(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】バッテリーシステムを監視するための方法
(51)【国際特許分類】
G06F 1/3212 20190101AFI20240214BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240214BHJP
G06F 1/3287 20190101ALI20240214BHJP
【FI】
G06F1/3212
H02J7/00 302A
G06F1/3287
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552181
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-08-28
(86)【国際出願番号】 EP2022055220
(87)【国際公開番号】W WO2022189221
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】102021001217.8
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】ヤン フィリップ・シュミット
【テーマコード(参考)】
5B011
5G503
【Fターム(参考)】
5B011DC07
5B011GG03
5B011KK01
5B011LL11
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503GD03
(57)【要約】
本発明は、複数のバッテリーセルを有する少なくとも1つのバッテリーモジュールを備えるバッテリーシステムを監視するための方法に関するものであり、バッテリー管理システム(BMS)と、少なくとも1つのセンサー装置(ASIC)とを備え、バッテリーシステムのスリープモードにおいてバッテリー管理システム(BMS)は非作動であり、スリープモードにおいてはセンサー装置(ASIC)が少なくとも1つの測定値を監視し、規定値と比較し、測定値が規定値から逸脱すると、スリープモードが終了して、バッテリー管理システム(BMS)がウェイクアップ信号によって作動する。本発明に基づく方法は、ウェイクアップ信号が、規定されているウェイクアップ時間(ΔtwakeUp)の経過によって発生し、規定されているウェイクアップ時間(ΔtwakeUp)の経過によってウェイクアップ信号が発生した場合は、新しいウェイクアップ時間(ΔtwakeUp)と新しい規定値(Ulim、Tlim)が決定および規定された後で、バッテリー管理システム(BMS)が再びスリープモードに切り替わり、そして少なくとも1つの測定値が少なくとも1つの規定値(Ulim、Tlim)から逸脱してウェイクアップ信号が発生した場合は、非常モードが開始されることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリーセルを有する少なくとも1つのバッテリーモジュールを備えるバッテリーシステムを監視するための方法であって、バッテリー管理システム(BMS)と、少なくとも1つのセンサー装置(ASIC)とを備え、前記バッテリーシステムのスリープモードにおいて前記バッテリー管理システム(BMS)は非作動であり、前記スリープモードにおいては前記センサー装置(ASIC)が少なくとも1つの測定値を監視し、規定値と比較し、前記測定値が前記規定値から逸脱すると、前記スリープモードが終了して、前記バッテリー管理システム(BMS)がウェイクアップ信号によって作動する、前記方法において、
前記ウェイクアップ信号はさらに、規定されているウェイクアップ時間(Δt
wakeUp)の経過によって代替的に発生し、前記規定されているウェイクアップ時間(Δt
wakeUp)の経過によって前記ウェイクアップ信号が発生した場合は、新しいウェイクアップ時間(Δt
wakeUp)と新しい規定値(U
lim、T
lim)が決定および規定された後で、前記バッテリー管理システム(BMS)が再びスリープモードに切り替わり、そして前記少なくとも1つの測定値が少なくとも1つの前記規定値(U
lim、T
lim)から逸脱して前記ウェイクアップ信号が発生した場合は、非常モードが開始されることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記新しいウェイクアップ時間(Δt
wakeUp)および/または前記新しい規定値(U
lim、T
lim)の決定には、前記少なくとも1つの測定値の経時変化の勾配および/または前記少なくとも1つの測定値の特定変化量(ΔT
th、ΔU
th)が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
新しいウェイクアップ時間(Δt
wakeUp)および新しい規定値(U
lim、T
lim)は、それぞれのセンサー装置(ASIC)に対して個別に決定および規定されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記新しいウェイクアップ時間(Δt
wakeUp)および前記新しい規定値(U
lim、T
lim)を決定するため、前記測定値の許容変化量(ΔU
th、ΔT
th)が現在の値に基づいて規定され、バッテリーセルのいずれかについて前記センサー装置(ASIC)によって検知された最大値および/または最小値が検出され、そこから、次回のウェイクアップのための測定値限界(U
lim、T
lim)が計算され、そのために、現時点での前記測定値の勾配が計算され、そこから新しいウェイクアップ時間(ΔT
wakeUp)が計算されることを特徴とする、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記新しいウェイクアップ時間(Δt
wakeUp)および/または前記新しい測定値(U
lim、T
lim)のための前記検出された値の保証および/または妥当性検証のために、さらなる診断および/または計算が実行されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記監視されている測定値は、前記バッテリーシステムまたは前記バッテリーセルの少なくとも温度(T)および/または電圧(U)を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記測定値限界(U
lim、T
lim)は、前記現在の測定値に対して特定変化量(ΔU
th、ΔT
th)を加算または減算して計算されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
合計または差異は、オフセット値(ΔT
th,
tmax)によって補正されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記非常モードは、前記バッテリー管理システム(BMS)によるさらなる測定および/または診断を含み、非常事態が確定された場合、対抗措置が開始され、警告が出力され、非常事態が確定されない場合、前記バッテリー管理システム(BMS)はウェイクアップを維持し、前記少なくとも1つの測定値が厳密に規定された閾値によって監視されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
規定された時間インターバルが前記閾値の違反なしに経過すると、前記非常モードが終了することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に詳しく定義されている種類のバッテリーシステムを監視するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数のバッテリーセルをベースにした少なくとも1つのバッテリーモジュールを備えるバッテリーシステムが先行技術から周知である。この種のバッテリーシステムは、定置で使用することができる。これらのシステムは、少なくとも部分的に電気駆動される車両を駆動するためのトラクションバッテリーとして、使用頻度がますます増えている。高い出力密度を達成するため、バッテリーシステムにおけるバッテリーセルの構造はリチウムイオン技術で実現されることが多い。
【0003】
この技術は、一方で、バッテリーセルの高いエネルギー含有量を可能にするが、他方では、高いエネルギー含有量によって、故障時の危険性が比較的高くなる要因になっている。最悪の事態ではバッテリー火災を引き起こすおそれのある危険の1つが、いわゆるバッテリーの熱暴走(Thermal Runaway)である。従って、バッテリー作動中は、通常、バッテリー管理システムによって、特にバッテリーの温度、電圧、その他の数値の監視が行われる。これによって、熱暴走を早期に検知し、適切な対応を開始することが可能になり、バッテリーによる深刻な損傷や危険に対し、積極的に対抗することができる。
【0004】
しかし、実際には、バッテリー内におけるこのような熱事象は、かなりの割合で、バッテリーの充電後および非作動段階中に発生している。そのような場合、通常、バッテリー管理システムはオフになっているか、またはスリープモードになっているので、熱暴走が検知されず、従って対抗措置も開始することができない。
【0005】
例えば特許文献1から知られているように、新しく開発された手法では、バッテリー管理システムに追加して、1つまたは複数のセンサー装置を使用することでこの問題に対応している。そのようなセンサー装置は、バッテリー管理システムのエネルギー必要量よりもはるかに少ないエネルギー必要量で、バッテリーの測定値を検知し、少なくとも規定値と比較することができる。ここで危険な値が発生し、そのことが適宜検知されると、ウェイクアップ信号によってバッテリー管理システムがウェイクアップされ、それによって、さらなる監視および必要に応じて対抗措置を開始することができる。このとき、前述の特許文献では、さらに、センサー装置が専用メモリーを有しており、できるだけ素早く状況を判断できるように、バッテリー管理システムには、ウェイクアップ後に該当するデータベースが提供されることが説明されている。
【特許文献1】DE102019215812A1
【0006】
実際には、この種のセンサー装置は、それらに割り当てられた、通常は特定用途向け集積回路(ASIC)として形成されているエレクトロニクスによって、ウェイクアップ信号を生成するための該当する閾値を規定できるようになっている。これらの閾値が、例えば1個の電池につき2ボルトおよび/または80℃など、一般的な限界値に設定されると、実際に熱暴走が存在している場合、バッテリー管理システムのウェイクアップは極めて遅くなる。バッテリー管理システムが完全に「起動」するためにはさらに一定の時間が必要になることから、貴重な時間が失われ、熱暴走のケースでは、しばしばバッテリー管理システムによって開始される対抗措置の実行が遅れ、熱暴走を実際に遮断できなくなるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、許容可能なエネルギー効率において非常に高い安全性を可能にするバッテリー管理システムのウェイクアップにより、改善されたバッテリーシステムを監視するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に基づき、この課題は、請求項1の特徴、およびここでは特に請求項1の特徴部に記載の特徴を持つ方法によって解決される。これに依拠している従属請求項から、有利な実施形態及び発展形態が明らかになる。
【0009】
複数のバッテリーセルを有する少なくとも1つのバッテリーモジュールを備えるバッテリーシステムを監視するための本発明に基づく方法は、バッテリー管理システムとセンサー装置とを含み、センサー装置は、通常、センサーおよび特定用途向け集積回路の形で形成されている。このとき、実際の構造では、センサー装置は複数設けられており、それぞれ1つまたは複数のバッテリーセルを適宜監視する。例えば、好ましい用途に従ってバッテリーシステムがトラクションバッテリーとして使用される車両では、車両が動いていないために、バッテリーシステムが使用されなくなると、バッテリー管理システムは、通常、専用の電気エネルギーが不要なスリープモードに移行して、エネルギーを節約する。その間、少なくとも1つのセンサー装置は、バッテリーシステムを監視するため、引き続き少なくとも1つの測定値を検知している。これらの測定値には、特に電圧および温度が含まれていてよい。検知された測定値は規定値と比較され、逸脱が見つかった場合は、バッテリー管理システムのためのウェイクアップ信号が生成され、システムは再びウェイクアップするか、または作動する。このことはすべて、基本的に先行技術から知られている。
【0010】
ウェイクアップをできる限り早期に行うために、必要に応じてまだ介入が行えるようにし、それによりバッテリーシステムの熱暴走を回避できるようにするため、本発明に基づき、少なくとも1つの測定値による規定値違反に基づいて発生するウェイクアップ信号に加え、規定されているウェイクアップ時間の経過によってもウェイクアップ信号が発生するように設けられており、規定されているウェイクアップ時間の経過によってウェイクアップ信号が発生した場合は、新しいウェイクアップ時間および新しい規定値がバッテリー管理システムによって決定および規定された後で、バッテリー管理システムが再びスリープモードに切り替わる。これに対して、検知された測定値による規定値違反によってウェイクアップ信号が発生した場合は、バッテリー管理システムがウェイクアップし、非常モードが開始される。
【0011】
すなわち、本発明に基づく方法は、非常事態においてだけではなく、決定されるウェイクアップ時間に応じても、バッテリー管理システムをウェイクアップさせることが可能である。これにより、バッテリーシステム監視の閾値としての規定値をできる限り厳密に更新することが可能になり、非常事態が発生した場合に、できるだけ早期にバッテリー管理システムをウェイクアップすることが保証される。これにより、非常モードにおいて、非常事態を確認し、適切な措置を開始することで、潜在的な非常事態に対して極めて迅速かつ効率的に反応できることから、ほとんどすべてのケースにおいて、バッテリーシステムの熱暴走を早期に阻止することができる。
【0012】
本発明の非常に好適な発展形態によれば、新しいウェイクアップ時間および/または新しい規定値の決定には、少なくとも1つの測定値の経時変化の勾配および/または少なくとも1つの測定値の特定変化量が含まれている。従って、勾配に基づいて予想される測定値の経時変化の予測を利用できることで、非常事態においてバッテリー管理システムをウェイクアップするための限界値を更新することが可能である。特定の変化値と共に、勾配がいつこの変化値に到達するかを検出することができる。予想される実際の曲線は、測定値に応じてこの勾配を下回ったり上回ったりしているので、平常時においては、新しいウェイクアップ時間に達するまで、新しい規定値の超過は予想されない。それでも、この超過が発生した場合は、非常事態を考えなければならない。
【0013】
すなわち、このバリエーションは、限界値を非常に厳密に更新する可能性を提供するものである。従って、一方では望ましくない故障アラームの発生を抑制することができ、他方では限界値違反の際にバッテリー管理システムをウェイクアップし、潜在的な非常事態を確認することにより、比較的迅速に非常事態を検知することができる。このことは、例えば電池モジュールのオフ、冷却装置の起動または同様の措置による非常に迅速な対応を可能にするための時間を作り出す。従って、ほとんどのケースで、バッテリーシステム全体に熱暴走が拡大することを確実に防ぐことができる。
【0014】
本発明に基づく方法のさらなる非常に好適な実施形態によれば、このとき、新しいウェイクアップ時間および新しい規定値は、各センサー装置について個別に決定および規定される。それぞれのセンサー装置は、通常、1つまたは幾つかのバッテリーセルを監視している。これらのバッテリーセルは、好ましい用途に基づいてバッテリーシステムをトラクションバッテリーとして用いる車両の走行など、以前に発生した事象に対してそれぞれ異なる反応を示す可能性がある。このことは、通常、バッテリーセルの製造公差と関係している。従って、バッテリー内のそのような不規則性に対しては、本発明に基づく方法の特に有利な実施形態と、ウェイクアップ時間および規定値を個別に適合させることによって対応することができる。従って、これらの特殊なセルに関する値がまったく危機的ではないと見なされていても、製造公差の理由から、場合によっては幾つかの異なったバッテリーセルが、いわば「誤って」非常アラームを発生させ、バッテリー管理システムをウェイクアップしてしまわないようにすることが保証される。
【0015】
本発明に基づく方法の非常に好適な発展形態によれば、新しいウェイクアップ時間と新しい規定値を決定するため、測定値の許容変化量が現在の値に基づいて規定される。さらに、バッテリーセルについてセンサー装置によって検知された最大値および/または最小値が検出される。これに基づいて、次回のウェイクアップのための測定値限界が計算され、現時点における測定値の勾配が計算される。これらの限界値と勾配の組み合わせから、新しいウェイクアップ時間としてのウェイクアップ時間を計算することができ、この新しいウェイクアップ時間に、勾配は計算された測定値限界に達する。規定値としての限界値および新しいウェイクアップ時間としてのウェイクアップ時間は、上述の実施形態に基づき、それぞれのセンサー装置にそれぞれ個別に新しく「指示」を与え、その後で、これらの計算を実行したバッテリー管理システムを再びスリープモードにするために使用される。
【0016】
この考え方の非常に好適なさらなる実施形態によれば、このとき、潜在的な計算間違いを検知し、阻止するため、検出された値、すなわち新しいウェイクアップ時間および新しい規定値の保証および/または妥当性検証のために、さらなる診断および計算がバッテリー管理システムによって行われてよい。
【0017】
本発明に基づく方法の非常に好適な発展形態によれば、監視する測定値として、ここでは、少なくとも温度および/またはセル電圧が監視される。これらの数値から、今日すでに、熱暴走も検出することができる。しかし、そのような熱暴走を検知するための本発明に基づく限界値の厳密な更新により、上述の意味におけるプロセスを改善することができる。温度およびセル電圧の特に重要な値以外に、基本的に、例えば冒頭で述べた先行技術で説明されている圧力値など、その他の値も考えられる。
【0018】
このとき、測定値限界の計算は、測定値に応じて、現在の測定値に対して特定変化量を加算または減算して行うことができる。この考え方の非常に好適な発展形態によれば、合計または差異は、さらに、オフセット値によって補正することができ、このオフセット値は、現在の充電状態などのように、例えばバッテリーシステム内部の測定に基づくものであるか、またはバッテリーシステムの特徴に応じて規定される。このオフセット値は、バッテリー管理システムが作動している場合は、このバッテリー管理システムがバッテリーシステム用に計算することもでき、時間の経過に応じて、または例えば充電状態など、さまざまな状況に適合させることができる。従って、バッテリーシステム内部の経年劣化などを反映および考慮することのできる、いわゆる自己学習型オフセット値が生まれる。ここで、この値は、各センサー装置について、好ましくは個別に生成することができ、従って、バッテリーシステムまたはそのバッテリーモジュールのセルにおけるさまざまな経年劣化も考慮することが可能である。
【0019】
本発明に基づく方法の非常に有利な発展形態によれば、非常モードが、バッテリー管理システムによるさらなる測定および/または診断を含み、非常事態が確定された場合、対抗措置が開始され、警告メッセージが生成され、非常事態が確定されない場合、バッテリー管理システムはウェイクアップを維持し、少なくとも1つの測定値が厳密に規定された規定値によって監視される。潜在的な非常事態であるが、確定されていない事態が生じた後も、バッテリー管理システムのウェイクアップを維持することにより、バッテリー管理システム内にある測定方式、例えばインピーダンス測定法などによって能動的にバッテリーシステムを厳密に監視し続けることができるため、安全性が向上する。これにより、確定されていない非常事態が、バッテリー管理システムでも確認できなかったような、まだ早期の状態にある非常事態の兆候であったことを排除できる。そのような場合に、バッテリー管理システムのウェイクアップを維持し、バッテリーシステムを厳密に監視することで、一見すると非常事態のように見えるが、確定されていない非常事態が、さらに実際の非常事態に発展したときに素早く反応することができる。
【0020】
この考え方の非常に有利な発展形態によれば、非常モードは、厳密に規定されている閾値に違反していない特定の時間インターバルの経過後に終了させることができるので、監視の十分な時間インターバル後に、バッテリー管理システムは、センサー装置のみによる監視を続行しながら、従って極めてエネルギー効率に優れた形で、再びバッテリーシステムのスリープモードに戻る。
【0021】
本発明に基づく方法のさらなる有利な実施形態は、以下に図を用いて詳しく説明されている実施例からも明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に基づく方法の経過を示すためのブロック図である。
【
図2】センサー装置ごとの限界値更新の経過を説明するためのブロック図である。
【
図3】セル電圧の監視を例にして、本方法を示すための時間経過によるセル電圧のグラフである。
【
図4】バッテリーシステムの冷却時の温度を例にして、本発明に基づく方法を示すための時間経過によるセル温度のグラフである。
【
図5】バッテリーシステムの加熱時における、
図4と同様のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明に基づく方法の基本的な手順をブロック図に示したものである。ここでは、特別用途向け集積回路(ASIC)と呼ばれるセンサー装置によって、実際の限界値監視、すなわちバッテリーシステムからの測定値の検知と、これらの測定値が、以下に限界値とも呼ばれる特定の規定値に違反していないかどうかの監視が行われる。違反している場合、ASICは、「ウェイクアップ」と記されているボックスが制御されることにより、ウェイクアップ信号を生成する。次に、バッテリー管理システム(BMS)が適宜作動し、バッテリー管理システム(BMS)によって非常事態が検出および確認されなければ、限界値の更新が行われる。このことにより、一方では、新しい限界値または規定値が生じ、他方では、この規定値に基づく新しいウェイクアップ時間が生じることになる。新しい規定値は、それぞれのASICの限界値監視に送信され、限界値の更新は、バッテリーシステムに取り付けられているセンサー装置(ASIC)ごとに個別に実行される。これと同時に、ウェイクアップ時間が対応して設定されるため、限界値監視から発生するウェイクアップ信号に加えて、代替として時間制御されたウェイクアップ信号をバッテリー管理システム(BMS)に時間制御式で送信することができる。その後、バッテリー管理システム(BMS)は、再びスリープモードに戻り、そこで限界値監視によって、厳密に更新された限界値に対する違反が検知されるか、または次のウェイクアップ時間が達成されるまでスリープモードに留まる。このことにより、再度のウェイクアップが行われ、バッテリー管理システム(BMS)において限界値の通常の更新が行われることになる。
【0024】
図2には、別のブロック図において、考えられる実施例での限界値の更新がより詳細に示されている。ここでは、熱的特性、すなわち例えば冷却、周囲温度などの境界条件が考慮され、個々のセンサー装置またはASICに対して最大セル温度が適宜決定される。この温度監視により、次に、予想される温度変化の決定および予測が勾配に基づいて行われる。そのために、値変化量ΔT
thおよびΔT
th,maxが適宜規定される。これらのデータおよび勾配に基づいて、スリープ時間が計算され、新しいウェイクアップ時間が設定され、新しい温度限界値が計算される。これらは、上述のブロック図ですでに実施されたように、次にASICへ送信され、そこで適宜設定される。このとき、この全プロセスは、好ましくは、それぞれのASICに対して個別に行われる。
【0025】
図2のブロック図の下半分には、セル電圧についての同等のプロセスが説明されている。このとき、最小セル電圧の決定は、各センサー装置またはそれに割り当てられているASICに基づいていている。ここでも、測定値に基づいて勾配が決定され、最大電圧変化量ΔU
thのパラメータが適宜規定される。この勾配および規定値に基づいて、次に、スリープ時間が計算され、ウェイクアップ時間が設定され、新しい電圧限界値が規定値として計算され、それぞれのASICに送信され、そこで将来の限界値監視のために適宜使用される。
【0026】
図3~5のグラフは、基本的なプロセスの手順を説明するために、さまざまな例示的ケースで電圧の経時変化と温度の経時変化を示したものである。このとき、一点鎖線は適宜それぞれの測定値を示しており、細い実線はそれぞれのポイントにおける勾配を示しており、太い実線はそれぞれ、プロセスの最後の3分の1の時間における、それぞれの測定値の潜在的な偏差を示しており、この偏差は、限界値超過によるバッテリー管理システムのウェイクアップにつながり、これにより、特にバッテリーシステムの熱暴走を防止するため、バッテリー管理システム(BMS)の非常モードが作動する。
【0027】
図3のグラフには、測定値として、電圧Uが示されている。以下に、状況を説明する。
【0028】
バッテリーシステムの初期状態は、負荷後にセル電圧Uが緩和している状態である。この経過は、原則的に、e機能の合計として説明することができ、その他の非常に僅かな変化量が自己放電によって生じる。バッテリーセルのいずれかが残りのバッテリーセルよりも急激に低下していると、危険な状態が存在している可能性がある。しかし、すべてのバッテリーセルについて、常時監視および比較を行うことは不可能である。というのも、もしそのようにした場合、バッテリー管理システム(BMS)が一貫してウェイクアップを維持しなければならず、このことは、上述したエネルギー効率の理由から好ましくないからである。従って、センサー装置を備えるウェイクアップ可能なフロントエンドASICが適宜使用される。バッテリーシステム監視のためのアプローチでは、電圧Uの変化量の値が定義される。これは、ΔUthによって図の中に示されている。次に、以下の工程が実施される。
1.取り付けられているセンサー装置(ASIC)ごとに、もっとも低いセル電圧を決定する。
2.バッテリー管理システム(BMS)の次回のウェイクアップ(wakeUp)のために電圧限界値Ulim,x=U-ΔUthを設定する。
3.時点txにおける電圧勾配を調べる。
4.勾配および変化値ΔUthからバッテリー管理システム(BMS)の次回のウェイクアップまでの時間インターバルΔtwakeUp,xを計算する。従って、バッテリー管理システム(BMS)の次回の定期的なウェイクアップは、電圧限界値Ulim,xを更新するために用いられる。
5.次に、バッテリー管理システム(BMS)が、再びスリープモードになる。
【0029】
規定されたウェイクアップ時間ΔtwakeUpの経過後にバッテリー管理システム(BMS)がウェイクアップすると、次に、説明した工程1~5が適宜繰り返される。必要に応じて、さらなる診断および計算が補足的に可能である。
【0030】
このとき、電圧閾値ΔUthは、規定する設計パラメータであり、このパラメータは例えばすべての領域について一定のものを選択してよい。しかし、有利には、このパラメータは、アイドリング特性曲線に応じて、個々の領域について異なったものが選択される。従って、平坦な特性曲線領域、例えば約50%の充電状態の領域では、より高い充電状態またはより低い充電状態(例えば20%より低い、または90%より高い)と比較して、例えば5mVといったより小さな値が選択されるであろう。すでに上述したように、この値は、検出された電圧勾配によって該当するウェイクアップ時間ΔttwakeUpを計算するために使用される。
【0031】
このとき、
図3のグラフに示されているように、ウェイクアップ時間Δ
twakeUp1の経過時に、実際の電圧と設定された電圧閾値ΔU
thとの間隔U
remは十分に小さいため、電圧に偏差が生じた場合、ウェイクアップが比較的迅速に行われると考えられる。ここでは点t
1、t
2、t
3において当てはまるように、予想に反する電圧の逸脱がない場合、ウェイクアップは、上述のように、点t
1、t
2での勾配が該当する電圧限界値U
lim,1、U
lim,2に達するそれぞれの時点で行われる。
【0032】
実線で示されているように、第3のウェイクアップ時間インターバルΔt
wakeUp3の経過中、予想よりも急激な電圧降下が生じている。従って、このケースでは、実際値が3.6Vの電圧限界値U
lim,3に到達したときに、時点t
Nでの限界値違反によってバッテリー管理システム(BMS)のウェイクアップが行われる。通常の2Vの標準的な電圧限界値の入力と比較すると、このバッテリー管理システム(BMS)のウェイクアップは極めて早期に行われる。このことにより、非常モードで反応できるようにするための必要な時間が提供される。そのような非常モードについては、
図3~5に続いて、その可能性をさらに詳しく説明する。
【0033】
図4には、セル温度Tを考慮した比較可能な状況が示されており、バッテリーシステムの冷却時がこのケースに当てはまる。初期状態は、例えば周囲温度の変化によって温度変化が生じている状態である。すなわち、バッテリーシステムのセルは冷却している。原理的には、バッテリーシステムの加熱または冷却もまた原因として考えられるであろう。このとき、バッテリーシステムの熱質量は比較的大きいことから、温度の変化率が大きく制限されていることに注意しなければならない。
【0034】
バッテリーシステム冷却時の温度Tに基づくバッテリーシステム監視のアプローチは、定期的なウェイクアップが行われる温度変化値ΔTthの定義に基づいている。このプロセスには、以下の工程が含まれている。
1.センサー装置またはASICごとに、最高セル温度を決定する。
2.限界値違反の場合にウェイクアップするため、温度限界値Tlim,x=T+ΔTth,maxを温度限界値として設定する。熱暴走の場合には、個々のセルの温度Tが相応に上昇しているので、冷却しても、温度限界値Tlim,xは現在の値よりも高くなっている。
3.時点txにおける温度勾配を調べる。
4.次回のウェイクアップまでの時間インターバルΔtwakeUpxを、温度勾配および定義された変化値ΔTthに基づいて計算する。バッテリー管理システム(BMS)のこの定期的なウェイクアップは、電圧限界値Tlim,xを適宜更新するために用いられる。
5.バッテリー管理システム(BMS)が、再びスリープモードになる。
【0035】
このとき、
図4のグラフ中の温度値T
ambは、周囲温度を示している。
【0036】
このとき、値ΔTth,maxは、温度信号内の特定のノイズを遮断するために用いられる。温度Tは、冷却時に時間tの進行と共に低下するので、原理的および理論的には、限界値を現在の温度Tに設定することもできるであろう。しかし、温度Tの測定値にノイズが生じると、好ましくない非常アラームが非常に早く作動するため、ここでは、このオフセット値ΔTth,maxのほうがより良い結果をもたらす。(追加的に)定義された変化値ΔTthを使って値を計算することも同様に考えられるが、そうなると、相応に小さな温度変化量で冷却が行われる場合に、極めて長いスリープ時間が生じ、それによって、非常に大きな温度差になってようやく限界値違反によるウェイクアップが行われることになる。このことは、温度の変化率が小さいことから、すでに危険であることが懸念される。
【0037】
ウェイクアップ時間インターバルΔtwakeUpxの経過後にウェイアップすると、前述の工程1~5が適宜繰り返され、ここにおいても、さらなる診断および計算が可能である。
【0038】
第3のウェイクアップ時間Δt
wakeUp3の領域では、
図3の説明と同様に、時点t
Nで再び温度Tの逸脱が生じ、この温度Tは、太い実線で記されている温度上昇によって示されている。この温度Tが該当する温度限界値T
lim,3、すなわち時点t
Nに達すると、限界値違反によるウェイクアップが始まり、それによりバッテリー管理システム(BMS)の非常モードが開始される。
【0039】
図5には、監視する数値として温度Tを用いたもう1つの例が示されている。ここでの前提条件は、
図4の場合とほぼ同様であるが、ここでは、バッテリーシステムの加熱が、例えば周囲温度の変化または非常に冷たいバッテリーシステムの予熱によるものであり、そのため、バッテリーシステムの出力は、最初からフルになっているか、または少なくともそれぞれ計画された区間に十分な量の出力が提供される。
【0040】
ここでのアプローチは、以下の通りである。最初に、定期的なウェイクアップを行いたい変化値が定義される。この変化値はΔTthで示されている。このプロセスは、上述のプロセスとほぼ同様に進行するため、以下の工程が実行される。
【0041】
1.センサー装置またはASICごとに、最高セル温度を決定する。
2.限界値違反の場合にウェイクアップするため、温度限界値Tlim,x=T+ΔTth+ΔTth,maxを温度限界値として設定する。熱暴走の場合には、個々のセルの温度Tが相応に上昇しているので、冷却しても、温度限界値Tlim,xは現在の値よりも高くなっている。
3.時点txにおける温度勾配を調べる。
4.次回のウェイクアップまでの時間インターバルΔtwakeUpxを、温度勾配および定義された変化値ΔTthに基づいて計算する。バッテリー管理システム(BMS)のこの定期的なウェイクアップは、電圧限界値Tlim,xを適宜更新するために用いられる。
5.バッテリー管理システム(BMS)が、再びスリープモードになる。
【0042】
温度限界値Tlim,xを設定する場合、バッテリーシステムの加熱時における温度変化の方向は、原則的に、個々のセルのいずれかが過熱した場合と同一であり、規定された変化値ΔTthと、上述のようにオフセット値ΔTth,maxの両方が現在の温度Tに適宜加算されなければならない。
【0043】
残りも同じような状況である。ここでも、時点tNにおいて、バッテリー管理システム(BMS)をウェイクアップさせ、非常モードを開始する限界値違反が生じる。
【0044】
図3~5のグラフに示されているケースの場合、バッテリー管理システム(BMS)のウェイクアップは、センサー装置またはそのASICの測定値による限界値監視を介して行われており、基本的に、非常事態、すなわち例えばバッテリーシステムの切迫した熱暴走に基づくものでなければならない。すなわち、バッテリー管理システム(BMS)が、いずれかのセンサー装置またはそのASICにより、限界値超過によって発生したウェイクアップ信号でウェイクアップされると、バッテリー管理システム(BMS)はさらなる数値、例えばバッテリーシステムまたは個々のモジュールの絶縁抵抗、ならびにバッテリーシステムの個々のセルまたは個々のモジュールのインピーダンス測定を収集する。センサー装置およびASICによる純粋な監視とは反対に、これには能動的な測定装置が必要であり、これはバッテリー管理システム(BMS)がウェイクアップしている場合のみ使用可能である。しかし、バッテリー管理システム(BMS)には、検知された数値に基づいてバッテリーが危険な状態であることを確認し、危険な状態が存在する場合は警告を出力し、対抗措置を開始することが可能である。バッテリーの危険な状態がひとまず確認されない場合、次に、バッテリー管理システム(BMS)は非常モードにおいて、例えば規定された時間にわたりウェイクアップを維持することができ、この時間にさらなる能動的診断、例えば絶縁抵抗またはインピーダンスなどのすでに言及した測定を行うことができる。これにより、例えばバッテリーシステムの切迫した熱暴走などの非常事態を確実に見逃さないようにすることができる。
【0045】
この規定された時間が経過する間、すべてが正常な場合、すなわちバッテリーシステムの問題を示唆する測定がされない場合、この時間が経過すると、バッテリー管理システム(BMS)はスリープモードに戻ることができる。さらなる監視は、再び、センサー装置およびそれらのASICによって行われる。
【0046】
補足的に、センサー装置によって検知されたセル電圧および温度から相対値および導出値を計算することもでき、これらの値によって、同様に潜在的な危険状態の確認が可能である。このことは、例えばセル電圧と温度の分散、セル電圧と温度の勾配、ならびにセル電圧と温度の勾配および分散の比較であってよい。このことはすべて、全体として、厳密に更新された限界値により、切迫した非常事態が生じた場合にバッテリー管理システム(BMS)が極めて迅速にウェイクアップされるので、バッテリーシステムの部分領域の作動または作動解除、冷却開始、消費装置のオンまたはオフなどの対抗措置によってバッテリーの熱暴走に対抗するための十分な時間が残されることになる。
【国際調査報告】