(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】新規なクエン酸シンターゼ変異体及びそれを用いたL-アミノ酸生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20240214BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20240214BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240214BHJP
C12P 13/12 20060101ALI20240214BHJP
C12P 13/06 20060101ALN20240214BHJP
C12P 13/08 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C12N15/54
C12N9/10 ZNA
C12N1/21
C12P13/12 A
C12P13/06 E
C12P13/08 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551745
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(85)【翻訳文提出日】2023-08-24
(86)【国際出願番号】 KR2022003359
(87)【国際公開番号】W WO2022191635
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0031641
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ジン スク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジュ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソン ヘ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ソン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ビョン フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、スン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジェミン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソ-ユン
(72)【発明者】
【氏名】イ、イムサン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE03
4B064AE05
4B064AE09
4B064AE16
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA24X
4B065AA24Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA17
(57)【要約】
本出願は、新規なクエン酸シンターゼ(Citrate synthase)変異体、上記変異体を含む微生物及び上記微生物を用いたL-アミノ酸生産方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列の415番目の位置に対応するアミノ酸であるリシンがヒスチジンで置換された、クエン酸シンターゼ変異体。
【請求項2】
前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有する、請求項1に記載の変異体。
【請求項3】
前記変異体は、配列番号3のアミノ酸配列で記載されたポリペプチドを含む、請求項1に記載の変異体。
【請求項4】
前記変異体は、下記一般式1のアミノ酸配列で記載されたポリペプチドを含む、請求項1に記載の変異体:
[一般式1]
X
1N HGGDATX
2FMN KVKNKEDGVR LMGFGHRVYK NYDPRAAIVK ETAHEILEHL GGDDLLDLAI KLEEIALADD X
3FISRKLYPN VDFYTGLIYR AMGFPTDFFT VLFAIGRLPG WIAHYREQLG AAGNH(配列番号51);
ここで、前記一般式1のX
1はアスパラギンまたはセリンであり、
X
2はアラニンまたはグルタミン酸であり、
X
3はチロシンまたはシステインである。
【請求項5】
前記変異体は、配列番号8、10または12のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有する、請求項1に記載の変異体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号1のアミノ酸配列の415番目の位置に対応するアミノ酸であるリシンがヒスチジンで置換されたクエン酸シンターゼ変異体または前記変異体をコードするポリヌクレオチドを含む、コリネバクテリウム属微生物。
【請求項8】
前記微生物は、L-バリンまたはO-アセチル-L-ホモセリン生産能を有する、請求項7に記載の微生物。
【請求項9】
前記微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムである、請求項7に記載の微生物。
【請求項10】
配列番号1のアミノ酸配列の415番目の位置に対応するアミノ酸であるリシンがヒスチジンで置換されたクエン酸シンターゼ変異体または前記変異体をコードするポリヌクレオチドを含むコリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階を含む、L-アミノ酸生産方法。
【請求項11】
前記方法は、培養された培地または微生物からL-アミノ酸を回収する段階をさらに含む、請求項10に記載のL-アミノ酸生産方法。
【請求項12】
前記L-アミノ酸は、L-バリン、O-アセチル-L-ホモセリンまたはL-メチオニンである、請求項10に記載のL-アミノ酸生産方法。
【請求項13】
配列番号1のアミノ酸配列の415番目の位置に対応するアミノ酸であるリシンがヒスチジンで置換されたクエン酸シンターゼ変異体または前記変異体をコードするポリヌクレオチドを含むコリネバクテリウム属微生物;それを培養した培地;またはそれらの組み合わせを含むL-アミノ酸生産用組成物。
【請求項14】
前記L-アミノ酸は、L-バリン、O-アセチル-L-ホモセリンまたはL-メチオニンである、請求項13に記載のL-アミノ酸生産用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、新規なクエン酸シンターゼ(Citrate synthase)変異体、上記変異体を含む微生物及び上記微生物を用いたL-アミノ酸生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸及びその他有用物質を生産するために、高効率生産微生物及び発酵工程技術の開発のための多様な研究が行われている。例えば、L-バリン生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させたりまたは生合成に不要な遺伝子を除去することのような目的物質特異的アプローチ方法が主に用いられている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
一方、クエン酸シンターゼ(Citrate synthase;CS)は、微生物の解糖過程で生成されるアセチルCoAとオキサロ酢酸を重合してクエン酸を生成する酵素であり、また、TCA経路への炭素流入を決定する重要な酵素である。
【0004】
クエン酸シンターゼをコードするgltA遺伝子欠損によるL-リシン生産菌株のphenotype変化に関する内容は先行文献に報告されている(非特許文献1)。しかし、gltA遺伝子欠損菌株の場合、菌株の生長が阻害されるだけでなく、糖消耗速度が大幅に減少して単位時間当たりのリシン生産量が低い短所がある。従って、効果的なL-アミノ酸の生産能の増加及び菌株の生長をともに考慮した研究が依然として必要なのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第8465962号明細書
【特許文献2】韓国登録特許第10-2153534号公報
【特許文献3】韓国登録特許第10-1992-0007401号公報
【特許文献4】米国特許第7662943号明細書
【特許文献5】米国特許第10584338号明細書
【特許文献6】米国特許第10273491号明細書
【特許文献7】米国特許第8426171号明細書
【特許文献8】韓国公開特許第10-2020-0136813号公報
【特許文献9】韓国登録特許第10-1947945号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ooyen et al.,Biotechnol.Bioeng.,109(8):2070-2081,2012
【非特許文献2】Pearson et al(1988)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85]: 2444
【非特許文献3】Rice et al.,2000,Trends Genet.16:276-277
【非特許文献4】Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48443-453
【非特許文献5】Devereux,J.,et al,Nucleic Acids Research 12:387(1984)
【非特許文献6】Atschul,[S.][F.,][ET AL,J MOLEC BIOL 215]:403(1990)
【非特許文献7】Guide to Huge Computers,Martin J.Bishop,[ED.,]Academic Press,San Diego,1994
【非特許文献8】[CARILLO ET AL/.](1988)SIAM J Applied Math 48:1073
【非特許文献9】Smith and Waterman,Adv.Appl.Math(1981)2:482
【非特許文献10】Schwartz and Dayhoff,eds.,Atlas Of Protein Sequence And Structure,National Biomedical Research Foundation,pp.353-358(1979)
【非特許文献11】Gribskov et al(1986)Nucl.Acids Res.14:6745
【非特許文献12】J.Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989
【非特許文献13】F.M.Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,Inc.,New York,9.50-9.51,11.7
【非特許文献14】Biotechnology letters vol 13,No.10,p.721-726(1991)
【非特許文献15】Nakashima N et al.,Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing.Int J Mol Sci.2014;15(2):2773-2793
【非特許文献16】Sambrook et al.Molecular Cloning 2012
【非特許文献17】Weintraub, H.et al.,Antisense-RNA as a molecular tool for genetic analysis,Reviews-Trends in Genetics,Vol.1(1)1986
【非特許文献18】Sitnicka et al.Functional Analysis of Genes.Advances in Cell Biology.2010,Vol.2.1-16
【非特許文献19】“Manual of Methods for General Bacteriology” by the American Society for Bacteriology(Washington D.C.,USA,1981)
【非特許文献20】Biotechnology and Bioprocess Engineering,June 2014,Volume 19,Issue 3,pp 456-467
【非特許文献21】van der Rest et al.,Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、L-アミノ酸を高収率で生産するために鋭意努力した結果、新規なクエン酸シンターゼ変異体がL-アミノ酸生産能を増加させることを確認することにより、本出願を完成した。
【0008】
本出願の一つの目的は、配列番号1のアミノ酸配列の415番目の位置に対応するアミノ酸であるリシンがヒスチジンで置換された、クエン酸シンターゼ変異体を提供することにある。
【0009】
本出願の他の目的は、本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドを提供することにある。
【0010】
本出願の他の目的は、本出願の変異体または上記変異体をコードするポリヌクレオチドを含む、コリネバクテリウム属微生物を提供することにある。
【0011】
本出願のもう一つの目的は、本出願の微生物を用いてL-アミノ酸を生産する方法を提供することにある。
【0012】
本出願のもう一つの目的は、本出願の微生物;本出願の微生物を培養した培地;あるいは、それらの組み合わせを含むL-アミノ酸生産用組成物を提供することにある。
【0013】
発明の効果
本出願のクエン酸シンターゼ変異体を用いる場合、高収率のL-アミノ酸生産が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用することができる。すなわち、本出願で開示された様々な要素の全ての組み合わせが、本出願の範囲に属する。また、以下に記載される具体的な記述により本出願の範囲が制限されるとは見られない。また、本明細書の全体にわたって多数の論文及び特許文献が参照され、その引用が表示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容は、その全体として本明細書に参照として組み込まれ、本出願が属する技術分野の水準及び本出願の内容がより明確に説明される。
【0015】
本出願の一つの様態は、配列番号1のアミノ酸配列の415番目の位置に対応するアミノ酸であるリシンがヒスチジンで置換された、クエン酸シンターゼ変異体を提供することである。
【0016】
本出願の変異体は、上記配列番号1で記載されたアミノ酸配列において配列番号1のアミノ酸配列を基準に415番目の位置に対応するアミノ酸はヒスチジン(Histidine)であり、上記配列番号1で記載されたアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%または99.9%以上の相同性または同一性を有する変異体であってもよい。例えば、本出願の変異体は、上記配列番号1で記載されたアミノ酸配列において配列番号1のアミノ酸配列を基準に415番目の位置に対応するアミノ酸はヒスチジンであり、上記配列番号1で記載されたアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%または99.9%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を有してもよく、含んでもよく、または上記アミノ酸配列で構成されてもよく、必須に構成されてもよい。また、このような相同性または同一性を有し、本出願の変異体に対応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、保存的置換または付加されたアミノ酸配列を有する変異体も本出願の範囲内に含まれることは自明である。
【0017】
例えば、上記アミノ酸配列のN末端、C末端そして/または内部に本出願の変異体の機能を変更しない配列の追加または欠失、自然に発生し得る突然変異、サイレント突然変異(silent mutation)または保存的置換を有する場合である。
【0018】
上記「保存的置換(conservative substitution)」は、あるアミノ酸を類似した構造的及び/または化学的性質を有する他のアミノ酸で置換させることを意味する。このようなアミノ酸置換は、一般に、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて起こり得る。通常、保存的置換はタンパク質またはポリペプチドの活性にほとんど影響を及ぼさないか、または影響を及ぼさなくてもよい。
【0019】
本出願において、用語「変異体(variant)」とは、一つ以上のアミノ酸が保存的置換(conservative substitution)及び/又は変形(modification)され、前記変異体の変異前のアミノ酸配列とは異なるが、機能(functions)または特性(properties)が維持されるポリペプチドを指す。そのような変異体は、一般に、上記ポリペプチドのアミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸を変形し、前記変形ポリペプチドの特性を評価して同定(identify)され得る。即ち、変異体の能力は、変異前のポリペプチドに比べて増加したり、変化しないか、または減少されてもよい。また、一部の変異体は、N末端リーダー配列または膜貫通ドメイン(transmembrane domain)などの1つ以上の部分が除去された変異体を含んでもよい。他の変異体は、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異体を含んでもよい。上記用語「変異体」は、変異型、変形、変異型ポリペプチド、変異タンパク質、変異及び変異体などの用語(英文表現ではmodification、modified polypeptide、modified protein、mutant, mutein、divergentなど)を混用することができ、変異された意味で使用される用語であれば、これに限定されない。本出願の目的上、上記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列の415番目の位置に対応するアミノ酸であるリシン(Lysine,Lys,K)がヒスチジン(Histidine,His,H)で置換された変異体であってもよい。
【0020】
また、変異体は、ポリペプチドの特性と二次構造に最小の影響を有するアミノ酸の欠失または付加を含んでもよい。例えば、変異体のN末端には翻訳と同時に(co-translationally)または翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移動(translocation)に関与するシグナル(またはリーダ)配列がコンジュゲートされてもよい。また、上記変異体は、確認、精製、または合成可能に、他の配列またはリンカーとコンジュゲートされてもよい。
【0021】
本出願において、用語「相同性(homology)」または「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列相互間の類似度を意味し、百分率で表すことができる。用語の相同性及び同一性はしばしば互換的に使用することができる。
【0022】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は、標準配列アルゴリズムにより決定され、使用されるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に使用されてもよい。実質的に、相同性を有したり(homologous)または同一の(identical)配列は、一般に、配列の全体または一部分と中程度または高いストリンジェントな条件(stringent conditions)でハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドにおける一般のコドンまたはコドン縮退性を考慮したコドンを含有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることが自明である。
【0023】
任意の二つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、Pearson et al(1988)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85]:2444でのようなデフォルトパラメータを用いて「FASTA」プログラムなどの既知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定されてもよい。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al.,2000,Trends Genet.16:276-277)(バージョン5.0.0または以降のバージョン)で行われるような、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443-453)を使用して決定されてもよい(GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.,et al,Nucleic Acids Research 12:387(1984)),BLASTP,BLASTN,FASTA(Atschul,[S.][F.,][ET AL,J MOLEC BIOL 215]:403(1990);Guide to Huge Computers,Martin J.Bishop,[ED.,]Academic Press,San Diego,1994、及び[CARILLO ET AL/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLAST、またはClustalWを用いて相同性、類似性または同一性を決定することができる。
【0024】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、Smith and Waterman,Adv.Appl.Math(1981)2:482において公知となっているように、例えば、Needleman et al.(1970),J Mol Biol.48:443のようなGAPコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することにより決定されてもよい。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列中、より短いものにおける記号の総数であり、類似の配列された記号(即ち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を除した値と定義することができる。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)二進法比較マトリックス(同一性のために1、そして非同一性のために0の値を含有する)及びSchwartz and Dayhoff,eds.,Atlas Of Protein Sequence And Structure,National Biomedical Research Foundation,pp.353-358(1979)により開示されているように、Gribskov et al(1986)Nucl.Acids Res.14:6745の加重比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップにおいて各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5);及び(3)末端ギャップのための無ペナルティを含むことができる。
【0025】
本出願において、用語「対応する(corresponding to)」は、ポリペプチドで列挙される位置のアミノ酸残基であるか、またはポリペプチドで列挙される残基と類似または同一または相同のアミノ酸残基を指す。対応する位置のアミノ酸を確認することは、特定の配列を参照する配列の特定のアミノ酸を決定することであってもよい。本出願で使用される「対応する領域」は、一般に、関連タンパク質または比較(reference)タンパク質における類似または対応する位置を指す。
【0026】
例えば、任意のアミノ酸配列を配列番号1と整列(align)し、これに基づいて上記アミノ酸配列の各アミノ酸残基は、配列番号1のアミノ酸残基と対応するアミノ酸残基の数字の位置を参照して番号付けすることができる。例えば、本出願に記載されているような配列整列アルゴリズムは、クエリシーケンス(「参照配列」ともいう)に比べてアミノ酸の位置、または置換、挿入または欠失などの変形が発生する位置を確認することができる。
【0027】
そのような整列には、例えば、Needleman-Wunschアルゴリズム(Needleman及びWunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443-453)、EMBOSSパッケージのNeedleプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al.,2000、Trends Genet.16:276-277)などを用いることができるが、これに限定されず、当業界に知られている配列整列プログラム、ペアワイズ配列(pairwise sequence)比較アルゴリズムなどを適宜用いることができる。
【0028】
本出願において、用語「クエン酸シンターゼ(Citrate synthase)」は、微生物の解糖過程で生成されるアセチルCoAとオキサロ酢酸を重合してクエン酸を生成する酵素である。また、上記酵素はアセチルCoAと4-炭素オキサロ酢酸の分子からの2-炭素アセテート残基の縮合反応を触媒して6-炭素オキサロ酢酸を形成することができる。本出願の用語「クエン酸シンターゼ」は、クエン酸合成酵素、CS、GltAタンパク質またはGltAで混用され得る。本出願において上記GltAは公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列を得ることができる。併せて、上記GltAはgltA遺伝子によりコードされるクエン酸シンターゼ活性を有するポリペプチドであってもよいが、これに制限されない。
【0029】
本出願の変異体は野生型ポリペプチドに比べてL-バリン生産能が増加するようにする活性を有することができる。
【0030】
本出願の変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するものであってもよい。
【0031】
また、本出願の変異体は、配列番号3のアミノ酸配列で記載されたポリペプチドを含んでもよい。上記配列番号3のアミノ酸配列は、配列番号1で記載されたアミノ酸配列のN末端から362~415番目の位置のアミノ酸配列で415番目の位置に対応するリシンがヒスチジンで置換されたアミノ酸配列であってもよい。
【0032】
本出願の変異体は、下記一般式1のアミノ酸配列を含んでもよい:
【0033】
[一般式1]
X1N HGGDATX2FMN KVKNKEDGVR LMGFGHRVYK NYDPRAAIVK ETAHEILEHL GGDDLLDLAI KLEEIALADD X3FISRKLYPN VDFYTGLIYR AMGFPTDFFT VLFAIGRLPG WIAHYREQLG AAGNH(配列番号51)
【0034】
ここで、上記一般式1のX1はアスパラギンまたはセリンであり、
X2はアラニンまたはグルタミン酸であり、
X3はチロシンまたはシステイン。
【0035】
本出願の変異体は、配列番号8、10または12のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有することができる。また、本出願の変異体は、配列番号8、10または12のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むんでもよく、上記アミノ酸配列で構成されてもよく、必須に構成されてもよい。一例として、本出願の変異体は、配列番号8、10または12のアミノ酸配列と90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または99.7%以上の配列同一性を有してもよく、上記配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、上記配列同一性を有するアミノ酸配列で構成されてもよく、必須に構成されてもよい。
【0036】
本出願のもう一つの様態は、本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドを提供することである。
【0037】
本出願において、用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド単位体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であり、一定の長さ以上のDNAまたはRNA鎖であって、より具体的には、上記変異体をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0038】
本出願のポリヌクレオチドは、配列番号2の核酸塩基配列を基準に1243~1245番目の位置に対応する塩基はCACであり、上記配列番号2で記載された核酸塩基配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%、または99.9%以上、100%未満の相同性または同一性を有する核酸塩基配列で記載されたポリヌクレオチドを含んでもよい。また、このような相同性または同一性を有し、本出願の変異体に対応する効能を示すポリペプチドやタンパク質をコードする配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、保存的置換または付加された核酸塩基配列で記載されたポリヌクレオチドも本出願の範囲内に含まれることは自明である。
【0039】
本出願のポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)または本出願の変異体を発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮し、本出願の変異体のアミノ酸配列を変化させない範囲内でコード領域に多様な変形が行われてもよい。この時、上記相同性または同一性を有する配列において、配列番号1の415番目の位置に対応するアミノ酸をコードするコドンは、ヒスチジンをコードするコドンの一つであってもよい。
【0040】
また、本出願のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列から製造されるプローブ、例えば、本出願のポリヌクレオチド配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる配列であれば、制限なく含まれる。上記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は文献(J.Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor, New York, 1989; F.M. Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,New York,9.50-9.51,11.7参照)に具体的に記載されている。例えば、相同性または同一性の高いポリヌクレオチド同士、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の相同性または同一性を有するポリヌクレオチド同士ハイブリダイズし、それより相同性または同一性の低いポリヌクレオチド同士をハイブリダイズしない条件、またはサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より具体的には、68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的に2回~3回洗浄する列挙することができる。
【0041】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することを要求する。用語「相補的」は、互いにハイブリダイゼーション可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに使用される。例えば、DNAに関し、アデニンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。従って、本出願のポリヌクレオチドは、また、実質的に類似の核酸塩基配列だけでなく、全体配列に相補的な単離された核酸断片を含んでもよい。
【0042】
具体的には、本出願のポリヌクレオチドと相同性または同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーション段階を含むハイブリダイゼーション条件を用い、上述の条件を用いて探知することができる。また、上記Tm値は60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節されてもよい。
【0043】
上記ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーは、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当技術分野においてよく知られている(例えば、J.Sambrook et al.,同上)。
【0044】
一例として、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号9、11または13の核酸塩基配列を基準に1084~1245番目の位置の核酸塩基配列で記載されたポリヌクレオチド、または、配列番号9、11、13または15の核酸塩基配列で記載されたポリヌクレオチドを含んでもよい。
【0045】
本出願のポリヌクレオチドにおいて、上記変異体は、上記他の様態で記載した通りである。
【0046】
本出願の他の一つの様態は、本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを提供することである。上記ベクターは、上記ポリヌクレオチドを宿主細胞で発現させるための発現ベクターであってもよいが、これに制限されない。
【0047】
本出願のベクターは、適切な宿主内で目的ポリペプチドを発現させることができるように、適切な発現調節領域(または発現調節配列)に作動可能に連結された上記目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含むDNA製造物を含んでもよい。前記発現調節領域は、転写を開始し得るプロモーター、そのような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含んでもよい。ベクターは、適切な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムとは無関係に複製または機能することができ、ゲノム自体に統合されてもよい。
【0048】
本出願で使用されるベクターは、特に限定されず、当業界に知られている任意のベクターを利用することができる。通常使用されるベクターの例としては、天然状態または組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージを挙げることができる。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとしてpWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、及びCharon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしてpDZ系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いることができる。具体的には、pDZ、pDC、pDCM2、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117(Biotechnology letters vol 13,No.10,p.721-726(1991)、韓国登録特許第10-1992-0007401号公報)、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0049】
一例として、細胞内における染色体挿入用ベクターを通じて目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを染色体内に挿入することができる。上記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界に知られている任意の方法、例えば、相同組換え(homologous recombination)により行われてもよいが、これに限定されない。前記染色体の挿入有無を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。上記選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、即ち、目的核酸分子の挿入有無を確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面ポリペプチドの発現のような選択可能表現型を付与するマーカーが使用される。選択剤(selectiveagent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみが生存するか、または他の発現形質を示すため、形質転換された細胞を選別することができる。
【0050】
本出願における用語「形質転換」とは、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞または微生物内に導入し、宿主細胞内で上記ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドが発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現できる限り、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、または染色体外に位置するかに関係なく、それらいずれも含んでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、目的のポリペプチドをコードするDNA及び/又はRNAを含む。上記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、如何なる形態でも導入されてもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自体で発現されるのに必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。上記発現カセットは、通常、上記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結信号、リボソーム結合部位、及び翻訳終結信号を含んでもよい。上記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、上記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されているものであってもよく、これに制限されない。
【0051】
また、前記において用語「作動可能に連結」されたとは、本出願の目的変異体をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介させるプロモーター配列と上記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されていることを意味する。
【0052】
本出願のベクターにおいて、変異体及びポリヌクレオチドは、上記他の様態で記載した通りである。
【0053】
本出願の他の一つの様態は、本出願の変異体または本出願のポリヌクレオチドを含む、コリネバクテリウム属(The genus of Corynebacterium)微生物を提供することである。
【0054】
本出願の微生物は、本出願の変異体、上記変異体をコードするポリヌクレオチド、または本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを含んでもよい。
【0055】
本出願において、用語「微生物(または、菌株)」は、野生型微生物や天然または人為的に遺伝的変形が起こった微生物を全て含み、外部遺伝子が挿入されたり、内在的遺伝子の活性が強化または不活性化されるなどの原因により、特定の機序が弱化または強化された微生物であり、所望のポリペプチド、タンパク質または産物の生産のために遺伝的変形(modification)を含む微生物であってもよい。
【0056】
本出願の微生物は、本出願の変異体、本出願のポリヌクレオチド及び本出願のポリヌクレオチドを含むベクターのいずれか一つ以上を含む微生物;本出願の変異体または本出願のポリヌクレオチドを発現するように変形された微生物;本出願の変異体、または本出願のポリヌクレオチドを発現する微生物(例えば、組換え菌株);または本出願の変異体活性を有する微生物(例えば、組換え菌株)であってもよいが、これに制限されない。
【0057】
本出願の微生物は、L-アミノ酸生産能を有する菌株であってもよい。具体的には、本出願の微生物において上記L-アミノ酸生産能は、L-バリンまたはO-アセチル-L-ホモセリン生産能であってもよい。
【0058】
本出願の微生物は、天然にGltAまたはL-アミノ酸生産能を有している微生物、またはGltAまたはL-アミノ酸生産能のない親株に、本出願の変異体またはこれをコードするポリヌクレオチド(または上記ポリヌクレオチドを含むベクター)が導入されるか、及び/またはGltAまたはL-アミノ酸生産能が与えられた微生物であってもよいが、これに限定されない。
【0059】
一例として、本出願の微生物は、本出願のポリヌクレオチドまたは本出願のポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換され、本出願の変異体を発現する細胞または微生物であり、本出願の目的上、出願の微生物は、本出願の変異体を含みL-アミノ酸を生産することができる全ての微生物を含んでもよい。例えば、本出願の菌株は、天然の野生型微生物、またはL-アミノ酸を生産する微生物に本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドが導入されることによりL-アミノ酸生産能が増加した組換え菌株であってもよい。上記L-アミノ酸生産能が増加した組換え菌株は、天然の野生型微生物、またはクエン酸シンターゼ非変形微生物(即ち、野生型(配列番号1)タンパク質を発現する微生物または本出願の変異体を発現しない微生物)に比べてL-アミノ酸生産能が増加した微生物であってもよいが、これに制限されるものではない。その例として、上記L-アミノ酸生産能の増加有無を比較する対象菌株である、クエン酸シンターゼ非変形微生物は、ATCC14067菌株、ATCC13032菌株、ATCC13869菌株、コリネバクテリウム・グルタミカムCJ7V菌株、コリネバクテリウム・グルタミカムCJ8V菌株またはCA08-0072菌株であってもよいが、これに制限されない。
【0060】
一例として、上記生産能が増加した組換え菌株は、変異前の親株または非変形微生物に比べて、L-アミノ酸生産能が約1%以上、5%以上、7%以上、約10%以上、約20%以上、または約30%以上(上限値は特別な制限はなく、例えば、約200%以下、約150%以下、約100%以下、約50%以下、約45%以下、約40%以下または約30%以下であってもよい)増加したものであってもよいが、変異前の親株または非変形微生物の生酸能に比べて+値の増加量を有する限り、これに制限されない。他の例として、上記生産能が増加した組換え菌株は、変異前の親株または非変形微生物に比べて、L-バリン生産能が約1.01倍以上、約1.05倍以上、約1.07倍以上、約1.1倍以上、約1.2倍以上または約1.3倍以上(上限値は特別な制限はなく、例えば、約10倍以下、約5倍以下、約3倍以下、または約2倍以下であってもよい)増加したものであってもよい。
【0061】
上記用語「約(about)」は、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1などを全て含む範囲であり、約という用語に続く数値と同等又は類似の範囲の数値を全て含むが、これに限定されない。
【0062】
本出願において、用語「非変形微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、野生型菌株または天然型菌株自体であるか、天然または人為的要因による遺伝的変異で形質が変化する前の菌株を意味する。例えば、上記非変形微生物は、本明細書に記載のタンパク質変異体が導入されないか、または導入される前の菌株を意味する。上記「非変形微生物」は、「変形前の菌株」、「変異前の微生物」、「非変異菌株」、「非変形菌株」、「非変異微生物」または「基準微生物」と混用され得る。
【0063】
本出願の他の一例として、本出願の微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウム・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)またはコリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)であってもよい。
【0064】
本出願の微生物は、NCgl2335タンパク質がさらに弱化された微生物であってもよい。本出願の微生物は、アセトラクテートシンターゼアイソザイム1サブユニット(Acetolactate synthase isozyme 1 small subunit,IlvN)、L-メチオニン/分岐鎖アミノ酸エクスポーター(L-methionine/branched-chain amino acid exporter,YjeH)からなる群から選択されるタンパク質の活性がさらに強化された微生物であってもよい。
【0065】
具体的には、本出願のL-バリンを生産する微生物は、さらにI1vN活性強化及び/又はNCgl2335弱化された微生物であってもよい。また、本出願のO-アセチル-L-ホモセリンを生産する微生物は、さらに YjeH(L-methionine/branched-chain amino acid exporter)の活性強化された微生物であってもよい。
【0066】
本出願において、用語ポリペプチド活性の「弱化」は、内在的活性に比べて活性が減少または活性がないことを全て含む概念である。上記弱化は、不活性化(inactivation)、欠乏(deficiency)、下方調節(down-regulation)、減少(decrease)、低下(reduce)、減衰(attenuation)などの用語と混用され得る。
【0067】
上記弱化は、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異などによりポリペプチド自体の活性が本来微生物が有しているポリペプチドの活性に比べて減少または除去された場合、それをコードするポリヌクレオチドの遺伝子の発現阻害またはポリペプチドへの翻訳(translation)阻害などにより細胞内で全体的なポリペプチド活性度及び/又は濃度(発現量)が天然型菌株に比べて低い場合、上記ポリヌクレオチドの発現が全く行われていない場合、及び/又はポリヌクレオチドの発現にもかかわらず、ポリペプチドの活性がない場合も含むことができる。上記「内在的活性」とは、天然または人為的要因による遺伝的変異により形質が変化した場合、形質変化前の親株、野生型または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性を意味する。これは、「変形前の活性」と混用され得る。ポリペプチドの活性が内在的活性に比べて「不活性化、欠乏、減少、下方調節、低下、減衰」するということは、形質変化前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性に比べて低下したことを意味する。
【0068】
このようなポリペプチドの活性の弱化は、当業界に知られた任意の方法により行うことができるが、これらに限定されるものではなく、当該分野においてよく知られている様々な方法の適用により達成される(例えば、Nakashima N et al.,Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing. Int J Mol Sci.2014;15(2):2773-2793,Sambrook et al.Molecular Cloning 2012など)。
【0069】
具体的には、本出願のポリペプチドの弱化は
1)ポリペプチドをコードする遺伝子の全部または一部の欠損;
2)ポリペプチドをコードする遺伝子の発現が減少するように発現調節領域(または発現調節配列)の変形;
3)ポリペプチドの活性が除去または弱化されるように、上記ポリペプチドを構成するアミノ酸配列の変形(例えば、アミノ酸配列上の1以上のアミノ酸の削除/置換/付加);
4)ポリペプチドの活性が除去または弱化されるように、上記ポリペプチドをコードする遺伝子配列の変形(例えば、ポリペプチドの活性が除去または弱化されるように変形されたポリペプチドをコードするように、上記ポリペプチド遺伝子の核酸塩基配列上の1以上の核酸塩基の削除/置換/付加);
5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列の変形;
6)ポリペプチドをコードする上記遺伝子の転写体に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)の導入;
7)リボソーム(ribosome)の付着が不可能な2次構造物を形成させるためにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列の付加;
8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3’末端に反対方向に転写されるプロモーターの付加(Reverse transcription engineering,RTE);または
9)上記1)~8)から選択された2以上の組み合わせであってもよいが、これに特に限定されるものではない。
【0070】
例えば、
上記1)ポリペプチドをコードする上記遺伝子の一部または全体の欠損は、染色体内の内在的目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド全体の除去、一部のヌクレオチドが欠失したポリヌクレオチドへの交換、またはマーカー遺伝子への交換であってもよい。
【0071】
また、上記2)発現調節領域(または発現調節配列)の変形は、欠失、挿入、非保存的若しくは保存的置換またはこれらの組合わせにより発現調節領域(または発現調節配列)上の変異発生、又は更に弱い活性を有する配列への交換であってもよい。上記発現調節領域には、プロモーター、オペレータ配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と解読の終結を調節する配列を含むが、これらに限定されるものではない。
【0072】
また、前記3)及び4)のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列の変形は、ポリペプチドの活性を弱化するように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列または前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはそれらの組み合わせで、配列上の変異の発生、またはより弱い活性を有するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列もしくは活性がないように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列への交換であってもよいが、これに限定されるものではない。例えば、ポリヌクレオチド配列内の変異を導入して終結コドンを形成することにより、遺伝子の発現を阻害または弱化させてもよいが、これに限定されない。
【0073】
また、前記5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列の変形は、例えば、内在的開始コドンに比べてポリペプチド発現率がより低い他の開始コドンをコードする塩基配列で置換するものであってもよいが、これらに限定されない。
【0074】
前記6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子の転写体に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)の導入は、例えば、文献[Weintraub,H.et al.,Antisense-RNA as a molecular tool for genetic analysis,Reviews-Trends in Genetics,Vol.1(1)1986]を参照することができる。
【0075】
前記7)リボソーム(ribosome)の付着が不可能な二次構造物を形成させるために、ポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列の付加はmRNA翻訳を不可能にするか、または速度を低下させるものであってもよい。
【0076】
前記8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3’の末端に反対方向に転写されるプロモーターの付加(Reverse transcription engineering,RTE)は、前記ポリペプチドをコードする遺伝子の転写体に相補的なアンチセンスヌクレオチドを作って活性を弱化するものであってもよい。
【0077】
本出願において用語、ポリペプチド活性の「強化」とは、ポリペプチドの活性が内在的活性に比べて増加することを意味する。前記強化は、活性化(activation)、上方調節(up-regulation)、過剰発現(overexpression)、増加(increase)などの用語と混用され得る。ここで、活性化、強化、上方調節、過剰発現、増加は、本来有していなかった活性を示すこと、または内在的活性または変形前の活性に比べて向上した活性を示すようになることを全て含むことができる。前記「内在的活性」とは、天然または人為的要因による遺伝的変異で形質が変化した場合、形質転換前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性を意味する。これは、「変形前の活性」と混用され得る。ポリペプチドの活性が、内在的活性に比べて「強化」、「上方調節」、「過剰発現」または「増加」するとは、形質転換前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性及び/または濃度(発現量)に比べて向上したことを意味する。
【0078】
前記強化は、外来のポリペプチドを導入するか、または内在的なポリペプチドの活性強化及び/または濃度(発現量)を通じて達成することができる。前記ポリペプチドの活性の強化有無は、当該ポリペプチドの活性度、発現量または当該ポリペプチドから排出される産物の量の増加から確認することができる。
【0079】
前記ポリペプチドの活性の強化は、当技野においてよく知られた様々な方法の適用が可能であり、目的のポリペプチドの活性を改変前の微生物より強化させることができる限り、限定されない。具体的には、分子生物学の日常的な方法である当業者の通常の技術者によく知られた遺伝子工学及び/又はタンパク質工学を利用したものであってもよいが、これに限定されない(例えば、Sitnicka et al.Functional Analysis of Genes.Advances in Cell Biology.2010,Vol.2.1-16,Sambrook et al.Molecular Cloning 2012など)。
【0080】
具体的には、本出願のポリペプチド活性の強化は、
1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数の増加;
2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域を活性の強力な配列で交換;
3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列の変形;
4)ポリペプチド活性が強化されるように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列の変形;
5)ポリペプチド活性が強化されるように前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の変形(例えば、ポリペプチドの活性が強化されるように変形されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子のポリヌクレオチド配列の変形);
6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリペプチドまたはそれをコードする外来ポリヌクレオチドの導入;
7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドン最適化;
8)ポリペプチドの三次構造を分析して露出部位を選択して変形するか、または化学的に変形;または
9)前記1)~8)から選択される2以上の組み合わせであってもよいが、これに特に限定されるものではない。
【0081】
より具体的には、
前記1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数の増加は、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主とは無関係に複製して機能し得るベクターの宿主細胞内への導入により達成されることであってもよい。または、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、宿主細胞内の染色体内に1コピーまたは2コピー以上の導入により達成されるものであってもよい。前記染色体内への導入は、宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入することができるベクターが宿主細胞内に導入されることにより行うことができるが、これらに限定されない。前記ベクターは、前述の通りである。
【0082】
前記2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域(または発現調節配列)を活性の強力な配列での交換は、例えば、前記発現調節領域の活性をさらに強化するように欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはそれらの組合せにより配列上の変異の発生、またはより強い活性を有する配列への交換であってもよい。前記発現調節領域は、特にこれに限定されないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写及び解読の終結を調節する配列などを含んでもよい。一例として、本来のプロモーターを強力なプロモーターと交換させることであってもよいが、これらに限定されない。
【0083】
公知の強力なプロモーターの例としては、CJ1~CJ7プロモーター(米国特許第7662943号明細書)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(米国登録特許第10584338号明細書)、O2プロモーター(米国特許第10273491号明細書)、tktプロモーター、yccAプロモーターなどがあるが、これらに限定されない。
【0084】
前記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列の変形は、例えば、内在的開始コドンに比べてポリペプチド発現率がより高い他の開始コドンをコードする塩基配列で置換することであってもよいが、これらに限定されない。
【0085】
前記4)及び5)のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列の変形は、ポリペプチドの活性を強化するように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせにより配列上の変異の発生、またはより強い活性を有するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列または活性が増加するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列への交換であってもよいが、これらに限定されるものではない。前記交換は、具体的には、相同組換えによりポリヌクレオチドを染色体内に挿入することにより行うことができるが、これらに限定されない。このときに使用されるベクターは、染色体の挿入有無を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選別マーカーは前述の通りである。
【0086】
前記6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリヌクレオチドの導入は、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示すポリペプチドをコードする外来ポリヌクレオチドの宿主細胞内の導入であってもよい。前記外来ポリヌクレオチドは、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示す限り、その由来や配列に制限はない。前記導入に用いられる方法は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前記導入されたポリヌクレオチドが発現されることによりポリペプチドが生成し、その活性が増加されてもよい。
【0087】
前記7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドン最適化は、内在ポリヌクレオチドが宿主細胞内で転写または翻訳が増加するようにコドン最適化したものであるか、または外来ポリヌクレオチドが宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるようにそのコドンを最適化したものであってもよい。
【0088】
また、前記8)ポリペプチドの三次構造を分析して露出部位を選択して変形または化学的に修飾することは、例えば、分析しようとするポリペプチドの配列情報を既知のタンパク質の配列情報が格納されたデータベースと比較することにより、配列の類似性の程度にしたがって、鋳型タンパク質候補を決定し、それに基づいて構造を確認し、変形または化学的に修飾する露出部位を選択して変形または修飾することであってもよい。
【0089】
このようなポリペプチド活性の強化は、対応するポリペプチドの活性または濃度発現量が野生型や変形前の微生物菌株で発現されたポリペプチドの活性または濃度を基準にして増加するか、または当該ポリペプチドから生産される産物の量が増加することであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0090】
本出願の微生物においてポリヌクレオチドの一部または全部の変形(例えば、上述したタンパク質変異体をコードするための変形)は、(a)微生物内の染色体挿入用ベクターを用いた相同組換えまたは遺伝子はさみ(engineered nuclease,e.g.,CRISPR-Cas9)を用いたゲノム編集及び/または(b)紫外線及び放射線などのような光及び/または化学物質の処理により誘発されてもよいが、これらに限定されない。前記遺伝子の一部または全体の変形方法には、DNA組換え技術による方法を含むことができる。例えば、目的遺伝子と相同性のあるヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列またはベクターを前記微生物に注入して相同組換え(homologous recombination)を起こさせるようにして、遺伝子の一部または全体の欠損がなされてもよい。前記注入されるヌクレオチド配列またはベクターは、優性選別マーカーを含んでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0091】
より具体的には、本出願のL-バリンを生産する微生物は、配列番号27のアミノ酸配列で記載されたポリペプチド及び/又は配列番号28の核酸塩基配列で記載されたポリヌクレオチドを含む微生物であってもよい。併せて、本出願のO-アセチル-L-ホモセリンを生産する微生物は、配列番号47のアミノ酸配列で記載されたポリペプチドを含む及び/又は、配列番号48の核酸塩基配列で記載されたポリヌクレオチドを含む;配列番号37のアミノ酸配列で記載されたポリペプチド不活性及び/又は配列番号38の核酸塩基配列で記載されたポリヌクレオチド欠損;からなる群から選択される変異を含む微生物であってもよい。
【0092】
本出願の微生物において、変異体及びポリヌクレオチドなどは、上記他の様態で記載した通りである。
【0093】
本出願の他の一つの様態は、本出願の変異体または本出願のポリヌクレオチドを含むコリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階を含む、L-アミノ酸生産方法を提供する。
【0094】
本出願のL-アミノ酸生産方法は、本出願の変異体または本出願のポリヌクレオチドまたは本出願のベクターを含むコリネバクテリウム・グルタミカム菌株を培地で培養する段階を含んでもよい。
【0095】
併せて、本出願のL-アミノ酸生産方法において、上記L-アミノ酸は、L-バリン、O-アセチル-L-ホモセリンまたはL-メチオニンであってもよい。
【0096】
本出願において、用語「培養」とは、本出願のコリネバクテリウム属微生物を適切に調節された環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当業界に知られている適当な培地と培養条件に応じて行うことができる。このような培養過程は、選択される菌株に応じて当業者が容易に調整して使用することができる。具体的には、前記培養は、回分式、連続式及び/または流加式であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0097】
本出願において、用語「培地」とは、本出願のコリネバクテリウム属微生物を培養するために必要とする栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水をはじめとする栄養物質及び発育因子などを供給する。具体的には、本出願のコリネバクテリウム属微生物の培養に用いられる培地及びその他の培養条件は、通常の微生物の培養に使用される培地であれば、特に制限なくいずれも使用できるが、本出願のコリネバクテリウム属微生物を適当な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地内で好気性条件下で温度、pH等を調節しながら培養することができる。
【0098】
具体的には、コリネバクテリウム属微生物に対する培養培地は、文献[“Manual of Methods for General Bacteriology” by the American Society for Bacteriology(Washington D.C.,USA,1981)]で見ることができる。
【0099】
本出願において、前記炭素源としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マルトースなどのような炭水化物;マンニトール、ソルビトールなどのような糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などのような有機酸;グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのようなアミノ酸などを含むことができる。また、澱粉加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米ぬか、キャッサバ、バカス及びトウモロコシ浸漬液のような天然の有機栄養源を用いることができ、具体的には、グルコース及び殺菌された前処理糖蜜(すなわち、還元糖に転換された糖蜜)などのような炭水化物を使用することができ、その他の適量の炭素源を制限なく多様に利用することができる。これらの炭素源は、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよく、これに限定されるものではない。
【0100】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのような無機窒素源;グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのようなアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類またはその分解生成物、脱脂大豆ケーキまたはその分解生成物などのような有機窒素源が使用されてもよい。これらの窒素源は、単独で使用し、2種以上を組み合わせて使用してもよく、これに限定されるものではない。
【0101】
前記リン源としては、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、またはそれに対応するナトリウム-含有塩などが含まれてもよい。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどが使用されてもよく、それ以外にアミノ酸、ビタミン及び/または適切な前駆体などが含まれてもよい。これらの構成成分または前駆体は、培地に回分式または連続式で添加されてもよい。しかし、これに限定されるものではない。
【0102】
また、本出願のコリネバクテリウム・グルタミカム菌株の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などのような化合物を培地に適切な方法で添加し、培地のpHを調整することができる。また、培養中は脂肪酸ポリグリコールエステルなどのような消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。また、培地の好気状態を維持するために、培地内に酸素または酸素含有気体を注入したり、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体の注入なしに、あるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入することができ、これに限定されるものではない。
【0103】
本出願の培養において、培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃を維持することができ、約10~160時間培養することができるが、これに限定されるものではない。
【0104】
本出願の培養により生産されたL-アミノ酸は、培地中に分泌されるか、または細胞内に残留する。
【0105】
本出願のL-アミノ酸生産方法は、本出願のコリネバクテリウム属微生物を準備する段階、上記微生物を培養するための培地を準備する段階、またはこれらの組合わせ(順は無関係、in any order)を、例えば、前記培養段階の前に、さらに含むことができる。
【0106】
本出願のL-アミノ酸生産方法は、上記培養による培地(培養済み培地)または本出願のコリネバクテリウム属微生物からL-アミノ酸を回収する段階をさらに含んでもよい。上記回収する段階は、上記培養する段階の後にさらに含むことができる。
【0107】
前記回収は、本出願の微生物の培養方法、例えば、回分式、連続式または流加式培養方法などにより当該技術分野において公知となった適切な方法を用いて所望のL-アミノ酸を収集(collect)することであってもよい。例えば、遠心分離、濾過、結晶化タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、超音波破砕、限外濾過、透析法、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLCまたはそれらの方法を組み合わせて使用することができ、当該技術分野において公知となった適切な方法を用いて培地または微生物から所望のL-アミノ酸を回収することができる。
【0108】
また、本出願のL-アミノ酸生産方法は、さらに精製段階を含んでもよい。前記精製は、当該技術分野において公知となった適切な方法を用いて行うことができる。一例として、本出願のL-アミノ酸生産方法が回収段階と精製段階の両方を含む場合、回収段階及び精製段階は、順序に関係なく連続的または非連続的に行われるか、または同時にまたは一つの段階に統合されて行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0109】
併せて、本出願のL-メチオニン生産方法は、上記O-アセチル-L-ホモセリンをL-メチオニンに転換する段階をさらに含んでもよい。本出願のL-メチオニン生産方法において、上記転換する段階は、上記培養する段階または上記回収する段階の後にさらに含むことができる。上記転換する段階は、当該技術分野において公知となった適した方法を用いて行うことができる(米国特許第8426171号明細書)。一具現例として、本出願のL-メチオニン生産方法は、O-アセチル-L-ホモセリン、メチルメルカプタン及びO-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼ(Oacetylhomoserine sulfhydrylase)またはシスタチオニン-γ-シンターゼ(cystathionine gamma-synthase)またはO-スクシニルホモセリンスルフヒドリラーゼ(O-succinyl homoserine sulfhydrylase)を接触させてL-メチオニンを生産する段階を含んでもよい。
【0110】
本出願の方法において、変異体、ポリヌクレオチド、ベクター及び微生物などは、上記他の様態で記載した通りである。
【0111】
本出願の他の一つの様態は、本出願の変異体、本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドまたは本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを含むコリネバクテリウム属微生物;それを培養した培地;あるいは、それらの組み合わせを含むL-アミノ酸生産用組成物を提供することである。
【0112】
本出願の組成物は、L-アミノ酸生産用組成物に通常使用される任意の適切な賦形剤をさらに含むことができ、そのような賦形剤は、例えば、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤または等張化剤等であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0113】
本出願のL-アミノ酸生産用組成物において、上記L-アミノ酸は、L-バリン、O-アセチル-L-ホモセリンまたはL-メチオニンであってもよい。
【0114】
本出願の組成物において、変異体、ポリヌクレオチド、ベクター、菌株及び培地などは、前記他の態様で記載した通りである。
【発明を実施するための形態】
【0115】
以下、本出願を実験例を通じてより詳細に説明する。しかしながら、下記実施例は、本出願を例示するための好ましい実施様態に過ぎず、従って、本出願の権利範囲をこれに限定することと意図されない。一方、本明細書に記載されていない技術的な事項は、本出願の技術分野または類似技術分野において熟練した通常の技術者であれば、十分に理解して容易に実施することができる。
【0116】
実施例1:クエン酸シンターゼ(GltA)変異体ベクター製作
本発明者らは、GltAの415番目のアミノ酸残基をアセチルcoA(acetyl-coA)結合位置に見出し、これを他のアミノ酸で置換した時にアセチルcoAのKm値が高くなりながらクエン酸シンターゼ活性が弱化されると予測した。
これについて、上記GltAの415番目のアミノ酸であるリシンを他のアミノ酸で置換するベクターを製作した。具体的には、415番目のアミノ酸であるリシンをヒスチジン(K415H)、トリプトファン(K415W)、そしてグリシン(K415G)で置換するために変異が含まれたベクターを製作した。
【0117】
野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067のgDNA(genomic DNA)を鋳型とし、配列番号15及び17のプライマー対と配列番号16及び18のプライマー対を、配列番号15及び20のプライマー対と配列番号18及び19のプライマー対を、配列番号15及び22のプライマー対と配列番号18及び21のプライマー対を用いてそれぞれPCRを行った。上記で得られた6つの断片中、両断片の混合物を鋳型とし、配列番号15及び配列番号18のプライマー対を用いて再度オーバーラッピング(overlapping)PCRを行って3つの断片をそれぞれ得た。PCRは、94℃で5分間変性後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分30秒を30回繰り返した後、72℃で5分間行った。pDCM2ベクター(配列番号14、韓国公開特許第10-2020-0136813号公報)はsmaIを処理し、上記で得られた3つのPCR産物をそれぞれフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングは、In-Fusion(登録商標)HDクローニングキット(Clontech)を用いた。クローニング結果として得られたプラスミドをそれぞれpDCM2-gltA(K415H)、pDCM2-gltA(K415W)、pDCM2-gltA(K415G)と命名した。本実施例で用いたプライマーの配列は、下記表1に記載した。
【0118】
【0119】
実施例2:L-バリン生産菌株にGltA変異体導入及び評価
2-1.L-バリン生産基盤菌株の製作及び評価
野生株コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067とATCC13869のアセトラクテートシンターゼアイソザイム1サブユニット(Acetolactate synthase isozyme 1 small subunit,IlvN)にそれぞれ1種の変異[ilvN(A42V);Biotechnology and Bioprocess Engineering,June 2014,Volume 19,Issue 3,pp 456-467](配列番号27)を導入してL-バリン生産能が向上した菌株を製作した(韓国登録特許第10-1947945号公報)。
【0120】
具体的には、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067のDNA(genomic DNA)を鋳型とし、配列番号29及び31のプライマー対と配列番号30及び32のプライマー対を用いてそれぞれPCRを行った。上記で得られた両断片の混合物を鋳型とし、配列番号29及び配列番号32のプライマー対を用いて再度オーバーラッピング(overlapping)PCRを行って3つの断片をそれぞれ得た。PCRは94℃で5分間変性後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分30秒を30回繰り返した後、72℃で5分間行った。pDCM2ベクターはsmaIを処理し、上記で得られた3つのPCR産物をそれぞれフュージョンクローニングした。クローニング結果として得られたプラスミドをそれぞれpDCM2-ilvN(A42V)と命名した。上記pDCM2-ilvN(A42V)を野生型であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067とATCC13869菌株にそれぞれ形質転換させ、染色体上で相同性組換えを誘導した(van der Rest et al.,Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545,1999)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有した培地で選別した。選別されたコリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に配列番号33及び34のプライマー対を用いたPCRを通じて遺伝子断片を増幅した後、遺伝子配列の分析を通じて変異が正確に導入されていることを確認した。上記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ7V及びCJ8Vとそれぞれ命名した。本実施例で用いたプライマーの配列は、下記表2に記載した。
【0121】
【0122】
その後、野生株コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067とATCC13869菌株、上記で製作したCJ7V及びCJ8V菌株を対象に発酵力価実験を実施した。栄養培地で継代培養された各菌株を生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに接種し、30℃で72時間、200rpmで振盪培養した。その後、HPLCを用いてL-バリンの濃度を分析して下記表3に示した。
【0123】
<栄養培地(pH7.2)>
ブドウ糖10g、肉汁5g、ポリペプトン10g、塩化ナトリウム2.5g、酵母エキス5g、寒天20g、ウレア2g(蒸溜水1リットル基準)
【0124】
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖100g、硫酸アンモニウム40g、大豆タンパク質2.5g、トウモロコシ浸漬固形分(Corn Steep Solids)5g、尿素3g、第2リン酸カリウム1g、硫酸マグネシウム7水塩0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1mg、パントテン酸カルシウム2mg、ニコチンアミド3mg、炭酸カルシウム30g(蒸溜水1リットル基準)
【0125】
【0126】
前記結果から見られるように、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067及び13869菌株と対比してilvN(A42V)遺伝子変異が導入されたCJ7V及びCJ8V菌株でL-バリン生産能が増加したことを確認した。
【0127】
2-2.L-バリン生産菌株にGltA弱化変異体(K415H、K415W、K415G)の導入及び評価
L-バリン生産菌株にGltA変異体を導入してL-バリン生産能を評価した。実施例1で製作したpDCM2-gltA(K415H)、pDCM2-gltA(K415W)、pDCM2-gltA(K415G)ベクターを染色体上における相同組換えによりL-バリン生産菌株であるCJ7V、CJ8V及びCA08-0072(KCCM11201P、米国特許第8465962号明細書)にそれぞれ形質転換させた。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有した培地で選別した。
【0128】
その後、2次組換えが完了した上記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に配列番号23及び24のプライマー対(表4)を用いたPCRを通じて遺伝子断片を増幅した後、遺伝子配列の分析を通じて変異挿入菌株を確認した。上記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカム下記のように命名し、実施例2-1と同様の方法で力価評価して下記表5に示した。
【0129】
【0130】
【0131】
前記結果から見られるように、K415H変異体の場合、生育の低下なしにL-バリン生産能が増加することを確認した。
【0132】
上記CA08-0072:gltA(K415H)はCA08-1688と命名し、ブダペスト条約下の受託機関である韓国微生物保存センターに2020年9月28日付で寄託し、受託番号KCCM12795Pの付与を受けた。
【0133】
実施例3:O-アセチル-L-ホモセリン生産強化菌株の製作及びO-アセチル-L-ホモセリン生産能の評価
3-1 外来膜タンパク質変異型YjeH導入菌株の製作
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に導入される、外来膜タンパク質であるとともにO-アセチルホモセリン排出タンパク質であるYjeH変異体の有効性を判断するために、YjeH変異体(配列番号47)をコードする遺伝子(配列番号48)を含む染色体導入ベクターを製作した。
【0134】
具体的には、トランスポザーゼ(transposase)欠損ベクターを製作するために、トランスポザーゼをコードする遺伝子(配列番号38、遺伝子番号NCgl2335)位置を中心に5’上端部位を増幅するためのプライマー対(配列番号39及び40)と3’下端部位を増幅するためのプライマー対(配列番号41及び42)を考案した。配列番号39及び42のプライマー対は各末端にXbaI制限酵素部位を挿入し、配列番号40及び41のプライマー対は互いに交差するように考案し、この部位に制限酵素SmaI配列が位置するようにした。プライマー配列は、下記表6に記載した。
【0135】
【0136】
ATCC13032野生型(WT)の染色体を鋳型として配列番号39及び40のプライマー対と配列番号41及び42のプライマー対を用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間変性後、95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。その結果、NCgl2335遺伝子の欠損部位を中心に5’上端部位の851bp DNA断片と3’下端部位の847bpのDNA断片を得た。
【0137】
増幅された2種類のDNA切片を鋳型とし、配列番号39及び42のプライマー対を用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間変性後、95℃で30秒変性、55℃で30秒アニーリング、72℃で90秒の重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。その結果、トランスポザーゼをコードする遺伝子(配列番号38、遺伝子番号NCgl2335)を欠損可能な部位を含む1648bpのDNA断片が増幅された。
【0138】
得られたPCR産物をSmaI制限酵素処理したpDCM2ベクターとインフュージョンHDクローニングキットを用いてフュージョンクローニングした。クローニングされたベクターを大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換された大腸菌をカナマイシン25mg/Lが含まれたLB固体培地に塗抹した。PCRを通じて上記目的とした遺伝子が挿入されたプラスミドで形質転換されたコロニーを選別した後、プラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得し、最終的にNCgl2335欠損カセットがクローニングされたpDCM2-△NCgl2335組換えベクターを製作した。
【0139】
O-アセチルホモセリン排出タンパク質の有効性を判断するために、大腸菌由来のYjeH変異体をコードする遺伝子(配列番号48)を含む染色体導入ベクターを製作した。このために、CJ7プロモーター(米国特許第7662943号明細書)を用いてyjeH遺伝子を発現するベクターを製作した。CJ7プロモーター部位を増幅するためのプライマー対(配列番号43及び44)と大腸菌のyjeH部位を増幅するためのプライマー対(配列番号45及び46)を考案した。プライマー配列は、下記表7に記載した。
【0140】
【0141】
pECCG117-PCJ7-gfp(米国特許第7662943号明細書、p117-Pcj7-gfp)を鋳型とし、配列番号43及び配列番号44、野生型大腸菌の染色体を鋳型として配列番号45及び46のプライマー対を用いてそれぞれPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間変性後、95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、72℃で90秒の重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。その結果、CJ7プロモーター部位の360bp DNA断片と大腸菌のyjeH遺伝子部位の1297bpのDNA断片を得た。
【0142】
増幅された2種類のDNA切片を鋳型とし、配列番号43及び配列番号46プライマーでPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間変性後、95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、72℃で90秒の重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を行った。その結果、CJ7プロモーターとyjeH遺伝子が導入された部位を含む1614bpのDNA断片が増幅された。
【0143】
上記PCRを通じて獲得した遺伝子欠損DNA断片に制限酵素SmaI処理されたpDCM2-△NCgl2335ベクターにインフュージョンHDクローニングキットを用いてクローニングし、 pDCM2-△NCgl2335::PCJ7-yjeH(eco,WT)組換えベクターを製作した。
【0144】
また、変異型yjeH(eco,F351L)遺伝子を導入するための組換えベクターを製作した。
【0145】
具体的には、pDCM2-△NCgl2335::PCJ7-yjeH(eco,WT)プラスミドを鋳型とし、配列番号49及び配列番号50のプライマーを用いて、YjeHアミノ酸配列の351番目のアミノ酸であるフェニルアラニンをロイシンで置換した(F351L)。製作された変異YjeH(F351L)をコードする遺伝子を含むプラスミドをpDCM2-△NCgl2335::PCJ7-yjeH(eco,F351L)と命名した。プライマー配列は、下記表8に記載した。
【0146】
【0147】
製作されたpDCM2-△NCgl2335、pDCM2-△NCgl2335::PCJ7-yjeH(eco,F351L)をATCC13032菌株に電気パルス法で形質転換し、2次交差過程を経て染色体上でNCgl2335遺伝子が欠損したATCC13032 △NCgl2335、ATCC13032 △NCgl2335::PCJ7-yjeH(eco,F351L)を得た。NCgl2335遺伝子欠損及びYjeH変異体をコードする遺伝子の挿入有無は、配列番号39及び42のプライマー対を用いたPCR後にATCC13032と比較して最終確認した。
【0148】
3-2.O-アセチルホモセリン生産能の評価
実施例3-1で製作されたATCC13032 △NCgl2335、ATCC13032 △NCgl2335::PCJ7-yjeH(eco,F351L)と野生型菌株であるATCC13032のO-アセチルホモセリン(O-AH; O-Acetyl Homoserine)生産能を比較するために、下記のような方法で培養して培養液中のO-アセチルホモセリンを分析した。
下記のO-アセチルホモセリン生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに菌株を一白金耳接種し、33℃で20時間、200rpmで振盪培養した。HPLCを用いてO-アセチルホモセリン濃度を分析し、分析された濃度は、表9の通りであった。
【0149】
O-アセチルホモセリン生産培地(pH7.2)
ブドウ糖30g、KH2PO4 2g、尿素(Urea)3g、(NH4)2SO4 40g、ペプトン(Peptone)2.5g、CSL(Corn steep liquor,Sigma)5g(10ml)、MgSO4.7H2O 0.5g、CaCO3 20g(蒸溜水1リットル基準)
【0150】
【0151】
その結果、上記表9のように対照群菌株であるATCC13032を培養時にO-アセチル-L-ホモセリンが0.3g/Lで蓄積され、トランスポザーゼであるNCgl2335遺伝子を欠損してもO-アセチル-L-ホモセリン生産には影響がないことを確認した。特に、変異型yjeH遺伝子を発現させた場合、1.0g/L水準に蓄積されたことを確認した。
【0152】
3-3.O-アセチル-L-ホモセリン生産菌株にGltA変異体(K415H)の導入及び評価
実施例3-2のO-アセチル-L-ホモセリン生産菌株にGltA変異体を導入してO-アセチル-L-ホモセリン生産能を評価した。実施例1で製作したpDCM2-gltA(K415H)ベクターを染色体上における相同組換えにより野生型菌株であるATCC13032、ATCC13032 △NCgl2335とO-アセチル-L-ホモセリン生産菌株であるATCC13032 △NCgl2335::PCJ7-yjeH(eco,F351L)にそれぞれ形質転換させた。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有した培地で選別した。
【0153】
その後、2次組換えが完了した上記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に配列番号23及び24のプライマー対を用いたPCRを通じて遺伝子断片を増幅した後、遺伝子配列の分析を通じてgltA(K415H)変異挿入菌株を確認した。上記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカム下記のように命名し、実施例3-2と同様の方法で力価評価し、下記表10に示した。
【0154】
【0155】
上記結果で見られるように、GltA K415H変異体を導入した菌株はいずれもこれを導入していない親株よりO-アセチル-L-ホモセリン生産能が増加することを確認した。
【0156】
上記ATCC13032 △NCgl2335::PCJ7-yjeH(eco,F351L)gltA(K415H)はCM04-1006と命名し、ブダペスト条約下の受託機関である韓国微生物保存センターに2020年10月21日付で寄託して受託番号KCCM12809Pの付与を受けた。
【0157】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【0158】
【0159】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
本出願において、用語「クエン酸シンターゼ(Citrate synthase)」は、微生物の解糖過程で生成されるアセチルCoAとオキサロ酢酸を重合してクエン酸を生成する酵素である。また、上記酵素はアセチルCoAと4-炭素オキサロ酢酸の分子からの2-炭素アセテート残基の縮合反応を触媒して6-炭素クエン酸を形成することができる。本出願の用語「クエン酸シンターゼ」は、クエン酸合成酵素、CS、GltAタンパク質またはGltAで混用され得る。本出願において上記GltAは公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列を得ることができる。併せて、上記GltAはgltA遺伝子によりコードされるクエン酸シンターゼ活性を有するポリペプチドであってもよいが、これに制限されない。
【国際調査報告】