(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】マルチドメイン融合タンパク質及びその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20240214BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20240214BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20240214BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240214BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240214BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240214BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240214BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240214BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240214BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240214BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240214BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240214BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240214BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240214BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N15/90 Z
C07K14/435
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C07K19/00
C07K16/30
A61P35/00
A61K48/00
A61K38/16
A61K39/395 N
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550320
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2023-09-04
(86)【国際出願番号】 CN2022076610
(87)【国際公開番号】W WO2022174781
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/077282
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521309754
【氏名又は名称】浙江道尓生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 岩山
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA05
4B064DA14
4B065AA01X
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4B065CA25
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4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
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4C084BA01
4C084BA41
4C084DB70
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4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA14
4C085AA21
4C085BB01
4C085BB11
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は融合タンパク質を提供する。前記融合タンパク質は、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメント、VEGF拮抗フラグメント、TGF-β結合フラグメントを含む。本発明で提供する抗癌活性を有するマルチドメイン融合タンパク質は、1つの抗体融合タンパク質分子において、PD-L1/PD-1の相互作用を遮断する抗PD-L1モノクローナル抗体の機能と、毛細血管の成長を減少させ、転移性疾患を抑制する抗VEGFモノクローナル抗体の機能と、TGF-βシグナルに対する癌細胞の耐性を解除して免疫応答を強化するTGF-β受容体の機能を有機的に組み合わせることが可能なため、腫瘍の治療に使用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメント、VEGF拮抗フラグメント、TGF-β結合フラグメントを含む融合タンパク質。
【請求項2】
前記抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントの相補性決定領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO.1~5のいずれかで示されるCDR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.6~9のいずれかで示されるCDR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.10~15のいずれかで示されるCDR3を含むことを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントの相補性決定領域は、
アミノ酸配列がSEQ ID NO.1で示されるCDR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.6で示されるCDR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.10で示されるCDR3を含むか、或いは、
アミノ酸配列がSEQ ID NO.2で示されるCDR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.7で示されるCDR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.11で示されるCDR3を含むか、或いは、
アミノ酸配列がSEQ ID NO.3で示されるCDR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.7で示されるCDR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.12で示されるCDR3を含むか、或いは、
アミノ酸配列がSEQ ID NO.4で示されるCDR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.8で示されるCDR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.13で示されるCDR3を含むか、或いは、
アミノ酸配列がSEQ ID NO.2で示されるCDR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.7で示されるCDR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.14で示されるCDR3を含むか、或いは、
アミノ酸配列がSEQ ID NO.5で示されるCDR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.9で示されるCDR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.15で示されるCDR3を含むことを特徴とする請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、更に、フレームワーク領域を含み、
前記フレームワーク領域FRは、アミノ酸配列がSEQ ID NO.49で示されるFR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.50~52のいずれかで示されるFR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.53~55のいずれかで示されるFR3、及びアミノ酸配列がSEQ ID NO.56で示されるFR4、を含むことを特徴とする請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記フレームワーク領域FRは、アミノ酸配列が以下で示されるFR1~FR4として、
アミノ酸配列がSEQ ID NO.49で示されるFR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.50で示されるFR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.53で示されるFR3、アミノ酸配列がSEQ ID NO.56で示されるFR4、或いは、
アミノ酸配列がSEQ ID NO.49で示されるFR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.51で示されるFR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.54で示されるFR3、アミノ酸配列がSEQ ID NO.56で示されるFR4、或いは、
アミノ酸配列がSEQ ID NO.49で示されるFR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.52で示されるFR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.54で示されるFR3、アミノ酸配列がSEQ ID NO.56で示されるFR4、或いは、
アミノ酸配列がSEQ ID NO.49で示されるFR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.52で示されるFR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.55で示されるFR3、アミノ酸配列がSEQ ID NO.56で示されるFR4、を含むことを特徴とする請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、
a)アミノ酸配列がSEQ ID NO.16~21のいずれかで示されるポリペプチドフラグメント、或いは、
b)アミノ酸配列がSEQ ID NO.16~21のいずれかと90%以上の配列同一性を有しており、且つ、a)で限定したポリペプチドフラグメントの機能を有するポリペプチドフラグメント、を含み、
及び/又は、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントはアルパカ由来であり、
及び/又は、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントはヒト化されていることを特徴とする請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記VEGF拮抗フラグメントはベバシズマブであり、好ましくは、前記VEGF拮抗フラグメントは、
c)アミノ酸配列がSEQ ID NO.22~23のいずれかで示されるポリペプチドフラグメント、或いは、
d)アミノ酸配列がSEQ ID NO.22~23のいずれかと90%以上の配列同一性を有しており、且つ、c)で限定したポリペプチドフラグメントの機能を有するポリペプチドフラグメント、を含み、
及び/又は、前記VEGF拮抗フラグメントはネズミ由来であり、
及び/又は、前記VEGF拮抗フラグメントはヒト化されていることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記TGF-β結合フラグメントは、TGF-βRII細胞外領域構造のフラグメントであり、好ましくは、前記TGF-β結合フラグメントは、
e)アミノ酸配列がSEQ ID NO.24で示されるポリペプチドフラグメント、或いは、
f)アミノ酸配列がSEQ ID NO.24と90%以上の配列同一性を有しており、且つ、e)で限定したポリペプチドフラグメントの機能を有するポリペプチドフラグメント、を含み、
及び/又は、前記TGF-β結合フラグメントはヒト由来であることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記融合タンパク質は、更に、連結ペプチドフラグメントを含み、好ましくは、前記連結ペプチドフラグメントは、G、S及び/又はAを豊富に含み、より好ましくは、前記連結ペプチドは、Gグリシン及び/又はSセリン及び/又はAアラニンで構成される柔軟なポリペプチド鎖から選択され、前記連結ペプチドの長さは3~30個のアミノ酸であることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
前記連結ペプチドフラグメントは、アミノ酸配列がSEQ ID NO.34~36のいずれかで示されるポリペプチドフラグメントを含み、
及び/又は、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントとVEGF拮抗フラグメントの間には連結ペプチドが設けられており、
及び/又は、前記VEGF拮抗フラグメントとTGF-β結合フラグメントの間には連結ペプチドが設けられていることを特徴とする請求項9に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
前記融合タンパク質は、N末端からC末端にかけて、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメント、VEGF拮抗フラグメント、TGF-β結合フラグメントを順に含み、
及び/又は、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、VEGF拮抗フラグメントの重鎖のN末端に位置し、
及び/又は、前記抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、VEGF拮抗フラグメントの軽鎖のN末端に位置し、
及び/又は、前記TGF-β結合フラグメントは、VEGF拮抗フラグメントの重鎖のC末端に位置することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
前記融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO.23、SEQ ID NO.25~33のいずれかで示される配列を含み、
或いは、前記融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO.25及びSEQ ID NO.26で示される配列、SEQ ID NO.25及びSEQ ID NO.27で示される配列、SEQ ID NO.25及びSEQ ID NO.28で示される配列、SEQ ID NO.25及びSEQ ID NO.29で示される配列、SEQ ID NO.30及びSEQ ID NO.27で示される配列、SEQ ID NO.30及びSEQ
ID NO.29で示される配列、SEQ ID NO.31及びSEQ ID NO.23で示される配列、SEQ ID NO.32及びSEQ ID NO.23で示される配列、SEQ ID NO.33及びSEQ ID NO.23で示される配列を含むことを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードする分離したポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13に記載の分離したポリヌクレオチドを含む構造体。
【請求項15】
請求項14に記載の構造体、或いは、ゲノムに外来遺伝子が組み込まれた請求項13に記載のポリヌクレオチドを含む発現システム。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか1項に記載の融合タンパク質の作製方法であって、
請求項15に記載の発現システムを適切な条件で培養し、当該発現システムに前記融合タンパク質を発現させ、分離及び精製することで前記融合タンパク質を提供することを含む方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載の融合タンパク質、又は、請求項15に記載の発現システムの培養物の、薬物の製造における使用。
【請求項18】
前記薬物は、腫瘍の治療に用いられる薬物から選択され、好ましくは、前記腫瘍は、肺癌、黒色腫、胃癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、古典的ホジキンリンパ腫、血液悪性腫瘍、肉腫、頭頸部癌及び鼻咽頭癌から選択されることを特徴とする請求項17に記載の使用。
【請求項19】
請求項1~12のいずれか1項に記載の融合タンパク質、又は請求項15に記載の発現システムの培養物を含む薬物組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に関し、特に、抗癌活性を有するマルチドメイン融合タンパク質とその作製方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞と正常細胞の違いの一つは、成長時の高い代謝要求にある。腫瘍細胞は、血管から栄養物質や酸素が供給されて、代謝産物を処理するとともに、既存の血管上に新生血管の生成を促す。腫瘍から分泌される血管新生促進因子のうち、ヒト血管内皮増殖因子(VEGF)、とりわけVEGF-Aは、腫瘍の血管新生をもたらす重要な因子である(非特許文献1)。そのため、VEGFシグナル経路を阻害することで、多くの腫瘍の進行を制限可能となる。例えば、ベバシズマブ(Bevacizumab,商標名アバスチン(Avastin)(登録商標))は、ヒト化抗-VEGFモノクローナル抗体であって、VEGFと結合することで、VEGFと内皮細胞表面のVEGF受容体(Flt-1及びKDR)との相互作用を遮断可能である。現在、ベバシズマブモノクローナル抗体は、転移性結腸・直腸癌、末期、転移性或いは再発性の非小細胞肺癌及び再発性膠芽腫等の治療への適用がFDAにより認可されている。
【0003】
トランスフォーミング増殖因子TGF-βはサイトカインの一種であり、細胞の成長、分化、増殖及び生存を調節することで組織の恒常性を維持可能とする。腫瘍の初期段階において、TGF-β経路は、細胞周期の停滞やアポトーシスを促進することで腫瘍を制御可能とする。しかし、腫瘍の末期段階になると、TGF-βは、細胞傷害性T細胞を阻害して癌細胞の増殖、浸潤及び転移を促進可能となり、最終的には腫瘍を逃避させてしまう。このような機能の転換は「TGF-βパラドックス」と称される。TGFβシグナル経路は、TH1細胞からTregsへの分化を誘導し、CD8+エフェクターT細胞の活性化を減弱させるとともに、セントラルメモリーT細胞の発育を制限して、腫瘍浸潤T細胞の機能に根本的な影響を及ぼす。哺乳動物において、TGF-βには、主に、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3という3種類のサブタイプが存在する。TGF-βが高水準で発現することで、腫瘍は免疫監視から逃れられるようになる。また、これと一致して、TGF-βが高発現した非小細胞肺癌(NSCLC)、腎細胞癌(CRC)、胃癌及び前立腺癌には、いずれも腫瘍の進行や予後不良が関係してくる(非特許文献2)。このことは、TGF-βとの拮抗が、腫瘍治療における新たな潜在的方向性であることを示している。
【0004】
現在、腫瘍の治療には、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1/PD-L1モノクローナル抗体が幅広く応用されている。また、抗PD-L1モノクローナル抗体であるアベルマブとTGF-β受容体II(TGF-β Trap)を融合させたM7824が臨床段階に進んでいる。しかし、抗PD-1/PD-L1モノクローナル抗体、TGF-βアンタゴニスト及び抗VEGFモノクローナル抗体の組み合わせについては、今のところ報告がない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Josep Garciaほか,2020,Cancer Treatment Reviews 86:1-2
【非特許文献2】Marin-Acevedoほか,Journal of Hematology & Oncology,11:39,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術の欠点に鑑みて、本発明の目的は、従来技術の課題を解決するために、抗癌活性を有するマルチドメイン融合タンパク質とその作製方法及び使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的及び関連するその他の目的を実現するために、本発明は、一の局面において、融合タンパク質を提供する。前記融合タンパク質は、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメント、VEGF拮抗フラグメント、TGF-β結合フラグメントを含む。
【0008】
本発明は、他の局面において、上記の融合タンパク質をコードする分離したポリヌクレオチドを提供する。
【0009】
本発明は、他の局面において、構造体を提供する。前記構造体は、上記の分離したポリヌクレオチドを含む。
【0010】
本発明は、他の局面において、発現システムを提供する。前記発現システムは、上記の構造体、又はゲノムに外来遺伝子が組み込まれた上記のポリヌクレオチドを含む。
【0011】
本発明は、他の局面において、上記の融合タンパク質の作製方法を提供する。当該方法は、上記の発現システムを適切な条件で培養し、当該発現システムに前記融合タンパク質を発現させ、分離及び精製することで前記融合タンパク質を提供することを含む。
【0012】
本発明は、他の局面において、上記の融合タンパク質又は上記の発現システムの培養物の、薬物の製造における使用を提供する。
【0013】
本発明は、他の局面において、上記の融合タンパク質又は上記の発現システムの培養物を含む薬物組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、TAF-6とアバスチンの薬物血中濃度-時間曲線下面積図である。
【
図2】
図2は、PBMC免疫系ヒト化MDA-MB-231乳癌皮下移植腫瘍モデルにおけるマルチドメイン融合タンパク質の腫瘍抑制薬理効果である。
【
図3】
図3は、PBMC免疫系ヒト化MDA-MB-231乳癌皮下移植腫瘍モデルにおけるマルチドメイン融合タンパク質の腫瘍抑制薬理効果である。
【
図4】
図4は、PBMC免疫系ヒト化MDA-MB-231乳癌皮下移植腫瘍モデルにおけるマルチドメイン融合タンパク質TAF-6、M7824類似体、アバスチンの腫瘍抑制薬理効果である。
【
図5】
図5は、PBMC免疫系ヒト化Calu-6肺癌皮下移植腫瘍モデルにおけるマルチドメイン融合タンパク質の腫瘍抑制薬理効果である。
【
図6】
図6は、PBMC免疫系ヒト化Calu-6肺癌皮下移植腫瘍モデルにおけるマルチドメイン融合タンパク質TAF-6、M7824類似体、アバスチンの腫瘍抑制薬理効果である。
【
図7】
図7は、PBMC免疫系ヒト化HCT116結腸癌皮下移植腫瘍モデルにおけるマルチドメイン融合タンパク質の腫瘍抑制薬理効果である。
【
図8】
図8は、PBMC免疫系ヒト化Huh-7肝臓癌皮下移植腫瘍モデルにおけるマルチドメイン融合タンパク質の腫瘍抑制薬理効果である。
【
図9】
図9は、PBMC免疫系ヒト化Huh-7肝臓癌皮下移植腫瘍モデルにおけるマルチドメイン融合タンパク質TAF-6、M7824類似体、アバスチンの腫瘍抑制薬理効果である。
【
図10】
図10は、PBMC免疫系ヒト化HT1080肉腫皮下移植腫瘍モデルにおけるマルチドメイン融合タンパク質の腫瘍抑制薬理効果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の発明者は、膨大な探求・研究を通じて、想定外に一種の融合タンパク質分子を発見した。当該融合タンパク質分子は、PD-L1/PD-1の相互作用を遮断する抗PD-L1モノクローナル抗体の機能と、毛細血管の成長を減少させ、転移性疾患を抑制するVEGF拮抗モノクローナル抗体の機能と、腫瘍微小環境においてTGF-βが引き起こすT細胞の機能異常を改善し、免疫応答を強化するTGF-β受容体の機能を組み合わせることが可能であり、優れた腫瘍抑制効果を有する。これに基づき、本発明を完成させた。
【0016】
本発明は、第1の局面において、融合タンパク質を提供する。前記融合タンパク質は、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメント、VEGF拮抗フラグメント、TGF-β結合フラグメントを含む。上記の融合タンパク質において、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、通常、PD-L1/PD-1の相互作用を遮断し、T細胞におけるIFN-γ及び/又はIL-2の発現を向上させることで、腫瘍の成長を抑制するために使用可能である。また、VEGF拮抗フラグメントは、通常、FcRn受容体と結合可能なFc部分を含み得る。これにより、体内半減期を延長可能にするとともに、Fc受容体を発現するエフェクター細胞と結合することで癌細胞を殺傷する作用も奏し得る。また、TGF-β結合フラグメントは、腫瘍微小環境において過剰に発現したTGF-βを除去することで、腫瘍浸潤T細胞による腫瘍細胞の殺傷機能を向上可能とする。
【0017】
本発明で提供する融合タンパク質は、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントを含み得る。通常、上記の抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、PD-L1と特異的に結合可能なポリペプチド又はタンパク質フラグメントとすることができる。通常、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、対応する抗体軽鎖が欠如しており、重鎖可変領域に対応するフラグメントのみを有する。抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントの結合特性は、通常、当該フラグメントに含まれる3つの相補性決定領域(CDR,complementarity determining region)により決定可能である。CDR領域は、フレームワーク領域(FR,framework region)と秩序を持って並び得る。FR領域は結合反応には直接関与しない。これらのCDRは環状構造を形成可能である。CDRは、これらの間のFRが形成するβシートを通じて空間構造内で互いに近接し、抗体の抗原結合部位を構成する。例えば、上記の抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントの相補性決定領域(CDR)は、アミノ酸配列がSEQ ID NO.1~5のいずれかで示されるCDR1、SEQ ID NO.6~9のいずれかで示されるCDR2、SEQ ID NO.10~15のいずれかで示されるCDR3を含み得る。
【0018】
本発明の具体的実施例において、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントの相補性決定領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO.1で示されるCDR1、SEQ ID NO.6で示されるCDR2、SEQ ID NO.10で示されるCDR3を含む。
【0019】
本発明の別の具体的実施例において、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントの相補性決定領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO.2で示されるCDR1、SEQ
ID NO.7で示されるCDR2、SEQ ID NO.11で示されるCDR3を含む。
【0020】
本発明の別の具体的実施例において、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメント
の相補性決定領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO.3で示されるCDR1、SEQ
ID NO.7で示されるCDR2、SEQ ID NO.12で示されるCDR3を含む。
【0021】
本発明の別の具体的実施例において、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントの相補性決定領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO.4で示されるCDR1、SEQ
ID NO.8で示されるCDR2、SEQ ID NO.13で示されるCDR3を含む。
【0022】
本発明の別の具体的実施例において、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントの相補性決定領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO.2で示されるCDR1、SEQ
ID NO.7で示されるCDR2、SEQ ID NO.14で示されるCDR3を含む。
【0023】
本発明の別の具体的実施例において、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントの相補性決定領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO.5で示されるCDR1、SEQ
ID NO.9で示されるCDR2、SEQ ID NO.15で示されるCDR3を含む。
【0024】
上記の抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、更に、フレームワーク領域(FR,framework region)を含んでもよい。上述したように、CDR領域はFR領域と秩序を持って並び得る。例えば、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、N末端からC末端にかけて、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4を順に含み得る。フレームワーク領域FRは、アミノ酸配列がSEQ ID NO.49で示されるFR1、アミノ酸配列がSEQ ID NO.50~52のいずれかで示されるFR2、アミノ酸配列がSEQ ID NO.53~55のいずれかで示されるFR3、及びアミノ酸配列がSEQ ID NO.56で示されるFR4、を含む。
【0025】
本発明の具体的実施例において、前記フレームワーク領域FRは、アミノ酸配列がSEQ ID NO.49で示されるFR1、SEQ ID NO.50で示されるFR2、SEQ ID NO.53で示されるFR3、SEQ ID NO.56で示されるFR4、或いは、アミノ酸配列がSEQ ID NO.49で示されるFR1、SEQ ID NO.51で示されるFR2、SEQ ID NO.54で示されるFR3、SEQ ID NO.56で示されるFR4、或いは、アミノ酸配列がSEQ ID NO.49で示されるFR1、SEQ ID NO.52で示されるFR2、SEQ ID NO.54で示されるFR3、SEQ ID NO.56で示されるFR4、或いは、アミノ酸配列がSEQ ID NO.49で示されるFR1、SEQ ID NO.52で示されるFR2、SEQ ID NO.55で示されるFR3、SEQ ID NO.56で示されるFR4、を含む。
【0026】
本発明の別の具体的実施例において、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、a)アミノ酸配列がSEQ ID NO.16~21のいずれかで示されるポリペプチドフラグメント、或いは、b)アミノ酸配列がSEQ ID NO.16~21のいずれかと80%以上の配列同一性を有しており、且つ、a)で限定したポリペプチドフラグメントの機能を有するポリペプチドフラグメント、を含み得る。具体的に、上記b)のポリペプチドフラグメントは、SEQ ID NO.16~21のいずれかで示されるアミノ酸配列が、1又は複数(具体的には、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個又は1~3個とすることができる)のアミノ酸の置換、欠損又は添加を経て得られるものであるか、或いは、N-末端及び/又はC-末端に1又は複数(具体的には、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個又は1~3個とすることができ
る)のアミノ酸を添加することで得られるものである。且つ、アミノ酸配列がSEQ ID NO.16~21のいずれかで示されるポリペプチドフラグメントの機能を有するポリペプチドフラグメントは、例えば、PD-L1と特異的に結合する能力を有していてもよいし、PD-L1/PD-1の相互作用を遮断することでPD-L1/PD1経路を遮断可能であってもよいし、T細胞におけるIFN-γ及び/又はIL-2の発現を向上させる機能を有していてもよいし、腫瘍の成長を抑制する機能を有していてもよい。上記b)の抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.16~21のいずれかと80%、85%、90%、93%、95%、97%又は99%以上の同一性を有していてもよい。通常、上記の抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、アルパカ(Vicugna pacos)から入手可能であり、例えば、CDR領域をアルパカから入手してもよい。また、通常、上記の抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントはヒト化してもよく、例えば、フレームワーク領域をヒトから入手してもよい。
【0027】
本文中において、配列同一性(sequence identity)とは、比較対象の配列における同一残基のパーセンテージを意味する。当該分野において周知の演算ソフトを利用すれば、標的とする2つ又は複数の配列について配列同一性を演算可能である。これらのソフトウェアは、例えばNCBIから入手できる。
【0028】
本発明で提供する融合タンパク質は、VEGF拮抗フラグメントを含み得る。通常、上記のVEGF拮抗フラグメントは、VEGFに拮抗可能なポリペプチド又はタンパク質フラグメントとすることができる。例えば、上記のVEGF拮抗フラグメントはモノクローナル抗体等としてもよい。また、例えば、上記のVEGF拮抗フラグメントはベバシズマブ等としてもよい。
【0029】
本発明の具体的実施例において、VEGF拮抗フラグメントは、c)アミノ酸配列がSEQ ID NO.22~23のいずれかで示されるポリペプチドフラグメント、d)アミノ酸配列がSEQ ID NO.22~23のいずれかと80%以上の配列同一性を有しており、且つ、c)で限定したポリペプチドフラグメントの機能を有するポリペプチドフラグメント、を含み得る。具体的に、上記d)のアミノ酸配列とは、SEQ ID NO.22~23のいずれかで示されるアミノ酸配列が、1又は複数(具体的には、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、1~3個、1個、2個又は3個とすることができる)のアミノ酸の置換、欠損又は添加を経て得られるものであるか、或いは、N-末端及び/又はC-末端に1又は複数(具体的には、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、1~3個、1個、2個又は3個とすることができる)のアミノ酸を添加することで得られるものである。且つ、アミノ酸配列がSEQ ID NO.22~23のいずれかで示されるポリペプチドフラグメントの機能を有するポリペプチドフラグメントは、例えば、VEGFに拮抗する機能を有していてもよいし、FcRn受容体と結合可能なFc部分の機能を有していてもよい。これにより、体内半減期を延長可能になるとともに、Fc受容体を発現するエフェクター細胞と結合することで癌細胞を殺傷する作用を奏することも可能となる。上記d)のアミノ酸配列は、SEQ ID NO.22~23のいずれかと80%、85%、90%、93%、95%、97%又は99%以上の同一性を有していてもよい。通常、上記のVEGF拮抗フラグメントは、マウス(Mus musculus)から入手可能であり、例えば、CDR領域をマウスから入手してもよい。また、通常、上記のVEGF拮抗フラグメントはヒト化してもよく、例えば、フレームワーク領域をヒトから入手してもよい。
【0030】
本発明で提供する融合タンパク質は、TGF-β結合フラグメントを含み得る。通常、上記のTGF-β結合フラグメントは、各TGF-βの異性体(例えば、TGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3等)に特異的に結合可能である。通常、TGF-βの異性
体は、多種類の悪性腫瘍に高発現し、臨床治療効果を悪化させる重要要素の一つとなる可能性が高い。例えば、TGF-β結合フラグメントは、TGF-βRII(TGF-β受容体II)細胞外領域構造のフラグメントとしてもよい。
【0031】
本発明の具体的実施例において、TGF-β結合フラグメントは、e)アミノ酸配列がSEQ ID NO.24で示されるポリペプチドフラグメント、f)アミノ酸配列がSEQ ID NO.24と80%以上の配列同一性を有しており、且つ、e)で限定したポリペプチドフラグメントの機能を有するポリペプチドフラグメント、を含み得る。具体的に、上記f)のアミノ酸配列とは、SEQ ID NO.24で示されるアミノ酸配列が、1又は複数(具体的には、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、1~3個、1個、2個又は3個とすることができる)のアミノ酸の置換、欠損又は添加を経て得られるものであるか、或いは、N-末端及び/又はC-末端に1又は複数(具体的には、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、1~3個、1個、2個又は3個とすることができる)のアミノ酸を添加することで得られるものである。且つ、アミノ酸配列がSEQ ID NO.24で示されるポリペプチドフラグメントの機能を有するポリペプチドフラグメントは、例えば、各TGF-βの異性体(例えば、TGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3等)に結合可能である。これにより、腫瘍微小環境において過剰に発現したTGF-βを除去可能となり、腫瘍浸潤T細胞による腫瘍細胞の殺傷機能を向上させることも可能となる。上記f)のアミノ酸配列は、SEQ ID NO.24と80%、85%、90%、93%、95%、97%又は99%以上の同一性を有していてもよい。通常、上記のTGF-β結合フラグメントは、ヒト(homo sapiens)から入手可能である。
【0032】
本発明で提供する融合タンパク質は、更に、連結ペプチドフラグメントを含んでもよい。通常、前記融合タンパク質は複数の連結ペプチドフラグメントを含むことができ、少なくとも一部のドメイン又は各ドメイン間に連結ペプチドフラグメントが設けられてもよい。例えば、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントとVEGF拮抗フラグメントの間に連結ペプチドが設けられてもよい。また、例えば、VEGF拮抗フラグメントとTGF-β結合フラグメントの間に連結ペプチドが設けられてもよい。通常、上記の連結ペプチドフラグメントは、G、S及び/又はAを豊富に含む(グリシン(G)、セリン(S)及び/又はアラニン(A)で主に構成される)適切な長さの柔軟なポリペプチドとすることができる。これにより、隣接するタンパク質のドメインを互いに相対的に自由に移動可能とできる。例えば、前記連結ペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、(GS)n、(GGS)n、(GGSG)n、(GGGS)nA、(GGGGS)nA、(GGGGS)nG、(GGGGA)nA、(GGGGG)nA等の配列を含んでもよい。なお、nは1~10の間の整数から選択される。本発明の具体的実施例において、前記連結ペプチドフラグメントのアミノ酸配列の長さは、3~30、3~4、4~6、6~8、8~10、10~12、12~14、14~16、16~18、18~20、20~22、22~24、24~26、26~28又は28~30としてもよい。本発明の更に好ましい具体的実施例において、前記連結ペプチドフラグメントは、アミノ酸配列がSEQ ID NO.34~36のいずれかで示されるポリペプチドフラグメントを含み得る。
【0033】
本発明で提供する融合タンパク質において、融合タンパク質は線形としてもよい。例えば、融合タンパク質は、N末端からC末端にかけて、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメント、VEGF拮抗フラグメント、TGF-β結合フラグメントを順に含んでもよい。また、融合タンパク質は、モノクローナル抗体と類似の構造を有してもよい。例えば、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、VEGF拮抗フラグメントの重鎖のN末端に位置してもよい。また、例えば、抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントは、VEGF拮抗フラグメントの軽鎖のN末端に位置してもよい。また、例えば、TGF-β結合フラグメントは、VEGF拮抗フラグメントの重鎖のC末端に位置しても
よい。本発明の具体的実施例において、前記融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO.23、SEQ ID NO.25~33のいずれかで示される配列を含み得る。例えば、前記融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO.25及びSEQ ID NO.26で示される配列、SEQ ID NO.25及びSEQ ID NO.27で示される配列、SEQ ID NO.25及びSEQ ID NO.28で示される配列、SEQ ID NO.25及びSEQ ID NO.29で示される配列、SEQ ID NO.30及びSEQ ID NO.27で示される配列、SEQ ID NO.30及びSEQ
ID NO.29で示される配列、SEQ ID NO.31及びSEQ ID NO.23で示される配列、SEQ ID NO.32及びSEQ ID NO.23で示される配列、SEQ ID NO.33及びSEQ ID NO.23で示される配列を含み得る。
【0034】
本発明は、第2の局面において、本発明の第1の局面で提供した融合タンパク質をコードする分離したポリヌクレオチドを提供する。上記のポリヌクレオチドは、RNA、DNA又はcDNA等とすることができる。前記分離したポリヌクレオチドを提供する方法は、当業者にとって既知のものとすべきである。例えば、自動DNA合成及び/又は組換えDNA技術等の方法で作製して取得してもよいし、適切な天然源から分離してもよい。
【0035】
本発明は、第3の局面において、構造体を提供する。上記の構造体は、本発明の第2の局面で提供した分離したポリヌクレオチドを含む。上記の構造体を適切に作製する方法は、当業者にとって既知のものとすべきである。例えば、前記構造体は、生体外組換えDNA技術、DNA合成技術、生体内組換え技術等の方法で作製して取得可能であり、より具体的には、上記の分離したポリヌクレオチドを発現ベクターのマルチクローニングサイトに挿入することで作製可能である。本発明における発現ベクターとは、通常、当該分野において熟知されている市販の各種発現ベクター等のことであり、例えば、細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物細胞ウイルス(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)、又はその他のベクターとすることができる。通常、適切なベクターは、少なくとも1つの有機体において役割を発揮する複製開始点、プロモーター配列、便利な制限酵素部位、及び1又は複数の選択可能なマーカーを含み得る。例えば、これらのプロモーターには、大腸菌のlac又はtrpプロモーター、λファージのPLプロモーター、真核プロモーター(CMV主要前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期及び後期SV40プロモーター、ピキア・パストリスのメタノールオキシダーゼプロモーターを含む)、及びその他の制御可能な既知の遺伝子が原核又は真核細胞或いはそのウイルス内で発現するプロモーターが含まれ得るが、これらに限らない。マーカー遺伝子は、形質転換した宿主細胞を選択するための表現型及び性状を付与するために使用可能である。例えば、真核細胞培養用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性及び緑色蛍光タンパク質(GFP)、或いは、大腸菌に用いられるテトラサイクリン又はアンピシリン耐性等が含まれ得るが、これらに限らない。上記のポリヌクレオチドを発現する場合には、発現ベクターにエンハンサー配列を含んでもよい。ベクターにエンハンサー配列を挿入すれば、転写が強化される。エンハンサーはDNAのシスエレメントであり、通常は約10~300個の塩基対を有している。エンハンサーがプロモーターに作用することで、遺伝子の転写が強化される。
【0036】
本発明は、第4の局面において、発現システムを提供する。上記の融合タンパク質を発現できるよう、前記発現システムは、本発明の第3の局面で提供した構造体、或いは、ゲノムに外来遺伝子が組み込まれた本発明の第2の局面で提供したポリヌクレオチドを含む。上記の発現システムは宿主細胞としてもよい。発現ベクターの発現に適用されるあらゆる細胞は、いずれも宿主細胞となり得る。例えば、宿主細胞は、細菌細胞のような原核細胞、或いは、酵母細胞や糸状真菌細胞のような下等真核細胞、或いは、哺乳動物細胞のような高等真核細胞とすることができる。代表的な例としては、大腸菌、ストレプトマイセス属、サルモネラ・ティフィムリウムの細菌細胞、例えば、酵母、糸状真菌、植物細胞の
ような真菌細胞、ショウジョウバエS2又はSf9の昆虫細胞、CHO、COS、293細胞、或いはBowes悪性黒色腫細胞の動物細胞等がある。構造体を宿主細胞に導入する方法は当業者にとって既知のものとすべきであり、例えば、マイクロインジェクション法、パーティクル・ガン法、電気穿孔法、ウイルス媒介性形質転換法、電子衝撃法、リン酸カルシウム共沈殿法等の方法とすることができる。
【0037】
本発明は、第5の局面において、本発明の第1の局面で提供した融合タンパク質の作製方法を提供する。当業者は、適切な方法を選択して前記融合タンパク質を作製可能である。例えば、前記作製方法は以下を含み得る。即ち、本発明の第4の局面で提供した発現システムを適切な条件で培養し、当該発現システムに前記融合タンパク質を発現させて、前記融合タンパク質を含有する培養物を収集する。その後、分離及び精製することで前記融合タンパク質を提供する。
【0038】
本発明は、第6の局面において、薬物の製造における本発明の第1の局面で提供した融合タンパク質と、本発明の第4の局面で提供した発現システムの培養物の使用を提供する。上記の薬物は、腫瘍の治療に用いられる薬物とすることができる。腫瘍とは、例えば、癌又は固形腫瘍とすることができ、具体的には、肺癌、黒色腫、胃癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、古典的ホジキンリンパ腫、血液悪性腫瘍、肉腫、頭頸部癌及び鼻咽頭癌等とすることができる。また、これらの癌は、初期、中期又は末期とすることができ、例えば転移癌等であってもよい。
【0039】
本発明は、第7の局面において、本発明の第1の局面で提供した融合タンパク質又は本発明の第4の局面で提供した発現システムの培養物を含む薬物組成物を提供する。通常、上記の薬物組成物における融合タンパク質又は培養物の含有量は治療有効量である。本発明において、通常、「治療有効量」とは、適切な投与期間を経たあと、疾病症状の大幅な軽減や、疾病無症状期の頻度及び持続期間の増加、或いは、疾病の苦痛に起因する損傷又は機能喪失の防止が可能となる用量のことである。腫瘍の成長を抑制する能力は、ヒト腫瘍に対する治療効果を予測するための動物モデルシステムで評価可能である。或いは、細胞の成長を抑制する能力を検査することで評価してもよい。このような抑制は、当業者にとって公知の実験を通じて生体外で測定可能である。治療有効量の融合タンパク質、薬物組成物によって、通常は、腫瘍の大きさを縮小することが可能である。或いは、その他の方式で対象の症状を緩和することができる。当業者は、例えば、対象の大きさ、対象症状の重大性、及び選択した特定の組成物又は投与経路といった実際の状況に応じて適切な治療有効量を選択すればよい。治療の処方(例えば、投与量の決定等)は医師により定めてもよい。また、通常考慮する要因には、治療しようとする疾病、患者の個別の状況、送達部位、適用方法及びその他の要因等が含まれるがこれらに限らない。
【0040】
本発明で提供する薬物組成物は、更に、薬学的に許容可能なベクターを含んでもよい。上記のベクターは、各種の賦形剤及び希釈剤を含み得るが、これらのベクター自体は必須の活性成分ではなく、且つ投与後に過度な毒性を有さない。適切なベクターは、当業者が熟知するものとすべきであり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.,N.J.,1991)から、薬学的に許容可能なベクターについての十分な議論を得ることができる。
【0041】
本発明は、第8の局面において、個体に対し、本発明の第1の局面で提供した融合タンパク質、本発明の第4の局面で提供した発現システムの培養物、又は、本発明の第7の局面で提供した薬物組成物を治療有効量だけ投与することを含む治療方法を提供する。
【0042】
本発明において、「治療」には、理想的な薬学的及び/又は生理学的効果をもたらし得る予防的、治愈的又は緩和的な操作が含まれる。治療効果とは、好ましくは、疾病の1又
は複数の症状を医療的に減少させられること、或いは、疾病を完全に除去できること、或いは、疾病の発生を停滞、遅延させられること、及び/又は、疾病の進行又は悪化のリスクを低下させられることを意味する。
【0043】
本発明において、「個体」には、通常、ヒト、ヒト以外の霊長類又はその他の哺乳動物(例えば、犬、猫、馬、羊、ブタ、牛等)が含まれる。「個体」は、前記製剤、試薬キット又は配合剤を用いて治療することで利益を獲得可能である。
【0044】
本発明において、上記の融合タンパク質、発現システムの培養物又は薬物組成物は、単一の有効成分としてもよいし、併用療法で投与するためにその他の薬剤と併用してもよい。例えば、上記の抗癌活性を有するマルチドメイン融合タンパク質、発現システムの培養物又は薬物組成物をその他の少なくとも1種類の抗腫瘍薬と組み合わせてもよい。また、例えば、上記の抗癌活性を有するマルチドメイン融合タンパク質、発現システムの培養物又は薬物組成物をその他の腫瘍特異性抗原を標的とする抗体と組み合わせて使用してもよい。
【0045】
本発明で提供する抗癌活性を有するマルチドメイン融合タンパク質は、1つの抗体融合タンパク質分子において、PD-L1/PD-1の相互作用を遮断する抗PD-L1モノクローナル抗体の機能と、毛細血管の成長を減少させ、転移性疾患を抑制する抗VEGFモノクローナル抗体の機能と、TGF-βシグナルに対する癌細胞の耐性を解除して免疫応答を強化するTGF-β受容体の機能を有機的に組み合わせることが可能なため、腫瘍の治療に使用可能であり、良好な産業化の展望を有する。
【0046】
以下に、特定の具体的実施例を通じて、本発明の実施形態につき説明する。なお、当業者であれば、本明細書に開示した内容から本発明のその他の利点及び効果を容易に理解可能である。更に、本発明は、その他の異なる具体的実施形態によっても実施又は応用可能である。また、本明細書の各詳細は、異なる視点及び応用に基づき、本発明の精神を逸脱しないことを前提に各種の補足又は変更が可能である。
【0047】
本発明の具体的実施形態について更に記載する前に、理解すべき点として、本発明の保護の範囲は後述する特定の具体的実施方案に限らない。また、更に理解すべき点として、本発明の実施例で使用する用語は特定の具体的実施方案を記載するためのものであって、本発明の保護の範囲を制限するものではない。
【0048】
実施例で数値範囲を示している場合には、本発明において別途説明している場合を除き、各数値範囲の2つの端点及び2つの端点間の任意の数値をいずれも選択可能であると解釈すべきである。また、別途定義している場合を除き、本発明で使用するあらゆる技術及び科学用語は、当業者が一般的に理解する意味と同じである。更に、実施例で使用している具体的方法、デバイス、材料のほかに、当業者による従来技術の理解及び本発明の記載に基づいて、本発明の実施例で述べる方法、デバイス、材料と類似又は同等の従来技術における任意の方法、デバイス及び材料を用いて本発明を実現してもよい。
【0049】
別途説明している場合を除き、本発明で開示する実験方法、検出方法、作製方法は、いずれも当該技術分野において一般的な分子生物学、生化学、クロマチン構造及び分析、分析化学、細胞培養、組換えDNA技術及び関連分野における一般的技術を用いている。これらの技術は、従来の文献で完全に説明されており、具体的には、Sambrookほか,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory
Press,1989 and Third edition,2001、Ausubelほか,CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,
John Wiley&Sons,New York,1987 and periodic
updates、the series METHODS IN ENZYMOLOGY,Academic Press,San Diego、Wolffe,CHROMATIN
STRUCTURE AND FUNCTION,Third edition,Academic Press,San Diego,1998、METHODS IN ENZYMOLOGY,Vol.304,Chromatin(P.M.Wassarman and A.P.Wolffe,eds.),Academic Press,San Diego,1999、及び、METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,Vol.119,Chromatin Protocols(P.B.Becker,ed.)Humana Press,Totowa,1999等の文献を参照すればよい。
【実施例1】
【0050】
実施例1融合タンパク質の構築と組換え・発現・作製
CHO細胞のコドンバイアスに基づいて、表1のマルチドメイン融合タンパク質のアミノ酸配列、PD-L1-Fc融合タンパク質(SEQ ID NO.47)及びFc-TGFβRII融合タンパク質(SEQ ID NO.48)の各々を塩基配列にそれぞれ変換した。そして、重鎖及び軽鎖のコード配列の5’末端にHindIII酵素切断部位及びKozak配列(GCCACC)をそれぞれ導入し、3’末端に終止コドン及びEcoRI酵素切断部位を導入して、遺伝子合成(通用生物系統(安徽)有限公司)によりDNAの全長を取得した。次に、合成した重鎖及び軽鎖のコード遺伝子について、HindIII-HF(NEB社より購入。R3104V)及びEcoRI-HF(NEB社より購入。R3101V)によるダブルダイジェストをそれぞれ行い、アガロースゲルDNA/PCR産物少量回収試薬キット(Biomiga社より購入)を用いてゲルから切断・回収した。そして、T4リガーゼ(NEB社より購入。M0202V)を用い、HindIII及びEcoRIによるダブルダイジェストを同様に行ったpCDNA3.1(+)ベクターと連結することでTop10コンピテント状態に形質転換してから、LBアンピシリン耐性プレートに塗布して培養した。続いて、クローンを選択して鑑定し、シーケンスを確認して、pCDNA3.1(+)をベースとする重鎖及び軽鎖の発現プラスミドをそれぞれ構築した。次に、エンドトキシンフリープラスミドマキシキット(Biomiga社より購入。BW-PD3511-02)を用い、重鎖及び軽鎖の発現プラスミドをそれぞれ抽出して、これらを1:1で混合した。そして、1.0mgの混合プラスミドを取り、Wayne293発現培地(中山康晟社より購入。A21501)を用いて25mLまで希釈した。続いて、3.0mgのPEI(線形、25KD、ポリサイエンス社)を取り、Wayne293発現培地を用いて25mlまで希釈したあとプラスミド溶液に加え、均一に混合してから室温で30分間培養した。また、対数増殖期のHek293F細胞(生存率>95%)を取ってカウントした。これを1100rpmで10分間遠心分離にかけ、上清を廃棄してから、450mLのWayne293発現培地を用いて細胞を再懸濁した。そして、上記のプラスミド-PEI混合物を細胞懸濁液に加え、37℃、5%CO2の振とう培養機で7日間培養したあと、遠心分離にかけて上清を取り、後続のタンパク質の精製に用いた。
【0051】
【実施例2】
【0052】
実施例2マルチドメイン融合タンパク質の精製
2.1 抗PD-L1シングルドメイン抗体が抗VEGFモノクローナル抗体の重鎖のN末端に位置する場合
細胞発酵上清をpH7.0に調節してから、Protein Aアフィニティークロマトグラフィーカラム(博格隆生物技術有限公司)にサンプル投入し、平衡溶液を20mM
PB、0.15M NaCl(pH=7.0)として、100% 0.1M Gly-HCl(pH=3.0)で溶出させた。溶出液には、10% 1M Tris-HCl(pH=8.5)を予め加えた。次に、100%の溶出液をコンダクタンス<3ms/cmまで希釈し、上清液をpH7.0に調整してからDSPクロマトグラフィーカラム(博格隆生物技術有限公司)にサンプル投入して、15%及び100%でそれぞれ溶出させた(20mM PB、0.5M NaCl、pH7.0)。これにより、目的のタンパク質である15%の溶出成分を取得した。また、UV280法でタンパク質濃度を測定した。
【0053】
2.2 抗PD-L1シングルドメイン抗体が抗VEGFモノクローナル抗体の軽鎖のN末端に位置する場合
細胞発酵上清をpH7.0に調節してから、Protein Aアフィニティークロマトグラフィーカラム(博格隆生物技術有限公司)にサンプル投入し、平衡溶液を20mM
PB、0.15M NaCl(pH=7.0)として、100% 0.1M Gly-HCl(pH=3.0)で溶出させた。溶出液には、10% 1M Tris-HCl(pH=8.5)を予め加えた。次に、100%の溶出液をコンダクタンス4ms/cmまで希釈して、Super Q(東ソー社)クロマトグラフィーカラムにサンプル投入し、平衡溶液を20mM Tris,pH8、溶出液を500mM NaCl+20mM Tris(pH=8.0)として、35%及び100%でそれぞれ溶出させた。そして、フロースルーにより余分な軽鎖を除去して、目的のタンパク質である35%の溶出成分を取得した。また、UV280法でタンパク質濃度を測定した。
【0054】
純度チェックにはSEC-HPLC-UV分析を使用した。検出器はAgilent 1100 LC、検出波長は214nm、流動相は150mM pH7.0 PB+5%イソプロパノール、クロマトグラフィーカラムはSuperdex 200 Increase 5/150 GL、動作時間は15分、カラム温度は25℃とした。検出の結果、純度はいずれも95%を超えることが示された。
【0055】
PD-L1-Fc融合タンパク質(SEQ ID NO.47)及びFc-TGFβRII融合タンパク質(SEQ ID NO.48)の精製:
細胞発酵上清をpH7.0に調節してから、Protein Aアフィニティークロマトグラフィーカラム(博格隆生物技術有限公司)にサンプル投入し、平衡溶液を20mM
PB、0.15M NaCl(pH=7.0)として、100% 0.1M Gly-HCl(pH=3.0)で溶出させた。溶出液には、中和のために10% 1M Tris-HCl(pH=8.5)を予め加えた。
【実施例3】
【0056】
実施例3マルチドメイン融合タンパク質のインビトロでの機能鑑定
3.1 抗PD-L1シングルドメイン抗体フラグメントのインビトロ活性検出:
CD5L-OKT3scFv-CD14の遺伝子配列(GenBank:ADN42857.1)を合成し、HindIII-EcoRI(タカラ社)を用いて酵素切断したあと、ベクターpCDNA3.1に挿入してpCDNA3.1-antiCD3TMを作製した。次に、ヒトPD-L1遺伝子(GenBank:NM_014143.2)を鋳型とし、ハイフィデリティー増幅によりPDL1フラグメントを取得して、組換え連結によりpCDNA3.1-antiCD3TMに挿入することでpCDNA3.1-antiCD3TM-PDL1を作製した。続いて、CHO細胞(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)にトランスフェクションしてから、G418を用いて10-14dを選択し、安定細胞系CHO-antiCD3TM-PDL1を産生した。
【0057】
ヒトPD1遺伝子(GenBank:NP_005009.2)を鋳型とした増幅により取得したフラグメントを、HindIII-BamHI(タカラ社)で酵素切断したPB513B1-dual-puroベクター(優宝生物社)と組換え連結することで、プラスミドpB-PD1を作製した。次に、pGL4.30(優宝生物社)を鋳型としてハイフィデリティー増幅し、回収したフラグメントを、SfiI-XbaI(タカラ社)で酵素切断したpB-PD1ベクターと組換え連結することで、pB-NFAT-Luc2p-PD1プラスミドを作製した。プラスミドの作製に成功したあと、エンドトキシンフリープラスミドマキシキット(Biomiga社)を用いてプラスミドを抽出し、Jurkat細胞(中国科学院幹細胞バンク)へのトランスフェクションに用いた。中国特許出願公開第107022571A号の方法を参照し、0.1mg/mlのポリ-D-リシンを用いてJurkat細胞を単層培養状態となるよう処理したあと、リポソームトランスフェクション試薬キット(Lipofectamine 3000、インビトロジェン社)のトランスフェクション解説に基づき、Jurkat細胞にトランスフェクションした。そして、3日目に、10%FBSと2.5μg/mlのピューロマイシンを含有するRPMI 1640培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて加圧スクリーニングを行った。その後、一定時間置きに培地を補充し、細胞生存率が回復してからピューロマイシンの含有量を4μg/mlまで徐々に増加させた。これにより、最終的に、モノクローンのJurkat-NFAT-Luc2p-PD1細胞株を取得した。
【0058】
CHO-antiCD3TM-PDL1及びJurkat-NFAT-Luc2p-PD1細胞を採取してカウントし、細胞密度を4×106/mlに調整してから、各細胞を96ウェルマイクロプレートに1ウェルあたり25μlずつ加えた。次に、1%BSAを用い、実施例2で作製した融合タンパク質サンプルをそれぞれ段階希釈して、50μlを細胞に加えた。これを、37℃、5%CO2で6h共培養したあと、1ウェルあたり10μlのルシフェラーゼ基質(プロメガ社、E2620)を加え、振とう器で2min振とうしてから数値を読んだ。操作については、試薬キットの説明通りとした。
【0059】
3.2 VEGF拮抗フラグメントのインビトロ活性検出:
HEK293細胞を6ウェル細胞培養プレートに1ウェルあたり1.0×106細胞でプレーティングし、37℃、5%CO2のインキュベーター内で一晩培養した。また、トランスフェクション試薬Lipofectamine(登録商標)3000の説明書に従
って、pcDNA-KDRプラスミドが1.0μg、pGL4.30プラスミドが4μgのトランスフェクション系を作製した。48時間のトランスフェクション後に、細胞は10cmの細胞培養シャーレいっぱいに増大した。これに、G418を200μg/ml、ハイグロマイシンを100μg/ml加えた。そして、明らかなクローン群が成長するまで、3日ごとに新鮮な加圧培地に交換した。次に、細胞を消化して96ウェル細胞培養プレートにプレーティングし、モノクローンが成長したあと、0.1μg/mlのVEGFで6時間刺激してから化学発光の状況を検出した。そして、シグナル反応が明らかなクローンを選択し、引き続き増大させるよう培養した。これにより、最終的に、モノクローンのHEK293-NFAT-KDRを取得した。HEK293-NFAT-KDR細胞は、4万個/ウェルの密度でプレーティングし、アキュターゼで消化した。そして、消化した細胞を収集し、1000rpmで5分間遠心分離にかけ、上清を廃棄して、分析培養液(DMEM+5%FBS)を加えて細胞を再懸濁した。また、細胞をカウントし、細胞密度が1.6×106/mlとなるよう調整してから、1ウェルあたり25μlとなるよう96ウェル細胞培養プレートにプレーティングした。次に、分析培養液を用いてVEGF溶液を調製し、濃度を60ng/mlとして、1ウェルあたり25μlで細胞培養プレートに加えた。そして、実施例2で作製及び取得した融合タンパク質を分析培養液で調製し、1ウェルあたり25μlで細胞培養プレートに加えて、37℃、5%CO2で6hインキュベート及び培養した。また、各ウェルに10μlのBright-Gloルシフェラーゼアッセイ試薬(プロメガ社、E2620)を加え、2分間振とうさせてから、80μlの破砕液を酵素標識ホワイトプレートに移し、酵素結合免疫測定装置の数値を読んだ。
【0060】
3.3 TGF-β結合フラグメントのインビトロ細胞活性検出:
マウスの乳癌細胞4T1を細胞が90%程度を満たすまで培養し(10cmシャーレ)、パンクレアチンで消化した。そして、細胞を4×105個/ウェルで6ウェルマイクロプレートにプレーティングし、一晩培養した。次に、抽出したpGL4.48[luc2P SBE Hygro]プラスミドサンプルをLipofectamine(登録商標)3000で4T1細胞にトランスフェクションした。そして、トランスフェクションから24h後に、取得したTGFβ-4T1細胞をパンクレアチンで消化して10cmシャーレに移し、10%FBS及び150μg/mlのハイグロマイシン(InvivoGen社、Cat no.:ant-hg-1)を含有するRPMI 1640培地を用いて細胞を加圧スクリーニングした。続いて、加圧スクリーニングから10~15d後のTGFβ-4T1細胞を2個/ウェルでプレーティングし、モノクローナルスクリーニングを行った。そして、TGFβ1(Novoprotein社、10μg、Cat no.:CA59)でモノクローナル細胞を刺激し、モノクローンのトランスフェクション効果を検証して、最終的にTGFβ-4T1モノクローナル細胞を取得した。
【0061】
TGFβ-4T1細胞が90%程度を満たすまで成長したあと、2.5ml程度の0.25%パンクレアチンを加えて消化した。消化は室温で2min行った。また、シャーレの壁に付着した細胞をピペッティングし、パンクレアチン溶液内にピペッティングすることで分散させた。全消化過程に要した時間は~5minであった。続いて、完全培地(RPMI 1640+10%FBS)を加えて消化を停止させ、細胞が均一に分散するまでピペッティングを続けた。次に、細胞を50m遠沈管に移し、1000rpmで5min遠心分離にかけた。そして、上清を廃棄し、2mlの完全培地細胞を加えて細胞を再懸濁し、セルカウンターで細胞密度を測定した。続いて、完全培地(RPMI 1640+10%FBS)で細胞を希釈し、細胞密度を2×105個/mlとした。希釈した細胞(密度2×105個/ml)は、1ウェルあたり100μl、細胞密度を2×104個/ウェルとしてプレーティングした(96ウェルマイクロプレート)。96ウェルマイクロプレートは、37℃のインキュベーター内に置いて一晩培養した。また、実施例2で作製した融合タンパク質サンプルをRPMI 1640+0.2%FBS培地(2ng/mlのTGFβ1を含む)で所定の濃度まで希釈した(各タンパク質サンプルは、希釈後に室温で
1h放置した)。続いて、37℃のインキュベーターで一晩培養したTGFβ-4T1細胞から上清を廃棄し、50μlのRPMI 1640+0.2%FBS培地を加えてから、50μlの異なる濃度のタンパク質溶液を加えた。そして、96ウェルマイクロプレートを37℃のインキュベーター内に置いて引き続き3h培養したあと、10μlのBright-Gloルシフェラーゼアッセイ試薬(プロメガ社、E2620)を加えて3min振とうし、酵素結合免疫測定装置の数値を読んだ。
【0062】
各マルチドメイン融合タンパク質の抗PD-L1活性、抗VEGF活性、抗TGFβ活性の測定結果は表2の通りであった。表2から明らかなように、各マルチドメイン融合タンパク質はいずれも良好なインビトロ細胞活性を有していた。
【0063】
【実施例4】
【0064】
実施例4 C57BL/6マウス体内におけるマルチドメイン融合タンパク質の薬物動態学
C57BL/6マウスをアバスチン(ロシュ社)低投与量群(1mg/kg)及び高投与量群(10mg/kg)、TAF-6低投与量群(1mg/kg)及び高投与量群(10mg/kg)の4群に分けた。各群は8匹とし、雌雄半々とした。マウスの尾静脈に1回の注射で薬物を投与し、タイミング別に薬物代謝サンプルを横断採取した。採取時間は、投与前及び投与から1h後、6h後、24h後、48h後、78h後、120h後、144h後、168h後、192h後、216h後とした。そして、薬物代謝サンプル中の血清薬物濃度をELISA法で定量的に検出した。VEGFをプレートにコーティングし、二次抗体Goat anti-Human IgG FcとHRPを薬物に結合させて、TMB法により検出した。そして、標準曲線のシグナルと濃度値との関係に基づき、回帰して濃度値に変換するとともに、PK Solverソフトの非コンパートメントモデルを用いて主要な薬物動態パラメータを算出した。
【0065】
その結果、
図1に示すように、C57BL/6マウスのうちアバスチン及びTAF-6を投与した高・低投与量群は薬物代謝パラメータが近かった。また、アバスチン低・高投与量群の投与量の値の比は1:10、C
maxの比は1:9.3、AUC
lastの比は1:8.9であり、T
maxはいずれも1hであった。且つ、曝露量(C
max及びAUC
last)の増加は投与量の比例的な増加を示した。また、TAF-6低・高投与量群の投与量の値の比は1:10、C
maxの比は1:8.6、AUC
lastの比は1:8.5であり、T
maxはいずれも1hであった。且つ、曝露量(C
max及びAUC
last)の増加は投与量の比例的な増加を示した。よって、アバスチン及びTAF-6の高・低投与量群の間で、AUC及びC
maxはいずれも投与量の線形相関を示した。アバス
チンとTAF-6におけるAUCの差は、PD-L1標的媒介性の消失効果(TMDD)であると推定される。
【実施例5】
【0066】
実施例5 PBMCヒト化乳癌MDA-MB-231マウス体内におけるマルチドメイン融合タンパク質の抗腫瘍活性
MDA-MB-231(ヒト乳癌)細胞を用い、ヒトPBMC免疫系でヒト化したマウス(M-NSGマウス)の体内にモデルを構築して、本発明におけるマルチドメイン融合タンパク質の体内での薬理効果を測定した。6~8週齢のメスのM-NSGマウスを選別し、マウスにMDA-MB-231細胞(10*10E6+マトリゲル25%)を移植して、7日目にPBMC(5*10E6/0.2ml)を尾静脈に注射したあと、腫瘍体積と体重を観察した。そして、腫瘍体積が140~260mm3の間のマウスを選択し、腫瘍体積と体重に基づきランダムに6群に分けた。各群は7匹とし、群分け当日に投与を開始した。また、担癌マウスのうち、腫瘍体積が大きすぎるもの/小さすぎるものは淘汰した。そして、毎週2回、PBS、アイソタイプコントロールとしてIgG1、ポジティブコントロールとしてテセントリク(Tecentriq)(ロシュ社)、TAF-6、TAF-7及び併用薬を腹腔注射した(方案については表3参照)。投与は3週間程度行った。なお、PD-L1-Fc融合タンパク質(SEQ ID NO.47)は、抗PD-L1シングルドメイン抗体とヒトIgG Fcの融合タンパク質(抗PD-L1シングルドメイン抗体がFcのN末端に位置する)であり、Fc-TGFβRII融合タンパク質(SEQ ID NO.48)は、ヒトIgG FcとTGFβRIIの融合タンパク質(TGFβRIIがFcのC末端に位置する)である。
【0067】
群分け前と実験終了前にマウスの眼窩静脈から採血したところ、FACS試験の結果、各群のマウスの末梢血中にヒトCD45陽性細胞が存在することが示された。且つ、CD45の比率は時間とともに増加しており、マウスの免疫系のヒト化に成功したことが示された。実験過程において、群3及び群4の動物の体重(毎週2回測定)はほぼ安定しており、実験動物の死亡も発生しなかった。また、群3及び群4の腫瘍体積(毎週2回測定)は、併用投与した群6よりも小さく、且つ、テセントリク(tecentriq)単体に対応する群2よりも著しく小さかった。結果は
図2に示す通りであった。
【0068】
【実施例6】
【0069】
実施例6 PBMCヒト化乳癌MDA-MB-231マウス体内におけるマルチドメイン融合タンパク質の抗腫瘍活性
ヒト乳癌MDA-MB-231の腫瘍塊をメスのNCGマウスにおける右側前脇腹部の皮下に移植した。そして、腫瘍塊を移植してから1日後に、PBMC細胞をマウス体内に移植し、腫瘍が53mm3程度まで成長した時点で合計6群に分けて投与した。各群は10匹とし、それぞれ、Vehicle群、TAF-6低(2mg/kg、i.p.、ti
w×9)群、TAF-6中(6mg/kg、i.p.、tiw×9)群、TAF-6高(18mg/kg、i.p.、tiw×9)群、テセントリク(4mg/kg、i.p.、tiw×9)群、アバスチン(4mg/kg、i.p.、tiw×9)群とした。そして、腫瘍体積と体重を毎週測定し、担癌マウスの体重及び腫瘍体積の変化と投与時間との関係を記録した。
【0070】
群分け2日前と実験終了時に眼窩静脈叢から採血したところ、FACS試験の結果、各群のマウスの末梢血中にヒトCD45陽性細胞が存在することが示された。且つ、CD45の比率は時間とともに増加した。実験終了時には担癌マウスを安楽死させ、腫瘍を剥離して計量及び撮影するとともに、血清の採取及び腫瘍の固定を行った。そして、腫瘍増殖抑制率TGI
TV(%)を計算し、統計学的に分析したところ、TAF-6低群、TAF-6中群、TAF-6高群、テセントリク群、アバスチン群の腫瘍増殖抑制率は、それぞれ、41%、34%、60%、23%、32%であった。また、テセントリク群を除き、各群の腫瘍体積はいずれもVehicle群よりも著しく小さかった(いずれもp<0.05)。TAF-6高群の腫瘍体積はテセントリク群よりも著しく小さく(p<0.01)、テセントリク群とアバスチン群の腫瘍体積には有意な差がなかった(p>0.05)。結果は
図3に示す通りであった。
【0071】
以上述べたように、被験薬TAF-6は、PBMCヒト化乳癌MDA-MB-231皮下移植腫瘍モデルに対し顕著な抗腫瘍作用を有しており、腫瘍の成長を有効に抑制した。また、その抗腫瘍作用はテセントリクよりも著しく優れていた。且つ、腫瘍抑制作用は投与量の増加に伴って強化された。
【0072】
別の同一腫瘍モデルにおける独立した実験では、被験薬と、陽性薬であるM7824の類似体(本実験室では、M7824の米国特許第9676863B2号に基づき作製)との抗腫瘍活性の比較について考察した。各群を6匹とし、Vehicle群、TAF-6(4.2mg/kg、i.p.、tiw×8回。後期の投与量は8.4mg/kg、i.p.、tiw×4回に調整)群、M7824類似体(3.6mg/kg、i.p.、tiw×8回。後期の投与量は7.2mg/kg、i.p.、tiw×4回に調整)群、アバスチン(3mg/kg、i.p.、tiw×8回。後期の投与量は6mg/kg、i.p.、tiw×4回に調整)群の4群を設けた。その結果、
図4に示すように、同等のモル濃度及び投与量の場合、TAF-6の抗腫瘍作用はM7824類似体よりも著しく優れていた。
【実施例7】
【0073】
実施例7 PBMCヒト化肺癌Calu-6マウス体内におけるマルチドメイン融合タンパク質の抗腫瘍活性
ヒト肺癌Calu-6細胞をオスのNCGマウスにおける右側前脇腹部の皮下に移植した。また、腫瘍細胞を移植する4日前にPBMC細胞をマウス体内に移植した。そして、腫瘍が50mm3程度まで成長した時点で合計7群に分けて投与した。各群は8匹とし、それぞれ、Vehicle群、TAF-6低(2mg/kg、i.p.、tiw×10)群、TAF-6中(7mg/kg、i.p.、tiw×10)群、TAF-6高(25mg/kg、i.p.、tiw×10)群、テセントリク(5mg/kg、i.p.、tiw×10)群、アバスチン(5mg/kg、i.p.、tiw×10)群、テセントリク+アバスチン(5+5mg/kg、i.p.、tiw×10)群とした。腫瘍体積と体重を毎週測定し、担癌マウスの体重及び腫瘍体積の変化と投与時間との関係を記録した。実験終了時には担癌マウスを安楽死させ、腫瘍を剥離して計量及び撮影するとともに、血清及び腫瘍を採取した。そして、腫瘍増殖抑制率TGITV(%)を計算し、統計学的に分析した。
【0074】
群分け3日前と実験終了時(PG-D23)にマウスの眼窩静脈から採血したところ、FACS試験の結果、各群のマウスの末梢血中にヒトCD45陽性細胞が存在することが示された。且つ、CD45の比率は時間とともに増加しており、マウスの免疫系のヒト化に成功したことが示された。
【0075】
治療期間中、各群のマウスは通常通りに摂食及び飲水し、体重はほぼ安定していた。また、実験動物の死亡は発生しなかった。
【0076】
実験終了時(PG-D23)において、TAF-6低群、TAF-6中群、TAF-6高群、テセントリク群、アバスチン群、テセントリク+アバスチン群の腫瘍増殖抑制率は、それぞれ、62%、62%、75%、13%、34%、32%であった。また、テセントリク群を除き、各群の腫瘍体積はいずれもVehicle群よりも著しく小さかった(いずれもp<0.01)。TAF-6低、中、高群の腫瘍体積は、いずれも、テセントリク群、アバスチン群及びテセントリク+アバスチン群よりもそれぞれ著しく小さかった(いずれもp<0.01)。結果は、表4及び
図5に示す通りであった。
【0077】
以上述べたように、被験薬TAF-6は、PBMCヒト化肺癌Calu-6皮下移植腫瘍モデルに対し顕著な抗腫瘍作用を有しており、腫瘍の成長を有効に抑制した。また、腫瘍抑制作用は、テセントリク、アバスチン及びテセントリクとアバスチンの併用よりも著しく優れていた。且つ、腫瘍抑制作用は投与量の増加に伴って強化された。
【0078】
【0079】
別の同一腫瘍モデルにおける独立した実験では、被験薬の抗腫瘍活性と、陽性薬であるM7824の類似体との比較について考察した。各群を6匹とし、Vehicle群、TAF-6(7mg/kg、i.p.、TIW×8回)群、M7824類似体(6mg/kg、i.p.、TIW×8回)群、アバスチン(5mg/kg、i.p.、TIW×8回)群の4群を設けた。その結果、
図6に示すように、同等のモル濃度及び投与量の場合、TAF-6の抗腫瘍作用はM7824類似体及びアバスチンよりも著しく優れていた。
【実施例8】
【0080】
実施例8 PBMCヒト化結腸癌HCT116マウス体内におけるマルチドメイン融合タンパク質の抗腫瘍活性
HCT-116(ヒト結腸癌)細胞を用い、ヒトPBMC免疫系でヒト化したマウス(NOGマウス)の体内にモデルを構築して、本発明におけるマルチドメイン融合タンパク質の体内での薬理効果を測定した。7~9週齢のメスのNOGマウスを選別し、マウスにHCT-116細胞(3*10E6+マトリゲル)を移植した。そして、腫瘍細胞の移植から3日目にPBMC(5*10E6/0.2ml)を尾静脈に注射したあと、腫瘍体積及び体重を観察し、腫瘍体積が60~100mm3の間のマウスを選択した。続いて、腫瘍体積と体重に基づき、各群を8匹として、Vehicle群、TAF-6低(2mg/kg、i.p.、tiw×3)群、TAF-6中(7mg/kg、i.p.、tiw×3)群、TAF-6高(25mg/kg、i.p.、tiw×3)群、テセントリク(5mg/kg、i.p.、tiw×3)群、テセントリク+アバスチン(5+5mg/kg、i.p.、tiw×3)群の6群にランダムに分け、群分け当日に投与を開始した。そして、腫瘍体積と体重を毎週2回測定し、担癌マウスの体重及び腫瘍体積の変化と投与時間との関係を記録した。実験終了時には担癌マウスを安楽死させ、腫瘍を剥離して計量及び撮影するとともに、血清及び腫瘍を採取した。そして、腫瘍増殖抑制率TGITV(%)を計算し、統計学的に分析した。
【0081】
群分け前と実験終了前にマウスの眼窩静脈から採血したところ、FACS試験の結果、各群のマウスの末梢血中にヒトCD45陽性細胞が存在することが示された。且つ、CD45の比率は時間とともに増加しており、マウスの免疫系のヒト化に成功したことが示された。
【0082】
腫瘍の活性抑制は
図7に示す通りであった。被験薬TAF-6は、PBMCヒト化結腸癌HCT116皮下移植腫瘍モデルに対し顕著な抗腫瘍作用を有しており、腫瘍の成長を有効に抑制した。且つ、高投与量群と中投与量群の腫瘍抑制作用はテセントリクよりも著しく優れていた。また、同じモル濃度及び投与量の場合には、TAF-6中(7mg/kg、i.p.、tiw×3)群をテセントリク+アバスチン(5+5mg/kg、i.p.、tiw×3)群と比較すると、TAF-6については、テセントリク+アバスチン群に劣らない、ひいてはテセントリク+アバスチン群よりも優れた治療効果を観察することができた。
【実施例9】
【0083】
実施例9 PBMCヒト化肝臓癌Huh-7マウス体内におけるマルチドメイン融合タンパク質の抗腫瘍活性
ヒト肝臓癌Huh-7細胞をオスのNCGマウスにおける右側前脇腹部の皮下に移植した。また、腫瘍細胞を移植する45日前にPBMC細胞をマウス体内に移植した。そして、腫瘍が50mm3程度まで成長した時点で合計5群に分けて投与した。各群は10匹とし、それぞれ、Isotype群、TAF-6低(2mg/kg、i.p.、tiw×8)群、TAF-6高(7mg/kg、i.p.、tiw×8)群、テセントリク(5mg/kg、i.p.、tiw×8)群、アバスチン(5mg/kg、i.p.、tiw×8)群とした。そして、腫瘍体積と体重を毎週2回測定し、担癌マウスの体重及び腫瘍体積の変化と投与時間との関係を記録した。実験終了時には担癌マウスを安楽死させ、腫瘍を剥離して計量及び撮影するとともに、血清及び腫瘍を採取した。そして、腫瘍増殖抑制率TGITV(%)を計算し、統計学的に分析した。
【0084】
群分け前と実験終了時にマウスの眼窩静脈叢から採血したところ、FACS試験の結果、各群のマウスの末梢血中にヒトCD45陽性細胞が存在することが示された。且つ、CD45の比率は時間とともに増加しており、マウスの免疫系のヒト化に成功したことが示された。
【0085】
投与期間中、各群のマウスは通常通りに摂食及び飲水し、体重はほぼ安定していた。
【0086】
実験終了前(PG-D18)において、TAF-6低群、TAF-6高群、テセントリク群、アバスチン群の腫瘍増殖抑制率は、それぞれ、57%、74%、18%、67%であった。また、テセントリク群を除き、各群の腫瘍体積はいずれもIsotype群より著しく小さかった(いずれもp<0.01)。TAF-6高群の腫瘍体積はいずれもテセントリク群よりも著しく小さく(いずれもp<0.01)、アバスチン群の腫瘍体積はテセントリク群よりも著しく小さかった(p<0.05)。結果は
図8に示す通りであった。
【0087】
以上述べたように、被験薬TAF-6は、PBMCヒト化肝臓癌Huh-7皮下移植腫瘍モデルに対し顕著な抗腫瘍作用を有しており、腫瘍の成長を有効に抑制した。また、抗腫瘍作用はテセントリクよりも著しく優れていた。且つ、腫瘍抑制作用は投与量の増加に伴って強化された。
【0088】
別の同一腫瘍モデルにおける独立した実験では、被験薬の抗腫瘍活性と、陽性薬であるM7824の類似体との比較について考察した。各群を6匹として、Vehicle群、TAF-6(7mg/kg、i.p.、tiw×9。後期の投与量は14mg/kg、i.p.、tiw×2に調整)群、M7824類似体(6mg/kg、i.p.、tiw×9。後期の投与量は12mg/kg、i.p.、tiw×2に調整)群、アバスチン(5mg/kg、i.p.、tiw×9。後期の投与量は10mg/kg、i.p.、tiw×2に調整)群の4群に分けた。その結果、
図9に示すように、TAF-6の抗腫瘍作用はM7824類似体よりも著しく優れていた。
【実施例10】
【0089】
実施例10 PBMCヒト化肉腫HT1080マウス体内におけるマルチドメイン融合タンパク質の抗腫瘍活性
ヒト肉腫HT1080細胞をオスのNCGマウスにおける右側前脇腹部の皮下に移植した。また、腫瘍細胞を移植する7日前にPBMC細胞をマウス体内に移植した。そして、腫瘍が56mm3程度まで成長した時点で合計5群に分けて投与した。各群は8匹とし、それぞれ、Vehicle群、TAF-6低(2mg/kg、i.p.、tiw×9)群、TAF-6中(7mg/kg、i.p.、tiw×9)群、TAF-6高(25mg/kg、i.p.、tiw×9)群、テセントリク(5mg/kg、i.p.、tiw×9)群とした。そして、腫瘍体積と体重を毎週測定し、担癌マウスの体重及び腫瘍体積の変化と投与時間との関係を記録した。
【0090】
実験終了時には担癌マウスを安楽死させ、腫瘍を剥離して計量及び撮影するとともに、血清及び腫瘍を採取した。そして、腫瘍増殖抑制率TGITV(%)を計算し、統計学的に分析した。
【0091】
群分け前と実験終了時にマウスの眼窩静脈叢から採血したところ、FACS試験の結果、各群のマウスの末梢血中にヒトCD45陽性細胞が存在することが示された。且つ、CD45の比率は時間とともに増加しており、マウスの免疫系のヒト化に成功したことが示された。
【0092】
実験終了前(PG-D19)において、TAF-6低群、TAF-6中群、TAF-6高群、テセントリク群の腫瘍増殖抑制率は、それぞれ、19%、33%、41%、28%であった。また、TAF-6中群とテセントリク群の腫瘍体積はVehicle群より著しく小さかった(いずれもp<0.05)。且つ、各群の腫瘍体積には有意な差がなかった(p>0.05)。結果は
図10に示す通りであった。
【0093】
以上述べたように、本発明は従来技術における様々な欠点を解消しており、高度な産業上の利用価値を有している。
【0094】
上記の実施例は本発明の原理と効果を例示的に説明したものにすぎず、本発明を制限するものではない。本技術を熟知する者であれば、本発明の精神及び範疇を逸脱しないことを前提に、上記の実施例を補足又は変形することが可能である。従って、当業者が本発明に開示される精神及び技術的思想から逸脱することなく完成させるあらゆる等価の補足又は変形もまた本発明の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【配列表】
【国際調査報告】