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特表2024-507906高強度・高靭性ベイナイト地質掘削管およびその製造方法
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  • 特表-高強度・高靭性ベイナイト地質掘削管およびその製造方法 図1
  • 特表-高強度・高靭性ベイナイト地質掘削管およびその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】高強度・高靭性ベイナイト地質掘削管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240214BHJP
   C22C 38/12 20060101ALI20240214BHJP
   C21D 8/10 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/12
C21D8/10 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551208
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 CN2022077848
(87)【国際公開番号】W WO2022179595
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】202110213765.3
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼ 文
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 耀恒
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 忠▲錵▼
(72)【発明者】
【氏名】胡 平
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 燕楠
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA17
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032BA03
4K032CA03
4K032CD01
4K032CD02
4K032CD03
4K032CD05
(57)【要約】
本開示は、以下の質量百分率で、以下の化学元素を含み:0.14~0.22%のC、0.2~0.55%のSi、2.1~2.9%のMn、0.01~0.04%のNb、0.015~0.04%のAl、0.001~0.005%のB、0<N≦0.007%、残部はFeおよび不可避的不純物;AlとNの含有比はAl/N≧3である、ベイナイト地質掘削管を提供する。さらに本開示は、ベイナイト地質掘削管の製造方法であって、以下の工程を含むベイナイト地質掘削管の製造方法を提供する:(1)溶鋼を製錬および鋳造して素管を得る工程;(2)素管に加熱、穿孔、連続圧延、およびサイジングを施し、管体を得る工程;ならびに、(3)管体を二段空冷する工程:第1段空冷では、管体の外表面に空気循環送風冷却を行い、冷却前の温度はAr3+50℃以上、冷却速度は5~15℃/sとし、Bs-100℃~Bs-50℃の温度範囲に冷却する;第2段空冷では、管体を自然空冷し、冷却速度は0.5~4℃/sとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の質量百分率で、以下の化学元素を含み:
0.14~0.22%のC、0.2~0.55%のSi、2.1~2.9%のMn、0.01~0.04%のNb、0.015~0.04%のAl、0.001~0.005%のB、0<N≦0.007%、残部はFeおよび不可避的不純物;
AlとNの含有比はAl/N≧3である、ベイナイト地質掘削管。
【請求項2】
以下の質量百分率で、以下の化学元素を含み:
0.14~0.22%のC、0.2~0.55%のSi、2.1~2.9%のMn、0.01~0.04%のNb、0.015~0.04%のAl、0.001~0.005%のB、0<N≦0.007%、残部はFeおよび不可避的不純物;
Al/N≧3であり;
ベイナイト地質掘削管は、Cr、MoおよびWを含まない、
請求項1に記載のベイナイト地質掘削管。
【請求項3】
不可避的不純物において、S≦0.01%、およびP≦0.006%である、請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管。
【請求項4】
ベイナイト地質掘削管の微細構造の主体が粒状ベイナイトであり、粒状ベイナイトの相比率が95%以上であり、粒状ベイナイトの大きさが4~10μmである、請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管。
【請求項5】
ベイナイト地質掘削管の微細構造が、3~5%の相比率のオーステナイトをさらに含む、請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管。
【請求項6】
ベイナイト地質掘削管の肉厚が12~30mmである、請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管。
【請求項7】
ベイナイト地質掘削管が、焼入れ焼戻し熱処理を必要とすることなく、以下の特性を達成する、請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管:
降伏強度が750MPa以上;引張強度が1100MPa以上;硬度が35HRC以上;靭性が60J以上;および残留応力が40MPa以下。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のベイナイト地質掘削管の製造方法であって、以下の工程を含むベイナイト地質掘削管の製造方法:
(1)溶鋼を製錬および鋳造して素管を得る工程;
(2)素管に加熱、穿孔、連続圧延、およびサイジングを施し、管体を得る工程;ならびに、
(3)管体を二段空冷する工程:第1段空冷では、管体の外表面に空気循環送風冷却を行い、冷却前の温度はAr3+50℃以上、冷却速度は5~15℃/sとし、Bs-100℃~Bs-50℃の温度範囲に冷却する;第2段空冷では、管体を自然空冷し、冷却速度は0.5~4℃/sとする(式中、Ar3は冷却時のフェライト析出温度を表し、Bsはベイナイト相変態の開始温度を表す)。
【請求項9】
工程(1)において、溶鋼の過熱度は30℃未満であり、および/または連続鋳造の引き上げ速度は1.8~2.2m/分である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(2)において、工程(1)で得られた素管を冷却した後、加熱炉で加熱し、加熱温度は1240~1300℃とし、加熱時間は3~6時間とする;次いで、穿孔を行い、穿孔温度は1180~1240℃とする;穿孔後に連続圧延を行い、連続圧延温度は1000~1100℃とする;その後、サイジングを行い、サイジング温度はAc3+100℃~Ac3+200℃の範囲とする(式中、Ac3はオーステナイト化温度を示す)、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シームレス鋼管およびその製造方法に関し、特に地質掘削管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、浅部の鉱物資源の段階的な採掘のため、中国は「三深海と一大陸(三深一土)」および「深海掘削と海上権」などの戦略を提案している。地質掘削は段階的に大口径と大深度に向けて開発され始めた。この開発傾向により、掘削管は使用中にますます厳しい引張力、圧力、曲げ力、ねじり力、衝撃力、摩擦および他の複雑な応力に耐えることになる。掘削管は過負荷によって引き起こされる変形、破壊および摩耗故障の問題に非常にさらされやすく、その結果、事故処理コストが高くなり、掘削効率が低くなる。そのため、より高性能の掘削管製品を開発し、産業界の開発需要を満たすことが急務である。
【0003】
現在、従来の地質掘削管製品は、地質工業における深度化に向けた開発の需要をもはや満たすことができなくなった。より高いレベルの地質掘削管製品を実現するためには、焼入れ焼戻し熱処理を施したCr-Mo鋼種を採用する必要がある。先行技術におけるこのような方法は、合金およびプロセスコストが高いだけでなく、熱処理手順が環境保護要件に制限されるため、多くのユーザーは生産条件を備えていない。また、焼入れ焼戻し後の変形と割れの発生しやすさ、およびアプセットエンドの性能のばらつきなどの問題がある。
【0004】
先行技術の欠点と欠陥に鑑み、製造コストが低く、強度と靱性の調和が良好であり、焼入れ焼戻し熱処理を必要とすることなく、焼入れ焼戻し熱処理を施したCr-Mo鋼種のレベルを得ることができ、固体引張性能(performance of solid tensile)とトルク抵抗が良好な高強度・高靱性ベイナイト地質掘削管を得ることが期待される。
【発明の概要】
【0005】
本開示の目的の1つは、製造コストが低く、良好な強度と靭性を有し、焼入れ焼戻し熱処理を必要とすることなく、焼入れ焼戻し熱処理を施したCr-Mo鋼種のレベルを得ることができ、固体引張性能とトルク抵抗が良好なベイナイト地質掘削管を提供することである。ベイナイト地質掘削管は地質掘削工業に効果的に適用でき、地質掘削工業のグリーンで効率的な発展の促進に役立ち、非常に幅広い応用の見通しを有する。
【0006】
上記目的を達成するために、本開示は、以下の質量百分率で以下の化学元素を含むベイナイト地質掘削管を提供する:
0.14~0.22%のC、0.2~0.55%のSi、2.1~2.9%のMn、0.01~0.04%のNb、0.015~0.04%のAl、0.001~0.005%のB、0<N≦0.007%、残部はFeおよび不可避的不純物であり、AlとNの含有比はAl/N≧3である。
【0007】
一実施形態では、ベイナイト地質掘削管は、以下の質量百分率で以下の化学元素を含む:
0.14~0.22%のC、0.2~0.55%のSi、2.1~2.9%のMn、0.01~0.04%のNb、0.015~0.04%のAl、0.001~0.005%のB、0<N≦0.007%、残部はFeおよび不可避的不純物であり、Al/N≧3である;そして、ベイナイト地質掘削管は、元素Cr、MoおよびWを含まない。
【0008】
本開示の上記技術的解決手段では、合理的な化学組成設計を採用することにより、すなわち、中程度から高度の含有量のMnを含むこと、および/または、Cr、Mo、Wおよび他の貴金属元素を含有しない化学組成により、合金コストが低減されるだけでなく、相変態界面での元素拡散に対する元素Mnのドラッギング効果により、ベイナイトの相変態点が明らかに低減されるため、組織の微細化が実現し、製品の強度と靭性が向上する。
【0009】
また本開示のベイナイト地質掘削管の化学組成には、さらに元素Bが添加される。元素BとMnの複合添加は、空冷硬化性をさらに向上させ、安定した粒状ベイナイト組織の形成を保証する。同時に、元素Bは粒界をさらに強化し、島状マルテンサイト(MA island)の過剰な析出を防止し、材料の靭性を向上させる可能性がある。
【0010】
本開示のベイナイト地質掘削管において、各化学元素の設計原理は以下の通り具体的に説明される。
【0011】
C:本開示のベイナイト地質掘削管において、元素Cは管の強度を確保する重要な元素である。元素Cの添加後、ベイナイト組織が安定化し、材料の空冷硬化性が効果的に向上するであろう。鋼中の元素Cの含有量が低すぎると、ベイナイト組織が不安定になり、材料の強度と靭性が悪化する可能性がある。同時に、鋼中の元素Cの含有量が高すぎないように留意する必要がある。鋼中の元素Cの含有量が高すぎると、鋼の靭性と可塑性が低下する可能性がある。したがって、本開示のベイナイト地質掘削管では、元素Cの質量百分率含有量は、0.14%~0.22%に制御される。
【0012】
Si:本開示のベイナイト地質掘削管において、元素Siは、フェライト形成元素であるとともに脱酸元素でもある。元素Siは、組織内でのフェライトの形成を促進し、炭化物の析出を抑制しながら、溶鋼の純度を向上させることができる。しかしながら、鋼中の元素Siの含有量が低すぎると相応する上記の効果が得られず、また鋼中の元素Siの含有量が0.55%を超えると組織の改善が得られないことに留意する必要がある。そこで、本開示のベイナイト地質掘削管では、元素Siの質量百分率含有量は、0.2%~0.55%に制御される。
【0013】
Mn:本開示のベイナイト地質掘削管において、Mnは、材料の空冷硬化性を向上させる重要な元素である。Mo、Cr、Wなどの元素と比較して、元素Mnは非常に安価で入手が容易である。他の元素と比較して、元素Mnはベイナイト組織の変態点を明らかに低下させる可能性があるため、組織が微細化され、強度と靭性が向上する。鋼中の元素Mn含有量が2.1%未満の場合、硬化性の低下により上部ベイナイト組織が形成され、材料の靭性が低下する。鋼中の元素Mnの含有量が2.9%を超えると、Mnの偏析が激しくなり、材料の靭性を悪化させると同時に溶接性を悪化させる場合がある。これに基づいて、本開示のベイナイト地質掘削管では、Mnの質量百分率含有量は2.1%~2.9%に制御される。
【0014】
Nb:本開示のベイナイト地質掘削管では、元素Nbを元素Cと結合させてNbの炭化物を形成し、結晶粒の成長を抑制することで、粒状ベイナイト組織を微細化し、そして材料の強度を向上させることができる。同時に、Nbは、初析フェライトおよび上部ベイナイトの析出をさらに抑制することができるため、より低い冷却速度で安定した粒状組織を得ることができ、島状マルテンサイトの大きさを小さくし、材料の靭性を向上させることができる。したがって、本開示のベイナイト地質掘削管では、元素Nbの質量百分率含有量は0.01%~0.04%に制御される。
【0015】
Al:本開示のベイナイト地質掘削管において、Alは良好な脱酸元素である。しかしながら、鋼中の元素Alの含有量は高すぎないように留意する必要がある。元素Alの添加が多すぎるとアルミナ介在物が生じやすくなる場合がある。そのため、全アルミニウム中の酸可溶性アルミニウムの比重を可能な限り高くし、真空脱気後に適量のAl線を供給する必要がある。したがって、本開示のベイナイト地質掘削管では、元素Alの質量百分率含有量は、0.015%~0.04%に制御される。
【0016】
B:本開示のベイナイト地質掘削管において、元素Bは、材料の硬化性を効果的に高めることができる。元素Bおよび元素Mnの複合添加は、空冷硬化性をさらに向上させ、鋼中の安定した粒状ベイナイト組織の形成を確実にすることができる。さらに、元素Bは、粒界をさらに強化し、島状マルテンサイトの形成を抑制し、そして材料の強度と靭性の調和を改善することができる。鋼中の元素Bの含有量が0.001%未満の場合、その効果は明らかではない。鋼中の元素Bの含有量が高すぎる場合、例えば0.005%よりも高い場合、製鋼プロセスを正確に制御することが困難である。したがって、本開示のベイナイト地質掘削管では、元素Bの質量百分率含有量は、0.001%~0.005%に制御される。
【0017】
N:本開示のベイナイト地質掘削管では、鋼中で元素Nが元素Alと調和して炭窒化物を形成する場合がある。したがって、単一の化学元素の質量百分率含有量を制御する一方で、鋼中の酸可溶性アルミニウムの含有量が確保されるように、元素Alおよび元素Nの質量百分率含有量がAl/N≧3を実現するように制御する必要がある。鋼中の元素Alが元素Nと十分に結合し、これにより元素Nが元素Bと結合して脆い低融点相を形成することが防止され、元素Bによる鋼の硬化性の向上効果が確保され、粒界の脆化が防止される。これに基づいて、本開示のベイナイト地質掘削管では、元素Nの質量百分率含有量は0<N≦0.007%に制御される。
【0018】
一実施形態では、本開示のベイナイト地質掘削管における不可避的不純物において、S≦0.01%、P≦0.006%である。
【0019】
上記の技術的解決手段では、PとSはいずれも鋼中の不可避的不純物元素である。技術的条件が許せば、より優れた性能と品質を有するベイナイト地質掘削管を得るためには、鋼中の不純物元素の含有量を可能な限り低減すべきである。
【0020】
本開示において、鋼中の元素Pの過剰な含有量は、粒界の偏析および脆化を引き起こし、それによって材料の靭性をひどく低下させる可能性がある。また、鋼中の元素Sの含有量が高すぎる場合、鋼中の介在物の含有量の増加を引き起こす場合があり、材料の低温靭性には貢献しない。したがって、技術的条件が許せば、鋼中の元素Pおよび元素Sの含有量は可能な限り低減すべきである。
【0021】
一実施形態において、ベイナイト地質掘削管の微細構造の主体は粒状ベイナイトである。粒状ベイナイトの相比率は95%以上であり、粒状ベイナイトの大きさは4~10μmである。
【0022】
一実施形態では、ベイナイト地質掘削管の微細構造は、3~5%の相比率のオーステナイトをさらに含む。
【0023】
一実施形態では、ベイナイト地質掘削管の肉厚は12~30mmである。
【0024】
一実施形態において、ベイナイト地質掘削管は、焼入れ焼戻し熱処理を必要とすることなく以下の特性を達成することができる:降伏強度が750MPa以上;引張強度が1100MPa以上;硬度が35HRC以上;靭性が60J以上;および残留応力が40MPa以下。
【0025】
本開示の別の目的は、ベイナイト地質掘削管の製造方法を提供することである。この製造方法は、簡単な工程を有する。この製造方法によって得られるベイナイト地質掘削管は、良好な強度と靭性を有し、焼入れ焼戻し熱処理を必要とすることなく、Cr-Mo鋼種の焼入れ焼戻しのレベルを得ることができる。この製造方法により得られるベイナイト地質掘削管は、降伏強度が750MPa以上、引張強度が1100MPa以上、硬度が35HRC以上、靭性が60J以上、そして残留応力が40MPa以下であり、固体引張性能とトルク抵抗が良好である。この製造方法により得られるベイナイト地質掘削管は、地質掘削工業に効果的に適用でき、地質掘削工業のグリーンで効率的な発展を促進し、非常に幅広い応用の見通しを有する。
【0026】
上記目的を達成するために、本開示は、以下の工程を含むベイナイト地質掘削管の製造方法を提供する:
【0027】
(1)溶鋼を製錬および鋳造して素管(pipe blank)を得る工程;
(2)素管に加熱、穿孔、連続圧延、およびサイジングを施し、管体を得る工程;ならびに、
(3)管体を二段空冷する工程:第1段空冷では、管体の外表面に空気循環送風冷却を行う。冷却前の温度はAr3+50℃以上、冷却速度は5~15℃/sとし、Bs-100℃~Bs-50℃の温度範囲に冷却する;第2段空冷では、管体を自然空冷する。冷却速度は0.5~4℃/sとする。なお、Ar3は冷却時のフェライト析出温度を表し、Bsはベイナイト相変態の開始温度を表す。
【0028】
本開示の上記技術的解決手段において、本開示の製造方法は、短い製造プロセスフローと低い製造コストを有し、経済的利益を大幅に向上させ、ユーザーによる次の熱処理を行う必要がなく、最終製品の加工効率と製品品質の安定性を同時に向上させる。
【0029】
上記(3)の第1段空冷において、管体の外表面に空気循環送風冷却を行い、冷却前の温度をAr3+50℃以上、冷却速度を5~15℃/sに制御してBs-100℃~Bs-50℃の温度範囲に冷却すると、これにより初析フェライトと上部ベイナイトの相変態を効果的に回避することができ、粒状ベイナイト形成の過冷却度が増加し、粒状ベイナイト組織が微細化されることに留意する必要がある。
【0030】
本開示の製造方法の工程(3)においては、サイジング後の管体を二段空冷により処理する。広い冷却速度範囲での冷却と調和した空冷高硬化性組成設計の使用により、管は安定した粒状ベイナイト組織(これは厚肉鋼管の構造と性能の安定性に寄与する)を得ることができ、管は低い残留応力を得ることができる。二段空冷により、本開示の方法は、冷却相変態プロセスにおける熱応力と相変態応力の相互相殺を効果的に制御することができ、それにより、最終残留応力を低減し、鋼管の耐変形性を向上させる。
【0031】
一実施形態では、本開示の製造方法の工程(1)において、溶鋼の過熱度は30℃未満であり、および/または連続鋳造の引き上げ速度は1.8~2.2m/分である。
【0032】
一実施形態では、本開示の製造方法の工程(2)において、工程(1)で得られた素管を冷却した後、加熱炉(環状加熱炉など)で加熱する。加熱温度は1240~1300℃であり、加熱時間は3~6時間である;次いで、穿孔を行う。穿孔温度は1180~1240℃である;穿孔後に連続圧延を行う。連続圧延温度は1000~1100℃である;その後、サイジングを行う。サイジング温度はAc3+100℃~Ac3+200℃の範囲である。なお、Ac3はオーステナイト化温度を示す。
【0033】
先行技術と比較して、本開示のベイナイト地質掘削管の製造方法は、以下の利点および有益な効果を有する:
鋼管の化学組成を合理的に最適化および設計し、本開示の製造プロセスと連携することによって、良好な強度と靭性を有する高強度・高靭性ベイナイト地質掘削管を得ることができる。このベイナイト地質掘削管は、室温での機械的性能が良好であるだけでなく、残留応力も低い。
【0034】
本開示のベイナイト地質掘削管は、良好な強度と靭性を有し、焼入れ焼戻し熱処理を必要とすることなく、Cr-Mo鋼種の焼入れ焼戻しレベルを得ることができる。本開示のベイナイト地質掘削管は、降伏強度が750MPa以上、引張強度が1100MPa以上、硬度が35HRC以上、靭性が60J以上、そして残留応力が40MPa以下であり、固体引張性能とトルク抵抗が良好である。
【0035】
本開示のベイナイト地質掘削管の製造方法は、短い製造プロセスフローを有し、経済的利益を大幅に向上させ、ユーザーによる次の熱処理を行う必要がなく、最終製品の加工効率と製品品質の安定性を同時に向上させ、地質掘削工業のグリーンで効率的な発展を促進し、非常に幅広い応用の見通しを有する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、500倍の顕微鏡下での実施例1のベイナイト地質掘削管の典型的な金属組織図である。
図2図2は、2000倍の走査型電子顕微鏡下での実施例1のベイナイト地質掘削管の微細構造写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本開示のベイナイト地質掘削管およびその製造方法を、本明細書の具体例および添付図面と共に説明および記載する。しかしながら、この説明および記載は、本開示の技術的解決手段を不当に限定するものではない。
【実施例
【0038】
実施例1~6および比較例1~6
実施例1~6のベイナイト地質掘削管および比較例1~5の比較鋼管を、以下の工程により製造する:
【0039】
(1)表1に示す化学成分に従って、電気炉または転炉を用いて製錬と鋳造を行い、素管を得る:スクラップ鋼と高炉溶鉄の混合方式を採用する。溶鉄の割合は50~60%である。電気炉を通して製錬し、炉外で精錬し、真空脱気し、アルゴンガスで攪拌した後、Ca処理により介在物変性を行い、OとHの含有量を低減する。合金を円形素管に鋳造し、鋳造プロセスでは溶鋼の過熱度を30℃未満に制御し、連続鋳造の引き上げ速度を1.8~2.2m/分に制御して成分偏析を低減する。
【0040】
(2)加熱、穿孔、熱間圧延、サイジング:素管を冷却した後、環状加熱炉で加熱する。加熱温度は1240~1300℃に制御し、加熱時間は3~6時間に制御する;穿孔を行う。穿孔温度は1180~1240℃に制御する;穿孔後に連続圧延を行う。連続圧延温度は1000~1100℃に制御する;その後サイジングを行う。サイジング温度はAc3+100℃~Ac3+200℃の範囲に制御する(Ac3はオーステナイト化温度を示す)。
【0041】
(3)二段空冷:サイジング後の管体に対して二段空冷を行う。第1段空冷では、管体の外表面に空気循環送風冷却を行う。冷却前の温度はAr3+50℃以上、冷却速度は5~15℃/sとし、Bs-100℃~Bs-50℃の温度範囲に冷却する;第2段空冷では、管体を自然空冷する。冷却速度は0.5~4℃/sである。なお、Ar3は冷却時のフェライト析出温度を表し、Bsはベイナイト相変態の開始温度を表す。
【0042】
比較例6の比較鋼管は、サイジング後の管体の冷却を二段空冷ではなく自然空冷のみとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で製造する。
【0043】
実施例1~6のベイナイト地質掘削管の化学組成設計および関連プロセスは、本開示の設計仕様要件を満たす。比較例1~6の比較鋼管の化学組成設計または関連プロセスには、本開示の設計仕様要件を満たさないパラメータが存在する。
【0044】
比較例1の比較鋼管における元素Cの含有量は設計範囲未満であること;比較例2の比較鋼管における元素Mnの含有量は設計範囲未満であること;比較例3の比較鋼管における元素Nbの含有量は設計範囲未満であること;比較例4の比較鋼管における元素Cの含有量は設計範囲を超えること;比較例5の比較鋼管におけるAl/Nの値は設計範囲を満たさないこと;比較例6の比較鋼管の化学組成設計は本開示の設計範囲を満たすが、製造プロセスにおいてサイジング後に二段空冷を行わず、自然空冷のみを行うことに留意する必要がある。
【0045】
表1に、実施例1~6のベイナイト地質掘削管および比較例1~6の比較鋼管の各化学元素の質量百分率比を挙げる。
【0046】
【表1】
【0047】
表2-1および表2-2に、上記プロセス工程における実施例1~6のベイナイト地質掘削管および比較例1~6の比較鋼管の具体的なプロセスパラメータを挙げる。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
得られた実施例1~6のベイナイト地質掘削管および比較例1~6の比較鋼管をそれぞれサンプリングし、各実施例および比較例の完成した管の機械的性能をそれぞれ室温で試験する。各実施例および比較例の機械的性能試験結果をそれぞれ表3に挙げる。
【0051】
関連する性能試験方法は以下の通りである:
機械的性能試験:検出条件:温度23℃、湿度56%、引張速度 降伏点の前3mm/分、降伏点の後28mm/分。そして「GB/T 228.1-2010 金属材料引張試験 第1部:室温での引張試験」の条件に従って試験する。
【0052】
表3に、実施例1~6のベイナイト地質掘削管および比較例1~6の比較鋼管の機械的性能試験結果を示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表3からわかるように、比較例1~6の比較鋼管と比較して、本開示の実施例1~6のベイナイト地質掘削管は、機械的性能に非常に優れ、強度と靭性が良好であり、降伏強度は780MPa~900MPaであり、引張強度は1120MPa~1200MPaであり、硬度は35HRC~40HRCであり、残留応力は0MPa~35MPaであり、室温での縦方向衝撃靭性は65J~100Jである。
【0055】
それに対して、比較例1~5の比較鋼管の総合的な性能は、実施例1~6のベイナイト地質掘削管よりも明らかに劣っている。比較例1~2の比較鋼管は、降伏強度と引張強度が非常に弱く、また室温での縦方向衝撃靭性および硬度も劣る;比較例3の比較鋼管は、降伏強度と引張強度が非常に弱く、硬度は劣り、また靭性も要求を満たしていない;比較例4の比較鋼管は、降伏強度、引張強度、硬度は高いが、室温での縦方向衝撃靭性が劣り、また残留応力が高い;比較例5の比較鋼管は、降伏強度、室温での縦方向衝撃靭性および硬度が劣り、また残留応力が高い。
【0056】
比較例6の比較鋼管は、化学組成設計は本開示の設計仕様要件を満たしているが、プロセス中のサイジング後に二段空冷を採用していないため、残留応力が非常に高く、また室温での縦方向衝撃靭性が悪い。
【0057】
要約すると、実施例1~6のベイナイト地質掘削管は、良好な強度と靭性を有し、焼入れ焼戻し熱処理を必要とすることなく、Cr-Mo鋼種の焼入れ焼戻しレベルを得ることができ、降伏強度が750MPa以上であり、引張強度が1100MPa以上であり、硬度が35HRC以上であり、靭性が60J以上であり、残留応力が40MPa以下であり、固体引張性能とトルク抵抗が良好であり、製造プロセスフローが短く、経済効果を大幅に向上させ、ユーザーによる次の熱処理を行う必要がなく、最終製品の加工効率と製品品質の安定性を同時に向上させ、地質掘削工業のグリーンで効率的な発展を促進し、非常に幅広い応用の見通しを有するということが分かる。
【0058】
図1は、500倍の顕微鏡下での実施例1のベイナイト地質掘削管の典型的な金属組織図である。
【0059】
図2は、2000倍の走査型電子顕微鏡下での実施例1のベイナイト地質掘削管の微細構造写真である。
【0060】
図1および図2に示すように、実施例1のベイナイト地質掘削管の主体は、均質な粒状のベイナイト組織を有する粒状ベイナイトであり、大きさは4~10μmである。またベイナイト地質掘削管は、相比率3~5%の少量のオーステナイトを含む。
【0061】
実施例1のベイナイト地質掘削管の残留応力の後の形態は、スリット法を用いて試験することができる。実施例1の残留応力は小さく、スリット後の管体は基本的に閉じており、その後の加工および使用における変形を効果的に防止することができる。
【0062】
当該事例における様々な技術的特徴の組み合わせは、特許請求の範囲に記載された組み合わせ、または当該事例の特定の実施形態に記載された組み合わせに限定されないことに留意する必要がある。本開示に記載された全ての技術的特徴は、それらの間に矛盾がない限り、どんな方法でも自由に組み合わせ、または結合することができる。
【0063】
上記の実施例は、本開示の特定の実施形態に過ぎないことにも留意する必要がある。明らかに、本開示は上記実施例に限定されず、それに応じて行われる同様の変化または変形は、当業者であれば容易に思いつくか、または本開示の内容から直接得ることができ、すべて本開示の保護範囲に含まれるべきある。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-10-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の質量百分率で、以下の化学元素を含み:
0.14~0.22%のC、0.2~0.55%のSi、2.1~2.9%のMn、0.01~0.04%のNb、0.015~0.04%のAl、0.001~0.005%のB、0<N≦0.007%、残部はFeおよび不可避的不純物;
AlとNの含有比はAl/N≧3である、ベイナイト地質掘削管。
【請求項2】
以下の質量百分率で、以下の化学元素を含み:
0.14~0.22%のC、0.2~0.55%のSi、2.1~2.9%のMn、0.01~0.04%のNb、0.015~0.04%のAl、0.001~0.005%のB、0<N≦0.007%、残部はFeおよび不可避的不純物;
Al/N≧3であり;
ベイナイト地質掘削管は、Cr、MoおよびWを含まない、
請求項1に記載のベイナイト地質掘削管。
【請求項3】
不可避的不純物において、S≦0.01%、およびP≦0.006%である、請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管。
【請求項4】
ベイナイト地質掘削管の微細構造の主体が粒状ベイナイトであり、粒状ベイナイトの相比率が95%以上であり、粒状ベイナイトの大きさが4~10μmである、請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管。
【請求項5】
ベイナイト地質掘削管の微細構造が、3~5%の相比率のオーステナイトをさらに含む、請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管。
【請求項6】
ベイナイト地質掘削管の肉厚が12~30mmである、請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管。
【請求項7】
ベイナイト地質掘削管が、焼入れ焼戻し熱処理を必要とすることなく、以下の特性を達成する、請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管:
降伏強度が750MPa以上;引張強度が1100MPa以上;硬度が35HRC以上;靭性が60J以上;および残留応力が40MPa以下。
【請求項8】
請求項1または2に記載のベイナイト地質掘削管の製造方法であって、以下の工程を含むベイナイト地質掘削管の製造方法:
(1)溶鋼を製錬および鋳造して素管を得る工程;
(2)素管に加熱、穿孔、連続圧延、およびサイジングを施し、管体を得る工程;ならびに、
(3)管体を二段空冷する工程:第1段空冷では、管体の外表面に空気循環送風冷却を行い、冷却前の温度はAr3+50℃以上、冷却速度は5~15℃/sとし、Bs-100℃~Bs-50℃の温度範囲に冷却する;第2段空冷では、管体を自然空冷し、冷却速度は0.5~4℃/sとする(式中、Ar3は冷却時のフェライト析出温度を表し、Bsはベイナイト相変態の開始温度を表す)。
【請求項9】
工程(1)において、溶鋼の過熱度は30℃未満であり、および/または連続鋳造の引き上げ速度は1.8~2.2m/分である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(2)において、工程(1)で得られた素管を冷却した後、加熱炉で加熱し、加熱温度は1240~1300℃とし、加熱時間は3~6時間とする;次いで、穿孔を行い、穿孔温度は1180~1240℃とする;穿孔後に連続圧延を行い、連続圧延温度は1000~1100℃とする;その後、サイジングを行い、サイジング温度はAc3+100℃~Ac3+200℃の範囲とする(式中、Ac3はオーステナイト化温度を示す)、請求項8に記載の方法。
【国際調査報告】