IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ モルフォシス・アーゲーの特許一覧

特表2024-507986抗体関連型移植拒絶反応の治療に使用するための抗CD38抗体
<>
  • 特表-抗体関連型移植拒絶反応の治療に使用するための抗CD38抗体 図1
  • 特表-抗体関連型移植拒絶反応の治療に使用するための抗CD38抗体 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】抗体関連型移植拒絶反応の治療に使用するための抗CD38抗体
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240214BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240214BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D ZNA
A61P37/06
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552183
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(85)【翻訳文提出日】2023-08-28
(86)【国際出願番号】 EP2022055080
(87)【国際公開番号】W WO2022184676
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】21159860.2
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】316005432
【氏名又は名称】モルフォシス・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】シュタイドル,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルトレ,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ボックスハンマー,ライナー
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、移植の抗体関連型拒絶反応(ABMR)の予防及び/又は治療における抗CD38抗体felzartamabの使用に関する。本発明に従うと、felzartamabは、抗体関連型移植腎拒絶反応に有効である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象における移植臓器の抗体関連型拒絶反応の治療及び/又は予防に使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項2】
前記移植臓器は、腎臓、心臓、肝臓、肺、膵臓、胃、皮膚又は腸の移植である、請求項1に記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項3】
前記抗体は、アミノ酸配列配列番号1のHCDR1領域、アミノ酸配列配列番号2のHCDR2領域、アミノ酸配列配列番号3のHCDR3領域、及びアミノ酸配列配列番号4のLCDR1領域、アミノ酸配列配列番号5のLCDR2領域、及びアミノ酸配列配列番号6のLCDR3領域を含む、請求項1又は請求項2に記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項4】
前記抗CD38抗体又は抗体断片は、配列番号7の重鎖可変(VH)領域及び配列番号8の軽鎖可変(VL)領域を含む、請求項3に記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項5】
CD38に特異的な前記抗体又は抗体断片は、IgG1である、請求項1~4のいずれかに記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項6】
CD38に特異的な前記抗体又は抗体断片は、ヒト抗体である、請求項1~5のいずれかに記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項7】
CD38に特異的な前記抗体又は抗体断片は、felzartamabである、請求項1~6のいずれかに記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項8】
前記抗体は、ADCC及び/又はADCPにより形質細胞を枯渇させる、請求項1~7のいずれかに記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項9】
前記抗CD38抗体又は抗体断片を投与すると、CD38+抗体分泌細胞が減少する、請求項1~8のいずれかに記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項10】
前記抗CD38抗体又は抗体断片を投与すると、抗HLA抗体レベルが減少する、請求項1~9のいずれかに記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項11】
前記抗CD38抗体又は抗体断片を投与すると、クラスI及び/又はクラスII抗HLA抗体レベルが減少する、請求項10に記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項12】
前記抗CD38抗体又は抗体断片を投与すると、抗DQ5抗体レベルが減少する、請求項11に記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項13】
前記抗体又は抗体断片は、16mg/kgで静脈内に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項14】
前記抗体又は抗体断片は、少なくとも2回、少なくとも5回、少なくとも7回、又は少なくとも9回投与される、請求項13に記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。
【請求項15】
治療予定の前記対象は、CKD-EPI式にしたがってeGFR≧20ml/min/1.73mによって特徴づけられる、請求項1~14のいずれかに記載の使用するための抗CD38抗体又は抗体断片。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、臓器移植(例えば腎移植)の分野に関する。特に、本開示は、抗体関連型移植拒絶反応(ABMR)の患者の治療に使用するための抗CD38抗体に関する。本開示は、抗CD38抗体を用いる、抗体分泌細胞を低減させるための、及び移植臓器上に存在する1つ又は複数の抗原に対する特異性を有する抗体レベルを低減させるための方法を提供する。本発明に従って、抗CD38抗体は、単独で又は1つ又は複数の免疫抑制剤と併せて、ABMRの治療及び/又は予防に有効であることができる。本発明による使用するための抗CD38抗体は、felzartamab(MOR202)を含む。
【背景技術】
【0002】
臓器移植は、損傷された又は欠損した臓器を置き換えるために、臓器を対象(ドナー)の体から取り除き、レシピエント(ホスト)の体に配置する医療処置である。移植は、末期臓器不全にかかった患者が選択する治療である。同一の種の2個の対象間の移植は主に、ホストの免疫系による臓器拒絶反応を低減するために実行される(いわゆる同種移植)。しかしながら、ホスト免疫系は、よく適合した移植片でさえ認識し、最終的に移植片を破壊することができる。
【0003】
以前に、T細胞関連型拒絶(TCMR)による移植片損傷のみの原因となるアロ反応性T細胞が支持された。一方で、抗ドナー同種抗体が長期的移植生着の追加の重要な障害であると証明された。このいわゆる抗体関連型拒絶(ABMR)は、臓器移植後の移植片機能損失に寄与することが多い。抗ドナー特異的抗体(DSA)、例えば抗ヒト白血球抗原(HLA)抗体は、おそらく細胞性メカニズムの抗体介在性活性化(例えばナチュラルキラー細胞の活性化)と併せて、慢性移植片損傷の主要なトリガーである。腎移植においては、ABMRは、同種移植片機能不全及び慢性同種移植片損傷の主要な原因の1つである。移植腎の拒絶は、通常抗HLA DSAによって引き起こされ、糸球体濾過量(GFR)の漸進的減少、蛋白尿の上昇、及び腎不全と関連する。
【0004】
ABMRの様々な治療戦略を評価する先行技術に多くの研究が存在する。既知の戦略としては、例えば
・クロリムス、ミコフェノール酸モフェチル及びベラタセプト(CTLA-4 Fc-融合)での免疫抑制(Theruvath,TPら、2001,Transplantation,72:77-83;Schwarz,Cら、2015,Transplant International,28:820-827)、
・抗CD20リツキシマブ投与の有無に関わらず高用量静脈内免疫グロブリン投与を含む免疫調節処置(Fehr,Tら、2009,Transplantation,87:1837-1841)、
・プロテアソーム阻害剤ボルテゾミブ(Walsh,RCら、2012,Kidney Int,81:1067-1074)又は
・補体阻害剤(Eskandary,Fら、2017,Am J Transplant,18:916-926)が挙げられる。
【0005】
しかしながら、これらの戦略によっても長期的経過の著しい改善は充分には達成できなかった。したがって、長期的移植生着の治療選択肢は、依然として改善される必要がある。
【0006】
有望な標的は、CD38であってよく、これは主に免疫及び造血細胞上に発現し、抗体産生形質細胞上の発現レベルが特に高い。同種抗体産生形質細胞のABMRにおける重要な役割を考慮すると(DSAが傷害の原因である場合)、CD38による効果的な形質細胞枯渇は、持続的なDSA減少を達成するための移植医薬において有用であってもよい。
【0007】
抗CD38抗体でABMRに対抗するという概念は、ダラツムマブでの先行技術に示されている。腎移植したアカゲザルモデルにおいては、ダラツムマブはドナー特異的抗体を減少させ、長期的移植腎生着を達成した(Kwun,Jら、2019,Journal of the American Society of Nephrology,30:1206-1219)。国際公開第2020185672号パンフレット(Cedars-Sinai)は、2件の症例で抗HLA抗体及び標準治療に抵抗性のABMRがある患者を例証し、この患者はダラツムマブの治療を受け、抗HLA抗体レベルが初期に減少した。
【0008】
しかしながら、この治療の欠点は、ダラツムマブ治療後にCD4及びCD8T細胞が増加し、制御性B細胞(B-regs)が除去されたことだった。このことは、制御性T及びB細胞の減少に対するダラツムマブの補助的効果のためであってもよい。したがって、ダラツムマブでCD38を標的としても形質細胞集団が減少するだけでなく、有益な制御性細胞集団も枯渇する。末梢循環及び移植片微小環境内に制御性T細胞(Tregs)が存在することは、長期的移植免疫寛容を誘導し、維持するのに重要であってもよい。
【0009】
さらに、DSA DQ5を含む、抗HLAクラスII抗体のレベルには重要な影響がなく、いくつかのクラスII抗体が反跳し、新規のHLAクラスII抗体が出現した。このことは、ダラツムマブにCD38+ナチュラルキラー(NK)細胞を枯渇させる能力があり、したがってADCCを制限するためであってもよい。図1は、インビトロでのNK細胞の枯渇について、MOR202及びイサツキシマブと比較したダラツムマブの影響を示す。
【0010】
要約すると、これらの研究では初期のABMRエピソードを効果的に制御するが、初期のABMRに施される治療選択肢は、遅発型/慢性エピソードには限られた影響しか及ぼさず、遅発型移植片機能損失には主因が残っていることが示される。
【0011】
したがって、ABMRを治療するための同種抗体反応性を標的とし、長期的移植片生着を延ばす新規の戦略の必要性が高い。
【0012】
形質細胞のMOR202誘導溶解の主要な作用機序は、ADCC及びADCPであり、CDCではない。CDCは、インフュージョンリアクションの主要な寄与体であると考えられている。したがって、他のCD38抗体と比較した主な利点は、インフュージョンリアクションのリスクが低いことである。さらに、MOR202は、主に高CD38細胞を枯渇させ、これによりインビトロでCD38レベルが低い特異的細胞集団を残す。特定の制御性細胞サブセットは、MOR202での治療後に保存されてもよく、移植片生着が改善される。
【0013】
本開示は、ABMR、特に遅発型及び/又は慢性ABMRを処置する効率的で、安全で、持続可能で、忍容性が良好な戦略に使用するための抗CD38抗体felzartamabを提供する。felzartamabを反復投与すると、進行中のABMRの組織炎症(すなわちCD4+CD8+T細胞数の増加)及び移植片損傷、特に微小循環の炎症、HLA抗原に対するB細胞応答に対抗することができ、結果として、同種抗体/NK細胞トリガー慢性移植片損傷に対抗することができる。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、臓器移植の抗体関連型拒絶反応の治療及び/又は予防に使用するための抗CD38抗体felzartamabを提供する。さらに、腎移植を受けた対象においてドナー特異的抗体(例えば抗HLA)を低減若しくは除去する、及び/又はABMRの重症度を治療若しくは低減する方法を提供する。方法は、患者に有効量の抗CD38抗体felzartamabを投与することを含む。いくつかの態様において、方法はさらに、臓器移植のABMRを経験している又は経験したことがある患者を選択することを含む。他の態様において、方法はさらに、血清中にドナーHLAに特異的な抗HLA抗体を有する患者を選択することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、ダラツムマブ(Dara)及びイサツキシマブと比較して、MOR202によりCD38高発現MM形質細胞株をインビトロで特異的に死滅させる一方、CD38低発現NK細胞を残すことを示す。
図2図2は、遅発型ABMRにおけるfelzartamabの第2相パイロット試験のスキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
定義
用語「CD38」とは、以下の同義語、ADPリボシルシクラーゼ1、cADPRヒドロラーゼ1、サイクリックADPリボースヒドロラーゼ1、T10を有する、CD38として知られるタンパク質を指す。
ヒトCD38(UniProt P28907)は、以下のアミノ酸配列を有する。
MANCEFSPVSGDKPCCRLSRRAQLCLGVSILVLILVVVLAVVVPRWRQQWSGPGTTKRFPETVLARCVKYTEIHPEMRHVDCQSVWDAFKGAFISKHPCNITEEDYQPLMKLGTQTVPCNKILLWSRIKDLAHQFTQVQRDMFTLEDTLLGYLADDLTWCGEFNTSKINYQSCPDWRKDCSNNPVSVFWKTVSRRFAEAACDVVHVMLNGSRSKIFDKNSTFGSVEVHNLQPEKVQTLEAWVIHGGREDSRDLCQDPTIKELESIISKRNIQFSCKNIYRPDKFLQCVKNPEDSSCTSEI(配列番号9)
【0017】
CD38は、II型膜貫通糖タンパク質であり、抗体分泌細胞(例えば自己抗体分泌形質芽球及び形質細胞など)上に高度に発現する抗原の例である。CD38によるとされる機能には、受容体介在接着及びシグナル伝達現象並びに(外部の)酵素活性の両方が含まれる。外酵素として、CD38はNAD+をサイクリックADPリボース(cADPR)及びADPRを形成するための基質として用い、またニコチンアミド及びニコチン酸アデニンジヌクオチドリン酸(NAADP)を形成するための基質としても用いる。cADPR及びNAADPは、Ca2+動員用のセカンドメッセンジャーとして働くことが分かっている。NAD+をcADPRに変換することにより、CD38は細胞外NAD+濃度を調節し、したがってNAD誘発性細胞死(NCID)の調節により細胞生存を調節する。Ca2+によるシグナル伝達に加えて、CD38シグナル伝達は、T及びB細胞上の抗原受容体複合体又は例えばMHC分子などの、他の種類の受容体複合体とのクロストークによっても起こり、このようにいくつかの細胞応答に関与するが、IgG抗体の切り替え及び分泌にも関与する。
【0018】
用語「抗CD38抗体」は、本明細書で用いる場合、最も広い意味での抗CD38結合分子を含み、CD38と特異的に結合する若しくはCD38の活性又は機能を阻害する、又は任意の他の方法によりCD38に対する治療効果を及ぼす任意の分子を含む。CD38の機能性を妨害する又は抑制する任意の分子が含まれる。用語「抗CD38抗体」としては、CD38と特異的に結合する抗体、CD38と結合する別のタンパク質足場、CD38に特異的な核酸(アプタマーを含む)又はCD38に特異的な有機小分子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
CD38に特異的な抗体は、例えば国際公開第199962526号パンフレット(Mayo Foundation)、国際公開第200206347号パンフレット(Crucell Holland)、米国特許第2002164788号(Jonathan Ellis)、国際公開第2005103083号パンフレット、国際公開第2006125640号パンフレット、国際公開第2007042309号パンフレット(MorphoSys)、国際公開第2006099875号パンフレット(Genmab)、及び国際公開第2008047242号パンフレット(Sanofi-Aventis).に記載される。CD38に特異的な抗体及び他の作用薬の組み合わせは、例えば国際公開第200040265号パンフレット(Research Development Foundation)、国際公開第2006099875号パンフレット及び国際公開第2008037257号パンフレット(Genmab)、並びに国際公開第2010061360号パンフレット、国際公開第2010061359号パンフレット、国際公開第2010061358号パンフレット及び国際公開第2010061357号パンフレット(Sanofi Aventis)に記載される。CD38標的抗体は、多発性骨髄腫で広く用いられる(Frerichs KAら、2018, Expert Rev Clin Immunol;14(3):197-206で概説される)。抗CD38抗体のさらなる使用は、例えば国際公開第2015130732号パンフレット、国際公開第2016089960号パンフレット、国際公開第2016210223号パンフレット(Janssen)、国際公開第2018002181号パンフレット(UMC Utrecht)、国際公開第2019020643号パンフレット(ENCEFA)、国際公開第2020185672号パンフレット(Cedars-Sinai)及び国際公開第2020187718号パンフレット(MorphoSys)に記載され、その全体を参照により本明細書に援用される。
【0020】
好ましくは、本明細書で記載の使用するための抗CD38抗体は、CD38に特異的な抗体である。より好ましくは、抗CD38抗体は、CD38と特異的に結合し、特異的なCD38陽性B細胞、形質細胞、形質芽球及び他の任意のCD38陽性抗体分泌細胞を除去する、モノクローナル抗体などの、抗体又は抗体断片である。このような抗体は、マウス、ラット、キメラ、ヒト化又はヒト抗体など、いかなる種類であってよい。
【0021】
本明細書で用いる場合、「ヒト抗体」又は「ヒト抗体断片」は、フレームワーク及びCDR領域がヒト由来の配列である可変領域を有する抗体又は抗体断片である。抗体が定常領域を含む場合、定常領域もこのような配列に由来する。ヒト由来としては、例えばKnappikら、(2000)J Mol Biol 296:57-86)に記載されるような、ヒト生殖系列配列若しくはヒト生殖系列配列の変異型、又はヒトフレームワーク配列解析に由来する共通フレームワーク配列を含む抗体が挙げられるが、これらに限定されない。ヒト抗体は、例えば合成ライブラリー又は遺伝子導入マウス(例えばゼノマウスなど)から分離することができる。抗体又は抗体断片の配列がヒトならば、抗体が物理的に由来する、分離された、又は作製された種に無関係に、抗体又は抗体断片はヒトである。
【0022】
例えばCDRなどの免疫グロブリン可変領域の構造及び位置は、例えばKabatのナンバリングスキーム、Chothiaのナンバリングスキーム又はKabat及びChothiaの組合せなどの周知のナンバリングスキームを用いて定義してよい(例えばSequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Department of Health and Human Services(1991),eds)Kabatら、Lazikani et al.,(1997)J.Mol.Bio.273:927-948);Kabatら、(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th edit.,NIH Publication no.91-3242U.S.Department of Health and Human Services;Chothiaら、(1987)J.Mol.Biol.196:901-917;Chothiaら、(1989)Nature 342:877-883、及びAl-Lazikaniら、(1997)J.Mol.Biol.273:927-948を参照する。)
【0023】
「ヒト化抗体」又は「ヒト化抗体断片」は、本明細書において抗体分子として定義され、この抗体分子はヒト由来の配列に由来する抗体定常領域を有し、抗体分子の抗体可変領域若しくは部分又はCDRのみが別の種に由来する。例えばヒト化抗体は、CDRを移植した抗体であってよく、可変領域のCDRは、非ヒト由来である一方、可変領域の1つ又は複数のフレームワークは、ヒト由来であり、定常領域(ある場合)はヒト由来である。
【0024】
用語「キメラ抗体」又は「キメラ抗体断片」は、本明細書において抗体分子として定義され、この抗体分子は、一方の種に見いだされる配列に由来する、又は対応する抗体定常領域及び別の種に由来する抗体可変領域を有する。好ましくは、抗体定常領域は、ヒトに見いだされる配列に由来する、又は対応し、抗体可変領域(例えばVH、VL、CDR又はFR領域)は、非ヒト動物、例えばマウス、ラット、ウサギ又はハムスターなどに見いだされる配列に由来する。
【0025】
用語「分離抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体又は抗体断片を実質的に含まない抗体又は抗体断片を指す。さらに、分離抗体又は抗体断片は、他の細胞物質及び/又は化学物質を実質的に含まなくてよい。したがって、いくつかの態様において、提供される抗体は、異なる特異性を有する抗体から分離されている分離抗体である。分離抗体は、モノクローナル抗体であってよい。分離抗体は、組換えモノクローナル抗体であってよい。標的のエピトープ、アイソフォーム又はバリアントと特異的に結合する分離抗体は、しかしながら、例えば他の種に由来するなどの(例えば種のホモログなど)他の関連抗原と交差反応性を有してよい。
【0026】
本明細書で用いられる用語「モノクローナル抗体」とは、単一の分子組成の抗体分子の製剤を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して固有の結合特異性及び親和性を有する固有の結合部位を示す。
【0027】
さらに、本明細書で用いる場合、「免疫グロブリン」(Ig)は、本明細書によりクラスIgG、IgM、IgE、IgA、又はIgD(又はこれらの任意のサブクラス)に属するタンパク質として定義され、全ての従来既知の抗体又はこれらの機能的断片を含む。
【0028】
本明細書で用いる場合、フレーズ「抗体断片」とは、抗原と特異的に相互作用する(例えば結合、立体障害、空間分布の安定化などにより)能力を保持する抗体の1つ又は複数の部分を指す。結合断片の例としては、Fabフラグメント、すなわちVL、VH、CL及びCH1領域から成る一価のフラグメント、F(ab)2フラグメント、すなわちヒンジ領域でジスルフィド結合により連結された2個のFabフラグメントを含む二価のフラグメント、VH及びCH1領域から成るFdフラグメント、抗体の単一アームのVL及びVH領域から成るFvフラグメント、VH領域から成るdAbフラグメント、及び分離した相補性決定領域(CDR)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、Fvフラグメントの2個の領域、すなわちVL及びVHは、別々の遺伝子によりコードされているが、このVL及びVH領域のペアが一価の分子(単鎖フラグメント(scFv)として知られる)を形成する単一のタンパク質鎖を作製できるようにする合成リンカーにより、組換え法を用いて結合することができる。このような単鎖抗体は、用語「抗体断片」に包含されるものとする。抗体断片を、シングルドメイン抗体、マキシボディ(maxibodies)、ミニボディ(minibodies)、細胞内抗体、ダイアボディ(diabodies)、トリアボディ(triabodies)、テトラボディ(tetrabodies)、v-NAR及びbis-scFvに組み込むこともできる。抗体断片は、フィブロネクチンIII型(Fn3)などのポリペプチドをベースとする骨格にグラフトすることができる。抗体断片は、相補的な軽鎖ポリペプチドと共に一対の抗原結合部位を形成する一対のタンデムFvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む1本鎖分子に組み込むことができる。
【0029】
本開示は、治療有効量の開示される抗CD38抗体をこのような治療を必要とする対象に投与することを含む治療法を提供する。本明細書で用いる場合、「治療有効量」又は「有効量」とは、所望の生物学的応答を引き起こすのに必要とされる、CD38に特異的な抗体の量を指す。本開示に従うと、治療有効量は、免疫複合体媒介疾患及びこの疾患に関連する症状を治療及び/又は予防するのに必要なCD38に特異的な抗体の量である。特定の個人に対する有効量は、治療する状態、患者の健康全般、投与方法、経路及び用量、並びに副作用の重症度などの要因に応じて変わってよい(Maynardら、(1996)A Handbook of SOPs for Good Clinical Practice,Interpharm Press,Boca Raton,Fla.;Dent(2001)Good Laboratory and Good Clinical Practice,London,UK)。
【0030】
本明細書で用いる場合、用語「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、「治療(treatment)」又は同種のものは、一時的又は永続的のいずれかで症状を軽減する、症状の原因を排除する、又は示された障害若しくは状態の症状の出現を防止若しくは遅らせることを意味する。これらの用語は、治療処置(therapeutic treatment)及び予防(prophylactic)又は予防(preventative)策を指す。治療の目的は、望ましくない生理的変化又は傷害を防止若しくは遅らせる(和らげる)こと又は治療すべき疾患を治癒することである。有利な又は望ましい臨床結果としては、検出可能か検出不能化に関わらず、症状の軽減、疾患の範囲の減少、病状の安定化(すなわち悪化しないこと)、疾患進行の遅延又は緩徐化、病状の寛解又は緩和、及び寛解(部分又は全体に関わらず).が挙げられる。「治療」はまた、対象が治療を受けなかった場合に予測される寿命と比較して、寿命を延長することを意味することもできる。治療を必要とする人には、状態若しくは傷害が既にある人並びに状態若しくは傷害にかかりやすい人又は状態若しくは傷害を予防する予定の人が含まれる。
【0031】
「予防すること(Preventing)」又は「予防(prevention)」とは、疾患又は障害にかかる又は発症するリスクを低減すること(すなわち疾患の臨床症状の少なくとも1つを、疾患発症性媒介物に曝露された又は疾患発症の前に疾患になりやすくてよい対象に発症させないこと)を指す。「予防」とは、疾患若しくは疾患の症状の発生を防ぐことを目標とする又は疾患若しくは疾患の症状の発生を遅らせる方法を指す。
【0032】
「投与した(Administered)」又は「投与(administration)」としては、例えば静脈内、筋肉内、皮内又は皮下経路などの注射可能な形態により、又は例えば点鼻薬若しくは吸入用エアロゾルなど、又は経口摂取可能な溶液、カプセル若しくは錠剤などの粘膜経路により薬剤を投与することが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、投与は、注射可能な形態による。
【0033】
同時投与には、当業者にとって明らかなように、患者に2個以上の治療薬を同一の治療計画の一部として送達する任意の手段が含まれる。2個以上の作用薬を単一の製剤で、すなわち単一の医薬組成物として同時に投与してもよいが、このことは必須ではない。作用薬を異なる製剤で異なる時点で投与してもよい。併用療法の治療(例えば予防薬又は治療薬)を、同時に又は経時的に対象に投与することができる。併用療法の治療(例えば予防薬又は治療薬)を、周期的に投与することもできる。サイクリング療法は、第1の療法(例えば第1の予防薬又は治療薬)をある期間に投与し、その後第2の療法(例えば第2の予防薬又は治療薬)をある期間投与し、この連続投与、すなわちサイクルを繰り返すことを含む。これは、複数の療法の1つに対する抵抗性の発生を低下させて複数の療法の1つの副作用を避ける又は低減させる、及び/又は複数の療法の有効性を改善するためである。用語「同時に(concomitantly)」又は「同時に(concurrently)」は、療法を正確に同時に投与することに限定されず、この用語はむしろ、本開示の抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を対象に、本開示の抗体を他の療法(複数含む)とある順序及びある時間間隔以外で投与した場合より利益が増えるよう本開示の抗体が他の療法(複数含む)とともに働くことができるようなある順序及びある時間間隔で投与することを意味する。
【0034】
「対象」又は「種」とは、本明細書で用いる場合、マウス又はラットなどのげっ歯類、及びカニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Macaca mulatta)又はヒト(Homo sapiens)などの霊長類を含む、全ての哺乳類を指す。好ましくは、対象は、霊長類であり、最も好ましくは、ヒトである。
【0035】
本明細書で用いる場合、用語「これを必要とする対象」又は同種のものは、臓器移植の抗体関連型拒絶の1つ又は複数の症状又は兆候を示すヒト又は非ヒト動物患者を意味する。好ましくは、対象は、霊長類であり、最も好ましくは、腎移植後に抗体関連型拒絶と診断されたヒト患者である。
【0036】
用語「抗体関連型拒絶反応「ABMR」)とは、臓器移植(Tx)後に起こることが多い、例えば微小環境の炎症及び形態学的損傷、(義務でない)移植内皮に沿った補体切断産物C4dの沈着、及びドナー抗原に対する抗体の検出(「ドナー特異的抗原、DSA」))などの、Banff分類に従った明確な診断基準を含む、確立した実体を指す。DSAは、(i)ドナーのHLAに対する抗体及び/又は(ii)非HLA抗体であることができ、DSAは、レシピエント及びドナーの間で異なる多型抗原に対する同種抗体及び自己抗原又は自己抗体を認識する抗体の、少なくとも2種類の主要なカテゴリーに分類してよい。
【0037】
本明細書で用いる場合、特定の列挙された数値に関して用いられる用語「約」は、その値が列挙された値から1%以内分変わってよいことを意味する。例えば、本明細書で用いる場合、表現「約100」には、99及び101並びに間の全ての値(例えば99.1、99.2、99.3、99.4など)が含まれる。
【0038】
「薬学的に許容される」とは、連邦政府若しくは州政府の規制当局若しくは米国以外の国の対応する機関によって認可されたもの若しくは承認できるもの、又は動物に、より具体的にはヒトに使用するための米国薬局方又は他の一般的に認識されている薬局方に収載されているものを意味する。
【0039】
「薬学的に許容される溶媒」とは、抗体又は抗体断片を投与する希釈剤、アジュバント、賦形剤又は担体を指す。
【0040】
本明細書を通して、文脈上別段の解釈を必要としない限り、単語「含む(comprise)」、「有する(have)」及び「含む(include)」並びに「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(includes)」及び「含む(including)」などのこれらの単語それぞれの変形は、示された要素若しくは整数又は要素若しくは整数のグループを包含することを意味するが、他の任意の要素若しくは整数又は要素若しくは整数のグループを除外することを意味しない。
【0041】
「Felzartamab」は、「MOR202」、「MOR03087」又は「MOR3087」としても知られる、抗CD38抗体である。この用語は、本開示において互換的に用いられる。MOR202は、IgG1 Fc領域を有する。
【0042】
KabatによるMOR202 HCDR1のアミノ酸配列は、
SYYMN(配列番号1)である。
【0043】
KabatによるMOR202 HCDR2のアミノ酸配列は、
GISGDPSNTYYADSVKG(配列番号2)である。
【0044】
KabatによるMOR202 HCDR3のアミノ酸配列は、
DLPLVYTGFAY(配列番号3)である。
【0045】
KabatによるMOR202 LCDR1のアミノ酸配列は、
SGDNLRHYYVY(配列番号4)である。
【0046】
KabatによるMOR202 LCDR2のアミノ酸配列は、
GDSKRPS(配列番号5)である。
【0047】
MOR202 LCDR3のアミノ酸配列は、QTYTGGASL(配列番号6)である。
【0048】
MOR202重鎖可変領域のアミノ酸配列は、
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYYMNWVRQAPGKGLEWVSGISGDPSNTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDLPLVYTGFAYWGQGTLVTVSS(配列番号7)である。
【0049】
MOR202軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、
DIELTQPPSVSVAPGQTARISCSGDNLRHYYVYWYQQKPGQAPVLVIYGDSKRPSGIPERFSGSNSGNTATLTISGTQAEDEADYYCQTYTGGASLVFGGGTKLTVLGQ(配列番号8)である。
【0050】
MOR202重鎖可変領域をコードするDNA配列は、
CAGGTGCAATTGGTGGAAAGCGGCGGCGGCCTGGTGCAACCGGGCGGCAGCCTGCGTCTGAGCTGCGCGGCCTCCGGATTTACCTTTTCTTCTTATTATATGAATTGGGTGCGCCAAGCCCCTGGGAAGGGTCTCGAGTGGGTGAGCGGTATCTCTGGTGATCCTAGCAATACCTATTATGCGGATAGCGTGAAAGGCCGTTTTACCATTTCACGTGATAATTCGAAAAACACCCTGTATCTGCAAATGAACAGCCTGCGTGCGGAAGATACGGCCGTGTATTATTGCGCGCGTGATCTTCCTCTTGTTTATACTGGTTTTGCTTATTGGGGCCAAGGCACCCTGGTGACGGTTAGCTCA(配列番号10)である。
【0051】
MOR202軽鎖可変領域をコードするDNA配列は、
GATATCGAACTGACCCAGCCGCCTTCAGTGAGCGTTGCACCAGGTCAGACCGCGCGTATCTCGTGTAGCGGCGATAATCTTCGTCATTATTATGTTTATTGGTACCAGCAGAAACCCGGGCAGGCGCCAGTTCTTGTGATTTATGGTGATTCTAAGCGTCCCTCAGGCATCCCGGAACGCTTTAGCGGATCCAACAGCGGCAACACCGCGACCCTGACCATTAGCGGCACTCAGGCGGAAGACGAAGCGGATTATTATTGCCAGACTTATACTGGTGGTGCTTCTCTTGTGTTTGGCGGCGGCACGAAGTTAACCGTTCTTGGCCAG(配列番号11)である。
【0052】
実施形態
抗体
本開示の特定の実施形態において、本開示による使用するためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片は、国際公開第2007042309号パンフレットに記載のCD38特異抗体のアミノ酸配列のいずれかを含む、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖、軽鎖及び/又はCDRを含む。
【0053】
ある実施形態において、本開示による使用するためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1領域、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2領域、配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3領域、配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1領域、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2領域及び配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3領域を含む。
【0054】
1つの実施形態において、本開示による使用するためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片は、配列番号1のHCDR1領域、配列番号2のHCDR2領域、配列番号3のHCDR3領域、配列番号4のLCDR1領域、配列番号5のLCDR2領域及び配列番号6のLCDR3領域を含む。
【0055】
ある実施形態において、本開示による使用するためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片は、配列番号7の重鎖可変領域及び配列番号8の軽鎖可変領域を含む。
【0056】
別の実施形態において、本開示による使用するための抗CD38抗体又は抗体断片は、配列番号7の重鎖可変領域及び配列番号8の軽鎖可変領域又は配列番号7の重鎖可変領域に対して及び配列番号8の軽鎖可変領域に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。
【0057】
配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む本開示による使用するための例示的な抗体又は抗体断片は、MOR202(felzartamab)として知られているヒト抗CD38抗体である。
【0058】
1つの実施形態において、本開示は、本開示による使用するためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片をコードする1つの核酸配列又は複数の核酸配列を含む核酸組成物であって、この抗体又は抗体断片は、配列番号1のHCDR1領域、配列番号2のHCDR2領域、配列番号3のHCDR3領域、配列番号4のLCDR1領域、配列番号5のLCDR2領域、及び配列番号6のLCDR3領域を含む、核酸組成物に関する。
【0059】
別の実施形態において、本開示は、本開示による使用するための分離したモノクローナル抗体又はその断片をコードする核酸であって、この核酸は、配列番号10のVH及び配列番号11のVLを含む、核酸に関する。
【0060】
1つの実施形態において、本開示による使用するためのCD38に特異的な開示した抗体又は抗体断片は、モノクローナル抗体又は抗体断片である。
【0061】
1つの実施形態において、本開示による使用するためのCD38に特異的な開示した抗体又は抗体断片は、ヒト、ヒト化又はキメラ抗体である。
【0062】
特定の実施形態において、本開示による使用するためのCD38に特異的な抗体又は抗体断片は、分離抗体又は抗体断片である。
【0063】
別の実施形態において、本開示による使用するための抗体又は抗体断片は、組換え抗体又は抗体断片である。
【0064】
さらなる実施形態において、本開示による使用するための抗体又は抗体断片は、組換えヒト抗体又は抗体断片である。
【0065】
さらなる実施形態において、本開示による使用するための組換えヒト抗体又は抗体断片は、分離した組換えヒト抗体又は抗体断片である。
【0066】
さらなる実施形態において、本開示による使用するための組換えヒト抗体若しくは抗体断片又は分離した組換えヒト抗体又は抗体断片は、モノクローナルである。
【0067】
1つの実施形態において、本開示による使用するための開示した抗体又は抗体断片は、IgGアイソタイプである。特定の実施形態において、この抗体は、IgG1である。
【0068】
本発明の特定の態様において、本開示による使用するための抗CD38抗体は、MOR202(felzartamab)である。
【0069】
ある実施形態において、本開示は、CD38に特異的なfelzartamab(MOR202)又はその断片及び本開示により使用するための薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0070】
特定の実施形態において、CD38に特異的な抗体又は抗体断片は、ヒトCD38に特異的に結合する分離したモノクローナル抗体又は抗体断片である。
【0071】
医薬組成物
医薬品として使用する場合、CD38に特異的な抗体又は抗体断片を典型的には医薬組成物で投与する。本開示の組成物は好ましくは、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することを必要とする対象の臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することに使用するための、felzartamab(MOR202)及び薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物である。
【0072】
薬学的に許容される担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄又は上皮投与(例えば注射又は点滴による)に適するべきである。
【0073】
薬学的な担体は、組成物を強化する若しくは安定化する、又は組成物の調製を促進する。薬学的に許容される担体としては、生理学的に適合した溶媒、分散媒、コーティング、抗菌薬及び抗真菌薬、等張化剤及び吸収遅延剤、並びに同種のものが挙げられる。多くの場合において、組成物に例えば糖、マンニトール又はソルビトールなどの多価アルコール、及び塩化ナトリウムなどの等張化剤を含むことが好ましい。
【0074】
本開示の医薬組成物は、当該技術分野において公知の様々な経路により投与することができる。本開示の抗体又は抗体断片の選択された投与経路としては、例えば注射又は点滴による、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄又は他の非経口投与経路が挙げられる。
【0075】
CD38に特異的な抗体又は抗体断片は好ましくは、注射用組成物として製剤化される。好ましい態様において、本開示の抗CD38抗体は、静脈内に投与される。他の態様において、本開示の抗CD38抗体は、皮下に、関節内に又は脊髄内に投与される。
【0076】
本開示の重要な態様は、CD38発現抗体分泌細胞(例えば形質芽球、形質細胞など)をADCC及びADCPにより死滅させることを媒介することができる医薬組成物である。
【0077】
治療方法
1つの実施形態において、本開示は、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することを必要とする対象の臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することに使用するための、抗CD38抗体若しくは抗体断片、又は抗CD38抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物を提供する。
【0078】
特定の実施形態において、移植臓器は、腎臓、心臓、肝臓、肺、膵臓、胃、皮膚及び腸の1つ又は複数である。
【0079】
1つの実施形態において、腎移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することを必要とする対象の腎移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することに使用するための、抗CD38抗体若しくは抗体断片、又は抗CD38抗体若しくは抗体断片を含む医薬組成物を提供する。
【0080】
特定の実施形態において、本開示は、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することに使用するための、配列番号1のHCDR1領域、配列番号2のHCDR2領域、配列番号3のHCDR3領域、配列番号4のLCDR1領域、配列番号5のLCDR2領域、及び配列番号6のLCDR3領域を含む抗CD38抗体又は抗体断片を提供する。
【0081】
別の態様において、本開示は、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することを必要とする対象の臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することに使用するための、配列番号7の重鎖可変領域及び配列番号8の軽鎖可変領域を含む、抗CD38抗体又は抗体断片を提供する。
【0082】
特定の態様において、本開示は、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することを必要とする対象の臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の重症度を治療、抑制及び/又は低減することに使用するためのMOR202(felzartamab)を提供する。
【0083】
1つの実施形態において、本開示は、臓器移植を受けた後の抗体関連型拒絶(ABMR)反応がある対象におけるCD38発現抗体分泌細胞(好ましくは形質細胞)を枯渇させるのに使用するための抗CD38抗体又は抗体断片を提供する。
【0084】
好ましい実施形態において、本開示は、臓器移植を受けた後の抗体関連型拒絶(ABMR)反応がある対象における循環抗HLA抗体及び/又は抗非HLA抗体を低減させるのに使用するための抗CD38抗体(例えばMOR202)を提供する。
【0085】
別の実施形態において、本開示は、臓器移植を受けた後の抗体関連型拒絶(ABMR)反応がある対象における移植臓器中の抗HLA抗体及び/又は抗非HLA抗体の沈着を低減させるのに使用するための抗CD38抗体(例えばMOR202)を提供する。
【0086】
さらなる態様において、本開示は、腎移植を受けた後の対象におけるABMRの症状を低減するのに使用するための、抗CD38抗体(例えばMOR202など)を活性成分として含む治療薬であって、この症状は、(i)血清クレアチニン及び推算糸球体濾過量(eGFR)によって測定される腎機能の悪化、(ii)ドナー特異的抗原の存在、及び/又は(iii)腎臓の毛細血管炎、炎症及び補体(C4d)沈着から選択される、治療薬を提供する。
【0087】
別の態様において、本開示は、腎移植を受けた後の抗体関連型拒絶(ABMR)反応がある対象におけるCKD-epi式に基づく糸球体濾過量(eGFR)によって示される腎機能を回復させる(restoring)、回復させる(ameliorating)又は正常化するのに使用するための、抗CD38抗体(例えばMOR202)を含む、予防及び/又は治療薬を提供する。
【0088】
さらなる態様において、本開示は、臓器移植のABMR反応を治療することを必要とする対象の臓器移植のABMR反応を治療することに使用するための抗CD38抗体(例えばMOR202)であって、この抗CD38抗体(例えばMOR202)は、少なくとも2回、少なくとも5回、少なくとも7回、又は少なくとも9回投与される、抗CD38抗体を提供する。
【0089】
別の態様において、本開示は、臓器移植のABMR反応を治療することを必要とする対象の臓器移植のABMR反応を治療することに使用するための抗CD38抗体(例えばMOR202)であって、この抗CD38抗体(例えばMOR202)は、2回、5回、7回又は9回投与される、抗CD38抗体を提供する。
【0090】
具体的な実施形態において、投与量は、8mg/kg以上である。特定の実施形態において、投与量は、16mg/kgである。
【0091】
別の実施形態において、本開示は、臓器移植のABMRを治療することを必要とする対象の臓器移植のABMRを治療することに使用するための抗CD38抗体であって、この抗CD38抗体は、サイクル1(C1)では2週間毎、サイクル2~6では4週間毎に投与される(felzartamab/プラセボを0日目及び14日目(サイクル1)、その後は4週目、8週目、12週目、16週目、及び20週目に4週間間隔で(サイクル2~6)の投与)、抗CD38抗体を提供する。
【0092】
別の実施形態において、本開示は、ABMRの治療に使用するための抗CD38抗体であって、この抗CD38抗体は、静脈内に投与される、抗CD38抗体を提供する。
【0093】
別の実施形態において、本開示は、ABMRの治療に使用するための抗CD38抗体であって、この抗体は、2時間にわたり静脈内に投与される、抗CD38抗体を提供する。
【0094】
1つの実施形態において、抗CD38抗体(例えばMOR202)は、臓器移植の前、同時に、及び/又は後に投与される。
【0095】
別の実施形態において、移植を必要とする個人に、移植の前、同時に、及び/又は後に有効量のfelzartamabを投与することによるこの個人を治療する方法。
【0096】
別の態様において、本開示は、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防を必要とする対象における臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防のための薬物の調製における抗CD38抗体又は抗体断片の使用を提供する。
【0097】
他の態様において、本開示は、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防を必要とする対象における臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防のための薬物の調製における、配列番号1のHCDR1領域、配列番号2のHCDR2領域、配列番号3のHCDR3領域、配列番号4のLCDR1領域、配列番号5のLCDR2領域及び配列番号6のLCDR3領域を含む抗CD38抗体又は抗体断片の使用を提供する。
【0098】
他の態様において、本開示は、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防を必要とする対象における臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防のための薬物の調製における、配列番号7の重鎖可変領域及び配列番号8の軽鎖可変領域を含む抗CD38抗体又は抗体断片の使用を提供する。
【0099】
さらなる態様において、本開示は、腎移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防を必要とする対象における腎移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防のための薬物の調製におけるMOR202(felzartamab)の使用を提供する。
【0100】
別の態様において、本開示は、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防を必要とする対象における臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防のための薬物の調製における、別の治療薬と併せた、MOR202(felzartamab)又はMOR202(felzartamab)を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0101】
いくつかの実施形態において、ABMRの治療及び/又は予防を必要とする対象におけるABMRの治療及び/又は予防のための、ステロイドと併せたMOR202の使用を提供する。他の態様において、MOR202を、ABMRの治療及び/又は予防に使用するためのプロテアソーム阻害剤(例えばボルテゾミブ又はカルフィルゾミブ)と併せて投与する。
【0102】
1つの態様において、本開示は、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防を必要とする対象に抗CD38抗体を投与することを含む、この対象における臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応の治療及び/又は予防方法を提供する。特定の実施形態において、この抗体関連型拒絶(ABMR)反応は、移植腎に向けられる。
【0103】
いくつかの実施形態において、本開示は、臓器移植の抗体関連型拒絶(ABMR)反応を患う対象の予防及び/又は治療方法であって、この対象は、副腎皮質ステロイド若しくはカルシニューリン阻害薬又はB細胞枯渇療法(例えばリツキシマブ又は任意の他の抗CD20抗体、若しくは抗BAFF抗体による)を含む、他の免疫抑制剤療法による治療に対して抵抗性であり、この方法は、有効量の抗CD38抗体又は抗体断片の投与を含む、方法を提供する。
【0104】
1つの態様において、本開示は、臓器移植を受けた後の抗体関連型拒絶(ABMR)反応になりやすい(susceptible)又はかかりやすい(vulnerable)患者において予防又は治療効果を達成するための抗CD38抗体又は抗体断片の使用方法を提供する。
【0105】
別の態様において、本開示は、対象の抗体関連型拒絶(ABMR)反応及び/又は抗体関連型拒絶(ABMR)反応の症状の発生頻度を低減する、抗体関連型拒絶(ABMR)反応及び/又は抗体関連型拒絶(ABMR)反応の症状を寛解させる、抗体関連型拒絶(ABMR)反応及び/又は抗体関連型拒絶(ABMR)反応の症状を抑制する、抗体関連型拒絶(ABMR)反応及び/又は抗体関連型拒絶(ABMR)反応の症状を緩和する、及び/又は抗体関連型拒絶(ABMR)反応及び/又は抗体関連型拒絶(ABMR)反応の症状の発症、発病又は悪化を遅らせる方法であって、この方法は、この対象に有効量の抗CD38抗体を投与することを含む、方法を提供する。具体的には、この抗体関連型拒絶(ABMR)反応は、腎移植後である。
【0106】
好ましい実施形態において、本開示は、抗体関連型拒絶(ABMR)反応と関連するDSAレベルが高い患者の治療方法を提供する。
【0107】
他の態様において、本開示は、ドナー特異的抗原に存在によって起こる疾患の治療及び/又は予防方法を提供する。さらに他の態様において、本開示は、抗ドナーHLA抗体の存在と関連する症状の治療及び/又は予防方法を提供する。さらなる態様において、本開示は、HLAに向けられていない抗ドナー抗体の存在と関連する症状の治療及び/又は予防方法を提供する。
【0108】
他の実施形態において、本開示は、抗体関連型拒絶反応(ABMR)を患う対象における炎症及びC4d補体沈着を低減する方法であって、この方法は、有効量の抗CD38抗体若しくは抗体断片又は本明細書に記載の1つ又は複数の医薬組成物の投与を含む、方法を提供する。例えば、本明細書で提供される方法は、抗HLA抗体のレベルが高い患者に抗CD38抗体を投与することを含む。他の態様において、本明細書で提供される方法は、移植した臓器中のC4d補体沈着のレベルが高い患者に抗CD38抗体を投与することを含む。
【0109】
1つの実施形態において、抗体関連型拒絶反応(ABMR)を患う対象の血清中の抗HLAレベルの低減(変化)は、抗CD38抗体若しくは抗体断片、又は本明細書に記載の1つ又は複数の医薬組成物を投与した後、ベースラインと比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、又は少なくとも50%である。
【0110】
別の態様において、本開示は、抗体関連型拒絶反応(ABMR)の個人の腎機能の低下を予防する方法であって、この方法は、有効量の抗CD38抗体若しくは抗体断片、又は本明細書に記載の1つ又は複数の医薬組成物の投与を含む、方法を提供する。
【0111】
さらなる実施形態において、本開示は、対象の抗体関連型拒絶反応(ABMR)の治療方法であって、この対象に、CD38発現細胞と結合し、このようなCD38発現細胞を枯渇させる抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0112】
好ましい実施形態において、本開示は、対象のABMRの治療方法であって、この対象に、CD38発現抗体分泌細胞と結合し、この抗体分泌細胞を枯渇させる一方、制御性T細胞及び/又はB細胞集団を残す抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0113】
別の実施形態において、本開示は、対象のABMRの治療方法であって、この対象に、CD38発現抗体分泌細胞と結合し、この抗体分泌細胞を枯渇させるが、制御性T細胞はあまり枯渇させない抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0114】
特定の好ましい実施形態において、本開示は、対象の抗体関連型拒絶反応(ABMR)の治療方法であって、この対象に、CD38発現抗体分泌細胞と結合し、このようなCD38発現抗体分泌細胞を枯渇させる抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を投与することを含み、この抗体は、NK細胞より抗体分泌細胞に対して、有意に高い特異的な細胞死滅を示す、方法に関する。
【0115】
1つの実施形態において、本開示は、対象の抗体関連型拒絶反応(ABMR)の治療方法であって、この対象に、CD38発現抗体分泌細胞と結合し、このようなCD38発現抗体分泌細胞を枯渇させる抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を投与することを含み、抗体分泌細胞の特異的な細胞死滅は、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%であり、抗体非分泌NK細胞の特異的な細胞死滅は、標準的なADCCアッセイで決定して、30%未満、25%未満、20%未満、又は15%未満である、方法に関する。
【0116】
1つの実施形態において、本開示は、対象の抗体関連型拒絶反応(ABMR)の治療方法であって、この対象に抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を投与することを含み、この対象は、1つ又は複数の免疫グロブリン投与(IVIG)、リツキシマブ投与及び血漿交換(PLEX)を含む標準治療を受け、標準治療に対する対象の応答は無効である、方法に関する。
【0117】
別の実施形態において、治療予定の対象は、1つ又は複数のエクリズマブ、サイモグロブリン、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、バシリキシマブ、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス及び副腎皮質ステロイドでの免疫抑制療法に対してさらに抵抗性である又は獲得抵抗性を有する。
【0118】
別の実施形態において、本開示は、対象の抗体関連型拒絶反応(ABMR)の治療方法であって、この対象に、抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を投与することを含み、この対象は、事前にいかなる標準治療も受けたことがない、方法に関する。
【0119】
さらなる実施形態において、本開示は、対象のABMRの治療方法であって、この対象に、抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を投与することを含み、この抗CD38抗体を投与しても制御性CD4+、CD25+、CD127-T細胞の絶対数を有意に変化させない、方法に関する。
【0120】
別の実施形態において、本開示は、対象のABMRの治療方法であって、この対象に、抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を投与することを含み、抗体投与後にCD8+T細胞/Tregの比は有意に増加しない、方法に関する。
【0121】
別の実施形態において、本開示は、対象のABMRの治療方法であって、この対象に、抗CD38抗体又は抗体断片を含む医薬組成物を投与することを含み、この抗CD38抗体又は抗体断片を投与するとクラスI及び/又はクラスII抗HLA抗体レベルが減少する、方法に関する。抗HLAクラスI抗体は、抗HLA-A、-B、及び-Cを含む。抗HLAクラスII抗体は、抗HLA-DR、-DQ(例えば抗-DQ5)、及び-DPを含む。
【0122】
好ましい実施形態において、ABMRの治療方法は、ヒト対象におけるものであり、MOR202(felzartamab)を含む医薬組成物の投与を含み、この投与によりクラスII抗HLA抗体レベル、好ましくは抗DQ5抗体レベルが減少する。好ましい態様において、9回のMOR202を投与する。
【実施例
【0123】
実施例1:遅発型抗体関連型移植腎拒絶反応におけるFelzartamab
1.1 研究デザイン
本研究は、遅発型活動性又は慢性活動性ABMRの腎移植レシピエントにおける完全ヒト抗CD38モノクローナル抗体felzartamabの安全性、忍容性、薬物動態、薬力学及び有効性を評価するようデザインされた研究者主導パイロット治験である。
【0124】
本試験を、無作為化、対照、二重盲検第2相パイロット試験としてデザインする。プライマリーエンドポイントは、安全性及び忍容性である。本試験の単純化したフローチャートを図2に示す。
【0125】
1.2 調査母集団
循環抗HLA DSAがあり、生検適応(指標生検:移植後DSA結果が陽性で移植片機能及び/又は蛋白尿がゆっくり悪化した患者に対して臨床ルーチンで実行される)において遅発型(移植後180日以降)活動性ABMR(Banff 2019スキームに従って)の生検特徴がある約20人の腎移植レシピエントを含める。他の主要な組み入れ基準は、年齢が18歳超、移植後180日以降も機能する移植片及び推算GFR(CKD-EPI式によるeGFR)≧20ml/min/1.73m組み入れ及び除外基準を表1に詳述する。
【0126】
【0127】
1.3 投薬
対象を、ウェブベースの無作為化プラットフォーム(www.meduniwien.ac.at/randomizer)を用いてfelzartamab(16mg/kg、静脈内投与)又はプラセボのいずれかを受けるよう1:1で無作為化する。自己免疫疾患の進行中の第Ib/IIa相臨床試験(膜性腎症、ClinicalTrials.gov, NCT04145440)でのPKモデル化の結果に基づいて、患者にfelzartamabを6か月間、点滴として投与する。移植患者は複数の化合物による免疫抑制ベースライン治療中なので(膜性腎症の患者とは対照的に)、したがって感染症のリスクが高く、第1サイクルの投薬間隔の拡大(毎週の代わりに2週間毎)を計画する。9回の代わりに、7回のfelzartamabを、各々28日の6治療サイクルにわたり16mg/kgで静脈内投与する。投薬は、サイクル1(C1)では2週間毎でサイクル2~6では4週毎(felzartamab/プラセボを0日目及び14日目に(サイクル1)、その後4、8、12、16、及び20週目に4週間隔で(サイクル2~6)投与)に発生する。
【0128】
好ましい状況においては、対象は、felzartamab(16mg/kg、静脈内投与)又はプラセボ(0.9%生理食塩水)(1:1 無作為化)のいずれかを6か月間(felzartamab/プラセボを0、7、14、21日目(サイクル1)その後4、8、12、16、及び20週目に4週間隔で(サイクル2~6)投与)受けるよう無作為化される。6か月(24週)及び12か月(52週)後、研究参加者は経過観察移植生検を受ける。本治験の主要な目的は、12か月間にわたり6か月の治療過程の安全性、薬物動態及び薬力学(末梢血PC及びNK細胞の枯渇)を評価することである。
【0129】
したがって、点滴として9回のfelzartamab又はプラセボを、各々28日の6治療サイクルにわたり投与する。投薬は、サイクル1では毎週、サイクル2~6では4週毎に発生する。
【0130】
Felzartamabは、4.8mL水で再構成後、注入用に10mMヒスチジン、260mMスクロース、0.1%Tween20、pH6.0中65mg/mLで供給される(1個のバイアルには325mg MOR202が含まれる)。Felzartamabを、250mLの0.9%塩化ナトリウム溶液に希釈後投与する(最終濃度は1~20mg/mLにするべきである)。プラセボ(0.9%塩化ナトリウム)を、点滴用の250mLの通常の生理食塩水で投与する。調製した注入液を24時間までは2℃~8℃で、24時間のうち4時間までは室温、15℃~25℃で保管してよい。投与前に、felzartamab/プラセボ注入液は、使用前30~60分間非冷蔵で保管することにより室温に到達する必要がある。
【0131】
最初の2回のfelzartamabの点滴はゆっくりで(約90分)、インフュージョンリアクションが起こらなかった場合、その後の点滴では点滴時間を1時間以下(最小30分)に短縮してもよい。
【0132】
6か月(24週)及び12か月(52週)後、研究参加者は経過観察移植生検を受ける。無作為化は、ABMRカテゴリー(活動性ABMR対慢性/活動性ABMR)に従い、2個の群の間でこれらの2個の組織タイプの患者が確実に釣り合うようにする。本研究は、バイアスを最小にするために、二重盲検治験としてデザインされる。
【0133】
前投薬
インフュージョンリアクションを防ぐために、felzartamab群に割り当てられた患者は、最初の2回のfelzartamab点滴(0日目、14日目)の前に静脈内前投薬を受ける。プラセボ群の患者は、プラセボ(0.9%NaCl溶液)を受ける。前投薬を、felzartamab点滴の30分前に投与し、それぞれジフェンヒドラミン(30mg)、パラセタモール(1000mg)、及びプレドニゾロン(100mg)から成る(各々100mL体積中)。プラセボ群では、患者は、3×100mL NaCl0.9%を受ける。
【0134】
本研究中、以下の薬物を禁止する。
リツキシマブ、エクリズマブ、プロテアソーム阻害剤、IVIG、血漿交換又は免疫吸着、ダラツムマブ(Darcalex(登録商標))若しくはトシリズマブ(RoActemra(登録商標)/Actemra(登録商標))などの市販のCD38又は抗IL-6/sIL-6Rモノクローナル抗体薬を含む他の治験薬/治療。
【0135】
本研究中、以下の併用薬物は容認される。
カルシニューリン阻害薬(CNI、タクロリムス又はシクロスポリンA)、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害薬(エベロリムス又はラパマイシン)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)/ミコフェノール酸ナトリウム、低用量副腎皮質ステロイドでの長期治療(プレドニゾロン5mg/日)。
【0136】
ベースライン免疫抑制:遅発型ABMRと診断されると、カルシニューリン阻害薬[タクロリムス若しくはシクロスポリンA(CyA)]又はmTOR阻害薬(エベロリムス若しくはラパマイシン)を用いるが、アザチオプリン若しくはミコフェノール酸(MPA)を用いない治療の全てのレシピエントは、免疫抑制の低下を避けるために、ミコフェノール酸モフェチル(又は代わりに、腸溶性ミコフェノール酸(EC-MPA)を、最初は1日当たり2×500mg(又はそれぞれ2×360mg)の投与量で受け、耐容性を示した場合段階的に1日当たり2×1000mg(又は2×720mg)に増やす。タクロリムスは、5~10ng/mLの、CyAは、80-120ng/mLの標的トラフレベルに達するよう調整される。ステロイド薬をやめさせたレシピエントは、低用量のプレドニゾロンを受ける(5mg/日)。
【0137】
1.4 有効性評価
本治験の主要な目的は、12か月間にわたり6か月の治療過程の安全性、薬物動態及び薬力学(末梢血PC及びNK細胞の枯渇)を評価することである。さらに有効性についてのデータ(拒絶の悪化/活性、血液バイオマーカー)及び移植片機能不全の臨床的進行を反映するパラメーターと治療との潜在的な関連性(例えばIrish,Wら、2020, Transplantationに記載される腎機能の経過又は Loupy,Aら、BMJ,366:l4923,2019に記載されるiBOXスコアなど)を提供する。
【0138】
【0139】
主要なエンドポイント(表2を参照する)には、安全性及び忍容性、DSAの経過(並びに平行して総Ig及びIgGサブクラスレベル)、PC、NK細胞、並びにT及びB細胞亜集団の末梢血中の数の動態(FACSによって評価した)、並びに拒絶のバイオマーカー(血液及び尿中のCXCL9及びCXCL10)並びに全体的免疫抑制(トルクテノウイルス負荷量)が含まれる。さらに、6か月及び12か月の腎移植生検により、6か月及び12か月での生検における病原性に基づく転写物(PBT)スコア(細胞障害性T細胞浸潤、γ-インターフェロン効果、ナチュラルキラー細胞負荷、上皮細胞損傷)を含む、形態学的(拒絶及び慢性傷害、補体活性化/沈着を検出するための免疫組織化学及びNK細胞を含む細胞性浸潤物の特徴づけのBanff基準)及び分子的拒絶基準(分子状ABMRスコア、Molecular Microscope(登録商標)診断システムを用いたマイクロアレイ解析)を評価する。臨床エンドポイントは、蛋白尿並びにeGFRの勾配及びiBox臨床予測スコアであり、両方とも長期的な移植生着を正確に予測する確認されたサロゲートエンドポイントである。
【0140】
実施例2:実験方法
2.1 HLA抗体検出
HLA抗体レベルを評価するために、発表されたプロトコル(Doberer,Kら、;J Am Soc Nephrol)に従った研究の完了後に血清サンプルを評価する。手短に言うと、LABscreen single-antigenフロービーズアッセイ(One Lambda)を抗体検出に適用する。補体干渉を防ぐために血清サンプルを10mM EDTAとインキュベーションする。データ取得は、LABScanTM 200 flow analyzer(Luminex Corporation)により実行する。DSA/HLA抗体レベルの長期的解析については、試験結果の日々の変化の影響を避けるためにビーズアッセイを後ろ向きに行う。ドナー特異性は、血清学的及び/又は低若しくは高解像度ドナー/レシピエントHLA-タイピング(HLA-A、-B、-Cw、-DR、-DQ、-DP).に従って定義する。試験結果は、免疫優性DSAの平均蛍光強度(MFI)として記述する。MFI閾値>1,000を陽性とみなす。felzartamab治療のDSAレベルに対する影響を、MFIのパーセント変化により推定する。DSAレベルの変化をより正確に定量化するために、本方法の後にDoberer Kら、2020,Transplantationに記載されるさらなる希釈実験を実行する。簡単に言えば、未加工DSA MFIレベル(免疫優性DSA)に基づく非線形検量線を、治療開始前及び24週目に集めた個々の患者の血清の段階希釈により取得する。コンピュータ処理した検量線によれば、抗体レベルの倍率変化を、ついで無希釈の12週、24週、及び52週のサンプルについて同一の実験で検出したDSA MFIレベルから算出する。
【0141】
2.2 免疫グロブリンレベル
血清中の総IgG、IgM及びIgGサブクラスを、BN(商標)II analyzer(Siemens Healthineers)で免疫比濁法を適用して評価する。
【0142】
2.3 移植生検
凝固異常又は80%以下の血小板数を除外した後、24及び52週(研究終了時の来診)に経過観察生検を実行する。生検は、局所麻酔(リドカイン)下超音波ガイド下経皮的手法を用いて実行する。組織形態学は、パラフィン包埋切片上で標準的な方法論を適用して評価する。包埋した組織ブロックは、日常的な評価及び拒絶を段階分けするために、連続切片作製(5mm厚)、ヘマトキシリンエオシン染色及び過ヨウ素酸シッフ染色を受ける。免疫組織化学的C4d染色のために、ポリクローナル抗C4d抗体(BI-RC4D,Biomedica)を用い、Banffスキーム後(Loupy,Aら、2020,American Journal of Transplantation:ajt.15898)、尿細管周囲毛細血管に沿った最小免疫組織化学的染色(C4d Banffスコア≧1)を陽性とみなす。生検はまた、傍尿細管毛細血管基底膜の多層化病変(MLPTC)を検出するために電子顕微鏡によっても評価する。さらに、全ての生検は、Banffスキームによっても提案されるマイクロアレイを用いて、国際的に確認されたMolecular Microscope(登録商標)診断システムMMDxプラットフォームを用いて分析する。拒絶反応[ABMR、T細胞関連型拒絶反応(TCMR)、全ての拒絶反応]、炎症(global disturbance score)又は慢性傷害(萎縮症/線維症スコア)と関連する機械学習由来の病変に基づく分類に基づく徹底的に確認された分子スコアを、1529件の生検の参照集合を用いて生成する。Banff 2019スキームに従ったABMRの分類のために、全ての生検結果を、分子結果の面に関して解析する。ABMRを、形態学的(組織形態学、免疫組織化学、電子顕微鏡)及び徹底的に確認された分子基準:(i)急性又は慢性組織傷害の証拠、(ii)現在/最近の血管内皮との抗体相互作用の証拠、及び(iii)DSAの血清学的証拠の両方に基づいて定義する。
【0143】
2.4 腎機能
eGFRを、慢性腎臓病-疫学共同研究[CKD-EPI]式を用いて評価する(mL/min/1.73m)。タンパク排泄を、スポット尿中タンパク質/クレアチニン比(mg/g)として記述する。
【0144】
2.5. 拒絶反応の免疫性バイオマーカー
ケモカイン検出では、Muhlbacher,Jら、(2020,Front Med,7:114)によって記載されるルミネックスに基づくプロトコルを用いる。ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド(CXCL)9及びCXCL10の定量化では、補体干渉を防ぐよう血清サンプルを10mM EDTAに調整する。無希釈サンプルを、製造業者の説明書にしたがって多重Human ProcartaPlex Simplexイムノアッセイ(Thermo Fisher Scientific)を用いて2回測定する。イムノアッセイは、Luminex 200機器(Luminex Corp.)で実行する。尿の結果をクレアチニン排泄に正規化し、pg(ケモカイン)/mg(クレアチニン)として表す。進行中の移植片損傷の程度を示すレシピエントの血漿サンプル中のdd-cfDNAレベルを、Illumina MiSeqシーケンサー(Illumina Inc)での次世代シーケンシングによって検出される既定セットの一塩基多型の検出に基づく、標準技術を用いて検出する。
【0145】
2.6 免疫細胞モニタリング及び白血球亜集団
慢性抗体関連型拒絶の根底にあるメカニズム、特に末梢性T及びB細胞サブセットの役割は、充分に明らかにされていない。したがって、felzartamabでの治療のもと免疫表現型を前向きに監視することは、CD38を標的とする場合の免疫調節経路の影響を解明するための有望な手法である。さらに、形質細胞及びNK細胞数を評価すると、抗CD38抗体の薬力学効果を監視することが可能となる。白血球(亜)集団の監視では、表現型決定用の再現性のある免疫モニタリングパネルを用いる(例えばフローサイトメトリー用のDuraClone(登録商標))。DuraCloneキットの既定のアッセイチューブには、既製の乾燥抗体パネルを含む層が含まれる。1チューブ当たり最大10種類の異なるモノクローナル抗体があるので、全血サンプル中に存在する白血球(例えばT細胞、B細胞、NK細胞サブセット)亜集団を同定できる。
【0146】
免疫細胞の監視では、血液、リンパ節、骨髄、脾臓、及び移植組織由来の細胞を、LIVE/DEAD Fixable Aqua Dead Cell染色キット(Life Technologies)で染色する。ついで細胞を、以下のヒトに対するmAbs:CD3、CD4、CD8、CD14、CD20、CD25、CD27、CD28、CD38、CD56、CD95、CD127、CD159a、CD278(ICOS)、CD279(PD-1)、IgM、IgG、CXCR5、及び固定後はKi67及びFoxP3の1つ又は複数で染色する。サンプルをフローサイトメーターで回収し、CD38+B細胞及び形質細胞、CD8+T細胞及び/又はCD4+、CD25+、CD127-T細胞の割合を標準的なソフトウェア(例えばFlowJo v9.6.)を用いて解析する。
【0147】
2.7 遺伝子発現解析
遺伝子発現解析では、5mLの血液をPAXgene Blood RNAチューブに集め、レトロスペクティブ解析まで-80℃で保管した。これらのチューブは、超低温での長期保管中血液中のRNAを安定化するよう設計されている。遺伝子発現パターン解析(マイクロアレイ解析)を、felzartamabの抗体産生細胞に対する影響を評価するために末梢血で実行し、B細胞受容体シグナル伝達の一部としてアノテートされた遺伝子を解析する。
【0148】
2.8 トルクテノウイルス(TTV)の定量化
TTV解析では、NucliSENS easyMAGプラットフォーム(bioMerieux)を用いてDNAを血漿サンプルから抽出し、50μLの溶出バッファーに溶出する。TTV DNAを、例えばSchiemann,Mら、(2017,Transplantation,101:360-367)によって記載されるように、TaqManリアルタイムPCRによって定量化する。定量的PCRは、5μLの抽出したDNA、400nMの各プライマー、及び80nMのプローブを含有する2×TaqMan Universal PCR Master Mixを用いて25μLの体積で実行する。熱サイクルは、50℃で3分間から開始し、その後95℃で10分間、ついで95℃で15秒間、55℃で30秒間、及び72℃で30秒間を45サイクル、CFX96リアルタイムシステム(Bio-Rad)を用いて実行する。結果をコピー数/mLとして記録する。
【0149】
2.9 ワクチン力価の経過
ムンプス、麻疹及び風疹(MMR)に特異的な血清IgG力価を、標準的なELISA技術によって解析する。
【0150】
2.10 生体物質の収集(日常的モニタリング以外)
血漿(10mL;ケモカイン、TTV負荷)、血清(10mL;HLA抗体試験)、全血(10mL;フローサイトメトリー、遺伝子発現解析用のRNA)及び尿(10mL)を研究開始前(0日目)、6か月後及び12か月後(3×30mL末梢血)に収集する。最後に、felzartamab濃度及びADAの測定では、血清を来院毎に取得する(来院日当たり5mL末梢血、合計18回の来院)。
【0151】
実施例3:腎移植を受けた非ヒト霊長類のABMRを予防及び治療するためのMOR202の安全性及び有効性
3.1 実験NHPモデル
本研究は、高度に感作した非ヒト霊長類腎移植モデルのABMR及び急性移植後ABMRを予防する、MOR202に対する脱感作の安全性及び有効性を調べることである(Kwun J.ら、J Am Soc Nephrol.2019 Jul;30(7):1206-1219を参照する)。さらに、MOR202が反跳ドナー特異的抗体(DSA)及び遅発型/慢性ABMRを予防する長期的効果を評価する。
【0152】
3.1.1 CD38発現
レシピエント動物のBM、脾臓、リンパ節、及び血液由来の形質細胞のCD38発現レベル及びMOR202との交差反応性を分析する。貧血のリスクを推定するために赤血球のCD38発現レベルを確認する。
【0153】
3.1.2 MOR202での脱感作
同種感作では、Burghuber CK ら、Am J Transplant 19:724-736に記載されるように、2回の連続的な皮膚移植を8週間間隔で設置することによりオスのアカゲザル(Macaca mulatta)をMHC不適合のドナーに感作させる。2回目の皮膚移植のおよそ8~12週後に、サルを4週間、16mg/kgのMOR202で処置する。同種抗体レベルを測定する。脱感作レベルを、単独又は共刺激遮断と併せたプロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブ/カルフィルゾミブ)を用いる脱感作戦略(Kwun J.ら、Blood Adv.2017 Nov 14;1(24):2115-2119)の結果と比較する。薬物療法完了前後にCMV力価を測定する。免疫細胞の監視については、血液、リンパ節、骨髄、脾臓、及び移植組織由来の細胞をフローサイトメトリーにより評価する。
【0154】
3.1.3 脱感作療法後ABMRを予防及び治療するためのMOR202の有効性
動物は、同一の皮膚移植ドナーから腎移植を受け、rATG,タクロリムス、ステロイドでの抗拒絶免疫抑制に加えて4週間毎週MOR202も受ける。腎移植は、基本的にBurghuber CKら(Am J Transplant.2016;16(6):1726-1738)に記載される通りに実行する。形質細胞母集団の枯渇では、感作したアカゲザルを毎週MOR202で処置する。コントロール動物は、腎移植前に処置を受けなかった。CD38は、活性型B細胞及びT細胞集団を含む、造血細胞及び非造血細胞で発現されるので、循環B及びT細胞集団をFACSにより評価する。これらには、循環B細胞、IgG+B細胞、及びメモリーB細胞(IgG+CD27+CD20+)、並びにCD4及びCD8T細胞のナイーブ(CD28+CD95-)、セントラルメモリー(CD28+CD95+)、及びエフェクターメモリー(CD28-CD95int)サブセットが含まれる。
【0155】
腎生検を、1か月目、3か月目、6か月目及び屠殺時に採取し、(免疫)組織学により分析し、Banff基準に従ってスコア化する。その後移植後のドナー特異的抗体(DSA)を毎週測定する。血清クレアチニンの上昇を示す反跳DSAの動物も、1か月間MOR202で処置する。濾胞性ヘルパーT細胞、形質細胞(BM、LN、及び血液)、並びに形質芽球(血液及びLN)を含む、細胞性及び液性免疫応答を分析する。必要に応じて追加の腎移植生検を採取する。潜在性拒絶及びC4d沈着を監視するために、H&E、PAS及びC4d染色を実行する。
【0156】
3.1.4 DSAモニタリング
Burghuber CKら、 (Am J Transplant 19:724-736)によって記載されるように、ドナーリンパ球及びレシピエント血清を用いてフロークロスマッチによりDSAレベルを毎週連続的に測定する。手短に言うと、ドナーPBMC又は脾細胞をレシピエント血清とインキュベーションし、洗浄し、FITC標識抗サルIgG、抗CD20mAb及び抗CD3mAbで染色する。T細胞又はB細胞の抗サルIgGの平均蛍光強度(MFI)を測定し、感作前の時点からのMFI変化として表す。交差反応性抗体を検出するために、NHP血清同種抗体はまた、単一のHLA抗原ビーズ(LABScreen Single Antigen;One Lambda)を用いるヒト固相Luminexアッセイを用いて測定してもよい。
図1
図2
【配列表】
2024507986000001.app
【国際調査報告】