書において開示されるOBフォールドのバリアント(特にSac7dファミリーのタンパク質のバリアント)の治療量の、それを必要とする対象への投与を含む、がん、代謝性疾患(糖尿病などの)、神経疾患、炎症性疾患および自己免疫疾患(関節リウマチ、乾癬、狼瘡もしくは多発性硬化症などの)、または特に脳における酵素欠損症の処置の方法に関する。
【0153】
本明細書において用いられる「治療量」または「有効量」という用語は、臨床結果などの有益なまたは望ましい結果をもたらすのに十分な量であり、「有効量」は、それが適用される状況に依存する。有効量は、副作用または有害作用を最小限に抑えながら、治療上の改善をもたらす量である。例えば、治療上の改善とは、固形腫瘍の腫瘍サイズの退行、対象の生活の質の改善、併用治療の効力の改善でありうる。
【0154】
当技術分野の任意の方法によりバリアントを投与することができる。
【0155】
特に、バリアントを注射することができる。別の態様において、WO 2014/173899に開示されているようにバリアントを局所的に(患者の皮膚上または眼球上に)塗布することができる。別の態様において、WO 2016/062874に開示されているように、バリアントを経口投与することができる。
【0156】
バリアントまたはバリアントを含有するポリペプチドを、診断方法において用いることもできる。特に、そのようなバリアントまたはポリペプチドは、当技術分野において公知の任意のマーカーに連結され、画像法において用いられうる。
【図面の簡単な説明】
【0157】
図1】Sac7dファミリーのタンパク質のアライメント。
図2】バイオレイヤー干渉法によって得られたヒト血清アルブミン(HSA)に対するB11 (パネルA)およびF06 (パネルB)の結合速度プロファイルおよび結合速度値。B11およびF06を、15.6~1000 nMの濃度範囲にわたってビオチン化HSAを負荷したストレプトアビジンバイオセンサ上で実行した。会合および解離をそれぞれ180秒間実行した。
図3】抗アルブミンナノフィチンとのコンジュゲートの形態(青色, n=3)またはそうでない形態(赤色)のいずれかとしてのマウスでの単回静脈内(i.v.)注射後の血清中の残存フルオレセインの割合(%)。フルオレセイン単独のデータは、(Chahalet al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 26(1985)764-768)から抽出されており、参考としてここに示してある。
図4】タンパク質パートナーと融合している抗アルブミンバリアントの時間に対する濃度測定の関数。
図5】ヒト血清アルブミンの異なるドメイン上のナノフィチンB11 (パネルA)およびF06 (パネルB)のELISAシグナル。
【実施例
【0158】
実施例1. アルブミンに結合するSac7dのバリアントの特徴付け
ヒト血清アルブミン(HSA)に対するナノフィチンB11 (SEQ ID NO: 58)およびF06 (L56Mを有するSEQ ID NO: 65)の親和性を、バイオレイヤー干渉法(octet red96)により調べ、図2に示してある。ビオチン化HSAをストレプトアビジンバイオセンサに固定化し、15.6 nMから1000 nMの濃度範囲にわたってナノフィチンの会合(180秒)および解離(180秒)を調べた。これらの条件において、B11およびF06はそれぞれ0.1および8 nMの親和性であると分かった。同様の親和性はpH 7.4およびpH 6で得られた。
【0159】
(表10)バイオレイヤー干渉法実験により測定されたB11およびF06の親和性および結合速度パラメータ。
【0160】
同様の条件を用いて、マウス(MSA)、ラット(RSA)、イヌ(DSA)、カニクイザル(CSA)、ブタ(PSA)、ウシ(BSA)、およびウサギ(RabSA)血清アルブミンに結合する2種類のナノフィチンの能力も調べた。交差反応性は、ウサギ血清アルブミンを除く、調査したさまざまな種の全てのアルブミンで認められた。
【0161】
これらの結果は点突然変異、すなわちD16E、N37Q、およびM57Lで、個別にまたは同時に、両方のナノフィチンについて繰り返されたが、顕著な変化はなかった。
【0162】
(表11)異なる種のアルブミンに対するB11およびF06の交差反応性パターンを示す表。N.D.は、行われていない(not done)を表す。増加する「3」の記号は結合の強さの増加をいう。記号「-」は検出可能な結合がないことをいう。
【0163】
実施例2. バリアントは低分子の半減期を増加させる
カーゴ低分子の血清中半減期(t1/2)を延長する抗アルブミンナノフィチンの能力を例証するために、本発明者らはフルオレセインをモデルとして用いた。フルオレセインは、蛍光トレーサーとして広く使われる低分子(332 Da)である。単回静脈内注射後のマウス血清中におけるその生物学的利用能(biodisponibility)は、既に研究され報告されている。文献(Chahalet al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 26(1985)764-768)からのデータの分析によると、約8分のt1/2が示唆されている。フルオレセインは、そのイソチオシアネート誘導体(FITC)の下で、抗アルブミンナノフィチンにコンジュゲートされている。抗アルブミンナノフィチン-フルオレセインコンジュゲートのマウスにおける単回ボーラス静脈内注射(20 mg/kg、各時点につきマウス3匹)の後、図3に示されるように、時間間隔(0、1、4、6、および24時間)で採取した血清サンプルの蛍光(励起: 488 nmおよび発光: 520 nm)をモニタリングすることにより、血清中のフルオレセインの存在を追跡することができた。抗アルブミンへのコンジュゲート時のフルオレセインのマウス血清中での結果として得られるt1/2は、174分であると計算された。
【0164】
実施例3. タンパク質パートナーの半減期の増加
カーゴタンパク質分子の血清中半減期(t1/2)を延長する抗アルブミンナノフィチンの能力を例証するために、本発明者らは、TNFαを標的化する別のナノフィチンをモデルとして用いた。ナノフィチンは小さなタンパク質(7 kDa)であり、そのサイズが腎臓の糸球体ろ過カットオフ(50 kDa)未満であり、本質的にリサイクルされないため、全身循環から自然に速やかに排泄される。抗TNFαナノフィチン、および抗TNFαナノフィチンと抗アルブミンナノフィチンとの遺伝子融合からなるキメラ構築体を、単回ボーラス注射としてマウスに注入した。異なる時間間隔(5分、0.5、4、24、および48時間)で採血を実施し、血清中のナノフィチン生成物の存在のモニタリングを、明らかにするために抗ヒスタグ抗体を用いたウエスタンブロットにより実施した。データは、時間に対する濃度測定の関数としてプロットされた(図4)。抗TNFαナノフィチンは約10~15分のt1/2で迅速なクリアランスを示したが、抗アルブミンナノフィチンとの融合は、マウスにおいて16時間超のt1/2で血清中での長時間滞留をもたらした。
【0165】
実施例4. 抗アルブミンナノフィチンによって標的化されるドメイン
アルブミンは、ドメインI、II、およびIIIと称される3つのドメインを有すると記述されている。アルブミンとFcRn受容体との相互作用には、ドメインIおよびIIIが関与する。ドメインI (aa1~197)、ドメインII (aa189~385)、およびドメインIII (aa381~585)ならびにドメインI-II (aa1~385)は、Albumin Bioscienceから入手した。抗アルブミンナノフィチンと異なるドメインとの相互作用を、以下の手順にしたがってバイオレイヤー干渉法によって調べた。ヒスタグ付きナノフィチンB11およびF06を、Ni:NTAバイオセンサ上に1 nmで固定化した。次いで、センサーを、0.002%のtween20を補充したタンパク質不含ブロッキング緩衝液(Thermo Scientific)中で60秒間平衡化させた。異なるアルブミンドメイン(0.002%のtween20を補充したタンパク質不含ブロッキング緩衝液中250 nM)の結合を180秒間モニターした。次いで、180秒における応答を記録し、異なるアルブミンドメインに対するB11およびF06ナノフィチンの結合能力を反映するために用いた。
【0166】
どちらのナノフィチンも、ドメインI-IIとIIとだけ相互作用することが分かり、それらがアルブミンのドメインIIを標的化していることを実証している(図5)。
【0167】
これは、アルブミン結合ドメインG148-GA3との競合実験によってさらに実証された(He et al.; Protein Science; 16(2007)1490-1494)。2つの抗アルブミンナノフィチンの相互作用は、G148-GA3の存在によって阻害される。G148-GA3はHSAのドメインIIに結合することが示されている(Lejon et al.; J. Biol. Chem.; 279(2004)42924-42928)。HSAのドメインIIは、FcRnとのアルブミンの相互作用部位から離れている。HSAのドメインIIを標的化することにより、抗アルブミンナノフィチンは、FcRnとのその結合を損なうことなくアルブミンと結合することができ、ナノフィチンがその血清中半減期を延長するためのそのリサイクル機構の恩恵を受けることができる。これは、抗アルブミンナノフィチンの親和性がpH 7.4でもpH 6でもともに同様のままであり、リサイクル過程中にその標的に結合したままであるのを可能にすることを考慮すればさらに妥当である。
【0168】
実施例5. 抗アルブミンナノフィチンは活性関連ペプチドの薬物動態を改善する
開示されているように、エクセナチドペプチド(グルカゴン様ペプチド-1受容体アゴニスト)とアルブミン結合ナノフィチン(ABNF)との遺伝子融合を実施した。エクセナチド-ABNFの特異的活性を測定したが、融合による影響はなかった。インビボでのマウスの結果は、3日間にわたる持続的な薬理学的活性を伴う説得力のあるデータ(エクセナチド-ABNFの20時間と比較してエクセナチドペプチドのt1/2は8分)を提供した(Michot et al, Peptides. 2022 Feb 9; 170760)。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2024507780000001.app
【国際調査報告】