(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】2つのRINGドメインを含む融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20240214BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240214BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240214BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240214BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240214BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240214BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240214BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240214BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240214BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240214BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240214BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240214BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240214BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240214BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240214BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C12N15/864 100Z
C07K16/00
C12N9/10
C12N15/13
C12N15/54
C12N15/12
A61K38/02
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/76
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P25/00
A61P31/00
A61P43/00 105
A61P25/28
A61P25/14
A61P31/12
A61P31/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550577
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2022054370
(87)【国際公開番号】W WO2022175549
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521246116
【氏名又は名称】ユナイテッド キングダム リサーチ アンド イノベーション
【氏名又は名称原語表記】UNITED KINGDOM RESEARCH AND INNOVATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キス レオ
(72)【発明者】
【氏名】クリフト ディーン
(72)【発明者】
【氏名】ルプターク ヤクブ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムス レオ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA02
4C084BA41
4C084DC02
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA03
4C084ZA16
4C084ZA22
4C084ZB21
4C084ZB31
4C084ZB33
4C084ZC55
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA03
4C086ZA16
4C086ZA22
4C086ZB21
4C086ZB31
4C086ZB33
4C086ZC55
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA03
4C087ZA16
4C087ZA22
4C087ZB21
4C087ZB31
4C087ZB33
4C087ZC55
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、細胞内でのタンパク質分解に使用するのに適した少なくとも2つのRINGドメインと、タンパク質標的化ドメインとを含む融合タンパク質、及び該融合タンパク質をコードする核酸コンストラクトに関する。本発明はまた、これらの融合タンパク質及び核酸を含む組成物、並びに治療における融合タンパク質及び核酸コンストラクトの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のRINGドメインと、
第2のRINGドメインと、
タンパク質標的化ドメインと、
を含む融合タンパク質。
【請求項2】
前記融合タンパク質は、コイルドコイルドメイン及びB-ボックスドメインから選択されるドメインを含まない、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記融合タンパク質は、コイルドコイルドメインを含まず、かつB-ボックスドメインを含まない、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記タンパク質標的化ドメインは、前記第1のRINGドメイン及び前記第2のRINGドメインのC末端ドメインに位置する、請求項1~3のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記第1のRINGドメイン及び前記第2のRINGドメインは、TRIMポリペプチドから誘導される、請求項1~4のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記TRIMポリペプチドは、TRIM5、TRIM7、TRIM19、TRIM21、TRIM25、TRIM28、及びTRIM32からなる群から選択される、請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記第1のRINGドメイン及び前記第2のRINGドメインは、同じTRIMポリペプチド、好ましくはTRIM21から誘導される、請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記融合タンパク質は、2つのRINGドメインを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記タンパク質標的化ドメインは、PRYSPRYドメイン、抗体若しくはその抗体フラグメント、又は抗体ミメティックであり、ここで、前記抗体フラグメントは、好ましくはFab、Fab’、F(ab’)2、scFab、Fv、scFV、dAB、それらのVLフラグメント、それらのVHフラグメント、及びそれらのV
HHフラグメントからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
前記第1のRINGドメインと、前記第2のRINGドメインとの間、及び/又は前記第2のRINGドメインと、前記タンパク質標的化配列との間にリンカー配列を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードする核酸コンストラクト。
【請求項12】
第1のRINGドメインをコードする第1の核酸配列と、第2のRINGドメインをコードする第2の核酸配列と、タンパク質標的化ドメインをコードする第3の核酸配列とを含む、核酸コンストラクト。
【請求項13】
前記コンストラクトは、コイルドコイルドメインをコードしないか、B-ボックスドメインをコードしないか、又はコイルドコイルドメイン及びB-ボックスドメインをコードすることはない、請求項12に記載の核酸コンストラクト。
【請求項14】
ベクターの形態における、請求項11~13のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト。
【請求項15】
前記ベクターは、ウイルス性送達ベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項14に記載の核酸コンストラクト。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質、又は請求項11~15のいずれか一項に記載の核酸と、薬学的に許容可能な担体及び/又は添加剤とを含む医薬組成物。
【請求項17】
神経障害、感染症、又はトリヌクレオチドリピート障害を処置する方法であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質、又は請求項11~15のいずれか一項に記載の核酸を被験体に投与することを含む、方法。
【請求項18】
抗体若しくはその抗体フラグメント、又は抗体若しくはその抗体フラグメントをコードする核酸コンストラクトを同時に又は任意の順序で逐次的に投与することを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
医薬として使用される、請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質、又は請求項11~15のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト。
【請求項20】
神経障害、好ましくはアルツハイマー病若しくはハンチントン病を処置するか、ウイルス感染症、好ましくはHIV感染症を処置するか、又はトリヌクレオチドリピート障害を処置する、請求項19に記載の使用される融合タンパク質。
【請求項21】
細胞内のタンパク質を分解する方法であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質、又は請求項11~15のいずれか一項に記載の核酸コンストラクトを前記細胞に導入することを含む、方法。
【請求項22】
前記細胞への前記融合タンパク質又は前記核酸の導入を、トランスフェクション又は形質導入によって、好ましくはベクター、注入、又はエレクトロポレーションを使用することによって行う、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
試料中のタンパク質を分解する方法であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質、又は請求項11~15のいずれか一項に記載の核酸コンストラクトを前記試料に導入することを含む、方法。
【請求項24】
抗体若しくはその抗体フラグメント、又は抗体若しくはその抗体フラグメントをコードする核酸を前記細胞又は前記試料に導入することを更に含む、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内でのタンパク質分解に使用するのに適した融合タンパク質及び核酸コンストラクトに関する。本発明はまた、これらの融合タンパク質及び核酸を含む組成物、並びに治療における融合タンパク質及び核酸コンストラクトの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質分解は天然に細胞内で行われ、ミスフォールドしたタンパク質の発生を防ぎ、細胞応答を媒介する内因性の機構を提供する。タンパク質分解についての主な経路は、ユビキチン-プロテアソーム系(UPS)を経由するものである。UPSを操作してこの系の方向を変えて、細胞内での狙い通りのタンパク質分解をもたらし得ることは、研究、創薬、及び治療薬における応用に多大な可能性を秘めている。
【0003】
標的タンパク質を選択的に枯渇させることで、細胞レベルでのタンパク質の機能及び動的なタンパク質相互作用の研究が可能となる。このような選択的な枯渇は、特に創薬において使用され、ここで、「タンパク質分解誘導キメラ分子」(PROTAC)として知られる小分子を使用してタンパク質分解の方向を変えて、標的タンパク質の選択的な枯渇を誘導することができる(非特許文献1)。同様に、「Trim-Away」等の技術は、UPSの特定の構成要素であるTRIM21として知られるE3ユビキチンリガーゼを利用して、抗体に結合された標的タンパク質を選択的に枯渇させる(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。これらの新たに出現したツール及び創薬プラットフォームにより、翻訳後の環境におけるタンパク質相互作用の研究が可能となり、遺伝子操作に関連する、表現型に関する洞察を得ることができず、かつ費用及び時間がかかる可能性のある多くの制限が回避される。
【0004】
さらに、狙い通りのタンパク質分解は、治療用途における使用(非特許文献6)、特に過剰なタンパク質産生又は異常なタンパク質凝集に関連する疾患における使用に可能性を秘めている。治療方略として狙い通りのタンパク質分解を使用すると、薬物のオフターゲット効果を最小限に抑え、全身的な薬物曝露を回避又は低減することができる。
【0005】
内因性の細胞タンパク質分解機序を利用する可能性があるにもかかわらず、この理論的アプローチを実施化することは困難であることが分かっている。E3ユビキチンリガーゼ等の主要な酵素を含むUPSの多くは未だに特徴が明らかにされておらず、既存のツールには、実用を不適なものとする重大な制限がある。例えば、PROTACは効力が低い場合があり、十分な分解を誘導するには高濃度を必要とし得る(非特許文献7)。E3ユビキチンリガーゼの動員を可能にし、かつ標的タンパク質に結合して分解するPROTACとして使用するのに適したバインダーの特定も課題である(非特許文献8)。Trim-Awayベースのアプローチは、単量体タンパク質及び小さなオリゴマーの分解には適さないという点でも制限がある。
【0006】
したがって、細胞内のタンパク質を選択的に分解するのに使用することができる更なる融合タンパク質及び対応する核酸コンストラクトが求められている。このような融合タンパク質は、特に治療及び研究の場の両方で有用であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Schapira et al. (2019) Nature Reviews Drug Discovery, 18:949-963
【非特許文献2】Clift et al. (2017) Cell, 172:1692-1706
【非特許文献3】bioRxivのdoi: https://doi.org/10.1101/2020.07.28.225359からプレプリントとして入手可能である(かつZeng et al (2021) Natural Structural & Molecular Biology vol 28, 278-289として現在出版されている)Zeng et al. (2020)
【非特許文献4】Castro-Dopico, T., et al. (2019). Immunity 50, 1099-1114 e1010
【非特許文献5】Chen, X et al. (2019). Genome Biology 20, 19
【非特許文献6】Wu, T, et al. (2020) Nature Structural & Molecular Biology, 27:605-614
【非特許文献7】Buckley et al. Angew Chem. Int. Ed. Engl. 53:2312-30 (2014)
【非特許文献8】Chopra, Sadok and Collins (2019) Drug Discov Today Technol, 31:5-13
【発明の概要】
【0008】
本発明は、細胞内でのタンパク質分解に適した融合タンパク質及びそのようなタンパク質をコードする核酸コンストラクトに関する。詳細には、融合タンパク質は、2つのRINGドメインと、タンパク質標的化ドメインとを含む。
【0009】
第1の態様において、本発明は、
第1のRINGドメインと、
第2のRINGドメインと、
タンパク質標的化ドメインと、
を含む融合タンパク質を提供する。
【0010】
第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインは二量体化することが可能である。本発明は、E3ユビキチンリガーゼ活性を有する融合コンストラクトを提供する。
【0011】
本発明者らは、二量体化することが可能な少なくとも2つのRINGドメインを含むコンストラクトを提供することによって、この融合タンパク質が同様に2つのRINGドメインを含む別の融合タンパク質に近接したときに、十分な自己ユビキチン化が起こって、効率的なタンパク質分解が可能となることを明らかにした。各融合タンパク質の2つのRINGドメインは二量体化し、そして各融合タンパク質のRING二量体が近接したときに、例えばFc、オリゴマータンパク質、又は短い配列リピートを有するタンパク質上で共局在したときに、一方のRING二量体は他方のRING二量体のユビキチン化を媒介するのに利用可能である。RINGドメインは自己ユビキチン化活性を有する。したがって、融合コンストラクトは自己ユビキチン化が可能である。
【0012】
タンパク質標的化ドメインは、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインに対して、標的タンパク質上に第2の融合タンパク質とともに共局在したときに、第1の融合タンパク質の第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインによって形成されるRING二量体と、第1の融合タンパク質の第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインによって形成されるRING二量体との間の距離が8nm~10nmの範囲内、好ましくはおよそ9nmとなるように配置され得る。
【0013】
融合タンパク質の別個のドメインは、RINGドメイン-RINGドメイン-タンパク質標的化ドメインの順序で提供され得る。一実施の形態において、タンパク質標的化ドメインは、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端に位置し得る。
【0014】
一実施の形態において、融合タンパク質は、コイルドコイルドメイン及び/又はB-ボックスドメインを含まない。更なる実施の形態において、融合タンパク質は、コイルドコイルドメインかB-ボックスドメインのどちらかを含まない。一実施の形態において、融合タンパク質は、B-ボックスを含むが、好ましくはコイルドコイルドメインを含まず、例えば、融合タンパク質は、RINGドメインとタンパク質標的化ドメインとの間にB-ボックスドメインを含んでいてもよい。
【0015】
一実施の形態において、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインはTRIMポリペプチドから誘導される。TRIMポリペプチドは、限定されるものではないが、TRIM5、TRIM7、TRIM19、TRIM21、TRIM25、TRIM28、及びTRIM32を含む群から選択され得る。第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインは、同じTRIMポリペプチドから誘導され得る。好ましくは、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインは、TRIM21ポリペプチドから誘導される。好ましくは、融合タンパク質は2つのRINGドメインを含む。
【0016】
一実施の形態において、タンパク質標的化ドメインは、PRYSPRYドメインである。別の実施の形態において、タンパク質標的化ドメインは、抗体、その抗体フラグメント、又は抗体ミメティックである。好ましくは、抗体フラグメントは、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFab、Fv、scFV、dAB、それらのVLフラグメント、それらのVHフラグメント、及びそれらのVHHフラグメント等のsdAb(すなわち、ナノボディ)からなる群から選択される。より好ましくは、タンパク質標的化ドメインはscFV又はVHHである。
【0017】
融合タンパク質は、各ドメイン間にリンカー配列を含み得る。融合タンパク質は、第1のRINGドメインと第2のRINGドメインとの間のリンカー配列、及び/又は第2のRINGドメインとタンパク質標的化配列との間のリンカー配列を含み得る。
【0018】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様の融合タンパク質をコードする核酸コンストラクトを提供する。
【0019】
本発明の第3の態様は、第1のRINGドメインをコードする第1の核酸配列と、第2のRINGドメインをコードする第2の核酸配列と、タンパク質標的化ドメインをコードする第3の核酸配列とを含む、核酸コンストラクトを提供する。
【0020】
一実施の形態において、上記核酸は、コイルドコイルドメインをコードしないか、B-ボックスドメインをコードしないか、又はコイルドコイルドメインかB-ボックスドメインのどちらかをコードしない。一実施の形態において、上記核酸は更にB-ボックスドメインをコードするが、好ましくは、コイルドコイルドメインをコードしない。
【0021】
本発明の第2の態様及び第3の態様の核酸コンストラクトは、ベクターの形態であってもよい。ベクターは、ウイルス性送達ベクター又は非ウイルス性送達ベクター、好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AVV)ベクター又はレンチウイルスベクターを含むウイルス性送達ベクターであり得る。
【0022】
本発明の第4の態様は、本発明の第1の態様、第2の態様、又は第3の態様の融合タンパク質又は核酸コンストラクトを含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体及び/又は添加剤を更に含んでいてもよい。
【0023】
本発明の第5の態様は、神経障害、ウイルス感染症、又はトリヌクレオチドリピート障害を処置する方法であって、本発明の第1の態様、第2の態様、若しくは第3の態様の融合タンパク質若しくは核酸、又は本発明の第4の態様の医薬組成物を被験体に投与することを含む、方法を提供する。
【0024】
処置される神経障害は、アルツハイマー病又はハンチントン病であり得る。処置される感染症は、ウイルス感染症、例えばHIV感染症であり得る。トリヌクレオチドリピート障害としては、限定されるものではないが、ハンチントン病、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、及び脊髄小脳失調症が挙げられる。
【0025】
上記方法は、抗体若しくはその抗体フラグメント、又は抗体若しくはその抗体フラグメントをコードする核酸コンストラクトを同時に又は任意の順序で逐次的に投与することを更に含み得る。
【0026】
本発明の第7の態様は、医薬として使用される本発明の第1の態様、第2の態様、又は第3の態様の融合タンパク質又は核酸を提供する。
【0027】
一実施の形態において、融合タンパク質又は核酸は、神経障害の処置において使用され得る。神経障害は、アルツハイマー病又はハンチントン病等の障害であり得る。
【0028】
一実施の形態において、融合タンパク質又は核酸は、感染症の処置において使用され得る。感染症は、HIV感染症等のウイルス感染症であり得る。
【0029】
一実施の形態において、融合タンパク質又は核酸は、トリヌクレオチドリピート障害の処置において使用され得る。トリヌクレオチドリピート障害としては、限定されるものではないが、ハンチントン病、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、及び脊髄小脳失調症が挙げられる。
【0030】
本発明の第8の態様は、医薬の製造における本発明の第1の態様、第2の態様、又は第3の態様の融合タンパク質又は核酸の使用を提供する。医薬は、上記のように神経障害、感染症、又はトリヌクレオチドリピート障害の処置において使用され得る。
【0031】
本発明の第9の態様は、本発明の第1の態様、第2の態様、又は第3の態様の融合タンパク質又は核酸を細胞に導入することを含む、細胞内のタンパク質を分解する方法を提供する。一実施の形態において、細胞はin vitroの細胞である。この方法は更に、トランスフェクション又は形質導入によって、好ましくはベクター、エレクトロポレーション、又は注入を使用することによって、タンパク質又は核酸を細胞に導入することを含み得る。
【0032】
上記方法は更に、抗体若しくはその抗体フラグメント、又は抗体若しくはその抗体フラグメントをコードする核酸を細胞に導入することを含み得る。
【0033】
本発明の第10の態様は、本発明の第1の態様、第2の態様、又は第3の態様の融合タンパク質又は核酸を試料に導入することを含む、試料中のタンパク質を分解する方法を提供する。この方法は更に、トランスフェクション又は形質導入によって、好ましくはベクター、エレクトロポレーション、又は注入を使用することによって、タンパク質又は核酸を試料に導入することを含み得る。
【0034】
上記方法は更に、抗体若しくはその抗体フラグメント、又は抗体若しくはその抗体フラグメントをコードする核酸、又はこれらをコードする核酸を細胞又は試料に導入することを含み得る。
【0035】
本発明の第2の態様及びそれ以降の態様の全ての好ましい特徴は、必要な変更を加えて第1の態様の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】RINGアンカー型ユビキチン鎖伸長の開始の構造を示す図である。a)Ub-R:Ube2N~Ub:Ube2V2構造の側面図及び上面図(Ub-R、Ub(赤色)、R(青色)、Ube2N~Ub、Ube2N(緑色)、Ub(橙色)、Ube2V2(ティール色))。略画として描かれた鎖は、非対称単位を表す。b)RINGアンカー型ユビキチン鎖伸長の開始の標準モデル。c)b)に示されるRINGアンカー型ユビキチン鎖伸長の標準モデルを表す略画図。対称的な片割れ(Symmetry mates)は、表示の横に「’」によって示される。Ub(ユビキチン)、Ub-R(ユビキチン-RING)。
【
図2】ユビキチン化の化学的機構を示す図である。a)Ube2N~Ub/Ube2V2の活性部位の拡大領域(Ube2N(緑色)、ドナーUb(橙色)、アクセプターUb(赤色)、Ube2V2(ティール色))。b)アクセプターリジンの活性化についての化学式。c)Ube2N/V2によるジユビキチン形成の酸係数(pK
a)、d)K
M、及びe)k
catを、ベストフィット+標準誤差として表す。Ub(ユビキチン)。
【
図3】トランスでのRINGアンカー型ユビキチン化の機構を示す図である。a)Ub-R:Ube2N~Ub:Ube2V2構造の標準モデルの表面描写(Ub-R、Ub(赤色)、R(青色)、Ube2N~Ub、Ube2N(緑色)、Ub(橙色)、Ube2V2(ティール色))。b)生化学的アッセイにおいて使用されるTRIM21コンストラクトのドメイン構成。c)TRIM21コンストラクト(青色)による基質(Fc、灰色)結合の略画モデル。d)100nMのUb-TRIM21コンストラクトの基質(Fc)誘導性自己ユビキチン化アッセイ。反応物を37℃で5分間インキュベートした。*(アスタリスク)は、精製中に除去することができなかったTRIM21分解産物を示す。ウェスタンブロットは、n=3の独立して行われた実験を表すものである。原始データにはトリミングされていないブロットが提供される。Ub(ユビキチン);R(RING);B(ボックス);CC(コイルドコイル);PS(PRYSPRY);kDa(キロダルトン)。
【
図4】シスでのRINGアンカー型ユビキチン化の機構を示す図である。a)シスでのユビキチン化の場合、RINGアンカー型(青色)ユビキチン鎖(赤色)は、Ube2N~Ub/Ube2V2(Ube2N(緑色)、Ub(橙色)、Ube2V2(ティール色))上の活性部位に到達するのに十分な長さでなければならない。この鎖は2つの異なる経路に行き渡ることができ、一方はここに示されており、もう一方は示されていない。ユビキチン鎖を、PyMolを使用してUb-R:Ube2N~Ub:Ube2V2構造及びK63連結型Ub
2構造(2JF5
34)を使用してモデル化した。b)100nMのUb
n-TRIM21コンストラクトの基質(Fc)誘導性自己ユビキチン化アッセイ。反応物を37℃で5分間インキュベートした。ウェスタンブロットは、n=3の独立して行われた実験を表すものである。原始データにはトリミングされていないブロットが提供される。Ub(ユビキチン);R(RING);PS(PRYSPRY);kDa(キロダルトン)。
【
図5】触媒的RINGトポロジーが狙い通りのタンパク質分解を駆動することを示す図である。a)GFP-Fc(それぞれ緑色及び灰色)上でのTRIM21(青色)のトポロジーを示す略画図。b)、c)GFP-Fc分解アッセイ。b)GFP-Fc及び一連のTRIM21コンストラクトを一過的に発現するRPE-1 TRIM21ノックアウト細胞のウェスタンブロット。ウェスタンブロットは、n=2の独立して行われた実験を表すものである。c)GFP-Fc及び一連のTRIM21コンストラクトを一過的に発現するRPE-1 TRIM21ノックアウト細胞の緑色蛍光のフローサイトメトリー分析を示す。エレクトロポレーション後に、各細胞集団を2つに分け、MG132又はDMSOのいずれかで処理した。データは平均±平均の標準誤差として表される。グラフ内の各データ点は、生物学的に独立して行われた1つの実験を表す(n=3(mCh-CC-PS、R-R-B-CC-PS、R-PSの場合)又はn=4(R-B-C-C-PS、R-R-PS))。対応のない両側スチューデントt検定を行って、mCh-CC-PRYSPRYに対する蛍光減少の有意性を評価した(P値:R-B-CC-PRYSPRY、0.0797(ns);R-R-B-CC-PRYSPRY、0.02366(ns);R-PRYSPRY、0.4964(ns);R-R-PRYSPRY、0.0035(
**))。d、e)NIH 3T3 GFP-Cav-1ノックイン細胞におけるカベオリン-1-mEGFP(Cav1-GFP)のTrim-Away。d)には、正規化されたGFP蛍光(エラーバーは4つの画像の±SEMを表す)を示し、e)には、実験後のウェスタンブロットを示す。d、e)におけるデータは、n=2の独立した実験を表すものである。原始データにはトリミングされていないブロット及び生データが提供される。R(RING);B(ボックス);CC(コイルドコイル);PS(PRYSPRY);mCh(mCherry);kDa(キロダルトン);ns(有意ではない)。
【
図6】ウイルス上でのTRIMタンパク質の集合を示す図である。ウイルスカプシド上でのTRIM5(a、b)及びTRIM21(c、d)の集合体の略画モデル。a)クライオ電子線トモグラフィーによって画像化したHIV-1カプシド上でのTRIM5の六角形の集合体を示す。c)アデノウイルスカプシド上でのTRIM21:抗体複合体の集合体(アデノウイルスでの測定値は6B1Tに基づく)。b、d)ウイルスカプシド上でのTRIMタンパク質の集合体がどのようにして触媒的RINGトポロジーの形成を可能にするかを視覚化した略画。R(RING);B(ボックス);CC(コイルドコイル);PS(PRYSPRY);Ub(ユビキチン)。
【
図7】様々なTRIM21コンストラクトの距離についての構造モデルを示す図である。a)生化学的アッセイ及び細胞アッセイにおいて使用されるTRIM21コンストラクトのドメイン構成。生化学的実験の場合、TRIM21のN末端をモノユビキチン化した。b)Fc(灰色、2IWG)と複合体を形成したTRIM21 PRYSPRY(青色)の構造。示されている距離は、一方のN末端Hisから他方のN末端Hisまでに及ぶ。c)TRIM5a-B-ボックス-コイルドコイル(青色、4TN3)の構造。TRIM21及びTRIM5aのコイルドコイルは配列ごとによく整列しており、挿入を示さない。したがって、TRIM5a-コイルドコイルは、TRIM21の対応する領域に適したモデルである。示されている距離は、一方のB-ボックスのN末端から他方のB-ボックスのN末端までに及ぶ。d)ユビキチン鎖伸長の開始時のUb-R-R-PRYSPRY:Fcの構造モデル。本発明者らのUbR:Ube2N~Ub:Ube2V2(7BBD、Ub-R、Ub(赤色)及びR(青色);Ube2N~Ub、Ube2N(緑色)及びUb(橙色);Ube2V2(ティール色))構造(標準モデルとして)を、TRIM21-PRYSPRY:Fc構造上に重ね合わせた。線はRINGとPRYSPRYとの間のリンカーを示す。Ub(ユビキチン)、R(RING)。
【
図8】Ube2D1が触媒的RINGトポロジーを介してTRIM21ユビキチン化を媒介することができないことを示す図である。0.5μMのUbe2D1の存在下での100nMのUb-TRIM21のFc誘導性自己ユビキチン化アッセイ。ウェスタンブロットは、n=2の独立して行われた実験を表す。Ub(ユビキチン);R(RING);B(ボックス);CC(コイルドコイル);PS(PRYSPRY);kDa(キロダルトン)。
【
図9】第2のRINGドメイン(R2)のN末端に配置された第1のRINGドメイン(R1)と、第2のRINGドメインのC末端に配置されたタンパク質標的化ドメイン(PT)とを含む、本発明による融合タンパク質コンストラクトの理論的構造を示す図である。
【
図10】狙い通りのタンパク質分解が改善されたTRIM21コンストラクトを示す図である。a)10μMの濃度での様々なTRIM21コンストラクトのUbe2N/Ube2V2による非アンカー型ユビキチン鎖の触媒作用。60分後の反応のInstantBlueゲルを示す。b)一過的に発現されたTRIM21コンストラクトを使用した、RPE1 TRIM21ノックアウト細胞における内因性IKKαのTrim-Away。c)エレクトロポレーション反応において2μMの濃度のR-R-PSタンパク質を使用した、RPE1 WT細胞又はRPE1 TRIM21ノックアウト細胞のいずれかにおける内因性Erk1キナーゼのTrim-Away。RPE-1細胞における内因性TRIM21は、Erk1の効率的なTrim-Awayには通常3時間~4時間かかることとなる。d)GFPに対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体及び様々なTRIM21コンストラクトを使用した、RPE1細胞において異所的に発現された単量体EGFPのTrim-Away。4.5時間後の相対GFP強度を示す。T21(TRIM21);R(RING);B(ボックス);CC(コイルドコイル);PS(PRYSPRY)。
【
図11】狙い通りのタンパク質分解を示す図である。a)リアルタイム蛍光顕微鏡法を使用してモニタリングされたカベオリン-1-EGFPの分解。b)アッセイ終了時のコンストラクトのレベルを示すウェスタンブロット。c)アッセイ終了時の抗GFP抗体のレベルを示すウェスタンブロット。T21(TRIM21);T21R(TRIM21 RING);PS(PRYSPRY)。
【
図12】狙い通りのタンパク質分解を示す図である。リアルタイム蛍光顕微鏡法を使用してモニタリングされたH2B-EGFPの分解。Ub(ユビキチン)、T21R(TRIM21 RING)。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明者らは、少なくとも2つのRINGドメインと、タンパク質標的化ドメインとを含む融合タンパク質が、標的タンパク質のタンパク質分解を可能にする触媒的RINGトポロジーの一部を形成することが可能であることを見出した。この構造を含む2つの融合タンパク質が共局在すると、特定のRINGトポロジーが誘導され得るため、自己ユビキチン化及びそれに続くタンパク質分解が可能となる。融合タンパク質のRING二量体は、E3ユビキチンリガーゼ活性を有する酵素として機能し、少なくとももう1つのRINGドメイン(例えば、共局在した第2の融合タンパク質由来)は、ユビキチン鎖を形成する反応において基質として機能する。3つのRINGドメインは、標的タンパク質のタンパク質分解を可能にする触媒的RINGトポロジーを形成する。このトポロジーは、ヘテロ二量体E2酵素Ube2N/Ube2V2を使用してTRIM21上にユビキチン鎖を形成するのに必要とされる。
【0038】
この融合タンパク質を使用して、全長のTRIMポリペプチドが使用された場合よりも、特にTRIM21ポリペプチドが使用された場合よりも幅広い標的を標的とすることができる。特に、この融合タンパク質を使用して、単量体タンパク質及び二量体タンパク質を含む小さなオリゴマーを標的とすることができる。タンパク質標的としては、限定されるものではないが、キナーゼ、転写因子、又はその他の疾患原因タンパク質が挙げられる。さらに、本発明の融合タンパク質は、1つのRINGドメインのみを含む全長のTRIM21ポリペプチドを使用するコンストラクトよりも生産が容易である。この融合タンパク質はまた、野生型TRIM21を使用するよりも高い活性を有し得て、タンパク質の枯渇においてより迅速かつより効率的に機能し得る。2つのRINGドメインを含む融合タンパク質は、1つのRINGドメインのみを含む対応する融合タンパク質よりも効率的な標的タンパク質のデグレーダーであり得る。
【0039】
融合タンパク質と、標的タンパク質と、任意に該標的タンパク質に対する抗体とは複合体を形成し、該複合体の分解及び該タンパク質の枯渇が可能となる。
【0040】
したがって、本発明は、
第1のRINGドメインと、
第2のRINGドメインと、
タンパク質標的化ドメインと、
を含む融合タンパク質を提供する。
【0041】
第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインは、二量体化することが可能である。本発明の融合タンパク質はE3ユビキチンリガーゼ活性を有する。RINGドメインは自己ユビキチン化活性を有し得る。第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメイン並びにタンパク質標的化ドメインは、この融合タンパク質が第3のRINGドメインとともに共局在したときに、触媒的RINGトポロジーを得ることができるように配置される。
【0042】
「触媒的RINGトポロジー」とは、酵素のRINGと、基質のRINGとの間におよそ9nmの離隔をもたらし、1つのRING二量体が酵素として機能し、かつ少なくとも1つの更なるRINGがユビキチン化の基質として機能する構造を意味する。
【0043】
各ドメイン間にリンカー配列が設けられていてもよい。一実施形態において、タンパク質標的化ドメインは、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端にある。融合タンパク質の別個のドメインを、
図9に示されるRINGドメイン-RINGドメイン-タンパク質標的化ドメインの順序で設けることができ、ここでは、第1のRINGドメインは、第2のRINGドメインのN末端に設けられており、タンパク質標的化ドメインは、第2のRINGドメインのC末端に設けられている。このような実施形態において、第1のRINGドメインのアミノ酸配列は、第2のRINGドメインのN末端に連結されており、タンパク質標的化ドメインは、第2のRINGドメインのC末端ドメインに連結されている。本発明による融合タンパク質は、追加のN末端アミノ酸配列及び/又はC末端アミノ酸配列、及び/又はRINGドメインとタンパク質標的化ドメインとの間に位置する追加のドメインを有してもよい。
【0044】
融合タンパク質のRINGドメインは、あらゆる適切なポリペプチドから誘導され得る。RINGドメインは当該技術分野において既知であり、Freemont PS et al (1991)著の「新規システインリッチ配列モチーフ(A novel cysteine-rich sequence motif.)」 Cell 64: 483-484に記載されており、E3リガーゼとして機能する(Meroni G and Roux G著の「「単一タンパク質RINGフィンガー」E3ユビキチンリガーゼの新規クラスであるTRIM/RBCC(TRIM/RBCC, a novel class of 'single protein RING finger' E3 ubiquitin ligases)」 (2005) BioEssays 27, 11:1147-1157)。
【0045】
本発明の融合タンパク質において使用されるRINGドメインは、E3ユビキチンリガーゼ活性を有する。TRIM21のRINGドメインはE3ユビキチンリガーゼであり、ユビキチン結合酵素を基質に向ける。RING(リアリー・インタレスティング・ニュー・ジーン(Really Interesting New Gene))ドメインファミリーのメンバーは、典型的には、コンセンサス配列Cys-X2-Cys-X(9-39)-Cys-X(1-3)-His-X(2-3)-(Ans/Cys/His)-X2-Cys-X(4-48)-Cys-X2-Cys(Deshaies RJ et al and Joazeiro C et al著の「RINGドメインE3ユビキチンリガーゼ(RING Domain E3 Ubiquitin Ligases)」, Annu. Rev. Biochem (2009) 78:399-434)を有する。RING E3リガーゼドメインは様々なタンパク質に見出される。他のRINGドメインとしては、哺乳動物X連鎖アポトーシス阻害タンパク質(protein X-linked mammalian inhibitor of apoptosis)(XIAP)由来のRINGドメイン及びDER3/Hrd1のRINGドメインが挙げられる。したがって、融合タンパク質における他のタンパク質ファミリーに由来するRINGドメインの使用も包含される。RINGドメインは自己ユビキチン化することが可能であり、すなわち、自己ユビキチン化活性を有し得る。
【0046】
好ましくは、融合タンパク質のRINGドメインは、TRIMポリペプチドから誘導される。TRIMファミリーには、多数のRING E3リガーゼが含まれる(Marin, I.著の「TRIMユビキチンリガーゼの起源及び多様化(Origin and diversification of TRIM ubiquitin ligases.)」 PLoS One 7, e50030 (2012))。好ましい実施形態において、RINGドメインは、TRIM21ポリペプチド、好ましくはヒトTRIM21から誘導される。ヒトTRIM21の配列は、配列番号1に示される(Uniprot:P19474)。
MASAARLTMMWEEVTCPICLDPFVEPVSIECGHSFCQECISQVGKGGGSVCPVCRQRFLL
KNLRPNRQLANMVNNLKEISQEAREGTQGERCAVHGERLHLFCEKDGKALCWVCAQSRKH
RDHAMVPLEEAAQEYQEKLQVALGELRRKQELAEKLEVEIAIKRADWKKTVETQKSRIHA
EFVQQKNFLVEEEQRQLQELEKDEREQLRILGEKEAKLAQQSQALQELISELDRRCHSSA
LELLQEVIIVLERSESWNLKDLDITSPELRSVCHVPGLKKMLRTCAVHITLDPDTANPWL
ILSEDRRQVRLGDTQQSIPGNEERFDSYPMVLGAQHFHSGKHYWEVDVTGKEAWDLGVCR
DSVRRKGHFLLSSKSGFWTIWLWNKQKYEAGTYPQTPLHLQVPPCQVGIFLDYEAGMVSF
YNITDHGSLIYSFSECAFTGPLRPFFSPGFNDGGKNTAPLTLCPLNIGSQGSTDY(配列番号1)
【0047】
ヒトTRIM21のRINGドメインは、配列番号1に示されるヒトTRIM21配列の少なくともアミノ酸3~アミノ酸81、好ましくは配列番号1に示されるヒトTRIM21アミノ酸配列のアミノ酸1~アミノ酸85を含む。ヒトTRIM21のアミノ酸1~アミノ酸85を含むRINGドメインは、配列:
MASAARLTMMWEEVTCPICLDPFVEPVSIECGHSFCQECISQVGKGGGSVCPVCRQRFLLKNLRPNRQLANMVNNLKEISQEARE(配列番号2)
を含む。
【0048】
したがって、本発明の一実施形態において、RINGドメインは、配列番号2のアミノ酸3~アミノ酸81、好ましくは配列番号2のアミノ酸残基1~アミノ酸残基81、より好ましくは配列番号2の配列又はその変異体を含む。好ましくは、変異体配列は、HGMP(ヒトゲノムマッピングプロジェクト(Human Genome Mapping Project))によって提供されるBLASTコンピュータープログラム(Atschul et al., J. Mol. Biol. 215, 403-410 (1990))のデフォルトパラメーターを使用して、アミノ酸レベルで参照配列に対して少なくとも60%の同一性を有する。より好ましくは、配列番号2の変異体配列は、アミノ酸レベルで配列番号2の配列に対して、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、更により好ましくは95%(更により好ましくは少なくとも99%)の同一性を有し得る。
【0049】
当該技術分野において既知である「同一性」は、配列を比較することによって決定される、2つ以上のポリペプチド配列又は2つ以上のポリヌクレオチド配列の間の関係である。当該技術分野において、同一性は、場合によっては、そのような配列の文字列間の一致によって決定される、ポリペプチド配列又はポリヌクレオチド配列の間の配列関連性(相同性)の程度も意味する。2つのポリペプチド配列又は2つのポリヌクレオチド配列の間の同一性を測定する方法は多数存在するが、同一性を決定するのに一般的に使用される方法はコンピュータープログラムにおいて体系化されている。2つの配列間の同一性を決定するのに好ましいコンピュータープログラムとしては、限定されるものではないが、GCGプログラムパッケージ(Devereux, et al., Nucleic acids Research, 12, 387 (1984))、BLASTP、BLASTN、及びFASTA(Atschul et al., J. Molec. Biol. 215, 403 (1990))が挙げられる。
【0050】
幾つかの実施形態において、TRIM21以外のTRIMポリペプチド由来のRINGドメインを使用することができ、例えば、TRIM5、TRIM7、TRIM19、TRIM25、TRIM28、及び/又はTRIM32由来のRINGドメイン、好ましくはTRIM5由来のRINGドメインを使用することができる。
【0051】
融合タンパク質は、少なくとも2つのRINGドメイン、すなわち2つ、3つ、又はそれより多くのドメインを含み、好ましくは、融合物は、2つ又は3つのRINGドメイン、より好ましくは2つのRINGドメインを含む。RINGドメインは、互いに二量体化してRING二量体を形成することが可能な配列を有する。好ましくは、RINGドメインは同じ配列を含む。一実施形態において、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインはどちらも配列番号2の配列を含む。RINGドメインが異なる配列を含む場合、少なくとも第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインの配列は、互いに二量体化してRING二量体を形成することが可能であるべきである。一実施形態において、第1のRINGドメインは配列番号2の配列を含み、かつ第2のRINGドメインは配列番号2の変異体配列を含むか、又はその逆も同様である。変異体配列は、配列番号2の配列に対して、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは95%(更により好ましくは少なくとも99%)の同一性を有し得る。
【0052】
タンパク質標的化ドメインは、融合タンパク質を、対象のタンパク質とも呼称される分解される標的タンパク質に誘導する。タンパク質標的化ドメインは、標的タンパク質、又は標的タンパク質に結合する抗体若しくはそのフラグメント若しくは抗体ミメティックに結合し、「タンパク質結合ドメイン」とも呼称され得る。タンパク質標的化ドメインは、標的タンパク質に直接結合して融合タンパク質-標的タンパク質複合体を形成するか、又は標的タンパク質に結合する抗体、その抗体フラグメント、若しくは抗体ミメティックに結合して融合タンパク質-抗体-標的タンパク質複合体を形成するかのいずれかであり得る。タンパク質標的化ドメインは、好ましくは、2つのRINGドメインのC末端に接続される。
【0053】
一実施形態において、タンパク質標的化ドメインは、PRYSPRYドメインである。このような実施形態において、融合タンパク質は、第1のRINGドメインと、第2のRINGドメインと、PRYSPRYドメインとを含む。PRYSPRYドメインは、好ましくは、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端に位置する。
【0054】
一実施形態において、タンパク質標的化ドメインがPRYSPRYドメインである場合、融合タンパク質は、第1のRINGドメインと、第2のRINGドメインと、PRYSPRYドメインとを含み、ここで、このタンパク質は、コイルドコイルドメインもB-ボックスドメインも含まない。PRYSPRYドメインは、好ましくは、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端に位置する。
【0055】
好ましい一実施形態において、融合タンパク質は、第1のRINGドメインと、第2のRINGドメインと、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端にあるPRYSPRYドメインとを含み、ここで、RINGドメインは、TRIMポリペプチド、好ましくはTRIM21から誘導される。好ましくは、融合タンパク質は、PRYSPRYドメインと、第2のRINGドメインとの間に位置するTRIMから誘導されるコイルドコイルドメイン及び/又はB-ボックスドメインを含まず、より好ましくは、融合タンパク質は、コイルドコイルドメイン配列もB-ボックスドメイン配列も一切含まない。
【0056】
PRYSPRYドメインは、TRIMポリペプチド、好ましくはTRIM21、より好ましくはヒトTRIM21から誘導され得る。PRYSPRYドメインは、配列番号1に示されるヒトTRIM21アミノ酸配列の286位~337位及び339位~465位のPRY領域及びSPRY領域から構成される。
【0057】
好ましくは、PRYSPRYドメインは、配列:
AVHITLDPDTANPWLILSEDRRQVRLGDTQQSIPGNEERFDSYPMVLGAQHFHSGKHYWEVDVTGKEAWDLGVCR
DSVRRKGHFLLSSKSGFWTIWLWNKQKYEAGTYPQTPLHLQVPPCQVGIFLDYEAGMVSFYNITDHGSLIYSFSECAFTGPLRPFFSPGFNDGGKNTAPLTLCPL(配列番号3)
を含む。
【0058】
本発明の一実施形態において、PRYSPRYドメインは、配列番号3の配列又はその変異体を含む。好ましくは、変異体配列は、HGMP(ヒトゲノムマッピングプロジェクト)によって提供されるBLASTコンピュータープログラム(Atschul et al., J. Mol. Biol. 215, 403-410 (1990))のデフォルトパラメーターを使用して、アミノ酸レベルで参照配列に対して少なくとも60%の同一性を有する。より好ましくは、配列番号3の変異体配列は、アミノ酸レベルで配列番号3の配列に対して、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは95%(更により好ましくは少なくとも99%)の同一性を有し得る。
【0059】
融合タンパク質のPRYSPRYドメインは、抗体のFc又はその抗体フラグメント、例えばヒトIgG1のFc領域に結合する。融合タンパク質は、標的タンパク質に結合される抗体に結合する。
【0060】
Fcは二量体であるため、2つのPRYSPRYドメインによって結合され得る。第1の融合タンパク質のPRYSPRYドメインはFcの単量体の一方に結合するのに対し、第2の融合タンパク質のPRYSPRYドメインはFcの第2の単量体に結合する。これにより2つの融合タンパク質が共局在し、各融合タンパク質のRING二量体が近接するため、一方の融合タンパク質の一方のRING二量体は、他方のRING二量体のユビキチン化を媒介するのに利用可能である。
【0061】
本発明の更なる実施形態において、タンパク質標的化ドメインは、抗体、その抗体フラグメント、又は抗体ミメティックである。好ましくは、抗体フラグメント分子は、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFab、Fv、scFV、dAB、それらのVLフラグメント、それらのVHフラグメント、及びそれらのVHHフラグメント等のsdAb(すなわち、ナノボディ)からなる群から選択される。好ましくは、scFV又はVHHである。
【0062】
好ましい一実施形態において、融合タンパク質は、第1のRINGドメインと、第2のRINGドメインと、VHHドメインとを含み、ここで、RINGドメインは、TRIMポリペプチド、好ましくはTRIM21から誘導され、ここで、VHHは、対象のタンパク質に結合し、好ましくは、VHHは、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端にある。好ましくは、融合タンパク質は、VVHドメインと、第2のRINGドメインとの間に位置するTRIMから誘導されるコイルドコイルドメイン及び/又はB-ボックスドメインを含まず、より好ましくは、融合タンパク質は、コイルドコイルドメイン配列もB-ボックスドメイン配列も一切含まない。
【0063】
融合タンパク質の抗体、その抗体フラグメント、又は抗体ミメティックは、標的タンパク質に特異的に結合する。融合タンパク質は、分解される標的タンパク質に、標的タンパク質の標的配列で直接結合する。多くのタンパク質はオリゴマー(又は少なくとも二量体)であるか、又はタンパク質複合体の一部であるため、第1の融合タンパク質の抗体ドメインは、オリゴマー又はタンパク質複合体の単量体の1つに結合することができ、一方、第2の融合タンパク質の抗体ドメインは、オリゴマー又はタンパク質複合体の第2の単量体に結合する。これにより2つの融合タンパク質が共局在し、各融合タンパク質のRING二量体が近接するため、一方の融合タンパク質の一方のRING二量体は、他方のRING二量体のユビキチン化を媒介するのに利用可能である。
【0064】
一実施形態において、標的タンパク質は、病原性形態及び非病原性形態を有するタンパク質であり得る。タンパク質標的化ドメインは、病原性形態のタンパク質に結合するが、非病原性形態のタンパク質には結合しない。標的タンパク質の病原性形態はリピートドメインを含んでいてもよく、又はタンパク質の多量体形態である。
【0065】
標的タンパク質は、ハンチンチン及びタウから構成される群から選択される細胞内タンパク質であり得る。細胞内タンパク質がハンチンチンである場合、一実施形態において、融合タンパク質のタンパク質標的ドメインはハンチンチンのポリグルタミン酸配列に結合する。
【0066】
好ましくは、融合タンパク質は、第2のRINGドメインと、タンパク質標的化ドメインとの間に位置するTRIM21のB-ボックスドメインかコイルドコイルドメインのどちらかを含まない。融合タンパク質は、第2のRINGドメインと、タンパク質標的化ドメインとの間に位置する任意のタンパク質から誘導されるB-ボックスドメインかコイルドコイルドメインのどちらかを含まなくてもよい。一実施形態において、融合タンパク質は、TRIM21から誘導されるB-ボックスドメイン等のB-ボックスドメインを含まず、好ましくは、任意のタンパク質から誘導されるB-ボックスドメインを含まない。一実施形態において、融合物は、TRIM21から誘導されるコイルドコイルドメインを含まず、好ましくは、任意のタンパク質から誘導されるコイルドコイルドメインを含まない。
【0067】
ヒトTRIM21のB-ボックスドメインは、配列番号1に示されるヒトTRIM21アミノ酸配列のアミノ酸91~アミノ酸128を含む。ヒトTRIM21のコイルドコイルドメインは、配列番号1に示されるヒトTRIM21アミノ酸配列のアミノ酸128~アミノ酸238を含む。
【0068】
B-ボックスドメインは、配列:
RCAVHGERLHLFCEKDGKALCWVCAQSRKHRDHAMVPL(配列番号4)
を含み得る。
【0069】
したがって、一実施形態において、融合タンパク質は、配列番号4の配列もその変異体も含まない。
【0070】
コイルドコイルドメインは、配列:
EEAAQEYQEKLQVALGELRRKQELAEKLEVEIAIKRADWKKTVETQKSRIHAEFVQQKNFLVEEEQRQLQELEKDEREQLRILGEKEAKLAQQSQALQELISELDRRCHS(配列番号5)
を含み得る。
【0071】
したがって、一実施形態において、融合タンパク質は、配列番号5の配列もその変異体も含まない。
【0072】
好ましくは、融合タンパク質は、配列番号4及び配列番号5の配列もそれらの機能的変異体も含まない。好ましくは、変異体配列は、HGMP(ヒトゲノムマッピングプロジェクト)によって提供されるBLASTコンピュータープログラム(Atschul et al., J. Mol. Biol. 215, 403-410 (1990))のデフォルトパラメーターを使用して、アミノ酸レベルで参照配列に対して少なくとも60%の同一性を有する。より好ましくは、配列番号4又は配列番号5の変異体配列は、アミノ酸レベルで配列番号4又は配列番号5の配列に対して、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは95%(更により好ましくは少なくとも99%)の同一性を有し得る。
【0073】
第2のRINGドメインと、タンパク質標的化ドメインとの間にコイルドコイルドメインかB-ボックスドメインのどちらかを含まないことによって、融合タンパク質のRING二量体が、標的タンパク質(又は標的タンパク質に結合する抗体)上で共局在した第2の融合タンパク質のRING二量体と近接することを可能にする手助けとなる。これは、一方の融合タンパク質の一方のRING二量体が、他方のRING二量体のユビキチン化を媒介するのに利用可能であることを意味する。
【0074】
しかしながら、幾つかの実施形態において、融合コンストラクトは、コイルドコイルドメイン、B-ボックスドメイン、又はコイルドコイルドメイン及びB-ボックスドメインを含んでいてもよい。コイルドコイルドメイン及び/又はB-ボックスが融合タンパク質において存在するならば、これらはタンパク質標的化ドメイン及びRINGドメインから十分な距離に位置するはずであるため、第1の融合タンパク質のRING二量体と、標的タンパク質(又は標的タンパク質に結合する抗体)上で共局在した第2の融合タンパク質のRING二量体とは、例えば両者が同じFcに結合される場合に依然として近接して、RING二量体が相互間でユビキチン化を媒介することを可能にし得る。
【0075】
2つのRINGドメイン及びタンパク質標的化ドメインを、リンカー配列によって隔離することができる。リンカー配列は、TRIMポリペプチドの配列から誘導されてもよく、ここで、リンカー配列は、TRIMポリペプチドのコイルドコイルドメイン及び/又はB-ボックスドメインをコードしない。
【0076】
他の実施形態において、当該技術分野において既知である標準的なリンカー配列を使用することもでき、例えば、ポリグリシン又はポリセリンのアミノ酸配列を使用することができる。リンカーの長さは様々なサイズであり得る。しかしながら、2つのRINGドメイン間のリンカー配列は、融合タンパク質に柔軟性を与え、存在する2つのRINGドメインの二量体化を可能にするのに十分な長さであるべきである。一実施形態において、タンパク質標的化ドメインと、RINGドメインとの間のリンカー配列は、1アミノ酸から50アミノ酸の間の長さ、好ましくは1アミノ酸から35アミノ酸の間、1アミノ酸から30アミノ酸の間、1アミノ酸から25アミノ酸の間、1アミノ酸から20アミノ酸の間、1アミノ酸から15アミノ酸の間、又は1アミノ酸から10アミノ酸の間の長さである。より好ましくは、リンカーは、1アミノ酸~6アミノ酸の長さであり、例えば、1アミノ酸、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、又は6アミノ酸の長さである。幾つかの実施形態において、第1のRINGドメインと、第2のRINGドメインとの間にはリンカーが存在しなくてもよい。
【0077】
RINGドメインと、タンパク質標的化ドメインとの間のリンカー配列は、標的タンパク質(又は標的タンパク質に結合する抗体)上で共局在したときに、第1の融合タンパク質のRING二量体が、第2の融合タンパク質のRING二量体に近接することを可能にするのに十分な長さであるべきである。リンカーは、第2タンパク質のRINGドメインとの触媒的RINGトポロジーの形成を可能にするのに十分な長さであるべきである。
【0078】
例えば、タンパク質標的化ドメインがPRYSPRYドメインである場合、PRYSPRYドメインと、RINGドメインとの間のリンカーは、第1の融合タンパク質のRING二量体が、Fcに結合されたときに、同様にFcに結合された第2の融合タンパク質のRING二量体に近接する長さであるべきである。好ましくは、2つのRING二量体は、Fcに結合されたときに、互いにおよそ8nm~10nm離れて位置し、好ましくは互いに9nm以内に位置する。
【0079】
2つの二量体の離隔は、実施例に示されるように、例えばX線結晶学を使用して複合体の構造を決定し、この構造におけるRING間の距離を測定することにより決定することができる。この距離は、第1の融合タンパク質の酵素のRINGと、第2の融合タンパク質の基質のRINGとの間の間隔である。
【0080】
一実施形態において、タンパク質標的化ドメインと、RINGドメインとの間のリンカー配列は、5アミノ酸から50アミノ酸の間の長さ、好ましくは5アミノ酸から40アミノ酸の間、5アミノ酸から30アミノ酸の間、5アミノ酸から25アミノ酸の間、10アミノ酸から25アミノ酸の間、15アミノ酸から25アミノ酸の間、15アミノ酸から20アミノ酸の間、又は10アミノ酸から20アミノ酸の間の長さである。より好ましくは、リンカーは、10アミノ酸から20アミノ酸の間の長さである。
【0081】
一実施形態において、リンカー配列は、TRIMポリペプチドの配列から誘導されてもよく、ここで、リンカー配列は、TRIMポリペプチドのコイルドコイルドメイン及び/又はB-ボックスドメインをコードしない。例えば、RINGドメインと、タンパク質標的化ドメインとの間に設けられたリンカー配列は、配列GTQGERGLKKMLRTC(配列番号40)を含み得る。一実施形態において、この配列は、配列GTQGERGLKKMLRTC(配列番号40)からなる。
【0082】
したがって、本発明の一実施形態は、第1のRINGドメインと、第2のRINGドメインと、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端に位置するPRYSPRYドメインと、配列GTQGERGLKKMLRTC(配列番号40)を含むRINGドメインとPRYSPRYドメインとの間のリンカー配列とを含む融合タンパク質を含み、ここで、RINGドメイン及びPRYSPRYドメインは、TRIMポリペプチド、好ましくはTRIM21から誘導され、好ましくは、融合タンパク質は、コイルドコイルドメインもB-ボックスドメインも含まない。好ましくは、RINGドメインは、配列番号2の少なくともアミノ酸1~アミノ酸81、より好ましくはアミノ酸1~アミノ酸85、又はそれらの機能的変異体を含む。好ましくは、PRYSPRYドメインは、配列番号3の配列又はその機能的変異体を含む。
【0083】
「融合タンパク質」及び「融合ポリペプチド」は、共有結合により互いに連結された2つ以上の部分を有し、各部分が、同じであっても又は異なっていてもよい特定の特性を有するポリペプチドである、ポリペプチドを指す。この特性は、in vitro又はin vivoでの活性等の生物学的特性であってもよい。この特性はまた、標的抗原への結合、反応の触媒作用等のような単純な化学的特性又は物理的特性であってもよい。2つの部分は、単一のペプチド結合によって直接連結されていてもよく、又は1つ以上のアミノ酸残基を含むペプチドリンカーを介して連結されていてもよい。一般に、2つの部分及びリンカーは互いにリーディングフレーム内にある。
【0084】
本書における「融合タンパク質」という用語は、一般的には、水素結合若しくは塩橋を含む化学的手段によって、又はタンパク質合成によるペプチド結合によって、又はその両方によって互いにつながった1つ以上のタンパク質を意味する。典型的には、融合タンパク質は、当該技術分野において標準的なDNA組換え技術によって調製されることになり、本明細書において組換え融合タンパク質と呼称される場合がある。
【0085】
本発明はまた、本発明の融合タンパク質をコードする核酸コンストラクトを提供する。核酸コンストラクトは、第1のRINGドメインをコードする第1の核酸配列と、第2のRINGドメインをコードする第2の核酸配列と、タンパク質標的化ドメインをコードする第3の核酸配列とを含み得る。
【0086】
好ましくは、核酸コンストラクトは、タンパク質標的化ドメインが第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端に位置する融合タンパク質をコードする。好ましくは、この核酸は、B-ボックスドメイン及び/又はコイルドコイルドメインをコードする配列を含まない。核酸コンストラクトはまた、RINGドメイン間及び/又はRINGドメインとタンパク質標的化ドメインとの間に位置する任意のリンカー配列をコードし得る。
【0087】
本発明の一実施形態において、核酸コンストラクトは、第1のRINGドメインをコードする第1の核酸配列と、第2のRINGドメインをコードする第2の核酸配列と、タンパク質標的化ドメインをコードする第3の核酸配列とを含み得て、ここで、核酸コンストラクトは、B-ボックスドメインをコードする配列もコイルドコイルドメインをコードする配列も含まない。核酸コンストラクトは、上記のように、RINGドメイン及びタンパク質標的化ドメインをコードし得る。
【0088】
好ましい実施形態において、核酸コンストラクトは、第1のRINGドメインをコードする第1の核酸配列と、第2のRINGドメインをコードする第2の核酸配列と、PRYSPRYドメインをコードする第3の核酸配列とを含み、ここで、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインは、TRIM、好ましくはTRIM21から誘導される。より好ましくは、核酸コンストラクトは、TRIM由来の、好ましくは任意のポリペプチドから誘導されるB-ボックスドメイン及び/又はコイルドコイルドメインをコードする配列を含まず、なおもより好ましくは、この融合物は、TRIMから誘導される、好ましくは任意のポリペプチドから誘導されるB-ボックスドメインもコイルドコイルドメインもいずれも含まない。
【0089】
一実施形態において、核酸コンストラクトは、第1のRINGドメインをコードする第1の核酸配列と、第2のRINGドメインをコードする第2の核酸配列と、VHHをコードする第3の核酸配列とを含み、ここで、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインは、TRIM、好ましくはTRIM21から誘導され、VHHは、対象のタンパク質に結合する。より好ましくは、核酸コンストラクトは、TRIM由来の、好ましくは任意のポリペプチドから誘導されるB-ボックスドメイン及び/又はコイルドコイルドメインをコードする配列を含まず、なおもより好ましくは、この融合物は、TRIMから誘導される、好ましくは任意のポリペプチドから誘導されるB-ボックスドメインもコイルドコイルドメインもいずれも含まない。
【0090】
核酸コンストラクトは、第1のRINGドメインをコードする第1の核酸配列と、第2のRINGドメインをコードする第2の核酸配列と、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端に位置するPRYSPRYドメインをコードする第3の核酸配列と、配列GTQGERGLKKMLRTC(配列番号40)を含むリンカー配列をコードする第4の核酸配列とを含み得て、ここで、RINGドメイン及びPRYSPRYドメインは、TRIMポリペプチド、好ましくはTRIM21から誘導され、好ましくは、この核酸は、コイルドコイルドメインをコードする配列もB-ボックスドメインをコードする配列も含まない。好ましくは、第1の核酸配列及び第2の核酸配列は、配列番号2の少なくともアミノ酸1~アミノ酸81、より好ましくはアミノ酸1~アミノ酸85、又はそれらの機能的変異体を含むRINGドメインをコードする。好ましくは、第3の核酸配列は、配列番号3の配列又はその機能的変異体を含むPRYSPRYドメインをコードする。
【0091】
本発明はまた、これらの核酸コンストラクトによってコードされる融合タンパク質を提供する。
【0092】
これらの核酸コンストラクトは、ベクター、例えば、発現ベクターの形態で提供されてもよく、中でも、染色体ベクター、エピソーマルベクター、及びウイルス由来のベクター、例えば、細菌性プラスミドから、バクテリオファージから、トランスポゾンから、酵母エピソームから、挿入エレメントから、酵母染色体エレメントから、バキュロウイルス、パポバウイルス、例えばSV40、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、及びレトロウイルス等のウイルスから誘導されるベクター、並びにそれらの組合せから誘導されるベクター、例えばプラスミド並びにコスミド及びファージミド等のバクテリオファージの遺伝エレメントから誘導されるベクターを挙げることができる。一般に、核酸を維持し、増やし、又は発現して宿主においてポリペプチドを発現するのに適したあらゆるベクターをこの点での発現に使用することができる。ベクターは、上記定義の複数の、例えば2つ以上の核酸コンストラクトを含んでいてもよい。好ましくは、ベクターはウイルス性送達ベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター又はレンチウイルスベクターである。
【0093】
本発明の核酸コンストラクトは、好ましくは、核酸の発現を制御するプロモーター又は他の調節配列を含む。プロモーター又は他の調節配列は、融合タンパク質のドメインをコードする核酸配列に作動可能に連結され得る。核酸の発現を制御するプロモーター及び他の調節配列は特定されており、当該技術分野において既知である。当業者であれば、プロモーター又は他の調節配列の全体を利用する必要がない場合があることに留意するであろう。最小限の必須の調節エレメントだけが必要とされる場合があり、実際、そのようなエレメントを使用してキメラ配列又は他のプロモーターを構築することができる。
【0094】
「核酸コンストラクト」という用語は、一般に、DNA、cDNA、又はクローニングによって得られる若しくは化学合成によって生成されるmRNA等のRNAであり得るあらゆる長さの核酸を指す。DNAは一本鎖であっても又は二本鎖であってもよい。一本鎖DNAは、コーディングセンス鎖であってもよく、又は非コーディング鎖若しくはアンチセンス鎖であってもよい。治療用途の場合、核酸コンストラクトは、好ましくは、処置される被験体において発現することが可能な形態である。
【0095】
本発明はまた、そのような核酸コンストラクトを含む宿主細胞を提供する。
【0096】
本発明はまた、本発明の融合タンパク質を調製する方法であって、上記の核酸コンストラクト又はベクターを含む宿主細胞を上記宿主細胞が融合タンパク質を産生するような条件下で培養又は維持することを含み、任意に融合タンパク質を単離することを更に含む、方法を提供する。
【0097】
本発明の融合タンパク質又は核酸コンストラクトを含む医薬組成物も提供される。医薬組成物は、様々な薬学的に許容可能な担体及び/又は添加剤を含んでいてもよい。適切な薬学的に許容可能な担体及び/又は添加剤は当該技術分野において既知である。本発明の医薬組成物は、限定されるものではないが、静脈内投与、筋肉内投与、経口投与、腹腔内投与、又は局所投与を含む、当該技術分野において既知であるあらゆる適切な方法によって投与されるものであってもよい。好ましい実施形態において、医薬組成物は、液剤、ゲル剤、粉剤、錠剤、カプセル剤、又はフォーム剤の形態で調製され得る。
【0098】
本発明の融合タンパク質及び核酸コンストラクトを医薬として治療に使用することができる。一実施形態において、本発明はまた、神経障害、例えばアルツハイマー病又はハンチントン病の処置を提供する。他の実施形態において、本発明は、感染症、例えばHIV等のウイルス感染症の処置を提供する。更なる実施形態において、本発明は、トリヌクレオチドリピート障害、特にトリヌクレオチドリピートが遺伝子のコーディング配列内に存在するトリヌクレオチドリピート障害の処置を提供する。本発明の融合タンパク質又は核酸コンストラクトを用いて処置することができるトリヌクレオチドリピート障害としては、ハンチントン病、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、及び脊髄小脳失調症が挙げられる。
【0099】
神経障害、感染症、又はトリヌクレオチドリピート障害の処置は、本発明の融合タンパク質、核酸、又は医薬組成物を被験体に投与することを含む。
【0100】
一実施形態において、処置は、第1のRINGドメインと、第2のRINGドメインと、タンパク質標的化ドメインとを含む融合タンパク質を投与することを含む。好ましくは、タンパク質標的化ドメインは、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端に位置する。好ましくは、投与される融合タンパク質は、コイルドコイルドメインもB-ボックスドメインも含まない。
【0101】
本発明の一実施形態において、処置は、第1のRINGドメインをコードする第1の核酸配列と、第2のRINGドメインをコードする第2の核酸配列と、タンパク質標的化ドメインをコードする第3の核酸配列とを含む核酸コンストラクトを投与することを含む。好ましくは、核酸コンストラクトは、タンパク質標的化ドメインが第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端に位置する融合タンパク質をコードする。好ましくは、投与される核酸コンストラクトは、B-ボックスドメインをコードする配列もコイルドコイルドメインをコードする配列も含まない。
【0102】
処置される障害がアルツハイマー病等の神経障害である場合、タンパク質標的化ドメインは、タウを標的とする配列をコードし得る。一実施形態において、タンパク質標的化ドメインは、タウに特異的に結合する抗体、その抗体フラグメント、又は抗体ミメティックをコードし得る。処置される障害がハンチントン病である場合、タンパク質標的化ドメインは、ハンチンチンを標的とする配列をコードし得る。一実施形態において、タンパク質標的化ドメインは、ハンチンチンのポリグルタミン酸配列に特異的に結合する抗体、その抗体フラグメント、又は抗体ミメティックをコードし得る。
【0103】
本発明による核酸コンストラクトを、送達ベクターによって投与することもできる。送達ベクターとしては、当該技術分野において既知であるアデノウイルス送達ベクター、レトロウイルス送達ベクター、又はレンチウイルス送達ベクター等のウイルス性送達ベクターが挙げられる。他の非ウイルス性送達ベクターとしては、当該技術分野において既知であるリポソーム送達ベクターを含む脂質送達ベクターが挙げられる。
【0104】
処置としては、予防(未然防止)及び治療的処置の両方が挙げられる。「処置する(treat)」、「処置している(treating)」、又は「処置(treatment)」という用語(又は同等の用語)は、個体の病態の重症度が低減されるか、又は少なくとも部分的に改善若しくは寛解すること、及び/又は少なくとも1つの臨床症状の幾らかの軽減、緩和、若しくは減少が達成され、及び/又は病態の進行に抑制若しくは遅延が見られ、及び/又は疾患若しくは病気の発症の未然防止若しくは遅延が見られることを意味する。
【0105】
「患者」、「個体」、又は「被験体」という用語には、本明細書に記載される融合タンパク質又は核酸コンストラクトによる予防的処置又は治療的処置のいずれかを受けるヒト被験体及び他の哺乳動物被験体が挙げられる。哺乳動物被験体としては、霊長類、例えば非ヒト霊長類が挙げられる。哺乳動物被験体としては、限定されるものではないが、ウサギ並びにラット及びマウス等の齧歯動物等の、研究において一般的に使用される実験動物も挙げられる。
【0106】
本発明の融合タンパク質及び核酸コンストラクトを、例えば細胞内又は試料中のタンパク質の分解の研究ツールとして使用することもできる。
【0107】
したがって、本発明の一実施形態において、本発明の融合タンパク質又は核酸を投与することを含む、細胞内のタンパク質を分解する方法が提供される。細胞はin vitroの細胞であってもよい。
【0108】
本発明の更なる実施形態は、本発明の融合タンパク質又は核酸コンストラクトを試料に導入することを含む、試料中のタンパク質を分解する方法を提供する。
【0109】
一実施形態において、細胞内又は試料中のタンパク質を分解する方法は、第1のRINGドメインと、第2のRINGドメインと、タンパク質標的化ドメインとを含む融合タンパク質を投与することを含む。好ましくは、タンパク質標的化ドメインは、第1のRINGドメイン及び第2のRINGドメインのC末端に位置する。好ましくは、投与される融合タンパク質は、コイルドコイルドメインもB-ボックスドメインも含まない。
【0110】
本発明の一実施形態において、細胞内又は試料中のタンパク質を分解する方法は、第1のRINGドメインをコードする第1の核酸配列と、第2のRINGドメインをコードする第2の核酸配列と、タンパク質標的化ドメインをコードする第3の核酸配列とを含む核酸コンストラクトを投与することを含む。好ましくは、投与される核酸コンストラクトは、B-ボックスドメインをコードする配列もコイルドコイルドメインをコードする配列も含まない。
【0111】
対象のタンパク質を標的とする抗体、その抗体フラグメント、若しくは抗体ミメティック、又は抗体、その抗体フラグメント、若しくは抗体ミメティックをコードする核酸を、細胞又は試料に投与することもできる。「対象のタンパク質」とは、分解の対象となるタンパク質である。抗体、その抗体フラグメント、又は抗体ミメティックは、対象のタンパク質に特異的に結合し得る。
【0112】
上記方法は、内因的にTRIM21を発現しない細胞内のタンパク質を分解するのに特に有用である。上記方法は、細胞内タンパク質を分解するのに特に有用である。しかしながら、幾つかの実施形態において、例えばウイルス等の病原体を標的とする場合、抗体は細胞外で対象のタンパク質に結合することになる。抗体-標的は細胞内に移行して、ここで、融合タンパク質が抗体-標的に結合してタンパク質を分解することになる。
【0113】
融合タンパク質又は核酸を、例えばマイクロインジェクションを含む注入による若しくはエレクトロポレーションによるトランスフェクションによって、又は例えばウイルス性送達ベクター、例えばAAVベクターの使用による形質導入によって細胞に導入することができる。融合タンパク質及び核酸コンストラクトを細胞に導入するのに適した他の送達技術は、当該技術分野において既知である。
【0114】
「~を含む群から選択される(selected from the group comprising)」という語句は、これらが本明細書において存在する場合、「~からなる群から選択される(selected from the group consisting of)」という語句で置き換えることができ、その逆もまた同様である。
【0115】
本明細書において引用された全ての出版物の内容は、本発明の属する技術水準をより完全に説明するのに、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0116】
本発明は、以下の実施例を参照することにより更に理解されるであろう。
【実施例】
【0117】
実施例1:E2ヘテロ二量体Ube2N/Ube2V2と複合体を形成したモノユビキチン化TRIM21 RINGドメインの構造
材料及び方法
プラスミド:細菌性発現コンストラクト:Ube2V2及びTRIM21発現コンストラクトを全長でpOP-TGベクターにクローニングし、全長のTRIM21コンストラクトをHLTVベクターにクローニングした。Ube2NコンストラクトをpOP-TSにクローニングし、Ube1をpET21にクローニングし、ユビキチンをpET17bにクローニングした。Ube2D1をpET28aにクローニングした。Ub4/3/2-TRIM21コンストラクトをクローニングするのに、線状のUb3配列をコドン最適化し、合成DNAとして注文し(Integrated DNA technologies、米国アイオワ州、コーラルビル)、UbG75/76A-TRIM21コンストラクトに挿入した。mRNAを産生する全てのコンストラクトをpGEMHEベクターにクローニングした。コンストラクトをギブソンアセンブリーによってクローニングし、突然変異誘発PCRによって突然変異を挿入した。mCherry-TRIM21ΔRING-Boxの場合、TRIM21382-1428をPCRによって増幅し、EcoRI及びNotIによって切り出した。mCherryを有する743bpの断片をV60(pmCherry-C1、Clonetech)からAgeI及びEcoRIによって切り出し、両方の断片をpGEMHEにライゲーションした。精製タンパク質/発現mRNAの配列を配列番号6~配列番号38に示す。
【0118】
組換えタンパク質の発現及び精製:ユビキチン-TRIM21、TRIM21 RING(残基1~残基85)、Ube2N、及びUbe2V2のコンストラクトをエシェリキア・コリ(Escherichia coli)BL21 DE3細胞において発現させた。ユビキチン及びUbe1をエシェリキア・コリRosetta2 DE3細胞において発現させた。全ての細胞を、2mMのMgSO4、0.5%のグルコース、及び100μg・mL-1のアンピシリン(及びRosetta2細胞における発現の場合は35μg・mL-1のクロラムフェニコール)を補充した2xTY培地において成長させた。細胞を0.7のOD600で誘導した。TRIMタンパク質の場合は、0.5mMのIPTG及び10μMのZnCl2を用いて誘導を行い、ユビキチン及びUbe1の場合は、0.2mMのIPTGを用いて誘導を行い、E2酵素の場合は、0.5mMのIPTGを用いて誘導を行った。遠心分離後に、細胞を50mMのTris(pH8.0)、150mMのNaCl、10μMのZnCl2、1mMのDTT、20%のBugbuster(Novagen)、及びcOmplete(商標)プロテアーゼ阻害剤(Roche、スイス)中に再懸濁した。溶解を超音波処理によって行った。TRIMタンパク質及びUbe2V2をN末端GSTタグとともに発現させ、50mMのTris(pH8.0)、150mMのNaCl、及び1mMのDTT中で平衡化したグルタチオンセファロース樹脂(GE Healthcare)を介して精製した。タグをビーズ上で4℃にて一晩切断した。ユビキチン-TRIM21コンストラクトの場合には、溶離液に10mMのイミダゾールを補充し、これを0.25mLのNi-NTAビーズ上に流してHisタグ付きTEVを除去した。Ube2N及びUbe1をN末端のHisタグとともに発現させ、Ni-NTA樹脂を介して精製した。タンパク質を50mMのTris(pH8.0)、150mMのNaCl、1mMのDTT、及び300mMのイミダゾール中で溶出させた。Ube2Nの場合、試料を50mMのTris(pH8.0)、150mMのNaCl、1mMのDTT、及び20mMのイミダゾールに対して透析することによって、HisタグのTEV切断を一晩実施した。その後、Hisタグ付きTEVプロテアーゼをNi-NTA樹脂によって除去した。切断により、組換え発現されたTRIMタンパク質にはN末端トリペプチドの痕跡(GSH)が、Ube2NにはN末端Gの痕跡が、Ube2V2にはN末端GSQEFの痕跡が残った。最後に、20mMのTris(pH8.0)、150mMのNaCl、及び1mMのDTT中でHiLoad 26/60 Superdex 75プレップグレードカラム(GE Healthcare)上でサイズ排除クロマトグラフィーを実施した。
【0119】
全長のTRIM21(Ub-R-B-CC-PS又はUb-R-R-B-CC-PS)をエシェリキア・コリBL21 DE3細胞においてHis-リポイル融合タンパク質として発現させた。2xTY中の細胞を0.8のOD600まで成長させ、0.5mMのIPTG及び10μMのZnCl2で誘導した。細胞を更に18℃、220rpmで一晩インキュベートした。遠心分離後に、細胞を100mMのTris(pH8.0)、250mMのNaCl、10μMのZnCl2、1mMのDTT、20%のBugbuster(Novagen)、20mMのイミダゾール、及びcOmplete(商標)プロテアーゼ阻害剤(Roche、スイス)中に再懸濁した。溶解を超音波処理によって行った。His-アフィニティー精製を上記のように実施した。その直後に、タンパク質をS200 26/60カラム(50mMのTris(pH8.0)、200mMのNaCl、1mMのDTT中で平衡化)に適用して、可溶性凝集物を除去した。濃度決定後に、TEVプロテアーゼを使用してHis-リポイルタグを一晩切断した。全長TRIM21はタグがないと不安定であるため、タンパク質を更に精製せずにアッセイに使用した。
【0120】
ユビキチン精製を、Pickart labによって確立されたプロトコル(Pickart, C. M. & Raasi, S.著の「ポリユビキチン鎖の制御された合成(Controlled synthesis of polyubiquitin chains.)」 Methods Enzymol 399, 21-36, (2005))に従って実施した。超音波処理による細胞溶解後に(溶解バッファー:50mMのTris(pH7.4)、1mg・mL-1のリゾチーム(Sigma Aldrich、米国セントルイス)、0.1mg・mL-1のDNアーゼ(Sigma Aldrich、米国セントルイス))、0.5%の総濃度の過塩素酸を撹拌中の溶解物に4℃で加えた。(乳白色の)溶解物を撹拌機において4℃で更に30分間インキュベートして、沈殿を完了させた。次に、溶解物を4℃で30分間遠心分離(50000×g)した。上清を3Lの50mMの酢酸ナトリウム(NaOAc)(pH4.5)に対して一晩透析(3500MWCO)した。その後、20mLのSPカラム(GE Healthcare)を使用する陽イオン交換クロマトグラフィーを介してNaCl勾配(50mMのNaOAc(pH4.5)中0mM→1000mMのNaCl)を使用してUbを精製した。最後に、20mMのTris(pH7.4)中でHiLoad 26/60 Superdex 75プレップグレードカラム(GE Healthcare)上でサイズ排除クロマトグラフィーを実施した。
【0121】
全てのタンパク質を少量(30μL~100μL)に分けて急速冷凍し、-80℃で貯蔵した。
【0122】
イソペプチド連結型Ube2N~Ubの形成:Ube2NC87K/K92AへのWTユビキチンのチャージングを、通常のE1媒介性のチャージングとして、しかしK87の脱プロトン化を確実にする高いpHで実施した。イソペプチドチャージング反応を、50mMのTris(pH10.0)、150mMのNaCl、5mMのMgCl2、0.5mMのTCEP、3mMのATP、0.8μMのUbe1、100μMのUbe2N、及び130μMのユビキチン中で37℃にて4時間行った。コンジュゲーション後に、Ube2NC87K/K92A~Ubを、20mMのTris(pH8.0)及び150mMのNaCl中で平衡化したサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex S75 26/60、GE Healthcare)によって精製した。
【0123】
結晶化:全体で、20mMのTris(pH8.0)、150mMのNaCl、及び1mMのDTT中の5mg・mL-1のヒトUbG75/76A-TRIM211-85、Ube2NC87K/K92A~Ub、及びUbe2V2を、17℃でのシッティングドロップ(500nLのタンパク質を500nLのリザーバー溶液と混合した)においてスパースマトリックススクリーニングに供した。Morpheus IIスクリーン(Gorrec, F.著の「MORPHEUS IIタンパク質結晶化スクリーン(The MORPHEUS II protein crystallization screen.)」 Acta Crystallogr F Struct Biol Commun 71, 831-837, (2015))において、0.1MのMOPSO/ビス-トリス(pH6.5)、12.5%(重量/容量)のPEG4K、20%(容量/容量)の1,2,6-ヘキサントリオール、各0.03MのLi、Na、及びK中で結晶を得た。
【0124】
Ube2NC87K/K92A~Ub:Ube2V2構造の場合、20mMのTris(pH8.0)、150mMのNaCl、及び1mMのDTT中の10mg・mL-1のTRIM211-85、Ube2NC87K/K92A~Ub、Ube2V2、及びUbを、17℃でのシッティングドロップ(200nLのタンパク質を200nLのリザーバー溶液と混合した)においてスパースマトリックススクリーニングに供した。Morpheus IIIスクリーン(Sammak, S. et al.著の「c-MYC:MAX bHLHZip複合体のアポ型の結晶構造及び核磁気共鳴研究により、DNAの不存在下でヘリックス塩基性領域が明らかになる(Crystal Structures and Nuclear Magnetic Resonance Studies of the Apo Form of the c-MYC:MAX bHLHZip Complex Reveal a Helical Basic Region in the Absence of DNA.)」 Biochemistry 58, 3144-3154, (2019))において、0.1Mのビシン/トリズマ塩基(pH8.5)、12.5%(重量/容量)のPEG 1000、12.5%(重量/容量)のPEG 3350、12.5%(容量/容量)のMPD、0.2%(重量/容量)の各麻酔性アルカロイド(塩酸リドカイン・H2O、塩酸プロカイン、塩酸プロパラカイン、塩酸テトラカイン)中で結晶を得た。追加の凍結保護剤を使用せずに結晶を急速冷凍させて、データ収集した。
【0125】
結晶データ収集、構造解析、及び精密化:0.9762Åの波長のEiger2 XE 16M検出器を備えたDiamond Light Sourceのビームラインi03でデータを収集した。UbG75/76A-TRIM211-85:Ube2NC87K/K92A~Ub:Ube2V2の場合、回折画像をXDS(Kabsch, W. Xds. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 66, 125-132, (2010))を使用して2.2Åの分解能まで処理した。結晶は空間群番号5(C2)に属し、各成分は非対称単位中に単一のコピーとして存在する。生データの分析により、データに中程度の異方性があることが明らかになった。Phenixスイート(Adams, P. D. et al.著の「PHENIX:巨大分子構造解析用の包括的なPythonベースのシステム(PHENIX: a comprehensive Python-based system for macromolecular structure solution.)」 Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 66, 213-221, (2010))に実装されたPHASER-MRを使用した分子置換によって構造を解析した。サーチモデルとしては、6S53からのTRIM21-RING及びUbe2N(Kiss, L. et al.著の「トリイオン性アンカー機構は、TRIMリガーゼにおけるUbe2N特異的な動員及びK63鎖のユビキチン化を駆動する(A tri-ionic anchor mechanism drives Ube2N-specific recruitment and K63-chain ubiquitination in TRIM ligases.)」 Nat Commun 10, 4502, (2019))、1UBQからのユビキチン(Vijay-Kumar, S., Bugg, C. E. & Cook, W. J.著の「1.8Åの分解能で精密化されたユビキチンの構造(Structure of ubiquitin refined at 1.8 A resolution.)」 J Mol Biol 194, 531-544, (1987))、並びに1J74からのUbe2V2(Moraes, T. F. et al.著の「ヒトユビキチン結合酵素複合体hMms2-hUbc13の結晶構造(Crystal structure of the human ubiquitin conjugating enzyme complex, hMms2-hUbc13.)」 Nat Struct Biol 8, 669-673, (2001))を用いた。モデル構築及び実空間精密化をcoot(Emsley, P. & Cowtan, K.著の「Coot:分子グラフィックス用のモデル構築ツール(Coot: model-building tools for molecular graphics.)」 Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 60, 2126-2132, (2004))において実行し、精密化をphenix-refine(Afonine, P. V. et al.著の「phenix.refineを用いた自動化された結晶学的構造精密化に向けて(Towards automated crystallographic structure refinement with phenix.refine.)」 Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 68, 352-367, (2012))を使用して実行した。マップの分解能があまり良くない部分で、データの異方性が観察される可能性がある。全ての界面では明確な高分解能の密度が示されるが、特にUbe2V2(チェインA)の溶媒チャネルの隣にある部分は構築が困難であることが判明した。この構造は、アクセッションコード7BBD[http://doi.org/10.2210/pdb7BBD/pdb]でProtein Data Bankに寄託されている。
【0126】
Ube2NC87K/K92A~Ub:Ube2V2の場合、回折画像をXDSを使用して2.54Åの分解能まで処理した。結晶は空間群番号145(P32)に属し、各成分は非対称単位中に3回存在し、これは並進非結晶学的対称性によって関連付けられる。Phenixスイートに実装されたPHASER-MRによって構造を解析した。使用したサーチモデルは、6S53からのUbe2N、1UBQからのユビキチン、及び1J74からのUbe2V2であった。モデル構築及び実空間精密化をcootにおいて実行し、精密化を、phenix-refineを使用して実行した。この構造は、アクセッションコード7BBF[http://doi.org/10.2210/pdb7BBF/pdb]でProtein Data Bankに寄託されている。
【0127】
結果
本発明者らは、基質結合ユビキチン鎖がどのように形成され得るかを理解することに着手した。原則として、TRIMタンパク質のユビキチン鎖伸長は、そのRINGドメインのみに依存する。TRIM21(及びTRIM5α)の場合には、E2酵素Ube2Wとの相互作用に際してN末端モノユビキチン化を経た後に、TRIM RING自体が基質になる。したがって、本発明者らは、TRIM21 RING及びその鎖形成性のE2ヘテロ二量体Ube2N/Ube2V2による基質結合ユビキチン化に取り組むことを試みた。結晶化試験において、N末端でモノユビキチン化されたTRIM21 RINGドメイン(Ub
G75/76A-TRIM21
1-85、すなわちUb-R)、イソペプチド連結型の非加水分解性のユビキチンチャージされたUbe2Nコンジュゲート(Ube2N~Ub)及びUbe2V2を使用した。この複合体の原子構造を2.2Åの分解能で解析したところ、非対称単位中にUb-R、Ube2N~Ub、及びUbe2V2のコピーをそれぞれ1つずつ有していた(データは示していない)。本発明者らのモデルにおいて結晶対称性を利用することによって、天然に存在するTRIM21 RINGホモ二量体を作成した(
図1a)。RINGは閉構造でUbe2N~Ubに結合し、Ube2NはUbe2V2とともにヘテロ二量体を形成する。結晶格子内の更なる相互作用を分析したところ、TRIM21に連結したユビキチンは対称性関連複合体のUbe2N/Ube2V2と追加的に接し(
図1b)、これによりRINGに結合したユビキチンは、そのK63が活性部位を向くように配向され、求核攻撃の準備が整うことが判明した(
図1b、
図1c)。したがって、本発明者らの構造は、自己アンカー型ユビキチン鎖伸長の準備が整ったユビキチンプライミングされたRINGのスナップショットを表す。
【0128】
実施例2:ユビキチン化の化学的機構
材料及び方法
ジユビキチン形成の速度論:精製タンパク質を上記のように得た。ジユビキチン形成の速度論的測定値をミカエリス-メンテン及びpKa分析について測定した。実験をパルスチェイス形式で行い、その際、最初の反応ではUbe2N~His-Ubが生成され、これをUb1-74によって追跡した。これらの条件下で、Ub1-74は、E1酵素にチャージされ得ないため、アクセプターとしてのみ機能する。一方、Hisタグ付きのユビキチンはドナーとして機能する。理論的には、His-Ubがアクセプターとして機能する可能性もあるが、高濃度のUb1-74はアクセプターとしてのHis-Ubに競り勝つ。最初に、全ての様々なコンストラクトについての反応の線形範囲を決定して、後に初速度(v0)の代表としてこの軌道上の1つの点だけを測定した。ミカエリス-メンテン速度論については、以下の長さを使用し:WT、3分;D119A、100分;D119N、30分;N123A、3分;D124A、3分、pKa測定については、以下の通りであった:WT、40秒;D119A、5分;D119N、60秒;N123A、40秒;D124A、40秒。
【0129】
最初に、50mMのTris(pH7.0)、150mMのNaCl、20mMのMgCl2、3mMのATP、60μMのHis-ユビキチン、1μMのGST-Ube1(Boston Biochem)、及び40μMのUbe2N中でUbe2Nのチャージングを実施した。反応物を37℃で12分間インキュベートし、その後使用するまで4℃で貯蔵した(1時間以内)。
【0130】
ミカエリス-メンテン速度論分析の場合は、50mMのTris(pH7.4)、150mMのNaCl中で、示された量のUb1-74(0μM~400μM)を用いて反応を行ったのに対して、pKaの決定の場合は、50mMのTris及び示されたpH(7.0~10.5)、50mMのNaCl、及び250mMのUb1-74中で行った。バッファーとは別に、反応混合物には2.5μMのUbe2V2が含まれていた。20分の1に希釈して反応物中2μMのUbe2Nにしたチャージング混合物の添加によって反応を開始した。4×LDSローディングバッファーを添加することにより反応を停止させた。試料を90℃で2分間煮沸し、LDS-PAGEによって分離した。LiCorシステムを介して抗His抗体(Clontech、631212、1:5000)を用いてウェスタンブロットを実施したところ、以下の種の検出につながった:His-Ub、His-Ub-Ub1-74、Ube2N~His-Ub、Ube2N~(His-Ub)2(Ube2N~His-Ubと同様のユビキチン化速度を示すチャージング反応の副産物)、及びE1-His-Ub。His-Ub-Ub1-74の濃度を、His-Ub-Ub1-74の値を検出された全てのバンドの合計で割り、これに反応物中のHis-Ubの総濃度(3μM)を掛けることによって求めた。実験を技術的三連で行った。ミカエリス-メンテン速度論データを、等式(1):
V=(Et×kcat×S)/(KM×S) (1)
(式中、Vは測定された速度であり、Etは活性部位の総濃度(2μM)であり、Sは基質濃度である)にフィッティングした。曲線をフィッティングしてkcat及びKMを決定した。pKaを決定するのに、データを、65に示される等式(2):
V=(VHA×10-pH+VA-×10-pKa)/(10-pKa+10-pH) (2)
(式中、Vは測定された速度であり、VA-は塩基性種の速度であり、VHAは酸性種の速度である)にフィッティングした。
【0131】
結果
触媒作用の前の系の2.2Åの分解能の表示を捕らえたため、ユビキチン転移の詳細な分析を行うことができた。RINGにより促進されたUbe2N~Ub閉構造において、Ube2Nにチャージされたユビキチンが見出され得るため、ドナーユビキチンを表す(
図1)。対称性関連複合体のRINGに結合したユビキチンはUbe2N/Ube2V2によって捕捉され、その求核性K63のN
ζH
3基はドナーユビキチンC末端の求電子性カルボニルから4.8Åに配置される(
図2a)。興味深いことに、このアクセプターユビキチンのK63はUbe2NのD119との直接的な相互作用を示す(
図2a)。これは、D119がアクセプターユビキチン上のK63を脱プロトン化することにより、これが求核攻撃されるよう活性化されることを示唆している。実際、Ube2Dにおける対応する残基(D117)は、入り込むアクセプターリジンの配置及び/又は活性化に関与していることが示唆されている(Plechanovova, A., Jaffray, E. G., Tatham, M. H., Naismith, J. H. & Hay, R. T.著の「触媒作用が起こる寸前のRING E3リガーゼ及びユビキチンが負荷されたE2の構造(Structure of a RING E3 ligase and ubiquitin-loaded E2 primed for catalysis.)」 Nature 489, 115-120, (2012))。
【0132】
ユビキチン化の化学的機構(
図2b)を調査するのに、ジユビキチン形成の速度論を測定した。この反応の酸係数(pK
a)は、その求核剤K63のプロトン化状態のみに依存するはずである。様々なpHで行われた反応のユビキチン化速度を、1つの滴定可能な基を仮定した等式に当てはめると、Ube2Nの場合に8.3のpK
aが明らかになり(
図2c)、これはSUMO-E2 Ube2Iの場合に観察されたものに匹敵する(Yunus, A. A. & Lima, C. D.著の「SUMO経路におけるリジン活性化及びE2媒介性コンジュゲーションの機能解析(Lysine activation and functional analysis of E2-mediated conjugation in the SUMO pathway.)」 Nat Struct Mol Biol 13, 491-499, (2006))。これは、遊離リジンζ-アミノ基の場合の10.5のpK
aよりも大幅に低く(Lide, D. R.著の「CRCの化学及び物理ハンドブック:化学データ及び物理データのすぐに参照することができる参考書(CRC handbook of chemistry and physics: a ready-reference book of chemical and phyical data.)」 Vol. 72 (CRC Press, 1991))、これにより、約7.34の生理学的pHでの触媒作用とは不適合であることとなる(Llopis, J., McCaffery, J. M., Miyawaki, A., Farquhar, M. G. & Tsien, R. Y.著の「緑色蛍光タンパク質を用いた単一の生細胞におけるサイトゾル、ミトコンドリア、及びゴルジのpHの測定(Measurement of cytosolic, mitochondrial, and Golgi pH in single living cells with green fluorescent proteins.)」 Proc Natl Acad Sci U S A 95, 6803-6808 (1998))。D119をアラニン又はアスパラギンのいずれかに突然変異させた。それというのも、どちらも塩基として機能し得ないからであるが、アスパラギンは依然としてK63に結合し配向することができた。どちらの突然変異体もpK
aを約9まで増加させた(
図2c)。生理学的pHでは、Ube2N
D119A/NはK
Mを控え目にそれぞれ約4倍及び約7倍増加させた(
図2d)。アラニンへの突然変異はk
catを100分の1に減少させ、アスパラギンへの突然変異はこれを30分の1に減少させたことから(
図2e)、基質ターンオーバーがリジン求核剤の配向にも依存することが示唆される。けれども、この触媒速度は、生理学的pH下では効率的なユビキチン鎖形成をもたらさない(データは示していない)。これらの観察を総合すると、D119が、入り込むアクセプターリジンを脱プロトン化して触媒作用を可能にする塩基であることが立証される。
【0133】
ユビキチンと他のタンパク質との間の相互作用は、ループイン構造又はループアウト構造のいずれかで見られるユビキチンのβ1-β2ループの特定の構造に依存することが明らかになっている(Hospenthal, M. K., Freund, S. M. & Komander, D. 著の「非定型ユビキチン鎖の集合、分析、及び構成(Assembly, analysis and architecture of atypical ubiquitin chains.)」 Nat Struct Mol Biol 20, 555-565, (2013))。これらの動きによりユビキチンのコア構造が変化し、その後の構造選択により、ユビキチンは多くの様々な結合相手と相互作用することが可能となる(Lange, O. F. et al.著の「溶液中のRDC由来ユビキチンアンサンブルから明らかになったマイクロ秒までの認識ダイナミクス(Recognition dynamics up to microseconds revealed from an RDC-derived ubiquitin ensemble in solution.)」 Science 320, 1471-1475, (2008))。本発明者らの構造において、ドナーユビキチンβ1-β2ループがそのループイン配置であり、ループアウトが閉構造の形成と不適合であることが判明した(データは示していない)。反対に、アクセプターユビキチンはループアウト配置になっており(データは示していない)、これがユビキチンにおけるデフォルト状態であると考えられる(Hospenthal et al. 2013)。ドナーユビキチン及びアクセプターユビキチンはまた異なるB因子プロファイルを有し(データは示していない)、これは、恐らく触媒作用におけるそれらの異なる役割の幾つかの他の側面を反映している。興味深いことに、β1-β2ループ構造は、カリン-RING-リガーゼ(CRL)を活性化する際にNedd8等のユビキチン様タンパク質においても重要であると考えられる(Baek, K. et al.著の「NEDD8は、多価のカリン-RING-UBE2Dユビキチンライゲーション集合体の核をなす(NEDD8 nucleates a multivalent cullin-RING-UBE2D ubiquitin ligation assembly.)」 Nature 578, 461-466, (2020))。
【0134】
RING E3は、通常は非常に動的であるE2~Ub種を閉構造にロックすることによって機能し、それにより触媒作用の準備が整えられる(
図2a)。本発明者らの以前に決定したTRIM21 R:Ube2N~Ub構造(Kiss, L. et al.著の「トリイオン性アンカー機構は、TRIMリガーゼにおけるUbe2N特異的な動員及びK63鎖のユビキチン化を駆動する(A tri-ionic anchor mechanism drives Ube2N-specific recruitment and K63-chain ubiquitination in TRIM ligases.)」 Nat Commun 10, 4502, (2019))と比較して、ドナーユビキチンC末端と、Ube2N活性部位との間に殆ど違いは示されない(データは示していない)。それにもかかわらず、Ube2N~Ub閉構造の形成だけでは触媒作用にとって不十分であるのは、これにはアクセプターユビキチンに結合し配向するUbe2V2の存在も必要とされるからである。2.5Åの分解能で解析したUbe2N~Ub:Ube2V2複合体を分析することによって(データは示していない)、Ube2V2がアクセプターユビキチンをどのように配置するかについて更なる洞察を得た。結晶対称性を起こすことによって、この構造は、K63がUbe2Nの活性部位に向けられるようなUbe2V2によるアクセプターユビキチンの配向(データは示していない)、すなわち、様々な結晶格子において解析された酵母Ube2N~Ub:Ube2V2の構造と同等の配向を示す(Eddins, M. J., Carlile, C. M., Gomez, K. M., Pickart, C. M. & Wolberger, C.著の「ユビキチンに共有結合したMms2-Ubc13は、連結特異的なポリユビキチン鎖形成の構造基盤を明らかにする(Mms2-Ubc13 covalently bound to ubiquitin reveals the structural basis of linkage-specific polyubiquitin chain formation.)」 Nat Struct Mol Biol 13, 915-920, (2006))。RINGが存在しないと、ドナーユビキチンは閉構造をとらないため、本発明者らのUbe2N~Ub:Ube2V2構造は不活性な複合体を表す。本発明者らのUb-R:Ube2N~Ub:Ube2V2構造との整列(データは示していない)により、Ube2N及びUbe2V2は互いにより密集することから、アクセプターユビキチンとUbe2Nとの間に追加の接触が生じ(
図2a)、それにより求核剤K63が活性部位に対してはるかに近く(7.5Åに対して4.8Å)に配置されることが明らかとなる。これが達成されるのは、Ube2NのN123及びD124が、それぞれユビキチンK63のアミド並びにS57及びQ62の側鎖を介してユビキチンと接触するためである(
図2a)。突然変異体Ube2N
N123A及びUbe2N
D124Aについてのk
catにおける約3分の1への減少(
図2e)は、これらの残基の機能が求核剤の配向に役立つことによってユビキチン化反応を微調整することであると示唆している。まとめると、ユビキチン鎖形成の過程で捕らえられた本発明者らの構造の特徴は、Ube2Nを活性化してユビキチンを放出させると同時に、Ube2V2がアクセプターユビキチンを正確に配向させることによって、RING E3がどのように触媒作用を促進するかについての機構的な洞察をもたらす。
【0135】
実施例3:RINGアンカー型ユビキチン化の機構
材料及び方法
ユビキチン鎖形成アッセイ:ユビキチン鎖形成アッセイを、50mMのTris(pH7.4)、150mMのNaCl、2.5mMのMgCl2、及び0.5mMのDTT中で実施した。反応成分は、2mMのATP、0.25μMのUbe1、80μMのユビキチン、0.5μMのUbe2N/Ube2V2、又はUbe2D1とともに、示された濃度のE3であった。示された時点で試料を採取し、LDSサンプルバッファーを4℃で添加することによって反応を停止させた。試料を90℃で2分間煮沸し、LDS-PAGEによって分離した。ウェスタンブロットにおいて、ユビキチン鎖を抗Ub-HRP(Santa Cruz、sc8017-HRP P4D1、1:5000)を使用して検出し、TRIM21をウサギ抗TRIM21PRYSPRYD101D(ST番号9204)(1:1000)によって検出し、Fcをヤギ抗ヒトIgG-Fcブロード(broad)5211-8004(1:2000)によって検出した。
【0136】
結果
次に、RINGアンカー型ユビキチン鎖がどのように形成されるかを理解しようと試みた。本発明者らの結晶構造において、1つのRING二量体は、モノユビキチン化された別のRINGの伸長をトランスに媒介するように配置されている(
図1b、
図1c、
図3a)。重要なことに、本発明者らの結晶構造においてはRING自体との接触は観察され得なかったため、この機構は、RINGアンカー型アクセプターユビキチンのUbe2N/Ube2V2への結合のみに依存している。したがって、異なるRINGドメイン(酵素及び基質)の相対的なトポロジーは殆どが触媒界面によって規定されることから、酵素のRINGと基質のRINGと間には約9nmの離隔がもたらされる(
図3a)。この配置を触媒的RINGトポロジーと呼称し、ここで、1つのRING二量体は酵素として機能し、かつ少なくとも1つの更なるRINGはユビキチン化についての基質として機能する。アクセプターユビキチンとRINGとの間(約3nm離れている)のリンカー、及びTRIMリガーゼにおけるRINGと隣の(B-ボックス)ドメインとの間(約3.5nm離れている)のリンカーは追加の柔軟性を与える可能性が高いため、このトポロジーは硬直ではない(
図3a、
図3b)。本発明者らの構造において、プライミングユビキチンはUbe2N/Ube2V2結合表面に到達することができないため、TRIM21アンカー型鎖伸長の開始はシスでは起こり得ないことが明らかである(
図3a)。これと一致して、本発明者らは、TRIM5に関する以前の研究(Fletcher, A. J. et al.著の「レトロウイルスカプシド上の三価のRING集合体はTRIM5のユビキチン化及び自然免疫シグナル伝達を活性化する(Trivalent RING Assembly on Retroviral Capsids Activates TRIM5 Ubiquitination and Innate Immune Signaling.)」 Cell Host Microbe 24, 761-775 e766, (2018))に沿って、トランスでのTRIM21のユビキチン転移が原理的に起こり得ることを見出した(データは示していない)。
【0137】
自己アンカー型ユビキチン化についてのTRIM21 RINGドメインの空間要件を実験的に調査するのに、基質依存性ユビキチン化アッセイを確立した。TRIM21は、溶液中の偏性二量体であるFcによって動員され、2つのPRYSPRY(PS)ドメインによって結合され得る(
図7)。触媒的RINGトポロジーを試験するのに、利用可能なRINGの数及びFcに結合したときのそれらの互いの距離が異なる一連のモノユビキチン化TRIM21コンストラクトを設計した(
図3b、
図7)。バックグラウンド活性を抑制するのに、TRIM21を低濃度(100nM又は50nM)で使用し、反応物を5分間しかインキュベートしなかった。全長のTRIMタンパク質は、それらのコイルドコイルドメインを介して逆平行ホモ二量体を形成することから、Fcに結合された場合でも2つのTRIM21 RINGドメインの約17nmの離隔がもたらされる(
図7)。したがって、本発明者らのモデルによれば、Fc単独の添加は触媒的RINGトポロジーを誘導しないはずである(
図3c)。実際、Fcの添加は、全長のUb-TRIM21(Ub-RING-ボックス-コイルドコイル-PRYSPRY、すなわちUb-R-B-CC-PS、
図3d)のユビキチン化を刺激しなかった。追加のRINGドメインを付加して、全長のタンパク質を構成的RING二量体(Ub-R-R-B-CC-PS)にしたとしても、触媒的RINGトポロジーの形成は排除され(
図3c)、Fcの添加時に自己ユビキチン化の誘導は観察されない(
図3d、
図7)。次の工程として、B-ボックス及びコイルドコイルを欠いたTRIM21コンストラクト(Ub-R-PS及びUb-R-R-PS)を設計した。Fcは、2つのこれらのコンストラクトを動員することができ、それにより、触媒的RINGトポロジーに必要とされる距離である約9nm以内(
図3c、
図7)にそれらのRINGが位置する(
図3a、
図3c)。FcをUb-R-PSに添加すると、弱い自己ユビキチン化がもたらされた。この低レベルの活性は、Ub-R-PSが単量体RINGを酵素として提供することができるにすぎないのに対し、第2のUb-R-PS上の単量体RINGが基質として機能するためである可能性が高い。TRIM RING二量体化がリガーゼ活性を大幅に増加させることは既知である。したがって、Ub-R-R-PSコンストラクトを使用してこれらの実験を繰り返した。これにより、Fcが2つのRING二量体を近接させることになるため、本発明者らの結晶構造において観察される触媒的RINGトポロジーが基質結合時に形成し得るはずであることが予測された(
図3a、
図3c)。実際、FcをUb-R-R-PSに添加すると、TRIM21アンカー型ユビキチン鎖の効率的な形成がもたらされた(
図3d)。重要なことに、アンカー型ユビキチン化が非常に効率的に起こったのに対し、遊離ユビキチン鎖は殆ど観察され得なかった(データは示していない)。自己ユビキチン化はリガーゼによって動員されるE2~Ubしか必要としないため、これにより、遊離ユビキチン鎖形成に対するその高い効率が説明される。それというのも、後者はE2~Ub及び(ポリ)ユビキチンの両方の動員を必要とすることとなるからである。実際、Ub-R-R-PSは、低下したTRIM21濃度でも、本発明者らの基質誘導性ユビキチン化アッセイ(substrate-induced ubiquitination assay)において効率的に働いた(データは示していない)。したがって、基質結合によって触媒的RINGトポロジーの形成を誘導すると、自己アンカー型ユビキチン鎖の堅牢かつ選択的な形成が可能となる。さらに、触媒的RINGトポロジーは、活性酵素(二量体RING)及び正しく配置された基質(第3のRING)の個別の要件が満たされた場合にのみ達成される。
【0138】
次に、シスユビキチン化が立体的に可能になるには、TRIM21アンカー型ユビキチン鎖がどれ程の長さである必要があるかを検討した。本発明者らのUb-R:Ube2N~Ub:Ube2V2構造を使用して、TRIM21 RINGドメインにコンジュゲートされたK63連結型ユビキチン鎖の数を増加させたモデルを作成した。これらのモデルでは、シスでの自己ユビキチン化には4つのユビキチン分子の鎖が必要かつ十分であることが示唆された(
図4a)。したがって、プライミングユビキチンの付加後に、鎖が更にシスで伸長され得る前に、3つのユビキチン分子をトランスで付加しなければならない。これと一致して、本発明者らのFc依存性TRIM21ユビキチン化実験においては、非常に長いTRIM21アンカー型ユビキチン鎖又は1つ、2つ、若しくは3つのユビキチン分子を有する種のみが観察された(
図3d)。4つ目のユビキチンが付加されると、トランスからシスへの切り替えが予想されるため、反応ははるかに速く進行することから、テトラユビキチン種が急速に消費されて、これが長鎖に変換されると考えられる。上記の実験において、2つのUb-R-R-PSコンストラクトがそれらのFcへの結合によって共局在して、触媒的RINGトポロジーの要件を満たした場合にのみ自己ユビキチン化が起こった(
図3c、
図3d)。トランスからシスへの自己ユビキチン化の切り替えを実験的に確認するのに、N末端が最大4つの線状に接続されたユビキチン分子に融合されたTRIM21 R-R-PSコンストラクトを作製した。それらの高い構造類似性のため、線状の鎖は長さ及び柔軟性においてK63連結型ユビキチン鎖を十分に模倣するものと推定された。これらの新しいコンストラクトを試験したところ、テトラユビキチンで修飾されたTRIM21のみが自己ユビキチン化に関してFcとは無関係であることが観察された(
図4b)。全ての他のより短いコンストラクトは、最初にトランスで自己ユビキチン化した後にシスに切り替わる必要があることによって、速度制限されたままであった。この生化学的データは、トランスでのRINGアンカー型ユビキチン化の開始を示す本発明者らの構造、及びポリユビキチン化されたRINGのシスでの伸長の本発明者らのモデルと一致する。
【0139】
最後に、触媒的RINGトポロジーが、Ube2Nに特有の配置であるのか、それとも他のE2酵素とも働く配置であるのかを検討した。したがって、Fcの添加が、非常に柔軟な性質のE2酵素であるUbe2D1の存在下でUb-TRIM21の自己ユビキチン化を誘導し得るかどうかを試験した。しかしながら、反応時間を延長した後でも、TRIM21修飾は殆ど検出されなかったのに対し、遊離ユビキチン鎖が観察され得た(
図8)。したがって、本発明者らの構造において観察される触媒的RINGトポロジーはUbe2N/Ube2V2に特有であり、TRIM21の細胞機能にUbe2D1ではなくこの酵素が必要とされる理由が説明される。さらに、これにより、TRIM21、及びTRIM5等の他のTRIMが、最初に活性化されたときにK48ではなくK63に連結されたユビキチン鎖を構築する理由が説明され得る。それらの活性化機構、すなわち触媒的RINGトポロジーの誘導のみがUbe2N/Ube2V2を使用することによって自己アンカー型K63鎖の形成をもたらす。まとめると、これらのデータにより、Ube2N/Ube2V2によるTRIM21の自己ユビキチン化の背後にある駆動力として、触媒的トランスRINGトポロジーの形成が特定される。
【0140】
実施例4:触媒的RINGトポロジーは狙い通りのタンパク質分解を駆動する
材料及び方法
in vitro転写及びRNA精製:mRNAのin vitro転写のために、コンストラクトをpGEMHEベクターにクローニングした(Liman, E. R., Tytgat, J. & Hess, P.著の「多量体cDNAの構築によって決定される哺乳類K+チャネルのサブユニット化学量論(Subunit stoichiometry of a mammalian K+ channel determined by construction of multimeric cDNAs.)」 Neuron 9, 861-871, (1992))。AscIを使用してプラスミドを線状化した。キャップ化(しかし、ポリAテール化ではない)mRNAを、HiScribe(商標)T7 ARCA mRNAキット(New England Biolabs)を製造業者の使用説明書に従って使用してT7ポリメラーゼを用いて合成した。精製タンパク質/発現mRNAの配列を配列番号6~配列番号38に示す。
【0141】
細胞系統:NIH3T3-カベオリン-1-EGFP(Shvets, E., Bitsikas, V., Howard, G., Hansen, C. G. & Nichols, B. J.著の「動的カベオラはバルク膜タンパク質を排除し、過剰なスフィンゴ糖脂質の選別に必要とされる(Dynamic caveolae exclude bulk membrane proteins and are required for sorting of excess glycosphingolipids.)」 Nat Commun 6, 6867, (2015))を、10%の仔ウシ血清及びペニシリン-ストレプトマイシンを補充したDMEM培地(Gibco;31966021)中で培養した。RPE-1細胞(ATCC)を、10%の仔ウシ血清及びペニシリン-ストレプトマイシンを補充したDMEM/F-12培地(Gibco;10565018)中で培養した。
【0142】
全ての細胞を5%のCO2加湿雰囲気において37℃で成長させ、マイコプラズマが存在しないことを定期的に確認した。NIH3T3細胞の性別は雄性である。RPE-1細胞の性別は雌性である。エレクトロポレーション後に、抗生物質を含まない10%の仔ウシ血清を補充した培地中で細胞を成長させた。IncuCyte(Sartorius)によるライブイメージングの場合は、細胞培養培地を10%の仔ウシ血清及びGlutaMAX(Gibco;35050061)を補充したFluorobrite(Gibco;A1896701)に置き換えた。
【0143】
RPE-1 TRIM21ノックアウト細胞を、Integrated DNA technologies(IDT)製のAlt-R CRISPR-Cas9システムを使用して、カスタム設計のcrRNA配列(ATGCTCACAGGCTCCACGAA)(配列番号39)を用いて作製した。crRNA-tracrRNA二重鎖の形態のガイドRNAを、組換えCas9タンパク質(IDT番号1081060)と集合させ、Alt-R Cas9エレクトロポレーションエンハンサー(IDT番号1075915)と一緒にRPE-1細胞内にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの2日後に、細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり1個の細胞でプレーティングし、単一細胞クローンをウェスタンブロッティングによってTRIM21タンパク質についてスクリーニングした。検出可能なTRIM21タンパク質を含まず、かつTrim-AwayアッセイにおいてTRIM21ノックアウト表現型が確認された単一クローンを選択した。
【0144】
プロテアソーム阻害実験の場合、MG132(Sigma;C2211)を25μMの最終濃度で使用した。
【0145】
mRNAからの一過的なタンパク質発現:タンパク質発現レベルの正確な制御を可能にするのに、in vitroで転写されたmRNAからコンストラクトを発現させた。Neonトランスフェクションシステム(Neon Transfection system)(Invitrogen)を使用したエレクトロポレーションによってmRNAを細胞内に送達した。各エレクトロポレーション反応では、10.5μlの再懸濁バッファーR中に懸濁した8×105個のRPE-1 TRIM21ノックアウト細胞又はNIH3T3-カベオリン1-EGFP細胞を、2μLの水中の示されたmRNAと混合した。エレクトロポレーション後に、細胞を抗生物質不含のDMEM培地又は10%のFBSを補充したDMEM/F-12培地へと移し、5時間インキュベートし続けた後に細胞を採取した。典型的には、エレクトロポレーションの30分後から発現を検出することができ、これは約24時間持続した。
【0146】
Trim-Away:各エレクトロポレーション反応では、10.5μlの再懸濁バッファーR中に懸濁した8×105個のNIH 3T3 Cav1ノックイン細胞を、2μlのPBS中で希釈した示された量の抗体混合物と混合した。エレクトロポレーションの直前にmRNAを添加して、潜在的なRNアーゼ活性による分解を制限した。Vhh-Fc(WT又はPRYSPRY結合欠損H433A突然変異体)及びTRIM21をコードするCav1-GFP mRNAをエレクトロポレーションした。細胞mRNA混合物を10μlのNeonエレクトロポレーションピペットチップ(Neon electroporation pipette tips)(Invitrogen)に取り込み、以下の設定を使用してエレクトロポレーションした:1400V、20ms、2パルス(Clift, D. et al.著の「内因性タンパク質の鋭敏かつ急速な分解方法(A Method for the Acute and Rapid Degradation of Endogenous Proteins.)」 Cell 171, 1692-1706 e1618, (2017)(非特許文献2)及びClift, D., So, C., McEwan, W. A., James, L. C. & Schuh, M.著の「Trim-Awayによる内因性タンパク質の鋭敏かつ急速な分解(Acute and rapid degradation of endogenous proteins by Trim-Away.)」 Nat Protoc 13, 2149-2175, (2018)に記載されている通り)。エレクトロポレーションされた細胞を10%のFBSを補充した抗生物質不含のFluorobright培地に移し、インキュベーターにおいて5時間インキュベートした後に、細胞を採取して免疫ブロッティングを行った。Incucyte(商標)(essenbioscience)を使用してGFP蛍光を測定し、コントロール(Vhh-FcH433A)に対して正規化した。以下の抗体を使用してタンパク質検出を実施した:Fc:ヤギ抗hIgG Fcブロード(broad)5211-8004(1:2000)、TRIM21:ウサギ抗TRIM21 D101D(ST番号9204)(1:1000)、ビンキュリン:ウサギ抗ビンキュリンEPR8185 ab217171(1:50000)、カベオリン-1:ウサギ抗Cav1(BD:610059、1:1000)。
【0147】
mEGFP-Fc分解アッセイ:mEGFP-Fc分解アッセイでは、上記のように、0.4μMのmEGFP-FcのmRNAを1.2μMの示されたTRIM21のmRNAと一緒に8×105個の細胞にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションされた細胞を10%のFBSを補充した抗生物質不含のDMEMに移した。ウェスタン分析のみの場合、細胞をインキュベーターにおいて5時間インキュベートした後に採取した。フローサイトメトリー分析では、細胞の半分を取り、25μMのMG132で処理し、一方、残りの半分をDMSOで処理した。次いで、細胞をインキュベーターにおいて5時間インキュベートした後に採取した。細胞を固定した後にフローサイトメトリーにかけた。Trim-Awayの場合と同じ抗体を使用した(上記参照)。
【0148】
フローサイトメトリー:細胞を固定した後にフローサイトメトリーを行った。このために、細胞をFACS固定液(PBS中4%のホルムアルデヒド、2mMのEDTA)中に再懸濁し、室温で30分間インキュベートした。その後、細胞を遠心分離し、FACSバッファー(PSB中2%のFBS、5mMのEDTA)中に再懸濁し、使用するまでアルミホイルに包んで4℃で貯蔵した。フローサイトメトリーを、Eclipse(iCyt)A02-0058を使用して実施した。前方散乱及び側方散乱を使用して細胞を測定して、生細胞を評価した。さらに、緑色蛍光を測定した。前方散乱及び側方散乱に基づいて生細胞を選択し、生細胞のGFP蛍光中央値のみを使用して更なる分析を行った。
【0149】
結果
in vitroでの自己アンカー型ユビキチン化に必要なRINGトポロジーを確立したので、次に、これと同じ配置が細胞内のTRIM21活性に必要とされるかどうかを調査した。利用可能なRINGの数、及びFcに結合した場合のそれらの互いの距離を制御する、上記と同様の細胞発現用の一連のTRIM21コンストラクトを設計した(
図5a)。狙い通りのタンパク質分解実験において、これらのコンストラクトをGFPタグ付きFcと一緒にTRIM21ノックアウトRPE-1細胞において発現させ、TRIM21活性についての読み取り値としてGFP-Fc分解をモニタリングした。in vitroでFcと結合した場合にアンカー型の鎖を形成することができないことと一致して、全長のTRIM21は細胞内でGFP-Fcを分解しなかった(
図5b、
図5c)。N末端に別のRINGを付加することによって分解を回復することはできなかった。それというのも、この場合に、RINGは二量体であるがコイルドコイルによって依然として分離されており、その結果、「基質」のRINGがユビキチン化に利用可能でないからであると思われる。したがって、RING二量体化は細胞のTRIM21活性にとって十分ではない。R-PSコンストラクトにおいて、RINGは約9nm以内にあるため、本発明者らの構造によって規定される活性と適合可能な範囲内にある(
図3a)。それにもかかわらず、分解を観察することができなかった(
図5b、
図5c)。それというのも、RINGが単一の二量体を形成し得るためであるか、又は一方の単量体RINGが酵素として機能し、かつ他方のRINGが基質として機能する必要があるためであるかのいずれかである可能性が高い。これは、本発明者らの生化学的実験における同等のコンストラクトの非効率的な自己ユビキチン化と一致している(
図3d)。R-R-PSのみが効率的なGFP-Fc分解を示した(
図5b、
図5c)。このコンストラクトがFcと結合すると、2つのRING二量体が近接して形成し得るため、一方のRING二量体が他方のRING二量体のユビキチン化を媒介するのに利用可能であり、したがって、触媒的RINGトポロジーの要件が完全に満たされる。全てのコンストラクトは同等のレベルで発現し、古典的なTrim-Awayの狙い通りのタンパク質分解アッセイにおいて活性であったことから(
図5d、
図5e)、唯一の違いはRINGドメインの数及びGFP-Fcコンストラクトと結合したときの相対距離であることが示唆される。これは、同様のコンストラクトが基質結合時に強力な自己ユビキチン化を示すという本発明者らの生化学的データとも一致する(
図3d)。したがって、in vitroでのFc誘導性自己ユビキチン化アッセイにより、細胞活性についての良好な予測がもたらされる。したがって、RINGアンカー型ユビキチン鎖伸長の開始の本発明者らの結晶構造は、この過程が生理学的状況においてどのように機能し得るかを正確に視覚化している。
【0150】
実施例5
本発明者らが説明する触媒的RINGトポロジーは、TRIMタンパク質が高次集合を起こすことができ、本発明がTRIM21由来のRINGドメインに適用可能であるだけでなく、他のポリペプチド由来のRING E3リガーゼもまた、融合タンパク質に含めるのに適したRINGドメインであることを示すデータと一致している。
【0151】
TRIM5αの場合には、タンパク質をHIVカプシドとともにインキュベートしたときに、3つのTRIM5α RINGが近接する(Ganser-Pornillos, B. K. et al.著の「抑制的TRIM5αタンパク質の六角形の集合体(Hexagonal assembly of a restricting TRIM5alpha protein.)」 Proc Natl Acad Sci USA 108, 534-539, (2011)、Wagner, J. M. et al.著の「B-ボックス2ドメイン媒介性のレトロウイルス抑制因子TRIM5αの高次集合の機構(Mechanism of B-box 2 domain-mediated higher-order assembly of the retroviral restriction factor TRIM5alpha.)」 Elife 5,.16309 (2016)、Li, Y. L. et al.著の「霊長類のTRIM5タンパク質は、HIV-1カプシド上に六角形の網目を形成する(Primate TRIM5 proteins form hexagonal nets on HIV-1 capsids.)」 Elife 5, 16269 (2016))(
図6a、
図6b)。この配置は、本発明者らが説明する触媒的RINGトポロジーを満たすこととなり、TRIM5αがレトロウイルスを抑制し、自己アンカー型K63ユビキチン化を介して自然免疫応答を活性化する能力と一致すると考えられる(Stremlau, M. et al.著の「細胞質体成分のTRIM5αは、旧世界ザルのHIV-1感染を抑制する(The cytoplasmic body component TRIM5alpha restricts HIV-1 infection in Old World monkeys.)」 Nature 427, 848-853, (2004)、Sayah, D. M., Sokolskaja, E., Berthoux, L. & Luban, J.著の「TRIM5へのシクロフィリンAのレトロトランスポジションにより、HIV-1に対するフクロウザルの耐性が説明される(Cyclophilin A retrotransposition into TRIM5 explains owl monkey resistance to HIV-1.)」 Nature 430, 569-573, (2004)、Fletcher, A. J. et al.著の「TRIM5αは、Lys63連結型ユビキチン鎖をアンカーし、逆転写を抑制するのにUbe2Wを必要とする(TRIM5alpha requires Ube2W to anchor Lys63-linked ubiquitin chains and restrict reverse transcription.)」 EMBO J 34, 2078-2095, (2015)、Pertel, T. et al.著の「TRIM5は、レトロウイルスのカプシド格子に対する自然免疫センサーである(TRIM5 is an innate immune sensor for the retrovirus capsid lattice.)」 Nature 472, 361-365, (2011))。多数のTRIM分子についての機能的要件はまた、TRIM21によるアデノウイルスの強力な抗体媒介性中和には、ウイルスにつき結合される多数の抗体が必要とされるという事実によって示唆されている(McEwan, W. A. et al.著の「TRIM21によるウイルス中和及び永続性画分の調節(Regulation of virus neutralization and the persistent fraction by TRIM21.)」 J Virol 86, 8482-8491, (2012))。さらに、TRIM21は基質誘導性のクラスター形成によって活性化され、その結果、基質上に多数のTRIM21:抗体複合体が得られることが示された(Zeng, J. et al.著の「基質誘導性のクラスター形成によって、病原体及びタンパク質のTrim-Awayが活性化される(Substrate-induced clustering activates Trim-Away of pathogens and proteins.)」 doi: https://doi.org/10.1101/2020.07.28.225359 (2020)でのプレプリント、及び現在はZeng et al (2021) Natural Structural & Molecular Biology vol 28, 278-289として出版されている(非特許文献3))。RINGがコイルドコイルのどちらかの末端に位置する独特のTRIM構成、及び抗体のヒンジ領域によってもたらされる柔軟性は、ウイルスの表面上に結合したTRIM21分子を互いに結合可能にする上で重要となり得る(
図6c)。ウイルス上で触媒的RINGトポロジーを満たすには、2つのRINGが二量体化する必要があり、3つ目のRINGはRING二量体から約9nm以内にある必要があり、こうして、自己アンカー型ユビキチン化及びその後のウイルスの中和が可能となる(
図6d)。高次集合は、TRAF6等の多くの他のK63ユビキチン鎖形成性のRING E3リガーゼ(Napetschnig, J. & Wu, H.著の「NF-κBシグナル伝達の分子基盤(Molecular basis of NF-kappaB signaling.)」 Annu Rev Biophys 42, 443-468, (2013))、RIPLET(Cadena, C. et al.著の「自然免疫におけるE3リガーゼRIPLETのユビキチン依存性及び非依存性の役割(Ubiquitin-Dependent and -Independent Roles of E3 Ligase RIPLET in Innate Immunity.)」 Cell 177, 1187-1200 e1116, (2019))等と関連しているため、本明細書で示される機構は、したがって、RING E3リガーゼの領域内でより広範囲に見出される可能性が高いことが提案される。
【0152】
実施例6:
内因性標的タンパク質(キナーゼIKK及びキナーゼErk1を含む)のタンパク質分解を、様々なTRIMコンストラクトを使用して評価した。ここで、RはTRIM21 RINGドメインであり、PSはTRIM21のPRYSPRY抗体結合ドメインであり、CCはコイルドコイルドメインであり、BはB-ボックスドメインであり、T21は全長TRIMである。
【0153】
A)10μMの濃度での様々なTRIM21コンストラクト(Lip-T21、R-PS、R-R-PS)のUbe2N/Ube2V2による非アンカー型ユビキチン鎖の触媒作用を働かせた。ユビキチン化アッセイを(Kiss et al. (2021) Nature Communications, vol 12(1):1220)において記載されるように実施した。
図10aに、60分後の反応のInstantBlueゲルを示す。
【0154】
B)一過的に発現されたTRIM21コンストラクト(R-R-B-CC-PS、R-B-CC-PS、R-R-PS、及びR-PS)を使用したRPE1 TRIM21ノックアウト細胞における内因性IKKαのTrim-Away。それぞれのTRIM21コンストラクトをコードする1.2μMのmRNAを、2μLの容量において140ngのウサギαIKK IgG(Abcam、ab169743)と混合した。次いで、このエレクトロポレーション混合物を、8×10
5個のRPE-1 TRIM21ノックアウトを含む10.5μLに加えた。細胞:mRNA:IgG混合物を10μLのNeonエレクトロポレーションピペットチップ(Invitrogen)に取り込み、以下の設定を使用してエレクトロポレーションした:1400V、20ms、2パルス(Neonエレクトロポレーター(Neon Electroporator))。エレクトロポレーションした細胞を10%のFBSを補充した抗生物質不含のFluorobright培地に移し、インキュベーターにおいて5時間インキュベートし続けた後に、細胞を採取して免疫ブロッティングを行った。結果を
図10bに示す。
【0155】
C)エレクトロポレーション反応において2.4μMの濃度のR-R-PSタンパク質及び0.5μMの濃度のαErk1抗体を使用したRPE1 WT細胞又はTRIM21ノックアウト細胞のいずれかにおける内因性Erk1キナーゼのTrim-Away。エレクトロポレーションを上記のB)に記載されるように実施した。1時間後に細胞を採取してウェスタンブロット分析を行った。RPE-1細胞における内因性TRIM21は、Erk1の効率的なTrim-Awayには通常3時間~4時間かかることとなる。
【0156】
D)GFPに対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体(0.5μM)及び様々なTRIM21コンストラクト(2.4μM)を使用したRPE1細胞において異所的に発現された単量体EGFPのTrim-Away。エレクトロポレーションを上記のB)に記載されるように実施した。Incucyte(商標)(essenbioscience)を使用してGFP蛍光を測定した。
図10dに、4.5時間後の相対GFP強度を示す。
【0157】
結果
図10における結果は、RRコンストラクト(すなわち、2つのRINGドメインを含むコンストラクト)が、単一のRINGコンストラクトと比較して、標的タンパク質の分解においてより効率的であったことを示している。
【0158】
実施例7:
材料及び方法
デグレーダーとしてのTRIMコンストラクトの能力を更に評価するのに、TRIMコンストラクトによるEGFP融合タンパク質(カベオリン-1-EGFP)の分解を評価した。
【0159】
レポーターコンストラクト(カベオリン-1-mEGFP)を安定的に発現するRPE-1細胞をレンチウイルス形質導入によって作製し、GFP陽性細胞選別によって選択した。次いで、細胞を、モノクローナルマウス抗GFP抗体9F9.F9及び示されたTRIM21精製タンパク質コンストラクトの混合物により、それぞれ1μM及び6μMの最終エレクトロポレーションチップ濃度でエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの直後に細胞をプレーティングし、IncuCyte生細胞イメージングシステムを用いてカベオリン-1-mEGFP蛍光をモニタリングした。データを総細胞面積及びPBSコントロールに対して正規化する。エレクトロポレーションの3時間後に、細胞をRIPAバッファー中で溶解し、Jessシンプルウェスタンシステム(Jess simple western system)(Biotechne)を使用して、抗PRYSPRY(D1O1D)及び抗マウスIgG抗体で溶解物をプロービングした。
【0160】
His-リポイル-T21は全長TRIM21である。T21R-PRYSPRY及びT21R-R-PRYSPRYは、TRIM21のPRYSPRY抗体結合ドメインに融合された1つのTRIM21 RINGドメイン(T21R-)又は2つのRING(T21R-R-)である。His-PRYSPRYはPRYSPRYドメイン単独である。
【0161】
結果
抗GFP抗体はカベオリン-1-mEGFPに結合し、内因性細胞TRIM21(抗GFP)又は抗GFP抗体とともに6倍過剰で同時エレクトロポレーションされた外因性TRIM21タンパク質(His-リポイル-T21、T21R-PRYSPRY、T21R-R-PRYSPRY、及びHis-PRYSPRY)のいずれかを動員する。
【0162】
T21R-R-コンストラクトは、より迅速でより効率的な分解を駆動する。カベオリン-1-EGFPの分解を、リアルタイム蛍光顕微鏡法を使用してモニタリングする(
図11a)。ウェスタンブロットは、実験終了時に、内因性TRIM21及び外因性のエレクトロポレーションされたTRIM21だけでなく、エレクトロポレーションされた抗GFP抗体(IgG-HC及びIgG-LC)のレベルも示している(
図11b及び
図11c)。
【0163】
これらの結果は、RRコンストラクト(すなわち、2つのRINGドメインのコンストラクト)が、単一のRINGのコンストラクトよりも標的タンパク質のより迅速かつより効率的なデグレーダーであることを示している。
【0164】
実施例8:
デグレーダーとしてのTRIMコンストラクトの能力を更に評価するのに、様々なTRIMコンストラクトによるEGFP融合タンパク質(H2B-1-EGFP)の分解を評価した。
【0165】
柔軟なリンカーによって抗GFPナノボディvhhGFP4に融合された様々なTRIM21 RINGドメインコンストラクトを、カスタム合成、PCR、及びE.コリでの細菌発現用のカスタムpOPTベクターへのギブソンアセンブリーの組合せを使用して作製した。コンストラクトT21R、コンストラクトT21RR、及びコンストラクトT21R(Dead-M72E、I18R)を、N末端にヘキサヒスチジン-SUMOタグを備えた融合タンパク質として発現させ、これを精製中に切断して、Trim21の未修飾N末端を得た。UbT21RRをC末端ヘキサヒスチジンタグとともに発現させ、これを精製中に切断した。タンパク質を、アフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーを使用する標準的な方法を使用して精製した。
【0166】
レポーターコンストラクト(H2B-mEGFP)を安定的に発現するRPE-1細胞をレンチウイルス形質導入により作製し、GFP陽性細胞選別によって選択した。次いで、細胞を、示されたT21R-vhhGFP4精製タンパク質コンストラクトにより、1.6μMの最終エレクトロポレーションチップ濃度でエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの直後に細胞をプレーティングし、Incucyte生細胞イメージングシステムを使用してH2B-mEGFP蛍光をモニタリングした。データを総細胞面積及びバッファーコントロールに対して正規化する。
【0167】
T21R及びT21R-T21Rは、vhhGFP4に融合された1つのTRIM21 RINGドメイン(T21R-)又は2つのRING(T21R-R)である。Ub-T21R-Rは、N末端ユビキチンドメインを有するvhhGFP4に融合された2つのRINGである。T21R(dead)は、vhhGFP4に融合されたI18R及びM72Eの点突然変異を有する1つのTRIM21 RINGである。突然変異RINGドメインを有するこのコンストラクトは二量体化することもユビキチンに結合することもできないため、触媒的に不活性である。
【0168】
結果
様々なTRIM21 RINGコンストラクトが、抗GFPナノボディを介してH2B-mEGFPに動員される。リアルタイム蛍光顕微鏡法を使用してH2B-EGFPの分解をモニタリングする(
図12)。T21R-R-コンストラクトは、より迅速でより効率的な分解を駆動する。
【0169】
これらの結果は、RRコンストラクト(すなわち、2つのRINGドメインのコンストラクト)が、単一のRINGのコンストラクトよりも標的タンパク質のより迅速かつより効率的なデグレーダーであることを示している。これらの結果は、RING-RING融合タンパク質をナノボディ標的化ドメインに融合させることができることから、単一のRINGコンストラクトを使用する場合よりもより活性なデグレーダーが得られることを示している。これは、二重RING融合物の治療薬が単一RING融合物の治療薬よりも優れている可能性があることを示唆している。
【0170】
まとめ
2つのRING E3リガーゼドメインと、タンパク質標的化ドメインとを含む融合タンパク質を開発した。これらの実験からの結果は、このような融合タンパク質が生理学的環境において狙い通りのタンパク質分解が可能であることを裏付けている。したがって、このような融合タンパク質及びそれをコードする核酸コンストラクトは、治療用途及び研究用途の両方において、細胞内のタンパク質の分解に使用するのに適している。
【0171】
本明細書において、本発明者らは、RING E3アンカー型ユビキチン鎖形成を理解するための構造的枠組みを提供する。本発明者らは、ユビキチンがチャージされたヘテロ二量体E2酵素Ube2N~Ub/Ube2V2によりモノユビキチン化されたTRIM21 RING(Ub-R)の結晶構造におけるこの過程のスナップショットを捕らえることができた(
図1)。これは、Ube2N D119によるアクセプターリジンの脱プロトン化によって例示されるアクセプターユビキチンの化学的活性化を示している(
図2)。最も重要なことには、本発明者らの構造は、伸長反応に必要とされるドメイン配置、言い換えると、モノユビキチン化RINGのK63連結型RINGアンカー型ユビキチン鎖への拡張を可能にする触媒的RING E3トポロジーを明らかにしている(
図3、
図4)。この配置において、2つのRINGは二量体を形成し、3つ目のRINGドメインに対して酵素として機能し、3つ目のRINGドメインはこの反応における基質として機能する。E2活性部位における全ての重要な触媒的残基を最適に配置するには硬直性が必要とされる一方で(
図2)、基質アンカー型ユビキチン鎖の形成には、TRIMタンパク質の独特なトポロジーによってもたらされるドメイン間の構造的柔軟性が必要である可能性が高いことが観察されている(
図3)。TRIM21の基質誘導性自己ユビキチン化は、遊離ユビキチン鎖形成とは対照的に、低いリガーゼ濃度でも非常に効率的である(
図3)。これは、より高い反応効率のため、生理学的ユビキチンシグナルが遊離鎖としてではなく、主に基質上で生成される可能性があることを意味する。
【0172】
本発明者らのデータは、最初にRINGアンカー型K63鎖がトランス機構において形成され、ここで、RING二量体がUbe2N~Ub分子を活性化し、それによりE3リガーゼとして機能することを立証している。追加のモノユビキチン化RINGはユビキチン化についての基質として機能し、ドナーユビキチンを受容する(
図3)。4つのユビキチン分子がトランスでRINGに付加された後に初めて、シスでのユビキチン鎖形成に十分な長さの鎖になる(
図4)。シスでのユビキチン鎖の伸長ははるかに高速で起こるが、トランス配置の初期の必要性は、基質の不存在下でTRIM21活性を抑制する重要な調節機構を表し得る。TRIM21又はTRIM5αの場合には、活性化は基質結合によって駆動され、これはトランスのユビキチン化に必要とされる。興味深いことに、RBR(RING-in between-RING)リガーゼHOIPによる線状ユビキチン鎖での基質修飾はその相手であるRBR HOILによって調節され、これは3つの全てのLUBAC成分のHOIP、HOIL、及びSHARPINをモノユビキチン化する。次いで、これらのユビキチンプライマーは、HOIPによってシスで伸長され、そのため基質のトランスユビキチン化が競り勝つ(Fuseya, Y. et al.著の「HOIL-1Lリガーゼは、LUBACのモノユビキチン化を介して免疫シグナル伝達及び細胞死を調節する(The HOIL-1L ligase modulates immune signalling and cell death via monoubiquitination of LUBAC.)」 Nat Cell Biol 22, 663-673, (2020))。したがって、ユビキチン化のシス機構とトランス機構との間の切り替えは、多くの異なる種類のE3リガーゼによって利用される制御系である可能性がある。
【0173】
本発明者らの構造において観察された触媒的RINGトポロジーにより、細胞内のTRIM21媒介性の狙い通りのタンパク質分解についての要件が予測される(
図5)。基質が認識されると、TRIM21はそのN末端にK63連結型ユビキチン鎖を形成する(Fletcher, A. J., Mallery, D. L., Watkinson, R. E., Dickson, C. F. & James, L. C.著の「逐次ユビキチン化酵素及び脱ユビキチン化酵素は、TRIM21の二重のセンサー機能及びエフェクター機能を同期する(Sequential ubiquitination and deubiquitination enzymes synchronize the dual sensor and effector functions of TRIM21.)」 Proc Natl Acad Sci USA 112, 10014-10019, (2015))。このK63連結型ユビキチン鎖を失うと、ウイルスの中和、免疫シグナル伝達、及びTrim-Awayが妨げられる(Kiss, L. et al. 著の「トリイオン性アンカー機構は、TRIMリガーゼにおけるUbe2N特異的な動員及びK63鎖のユビキチン化を駆動する(A tri-ionic anchor mechanism drives Ube2N-specific recruitment and K63-chain ubiquitination in TRIM ligases.)」 Nat Commun 10, 4502, (2019))。本発明者らのGFP-Fc分解実験は、これらの条件下で触媒的RINGトポロジーを形成することができるTRIM21コンストラクト(R-R-PS)のみが分解を可能にすることを示している(
図5)。興味深いことに、その基質に対するE3リガーゼCRL
VHLの特定の配向が、狙い通りのタンパク質分解に重要であることも明らかにされた(B. E. et al.著の「異なるPROTAC基質特異性は、動員されたE3リガーゼの配向によって規定される(Differential PROTAC substrate specificity dictated by orientation of recruited E3 ligase.)」 Nat Commun 10, 131, (2019))。
【0174】
このデータはまた、2つのRINGドメインを含むTRIMコンストラクトが、1つのRINGドメインを含むコンストラクトよりもより効率的な標的タンパク質のデグレーダーであったことを立証している(
図10~
図12)。
【配列表】
【国際調査報告】