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特表2024-507839非対称双安定形状記憶合金慣性アクチュエータ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】非対称双安定形状記憶合金慣性アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F03G 7/06 20060101AFI20240214BHJP
   F03G 3/06 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F03G7/06 D
F03G3/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550091
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(85)【翻訳文提出日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2022054601
(87)【国際公開番号】W WO2022184533
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】102021000004859
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511020829
【氏名又は名称】サエス・ゲッターズ・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・チトロ
(72)【発明者】
【氏名】サルヴァトーレ・ココ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・アラックア
(57)【要約】
環境温度変化によって引き起こされる偶発的な作動を防止することができるが、温度に関連する安全機能を保持することができる非対称双安定形状記憶合金慣性アクチュエータ及びデバイスにおけるその使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非対称双安定形状記憶合金慣性アクチュエータ(100;300;400;500;600;700;800)であって、
- 静止支持体(11;31;41;51;61;71;81)と、
- 前記静止支持体(11;31;41;51;61;71;81)に可動に取り付けられたスライダ(12;32;42;52;62;72;82)と、
- 前記静止支持体(11;31;41;51;61;71;81)に取り付けられ、前記可動スライダ(12;32;42;52;62;72;82)に接続されたクランク・ロッド機構(17;37;57)であって、その死点に関して反対側に位置する第1の安定位置及び第2の安定位置を有するクランク・ロッド機構(17;37;57)と、
- 前記クランク・ロッド機構(17、37、57)に連結された、またはその一部を形成する、総質量Mの1つまたは複数の慣性要素(19、39、69、79、89)と、
- 前記クランク・ロッド機構(17;37;57)に直接または間接的に作用して、前記第1の安定位置から前記第2の安定位置へ、及びその逆に切り替える、SMAワイヤ(15;45;55;65)と、
- 前記スライダ(12;32;42;52;62;72;82)を前記第1の安定位置に向かって付勢する付勢手段と、
を備え、
前記クランク・ロッド機構(17;37;57)のクランク(17’;37’;57’)とロッド(17”;37”;57”)とを接続する可動ピボットは、第1の安定位置におけるクランク・ロッド機構(17;37;57)の死点からの距離d1が第2の安定位置における類似の距離d2よりも大きく、前記アクチュエータは、前記クランク・ロッド機構(17;37;57)に作用する1本のSMAワイヤ(15;45;55;65)のみを含むことを特徴とする、非対称双安定形状記憶合金慣性アクチュエータ。
【請求項2】
d2とd1との比が0.05~0.70、好ましくは0.10~0.30である、請求項1に記載の非対称双安定形状記憶合金慣性アクチュエータ(100;300;400;500;600;700;800)。
【請求項3】
前記クランク・ロッド機構(17;37;57)は、第1のピボット(18;38;58’)を介して前記静止支持体(11;31;51)に接続されたクランク(17’;37’;57’)と、第2のピボット(18;38;58”)を介して前記可動スライダ(12;32;42;52;72)に接続されたロッド(17”;37”;57”)とを含む、請求項1または2に記載の非対称双安定形状記憶合金慣性アクチュエータ(100;300;400;500;700)。
【請求項4】
前記付勢手段は、前記可動スライダ(12;32;42;52;72)に接続された第1の端部(16’)と、前記静止支持体(11;31;41;51;71)に接続された第2の端部(16”)とを有するスプリング(16)からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の非対称双安定形状記憶合金慣性アクチュエータ(100;300;400;500;700)。
【請求項5】
前記SMAワイヤ(15;45)は、ピボット(14’)を介して前記静止支持体(11;31;41;71)に接続された第1の端部と、第1の端部(12;32’)または内部ピン(420)で前記可動スライダ(12;32;42;72)に接触している第2の端部と、を有する回転レバー(14;44;)を介して前記クランク・ロッド機構(17;37)に間接的に作用しており、前記回転レバー(14;44)に接続されたSMAワイヤ(15;45)の作動時に、好ましくはそのピボット(14’)に近い位置で、前記クランク・ロッド機構(17;37)を2つの安定位置の間で切り替える、請求項1~4のいずれか一項に記載の非対称双安定形状記憶合金慣性アクチュエータ(100;300;400;700)。
【請求項6】
前記SMAワイヤ(55)は、前記クランク・ロッド機構(57)の前記クランク(57’)に接続されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータ(500)。
【請求項7】
前記スライダ(62)は、前記クランク・ロッド機構の前記クランク(67’)と前記ロッド(67”)とを接続する前記可動ピボットに接続され、前記可動ピボットの移動方向に沿って延在し、前記アクチュエータは更に、前記クランク・ロッド機構の第1のピボット(68’)及び第2のピボット(68”)に近位端でそれぞれ接続され、且つ、前記静止支持体(61)に固定されたストッパ(640、640’)にそれぞれ反対側の遠位部で接続された2つのレバー(64、64’)を含み、前記SMAワイヤ(65)は、その作動が前記近位端からの開口をもたらすように、前記ストッパ(640、640’)に関してより遠位の位置で前記レバー(64、64’)間に接続されている、請求項1または2に記載の非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータ(600;800)。
【請求項8】
前記付勢手段は、前記ストッパ(640、640’)と前記スライダ(62)との間の位置で前記レバー(64、64’)の間に接続された引張りスプリング(66)からなり、その作用が前記近位端の閉鎖をもたらす、請求項7に記載の非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータ(600;800)。
【請求項9】
前記第1の安定位置と前記クランク・ロッド機構の死点との間の位置で、前記クランク・ロッド機構から距離d1の1/10から9/10の間に含まれる距離で、前記静止支持体(71;81)に固定された少なくとも1つの磁石(79’;89’,89”)を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータ(700;800)。
【請求項10】
前記重量力の向きは、前記第2の安定位置から前記第1の安定位置に向かう方向であり、その方向は、前記クランク・ロッド機構の移動平面と、45°以下、好ましくは20°未満である角度を形成している、請求項1~9のいずれか一項に記載の非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータ(100;300;400;500;600;700;800)。
【請求項11】
前記慣性要素(19;39;69;79;89)が前記クランク・ロッド機構(17;37;57)の一部であり、好ましくはその前記可動ピボットの一部である、請求項1~10のいずれか一項に記載の非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータ(100;300;400;500;600;700;800)。
【請求項12】
デバイスのロック機構に解放可能に係合するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータ(100;300;400;500;600;700;800)の使用であって、前記デバイスが好ましくは、蓋、シャッター、ラッチ、ロッカー、ピン抜きから選択される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非対称双安定慣性アクチュエータ(asymmetric bistable inertial actuator)、その動作方法、及びデバイスでのその使用、特に、被駆動要素が形状記憶合金(shape memory alloy、以下「SMA」)で作られた1または複数のワイヤによって動かされるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
形状記憶現象は、この現象を示す合金で作製された機械要素(mechanical piece)が、温度変化時に、製造時に事前設定された2つの形状間を、非常に短い時間且つ中間的な平衡位置(intermediate equilibrium positions)無しで転移(transitioning)できるという事実にあることが知られている。現象が発生し得る最初のモードは「一方向(one-way)」と呼ばれ、当該機械要素は温度変化時に一方向に形状を変化させる、例えば形状Aから形状Bに転移するのに対し、形状Bから形状Aへの反対方向への転移には、機械的な力を加える必要がある。
【0003】
これとは異なり、いわゆる「双方向(two-way)」モードでは、両方の転移は温度変化によって生じさせることが可能である。これは、マルテンサイト系(martensitic)と呼ばれる低温で安定な状態(type)からオーステナイト系(austenitic)と呼ばれる高温で安定な状態に、またはその逆に転移する要素の微結晶構造の変態(transformation)により発生する(M/A転移及びA/M転移)。これらの転移は、次の4つの温度によって特徴付けられる。すなわちマルテンサイト完了温度(Mf:Martensite final)、マルテンサイト開始温度(Ms:Martensite start)、オーステナイト開始温度(As:Austenite start)、オーステナイト完了温度(Af:Austenite final)である。
【0004】
SMAワイヤは、形状記憶要素の機能を発揮できるように調製される(trained)必要がある。SMAワイヤの調製プロセスでは、通常、良好な再現性で、ワイヤが加熱されるとマルテンサイト/オーステナイト(M/A)相転移を生じさせ、ワイヤが冷却されるとオーステナイト/マルテンサイト(A/M)相転移を生じさせることができる。M/A転移では、3%~5%のワイヤの短縮が起きるが、ワイヤが冷却されると、A/M転移によってこの短縮から回復し、ワイヤは元の長さに戻る。
【0005】
加熱すると収縮し、冷却すると再伸長するSMAワイヤのこの特性は、非常にシンプルでコンパクト、信頼性が高く、安価なアクチュエータを得るために長い間利用されている。特に、この種のアクチュエータは、一部の双安定電気スイッチで、駆動要素を第1の安定位置から第2の安定位置に、またはその逆に移動させるのに使用されている。「駆動要素」という用語は、その動きが2つの安定した操作位置の間でのスイッチの切り替わりを決定する要素である限り、特定の製造ニーズに応じて無数の形状をとることができるため、ここでは非常に一般的な意味を持つことを意図している。
【0006】
双安定SMAワイヤアクチュエータのいくつかの例は、本願の出願人による特許文献1~特許文献4に記載されており、これらは全て2本のSMAワイヤを使用した解決策に言及している。
【0007】
双安定SMAアクチュエータの別の例は、特許文献5に記載されており、双安定動作は、拮抗的な構成(antagonistic configuration)でSMAワイヤを使用することによって実現されている。特許文献6は、安定ロッカー(stability locker)としてのスプリングを有する回転要素に作用するSMAワイヤを使用し、又は特許文献7は、その中間部分に配置された固定された旋回要素を有するロッカーの傾斜を切り替えるために、拮抗的な構成の2つのSMAワイヤを示している。
【0008】
異なる原理を利用するSMAベースの解決策は、慣性質量がアクチュエータ本体から分離され、衝撃作動(impulse activation)によってより長い距離にわたって駆動される慣性アクチュエータを開示する特許文献8に記載されている。同文献に記載の発明においては、例えば、後に説明するフローダイバータ(flow diverters)のような特定の用途では、リターンメカニズムを適切に設計するための高度なカスタマイズと、システムを開始位置に戻す必要がある場合の不可避の遅延、及び2つの安定した構成間の「対称性」の欠如を伴うこととなる。
【0009】
双安定慣性アクチュエータのための別のSMAベースの解決策は、本願の出願人による国際公開第2021/197980号に記載されており、2つの安定状態の間でアクチュエータを切り替えるためにSMAワイヤによって慣性要素に加えられる力が本質的に等しい対称型のアクチュエータを記載している。本発明によるアクチュエータは、全ての双安定ベースの解決策に通常存在する、いわゆる「オーバーラン」の必要性を大幅に低減するという利点を、前記出願に記載されたものと共有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4544988号明細書
【特許文献2】米国特許第5977858号明細書
【特許文献3】米国特許第6943653号明細書
【特許文献4】欧州特許第2735013号明細書
【特許文献5】米国特許第4965545号明細書
【特許文献6】欧州特許第1593844号明細書
【特許文献7】英国特許第2558618号明細書
【特許文献8】米国特許第8656713号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2016/0186730号明細書
【特許文献10】米国特許第9068561号明細書
【特許文献11】米国特許第6835083号明細書
【特許文献12】国際公開第2019/003198号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】“The Mechanical Response of Shape Memory Alloys Under a Rapid Heating Pulse” by Vollach et al published in 2010 on Experimental Mechanics
【非特許文献2】“High-speed and high-efficiency shape memory alloy actuation” by Motzki et al. published in 2018 on Smart Materials and Structures
【非特許文献3】”A Study of the Properties of a High Temperature Binary Nitinol Alloy Above and Below its Martensite to Austenite Transformation Temperature” by Dennis W. Norwich presented at the SMST 2010 conference
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
開始位置への戻り転移が異なるように駆動される一方で、慣性挙動(inertial behavior)によって駆動される転移を1つだけ有することが有利な特徴である特定の用途がいくつかある。例えば、アクチュエータは、第1の位置から第2の位置までアクチュエータを移動させるためにジュール効果を利用し、次いで、第1の位置へのスイッチバックのための適切な機構として、電流制御を介して、または環境温度の上昇(T>Af)を介して、SMA作動を使用している。この概念の例示的な有利な用途は、温度が高すぎて危険な状況(火災)を表す場合にアクチュエータの自動解放がある電気リレーである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、従来技術のアクチュエータの欠点を克服することであり、特に、環境温度の変動に関連する偶発的な作動を防止するが、温度に関連する安全機能を保持する能力に関し、その第1の態様は、請求項1に記載の要素を含む非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータにある。
【0014】
好ましくは、非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータは、d2/d1比が0.05~0.70、好ましくは0.10~0.30を含むように構成され、d1は、第1の安定位置におけるクランクピンとクランク・ロッド機構(crank-and-rod mechanism)の死点(dead center)との間の距離として定義され、d2は、第2の安定位置における同様の距離(analogous distance)として定義される。
【0015】
2つのアクチュエータの安定位置における異なる距離は、本発明の重要な概念であり、アクチュエータの非対称挙動を保証している。特に、(第1の安定位置から第2の安定位置への)一の転移において、クランク・ロッド機構に存在する質量Mが、死点を通過するのに十分な運動量(momentum)を得るために、死点から十分な距離を有することが重要であり、一方、(第2の安定位置から第1の安定位置への)復帰挙動(return run)において、転移は、SMAワイヤの作動によってのみ提供されない追加の力によって駆動されている。かかる力は、以下によって与えることができる:
- 質量Mの重量力(weight force)、または
- 質量M及び/またはクランク・ロッド機構が磁性または強磁性材料で作られ、アクチュエータが少なくとも1つの適切な固定磁石(stationary magnet)を含む場合の磁力。
【0016】
上記の定義によると、第1の安定位置から第2の安定位置への転移は、SMAワイヤの高速作動時にのみ起こることができ、本質的には慣性駆動のみであるのに対して、第2の安定位置から第1の安定位置への復帰またはスイッチバックは、SMAワイヤ作用に対する少なくとも第2の力の寄与を必要とし、このような追加的な力は、重量または少なくとも1つの磁石、または重量と磁気作用の合計によって提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明の第1の好ましい実施形態による、2つの安定位置における非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの概略図である。
図1B】発明の第1の好ましい実施形態による、2つの安定位置における非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの概略図である。
図1C】死点に対応する中間不安定位置にある上記アクチュエータの概略図である。
図2A】アクチュエータ内に存在するSMAワイヤのためのいくつかの好ましい接続構成の概略図である。
図2B】アクチュエータ内に存在するSMAワイヤのためのいくつかの好ましい接続構成の概略図である。
図2C】アクチュエータ内に存在するSMAワイヤのためのいくつかの好ましい接続構成の概略図である。
図2D】アクチュエータ内に存在するSMAワイヤのためのいくつかの好ましい接続構成の概略図である。
図3A】本発明の第2の実施形態による、2つの安定位置における非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの概略図である。
図3B】本発明の第2の実施形態による、2つの安定位置における非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの概略図である。
図4A】本発明の第3の実施形態による、2つの安定位置における非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの概略図である。
図4B】本発明の第3の実施形態による、2つの安定位置における非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの概略図である。
図5A】本発明の第4の実施形態による、2つの安定位置における非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの概略図である。
図5B】本発明の第4の実施形態による、2つの安定位置における非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの概略図である。
図6A】本発明の第5の実施形態による、2つの安定位置における非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの概略図である。
図6B】本発明の第5の実施形態による、2つの安定位置における非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの概略図である。
図7】本発明の第6の実施形態による、非対称慣性双安定形状記憶合金の概略図である。
図8】本発明の第7の実施形態による、非対称慣性双安定形状記憶合金の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、以下の例示的な実施形態を通じて、添付の図面を用いて更に説明される。
【0019】
図面を理解し易くするために、要素の寸法及び寸法比は、場合によっては、慣性質量の大きさ及びSMAワイヤの短縮に関して特定的且つ非排他的に変更されている。更に、SMAワイヤの電流源のような、本発明の理解にもその特徴付けにも必要でないいくつかの要素は、示されていない。
【0020】
本発明による非対称双安定形状記憶合金アクチュエータ100の第1の実施形態の概略図を、図1A(第1の安定位置)及び図1B(第2の安定位置)に示す。アクチュエータ100は、静止支持体(stationary support)11と、第1の端部12’及び第2の端部12”を有する可動スライダ12と、静止支持体11に固定されたスライダガイド13と、一方の非拘束端部(unrestrained extremity)が端部ストッパ(end-stop)111を介して静止支持体11に接触し、他方の非拘束端部がピボット14’を介して静止支持体11に固定された回転可能なレバー14とを含む。また、回転可能なレバー14の非拘束端部は、可動スライダ12の第1の端部12’に接触し、U字形状を有するSMAワイヤ15の作動時に、それを第1の方向(図示の例では右)に移動させ、その端部は、端子15’を介して静止支持体11に固定され、その中央部分は、回転可能なレバー14に接続されている。
【0021】
スライダ12は、スライダ12に接続された第1の端部16’と静止支持体11に接続された第2の端部16”とを有するスプリング16によって第1の安定位置に向かって付勢され、付勢スプリング16はスライダ12の適当なキャビティ内に収容されている。磁気手段または重力手段(例えば、プーリの上を通るケーブルによって第1の端部12’に接続された質量)等の他の代替手段を使用して、前記付勢動作を実行することができる。
【0022】
アクチュエータ100は、クランクピンに、すなわち、クランクとロッドとの間の垂直方向に移動可能な枢動接続部(pivoting connection)に配置された質量Mの慣性要素(inertial element)19の移動を制御するためのクランク・ロッド機構17を含む。より詳細には、クランク・ロッド機構17の第1の可動アーム17’は、クランクとして作用し、要素19と支持体11に固定された第1のピボット18’との間に接続され、クランク・ロッド機構17の第2の可動アーム17”は、接続ロッドとして作用し、要素19と適切なカプラ170を介してスライダ12に固定された第2のピボット18”との間に接続されている。
【0023】
このようにして、クランク・ロッド機構17及びスライダ12は、反転した(inverted)スライダ・クランクリンク機構を形成し、図1Aの第1の安定位置から開始する第1の方向へのガイド13に沿ったスライダ12の摺動運動は、ピボット18’の周りのクランク17’の反時計回りの回転をもたらす。
【0024】
SMAワイヤ15の作動は、第1のクランク・ロッド可動アーム17’が第2のクランク・ロッド可動アーム17”と整列した状態で、クランク・ロッド機構17がその死点(図1C)に至るようになっている。そこから、アクチュエータ100は、SMAワイヤ15が急速に作動され、質量Mの慣性要素19が加速されて第1の安定位置から第2の安定位置に移動する場合にのみ、第1の安定位置(図1A)から第2の安定位置(図1B)に移動することができる。
【0025】
第2の安定位置から第1の安定位置へのスイッチバックは、スプリング16の抵抗に抗してSMAワイヤ15を作動させることによって再び達成され、クランク17’がピボット18’を中心に時計回りに回転することによってクランク・ロッド機構17をその死点に至らせる。この場合、質量Mの慣性要素19に作用する重量力が、クランク・ロッド機構17を死点から出し、その結果、スライダ12を図1Aの第1の安定位置にしている。
【0026】
上記の説明は、本発明による慣性アクチュエータの非対称性の概念を説明している。すなわち、第1の安定位置と第2の安定位置との間の切り替えは、SMAの作動によって加えられる力にのみ関連しており、クランク・ロッド機構17をその死点に幾何学的に至らせ、死点から第2の安定位置への要素19の移動は、常に慣性力(SMAワイヤ15の高速作動)によってのみ与えられる。
【0027】
一方、第2の安定位置から第1の安定位置へのスイッチバックは、クランク・ロッド機構17をその死点にもたらすSMAワイヤの作動によるものであり、一方、死点から第1の安定位置への要素19の移動は、追加的な力の寄与、より具体的には、図1A及び図1Bの実施形態における重力を必要とする。これは、クランク・ロッド機構17が略垂直平面内に配置され、第2の安定位置が第1の安定位置よりも高く、死点に近い位置であることを意味している。
【0028】
基本的に、第2の安定位置から第1の安定位置への転移は、モード(ジュール熱または周囲環境からの加熱)またはその作動速度に拘わらず、SMAワイヤの作動を必要とするだけである。
【0029】
本発明は、SMAワイヤ15を回転可能なレバー14に接続する特定の方法に限定されない。より一般的な構成のいくつかは、図2A図2Dの概略図に示されている。
【0030】
より具体的には、図2Aは、回転可能なレバー14の上に巻かれたU字形状のSMAワイヤ15を有する、図1A図1Bで使用される接続部を示す。
【0031】
図2Bでは、U字形状のSMAワイヤ15が、ロッド141によって回転可能なレバー14に接続されたアイレット(eyelet)141’に巻き付けられている。
【0032】
図2Cでは、SMAワイヤ15が、いわゆる「V字形状」で回転可能なレバー14に直接的に固定されている。
【0033】
図2Dは、直線構成のSMAワイヤ15を有する最も単純な代替例を示す。
【0034】
SMAワイヤの接続及び数に関して、原則として、2つ以上のSMAワイヤが回転可能なレバー14に同時に作用して慣性質量19を加速することができるが、実際には、そのようなSMAワイヤの同時の作動及び制御は実用的でもなく、達成するのも容易でもないことを強調しておく。
【0035】
本発明による非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータは、他の実施形態で実現されても良い。例えば、図3A及び図3Bは、2つの安定位置にある非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータ300の第2の実施形態の概略図を示す。この場合、スライダ32の第2の端部32”は、ピボット320を介して支持体31に取り付けられたレバー321を駆動し、そのストロークを増幅するアクチュエータの「リーチ(reach)」を延長している。図3A及び図3Bに示されている別の相違点は、クランク・ロッド機構37の第1のピボット38’がスライダ32の第1の端部32’に対する端部ストッパとして作用し、第2のピボット38”がスライダ32に直接的に接続され、両方のアーム37’、37”及び慣性要素39が図3Bの第2の安定位置でスライダ32内に配置されるという事実である。
【0036】
図4A及び図4Bは、慣性双安定アクチュエータ400が静止支持体41より長いスライダ42を含む、本発明の第3の実施形態の概略図を示す。より具体的には、図4Aの第1の安定位置では、スライダ42の第1の端部42’が支持体41の左側から突出し、一方、図4Bの第2の安定位置では、第2の端部42”が支持体41の右側から突出する。この場合、回転可能なレバー44は、第1の端部42’ではなく、スライダ42の適当な内部ピン420に衝突することによってスライダ42に作用する。
【0037】
双安定非対称慣性アクチュエータ400はまた、回転可能なレバー44に作用するリターンスプリング440を提供し、SMAワイヤ45が作動停止される(deactivated)と、端部ストッパ411に抗してそれを開始位置に戻す。このようにして、SMAワイヤ45は、アクチュエータが第2の安定位置にあるときに、第1の2つの実施形態のように、緩んだワイヤが接触する可能性のある隣接する要素に問題を引き起こす可能性がある場合に、緩んだままにならない。
【0038】
図5A及び図5Bは、慣性双安定アクチュエータ500が静止支持体51よりもはるかに短いスライダ52を含む、本発明の第4の実施形態の概略図を示す。より具体的には、クランク・ロッド機構57はスライダ52の側部に配置され、すなわち、第1のピボット58’は第1の端部52’の左側にあり、第2のピボット58”はそれに直接的に接続され、SMAワイヤ55はクランク・ロッド機構57のクランク57’に直接的に接続され、従って、先の実施形態で使用された回転可能なレバーを不要にしている。
【0039】
図6A及び図6Bは、慣性双安定アクチュエータ600が、クランク・ロッド機構の第1及び第2のアーム67’、67”を連結する慣性要素69に直接的に接続されたスライダ62を含む、本発明の第5の実施形態の概略図を示す。スライダ62は、一端が接続された慣性要素69の移動方向に沿って延在し、他端はガイド要素63の間に配置されている。2つのレバー64、64’の基端部は、クランク・ロッド機構の第1及び第2のピボット68’、68”にそれぞれ接続され、その反対側の先端部は、静止支持体61に固定されたストッパ640、640’にそれぞれ接続されている。
【0040】
前記ストッパ640、640’に対してより遠位の位置でレバー64、64’間に接続されたSMAワイヤ65の作動及びその結果としての短縮は、ストッパ640、640’とスライダ62との間の位置でレバー64、64’を内部的に接続する引張りスプリング66の抵抗を克服するレバー64、64’の上端の開口をもたらす。その結果、クランク67’及び接続ロッド67”は、それぞれ反時計回り及び時計回りの回転を伴って上方に回転し、非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータ600は、図6Aの第1の安定位置から図6Bの第2の安定位置に移動する。
【0041】
全ての実施形態において、SMAワイヤの作動は、数ミリ秒のオーダーで非常に速く短いので、死点を通過するのに十分なクランク・ロッド機構を加速するための初期インパルスを提供するだけであり、従って、第2の安定位置に向かうアクチュエータの移動に抗しないことに留意されたい。例えば、第4の実施形態では、SMAワイヤ55がクランク57’と位置合わせされるように到達したとき、SMAワイヤ55は既に作動されておらず、第2の安定位置に向かうクランク57’の反時計回りの回転に抗しない。同じことが他の実施形態にも適用され、すなわち、クランク・ロッド機構が死点に到達したとき、SMAワイヤは既に作動停止されている。
【0042】
言うまでもなく、上述の様々な実施形態は、本発明の範囲及び効果から逸脱することなく、図面に示されていない更なる実施形態を得るために、異なる方法で組み合わせることができる。例えば、第2の実施形態のピボットレバー321は、第1、第3及び第4の実施形態においても使用することができ、またはSMAワイヤがクランクに直接的に接続された第4の実施形態のレバーレス構成は、第1の3つの実施形態においても使用することができる。
【0043】
別の直接の変形例は、全ての実施形態に示されているように、慣性質量Mがクランクピンの一部または構成要素ではなく、クランク・ロッド機構に単に接続されていることによって与えられる。更に、慣性質量Mは、アクチュエータ内に存在する一連の質量からの等価質量、すなわち、アクチュエータ内の好ましくは対称位置に配置された2つ以上の質量の寄与の合計であっても良い。最も一般的な変形例では、慣性質量Mは、クランク・ロッド上のクランクピンに対して対称に配置され、クランクピンに接続された2つの質量によって与えられる。
【0044】
上記の実施形態の全てにおいて、第1の安定位置から第2の安定位置への移動は、SMAワイヤの高速作動によって引き起こされ、第2の安定位置から第1の安定位置への復帰は、SMAワイヤの作動速度に拘わらず、慣性質量Mに関連する重量力によって可能になる。言うまでもなく、重量力の方向は第2の安定位置から第1の安定位置に向けられなければならず、それはクランク・ロッド機構、従って慣性質量Mが第1の安定位置と第2の安定位置との間を移動する平面に対して本質的に平行である(慣性質量の中心を平面の基準点とする)ので、アクチュエータの取り付け方法に制約を課す。この文脈において、「実質的に平行」という用語は、上記の要素が平行であるか、または45°以下、好ましくは20°未満の角度を形成する状況を示す。
【0045】
本発明の変形による非対称双安定形状記憶合金アクチュエータは、磁気的であるか、または磁界に応答することができる、すなわち、磁気要素自体であるか、または磁石に引き付けられることができる、慣性要素及び/またはクランク・ロッド機構を使用することによって、より高い取り付け自由度を可能にすることができる。
【0046】
図7は、第2の安定位置にある図1Bのアクチュエータのレプリカである慣性非対称双安定形状記憶アクチュエータ700を示し、静止支持体71に固定された磁石79’を追加して、アクチュエータが上述の45°の限界を超えて取り付けられた場合にも、慣性要素79、従ってスライダ72の第2の安定位置から第1の安定位置への非慣性復帰を可能にしている。この場合、慣性要素79は、反対の極性の磁気要素、または磁石79’に引き付けられることができる強磁性材料で構成されるか、またはそれを含む。
【0047】
同様に、図8は、第2の安定位置にある図6Bのアクチュエータのレプリカである慣性非対称双安定形状記憶アクチュエータ800を示し、静止支持体81上に固定され、慣性要素89に対して対称に位置決めされた一対の磁石89’、89”を追加して、第2の安定位置から第1の安定位置への慣性要素89、従ってスライダ82の非慣性復帰を可能にしている。また、この場合、慣性要素89は、反対の極性の磁気要素、または磁石89’、89”に引き付けられることが可能な強磁性要素で構成されるか、またはこれらを含む。
【0048】
図7及び図8は、第1及び第5の実施形態にそれぞれ1つまたは2つの磁石を追加することを示しているが、同じ追加を他の実施形態にも行うことができ、磁石の正確な数及び配置をアクチュエータの特定の性能要件に適合させることができることは明らかである。一般に、本発明の「磁気」変形例では、磁石は、クランクピンの第1の安定位置と死点との間に、先に定義した距離d1の1/10から9/10の間に含まれる距離で配置されることが好ましく、それらはクランクピンに対して対称位置に配置されることが好ましい。
【0049】
磁石の助けを借りて、アクチュエータは、クランク・ロッド機構が水平面内を移動し、重量力が第1の安定位置へのスイッチバックに寄与しない場合であっても、任意の方向で動作することができる。永久磁石を使用する場合、磁石の配置及び強度は、スイッチバックの完了を妨げる「制動(braking)」磁気作用(第1の安定位置から第2の安定位置への移動が非常に速く、慣性力が非常に高いため、磁気作用によって著しい制動が生じない)を最小限に抑えながら、死点を通過するために必要なクランク・ロッド機構の引っ張りを提供するように設計すべきであることが明らかである。そうでなければ、アクチュエータのコストと複雑さをわずかに増加させて、SMAワイヤの短時間の作動と同様に、必要なときにのみ磁気牽引を提供するように作動及び停止される電磁石を使用することも可能である。
【0050】
当業者は、SMAワイヤの高速作動を、典型的には5~25msの間で達成する方法を知っており、例えば非特許文献1または非特許文献2を参照されたい。
【0051】
作動時間(actuation time)とは、SMAワイヤをオーステナイト相にある温度、いわゆるAf温度にするのに必要な時間を意図したものである。このような効果を達成するために、直径が100μm未満のワイヤ等の細いワイヤの場合でも、一部の電子回路はコンデンサ等のSMAワイヤ電流供給に関連付けられている場合があり、電池でもそのような短い作動時間を達成することができる。SMAワイヤのためのいくつかの例示的な高速作動回路は、特許文献9又は未公開のイタリア特許出願第102021000024875号に記載されている。SMAワイヤの高速作動のための手段は、アクチュエータ自体に取り付けることができるか、またはアクチュエータは、適切なケーブル配線を介してそのような手段に接続されている。
【0052】
「静止(stationary)」という用語は、可動システムまたはデバイスに取り付けることができるアクチュエータに関連して解釈されるべきであり、それによって、静止要素(支持体、磁石等)は、SMAワイヤの作動時に移動/変位しないものであることを強調しておく。
【0053】
本発明は、特定のSMA材料に限定されないが、その処理によれば代替的に超弾性挙動(superelastic behavior)またはSMA挙動を示し得るニチノール等のNi-Tiベースの合金が好ましい。ニチノールの特性及びそれらを達成することを可能にする方法は、当業者に広く知られており、例えば非特許文献3を参照されたい。
【0054】
ニチノールをそのまま使用することも、Hf、Nb、Pt、Cu等の元素を添加することで転移温度(transition temperature)の特性を調整することもできる。材料合金の適切な選択及びその特性は、当業者に一般に知られており、例えば、以下を参照されたい:
http://memry.com/nitinol-iq/nitinol-fundamentals/transformation-temperatures
【0055】
また、SMAワイヤは、「それ自体」またはコーティング/シースと共に使用して、それらの熱管理(thermal management)、すなわち、作動後のそれらの冷却を改善することができる。コーティングシースは、熱伝導体である電気絶縁コーティングを用いることによって残留熱を管理する方法を教示する特許文献9に記載されているように均一であり得るが、特許文献10は、SMAワイヤが、全ての作動サイクル後に冷却を改善することができる囲繞シース(enclosing sheath)を備えていることを開示している。また、出願人による特許文献12に記載されているような、相変化材料の適切な分散を伴うコーティングを有利に使用することができる。
【0056】
本発明による非対称慣性双安定形状記憶合金アクチュエータの使用は、蓋、シャッター、ラッチ、ロッカー、ピン抜きにおいて特に有利であるが、特定の用途に限定されない。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
【国際調査報告】