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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】廃棄プリント回路基板の化学的分離
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20240214BHJP
   B09B 3/35 20220101ALI20240214BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20240214BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B09B3/70
B09B3/35 ZAB
B09B3/40
B09B5/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550655
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 US2022016951
(87)【国際公開番号】W WO2022178235
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】63/150,810
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】523316655
【氏名又は名称】インテグレーテッド リサイクリング テクノロジーズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スースラヴィチ、ベンジャミン、ターナー
(72)【発明者】
【氏名】ダース、アヴィマニュ
(72)【発明者】
【氏名】ヤング、コートニー、アラン
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA24
4D004BA05
4D004BA07
4D004CA09
4D004CA10
4D004CA15
4D004CA22
4D004CA34
4D004CA40
4D004CA42
4D004CB21
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA06
(57)【要約】
プリント回路基板を層間剥離する方法は、前記プリント回路基板を破砕すること(202)及び破砕された前記プリント回路基板(PCB)を少なくとも2種類の溶媒を含む溶媒系に浸漬すること(204)を含む。本方法は、浸漬(204)が完了した後に、固体を分離すること(206)及び前記分離した固体から異なる特定の固体を静電的に分離すること(208)を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント回路基板を層間剥離(delaminate)する方法であって、
前記プリント回路基板を破砕すること、
破砕したプリント回路基板(PCB)を、少なくとも2種類の溶媒を含む溶媒系に浸漬すること、
固体を分離すること、及び
前記分離された前記固体から異なる特定の固体を静電的に分離すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
溶媒系に浸漬することが、2種類の膨潤剤を含む試薬系に浸漬することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも2種類の膨潤剤は、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びレゾルシノールを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも2種類の膨潤剤は、エチレングリコール及びサリチル酸を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒系がさらに希釈剤を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒系を撹拌することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒系に浸漬することが、約110℃~約210℃の温度で浸漬することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
静電的に分離することの前に、リンス及び乾燥を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも2種類の溶媒は、総合(combined)で、前記溶媒系と前記PCBのポリマーとの間で高相互作用パラメータを有する溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
固体を分離することは、密度分離p52を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒が、前記PCBのポリマーとの予測された正規化相互作用に基づいて選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
プリント回路基板(PCB)を層間剥離(delaminate)する方法であって、
前記PCBを細断すること、
細断された前記PCBを、少なくとも2種類の膨潤剤を含む膨潤剤浴で膨潤させること、及び
膨潤し、かつ細断された前記PCBの層間剥離を助けるために撹拌すること、
を含む、前記方法。
【請求項13】
前記膨潤剤浴に希釈剤を与えることをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記膨潤剤は、前記PCBのポリマーとの予測された正規化相互作用に基づいて選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも2種類の膨潤剤は、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びレゾルシノールを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記膨潤剤浴に希釈剤を与えることをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記膨潤剤浴を撹拌することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
プリント回路基板(PCB)のコンポーネントを回収する方法であって、
前記PCBを細断すること、及び
溶媒系を用いて前記PCBを層間剥離(delaminate)すること、
を含み、
層間剥離することは、膨潤剤及び希釈剤を含む溶媒組成物浴に浸漬することを含み、前記膨潤剤は少なくとも2種類の試薬の組み合わせである、
前記方法。
【請求項19】
前記溶媒系が、約110℃~約210℃の温度で使用される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記溶媒系の膨潤剤が、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びレゾルシノールを含み、NMP対レゾルシノールの質量比は少なくとも8:1である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、廃棄プリント回路基板の化学的分離に関する。
【背景技術】
【0002】
リサイクルがますます必要となってきているため、プリント回路基板(PCB)を含む電子機器廃棄物(e-waste)は、急速に、卑金属及び貴金属の重要な供給源となりつつある。e-wasteのリサイクルは数十億ドル規模の産業であり、米国の多くの州が不要な電子機器のリサイクルに関する法律を可決しており、それら電子機器の多く又はほとんどにはPCBが含まれる。PCBは、プラスチック含有量が高く、また臭素化ビスフェノールエポキシや有害廃棄物として分類され得るその他の成分が存在するために、金属抽出には特有の困難さがある。さらに、現代の回路基板の多くはガラス繊維及びポリマーで構成されており、それらは、金属と比較すると価値がほとんどない。米国だけでリサイクルされるe-wasteの量は約20%にすぎないと推定される。e-wasteは、現在採掘されている高濃度(rich)の鉱石をもはるかに凌駕する金属濃度を含んでいる。さらに、e-wasteに含まれる金属の内には、タンタル及びニオブなどのいわゆる「紛争元素」(conflict element)が含まれている。
PCBは、様々な材料から作られた、層状のサンドイッチ状構造の複合構造体である。図1は、典型的な多層PCB100を示しており、そのタイプは、ほとんどのコンピューターあるいはその他の非常に複雑な回路に共通している。PCB100は、絶縁層104によって分離された金属層102を備え、金属層102は貫通ビア106によって接続されている。絶縁層は、上部複合層104a、下部複合層104b、及び基板又はプリプレグ層104cを含み、該基板又はプリプレグ層には金属箔層102c、102d(通常は銅)が積層されている。さらなる金属層102a及び102bが、それぞれ上部複合層104a及び下部複合層104b上に示されている。片面PCB及び両面PCBも存在する。これらのクラスの違いは、基板に電気接続が何層組み込まれているかということである。PCB上の表面コンポーネントは、基板表面の金属接点パッドを介して、又はスルーホールマウントを介して取り付けることができる。さらに、基板の表面又は端に沿ってメッキした接点パッド/フィンガーを追加して、はんだを使用せずに回路を外部デバイスに接続できるようにすることもできる。多くの場合、これらのはんだ付けされていない外部接点には、腐食から保護し、受信側接点との良好な電気接続を確保するために金メッキが施される。めっきプロセスは、「ハードゴールド」めっき又は無電解ニッケル浸漬金(ENIG)めっきのいずれかで行うことができる。
【0003】
ハードゴールドめっきは、めっきの最も伝統的な形である。その金コーティングは一般的には、その無電解金めっき(ENIG)対応物よりも厚くて硬い。ハードゴールドめっきは、一般的には、滑り摩耗が多いコンポーネント上で用いられる。ハードゴールドめっき接点には鉄、コバルト、及びその他の非貴金属も含まれるため、表面をはんだで濡らすことが難しく、そのことが、ハードゴールドめっき接点を表面実装パッドとしては不人気なものとしている。無電解金めっき(ENIG)は、ハードゴールドめっきよりもはるかに純度の高い金コーティングを作る。但し、コーティングはより柔らかく、多くの滑り摩耗サイクルに耐え得るのみである。無電解金めっき(ENIG)コーティングははんだ付けがはるかに容易であるため、接合プロセスに適している。無電解金めっき(ENIG)コーティングは2つの別々の金属コーティングで構成されており、最初に厚さ約6ミクロンのニッケルコーティングが表面上に与えられ、続いて0.2ミクロンの金層がニッケル上に重ねられる。もちろん、無電解金めっき(ENIG)コーティングは基板63のための表面仕上げで最も人気のあるものではない。HASL及びより新しい鉛フリーHASL(熱風はんだレベリング)は、その低コスト及び耐食性により業界標準となっている。HASLプロセスは、回路基板を溶融はんだ槽に浸漬して露出した接点をはんだで濡らし、それから表面に熱風を吹き付けることで余分なはんだを除去することを含む。
【0004】
回路基板を作製するには、プリプレグ104cの層(部分的に硬化したエポキシを有するガラス繊維)を銅箔基板の層(図1では、層102a、102b)に取り付ける。銅箔にフォトレジスト層を追加し、そして、目的の回路のイメージに選択的に硬化させる。フォトレジストの未硬化部分を除去し、露出した銅を酸で除去する。両面多層基板では、複数の個別の層が積み重ねられ、適切な温度及び圧力でオーブン中で硬化される。
【0005】
このプロセスは、当業界で銅張積層板又はCCLとして知られている。回路基板の約70%はエポキシ樹脂系CCLプロセスで製造されている。最も人気なエポキシ樹脂CCLはG-10、G-11、FR-4、及びFR-5であるが、エポキシのいくつかの一般的な種類には、ビスマレイミド-トリアジン(BT)変性エポキシ、ポリフェニレンオキシド(PPO)変性エポキシ、ポリイミド変性エポキシ、及びシアン酸エステル変性エポキシなどが含まれる。回路基板市場では、一般用途電子機器用にFR-4タイプのエポキシが主に使用されている。
【0006】
プリント回路基板は、典型的には約26%の金属を含んでおり、該金属は主として銅、鉛、アルミニウム、鉄、錫、カドミウム、及びニッケルからなり、基板の正確な設計及びバッチ番号によりけりで少量の金、銀、白金、及びパラジウムが含まれる。プラセオジム、ネオジム、ルビジウム、セシウム、ストロンチウム、スカンジウム、イリジウム、テルリウム、オスミウム、ルテニウム、ガリウム、ビスマス、ゲルマニウム、及びタンタルなどの元素も、一部の表面コンポーネント成分で確認されている。回路基板の経済的価値に応じて、口語的には低級グレード、中級グレード、高級グレード、及び超高級グレードに分類できる。
【0007】
低級グレードの基板は、典型的には、経済的価値が低い基板であると考えられる。一般的には、これらの基板は回収可能な貴金属を含んでおらず、また最少量の銅を含む。多くの場合、当該基板には適度な(reasonable)価値の表面コンポーネントがほとんど含まれていない。例としては、古いテレビ、ビデオデッキ(VCR)、及びステレオの基板がある。中級グレードの基板は低級グレードの基板と類似しているが、貴金属及び少量の貴金属表面コーティングを含む可能性がある複数の表面コンポーネントを含む。中級グレード基板の例には、マザーボード、フィンガーレスラム基板、及び多くの低価値家庭用電子機器が挙げられる。高グレードに達すると、金及び貴金属/紛争金属の量が大幅に増加する。中級グレードと高級グレードとの正確な区別は購入者によって異なるが、高級グレードには典型的には、スクラップのハードドライブ基板、RAM基板、一部のICチップ、タンタルコンデンサ、一部の通信基板、現代のCPU、及びボールグリッドアレイ(BGA)チップなどが含まれる。電子機器の小型化に伴い、基板に含まれる貴金属の量は減少し続けている。最後のグレードは超高級グレードの基板である。この分類の基板はますます希少になってきており、基板のコレクター価値が素材の価値よりも高くなることがよくある。電気通信機器に使用されるより現代的な基板の中には、超高級グレード分類に当てはまるものがあり、また、ラムフィンガーなどの前処理済み基板及びCPUレッグもそうである。1980年代及び1990年代のCPUは、ヴィンテージ回路基板の回収についての「黄金律」として崇められることが多い。一部のBGAチップは、大量の白金も含んでいる。超高級グレードのスクラップは、総処理量が少ないため、小規模なガレージ規模のe-wasteリサイクル業者に人気がある。しかし、ほとんど全ての高級グレード材料は既に製造されておらず、したがって本質的には更新不能な人工資源である。
【0008】
現在、プリント回路基板(PCB)及びその他の種類の電子廃棄物から価値ある金属を抽出及び回収する方法がいくつか知られている。これら既知の方法には、e-wasteから金属を抽出するために使用される湿式冶金技術及び乾式冶金技術が含まれる。しかし、これら既知の方法は非効率的であり、コスト高である。さらに、これらの方法は、非常に多量の有毒な廃水を生み出す。
【0009】
乾式冶金的アプローチは主に製錬に基づいており、製錬は、熱を使用して焼却し、その後溶融し、そこから、PCBに含まれる金属を選択的に酸化することを含む。乾式冶金による回収は、非常に広範な種類のe-wasteを炉に受け入れることができるため、広く受け入れられている。このプロセスは効率的であり、適切に実行した場合、環境への影響は低い。乾式冶金ルートの主な懸念事項の1つは、テトラブロモビスフェノールAなどのハロゲン化難燃剤の存在である。製錬所では、特別な手順とフィルターが設置されていない限り、これらの化合物はダイオキシン及びハロゲン化排出ガスの生成を引き起こす可能性がある。さらに、効率的な製錬のための施設は建設に非常に多額の費用がかかる。適切な(かつ高価な)封じ込めシステムがなければ、電子廃棄物の焼却は、生じたダイオキシン、フラン、ポリ臭素化有機物、及び多環芳香族を放出するおそれがあり、有害な健康上及び環境上の問題を引き起こす可能性がある。小規模では、家庭用溶融炉(smelter)がPCBの処理に使用される場合もあるが、確立された製錬所が有する環境保護策の全て又はほぼ全てが欠如している。
【0010】
基本的な湿式冶金アプローチは、水相に化学物質を使用して金属を可溶化及び/又は溶解する。このプロセスは浸出と称され、様々な試薬によって促進することができ、それら試薬は組成及び作用機構に基づいて分類することができる。酸浸出、塩基性酸化浸出、酸酸化浸出、及びバイオ浸出、並びにヨウ素(I)を無機酸と共に使用する浸出は、全て実行可能である。湿式冶金プロセスの大きな課題の1つは、PCBフィードの分離(又は少なくとも十分な表面露出の達成)、並びに、物理的処理によって制御されるフィード組成を制御することである。ほとんどのPCBでは、卑金属は浸出からの保護を与える不活性ポリマーシェルに包まれている。効果的に浸出するには、浸出される材料が活性化学物質と直接接触する必要がある。露出面積を増やすと浸出の速度論が増加し、それによって材料は湿式冶金プロセスにより適したものになる。問題は、PCBは、その自然な状態では、露出表面積が非常に少ないことである。さらに、未処理のPCBにはポリマーが存在するため、自然なPCBは抵抗性(refractory)であり、このことは、冶金学的意味では、金を回収するためのシアン化物浸出を容易に行うことができないことを意味する。他の浸出技術は、表面の金、パラジウム、及び白金の回収に効果的である場合がある。そのような方法の1つは、過塩素酸塩浸出などの酸化浸出法を利用し、これに続いて有機溶媒及び錯化剤を使用した抽出が行われる。学ぶべき重要な点は、全ての湿式冶金プロセス及び一部の乾式冶金プロセスは、実行可能であるためにある程度の物理的処理を必要とするということである。それらプロセスは溶液へと金属を溶解し、このため、適切な処理を要する大量の廃棄物有毒副産物を生み出し、このことはプロセスに出費を加える。
【発明の概要】
【0011】
一実施形態では、プリント回路基板を層間剥離(delaminate)する方法は、前記プリント回路基板を破砕(comminute)すること、及び破砕された前記プリント回路基板(PCB)を少なくとも2種類の溶媒を含む溶媒系に浸漬(soak)することを含む。本方法は、浸漬が完了した後に、固体(複数形)を分離すること、及び分離された前記固体(複数形)から異なる特定の固体(複数形)を静電的に分離することを含む。
【0012】
ある他の態様では、溶媒系に浸漬することは、2種類の膨潤剤を含む試薬系に浸漬することを含む。前記少なくとも2種類の膨潤剤は、一実施形態では、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びレゾルシノールである。ある他の実施形態における前記少なくとも2種類の膨潤剤は、エチレングリコール及びサリチル酸である。一実施形態では、前記溶媒系はさらに希釈剤を含む。様々な実施形態では、前記溶媒系は、撹拌される、又は約110℃~約210℃の温度に加熱される、又はその両方を受ける。静電的に分離することの前に、リンス及び乾燥が行われる。一実施形態では、前記少なくとも2種類の溶媒は、総合(combined)で、前記溶媒系と前記PCBのポリマーとの間での高い相互作用パラメータを有する溶媒(複数形)を含む。前記溶媒は、前記PCBのポリマーとの予測された正規化相互作用に基づいて選択されてもよい。一実施形態では、固体を分離することは、密度分離を含む。
【0013】
ある他の実施形態では、プリント回路基板(PCB)を層間剥離(delaminate)する方法は、前記PCBを細断すること、細断された前記PCBを、少なくとも2種類の膨潤剤を含む膨潤剤浴で膨潤させること、及び、膨潤し、かつ細断された前記PCBの層間剥離を助けるために撹拌すること、を含む。
【0014】
ある他の態様では、膨潤剤浴を温度について安定させるために、膨潤剤浴に希釈剤が与えられる。前記膨潤剤は、前記PCBのポリマーとの予測された正規化相互作用に基づいて選択されてもよい。一実施形態では、前記少なくとも2種類の膨潤剤は、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びレゾルシノールを含む。一実施形態では、膨潤剤浴に希釈剤が与えられる。一実施形態では、膨潤剤浴は撹拌される。
【0015】
ある他の実施形態では、プリント回路基板(PCB)のコンポーネントを回収する方法は、前記PCBを細断すること、及び溶媒系を用いて前記PCBを層間剥離(delaminate)すること、を含む。層間剥離することは、膨潤剤及び希釈剤を含む溶媒組成物浴に浸漬することを含み、ここで前記膨潤剤は少なくとも2種類の試薬の組み合わせである。
【0016】
ある他の態様では、前記溶媒系が、約110℃~約210℃の温度で使用される。前記溶媒系の膨潤剤は、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びレゾルシノールを含み、NMP対レゾルシノールの質量比は少なくとも8:1である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本開示の実施形態を実施し得る典型的なPCBの斜視図である。
【0018】
図2図2は、本開示のある実施形態に係る方法のフローチャートである。
【0019】
図3図3は、本開示のある他の実施形態に係る方法のフローチャートである。
【0020】
図4図4は、図3の方法の一部のより詳細なフローチャートである。
【0021】
図5図5は、本開示のある他の実施形態に係る方法のフローチャートである。
【0022】
図6図6は、図5の方法の一部のより詳細なフローチャートである。
【0023】
図7図7は、ポリマーと溶媒との相互作用を示した図である。
【0024】
図8図8は、ポリマー膨潤のそれぞれの段階を示す概説図である。
【0025】
図9図9は、温度及び相互作用パラメータに対する濃度として報告される、産物質量のパーセント値の応答曲面のグラフである。
【0026】
図10図10は、時間及び相互作用パラメータに対する濃度として報告される、産物質量のパーセント値の応答曲面のグラフである。
【0027】
図11図11は、本開示のエチレングリコール/サリチル酸溶媒系についての収率応答のグラフである。
【0028】
図12図12は、本開示のエチレングリコール/サリチル酸溶媒系についてのグレード応答のグラフである。
【0029】
図13図13は、本開示の実施形態で処理されたPCBにおけるポリマー膨潤の図である。
図14図14は、本開示の実施形態で処理されたPCBにおけるポリマー膨潤の図である。
【0030】
図15図15は、本開示のNMP/レゾルシノールの実施形態について、膨潤対時間を示すグラフである。
図16図16は、本開示のNMP/レゾルシノールの実施形態について、質量変化対時間を示すグラフである。
【0031】
図17図17は、図16のグラフの線形領域のグラフであって、試料の厚さ(h)の逆数及び時間(t)の平方根をプロットする。
【0032】
図18図18は、本開示のエチレングリコール/サリチル酸の実施形態についての質量変化対時間を示すグラフである。
【0033】
図19図19は、図18のグラフの線形領域のグラフであって、試料の厚さ(h)の逆数及び時間(t)の平方根をプロットする。
【0034】
図20図20は、本開示の一実施形態に係るNMP/レゾルシノール中での処理の後のPCBの断面の図である。
【0035】
図21図21は、本開示の一実施形態に供されたPCBへの浸透深さ対溶媒温度を示すグラフである。
【0036】
図22図22は、本開示の一実施形態に係る溶媒系の複数回の反復(replicated)試験にわたる収率及びグレードのグラフである。
【0037】
図23図23は、本開示の一実施形態に係る層間剥離されたPCBの種々の要素について粒子直径通過のパーセントを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示の実施形態は、PCB中に含まれている金属及び他の成分を溶解する代わりにPCBを層間剥離(delamination)する複数の膨潤剤を含む溶媒系を使用して、PCBから有価金属を回収する方法を提供する。この溶媒系は、PCB中の構成物のほとんどを占めるグラスファイバー及びエポキシから有価金属を分離するのに効果的である。本開示の「溶媒膨潤」はまた、従来の湿式冶金法及び乾式冶金法よりも生成する有毒廃棄物が少なく、既知の技術より効率的であり、かつ、生成する毒性廃棄物も少ない。以下に示す例は、最も一般的である、FR-4エポキシタイプPCBに対して用いられている。本開示に記載の溶媒(例えば、膨潤剤)は、FR-4エポキシタイプPCBの層間剥離における使用に適している。他の溶媒は他のタイプのPCBにより適していたり、あるいはより不適であったりしうるが、溶媒系の選択は、本開示の範囲から逸脱することなく、溶媒と、種々のプロセスで膨潤させる材料との間の相互作用に基づく。
【0039】
一実施形態では、2種類の化学物質が使用される。1つ目の化学物質は膨潤剤であり、これは固体又は液体であって、また、PCBに浸透するために使用される。許容可能な膨潤剤は多数あり、本開示の実施形態では、2種類以上のそのような膨潤剤を使用し、該膨潤剤としては、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)、レゾルシノール、トリフルオロ酢酸、2,3,4,5-テトラフルオロフェノール、及び2,3,5―トリフルオロフェノールが挙げられるがこれらに限定されない。2つ目の化学物質は希釈剤であり、これは液体であり、いくつかの機能を有する。これらには、膨潤剤の有効性を高めること、膨潤剤が室温で固体又は半固体である場合、産物の濾過を容易にすること、及び必要な試薬混合物の体積を達成するためのコストを削減すること、が含まれる。
【0040】
本開示のある実施形態に係る方法200を、図2にフローチャート形式で示す。プリント回路基板(PCB)を層間剥離する方法200は、ブロック202において、前記プリント回路基板を破砕すること、ブロック204において、破砕した前記プリント回路基板(PCB)を、少なくとも2種類の溶媒を含む溶媒系を収容する溶媒層間剥離槽(vat)に浸漬すること、ブロック206において、液体から固体(複数形)を分離すること、及びブロック208において、分離された前記固体(複数形)から異なる(複数形)特定の固体を静電的に分離すること、を含む。ブロック204における浸漬のような溶媒系への浸漬は、一実施形態では、浸漬中に破砕PCBの膨潤に寄与する試薬系に浸漬することを含む。一実施形態では、前記試薬系は少なくとも2種類の膨潤剤の混合物である。2種類の膨潤剤の混合物の一例は、NMPとレゾルシノールとの混合物である。一実施形態では、前記溶媒系はさらに希釈剤を含む。任意に存在する(optional)ブロック210に示すように、一実施形態では、浸漬中に前記溶媒系を撹拌してもよい。また、任意に存在する(optional)ブロック203において、破砕されたPCBは粗い破片について篩掛け(screen)され、粗い破片はブロック202においてさらに破砕され、これが所定の断片サイズが溶媒層間剥離槽へと通過するまで行われる。
【0041】
一実施形態では、任意に存在する(optional)ブロック212に示すように、浸漬中に温度が制御される。浸漬の温度は、一実施形態では、約110℃~約210℃である。この温度は、膨潤剤を分解することなく層間剥離プロセスを促進する。
【0042】
層間剥離に続いて、一実施形態では、ブロック206において、より重いコンポーネントが沈む密度分離によって固体が液体から分離される。密度分離の一実施形態では、当技術分野で既知であるように、さらなる密度分離のために、より高い密度の液体の層とより低い密度の液体の層とを用いてもよい。一実施形態では、リンス及び乾燥操作の後、ブロック208において層間剥離されたコンポーネントが静電的に分離される。リンス及び乾燥は、静電的に分離を促進するために当技術分野で既知のやり方で行われてもよい。
【0043】
一実施形態では、前記少なくとも2種類の溶媒は、前記溶媒系と前記PCBのポリマーとの間で総合(combined)で高相互作用パラメータを有する溶媒を含む。これにより層間剥離が促進される。一実施形態では、前記溶媒は、前記PCBのポリマーとの予測された正規化相互作用に基づいて選択される。
【0044】
PCBを層間剥離するある他の方法を、図3にフローチャート形式で示す。一実施形態では、方法は、一実施形態では、ブロック302において、前記PCBを所望の所定のサイズに細断すること、ブロック304において、細断された前記PCBを、少なくとも2種類の膨潤剤を含む膨潤剤浴で膨潤させること、及びブロック306において、膨潤し、細断された前記PCBの層間剥離を助けるために撹拌すること、を含む。前記膨潤剤浴は、ブロック306記載のように、層間剥離を促進するために撹拌される。一実施形態では、ブロック308における膨潤中に温度が制御される。
【0045】
一実施形態では、方法300の膨潤ブロック304は、ブロック402で少なくとも2種類の膨潤剤を与えることに加えて、ブロック404で膨潤剤浴に希釈剤を与えることをさらに含む。水などの希釈剤の添加は、膨潤剤浴を温度について安定化させるなど、様々な目的で使用される。前記少なくとも2種類の膨潤剤は、一実施形態では、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びレゾルシノールである。ある他の実施形態では、前記2種類の膨潤剤は、エチレングリコール及びサリチル酸である。前記膨潤剤の質量比は、一実施形態では、レゾルシノール1に対してNMPが少なくとも8、サリチル酸1に対してエチレングリコールが少なくとも3である。一実施形態では、前記膨潤剤は、PCBのポリマーとの予測された正規化相互作用に基づいて選択される。
【0046】
図4に示すように、膨潤剤と共に希釈剤を使用してもよい。該希釈剤は様々な用途に使用される。溶媒系中の第3の化学種である該希釈剤が添加されると、試薬-試薬間の自己相互作用は、試薬-希釈剤間の相互作用によってバランスが取られる。可溶性であることからして、試薬-希釈剤間の相互作用は、有効であるためには、試薬-試薬間の相互作用よりも大きい。さもなければ、試薬は希釈剤に可溶ではない。
【0047】
溶媒系に希釈剤を添加することの効果は、いくつかの目的に働く。第一に、希釈剤は活性試薬のための溶媒として働くことができる。本質的に言えば、室温では液体ではない活性試薬(ポリマーに浸透する溶媒)を使用する場合、第2の溶媒の添加は活性試薬の溶解を助け、より便利な処理を可能とする。第二に、希釈剤はポリマーが溶媒に再び溶解し(dissolve back)てしまうことを防ぐことができる可能性が高い。第三に、固体活性試薬を撹拌しながら使用する場合、希釈剤はエネルギー伝達媒体として機能する。第四に、高価な活性試薬を使用する場合、又は安価な希釈剤を選択した場合に、希釈剤は溶媒系のコストを削減することができる。第五に、希釈剤は温度調節剤として機能して、過剰な熱を防ぐことができる。このことは、温度感受性の活性試薬の場合に特に重要である。操作温度において活性試薬が高濃度で溶解している場合であっても、希釈剤は、自らが有する高い沸点と温度安定性のために、選択されてもよい。
【0048】
ある他の実施形態では、プリント回路基板(PCB)のコンポーネントを回収する方法500が、図5にフローチャート形式で示されている。方法は、ブロック502において、前記PCBを一実施形態では所望の所定サイズに細断すること、及びブロック504において、溶媒系を用いて前記PCBを層間剥離すること、を含む。ブロック504における層間剥離を、図6により詳細に示す。図6に示すように、ブロック504はさらに、一実施形態では、ブロック602において膨潤剤及び希釈剤を含む溶媒組成物浴に浸漬することを含み、前記膨潤剤は少なくとも2種類の試薬の組み合わせである。前記層間剥離プロセスは、ブロック604において、該プロセスの温度を約110℃~約210℃に維持することによって運転(operate)されてもよい。選択された試薬及び希釈剤に応じて、この温度範囲は変わり得る。一実施形態では、前記溶媒系の膨潤剤は、NMP対レゾルシノールの質量比を少なくとも8:1として、n-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びレゾルシノールを含む。ブロック606においては、浸漬中に撹拌を適用してもよい。一実施形態では、所定の一定又はほぼ一定のRPMでの撹拌が行われる。
【0049】
本開示の実施形態で使用される溶媒は、運転(operating)温度で固体である場合は、希釈剤を用いて溶媒系に溶解される。これにより、非従来型の溶媒、つまり運転温度及び運転圧力では液体でない溶媒の使用が可能になる。本開示の二成分(又はそれ以上)溶媒系では、活性試薬(固体)室温での希釈剤(液体)への溶解度が低いほど、系はより効果的である。さらに、多溶媒系は、PCBの層間剥離において単一溶媒系よりも大幅に優れている。
【0050】
上記で概説したPCBの層間剥離に影響を与える要因については、試験に関してさらに説明する。試験についてはさらに後述する。
【0051】
様々な実施形態におけるPCBのポリマー及び樹脂からの金属の層間剥離は、溶媒系浴の使用にもかかわらず、要素を溶液に溶解することなく行われる。代わりに、溶媒はPCBを膨潤させてポリマーを膨張又は膨潤させ、金属箔をポリマーから放出又は層間剥離できるようにする。
【0052】
図7に、ポリマーと溶媒との間の相互作用の基本図を示す。溶媒分子がポリマーを膨潤させる(例えば、ポリマーに取り込まれる)過程におけるポリマー鎖702及び溶媒分子704が示されている。この系内には、独立した溶媒分子及びモノマー単位からなるポリマー鎖が存在する。このモデルを単純化するために、あり得る相互作用については、直に隣接する(immediately adjacent)部位のみを考慮する。図7に示すように、二成分化学系には3つの異なる相互作用があり、溶媒-溶媒相互作用(εss)706、ポリマー-ポリマー相互作用(εpp)708、及び溶媒-ポリマー又はポリマー-溶媒(これらは同じことである)相互作用(εsp)710がある。系全体のエネルギーは、系内で相互作用する各要素のエネルギーの合計であり、以下の式1に示される。式中、Nppは、他のポリマーセグメントと相互作用するポリマーセグメント(モノマー単位)の数であり、Npsは溶媒分子と相互作用するポリマーセグメントの数であり、並びにNssは、他の溶媒分子と相互作用する溶媒分子の数である。
【数1】
【0053】
利用可能な部位の数は、系内におけるセグメント又は分子の体積分率に比例する。溶媒分子についての利用可能な部位の平均数は(Z)で表され、格子配位数と称される。フローリー・ハギンズ(Flory-Huggins)相互作用パラメータ(χ)は次の式で定義される。
【数2】
【0054】
パラメータを最大化するには、εpsをできるだけ大きくし、ポリマーとポリマー自体との、及び溶媒と溶媒自体との自己相互作用を最小限に抑えるべきである。この導出は本開示の範囲を超えており、理解する必要性はない。理解すべきことは、系の化学ポテンシャルの変化は溶媒の体積分率(φ)、ポリマーの体積分率(φ)、及び相互作用パラメータ(χ)に比例するということである。また、それは、次の式3で示されるように、ポリマーのモル重量と溶媒のモル重量との比(ポリマーの分子量(MWt)/溶媒の分子量(MWt))であるχにも反比例する。
【数3】
【0055】
上記の項を調べると、ポリマーの分子量が増加するにつれて、1/x項はゼロに近づく。このことは、式全体の値を増加させ、全体としての溶解度を減少させる。さらに、溶媒の分子量を大きくすることも同様に助けとなる。しかし、溶媒の分子量にはポリマーの分子量の場合に存在する制約よりも多くの制約がある。
【0056】
フローリー・ハギンズ(Flory-Huggins)の方程式をさらに詳しく調べるには、溶液中のポリマーの挙動についての基本的な理解が必要である。ポリマーの溶解は、図8に示すような、いくつかの個別(unique)のステップにより起こる。第一段階は、ポリマーの膨潤を含む。低分子がマトリックスに侵入すると、マトリックス内で決まった体積を占める。この体積は、ポリマー鎖が占有することができる空間領域を制限する。このプロセスが続くにつれ、より多くの分子がポリマーマトリックスに侵入し、より多くの体積を占める。自由体積が全て使い果たされたならば、系は2つの選択肢を有する。1つ目の選択肢は、系が小分子のさらなる取り込みを排除し得、そして系は平衡状態でこの状態に留まることとなる。2つ目の選択肢としては、バルク系が膨張し得、それによってより多くの体積を与えることである。この2つ目の選択肢は、ポリマーと溶媒との相互作用パラメータが大きい場合に生じる。このプロセスはゲル化とも称される。
【0057】
ポリマーの膨潤を図8に概略として示す。膨潤していないポリマーは、802に示すように密に充填されている(tightly packed)。溶媒系がポリマー内へと侵入するにつれて、804に示すように膨潤が起こる。ポリマーの鎖は806でほどけ、808で完全に放出(release)される。本開示の実施形態ではこのプロセスの全ステップが必要というわけではないが、溶媒のポリマー内への膨潤作用は、加熱及び撹拌とともに、ポリマー基材からの金属箔の層間剥離を容易化する。
【0058】
多くの系の場合、このプロセスは膨潤段階で停止する。一部のポリマー、特に高度に絡み合い架橋した構造を有する熱硬化ポリマー又はその他のポリマーは、前記ほどける段階に移行できないが、これはポリマーがバルク系に対してそれほどに高度な立体的又は化学的結合を有するためである。ある他の系では、プロセスは前記ほどける段階まで続くことができるが、この場合は、鎖がランダムな動きを通じてほどけ始める。このプロセスは、より長い鎖の場合よりも、より短い鎖の場合の方がはるかに速い。プロセスの最終段階は完全な放出であり、これは鎖がポリマーマトリックスから完全にほどけ、流体相中に自由に存在可能である場合に起こる。
【0059】
上記を念頭に置くと、ポリマー系の特徴は、標的ポリマーに対して大きな相互作用パラメータを持つ溶媒は、一般的には、ポリマーを溶媒溶液にほとんど溶解させず、一般的には、標的ポリマーにおける高度な膨潤を促進する。このことは完全に直感に沿う事実ではなく、標的ポリマーに対して大きな相互作用パラメータを有する分子が、一般的に、ポリマーの膨潤に優れていることを考えたときに特にそう言える。この事実を言い換えると、ポリマーにおける高い膨潤を生じる分子は、一般的には、ポリマー46に対して貧溶媒である。式3をさらに詳しく調べると、ポリマーが膨潤するにつれてポリマーの体積分率(φ)が減少し、このことは化学ポテンシャルを減少させるのを助けることに気づく。このことと共に、溶媒の体積分率の増加も起こるが、プロセスを大部分支配するのはポリマーである。さらに、χはポリマーの濃度によって変動し得る。この関係は、順相関又は逆相関の関係(directly or indirectly related)となり得、その強さ(magnitude)は大きく変動し得る。ポリマー濃度を変化させても相互作用パラメータ値の変化があまり起こらない系もあれば、大幅に増加する系もあれば、大幅に減少する系もある。
【0060】
式2を見ると、相互作用パラメータが温度に逆相関していることもわかる。より高い温度は系を駆動するエンタルピー効果を減少させることができ、増加した熱運動は相互作用の強度を減少させるため、これは完全に直感に沿うものである。但し、このことは低温が膨潤を増大させることを意味するわけではない。多くの場合、ポリマー自体の内に十分な自由体積が存在することを確実にし、膨潤が起こったときに、ストランドが自由に動けるポリマー内におけるより柔軟な状態を可能とするために、高温が必要になる。これは逆U型系の一例であり、温度を上昇させることが収益(return)の減少をもたらし得るだけでなく、ポリマーの膨潤47に関しては反生産的でもあり得る。
【0061】
本開示の実施形態で使用する場合、これらの相互作用及び機能は、方法の詳細を示し、また、該詳細を決定するために使用可能である。第一に、ポリマーが溶媒中での溶解度が低くても、溶媒は依然としてポリマー中での優れた溶解度を有することができる。ポリマーが溶媒に不溶であるからといって、そのことは、ポリマーを前記溶媒に対して不活性とするわけではない。第二に、ポリマー-溶媒の系は非常に繊細なバランスとなる可能性があり、このことは、相互作用パラメータが臨界値に近い場合に特にそうである。この臨界相互作用値の近辺では、溶媒配合又はポリマーの分子量における小さな変化が溶解度の劇的な低下を引き起こし得る。ポリマーは溶質中への「溶解性」が低い場合があるが、それでも優れた膨潤を起こし得る。作ることが可能な1つの合理的な特筆事項(distinction)は、膨潤量が多いことは、溶媒として機能するポリマー内での(溶質として機能する)「溶媒」の溶解度が大きいことを示していることである。
【0062】
本願では、「溶媒系」という用語は、膨潤プロセス、溶媒和プロセス、又はその両方の組み合わせを通じてPCBの層間剥離を引き起こすために使用される試薬又は試薬の集合体を説明するために使用される。但し、この溶媒系は、層間剥離には優れているが、「溶媒」としては非常に不十分な場合がある。この相互作用の知識を用いて、液相に大量のポリマーを浸出させることなく、PCBに大幅な膨潤をもたらす系を作製してもよい。
【0063】
原子は、原子結合の性質に応じて、いくつかの異なる種類の結合を形成できる。これらの結合は、イオン結合、共有結合、金属結合、及び配位結合に分類される。分子軌道理論、原子価結合理論など、実際に結合を予測する様々な方法がある。各理論には独自の長所及び短所があるが、直感に沿い、多くの現実の系を網羅する非常に根本的な理論が1つある。この理論は、硬い/軟かい酸-塩基理論(略してHSAB)として知られている。HSABは次の原則と共に機能する:硬酸は硬塩基と結合しやすく、軟酸は軟塩基と結合しやすい。硬原子は、一般的には小さく、高度に帯電しており、高度に制約された原子軌道を有する。一方、軟原子は、普通はより大きく、また、軟原子はより分散した原子軌道を有し、より低い電荷状態を有する。例えば、Fe(III)イオンは硬酸であるが、Sイオンは軟塩基である。
【0064】
技術の発展に伴い、現在の知識水準は、主流の科学において電子構造の予測は普通であるという状態に至った。現在では、中程度の大きさの分子でさえも、その電子構造を驚くほどの精度でタブレットコンピューター上でも解析できるようになった。したがって、今日使用されているツールの理解のためには密度汎関数理論の歴史は必要ない。
【0065】
原子の硬/軟の数値記述子、あるいは分子内の原子の硬/軟の数値記述子さえも、1又は複数の原子を有する分子における局所的及び絶対的な硬さを予測する福井関数を使用して決定できる。但し、福井関数について議論するには、密度汎関数理論(DFT)についての簡潔かつ著しく過剰簡略化した紹介が必要である。
【0066】
ほとんどの原子は、さらに言えば分子は、複数の電子を有している。各電子は、自らの波動関数に見られる特徴的な情報を含んでいる。各電子は3つの座標(XYZ)及びスピン成分によって与えられる空間位置を有する。したがって、各電子には考慮すべき4つの座標がある。ここで、電子のエネルギーを計算するには、行わなければならないのは、次の3つのエネルギー項(これはハミルトニアン項として既知である)を単純に加算することだけである:運動エネルギー項、核引力項、及び電子間相互作用項。最初の2つは、電子の質量、半径方向の距離、及び核電荷にのみ依存する明快なものである。しかし、複数の電子が追加されると、相互作用項は三体(又はそれ以上の多体)問題になり、それを解くには近似(及びスーパーコンピューター)が必要になる。幸いなことに、理解及び技術の進歩により、現在では、中程度の大きさの分子でさえも、その電子構造を驚くほどの精度で、タブレットコンピューター上でも実行する(perform)ことができる。
【0067】
要するに、分子は「非結合の」結合ドナーになることも、アクセプターになることもできる。この事実がHSABとの違いである。したがって、分子は求電子性の高い水素を多く有することができ、水素結合の主要な候補となることができる。但し、レシピエント分子が十分な水素結合アクセプターを有していなければ、分子間の相互作用は弱いものとなろう。相互作用は相互協力(two-way street)であり、相互作用するための電子構造を両方の分子が有する場合にのみ強力な相互作用が生じる。さらに、強い相互作用を実現するには、相互作用のメカニズムも同様である必要がある(例えば、強い水素結合性の分子は、強い水素結合性が無いが分散力が多量の分子とは、それほど相互作用しやすくはない)。
【0068】
本開示の方法を試験するための方法論の例は、一部は、導体スクリーニングモデル-現実的な溶媒和(COSMO-RS)を使用して行われる。COSMO理論では、電子構造を利用して、構造入力のみから非結合相互作用を半定量的に決定する。COSMO-RSの魅力は、DFT計算から熱力学計算までの、化学ポテンシャルの変化に基づいて溶解度を予測する全プロセスがCOSMOthermなどのユーザーフレンドリーなGUIベースのプログラムに集約され(aggregated)効率化され(streamlined)ている点である。本開示で説明する例では、全ての予測にCOSMOthermを利用した。パラメータ設定及び計算の正確な性質については、後述のセクションで説明する。
【0069】
本開示に記載の方法を使用して実施されるスクリーニング試験では、純粋な溶媒系における多くの溶媒の溶解度が、COSMOthermを使用して計算された。溶媒がそれによってランク付けされる値は、Log(Xsol)値であった。この値は相互作用パラメータに関連している。計算は、溶質の無限希釈から始めて、収束に達するまで濃度を増加させて反復的に解かれる。デフォルトでは、COSMOthermは最初にすべての純粋な化合物jの化学ポテンシャル(μ (P))を計算する。次に、水中の(無限希釈での)化合物の化学ポテンシャル(μ (∞))を計算する。スクリーニングされた化合物が固体の場合(ポリマーの場合など)は、融解におけるギブズ自由エネルギー(ΔGfus)を用いる。この値は、後述のセクションで説明するように、不明な場合はポリマーについて近似することができる。明らかに、この値は近似値であるため、溶解度の絶対値における誤差の主な原因となる。これは、溶媒スクリーニングデータについて絶対値が信頼できない多くの理由の1つである。しかしながら、総合的に見ると相対値は正確である。計算の最初のステップを式4に示す。
【数4】

【数5】
【0070】
式4の結果は、溶質の濃度が非常に低い場合にのみ有効であるが、式4(χ SOL(0))の結果を式5に代入して結果を繰り返し改良すると、はるかに優れた近似が得られる。χ SOL(n及びn-1)の値が収束すると、計算は終了する。
【0071】
方法及びその背後にある科学のさらなる詳細を以下に示す。
【0072】
PCBの層間剥離に影響を与える要因を試験するためにスクリーニング試験を行った。これらの要因には、時間、温度、相互作用、及び撹拌を含め、これらの要因が、重媒体分離において沈むこととなる「重い」産物の量に与える影響を確認した。選択した溶媒は、それら溶媒についての、ポリマーとの予測された正規化相互作用に基づいてランク付けした。正規化相互作用は、COSMOthermによって生成される相対スクリーニングLog(Xsol)値から計算した。Log(Xsol)をジメチルスルホキシド(DMSO)のLog(Xsol)値で除した。これは、相互作用値を互いに簡単に比較できるようにするために行った。ジメチルスルホキシドは、中程度の有効性を備えた機能性溶媒であるために、選択された。正規化相互作用は、本報告では相互作用パラメーター(X)とも称される。
【0073】
変数の説明
【0074】
変数は、層間剥離プロセスに対してそれらが有すると予測される影響に基づいて選択した。時間及び温度は動力学を考慮して選択した。層間剥離プロセスは、およそ1時間~数日程度の時間スケールで起こる。産業での実行の上での問題を軽減するには、より短い時間が望ましい。温度が高いほど、方法の速度論も増加することになると予測された。
【0075】
溶媒
【0076】
方法をさらに試験するためのベースラインを得るために、単一溶媒試験を行った。それぞれ約0.69、1.08、及び2.00の正規化相互作用パラメータを有する3つの溶媒であるシレン、ジメチルホルムアミド、及び3-フルオロフェノールを個別に使用した。3つの溶媒は全て、分子量及び沸点がおおよそ等しい液体である。
【0077】
実験手順
【0078】
試薬の選択、時間、固形分パーセント、及び温度など変動するパラメータの場合の質量収率の決定は、層間剥離試験後に行われた。典型的な手順は以下のとおりである。廃棄ハードドライブから細断されたプリント回路基板20グラムを測った。試料は、コア試料と同様に、試料トレイに押し込まれた所望の試料サイズにほぼ等しい体積のビーカーを用いて、改良「グラブ」方法で採取した。未処理の試料を、フィード基板と称する。フィード基板を、RoTapで篩にかけ、各サイズ画分を質量測定した後、再度合わせてフィードを形成した。事前の篩掛けにより、貴重な粒子サイズ情報が得られる。これは、採取した試料の代表性を以前の試料と比較して検証するのに役立つだけでなく、反応器内で層間剥離するにつれての各粒子サイズクラスを追跡するための各試験の開始点も与える。前記フィードを洗浄したり、ステッカーの破片や細断された発泡体の部分などの残骸粒子を除去したりする試みは行わなかった。この選択の背後にある意図は、実際の応用のために十分なほどには堅牢でない、誤解を招く結果を最小限に抑えることである。このプロセスは、基板上に対する最小限の前処理と共に使用することができると想定をする。これらの試験では、基板に対する前処理は、ポリマーシュレッダーを使用した細断のみである。
【0079】
次いで、細断したPCB(フィード基板)を、還流冷却器及び温度計を備えた250mLの丸底フラスコに加えた。フラスコは、試験のための目標固形分パーセント(質量基準)を達成するための適切な量の溶媒試薬を収容しており、また、実験に必要な温度まで予熱されていた。溶媒の予熱は、試験における低い期間のために誤った結論を生み出す可能性があるウォームアップ時間を最小化するために行われた。反応温度は、油浴を使用して維持した。
【0080】
反応が完了した後、液体のアリコートを分析のために採取した。反応混合物を真空漏斗を使用して熱濾過し、産物をメタノール、続いてアセトンで洗浄して、残留溶媒を除去し、迅速な乾燥を促した。メタノール及びアセトンは、これらの溶媒が液相である標準的な圧力及び温度では回路基板にさらなる膨潤を引き起こさないと、実験前に決定された。濾液を乾燥させた後、密度分離を妨げる可能性のある残留揮発性種を除去するために、処理した基板をおよそ80℃に設定したオーブンに一晩置いた。
【0081】
密度分離はメタタングステン酸リチウム(LMT)溶液を使用して行った。第1の溶液の密度は2.74g/cmであった。層間剥離したプリント回路基板を高密度LMT溶液に入れ、基板の表面全体が確実に濡れるように手動で撹拌した。層間剥離したプリント回路基板を、浮遊画分及び沈降画分の2つの画分に分けた。沈降画分を「Con」と表し、浮遊画分を濾別し、1.86g/cmの密度の第2のLMT溶液に導入した。さらに成層した後、浮遊画分を「Tail」と、沈降画分を「Mid」と表した。残りのLMTを回収するために3つの画分全てを濾過及び洗浄した後、3つの密度画分を80℃で一晩乾燥させた。次に、3つの密度クラスをRoTapで篩分けし、各サイズクラスを収集して質量測定した。質量データは、前記プロセスの総質量収率を表す。
【0082】
図9及び図10に示すグラフは、Conに属する産物質量のパーセントの応答曲面を示す。この実験では未処理の基板がConを約20%産み出したため、誤解を招く結果を防ぐためにモデルを面で頂部切り取りした(truncated)。
【0083】
図9及び図10から、Conに属する質量のパーセント(以下「収率」と称する)に影響を与える主な要因は、正規化相互作用パラメータの値であったことが分かる。正規化相互作用パラメータは、COSMOthermによって予測されるLog(Xsol)値から計算した。選択した溶媒のLog(Xsol)をジメチルスルホキシドのLog(Xsol)値で除した。
【0084】
前記グラフは、相互作用パラメータが試料の収率に最も強い影響を与えることを示している。すなわち、LMT分離における沈降を確実化するのに十分なほどに遊離した(liberated)Conの質量を決定する上での最も重要な要因は、主に溶媒の化学的性質によって決まる。時間も遊離(liberation)と直接相関している;しかし、図10では、正規化相互作用パラメータが1未満の溶媒について、その逆が当てはまると見受けられる。これは、高温での溶媒シレンの分解が大きな実験誤差を生じさせ、1つの場合には、モデルからの完全な削除を引き起こすためである。このため、より小さい相互作用パラメータ値についてはモデルの信頼度がより低くなる。ただし、分散分析(ANOVA)は、モデルの残りの部分は依然として良好であることを示している。したがって、相互作用パラメータが1以上の場合の値はかなり正確である。
【0085】
相互作用パラメータを増加させ、反応器の温度を増加させると、収率が増加することがわかる。試しに、収率の増加は基板の層間剥離の増加によるものであると考えることとする。すなわち、積層板は一般的に浮き、層間剥離した銅シートは沈むこととなる。
【0086】
応答曲面はいくつかのことを示している。第一に、溶媒の化学構造が層間剥離プロセスにおいて重要な役割を果たす。したがって、試薬の選択は、本開示の方法において最も効き目のあるパラメータであると見受けられる。第二に、COSMOthermによって生成された相対予測Log(Xsol)は、スクリーニングされた化学種について正確であると見受けられる。第三に、時間は相互作用パラメータに比べて二次的なものであると見受けられる。このことは理にかなっている。なぜなら、層間剥離プロセスは拡散によって速度論的に制御される可能性が最も高く、したがってより長い時間はより大きな粒子の層間剥離を可能とするためである。最後に、これらの結果から、温度の重要性はより小さいと考えられる。しかしながら、元々の試験では分解に関する問題があったため、温度が有する影響の大きさについては完全には明らかではない。
【0087】
これらの初期スクリーニングで試験された試薬はいずれも、いくつかの要因により、改良した(refined)試験では使用しなかった。シレンは中程度の温度でも分解する。このことから、溶媒の寿命が望ましいとされるプロセスに対しては、シレンは好ましくない。ジメチルホルムアミドは、シレンのように分解を受けないが、いくつかの健康被害をもたらす。もう1つの試薬である3-フルオロフェノールは、溶媒として優れた能力を示した。さらに、モノ、ジ、トリ、クアトラ(quatra)、及びペンタフルオロフェノールの全ての異性体は、PCBの層間剥離に効果的であると考えられる。しかし、RCRA及び大気浄化法(Clean Air Act)に基づく追加の規制又は許可要件の可能性があるため、工業規模でのフッ素化化合物の使用は実現可能ではない。このことは、ハロゲン化されていないが同様の有効性の試薬が容易に入手できることを考慮すると特にそうである。
【0088】
したがって、COSMO-RSを使用した試薬の選択は、層間剥離のタスクにより適している可能性のある試薬を予測するために使用できる。第二に、温度を上げると産み出されるConの収率が増加する。最後に、前記プロセスは基板が溶液中に残っている時間によって左右される。このプロセスは拡散に支配されている可能性が高いため、時間及び粒子サイズは関連している。
【0089】
撹拌試験
【0090】
PCBの層間剥離は、基板の複数の層を貫通し得る機械的留め具によって妨げられうる。これらの留め具は、多層プリント回路基板の電気接続(スルービアなど)由来であることものもあるし、あるいは表面実装コンポーネントのフィードスルー由来のものであることもある。留め具の本来の目的に関わらず、それらは層間剥離を妨げるため、層間剥離プロセスで問題を引き起こす可能性がある。この問題を解決するために、留め具は壊される、あるいは留め具が挟んでいる材料を取り除くべきである。これらの留め具は、複数のスチール層をまとめておくために使用されるスチール製のピンに類似しているため、以下では「リベット」と呼ぶこととする。
【0091】
層間の材料の除去は、2段階のプロセスを通じて達成され得る。1番目に、容易な分離のために複合体内の粒子/繊維が独立するよう、ポリマーバインダーを除去するあるいは弱める。2番目に、粒子/繊維をその領域の外に輸送する。輸送のために成り立つ唯一のメカニズムはポリマーマトリックスの体積膨張によるものであるため、動きの無い(stagnant)系では輸送が困難である。熱硬化したポリマーにおける高度な架橋のため、エポキシは大きな膨潤度を示さず、したがって、体積膨張型メカニズムを介して材料を輸送するのには理想的ではない。しかしながら、固体-固体間の力、固体-液体間の力、又は撹拌によって生成される慣性力によって膨張は促進されうる。
【0092】
これらの試験では、オーバーヘッドミキサーを使用して撹拌タンク型反応器(STR)を作製した。STRは、この用途に最適である可能性が高い大きなせん断力を産み出すことができる。さらに、STRは実験室への適用の範囲内で容易に作動させることができ、産業レベルまでスケールアップできる。スケールアップの詳細は予測することができるが、フィードストックを作るのに用いられる機器により変動する組成を有する、高パーセント(高アスペクト比)の固体の不均質なスラリーを考慮すると、実行はより精度は低いものとなる。
【0093】
試料採取
【0094】
本研究では、ハードドライブから採取されたPCBを使用した。各プリント回路基板は、プラスチックシュレッダーで細断する前にいかなる発泡体やワイヤーも取り除くことにより、手作業で処理した。細断されたプリント回路基板は、反応のためのフィード試料を得るためにグラブ・サンプリングが行われる入れ物パン(receptacle pan)に直接排出された。細断されたフィード材料の粒子サイズは高度に均一であるため、フィードの成層は最小限である。各試験は一定量のフィード(20g試料)を使用し、それら試料は、篩分析において、ほぼ整合した。さらに、処理前及び密度画分への分離後に、フィードを篩分析した。これは、遊離(liberation)に対する粒子サイズの影響を観察できるようにするために行った。これらの結果は、この特定の分析には含まれていない。
【0095】
収率及びグレードの応答は、撹拌及び希釈剤中の活性試薬のパーセントという変数を変動させることによって見出した。試料を、オーバーヘッドミキサーに取り付けられたテフロン製インペラを使用して撹拌した。ミキサーの回転速度はタコメーターを使用して測定し、手動でチェックすることで各試験を通じて一定に保った。運転温度が150℃に達すると、ミキサーの回転速度のドリフトはほとんど又はまったくないことが分かった。全ての試験は24時間にわたって実施した。反応の固形分パーセントも、全てのランを通して30%と一定に保たれた。活性試薬は小分子であり、室温では固体であるが、運転温度では液体である。この低分子は、ビスフェノールAジグリシジルエポキシ層を介してプリント回路基板を層間剥離するのに非常に効果的であり、このことはCOSMO-RS理論を使用してなされた計算予測によって決定され、小規模な実験試験によって確認された。この反応のための希釈剤は不活性物質であり、それ自体では基板内で層間剥離を引き起こさない。この希釈剤は、操作温度で高濃度の活性試薬が溶解している場合でも高い沸点と温度安定性を備えることから選択された。
【0096】
収率の決定
【0097】
前記プロセスの収率の決定は、予備試験で実行した密度分離とほぼ同じやり方で行った。但し、ポリマーがまだ付着している金属片も密度分離で沈降(separate)するのに十分に重いため、重画分の完全な遊離(liberation)は達成されず、グレード及び総収率が決定された。分析を行うため、処理後の基板を、メタタングステン酸リチウムの溶液中で浮沈分析を用いて分離する。このプロセスは、密度に基づいたいくつかの基板画分を生み出す。Con画分は最も密度の高い画分であり、層間剥離された銅箔及びセラミック成分の大部分を含む。ガラス繊維及びポリマーはんだマスクは、金属相から完全に遊離(liberation)されているならば、より軽い密度の画分に属する。但し、金属粒子は、粒子が完全に遊離(liberation)していなくても、粒子全体の複合密度がタングステン酸塩溶液の密度より大きいならば、依然として高密度物(Con)に属する。高密度物(Con)に入る画分の合計質量パーセントを、収率と呼ぶ。但し、高密度物(Con)のグレードは、生じる遊離(liberation)の程度に基づいて変動しうる。
【0098】
グレードの決定
【0099】
粒子の遊離(liberation)の程度を決定するために、グレードも決定する。試験は、王水に溶解可能な高密度物(Con)のパーセントを見出すことによって行われる。金属画分の主成分である銅は王水に溶解可能である。さらに、銅箔の一部をコーティングする金フィルムも溶解可能である。王水は、はんだの主成分である錫も溶解する。銀は溶解しない。高密度物(Con)の大部分は銅であるため、銀などの第三(tertiary)金属はさほどの懸念とはならない。さらに、ほとんどのプラスチック及びガラスは王水に対する抵抗性を有するため、この酸処理によって大きく溶解することはない。プロセス全体を通して追加量の濃硝酸を追加したことから、一部の銀が溶解した可能性がある。明らかに、酸消化は基板からほとんどの金属を除去し、ガラス繊維及びポリマーを残すが、このことは層間剥離プロセスの目的である。したがって、プロセスについて、グレードと層間剥離の量との間の直接的な関係を決定することができる。
【0100】
これらの事実から、たとえ完全な層間剥離が起こったとしても、基板内部に表面コンポーネントが存在するため、高密度物(Con)のグレードは必ずしも100%に近いとは限らない。これらの表面コンポーネントは小さなセラミック抵抗器及びコンデンサーとして存在し、典型的には、高密度物(Con)の総質量の約10%を占める。これらのコンポーネントは、層間剥離の前に基板からの取り外し(depopulation)により除去できる。本開示及び試験において最も遊離(liberation)した高密度物(Con)でさえ、およそ85%が溶解可能であるだけであった。
【0101】
スクリーニングでは、収率パーセント及びグレードパーセントという2つの応答を使用した。
【0102】
図11及び図12は、それぞれ、プロセスの収率及びグレードについて生み出された応答曲面を示している。図11において、収率は、エネルギー入力及び活性試薬の%の両方の観点から二乗的に制御されることが分かる。グラフのばらつきが大きいのは、おそらく、Conに属する可能性のある粒子の数という点で、フィード組成の分散が大きいためである。重媒体の分離の特性を考慮すると、上記で検討したように、特定の粒子は遊離(liberation)無しでConに属するのに十分な嵩密度を有する。十分な遊離(liberation)があるが、完全な遊離(liberation)ではない場合に、Conに属し得る、第二群の粒子が存在する。この第二群は、Conに属するのに十分な金属を含む粒子の大部分を占めている。しかしながら、遊離(liberation)が続くと、この第一群及び第二群からより多くの物質が遊離(liberation)し、このことはConの総質量を減少させる。活性試薬及びエネルギー入力を増やすと、このプロセスが促進される。収率モデルにおいてAB項及びその項の重要性は何かという問題がある。活性試薬及びエネルギー入力は独立したプロセスであるが、フィードスルーを含む粒子の層間剥離において相乗的に作用し得た可能性がある。これらのフィードスルーはリベットのように機能し、撹拌を伴わないランにおいて層間剥離を防ぐ。撹拌は、フィードスルーに損傷を与えて粒子を割り開かせるか、あるいは液体内に十分な乱流をもたらして、基板内に含まれる繊維及びポリマーの質量が基板から機械的に除去され、これが遊離(liberation)を促進すると考えられる。正確なメカニズムに関わらず、図12に見られるように、撹拌は最終粒子の品質(グレード)を実際に向上させると見受けられる。
【0103】
図12をより詳しく見ると、活性試薬及びグレードが二乗的に関係しているようであることがわかる。遊離(liberation)に対する予想されるシグモイド応答の代わりに、グレードはおそらくこの領域のあたりでプラトーとなり、より強い撹拌によればマイナーな有機物質片が除去される。高活性試薬及び高エネルギーを用いた試験での溶解後に残った粒子は有機物ではなく、単に、酸の攻撃に抵抗性のあるセラミック表面コンポーネントである。但し、試薬が50%未満の場合でのグレードの急激な低下は、活性試薬の量が減少するにつれてこのプロセス速度が速度論的に低下するのではないかということを示している。
【0104】
ポリマーの膨潤は、構造中への分子の浸透から始まる様々な段階で生じる。この場合、ポリマーが溶媒であり、分子が溶質である。溶質分子の数が増加すると、体積効果が生じ始める。これは、系における混合のギブズ自由エネルギーが負であり、より多くの溶質分子がポリマーマトリックスに溶解することを非常に有利にしているために起こる。この段階は膨潤として知られる。最終的に、ポリマーが立体的にほどけてポリマーがゲル状になるため、このプロセスはさらに強化される(exasperated)。この段階から、ポリマーの個々のストランドが溶液中に持ち込まれることができる。エポキシ中の高度な架橋のため、この真の溶解段階に到達する可能性は低く、少なくともこれらのスクリーニング試験の時間枠内に到達する可能性は低い。活性試薬の濃度が減少すると、浸透圧、すなわち分子がポリマーマトリックスに浸透するために必要な力が減少する。
【0105】
グレード、及びまたConは、広い運転領域を備えているようであり、このことは、プロセスを様々な条件で実行できるため有益である。しかし、非金属Tail産物は運転条件に非常に感受性であるようであった。Tail産物は、ガラス繊維から半含浸複合板までの様々な形態で構成されていた。付録Aに、試験から得られたいくつかのTail画分の画像がある。所望の形態に応じて、正しい非金属産物を実現するようにプロセスを調整できる。
【0106】
質量増加及び膨潤試験(NMP/レゾルシノール)
【0107】
NMP及びレゾルシノールの溶液(質量比9:1)を作製し、112℃に加熱した。RAM基板の試料を親基板から切り出し、分析天秤で計量した。基板の初期幅をノギスを使用して測定し、次に基板を前記溶液中に置き、10分、30分、60分、及び90分の時点で試料を取り出した。前記基板を水、次いでメタノールでリンスし、その後メタノールを除去するために、但し熱によって基板内の溶媒を追い出さないように、一晩空気乾燥させた。続いて、前記基板の重さを量り、図13に示すように、立体鏡下で幅を測定した。図14では、部分的に層間剥離されたPCB片1402が、新しいPCB片1404の隣に示されている。
【0108】
幅の増加(膨潤)及び質量の増加を、後述の図15及び図16にそれぞれプロットした。質量増加は3回の個別の試験から平均を求めた。試料の質量変化の偏差を示すために1標準偏差(最大でも平均の約13%)を表すエラーバーが含まれている。質量変化グラフの線形領域をとり、時間(t)の平方根及び試料の厚さ(h)の逆数をプロットすると、図17に示すグラフが作られる。このグラフの傾きの二乗は見かけの拡散係数であり、5.29×10-12(m/s)と計算される。
【0109】
質量増加及び膨潤試験(エチレングリコール/サリチル酸)
【0110】
エチレングリコール及びサリチル酸(質量比3:1)試薬混合物についての質量増加プロットを得るために、同じ手順を実行した。このデータを図18及び図19にまとめた。機器の制限により、温度は元々の113℃ではなく115℃に保った。但し、この僅かな差異によっては見かけの拡散係数は大きく変わらない。さらに、図18からわかるように、質量の低下はなく、飽和に達したかどうかは不明であった。
【0111】
実際、どちらの試験でも飽和に達したかどうかは不明である。質量損失は、膨潤が止まり、放出が始まった点であるとした。しかし、以下に部分を示すSEMデータから、ポリマーの放出は質量損失の大きな要因ではない可能性がある。代わりに、質量損失は、材料自体の変動によるものであるかもしれず(但し、反復試料が全て同様の値を示しているため、この可能性は低い)、あるいは他のタイプの材料損失によって引き起こされる可能性がある。プロセス中に脱落した処理基板の部分すらも確実に捕捉するよう予防措置を行ったが、放出された小さな粒子を把握することは不可能であろう。90分の値が真の飽和ではないとしても、曲線のこの領域についての見かけの拡散係数の大まかなアイデアは依然として見出すことができる。
【0112】
各回に3つの試料を採取した。エラーバーは質量変化におけるの1標準偏差を表す。これは最大でも平均の約11%に相当する(以前の試験と同様)。エチレングリコール/サリチル酸試験では膨潤測定は行わなかった。計算された見かけの拡散定数は、1.18×10-12(m/s)であった。
【0113】
提示されたデータから、NMP/レゾルシノール溶媒系とエチレングリコール/サリチル酸溶媒系との間にはいくつかの差異がある。データから、NMP/レゾルシノール系はより速い速度論を有しているものと見受けられ、全ての反復試料について90分間の試験後も質量が増加していたエチレングリコール/サリチル酸系よりも早く「飽和」に達した。この評価を補完するのは、NMP/レゾルシノール系及びエチレングリコール/サリチル酸系の2つの見かけの拡散係数が、それぞれ5.29×10-12(m/s)及び1.18×10-12(m/s)であることである。最後に、質量増加は、後のセクションで提供される熱重量分析データとよく整合しているため、データの正確性は制御下にあるようである。
【0114】
完全な層間剥離が不可能な長さの時間、NMP/レゾルシノール(8:1)に曝露すると、図20に見られるように、基板の端がめくり上がり始める。このめくり上がりは時間と温度の両方の関数として基板内に進む。図21は、温度に関係付けて、平均浸透距離をミリメートルで示している。浸透距離は温度に直接関係していると見受けられる。完全な浸透は完全な層間剥離を引き起こすため、140℃を超える温度で反応させた試料については、浸透深さは24時間の時点では測定できなかった。浸透深さは110℃未満では急速に減少し、ほぼゼロになる。このグラフは、層間剥離は高度に温度依存性であり、特定の閾値温度を下回ると有意な程度に発生しないことを示している。上記温度より上では、温度を上昇させると、浸透率はあるわずかな増加を生じうる。本研究における回路基板ランの場合、この温度は110℃よりわずかに低いあたりであるようである。このグラフは図12と整合し、図12は、全く異なる試薬セット及び異なる回路基板の場合について同様のカットオフを示している。
【0115】
走査型電子顕微鏡(SEM)分析は、推定できるいくつかの機構的要因が存在することを示している。まず、溶媒系は、基板に含まれる全てのエポキシを除去するわけではない。溶媒系は、拡散試験で使用される時間及び温度では、ポリマー系を完全な取り出しを起こすことはできない。おそらく、少量のエポキシが除去可能であり、この除去は層間剥離した領域、又は溶媒系と密に接触した領域で発生する。エポキシ層と銅箔との間の接着は、溶媒系に曝露されると弱くなることが明らかである。
【0116】
本開示の溶媒系は、溶媒系に溶解するポリマーの量が少ないことを含むいくつかの理由により、繰り返し使用するのに適している。したがって、本開示の溶媒系は再利用可能である。溶液を複数回再利用することにより、本開示に開示される方法からの廃棄物の量が大幅に削減され、プロセスはより経済的に実現性が高いものとなる。溶液から層間剥離した産物を軽く濾過し、ただし最初の溶液を洗浄又は変更せずに数週間にわたって実施した寿命試験では、Conの収率及びグレードに重大な悪影響は見られなかった。得られた産物を、Conの収率及びConのグレードについて試験し、結果を図22に示した。さらに、酸素老化を模倣するために系にわずかに酸素を含ませることを目的として、窒素ブランケットを制限することにより、さらなるストレス試験を行った。
【0117】
粒子サイズ並びに遊離(liberation)に対する実際の拡散の関係
【0118】
粒子の全体的なサイズと処理後の粒子の密度クラスが何であるかとの間に相関関係があるかどうかを決定するために、粒子サイズの影響に関する研究も行った。この試験を準備するために、細断されたハードドライブPCBフィードの試料60gをフィードとして使用し、コンデンサーカラム及びガスディフューザーを備えた500mL反応ケトルに加えた。NMP及びレゾルシノールの10:1質量比溶液を溶媒として使用した。反応速度論を遅くし、願わくはより高い分解能を達成するために、窒素ブランケットを使用して温度を120℃に保った。さらに、同じ目的で、試料を通常の24時間ではなく8時間反応させた。試験中、撹拌は用いなかったが、溶媒の最初の濾過中に、処理後の基板を手で激しく撹拌して、「緩んだ」基板を分離した。フェルティングの形態での損傷を最小限として非金属部分を無傷に保とうとする試みで、反応中の撹拌は避けた。フェルティングが発生した場合、フェルティングにより粒子のサイズが変わってしまうため、Tailの粒子サイズ分析は結論を与えるものとはならない。撹拌がほとんど又は全く無い場合、かなりクリーンな非金属Tailが得られる。
【0119】
産物をソックスレー(Soxhlet)抽出器中においてメタノールで一晩洗浄し、篩分析の前にオーブンで乾燥させた。篩サイズを組み替えて、LMTを使用して分離した。分離には、エチレングリコール/サリチル酸の研究で使用したものと同じ液体密度を使用した。次に、軽画分(Light)、中画分(Mid)、及び重画分(Heavy)(それぞれTail、Mid、及びConと呼ぶ)は、それぞれについて別個に行われる篩分析を受けた。全篩試験の結果をまとめたものを図23にプロットした。
【0120】
この試験のためのフィードは前の試験を代表するもので、Con、Mid、及びTailの良好な分布を産み出した。P80ラインだけを見ると、Con、Mid、及びTail間には確かに違いがある。Conはフィード及びMidよりわずかに小さいP80を有し、Midはフィードよりもはるかに大きいP80を有する。このことは、一般的には多量の金属含有量を有する(したがって層間剥離の主要な標的となる)非遊離(liberation)粒子であるMidは、一般的に、Con及びTailに属する遊離した(liberated)粒子よりも大きい粒子であることを示している。拡散の研究と組み合わせると、このことは、より小さな粉砕サイズは、より大きな粒子よりも、より高度に遊離(liberate)し、より速く遊離(liberate)しやすいことを示している。このプロセスは非常に大きな粒子を遊離(liberate)させることもできるが、粒子が大きくなるほどプロセスに要する時間が長くなる。したがって、粒子が溶媒に曝される時間を短縮するには、粒子サイズは小さくすべきである。ポリマーが溶媒に曝される時間が長いほど、粒子の質量増加量も大きくなるため、暴露時間を短縮することが重要である。この質量は、ほぼ確実にポリマーマトリックスへの溶媒の取り込みによるものである。この質量は、プロセスで処理された基板の総質量の10%にも達すると見受けられる。しかし、暴露時間を短縮したならば、質量の取り込みは低下する。この論文の多くのデータと同様、これらの数値は研究に利用可能であった回路基板に単に基づくものであることに留意されたい。基板の正確な化学組成に応じて、これらの数値は変化しうる。
【0121】
結論
【0122】
一般的に、試薬はPCBの層間剥離を達成する上で重要な役割を果たす。試薬の有効性は主に、試薬とポリマーとの間、及び試薬と系の他の部分との間の相互作用によって決まる。系の他の部分とは、試薬-試薬の自己相互作用ということになる。第3の化学種(希釈剤など)が追加されると、試薬-試薬の自己相互作用は、試薬-希釈剤の相互作用によってバランスが取られる。可溶性であるため、試薬-希釈剤の相互作用は試薬-試薬の相互作用よりも大きいものとされる。さもなければ、試薬は希釈剤に溶解しない。さらに、試薬-希釈剤の相互作用が試薬-ポリマーの相互作用よりも強力であれば、膨潤はほぼ停止する。(エチレングリコール中でのサリチル酸よりもNMP中での溶解度がはるかに低い)レゾルシノールなどの試薬をNMPと組み合わせて用いると、より激しい膨潤が生じ得る。さらに、NMPは(エチレングリコールとは異なって)それ自体は穏やかな膨潤剤であり、溶媒の浸透を促進することを助ける。
【0123】
PCB層間剥離のもう1つの要因は温度である。ほとんどの基板は、約110℃未満の温度では層間剥離しない。これは、多くのビスフェノールAエポキシのガラス転移温度とたまたま同じ領域である。NMP/レゾルシノール溶媒系及びエチレングリコール/サリチル酸溶媒系の拡散定数は、約115℃の最低運転温度で見られた。NMP/レゾルシノール溶媒系ははるかに大きな有効拡散定数を有し、このことは、認識された、より速い速度論を説明する。さらに、層間剥離プロセスにおける直線浸透をNMP/レゾルシノール溶媒系について様々な温度で追跡した。特定の「活性化」温度を超えて温度を上昇させることが、有意な層間剥離を達成するための唯一の方法であることが分かった。温度を「活性化」を超えて上昇させると、層間剥離率の増加につながる。したがって、温度の上昇は、分解温度の制限内及び層間剥離が行われる圧力の制限内ではあるが、層間剥離を増加させる。
【0124】
ある他の要因は撹拌である。フィードスルー(例えば、スルービア及びコネクタ)は、(完全な層間剥離が発生しているにもかかわらず)完全な遊離(liberation)を防ぐ機械的結合剤として働きうることが分かった。撹拌は、産物の高グレードを達成することを助ける。正確な撹拌量は、反応器及び操作条件に応じて異なることになる。撹拌は、基板内の「詰まっている」材料を機械的に取り除くことを助けると考えられる。具体的には、2つの層の間に挟まれたガラス繊維ストランドは、フィードスルーによって、まとまって保持される。撹拌はフィードスルーを破壊しないようである。基板を完全に遊離(liberate)するために必要な程度の乱流を達成するには、撹拌タンク型反応器で十分であると思われる。
【0125】
グレードに影響を与えると思われるある他の要因は、表面コンポーネント(特に、より大きなサイズの画分)であった。表面コンポーネントは密度分離でConについて行き、グレードを低下させる。表面コンポーネントを手作業で取り出すことにより、(より大きなサイズの画分における)グレードを11%超高めることができたことが分かった。可能な最大の金属濃度が目標である場合、表面コンポーネントの機械的除去はグレードにプラスの影響を与えることができる。層間剥離プロセス(少なくとも本研究で使用した細断PCBの場合)は、約80%のグレードでプラトーとなる。これらの数値は、分離のためにより高密度な媒体を使用する、あるいは全く異なるプロセスを使用することによって、わずかに増加させることができた。実際的な観点から見ると、プラトーは、層間剥離に用いられる正確な運転条件にある量のゆとりを可能にする。
【0126】
複数の溶媒/希釈剤を使用することは、単一の場合と比較して、PCBの膨潤の大きさだけでなく層間剥離速度も増加するため、単一溶媒を使用する系よりも優れている。本開示に開示されるプロセスは、以前に使用された単一溶媒系よりもPCBの層間剥離においてはるかに効果的な非従来型溶媒を使用するが、COSMO-RSは、本開示に開示されるプロセスのための好ましい試薬を予測する。
【0127】
本開示を好ましい実施形態を参照して説明してきたが、当業者であれば、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく形態及び詳細に変更を加えることができることを認識するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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【国際調査報告】