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特表2024-507984磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収するための装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収するための装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/42 20060101AFI20240214BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20240214BHJP
【FI】
C12M1/42
C12M1/26
C12N1/02
C12N5/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552178
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 CA2022050274
(87)【国際公開番号】W WO2022178643
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】63/153,456
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/183,350
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514221779
【氏名又は名称】ザ ガバニング カウンシル オブ ザ ユニバーシティ オブ トロント
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケリー,シャナ オルウィン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ゾンジェ
(72)【発明者】
【氏名】アーメド,シャリフ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029HA02
4B029HA05
4B029HA10
4B065AA93X
4B065BD14
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
細胞収集物流体から磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収するための、装置、システム、および方法が提供される。装置は、マイクロ磁石のアレイを有する磁石プレート、および磁石プレートに解除自在に結合されたモジュール式チップを含む。モジュール式チップは、フローチャンバおよび複数の流量低減構造を有する。マイクロ磁石のアレイによって生成される磁界が、前記流量低減構造と協働して、それぞれの構造の近傍において捕捉ゾーンを画定する。磁界は、標的細胞に対する抗力を克服して捕捉ゾーンにおいて標的細胞を捕捉することを促進するように十分である。磁石プレートからのモジュール式チップの分離は、捕捉された標的細胞のモジュール式チップからの回収を可能にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気的にタグ付けされた標的細胞を細胞収集物流体から回収するための装置であって、
マイクロ磁石のアレイが中に配置された磁石プレートであって、前記マイクロ磁石のアレイが前記磁石プレートに沿って磁界を生成する、磁石プレートと、
前記磁石プレートに対して覆うように解除自在に結合されるモジュール式チップであって、前記モジュール式チップが、
入口および出口を有するフローチャンバ、ならびに
前記フローチャンバ内の複数の流量低減構造であって、各構造が捕捉表面の近傍の流量を低減するように成形された捕捉表面を備え、前記マイクロ磁石のアレイによって生成される磁界が、前記流量低減構造と協働して、前記流量低減構造のそれぞれの近傍において対応の捕捉ゾーンを画定する、流量低減構造を有し、
前記磁界が、前記捕捉ゾーンにおいて、前記標的細胞に対する抗力を克服して、前記捕捉ゾーンにおいて前記細胞収集物から標的細胞を捕捉するのを促進するほど十分に高く、および
前記磁石プレートからの前記モジュール式チップの分離が、捕捉された前記標的細胞の前記モジュール式チップからの分離および回収を可能にする、モジュール式チップと
を備える、装置。
【請求項2】
前記モジュール式チップは、ガラス基部とチャンバ壁を備え、前記チャンバ壁とガラス基部は前記フローチャンバを形成し、前記チャンバ壁と前記複数の流量低減構造は、前記ガラス基部から延在する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記チャンバ壁と前記複数の流量低減構造は、PDMS製である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記ガラス基部は0.05~0.5mmの間の厚さである、請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
前記ガラス基部は0.1mm未満の厚さである、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記ガラス基部はPDMSでコーティングされる、請求項2から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記ガラス基部は長さ75mmおよび幅50mmである、請求項2から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記複数の流量低減構造のそれぞれの高さは、50ミクロン~800ミクロンの間である、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
層流が維持される場合、前記複数の流量低減構造のそれぞれの高さは800ミクロンである、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
磁気的にタグ付けされた標的細胞を細胞収集物から回収するためのシステムであって、
マイクロ磁石のアレイが中に配置された磁石プレートであって、前記マイクロ磁石のアレイが前記磁石プレートに沿って磁界を生成する、磁石プレートと、
前記磁石プレートに対して覆うように解除自在に結合される1つ以上のモジュール式チップであって、それぞれが、
入口および出口を有するフローチャンバ、ならびに
前記フローチャンバ内の複数の流量低減構造であって、各構造が、捕捉表面の近傍の流量を低減するように成形された捕捉表面を備え、前記マイクロ磁石のアレイによって生成される磁界が、前記流量低減構造と協働して、前記流量低減構造のそれぞれの近傍において対応の捕捉ゾーンを画定する、流量低減構造を有し、
ここで前記磁界が、前記捕捉ゾーンにおいて、前記標的細胞に対する抗力を克服して、前記捕捉ゾーンにおいて前記細胞収集物から標的細胞を捕捉するのを促進するほど十分に高く、および
前記磁石プレートからの前記モジュール式チップの分離が、捕捉された前記標的細胞の前記モジュール式チップからの分離および回収を可能にする、1つ以上のモジュール式チップと、
前記磁石プレートを保持するように構成されたスキャフォールドと
を備える、システム。
【請求項11】
前記磁石プレートは、前記スキャフォールドの中へ組み込まれる、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記磁石プレートは、前記スキャフォールドに解除自在に固定可能である、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記1つ以上のモジュール式チップが、第1のモジュール式チップと第2のモジュール式チップを備える、請求項10から12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記第1のモジュール式チップは、前記磁石プレートの第1の部分に対して覆うように解除自在に結合され、前記第2のモジュール式チップは、前記磁石プレートの第2の部分に対して覆うように解除自在に結合される、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記磁石プレートは、第1の磁石プレートと第2の磁石プレートを備え、前記第1のモジュール式チップが、前記第1の磁石プレートに対して覆うように解除自在に結合され、前記第2のモジュール式チップが、前記第2の磁石プレートに対して覆うように解除自在に結合される、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記第1の磁石プレートと前記第2の磁石プレートは、前記スキャフォールド内で平行に配置される、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記スキャフォールドは、前記第1のモジュール式チップおよび前記第2のモジュール式チップのそれぞれの一端の近傍に配置された第1のコネクタ、ならびに、前記第1のモジュール式チップおよび前記第2のモジュール式チップのそれぞれの他端の近傍に配置された第2のコネクタをさらに備え、前記第1のコネクタおよび前記第2のコネクタが、それぞれの対応する前記第1のモジュール式チップまたは前記第2のモジュール式チップの、対応する前記入口および前記出口に流体接続可能である、請求項13から16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
前記第1のモジュール式チップと前記第2のモジュール式チップは、前記細胞収集物の供給源に対して平行に流体接続される、請求項13から17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記第1のモジュール式チップと前記第2のモジュール式チップが直列に流体接続され、前記第1のモジュール式チップの前記出口が前記第2のモジュール式チップの前記入口と直接流体連通している、請求項13から17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記第1のモジュール式チップと前記第2のモジュール式チップのそれぞれにおける、前記複数の流量低減構造の高さが、同じである、請求項13から19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記第1のモジュール式チップと前記第2のモジュール式チップのそれぞれにおける複数の流量低減構造の高さが、100ミクロンである、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記第1のモジュール式チップ内の前記複数の流量低減構造の高さが、前記第2のモジュール式チップ内の前記複数の流量低減構造の高さとは異なる、請求項13から19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
前記第1のモジュール式チップ内の前記複数の流量低減構造の高さが、第2のモジュール式チップ内の複数の流量低減構造の高さより低い、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記1つ以上のモジュール式チップが第3のモジュール式チップをさらに含み、前記第3のモジュール式チップは、前記磁石プレートの第3の部分に対して覆うように解除自在に結合される、請求項13から23のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項25】
磁気的にタグ付けされた標的細胞を細胞収集物流体から回収するための方法であって、
磁気的にタグ付けされた細胞収集物流体を装置の中へ導入する工程であって、該装置が、マイクロ磁石のアレイが中に配置された磁石プレートであって、前記マイクロ磁石のアレイが前記磁石プレートに沿って磁界を生成する、磁石プレート、ならびに、前記磁石プレートに対して覆うように解除自在に結合されるモジュール式チップであって、複数の流量低減構造を有するフローチャンバを有し、前記磁気的にタグ付けされた標的細胞が、磁気引力に対する感度が高く、前記フローチャンバを通って移動する際に前記流量低減構造によって捕捉される、モジュール式チップを備える、工程と、
前記装置から非標的細胞を洗い流す工程と、
前記磁石プレートから前記モジュール式チップを分離する工程と、
前記モジュール式チップから前記磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収する工程と
を含む方法。
【請求項26】
患者からの腫瘍試料を前記細胞収集物流体中の単一細胞に溶解する工程と、前記導入する工程の前に、前記単一細胞を磁性粒子で標識する工程とをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞収集物流体は、末梢血、血管新生腫瘍、悪性胸水、リンパ液、骨髄の流体部分、または別の細胞運搬流体に由来する、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞収集物流体は、6~32mL/時間の流量で前記装置の前記フローチャンバに導入される、請求項25から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記流量は16mL/時間である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記流量は32mL/時間である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記洗い流す工程は、シリンジを用いてフラッシング流体を前記装置の中に導入することを含む、請求項25から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
磁気的にタグ付けされた標的細胞を細胞収集物流体から回収するための方法であって、
前記磁気的にタグ付けされた標的細胞を含有する前記細胞収集物流体を請求項19のシステムの中に、第1のモジュール式チップの入口を通して導入し、前記第1のモジュール式チップの出口から第2のモジュール式チップの入口の中に流体試料を導く工程と、
前記システムから非標的細胞を洗い流す工程と、
磁石プレートから前記第1のモジュール式チップおよび前記第2のモジュール式チップを分離する工程と、
前記第1のモジュール式チップおよび前記第2のモジュール式チップから、前記磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収する工程と
を含む方法。
【請求項33】
磁気的にタグ付けされた標的細胞を細胞収集物流体から回収するための方法であって、
前記磁気的にタグ付けされた標的細胞を含有する前記細胞収集物流体を請求項18のシステムの中に、第1のモジュール式チップの入口および第2のモジュール式チップの入口を通して導入する工程と、
前記システムから非標的細胞を洗い流す工程と、
磁石プレートから前記第1のモジュール式チップおよび前記第2のモジュール式チップを分離する工程と、
前記第1のモジュール式チップおよび前記第2のモジュール式チップから、前記磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収する工程と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、細胞の集合から細胞を回収するための装置に関する。特に、本開示は、フローチャンバ内で磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収するために磁気を使用する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)は、循環系を出て腫瘍組織に遊走した白血球のサブセットである。TILは、腫瘍死滅プロセスに関与し、腫瘍中のTILの存在は、治療後のより良好な臨床転帰と関連することが多い。腫瘍の死滅におけるそれらの効力のために、TILは、癌を治療するための養子細胞療法(ACT)に首尾よく使用されており、高度に免疫原性の腫瘍、特に黒色腫の管理において顕著な成功を達成した。
【0003】
臨床における成功にもかかわらず、長引くターンアラウンド時間は、TILベースのACTの適用を有意に制限する。これまでのところ、TILベースのACTの典型的なリードタイムは、6~14週で変動し、TILの成長および増殖は、リードタイムの80%を占める4~6。治療用量のTILを生成するためのこのアプローチは、TILベースのACTの総費用を患者あたり>85,000ドルに劇的に増加させる。より効果的なTIL単離/増殖が、その実用性および臨床的採用に大いに利益をもたらし得ることは、よく受け入れられている。さらに、約20%の患者が、TIL製造の完了前に臨床的に悪化する。より速いTIL製造プロセスは、潜在的に、これらの患者に対してより良好な結果を提供し得る。さらに、いくつかの研究は、長引く増殖がTILの表現型および効力を変更し得ることを示唆している10,11。インビトロで最小限の培養および選択を受けたTILは、インビボで使用した場合、より高いレベルの抗原反応性および活性化を示した12。まとめると、元の供給源から多数の非常に強力なTILを効率的に生成し、単離後の処理を最小限に抑える方法を確立することが非常に望ましい。
【0004】
増殖後のTILの量は、2つの主要な因子、増殖速度および細胞の初期量に依存する。TILの増殖状態を最適化することについてはかなりの努力がなされてきたが13,14、腫瘍から単離されたTILの初期量を増加させることについては、非常に限られた研究しか行われてこなかった。CD8TILは患者における腫瘍拒絶の主要な駆動因子であるため、CD8などのTIL亜集団の濃縮は、TILの反応性15および特異性16を改善することができる17。研究において、消化した腫瘍組織からのTILの濃縮は、蛍光活性化細胞選別(FACS)18~20または磁気活性化細胞選別(MACS)を用いて達成されてきたが、これらのアプローチのいずれも、臨床応用でTILを単離するために使用されていない21,22。FACSは、しばしば、不良な液滴形成または走査誤差のために、細胞の50~70%を失う23,24。この低レベルの回収は、TILの著しい損失をもたらし、および下流の増殖プロセスの障害となる可能性がある。さらに、MACSはFACSよりも良好な回収率を有するが24、このカラムベースのアプローチは死細胞およびデブリを捕捉し25、白血球を含む小細胞の不十分な濃縮につながる26,27
【0005】
マイクロ流体ベースのアプローチは、高い特異性および感度を有する細胞選別に使用されている28,29。循環腫瘍細胞30,31、抗原特異的T細胞32,33、および混入腫瘍原性細胞34などの様々な哺乳動物細胞の単離、回収、および分析に広く適用されている。しかしながら、既存のプラットフォームは、妥当なコストで容積的な、高回収率の、高純度の細胞選別を必要とするTIL単離に適していない。
【発明の概要】
【0006】
いくつかの例において、本開示は、タグ付けされた標的細胞を細胞収集物流体から磁気的に回収するための装置を記載し、該装置は、マイクロ磁石のアレイが中に配置された磁石プレートであって、マイクロ磁石のアレイが磁石プレートに沿って磁界を生成する、磁石プレートと、磁石プレートに対して覆うように解除自在に結合されるモジュール式チップであって、該モジュール式チップが、入口および出口を有するフローチャンバ、ならびに、フローチャンバ内の複数の流量低減構造であって、各構造が捕捉表面の近傍の流量を低減するように成形された捕捉表面を備え、マイクロ磁石のアレイによって生成される磁界が、流量低減構造と協働して流量低減構造のそれぞれの近傍において対応の捕捉ゾーンを画定し、ここで磁界が、捕捉ゾーンにおいて、標的細胞に対する抗力を克服して細胞収集物からの標的細胞の捕捉を促進するのに十分に高く、および、ここで磁石プレートからのモジュール式チップの分離が、捕捉された標的細胞のモジュール式チップからの分離および回収を可能にする、モジュール式チップとを備える。
【0007】
いくつかの例において、本開示は、細胞収集物から磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収するためのシステムを記載し、該システムは、マイクロ磁石のアレイが中に配置された磁石プレートであって、マイクロ磁石のアレイが磁石プレートに沿って磁界を生成する、磁石プレートと、磁石プレートに対して覆うように解除自在に結合される1つ以上のモジュール式チップであって、1つ以上のモジュール式チップのそれぞれが、入口および出口を有するフローチャンバ、ならびにフローチャンバ内の複数の流量低減構造であって、各構造が捕捉表面の近傍において流量を低減するように成形された捕捉表面を備えた、流量低減構造を有し、マイクロ磁石のアレイによって生成される磁界が、流量低減構造と協働して流量低減構造のそれぞれの近傍において対応の捕捉ゾーンを画定する、モジュール式チップとを備え、ここで磁界が、捕捉ゾーンにおいて、標的細胞に対する抗力を克服して細胞収集物からの標的細胞の捕捉を促進するのに十分に高く、および、ここで磁石プレートからのモジュール式チップの分離が、捕捉された標的細胞のモジュール式チップからの分離および回収を可能にする、モジュール式チップと、磁石プレートを保持するように構成されたスキャフォールドとを備える。
【0008】
いくつかの例において、本開示は、タグ付けされた標的細胞を細胞収集物流体から磁気的に回収するための方法を記載し、該方法は、磁気的にタグ付けされた細胞収集物流体を装置の中へ導入する工程であって、該装置が、マイクロ磁石のアレイが中に配置された、磁石プレートあって、マイクロ磁石のアレイが磁石プレートに沿って磁界を生成する、磁石プレート、ならびに、モジュール式チップが磁石プレートに対して覆うように解除自在に結合されるモジュール式チップであって、複数の流量低減構造を有するフローチャンバを有し、磁気的にタグ付けされた標的細胞が、磁気引力に対する感度が高く、フローチャンバを通って移動する際に流量低減構造によって捕捉される、モジュール式チップを備える、工程と、装置から非標的細胞を洗い流す工程と、磁石プレートからモジュール式チップを分離する工程と、モジュール式チップから磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収する工程とを含む。
【0009】
いくつかの例において、本開示は、タグ付けされた標的細胞を細胞収集物流体から磁気的に回収するための方法を記載し、該方法は、磁気的にタグ付けされた標的細胞を含有する細胞収集物流体を、本明細書に記載されるとおりのシステムの中に、第1のモジュール式チップの入口を通して導入し、第1のモジュール式チップの出口から第2のモジュール式チップの入口の中へと流体試料を導く工程と、システムから非標的細胞を洗い流す工程と、磁石プレートから第1のモジュール式チップおよび第2のモジュール式チップを分離する工程と、第1のモジュール式チップおよび第2のモジュール式チップから磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収する工程とを含む。
【0010】
いくつかの例において、本開示は、タグ付けされた標的細胞を細胞収集物流体から磁気的に回収するための方法を記載し、該方法は、磁気的にタグ付けされた標的細胞を含有する細胞収集物流体を、本明細書に記載されるとおりのシステムの中に、第1のモジュール式チップの入口および第2のモジュール式チップの入口を通して導入する工程と、システムから非標的細胞を洗い流す工程と、磁石プレートから第1のモジュール式チップおよび第2のモジュール式チップを分離する工程と、第1のモジュール式チップおよび第2のモジュール式チップから磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収する工程とを含む。
【0011】
磁石プレートから分離するモジュール式チップの能力は、開示される装置、システム、および方法におけるスループットを改善するのに役立ち、選別後にモジュール式チップから細胞を除去する際の容易さを増加させる。解除自在な結合はまた、システムがフィールドプログラマブルであることを可能にし、すなわち、異なる選別用途のために構成を変更し、それを目的に適合させる際の柔軟性を可能にする。例えば、磁石プレートへのモジュール式チップの解除自在な結合は、エンドユーザによってシステムが直列構成と並列構成との間で交換可能であることを可能にする。モジュール式チップおよび磁石プレートが別個の構成要素であるという事実はまた、従来のリソグラフィを使用する代わりに、3D印刷および/または射出成形を使用して、モジュール式チップがより迅速かつ安価に製作されることを可能にする。このことはまた、衛生的な使い捨てシステムを可能にするのに有益であり得、低コストの大量3D印刷プロセスが使い捨てモジュール式チップを製作するために使用され得、それはヘルスケア環境において特に望ましい場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
ここで、例として、本出願の例示的な実施形態を示す添付の図面を参照する。
【0013】
図1】細胞収集物から標的細胞を磁気回収するための、異なるチャネル厚さを有する、分解された例示的装置の説明図である。
図2図2aは、本開示の一実施形態による、細胞収集物から標的細胞を磁気回収するためのシステムにおいて平行に接続された、組み立てられた図1の装置の例示的な図である。図2bは、本開示の別の実施形態によるシステムにおいて直列に接続された、組み立てられた図1の装置の例示的な図である。
図3】分解された図1の例示的装置の写真である。
図4】組み立てられた図2aのシステムの写真である。
図5図5aは、本開示の他の実施形態による、組み立てられた図3の装置の写真である。図5bは、図5aの部分Aの拡大図である。
図6図5aの装置のそれぞれにおけるXの部分の拡大斜視図である。
図7】養子細胞療法において使用するための腫瘍試料からの磁気的にタグ付けされた標的細胞の回収のための例示的な方法の概略図である。
図8図2aまたは2bの装置を用いて細胞収集物から標的細胞を回収するための例示的な方法の工程を示すフローチャートである。
図9図5aおよび図6から、異なる高さを有する装置内の、シミュレートされた流速分布(カラーバーの単位(mm・s-1))を示す。
図10図9のシミュレートされた流速の定量化を示す。
図11】磁気的にタグ付けされた標的細胞がどのように非標的細胞から分離され得るかの図解である。
図12図2aまたは2bのシステムを用いて細胞収集物から標的細胞を回収するための例示的な方法の工程を示すフローチャートである。
図13図13aは、磁気的にタグ付けされた標的TILを回収するために使用される図2aのシステムの図解である。図13bは、図13aからの、回収されたTILのサブセットCD8TILを回収するために使用される図2bのシステムの図解である。
図14図14a、14b、および14cは、バイナリーマイクロ流体細胞選別と市販のカラムベースの磁気細胞選別(MACS)との間の比較を示す。(14a)陽性および陰性濃縮に用いたK562およびMDA-MB-231細胞の典型的なCD45プロファイルである。(14b)陽性濃縮中の捕捉性能の定量化である。凡例は、各ランに使用した細胞数を示す。(14c)陰性濃縮中の捕捉性能の定量化である。凡例は、各ランに使用した細胞数を示す。
図15図15a、15b、および15cは、定量的マイクロ流体細胞選別と市販のカラムベースの磁気細胞選別(MACS)との間の比較を示す。(15a)PC-3M、MDA-MB-231、およびU937細胞の典型的なCD326プロファイルである。(15b)定量的マイクロ流体細胞選別および推定捕捉カットオフの捕捉プロファイルの定量化である。(15c)バイナリMACS選別およびその推定捕捉カットオフの捕捉プロファイルの定量化である。
図16図16a、16b、16c、および17は、CD4またはCD8に基づいてTILを選別するための流量の最適化を示し、(16a)は、純粋なヒトCD4T細胞、純粋なMDA-MB-231細胞およびMDA-MB-231細胞にスパイクされた1%CD4T細胞の典型的なフローサイトメトリープロファイルである。CD4はMNPによって占有されたため、APCとコンジュゲートしたCD45を使用して純度を確認した。(16b)は、異なる流量下での精製されたスパイクイン試料の典型的なフローサイトメトリープロファイルである。ヒトCD4の最適な流量は32mL/時間である。(16c)は、異なる流量下での精製されたスパイクイン試料の典型的なフローサイトメトリープロファイルである。マウスCD8の最適な流量は16mL/時間である。
図17図16a、16b、16c、および17は、CD4またはCD8に基づいてTILを選別するための流量の最適化を示し、(17)は、0.1%および1%スパイクイン試料(MDA-MB-231におけるヒトCD4およびB16F10におけるマウスCD8)を単離するためのFACS/MACS/MAGICの純度の間の定量的比較である。
図18図18および図19は、0.1%および1%スパイクイン試料(MDA-MB-231におけるヒトCD4およびB16F10におけるマウスCD8)から精製したT細胞集団の典型的なサイトメトリーヒストグラムおよび回収効率の定量化である。
図19図18および図19は、0.1%および1%スパイクイン試料(MDA-MB-231におけるヒトCD4およびB16F10におけるマウスCD8)から精製したT細胞集団の典型的なサイトメトリーヒストグラムおよび回収効率の定量化である。
図20】異なる選別技術によって誘導された細胞ストレスを比較する円グラフである。
図21】TIL単離のためのマウス黒色腫モデルのワークフローを示す。
図22図22および図23は、単離後のD4における典型的なサイトメトリープロットと、TILの純度および回収率の定量である。TILをCD8+/CD45+集団と定義した。純粋なB16細胞およびCD8+脾細胞を陰性および陽性対照として使用した。分析を4日目に行って、CD8-MNPを分解させ、蛍光標識のためにCD8エピトープを再発現させた。
図23図22および図23は、単離後のD4における典型的なサイトメトリープロットと、TILの純度および回収率の定量である。TILをCD8+/CD45+集団と定義した。純粋なB16細胞およびCD8+脾細胞を陰性および陽性対照として使用した。分析を4日目に行って、CD8-MNPを分解させ、蛍光標識のためにCD8エピトープを再発現させた。
図24】バルクTCR配列決定を用いたCDR3発現に基づくTIL集団内の固有のクローン型の決定およびシャノン多様性指数を示すグラフである。
図25】ヒトNSCLC患者からTILを単離するためのFACS/MACS/FACSの回収の定量化を示すグラフである。
図26】血球計算器を用いた標準計数からの、異なる方法によって単離されたTILの増殖曲線を示すグラフである。
図27】14日間の増殖後のMAGIC-TILの典型的なCD45RA/CCR7プロファイルを示す。
図28】TaqManマイクロアレイを用いた、血液中のCD8 T細胞と比較したTILの相対的mRNA発現の定量化を示す。増殖、活性化、細胞傷害性および免疫応答関連経路における上方制御が観察された(NFkBおよびJAK-STAT)。MAGIC TILは、MACS/FACS TILと比較して、IFNG、GZMB、NFKBファミリーおよびSTATファミリーなどの免疫応答のコア遺伝子のより顕著な上方制御を有する。
図29】log2(FC)>1.5の遺伝子セットを用いた経路濃縮を示すグラフである。T細胞増殖、活性化、細胞傷害性、ならびにNFkB、JAK-STAT、およびTNF経路において正のレギュレーションが起こった可能性が非常に高い。より高い(-log10(P)スコアは、対応する経路が関与する可能性がより高いことを意味する。
図30】インビトロでのB16F10OVA-GFP細胞に対するTILの細胞毒性を示すグラフである。MAGIC TILは、インビトロでより高い殺傷効力を有する。
図31】インビトロ死滅アッセイから収集した上清のサイトカインプロファイルである。非TIL対照と比較して、TILの存在は、抗原提示、単球動員および抗血管新生に関与するいくつかのサイトカイン/ケモカインの分泌を促進する。RNAレベルと同様に、MACS/FACS TILと比較してMAGIC TILにおいてIFNのより有意な分泌が観察された。
図32】14日間増殖させたTILの治療有効性を比較するシナリオ1試験のワークフローを示す。マウスあたりのMAGIC、MACS、およびFACSについて、D14上の利用可能なTILの数は、2×10、5×10、および5×10である。
図33】18日目の各群の典型的な腫瘍サイズを示す。
図34】MAGIC、MACS、およびFACSによって単離されたTILによって処置された腫瘍サイズおよび生存曲線の定量化を示すグラフである(n=5)。(最大数の利用可能なTILを各群に注射した)。ログランク検定を使用して統計的有意性を決定した。
図35】異なる用量(n=5)下でMAGIC-TILにより処置された腫瘍サイズおよび生存曲線の定量化を示すグラフである。ログランク検定を使用して統計的有意性を決定した。
図36】同じ用量(5×10、n=5)下でのMAGICおよびMACS TILの治療有効性と、同じ用量(5×10、n=5)下でのMAGICおよびFACS TILの治療有効性の比較を示すグラフである。
図37】シナリオ2の研究のワークフローを示し、最適投与量約5×10で、異なる方法によって単離されたTILの治療有効性を最も早い時点で比較する(MAGICについてはD5、MACSについてはDIO、FACSについてはD15、FACSについては、マウスのマウスが大きな腫瘍を発症する前に所望の濃度に達しないので、より少数(5×10)のTILを注射した)。
図38】18日目の各群の典型的な腫瘍サイズを示す。
図39】MAGIC、MACS、およびFACSによって単離されたTILによって処置された腫瘍サイズおよび生存曲線の定量化を示すグラフである(n=5、**p<0.01)。ログランク検定を使用して統計的有意性を決定した。
図40】固形腫瘍における浸潤T細胞の典型的な画像(青色:核、赤色:CD8a、褐色:メラニン)、ならびにMAGIC、MACS、およびFACS TILによって処置された腫瘍におけるCD8TILの数/面積被覆率の定量化である(n=3、腫瘍あたり5スライス)。
図41】CD8 TILにおけるCD39に基づく定量的選別のためのマウス結腸癌モデルMC-38のワークフローを示す。
図42】バルクCD8 TIL集団におけるCD39発現の典型的なサイトメトリープロファイルおよびCD39媒介定量的選別からの選別細胞の特徴付けを示す。
図43】バルクCD8 TILと比較した異なるCD39集団の相対的mRNA発現の定量化を示す。
図44】Ki67発現に基づく細胞増殖の典型的なサイトメトリープロファイルおよび定量である。
図45】インビトロでのMC-38細胞に対するTILの細胞毒性を示すグラフである。
図46】CD39発現に基づく定量的MAGICによって単離されたTILの異なる集団の治療有効性を比較する動物研究のワークフローを示す。
図47】21日目の各群の典型的な腫瘍サイズを示す。
図48】異なるCD39発現を有するTILによって処置された腫瘍サイズの定量化を示すグラフである(n=5~10)。ログランク検定を使用して統計的有意性を決定した。
図49】異なる精製度を有するTILによって処置された腫瘍サイズの定量化を示すグラフである(未選別、CD8で選別、CD8およびCD39で選別、n=5~10)。ログランク検定を使用して統計的有意性を決定した。
図50図50aは、構成可能なマイクロ流体細胞選別の提案された作動原理の実験的検証を示し、実験は、抗CD45 MNPによって標識され、かつカルセインAMによって染色されたK562細胞を使用して実施された。画像は、異なる捕捉設定を有する装置の典型的な顕微鏡画像である。磁気標識細胞と適切な外部磁石との組み合わせのみが、所望の捕捉ポケットでの効率的な細胞捕捉をもたらした。図50bは、異なる動作段階における装置の典型的な顕微鏡画像である。磁石を除去した後、捕捉された細胞のほぼ100%をチップから回収することができ、これは細胞選別中に優れた回収効率を与えた。
図51図51、52、53、および54は、B16F10の黒色腫モデルにおけるCD8+TILの単離およびクローン型化を例示し、ここで図51は、CD8+TILのFACS単離のために使用された代表的なゲーティング戦略を例示する。
図52図51、52、53、および54は、B16F10の黒色腫モデルにおけるCD8+TILの単離およびクローン型化を例示し、ここで図52は、異なるアプローチによる分離されたCD8+TILからのVおよびJ遺伝子の使用を例示する。すべてのアプローチにおいて遺伝子の同様の濃縮が見られ、分離されたTILの同様の起原および表現型を示した。
図53図51、52、53、および54は、B16F10の黒色腫モデルにおけるCD8+TILの単離およびクローン型化を例示し、ここで図53は、異なるアプローチによって分離されたCD8+TILのVJ対合状態を例示する。
図54図51、52、53、および54は、B16F10の黒色腫モデルにおけるCD8+TILの単離およびクローン型化を例示し、図54はVJ対合状態の定量化を例示する。高回収率のアプローチは、TILのまれなクローンを分離することができ、それらの複雑さと多様性をよりよく維持した。
図55図55および56は、ヒトNSCLC試料についての異なる選別技術の比較を示し、図55は選別前後の典型的なサイトメトリープロファイルを示し、図56は、FACS/MACS/FACSの純度の定量化を示す。
図56図55および56は、ヒトNSCLC試料についての異なる選別技術の比較を示し、図55は選別前後の典型的なサイトメトリープロファイルを示し、図56は、FACS/MACS/FACSの純度の定量化を示す。
図57図57は、相対的な発現を示し、上の図は経路の濃縮を示し、下の図は特定の経路による免疫関連遺伝子を示す。脾臓由来の活性化CD8T細胞を内部参照として使用した。
図58図58a、58b、59a、および59bは、養子細胞療法を受けた腫瘍におけるCD8TILの定量化を示し、図58aは、ランダムフォレストベースの腫瘍分類子がユーザ定義の腫瘍/ストローマ/ガラス領域によって訓練されたことを示す。次いで、訓練された分類子を適用して、全スライドセグメント化を実施して、腫瘍を同定した。間質およびガラス領域を下流分析において除外した。図58bは、重ね合わされた明視野画像をCytoNuclearアルゴリズムによって分解して、ヘマトキシリン(青色)、ワープレッドおよび褐色のチャネルを再構築したことを示す。分解画像を使用して、閾値処理によって各チャネルの陽性面積を計算した。
図59図58a、58b、図59a、および59bは、養子細胞療法を受けた腫瘍におけるCD8TILの定量化を示し、図59aは、CD8TILの細胞数を示し、分解された画像を使用して自動細胞計数アルゴリズムによって定量化した。TILはヘマトキシリン/warp redとして画定され、および図59bは、養子細胞療法を受けた腫瘍からの典型的な分解画像を示す。
図60図60a、60b、および図61は、MC-38マウスモデルにおける異なるCD39集団からのTILのフローサイトメトリー分析を示し、図60aはCD8/CD45ゲーティングによる腫瘍内に約1%のCD8+TILを有するMC-38モデルであり、図60bは、消耗マーカー(PD-1、TIM3、TIGIT)の典型的なサイトメトリープロファイルと計量である。
図61図60a、60b、および図61は、MC-38マウスモデルにおける異なるCD39集団からのTILのフローサイトメトリー分析を示し、図61は、細胞内のサイトカイン(IFN、TNF、IL-2)の典型的なサイトメトリープロファイルおよび計量である。
図62a図62aは、異なる癌細胞株を横断するCD326のベンチマークを示す。これらの細胞株の混合物は、インプットとしてCD326発現のかなり均一で広いスペクトルを有するように生成された。図62bは、16mL/時間の流量で稼働する各モジュールから回収された集団の典型的なフローサイトメトリープロファイルおよび中央値蛍光強度(MFI)である。図62cは、8mL/時間の流量で運転する各モジュールから回収された集団のMFIを示す。
図62b図62aは、異なる癌細胞株を横断するCD326のベンチマークを示す。これらの細胞株の混合物は、インプットとしてCD326発現のかなり均一で広いスペクトルを有するように生成された。図62bは、16mL/時間の流量で稼働する各モジュールから回収された集団の典型的なフローサイトメトリープロファイルおよび中央値蛍光強度(MFI)である。図62cは、8mL/時間の流量で運転する各モジュールから回収された集団のMFIを示す。
図62c図62aは、異なる癌細胞株を横断するCD326のベンチマークを示す。これらの細胞株の混合物は、インプットとしてCD326発現のかなり均一で広いスペクトルを有するように生成された。図62bは、16mL/時間の流量で稼働する各モジュールから回収された集団の典型的なフローサイトメトリープロファイルおよび中央値蛍光強度(MFI)である。図62cは、8mL/時間の流量で運転する各モジュールから回収された集団のMFIを示す。
図63】開示されるモジュール式チップの一例を製作するためのモールドを印刷するための3Dプリンタの能力の特性評価を示す。3Dプリンタは、ネガティブ構造(すなわちマイクロウェル)よりもポジティブ構造(すなわちマイクロポスト)の形状形成をより良く支持することが示されている。プリンタは、200μm未満の幅を有する微細な特徴をポジティブ状に印刷することができる。
図64】3D印刷を使用した高アスペクト比および複合高さ構造の直接生成を図示する。
図65】開示されるモジュール式チップの一例を製作する際のダブルレプリカ手順のワークフローである。1つの3D印刷されたポジ型から、高分解能ネガパターンを担持する複数のPDMSモデルを生成することができる。非接着処理の後、これらのネガティブモールドを使用してポジティブチャネルを生成し、最終装置を作製することができる。
図66】開示されるシステムの一例を用いて、末梢血細胞からHA反応性T細胞を単離するために抗体媒介ネガティブ選択および多量体媒介ポジティブ選択を行う場合の選別性能の定量化を示す。
【0014】
同様の参照番号は、同様の構成要素を示すために異なる図で使用されている場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
様々な例において、本開示は、細胞収集物から標的細胞、特に磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収するための装置および方法を記載する。開示される装置、システム、および方法はまた、末梢血、血管新生腫瘍、悪性胸水、リンパ液、骨髄の流体部分、および他の細胞運搬流体等の流体供給源(細胞の集合を運搬する)から標的細胞を回収するために使用されてもよい。一例において、方法は、固形腫瘍からのTILの迅速かつ効率的な回収を可能にするために使用され得る調整可能な免疫磁気細胞選別アプローチである。
【0016】
浸潤細胞のマイクロ流体標的化(またはMAGIC)と称されるものは、免疫磁気選別に基づく腫瘍組織からのTILの回収および拡大のために使用され得る。本開示は、細胞回収が腫瘍試料からのTILに対して行われる例を提供するが、開示される方法および装置は、必要に応じて修飾を伴って、種々の培地中の他の細胞の磁気プロファイリングに好適であり得る。別の例では、開示される装置、システム、および方法は、末梢血から腫瘍反応性免疫細胞を収集するために使用され得る。
【0017】
MAGICは、構成可能、定量的、および容積測定的な、細胞分離のために設計された一連のモジュール式マイクロ流体チップを使用する。図1~6を参照すると、例示的な実施形態による、細胞収集物流体から磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収するための装置(10)およびシステム(100)が示されている。
【0018】
装置(10)は、概して、磁石プレート(12)と、磁石プレート(12)に解除自在に結合され、その上に重なるモジュール式チップ(14)とを備える。
【0019】
図3に最もよく見られるように、各磁石プレート(12)は、その中に配置および配列されたマイクロ磁石(16)のアレイを有し、マイクロ磁石(16)のアレイは、磁石プレート(12)に沿ってほぼ一定の磁界を生成する。示された実施形態では、全てのマイクロ磁石(16)はN52 NdFeB磁石である。他の応用では、異なる磁気強度を有する磁石が使用されてもよい。さらなる応用では、異なる磁気強度を有する磁石を同じ磁石プレート(12)に固定して、磁石プレート(12)に沿って変化する磁界を生成することができる。
【0020】
モジュール式チップ(14)は、基部とチャンバ壁20とで構成される。本実施形態において、モジュール式チップ(14)は、第1の端部(22)と、反対側の第2の端部(24)とを有する。基部は、流れ面(26)と、磁石プレート(12)と結合するための、反対側の結合面とを有するガラス基部(18)であってもよい。流れ面(26)および反対側の結合面は、概して、第1の端部(22)と第2の端部(24)との間に延在する。ガラス基部(18)の少なくとも流れ面(26)はまた、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、または表面を平滑化することによって非特異的捕捉を防止するための別の好適なコーティング、例えば別のシリコーン系潤滑剤でコーティングされてもよい。このコーティングは、ガラス基部(18)の流れ面(26)を滑らかにするのに役立ち、したがって回収中に滑り落ち得る細胞を捕捉する。コーティングはまた、チャンバ壁20とガラス基部(18)との間に結合を形成して漏れを防止するのに役立つ。
【0021】
ガラス基部(18)は、0.05mm~0.5mmの間の厚さを有し得る。好ましくは、ガラス基部(18)は、0.1mm以下の厚さを有し、それにより、磁石プレート(12)およびモジュール式チップ(14)が共に結合されるときに、マイクロ磁石(16)によって及ぼされる磁界がガラス基部(18)を越えてより良好に延在することが可能になる。ガラス基部(18)の寸法は、長さ30mm~300mm、および/または幅12.5mm~125mmであってもよい。本実施形態では、ガラス基部(18)は、長さ75mm、幅50mmである。
【0022】
チャンバ壁20は、ガラス基部(18)の流れ面(26)から延在し、接着剤を使用することなどによってそこに固定され得る。チャンバ壁20およびガラス基部(18)は、集合的に、それらの間にフローチャンバ(28)を形成する。フローチャンバ(28)は、モジュール式チップ(14)の第1の端部(22)の近傍などの、フローチャンバ(24)の一端に配置された入口(30)を有する。フローチャンバ(28)はまた、第2の端部(24)の近接などの、フローチャンバ(24)の反対側の端部に配置された出口(32)を有する。示される実施形態では、各装置(10)は、1つの入口(30)と、1つの出口(32)と、1つのフローチャンバ(24)とを有する。しかしながら、代替的な応用では、装置(10)は、複数の入口(30)、および/または複数の出口(32)、および/または複数のフローチャンバ(28)を有し得る。
【0023】
入口(30)は、流体をフローチャンバ(24)内に受容するように構成され、出口(32)は、流体をフローチャンバ(24)から排出するように構成されるが、入口(30)および出口(32)は、逆に使用されてもよい。この場合、入口(30)は出口(32)となり、出口(32)は入口(30)となる。
【0024】
モジュール式チップ(14)は、フローチャンバ(28)内に配置された複数の流量低減構造(34)をさらに含む。流量低減構造(34)もまた、ガラス基部(18)の流れ面(26)から延在し、そこに固定され得る。いくつかの実施例では、チャンバ壁20および流量低減構造(34)は、3D印刷および射出成形等によって単一ユニットとして形成され、次いで、ガラス基部(18)に固定されてもよい。代替的な応用では、チャンバ壁20および流量低減構造(34)、または全体としての装置(10)は、射出成形を通して形成されてもよい。各構造(34)は、捕捉表面(36)の近傍で流量を減少させるように成形された捕捉表面(36)を含む。本実施形態では、各流量低減構造(34)は、X字形であるが、V字形またはC字形の幾何学形状等の他の形状が使用されてもよい。
【0025】
マイクロ磁石(16)のアレイによって生成される磁界は、ガラス基部(18)を通って延在し、流量低減構造(34)と協働して、流量低減構造(34)のそれぞれの近傍にそれぞれの捕捉ゾーンを画定する。
【0026】
所望の濾過速度/タイプに応じて、各流量低減構造(34)の高さは、50ミクロン~800ミクロンであってもよい。高さが800ミクロンを超えると、細胞捕捉のメカニズムが変化し、捕捉の特異性が失われることが見出された。流量低減構造(34)の高さが50ミクロンより低い場合、細胞サイズが約20ミクロンであるため、詰まりが生じることが見出された。
【0027】
図1に示す実施形態では、例えば、左上のモジュール式チップ(14)内の全ての流量低減構造の高さは100μm(34a)であり、左中段のモジュール式チップ(14)内の全ての流量低減構造の高さは400μm(34c)であり、および、左下のモジュール式チップ(14)の全ての流量低減構造の高さは800μm(34d)である。図5a、5b、および図6に描写される実施形態では、それぞれ、100μm、200μm、400μm、および800μmの高さを有する、流量低減構造(34a)、(34b)、(34c)、および(34d)が、さらに詳細に示される。
【0028】
さらなる用途では、モジュール式チップ(14)は、同じガラスベース18上に、互いに異なる高さを有する流量低減構造(34)を有し得る。例えば、図9に示すモジュラーチップ(14)は、ガラスベース18上に高さの順に配置された流量低減構造(34a)、(34b)、(34c)、および(34d)を含む。
【0029】
所与のモジュール式チップのフローのための流量低減構造の適切な高さを決定または選択するのを助けるために、サイトメトリープロファイルが使用されて、特定の標的集団を捕捉するように選別設定を設計するのを助ける場合がある。
【0030】
ある応用では、図62aに示すように、MCF-7、PC-3M、22Rv1、PC-3、MDA-MB231、およびHeLaを含む、CD326を発現する一連のヒト癌細胞株をフローサイトメトリーによってベンチマークした。これらの細胞は、中央蛍光強度(MFI)によって判断すると、80~20,000の範囲にわたって、CD326発現の有意な差を有する。4つのモジュール100、200、400、および800μmを直列に接続した定量的選別装置を構成し、細胞混合物を16mL/時間の流量で選別した。図62bは、各モジュールで捕捉されている集団のMFIを示す。曲線フィッティングは、log厚さとlogMFIとの間の直線関係(R>0.998)を示唆し、約-1.5の傾きであった。したがって、上記の観察から、MFIは、捕捉モジュールの高さを2倍にすると、1/3(2~1.5=0.35)に低下した。
【0031】
次いで、図62bに示されるCD39のフローサイトメトリーデータに基づいて、CD39high集団とCD39low集団との間のMFIの差は、約27倍であることが見出された(18615対688)。したがって、母集団は、100μmおよび800μmのモジュールによって良好に分離されると判明した。その間のCD39med集団は5768のMFIを有することが見出され、CD39lowと比較して8.38の倍数変化をもたらした。このことは、捕捉のために200μmモジュールを使用する理論的根拠を提供する。まとめると、100、200、および800μmモジュールを連続的に接続するセットアップは、CD39の定量的選別のために選択されてよい。
【0032】
もちろん、代替的な応用では、モジュール式チップ(14)は、本明細書に図示および論じられるものと異なる高さを伴う流量低減構造(34)を有してもよい。
【0033】
さらなる可能な変形形態として、図9に示す装置(10)の実施形態は、モジュール式チップ(14)を間に挟んだ2つの磁石プレート(12)を含む。この実施形態における磁石は、流量低減構造(34a、34b、34c、および34d)のすべてに沿って一定の磁化を有する磁界を生成する。
【0034】
例示的実施形態によると、装置(10)を使用して細胞収集物流体から磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収するための方法(800)が、図7から図11に示される。
【0035】
(802)において、方法(800)は、任意選択で、細胞収集物流体を取得する工程を含んでもよい。この取得は、患者からの腫瘍試料を単一細胞に溶解し、細胞収集物流体を形成することを含み得る。溶解は、腫瘍試料を単細胞懸濁液へと酵素的に解離することをさらに含み得る。
【0036】
代替的に、または加えて、腫瘍試料を溶解して細胞収集物流体を形成するのではなく、細胞収集物流体は、末梢血、血管新生腫瘍、悪性胸水、リンパ液、骨髄の流体部分、または懸濁液中に単一細胞を保持する他の細胞運搬流体に由来し得る。
【0037】
次いで、(804)において、単細胞が、免疫磁気標識などによって磁性粒子で標識され得る。例えば、単細胞混合物は、目的の免疫細胞上に発現されるが、腫瘍細胞上には発現されない表面マーカー(例えば、CD4、CD8、またはCD45)に特異的である磁性ナノ粒子(MNP)とコンジュゲートされる抗体によって標識され得る。その表面上のMNPの付着により、目的の免疫細胞(すなわち、TIL)は、マイクロ流体装置内で強い磁化を得ることになる。磁気的にタグ付けされた標的細胞は、そのように、磁気引力を受けやすいように作製される。
【0038】
磁気的にタグ付けまたは標識された標的細胞を含有する細胞収集物流体は、次いで、(806)において、装置(10)に導入される。特に、細胞収集物流体は、シリンジ(図示せず)を使用して、入口(30)を通して装置(10)のフローチャンバ(28)に導入されてもよい。
【0039】
装置(10)に導入されると、細胞収集物流体は、MNP間の相互作用によって生成される磁力と、マイクロ磁石(16)によって生成される磁界との2つの主要な力と、特定の領域における流体速度によって決定される流体抗力とを経験する。磁力が流体抗力に打ち勝つと、細胞は特定の領域に留まるのに充分な力を獲得する。TILは、より多数のMNPで標識されるため、腫瘍細胞および他の非標的細胞と比較してより高い磁力を経験する。
【0040】
したがって、捕捉ゾーンにおけるマイクロ磁石(16)からの磁界は、流量低減構造(34)と協働して、標的細胞に対する抗力に打ち勝って、捕捉ゾーンにおいて細胞収集物から磁化された標的細胞を捕捉することを促進するように十分に高い。そのようにして、より高い磁化を有する細胞が、流量低減構造(34)によって捕捉される。
【0041】
上述のように、流量低減構造(34)は、異なる目的のために選択された、異なる高さ/厚さを有してもよい。適切な/所望の構成の選択後、流量はまた、より良好な選別性能のために調整され得る。モジュール式チップ(14)の厚さ/高さの違いは、それ自体、異なる流量に寄与し得る。より低い流量低減構造(34)を有する装置(10)は、フローチャンバ(28)内で、それらのより低体積を有し、したがって、チャンバを通るより高い流量を有する傾向があってもよい。逆に、より高い流量低減構造(34)を有する装置(10)は、それらのフローチャンバ(28)内で、より高い体積を有し、したがって、それを通るより低い流速を有する傾向があってもよい。
【0042】
流量自体はまた、細胞収集物流体が回収装置(10)に注入されるときに調整されてもよい。上記の癌細胞株セットアップに戻ると、8mL/時間の流量で選別された各モジュールからのMFI(図62c)を16mL/時間(図62b)と比較した。全体として、MFIは流量にほぼ直線的に比例し、k≒1であった。このこは、既存の流量を調整することによって所望のMFIを達成するための直接変換をもたらした。
【0043】
CD39の定量的選別のための上記のセットアップ(直列に接続された100、200、および800μmのモジュールを有する)については、弱いマーカー(すなわち、CD39/PD-1)については8mb/時間または強いマーカー(すなわち、CD45)については32mL/時間の流量下で予備選別を行うことが推奨される。選別後、各モジュールからの集団を収集して、フローサイトメトリーによってMFIを決定することができる。既存のMFIを所望のMFIと比較することによって、ユーザは最適な流量を推定することができる。あるいは、フローサイトメトリーによるMFIは、各モジュール中の細胞のパーセンテージを計数し、続いて、対応するMFIを推測するために、これらのパーセンテージを上記で得られたフローサイトメトリーデータにマッピングすることによって推定することができる。
【0044】
例えば、CD39を8mL/時間の流量で選別し、200μmモジュールからのMFIは7620であることが分かった。理想的なMFIは5768である(上記の癌細胞株設定を参照)。したがって、その場合の最適な流量は、8×5768÷7620=6.05mL/時間であり得る。
【0045】
流量の差は、タンパク質マーカーの異なる発現を有する細胞(すなわち、異なる程度の磁化を有する細胞)の捕捉を可能にする。特定の量のMNPは、CD39を標的とする抗体にコンジュゲートされる。CD39抗体はCD39タンパク質に特異的に結合する。したがって、細胞表面上のCD39の高い発現は、結合したCD39抗体のより高い数値をもたらし、これはMNPの量に比例する。このように、CD39の発現レベルは、磁気標識のレベルと相関する。したがって、より低い厚さ(したがって、より高い流量)を有するモジュール式チップ(14)は、より高い発現を有する細胞を捕捉する。より高い厚さ(したがって、より低い流量)を有するモジュール式チップ(14)は、より低い発現を有する細胞を捕捉する。
【0046】
図9は、異なる高さの流量低減構造(34)を有する装置(10)内のシミュレートされた流速分布を示し、カラーバーの単位(mm・s-1)によって表示される。図10は、シミュレートされた流速の定量化を示す。「X」形構造(34)のポケット付近の流量は低く、細胞捕捉に有利な低速ゾーン、すなわち捕捉ゾーンを形成した。
【0047】
図11は、示された装置(10)の実施形態が、磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収するためにどのように捕捉し得るかの図解である。免疫磁気標識された細胞がこの装置(10)に導入されると、100~800μmの間で高さが異なる領域は、流体速度の低下および流体抗力の低下をもたらす。特定の細胞は、それが得られた磁力が流体抗力を克服すると、「X」構造の捕捉ポケットに捕捉される。
【0048】
(808)において、方法(800)は、装置(10)から非標的細胞を洗い流す工程をさらに含む。洗い流す工程は、非標的細胞、または捕捉ゾーン内に捕捉されなかった細胞を洗い流すために、フラッシング流体を装置(10)に導入することによって行われ得る。フラッシング流体は、シリンジを使用して入口(30)を通ってフローチャンバ(28)に注入され得る。
【0049】
(810)において、モジュール式チップ(14)が磁石プレート(12)から分離される。磁石プレート(12)から分離するモジュール式チップ(14)の能力は、スループットを改善するのに役立ち、選別後にモジュール式チップ(14)から細胞を除去する際の容易さを高める。磁石プレート(12)からモジュール式チップ(14)を分離することにより、磁気的に標識された標的細胞からマイクロ磁石(16)によって生成された磁力が除去される。このことは、812において、捕捉された磁気的にタグ付けされた標的細胞のモジュール式チップ(14)からの分離および回収を可能にする。
【0050】
細胞収集物が腫瘍試料に由来する場合、回収される標的細胞はCD8TILであり得る。これらの回収されたTILは、抗原非依存的な様式でCD3/CD28マイクロ粒子の刺激を用いるインビトロ増殖プロトコルを経る場合がある。増殖したTILが所望のレベルに達すると、それらを養子細胞療法のためにインビボ環境(すなわち患者)に移植して戻すことができる。
【0051】
図1~6はまた、例示的な実施形態による、細胞収集物流体から磁気的にタグ付けされた標的細胞を選別および回収するためのシステム(100)を示す。システム(100)は、概して、上記で説明されるような第1の装置(10a)と、上記で説明されるような第2の装置(10b)と、第1および第2の装置(10a)、(10b)の磁石プレート(12)を保持するように構成される、スキャフォールド(102)とを備える。
【0052】
描写されるように、第1および第2の装置(10a)、(10b)のそれぞれの磁石プレート(12)は、相互に平行に位置付けられる、スキャフォールド(102)に組み込まれる。代替的に、第1および第2の装置(10a)、(10b)のそれぞれの磁石プレート(12)は、スキャフォールドに解除自在に固着可能であり得る。その点に関して、磁石プレート(12)は、摺動またはスナップ嵌め結合機構を介するなど、当該技術分野で知られている任意の方法でスキャフォールド(102)に結合され得る。異なる磁気強度または構成の磁石を有する磁石プレート(12)は、したがって、スキャフォールド(102)に交換可能に組み込まれ得る。他の代替実施例では、第1および第2の装置(10a)、(10b)は、スキャフォールド(102)上で直列に、または互いに対して非垂直角度で配列されてもよい。
【0053】
システム(100)が複数の装置(10)を含む場合、各装置の流量低減構造は、同じであっても互いに異なっていてもよい。
【0054】
システム(100)はさらに、第1および第2の装置(10a)、(10b)のそれぞれの端部に近接して位置付けられる第1のコネクタ(104)と、第1および第2の装置(10a)、(10b)のそれぞれの他端に近接して位置付けられる第2のコネクタ(106)とを含むように示される。例えば、図2aおよび図4に示されるように、第1のコネクタ(104)は、モジュール式チップ(14)の第1の端部(22)に近接して位置付けられてもよく、第2のコネクタ(106)は、モジュール式チップ(14)の第2の端部(24)に近接して位置付けられてもよい。したがって、第1のコネクタ(104)は、それぞれの第1の装置(10a)または第2の装置(10b)のそれぞれの対応する入口(30)に流体連結可能であってもよく、第2のコネクタ(106)は、それぞれの第1の装置(10a)または第2の装置(10b)のそれぞれの対応する出口(32)に流体連結可能であってもよい。
【0055】
本実施形態は、可撓性の管(108)を使用して、第1のコネクタ(104)を対応する入口(30)と流体連結し、第2のコネクタ(106)を対応する出口(32)と流体連結し、および/または1つの装置の入口(30)を別の装置の出口(32)と流体連結する。管(108)の可撓性は、第1のコネクタ(104)と、第2のコネクタ(106)の、入口(30)と、出口(32)との間で再構成可能または再接続可能であることを可能にする。第1のコネクタ(104)を対応する入口(30)と流体連結し、第2のコネクタ(106)を対応する出口(32)と流体連結するために、管(108)の代わりに代替の連結機構が使用されてもよい。
【0056】
各第1のコネクタ(104)はまた、細胞収集物の供給源(図示せず)と流体接続してもよく、各第2のコネクタ(106)はまた、残留物容器(図示せず)と流体接続してもよい。図1図4はさらに、スキャフォールド(102)が、第1および第2の装置(10a)、(10b)に加えて、追加の装置(第3の装置(10c)等)が、所望に応じて、システム(100)に追加され得るように、2つより多い装置(10)を保持するように構成され得ることを図示する。
【0057】
システム(100)の構成要素の再構成可能性は、システム(100)が複数のモードまたは構成に適合されることを可能にする。2つの例示的な構成は、図2aおよび図4にその例が示される並列構成/システム(100a)と、図2bにその例が示される直列構成/システム(100b)とを含む。
【0058】
図2aの実施形態では、平行システム(100a)の一例が示されており、可撓性チューブ108は、各第1のコネクタ(104)をその対応する装置(10)の入口(30)と流体連結し、別の可撓性チューブは、各第2のコネクタ(106)をその対応する装置(10)の出口(32)と流体連結する。このような場合、各第1のコネクタ(104)は細胞の収集源とも流体接続し、各第2のコネクタ(106)は残留物容器(図示せず)とも流体接続する。
【0059】
同様に、図2aの第1、第2および第3の装置(10a)、(10b)、(10c)のそれぞれにおける流量低減構造(34)の高さは同じである。特に、第1、第2、および第3の装置(10a)、(10b)、(10c)は、100ミクロンの高さを有する流量低減構造(34a)を含む。このようにして、図2aの第1、第2、および第3の装置(10a)、(10b)、(10c)は、構造的に同じである。代替的な応用では、図2aの装置は、代わりに、50ミクロン~800ミクロンの高さを有する流量低減構造を含んでもよい。
【0060】
図4の実施形態では、平行システム(100a)の別の例が示されており、可撓性チューブ108は、図2aに示されているのと同じ方法で並列に配置されている。しかしながら、第1、第2、および第3の装置(10a)、(10b)、(10c)のそれぞれにおける流量低減構造(34)の高さは異なる。特に、図4の第1、第2、および第3の装置(10a)、(10b)、(10c)は、それぞれ100、400、および800ミクロンの高さを有する流量低減構造(34a)、(34c)、および(34d)を含む。
【0061】
図2bは、第1および第2の装置(10a)、(10b)が、第3の装置(10c)とともに、直列に配置され、流体的に直列に接続される、直列システム(100b)の実施例を図示する。
【0062】
直列システム(100b)では、平行システム(100a)と同様に、第1の装置(10a)に近接するコネクタ(104)は、可撓性の管(108)を用いて、第1の装置(10a)の入口(30)に流体的に連結される。しかしながら、上述のように、各モジュール式チップ(14)では、入口(30)および出口(32)の機能は逆にされ得る。したがって、平行システム(100a)とは異なり、第1の装置(10a)の出口(32)は、第2のコネクタ(106)ではなく、第2の装置(10b)の入口(30)に流体連結される。さらに、第2の装置(10b)の出口(32)は、第1のコネクタ(104)ではなく、第3の装置(10c)の入口(30)に流体連結される。次いで、第3の装置(10c)の出口(32)は、装置(10c)に近接する第2のコネクタ(106)に流体連結される。
【0063】
直列システム(100b)の第1の装置(10a)における複数の流量低減構造(34)の高さもまた、第2の装置(10b)および第3の装置(10c)における流量低減構造(34)の高さとは異なる(より低いまたはより高い)。図2bに示される特定の実施形態では、第1の装置(10a)は流量低減構造(34a)(100μm)を有し、第2の装置(10b)は流量低減構造(34c)(400μm)を有し、第3の装置(10c)は流量低減構造(34d)(800μm)を有する。
【0064】
システム(100)のモジュール性および構成可能性は、システム(100)がフィールドプログラマブルであることを可能にし、すなわち、異なる選別用途のために構成を変更する際の柔軟性を可能にして、システム(100)を目的に適合させる。例えば、エンドユーザの必要性に応じて、システム(100)は、平行システム(100a)に構成されてもよく、次に、直列システム(100b)、または並列および直列構成要素の両方を有するシステム、および/または構成要素の異なる組み合わせを伴うシステムに再構成することができる。
【0065】
いくつかの例では、それぞれがそれ自体の磁石プレート(12)を有する第1および第2の装置(10a)、(10b)を含むシステム(100)の代わりに、システム(100)は、第1および第2のモジュール式チップ(14)とともに使用することができる単一の大きな磁石プレートを含む場合がある。第1のモジュール式チップ(14)は、第1のモジュール式チップ(14)が磁石プレート(12)の第1の部分を覆うようにスキャフォールドに結合されてもよく、第2のモジュール式チップ(14)も、第2のモジュール式チップ(14)が磁石プレート(12)の第2の部分を覆うようにスキャフォールドに結合されてもよい。そして、平行システム(100a)または直列システム(100b)は、上述のように、第1のモジュール式チップと第2のモジュール式チップ(14)の入口(30)および出口(32)を接続することによって同様に達成され得る。すなわち、システム(100)のモジュール性および構成可能性は、単一の大きい磁石プレート(12)(これは、スキャフォールド(102)に組み込まれてもよく、またはスキャフォールド(102)に解除自在に連結されてもよい)上に自由に配置され得るモジュール式チップ(14)を使用して達成され得るか、またはそれ自体の磁石プレート(12)を備えたモジュール式チップ(14)をそれぞれ含む装置(100)を使用して達成され得る。
【0066】
例示的実施形態による、システム(100)を使用して細胞収集物流体から磁気的にタグ付けされた標的細胞を回収するための方法(1200)が、図12、13a、および13bに示される。任意選択で、方法(1200)は、上述のように、腫瘍試料の溶解(802)および標的細胞の磁気標識(804)を含み得る。
【0067】
次いで、1202において、方法(1200)は、磁気的にタグ付けされた標的細胞を含有する細胞収集物流体をシステム(100)の中へ、具体的には、第1の装置(10a)の入口(30)を通して第1の装置(10a)の中へ導入する工程を含む。次いで、1204において、流体試料は、第2の装置(10b)の中へ、すなわち、第1の装置(10a)の出口(32)から第2の装置(10b)の入口(30)の中へ導かれる。方法(1200)はまた、任意選択で、(1206)において、流体試料を第3の装置(10c)の中へ、すなわち、第2の装置(10b)の出口(32)から第3の装置(10c)の入口(30)の中へ導く工程を含んでもよい。
【0068】
次いで、(1208)において、非標的細胞をシステム(100)から洗い流す。洗い流す工程は、非標的細胞、または捕捉ゾーンにおいて捕捉されなかった細胞を洗い流すために、システム(100)にフラッシング流体を導入することによって行われ得る。フラッシング流体は、シリンジを使用して入口(30)を通って第1の装置(10a)のフローチャンバ(28)に注入され得る。次いで、フラッシング流体は、上述のように、第2の装置(10b)および第3の装置(10c)を通過することになる。
【0069】
(1210)において、第1、第2、および第3の装置(10a)、(10b)、(10c)のモジュール式チップ(14)が、それらの対応する磁石プレート(12)から分離される。次いで、1212において、第1および第2の装置(10a)、(10b)のモジュール式チップ(14)からの磁気的にタグ付けされた標的細胞が回収される。
【0070】
図13aおよび図13bは、システム(100)を並列および直列に使用するときにどの方法(1200)が実行され得るかを示す。
【0071】
図13aは、第1、第2、および第3の装置(10a)、(10b)、および(10c)が平行に接続され、それぞれが100ミクロンの流量低減構造(34a)を有する、平行システム(100a)を含む。それらの構造的同一性を考慮して、方法(1200)は、CD8+TILへの腫瘍細胞の超高スループットバイナリー選別およびその回収のために実施され得る。本明細書において「バイナリMAGIC」とも呼ばれるこのバイナリ選別は、バルクTILを生成するためのT細胞集団の単離を可能にする。
【0072】
しかしながら、TILは、それらの活性化の程度に基づいて亜集団にさらに分類され得る。特に、より強力な表現型を有する細胞の亜集団は、TILにおける特定のタンパク質へのホーニングによって標的化され得る。
【0073】
そのために、図13bは、第1、第2、および第3の装置(10a)、(10b)、および(10c)が異なる流量低減構造(34a)、(34c)、および(34d)(それぞれ、100、400、および800ミクロン)と直列に接続される、直列システム(100b)を示す。それらの構造的相違を考慮すると、方法(1200)は、ハイスループットの定量的選別および腫瘍細胞(または一般的なCD8TIL)の、バイスタンダーTIL(Bystander TIL)、反応性TIL(Reactive TIL)、および疲弊TIL(Exhausted TIL)などの、CD39発現に基づく亜集団への回収のために実施され得る。このタイプの選別は、本明細書では「定量的MAGIC」とも呼ばれる。
【0074】
上述のように、異なる高さを有する流量低減構造(34)は、フローチャンバ(28)を通る異なる流量をもたらすことができる。標識された細胞収集物流体はまた、異なる流量で注入されてもよい。この流量の差は、CD39タンパク質マーカーの異なる発現を有する細胞の捕捉を可能にする。したがって、100ミクロンの流量低減構造(34a)を有する第1の装置(10a)は、疲弊TILなどのより高い発現を有する細胞を捕捉することができる。400ミクロンの流量低減構造(34c)を有する第2の装置(10b)は、反応性TILなどの培地発現を有する細胞を捕捉することができる。800ミクロンの流量低減構造(34d)を有する第3の装置(10c)は、バイスタンダーTILなどのより低い発現を有する細胞を捕捉することができる。
【0075】
したがって、第1、第2、および第3の装置(10a)、(10b)、(10c)のモジュール式チップ(14)が、それらの対応する磁石プレート(12)から分離されるとき、第1のモジュラープレートから回収される標的細胞は、大部分が疲弊TILであり、第2のモジュラープレートから回収される標的細胞は、大部分が反応性TILであり、第3のモジュラープレートから回収される標的細胞は、大部分がバイスタンダーTILである。
【0076】
方法(1200)は、方法(800)の実行に続いて実行されてもよく、方法(800)から回収された磁気的にタグ付けされた標的細胞は、直列システム(100b)に導入される。方法(1200)は、代替的に、方法(800)とは独立して行われてもよく、この場合、磁気的にタグ付けされた標的細胞を伴う細胞収集物流体(溶解した腫瘍試料など)が、直列システム(100b)に直接導入される。
【0077】
装置(10)内の磁石プレート(12)からのモジュール式チップ(14)の分離可能性、およびシステム(100)のモジュール式構成は、モジュール式チップから細胞を除去する際の容易さを増すように役立ち、かつ、調整可能な分解能を可能にする。目的の細胞を含む任意の1つの区画を他のモジュールから単純に別々に取り出すことができるため、特定の亜集団の細胞を容易に回収することができる。このモジュール設計はまた、エンドユーザが、分解能(選別される集団の数)、スループット、およびシステムの複雑性の観点から、要求を満たす選別システムを組み立てることを可能にする。
【0078】
システム(100a)を直列に使用する別の利点は、純度を犠牲にすることなく、市販の選別技術と比較して最大30倍高い回収効率、および100倍良好なスループットを達成し得ることである。達成される高い回収率および純度は、TILのクローン型の初期量および多様性を改善し、増殖プロセスを加速し得る。このアプローチを用いて単離されたTILは最小限の増殖しか必要とせず、このことはそのインビボの細胞毒性表現型を最大化する。マウス腫瘍モデルにおけるインビボ養子細胞療法を用いて、MAGICプラットフォームを通して単離および増殖させたTILは非常に強力であり、異種移植された動物の生存期間の中央値を50%延長できることが実証された。
【0079】
加えて、ハイスループットのために設定された定量的選別(直列のシステム(100a)、およびCD39に基づくTIL亜集団の精細なプロファイリング(並列のシステム(100b)を得ることができる。以下の実施例において、CD39の中程度のレベルの発現が、抗原特異的であり、自己再生可能であり、高度に細胞傷害性の表現型に迅速に分化することができるTILの前駆細胞集団を画定することが実証される。CD39med集団の特徴は、CD39high、CD39lowまたはバルクTILと比較してインビボで優れた抗腫瘍効果をもたらす。まとめると、本明細書に記載される実施例は、開示される装置、システム、および方法が、迅速なターンアラウンドを伴う、費用効果的かつ効率的な養子細胞療法を可能にすることを実証する。
【実施例
【0080】
例示的な製造方法
ここで、開示される装置の一例の、例示的な製造方法を説明する。別個の構成要素としてのモジュール式チップおよび磁石プレートの分離可能性は、少なくともモジュール式チップが、従来のリソグラフィを使用するよりもむしろ、3D印刷および/または射出モデリングを使用して、より迅速かつ安価に製作されることを可能にする。さらに、モジュール式チップのための低コストで大量の製造プロセスを可能にすることによって(例えば、3D印刷を使用)、モジュール式チップは、システムの使い捨て部品であり得る。モジュール式チップは、細胞収集物流体(これは、血液、リンパ液などの生体液であり得る)と最も直接接触する構成要素であるため、モジュール式チップの使い捨て性は、衛生上の理由および/またはヘルスケア環境での使用に有益であり得る。
【0081】
この例では、MAGIC/モジュール式チップ(14)を製造するための型は、25μmの層厚を有する「PDMS用CCWマスターモールド」樹脂(Resinworks 3D、トロント、カナダ)を使用して、ステレオリソグラフィー3Dプリンタ(Microfluidics Edition 3D Printer,Creative CADworks、トロント、カナダ)によって3D印刷された。他の既知の3D印刷樹脂が、任意選択でUVまたは熱処理とともに、このプロセスにおいて使用されてもよい49。MAGICチップは、PDMS(Sylgard 184, 182 or 186 Dow Chemical, Midland, MI)を印刷金型上にキャスティングし、続いて50~100°Cで30分間~4時間インキュベートすることによって作製した。硬化したPDMSレプリカを剥がし、打ち抜き、厚さ番号1のガラスカバースリップ(260462、Ted Pella、Redding、CA)にプラズマ接合してチップを仕上げた。使用前に、MAGICチップをリン酸緩衝生理食塩水(Wisent Bio Products、モントリオール、カナダ)中の0.01~1%のPluronic F68(24040032,サーモフィッシャーサイエンティフィック,Waltham,MA)で30分~24時間処理して、細胞とチップとの間の非特異的結合を低減した。実験中、各装置をアレイにされたN52 NdFeB磁石(D14-N52, K&J Magnetics, Pipersville, PA)で挟み、流体処理のためにデジタルシリンジポンプ(Fusion 100、Chemyx、Stafford、TX)に接続した。
【0082】
5kV加速電圧および高真空モードを使用する電界放出走査電子顕微鏡(SU5000、Hitachi、東京、日本)下での画像化のために、作製されたチップを15nmのAu(Denton Desk II,Leica)でスパッタコーティングした。他の応用では、加工されたチップは、上記で説明されるように使用されるとき、スパッタコーティングされない場合がある。
【0083】
3D印刷に関して、ポジティブ(例えば、マイクロポスト)およびネガティブ(例えば、マイクロウェル)構造を印刷する3Dプリンタの能力(図63参照)を最初に定量化した。この例における3Dプリンタ(すなわち、上で参照したMicrofluidics Edition 3D Printer)は、ネガティブ構造と比較してポジティブ構造の印刷においてより良好な解像度を有することが見出された。ネガティブ構造のより低い分解能は、表面張力または樹脂の高い粘度に起因して、その中に留まる樹脂の残留物に起因し得る。その点で、3Dプリンタは、「X」形の細胞捕捉ポケットなどの高解像度パターンをポジティブ構造上に印刷することができる。3Dプリンタは、少なくとも1mmまでの高さを有する微細構造をサポートすることが分かっており、これは、標準的なリソグラフィではほとんどサポートされない(図64参照)。加えて、3Dプリンタは、1回のショットで複数の深さの構造を生成することができることが見出されたが、標準的なリソグラフィ方法は、リソグラフィが1回のラウンドにつき1つの厚さしか生成できないため、複数のラウンドを必要とする。
【0084】
ネガティブ構造の3D印刷における制限された解像度の課題は、PDMSを鋳造する特別に設計された二重レプリカ手順の使用によって対処され得る(図65参照)。この二重レプリカ手順は、まず、ネガティブ構造を担持するPDMS型を生成する。次いで、ネガティブモールドを70%エタノール溶液中の飽和洗剤で20分間~72時間処理した。この洗剤処理は、新たに硬化されたPDMSが、処理されたPDMSから分離されることを可能にし、装置製造中にネガティブPDMS構造のポジティブチャネルを生成するための鋳型としての使用を可能にする。
【0085】
このプロトコルの使用は、少なくとも3つの主要な利点を有する。第1に、それは、任意の構造を充分に高い分解能で製作することを可能にする。3Dプリンタがポジティブ構造を印刷するより高い解像度を有することが見出されたため、チャネル製造のためのポジティブ構造とネガティブ構造の両方を作製する能力を有するためにこのプロトコルを使用することが重要である。第2に、このプロトコルは、1つの3D印刷片から複数のネガ型を生成することができ、製造をスケールアップすることができる。同時に、全てのモールドが全く同じピースから形成されるため、3D印刷/標準リソグラフィ中のバッチ間の変動も最小限に抑えられる。第3に、これは、他の種類の樹脂の使用を伴わず、処理プロセスが単純であるため、比較的費用効果的かつ直接的である。
【0086】
研究例
上述のように作製された例示的な装置を、いくつかの例示的な研究において使用した。
【0087】
装置の全体的な設計は、バイナリ選別設定を使用して、MNPおよび外部磁石を用いて/用いずに細胞を選別することによって検証した(図50a)。予想通り、MNPおよび外部磁石の両方が存在する場合にのみ細胞が捕捉された。細胞の大部分が「X」形構造付近の低速ポケットに捕捉されたことは注目に値する。この結果は、我々の選別原理の忠実性を証明し、我々のモジュラーチップの特異性を示した。さらに、外部磁石なしでチップを洗い流すことによって、チップから捕捉された細胞を回収する実現可能性を、調べた(図50b)。捕捉された細胞のほぼ100%がチップから首尾よく除去され、効率的な細胞回収を促進した。
【0088】
MAGIC/装置(10)およびシステム(100)の選別性能を、市販の磁気選別プラットフォーム-磁気活性化細胞選別(MACS)と比較した。直列システム(100a)を用いたバイナリ選別では、K562およびMDA-MB-231細胞を用いたCD45に基づくポジティブおよびネガティブ選別を行った(図14参照)。ポジティブ選別中、バイナリMAGICはチップあたり5000万までの細胞の一貫した捕捉を提供するが、MACSカラムは1000万細胞で飽和し、5000万でポジティブ細胞の大部分を捕捉することができなかったことが見出された。これは、MAGICが、腫瘍細胞の過剰なバックグラウンドからTILを精製することなど、陽性細胞の体積測定的捕捉を伴う用途により適していることを実証する。
【0089】
平行システム(100b)を用いた定量的選別のために、CD326を、それぞれCD326の高い、中程度の、および低い発現を有するPC-3M、MDA-MB-231、およびU937細胞を使用して試験した(図15を参照)。定量的MAGICは全ての細胞株を適切に濃縮することができたが、MACSはその陽性画分においてCD326med MDA-MB-231細胞を捕捉することができなかったことが観察された。これは、MACSが中程度および低発現細胞を識別する能力が限られていることを示す。定量的MAGIC選別は、高スループット下でより精細な選別分解能を提供し、これは、MACSによってアクセス可能ではない生物学的情報をより良好に分解し得る。
【0090】
バイナリMAGICを用いた細胞傷害性CD8TILの単離
【0091】
CD4およびCD8は、腫瘍内の異なる抗腫瘍T細胞集団の決定的マーカーであり、TIL単離に広く受け入れられている。バイナリMAGIC設定(平行システム(100a))は、CD4またはCD8を介してTILを分離するように構成した。T細胞を腫瘍細胞の試料中にスパイクして、TILの分離に有利な流量を最適化した。純粋なヒトCD4T細胞および純粋なマウスCD8OT-1 T細胞を使用した。ヒトCD4およびマウスCD8T細胞を捕捉するための最適な流量は、それぞれ32mL/時間および16mL/時間であることが見出された(図16a~17を参照)。これは、3.2億ヒト細胞および1.6億マウス細胞のスループット/時間/装置に対応する。CD4およびCD8TILは、典型的には、全TILの10%未満を表すため37、のそのような能力は、チップあたり5億解離腫瘍細胞を取り扱うのに十分と見られる。MAGIC、FACS、およびMACSの性能を、MDA-MB-231ヒト乳癌細胞にスパイクされたヒトCD4T細胞のCD4媒介捕捉、およびB16F10マウス黒色腫細胞にスパイクされたマウスCD8OT-1 T細胞のCD8-媒介捕捉の2つの別個の設定からの少量のスパイクイン試料(~1000万/ラン)を使用して比較した(図18および図19を参照)。MAGICは、その液滴がない作用原理および超高スループットのおかげで、FACS/MACSと比較して、選別された細胞に対するストレスにわたるFACS/MACSにわたる最良の回復で、T細胞の一貫した濃縮を達成したことが見出された(図20参照)。
【0092】
MAGIC、FACS、およびMACSを、B16F10マウス黒色腫モデル由来のTILでチャレンジした(図21参照)。14日目にマウスを屠殺し、CD8発現に基づく異なる単離技術を用いて消化腫瘍からTILを単離した。興味深いことに、CD8TILのパーセンテージは、固形腫瘍内の全細胞集団の0.2%にすぎず(図51)、したがって、これらの稀な集団の量を最大にするためには、すべての消化された腫瘍を処理する必要があることが分かった。単一グラムの腫瘍組織は、典型的には1億~10億細胞を含む38。そのような高い細胞数は、実際の腫瘍試料からの希少および生きたTILの選別を非常に困難にする。MACSまたはFACSで希釈されていない試料を処理することは、目詰まりの問題のために困難であり、MACSおよびFACSについて、それぞれ5×10細胞/mLおよび2×10細胞/mLの濃度まで試料を希釈することを必要とした。これは、その処理時間を4時間および20時間に劇的に増加させた。しかしながら、MAGICは、チップ当たりの高い流量で目詰まりすることなく、20×10細胞/mLまでの細胞数を有する濃縮試料を処理することができた。実際のB16F10腫瘍からTILを選別するためのMACS/FACS/MAGICの性能を表1に要約する。
【0093】
【表1】
【0094】
単離されたCD8TILの純度および量は、T細胞増殖のために調製された培地下での4日間の培養後にCD8/CD45共染色によって決定し(図22を参照)、その時点で、97%を超えるMNPが表面から脱離して34、標識のためにCD8aエピトープを再発現した。MAGICは4日目に最良の純度(98.0%)を達成し、FACS(88.3%)よりも効率的であった。この傾向は、FACSに基づく選別に必要とされる時間ならびに有意な細胞アポトーシス/死を引き起こした高レベルの細胞ストレスによって説明され得る。図23に示すように、MAGICは、それぞれMACSおよびFACSよりも5倍および30倍高い回収率を有する。この傾向は、スパイクイン特性評価とよく一致している。非常に限られた数およびパーセンテージのTIL(2.65%)が、選別されていない消化腫瘍試料から回収された。このことは、効率的で穏やかなマイクロ流体選別プロセスがTILのより良好な増殖曲線をもたらすことを示唆する。TIL回復も非小細胞肺癌(NSCLC)患者由来の腫瘍標本を用いて試験し(図24、55、および56参照)、同様の傾向が観察された - MAGICは最高の細胞回復を保持し、MACSおよびFACSよりも5~20倍良好である。
【0095】
単離されたTILのクローン型を、バルクTCR配列決定を使用して分析した。観察されたユニークなクローンの数(CDR3に基づく)は、FACS、MACSおよびMAGICによって単離されたTILについてそれぞれ684、20468、および64165であった(図25)。この傾向は、MAGICの高い回収率は、元のTIL集団の不均質性および多様性を最大限に保存するのにも役立つことを示唆する。興味深いことに、異なる単離技術は、VおよびJ遺伝子の使用を有意に変化させず(図50)、単離されたTILの同様の抗原特異性を示した。しかしながら、V(D)J組換えのマッピング(図51)は、MAGICによって単離されたTIL(MAGIC-TILと呼ぶ)が、V-J対形成の有意により高い複雑性およびより高いシャノン多様性指数(図52)を有することを明らかにし、これは、MAGICによって単離されたTILのより良好な多様性を強調する。
【0096】
MAGIC単離プロセスで量、純度、および多様性の有意な改善が観察されたため、増殖速度および固有の細胞毒性の増強も観察され得るかどうかを調査した。1×10/mLの密度で細胞を継代培養する共通のCD3/CD28ベースの増殖プロトコルを用いて、単離したTILをウェルプレート中で14日間、異なる方法を用いて培養した。細胞数をウェルあたり週に2回記録し、各方法から単離されたTILの総数を計算した(図26)。MAGIC-TILの増殖速度は、MACS/FACS-TILよりも速いことが見出された。MAGICおよびMACS TILが各反復について1×10の量に達するのに7日および14日を要する。FACS-TILは、おそらく細胞密度がT細胞活性化および増殖の重要な調節因子であるため、その極めて低い初期量のために、14日以内に1×10の量を供給することができなかった39。MAGICによって提供される高収率は、増殖に有利なより濃縮された初期TIL集団をもたらす。増殖の終わりに、CCR7/CD45RAによるTILの表現型を染色によって特徴付けた(図27)。TILの約95%はCCR7/CD45RAであり、TILの適切なエフェクター数が迅速なインビトロ増殖に有利であることを示す。
【0097】
その後、RNAおよび表現型レベルで、増殖したTILの細胞毒性および反応性を特徴付けた。第1に、qPCRによる重要な免疫経路の相対的発現を、対照として活性化CD8脾細胞を使用して、評価した(図28および57)。NFkB、JAK-STAT、増殖マーカー、および細胞毒性サイトカインを含め、免疫応答経路および遺伝子の大部分は上方制御される(図57)。GOおよびKEGGデータベースにおいてlog(FC)>1.5の遺伝子セットを使用して、経路濃縮をさらに行った(図29)。MAGIC-TILは、ほとんどの経路において最も高い-log10(P)を有し、RNAレベルでのMAGIC-TILの免疫反応性の改善を示唆している。TILをB16F10-OVA細胞の単層と共培養することによって、インビトロ死滅アッセイを構築した(図30)。RNAのレベルで収集されたデータと一致して、MAGIC選別TILは、24時間および48時間での細胞死のパーセンテージによって測定されたより高い免疫反応性を示した。共培養中の上清のELISA分析は、全てのタイプのTILが機能的であることを明らかにした。すべてのタイプのTILは、抗原提示、細胞毒性、T細胞増殖、単球動員、および抗血管新生を促進するサイトカインのカクテルを生成することができた。特に、MAGIC-TILは、有意に高いレベルのIFNγを分泌し、これは、他のTILよりも改善された細胞傷害性を説明し得る。
【0098】
異なるアプローチによって単離されたTILの効力をさらに調査するために、動物試験の2つのシナリオを設計して、それらの治療効力を系統的に試験した(図32図40を参照)。シナリオ1は、TILの異なる増殖曲線の結果として、細胞数が変動する注入の固定時点(腫瘍導入後7日目)を有する(図32)。全てのTILが未処置対照と比較して腫瘍増殖を抑制することが観察された(図33および図34)。マイクロ流体選別されたTILは、おそらく迅速な拡大によって可能になる高い投与回数、ならびに高い多様性の結果としてのより良好な細胞毒性表現型に起因して、最良の治療有効性を達成した。投与量の影響もMAGIC-TILについて調査した。興味深いことに、5×10の投与量は、2×10の投与量よりも統計的に良好な生存中央値を提供する(32対28日、p=0.049)。1ショットにおけるTILの高い投与量は、治療にいくつかの悪影響をもたらし得ることが予想される40。したがって、5×10細胞に近い用量が、B16F10モデルにおける最適な用量である。さらに、MAGIC/MACS-TILの治療転帰を5×10細胞の用量で比較し(図36)、MAGIC/FACS-TILの治療転帰を5×10細胞の用量で比較した(図36)。結果は、MAGIC-TILが同じ用量下でMACS/FACS-TILよりも本質的により強力であることを強調した。
【0099】
次に、TILの単離と新規腫瘍の導入を同日に実施した場合のTILの治療転帰を評価した(図37)。これは、患者が急速に増殖する転移性腫瘍を有し、急速に悪化するという状況を模倣するためであり、これは臨床における患者の20%に相当する。TILを、それらの量が最適用量に達したら注射した(5×10細胞)。MAGIC/MACS/FACS-TILを用いて、5日目、10日目、および15日目に最適用量でTILを単離した(標的濃度に到達しなかったFACSを除く)。この状況下では、MAGIC-TILは、おそらくインビトロでの高い初期回復および急速な拡大に起因して、高い効力および早期注射の結果として依然として最良の治療転帰を提供する(図38および図39)。生存期間の中央値は、未処置、FACS、MACS、MAGIC-TILについてそれぞれ18、20、21、および32日である。興味深いことに、MAGIC-TIL群の5匹のマウスのうち2匹は、目に見える腫瘍組織が皮下に見られないように、40日目に完全寛解であった。このような知見は、最小限のインビトロ増殖(5日間)を受けたMAGIC-TILがより良好なインビボ治療効果を有し得ることを示す。この結果は、「若いTIL」-最小限に培養されたTIL(若いTILと称される)が、延長された増殖を受けた標準的なTILと比較して高いレベルの抗原反応性を有し12、転移性黒色腫の退縮を効果的に媒介し得るという考えとよく一致する10。最近の研究は、オリゴクローナルTILが、より大きな増殖能を有する低頻度クローン型によってしばしば増殖することを強調している41。結果として、TILのクローン組成および腫瘍反応性は、インビトロ増殖中に変化する可能性がある42。このことは、「正しい」クローン型の濃縮は、バルクTILの増殖よりも望ましいという、TIL増殖の洗練された性質を明らかにする41。最後に、シナリオ2からの腫瘍における浸潤したCD8T細胞の数を比較して、浸潤能力を直接ベンチマークした(図40a、58~59b)。浸潤CD8+T細胞の数および面積(図40b)は、MAGIC群において5~10倍高く上方制御され、これはその陽性の治療結果とよく一致している。総合すると、これらの発見は、TILのインビトロ培養を最小限に抑えることの重要性を究明し、効率的な細胞選別を通じて、より多くの初期TILを有して開始することの重要性を直接証明する。
【0100】
定量的MAGICを用いた高力価TILの単離
【0101】
ACTの大きな成功にもかかわらず、その客観的応答率は40~70%で変動する。現在、TILのどの表現型がインビボで最良の治療効力を有するかは不明である。TILの高度に腫瘍反応性の集団の同定は、ACTのより良好な臨床的成功につながり得る。最近の研究は、CD39の発現が高度に強力なTILを定義し得ることを強調している。一方、CD39pos集団は、単独で43,44、または他のマーカーと組み合わせて45、TILの腫瘍反応性集団を正確に決定し、臨床転帰の改善をもたらすことが報告された。一方、CD39の発現はT細胞疲弊と高度に関連していた46。代わりに、CD39neg集団が長期腫瘍管理を促したことが示唆される47。したがって、治療効果におけるCD39発現の役割に関するコンセンサスの欠如がある。興味深いことに、CD39の中程度の発現を有するTIL(CD39med)がインビトロで無尽蔵の表現型を保持することを示唆するいくつかの証拠がある46。CD39negがバイスタンダー集団を定義し43、CD39posが疲弊集団を定義するというコンテキストで47、バイナリ選別によって無視され、しばしば主観的に陽性47または陰性43画分に割り当てられる集団であるCD39medが、改善された治療転帰を有し得ると仮定される。
【0102】
実験は、MC-38を有するマウスモデルからのCD8+T細胞の単離によって開始した。CD39に基づく二次定量的(直列システム100b)選別を、CD8単離後5日目~7日目に実施し、続いてインビトロ特性評価を行った(図41)。CD8 T細胞内のCD39の発現はバイモーダルではなく、細胞の約25%がCD39medであり(図42)、これは既存の文献と同様のプロファイルを共有することが最初に確認された46。定量的MAGIC(qMAGIC)の流量を6mL/時間に微調整し、3つのCD39集団の間の明確な分離を達成した(図42)。次に、qPCRを実施して、細胞毒性、幹細胞性、および疲弊の共通マーカーを含め、様々なCD39集団の表現型を分析した(図43)。CD39low集団は、PRF1、GZMB、PD-1、CTLA-4、2B4などの細胞毒性および疲弊マーカーの低い発現、ならびにCD27、TCF7、およびIL7Rを含む幹細胞性マーカーの高い発現を保持し、非分化幹様表現型を定義し、これは従来の報告とよく一致している47。対照的に、CD39high集団は、既存の論文とよく相関する、非常に疲弊しているが細胞毒性がある表現型を定義した43,44。興味深いことに、CD39med集団は、細胞毒性、幹細胞性、および疲弊マーカーのバランスのとれた発現を有した。CD39medがメモリー幹様T細胞マーカーであるTCF7の最も高い発現を有することは注目に値する。
【0103】
タンパク質レベルでの表現型を検証するために、細胞内フローサイトメトリーを実施した(図44および図60a~図61)。各集団について同様の傾向が、消耗マーカー(PD-1、TIM3、およびTIGIT)および幹細胞性マーカー(CD27およびTCF7)のパネル内で観察された。特に、CD39high集団は、TNFおよびIL-2の有意に低い細胞内発現を有し、これはそれらの疲弊した機能不全表現型の徴候であることが見出された。IL-2の劇的な減少はまた、このようなCD39high集団が増殖能力を低下させたことを示した。この仮説は、Ki67染色によって確認される(図5F)。メモリー幹様T細胞のパーセンテージを、CCR7/CD45の染色を通して各集団で検証し(図45)、幹様T細胞の大部分がCD39lowおよびCD39med集団において提示されることを見出した。また、CD39med集団が最も高い割合のPD-1/TCF7細胞を有することが観察された。このような集団が、定義された腫瘍特異性を有する幹様T細胞前駆細胞として報告されているため48、CD39med集団は、幹様T細胞前駆細胞集団を大部分含有する異なる集団であると結論付けられた。
【0104】
次に、機能レベルでの細胞毒性の直接測定として、インビトロ共培養死滅アッセイを実施した(図46)。CD39high集団が播種後24時間で最も高い腫瘍死滅活性を示したことが認められた。CD39med集団は最初の24時間でわずかに低い有効性を有したが、48時間でその死滅活性をCD39high集団と同じレベルまで上昇させることができた。したがって、PD-l/TCF7/CD39med集団は、有効な腫瘍死滅のための高度に細胞毒性の集団を迅速に生成することができた。しかし、CD39low集団は、24時間および48時間で有意に低い死滅活性を保持し、これは、CD39low細胞が腫瘍反応性を欠くか、または細胞傷害性集団を生成する能力が限られている可能性があることを意味する。この知見は、このような集団がPD-1発現を欠き46、非特異的バイスタンダー細胞を含むことが報告された以前の研究とよく一致している43
【0105】
インビボでの異なるCD39集団の抗腫瘍効力を、MC-38を抱えるマウスに選別したTILを再導入することによって調べた(図46および図47)。CD39med TILは、全てのCD39集団の中で最良の長期抗腫瘍活性を示し、未処置群と比較して生存期間中央値を60%延長した(図48)。興味深いことに、CD39high TILは、初めに非常に有効であったが、注射の1週間後に腫瘍増殖を制御できなかったことが見出された。これはおそらくその再生不可能な終結表現型によるものである。CD39med TILの並列比較を、最小限のインビトロ培養を受けたバルクCD8 TIL(「若いTIL」)、およびより長いインビトロ培養を受けたバルクCD8 TIL(「老いたTIL」)、ならびにセグメント化された腫瘍画分から浸潤した選別されていないTILを含む、他のTILタイプの間で行った。腫瘍体積および生存中央値から判断すると、CD39med TILは、すべてのTILタイプの中で最良の治療有効性を提供した(図49)。
【0106】
循環TILの選別
【0107】
開示されるシステムおよび方法は、末梢血中の稀な腫瘍反応性T細胞など、異なる体液中の他の細胞型に適用可能である。加えて、開示されるシステムおよび方法はまた、特定のタンパク質の発現レベルだけでなく、T細胞受容体(TCR)の反応性に基づいて、細胞を選別することもできる。
【0108】
開示されるシステムおよび方法はまた、陽性、陰性、または定量的選別等の種々の種類の選別用途にも適用可能である。以下に記載する実施例では、2工程の手順によって末梢血から循環腫瘍反応性T細胞を選別するためのプロトコルを開発した。第1に、RBC溶解血液からのCD8細胞のネガティブ選択を行い、続いて多量体ベースのポジティブを用いて、末梢血から特異的抗原(腫瘍/抗原特異的T細胞とも呼ばれる)に対する反応性を有する高純度T細胞を単離した。
【0109】
動物モデルを、2つの定義された高度に免疫原性のエピトープ、C57BL6モデルにおけるニワトリオボアルブミン(OVA257-264、SIINFEKL)およびBalb/cモデルにおけるインフルエンザA型血球凝集素(HA533-541、IYSTVASSL)を用いて最初に確立した。エピトープの発現を有する腫瘍細胞を皮下注射した。これらのエピトープの免疫原性は、血液中のOVA/HA-反応性T細胞の生成をもたらした。これらの稀な反応性T細胞は、MHC(主要組織適合複合体)またはHLA(ヒト白血球抗原)-特異的多量体を介して認識することができる。多量体をMNPでさらに磁気的に標識して、腫瘍/エピトープ-反応性T細胞の捕捉を可能にすることができる。
【0110】
単離前に、HA反応性T細胞の存在量は、単核細胞集団の0.063%にすぎないことは注目に値する(図66、選別前パネルを参照)。単離中、マウス全血を腫瘍発達の中間期に採取した。赤血球(RBC)をRBC溶解緩衝液によって溶解した。B細胞にはCD19、単球にはCD11bなどを含め、血液細胞の他の部分を標的とするカクテルによって、溶解した細胞を標識した。このようなカクテルは、インハウスで調製することができ、または市販のリソース(例えば、untouched mouse CD8細胞キット、カタログ番号11417D、Thermo Fisher)から直接購入することができる。続いてカクテル標識細胞をMNPで標識し、提案されたシステムにより8~32mL/時間の流量で(特に、上記のuntouched mouse CD8細胞キットについて、16mL/時間を使用)選別した。CD8の陰性選択後、CD8+細胞の純度は3.7%から90.8%に改善され(図66、CD8後パネル)、HA反応性T細胞の希少性は0.063%から0.44%に促進された(図66、CD8後パネル)。
【0111】
次に、多量体に基づいて陽性選択を実施して、バルクCD8+集団からHA反応性T細胞を精製した。バルクCD8T細胞を、対応するPEコンジュゲート多量体(この特定の場合ではペンタマー)およびそれに応じた抗PE MNPによって標識した。多量体上のフルオロフォアのコンジュゲーションは柔軟であり、FITC (フルオレセインイソチオシアネート)、PE(フィコエリトリン)、APC(アロフィコシアニン)、シアニンファミリー、およびビオチンはすべて、標識化のために対応するMNP(例えば、抗ビオチンMNP)を使用して、機能することになる。多量体標識細胞を、提案されたシステムを用いて、2~8mL/時間(この特定の場合では4mL/時間)の流量で選別した。陽性選択後、HA反応性T細胞の純度は0.44%から83.6%に改善された(図66、多量体後パネル)。
【0112】
本開示は、TIL選別および回収のための開示された方法および装置を説明するが、開示された方法および装置は、他の細胞治療目的のために、他の細胞を含む他の粒子の磁気プロファイリングのために使用され得る。例えば、開示される装置、システム、および方法はまた、末梢血、血管新生腫瘍、悪性胸水、リンパ液、骨髄の流体部分、および他の細胞運搬流体等の他の流体供給源から標的細胞を回収するために使用されてもよい。
【0113】
上述した本開示の実施形態は、単なる例であることを意図している。本開示は、他の特定の形態で具現化され得る。本開示に対する変更、修正、および変形は、本開示の意図される範囲から逸脱することなく行われ得る。本明細書に開示および図示されるシステム、装置、およびプロセスは、特定の数の要素/構成要素を備えてもよいが、システム、装置、およびアセンブリは、付加的またはより少ないそのような要素/構成要素を含むように修正されることができる。例えば、開示される要素/構成要素のいずれも単数として参照され得るが、本明細書に開示される実施形態は、複数のそのような要素/構成要素を含むように修正され得る。上記の実施形態のうちの1つ以上から選択された特徴は、明示的に説明されていない代替実施形態を作成するように組み合わせられてもよい。開示された範囲内の全ての値および部分範囲も開示される。本明細書で説明される主題は、技術における全ての好適な変更を包含および包含することを意図する。言及される全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0114】
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【国際調査報告】