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特表2024-507959抗Siglec15抗体およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】抗Siglec15抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240214BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240214BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K47/68
A61P35/00
A61P37/04
A61K45/00
A61K39/395 T
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552073
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(85)【翻訳文提出日】2023-10-17
(86)【国際出願番号】 CN2022077030
(87)【国際公開番号】W WO2022179466
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】202110211997.5
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523203056
【氏名又は名称】石▲薬▼集▲団▼巨石生物制▲薬▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丁▲煥▼弟
(72)【発明者】
【氏名】惠希武
(72)【発明者】
【氏名】姚兵
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼伯▲寧▼
(72)【発明者】
【氏名】王▲艶▼翠
(72)【発明者】
【氏名】李文▲賓▼
(72)【発明者】
【氏名】▲鄒▼儒雅
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼青
(72)【発明者】
【氏名】袁▲燦▼
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA05
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB26
4C084ZC751
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE03
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本願は、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片、前記抗体または抗原結合断片を含む医薬組成物および免疫薬物複合体、前記抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記ベクターを含む宿主細胞、前記抗体または抗原結合断片の製造方法および前記抗体または抗原結合断片の免疫応答の調節、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球の増殖阻害の逆転、またはSiglec15の異常発現に関連する腫瘍の治療などの生物医薬への使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、
前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が、重鎖CDR1(HCDR1)、重鎖CDR2(HCDR2)および重鎖CDR3(HCDR3)を含み、軽鎖可変領域が、軽鎖CDR1(LCDR1)、軽鎖CDR2(LCDR2)および軽鎖CDR3(LCDR3)を含み、
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号9に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号10に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号11に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号13に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号10に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号11に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号14に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号15に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号16に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号17に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号18に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号19に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号20に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号22に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号23に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号24に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号25に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み、
ここで、HCDR1、HCDR2、HCDR3およびLCDR1、LCDR2、LCDR3アミノ酸配列がKabat定義に従う
抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
重鎖可変領域が、配列番号26、28、30または32に示されるアミノ酸配列、または、配列番号26、28、30または32に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する
請求項1記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
軽鎖可変領域が、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列、または、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する
請求項1または2記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
重鎖可変領域が、配列番号26に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号27に示されるアミノ酸配列を有する;または
重鎖可変領域が、配列番号28に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号29に示されるアミノ酸配列を有し;または
重鎖可変領域が、配列番号30に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号31に示されるアミノ酸配列を有し;または
重鎖可変領域が、配列番号32に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号33に示されるアミノ酸配列を有する、
請求項1~3のいずれか一項記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、
前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片は、(a)から(e)、即ち、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基20位から328位からなるアミノ酸配列
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基1位から263位からなるアミノ酸配列
(d)配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基20位から263位からなるアミノ酸配列
(e)(a)から(d)記載のアミノ酸配列においてアミノ酸残基の置換、欠失または付加を一つまたは複数有するアミノ酸配列
のいずれか一項記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに特異的に結合する
抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、
前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、その中、重鎖可変領域が、配列番号26、28、30または32に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する、
抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
重鎖可変領域が、配列番号26に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号27に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し;または
重鎖可変領域が、配列番号28に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号29に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し;または
重鎖可変領域が、配列番号30に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号31に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し;または
重鎖可変領域が、配列番号32に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号33に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する、
請求項6記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、
前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が、重鎖CDR1(HCDR1)、重鎖CDR2(HCDR2)および重鎖CDR3(HCDR3)を含み、そのうち
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み;または
重鎖可変領域が配列番号14に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号15に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号16に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み;または
重鎖可変領域が配列番号20に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号22に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、
ここで、HCDR1、HCDR2、HCDR3アミノ酸配列がKabat定義に従う
抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
前記抗Siglec15抗体が、全長抗体、単鎖抗体(scFv)または二重特異性抗体であり;および/または
前記抗Siglec15抗体の抗原結合断片が、Fab、Fab’、FvまたはF(ab’)2であり;および/または
前記抗Siglec15抗体が、マウス由来抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体であり;および/または
前記抗Siglec15抗体が、モノクローナル抗体であり;および/または
前記抗Siglec15抗体が、IgG1、IgG2またはIgG4アイソタイプであり、好ましくはIgG1アイソタイプであり;および/または
前記抗Siglec15抗体が、κサブタイプまたはλサブタイプの軽鎖定常領域を含む、
請求項1~8のいずれか一項記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
治療薬と複合する請求項1~9のいずれか一項記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を含む、免疫薬物複合体。
【請求項11】
前記治療薬が、抗腫瘍医薬、例えば、細胞毒性薬、免疫増強剤または放射性同位体である
請求項10記載の免疫薬物複合体。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片または請求項10または11記載の免疫薬物複合体と、薬理学的に許容される賦形剤、希釈剤または担体とを含む、医薬組成物。
【請求項13】
個体における免疫応答の調節、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球増殖の阻害の逆転、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球IFN-γ分泌の阻害の逆転、個体における腫瘍細胞増殖の阻害または過増殖性障害(例えば、Siglec15の異常発現に関連する過増殖性障害)の治療に使用される
請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記過増殖性障害が、腫瘍であり、例えば、Siglec15の異常発現に関連する腫瘍である
請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記医薬組成物は、抗PD-1または抗PD-L1抗体と組み合わせて腫瘍を治療するために使用される
請求項12~14のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項16】
個体における免疫応答の調節、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球増殖の阻害の逆転、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球IFN-γ分泌の阻害の逆転、個体における腫瘍細胞増殖の阻害または過増殖性障害(例えば、Siglec15の異常発現に関連する過増殖性障害)を治療するための医薬の製造における、請求項1~9のいずれか一項記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片または請求項10または11記載の免疫薬物複合体の使用。
【請求項17】
前記過増殖性障害が、腫瘍であり、例えば、Siglec15の異常発現に関連する腫瘍である
請求項16記載の使用。
【請求項18】
前記医薬が、さらに、抗PD-1または抗PD-L1抗体を含む
請求項16または17記載の使用。
【請求項19】
個体における免疫応答の調節、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球増殖の阻害の逆転、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球IFN-γ分泌の阻害の逆転、個体における腫瘍細胞増殖の阻害または過増殖性障害(例えば、Siglec15の異常発現に関連する過増殖性障害)を治療するための方法であって、
それを必要とする個体に、治療有効量の請求項1~9のいずれか一項記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片、請求項10または11記載の免疫薬物複合体または請求項12~15のいずれか一項記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項20】
前記過増殖性障害が、腫瘍であり、例えば、Siglec15の異常発現に関連する腫瘍である
請求項19記載の方法。
【請求項21】
それを必要とする個体に、抗PD-1または抗PD-L1抗体を投与することを、さらに含む
請求項19または20記載の方法。
【請求項22】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗Siglec15抗体または抗原結合断片をコードする、単離ポリヌクレオチド。
【請求項23】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗Siglec15抗体または抗原結合断片をコードするポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項24】
請求項23記載のベクターを含む、単離宿主細胞。
【請求項25】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片の製造方法であって、
請求項24記載の宿主細胞を培養する工程を含み、任意に、前記方法は、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を単離する工程をさらに含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、一般にバイオ医薬品の分野に関し、特に、新規な抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片、前記抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物、および前記抗体またはその抗原結合断片の薬学的に有用な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン(Sialic acid-binding immunoglobulin-typelectin、Siglec)は、免疫グロブリンスーパーファミリーの一員で、細胞外領域、膜貫通領域、細胞内領域からなる分子構造を持つI型膜貫通型糖タンパク質である。研究により、Siglecファミリーのメンバーは、免疫細胞の活性化や増殖、生理的・病理的プロセスの媒介に重要な役割を果たすことが明らかになっている。また、Siglecファミリーのメンバーは、免疫寛容の制御に関与し、自己免疫疾患、炎症反応、腫瘍形成の制御において重要な役割を担っている。
【0003】
Siglec15はSiglecファミリーの一員で、328アミノ酸残基からなり、その細胞外領域(ECD)には免疫グロブリン可変領域(Ig-like V-type Domain、IgV)と2型定常領域(Ig-like C2-type Domain、IgC2)があり、ここで、IgV領域は、Neu5Acα2-6GalNAcα-構造を持つ糖タンパク質、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ロイシンリッチリピート含有4C(LRRC4C)またはSiglec15-抗レセプターなどのようなSiglec15リガンドとの結合のSiglec15キーサイトである。タンパク質配列解析の結果、Siglec15はT細胞のB7遺伝子ファミリーと30%以上の構造的相同性を持つことが明らかになった。Siglec15は当初、生理的な骨の再構成に重要な役割を果たし、エストロゲン欠乏による病的な骨喪失にも関与していることがわかった。最近の研究では、Siglec15は腫瘍免疫の負の制御因子であり、腫瘍免疫に関与していることが明らかになっている。Siglec15は、多くの種類の癌細胞や腫瘍関連マクロファージで高発現し、T細胞上の未知の受容体に結合してT細胞の機能抑制をもたらす。また、B7-H1(PD-L1)/PD-1経路とは独立した方法で免疫抑制を制御することができ、Siglec15の免疫抑制作用を阻害することにより、身体の抗腫瘍免疫応答を回復または強化することができる。
【0004】
固形がんに対する抗Siglec15抗体系医薬は、臨床試験中のNextCure社のNC-318のみが報告されており、その作用エピトープは現在のところ不明である。現在、Siglec15を標的とした承認医薬はなく、臨床プログラムもほとんど進行していないため、より有効なSiglec15抗体を患者に提供することが急務となっている。
【発明の概要】
【0005】
第1の態様では、本願は、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が、重鎖CDR1(HCDR1)、重鎖CDR2(HCDR2)および重鎖CDR3(HCDR3)を含み、軽鎖可変領域が、軽鎖CDR1(LCDR1)、軽鎖CDR2(LCDR2)および軽鎖CDR3(LCDR3)を含み、
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列のHCDR2、および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号9に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号10に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号11に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列のHCDR2、および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号13に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号10に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号11に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号14に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号15に示されるアミノ酸配列のHCDR2、および配列番号16に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号17に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号18に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号19に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号20に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列のHCDR2、および配列番号22に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号23に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号24に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号25に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み、
ここで、HCDR1、HCDR2、HCDR3およびLCDR1、LCDR2、LCDR3アミノ酸配列がKabat定義に従う、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0006】
第2の態様では、本願は、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片が、(a)から(e)のいずれか一項記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに特異的に結合するものである、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0007】
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基20位から328位からなるアミノ酸配列;
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基1位から263位からなるアミノ酸配列;
(d)配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基20位から263位からなるアミノ酸配列;
(e)(a)から(d)記載のアミノ酸配列においてアミノ酸残基の置換、欠失または付加を一つまたは複数有するアミノ酸配列。
【0008】
第3の態様では、本願は、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片が、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、重鎖可変領域が、配列番号26、28、30または32に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0009】
第4の態様では、本願は、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片が重鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が重鎖CDR1(HCDR1)、重鎖CDR2(HCDR2)および重鎖CDR3(HCDR3)を含み、
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列のHCDR2、および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列のHCDR2、および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号14に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号15に示されるアミノ酸配列のHCDR2、および配列番号16に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号20に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列のHCDR2、および配列番号22に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、
HCDR1、HCDR2、HCDR3アミノ酸配列がKabat定義に従う、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0010】
第5の態様では、本願は、治療薬と複合する第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を含む、免疫薬物複合体を提供する。
【0011】
第6の態様では、本願は、第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片または第5の態様に記載の免疫薬物複合体と、薬理学的に許容される賦形剤、希釈剤または担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0012】
本願は、さらに、個体における免疫応答の調節、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球増殖の阻害の逆転、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球IFN-γ分泌の阻害の逆転、個体における腫瘍細胞増殖の阻害または過増殖性障害(例えば、Siglec15の異常発現に関連する過増殖性障害)を治療するための、第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片または第5の態様に記載の免疫薬物複合体または第6の態様に記載の医薬組成物の使用を提供する。
【0013】
第7の態様では、本願は、個体における免疫応答の調節、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球増殖の阻害の逆転、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球IFN-γ分泌の阻害の逆転、個体における腫瘍細胞増殖の阻害または過増殖性障害(例えば、Siglec15の異常発現に関連する過増殖性障害)を治療するための医薬の製造における、第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片または第5の態様に記載の免疫薬物複合体または第6の態様に記載の医薬組成物の使用を提供する。
【0014】
第8の態様では、本願は、個体における免疫応答の調節、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球増殖の阻害の逆転、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球IFN-γ分泌の阻害の逆転、個体における腫瘍細胞増殖の阻害または過増殖性障害(例えば、Siglec15の異常発現に関連する過増殖性障害)を治療するための方法であって、それを必要とする個体に治療有効量の第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片、第5の態様に記載の免疫薬物複合体または第6の態様に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。
【0015】
第9の態様では、本願は、第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体または抗原結合断片をコードする、単離ポリヌクレオチドを提供する。
【0016】
第10の態様では、本願は、第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体または抗原結合断片をコードするポリヌクレオチドを含む、ベクターを提供する。
【0017】
第11の態様では、本願は、第10の態様に記載のベクターを含む、単離宿主細胞を提供する。
【0018】
第12の態様では、本願は、第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片の製造方法であって、第11の態様に記載の宿主細胞を培養する工程を含む、方法を提供する。第12の態様のいくつかの実施形態では、前記方法は、さらに、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を単離する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】Siglec15-ECD-FcおよびSiglec15-IgV-Fcでタンパク質を免疫したマウスの血漿抗体力価曲線である。
図2】本願の複数の例示的抗Siglec15抗体のSiglec15とLRRC4C-Hek293細胞との相互作用に対する阻害効果を示すグラフである。
図3】本願の複数の例示的抗Siglec15抗体のヒトSiglec15タンパク質との結合のELISA測定結果曲線を示す。
図4】本願の複数の例示的抗Siglec15抗体のサルSiglec15タンパク質との結合のELISA測定結果曲線を示す。
図5】本願の複数の例示的抗Siglec15抗体のマウスSiglec15タンパク質との結合のELISA測定結果曲線を示す。
図6】本願の複数の例示的抗Siglec15キメラ抗体および対照抗体とヒトSiglec15を発現するHek293細胞との結合の結果曲線を示す。
図7】本願の複数の例示的抗Siglec15キメラ抗体および対照抗体のSiglec15タンパク質によるPBMCリンパ球増殖に対する阻害の逆転効果を示すグラフである。
図8】本願の複数の例示的抗Siglec15キメラ抗体および対照抗体Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球IFN-γ分泌に対する阻害の逆転効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願の発明者らは、Siglec15分子のシグナル伝達機構に基づいて抗体スクリーニング策略を設計し、最終的に優れた特性を示す様々な抗Siglec15抗体をスクリーニングし、優れた特性とは、例えば、対照抗体と比較してヒトSiglec15に対する親和性が高いこと、Siglec15が媒介するT細胞活性の回復が大きいこと、などが挙げられる。Siglec15が媒介するT細胞活性の抑制がより回復すること等である。また、本願の抗Siglec15抗体は、免疫応答を調節する特性を示す。
【0021】
定義
特に定義しない限り、本明細書で使用するすべての科学技術用語は、当業者によって理解されるのと同じ意味を持つ。当該分野の定義および用語については、当業者は特にCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel)を参照される。アミノ酸残基の略号は、一般的に使用される20種のL-アミノ酸の1つを参照するために当該技術分野で使用される標準的な3文字および/または1文字のコードである。
【0022】
本願の広義的な範囲に示された数値範囲とパラメータは近似値であるが、特定の実施形態で示された値は、可能な限り正確に文書化されている。しかしながら、いかなる値も本質的にある量の誤差を含んでおり、それはそれぞれの測定に存在する標準偏差に起因するものである。さらに、本明細書に開示されたすべての範囲は、そこに含まれるあらゆるサブレンジをカバーするものと理解されるべきである。例えば、「1~10」の範囲は、最小値1~最大値10(端点を含む)の間のあらゆる部分範囲、すなわち、最小値1以上(例えば1~6.1)で始まり、最大値10以下(例えば5.5~10)で終わるすべての部分範囲を包含するものと考えるべきである。「本明細書に組み込まれる」と言及されたあらゆる参照は、その全体が組み込まれたものとして理解されるべきである。
【0023】
広義には、「抗体」は、免疫グロブリン分子の可変領域に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介して標的と特異的に結合することができる免疫グロブリン分子を指す場合があり、したがって、インタクト抗体、抗体単鎖または抗体の任意の抗原結合断片(「抗原結合部分」とも呼ばれる)を含む。用語「抗体」と「抗原結合断片/抗原結合部分」が同じ文脈で使用される場合、「抗体」は、「抗原結合断片/抗原結合部分」に対する完全体と理解されてもよく、両者を合わせると、広義的な「抗体」の概念に対応する。
【0024】
用語「全長抗体」とは、少なくとも2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)がジスルフィド結合で連結されたタンパク質のことである。各重鎖は、重鎖可変領域(VHと略記)と重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域には、CH1、CH2、CH3の3つの領域が含まれる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(略称:VL)と軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は一つの領域CLを含む。VHとVL領域はさらに細分化され、相補的決定領域(CDR)と呼ばれる可変性の高い複数の領域と、それらの間に点在するフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保守的な複数の領域とに分けられる。各VHとVLは、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配置された3つのCDRと4つのFRから構成されている。重鎖と軽鎖のこれらの可変領域には抗原と相互作用する結合領域がある。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)や古典補体系の第一成分(Clq)を含む宿主の組織や因子への免疫グロブリンの結合を媒介する。全長抗体は、IgD、IgE、IgG、IgAまたはIgM(または上記のサブクラス)などの任意のクラスの抗体であり得るが、抗体は特定のクラスに属している必要はない。免疫グロブリンは、重鎖の定常領域における抗体のアミノ酸配列によって、異なるクラスに割り当てることができる。一般に、免疫グロブリンにはIgA、IgD、IgE、IgG、IgMの5つの主要クラスがあり、これらのクラスのいくつかは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などのサブクラス(アイソタイプ)にさらに区別することができる。異なる免疫グロブリンクラスに対応する重鎖定常領域は、(、(、(、(、および(と呼ばれている。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構造はよく知られている。キメラ抗体またはヒト化抗体も、本願による抗体の対象となる。相補的決定領域(CDR、通常はCDR1、CDR2及びCDR3)は、抗体の親和性及び特異性に最も影響を与える可変領域の領域であることは当業者によく知られている。VH又はVLのCDRアミノ酸配列は、2つの共通の方法、すなわちChothia定義とkabat定義で定義されている。所定の抗体の可変領域のアミノ酸配列について、VH及びVLのアミノ酸配列におけるCDRアミノ酸配列は、通常、Chothia定義又はKabat定義のいずれかに基づいて決定することができる。本願の実施形態では、CDRアミノ酸配列はKabatを用いて定義される。所定の抗体の可変領域アミノ酸配列について、可変領域アミノ酸配列の中間CDRアミノ酸配列は、様々な方法で分析することができ、例えば、オンラインソフトウェアAbysis(HYPERLINK "http://www.abysis.org/"http://www.abysis.org/)を使用して決定することができる。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「抗原結合断片」は、特に、Fv、Fab、F(ab’)2またはFab’などの抗体断片、または化学修飾によって、またはリポソームへの組み込みによって半減期を増加させることができるはずの任意の断片を指し、好ましくは、前記機能性断片は、そのソース抗体の重鎖または軽鎖可変鎖の部分配列からなるか、またはそれを含み、前記部分配列は、そのソース抗体と同じ結合特異性および十分な親和性を保持するのに十分であり、その機能性断片は、そのソース抗体配列の最小5個のアミノ酸、好ましくは10、15、25、50および100個の連続したアミノ酸を含む。抗原結合断片の例としては、(1)VL-CL鎖とVH-CH1鎖を有する一価の断片であってもよいFab断片;(2)ヒンジ領域においてジスルフィド橋によって連結された2つのFab’断片(すなわちFabの二量体)を有する二価断片でもよいF(ab’)2断片;(3)抗体の単一のアームを有するVLおよびVH領域を持つFv断片があるが、これらに限定されない。
【0026】
用語「単鎖抗体(scFv)」とは、VH領域とVL領域がペプチドリンカーで連結された1本のポリペプチド鎖を指す。(scFv)2は、ペプチドリンカーによって連結された2つのVH領域と、ジスルフィドブリッジを介して2つのVH領域と結合した2つのVL領域とを含む。
【0027】
用語「Fc断片」、「Fc構造領域」、「Fc部分」または類似の用語は、抗体重鎖の定常領域の一部を指し、ヒンジ領域、定常領域のCH2断片とCH3断片を含む。
【0028】
本明細書において、用語「特異的結合」とは、抗原エピトープへの抗体の結合など、2つの分子間の非ランダムな結合反応を意味するものである。
【0029】
用語「ヒト化抗体」とは、マウス系統などの他の哺乳類種由来のCDR配列をヒトフレーム配列に移植することによって得られる抗体を指す。ヒトフレームワーク配列には、他のフレームワーク領域の改変を加えることができる。本願に係るヒト化抗体又はその断片は、当業者に公知の技術により製造することができる。
【0030】
用語「キメラ抗体」とは、可変領域の配列がある種に由来し、定常領域の配列が他の種に由来する抗体であり、例えば、可変領域の配列がマウス抗体に由来し、定常領域の配列がヒト抗体に由来する抗体を指す。本願によるキメラ抗体又はその断片は、遺伝子組換え技術を用いることにより製造することができる。例えば、前記キメラ抗体は、プロモーターと、本願による非ヒト、特にマウスモノクローナル抗体の可変領域をコードする配列と、ヒト抗体の定常領域をコードする配列とを含む組換えDNAをクローニングすることにより製造することができる。このような組換え遺伝子によってコードされる本願のキメラ抗体は、例えば、マウス-ヒトキメラとなり、その特異性はマウスDNA由来の可変領域によって決定され、そのアイソタイプはヒトDNA由来の定常領域によって決定される。キメラ抗体の製造方法については、例えば、文献Verhoeynら(BioEssays,8:74,1988)を参照することができる。
【0031】
本明細書において、用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体、すなわち、少数の個体に存在し得る天然由来の変異を除いて、その集団を構成する個々の抗体が同一である抗体を意味する。本明細書で使用するモノクローナル抗体には、特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種に由来する抗体又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応するアミノ酸配列と同一又は相同であり、重鎖及び/又は軽鎖の残りが別の種に由来する抗体又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応するアミノ酸配列と同一又は相同である「キメラ」抗体であり、さらに、所望の生物学的活性を示すことを条件として、このような抗体の断片を含む。
【0032】
用語「二重特異性抗体」とは、2つの抗原エピトープを同時に結合する能力を有する抗体のことを指す。2つの抗原性エピトープは、異なる抗原上にある場合もあれば、同じ抗原上にある場合もある。二重特異性抗体は、様々な構造構成を持つことができる。例えば、二重特異性抗体は、2つのFc断片とそれぞれに融合した2つの結合部分(2つのアームが異なる抗原性標的またはエピトープに結合することを除いて、天然抗体と同様)からなり、単鎖抗体(scfv)の形態またはFab断片の形態であることが考えられる。
【0033】
本明細書において、用語「医薬組成物」とは、特定の目的を達成するために一緒に組み合わされる、少なくとも1つの薬物と、任意に薬理学的に許容される担体または賦形剤との組み合わせを示す。いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、本願の目的を達成するために一緒に作用することが可能であることを条件として、時間的および/または空間的に別々の組み合わせからなる。例えば、前記医薬組成物に含まれる成分(例えば、抗体、核酸分子、核酸分子の組み合わせおよび/または本願によるアジュバント)は、全体として、または別々に個体に投与され得る。前記医薬組成物に含まれる組成物が個体に別々に投与される場合、前記組成物は、個体に同時または順次投与され得る。好ましくは、前記薬理学的に許容される担体は、水、緩衝水溶液、PBS(リン酸緩衝液)などの等張塩溶液、グルコース、マンニトール、デキストロース、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸マグネシウム、0.3%グリセロール、ヒアルロン酸、エタノールまたはポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、トリグリセライドなどである。使用される薬理学的に許容される担体の種類は、特に、本願による組成物が経口、鼻腔内、皮内、皮下、筋肉内または静脈内投与のために処方されるかどうかに依存する。本願による組成物は、添加物として湿潤剤、乳化剤または緩衝物質を含むことができる。本願による医薬組成物または医薬製剤は、任意の適切な経路、例えば、経口、経鼻、皮内、皮下、筋肉内または静脈内により投与することができる。
【0034】
本明細書において、用語「治療有効量」または「有効量」とは、投与される個体に利益を示すのに十分な用量を意味する。実際に投与される量、ならびに投与の速度および時間経過は、治療されるものの状態および重症度に依存する。治療の処方(投与量の決定など)は、通常、治療対象の疾患、個々の患者の状態、投与部位、投与方法、その他の医師が知る要素を考慮し、最終的に全科医師またはその他の医師の責任であり、それに依存する。
【0035】
本明細書において、用語「個体」は、ヒトなどの哺乳類を指すが、野生動物(サギ、コウノトリ、ツルなど)、家畜(カモ、ガチョウなど)または実験動物(オランウータン、サル、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、グランドホッグ、ジリスなど)などの他の動物であってもよい。
【0036】
アミノ酸または核酸配列に関する「相同性/ホモロジー/コンシステンシー」という用語は、配列アライメントを行い、所望によりヌル位置を導入して相同性の最大割合を達成した後のアミノ酸または核酸配列変異体における同一残基の割合と定義する。アライメントに使用される方法およびコンピュータプログラムは、当技術分野でよく知られている。
【0037】
一般に、特にマウス由来のモノクローナル抗体又はその機能的断片の製造については、特にマニュアル「Antibodies」(Harlow and Lane、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor NY、pp.726、1988)に記載されている技術、又はハイブリドーマ細胞からの製造についてKohlerとMilstein(Nature, 256: 495-497, 1975)によって記載されている技術を参照できる。
【0038】
第1の態様では、本願は、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が重鎖CDR1(HCDR1)、重鎖CDR2(HCDR2)および重鎖CDR3(HCDR3)を含み、軽鎖可変領域が軽鎖CDR1(LCDR1)、軽鎖CDR2(LCDR2)および軽鎖CDR3(LCDR3)を含み、
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号9に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号10に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号11に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号13に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号10に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号11に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号14に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号15に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号16に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号17に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号18に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号19に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号20に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号22に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、軽鎖可変領域が、配列番号23に示されるアミノ酸配列のLCDR1、配列番号24に示されるアミノ酸配列のLCDR2、配列番号25に示されるアミノ酸配列のLCDR3を含み、
ここで、HCDR1、HCDR2、HCDR3およびLCDR1、LCDR2、LCDR3アミノ酸配列がKabat定義に従う、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0039】
第1の態様のいくつかの実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号26、28、30または32に示されるアミノ酸配列または配列番号26、28、30または32に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する。
第1の態様のいくつかの実施形態では、軽鎖可変領域が、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列または配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する。
【0040】
第1の態様のいくつかの実施形態では、重鎖可変領域が配列番号26に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号27に示されるアミノ酸配列を有する。
【0041】
第1の態様のいくつかの実施形態では、重鎖可変領域が配列番号28に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号29に示されるアミノ酸配列を有する。
第1の態様のいくつかの実施形態では、重鎖可変領域が配列番号30に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号31に示されるアミノ酸配列を有する。
【0042】
第1の態様のいくつかの実施形態では、重鎖可変領域が配列番号32に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号33に示されるアミノ酸配列を有する。
【0043】
第2の態様では、本願は、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片は、(a)から(e)のいずれか一項記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに特異的に結合する、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0044】
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基20位から328位からなるアミノ酸配列;
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基1位から263位からなるアミノ酸配列;
(d)配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基20位から263位からなるアミノ酸配列;
(e)(a)から(d)記載のアミノ酸配列においてアミノ酸残基の置換、欠失または付加を一つまたは複数有するアミノ酸配列。
【0045】
ヒトSiglec15の全長アミノ酸配列は、配列番号1に示され、1~19位はシグナルペプチド配列、20~263位は細胞外構造領域(ECD)、40~158位はIgV構造領域、168~251位はIgC2構造領域である。したがって、上記(a)~(d)に記載のアミノ酸配列は、ヒトSiglec15の全長アミノ酸配列、および種々のヒトSiglec15断片を構成し、そのすべてが細胞外構造領域、すなわち本願抗体の結合構造領域を含んでいる。
【0046】
第3の態様では、本願は、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、重鎖可変領域が、配列番号26、28、30または32に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0047】
第3の態様のいくつかの実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号26に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号27に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する。
【0048】
第3の態様のいくつかの実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号28に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号29に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する。
【0049】
第3の態様のいくつかの実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号30に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号31に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する。
【0050】
第3の態様のいくつかの実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号32に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が、配列番号33に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する。
【0051】
第4の態様では、本願は、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域が、重鎖CDR1(HCDR1)、重鎖CDR2(HCDR2)および重鎖CDR3(HCDR3)を含み、
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号6に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号8に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号14に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号15に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号16に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み;または
重鎖可変領域が、配列番号20に示されるアミノ酸配列のHCDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列のHCDR2および配列番号22に示されるアミノ酸配列のHCDR3を含み、
ここで、HCDR1、HCDR2、HCDR3アミノ酸配列がKabat定義に従う、抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0052】
第4の態様に記載の抗体の一例は、1つの重鎖可変領域のみからなり、ナノ抗体とも呼ばれる重鎖抗体の可変領域(VHH)としても知られているシングル領域抗体である。VHH抗体は天然に存在するものである。VHH抗体は、もともとアルパカ末梢血から発見された天然由来の軽鎖欠損抗体であり、1つの重鎖可変領域(VHH)と2つの従来のCH2およびCH3領域のみを有している。クローン化され発現したVHH構造は、オリジナルの重鎖抗体と同等の構造安定性と抗原結合活性を持ち、標的抗原と結合することが知られている最小のユニットである。
【0053】
第1から第4の態様のいくつかの実施形態では、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号26、28、30または32に示されるアミノ酸配列と約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸の置換、欠失および/または付加で相違する。いくつかの実施形態では、配列番号26、28、30または32に示されるアミノ酸配列のC端またはN端領域は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25またはより多くのアミノ酸がトランケートされ、前記抗体の重鎖可変領域の同じような機能を維持するものであってもよい。いくつかの実施形態では、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列のC端またはN端領域は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25またはより多くのアミノ酸を付加し、得られたアミノ酸配列が前記抗体の重鎖可変領域の同じような機能を維持するものであってもよい。いくつかの実施形態では、変化後のアミノ酸配列が前記抗体の重鎖可変領域の同じような機能を基本的に維持する限り、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列のC端またはN端以外の領域に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25またはより多くのアミノ酸を付加または欠失してもよい。
【0054】
第1から第4の態様のいくつかの実施形態では、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列と約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸の置換、欠失および/または付加で相違する。いくつかの実施形態では、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列のC端またはN端領域は、さらに、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25またはより多くのアミノ酸がトランケートされ、前記抗体の軽鎖可変領域の同じような機能を維持するものであってもよい。いくつかの実施形態では、さらに、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列のC端またはN端領域は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25またはより多くのアミノ酸を付加し、得られたアミノ酸配列が前記抗体の軽鎖可変領域の同じような機能を維持するものであってもよい。いくつかの実施形態では、さらに、変化後のアミノ酸配列が前記抗体の軽鎖可変領域の同じような機能を基本的に維持する限り、配列番号27、29、31または33に示されるアミノ酸配列のC端またはN端以外の領域に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25またはより多くのアミノ酸を付加または欠失してもよい。
【0055】
第1から第4の態様のいくつかの実施形態では、抗Siglec15抗体は、全長抗体、単鎖抗体(scFv)または二重特異性抗体である。第1から第4の態様のいくつかの実施形態では、抗Siglec15抗体の抗原結合断片は、Fab、Fab’、FvまたはF(ab’)2である。第1から第4の態様のいくつかの実施形態では、抗Siglec15抗体は、マウス由来抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体である。第1から第4の態様のいくつかの実施形態では、抗Siglec15抗体は、モノクローナル抗体である。第1から第4の態様のいくつかの実施形態では、抗Siglec15抗体は、二重特異性抗体である。第1から第4の態様のいくつかの実施形態では、抗Siglec15抗体は、IgG1、IgG2またはIgG4アイソタイプであり、即ち、抗体が、IgG1サブタイプ、IgG2サブタイプまたはIgG4サブタイプの重鎖定常領域を含む。いくつかの具体実施形態では、抗Siglec15抗体は、IgG1アイソタイプである。第1から第4の態様のいくつかの実施形態では、抗Siglec15抗体は、κサブタイプまたはλサブタイプの軽鎖定常領域を含む。
【0056】
第5の態様では、本願は、治療薬と複合する第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を含む、免疫薬物複合体(抗体-薬物複合体(ADC)ともいう)を提供する。
【0057】
第5の態様のいくつかの実施形態では、治療薬は、抗腫瘍医薬であり、例えば、細胞毒性薬、免疫増強剤または放射性同位体である。
【0058】
いくつかの実施形態では、細胞毒性薬の種類は、微小管タンパク質阻害剤(例えば、アルカロイド)、DNAトポイソメラーゼ阻害剤、DNA損傷剤、代謝拮抗剤または抗腫瘍抗生物質を含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、微小管タンパク質阻害剤は、オレスタチン誘導体(例えば、MMAE(Monomethyl auristatin E)、MMAF(Monomethyl auristatin F))またはマイタンシンアルカロイド誘導体(例えば、DM1、DM4、アンサミトシン(Ansamitocin)、マイタンシン(Mertansine)またはドラスタチン(dolastatin)およびその誘導体)を含むが、これらに限定されない。
【0060】
いくつかの実施形態では、DNAトポイソメラーゼ阻害剤は、カンプトテシン類似体またはDNAトポイソメラーゼI阻害剤およびその誘導体であり、例えば、DXD、SN38、イリノテカン、イリノテカン塩酸塩、カンプトテシン、9-アミノカンプトテシン、9-ニトロカンプトテシン、10-ヒドロキシカンプトテシン、9-クロロ-10-ヒドロキシカンプトテシン、22-ヒドロキシラビノミシン、トポテカン、レトテカン、ベロテカン、エキセテカン、シリルホモカンプトテシン(homosilatecan)、6,8-ジブロモ-2-メチル-3-[2-(D-キシロピラノシルアミノ)フェニル]-4(3H)-キナゾリノン、2-シアノ-3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-N-(フェニルメチル)-(2E)-2-アクリルアミド、2-シアノ-3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-N-(3-ヒドロキシフェニルプロピル)-(E)-2-アクリルアミド、12-β-D-グルコピラノシル-12,13-ジヒドロ-2,10-ジヒドロキシ-6-[[2-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ]-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール-5,7(6H)-ジオン、N-[2-(二メチルアミノ)エチル]-4-アクリジンカルボキサミド二塩酸塩、N-[2-(二メチルアミノ)エチル]-4-アクリジンカルボキサミドである。
【0061】
いくつかの実施形態では、DNA損傷剤は、カリケアミシンクラス(calicheamicin)系、デュオカルマイシン(duocarmycin)系、アントラサイクリン誘導体PBD(pyrrolobenzodiazepine、ピロロベンゾジアゼピン)を含むが、これらに限定されない。
【0062】
いくつかの実施形態では、代謝拮抗剤は、メトトレキサート、6-メルカプトプリンまたは5-フルオロウラシルを含むが、これらに限定されない。
【0063】
いくつかの実施形態では、抗腫瘍抗生物質は、ポリペプチド系抗生物質(例えば、アクチノマイシンDまたはブレオマイシン)またはアントラキノン系薬剤(例えば、塩酸アドリアマイシンまたは塩酸ミトキサントロン)を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、放射性同位体は、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、60Coまたは177Luを含むが、これらに限定されない。
【0064】
いくつかの実施形態では、免疫増強剤は、レバミソール(levamisole)、ピドチモド(pidotimod)、イミキモド(imiquimod)、イソプロテレノール、ポリノシン酸、またはポリノシン酸を含むが、これらに限定されない。
【0065】
いくつかの実施形態では、本願の抗Siglec15抗体抗体は、接合部を介して薬剤部分に共有結合している。いくつかの実施形態では、接合部は、開裂可能な接合部である。いくつかの実施形態では、接合部は、細胞内条件下で開裂可能である。ある実施形態では、接合部は、5.5未満のpHで加水分解可能である。いくつかの実施形態では、接合部は、細胞内プロテアーゼによって開裂可能である。いくつかの実施形態では、接合部は、組織プロテアーゼ切断可能な接合部である。いくつかの実施形態では、接合部は、ジペプチドを含む。いくつかの実施形態では、ジペプチドは、バリン(Val)-シトルリン(Cit)である。いくつかの実施形態では、抗体は、抗体のシステインスルフヒドリル基を介して接合部に結合される。ある実施形態では、抗体は、抗体のアミノ基(特に、グルタミン残基のアミノ基)を介して接合部に結合している。接合体の非限定的な例としては、mc-Val-Cit-pAB、mc-Val-Cit-pABC、mc-Val-Cit、NH2-(PEG)m-Val-Cit、NH2-(PEG)m-Val-Cit-pABであり、ここでmは1~8までの整数である。
【0066】
第6の態様では、本願は、第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片または第5の態様に記載の免疫薬物複合体と、薬理学的に許容される賦形剤、希釈剤または担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0067】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱油などの潤滑剤;湿潤剤;乳化剤;懸濁剤;安息香酸、ソルビン酸およびプロピオン酸カルシウムなどの保存剤;甘味料および/または香味剤、等の1つ以上をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、本願の医薬組成物は、錠剤、丸薬、粉末、トローチ、エリキシル、懸濁液、乳剤、溶液、シロップ、座薬またはカプセルの形態に処方することができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、本願の医薬組成物は、任意の生理学的に許容される投与様式を用いて投与されることができ、これには、経口投与、非経口投与、経鼻投与、直腸投与、腹腔内投与、血管内注射、皮下投与、経皮投与、吸入投与、等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
いくつかの実施形態では、治療用医薬組成物は、所望の純度の試薬を薬学的に許容される担体、賦形剤などと適宜混合することにより、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で保存するために処方することができる。
【0070】
第6の態様のいくつかの実施形態では、医薬組成物は、個体における免疫応答の調節、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球増殖の阻害の逆転、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球IFN-γ分泌の阻害の逆転、個体における腫瘍細胞増殖の阻害または過増殖性障害(例えば、Siglec15の異常発現に関連する過増殖性障害)の治療のために用いられる。いくつかの具体実施形態では、過増殖性障害は、腫瘍、例えば、Siglec15の異常発現に関連する腫瘍である。
【0071】
第6の態様のいくつかの実施形態では、第6の態様の医薬組成物は、腫瘍を治療するために、抗PD-1または抗PD-L1抗体と組み合わせて使用される。
【0072】
第7の態様では、本願は、個体における免疫応答の調節、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球増殖の阻害の逆転、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球IFN-γ分泌の阻害の逆転、個体における腫瘍細胞増殖の阻害または過増殖性障害(例えば、Siglec15の異常発現に関連する過増殖性障害)の治療のための医薬の製造における第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片または第5の態様に記載の免疫薬物複合体の使用を提供する。いくつかの具体実施形態では、過増殖性障害は、腫瘍、例えば、Siglec15の異常発現に関連する腫瘍である。
【0073】
第7の態様のいくつかの実施形態では、前記医薬は、さらに、抗PD-1または抗PD-L1抗体を含む。
【0074】
第8の態様では、本願は、個体における免疫応答の調節、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球増殖の阻害の逆転、Siglec15タンパク質によるPBMCリンパ球IFN-γ分泌の阻害の逆転、個体における腫瘍細胞増殖の阻害または過増殖性障害(例えば、Siglec15の異常発現に関連する過増殖性障害)の治療のための方法であって、それを必要とする個体に、治療有効量の第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片、第5の態様に記載の免疫薬物複合体または請求項12~15のいずれか一項記載の医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。いくつかの具体実施形態では、過増殖性障害は、腫瘍、例えば、Siglec15の異常発現に関連する腫瘍である。
【0075】
第8の態様のいくつかの実施形態では、方法は、さらに、それを必要とする個体に抗PD-1または抗PD-L1抗体を投与することを含む。
【0076】
第6から第8の態様の実施形態では、本願の抗Siglec15抗体は、T細胞上のカウンターレセプターへのSiglec-15の結合を低減または防止してT細胞応答を誘導することにより、T細胞増殖を誘導、増加または強化するために使用することができる。免疫系のアップレギュレーションは、癌や慢性感染症の治療において特に必要とされるため、本願の抗Siglec15抗体は、このような疾患の治療に用いることができる。
【0077】
本願の抗Siglec15抗体、免疫薬物複合体または医薬組成物は、以下を含む(ただし、これらに限定されない)種々の癌または他の異常増殖性疾患の治療または予防に使用できる:膀胱癌、乳癌、結腸癌、腎癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、すい臓癌、胃癌、子宮頸癌、甲状腺癌および皮膚癌などの癌;扁平細胞癌;白血病、急性リンパ球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫及びバーキットリンパ腫を含むリンパ系造血系の腫瘍;急性及び慢性骨髄性白血病、前骨髄球性白血病を含む骨髄系造血系の腫瘍;線維肉腫及び横紋筋肉腫を含む間葉系の腫瘍;アストロサイトーマ、神経芽腫、グリオーマ及び神経芽腫を含む中央及び末梢神経の腫瘍;線維肉腫、横紋筋肉腫および骨肉腫を含む間葉系由来の腫瘍;ならびにメラノーマ、染色幹細胞、ケラトアカントーマ、セミノーマ、甲状腺の濾胞がんおよび奇形がんを含む他の腫瘍。
【0078】
本願の抗Siglec15抗体、免疫薬物複合体または医薬組成物は、感染症および感染性疾患を治療するために使用することができる。典型的には、本方法は、Siglec-15結合分子の量を被験者に投与することにより、感染開始因子に対する免疫応答を刺激または増強すること、感染症の進行を軽減または防止すること、またはそれらの組合せを含む。本方法は、感染症の1つまたは複数の症状を軽減することができる。感染症または疾患は、細胞内に侵入し、細胞傷害性Tリンパ球によって攻撃される細菌、ウイルス、原虫、蠕虫または他の微生物病原体によって引き起こされることができる。感染症や病気には、急性感染症と慢性感染症がある。急性感染症は通常、短命の感染症である。急性微生物感染症の間、免疫細胞は、免疫調節受容体を発現し始める。したがって、いくつかの実施形態では、本方法は、急性感染に対する免疫刺激性応答を増強することを含んでいる。
【0079】
第9の態様では、本願は、第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体または抗原結合断片をコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、前記ポリヌクレオチドは、調節配列に作動可能に連結されており、該調節配列は、前記ベクターで形質転換した宿主細胞によって認識可能である。
【0080】
第10の態様では、本願は、第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体または抗原結合断片をコードするポリヌクレオチドを含む、ベクター(例えば、発現ベクター)を提供する。発現ベクターの選択は、宿主細胞の選択に依存し、選択された宿主細胞において所望の発現および調節特性を有するように選択することができる。
【0081】
「発現ベクター」とは、1つ以上の発現制御配列を含むベクターであり、「発現制御配列」とは、他のDNA配列の転写および/または翻訳を制御・調節するDNA配列である。
【0082】
ベクター中の核酸は、1つまたは複数の発現制御配列に作動可能に連結され得る。本明細書で使用する場合、「作動可能に連結された」とは、発現制御配列が標的コード配列の発現を効果的に制御するように、遺伝子構築物に組み込まれることを意味する。発現制御配列の例としては、プロモーター、エンハンサーおよび転写終結領域が挙げられる。プロモーターは、転写開始部位(通常はRNAポリメラーゼIIの開始部位付近)の上流100ヌクレオチド以内のDNA分子の領域からなる発現制御配列である。コーディング配列がプロモーターの制御下にあるためには、ペプチド翻訳リーディングフレームの翻訳開始部位がプロモーターの1~約50ヌクレオチドの下流に位置する必要がある。エンハンサーは、タイミング、位置、レベルの点で発現特異性を提供する。プロモーターとは異なり、エンハンサーは転写部位から異なる距離に位置していても作用することができる。また、エンハンサーは転写開始部位の下流に位置することもある。RNAポリメラーゼがコード配列をmRNAに転写し、それがコード配列によってコードされるタンパク質に翻訳されることができるとき、コード配列は細胞内で発現制御配列と「作動可能に連結」し、発現制御配列の「制御下にある」。
【0083】
好適な発現ベクターとしては、例えば、ファージ、バキュロウイルス、タバコモザイクウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスに由来するプラスミドおよびウイルスベクターがあるが、これらに限定されない。ベクターや発現系は、Novagen(Madison,WI)、Clontech(Palo Alto,CA)、Stratagene(LaJolla,CA)およびInvitrogen Life Technologies(Carlsbad,CA)などの会社から市販されているものが多くある。
【0084】
発現ベクターは、タグ配列を含んでいてもよい。タグ配列は、典型的には、コードされたポリペプチドとの融合体として発現される。このようなタグは、カルボキシル末端またはアミノ末端を含む、ポリペプチド内の任意の位置に挿入することができる。有用なタグの例としては、Fc断片、ポリヒスチジン、緑色蛍光タンパク質(GFP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、c-myc、ヘマグルチニン、FlagTMタグ(コダック、ニューヘブン、CT)、マルトースE結合タンパク質およびタンパク質Aなどがあるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、シグレック15融合ポリペプチドをコードする核酸分子は、Ig重鎖の定常領域の1つ以上の構造領域をコードする核酸を含むベクター中に存在し、前記構造領域は、例えば、ヒト免疫グロブリンCγ1鎖のヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域のアミノ酸配列(Fc断片)に相当する。
【0085】
第11の態様では、本願は、第10の態様に記載の担体を含む単離宿主細胞を提供する。
【0086】
いくつかの実施形態では、宿主細胞は、原核宿主細胞、真核宿主細胞またはファージであってもよい。原核生物宿主細胞は、例えば、Escherichia coli、Bacillus subtilis、StreptomycesまたはAspergillus chimaericusであってもよい。真核宿主細胞としては、Pasteurella、Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母、Xylaria等の真菌、Meadow slime等の昆虫細胞、タバコ等の植物細胞、BHK細胞、CHO細胞、COS細胞、ミエローマ細胞等の哺乳類細胞等を挙げることが出来る。
【0087】
第12の態様では、本願は、第1から第4の態様に記載の抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片の製造方法であって、第11の態様に記載の宿主細胞を培養する工程を含む、方法を提供する。第12の態様のいくつかの実施形態では、前記方法は、さらに、前記抗Siglec15抗体またはその抗原結合断片を単離する工程を含む。
【0088】
上記の詳細な説明は、当業者に対して本願の内容をより明確に理解させることのみを目的としており、いかなる点においても限定することを意図していないことが理解されるべきである。当業者は、説明した実施形態に対して様々な変更および変形を行うことができる。
【実施例
【0089】
なお、以下の実施形態は例示であり、本願の範囲を限定するためのものではない。
【0090】
実施例1、Siglec15抗原および測定タンパク質の製造
本願の発明者らは、Uniprot(Q6ZMC9)を用いて、免疫用Siglec15抗原および検出用Siglec15タンパク質のアミノ酸配列を取得した。Siglec15のIgV領域または細胞外領域の全長を、それぞれIgG抗体重鎖ヒトIgG1Fc断片または7つのヒスチジン(Histidine,His)と組み替え、pCDNA3.1ベクター(南京Kingsray Biotechnology Co, Ltd.)にクローニングした。上記プラスミドをPEIトランスフェクション法を用いてHek293F哺乳類細胞にトランスフェクションし、トランスフェクション7日後に細胞上清を回収して精製した。このプラスミドをそれぞれSiglec15-IgV-Fc、Siglec15-ECD-FcまたはSiglec15-ECD-Hisと命名し、そのアミノ酸配列を以下に示す。
【0091】
ヒトSiglec15(配列番号1)の全長アミノ酸配列は以下の通りであり、1-19位はシグナルペプチド配列、20-263位は細胞外構造領域(イタリック文字、太字)、40-158位はIgV構造領域(シングル下線)、168-251位はIgC2構造領域(ダブル下線)である。
【0092】
【0093】
Siglec15-ECD-Fc(配列番号2)のアミノ酸配列は以下の通りであり、1-19位はシグナルペプチド、20-263位はSiglec15細胞外構造領域(ECD)(斜体、太字で表示)、264-494位はFcタグである。
【0094】
【0095】
Siglec15-IgV-Fc(配列番号3)のアミノ酸配列は以下の通りであり、1-19位はシグナルペプチド、40-158位はSiglec15のIgV領域(イタリック体、太字で表示)、166-396位はFcタグである:
【0096】
【0097】
Siglec15-ECD-His(配列番号4)は、本願の検出試薬として使用され、以下のアミノ酸配列を有し、ここで、1-19位はシグナルペプチド、20-263位はSiglec15細胞外構造領域(ECD)(イタリック体、太字で表示)、264-270位はヒスチジンタグである:
【0098】
【0099】
実施例2、組換えタンパク質または抗体の精製
2.1 Hisタグ付き組換えタンパク質の精製
高速遠心分離により沈殿物を除去し、細胞発現上清を回収した。ニッケルカラムを10mMイミダゾールを含むHBSバッファー(10mM HEPES pH7.5、500mMNaCl)で予備平衡化し、カラム容量の2~5倍をリンスし、上清試料をニッケルカラムにロードした。A280の測定値がベースラインに下がるまで、10mMイミダゾールを含むHBSバッファーでカラムをすすいだ。次に、クロマトグラフィーカラムを20mMイミダゾールを含むHBSバッファーで洗浄し、非特異的に結合したヘテロ蛋白質を除去し、流出液を回収した。その後、300mMイミダゾールを含むHBSバッファーで標的タンパク質を溶出し、溶出ピークを回収し、回収した溶出液をHBSバッファーに交換した。ニッケルカラム精製により得られたSiglec15-ECD-Hisタンパク質は、本願の抗体のスクリーニングおよび性能試験に使用した。
【0100】
2.2 Fc融合タンパク質または抗体の精製
細胞発現上清を高速遠心分離により沈殿物を除去し、上清を回収した。Protein A/GカラムをPBバッファーで予備平衡化し、カラム容量の2~5倍の量をリンスし、上清のサンプルをカラムにロードした。A280の測定値がベースラインに下がるまで、PBバッファーでカラムをリンスした。pH2.7の0.1Mグリシン溶液をpH9.0にプレスパイクした1MTris-HCL中和バッファーに通すことで標的タンパク質を溶出し、集めた溶出液をPBSバッファーに交換した。Fc断片を有するSiglec15-ECD-Fc、Siglec15-IgV-Fcは、免疫原として、あるいは本願抗体の性能試験用として用いられた。融合Fc断片は、哺乳類における標的タンパク質の発現・分泌を促進し、また、Fc断片はプロテインAに特異的に結合できるため、融合タンパク質の精製を容易にし、さらに、Fc断片は動物の抗ヒト二次抗体で認識・結合できるため、抗体阻害の効果を示すために用いることができる。
【0101】
実施例3、抗ヒトSiglec15ハイブリドーマモノクローナル抗体の製造
6~8週齢の健康なBALB/c雌マウスを選び、それぞれSiglec15-ECD-FcおよびSiglec15-IgV-Fcタンパク質で免疫した。初回免疫には、フロイント完全アジュバントと免疫タンパク質の混合物を乳化し、免疫原とアジュバントが1:1の割合で、それぞれ100μg/匹ずつマウスの背部と鼠径部に皮下注射した。初回免疫の前に、血清抗体力試験の陰性対照として、マウスの目から少量の血液を採取した。初回免疫の7~10日後、フロイントインコンプリートアジュバントと免疫タンパク質の混合乳剤を初回免疫と同じルートでブースター免疫した。以後、ブースター免疫は、免疫原とアジュバントの比が1:1で、50μg/1ずつ、7~10日間隔で2~3回実施した。マウスから末梢血清を採取し、以下に記載するように、酵素結合免疫測定法(ELISA)により試験した。図1に示すSiglec15-ECD-FcおよびSiglec15-IgV-Fcタンパク質で免疫したマウスは、いずれも血清力価が36万以上であり、血漿抗体価の高いマウスをそれぞれ細胞融合に選択した。融合の3日前に、アジュバントを含まない免疫原50μgを尾静脈または腹腔内に注射し、ショック免疫とした。融合当日、マウス脾臓を採取し、RPMI1640基礎培地(GIBCO)を用いて単細胞懸濁液に製造し、SP2/0細胞と脾臓細胞を1:3~1:5の割合で混合して電気融合により融合させた。HAT選択培地により5~7日間培養し、HT培地に切り替えて37℃ CO2インキュベーターに入れ、さらに培養を行った。
【0102】
ELISA法で抗体の力価を測定し、またはモノクローナル抗体をスクリーニングし、具体的な方法は以下の通りである:
(1)コーチング化:Siglec15-ECD-Hisタンパク質を抗原カプセル化バッファー(pH 9.6、0.05M炭酸塩バッファー)に最終濃度1μg/mLになるように溶解し、96ウェルポリスチレンリーダープレートで4℃にて一晩コーチング化した。
(2)クロージング:プレートをPBST バッファーで3回洗浄した後、2%BSA を含むPBS溶液を各ウェルに添加し、37℃で2時間インキュベートした後、プレートをPBSTバッファーで3回洗浄した。
(3)一次抗体のインキュベーション:マウス血清(またはハイブリドーマ細胞分泌上清、精製抗体)を0.2%BSA を含む一連の濃度勾配に多重希釈し、酵素プレートに添加した。初回免疫前にマウスから採取した目の血清を陰性対照として使用し、ブランクは0.2%BSAを含むPBSで37℃、2時間インキュベートした。プレートはPBSTバッファーで3回洗浄した。
(4)二次抗体のインキュベーション:西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgGを加え、37℃で1時間インキュベートし、PBSTバッファーでプレートを3回洗浄した。
(5)発色:TMB基質発色液AとBを混合し、1ウェルあたり100μLを加え、遮光し、室温で10分間反応させる。
(6)終了:各ウェルに100μLの2M H2SO4を加え、発色反応を終了させた。
(7)測定:酵素プレートの各ウェルの吸光度値を、酵素マーカーにより450nmで測定した。
【0103】
実施例4、ハイブリドーマ細胞株のスクリーニングと特性評価
ハイブリドーマ細胞を一定量まで増殖させた後、Siglec15-Hisタンパク質を96ウェル酵素標識プレートに封入し、マウス抗Siglec15血清を陽性対照としたELISA法によりハイブリドーマ上清をスクリーニングして陽性クローンを選択した。LRRC4C-Hek293細胞へのSiglec15-ECD-Fcの結合アッセイを阻害する陽性クローン上清を検出することにより、抗体3-10B2、1-15D1、1-7F4、3-8B9、14A7、13E4、4G5、9H7、1-10E5および14C4はSiglec15-ECD-FcとLRRC4C-Hek293細胞の結合を阻害することが明らかになり、後述する図2に示すような実験結果を得た。本発明者らは、これら10個の細胞株を限定希釈法によるサブクローナルスクリーニングに供し、得られたモノクローナル陽性細胞株を最終的に別々に保存し、ハイブリドーマ細胞の上清を採取してProteinGにより精製した。
【0104】
Siglec15-ECD-FcとLRRC4C-Hek293細胞との結合は、シングルサイトブロッキングフローサイトメトリーにより、以下のように検出した:
【0105】
Lipofectamineシステムを用いて、ヒトLRRC4C(配列番号5に示すアミノ酸配列)プラスミドをHek293細胞にトランスフェクトし、48h後にG418(800μg/mL)を添加して10~14日間スクリーニングし、LRRC4Cを安定発現する細胞株を取得した。細胞を回収し、PBS緩衝液で1回洗浄し、2%FBSを含むPBSで1時間室温で閉鎖し、ハイブリドーマ細胞上清を加え、50μl/ウェルとなる;直後に希釈Siglec15-ECD-Fcタンパク質(2μg/ml)を加え、50μl/ウェル;陰性対照としてマウス由来のIgGを使用した。細胞を4℃で50分間インキュベートした後、0.2%FBSを含むPBSバッファーで3回洗浄し、次に2%FBSを含むPBSでAlexa Fluor 488標識ヤギ抗ヒトIgGで希釈し、光から保護して4℃で50分間インキュベートし、0.2%FBSを含むPBSバッファーで3回洗浄し;最後に200μL PBSに細胞を再懸濁した。分析は、フローサイトメトリーで行った。FITC蛍光強度を横座標、細胞数を縦座標とし、ブランク対照が座標軸の原点になるように電圧パラメータを調整し、各サンプルについて10,000細胞の平均蛍光測定値を記録した。ハイブリドーマ細胞上清がLRRC4CへのSiglec15-ECD-Fcタンパク質結合を阻害する割合は、阻害率=(陰性対照読み取り値-試験する上清読み取り値-ブランク対照読み取り値)/(陰性対照読み取り値-ブランク対照読み取り値)として計算した。
【0106】
ヒトLRRC4C全長アミノ酸配列如下(配列番号5):
MLNKMTLHPQQIMIGPRFNRALFDPLLVVLLALQLLVVAGLVRAQTCPSVCSCSNQFSKVICVRKNLREVPDGISTNTRLLNLHENQIQIIKVNSFKHLRHLEILQLSRNHIRTIEIGAFNGLANLNTLELFDNRLTTIPNGAFVYLSKLKELWLRNNPIESIPSYAFNRIPSLRRLDLGELKRLSYISEGAFEGLSNLRYLNLAMCNLREIPNLTPLIKLDELDLSGNHLSAIRPGSFQGLMHLQKLWMIQSQIQVIERNAFDNLQSLVEINLAHNNLTLLPHDLFTPLHHLERIHLHHNPWNCNCDILWLSWWIKDMAPSNTACCARCNTPPNLKGRYIGELDQNYFTCYAPVIVEPPADLNVTEGMAAELKCRASTSLTSVSWITPNGTVMTHGAYKVRIAVLSDGTLNFTNVTVQDTGMYTCMVSNSVGNTTASATLNVTAATTTPFSYFSTVTVETMEPSQDEARTTDNNVGPTPVVDWETTNVTTSLTPQSTRSTEKTFTIPVTDINSGIPGIDEVMKTTKIIIGCFVAITLMAAVMLVIFYKMRKQHHRQNHHAPTRTVEIINVDDEITGDTPMESHLPMPAIEHEHLNHYNSYKSPFNHTTTVNTINSIHSSVHEPLLIRMNSKDNVQETQI
【0107】
実施例5、抗Siglec15抗体の種間交差認識特性
抗体の種間認識特性を評価するために、精製モノクローナル抗体1-15D1、1-7F4、14A7および1-10E5をヒト、カニクイザルおよびネズミのSiglec15と交差認識するようテストした。酵素プレートにHisタグ付きヒト、カニクイザルおよびマウスSiglec15タンパク質をコートし、それぞれ5000ng/ml、1666.7ng/ml、555.6ng/ml、185.2ng/ml、61.7ng/ml、20.6ng/ml、6.9ng/ml、2.3ng/ml、0.8ng/ml、0.25ng/mlおよび0.1ng/mlの1-15D1、1-7F4、14A7および1-10E5抗体を添加し、ELISA法により試験した。その結果、1-15D1、1-7F4、14A7および1-10E5抗体はヒト(図3)およびサル(図4)のSiglec15タンパク質に結合した。14A7および1-10E5抗体はヒトおよびサルSiglec15タンパク質だけでなくマウスSiglec15タンパク質にも結合した(図5)。各種Siglec15に対する親和性のEC50値を表1および図3図5に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
実施例6、ヒトマウスキメラ抗Siglec15抗体の製造、発現および精製
Trizol法を用いて3×106から5×106のハイブリドーマ細胞からTotal RNAを抽出し、GoScriptTM Reverse Transcription Systemの実験説明書に従ってcDNAに逆転写した。続いてマウス免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変領域(V-region)の断片をPCRにより増幅し、配列をシーケンシングした。クローン1-10E5、1-7F4、1-15D1、14A7の重鎖および軽鎖CDR領域の最終配列(表2)および可変領域のアミノ酸配列が得られた。
【0110】
【表2】
【0111】
1-15D1重鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号26)
EVQLQQSGPELVKPGASVKMSCKASGYTFTTYVMHWVKQKPGQGLEWIGYINPYNDNTKYNEKFKGKATLTSDKSSSTAYMELSSLTSEDSAVYYCGSGYDAMDYWGQGTSVTVSS
【0112】
1-15D1軽鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号27)
DIQMAQSPASLSVSVGETVTITCRTSENIYSHLAWYQQKQGKSPQLLVYSATNLADGVPSRFNGSGSGTQYSLKINSLQSEDFGSYYCQHFWGTPWTFGGGTKLEIK
【0113】
1-7F4重鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号28)
EVQLQQSGPELVKPGASVKMSCKASGYTFTTYVMHWVKQKPGQGLEWIGYINPYNDKTKYNEKFKGKATLTSDKSSSTAYMEVSRLTSEDSAVYYCGSGYDAMDYWGQGTSVTVSS
【0114】
1-7F4軽鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号29)
DIQMTQSPASLSVSVGETVTITCRASENIYSHLAWYQQKQGKSPQLLIYSATNLADGVPSRFNGSGSGTQYSLKINSLQSEDFGSYYCQHFWGTPWTFGGGTKLEIK
【0115】
1-10E5重鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号30)DVKLVESGGGL VKPGGSLKLSCVVSGLTFSRYTMSWVRQTPEKRLEWVATISSGGNSTYYPDSVKGRFTISRDDAKDTLYLQMSSLKSEDTAMYYCTNYGYFFDYWGQGTTLTVSS
【0116】
1-10E5軽鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号31)
DIQMTQSPASLSASVGETVTITCRASENIYSFLAWYQQKQGKSPQLLVYNAKTLAEGVPSRFSGSGSGTQFSLKINSLQPEDFGSYYCQHHYDRPLTFGAGTKLELK
【0117】
14A7重鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号32)
DVQLQESGPGLVKPSQSLSLTCTVTGYSITSDFAWNWIRQFPGNKLEWMGYIRFSGSTTYKPTLKSRISITRDTSKNQFFLQLNSVTTEDSATYYCAREDYDGLFDYWGQGTTLTVTS
【0118】
14A7軽鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号33)
DVLMTQTPLSLPVSLGDHASISCRSSQTILHSNGNTYLDWYLQKPGQSPKLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYYCFQGSHVPYTFGGGTKLEIK
【0119】
上記4種類のモノクローナル抗体をコードする遺伝子の可変領域の配列情報に基づき、抗体のアイソタイプがヒトIgG1であり、297位のアスパラギン(N)がアラニン(A)に変異したヒト-マウスキメラ抗体発現ベクターを構築した(本願ではhIgG1と称する)。軽鎖可変領域及び定常領域(κ)、重鎖可変領域及び定常領域を含むDNA断片を合成し、pCDNA3.1発現ベクターに挿入して発現プラスミドとした。この真核生物発現ベクターをHek293細胞に一過性に導入し、5~7日間培養した。遠心分離により細胞上清を採取し、採取した培養上清をProteinAカラムで精製し、それぞれ1-7F4-IgG1、1-15D1-IgG1、1-10E5-IgG1、14A7-IgG1と命名した目的抗体を取得した。
【0120】
実施例7、Siglec15タンパク質に対するキメラ抗体の親和性のForteBioによる測定
本実施例で選択した対照抗体は、中国特許出願公開CN110035769AからのCDR領域の配列を有する抗体5G12であり、これを実施例6に示すようにhIgG1(N297A変異を含む)に結合させて5G12-IgG1を製造した。対照抗体5G12は、発明者の解析により推定されたNesquel (NextCure)の抗Siglec15薬物抗体NC-318である。
【0121】
この実験では、HIS1Kバイオセンサー結合リガンド(Sigle15-ECD-Hisタンパク質)を使用し、その後、分析対象物を結合した。ヒトSigle15-ECD-Hisタンパク質を5μg/mlに希釈し、0.3nmの結合応答閾値までバイオセンサーに固定化した。120秒のベースラインステップの後、0.02%PBSTバッファーで2倍勾配で希釈した抗Siglec15抗体1-7F4-IgG1、1-15D1-IgG1、1-10E5-IgG1分析物にそれぞれセンサーを浸漬し、初期抗体濃度を100nMとし、7段階の濃度勾配を設定した。リファレンス対照としてHuman IgG1(hIgG1)(B109801,Baiying Biotechnology Ltd.)を、アフィニティ解析アッセイのポジティブ対照として5G12-IgG1を使用した。リガンドを被分析物に120秒間結合させ、300秒間解離させた生データを解析ソフトに取り込み、濃度ゼロ対照を減算し、リファレンスチャンネルを減算してボリューム効果を排除し、解析ソフト上で回帰して結合曲線から抗原と抗体の親和性データを算出した。その結果を表3に示す。候補の抗体は高い親和性で標的抗原を認識し、いずれも対照抗体5G12よりも有意に低いKD値であった。
【0122】
【表3】
【0123】
実施例8、抗Siglec15キメラ抗体のSiglec15を発現するHek293細胞株への結合特性
細胞表面に発現したヒトSiglec15に結合する抗Siglec15キメラ抗体の能力を、ヒトSiglec15過剰発現細胞株Hek293を使用して評価した。ヒト-マウスキメラ抗体は、5G12-IgG1を陽性対照として、それぞれ10,000ng/ml、5,000ng/ml、1,666.7ng/ml、555.6ng/ml.2、61.7ng/ml、20.6ng/mlの濃度にPBSバッファーで希釈した。抗体をHek293-siglec15細胞と4℃で1時間インキュベートし、細胞をPBSバッファーで3回洗浄し、続いてAlexa Fluor 488標識ヤギ抗ヒトIgG抗体で50分間光から保護した氷上で標識し、細胞をPBSバッファーで3回洗浄してフローサイトメトリーで細胞の蛍光強度を読み取った。図6に示すように、抗体1-10E5-IgG1、1-7F4-IgG1および1-15D1-IgG1は、Hek293細胞株上に発現したSiglec15と用量依存的に結合でき、いずれも対照抗体5G12より有意に強く結合した。
【0124】
実施例9、抗Siglec15抗体によるSiglec15を介したT細胞増殖抑制の逆転現象
本発明者らは、組換えキメラ抗体によるSiglec15を介したヒト全PBMC T細胞増殖の阻害の逆転を測定した。測定の当日に、凍結PBMCを解凍し、RPMI完全培地で洗浄し、計数した。PMBC(3×105細胞/ウェル)を、抗ヒトCD3抗体(OKT3、50ng/mL;eBioScience)を予め含有させた96ウェルプレートに接種した。次に、予め混合したSiglec15-ECD-Fc融合タンパク質(5μg/ml)および試験する抗体(20μg/ml)を、指定のウェルに添加した。hIgG1を陰性対照(アイソタイプ)として、5G12-IgG1をポジティブ対照として使用した。細胞を37℃で72時間インキュベートし、CellTiter-Glo(Promega社製)を加えて細胞生存率を検出した。
【0125】
結果として、図7に示すように、組み換え抗体1-15D1-IgG1、1-7F4-IgG1および1-10E5-IgG1は、陰性対照抗体hIgG1と比較してSiglec15によるヒトT細胞の抑制を逆転し、いずれも対照抗体5G12より優れていたことがわかる。
【0126】
実施例10、抗Siglec15抗体によるSiglec15を介したT細胞によるIFN-γの分泌抑制の逆転現象
本実験では、抗Siglec-15抗体の活性を特徴付けるために、in vitro免疫刺激アッセイで活性化後のヒト由来PBMCから分泌されるIFN-γ量を検出することにより、PBMCの活性化効果を評価した。PBMCは、健康なヒトの混合末梢血から分離し、RPMI完全培地で洗浄し、計数した。全PMBC(3×105 cells/well)を、抗ヒトCD3抗体(OKT3, 50ng/mL; eBioScience)を予め含有する96-wellプレートに接種した。次に、予め混合したSiglec15-ECD-Fc融合タンパク質(5μg/ml)と20μg/mlの濃度で試験する抗体を、指示したウェルに添加した。hIgG1は陰性対照(アイソタイプ)として、5G12-IgG1はポジティブ対照として使用した。細胞を37℃で24時間インキュベートし、上清を遠心分離してIFN-γの遊離を検出した。
【0127】
結果として、図8に示すように、組み換え抗体1-15D1-IgG1、1-7F4-IgG1、1-10E5-IgG1は、Siglec15によるT細胞によるIFN-γ分泌抑制を有効に回復させ、いずれも対照抗体5G12よりも有意に有効であることがわかった。
【0128】
実施例11、抗Siglec15抗体のエピトープ分類
1-15D1-IgG1、1-7F4-IgG1、1-10E5-IgG1、5G12-IgG1の抗原性エピトープ分類はOctet epitope pairingにより検出された。ヒトSiglec15-ECD-Hisタンパク質を5ug/mlでHIS1Kセンサーにロードし、その後、一次抗体と二次抗体をそれぞれ曝露した。2次抗体の結合シグナルは、2つの抗体が同じエピトープを認識しているかどうかを判断するために使用され、データはForteBioのデータ解析ソフトウェア7.0を使って処理された。一次抗体結合後の二次抗体の追加結合(60%~100%)は、占有されていないエピトープ(非競合)を示し、一次抗体結合後の二次抗体の追加部分結合(10%~60%)は、部分的に占有されたエピトープ(部分競合)を示し、結合なし(10%未満)は、阻害されたエピトープ(競合)を示した。その結果、1-7F4-IgG1は1-15D1-IgG1と同じ認識エピトープを持ち、1-10E5-IgG1は1-7F4-IgG1および1-15D1-IgG1と一部重なり、1-10E5-IgG1、1-7F4-IgG1および1-15D1-IgG1は5G12-IgG1とは全く異なる認識エピトープを持っていたことが判明した。
【0129】
上記の説明は例示的な実施形態に過ぎず、本願を実施するために必要な特徴の組み合わせを限定するものではない。また、提供されるタイトルは、本願の多様な実施形態を制限することを意図していない。例えば、「comprising」、「including」、「including」という用語は、限定することを意図していない。さらに、特に断らない限り、カウントワード修飾語がない場合は複数形を含み、「または」、「或いは」は「および/または」を意味する。本明細書で特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本願で言及される全ての開示および特許は、参照により本明細書に組み込まれる。本願の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書に記載された方法および組成物の多くの修正および変形は、当業者には明らかである。本願は、特定の好ましい実施形態によって説明されるが、保護が主張される本願は、これらの特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことが理解されねばならない。実際に、関連分野の当業者にとって明らかな、本願を実施するための記載された態様のそれらの複数の変形は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。
【0130】
本願は、2021年2月25日に出願した中国特許出願202110211997.5号の優先権を主張し、その全内容が参照によりここに組み込まれ、あらゆる目的で使用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2024507959000001.app
【国際調査報告】