(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】脳卒中の多遺伝子性遺伝的リスクスコア及び発症リスク評価装置並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20240214BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240214BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20240214BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
G01N33/53 M
C12N15/11 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552138
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-23
(86)【国際出願番号】 CN2022078254
(87)【国際公開番号】W WO2022179637
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】202110215682.8
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519351141
【氏名又は名称】フーワイ ホスピタル, チャイニーズ アカデミー オブ メディカル サイエンシズ アンド ペキン ユニオン メディカル カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ルー, シャンフェン
(72)【発明者】
【氏名】グー, ドンフェン
(72)【発明者】
【氏名】ホァン, ジアンフェン
(72)【発明者】
【氏名】リ, ホンファン
(72)【発明者】
【氏名】ニウ, シャオゲ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
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4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
脳卒中の多遺伝子性遺伝的リスクスコア(Polygenic risk score、PRS)及び発症リスク評価装置並びにその使用を提供し、具体的には、脳卒中発症リスクを評価するための検出装置の製造における個体情報を検出するための試薬の使用であって、前記個体情報が、280個のStroke関連一塩基多型部位を含み、好ましくは、CAD、SBP、WC、T2D、TC、PP、AF関連一塩基多型部位の1つ以上をさらに含む使用を提供する。さらに多遺伝子性遺伝的リスクスコアと従来のリスク要因を統合することにより、脳卒中発症リスクの再層別化を実現することができ、脳卒中の一次予防に重要な意味を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳卒中発症リスクを評価するための検出装置の製造における以下の一塩基多型部位情報を含む個体情報を検出するための試薬の使用。
Stroke関連一塩基多型部位:rs10051787、rs10093110、rs10139550、rs10160804、rs10237377、rs10260816、rs10267593、rs10278336、rs1037814、rs10507248、rs10512861、rs10745332、rs10757274、rs10773003、rs10824026、rs10857147、rs10953541、rs10968576、rs11099493、rs1116357、rs11206510、rs11222084、rs11257655、rs11509880、rs1152591、rs11557092、rs11601507、rs11604680、rs11624704、rs11677932、rs1173766、rs117601636、rs117711462、rs11787792、rs11810571、rs11838776、rs11869286、rs12027135、rs12037987、rs12202017、rs12229654、rs12415501、rs12438008、rs12445022、rs12500824、rs1250229、rs12549902、rs12571751、rs12581963、rs12692735、rs12718465、rs12801636、rs12897、rs12927205、rs12932445、rs12936587、rs12946454、rs13143308、rs13209747、rs1321309、rs13216675、rs13233731、rs13342232、rs1334576、rs13359291、rs1344653、rs1359790、rs1367117、rs13723、rs1412444、rs1436953、rs1470579、rs1495741、rs1508798、rs151193009、rs1552224、rs1591805、rs16844401、rs16849225、rs16858082、rs16896398、rs16967013、rs16999793、rs17030613、rs17080091、rs17087335、rs17122278、rs17135399、rs17301514、rs173396、rs17358402、rs17477177、rs17514846、rs17581137、rs17612742、rs17680741、rs17791513、rs180327、rs181359、rs1861411、rs1868673、rs1870634、rs1887320、rs1892094、rs1902859、rs191835914、rs1976041、rs1982963、rs2000813、rs2028299、rs2057291、rs2068888、rs2074158、rs2075291、rs2075423、rs2107595、rs2128739、rs2145598、rs216172、rs2213732、rs2229383、rs2237896、rs2240736、rs2245019、rs2261181、rs2295786、rs2334499、rs243019、rs246600、rs247616、rs2487928、rs2535633、rs2575876、rs261967、rs273909、rs2758607、rs2782980、rs2796441、rs2815752、rs2820315、rs2861568、rs2925979、rs2972146、rs29941、rs326214、rs340874、rs351855、rs35337492、rs35444、rs36096196、rs368123、rs376563、rs3775058、rs3785100、rs3791679、rs3861086、rs3887137、rs3903239、rs3936511、rs4275659、rs4400058、rs4409766、rs4458523、rs4468572、rs4593108、rs46522、rs4719841、rs4722766、rs4724806、rs4731420、rs4752700、rs4766228、rs4788102、rs4812829、rs4821382、rs4836831、rs4846049、rs4883263、rs4911495、rs4918072、rs4932370、rs556621、rs56062135、rs574367、rs579459、rs582384、rs5996074、rs6093446、rs61776719、rs633185、rs6490029、rs6545814、rs663129、rs6666258、rs667920、rs6700559、rs671、rs67156297、rs67180937、rs6725887、rs67839313、rs6795735、rs6813195、rs6817105、rs6825454、rs6825911、rs6829822、rs6831256、rs6838973、rs6878122、rs6882076、rs6905288、rs6909752、rs6960043、rs699、rs6997340、rs702485、rs702634、rs7136259、rs7164883、rs7178572、rs7193343、rs7199941、rs7202877、rs7206541、rs7258189、rs7258445、rs7258950、rs72689147、rs73015714、rs7304841、rs7306455、rs73069940、rs736699、rs737337、rs7403531、rs740406、rs7499892、rs7500448、rs7503807、rs7568458、rs7610618、rs7616006、rs7696431、rs7770628、rs780094、rs7810507、rs7859727、rs7917772、rs79223353、rs7947761、rs7955901、rs7965082、rs7980458、rs8042271、rs8108269、rs838880、rs840616、rs871606、rs880315、rs884366、rs885150、rs888789、rs9266359、rs9268402、rs9299、rs9319428、rs9376090、rs9473924、rs9505118、rs9568867、rs964184、rs9687065、rs975722、rs9810888、rs9815354、rs9828933、rs984222、rs9892152、rs9970807。
【請求項2】
前記個体情報が、以下の一塩基多型部位情報をさらに含み、
CAD関連一塩基多型部位:rs10096633、rs10203174、rs1027087、rs1029420、rs10401969、rs10455782、rs10513801、rs1077834、rs10820405、rs10830963、rs10842992、rs10886471、rs11030104、rs11057830、rs11066280、rs11067763、rs11077501、rs11125936、rs11136341、rs11142387、rs11205760、rs1129555、rs11556924、rs11634397、rs1169288、rs11830157、rs11838267、rs11847697、rs1211166、rs12204590、rs12214416、rs12242953、rs12453914、rs12463617、rs12524865、rs12535846、rs12597579、rs12679556、rs12740374、rs12970066、rs12999907、rs130071、rs13041126、rs13078807、rs1317507、rs13266634、rs13277801、rs13306194、rs1378942、rs1467605、rs1496653、rs1514175、rs1535500、rs1555543、rs1558902、rs1575972、rs1689800、rs16933812、rs16986953、rs16990971、rs17080102、rs17150703、rs17249754、rs17381664、rs174547、rs17465637、rs17517928、rs17609940、rs17678683、rs17695224、rs17843768、rs1799945、rs1800234、rs1801282、rs181360、rs2000999、rs200990725、rs2021783、rs2043085、rs2066714、rs2075260、rs2106261、rs2144300、rs2237892、rs2296172、rs2302593、rs2328223、rs2383208、rs2415317、rs2531995、rs2571445、rs2642442、rs2819348、rs2820443、rs3129853、rs3130501、rs3213545、rs35332062、rs3809128、rs3827066、rs3846663、rs391300、rs3993105、rs4148008、rs4266144、rs4377290、rs439401、rs4420638、rs4471613、rs459193、rs4613862、rs4713766、rs4735692、rs4757391、rs4845625、rs4917014、rs4923678、rs499974、rs5215、rs55783344、rs56289821、rs56336142、rs590121、rs6065311、rs6494488、rs651821、rs660599、rs6807945、rs6808574、rs6818397、rs7087591、rs7107784、rs7116641、rs7225581、rs72654473、rs748431、rs7525649、rs7617773、rs78169666、rs7901016、rs7989336、rs8030379、rs8090011、rs820430、rs867186、rs896854、rs897057、rs9309245、rs93138、rs9349379、rs9357121、rs9367716、rs9390698、rs944172、rs9470794、rs9534262、rs9552911、rs9593、rs995000;
SBP関連一塩基多型部位:rs1275988、rs7701094、rs7405452、rs751984;
WC関連一塩基多型部位:rs2303790;
T2D関連一塩基多型部位:rs10010670、rs10064156、rs1052053、rs10923931、rs11651052、rs11660468、rs1260326、rs13143871、rs1448818、rs1532085、rs16927668、rs174546、rs17608766、rs17843797、rs1800588、rs1832007、rs2081687、rs2123536、rs2156552、rs2230808、rs2258287、rs2297991、rs2783963、rs2954029、rs3807989、rs3810291、rs3918226、rs4142995、rs42039、rs4302748、rs4776970、rs4883201、rs58542926、rs60154123、rs6038557、rs634501、rs6871667、rs6984210、rs7185272、rs7208487、rs7213603、rs738409、rs7528419、rs7678555、rs769449、rs76954792、rs7897379、rs7903146、rs79548680、rs80234489、rs806215、rs9501744、rs9512699、rs9591012、rs9818870;
好ましくは、前記個体情報が、以下の一塩基多型部位情報をさらに含む、請求項1に記載の使用。
TC関連一塩基多型部位:rs10889353、rs11957829、rs13115759、rs1421085、rs1424233、rs1805081、rs1883025、rs2625967、rs2972143、rs3120140、rs3184504、rs34008534、rs4129767、rs4939883、rs507666、rs515135、rs6544713、rs7134594、rs7306523、rs7560163、rs7633770、rs9663362;
PP関連一塩基多型部位:rs10821415、rs11196288、rs312949、rs1333042、rs1867624、rs2292318、rs2519093、rs35419456、rs7916879;
AF関連一塩基多型部位:rs11191416、rs1200159、rs12042319、rs2200733。
【請求項3】
前記個体情報が、臨床的要因をさらに含み、前記臨床的要因が、以下の状況の有無を含む、請求項1又は2に記載の使用。
脳卒中家族歴、高血圧、糖尿病、脂質異常症及び/又は肥満症
【請求項4】
各一塩基多型部位の情報に基づいて以下の計算方法に従う遺伝的リスクスコアを取得する、請求項1又は2記載の使用。
【数1】
ただし、βiはi番目のSNPの効果値を意味し、Niは個体が持つi番目のSNPの効果対立遺伝子の数を意味し、
好ましくは、各SNPの効果値が表3に示される通りであり、
さらに好ましくは、遺伝的リスクスコアが高いほど、個体における脳卒中発症のリスクが高く、
よりさらに好ましくは、前記個体が東アジア人集団由来である。
【請求項5】
検出ユニット及びデータ解析ユニットを含む脳卒中発症リスク評価装置であって、
前記検出ユニットが、被検個体情報を検出し、検出結果を取得し(ただし、前記個体情報が請求項1~3のいずれか1項に記載の個体情報と同じものである。)、
前記データ解析ユニットが、検出ユニットによる検出結果に対して解析処理し、
好ましくは、前記脳卒中が出血性脳卒中及び/又は虚血性脳卒中を含む、脳卒中発症リスク評価装置。
【請求項6】
前記データ解析ユニットが検出ユニットによる検出結果に対して解析処理を行う時に、前記一塩基多型部位の検出結果に重み係数を付与して、前記被検個体の遺伝的リスクスコアを算出することを含み、
好ましくは、前記データ解析ユニットが、
前記一塩基多型部位の検出結果を正規化する前処理モジュール、及び
正規化された一塩基多型部位の検出結果を下記の評価モデルに代入し、被検個体の遺伝的リスクスコアを取得する演算モジュールを含む、請求項5に記載の脳卒中発症リスク評価装置。
【数2】
ただし、βiはi番目のSNPの効果値を意味し、Niは個体が有するi番目のSNPの効果対立遺伝子の数を意味する。
【請求項7】
前記演算モジュールが、遺伝的リスクスコアを臨床的要因とさらに組み合わせて、脳卒中生涯リスク情報を評価する、請求項6に記載の脳卒中発症リスク評価装置。
【請求項8】
前記データ解析ユニットが、さらに、
前記前処理モジュールから出力された複数の前記正規化された検出結果を受信し、前記正規化された検出結果をマトリックスとして前記演算モジュールに入力するマトリックス入力モジュールを含み、
好ましくは、前記データ解析ユニットが、さらに、
前記演算モジュールから出力された遺伝的リスクスコア及び/又は脳卒中生涯リスク情報を受信し、診断分類結果として出力する出力モジュールを含む、
請求項6又は7に記載の脳卒中発症リスク評価装置。
【請求項9】
被検個体情報(前記個体情報が、請求項1~3のいずれか1項に記載の個体情報と同じものである)に基づいて、個体の脳卒中発症リスク評価結果を取得するように実行されるコンピュータプログラム命令を記憶したコンピュータ記憶媒体。
【請求項10】
メモリと、プロセッサと、メモリに記憶され、プロセッサ上で実行可能なコンピュータプログラムとを含むコンピュータ装置であって、前記プロセッサが前記コンピュータプログラムを実行すると、被検個体情報(前記個体情報が、請求項1~3のいずれか1項に記載の個体情報と同じものである)に基づいて、個体の脳卒中発症リスク評価結果を取得する、コンピュータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳卒中の多遺伝子性遺伝的リスクスコア(Polygenic riskscore、PRS)及び発症リスク評価装置並びにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中死は、世界的に主要な健康脅威の1つである。世界中の25歳以上の成人における脳卒中生涯リスクは約25%であり、東アジア人集団では39%ほどの最高リスクであると推定されている。中国では、脳卒中は住民の死亡の主因となり、2017年には脳卒中による死亡人数は207万人に達した。したがって、ハイリスク群を早期に識別し、主要なリスク要因(例えば、高血圧、糖尿病、脂質異常症など)に対して健康な生活方式の管理及び薬物介入を行うことは、中国ないし全世界の脳卒中の一次予防に重要な意味を有する。
【0003】
脳卒中は、遺伝的及び環境的要因の両方によって引き起こされる複雑な疾患である。ゲノムワイド相関研究(Genome-wide association study、GWAS)により、血圧、2型糖尿病(type 2diabetes、T2D)、脂質レベル、体格指数(bodymass index、BMI)、心房細動(atrialfibrillation、AF)などを含める、脳卒中に関連する少なくとも35の遺伝的感受性遺伝子、及び脳卒中関連表現型に関連する100程の遺伝子が特定されている。これらの遺伝的変異の同定は、心血管疾患リスク予測の開発及び一次予防のガイドに役立つ。最近、複数の遺伝的変異情報を統合した脳卒中の多遺伝子性遺伝的リスクスコア(Polygenic risk score、PRS)が成功に開発されており、脳卒中リスク予測の臨床評価に適用されている。
【0004】
しかしながら、既存の遺伝的スコアは、ほとんど欧州人集団に基づいたものであり(Stroke 2014;45:394-402、Stroke 2014;45:403-412、Stroke 2014;45:2856-2862、BMJ 2018;363:k4168、JAMA cardiology 2018;3:693-702、Nat Commun 2019;10:5819)、欧州人以外の集団についての報告が稀である。脳卒中の疫学的特徴は、国によって異なり、東アジア人集団、特に中国人集団は、脳卒中の発症率及び出血性脳卒中発作の割合が西洋人集団よりもはるかに高い。したがって、脳卒中PRSを東アジア人集団、特に中国人集団で構築し、その遺伝的リスク予測価値を前向きコホート集団で厳密に評価することが重要である。
【0005】
また、脳卒中のリスク及び介入利益は、異なる集団での環境的リスク要因(生活様式、食事及び行動)の顕著な差異、及び遺伝子環境相互作用によっても異なり得る。
【0006】
さらに、多遺伝子性遺伝的リスクスコアと従来のリスク要因を統合することにより、脳卒中発症リスクの再層別化を実現できるか否かは、脳卒中の一次予防に重要な意味がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的の一つは、東アジア人集団に適用する脳卒中関連一塩基多型部位及び発症リスク評価システムを提供することである。
【0008】
本発明者らは、鋭意研究と実検出解析試験により、Stroke関連一塩基多型部位を280個含む、東アジア人集団に関連する脳卒中リスク関連遺伝子群を特定し、これらのStroke関連一塩基多型部位を検出することにより、東アジア人集団における脳卒中発症リスクをうまく評価することができる。本発明は、CAD、SBP、WC、T2D、TC、PP、AFに関連する一塩基多型部位をさらに特定し、これらの関連する一塩基多型部位をさらに検出することにより、東アジア人集団における脳卒中発症リスクをよりうまく評価することができる。
【0009】
具体的には、本発明は、一側面において、脳卒中発症リスクを評価するための検出装置の製造における個体情報を検出するための試薬の使用であって、前記個体情報が以下の一塩基多型部位情報を含む、使用を提供する。
Stroke関連一塩基多型部位:rs10051787、rs10093110、rs10139550、rs10160804、rs10237377、rs10260816、rs10267593、rs10278336、rs1037814、rs10507248、rs10512861、rs10745332、rs10757274、rs10773003、rs10824026、rs10857147、rs10953541、rs10968576、rs11099493、rs1116357、rs11206510、rs11222084、rs11257655、rs11509880、rs1152591、rs11557092、rs11601507、rs11604680、rs11624704、rs11677932、rs1173766、rs117601636、rs117711462、rs11787792、rs11810571、rs11838776、rs11869286、rs12027135、rs12037987、rs12202017、rs12229654、rs12415501、rs12438008、rs12445022、rs12500824、rs1250229、rs12549902、rs12571751、rs12581963、rs12692735、rs12718465、rs12801636、rs12897、rs12927205、rs12932445、rs12936587、rs12946454、rs13143308、rs13209747、rs1321309、rs13216675、rs13233731、rs13342232、rs1334576、rs13359291、rs1344653、rs1359790、rs1367117、rs13723、rs1412444、rs1436953、rs1470579、rs1495741、rs1508798、rs151193009、rs1552224、rs1591805、rs16844401、rs16849225、rs16858082、rs16896398、rs16967013、rs16999793、rs17030613、rs17080091、rs17087335、rs17122278、rs17135399、rs17301514、rs173396、rs17358402、rs17477177、rs17514846、rs17581137、rs17612742、rs17680741、rs17791513、rs180327、rs181359、rs1861411、rs1868673、rs1870634、rs1887320、rs1892094、rs1902859、rs191835914、rs1976041、rs1982963、rs2000813、rs2028299、rs2057291、rs2068888、rs2074158、rs2075291、rs2075423、rs2107595、rs2128739、rs2145598、rs216172、rs2213732、rs2229383、rs2237896、rs2240736、rs2245019、rs2261181、rs2295786、rs2334499、rs243019、rs246600、rs247616、rs2487928、rs2535633、rs2575876、rs261967、rs273909、rs2758607、rs2782980、rs2796441、rs2815752、rs2820315、rs2861568、rs2925979、rs2972146、rs29941、rs326214、rs340874、rs351855、rs35337492、rs35444、rs36096196、rs368123、rs376563、rs3775058、rs3785100、rs3791679、rs3861086、rs3887137、rs3903239、rs3936511、rs4275659、rs4400058、rs4409766、rs4458523、rs4468572、rs4593108、rs46522、rs4719841、rs4722766、rs4724806、rs4731420、rs4752700、rs4766228、rs4788102、rs4812829、rs4821382、rs4836831、rs4846049、rs4883263、rs4911495、rs4918072、rs4932370、rs556621、rs56062135、rs574367、rs579459、rs582384、rs5996074、rs6093446、rs61776719、rs633185、rs6490029、rs6545814、rs663129、rs6666258、rs667920、rs6700559、rs671、rs67156297、rs67180937、rs6725887、rs67839313、rs6795735、rs6813195、rs6817105、rs6825454、rs6825911、rs6829822、rs6831256、rs6838973、rs6878122、rs6882076、rs6905288、rs6909752、rs6960043、rs699、rs6997340、rs702485、rs702634、rs7136259、rs7164883、rs7178572、rs7193343、rs7199941、rs7202877、rs7206541、rs7258189、rs7258445、rs7258950、rs72689147、rs73015714、rs7304841、rs7306455、rs73069940、rs736699、rs737337、rs7403531、rs740406、rs7499892、rs7500448、rs7503807、rs7568458、rs7610618、rs7616006、rs7696431、rs7770628、rs780094、rs7810507、rs7859727、rs7917772、rs79223353、rs7947761、rs7955901、rs7965082、rs7980458、rs8042271、rs8108269、rs838880、rs840616、rs871606、rs880315、rs884366、rs885150、rs888789、rs9266359、rs9268402、rs9299、rs9319428、rs9376090、rs9473924、rs9505118、rs9568867、rs964184、rs9687065、rs975722、rs9810888、rs9815354、rs9828933、rs984222、rs9892152、rs9970807。
【0010】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明において、前記個体情報は、CAD、SBP、WC、又はT2Dに関連する一塩基多型部位の1つ以上を更に含むことが好ましい。
CAD関連一塩基多型部位:rs10096633、rs10203174、rs1027087、rs1029420、rs10401969、rs10455782、rs10513801、rs1077834、rs10820405、rs10830963、rs10842992、rs10886471、rs11030104、rs11057830、rs11066280、rs11067763、rs11077501、rs11125936、rs11136341、rs11142387、rs11205760、rs1129555、rs11556924、rs11634397、rs1169288、rs11830157、rs11838267、rs11847697、rs1211166、rs12204590、rs12214416、rs12242953、rs12453914、rs12463617、rs12524865、rs12535846、rs12597579、rs12679556、rs12740374、rs12970066、rs12999907、rs130071、rs13041126、rs13078807、rs1317507、rs13266634、rs13277801、rs13306194、rs1378942、rs1467605、rs1496653、rs1514175、rs1535500、rs1555543、rs1558902、rs1575972、rs1689800、rs16933812、rs16986953、rs16990971、rs17080102、rs17150703、rs17249754、rs17381664、rs174547、rs17465637、rs17517928、rs17609940、rs17678683、rs17695224、rs17843768、rs1799945、rs1800234、rs1801282、rs181360、rs2000999、rs200990725、rs2021783、rs2043085、rs2066714、rs2075260、rs2106261、rs2144300、rs2237892、rs2296172、rs2302593、rs2328223、rs2383208、rs2415317、rs2531995、rs2571445、rs2642442、rs2819348、rs2820443、rs3129853、rs3130501、rs3213545、rs35332062、rs3809128、rs3827066、rs3846663、rs391300、rs3993105、rs4148008、rs4266144、rs4377290、rs439401、rs4420638、rs4471613、rs459193、rs4613862、rs4713766、rs4735692、rs4757391、rs4845625、rs4917014、rs4923678、rs499974、rs5215、rs55783344、rs56289821、rs56336142、rs590121、rs6065311、rs6494488、rs651821、rs660599、rs6807945、rs6808574、rs6818397、rs7087591、rs7107784、rs7116641、rs7225581、rs72654473、rs748431、rs7525649、rs7617773、rs78169666、rs7901016、rs7989336、rs8030379、rs8090011、rs820430、rs867186、rs896854、rs897057、rs9309245、rs93138、rs9349379、rs9357121、rs9367716、rs9390698、rs944172、rs9470794、rs9534262、rs9552911、rs9593、rs995000;
SBP関連一塩基多型部位:rs1275988、rs7701094、rs7405452、rs751984;
WC関連一塩基多型部位:rs2303790;
T2D関連一塩基多型部位:rs10010670、rs10064156、rs1052053、rs10923931、rs11651052、rs11660468、rs1260326、rs13143871、rs1448818、rs1532085、rs16927668、rs174546、rs17608766、rs17843797、rs1800588、rs1832007、rs2081687、rs2123536、rs2156552、rs2230808、rs2258287、rs2297991、rs2783963、rs2954029、rs3807989、rs3810291、rs3918226、rs4142995、rs42039、rs4302748、rs4776970、rs4883201、rs58542926、rs60154123、rs6038557、rs634501、rs6871667、rs6984210、rs7185272、rs7208487、rs7213603、rs738409、rs7528419、rs7678555、rs769449、rs76954792、rs7897379、rs7903146、rs79548680、rs80234489、rs806215、rs9501744、rs9512699、rs9591012、rs9818870。
【0011】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明において、前記個体情報は、TC、PP、又はAFに関連する一塩基多型部位の1つ以上をさらに含むことがより好ましい。
TC関連一塩基多型部位:rs10889353、rs11957829、rs13115759、rs1421085、rs1424233、rs1805081、rs1883025、rs2625967、rs2972143、rs3120140、rs3184504、rs34008534、rs4129767、rs4939883、rs507666、rs515135、rs6544713、rs7134594、rs7306523、rs7560163、rs7633770、rs9663362;
PP関連一塩基多型部位:rs10821415、rs11196288、rs312949、rs1333042、rs1867624、rs2292318、rs2519093、rs35419456、rs7916879;
AF関連一塩基多型部位:rs11191416、rs1200159、rs12042319、rs2200733。
【0012】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明において、前記個体情報は、臨床的要因をさらに含み、前記臨床的要因は、脳卒中家族歴、高血圧、糖尿病、脂質異常症、及び/又は肥満症の有無を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の具体的な態様によれば、本発明において、各一塩基多型部位の情報に基づいて以下の計算方法に従う遺伝的リスクスコアを取得する。
【数1】
ただし、βiはi番目のSNPの効果値を意味し、Niは個体が持つi番目のSNPの効果対立遺伝子の数を意味する。
【0014】
本発明の具体的な実施態様によれば、本発明において、各SNPの効果値は表3に示される通りである。
【0015】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明において、遺伝的リスクスコアが高いほど、個体における脳卒中発症のリスクが高い。前記脳卒中は、出血性脳卒中及び/又は虚血性脳卒中を含む。
【0016】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明において、被検個体は、東アジア人集団、特に中国人由来のものである。
【0017】
本発明は、別の一側面において、検出ユニット及びデータ解析ユニットを含む脳卒中発症リスク評価装置であって、
前記検出ユニットは、被検個体情報を検出し、検出結果を取得し(ただし、前記個体情報が請求項1~3のいずれか1項に記載の個体情報と同じものである。)、
前記データ解析ユニットは、検出ユニットによる検出結果に対して解析処理する、脳卒中発症リスク評価装置をさらに提供する。
【0018】
本発明の具体的な態様によれば、本発明において、前記データ解析ユニットは、検出ユニットによる検出結果に対して解析処理を行う時に、前記一塩基多型部位の検出結果に重み係数を付与して、前記被検個体の遺伝的リスクスコアを算出することを含む。
【0019】
好ましくは、前記データ解析ユニットは、
前記一塩基多型部位の検出結果を正規化する前処理モジュール、及び
正規化された一塩基多型部位の検出結果を下記の評価モデルに代入し、被検個体の遺伝的リスクスコアを取得する演算モジュールを含む。
遺伝的リスクスコア=Σβi×Ni
ただし、βiはi番目のSNPの効果値を意味し、Niは個体が有するi番目のSNPの効果対立遺伝子の数を意味する。
【0020】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明において、前記演算モジュールは、遺伝的リスクスコアを臨床的要因とさらに組み合わせて、脳卒中生涯リスク情報を評価してもよい。
【0021】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明において、前記データ解析ユニットは、さらに、
前記前処理モジュールから出力された複数の前記正規化された検出結果を受信し、前記正規化された検出結果をマトリックスとして前記演算モジュールに入力するマトリックス入力モジュールを含む。
【0022】
好ましくは、前記データ解析ユニットは、さらに、
前記演算モジュールから出力された遺伝的リスクスコア及び/又は脳卒中生涯リスク情報を受信し、診断分類結果として出力する出力モジュールを含む。
【0023】
本発明は、さらに別の一側面において、被検個体情報に基づいて、個体の脳卒中発症リスク評価結果を取得するように実行されるコンピュータプログラム命令を記憶したコンピュータ記憶媒体を提供する。ただし、前記個体情報は、前述の通りである。
【0024】
本発明は、さらに別の一側面において、メモリと、プロセッサと、メモリに記憶され、プロセッサ上で実行可能なコンピュータプログラムとを含むコンピュータ装置であって、前記プロセッサが前記コンピュータプログラムを実行すると、被検個体情報に基づいて、個体の脳卒中発症リスク評価結果を取得するコンピュータ装置をさらに提供する。ただし、前記個体情報は、前述の通りである。
【0025】
本発明の具体的な実施形態において、本発明は、中国の大規模前向きコホート集団に基づいて、東アジア人集団における脳卒中リスクに関連する一塩基多型部位を特定し、複数の遺伝的変異を含む多遺伝子性リスクスコアを開発し、41006名の研究対象の大規模前向きコホート集団において単独で、又は従来のリスク要因(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満症、脳卒中家族歴)と統合して、脳卒中リスク層別化に対するその効果を評価した。検討したところ、高い遺伝的リスクを有する個体(遺伝的リスクの上位20%)は、脳卒中の発症リスクが、低い遺伝的リスクを有する個体(遺伝的リスクの下位20%)よりも約2倍高く(HR:1.99、95% CI:1.66-2.38)、脳卒中生涯リスクが、両集団でそれぞれ25.2%(95% CI:22.5%-27.7%)及び13.6%(95% CI:11.6%-15.5%)であることを判明した。遺伝的リスクスコアと従来のリスク要因を組み合わせて層別化する場合、脳卒中の発症軌跡は、各集団間で有意な差がある。遺伝的リスクが低く、家族歴がない個体において、脳卒中生涯リスクは13.2%であり、両方の何れかを有する個体において、脳卒中リスクは何れも約2倍(23.9%、95% CI:21.1%‐26.5%及び23.7%、95% CI:13.4%‐32.8%)増加しているが、高い遺伝的リスク及び脳卒中家族歴の両方を有する個体において、脳卒中生涯リスクは最高(41.1%、95% CI:31.4%‐49.5%)である。また、本発明の脳卒中発症リスク評価は、出血性及び虚血性脳卒中のいずれにも適用され得る。本研究は、多遺伝子性遺伝的リスクスコアと従来のリスク要因との組み合わせにより、脳卒中リスクの詳細な再層別化を可能にすることを実証した。例えば、該多遺伝子性遺伝的リスクスコアを適用すると、脳卒中家族歴を有する集団と同等の脳卒中生涯リスクを有する、一般集団の20%を早期に識別することができる。高い遺伝的リスクと脳卒中家族歴の両方を合わせると、個体の脳卒中リスクがさらに上昇し、40%以上に達することとなる。臨床応用において、遺伝的リスクと家族歴との組み合わせは、脳卒中の早期スクリーニングに重要な指針となり得る。さらに、多遺伝子性遺伝的リスクスコアを、高血圧、糖尿病、脂質異常症、及び肥満症といった従来のリスク要因と同時に統合すると、脳卒中の発症軌跡に各集団の間で有意な差があることが同様に観察された。上記の結果は、多遺伝子性遺伝的リスクスコアと従来のリスク要因を統合することが脳卒中発症リスクの詳細な再層別化の実現、高リスク集団の早期スクリーニング及び個別化介入の指導に重要な適用価値を有することを強化した。本発明は、脳卒中の一次予防に重要な応用の将来性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】トレーニングセットにおける候補多遺伝子性リスクスコア(1標準偏差の増加ごとに)と脳卒中との関連を示す。
【
図2】トレーニングセットにおける最適多遺伝子性リスクスコア(1標準偏差の増加ごとに)と脳卒中との関連を示す。
【
図3】前向きコホート集団におけるmetaPRSと最適サブ表現型の多遺伝子性リスクスコアとの相関性を示す。
【
図4】前向きコホート集団におけるmetaPRS及び最適サブ表現型の多遺伝子性リスクスコアと脳卒中発症との関連を示す。
【
図5】異なる遺伝的リスクによる脳卒中生涯リスクを示す。
【
図6】異なる遺伝的及び脳卒中家族歴での層別化による脳卒中生涯リスクを示す。
【
図7】metaPRSの5分位数と脳卒中発症との関連を示す。
【
図8】異なる遺伝的及び臨床的リスク要因による群分けの脳卒中生涯リスクを示す。
【
図9】異なる遺伝的リスクでの層別化による虚血及び出血脳卒中生涯リスクを示す。
【
図10】異なる遺伝的及び主要なリスク要因での層別化による虚血及び出血脳卒中生涯リスクを示す。
図9及び
図10では、リスク比(HR)及び80歳までの虚血及び出血脳卒中の累積発症率曲線を、コホート層別化され、年齢を時間スケールとするCox比例ハザード回帰モデルを用いて算出し、性別を調整した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の技術的特徴、目的及び有益な効果をより明確に理解するために、具体的な実施例を参照しながら本発明の技術案を以下に詳細に説明するが、これら実施例は本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。実施例において、各出発試薬材料は何れも市販されており、具体的な条件を明記していない実験方法は、当分野で周知の通常の方法及び条件、又は機器メーカーが推奨する条件に従う。
【実施例】
【0028】
研究設計フロー及び研究集団
本研究は、症例対照設計のトレーニングセットを利用してmetaPRSを構築し、その脳卒中リスク予測に適用される臨床価値を「中国アテローム性動脈硬化性心臓血管疾患のリスク予測プロジェクト(Prediction for Atherosclerotic cardiovascular disease Risk in China、China-PAR)」という大規模な前向きコホートにおいて検証及び評価した。
【0029】
トレーニングセットには、2872例の脳卒中症例(2548例の虚血性及び324例の出血性脳卒中)及び2494例の対照を含んでいる(表1)。脳卒中は、病院に由来し、コンピュータ断層撮影(CT)及び/又は磁気共鳴イメージング(MRI)の医療記録に基づいて、神経科医によって診断された。対照群は、コミュニティ心血管リスク要因調査に参加した個体から無作為に選択され、病歴、臨床検査、及び標準アンケート調査によって、脳卒中が発生していないことが確認された。
【0030】
検証集団は、中国心臓血管疫学多施設共同研究1998(ChinaMulti-Center Collaborative Study of Cardiovascular Epidemiology 1998、China MUCA 1998)、中国心臓血管健康多施設共同研究(International Collaborative Study of Cardiovascular Disease in Asia、InterASIA)、及び中国メタボリックシンドロームのコミュニティ介入研究・中国家庭健康研究(Community Intervention of Metabolic Syndrome in China&Chinese Family Health Study、CIMIC)と3つのChina-PARプロジェクトコホートに由来する。これら3つのコホートについて、2012-2015年の間に統一のアンケート及びプロトコルを用いて最新の追跡を行った。本発明は、43,881例の血液サンプル及び追跡情報を有する参加者から、遺伝子型欠失率が高い(>5.0%)又は平均配列決定深度が低い(<30×)561例、ベースライン年齢<30歳又は>75歳の1352例、ベースラインに心血管疾患(脳卒中及び心筋梗塞)を有する962例の参加者をさらに除外し、最終的に合計41,006例の参加者を解析に採用した。
【0031】
これらの研究は、すべて中国医学科学院阜外病院倫理審査委員会の承認を取得した。データを収集する前に、各参加者は、書面のインフォームドコンセントに署名した。
【表1】
【0032】
ベースラインの主要な従来のリスク要因の収集
ベースライン調査では、各参加者に対して標準的なアンケート調査、身体検査、及び実験室検査を行った。専門的にトレーニングされ且つテストに合格した調査員は、画一的に作成された調査プロトコルに従って、一連の生活様式リスク要因及び心血管代謝指標を収集した。ベースライン脳卒中の従来のリスク要因には、主に、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満症(BMI≧28 kg/m2)、及び脳卒中家族歴を含む。高血圧は、収縮期血圧(systolic blood pressure、SBP)≧140 mmHg、及び/又は拡張期血圧(diastolicblood pressure、DBP)≧90 mmHg、及び/又は過去2週間以内に降圧剤を使用したことと定義される。脂質異常症は、総コレステロール(total cholesterol、TC)≧240 mg/dl、及び/又は高密度リポタンパク質コレステロール(high-density lipoprotein cholesterol、HDL-C)<40 mg/dl、及び/又はトリグリセリド(triglycerides、TG)≧200mg/dl、及び/又は低密度リポタンパク質コレステロール(low-densitylipoprotein cholesterol、LDL-C)≧160mg/dl、及び/又は脂質低下剤を使用していることと定義される。糖尿病は、空腹時血糖値≧126 mg/dl、及び/又はインスリンもしくは経口血糖降下剤を使用していることと定義される。脳卒中家族歴は、任意の一級親族(父、母又は兄弟姉妹)が脳卒中病歴を有することと定義される。
【0033】
脳卒中発作追跡
3つのコホートについて、同じ研究プロトコルを用いて追跡し、研究対象の脳卒中発症死亡情報を訪問及び戸別調査によって取得し、さらに、検証のために病歴及び死亡証明書を取得した。すべての医療記録と死亡記録は、中国医学科学院阜外病院エンドポイント評価委員会の2人の専門家によって独立に審査された。2人の専門家の意見が一致していない場合、最終診断を達成するように、委員会の他の専門家と共に議論がなされた。死亡原因はICD-10(国際疾病分類、第10版)に従ってコード化された。脳卒中は、追跡中に診断された最初の致死性又は非致死性脳卒中発作と定義された(I60‐I69)。脳卒中サブタイプは、虚血性脳卒中(I63)、出血性脳卒中(I60-I62)及び未定サブタイプ脳卒中(I64-I69)に分けられた。
【0034】
一塩基多型部位の選択及び遺伝子型判定
本発明は、従来の全ゲノム関連研究に基づいて、脳卒中又は脳卒中関連表現型と全ゲノムの有意な関連を示す一塩基多型(SNP)部位を588個選択した(表2)。
【表2】
【0035】
すべてのトレーニングセット及びバリデーションセットの参加者を、多重ポリメラーゼ連鎖反応標的アンプリコン配列決定技術を使用して遺伝子型を決定した。Illumina Hiseq X Tenシーケンサーにより標的領域を増幅してハイスループットシークエンシングした。遺伝子型検出率が95%未満のSNPを除外した後、578個の常染色体SNPを残してその後の解析に供した。平均遺伝子型検出率は99.9%であり、中央配列決定深度は979×であった。遺伝子型決定の再現性を評価するために、1648個の重複サンプルを測定したところ、遺伝子型決定一致率は>99.4%であった。
【0036】
metaPRSの構築
各個体の各変異対立遺伝子の数(0、1又は2)について、その対応する対立遺伝子の該表現型における効果値に応じて重み付けし、合計して、14種の脳卒中関連サブ表現型特異的PRS (脳卒中、冠動脈心疾患、2型糖尿病、心房細動、収縮期血圧、拡張期血圧、平均動脈圧、脈圧、体格指数、ウエスト、総コレステロール、低密度リポタンパク質コレステロール、トリグリセリド、及び高密度リポタンパク質コレステロール)を構築した。各サブ表現型について、異なる連鎖不均衡r2(0.2、0.4、0.6、0.8)及び有意性閾値(P値= 0.5、0.05、5×10
-4、5×10
-6)を用いて、まとめデータに基づいて16の候補PRSを構築した。トレーニングセットでこれらの候補PRSと脳卒中との関連を、ロジスティック回帰モデルを用いて評価し、オッズ比(odds ratio、OR)が最大(PRSが1標準偏差増加するごとに)のスコアを最適PRSとして選択した(
図1)。そのうち、最適脳卒中サブ表現型(Stroke)PRSが利用したSNP部位及び効果値を表3に示す。
【0037】
各最適PRSを、平均値が0であり、標準偏差が1であるスコアに変換した。10倍の交差検定を伴う弾性ネットロジスティック回帰(Rパッケージ「glmnet」)を用いて、14種の最適PRSと脳卒中との間の関連をモデル化し、さらにmetaPRSを構築した。受信者動作特性曲線下面積(area underreceiving-operator characteristic curve、AUC)が最大のモデルを最終モデルとして選択し、その中から各PRSの補正係数を取得して重みとした。(一回に1つのPRSに基づく)単変量推定及び弾性ネットロジスティック回帰推定による各PRSの補正効果値を
図2に示す。統計的処理ステップを経て、最終的に合計534個のSNPがmetaPRSの計算に組み込まれ、条件に満足したすべてのSNPに関する情報及び重みを表3に示す。
【表3】
【0038】
統計的解析
研究対象のベースライン特徴における連続変数は平均値(標準偏差)で表され、分類変数は頻数(百分率)で表された。metaPRSレベルに基づいて、研究対象を低(metaPRSの最低5分位数)、中(metaPRSの第2-第4の5分位数)、及び高(metaPRSの最高5分位数)の遺伝的リスク群に分類した。
【0039】
性別調整され、年齢を時間スケールとする層別化Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、遺伝的リスクスコア、主要臨床的リスク要因と脳卒中発症とのリスク比(hazard ratio、HR)、及び95%信頼区間(confidence interval、CIs)を算出した。「survfit.coxph」(Rパッケージ「survival」)を用いて性別補正した累積発症率曲線にプロットし、異なる遺伝的リスク及び主要臨床的リスク要因層別化による、研究対象の80歳までの脳卒中生涯リスクを評価した。理想的でないCVH群と理想的なCVH群との間の生涯リスク値の差から、絶対リスク低減(absolute riskreduction, ARR)を算出し、重み付き最小二乗回帰モデルを用いて、遺伝的リスクに伴うARRの増加傾向を評価した。Bonferroni補正により多重検定調整し、両側P値< 0.007(P値を多重検定の回数で割ったもの、すなわち0.05/7)である場合、統計的に有意な差を示すとみなした。全ての解析は、Rソフトウェア3.6.0版(RFoundation for Statistical Computing、Vienna、Austria)又はSAS統計ソフトウェア9.4版(SAS Institute Inc、Cary、NC)を用いて行った。
【0040】
研究集団の遺伝的リスクによる群分け
表4には、コホート集団内の41,006例の研究対象のベースライン特性を示す。全集団の平均年齢は51.9(10.6)歳であり、男性は43.1%を占める。遺伝的リスクが高い(metaPRSの上位20%)参加者は、高い心血管代謝リスク要因(高血圧、糖尿病、脂質異常症)を有する。367,750人年の追跡(平均追跡9.0年)で、1227例の参加者が、80歳の前に脳卒中を発症した(769例の虚血性脳卒中、355例の出血性脳卒中、21例の虚血性脳卒中と出血性脳卒中の併発、及び124例の未定サブ型脳卒中を含む)。
【表4】
【0041】
多遺伝子性遺伝的リスクスコアの構築及び脳卒中の予測
最適な脳卒中サブ表現型(Stroke)PRSによって、表3に示される280個のStroke関連一塩基多型部位を含む東アジア人集団に関する脳卒中リスク関連遺伝子群が特定されており、これらのStroke関連一塩基多型部位を検出し、Σβi×Niにより発症リスクに関する遺伝的リスクスコアを取得し、東アジア人集団における脳卒中発症リスクをうまく評価することができた。ただし、各Strokeに関連する各SNPの効果値は、表3のサブ表現型PRSの欄に示されるSNPの効果値を統一的に用いてもよく、表3のmetaPRSの欄に示されるSNPの効果値を統一的に用いてもよい。遺伝的リスクスコアが高いほど、個体における脳卒中の発症リスクが高くなる。
【0042】
14個のサブ表現型PRSの間には異なる程度の相関性がある(
図3)。
【0043】
本発明の脳卒中発症リスクの評価方法は、表3に示される280個のStroke関連SNPを検出した上で、さらに表3に示される159個のCAD関連SNP、4個のSBP関連SNP、1個のWC関連SNP、55個のT2D関連SNP、22個のTC関連SNP、9個のPP関連SNP、4個のAF関連SNPのうちの1つ以上のSNP群を選択的に検出し、Σβi×Niによって発症リスクの遺伝的リスクスコアを取得することができ、東アジア人集団における脳卒中発症リスクをより良く評価することができる。本発明の脳卒中発症リスクの評価方法がCAD、SBP、WC、T2D、TC、PP、AF関連SNPの1つ以上の群を検出することを含む場合、これらのSNPの効果値は、表3のサブ表現型PRSの欄に示されるSNPの効果値を統一的に使用しても良いが、表3のmetaPRSの欄に示されるSNPの効果値を統一的に使用することが好ましい。遺伝的リスクスコアが高いほど、個体における脳卒中の発症リスクが高くなる。
【0044】
表3に示される534個のSNPを含むmetaPRSは、脳卒中との関連強さが他のいかなるサブ表現型PRSよりも高く、metaPRSが1標準偏差増加するごとに、トータル脳卒中、虚血性脳卒中、及び出血性脳卒中のHR(95% CI)は、それぞれ1.28(1.21-1.36)、1.29(1.20-1.39)、及び1.30(1.17-1.45)であった(
図4)。脳卒中家族歴を含めた臨床的リスク要因をさらに調整することにより(表5)、本発明のmetaPRSは、従来の臨床的リスク要因とは独立に脳卒中の発症リスク評価に用いられることが表明された。
【表5】
【0045】
コホート層別化され、年齢を時間スケールとするCox比例ハザード回帰モデルを用いてハザード比(HR)及び95%信頼区間(CI)を算出し、性別を調整し、臨床的リスク要因を調整し、又は調整しなかった。
【0046】
本発明において、全集団のmetaPRS遺伝的リスクスコアに基づいてmetaPRS遺伝的リスク層別化を行った(表6)。metaPRS遺伝的リスクスコアが<-0.140である場合、個体における脳卒中発症の遺伝的リスク(metaPRS 0-20%)が低いと判定され、metaPRS遺伝的リスクスコア>0.305である場合、個体における脳卒中発症の遺伝的リスクが高い(metaPRS 80-100%)と判定されることができる。
【表6】
【0047】
metaPRSの5等分に従って集団を群分けした後、各群の脳卒中リスクは、明らかな勾配を示した(傾向P値<0.001)(
図5)。遺伝的リスクの低い者(metaPRSの下位20%)と比較して、遺伝的リスクの高い者(metaPRSの上位20%)は、脳卒中の発症リスクが約2倍高かった(HR:1.99、95% CI:1.66‐2.38、P =1.11×10
‐13)(
図6)。遺伝的リスクの高い個体における脳卒中生涯リスク(80歳までの脳卒中リスク)も、遺伝的リスクの低い個体より2倍近く高かった(それぞれ25.2%、95% CI:22.5%-27.7%及び13.6%、95% CI:11.6%-15.5%)。
【0048】
遺伝的リスクと主要なリスク要因との組み合わせでの層別化による脳卒中生涯リスク
異なる遺伝的リスク及び主要な臨床的リスク要因によって層別化されると、脳卒中生涯リスクには有意な差があった(
図7及び
図8)。例えば、遺伝的リスクが低く、家族歴がない個体では、脳卒中生涯リスクは13.2%(95% CI:11.1-15.1%)であり、一方、高い遺伝的リスク及び脳卒中家族歴のいずれかのリスク要因を有する個体では、ほぼ同等の脳卒中生涯リスク(23.9%、95% CI:21.1-26.5%及び23.7%、95% CI:13.4-32.8%)を有し、両方の同時存在下で、脳卒中生涯リスクは41.1%(95% CI:31.4-49.5%)と高かった。遺伝的リスク及び他の4つの臨床的リスク要因(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満症)での層別化においても、類似する脳卒中生涯リスク勾配が観察された(
図8、表7)。
【0049】
上記の遺伝的リスク結果、又は主要なリスク要因と組み合わせたリスク結果は、出血性脳卒中においても虚血性脳卒中においても類似する作用及びリスクを示した(
図9、10)。
【表7】
【0050】
実施例2
実際の応用例1:被検個体の李氏(中国漢族人、女性、35歳、脳卒中家族歴あり)について、本発明の脳卒中遺伝的リスクを評価するための検出装置を用いて脳卒中発症の遺伝的リスクの高さを評価し、そして従来のリスク要因と組み合わせて指導アドバイスを与えた。主に以下の手順で行った:空腹時血を採取し、被検個体の抗凝血からDNAを単離し、Illumina Hiseq X Tenシークエンサーにより534部位の遺伝子型を検出した。
検出された李氏の534部位の遺伝子型は表8に示す。
【表8】
【0051】
検出結果の解析処理:534個のSNPの検出結果を表3に照らして、各部位に対応する効果対立遺伝子の遺伝的寄与を見出し、重み付け加算し、遺伝的リスクスコアを取得した。遺伝的リスクスコア=Σβi×Ni (ただし、βiはi番目のSNPの効果値を意味し、Niは個体が持つi番目のSNPの効果対立遺伝子の数を意味する。)
【0052】
李氏の脳卒中遺伝的リスク評価:李氏の脳卒中遺伝的リスクスコアは0.660であり、表6に照らしたところ、高遺伝リスク群に属し、脳卒中家族歴を有することと合わせて表7に照らしたところ、脳卒中生涯リスクは41.1%であり、高リスク集団に属する。遺伝的及び臨床的要因を組み合わせて、李氏の脳卒中発生リスクが高いと予測し、健康生活方式の管理を行った上で、さらに血圧、血糖、脂質及び体重の制御に注意を払い、定期的に健康検査を行い、異常があれば即時に医師に受診することを提案した。
【0053】
応用形態の変換:
上記応用例1の被検個体が同時に高血圧を併発した場合、表7に照らすと、脳卒中生涯リスクは33.2%であり、高リスク集団に属する。健康生活方式の管理を行った上で、血圧に対する介入管理を重点的に行い、脳卒中発生リスクを低減させることを提案した。
【0054】
上記応用例1の被検個体が同時に糖尿病を併発した場合、表7に照らすと、脳卒中生涯リスクは42.5%であり、高リスク集団に属する。健康生活方式の管理を行った上で、血糖に対する介入管理を重点的に行い、脳卒中発生リスクを低減させることを提案した。
【0055】
上記応用例1の被検個体が同時に脂質異常症を併発した場合、表7に照らすと、脳卒中終生リスクは30.9%であり、高リスク集団に属する。健康生活方式の管理を行った上で、脂質に対する介入管理を重点的に行い、脳卒中発生リスクを低減させることを提案した。
【0056】
上記応用例1の被検個体が同時に肥満症を併発した場合、表7に照らすと、脳卒中生涯リスクは35.5%であり、高リスク集団に属する。身体活動の増加、食事の栄養バランスの均衡、脂肪高カロリー食の減少等によってに体重対する介入管理を重点的に行い、脳卒中発生リスクを低減させることを提案した。
【0057】
上記応用例1の被検個体について、表8における280個のStroke関連SNPの検出結果に基づいて、又は、さらに、表8に示される、159個のCAD関連SNP、4個のSBP関連SNP、1個のWC関連SNP及び/又は55個のT2D関連SNPの検出結果と組み合わせて、又は、さらに、表8に示される、22個のTC関連SNP、9個のPP関連SNP、4個のAF関連SNPの検出結果と組み合わせて、Σβi×Niによって発症リスクの遺伝的リスクスコアを取得して、個体における脳卒中発症リスクを評価することもできる。
【国際調査報告】