(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】心筋細胞移植のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/34 20150101AFI20240214BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240214BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20240214BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240214BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20240214BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240214BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240214BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240214BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240214BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61K35/34
A61K45/06
A61L27/36 100
A61P9/00
A61K38/13
A61P43/00 121
A61K38/02
A61K38/16
A61P37/06
A61K31/436
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550561
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 US2022017268
(87)【国際公開番号】W WO2022182638
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517025822
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】マリー チャールズ イー.
(72)【発明者】
【氏名】マクラレン ウィリアム ロブ
(72)【発明者】
【氏名】ティース ロバート スコット
(72)【発明者】
【氏名】ナカムラ ケンタ
(72)【発明者】
【氏名】ナカムラ デイジー スー
(72)【発明者】
【氏名】ニーディグ ローレン イー.
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C081AB18
4C081CD34
4C084AA20
4C084BA01
4C084BA03
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA26
4C084DA11
4C084DC50
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA66
4C084MA67
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZB08
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA04
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA66
4C086MA67
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZB08
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB47
4C087BB64
4C087MA17
4C087MA22
4C087MA23
4C087MA66
4C087MA67
4C087NA06
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZB08
4C087ZC75
(57)【要約】
本開示は、インビトロで分化した心筋細胞を使用する、心疾患および障害の処置を提供する。このような方法は、自家および同種の両方の多能性幹細胞を利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋細胞移植の方法であって、
インビトロで分化した心筋細胞または心筋前駆細胞を、それを必要とするレシピエントの心組織中のグラフト部位に投与する工程と;
カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬をレシピエントに投与する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
インビトロで分化した心筋細胞が、レシピエントと同種である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
インビトロで分化した心筋細胞が、レシピエントに対して自家である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
カルシニューリン阻害薬が、タクロリムス、シクロスポリン、ボクロスポリン、およびピメクロリムスからなる群より選択される、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項5】
CD80および/またはCD86の阻害薬が、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
CTLA4の細胞外ドメイン断片が、異種ポリペプチドと融合している、請求項5記載の方法。
【請求項7】
異種ポリペプチドが、CD80および/またはCD86の阻害薬の血清半減期を増大させる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
異種ポリペプチドが、IgG Fcドメインポリペプチドを含む、請求項6または請求項7記載の方法。
【請求項9】
CTLA4の細胞外ドメイン断片が、ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしている、請求項5記載の方法。
【請求項10】
CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬が、アバタセプトまたはベラタセプトを含む、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
アバタセプトが、5mg/kg~20mg/kgの用量で静脈内または皮下投与によって投与される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬が、
(i)2週間毎もしくは3週間毎に投与される、
(ii)12~16日毎に投与される、
(iii)10~18日毎に投与される、または
(iv)皮下、経口もしくは静脈内投与によって投与される、
請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
カルシニューリン阻害薬が、タクロリムスまたはその免疫抑制性誘導体を含む、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
タクロリムスが、5~20ng/mLの血清または血漿中濃度を達成するように投与される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
タクロリムスが、持続注入によって、2時間毎、4時間毎、6時間毎、8時間毎、10時間毎、12時間毎、14時間毎、16時間毎、18時間毎、20時間毎、22時間毎に、または毎日投与される、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬が、各々、皮下もしくは静脈内またはそれらの組み合わせで投与される、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
投与された心筋細胞の免疫拒絶が、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬なしで投与された心筋細胞の拒絶と比べて低減される、請求項1~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
移植された心筋細胞の免疫拒絶を抑制するためのステロイド免疫抑制の必要性が、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与せずに心筋細胞が移植される場合のステロイド免疫抑制の必要性と比べて低減される、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤が、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与しない場合に起こる浸潤と比べて低減される、請求項1~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤が、心筋細胞の投与後8週間目に低減されている、請求項19記載の方法。
【請求項21】
グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤が、心筋細胞の投与後16週間目に依然として低減されている、請求項19記載の方法。
【請求項22】
レシピエントにおける移植されたインビトロで分化した心筋細胞の免疫拒絶を低減する方法であって、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬をレシピエントに投与する工程を含む、方法。
【請求項23】
インビトロで分化した心筋細胞が、レシピエントと同種である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
インビトロで分化した心筋細胞が、レシピエントに対して自家である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
カルシニューリン阻害薬が、タクロリムス、シクロスポリン、ボクロスポリン、およびピメクロリムスからなる群より選択される、請求項22、23、または24記載の方法。
【請求項26】
CD80および/またはCD86の阻害薬が、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む、請求項22~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
CTLA4の細胞外ドメイン断片が、異種ポリペプチドと融合している、請求項26記載の方法。
【請求項28】
異種ポリペプチドが、CD80および/またはCD86の阻害薬の血清半減期を増大させる、請求項27記載の方法。
【請求項29】
異種ポリペプチドが、IgG Fcドメインポリペプチドを含む、請求項27または請求項28記載の方法。
【請求項30】
CTLA4の細胞外ドメイン断片が、ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしている、請求項26記載の方法。
【請求項31】
CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬が、アバタセプトまたはベラタセプトを含む、請求項22~30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
アバタセプトが、5mg/kg~20mg/kgの用量で静脈内または皮下投与によって投与される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬が、
(i)2週間毎もしくは3週間毎に投与され、
(ii)12~16日毎に投与され、
(iii)10~18日毎に投与され、かつ/または
(iv)皮下、経口もしくは静脈内投与によって投与される、
請求項22~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
カルシニューリン阻害薬が、タクロリムスまたはその免疫抑制性誘導体を含む、請求項22~33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
タクロリムスが、5~20ng/mLの血清または血漿中濃度を達成するように投与される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
タクロリムスが、持続注入によって、2時間毎、4時間毎、6時間毎、8時間毎、10時間毎、12時間毎、14時間毎、16時間毎、18時間毎、20時間毎、22時間毎に、または毎日投与される、請求項34または35記載の方法。
【請求項37】
カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬が、各々、皮下もしくは静脈内またはそれらの組み合わせで投与される、請求項22~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
投与された心筋細胞の免疫拒絶が、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬なしで投与された心筋細胞の拒絶と比べて低減される、請求項22~37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
移植された心筋細胞の免疫拒絶を抑制するためのステロイド免疫抑制の必要性が、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与せずに心筋細胞が移植される場合のステロイド免疫抑制の必要性と比べて低減される、請求項22~38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤が、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与しない場合に起こる浸潤と比べて低減される、請求項22~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤が、心筋細胞の投与後8週間目に低減されている、請求項40記載の方法。
【請求項42】
グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤が、心筋細胞の投与後16週間目に依然として低減されている、請求項40記載の方法。
【請求項43】
心血管疾患または障害を処置する方法であって、
インビトロで分化した心筋細胞を、それを必要とする対象の心組織中のグラフト部位に投与する工程と、
カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を対象に投与する工程と
を含む、方法。
【請求項44】
心血管疾患または障害が、頻脈性不整脈、徐脈性不整脈、心筋症、先天性欠損、および筋ジストロフィー関連心筋症を含む、請求項43記載の方法。
【請求項45】
先天性欠損が、中隔欠損または低形成症候群を含む、請求項44記載の方法。
【請求項46】
筋ジストロフィー関連心筋症が、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に関連する心筋症を含む、請求項44記載の方法。
【請求項47】
インビトロで分化した心筋細胞が、レシピエントと同種である、請求項43記載の方法。
【請求項48】
インビトロで分化した心筋細胞が、レシピエントに対して自家である、請求項43記載の方法。
【請求項49】
カルシニューリン阻害薬が、タクロリムス、シクロスポリン、ボクロスポリン、およびピメクロリムスからなる群より選択される、請求項43、44、または45記載の方法。
【請求項50】
CD80および/またはCD86の阻害薬が、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む、請求項43~48のいずれか一項記載の方法。
【請求項51】
CTLA4の細胞外ドメイン断片が、異種ポリペプチドと融合している、請求項49記載の方法。
【請求項52】
異種ポリペプチドが、CD80および/またはCD86の阻害薬の血清半減期を増大させる、請求項50記載の方法。
【請求項53】
異種ポリペプチドが、IgG Fcドメインポリペプチドを含む、請求項51または請求項52記載の方法。
【請求項54】
CTLA4の細胞外ドメイン断片が、ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしている、請求項50記載の方法。
【請求項55】
CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬が、アバタセプトまたはベラタセプトを含む、請求項43~54のいずれか一項記載の方法。
【請求項56】
アバタセプトが、5mg/kg~20mg/kgの用量で静脈内または皮下投与によって投与される、請求項55記載の方法。
【請求項57】
CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬が、
(i)2週間毎もしくは3週間毎に投与され、
(ii)12~16日毎に投与され、
(iii)10~18日毎に投与され、かつ/または
(iv)皮下、経口もしくは静脈内投与によって投与される、
請求項43~56のいずれか一項記載の方法。
【請求項58】
カルシニューリン阻害薬が、タクロリムスまたはその免疫抑制性誘導体を含む、請求項43~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項59】
タクロリムスが、5~20ng/mLの血清または血漿中濃度を達成するように投与される、請求項58記載の方法。
【請求項60】
タクロリムスが、持続注入によって、2時間毎、4時間毎、6時間毎、8時間毎、10時間毎、12時間毎、14時間毎、16時間毎、18時間毎、20時間毎、22時間毎、または毎日投与される、請求項58または59記載の方法。
【請求項61】
カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬が、各々、皮下もしくは静脈内またはそれらの組み合わせで投与される、請求項43~60のいずれか一項記載の方法。
【請求項62】
投与された心筋細胞の免疫拒絶が、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬なしで投与された心筋細胞の拒絶と比べて低減される、請求項43~61のいずれか一項記載の方法。
【請求項63】
移植された心筋細胞の免疫拒絶を抑制するためのステロイド免疫抑制の必要性が、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与せずに心筋細胞が移植される場合のステロイド免疫抑制の必要性と比べて低減される、請求項43~62のいずれか一項記載の方法。
【請求項64】
グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤が、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与しない場合に起こる浸潤と比べて低減される、請求項43~63のいずれか一項記載の方法。
【請求項65】
グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤が、心筋細胞の投与後8週間目に低減されている、請求項64記載の方法。
【請求項66】
グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤が、心筋細胞の投与後16週間目に依然として低減されている、請求項65記載の方法。
【請求項67】
心グラフトの免疫媒介拒絶の治療または予防のための、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬と組み合わせたカルシニューリン阻害薬の使用。
【請求項68】
請求項22~42記載の特徴のうちいずれかを含む、請求項67記載の使用。
【請求項69】
心筋細胞移植のためのインビトロで分化した心筋細胞または心筋前駆細胞の使用であって、
それを必要とするレシピエントの心組織中のグラフト部位に投与されるインビトロで分化した心筋細胞または心筋前駆細胞と;
レシピエントに投与されるカルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬と
を含む、使用。
【請求項70】
請求項2~42記載の特徴のうちいずれかを含む、請求項69記載の使用。
【請求項71】
心血管疾患または障害を処置するためのインビトロで分化した心筋細胞の使用であって、
それを必要とする対象の心組織中のグラフト部位に投与されるインビトロで分化した心筋細胞と、
対象に投与されるカルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬と
を含む、使用。
【請求項72】
請求項44~66記載の特徴のうちいずれかを含む、請求項71記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C. §119(e)の下に、2021年2月23日に出願された米国仮出願第63/152,737号の恩典を主張するものであり、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府によって資金援助された研究および開発の陳述
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された助成金番号R01 HL128362の下に、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
心疾患および障害の処置のための再生医学の分野は、進歩途上であり、インビトロで分化した心筋細胞の使用が、臨床状況で探索されている。このような方法は、自家および同種多能性幹細胞の両方を利用することができる。移植後の心グラフト拒絶を最小限にするために、短期拒絶を予防し、心グラフトの長期維持を促進するために使用することができる治療法を特定する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
概要
本明細書に記載される方法および組成物は、一部には、心疾患または障害について処置されている対象におけるインビトロで分化した心筋細胞のグラフト拒絶を予防または低減することができる、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80/CD86シグナル伝達阻害薬の組み合わせの発見に基づく。
【0005】
したがって、一局面では、(i)インビトロで分化した心筋細胞または心筋前駆細胞を、それを必要とするレシピエントの心組織中のグラフト部位に投与する工程と;(ii)カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬をレシピエントに投与する工程とを含む、心筋細胞移植の方法が、本明細書に提供される。
【0006】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の一態様では、インビトロで分化した心筋細胞は、レシピエントと同種である。
【0007】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、インビトロで分化した心筋細胞は、レシピエントに対して自家である。
【0008】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムス、シクロスポリン、ボクロスポリン、およびピメクロリムスからなる群より選択される。タクロリムス、シクロスポリン、ボクロスポリンおよびピメクロリムスの免疫抑制性誘導体もまた、本明細書において企図される。
【0009】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CD80および/またはCD86の阻害薬は、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む。
【0010】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CTLA4の細胞外ドメイン断片は、異種ポリペプチドと融合している。
【0011】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、異種ポリペプチドは、CD80および/またはCD86の阻害薬の血清半減期を増大させる。
【0012】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、異種ポリペプチドは、IgG Fcドメインポリペプチドを含む。
【0013】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CTLA4の細胞外ドメイン断片は、ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしている。
【0014】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、アバタセプトまたはベラタセプトを含む。
【0015】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、アバタセプトは、5mg/kg~20mg/kgの用量で静脈内または皮下投与によって投与される。本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、アバタセプトは、10mg/kg~15mg/kgの用量で静脈内または皮下投与を介して(例えば、12.5mg/kgの用量で)投与される。
【0016】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、(i)2週間毎もしくは3週間毎に投与され、(ii)12~16日毎に投与され、(iii)10~18日毎に投与され、かつ/または(iv)皮下、経口もしくは静脈内投与によって投与される。すなわち、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、10日毎、11日毎、12日毎、13日毎、14日毎、15日毎、16日毎、17日毎、18日毎、19日毎、20日毎、21日毎、22日毎、23日毎、24日毎、またはより長い間隔で投与することができる。
【0017】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムスまたはその免疫抑制性誘導体を含む。
【0018】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、タクロリムスは、5~20ng/mLの血清または血漿中濃度を達成するように投与される。他の態様では、タクロリムスは、10mg/kg~15mg/kgの血中、血漿または血清中濃度を達成するために静脈内または皮下投与によって投与される。
【0019】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、タクロリムスは、持続注入によって、2時間毎、4時間毎、6時間毎、8時間毎、10時間毎、12時間毎、14時間毎、16時間毎、18時間毎、20時間毎、22時間、または24時間毎に(すなわち、毎日)投与される。
【0020】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、各々、皮下または静脈内に投与される。あるいは、カルシニューリン阻害薬は、皮下投与することができる一方で、CD80および/またはCD86の阻害薬は、静脈内投与される、またはその逆である。
【0021】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、投与された心筋細胞の免疫拒絶は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬なしで投与された心筋細胞の拒絶と比べて低減される(例えば、少なくとも10%)。
【0022】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、移植された心筋細胞の免疫拒絶を抑制するためのステロイド免疫抑制の必要性は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与せずに心筋細胞が移植された場合のステロイド免疫抑制の必要性と比べて低減される。
【0023】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与しない場合に起こる浸潤と比べて低減される。
【0024】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤は、心筋細胞の投与後8週間目に低減されている。
【0025】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤は、心筋細胞の投与後16週間目に依然として低減されている。
【0026】
本明細書に提供される別の局面は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬をレシピエントに投与する工程を含む、レシピエントにおける移植された、インビトロで分化した心筋細胞の免疫拒絶を低減する方法に関する。
【0027】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の一態様では、インビトロで分化した心筋細胞は、レシピエントと同種である。
【0028】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、インビトロで分化した心筋細胞は、レシピエントに対して自家である。
【0029】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムス、シクロスポリン、ボクロスポリン、およびピメクロリムスからなる群より選択される。
【0030】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CD80および/またはCD86の阻害薬は、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む。
【0031】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CTLA4の細胞外ドメイン断片は、異種ポリペプチドと融合している。
【0032】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、異種ポリペプチドは、CD80および/またはCD86の阻害薬の血清半減期を増大させる。
【0033】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、異種ポリペプチドは、IgG Fcドメインポリペプチドを含む。
【0034】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CTLA4の細胞外ドメイン断片は、ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしている。
【0035】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、アバタセプトまたはベラタセプトを含む。
【0036】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、アバタセプトは、1.25mg/kg~125mg/kgの用量で静脈内または皮下投与によって投与される。
【0037】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、(i)2週間毎もしくは3週間毎に投与され、(ii)12~16日毎に投与され、(iii)10~18日毎に投与され、かつ/または(iv)皮下、経口もしくは静脈内投与によって投与される。すなわち、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、10日毎、11日毎、12日毎、13日毎、14日毎、15日毎、16日毎、17日毎、18日毎、19日毎、20日毎、21日毎、22日毎、23日毎、24日毎、またはより長い間隔で投与することができる。
【0038】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムスまたはその免疫抑制性誘導体を含む。
【0039】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、タクロリムスは、5~20ng/mLの血清または血漿中濃度を達成するように投与される。
【0040】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、タクロリムスは、持続注入によって、2時間毎、4時間毎、6時間毎、8時間毎、10時間毎、12時間毎、14時間毎、16時間毎、18時間毎、20時間毎、22時間毎に、または毎日投与される。
【0041】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、各々、皮下もしくは静脈内またはそれらの組み合わせで投与される。
【0042】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、投与された心筋細胞の免疫拒絶は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬なしで投与された心筋細胞の拒絶と比べて低減される。
【0043】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、移植された心筋細胞の免疫拒絶を抑制するためのステロイド免疫抑制の必要性は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与せずに心筋細胞が移植された場合のステロイド免疫抑制の必要性と比べて低減される。
【0044】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与しない場合に起こる浸潤と比べて低減される。
【0045】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤は、心筋細胞の投与後8週間目に低減されている。
【0046】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤は、心筋細胞の投与後16週間目に依然として低減されている。
【0047】
本明細書に提供される別の局面は、(i)インビトロで分化した心筋細胞を、それを必要とする対象の心組織中のグラフト部位に投与する工程と、(ii)カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を対象に投与する工程とを含む、心血管疾患または障害を処置する方法である。
【0048】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の一態様では、心血管疾患または障害は、心筋梗塞、虚血/再灌流傷害、頻脈性不整脈、徐脈性不整脈、心筋症、先天性欠損、および筋ジストロフィー関連心筋症を含む。
【0049】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、先天性欠損は、中隔欠損または低形成症候群を含む。
【0050】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、筋ジストロフィー関連心筋症は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に関連する心筋症を含む。
【0051】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、インビトロで分化した心筋細胞は、レシピエントと同種である。
【0052】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、インビトロで分化した心筋細胞は、レシピエントに対して自家である。
【0053】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムス、シクロスポリン、ボクロスポリン、およびピメクロリムスからなる群より選択される。
【0054】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CD80および/またはCD86の阻害薬は、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む。
【0055】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CTLA4の細胞外ドメイン断片は、異種ポリペプチドと融合している。
【0056】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、異種ポリペプチドは、CD80および/またはCD86の阻害薬の血清半減期を増大させる。
【0057】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、異種ポリペプチドは、IgG Fcドメインポリペプチドを含む。
【0058】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CTLA4の細胞外ドメイン断片は、ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしている。
【0059】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、アバタセプトまたはベラタセプトを含む。
【0060】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、アバタセプトは、5mg/kg~20mg/kgの用量で静脈内または皮下投与によって投与される。
【0061】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、(i)2週間毎もしくは3週間毎に投与され、(ii)12~16日毎に投与され、(iii)10~18日毎に投与され、かつ/または(iv)皮下、経口もしくは静脈内投与によって投与される。
【0062】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムスまたはその免疫抑制性誘導体を含む。
【0063】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、タクロリムスは、5~20ng/mlの血清または血漿中濃度を達成するように投与される。
【0064】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、タクロリムスは、持続注入によって、2時間毎、4時間毎、6時間毎、8時間毎、10時間毎、12時間毎、14時間毎、16時間毎、18時間毎、20時間毎、22時間毎に、または毎日投与される。
【0065】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、各々、皮下もしくは静脈内またはそれらの組み合わせで投与される。
【0066】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、投与された心筋細胞の免疫拒絶は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬なしで投与された心筋細胞の拒絶と比べて低減される。
【0067】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、移植された心筋細胞の免疫拒絶を抑制するためのステロイド免疫抑制の必要性は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与せずに心筋細胞が移植された場合のステロイド免疫抑制の必要性と比べて低減される。
【0068】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を投与しない場合に起こる浸潤と比べて低減される。
【0069】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤は、心筋細胞の投与後8週間目に低減されている。
【0070】
本局面および本明細書に提供されるすべての他の局面の別の態様では、グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤は、心筋細胞の投与後16週間目に依然として低減されている。
【0071】
本明細書に提供される別の局面は、心グラフトの免疫媒介拒絶の治療または予防のための、本明細書に記載されるCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬と組み合わせたカルシニューリン阻害薬の使用に関する。
【0072】
本明細書に提供される別の局面は、(i)それを必要とするレシピエントの心組織中のグラフト部位に投与されるインビトロで分化した心筋細胞または心筋前駆細胞と;(ii)レシピエントに投与されるカルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬とを含む、心筋細胞移植のためのインビトロで分化した心筋細胞または心筋前駆細胞の使用に関する。
【0073】
別の局面では、心血管疾患または障害を処置するためのインビトロで分化した心筋細胞の使用もまた、本明細書に提供され、該使用は、(i)それを必要とする対象の心組織中のグラフト部位に投与されるインビトロで分化した心筋細胞と、(ii)該対象に投与されるカルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】免疫抑制の非存在下で、心筋細胞グラフトが拒絶なしに2週間生存したが、8週間までにグラフトは広範な炎症性浸潤を伴う重度の細胞拒絶を受けたことを示す組織学的分析。タクロリムス+アバタセプトのステロイド節約組み合わせは、16週間目にCD20+(B細胞)およびCD3+(T細胞)集団の斑状浸潤を伴うグラフトの軽~中等度免疫拒絶の明らかにした。
【0075】
【
図2】ヒト胚性幹細胞からの心筋細胞のインビトロ分化のための例示的な方法を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0076】
詳細な説明
免疫媒介移植片拒絶を低減または予防することによって、多能性幹細胞由来心筋細胞(PSC-CM)を使用する心修復方法を改善する、カルシニューリン阻害薬(例えば、タクロリムス)ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬(例えば、アバタセプト)を用いた組み合わせ処置を含む方法および組成物が、本明細書に提供される。カルシニューリン阻害薬(例えば、タクロリムス(TAC))ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬(例えば、アバタセプト(ABT))の組み合わせ免疫抑制レジメンを使用して、長期PSC-CM移植を支援することができる。
【0077】
定義
本明細書に使用される場合、「それを必要とするレシピエント」という用語は、インビトロで分化した心筋細胞を含む心グラフトを用いて処置することができる心血管疾患または障害を有する対象を指す。例えば、それを必要とするレシピエントは、心筋梗塞、不整脈(例えば、頻脈性不整脈、もしくは徐脈性不整脈)、虚血/再灌流傷害、心筋症、筋ジストロフィー関連心筋症(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD))、または先天性欠損(例えば、低形成症候群、中隔欠損)、その他などの傷害を含む心血管疾患または障害を含むことができる。
【0078】
「分化する」、または「分化している」という用語は、「分化細胞」がその前駆細胞よりも発生経路をさらに下に進んだ細胞であることを示す相対語である。したがって、いくつかの態様では、幹細胞は、この用語が本明細書に定義される場合、系列制限前駆細胞(例えば、ヒト心筋前駆細胞または中央原始線条造心中胚葉前駆細胞)に分化することができ、この前駆細胞は、今度は、経路をさらに下に他の種類の前駆細胞(例えば、心筋細胞前駆細胞などの組織特異的前駆体)へと、次いで、終末期分化細胞(例えば、心筋細胞)へと分化することができ、この終末期分化細胞は、ある特定の組織型において特徴的な役割を演じ、さらに増殖する能力を保持する場合または保持しない場合がある。
【0079】
「多能性」または「多能性幹細胞(PSC)」という用語は、本明細書に使用される場合、異なる条件下で、全部で3つの胚葉(内胚葉、中胚葉および外胚葉)の細胞型特性に分化する能力を有する細胞を指す。多能性細胞は、例えば、ヌードマウスおよび奇形腫形成アッセイを使用して、主として、それらが3つの胚葉全部に分化できることによって特徴付けられる。多能性のための好ましい検査は、3つの胚葉のうち各々の細胞への分化能の実証であるものの、多能性はまた、胚性幹(ES)細胞マーカーの発現によって証明される。
【0080】
本明細書に使用される場合、「人工多能性幹細胞」、「iPSC」、「hPSC」、および「ヒト多能性幹細胞」という用語は、本明細書において互換的に使用され、分化した体細胞から人工的に(例えば、当技術分野において公知の1つまたは複数の方法を使用するリプログラミングによって)派生する多能性細胞を指す。iPSCは、自己再生および心系列の細胞を含む細胞運命拘束幹細胞のみならず、様々な種類の成熟細胞への分化が可能である。
【0081】
本明細書に使用される場合、「インビトロで分化した心筋細胞」は、培養で生成されるが、典型的には、ヒト胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、初期中胚葉細胞、側板中胚葉細胞または心筋前駆細胞などの前駆細胞からの段階的分化を必ずしも経るわけではない、心筋細胞を指す。したがって、インビボの心筋細胞は、結局、幹細胞から、すなわち組織または器官の発生途中で派生する一方で、本明細書に記載される幹細胞由来心筋細胞は、幹細胞からのインビトロ分化によって生み出されたものである。本明細書に使用される場合、幹細胞、例えば、人工多能性幹(iPS)細胞または胚性幹細胞(「ES細胞」または「ESC」)からインビトロで分化した細胞は、それが心トロポニンT(cTnT)の発現を有するならば、「幹細胞由来心筋細胞」または「インビトロで分化した心筋細胞」である。幹細胞をインビトロで心筋細胞に分化させるための方法は、当技術分野において公知であり、本明細書においての他の箇所に記載されている。一態様では、心筋細胞は、多能性幹細胞(例えば、PSC-CM)から分化される。心筋細胞のインビトロ分化のための例示的なプロトコルは、
図2に図示される。
【0082】
本明細書に使用される場合、「心筋細胞」という用語は、心臓筋肉細胞を指す。心筋細胞は、一般的に、心筋に関連する表現型および/または構造特徴を含む(例えば、電気的表現型、サルコメア、アクチン、ミオシンおよび心トロポニンTの発現、その他)。典型的には、心筋細胞は終末分化している。
【0083】
本明細書に使用される場合、「心筋前駆細胞」という用語は、心系列に拘束されているが、完全に分化した心筋細胞ではない細胞を指す。心筋前駆細胞は、心グラフト内で、心筋細胞にインビボで分化することができる。いくつかの態様では、「心筋前駆細胞」は、インビトロで心系列に沿って部分的に分化しているが、完全には分化していない細胞である。一態様では、本明細書に記載される方法および組成物での使用のための心筋前駆細胞は、Wnt経路の阻害後に分化過程を休止した、インビトロで部分的に分化した心筋細胞を指す(例えば、
図2を参照されたい)。別の態様では、心筋前駆細胞は、心筋細胞を生成するためのインビトロ分化プロトコルの5日目以降(であるが、心筋細胞の最終分化に達する前)の細胞を含む。
【0084】
本明細書に使用される場合の「単離された細胞」という用語は、この細胞が本来見い出された生物から取り出された細胞、またはこのような細胞の子孫を指す。任意で、細胞は、例えば他の細胞の存在下で、インビトロ培養されたものである。任意で、細胞は、後で第2の生物に導入される、またはこの細胞(もしくはこの細胞の先祖の細胞)が単離された生物に再導入される。
【0085】
特定の細胞集団に関して「実質的に純粋である」という用語は、総細胞集団を構成する細胞に関して少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、もっとも好ましくは少なくとも約95%純粋である細胞集団を指す。すなわち、心筋細胞集団に関して「実質的に純粋である」または「本質的に精製された」という用語は、それぞれ心筋細胞ではない細胞を約20%未満、より好ましくは約15%、10%、8%、7%未満、もっとも好ましくは約5%、4%、3%、2%、1%未満、または1%未満含有する細胞集団を指す。
【0086】
本明細書に使用される場合の「マーカー」という用語は、細胞の特性および/または表現型を記載するために使用される。マーカーは、例えば、関心対象の特性を含む細胞の選択のために使用することができ、特定の細胞により変動することができる。マーカーは、特定の細胞型の細胞の形態的、構造的、機能的、もしくは生化学的(酵素的)な特性、または細胞型によって発現される分子である。一局面では、このようなマーカーはタンパク質である。このようなタンパク質は、当技術分野において入手可能な抗体または他の結合分子に対するエピトープを有することができる。しかし、マーカーは、タンパク質(ペプチドおよびポリペプチド)、脂質、多糖、核酸およびステロイドを含むが、それに限定されるわけではない、細胞中または細胞上に見出される任意の分子からなることができる。形態的特性または形質の例には、形状、サイズ、および核対細胞質比が含まれるが、それに限定されるわけではない。機能的特性または形質の例には、特定の基材に接着する能力、特定の色素を取り込むまたは排除する能力、特定の条件下で移動する能力、および特定の系列に沿って分化する能力が含まれるが、それに限定されるわけではない。マーカーは、当業者に利用可能な任意の方法によって検出することができる。マーカーはまた、形態的特性の非存在またはタンパク質、脂質、その他の非存在であることができる。マーカーは、ポリペプチドおよび他の形態的または構造的特性の存在および/または非存在の独特な特性のパネルの組み合わせであることができる。一態様では、マーカーは、細胞表面マーカーである。
【0087】
幹細胞に関連して使用される「から派生した」という用語は、分化した細胞の幹細胞表現型へのリプログラミングによって幹細胞が生成されたことを意味する。分化した細胞に関連して使用される「から派生した」という用語は、細胞が、幹細胞の分化、例えば、インビトロでの分化の結果であることを意味する。本明細書に使用される場合、「iPSC-CM」または「人工多能性幹細胞由来心筋細胞」は、人工多能性幹細胞から派生した心筋細胞を互換的に指すために使用される。同様に、「PSC-CM」または「多能性幹細胞由来心筋細胞」は、多能性幹細胞から派生した心筋細胞を指すために互換的に使用される。いくつかの態様では、「hPSC-CM」または「ヒト多能性幹細胞由来心筋細胞」という用語は、ヒト多能性幹細胞から派生した心筋細胞を指すために互換的に使用される。
【0088】
本明細書に使用される場合、心筋細胞に適用される場合の「成熟」または「成熟表現型」または「成熟心筋細胞」という用語は、成体心筋細胞に類似する表現型を含むが、胎児心筋細胞の少なくとも1つの特徴を含まない、細胞の表現型を指す。いくつかの態様では、インビトロで分化した細胞の成熟度の増大を示すマーカーには、電気的成熟度、代謝的成熟度、遺伝子マーカー成熟度、および収縮性成熟度が含まれるが、それに限定されるわけではない。方法および組成物は、例えば、US2020/008588または国際公開公報第2020/190939号に記載されるように心筋細胞の成熟を誘導するための1つまたは複数の方法を含むことができ、これらの各々は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0089】
本明細書に使用される場合、「移植すること」、「投与すること」または「生着」という用語は、所望の効果が産生されるように傷害または修復部位などの所望の部位での、導入された細胞の少なくとも部分的局在を結果としてもたらす方法または経路による、本明細書に記載される細胞、例えば、幹細胞由来心筋細胞または心筋前駆細胞の対象内への配置の文脈で使用される。細胞、例えば、心幹細胞もしくは前駆細胞または心筋細胞は、心臓に直接埋め込むことができる、または代替的に、埋め込まれた細胞または細胞構成成分の少なくとも一部分が生存したままである、対象の所望の位置への送達を結果としてもたらす任意の適切な経路によって投与される。対象への投与後の細胞の生存期間は、数時間、例えば、24時間と短いものから、数日、数年、すなわち、長期生着であることができる。当業者が認識するように、心筋細胞は、心臓が細胞死を含む急性傷害から治癒できる程度まで増殖しないので、心筋細胞の長期生着が望ましい。したがって、グラフトは、傷害の間に起こる、失われた細胞を置換するために使用することができる。他の態様では、細胞は、腹腔内または静脈内経路などの間接的全身投与経路を介して投与することができる。例えば、それらの各々の内容が、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられるUS2020-0085880、国際公開公報第2020/190739号、または国際公開公報第2021/163037号に記載されたものなどの、生着を改善するまたは生着不整脈(engraftment arrhythmia)を予防するための方法は、本明細書に記載される方法および組成物と組み合わせることができる。
【0090】
本明細書に使用される場合、細胞に関連して使用される場合の「接触させること」という用語は、細胞の、作用物質、表面、足場、その他との物理的接触を許す方法で、作用物質、表面、足場、その他を細胞に導入することを包含する。
【0091】
本明細書に使用される場合、「心疾患」という用語は、対象の心組織を冒す疾患を指す。心疾患の非限定的な例には、心筋症、心不整脈、心筋梗塞、心不全、心肥大、QT延長症候群、不整脈原性右室異形成(ARVD)、カテコールアミン誘発性多形性心室性頻脈(CPVT)、バース症候群、先天性欠損、およびデュシェンヌ型筋ジストロフィーが含まれる。
【0092】
本明細書に使用される場合、「処置」という用語は、本明細書において、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬で処置されていない対象における実質的に類似の心グラフトの免疫拒絶の量と比較して少なくとも50%の、カルシニューリン阻害薬(例えば、タクロリムス)ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬(例えば、アバタセプト)の組み合わせ処置の存在下での心グラフトの免疫拒絶の低減を指す。他の態様では、本明細書に記載されるように処置された対象における免疫拒絶の低減は、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%またはさらには100%の低減(すなわち、検出可能な免疫拒絶が存在しない)である。
【0093】
本明細書に使用される場合、「免疫拒絶」という用語は、それを必要とするレシピエントまたは対象における心グラフト部位に移植された細胞の免疫媒介死を指す。免疫拒絶は、グラフト部位での炎症増大を測定することによって、例えば、循環炎症マーカー(例えば、C反応性タンパク質、サイトカイン、その他)における増大、グラフト部位での白血球浸潤、または免疫抑制剤による処置の必要性、または免疫抑制剤の投与の用量もしくは回数の増大によって評価することができる。代替的または追加的に、免疫拒絶は、免疫拒絶の際に心機能またはその喪失をモニタリングすること、例えば、不整脈または別の心機能測定値の障害の出現または増大によって、評価することができる。
【0094】
本明細書に使用される場合、「グラフト部位へのCD3+ T細胞またはCD20+ B細胞の浸潤が低減される」という用語は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80/CD86シグナル伝達阻害薬で処置されていない対象のグラフト部位におけるCD3+またはCD20+ B細胞数と比較して、このような組み合わせで処置された対象におけるグラフト部位へのCD3+またはCD20+ B細胞数における少なくとも20%の低減を指す。他の態様では、CD3+またはCD20+ B細胞数は、カルシニューリン阻害薬ならびにCD80/CD86シグナル伝達阻害薬で処置されていない対象におけるCD3+またはCD20+ B細胞数と比較して、対象がこのような組み合わせで処置された場合、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、またはさらには100%(すなわち、CD3+またはCD20+ B細胞が存在しない)低減される。
【0095】
「患者」、「対象」および「個体」という用語は、本明細書において互換的に使用され、予防的処置を含む処置が提供される動物、特にヒトを指す。本明細書に使用される場合の「対象」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物を指す。「非ヒト動物」および「非ヒト哺乳動物」という用語は、本明細書において互換的に使用され、この用語には、すべての脊椎動物、例えば、哺乳動物、例えば非ヒト霊長類(特に高等霊長類)、ヒツジ、イヌ、げっ歯動物(例えば、マウスまたはラット)、モルモット、ヤギ、ブタ、ネコ、ウサギ、ウシ、および非哺乳動物、例えばニワトリ、両生類、爬虫類、その他が含まれる。任意の局面の一態様では、対象はヒトである。任意の局面の別の態様では、対象は、疾患モデルとしての実験動物または代用動物である。任意の局面の別の態様では、対象は、伴侶動物を含む家畜動物(例えば、イヌ、ネコ、ラット、モルモット、ハムスター、その他)である。対象は、疾患に対する処置を以前に受けていた可能性がある、または疾患に対する処置をこれまでに受けたことがない。対象は、以前に疾患を有すると診断されていた可能性がある、またはこれまでに疾患と診断されたことがない。対象は、例えば、胎児、新生児、よちよち歩き、小児、青年期、成人、老人の対象、その他を含む、任意の年齢であることができる。
【0096】
「減少させる」、「低減する」、「低減」、または「阻害する」という用語はすべて、性質、レベル、または他のパラメーターの統計的に有意な量の減少または低下を意味するために本明細書において使用される。いくつかの態様では、「低減する」、「低減」または「減少する」または「阻害する」は、典型的に、参照レベル(例えば、所与の処置の非存在下)と比較して少なくとも10%の減少を意味し、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、またはそれよりも大きい減少を含むことができる。本明細書に使用される場合、「低減」または「阻害」は、参照レベルと比較した場合の完全な阻害または低減を包含しない。「完全阻害」は、参照レベルと比較した100%阻害である。減少は、好ましくは、所与の障害を有しない個体について正常範囲内として受け入れられるレベルまで下がることができる。
【0097】
「増大した」、「増大」、「増大する」、または「高まる」もしくは「活性化する」という用語はすべて、本明細書において、性質、レベル、または他のパラメーターの統計的に有意な量の増大を一般的に意味するために使用され;いかなる疑いも避けるために、「増大した」、「増大」または「高まる」または「活性化する」という用語は、参照レベルと比較して少なくとも10%の増大、例えば、少なくとも約20%、もしくは少なくとも約30%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%の増大、または100%以下の増大、または参照レベルと比較して10~100%の任意の増大、または参照レベルと比較して少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約3倍、もしくは少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍、もしくは少なくとも約10倍の増大、少なくとも約20倍の増大、少なくとも約50倍の増大、少なくとも約100倍の増大、少なくとも約1000倍の増大、もしくはそれよりも大きな増大を意味する。
【0098】
本明細書に使用される場合、「含んでいる」または「含む」という用語は、本発明に不可欠である組成物、方法、およびそれらのそれぞれの構成成分に関連して使用されるが、それでも不可欠であろうとなかろうと、不特定要素の包含を排除しない。
【0099】
本明細書に使用される場合、「から本質的になる」という用語は、所与の態様に必要とされる要素を指す。この用語は、本発明のその態様の基本的で新規または機能的な特性に実質的に影響しない追加的な要素の存在を許容している。
【0100】
「からなる」という用語は、態様の説明において記載されない任意の要素を除いた、本明細書に記載される組成物、方法、およびそれらのそれぞれの構成成分を指す。
【0101】
例の装置、方法、およびシステムは、本明細書に記載される。「例」、「例示的な」、および「実例的な」という言葉は、本明細書において、「例、例示、または実例として役立つ」ことを意味するために使用されると理解されるべきである。「例」である、「例示的」である、または「実例的」であるとして本明細書に記載される任意の態様または特徴は、他の態様または特徴よりも好ましいまたは有利であると必ずしも解釈されるべきではない。本明細書に記載される例の態様は、限定することが意味されない。一般的に本明細書に記載され、図面に示されるように、本開示の局面は、多種多様な異なる形状構成で配置、置換、組み合わせ、分離、および設計することができると容易に理解され、これらのすべては、本明細書において明白に企図されている。
【0102】
さらに、図面に示される特定の配置は、限定とみなされるべきでない。他の態様は、多かれ少なかれ所与の図面に示される各要素を含み得ると理解されるべきである。さらに、例証された要素のいくつかが、組み合わされるまたは省略される場合がある。なおさらに、例の態様は、図面に示されない要素を含む場合がある。測定値に関して本明細書に使用される場合、「約」は±5%を意味する。
【0103】
本明細書に示される詳細は、例証としてであり、本発明の好ましい態様の実例となる説明のためだけのものであり、本発明の様々な態様の原理および概念上の局面の、もっとも有用で容易に理解される説明と考えられるものを提供するために提示されている。この点に関して、本発明の構造的詳細を本発明の基本的理解に必要であるよりも詳細に示そうという試みはなされず、図面および/または実施例を用いてなされた説明が、本発明のいくつかの形態がどのように実際に具体化され得るかを当業者に明らかにする。
【0104】
本明細書に使用される場合、および特に示されないかぎり、「a」および「an」という用語は、「1つ」、「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」を意味するために採用される。文脈から特に必要とされないかぎり、本明細書に使用される単数の用語は複数を含み、複数の用語は単数を含むものとする。
【0105】
文脈が特に他のことを必要としないかぎり、本明細書および特許請求の範囲にわたり、「含む」、「含んでいる」、その他の語句は、排他的または網羅的意味とは対照的に包括的意味で、すなわち、「含むが、それに限定されない」とい意味で解釈されるべきである。単数または複数を使用する語句もまた、それぞれ複数および単数を含む。追加的に、本出願に使用される場合、「本明細書において」、「上に」、および「下に」という語句、ならびに類似の意味をもつ語句は、本出願の何らかの特定の部分でなく、本出願全体を指すものとする。
【0106】
本開示の態様の説明は、排他的であることも、本開示を開示された正確な形態に限定することも意図されない。本開示の具体的な態様および例は、例証目的で本明細書に記載されるとはいえ、当業者が認識するように、様々な等価の改変が本開示の範囲内で可能である。
【0107】
本明細書に引用される参考文献のすべては、参照により組み入れられる。上記参照および出願のシステム、機能、および概念を採用して、本開示のなおさらなる態様を提供するために、本開示の局面は、必要に応じて改変することができる。詳細な説明に照らして本開示にこれらおよび他の変化を行うことができる。
【0108】
任意の前述の態様の特定の要素を、他の態様の要素と組み合わせるまたは置換することができる。さらに、これらの態様の少なくともいくつかへの特定の要素の包含は任意であり得、その際、さらなる態様は、これらの具体的な要素のうち1つまたは複数を特異的に除外する1つまたは複数の態様を含み得る。さらに、本開示のある特定の態様に関連する利点が、これらの態様の文脈で記載されたとはいえ、他の態様もまたこのような利点を示す場合があり、本開示の範囲内に入るために必ずしもすべての態様がこのような利点を示す必要はない。
【0109】
本発明の具体的な態様が、例証の目的で本明細書に記載されたものの、本発明の精神および範囲から逸脱せずに様々な改変が行われ得ることが認識されている。したがって、本発明は、特許請求の範囲による場合を除き、限定されない。
【0110】
心血管疾患
本明細書に記載される方法および組成物は、カルシニューリン阻害薬(例えば、タクロリムス)ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬(例えば、アバタセプト)の組み合わせで処置された対象における心グラフト生存性の延長または心グラフト拒絶の予防/低減のための方法および組成物に関する。本明細書に提供される方法および組成物は、多能性幹細胞からインビトロで派生した心筋細胞を投与する工程を含む。本明細書に記載される方法は、心臓の構造および/または機能への病理学的損傷を結果としてもたらすものなどのいくつかの疾患またはそれらの症状の、進行を処置する、回復させる、予防する、または減速するために使用することができる。
【0111】
心血管疾患は、対象の心臓および/または循環系を冒す疾患である。このような心疾患または心関連疾患には、心筋梗塞、心不整脈、心不全、冠動脈硬化、心筋症、先天性心欠損(例えば、心筋緻密化障害、中隔欠損、左心低形成)、肥大型心筋症、拡張型心筋症、心肥大、心筋炎、不整脈原性右室異形成(ARVD)、QT延長症候群、カテコールアミン誘発性多形性心室性頻脈(CPVT)、バース症候群、弁狭窄、逆流、虚血、細動、多形性心室頻拍、およびデュシェンヌ型などの筋ジストロフィーまたは関連心疾患、ならびに心肥大が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0112】
心血管疾患の症状は、失神、疲労、息切れ、胸痛、および動悸を含むことができるが、それに限定されるわけではない。心血管疾患は、一般的に、身体診察、血液検査、および/または心電図(EKG)によって診断される。異常なEKGは、対象が異常な心調律または心不整脈を有するという指標である。不整脈を診断する方法は、当技術分野において公知である。
【0113】
局面のいずれかのいくつかの態様では、対象は、心血管疾患または心イベントを有するまたは有するリスクがある。
【0114】
局面のいずれかのいくつかの態様では、心血管疾患を有する対象は、心臓細胞グラフトを必要とする、受けている、または受けたことがある。
【0115】
多能性幹細胞源
本明細書に記載される方法および組成物は、例えば、胚性幹細胞、多能性幹細胞、例えば人工多能性幹細胞、またはこのような分化を許す他の幹細胞からインビトロで分化した心筋細胞を使用することができる。心筋細胞を調製するために使用することができる様々な幹細胞を以下に記載する。
【0116】
幹細胞は、有糸分裂細胞の分割を経由して自己再生する能力を保持する細胞であって、より専門化された細胞型に分化することができる。3つの広い種類の哺乳動物幹細胞には:胚盤胞に見出される胚性幹(ES)細胞、体細胞からリプログラミングされる人工多能性幹細胞(iPSC)、および成体組織中に見出される成体幹細胞が含まれる。他の多能性幹細胞源は、羊膜由来または胎盤由来幹細胞を含むことができる。発生中の胚では、幹細胞は、専門化された胚組織のすべてに分化することができる。成体生物では、幹細胞および前駆細胞は、専門化された細胞を補充して、身体のための修復システムとして作用するが、血液、皮膚または腸組織などの再生器官の正常なターンオーバーも維持する。多能性幹細胞は、3つの胚葉のうちいずれかから派生する細胞に分化することができる。
【0117】
本明細書に記載される方法および組成物に有用な心筋細胞は、とりわけ、胚性幹細胞および人工多能性幹細胞の両方から分化することができる。一態様では、本明細書に提供される組成物および方法は、胚性幹細胞から分化したヒト心筋細胞を使用する。あるいは、いくつかの態様では、本明細書に提供される組成物および方法は、生きたヒト胚から採取された細胞から作製されたヒト心原性細胞の生成または使用を包含しない。
【0118】
胚性幹細胞およびそれらの回収方法は、当技術分野において周知であり、本明細書では詳細に記載されない。細胞が、胚性幹細胞の独特な特性のうち1つまたは複数を保有し、それにより、細胞を他の細胞と識別できる場合、この細胞は胚性幹細胞の表現型を有する。例示的な特徴的な胚性幹細胞の特性には、形態、遺伝子発現またはマーカーのプロファイル、増殖能、分化能、核型、特定の培養条件への応答性、その他が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0119】
胚起源に由来する細胞は、胚性幹細胞または幹細胞バンクもしくは他の広く認められた寄託機関から得られた幹細胞株を含むことができる。幹細胞株を産生する他の手段には、胚盤胞形成前の初期胚(約8細胞期)からの割球細胞の使用を含む方法が含まれる。このような技術は、生殖補助クリニックで日常的に実践されている着床前遺伝子診断技術に対応する。単一の割球細胞が樹立ES細胞株と共培養され、次いでそれらから分離されて、完全にコンピテントなES細胞株を形成する。
【0120】
胚性幹細胞は、特異的分化系列に拘束されていない場合に、未分化であると見なされる。このような細胞は、それらを、胚または成体起源の分化細胞と識別する形態的特性を示す。未分化胚性幹(ES)細胞は、当業者によって容易に認識され、典型的には、顕微鏡下の二次元で高い核/細胞質比および突出した核小体を有する細胞のコロニーとして見える。いくつかの態様では、本明細書に記載されるヒト心筋細胞は、胚性幹細胞または胚起源の任意の他の細胞から派生したものではない。
【0121】
成体幹細胞は、出生後もしくは新生児後生物の組織から、または成体生物から派生した幹細胞である。成体幹細胞は、胚性幹細胞と比べてそれが発現するまたは発現しないマーカーだけでなく、エピジェネティックな差異、例えばDNAメチル化パターンにおける差異の存在が、胚性幹細胞と構造的に異なる。
【0122】
いくつかの態様では、本明細書に記載される方法および組成物は、人工多能性幹細胞からインビトロで分化した心筋細胞を利用する。本明細書に記載される組成物のためにiPSCを使用して心筋細胞を生成する利点は、所望のヒト心筋細胞が投与される、まさにその対象から派生したものである。すなわち、体細胞を対象から入手し、人工多能性幹細胞にリプログラミングし、次いで対象に投与されるヒト心筋細胞に再分化させることができる(例えば、自家細胞)。心筋細胞(またはそれらの分化した子孫)は、本質的に自家起源から派生するので、生着拒絶またはアレルギー応答のリスクは、別の対象または対象群からの細胞の使用と比較して低減される。しかし、自家起源からの心グラフトであっても、特に、ネオエピトープ(例えば、細胞を外来として認識できるミトコンドリア遺伝子変異)の存在のせいで、移植片拒絶のいくらかのリスクを提起する。
【0123】
いくつかの態様では、本明細書に記載される組成物に有用な心筋細胞は、非自家または同種起源から派生したものである。
【0124】
いくつかの態様では、iPSCは、分化した細胞(例えば、体細胞)の分化状態を変更または逆戻りさせるプロセスであるリプログラミングがされた細胞である。別の言い方をすれば、リプログラミングは、細胞の分化をより未分化の、またはより原始的な種類の細胞に後ろ向きに推進するプロセスである。体細胞の人工多能性幹細胞のリプログラミングは、当技術分野において公知であり、本明細書において詳細には記載されない。iPS細胞は、最終分化した体細胞のみならず、成体幹細胞、または体性幹細胞から生成される、またはそれらから派生することができる。すなわち、非多能性前駆細胞は、リプログラミングによって多能性または多分化能性(multipotent)にすることができる。
【0125】
本明細書に記載される方法による使用のための多能性幹細胞の誘導を確認するために、単離されたクローンを、幹細胞マーカーの発現のために検査することができる。体細胞から派生した細胞におけるこのような発現は、人工多能性幹細胞などの細胞を特定する。幹細胞マーカーは、SSEA3、SSEA4、CD9、Nanog、Fbx15、Ecat1、Esg1、Eras、Gdf3、Fgf4、Cripto、Dax1、Zpf296、Slc2a3、Rex1、Utf1、およびNat1を含む非限定的な群より選択することができる。一態様では、Oct4またはNanogを発現する細胞は、多能性として特定される。このようなマーカーの発現を検出するための方法は、例えば、RT-PCR、およびウエスタンブロットまたはフローサイトメトリー分析などのコードされたポリペプチドの存在を検出する免疫学的方法を含むことができる。いくつかの態様では、検出は、RT-PCRだけを伴うのではなく、タンパク質マーカーの検出も含む。細胞内マーカーは、RT-PCRを介して最良に特定され得るとはいえ、細胞表面マーカーは、例えば、免疫細胞化学によって容易に特定される。
【0126】
本明細書に開示されるリプログラミングされた体細胞は、アルカリホスファターゼ(AP);ABCG2;ステージ特異的胚抗原-1(SSEA-1);SSEA-3;SSEA-4;TRA-1-60;TRA-1-81;Tra-2-49/6E;ERas/ECAT5、E-カドヘリン;β-III-チューブリン;α-平滑筋アクチン(α-SMA);線維芽細胞増殖因子4(Fgf4)、Cripto、Dax1;ジンクフィンガータンパク質296(Zfp296);N-アセチルトランスフェラーゼ-1(Nat1);(ES細胞関連転写物1(ECAT1);ESG1/DPPA5/ECAT2;ECAT3;ECAT6;ECAT7;ECAT8;ECAT9;ECAT10;ECAT15-1;ECAT15-2;Fthl17;Sal14;未分化胚細胞転写因子(Utf1);Rex1;p53;G3PDH;TERTを含むテロメラーゼ;サイレントX染色体遺伝子;Dnmt3a;Dnmt3b;TRIM28;Fボックス含有タンパク質15(Fbx15);Nanog/ECAT4;Oct3/4;Sox2;Klf4;c-Myc;Esrrb;TDGF1;GABRB3;Zfp42、FoxD3;GDF3;CYP25A1;発生多能性関連2(DPPA2);T細胞リンパ腫ブレークポイント1(Tcl1);DPPA3/Stella;DPPA4;多能性についての他の一般マーカー、その他を含む、任意の数の多能性細胞マーカーを発現することができる。他のマーカーは、Dnmt3L;Sox15;Stat3;Grb2;β-カテニン、およびBmi1を含むことができる。このような細胞はまた、それから人工多能性幹細胞が派生した体細胞のマーカー特性のダウンレギュレーションによって特徴付けることができる。
【0127】
心筋細胞のインビトロ分化
本明細書に記載される方法および組成物は、インビトロで分化した心筋細胞を含むグラフトを使用することができる。ESCまたはIPSCからの心筋細胞の分化のための方法は、当技術分野において公知である。例えば、心筋細胞の分化を記載しているLaFlamme et al., Nature Biotech 25:1015-1024 (2007)を参照されたい)。これらのアプローチは、それらのそれぞれの細胞型をもたらす分化プログラムを活性化し、ガイドするために様々な要因および条件を使用する。それらに関与する経路およびある特定の要因を以下に述べる。
【0128】
ある特定の態様では、ESCまたはiPSCの心筋細胞への段階的分化は、以下の順序で進行する:ESCまたはiPSC>造心中胚葉>心筋前駆細胞>心筋細胞(例えば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられるUS 2017024086を参照されたい)。
【0129】
当業者によって認識されているように、心筋細胞のインビトロ分化は、心筋細胞の表現型および形態的特徴を有する細胞の最終結果を産生するが、インビトロ分化の分化段階は、胚で自然に起こる分化と同じである必要はない。すなわち、心筋細胞への分化の間、このような細胞を産生するために利用される段階的分化アプローチは、胚形成の間に特定されたあらゆる前駆細胞型を経由して進行する必要はなく、胚形成の間に起こるある特定の発生期を本質的に「スキップ」できることが、本明細書において具体的に企図される。
【0130】
多能性幹細胞(例えば、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞)から心筋細胞または心筋前駆細胞を生成するための例示的な方法は、例えばUS2020-0085880に記載されており、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0131】
カルシニューリン阻害薬
カルシニューリンは、身体全体にわたり普遍的に発現されるカルシウムおよびカルモジュリン依存性セリン/トレオニンタンパク質ホスファターゼ(タンパク質ホスファターゼ3、およびカルシウム依存性セリン-トレオニンホスファターゼとしても知られる)である。カルシニューリンは、免疫系のT細胞を活性化するために役立ち、カルシニューリンのこの効果を阻害できるいくつかの作用物質がある。例示的なカルシニューリン阻害薬には、タクロリムスもしくはピメクロリムスなどの小分子、またはペプチドが含まれる。
【0132】
一態様では、カルシニューリン阻害薬は小分子である。カルシニューリンの非限定的な小分子阻害薬には、シクロスポリンA(CsA)およびCsA誘導体(例えば、[(R)α-メチルサルコシン3]CsA、[ジメチルアミノエチルチオサルコシン3]CsA、[MeBm2t]1-CsA、ISA247(ボクロスポリン));FK506(タクロリムス)および誘導体(例えば、FK520(アスコマイシン)、ピメクロリムス(SDZ AM 981、33-エピ-クロロ-33デスオキシ-アスコマイシン)、L-732,531(32-O-(1-ヒドロキシエチルインドール-5-イル)-アスコマイシン)、L-685,818(FK506BD)およびV-10,367);FMPP(4-(フルオロメチル)フェニルホスフェート)、チルホスチン、ノルカンタリジン、オカダ酸、エンドサル、ケンフェロール、バルビツール酸塩、1,5-ジベンゾイルオキシメチル-ノルカンタリジン、ゴシポール、Lie120、PD144795、ジベルフィン(diberufin)、ジピリダモール、NCI3、INCA化合物、BTPまたは3,5-ビス(トリフルオロメチル)ピラゾール、BTP1、BTP2(YM-58483)、BTP3、BTP A-285222、ST1959、AM404、UR-1505、トリフルサル、ロカグラミド(rocoglamide)誘導体、WIN 53071、トリフルオロペラジン、KRM-III、コーヒー酸フェニルエチルエステル(CAPE)、YM-53792、キナゾリンジオン、ピロロピリミジンジオン、NFAT-68、NFAT-133、プニカラギン、インペラトリンおよびキノロンアルカロイドが含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0133】
一態様では、カルシニューリン阻害薬は、CN585(6-(3,4-ジクロロフェニル)-4-(N,N-ジメチルアミノエチルチオ)-2-フェニル-ピリミジン)である。
【0134】
別の態様では、カルシニューリン阻害薬はペプチドである。例示的なペプチドには、AID断片(カルシニューリンの自己阻害ドメインに由来する)、例えば、AID424-521、AID457-482、AID420-511、AID328-511、11R-AID457-482;PxIxITペプチド(NFATcに見出される、保存されたカルシニューリンドッキングモチーフPxIxITに由来する)、VIVIT 16塩基オリゴペプチド、NFATc2106-121-SPRIEITペプチド、AKAP79330-357ペプチド、RCANIペプチド、RCANI-4141-197-エクソン7、RCAN1-4143-163-CICペプチド、LxVPcIペプチド、RCANI-495-118-SPリピートペプチド、VacAペプチド、A238LおよびA238L200-213が含まれるが、それに限定されるわけではない。ペプチドの別の例は、pS3ペプチド(コフィリンリン酸化ドメインに由来する)である。
【0135】
ある特定の態様では、カルシニューリン阻害薬は、FK506(タクロリムス)またはカルシニューリン阻害薬活性を含むFK506誘導体、例えば、FK520(アスコマイシン)、FK523、ピメクロリムス(SDZ AM 981、33-エピ-クロロ-33デスオキシ-アスコマイシン)、L-732,531(32-O-(1-ヒドロキシエチルインドール-5-イル)-アスコマイシン)、L-685,818(FK506BD)、L-732-731、15-0-DeMe-FK-520、メリダマイシン、31-O-デメチル-FK506、V-10,367、L-683,590、L-685,818、C 18-OH-アスコマイシン;9-デオキソ-31-O-デメチル-FK506;L-688,617;A-1 19435およびAP1903である。
【0136】
一態様では、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムスを含む。理論に縛られることを望むわけではないが、タクロリムスの作用機作は、部分的に、Tリンパ球の不活性化および免疫抑制を含むことができる。
【0137】
いくつかの態様では、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムス誘導体、例えば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第9,505,779号に記載されたものを含む。
【0138】
CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬
CD80は、T細胞活性化のための共刺激シグナルを提供する膜貫通タンパク質である。これはCD86とタンデムに働いてT細胞をプライミングする。制御性T細胞は、可溶性CTLA-4(sCTLA-4)を分泌し、sCTLA-4はCD80と結合し、T細胞の共刺激活性化を遮断する。
【0139】
本明細書に記載される方法および組成物は、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬を使用して、心グラフトの拒絶を低減または予防する。CD80および/またはCD86シグナル伝達阻害薬は、(i)CTLA4の可溶性細胞外ドメイン;(ii)(a)位置29のアラニンがチロシン、ロイシン、トリプトファン、およびトレオニンからなる群より選択されるアミノ酸で置換されており、かつ(b)位置104のロイシンがグルタミン酸で置換されている、CTLA4の変異型可溶性細胞外ドメイン、;または(iii)(i)もしくは(ii)の可溶性細胞外ドメインと、CTLA4の細胞外ドメインの可溶性ならびに/またはCD80および/もしくはCD86との親和性を変更する部分とを含むことができる。いくつかの態様では、CTLA4の細胞外ドメインの可溶性ならびに/またはCD80および/もしくはCD86との親和性を変更する部分は、ポリエチレングリコール(PEG)などの非タンパク質様部分であることができる、または、これは、IgGのFc、定常領域などの、免疫グロブリン分子の一部分であることができる。
【0140】
一態様では、CD80および/またはCD86シグナル伝達阻害薬は、アバタセプト(abatecept)を含む。アバタセプト(米国および欧州の両方において商品名ORENCIA(登録商標)で販売されている)は、免疫グロブリンIgG1の改変Fc領域が細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)の細胞外ドメインと融合したものから構成される、遺伝子操作された融合タンパク質である。
【0141】
他の態様では、CD80および/またはCD86シグナル伝達阻害薬は、ベラタセプトを含む。ベラタセプトは、アバタセプト化合物のCD80/86結合部分に2つのアミノ酸変更を含む、アバタセプトの誘導体である。ベラタセプトは、アバタセプトと比較してT細胞活性化をインビトロ阻害する能力に10倍の増大を含む。
【0142】
投与量および投与
心グラフト拒絶の低減または予防のためのカルシニューリン阻害薬および/またはCD80/CD86シグナル伝達阻害薬を含む薬学的または治療的組成物は、生理学的に耐容される担体を含有することができ、その際、治療的作用物質は、活性成分としてその中に溶解または分散されている。好ましい態様では、薬学的組成物は、治療目的で哺乳動物またはヒト患者に投与される場合に免疫原性ではない。本明細書に使用される場合、「薬学的に許容される」、「生理的に耐容される」という用語およびその文法的変形は、それらが、組成物、担体、希釈剤および試薬を指す場合に、互換的に使用され、これらの物質が、悪心、めまい、胃の不調、その他などの望まれない生理作用を産生せずに哺乳動物に、または哺乳動物上に投与可能であることを表す。薬学的に許容される担体は、そのように望まれないかぎり、それが混和される作用物質に対する免疫応答の産生を促進しない。その中に溶解または分散された活性成分を含有する薬理学的または薬学的組成物の調製は、当技術分野において十分に理解されており、製剤に基づき限定される必要はない。典型的に、このような組成物は、液体の溶液または懸濁液のいずれかとして注射用として調製されるが、しかし、使用前に液体としての溶液または懸濁液にするために適した固体形態も調製することができる。調製物はまた、乳化させることも、また、リポソーム組成物として提示することもできる。活性成分は、薬学的に許容され、かつ活性成分と適合される賦形剤と、本明細書に記載される治療方法への使用に適した量で混合することができる。適切な賦形剤には、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール、その他、およびそれらの組み合わせが含まれる。加えて、所望であれば組成物は、活性成分の有効性を高める湿潤または乳化剤、pH緩衝剤、その他などの少量の補助物質を含有することができる。心グラフトの拒絶の低減または予防ための治療用作用物質を含む治療用組成物は、その中の構成成分の薬学的に許容される塩を含むことができる。薬学的に許容される塩には、例えば、塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、酒石酸、マンデル酸、その他などの有機酸と形成された酸付加塩(ポリペプチドの遊離アミノ基と形成されたもの)が含まれる。遊離カルボキシル基と形成された塩はまた、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン、その他などの有機塩基に由来することができる。
【0143】
生理的に耐容される担体は、当技術分野において周知である。例示的な液体担体は、活性成分および水以外の物質を含有しない、または生理的pH値でのリン酸ナトリウムなどの緩衝剤、生理食塩水、またはリン酸緩衝食塩水などのそれら両方を含有する無菌水溶液である。なおさらに、水性担体は、複数の緩衝塩のみならず、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムなどの塩、デキストロース、ポリエチレングリコールおよび他の溶質を含有することができる。液体組成物はまた、水に加えて、および水を除外して液相を含有することができる。このような追加的な液相の例は、グリセリン、綿実油などの植物油、および水-油エマルションである。心グラフト拒絶の治療または予防に有効である、本明細書に記載される方法に使用される活性作用物質の量は、いくつかの要因に依存し、標準的な臨床技術によってこれを決定することができる。
【0144】
本明細書に記載される薬学的組成物は、例えば、ボーラス注射または持続注入による、非経口投与のために製剤化することができる。注射用製剤は、単位剤形として例えばアンプル中に、または任意で保存剤が添加された多回量容器中に提示することができる。組成物は、油性または水性媒体中の懸濁液、溶液、またはエマルションであることができ、懸濁化剤、安定化剤、および/または分散剤などの調合剤を含有することができる。
【0145】
非経口投与のための薬学的組成物は、水溶性形態の活性調製物の水溶液を含む。追加的に、活性成分の懸濁液は、適切な油性または水性注射用懸濁液として調製することができる。
【0146】
適切な親油性溶媒または媒体には、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチル、トリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームが含まれる。水性注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなどの懸濁液の粘度を増大させる物質を含有することができる。
【0147】
任意で、懸濁液はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために活性成分の溶解度を増大させる適切な安定化剤または作用物質を含有することができる。あるいは、活性成分は、使用前に適切な媒体、例えば、無菌、無発熱物質、水性溶液を用いて構成するための粉末形態であることができる。
【0148】
いくつかの態様では、治療用作用物質は、即放形態で送達することができる。他の態様では、治療用作用物質は、制御放出システムまたは徐放システムで送達することができる。制御放出または徐放薬学的組成物は、非制御放出または非徐放の対応物によって達成された結果よりも薬物療法を改善するという共通目標を有することができる。制御放出または徐放組成物の利点には、治療剤の活性延長、投薬回数の低減、および服薬遵守の増大が含まれる。加えて、制御放出または徐放組成物は、作用または治療剤の血中レベルなどの他の特性の開始時間に好都合に影響することができ、したがって、有害副作用の発生を低減することができる。活性成分の制御放出または徐放は、pHの変化、温度変化、酵素の濃度もしくは利用能、水野濃度もしくは利用能、または他の生理条件もしくは化合物を含むが、それに限定されるわけではない様々な条件によって刺激することができる。
【0149】
一態様では、投与のためにポンプを使用することができる(Langer, Science 249:1527-1533 (1990); Sefton, CRC Crit. Ref Biomed. Eng. 14:201 (1987); Buchwald et al., Surgery 88:507 (1980); およびSaudek et al., N. Engl. J. Med 321:574 (1989))。別の態様では、ポリマー物質を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release (Langer and Wise eds., 1974); Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance (Smolen and Ball eds., 1984); Ranger and Peppas, J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61 (1983); Levy et al., Science 228:190 (1985); During et al., Ann. Neurol. 25:351 (1989); およびHoward et al., J. Neurosurg. 71:105 (1989)を参照されたい)。
【0150】
錠剤または丸剤剤形の場合、本明細書に記載される薬学的組成物をコーティング(例えば、腸溶コーティング)して、消化管内での崩壊および吸収を遅延させ、それによって、持続作用を長期間にわたり提供することができる。浸透圧的に活性な推進化合物を取り囲む選択的透過膜もまた、経口投与された組成物に適している。これらの後者のプラットフォームでは、カプセルをロリ囲む環境からの液体が推進化合物によって吸収され、推進化合物は膨潤して、作用物質または作用物質組成物を開口部経由で移動させる。即放製剤のスパイク型プロファイルと対照的に、これらの送達プラットフォームは、本質的にゼロ次送達プロファイルを提供することができる。モノステアリン酸グリセロールまたはステアリン酸グリセロールなどの時間遅れ物質もまた、使用することができる。経口組成物は、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、および炭酸マグネシウムなどの標準的な賦形剤を含むことができる。一態様では、賦形剤は、医薬品グレードである。
【0151】
本明細書に記載される薬学的組成物はまた、例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を使用して、坐剤または停留浣腸などの直腸用組成物として製剤化することができる。
【0152】
所与の治療用作用物質に適した投与量範囲は、効力に依存し、所望の効果、例えば、心グラフト拒絶の少なくとも1つの症状の低減を産生するために十分大きな量を含む。治療用作用物質の投与量は、許容されないまたは生命にかかわる副作用を引き起こすほど大きいべきではない、または医療従事者による綿密な監督下で使用されるべきである。一般的に、投与量は、作用物質の種類、ならびに患者の年齢、状態、および性別に伴い変動する。投与量は、当業者が決定することができ、何らかの合併症の場合には個々の医師が調整することができる。
【0153】
上記の、または熟練の臨床家によって採用される場合の、用量の投与は、限られた所定の期間繰り返すことができる。いくつかの態様では、用量は、1日1回、または1日複数回、例えば、非限定的に1日3回与えられる。典型的に、投与レジメンは、作用物質の半減期のみならず、作用物質の血中、血清中または所与の生体組織中の局所の最小治療濃度によって通知される。好ましい態様では、上記の用量は、数週間または数か月間にわたり毎日投与される。治療期間は、対象の臨床的進行および治療法に対する応答の継続に依存する。最初のより高い治療用量後に、継続的で、比較的低い維持用量が企図される。
【0154】
治療有効量は、心グラフト拒絶の所与の症状の統計的に有意で測定可能な変化を産生するために十分な作用物質の量である(下の「有効性の測定」を参照されたい)。このような有効量は、所与の作用物質についての臨床試験のみならず、動物試験で計測することができる。例えば、グラフト拒絶の低減または予防は、作用物質の適切な治療有効性を指し示すことができる。
【0155】
本明細書に記載される方法および組成物に有用な作用物質は、静脈内(ボーラスまたは持続注入による)、経口、腹腔内、筋肉内、皮下、体腔内に投与することができ、所望であれば蠕動式手段によって、または当業者に公知の他の手段によって送達することができる。作用物質は、そのように所望であれば全身投与することができる。
【0156】
少なくとも1つの治療用作用物質を含有する治療用組成物は、慣習的に単位用量で投与することができる。治療用組成物に関連して使用する場合の「単位用量」という用語は、対象についての単位投与量として適した、物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要とされる、生理学的に許容される希釈剤、すなわち、担体、または媒体に関連して、所望の治療効果を産生するように計算された治療用作用物質の予め決定された量を含有する。
【0157】
組成物は、投薬製剤と適合するように、治療有効量で投与される。投与される量およびタイミングは、処置されるべき対象、対象のシステムが活性成分を利用する能力、および所望の治療効果の程度に依存する。作用物質は、例えば抗体などのターゲティング部分、またはターゲティングリポソーム技術によりターゲティングすることができる。
【0158】
投与される必要のある活性成分の正確な量は、開業医の判断に依存し、個体毎に特有である。しかし、全身適用に適した投与量範囲は、本明細書に開示され、投与経路に依存する。投与に適した方式もまた様々であるが、初回投与に続く、後続注射または他の投与による1つまたは複数の間隔の繰り返し投与が典型的な特徴である。あるいは、血中濃度をインビボ療法のために特定化された範囲に意味するために十分な連続静脈内注入が企図される。
【0159】
ある特定の態様では、カルシニューリン阻害薬は、皮下、静脈内または経口投与によって投与することができるタクロリムスである。本明細書に記載される方法および組成物での使用のためのタクロリムスの例示的な治療的用量は、1~50ng/mLの血中、血漿または血清濃度を達成するように投与され、例えば、1~45ng/mL、1~40ng/mL、1~35ng/mL、1~30ng/mL、1~25ng/mL、1~20ng/mL、1~15ng/mL、1~10ng/mL、1~9ng/mL、1~8ng/mL、1~7ng/mL、1~6ng/mL、1~5ng/mL、1~4ng/mL、1~3ng/mL、1~2ng/mL、45~50ng/mL、40~50ng/mL、35~50ng/mL、30~50ng/mL、25~50ng/mL、20~50ng/mL、15~50ng/mL、10~50ng/mL、5~50ng/mL、5~25ng/mL、5~20ng/mL、5~30ng/mL、1~25ng/mL、10~20ng/mL、10~30ng/mL、10~15ng/mL、7.5~20ng/mL、もしくはそれらの間の任意の整数、または交互処置レジメンを使用して投与される等価用量である。ピメクロリムスなどのタクロリムス誘導体についての投与量は、類似であることができ、薬物動態または他のパラメーターにおける差異を説明するために当業者が上下に調整することができる。
【0160】
ある特定の態様では、カルシニューリン阻害薬は、経口または静脈内投与することができるシクロスポリンを含む。シクロスポリンが経口投与される態様では、シクロスポリンの用量は、0.1~50mg/kg/日、0.1~40mg/kg/日、0.1~30mg/kg/日、0.1~25mg/kg/日、0.1~20mg/kg/日、0.1~15mg/kg/日、0.1~10mg/kg/日、0.1~5mg/kg/日、0.1~2mg/kg/日、40~50mg/kg/日、30~50mg/kg/日、20~50mg/kg/日、10~50mg/kg/日、5mg/kg/日、0.5~20mg/kg/日、0.5~15mg/kg/日、1~15mg/kg/日、2~15mg/kg/日、3~15mg/kg/日、4~15mg/kg/日、5~15mg/kg/日、6~15mg/kg/日、7~15mg/kg/日、8~15mg/kg/日、9~15mg/kg/日、10~15mg/kg/日、11~15mg/kg/日、12~15mg/kg/日、13~15mg/kg/日、14~15mg/kg/日、15~20mg/kg/日、16~20mg/kg/日、17~~20mg/kg/日、18~20mg/kg/日、19~20mg/kg/日の範囲内、もしくはそれらの間の任意の整数、または交互処置レジメンを使用して投与される等価用量である。一態様では、経口投与されるシクロスポリンの用量は、1~15mg/kg/日を含む。
【0161】
シクロスポリンが静脈内投与される態様では、シクロスポリンの用量は、0.1~15mg/kg/日、0.1~14mg/kg/日、0.1~13mg/kg/日、0.1~12mg/kg/日、0.1~10mg/kg/日、0.1~8mg/kg/日、0.1~5mg/kg/日、0.1~4mg/kg/日、0.1~3mg/kg/日、0.1~2mg/kg/日、0.1~1mg/kg/日、1~15mg/kg/日、1~14mg/kg/日、1~13mg/kg/日、1~12mg/kg/日、1~11mg/kg/日、1~10mg/kg/日、1~9mg/kg/日、1~8mg/kg/日、1~7mg/kg/日、1~6mg/kg/日、1~5mg/kg/日、1~4mg/kg/日、1~3mg/kg/日、1~2mg/kg/日、2~15mg/kg/日、2~14mg/kg/日、2~13mg/kg/日、2~12mg/kg/日、2~11mg/kg/日、2~10mg/kg/日、2~9mg/kg/日、2~8mg/kg/日、2~7mg/kg/日、2~6mg/kg/日、2~5mg/kg/日、2~4mg/kg/日、2~3mg/kg/日、3~15mg/kg/日、3~14mg/kg/日、3~13mg/kg/日、3~12mg/kg/日、3~11mg/kg/日、3~10mg/kg/日、3~9mg/kg/日、3~8mg/kg/日、3~7mg/kg/日、3~6mg/kg/日、3~5mg/kg/日、3~4mg/kg/日、4~15mg/kg/日、4~14mg/kg/日、4~13mg/kg/日、4~12mg/kg/日、4~11mg/kg/日、4~10mg/kg/日、4~9mg/kg/日、4~8mg/kg/日、4~7mg/kg/日、4~6mg/kg/日、4~5mg/kg/日、5~15mg/kg/日、5~14mg/kg/日、5~13mg/kg/日、5~12mg/kg/日、5~11mg/kg/日、5~10mg/kg/日、5~9mg/kg/日、5~8mg/kg/日、5~7mg/kg/日、5~6mg/kg/日、6~15mg/kg/日、6~14mg/kg/日、6~13mg/kg/日、6~12mg/kg/日、6~11mg/kg/日、6~10mg/kg/日、6~9mg/kg/日、6~8mg/kg/日、6~7mg/kg/日、7~15mg/kg/日、8~15mg/kg/日、9~15mg/kg/日、10~15mg/kg/日、11~15mg/kg/日、12~15mg/kg/日、13~15mg/kg/日、14~15mg/kg/日の範囲内、もしくはそれらの間の任意の整数、または交互処置レジメンを使用して投与される等価用量である。一態様では、静脈内投与されるシクロスポリンの用量は、1~6mg/kg/日を含む。
【0162】
ある特定の態様では、カルシニューリン阻害薬は、0.01~5mg/kg、0.01~4mg/kg、0.01~3mg/kg、0.01~2mg/kg、0.01~1mg/kg、0.1~5mg/kg、0.1~4mg/kg、0.1~3mg/kg、0.1~2mg/kg/日、0.1~1mg/kg、0.1~0.5mg/kg、0.5~5mg/kg、0.5~4mg/kg、0.5~3mg/kg、0.5~2mg/kg、0.5~1mg/kg、1~5mg/kg、1~4mg/kg、1~3mg/kg、1~2mg/kg、2~5mg/kg、2~4mg/kg、2~3mg/kg、3~5mg/kg、3~4mg/kg、4~5mg/kgの範囲内の用量、もしくはそれらの間の任意の整数、または異なる処置レジメンを使用して投与される等価用量で、1日2回経口投与することができるボクロスポリンを含む。一態様では、経口投与を介して1日2回投与されるボクロスポリンの用量は、0.1~1mg/kgを含む。
【0163】
ある特定の態様では、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、アバタセプトまたはベラタセプトを含み、これは、静脈内または皮下のいずれかに投与することができる。いくつかの態様では、アバタセプトまたはベラタセプトの用量は、所与の間隔(例えば、10日毎、11日毎、12日毎、13日毎、14日毎、15日毎、16日毎、17日毎、18日毎、19日毎、20日毎、21日毎、22日毎、23日毎、3週間毎、4週間毎、またはより長い間隔)で静脈内または皮下投与される1.25~125mg/kgである。ある特定の態様では、アバタセプトまたはベラタセプトの静脈内または皮下用量は、1.25~100mg/kg、1.25~90mg/kg、1.25~80mg/kg、1.25~75mg/kg、1.25~70mg/kg、1.25~60mg/kg、1.25~50mg/kg、1.25~40mg/kg、1.25~30mg/kg、1.25~20mg/kg、1.25~10mg/kg、1.25~5mg/kg、2~125mg/kg、5~125mg/kg、10~125mg/kg、10~125mg/kg、20~125mg/kg、30~125mg/kg、40~125mg/kg、50~125mg/kg、60~125mg/kg、70~125mg/kg、75~125mg/kg、80~125mg/kg、90~125mg/kg、100~125mg/kg、110~125mg/kg、115~125mg/kg、5~20mg/kg、5~15mg/kg、5~25mg/kg、10~20mg/kg、10~25mg/kg、20~50mg/kg、25~75mg/kg、もしくはそれらの間の任意の整数、または交互処置レジメンを使用して投与される等価用量である。
【0164】
ある特定の態様では、アバタセプトまたはベラタセプトの用量は5~25mg/kgであり、血中、血漿または血清濃度を達成するように投与されるタクロリムスの治療用量は、1~50ng/mL、例えば1~45ng/mL、1~40ng/mL、1~35ng/mL、1~30ng/mL、1~25ng/mL、1~20ng/mL、1~15ng/mL、1~10ng/mL、1~9ng/mL、1~8ng/mL、1~7ng/mL、1~6ng/mL、1~5ng/mL、1~4ng/mL、1~3ng/mL、1~2ng/mL、45~50ng/mL、40~50ng/mL、35~50ng/mL、30~50ng/mL、25~50ng/mL、20~50ng/mL、15~50ng/mL、10~50ng/mL、5~50ng/mL、5~25ng/mL、5~20ng/mL、5~30ng/mL、1~25ng/mL、10~20ng/mL、10~30ng/mL、10~15ng/mL、7.5~20ng/mL、もしくはそれらの間の任意の整数、または交互処置レジメンを使用して投与される等価用量より選択される。
【0165】
ある特定の態様では、タクロリムスの用量は、1.25~100mg/kg、1.25~90mg/kg、1.25~80mg/kg、1.25~75mg/kg、1.25~70mg/kg、1.25~60mg/kg、1.25~50mg.kg、1.25~40mg/kg、1.25~30mg/kg、1.25~20mg/kg、1.25~10mg/kg、1.25~5mg/kg、2~125mg/kg、5~125mg/kg、10~125mg/kg、10~125mg/kg、20~125mg/kg、30~125mg/kg、40~125mg/kg、50~125mg/kg、60~125mg/kg、70~125mg/kg、75~125mg/kg、80~125mg/kg、90~125mg/kg、100~125mg/kg、110~125mg/kg、115~125mg/kg、5~20mg/kg、5~15mg/kg、5~25mg/kg、10~20mg/kg、10~25mg/kg、20~50mg/kg、25~75mg/kg、もしくはそれらの間の任意の整数、または交互処置レジメンを使用して投与される等価用量からなる群より選択されるアバタセプトまたはベラタセプトの用量と組み合わせて5~30ng/mLの血中、血漿または血清濃度を達成するように投与される。
【0166】
ある特定の態様では、タクロリムスの用量は、5~25ng/mLの血中、血漿または血清濃度を達成するように投与され、アバタセプトまたはベラタセプトの用量は5~20mg/kgである。
【0167】
組み合わせ処置のいくつかの態様では、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムス、シクロスポリン、ボクロスポリン、およびピメクロリムスからなる群より選択される。組み合わせ処置のいくつかの態様では、CD80および/またはCD86の阻害薬は、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む。組み合わせ処置のいくつかの態様では、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、アバタセプトまたはベラタセプトを含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬タクロリムスならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬、アバタセプトを含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬シクロスポリンならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬、アバタセプトを含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬ボクロスポリンならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬、アバタセプトを含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬ピメクロリムスならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬、アバタセプトを含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬タクロリムスならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬、ベラタセプトを含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬シクロスポリンならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬、ベラタセプトを含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬ボクロスポリンならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬、ベラタセプトを含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬ピメクロリムスならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬、ベラタセプトを含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬タクロリムスを含み、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬シクロスポリンを含み、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬ボクロスポリンを含み、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む。いくつかの態様では、組み合わせ処置は、カルシニューリン阻害薬ピメクロリムスを含み、CD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬は、CTLA4の細胞外ドメイン断片を含む。
【0168】
いくつかの態様では、組み合わせ療法は、少なくともグラフトの生存期間、最大でそれを必要とするレシピエントの残りの生存期間、持続することが企図される。免疫システムは動的であり、ウイルスまたは細菌感染に応答して突発する(flare)可能性があり、それは次いでグラフトに対する自己免疫拒絶を開始する可能性があるので、本明細書に記載される長期処置が企図される。
【0169】
組み合わせ療法
カルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬の両方による対象の処置が、「組み合わせ療法」と見なされる。他の態様では、本明細書に記載される治療有効な作用物質(すなわち、カルシニューリン阻害薬およびCD80/CD86シグナル伝達阻害薬)は、免疫抑制剤などのさらなる組み合わせ療法と同時に対象に投与される。例示的な免疫抑制剤は、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、またはトリアムシノロンを含むことができるが、それに限定されるわけではない。心グラフト拒絶のための例示的な処置レジメンは、心肺バイパスからの分離までIV投与されたメチルプレドニゾロン500mgに続く、最初の24時間に8時間毎にIV投与されたメチルプレドニゾロン125mgを含み、次いで対象は、毎日0.1~10mg/kg POの用量の経口プレドニゾンにスイッチされる。
【0170】
本明細書に使用される場合、「同時に」という用語は、2つ以上の作用物質の正確に同じ時間での投与に限られず、それらが対象に順番に、それらが一緒に(例えば、それらが単独で投与された場合よりも増大した利益を提供するように相乗的に)作用できるような時間間隔内で投与されることが意味される。例えば、治療薬の組み合わせは、同じ時間にまたは任意の順序で異なる時点で順次に投与することができる。しかし、同じ時間に投与されない場合、所望の治療効果を、好ましくは相乗的に提供するように、それらは十分に近い時間で投与されるである。作用物質は、任意の適切な形態で、任意の適切な経路によって別々に投与することができる。組み合わされた治療剤の各々が同じ薬学的組成物として投与されない場合、それらを任意の順序で、それを必要とする対象に投与できることが理解されている。例えば、第1の治療用作用物質は、第2の治療剤の投与の前に(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、もしくは12週間前に)、同時に、または後に(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、もしくは12週間後に)、それを必要とする対象に投与することができる(またはその逆である)。他の態様では、いずれかの治療用作用物質の送達は、他方の作用物質/処置の送達が始まる前に終了する。いずれかの場合のいくつかの態様では、組み合わせ投与のため、処置はより大きく有効である。例えば、組み合わせて使用される治療剤は、いずれかの作用物質単独で見られるよりも大きく有効である。いくつかの態様では、送達は、障害に関係する症状または他のパラメーターにおける低減が、いずれかの治療用作用物質単独で観察されるものよりも大きいものである。このような組み合わせの効果は、部分相加的、完全相加的、または相加的よりも大きいことができる。作用物質および/もしくは他の治療剤、手順または様式は、活動性疾患の期間中、または持続性もしくは活動性の低い疾患の期間中に、投与することができる。
【0171】
組み合わせ投与される場合、治療剤の1つまたは複数は、例えば単剤療法として個別に使用される所与の作用物質の量または投与量よりも高い、低い、またはそれと同じである量または用量で投与することができる。ある特定の態様では、第2の治療用作用物質と組み合わせて投与される場合の第1の治療用作用物質の投与された量または投与量は、個別に使用される場合の第1の作用物質の量または投与量よりも(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%,または少なくとも50%)低い。他の態様では、所望の効果(例えば、認知機能の改善)を結果としてもたらす、第2の治療剤と組み合わせて投与される場合の第1の治療剤の量または投与量は、単独で投与された場合の同じ治療効果を達成するために必要とされる第1(または第2)の作用物質の量または投与量よりも低い(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%低い)。
【0172】
有効性
心グラフト拒絶を低減または予防するための所与の処置の有効性は、熟練の臨床家が決定することができる。しかし、心グラフト拒絶の徴候または症候のいずれか1つもしくは全部が有利に変更される、または疾患の他の臨床的に許容される症状もしくはマーカーが改善する、または心グラフト拒絶のための治療用作用物質による処置後に例えば、少なくとも10%回復するならば、処置は、この用語が本明細書に使用される場合に「有効な処置」と見なされる。有効性はまた、疾患の安定化、または医学的介入の必要性(すなわち、疾患の進行が停止する、または少なくとも減速する)によって評価された場合に個体が悪化していないことによって測定することができる。これらの指標を測定する方法は、当業者に公知であり、かつ/または本明細書に記載されている。処置には、個体または動物(いくつかの非限定的な例には、ヒトまたは哺乳動物が含まれる)における疾患の任意の処置が含まれ、(1)疾患を阻害すること、例えば、グラフト拒絶の進行を抑止もしくは減速すること、または(2)疾患を軽減すること、例えば、症状の退行を引き起こすこと;および(3)発病の可能性を予防もしくは低減すること、またはグラフト拒絶に関連する第2の疾患/障害(例えば、心筋症など)を予防することが含まれる。
【0173】
疾患の処置のための有効量は、それを必要とする哺乳動物に投与された場合に、その疾患について、その用語が本明細書に定義されるところの有効な処置を結果としてもたらすために十分な量を意味する。作用物質の有効性は、疾患の物理的指標、例えば、不整脈の低減または休止、炎症マーカー(例えば、C反応性タンパク質(CRP))の低減、その他を評価することによって決定することができる。
【0174】
いくつかの態様では、所与の組み合わせ処置(例えば、タクロリムスおよびアバタセプト)の有効性は、国際心肺移植学会(ISHLT)の急性細胞性拒絶反応グレーディングスキーム(Acute Cellular Rejection Grading Scheme)による心内膜心筋生検での細胞拒絶の重症度の低減によって決定することができる。グレーディングスキームは、4つの異なる拒絶レベルを含む:(i)0R、病理組織所見によって証明された場合の拒絶なし、(ii)1R、最大1病巣の筋細胞損傷を伴う軽度、間質性および/または血管周囲浸潤、(iii)2R、心筋損傷を伴う中等度の2つ以上の病巣浸潤、ならびに(iv)3R、多巣性筋細胞損傷±浮腫±出血±血管炎を伴う重度のびまん性浸潤。したがって、所与の組み合わせ処置は、対象がISHLTの急性細胞性拒絶反応グレーディングスキームで少なくとも1レベル下がる(例えば、重度から中等度に、中等度から軽度に、軽度から無症状に、重度から軽度に、軽度から無症状に、中等度から無症状に、その他)場合に有効である。理想的には、処置は、2R、1Rまたは0Rのグレーディングを達成するように最適化される。
【0175】
いくつかの態様では、有効性は、グラフト拒絶に増大を有しない共免疫抑制療法(例えば、グルココルチコイド)の必要性の低減によって測定することができる。1つまたは複数の免疫抑制療法の必要性の低減は、例えば、所与の作用物質の用量の低減、処置レジメンからの共免疫抑制療法の除去、投薬頻度の低減、治療期間の低減、または所与の免疫抑制療法の、より効力の低い類似の作用物質による置換を含むことができる。
【0176】
他の態様では、有効性は、カルシニューリン阻害薬およびCD80/CD86シグナル伝達阻害薬で処置された対象におけるグラフト生存性の延長を、このような作用物質で処置されていない対象におけるグラフト生存性の長さと比較して測定することによって評価することができる。例えば、心グラフト生存性は、対象がカルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬の組み合わせで処置された場合に、対象がこのような組み合わせで処置されていない、実質的に類似の心グラフトの生存性よりも少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも9か月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも5年、少なくとも10年、少なくとも20年またはそれよりも大きく延長される。
【0177】
他の態様では、有効性はまた、対象がカルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬の組み合わせで処置された場合に、類似の心グラフトを有する未処置対象に起こる損失と比較して、心グラフトにおける細胞損失の低減または除去として発現されることができる。例えば、心グラフトにおける細胞損失の低減は、対象がカルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬で処置された場合に、最初の生着時のグラフト(例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間または8週間でのグラフトサイズ)と比較して0.5%未満であることができる;他の態様では、処置は、対象がカルシニューリン阻害薬ならびにCD80および/またはCD86シグナル伝達の阻害薬で処置された場合の心グラフトの細胞損失の1%未満、2%未満、5%未満、10%未満、20%未満、30%未満、40%未満、50%未満、または60%未満であることができる。
【実施例】
【0178】
実施例1:同種幹細胞由来心筋細胞の移植のためのステロイド節約慢性免疫抑制
多能性幹細胞由来心筋細胞(PSC-CM)の移植は、最近の心筋梗塞(MI)を処置するための新たに出現した戦略である。今日までの大部分の研究は、ヒトPSC-CMの異種移植を使用してきたが、これは、患者における同種移植の成功を達成する方法を通知するわけではない。ファーストインヒューマンの同種移植のための最小限のステロイド節約免疫抑制レジメンを特定するために、アカゲザルiPSC-CMがMHCミスマッチレシピエントの正常または梗塞心に移植される非ヒト霊長類(NHP)モデルが開発された。アカゲザル(Macaca mulatta)から派生した同種iPSCは、心筋細胞の高濃縮集団(riPSC-CM)に分化した。200×106個のriPSC-CMを11匹のMHCミスマッチアカゲザルレシピエントに移植した。試験の主要エンドポイントは、組織病理学的免疫拒絶の程度であった。免疫抑制の非存在下で、心筋細胞グラフトは拒絶なしに2週間生存したが、8週間までにそれらは、グラフト破壊をもたらすCD3+ T細胞およびCD20+ B細胞による広範な炎症性浸潤を伴う重度の細胞拒絶を受けた。続く試験は、8週間生着に焦点を当て、有望なレジメンを、さらに16週間まで研究した。低用量皮下タクロリムス(TAC)単独(トラフが5~10ng/mL)または皮下アバタセプト(ABT、CTLA4-Ig)単独(12.5mg/kg、隔週)は、グラフトが移植後8週間で中等度~重度の拒絶を示して不十分であった。対照的に、中用量TAC(トラフが10~15ng/mL)およびABT(12.5mg/kg、隔週)の組み合わせは、移植後8週間で顕著な心筋拒絶なしにグラフト保存を結果としてもたらした。しかし、移植後16週間でのTAC+ABTの評価によって、1匹の動物がT細胞およびB細胞の斑状浸潤を有し、第2のNHPが有意な拒絶を有せず、グラフトの免疫拒絶が低~中等度であることが明らかとなった。MIの存在および非存在は、免疫反応性のアウトカムに影響しなかった。要約すると、同種iPSC-CMは、全心臓同種移植片よりも免疫原性が低く、今日までのデータは、ステロイド節約免疫抑制レジメンが長期PSC-CM移植を支援する可能性があり得ることを示唆している。したがって、TACおよびABTの組み合わせ免疫抑制レジメンを使用して、長期PSC-CM移植を支援することができる。この研究はまた、16週間までの長期観察が遅発性拒絶を検出するために必要とされることを示唆している。
【0179】
すべての見出しおよびセクションの名称は、明確さおよび参照目的でのみ使用され、いかなる方法でも限定的と見なされるべきではない。例えば、当業者は、適宜、本明細書に記載される技術の精神および範囲により異なる見出しおよびセクションから様々な態様を組み合わせる有用性を認識している。
【0180】
本明細書に引用されるすべての参考文献は、これにより、各個別の刊行物または特許または特許出願が、その全体として事実上、参照により本明細書に組み入れられると具体的および個別に示された場合と同程度に、その全体として事実上、参照により本明細書に組み入れられる。
【0181】
当業者に明白であるように、本出願の多くの改変および変形は、その精神および範囲から逸脱せずに行うことができる。本明細書に記載される具体的な態様および例は、単なる例として提示されるのであって、本出願は、添付の特許請求の範囲が権利を与えられる等価物の全範囲と共に、該特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。
【国際調査報告】