(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】医療又は外科遠隔操作のためのマスター-スレーブロボットシステム及び関連するロボットシステムのマスター装置の完全性を検証するための方法
(51)【国際特許分類】
A61B 34/35 20160101AFI20240214BHJP
B25J 3/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61B34/35
B25J3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548905
(86)(22)【出願日】2022-02-14
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 IB2022051286
(87)【国際公開番号】W WO2022175800
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】102021000003488
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518132307
【氏名又は名称】メディカル・マイクロインストゥルメンツ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MEDICAL MICROINSTRUMENTS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100230640
【氏名又は名称】高山 望
(72)【発明者】
【氏名】ルッファルディ,エマヌエーレ
(72)【発明者】
【氏名】シミ,マッシミリアーノ
【テーマコード(参考)】
3C707
4C130
【Fターム(参考)】
3C707AS35
3C707JT04
3C707JU12
3C707JU14
4C130AB02
4C130BA02
4C130DA10
(57)【要約】
医療又は外科遠隔操作のためのロボットシステムを制御するために使用される、手持ち式で拘束されないマスター装置の機能的/構造的完全性を検証するための方法が記載され、そのようなマスター装置は、共通の軸に対して相対的に回転又は並進するように拘束される2つの剛性部分を備える本体を備える。本方法は、それぞれがマスター装置の前述の2つの剛性部分のそれぞれの1つに属する少なくとも2つの点の位置ベクトルを測定及び/又は検出するとともに、前記少なくとも2つの位置ベクトルの経時的変化を測定及び/又は検出するステップを含む。次いで、本方法は、前記少なくとも2つの点のそれぞれの方向(3つの数のそれぞれのセットとして表わされる)を測定及び/又は検出するとともに、前記方向の経時的変化を測定及び/又は検出するステップを含む。次いで、マスター装置の状態を規定するのに必要な自由度の数と検出された情報項目の数との間の差から導出する、マスター装置の構成的又は構造的特徴によって課される1つ以上の拘束が規定され、各拘束は、マスター装置の完全性の場合に順守されなければならない数学的関係と関連付けられる。次いで、本方法は、前述の検出及び/又は測定された位置ベクトル及び方向並びにそれぞれの経時的変化に基づいて、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係を計算するステップと、マスター装置の状態を決定するのに必要な情報に関して冗長である自由度に関連する検出された情報を利用して、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係が順守されるか否かの検証に基づき、マスター装置の機能的/構造的完全性又は非完全性の状態を最終的に決定するステップとを含む。上記の方法を実行するために装備された医療又は外科遠隔操作のためのマスター-スレーブロボットシステムも記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療又は外科遠隔操作のためのロボットシステムを制御するために使用される、手持ち式で拘束されないマスター装置(110;1110;1210,1220;1310;1410;1510;1610)の構造的及び/又は機能的完全性を検証するための方法であって、前記マスター装置は、共通の軸(ZOJ;X-X)に対して相対的に回転及び/又は並進するように拘束される2つの剛性部分(B1,B2;1180,1190;1380,1390;1480,1490;1580,1590;1680,1690)を備える本体を備え、
前記方法は、
-それぞれが前記マスター装置の前記2つの剛性部分(B1,B2;1180,1190;1380,1390;1480,1490;1580,1590;1680,1690)のうちの1つのそれぞれに属する少なくとも2つの点の位置ベクトル(P1、P2)を測定及び/又は検出し、前記少なくとも2つの位置ベクトルの経時的変化を測定及び/又は検出するステップと、
-前記少なくとも2つの点のそれぞれの方向を測定及び/又は検出するステップであって、各方向が3つの数のそれぞれのセットとして表わされ、前記方向の経時的変化を測定及び/又は検出するステップと、
-前記マスター装置の状態を規定するのに必要な自由度の数と検出された情報項目の数との間の差から導出する、前記マスター装置の構成的又は構造的特徴によって課される1つ以上の拘束を規定するステップであって、各拘束が、前記マスター装置の完全性の場合に順守されなければならない数学的関係と関連付けられる、ステップと、
-前記検出及び/又は測定された位置ベクトル及び方向、並びにそれぞれの経時的変化に基づいて、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係を計算するステップと、
-前記マスター装置の状態を決定するために必要な情報に関して冗長である自由度に関連する検出された情報を利用して、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係が順守されているか否かの検証に基づき、前記マスター装置の構造的及び/又は機能的完全性又は非完全性の状態を決定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
医療又は外科遠隔操作のための前記ロボットシステムは、
-機械的に接地されず、手術中に外科医によって手で保持されるようになっているとともに、前記外科医の手動コマンドを検出してそれぞれの第1の電気コマンド信号を生成するように構成される前記マスター装置(110;1110;1210,1220;1310;1410;1510;1610)と、
-前記マスター装置によって制御される態様で、患者の解剖学的構造に作用するように構成される少なくとも1つのスレーブ外科用器具(1260,1270)を備える、少なくとも1つのスレーブ装置(1240)又はスレーブロボットアセンブリと、
-前記少なくとも1つのスレーブ外科用器具を作動させるために、前記マスター装置から前記第1の電気コマンド信号を受信し、該第1の電気コマンド信号に基づいて第2の電気コマンド信号を生成し、前記第2の電気コマンド信号を前記スレーブロボットアセンブリに供給するように構成される、コンピュータを備えた制御ユニットと、
を備え、
前記制御ユニットは、前記検出及び/又は測定するステップを実行するように構成される1つ以上のセンサ(S1,S2)に動作可能に接続され、
前記制御ユニットは、前記検出及び/又は測定された位置ベクトル及び関連する経時的変化を表わす第3の電気制御信号を受信及び処理するように構成され、
前記計算及び決定するステップは、前記1つ以上の拘束及びそれぞれの数学的関係が記憶される前記制御ユニットによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定及び/又は検出するステップは、
-外科又は医療遠隔操作のための前記ロボットシステムと関連付けられ、予め設定された点に所定の軸及び原点を有する第1の基準座標系(x、y、z)に関して、前記位置ベクトル及び方向、並びに関連する経時的変化を測定及び/又は検出するステップ、
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
外科又は医療遠隔操作のための前記ロボットシステムは、所定の追跡ボリューム内の前記マスター装置の入力位置及び方向を検出するのに適した少なくとも1つの追跡システムを更に備え、それにより、前記スレーブ外科用器具の作動は、前記マスター装置によって前記外科医により与えられる前記手動コマンド及び/又は前記マスター装置の位置及び方向に依存する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記測定及び/又は検出するステップは、2つ以上の磁気センサによって実行され、前記磁気センサのそれぞれは、前記マスター装置に属する又は前記マスター装置と一体の前記少なくとも2つの点のうちのそれぞれの1つに配置されるとともに、外科又は医療遠隔操作のために前記ロボットシステムの一部に拘束される磁場発生器によって発生された磁場のそれぞれの局所値を検出するように構成され、
前記第1の基準座標系は、前記磁気エミッタに原点を有するとともに、3つの直交軸(x、y、z)を含み、
好ましくは、前記磁場発生器が前記追跡システムに属する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記測定及び/又は検出するステップは、遠隔操作外科手術のための前記ロボットシステムと関連付けられる及び/又は前記ロボットシステムに拘束される少なくとも1つの光学センサ又はカメラによって実行され、
前記第1の基準座標系が前記光学センサ又はカメラの内部基準座標系であり、
好ましくは、前記光学センサ又はカメラが前記追跡システムに属する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項7】
-前記マスター装置の前記少なくとも2つの点と関連付けられる第2の基準座標系(x1,y1,z1)及び第3の基準座標系(x2,y2,z2)をそれぞれ規定するステップ
を更に含み、
前記第2の基準座標系(x1,y1,z1)及び前記第3の基準座標系(x2,y2,z2)のそれぞれは、
-それぞれの点に対応するそれぞれの原点と、
-それぞれの点が関連付けられる前記マスター装置のそれぞれの前記剛性部分と位置合わせされるそれぞれの第1の軸(x1;x2)と、
-前記マスター装置の前記2つの剛性部分の回転軸と平行な又は前記マスター装置の一方の剛性部分の他方の剛性部分に対する並進軸に垂直なそれぞれの第2の軸(z1、z2)と、
-3つの軸の左旋性セットを形成するように前記第1の軸及び前記第2の軸の両方に直交するそれぞれの第3の軸(y1;y2)と、
を備え、
-前記位置ベクトル及び関連する経時的変化を測定及び/又は検出する前記ステップは、前記第1の基準座標系(x、y、z)に対する前記第2の基準座標系(x1,y1,z1)及び前記第3の基準座標系(x2,y2,z2)の原点の位置及び関連する経時的変化を測定及び/又は検出するステップを含み、
-方向及び関連する経時的変化を測定及び/又は検出する前記ステップは、前記第1の基準座標系(x、y、z)に対する前記第2の基準座標系(x1,y1,z1)及び前記第3の基準座標系(x2,y2,z2)の方向及び関連する経時的変化を測定及び/又は検出するステップを含む、請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記マスター装置に属する又は前記マスター装置と一体の前記少なくとも2つの点は、
-前記マスター装置の第1の剛性部分又は剛性バー又は剛性アームのチップ又は自由端と、
-前記マスター装置の第2の剛性部分又は剛性バー又は剛性アームのチップ又は自由端と、
を備え、
前記剛性部分又はバー又はアームは、互いに関節結合される又は共通の軸を中心に回転又は並進するように拘束される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記マスター装置は、共通の軸に対して相対的に回転するように拘束される2つの剛性部分(B1,B2;1380,1390;1480,1490;1580,1590;1680,1690)を備える本体を備え、前記外科医によって与えられる前記コマンドは、前記2つの剛性部分間の開角の変化に対応し、
前記方法は、前記検出されたベクトルに基づいて、基準点の3つの数の位置セット及び3つの数の回転セット並びに前記マスター装置の開角を計算する更なるステップを含み、
前記基準点は、以下の点、すなわち、
-2つのチップ間の中間点、及び/又は
-前記マスター装置の重心、及び/又は
-前記マスター装置の関節、
のうちの1つを備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記マスター装置は、前記マスター装置本体の長手方向延在部と一致する方向で互いに対して並進するように拘束される2つの剛性部分(1180;1190)を備え、前記2つの剛性部分は、前記マスター装置本体の前記長手方向延在部を中心とする回転において互いに一体であり、前記外科医によって与えられる前記コマンドは、一方の剛性部分の他方に対する並進に対応し、
前記方法は、前記検出されたベクトルに基づいて、前記第1の剛性部分上の第1の基準点と関連付けられる第1のセンサと、前記第2の剛性部分上の第2の基準点と関連付けられる第2のセンサとの3つの数の位置セット及び3つの数の回転セットを計算する更なるステップを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
完全性の状態を決定する前記ステップは、
-全ての規定された拘束が順守される場合に、所定の許容限界内で前記完全性の状態を確認するステップと、
-所定の許容限界を考慮した後であっても、規定された拘束のうちの少なくとも1つが順守されない場合、非完全性の状態を同定するステップと、
を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記拘束は、
-前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点に対応する検出された点(P1、P2)が、共平面度許容限界内で、同じ平面上になければならない、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記共平面度許容限界は、各点と他方によって規定される平面との間の距離が0.5mm以下であることを与える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記マスター装置が回転関節を備え、前記拘束は、
-前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点に対応する検出された点(P1、P2)は、前記2つの点を通過する、前記関節軸と平行な法線軸(z1、z2)によって規定される直交平面上に常に同じ所定の態様で投影しなければならず、すなわち、回転関節と2つの点とをそれぞれ結合する前記2つのベクトル(x1、x2)間の前記ベクトル積は、前記法線軸(z1)のうちの1つと関連付けられるベクトルと常に一致又は不一致でなければならず、一致又は不一致条件は、前記マスター装置の構成的特徴に基づいて予め決定される、
ことを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記マスター装置が角柱関節を備え、前記拘束は、
-前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点に対応する検出された点(P1、P2)は、前記マスター装置と同一平面上にあって2つの剛性部分によって規定される方向に垂直な軸(y1、y2)によって規定される直交平面上に常に同じ所定の態様で投影しなければならない、
ことを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記拘束は、
-前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点を通過する、前記関節軸に平行な法線軸(z1、z2)は、平行度合否限界内で平行且つ一致しなければならない、
ことを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記平行度合否限界は、前記軸(z1、z2)によって規定される角度の8°の最大合否限界によって規定される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記拘束は、
-2つの点のそれぞれと、点を関節に結合するそれぞれの軸とから成る対(P1、x1)、(P2、x2)を考慮するとともに、線形メトリック量(L)によって対応する軸に沿って各点を並進させると、2つのそれぞれの並進点(P1’、P2’)が得られ、並進点(P1’、P2’)が並進点間の最大許容距離未満の距離を有する必要がある、
ことを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記最大許容距離は、回転関節を有するマスター装置については1cmであり、角柱関節を有するマスター装置については、前記2点間の距離から0.5cmのマージンを引いたものに等しい、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記拘束は、
-前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点(P1、P2)間の距離は、前記少なくとも2つの点が前記マスター装置の最大開放条件下にある前記距離を超えることができず、適用可能である場合、そのような距離は、前記マスター装置の最小開放で測定された最小距離よりも小さくすることができない、
ことを含み、
前記マスター装置の前記最大開放及び前記マスター装置の最小開放は、前記マスター装置の構成的特徴に応じて、所定のパラメータである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記拘束の全ての量は、そのうちの5つが冗長である12の自由度を与える実行された測定によってリアルタイムで検出又は計算され、前記拘束が順守されているか否かがリアルタイムで検証され、前記拘束のうちの少なくとも1つが順守されない場合、前記異常がリアルタイムで検出される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
全ての前記拘束が完全性検証のために考慮される、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
検出された量に基づいて、以下のパラメータ、すなわち、
-度単位で測定された、軸Z1,Z2間の平面度
-前記センサ間の最大距離(d)
-前記センサの基準座標系の原点(MF#1又はMF#2)と他方のセンサの平面との間の距離
-前記マスター装置アームの2つの線間の距離
を計算するステップを更に含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記検証されるべき拘束は、
-前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点(P1、P2)が同じ平面に属し、
-前記法線軸(Z1、Z2)が平行でなければならず、
-前記少なくとも2つの点(P1、P2)をそれぞれアーム上で既知の長さだけ後方に移動させることによって得られる更なる点(P1’、P2’)は、両方とも、マスターフレーム関節(MFJ)基準座標系の関節及び原点に対応する点(OJ)と一致しなければならず、
-前記マスター装置の開角が最大値より小さくなければならず、
-前記少なくとも2つの点(P1、P2)間の最大距離が最大値より小さくなければならない、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記マスター装置の前記構造的完全性が検証される、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記マスター装置の機能的完全性を検証するステップは、瞬間位置ベクトルの検出に関連するノイズを検出/定量化して、外部磁場による摂動があるかどうかを理解するステップ、及び/又は瞬間合否閾値を規定するステップを更に含むことによって実行される、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
請求項1から25のいずれか一項に記載の構造的完全性を検証するための方法を実行することを含む、マスター装置の異常を管理するための方法であって、
前記拘束を順守しないことは、前記遠隔操作及び前記スレーブ装置に関連する前記外科用器具の動きの即時中断を含む、方法。
【請求項28】
前記ロボットシステムの制御システムに検証の結果に関する情報を与えるステップ、及び/又は
取得した情報を、前記ロボットシステム状態機械、及び/又はユーザインタフェース及び/又は前記スレーブ側のエンドポイントに通信するステップ、
を更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
医療又は外科遠隔操作のためのロボットシステムであって、
-機械的に接地されずに外科手術中に外科医により手で保持されるのに適しているとともに、前記外科医の手動コマンドを検出してそれぞれの第1の電気コマンド信号を生成するように構成されるマスター装置(110;1110;1210,1220;1310;1410;1510;1610)であって、共通の軸(ZOJ;X-X)に対して相対的に回転及び/又は並進するように拘束される2つの剛性部分(B1,B2;1180,1190;1380,1390;1480,1490;1580,1590;1680,1690)を備える本体を備える、マスター装置と、
-前記マスター装置によって制御される態様で、患者の解剖学的構造に作用するように構成される少なくとも1つのスレーブ外科用器具(1260,1270)を備える、少なくとも1つのスレーブ装置(1240)又はスレーブロボットアセンブリと、
-前記少なくとも1つのスレーブ外科用器具を作動させるために、前記マスター装置から前記第1の電気コマンド信号を受信し、前記第1の電気コマンド信号に基づいて第2の電気コマンド信号を生成し、前記第2の電気コマンド信号を前記スレーブロボットアセンブリに供給するように構成される、コンピュータを備える制御ユニットと、
を備え、
前記システムは、以下の動作、すなわち、
-それぞれが前記マスター装置の前記2つの剛性部分(B1,B2;1180,1190;1380,1390;1480,1490;1580,1590;1680,1690)のうちの1つのそれぞれに属する少なくとも2つの点の位置ベクトル(P1、P2)を測定及び/又は検出するとともに、前記少なくとも2つの位置ベクトルの経時的変化を測定及び/又は検出する動作と、
-前記少なくとも2つの点のそれぞれの方向を測定及び/又は検出する動作であって、各方向が3つの数のそれぞれのセットとして表わされ、前記方向の経時的変化を測定及び/又は検出する動作と、
-1つ以上の拘束を規定する又は1つ以上の所定の拘束を記憶する動作であって、前記拘束が、前記マスター装置の状態を規定するのに必要な自由度の数と検出された情報項目の数との間の差から導出する、前記マスター装置の構成的又は構造的特徴によって課され、各拘束が、前記マスター装置の完全性の場合に順守されなければならない数学的関係と関連付けられる、動作と、
-前記検出及び/又は測定された位置ベクトル及び方向、並びにそれぞれの経時的変化に基づいて、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係を計算する動作と、
-前記マスター装置の状態を決定するために必要な情報に関して冗長である自由度に関連する検出された情報を利用して、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係が順守されるか否かの検証に基づき、前記マスター装置の構造的及び/又は機能的完全性又は非完全性の状態を決定する動作と、
を実行するように構成される、ロボットシステム。
【請求項30】
前記制御ユニットは、前記検出及び/又は測定するステップを実行するように構成される1つ以上のセンサ(S1,S2)に動作可能に接続され、
前記制御ユニットは、前記検出及び/又は測定された位置ベクトル及び関連する経時的変化を表わす第3の電気制御信号を受信及び処理するように更に構成され、
前記1つ以上の拘束及び前記それぞれの数学的関係が前記制御ユニットに記憶され、前記制御ユニットは、前記計算及び決定するステップを実行するように更に構成される、請求項29に記載のロボットシステム。
【請求項31】
前記測定及び/又は検出するステップは、外科又は医療遠隔操作のための前記ロボットシステムと関連付けられ、予め設定された点に所定の軸及び原点を有する第1の基準座標系(x、y、z)に関して、前記位置ベクトル及び方向、並びに関連する経時的変化を測定及び/又は検出するステップを含む、請求項29又は30に記載のロボットシステム。
【請求項32】
所定の追跡ボリューム内の前記マスター装置の入力位置及び方向を検出するのに適した少なくとも1つの追跡システムを更に備え、前記スレーブ外科用器具の作動は、前記マスター装置によって前記外科医により与えられる前記手動コマンド及び/又は前記マスター装置の位置及び方向に依存する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記測定及び/又は検出するステップは、2つ以上の磁気センサによって実行され、前記磁気センサのそれぞれは、前記マスター装置に属する又は前記マスター装置と一体の前記少なくとも2つの点のうちのそれぞれの1つに配置されるとともに、前記システムの一部に拘束される磁場発生器によって発生された磁場のそれぞれの局所値を検出するように構成され、前記第1の基準座標系は、前記磁気エミッタに原点があるとともに、3つの直交軸(x、y、z)を含み、好ましくは、前記磁場発生器が前記追跡システムに属する、請求項31又は32に記載のロボットシステム。
【請求項34】
遠隔操作外科手術のための前記ロボットシステムに関連付けられる及び/又は前記ロボットシステムに拘束される少なくとも1つの光学センサ又はカメラを更に備え、前記測定及び/又は検出するステップは、前記少なくとも1つの光学センサ又はカメラによって実行され、前記第1の基準座標系は、前記光学センサ又はカメラの内部基準座標系であり、好ましくは、前記光学センサ又はカメラが前記追跡システムに属する、請求項31又は32に記載のロボットシステム。
【請求項35】
前記マスター装置に属する又は前記マスター装置と一体の前記少なくとも2つの点は、
-前記マスター装置の第1の剛性部分又は剛性バー又は剛性アームのチップ又は自由端と、
-前記マスター装置の第2の剛性部分又は剛性バー又は剛性アームのチップ又は自由端と、
を備え、
前記剛性部分又はバー又はアームは、互いに関節結合される又は共通の軸を中心に回転又は並進するように拘束される、請求項29から34のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項36】
前記マスター装置は、共通の軸に対して相対的に回転するように拘束される2つの剛性部分(B1,B2;1380,1390;1480,1490;1580,1590;1680,1690)を備える本体を備え、前記外科医によって与えられる前記コマンドは、前記2つの剛性部分間の開角の変化に対応し、
前記システムは、前記検出されたベクトルに基づいて、基準点の3つの数の位置セット及び3つの数の回転セット並びに前記マスター装置の開角を計算する更なるステップを含み、
前記基準点は、以下の点、すなわち、
-2つのチップ間の中間点、及び/又は
-前記マスター装置の重心、及び/又は
-前記マスター装置の関節、
のうちの1つを備える、請求項29から35のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項37】
前記マスター装置は、前記マスター装置本体の長手方向延在部と一致する方向で互いに対して並進するように拘束される2つの剛性部分(1180;1190)を備え、前記2つの剛性部分は、前記マスター装置本体の前記長手方向延在部を中心とする回転において互いに一体であり、前記外科医によって与えられる前記コマンドは、一方の剛性部分の他方に対する並進に対応し、
前記システムは、前記検出されたベクトルに基づいて、前記第1の剛性部分上の第1の基準点と関連付けられる第1のセンサと、前記第2の剛性部分上の第2の基準点と関連付けられる第2のセンサとの3つの数の位置セット及び3つの数の回転セットを計算する更なるステップを実行するように構成される、請求項29から35のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項38】
完全性の状態を決定する前記ステップは、
-全ての規定された拘束が順守される場合に、所定の許容限界内で前記完全性の状態を確認するステップと、
-所定の許容限界を考慮した後であっても、規定された拘束のうちの少なくとも1つが順守されない場合、非完全性の状態を同定するステップと、
を含む、請求項29から37のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項39】
前記拘束は、前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点に対応する検出された点(P1、P2)が、同一平面上で、共平面度許容限界内に存在しなければならないことを含み、
及び/又は、前記マスター装置が回転関節を備え、前記拘束は、前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点に対応する検出された点(P1、P2)が、前記2つの点を通過する、前記関節軸と平行な法線軸(z1、z2)によって規定される前記直交平面上に常に同じ所定の態様で投影しなければならないこと、すなわち、前記回転関節と前記2つの点とをそれぞれ結合する前記2つのベクトル(x1、x2)間のベクトル積が、前記法線軸(z1)のうちの1つと関連付けられたベクトルと常に一致又は不一致でなければならないことを含み、一致又は不一致条件が、前記マスター装置の構成的特徴に基づいて予め決定され、
及び/又は、前記マスター装置が角柱関節を備え、前記拘束は、前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点に対応する検出された点(P1、P2)が、前記マスター装置と同一平面上にあって前記2つの剛性部分によって規定される方向に垂直な、前記軸(y1、y2)によって規定される直交平面上に常に同じ所定の態様で投影しなければならないことを含み、
及び/又は、前記拘束は、前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点を通過する、関節軸と平行な法線軸(z1、z2)が、平行度合否限界内で平行且つ一致しなければならないことを含み、
及び/又は、前記拘束は、前記2つの点のそれぞれと前記点を前記関節に結合するそれぞれの軸とから成る対(P1、x1)、(P2、x2)を考慮するとともに、線形メトリック量(L)によって対応する軸に沿って各点を並進させると、2つのそれぞれの並進点(P1’、P2’)が得られ、前記並進点が、並進点間の最大許容距離未満の距離だけ離れていなければならないことを含み、
及び/又は、前記拘束は、前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点(P1、P2)間の距離が、前記少なくとも2つの点が前記マスター装置の最大開放条件下にある距離を超えることができず、適用可能な場合には、そのような距離が、前記マスター装置の最小開放で測定された最小距離未満になることができず、前記マスター装置の前記最大開放及び前記マスター装置の最小開放が、前記マスター装置の構造的特性に応じて、所定のパラメータであることを含み、
及び/又は、前記拘束の全ての量は、そのうちの5つが冗長である12の自由度を与える実行された測定によってリアルタイムで検出又は計算され、前記拘束が順守されているか否かがリアルタイムで検証され、前記拘束のうちの少なくとも1つが順守されない場合、異常がリアルタイムで検出される、請求項29から38のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項40】
検出された量に基づいて、以下のパラメータ、すなわち、
-度単位で測定された、軸Z1,Z2間の平面度
-前記センサ間の最大距離(d)
-前記センサの基準座標系の原点(MF#1又はMF#2)と他方のセンサの平面との間の距離
-前記マスター装置アームの2つの線間の距離
を計算するステップを実行するように更に構成され、
及び/又は、検証されるべき拘束は、
-前記位置ベクトルが測定又は検出される前記少なくとも2つの点(P1、P2)が同じ平面に属し、
-前記法線軸(Z1、Z2)が平行でなければならず、
-前記少なくとも2つの点(P1、P2)をそれぞれアーム上で既知の長さだけ後方に移動させることによって得られる更なる点(P1’、P2’)は、両方とも、マスターフレーム関節(MFJ)基準座標系の関節及び原点に対応する点(OJ)と一致しなければならず、
-前記マスター装置の開角が最大値より小さくなければならず、
-前記少なくとも2つの点(P1、P2)間の最大距離が最大値より小さくなければならない、請求項29から39のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項41】
前記拘束のうちの1つ以上に基づいて前記マスター装置の前記構造的完全性を検証するように構成される、請求項29から40のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項42】
前記マスター装置の機能的完全性を検証するステップは、瞬間位置ベクトルの検出に関連するノイズを検出/定量化して、外部磁場による摂動があるかどうかを理解するステップ、及び/又は瞬間合否閾値を規定するステップを更に含むことによって実行される、請求項41に記載のロボットシステム。
【請求項43】
前記追跡システムによって生成される電磁追跡磁場の外乱及び/又は歪みを検出するように更に構成される、請求項32及び請求項41又は42のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項44】
請求項1から26のいずれか一項に記載のマスター装置の構造的完全性を検証するための方法を実行するように構成される、請求項29から43のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項45】
請求項27又は28に記載の異常を管理するための方法を実行することを含む、マスター装置の異常を管理するように更に構成される、請求項29から43のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療又は外科遠隔操作のためのマスター-スレーブロボットシステムのマスター装置の構造的及び/又は機能的完全性を検証するための方法、並びに前述の方法を実行するように装備された医療又は外科遠隔操作のための対応するマスター-スレーブロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット遠隔操作外科手術との関連で、医療又は外科遠隔操作のためのマスタースレーブロボットシステムに関して、マスター装置が良好に機能しているか又は構造的に無傷であるかどうかを評価し、スレーブ装置を制御するために使用される位置、方向、及び開閉測定が一貫しているかどうかを検証することが非常に重要である。
【0003】
この必要性は、磁気的に、光学的に、又は他の追跡方法で検出される拘束されないマスター装置との関連で特に感じられるが、外乱又は不良検出は確実に排除することはできず、この必要性は、機械的に拘束されたインタフェースを有するマスター装置との関連でも出現し得る。ロボットシステムコンソールに対して機械的に拘束されないマスター装置、すなわち、拘束されないマスター装置、又は「接地されない」又は「飛行する」マスター装置の幾つかの例は、例えば、同じ出願人の国際公開第2019-020407号、国際公開第2019-020408号、国際公開第2019-020409号の文献、また例えば米国特許第8521331号明細書の文献に示される。
【0004】
特に、光学及び/又は磁気追跡システムによって検出された拘束されないマスター装置の場合、マスター位置及び/又は方向を読み取る際の異常、並びに外乱がグローバル基準トリプルと局所基準トリプルとの間の関係を損なう可能性を同定する必要性が感じられる。
【0005】
更に、全てのタイプのマスター装置に関して、マスター装置関節の構造的完全性を監視する必要性が感じられる。
【0006】
医療又は外科遠隔操作のためのマスター-スレーブロボットシステムは、特に拘束されないマスター装置の任意の構造的又は機能的異常が、患者に作用することを意図したスレーブ装置及びそれに関連する外科用器具の動作における結果として生じる異常を、起こり得るリスクを伴って決定できるという事実から導出する非常に厳しい安全要件を考慮して、前述のニーズに対して十分に満足のいく解決策を提供しない。
【0007】
したがって、これに関連して、そのような用途によって要求される厳しい安全要件を満たすために、効率的で信頼性の高い、医療又は外科遠隔操作のためのロボットの制御システムによって自動的に行なわれるマスター装置の機能的完全性を検証するための手順を適用する必要性が強く感じられる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、医療又は外科遠隔操作のためのマスター-スレーブロボットシステムのマスター装置の構造的及び/又は機能的完全性を検証するための方法であって、先行技術に関連して前述した欠点を少なくとも部分的に克服することを可能にし、考慮される技術分野において特に感じられる前述の必要性に応答する方法を提供することである。そのような目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0009】
そのような方法の更なる実施形態が請求項2~26によって規定される。
【0010】
本発明の別の目的は、マスター装置の完全性を検証するための前述の方法を実行することを含む、マスター装置の異常を管理するための方法を提供することである。そのような方法は、請求項27、28によって規定される。
【0011】
また、本発明の目的は、前述の制御方法を実行するべく装備される医療又は外科遠隔操作のためのロボットシステムを提供することでもある。そのような目的は、請求項29に記載のシステムによって達成される。
【0012】
そのようなシステムの更なる実施形態が請求項30~45によって規定される。
【0013】
本発明に係るシステム及び方法の更なる特徴及び利点は、添付図面に関連して例示的で非限定的な例として与えられる好ましい実施形態の以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の方法の幾つかの実施形態によって提供される、マスター装置の幾つかの実施形態の幾つかの構造的完全性チェックに使用される主要な幾何学的及び物理的パラメータを示す。
【
図2】本発明の方法の幾つかの実施形態によって提供される、マスター装置の幾つかの実施形態の幾つかの構造的完全性チェックに使用される主要な幾何学的及び物理的パラメータを示す。
【
図3】本発明の方法の幾つかの実施形態によって提供される、マスター装置の幾つかの実施形態の幾つかの構造的完全性チェックに使用される主要な幾何学的及び物理的パラメータを示す。
【
図4】本発明の方法の幾つかの実施形態によって提供される、マスター装置の幾つかの実施形態の幾つかの構造的完全性チェックに使用される主要な幾何学的及び物理的パラメータを示す。
【
図5】本発明の方法の幾つかの実施形態によって提供される、マスター装置の幾つかの実施形態の幾つかの構造的完全性チェックに使用される主要な幾何学的及び物理的パラメータを示す。
【
図6】本発明の方法の幾つかの実施形態によって提供される、マスター装置の幾つかの実施形態の幾つかの構造的完全性チェックに使用される主要な幾何学的及び物理的パラメータを示す。
【
図7】本発明の方法の幾つかの実施形態によって提供される、マスター装置の幾つかの実施形態の幾つかの構造的完全性チェックに使用される主要な幾何学的及び物理的パラメータを示す。
【
図8】本発明の方法の幾つかの実施形態によって提供される、マスター装置の幾つかの実施形態の幾つかの構造的完全性チェックに使用される主要な幾何学的及び物理的パラメータを示す。
【
図9】本発明の方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【
図10】本方法の一実施形態で採用される基準座標系のマップを概略的に示す。
【
図11】本発明の方法及びシステムの一実施形態が参照するマスター装置の一例を示す。
【
図12】一実施形態に係る、外科遠隔操作のためのロボットシステムを概略的に示す。
【
図13】本方法の一実施形態に係るマスター装置の幾つかの完全性チェックを概略的に示す。
【
図14】本方法の一実施形態に係るマスター装置の幾つかの完全性チェックを概略的に示す。
【
図15】
図11の実施形態に係るマスター装置の完全性検証の例を概略的に示す。
【
図16】本方法の一実施形態に係るマスター装置の幾つかの完全性チェックを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1~
図16を参照すると、医療又は外科遠隔操作のためのロボットシステムを制御するために使用される手持ち式で拘束されないマスター装置の構造的及び/又は機能的完全性を検証するための方法が記載されており、そのようなマスター装置は、共通の軸に対して相対的に回転及び/又は並進するように拘束された2つの剛性部分を含む本体を備える。例えば、そのような2つの剛性部分は、関節軸の周りを回転するように回転関節内で拘束されてもよく、又は、そのような2つの剛性部分は、関節軸に沿って並進するように角柱関節内で拘束されてもよく、又は回転-並進関係にあってもよい。
【0016】
本方法は、それぞれがマスター装置の前述の2つの剛性部分のそれぞれの1つに属する少なくとも2つの点(以下では、基準座標系又は座標系を前提として、そのような2つの点及びそれらを一意的に表わす位置ベクトルをP1及びP2と呼ぶ)の位置ベクトルを測定及び/又は検出するステップと、前記少なくとも2つの位置ベクトルの経時的変化を測定及び/又は検出するステップとを含む。
【0017】
本方法は、前記少なくとも2つの点のそれぞれの方向を測定及び/又は検出するステップであって、各方向が3つの数のそれぞれのセットとして表される、ステップと、前記方向の経時的変化を測定及び/又は検出するステップとを更に含む。
【0018】
次いで、本方法は、マスター装置の構成的又は構造的特徴によって課される1つ以上の拘束を規定するステップと、マスター装置の状態を規定するのに必要な自由度の数と検出された情報項目の数との間の差から導出するステップとを含み、各拘束は、マスター装置の完全性の場合に順守されなければならない数学的関係に関連付けられる。
【0019】
次いで、本方法は、前述の検出及び/又は測定された位置ベクトル及び方向並びにそれぞれの経時的変化に基づいて、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係を計算するステップと、マスター装置の状態を決定するのに必要な情報に関して冗長である自由度に関連する検出された情報を利用して、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係が守られているかどうかの検証に基づき、マスター装置の構造的及び/又は機能的完全性又は非完全性の状態を最終的に決定するステップとを含む。
【0020】
一実施形態によれば、本方法は、マスター装置の構造的完全性を検証するステップを含む。
【0021】
そのような実施形態の実装オプションによれば、マスター装置の機能的完全性に関する、すなわち動作の正確さ及び妥当性に関する情報又は結論は、構造的完全性検証から導出される。
【0022】
一実施形態によれば、本方法は、前述のマスター装置と、少なくとも1つのスレーブ装置と、制御ユニットとを備える医療又は外科遠隔操作のためのロボットシステムに適用される。
【0023】
マスター装置は、機械的に接地されず、手術中に外科医によって手で保持されるようになっているとともに、外科医の手動コマンドを検出し、それぞれの第1の電気コマンド信号を生成するように構成される。
【0024】
少なくとも1つのスレーブ装置、又はスレーブロボットアセンブリは、マスター装置によって制御される方法で患者の解剖学的構造に作用するように構成された少なくとも1つのスレーブ外科用器具を備える。
【0025】
コンピュータを備えた制御ユニットは、マスター装置から前述の第1の電気コマンド信号を受信し、第1の電気コマンド信号に基づいて第2の電気コマンド信号を生成し、第2の電気コマンド信号をスレーブロボットアセンブリに供給して、少なくとも1つのスレーブ外科用器具を作動させるように構成される。
【0026】
制御ユニットは、前述の検出及び/又は測定するステップを実行するように構成された1つ以上のセンサS1、S2(例えば、前述の点P1及びP2にそれぞれ位置する)に動作可能に接続される。
【0027】
更に、制御ユニットは、前述の検出及び/又は測定された位置ベクトル及び関連する経時的変化を表わす第3の電気制御信号を受信及び処理するように構成される。
【0028】
前述の計算及び決定ステップは、制御ユニットによって実行され、前記1つ以上の拘束及びそれぞれの数学的関係が記憶される。
【0029】
方法の一実施形態によれば、前述の測定及び/又は検出するステップは、遠隔操作のためのロボットシステムに関連付けられ、予め設定された点に所定の軸及び原点を有する、以下「一般的マスター基準」MFOとも呼ばれる第1の基準座標系(x、y、z)に関して、前述の位置ベクトル及び前述の方向、並びに関連する経時的変化を測定及び/又は検出することを含む。
【0030】
方法が操作コンソールを含む遠隔操作用のロボットシステムで実行される実装オプションによれば、前述の第1の基準座標系(又は座標系)は、ロボットシステムコンソールと一体である。
【0031】
一実施形態では、前述の操作コンソールは、前記第1の座標系が一体である少なくとも1つの手術用椅子を備える。
【0032】
方法の一実施形態によれば、前述の測定及び/又は検出するステップは、2つ以上の磁気センサによって実行される。磁気センサのそれぞれは、マスター装置に属するか又はマスター装置と一体である前述の少なくとも2つの点のそれぞれ1つに配置されるとともに、外科又は医療遠隔操作のためにロボットシステムの一部に拘束された磁場発生器によって発生された磁場のそれぞれの局所値を検出するように構成される。
【0033】
そのような場合、前述の第1の基準座標系又は一般的基準系MFOは、磁気エミッタにその原点を有し、3つの直交軸x、y、zを含む。
【0034】
そのような実施形態の実装オプションによれば、外科又は医療遠隔操作のための前記ロボットシステムは、所定の追跡ボリューム内のマスター装置の入力位置及び方向を検出するのに適した少なくとも1つの追跡システムを更に備え、それにより、スレーブ外科用器具の作動は、マスター装置によって外科医によって与えられる手動コマンド及び/又はマスター装置の位置及び方向に依存する。そのような場合、磁場発生器は前述の追跡システムに属する。
【0035】
方法の別の実施形態によれば、前述の測定及び/又は検出するステップは、遠隔操作のためのロボットシステムに関連付けられた及び/又はロボットシステムに拘束された少なくとも1つの光学センサ又はカメラによって実行される。そのような場合、前記第1の基準座標系MFOは、光学センサ又はカメラの内部基準座標系又は座標系である。
【0036】
そのような実施形態の可能な実装オプションによれば、前述の少なくとも1つの光学センサ又はカメラは、外科用椅子に拘束され、及び/又は一体化され、及び/又は外科医と一体になるように外科医によって着用可能な支持体に取り付けられる。
【0037】
一実施形態によれば、本方法は、マスター装置の前記少なくとも2つの点にそれぞれ関連付けられた第2の基準座標系(x1,y1,z1)又はMF#1及び第3の基準座標系(x2,y2,z2)又はMF#2を規定するステップを更に含む。
【0038】
前記第2の基準座標系(x1,y1,z1)及び第3の基準座標系(x2,y2,z2)のそれぞれは、それぞれの点に対応するそれぞれの原点、それぞれの点が関連付けられたマスター装置のそれぞれの剛性部分と位置合わせされたそれぞれの第1の軸(x1;x2)、マスター装置の2つの剛性部分の回転軸と平行な又は他方の剛性部分に対するマスター装置の剛性部分の並進軸に垂直なそれぞれの第2の軸(z1,z2)、3つの軸の左旋性セットを形成するように第1の軸及び第2の軸の両方に直交するそれぞれの第3の軸(y1;y2)に対応する。
【0039】
そのような場合、位置ベクトル及び関連する経時的変化を測定及び/又は検出する前述のステップは、第1の基準座標系(x、y、z)に対する第2の基準座標系(x1,y1,z1)及び第3の基準座標系(x2,y2,z2)の原点の位置及び関連する経時的変化を測定及び/又は検出するステップ、及び第1の基準座標系(x、y、z)に対する第2の基準座標系(x1,y1,z1)及び第3の基準座標系(x2,y2,z2)の方向及び/又は関連する経時的変化を測定及び/又は検出する前述のステップを含む。
【0040】
本方法の一実施形態によれば、マスター装置に属する又はマスター装置と一体の前記少なくとも2つの点は、マスター装置の第1の剛性部分又は剛性バー又は剛性アームのチップ又は自由端(又はチップ又は自由端の近くの部分)、及びマスター装置の第2の剛性部分又は剛性バー又は剛性アームのチップ又は自由端(又はチップ又は自由端の近くの部分)を含む。
【0041】
前述の剛性部分又はバー又はアームは、互いに関節結合されるか、或いは共通の軸を中心に回転及び/又は並進するように拘束される。
【0042】
マスター装置が、共通の軸に対して相対的に回転するように拘束された2つの剛性部分を備える本体を備え、外科医によって与えられたコマンドが、前記2つの剛性部分間の開角の変化に対応する、方法の一実施形態によれば、本方法は、前述の検出されたベクトルに基づいて、基準点の3つの数の位置セット及び3つの数の回転セット並びにマスター装置の開角を計算する更なるステップを含む。
【0043】
幾つかの可能な実施オプションによれば、前述の基準点は、以下の点のうちの1つを含む。
-2つのチップの中間点;及び/又は
-マスター装置の重心;及び/又は
-マスター装置の関節。
【0044】
マスター装置が、マスター装置本体の長手方向延在部と一致する方向で互いに対して並進するように拘束された2つの剛性部分(又は並進/角柱関節)を備える「ペン」本体を備え、前記2つの剛性部分が、マスター装置本体の長手方向延在部を中心とした回転において互いに一体であり、外科医によって与えられるコマンドが、剛性部分の他方に対する並進に対応する、方法の別の実施形態によれば、本方法は、前記検出されたベクトルに基づいて、第1の剛性部分上の第1の基準点に関連付けられた第1のセンサと、第2の剛性部分上の第2の基準点に関連付けられた第2のセンサとの3つの数の位置セット及び3つの数の回転セットを計算する更なるステップを含む。そのような実施形態は、
図11及び
図15に概略的に示されている。
【0045】
実装オプションによれば、この場合、センサは同一線上に配置される。したがって、この場合、幾何学的完全性拘束は、センサが同一直線上にあり、ゼロ位置に対して相対的に回転していないことを検証する。
【0046】
実装オプションによれば、センサを受け入れる「ペン」マスター装置本体の座部は、センサを反復可能且つ予め決定可能な方法で位置決めするために適切に方向付けられた当接面を有する。
【0047】
本方法の一実施形態によれば、2つの剛性部分又はアームは、共通の軸を中心に回転並進関係にあり、例えば、カムを形成する。
【0048】
弾性要素は、マスター装置の2つの剛性部分の間に設けられてもよい。
【0049】
本方法の一実施形態によれば、完全性の状態を決定するステップは、所定の許容限界内で、全ての規定された拘束が順守される場合に完全性の状態を確認するステップと、所定の許容限界を考慮した後であっても、規定された拘束のうちの少なくとも1つが順守されない場合、非完全性の状態を同定するステップとを含む。
【0050】
本方法の異なる実施形態による、完全性の状態を認識するために満たされなければならない拘束の更なる詳細を、例として以下に提供する。
【0051】
本方法の一実施形態によれば、前述の拘束は、以下の拘束、すなわち、前述の少なくとも2つの点(その位置ベクトルが測定又は検出される)に対応する検出点が、把持軸の可動性にかかわらず、共平面度許容限界内で、同じ平面上になければならないことを含む。
【0052】
一実装オプションによれば、前記共平面度許容限界は、各点と他方によって規定される平面との間の距離が0.5mm以下であることを提供する。
【0053】
マスター装置が回転関節を備える方法の別の実施形態によれば、前記拘束は、以下の拘束、すなわち、
-前述した少なくとも2つの点に対応する検出された点(P1、P2)は、2つの点(P1、P2)を通過する、関節軸と平行な法線軸(z1、z2)によって規定される直交平面上に常に同じ所定の態様で投影しなければならず、すなわち、回転関節と2つの点とをそれぞれ結合する2つのベクトル(x1、x2)間のベクトル積は、前記法線軸(z1)のうちの1つと関連付けられるベクトルと常に一致又は不一致でなければならず、一致又は不一致条件は、マスター装置の構成的特徴に基づいて予め決定される、
ことを含む。
【0054】
マスター装置が角柱関節を備える方法の別の実施形態によれば、前記拘束は、以下の拘束、すなわち、
-前述の少なくとも2つの点に対応する測定点(P1、P2)は、マスター装置と同一平面上にあり、2つの剛性部分によって規定される方向に垂直な、軸(y1、y2)によって規定される直交平面上に常に同じ所定の態様で投影しなければならない、
ことを含む。
【0055】
これは、点P2が、点p0を通過し、法線軸として軸y2を有する平面の正の半空間内になければならず、P1及びy1についてはその逆でなければならないことを意味する。
【0056】
本方法の別の実施形態によれば、前記拘束は、以下の拘束、すなわち、前記少なくとも2つの点(P1、P2)を通過する、関節軸と平行な法線軸(z1、z2)は、平行度合否限界内で平行且つ一致しなければならないことを含む。
【0057】
一実装オプションによれば、前記平行度合否限界は、前記軸(z1、z2)によって規定される角度の8°の最大合否限界によって規定される。
【0058】
本方法の別の実施形態によれば、前述の拘束は、以下の拘束、すなわち、2つの点のそれぞれと点を関節に結合するそれぞれの軸とから成る対(P1、x1)、(P2、x2)を考慮し、線形メトリック量(L)によって対応する軸に沿って各点を並進すると、2つのそれぞれの並進点(P1’、P2’)が得られ、並進点は、並進点間の最大許容距離未満の距離だけ離れなければならないことを含む。
【0059】
実装オプションによれば、前述の許容される最大距離は、回転関節を有するマスター装置については1cmであり、角柱関節を有するマスター装置については、0.5cm未満のマージンで2点間の距離(P1、P2)に等しい。
【0060】
前述の実施形態を参照すると、既知の長さであり、点OJでヒンジ結合されたアームの構成は、アームの既知の長さ(軸x1)に等しい長さについて、第1のアームを表す線に沿って前述の第1の点P1を移動させる場合、関節OJに対応する点に到達しなければならないことを必要とすることに留意すべきであり、同様に、アームの既知の長さに等しい長さに対して、第2のアームを表す線(軸x2)に沿って前述の第2の点p2を移動させる場合、同じ関節OJに対応する点に到達しなければならない。
【0061】
本方法の別の実施形態によれば、前記拘束は、以下の拘束、すなわち、少なくとも2つの点(その位置ベクトルが検出又は測定される)間の距離dは、マスター装置の最大開放条件下で前述の少なくとも2つの点がある距離を超えることはできず、適用可能な場合、そのような距離は、マスター装置の最小開放で測定された最小距離より小さくすることはできないことを含む。
【0062】
前述のマスター装置の最大開放及びマスター装置の最小開放は、マスター装置の構成的特徴に応じて、所定のパラメータであることに留意すべきである。
【0063】
本方法の一実施形態によれば、5つが冗長である12の自由度を与える実行された測定によって、前述の拘束に関連する全ての量がリアルタイムで検出(例えば、2つのチップの位置)又は計算(例えば、平面、線、距離)される。
【0064】
前記拘束が順守されているか否かの検証は、リアルタイムで実行される。
【0065】
少なくとも1つの拘束が順守されない場合、異常はリアルタイムで検出される。
【0066】
本方法の一実施形態によれば、前述の拘束の全てが検証のために考慮される。
【0067】
本方法の一実施形態によれば、マスター装置の構造的完全性は、前述の拘束のうちの1つ以上の検証に基づいて検証される。
【0068】
実施オプションによれば、本方法は、前述の拘束のうちの1つ以上の検証に基づいて、追跡フィールド(すなわち、例えば、前述の追跡システムによって生成される電磁場)の外乱及び/又は歪みを検出するステップを更に含む。
【0069】
そのような場合、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係が順守されるか否かの検証に基づいてマスター装置の完全性又は非完全性の状態を決定するステップのおかげで、センサ間の異常な数学的関係の検出は、マスター装置の実際の構造的破壊ではなく、追跡フィールドを歪める外乱に起因し得るため、追跡フィールドを歪める外乱の存在を同定することが可能である。言い換えれば、この場合、センサ間の数学的拘束は、追跡フィールドの望ましくない外乱に起因する非完全性の機能的異常のために破られる。
【0070】
本方法の一実施形態によれば、マスター装置の機能的完全性を検証するステップは、瞬間合否閾値を規定するために瞬間位置ベクトルの検出に関連するノイズを検出/定量化するステップを更に提供することによって実行される。
【0071】
例えば、瞬間位置ベクトルの検出に関連するノイズを磁気追跡システムで検出/定量化することによって、外部磁場からの可能な摂動に関する情報が提供される。
【0072】
また、本発明には、前述の実施形態のいずれかに従って、構造的完全性を検証するための方法を実行することを含む、マスター装置の異常を管理するための方法が含まれる。
【0073】
そのような方法では、拘束を順守しないことは、遠隔操作及びスレーブ装置に関連する外科用器具の動きの即時中断を含む。
【0074】
実装オプションによれば、前述の方法は、検証の結果に関する情報をロボットシステム制御システムに提供するステップ、及び/又は取得した情報をロボットシステム状態機械、及び/又はユーザインタフェース及び/又はスレーブ側エンドポイントに供給するステップを更に含む。
【0075】
ここで、マスター装置と、少なくとも1つのスレーブ装置と、制御ユニットとを備える医療又は外科遠隔操作のためのロボットシステムについて説明する。
【0076】
マスター装置は、拘束されておらず、すなわち機械的に接地されておらず、手術中に外科医によって手で保持されるようになっており、外科医の手動コマンドを検出し、それぞれの第1の電気コマンド信号を生成するように構成される。マスター装置は、共通の軸(ZOJ;X-X)に対して相対的に回転及び/又は並進するように拘束された2つの剛性部分(B1,B2;1180,1190;1380,1390;1480,1490;1580,1590;1680,1690)を備える本体を備える。
【0077】
少なくとも1つのスレーブ装置、又はスレーブロボットアセンブリは、マスター装置によって制御される方法で患者の解剖学的構造に作用するように構成された少なくとも1つのスレーブ外科用器具を備える。
【0078】
コンピュータを備えた制御ユニットは、マスター装置から前述の第1の電気コマンド信号を受信し、第1の電気コマンド信号に基づいて第2の電気コマンド信号を生成し、第2の電気コマンド信号をスレーブロボットアセンブリに供給して、少なくとも1つのスレーブ外科用器具を作動させるように構成される。
【0079】
システムは、以下の動作、すなわち、
-それぞれがマスター装置の前述の2つの剛性部分(B1,B2;1180,1190;1380,1390;1480,1490;1580,1590;1680,1690)のそれぞれの1つに属する少なくとも2つの点の位置ベクトル(P1、P2)を測定及び/又は検出するとともに、前記少なくとも2つの位置ベクトルの経時的変化を測定及び/又は検出する動作と、
-前記の少なくとも2つの点のそれぞれの方向を測定及び/又は検出する動作であって、各方向が3つの数のそれぞれのセットとして表わされ、そのような方向の経時的変化を測定及び/又は検出する動作と、
-1つ以上の拘束を規定する又は1つ以上の所定の拘束を記憶する動作であって、そのような拘束が、マスター装置の状態を規定するのに必要な自由度の数と検出された情報項目の数との間の差から導出する、マスター装置の構成的又は構造的特徴によって課され、各拘束が、マスター装置の完全性の場合に順守されなければならない数学的関係と関連付けられる、動作と、
-検出及び/又は測定された位置ベクトル及び方向に基づいて、並びにそれぞれの経時的変化に基づいて、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係を計算する動作と、
-マスター装置の状態を決定するために必要とされる情報に関して冗長である自由度に関連する検出された情報を利用して、規定された拘束のそれぞれに関連する数学的関係が守られているか否かの検証に基づき、マスター装置の構造的及び/又は機能的完全性又は非完全性の状態を決定する動作と、
を実行するように構成される。
【0080】
システムの一実施形態によれば、前述の制御ユニットは、前述の検出及び/又は測定ステップを実行するように構成された1つ以上のセンサS1、S2に動作可能に接続される。
【0081】
一実装オプションによれば、制御ユニットは、前述の検出及び/又は測定された位置ベクトル及び関連する経時的変化を表す第3の電気制御信号を受信及び処理するように更に構成される。
【0082】
実装オプションによれば、前述の1つ以上の拘束及びそれぞれの数学的関係は制御ユニットに記憶され、制御ユニットは、前述の計算及び決定ステップを実行するように更に構成される。
【0083】
異なる実施形態によれば、システムは、本明細書に開示された実施形態のいずれかによるマスター装置の構造的完全性を検証するための方法を実行するように構成される。
【0084】
システムの一実施形態によれば、マスター装置本体は使い捨て可能であり、したがって典型的にはプラスチック製である。関節を形成する部品は、使い捨てプラスチックで作ることができる。
【0085】
実装オプションによれば、マスター装置本体は、それぞれのセンサを受け入れるための座部を規定し、そのような座部は、センサの相互の方向を検出する目的で、マスター装置本体に対するセンサの位置決めが予め決定可能かつ再現可能であるように適切に方向されたセンサ当接面を備える。
【0086】
幾つかの可能な実施オプション(上記で既に開示された方法の実施オプションに対応する)によれば、マスター装置本体の関節が回転関節(例えば、ヒンジ)である場合、幾何学的拘束は回転軸に基づくが、関節が平面内での並進を可能にするようなタイプのものである場合、幾何学的拘束は平面への所属に基づく。
【0087】
一実施形態によれば、医療又は外科遠隔操作のためのロボットシステムは、前述の実施形態のいずれかに従って、マスター装置の異常を管理するための方法を実行するように構成される(次いで、構造的完全性を検証するための方法を実行することを含む)。
【0088】
図1~
図16を参照して、先により一般的な用語で規定された方法の幾つかの実施形態を、非限定的な例として以下で更に詳述する。
【0089】
前述したように、本方法は、位置及び方向の冗長測定を特徴とする、ロボット外科遠隔操作システム用の広範なクラスのマスター装置インタフェースに関する。
【0090】
特に、例えば、ヒンジ又はヒンジ継手で閉じることができる2つの部分又はチップを有するマスター装置が考えられる。各部分は、直接測定又は差し引かれる位置測定値に関連付けられる。
【0091】
スレーブ装置、特にそれに関連する外科用器具(又は「エンドエフェクタ」)を制御するために、マスター基準座標系(又はマスター基準座標系又は「マスターフレーム」、MFM)を規定し、マスター測定座標系(又は「一般的マスターフレーム」、又は「マスターフレーム原点」、又はx、y、z、又はMFO)に対して表わすことができる。
【0092】
マスター装置の1つ以上の基準点の位置は、任意の時点において、前述のマスター基準座標系(MFM)の座標に対して規定される。
【0093】
既に述べたように、幾つかの実施形態では、マスター基準座標系MFM、及びマスター装置の関連位置は、例えばマスター装置に配置された光学マーカを使用して、適切に選択された点で直接測定される。この場合、「グリッパ」マスター装置の把持角は、別の技術、例えば磁気エンコーダで測定される。
【0094】
他の実施形態では、マスター装置が依然として「グリッパ」タイプであり、2つの部分が関節にヒンジ止めされている場合、方法は、マスター装置の前述の2つの部分(又はそれぞれのチップ)のそれぞれの位置を測定することを含む。そのような場合、マスター装置の2つの部分のそれぞれは、その基準座標系、すなわち、前述の一般的マスターフレームMFOの原点に関して表わされるその基準座標系(ここではそれぞれMF#1及びMF#2として示される)に関連付けられる。
【0095】
マスターフレームMFMと一般的マスターフレームMFOとの間の座標変換は、位置及び方向を平均化することによって、マスター装置の部分のマスターフレームMF#1及びMF#2から始まる既知の座標変換技術によって表わすことができる。幾つかの評価では、マスターフレームMFMのような追加のマスターフレーム関節MFJ基準座標系を導入し、マスター装置の関節OJに配置することも有用であり得る(
図10参照)。
【0096】
前述の様々な実施形態によって共有される原理は、マスター装置の2つの部分に対して実行される測定が12の自由度を提供することである。検出された12自由度は、一般的マスターフレームに対するマスター装置の第1の部分における3つの位置、一般的マスターフレームに対するマスター装置の第2の部分における3つの位置、一般的マスターフレームMFOに対する第1のマスター装置座標系MF#1の回転を表わす3つの値、一般的マスターフレームMFOに対する第2のマスター装置座標系MF#2の回転を表わす3つの値である。
【0097】
一方、測定された12自由度と比較して、マスター装置の機械的構造は7自由度のみを有し、これは機械的拘束に関連する5自由度を与え、したがって原理的には5つの異なる数学的関係(そのような拘束を表わす)を与え、これは順守されなければならず、そのため、マスター装置は構造的に無傷であると結論付けることができる。
【0098】
したがって、その異なる実施形態の方法によって実行されるそのような数学的拘束関係の検証は、マスター装置の構造的完全性を検証した結果を達成することを可能にする。
【0099】
試験される拘束の例は、既に前述されており、それらがどのように測定されるか、及びそれらがマスター装置の完全性の検証にどのように変換されるかに関して以下により詳細に開示される。
【0100】
図1~
図8、
図13~
図14及び
図16に示す例は、「グリッパ」タイプのマスター装置110、1310、1410(又は「マスター把持コントローラ」)を参照し、これは、ヒンジ継手OJとグリッパの2つのアームB1、B2のチップT1、T2との間のほぼ中間で、把持ハンドの指による力の印加をもたらす(数回言及されたマスター装置の「2つの部分」に対応する)。このタイプのマスター装置は、3つの方向、3つの位置、及びグリッパアーム間の開放の合計7つの自由度を特徴とする。既に示したように、グリッパアームの位置を検出するために、光学及び/又は磁気技術を使用することができる。
【0101】
以下に示す例では、センサが配置されているアームの基準点の位置のみが絶対基準座標系で考慮される。
【0102】
図1及び
図2は、「グリッパ」本体のアームB1、B2のチップT1、T2の近くに配置された2つのセンサS1、S2を有するマスター装置110を概略的に示す。
【0103】
図1の例では、ヒンジ関節OJは、マスターフレーム関節MFJの左側にあり、2つのアームB1、B2の2つの軸Z1、Z2と平行な軸ZOJを有するアームB1及びB2の回転(アームB1とB2との間の角度aが示される)を可能にする。軸X1、X2は、アームB1,B2の方向であり、関節OJから離れる方向である。
【0104】
2つのセンサS1、S2のそれぞれの位置及び回転測定値は、3次元位置ベクトル(したがって、P1及びP2として示す2つのベクトルを取得する)及び各アームの回転行列(したがって、2つの回転行列を取得する)によって表すことができる。したがって、各センサS1、S2は、それぞれの位置及び回転情報に関連付けられる。
【0105】
好ましくは、回転は3次元直交サブグループSO(3)に関連付けることができ、したがって、この図示の例における自由度の数は常に3である(表現のタイプにかかわらず、それが本明細書に例示されるような9つの数を有する回転行列に基づくか、3つのオイラー角に基づくか、又は4つの値を有する四元数に基づくかにかかわらず)ことに留意されたい。
【0106】
アームB1、B2の基準点S’1、S’2(又はチップT1、T2の)の配置(すなわち、位置及び回転)は、例えば、センサS1、S2の2つの位置P1、P2の平均PM及び回転を回転の平均として算出される位置により、マスター装置110全体の姿勢又は配置(すなわち、位置及び回転)を算出することを可能にする。「グリッパ」の開角aは、チップT1、T2とマスター装置110のアームB1、B2の既知の長さとの間の距離、すなわち、関節OJとセンサS1、S2を搭載した各基準点S’1、S’2との間の既知の距離(センサが関節OJから等距離の点に配置されていると仮定すると、前述の2つの距離は等しくなる)を用いて算出することができる。
【0107】
関節-センサ間距離の既知の値並びに測定された平均値(位置の平均、回転の平均)及び角度aに基づいて、検証されるべき拘束を正確に規定するために、ここに示される例では、以下のパラメータが計算される。
・パラメータ1:度単位で測定された、軸Z1とZ2との間の平面度(例えば、
図3に示すように、角度α3は、軸Z1間の角度、又はP2とZ2に変換されたその画像Z1’である);
・パラメータ2:mmで測定された、センサ間の最大距離(d)(例えば、
図5は、軸Z1及びZ2の相対的な方向に基づいて前記最大距離dを計算するための様々な方針を概略的に示す);
・パラメータ3:センサの基準座標系原点(S1:MF#1又はS2:MF#2)と他方のセンサの平面との間の距離であって、mm単位で測定される、距離;
・パラメータ4:mmで測定される、マスター装置のアームの2つの線間の距離。
【0108】
これに基づいて、例えば、以下の原理拘束を以下のように規定する。
1.点P1と点P2は同一平面に属する;特に、点P1と軸Z1とで規定される平面π1は点P2を含み、点P2と軸Z2とで規定される平面は点P1を含む。
2.法線軸Z1及びZ2は平行でなければならない。
3.点P1及びP2をアーム上で既知の長さだけ後方に移動させることによって得られる更なる点P1’及びP2’は、両方とも、マスターフレーム関節MFJ基準座標系の関節及び原点に対応する点OJと一致しなければならない。
4.「グリッパ」の開放は、最大値、並びに2つの点P1とP2との間の最大距離を下回らなければならない。
【0109】
実際には、前述の理論的拘束は、構成上の欠陥及び測定誤差に起因して、公差を考慮して緩和されなければならず、例えば
図8a~
図8dに示すように、以下のそれぞれの実際的な基準につながる。
1.(
図8-a)平面(π1:P1,x1)は、P2と平面(π1:P1,Z1)との間の絶対距離qが所与の閾値q1を下回ることを検証することによって表される、特定の許容差内に点P2を含まなければならない。同様に、平面(P2、z2)に対する点P1について、;
2.(
図8-b)z1とz2とのスカラー積は、所定の最大方向差角に対応する最小値を有さなければならない。
3.(
図8-c)更なる点P1’とP2’との間の距離(上で規定したとおり)は、所与の閾値d3未満でなければならない。
4.(
図8-d)点P1とP2との間の距離d4は、物理的限界+特定の閾値未満でなければならない。
【0110】
様々な拘束と関連付けられた前述の基準のそれぞれは、リアルタイムで検出可能なパラメータと、マスター装置の構造的完全性に関するリアルタイム推定に使用されるリアルタイムで計算可能な関係とに関連付けられる。
【0111】
異常が検出された場合、異常のタイプを認識することも可能である。
【0112】
図4~
図7は、例として、幾つかの検出可能な異常に対応する状況、すなわち、それぞれ、超えてはならない最大距離L1、L2、L3(
図4に示す例では、距離L1:休止構成にあるセンサ間の予想距離、L2:休止構成にあるセンサ間で許容される最大距離、L3:構造的損傷を示すセンサ間の閾値距離)、軸Z1とZ2との間の角度(
図5a~
図5c)、2つのアームの交差部(
図6)、右アームと左アームとの間の反転(
図7)を示す。
【0113】
実装オプションによれば、測定システムがエラーを受ける可能性があり、マスター装置の完全性の任意の構造的問題が経時的に持続することを考慮すると、同定システムから受信した情報の経時的な評価を導入することが有用であり得る。
【0114】
このような経時的な評価は、第1の非一時的レベルの下流に入力することができる。例えば、フローティングウィンドウ評価は、認識閾値(例えば、100msの窓にわたって60%の構造誤差)と共に使用することができる。
【0115】
一実施形態によれば、同定アルゴリズムと経時的な評価との組み合わせは、
図9に示すフローチャートに示されている。経時的なそのような評価に関与するパラメータの選択は、特定の遠隔操作システムの安全性の考慮に基づくことができ、スレーブ装置の外科用器具の無効な動きに対する最大許容時間を評価する。
【0116】
図12に示す実施形態では、割り当てられた作業空間415、425を有する少なくとも1つの拘束されないマスター装置410、420(図示の例では、2つの拘束されないマスター装置1210、1220が外科医1250によって保持されて概略的に示されている)と、ここではコンソール1255に属するものとして示されている制御ユニットと、スレーブ装置1240(図示の例では、2つのスレーブ外科用器具1260、1270が示されている)とを備える遠隔操作ロボット手術システム1200が示される。
【0117】
図13は、それに割り当てられた作業空間1315内の拘束されないマスター装置1310の一実施形態を示し、マスター装置1310の本体は、共通の軸ZOJを中心に回転するように拘束された2つの剛性部分1380、1390によって形成され、完全性を検証することは、2つのセンサS1及びS2の共平面度、すなわち、両方のセンサS1、S2が平面p上にあるかどうかを検証することを含む(図示の例では、センサS1、S2は非同一平面上に示されており、異常状態を示している)。
【0118】
図14は、それに割り当てられた作業空間1415内の拘束されていないマスター装置1410の一実施形態を示し、マスター装置1410の本体は、共通の軸ZOJを中心に回転するように拘束された2つの剛性部分1480、1490によって形成され、完全性の検証は、2つのセンサS1、S2の平行度状態の検証を含む(図示の例では、剛性部分1480はその長手方向軸X1を中心に角度bだけ回転され、したがってセンサS1及びS2は互いに平行ではなく、異常状態を示している)。
【0119】
図16は、共通の軸ZOJの周りを回転するように拘束された2つの剛性部分1680、1690によって形成された本体を有する拘束されていないマスター装置1610を概略的に示し、完全性を検証することは、(a)2つの剛性部分1680、1690が平面πにあること、(b)2つの剛性部分1680、1690によって、好ましくはそれに関連するセンサS1、S2によって同定される平面π1、π2が互いに平行であり、関節OJの軸ZOJに入射すること、(c)センサS1、S2が所定の相互構成にあること、(d)2つのセンサS1、S2によって規定された開閉軌道が曲線1689によって概略的に示された所定の軌道に対応することを検証することを含む。
【0120】
図11は、マスター装置1110が、前述のように、共通の軸X-Xに沿って同一直線上に並進するように拘束された2つの剛性部分1180、1190を含むペン状の本体を有する実施形態を示す。
【0121】
図15は、それに割り当てられた作業空間1515内の拘束されていないマスター装置1510の一実施形態を示し、マスター装置1510の本体は、共通の軸X-Xに沿って同一直線上に並進するように拘束された2つの剛性部分1580、1590によって形成され、完全性を検証することは、2つのセンサS1、S2の平行度を検証することを含む(図示の例では、剛性部分1580は、その長手方向軸X1を中心に角度yだけ回転し、したがってセンサS1及びS2は互いに平行ではなく、異常状態を示している)。
【0122】
図から分かるように、先に示した本発明の目的は、詳細に上記に開示した特徴により、上記の方法によって完全に達成される。
【0123】
実際、記載された方法及びシステムは、マスター装置の機能的及び構造的完全性の効果的かつリアルタイムの検証を可能にし、したがってリアルタイムで異常を検出し、異常のタイプを認識することも可能にする。
【0124】
上記で開示されたように、上記の様々な実施形態に共通する原理は、測定された自由度の数が装置に許容される自由度の数よりも大きいことである。
【0125】
例えば、マスター装置の2つの部分に対して実行される測定は、12の自由度(マスター装置の第1の部分に対して3つの位置、マスター装置の第2の部分に対して3つの位置、第1の点に関連する第1のマスター装置座標系の回転を表す3つの値、第2の点に関連する第2のマスター装置座標系の回転を表す3つの値)を提供する。
【0126】
一方、測定された12自由度と比較して、マスター装置の機械的構造は7自由度のみを有し、これは機械的拘束に関連する5自由度を与え、したがって原理的には5つの異なる数学的関係(そのような拘束を表わす)を与え、これは順守されなければならず、そのため、マスター装置は構造的に無傷であると結論付けることができる。
【0127】
したがって、その異なる実施形態の方法によって実行されるそのような数学的拘束関係の検証は、マスター装置の構造的完全性を検証した結果を達成することを可能にする。
【0128】
したがって、本開示の方法及びシステムは、マスター装置の機能的完全性を自動的かつリアルタイムで検証するための効果的かつ信頼性の高い手順を動作させる必要性を満たす。
【0129】
マスター装置の構造的又は機能的異常が同定されると、遠隔操作を直ちに迅速に中断することができ、したがって、そのような異常が、患者に作用するように意図されたスレーブ装置及びそれに関連する外科用器具の動作の結果として生じる異常に反映されることを回避し、患者自体に重大な結果をもたらす可能性がある。
【0130】
それにより、患者の安全性を改善するという目的が達成され、考慮される動作環境において順守されなければならない非常に厳しい安全要件を満たす。
【0131】
偶発的なニーズを満たすために、当業者は、以下の特許請求の範囲から逸脱することなく、前述の方法の実施形態に変更及び適合を行うことができ、又は機能的に等価な他の要素と要素を置き換えることができる。可能な実施形態に属するものとして前述された全ての特徴は、説明された他の実施形態に関係なく実装されてもよい。
【国際調査報告】