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特表2024-507994タンパク質CRM197のペリプラズム形態を産生する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】タンパク質CRM197のペリプラズム形態を産生する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20240214BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240214BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240214BHJP
   C07K 14/34 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N1/21
C12P21/02 A
C07K14/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552214
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2022054914
(87)【国際公開番号】W WO2022180265
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】BE2021/5137
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523324797
【氏名又は名称】エクスプレス バイオロジクス
(71)【出願人】
【識別番号】523324801
【氏名又は名称】クラヴァ ウロープ
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドーカン マルク
(72)【発明者】
【氏名】アヴェランジェ ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ユベルティ ステファーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ルドン フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス クリスチャン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG30
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC06
4B064CC07
4B064CC24
4B064CD09
4B064CE10
4B064DA01
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC02
4B065BC03
4B065BD14
4B065BD18
4B065CA24
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045CA11
4H045DA83
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、配列番号12のペリプラズム形態を産生するための方法、ペリプラズム空間への配列番号12の標的化を可能にする、配列番号12およびシグナルペプチド配列番号2をコードする発現ベクター、ならびに該発現ベクターによって形質転換された株に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴を有する、グラム陰性原核生物における発現ベクター:
(i)低コピー数複製起点(前記低コピー数は細胞あたり20以下のプラスミドコピー数によって定義される)、
(ii)外因性誘導剤により誘導可能なプロモーター配列、
(iii)リボソーム結合が減少するように修飾されたmRNA配列に対応する中強度のリボソーム結合部位、
(iv)配列番号12の全長と少なくとも95%の同一性を有するタンパク質をコードする配列、
(v)少なくとも95%の配列番号2との配列同一性を有するシグナルペプチドをコードする配列であって、前記シグナルペプチドが、ペリプラズム空間への前記配列番号12の標的化を可能にするように配置されている、配列。
【請求項2】
配列番号12の52位のグルタミン酸残基が保持されている、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項3】
誘導可能なプロモーター配列が、全長にわたって配列番号5と少なくとも95%の同一性を有し、T7ファージRNAポリメラーゼによって特異的に認識される、請求項1または請求項2に記載の発現ベクター。
【請求項4】
前記中強度のリボソーム結合部位が、配列番号6のコンセンサス配列によって、または1もしくは2もしくは3もしくは4もしくは5ヌクレオチドの付加および/または欠失および/または点突然変異を含む前記配列番号6のコンセンサス配列によって定義され、前記配列番号6が翻訳開始部位の上流に位置する、請求項1~3のいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の発現ベクターを含む大腸菌(E.coli)細菌の形質転換株。
【請求項6】
T7ファージRNAポリメラーゼの発現に必要な遺伝子以外のλDE3プロファージの欠失によって定義される大腸菌(E.coli)BL21株である、請求項5に記載の細菌の形質転換株。
【請求項7】
ペリプラズム空間において、その全長にわたって配列番号12と少なくとも95%の同一性を有するペプチドを産生するための方法であって、
(i)大腸菌(E.coli)株を、外因性作用物質によって誘導可能な前記配列番号12の発現を前記大腸菌(E.coli)のペリプラズム空間において可能にするベクターによって形質転換する工程と、
(ii)前記形質転換大腸菌(E.coli)株を実質的に一定の温度、例えば37℃±1℃および一定のpHにおいて、配列番号12が前記形質転換大腸菌(E.coli)株によって合成されない条件下で培養する工程と、
(iii)前記外因性作用物質の存在下および低温で所定の期間、前記ペリプラズム空間において配列番号12をゆっくりと制御された様式で合成および分泌する誘導期と、
(iv)任意選択的に、前記誘導期の後および冷却した後に培養物を回収する工程と、
(v)任意選択的に、前記ペリプラズム空間に配列番号12を含有する培養細菌を収集する工程と、
(vi)任意選択的に、前記細菌を含有する固体ペレットと、前記ペリプラズム空間の成分および配列番号12を含有する上清とを分離することを含む、前記配列番号12のペリプラズム抽出を行う工程と、
(vii)任意選択的に、前記配列番号12のタンパク質を精製する工程と、
を含む方法。
【請求項8】
前記大腸菌(E.coli)株が、T7ファージRNAポリメラーゼの発現に必要な遺伝子以外のλDE3プロファージの欠失によって定義されるBL21株である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
その全長にわたって配列番号12と少なくとも95%の同一性を有するペプチドの前記ペリプラズム空間における産生が、前記ペリプラズム空間において標的化シグナルペプチドによって提供され、前記シグナルペプチドが、少なくとも95%の配列番号2との配列同一性を有する、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記低温が23℃±0.5℃であり、および/または前記誘導期の前記所定の期間が15~25時間の間、好ましくは18~22時間の間、より好ましくは約20時間であり、および/または前記誘導期のpHが6.8~7.5の間、好ましくは7.0~7.2の間である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
外因性作用物質によって誘導可能な発現が、オン/オフ誘導系によって行われ、前記外因性作用物質がイソプロピル-β-D-1-チオガラクトピラノシドである、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記培養物および前記誘導期が抗生物質不使用である、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
発現ベクターが、細胞あたり20以下のプラスミドコピー数によって定義される低コピー数のものであり、および/またはリボソーム結合配列が中強度のものである、請求項7~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記配列番号12のタンパク質の精製が、以下の連続工程:
(i)任意選択的に、少なくとも1つの濾過工程、好ましくは2つの濾過工程によって、前記ペリプラズム空間の成分および前記タンパク質を含有する前記ペリプラズム抽出物由来の前記上清を清澄化し、配列番号12を含む濾液を回収する工程と、
(ii)保持されるべき画分中の配列番号12および除去されるべき1つ以上の画分中の汚染物質を回収するように構成された一連のクロマトグラフィー工程と、
(iii)任意選択的に、残留エンドトキシンを除去する工程と、
(iv)任意選択的に、保持されるべき配列番号12を含むエンドトキシン非含有画分を滅菌する工程と、
を含む、請求項7~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
大腸菌(E.coli)細菌の前記ペリプラズム空間における目的のタンパク質の産生を最適化するようにシグナルペプチドを選択するための方法であって、以下の特徴を有する方法:
-試験される前記シグナルペプチドと共に配置された、前記目的のタンパク質の発現を制御する、配列番号7と少なくとも95%の配列同一性を有するラムノース誘導性プロモーターを含む遺伝子構築物が生成され、
-前記大腸菌(E.coli)が前記遺伝子構築物で形質転換され、
-前記形質転換大腸菌(E.coli)のいくつかの並行培養物が、ラムノース非含有培養培地中で産生され、
-前記形質転換大腸菌(E.coli)が前記目的のタンパク質の発現の誘導が低くなるように、所定の濃度のラムノースの存在下で培養され、前記形質転換大腸菌(E.coli)の別の培養物が前記目的のタンパク質の発現の誘導が高くなるように、別の所定の濃度のラムノースの存在下で培養され、ならびに
-前記ペリプラズム空間における前記目的のタンパク質の存在量が比較され、任意選択的に、プラスミド喪失、細菌バイオマスの減少、サイトゾル凝集体または分解産物の形成および前記シグナルペプチドの部分的切断からなる群から選択される代謝に対する有害作用が定量され、ならびに
-前記シグナルペプチドが、前記ペリプラズム空間における前記目的のタンパク質の存在量に従って、および任意選択的に、過度に高い有害作用に関連するシグナルペプチドを拒絶することによって選択される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質CRM197のペリプラズム形態を産生するための方法、ペリプラズム空間へのタンパク質CRM197の標的化を可能にする、タンパク質CRM197およびシグナル配列OmpCをコードする発現ベクター、ならびに該発現ベクターによって形質転換された株に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質CRM197、交差反応材料、またはCRMは、例えば、コンジュゲートワクチンの担体タンパク質として使用され得る。コンジュゲートワクチンは、抗原に対するより強い応答を得るために、わずかに免疫原性の抗原を、免疫系によって認識されるTエピトープを有する「担体」タンパク質と組み合わせるタイプのワクチンである。
【0003】
CRM197は、ジフテリア毒素の非毒性変異タンパク質である。これは、免疫原性応答を可能にするために、多糖類などのハプテンのための担体タンパク質として使用される。ハプテンは、タンパク質担体と組み合わせると、体液性免疫応答を生成するのに十分な抗原性を生じる抗原の成分の1つである。
【0004】
タンパク質CRM197は、52位のグリシンをグルタミン酸で置換することにより、天然毒素のADP-リボシルトランスフェラーゼ活性を消失させ、非毒性にした解毒形態のジフテリア毒素である。タンパク質CRM197は、58.4kDaの分子量を有する535アミノ酸の単鎖ポリペプチドを含む。
【0005】
CRM197遺伝子は最初に、ジフテリアを引き起こし、天然毒素を有する病原性細菌であるコリネバクテリウム・ジフテリアエ(Corynebacterium diphtheriae)にクローニングされた。天然の毒素として、CRM197はごくわずかに分泌される。結果として、他の細菌においてタンパク質CRM197を産生するための多大な努力がなされてきた。
【0006】
今日、タンパク質CRM197は、いくつかのコンジュゲートワクチンにおいて担体タンパク質として使用されている。例えば、1990年にFDA(食品医薬品局)によって承認された、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophius influenzae)b型に対する防御用ワクチンであるHibtiter(商標)は、担体タンパク質としてタンパク質CRM197を使用し、ハプテンが糖である最初のコンジュゲートワクチンであった。
【0007】
タンパク質CRM197はまた、EGFファミリーのメンバーであるHB-EGF(ヘパリン結合上皮成長因子様成長因子)に対する結合部位を有する。このEGF受容体は多数のがん細胞において過剰発現されるので、文献は、タンパク質CRM197が標的化抗がん療法における潜在的因子としても使用され得ることを示している。
【0008】
したがって、タンパク質CRM197の工業生産の需要が増加している。
【0009】
残念なことに、CRM197を産生することになると、大腸菌(E.coli)BL21細菌の天然野生型株においてタンパク質CRM197の高い安定した発現レベルを達成することは依然として困難である。タンパク質CRM197の不溶性形態は、大腸菌(E.coli)での発酵によって比較的高いレベルで産生されることができるが、タンパク質のこの不溶性形態のごくわずかな部分のみが可溶性形態に変換され得る。
【0010】
大腸菌(E.coli)のK12株におけるタンパク質CRM197の産生は、欧州特許第3113800号明細書から公知である。この文献は、大腸菌(E.coli)宿主細胞において組換えタンパク質CRM197を産生するための方法に関する。いくつかの実施形態では、この方法は、組換えタンパク質CRM197の発現に適した条件下で、発現制御配列に作動可能に連結されたタンパク質CRM197をコードする核酸配列を含む発現ベクターを含むゲノムが減少した大腸菌(E.coli)株をインキュベートすることを含む。大腸菌(E.coli)の野生型株、例えばBL21における産生と比較して、欧州特許第3113800号明細書によるゲノムが減少した大腸菌(E.coli)宿主細胞において、CRM197収量の有意な増加が得られる。
【0011】
欧州特許第3170837号明細書は、ペリプラズム発現によって細菌毒素を産生するための改善された方法であって、a)特定のシグナルペプチド配列が細菌毒素の配列に連結されている発現ベクターを含有する細菌宿主細胞の培養物を増殖させる工程、およびb)細菌毒素がペリプラズムにおいて発現および分泌されるように、細菌毒素に連結された特定のシグナルペプチド配列を含有するポリペプチドの発現を誘導する工程、を含む方法を提供する。
【0012】
欧州特許第2445930号明細書は、微生物コリネバクテリウム・ジフテリアエ(Corynebacterium diphtheriae)を使用する代替としての、タンパク質CRM197および類似のタンパク質を産生する方法を提供する。この文献に記載の手順によれば、目的のタンパク質は、基礎研究および医学治療用途の両方のために大量に得られることができる。
【0013】
欧州特許第3444269号明細書は、ラムノース異化作用が欠損した大腸菌(E.coli)株においてジフテリア毒素ポリペプチドを産生するための発現系を記載している。この文献は、ラムノース誘導性プロモーター配列を含む発現系、およびシグナル配列を有する第1の部分とジフテリア毒素配列を含む第2の部分とを含む発現系を記載している。
【0014】
一方、国際公開第2011/126811号パンフレットは、シュードモナス属(Pseudomonas)において組換えタンパク質を産生する方法を記載している。
【0015】
Philippe Goffin et al.,Biotechnol.J.2017,12,1700168,DOI 10.1002/biot.201700168は、微生物の増殖とタンパク質CRM197の産生とを切り離すことにより、タンパク質CRM197のペリプラズム産生を促進し得ることも示している。
【0016】
残念なことに、いくつかの文献はそれらの技術の長所を称賛しているが、現在、工業生産の規模にかかわらず、容易に利用可能であり、工業的に有益なCRM197を産生するための方法は市場に存在しない。
【0017】
したがって、タンパク質CRM197の可溶性形態の高い安定した発現レベルを可能にする代替ベクターおよびこのベクターによって形質転換された代替株、ならびに工業的に使用されることができ、市場全体にアクセス可能であるようにタンパク質CRM197を精製する単純な方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許第3113800号明細書
【特許文献2】欧州特許第3170837号明細書
【特許文献3】欧州特許第2445930号明細書
【特許文献4】欧州特許第3444269号明細書
【特許文献5】国際公開第2011/126811号パンフレット
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Philippe Goffin et al.,Biotechnol.J.2017,12,1700168,DOI 10.1002/biot.201700168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
タンパク質CRM197に対する世界的な需要の増加を考えると、このタンパク質の産生に伴う1つの再発する問題は、市場全体にアクセス可能な産生コストを達成するために、経時的に安定であり、可能な限り単純である高い産生収率を得ることである。
【0021】
これらの欠点および困難を軽減するために、本発明は、経時的に安定であり、タンパク質CRM197(配列番号12)の合成速度と分泌速度との比が最適化された高い発現収率を可能にする発現系、ならびに配列番号12が商業的に使用され、その後のワクチンまたは標的療法の開発のためのタンパク質/ペプチドとして利用可能となる精製収率を提供する。
【0022】
最初に、本発明者らは、下流の精製工程に有利である酵母において配列番号12を産生しようとしたが、残念ながら、これは機能しなかった。
【0023】
同様に、本発明者らは、大腸菌(E.coli)またはそのペリプラズム空間において配列番号12の大量合成を可能にするために、非常に高いコピーレベルを有するかまたは最適なプロモーターを有するプラスミドを使用した。これは機能しなかった。
【0024】
様々な予備工程の後、本発明者らは、大規模に使用されるのに十分に高いが、大腸菌(E.coli)における凝集を回避するために高すぎない、十分に較正されたレベルを有する発現系が、大腸菌(E.coli)のペリプラズム空間に必要とされると結論付けた。
【0025】
これを行うために、上記の多くの問題を特定して、本発明者らは、最良の遺伝子構築物(転写制御、翻訳制御、ペリプラズム標的化配列)を含む最良の培養および産生条件を積極的に探求した。
【課題を解決するための手段】
【0026】
より具体的には、本発明は、以下の特徴を有する、グラム陰性原核生物における発現ベクターを提供する:
(i)低コピー数の複製起点(低コピー数は細胞あたり20以下のプラスミドコピー数によって定義される)、
(ii)外因性誘導剤により誘導可能なプロモーター配列、
(iii)リボソーム結合が減少するように修飾されたmRNA配列に対応する、中強度のリボソーム結合部位、
(iv)配列番号12の全長と少なくとも95%の同一性を有するタンパク質をコードする配列、
(v)少なくとも95%の配列番号2との配列同一性を有するシグナルペプチドをコードする配列であって、前記シグナルペプチドが、ペリプラズム空間への配列番号12の標的化を可能にするように配置されている、配列。
【0027】
有利には、配列番号12の52位のグルタミン酸残基が保持される。配列番号12の52位の天然グリシンをグルタミン酸で置換する変異は、解毒された配列番号12ペプチドを提供する。
【0028】
特に有利には、誘導可能なプロモーター配列は、全長にわたって配列番号5と少なくとも95%の同一性を有し、T7ファージRNAポリメラーゼによって特異的に認識される。
【0029】
好ましくは、中強度のリボソーム結合部位は、配列番号6のコンセンサス配列によって、または1もしくは2もしくは3もしくは4もしくは5ヌクレオチドの付加および/または欠失および/または点突然変異を含む配列番号6のコンセンサス配列によって定義され、配列番号6は翻訳開始部位の上流に位置する。
【0030】
本発明はまた、発現ベクターを含む大腸菌(E.coli)細菌の形質転換株に関する。大腸菌(E.coli)BL21 T7XB株は、Xpress Biologicalsに代わってBCCM、「Belgian Co-ordinated Collections of Micro-organisms」、Ghentへ23/12/2020に参照番号LMBP 12507として寄託された。
【0031】
大腸菌(E.coli)BL21 T7XB細菌の形質転換株は、細胞あたり1~20の間のプラスミドコピー数によって定義される低コピー数複製起点と、中強度のリボソーム結合部位とを含む、すなわちリボソーム結合が減少するようにmRNA配列が修飾されている発現ベクターにより、配列番号12の発現レベルと分泌との間に非常に良好な比を得ることが可能になり、経時的に安定でありながら高い産生収率を確実とする。
【0032】
好ましくは、T7ファージRNAポリメラーゼの発現に必要な遺伝子以外のλDE3プロファージの欠失によって定義される大腸菌(E.coli)BL21細菌の株:大腸菌(E.coli)BL21(ΔDE3)または大腸菌(E.coli)BL21 T7XB。この欠失の利点は、プロファージ再活性化のリスクがなく、交差汚染のリスクなしに産生に大きな柔軟性を提供し、高いプラスミド安定性を提供することである。
【0033】
本発明はまた、ペリプラズム空間において、その全長にわたって配列番号12と少なくとも95%の同一性を有するペプチドを産生するための方法であって、以下を含む方法に関する:
(i)大腸菌(E.coli)株を、外因性作用物質によって誘導可能な配列番号12の発現を形質転換された大腸菌(E.coli)株のペリプラズム空間において可能にするベクターによって形質転換する工程、
(ii)形質転換大腸菌(E.coli)株を実質的に一定の温度、例えば37℃±1℃および一定のpHにおいて、配列番号12が形質転換大腸菌(E.coli)株によって合成されない条件下で培養する工程、
(iii)有利には毒性、代謝過負荷および/または分泌経路の飽和を減少させるために、前記外因性作用物質の存在下および低温で所定の期間、前記ペリプラズム空間において配列番号12をゆっくりと制御された様式で合成および分泌する誘導期、
(iv)任意選択的に、誘導期の後および例えば15℃±0.5℃に冷却した後に培養物を回収する工程、
(v)任意選択的に、ペリプラズム空間に配列番号12を含む培養細菌を収集する工程、
(vi)任意選択的に、前記細菌を含有する固体ペレットと、前記ペリプラズム空間の成分および配列番号12を含有する上清とを分離することを含む、配列番号12のペリプラズム抽出を行う工程、ならびに
(vii)任意選択的に、配列番号12のタンパク質を精製する工程。
【0034】
したがって、本発明は、温度およびpHが誘導期全体にわたって実質的に一定のままである安定かつ十分な発現のために最適化された配列番号12の産生方法を提供し、これにより産生方法を簡素化し、エラーのリスクを最小化し、また産生コストの観点から最適な収率を保証する。実質的に一定の温度は、形質転換大腸菌(E.coli)株の最適な増殖代謝に適合する温度である。
【0035】
好ましくは、大腸菌(E.coli)株は、T7ファージRNAポリメラーゼの発現に必要な遺伝子以外のλDE3プロファージの欠失によって定義されるBL21株である。
【0036】
有利には、その全長にわたって配列番号12と少なくとも95%の同一性を有するペプチドのペリプラズム空間における産生は、ペリプラズム空間において標的化シグナルペプチドによって提供され、該シグナルペプチドは、少なくとも95%の配列番号2との配列同一性を有する。
【0037】
好ましくは、誘導期の低温は23℃±0.5℃であり、および/または所定の時間は15~25時間の間、好ましくは18~22時間の間、より好ましくは約20時間であり、および/または誘導期のpHは6.8~7.5の間、好ましくは7.0~7.2の間である。
【0038】
好ましくは、外因性作用物質によって誘導可能な発現は、オン/オフ誘導系によって行われ、該外因性作用物質はイソプロピル-β-D-1-チオガラクトピラノシドである。イソプロピル-β-D-1-チオガラクトピラノシドは、IPTGとしても知られている。
【0039】
有利には、培養および誘導期は、カナマイシン、アンピシリン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコールまたはテトラサイクリンなどの抗生物質を使用しない。
【0040】
好ましくは、発現ベクターは、細胞あたり20以下のプラスミドコピー数によって定義される低コピー数のものであり、および/またはリボソーム結合配列は中強度のものである。
【0041】
有利には、配列番号12のタンパク質の精製は、以下の連続工程を含む:
(i)少なくとも1つの濾過工程、好ましくは2つの濾過工程によって、ペリプラズム空間の成分および配列番号12のタンパク質を含有する前記ペリプラズム抽出物由来の上清を清澄化し、配列番号12を含む濾液を回収する工程、任意選択的に、
(ii)保持されるべき画分中の配列番号12および除去されるべき1つ以上の画分中の汚染物質を回収するように構成された一連のクロマトグラフィー工程、
(iii)任意選択的に、残留エンドトキシンを除去する工程、ならびに
(iv)任意選択的に、保持されるべき配列番号12を含むエンドトキシン非含有画分を滅菌する工程。
【0042】
有利には、ペリプラズム抽出は浸透圧ショックによるペリプラズム抽出である。
【0043】
好ましくは、ペリプラズム抽出は以下の工程を含む:
(i)収集された細菌によって形成されたペレットを高張液に懸濁して、細菌の高張懸濁液を形成する工程、
(ii)前記細菌の高張懸濁液を拡散リングを介して移送管および第1のポンプによって第2の混合容器に移送する工程、
(iii)移送管および第2のポンプによって前記混合容器に低張液を供給して、前記第2の混合容器内の高張懸濁液中の細菌に浸透圧ショックを生じさせ、浸透圧ショックがペリプラズム空間の内容物を前記第2の混合容器の溶液中に放出する工程、
(iv)前記第2の容器内の細菌の懸濁液中の細菌の滞留時間が10秒~1分、より好ましくは約30秒であり、前記第2の容器内の混合物の体積が一定に保たれるように、混合物をチューブおよび第3の蠕動ポンプによって排出する工程。
【0044】
好ましくは、一連のクロマトグラフィー工程は、陰イオン交換樹脂での第1のクロマトグラフィーおよび疎水性樹脂での第2のクロマトグラフィーを含む。
【0045】
最後に、本発明は、大腸菌(E.coli)細菌のペリプラズム空間における目的のタンパク質の産生を最適化するようにシグナルペプチドを選択するための方法であって、以下の特徴を有する方法に関する:
-試験されるシグナルペプチドと共に配置された、前記目的のタンパク質の発現を制御する、配列番号7と少なくとも95%の配列同一性を有するラムノース誘導性プロモーターを含む遺伝子構築物が生成され、
-大腸菌(E.coli)細菌が前記遺伝子構築物で形質転換され、
-前記形質転換大腸菌(E.coli)細菌のいくつかの並行培養物が、ラムノース非含有培養培地中で産生され、
-前記目的のタンパク質の発現の誘導が低くなるように、所定の濃度のラムノースの存在下で前記形質転換大腸菌(E.coli)細菌が培養され、前記形質転換大腸菌(E.coli)細菌の別の培養物が前記目的のタンパク質の発現の誘導が高くなるように、別の所定の濃度のラムノースの存在下で培養され、ならびに
-ペリプラズム空間における前記目的のタンパク質の存在量が比較され、任意選択的に、プラスミド喪失、細菌バイオマスの減少、サイトゾル凝集体または分解産物の形成およびシグナルペプチドの部分的切断からなる群から選択される代謝に対する有害作用が定量され、ならびに
-シグナルペプチドが、ペリプラズム空間における前記目的のタンパク質の存在量に従って、および任意選択的に、過度に高い有害作用に関連するシグナルペプチドを拒絶することによって選択される。
【0046】
代謝に対する有害作用は、例えば、プラスミド喪失、細菌バイオマスの減少、サイトゾル凝集体または分解産物の形成およびシグナルペプチドの部分的切断などのいくつかの有害作用が考慮に入れられて、シグナルペプチドと目的のタンパク質のペアリングに関連するスコアを確立することによって定量される。目的のタンパク質のペリプラズム発現の通常のプロセスでは、この目的のタンパク質に関連するシグナルペプチドは、ペリプラズム空間への輸送中に切断される。したがって、シグナルペプチドの部分的切断は、目的のタンパク質の機能性に望ましくない変化を引き起こす可能性がある。
【0047】
本発明の他の特徴、詳細および利点は、非限定的であり、添付の図面を参照する以下の説明から明らかになると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】発酵によって配列番号12のタンパク質を産生する様々な工程を示す。
図2】配列番号12のタンパク質を精製する様々な工程を示す。
図3】様々な発現ベクターを接種した大腸菌(E.coli)BL21(DE3)培養物の600nmにおける光学密度測定を使用して、配列番号12のタンパク質の発現を示す。プラスミドpD431:低プラスミドコピー数、プラスミドpD451:高プラスミドコピー数。MR:中程度のリボソーム結合強度、SR:高いリボソーム結合強度。誘導型:非誘導培養物(黒い点のカラム)、IPTGで誘導された培養物(垂直線のカラム)、またはラクトースで自己誘導された培養物(水平線のカラム)。右側の最後の3つのカラム:同じ誘導条件での陽性対照。
【発明を実施するための形態】
【0049】
発現ベクターpLM7-OC-CRMによって形質転換された大腸菌(E.coli)BL21 T7XB株(図1の工程I)は、37℃±0.5℃の一定温度および7.0±0.2の一定pHで培養された。
【0050】
より詳細には、発現ベクターpLM7-OC-CRMによって形質転換された大腸菌(E.coli)BL21株の37℃±0.5℃の一定温度(図1の工程II~IV)(続く誘導時には23±0.5℃の一定温度および7.0+0.2の一定pH(図1の工程V))における培養は、3つの連続する工程からなる:
(i)振盪フラスコ内での前培養(図1の工程II)、
(ii)バイオリアクターにおける「バッチ」モードでの増殖(図1の工程IIIおよびIV)、
(iii)バイオリアクターにおける「フェドバッチ」モードでの増殖(図1の工程IIIおよびIV)。
【0051】
バイオリアクターは、例えば、50Lのバイオリアクターであり、35LのGYPSCI培地、グリセロールおよび酵母抽出物が0.2μmの滅菌フィルターを介して供給される。
【0052】
バイオリアクターにおける「フェドバッチ」モードでの増殖は、溶存酸素レベルが飽和度30%以上になるように酸素を供給し、絶えず撹拌しながら行う。
【0053】
「バッチ」培養および「フェドバッチ」培養の両方が、好ましくは消泡剤の存在下で行われる。
【0054】
ベクターpLM7-OC-CRMによってコードされる配列番号12の誘導発現、およびペリプラズム空間における配列番号12の分泌が完了すると、次いで、培養物は15℃±0.5℃に冷却した後に回収される(図1の工程VIおよびVII)。培養後、遠心分離によってペリプラズム空間に配列番号12を含む細菌を収集する(図1の工程VII)。
【0055】
次いで、配列番号12の精製に関連して、分離された細菌から形成された細胞ペレットは低温、例えば-20℃またはさらに低い温度で保存される(図2の工程VII)。次いで、収集された細菌はペリプラズム抽出のための基本材料として使用される(図2の工程VIIIおよびIX、実施例4を参照されたい)。ペリプラズム空間の成分および配列番号12を含有する清澄化された上清は上記のように精製される(図2の工程X~XIV)。より具体的には、一連のクロマトグラフィー工程は、陰イオン交換樹脂での第1のクロマトグラフィー(図2の工程XI)および疎水性樹脂での第2のクロマトグラフィー(図2の工程XII)を含む。
【0056】
有利には、続く濾過工程は限外濾過工程(図2の工程XIV)である。限外濾過方法の第1の工程は、配列番号12を約4.5mg/mLに濃縮することからなり、第2の工程は、濃縮された保持液を10倍体積の製剤緩衝液(formulation buffer)(15mM リン酸緩衝液、5%スクロース、pH7.35)で透析濾過することからなる。配列番号12を保持することができる最も高い「カットオフ」値を有する繊維に対応するので、30kDaの中空繊維が選択された。
【0057】
配列番号12の純度を改善することが望まれる場合、残留エンドトキシンを除去する追加の工程は、より具体的にはそのコーティング中に四級アンモニウム基を含有する膜上で実施されることができる(図2の工程XIII)。
【実施例
【0058】
実施例1.-発現ベクターの調製
大腸菌(E.coli)によるペリプラズム発現を可能にするベクターを選択するために、いくつかのシグナルペプチドがラムノース誘導性ベクター内の配列番号12のN末端に融合された。これらの様々な組み合わせで大腸菌(E.coli)BL21(DE3)を形質転換した後、各クローンにおける配列番号12の発現が様々なラムノース濃度について、したがって様々な誘導レベルについて免疫ブロット分析によって評価された。
【0059】
配列番号12-シグナルペプチド(CRM197-シグナルペプチド)の組み合わせを選択するために3つの基準が考慮に入れられた:これは、IPTGによる誘導後に発現について試験される:(1)配列番号12に対応し、約58kDaの見かけの分子量を有するバンドの強度、(2)分泌経路の飽和を示すシグナルペプチド(約60kDaの見かけの分子量)を依然として保有する配列番号12がないか、または割合が低い、(3)凝集産物または分解産物(97kDa超または14~58kDaの間の見かけの分子量を有するバンド)が存在しないかまたは低い。
【0060】
選択マトリックスが作成され、IPTGによる誘導後に発現について試験されるシグナルペプチド-配列番号12の組み合わせを選択した。表1は、3つの基準および3つの誘導レベルについて得られたスコアを乗算することによって計算された、スコアの割り当てならびに累積スコアを示す。最高累積スコアは、細胞質内の配列番号12の非存在下、および分解または凝集なしで、最大量のペリプラズムの配列番号12を発現する構築物を表す。
【0061】
構築物TorT-配列番号12のスコアは、11mM以外では他の変異体よりもはるかに高いが、分泌中のシグナルペプチドの切断は、配列番号12のタンパク質のN末端の始めに追加のアラニン残基を残す。産生された配列番号12の同一性は100%ではなく、本発明者らはこの変異体を廃棄した。IPTG誘導性ベクターでスクリーニングするために2つの候補が選択された:配列番号9-配列番号12(OmpA-CRM197)および配列番号2-配列番号12(OmpC-CRM197)。
【0062】
表1:シグナルペプチド-配列番号12(CRM197)の組み合わせを選択するために使用されるマトリックス
【表1】
【0063】
免疫ブロット(ウエスタンブロット)結果に基づいて割り当てられたスコア(1-2-3):
・S1:基準1についてのスコア:配列番号12に対応するバンドの強度。
・S2:基準2についてのスコア:シグナルペプチドを未だ保有しているタンパク質がない/割合が低いこと。
・S3:基準3についてのスコア:凝集産物または分解産物が存在しない/低いこと。
【0064】
ペプチド-配列番号12の両方の選択された組み合わせが一連のIPTG誘導性ベクターにサブクローニングされ、i)複製起点(コピー数)、ii)リボソーム結合部位の強度、iii)RNAポリメラーゼのタイプ、大腸菌(E.coli)BL21宿主のT5またはBL21(DE3)株のT7ファージ、およびiv)IPTG誘導剤の濃度、が評価された。
【0065】
図3は、異なるプラスミドコピー数(<20および~500コピー)、リボソーム結合強度(mRNA配列修飾後の中程度の結合および強い結合)ならびに配列番号2のシグナルペプチド(OmpC)および配列番号9のシグナルペプチド(OmpA)を有する8つの発現系について、IPTGで4時間誘導された培養物のOD600が、非誘導のものまたはラクトースで自己誘導されたものよりもはるかに低いことを示す。フラスコ内の培養培地の600nmにおける光学密度、OD600は、光学密度の測定について当業者に周知の標準プロトコルを使用して、細菌を含まない培養培地の光学密度に対応するブランク測定を考慮に入れて分光光度法によって測定される。本発明者らは、あまりにも急速かつあまりにも広範囲に産生された配列番号12が毒性であり、および/またはその合成が細菌にとって著しい代謝負荷を表し、したがって細菌増殖を遅らせると結論付ける。この結果は、毒性、代謝過負荷および/または分泌経路の飽和を回避するために、バイオマス生産と配列番号12の発現との段階を分離し、十分にゆっくりと制御された様式で発現を誘導することの重要性を実証する。さらに、これらの条件下、特に配列番号12の発現のIPTGによる高誘導下では、シグナルペプチドOmpAと比較して、シグナルペプチドにOmpCが使用された場合、細胞毒性ははるかに低い。
【0066】
上記で例示され、マイクロプレートで実施された培養物において得られた比較結果に基づいて、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株に関連する2つのベクターが、5Lのバイオリアクターで実施される最終選択のために選択された。バイオリアクターは、工業規模の産生に使用される条件の代表である:配列番号10のヌクレオチド配列を有するBL21(DE3)/pD431-MR-OmpC-CRM197(BL21(DE3)/pLM7-OC-CRMとも呼ばれる)および配列番号11のヌクレオチド配列を有するBL21(DE3)/pD451-SR-OmpC-CRM197(BL21(DE3)/pHS7-OC-CRMとも呼ばれる)。第1の発現系は、配列番号12の低速発現(低プラスミドコピー数、中程度のリボソーム結合)を確実にし、毒性、代謝過負荷および/または分泌経路の飽和を回避する成分を含み、第2の発現系は、タンパク質の急速な発現を支援する成分(高プラスミドコピー数、強いリボソーム結合)を含む。しかしながら、第2のベクターは、プラスミド安定性の低さを見込んで選択された。
【0067】
両方の発現系(BL21(DE3)/pLM7-OC-CRMおよびBL21(DE3)/pHS7-OC-CRM)の発現レベルは、工業的条件を代表する条件下で比較された。培養物は、工業生産用の発酵槽と同じ方法で、特にカスケード、撹拌および換気の点で設計、使用および制御された5L発酵槽で増殖させた。培養物を、「フェドバッチ」供給戦略を使用して高い細胞密度まで増殖させた。試験した様々な構築物および条件について記録された発現レベルおよびプラスミド安定性が表2に要約される。配列番号12の最高発現を高いプラスミド安定性と組み合わせる条件(条件F05)は、低プラスミドコピー数、中程度のリボソーム結合および23℃の誘導時の温度を含み、これは、配列番号12のゆっくりとした制御された発現を可能にする因子のセットに対応する。最低発現(条件F03)または最低のプラスミド安定性(条件F06)をもたらす条件は、配列番号12の急速な発現をもたらし、毒性、代謝過負荷および/または分泌経路の飽和を担う因子である、高プラスミドコピー数および強いリボソーム結合を含む。
【0068】
表2:5Lのリアクターにおける発現レベルおよびプラスミド安定性-大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株
【表2】
【0069】
上記に例示した比較結果に基づいて、ベクターpLM7-OC-CRMが、その十分に高い発現レベルおよびその高いプラスミド安定性のために、配列番号12の産生用に選択された。
【0070】
実施例2.-発現ベクターを含有する細菌株の調製
3種の細菌株が、配列番号2のシグナルペプチド(OmpC)に融合された配列番号12を含有する異なるベクターで形質転換された:
・大腸菌(E.coli)BL21、λDE3プロファージの非存在およびT5細菌ポリメラーゼの使用によって特徴づけられる株、その転写効率はプロファージのT7ポリメラーゼの転写効率とは一致しない;
・大腸菌(E.coli)BL21(DE3)、λDE3プロファージのT7 RNAポリメラーゼに基づくIPTGによる誘導を含む;
・大腸菌(E.coli)BL21(ΔDE3)または大腸菌(E.coli)BL21 T7XB、T7ポリメラーゼの発現に必要な遺伝子以外のプロファージ配列の欠失によって特徴づけられる独自株(proprietary strain)。
【0071】
表3は、試験した3種の株(大腸菌(E.coli)BL21、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)および大腸菌(E.coli)BL21 T7XB)を含む異なる発現系を、プラスミドコピー数、プロモータータイプ(T5またはT7)およびリボソーム結合強度(中程度および高度)、ならびにマイクロプレート培養中に得られた結果(OD600および配列番号12の細胞質内発現レベル)に関して比較する。T5細菌ポリメラーゼの効率が低いことによって特徴づけられる大腸菌(E.coli)BL21細菌の場合、細菌増殖(OD600)はIPTG誘導中に有意には(またはわずかにしか)影響されないが、免疫ブロット分析によって評価された発現レベルは、高コピー数および強いリボソーム結合を含むベクターによって形質転換された株について得られたものを除いて低い。低コピー数および中程度のリボソーム結合を含むプラスミドによって形質転換された大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株については、IPTG誘導中に細菌増殖に対する非毒性および有意な発現が観察される;他のすべての構築物が毒性および/または低発現に供される。大腸菌(E.coli)BL21 T7XB株について得られた結果は、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株について得られた結果と同様である。
【0072】
表3:IPTGによる誘導後に異なる発現系により接種された細胞のOD600およびペリプラズム発現レベル
【表3】
【0073】
配列番号2のシグナルペプチドに融合された配列番号12を含有する異なるベクターで形質転換された3種の細菌株(大腸菌(E.coli)BL21、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)および大腸菌(E.coli)BL21 T7XB)について、工業的条件を代表する条件下で発現レベルおよびプラスミド安定性が決定された。培養物は、工業生産用の発酵槽と同じ方法で、特にカスケード、撹拌および換気の点で設計、使用および制御された5L発酵槽で増殖させた。培養物は、「フェドバッチ」供給戦略を使用して高い細胞密度に到達する。試験した異なる構築物および条件について記録された発現レベル、プラスミド安定性が表4に要約される。T5細菌ポリメラーゼの効率が低いことによって特徴づけられる大腸菌(E.coli)BL21株を含む4種の構築物は、プラスミドコピー数およびリボソーム結合強度にかかわらず、1.02~2.46g/Lの高い発現レベルおよび高いプラスミド安定性(97~100%)を有する。大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株の場合、低プラスミドコピー数および中程度のリボソーム結合を伴う構築物のみが、1.00~3.10g/Lの高い発現レベルおよび高いプラスミド安定性(94~100%)を有する。T7ポリメラーゼの発現に必要な遺伝子以外のプロファージ配列の欠失によって特徴づけられる大腸菌(E.coli)BL21(T7XB)株については、低プラスミドコピー数および中程度のリボソーム結合を含む構築物について、高い発現レベル(1.62g/L)および高いプラスミド安定性(97%)が記録されるのに対して、低プラスミドコピー数および強いリボソーム結合を含むベクターによって形質転換された株では、低い発現レベル(0.62g/L)および低いプラスミド安定性(23%)が観察される。
【0074】
表4:5Lのリアクターにおける発現レベルおよびプラスミド安定性:大腸菌(E.coli)BL21、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)および大腸菌(E.coli)BL21 T7XB株
【表4】
【0075】
しかし、T7ポリメラーゼの発現に必要な遺伝子以外のプロファージ配列の欠失によって特徴づけられる3番目の大腸菌(E.coli)BL21 T7XB株が配列番号12の産生のために選択された。本発明者らは、T5細菌RNAポリメラーゼ(大腸菌(E.coli)BL21)に基づく発現系を使用して発現を制御すると、時として漏れおよびロバスト性の低下をもたらすこと、次に、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株におけるλDE3プロファージの存在が、溶菌サイクルの潜在的再活性化、したがって著しい工業的リスクを呈することを見出した。
【0076】
実施例3.-大腸菌(E.coli)におけるCRM197のペリプラズム(Periplacmic)発現
大腸菌(E.coli)BL21 T7XB株と組み合わせたベクターpLM7-OC-CRMは、配列番号12の最適なペリプラズム産生収率を提供する。CRM197の最適なペリプラズム産生は、タンパク質CRM197の発現レベル、シグナルペプチドの性質およびベクターのプラスミド(plasmic)安定性の間の正しいバランスに依存する。発現レベルが高すぎると、不溶性形態のタンパク質CRM197の高い細胞質内産生を引き起こし、細胞生存率を低下させる可能性があり、有意なペリプラズム産生を引き起こすことはない。
【0077】
下記の工程は、本発明の例示的な一実施形態では、プラスミドpLM7-OC-CRMによって形質転換された大腸菌(E.coli)BL21 T7XB株を接種した発酵槽における、培養中に配列番号12を産生するために使用される様々な条件を記載する。
・使用株:大腸菌(E.coli)BL21 T7XB/pLM7-OC-CRM(配列番号10)。
・工程1:フラスコ内での前培養
フラスコの容量:500ml~2L、接種OD600:0.005、培養培地:YGP、カナマイシン:25mg/L、温度:37℃、撹拌:270rpm、培養期間:7時間+/-1時間。
・工程2:「バッチ」モードでの培養
バイオリアクターの容量:50L、培養培地:10g/Lのグリセロールおよび5g/Lの酵母抽出物を含有するGYPSCI、温度:37℃、pH:7.0、400g/Lのグリセロールおよび217.5g/Lの酵母抽出物を含有するGYPSCI培地の供給を時間t=0時間に開始し、時間t=0~t=9時間30分の間に0~127g/時へ供給速度を直線的に増加させた。
・工程3:「フェド-バッチ」モードでの培養
GYPSCI培地の供給は、指数関数的増殖速度が0.15h-1、温度:37℃、pH:7.0である時間t=9時間30分に開始し、指数関数的供給は、OD600=60+/-2である+/-10時間後に停止した。
・工程4:「フェドバッチ」モードの誘導期
0.1時間-1の指数関数的増殖速度が6時間使用され、次いで一定の供給速度が14時間使用され、反応器中2mMの濃度が得られるようにIPTGを添加することによって誘導を開始した、温度:23℃、pH:7.0、誘導期の合計時間:20時間
・工程5:収集および遠心分離工程
工程4(誘導期)は20時間後に停止し、温度は15℃に下げられ、バイオリアクターの内容物は遠心分離容器に移され、7000rpm(9000~9500g)で遠心分離し、細胞ペレットは収集され、ビニール袋に移され、前記ビニール袋は-20℃で保管された。
【0078】
様々な培養パラメータ(培養培地中のカナマイシンの存在、誘導時の温度およびpH)を変更する影響が研究され、結果を表5に示した。本発明者らによって最適化された条件下では、カナマイシンの非存在は、配列番号12の発現レベルまたはプラスミド安定性に有意に影響しなかった(条件F01、F05、F13の比較)。誘導に適用される温度は、発現レベルにほとんど影響を及ぼさないが、プラスミド安定性には全く影響を及ぼさないパラメータである(条件F01およびF02の比較)。pHは、発現レベルおよび程度は低いがプラスミド安定性に有意な影響を及ぼすパラメータである;pH6.5はあまり好ましくなく、pH7.0が両方の基準に最適である。カナマイシンの非存在、誘導時の28から23℃への温度低下および培養工程を通して一定に保たれたpH7.0は、配列番号12の良好な産生収率を可能にする。
【0079】
表5:5Lのリアクターにおける発現レベルおよびプラスミド(plasmic)安定性:カナマイシン、温度およびpHの影響
【表5】
【0080】
実施例4.-配列番号12のペリプラズム抽出
様々な培養および誘導工程の後、ベクターpLM7-OC-CRM(配列番号10)によって形質転換された大腸菌(E.coli)BL21 T7XB細菌は遠心分離され、細胞スラリーが-20℃で凍結される。ペリプラズム抽出は、1350gの細胞スラリーを15時間+/-5時間、6℃+/-2℃において解凍することによって開始する。細胞スラリーは高張液(50mM トリス、5mM EDTA、20%スクロース、pH8.0)で2:1(v/w)の比で希釈され、15分間混合され、第1のポンプを使用して拡散リングを通してミキサーにポンプ輸送され、その流量は121ml/分である。
【0081】
次いで、細胞懸濁液の浸透圧ショックは、低張液(5mM MgCl)が、流量279ml/分および低張液による希釈比2.3:1(v/v)で第2のポンプにより細胞懸濁液を含有するミキサーにポンプ輸送されて、ミキサーに含有される細胞懸濁液を希釈することによって行われる。低張液の温度は4~8℃である。ミキサー内の細胞懸濁液の容量は200mlであり、ミキサー内の細胞懸濁液の滞留時間は30秒である。第3のポンプは細胞懸濁液をミキサーから抜き取り、それは、ミキサー内の細胞懸濁液の容積を200mlに一定に維持するように、400ml/分の流量で遠心分離容器に収集される。1350g重量の細胞スラリーは、約13.4リットルの浸透圧ショックを受けた細胞懸濁液を生じる。浸透圧ショックを受けた細胞懸濁液は、8000rpmで20分間遠心分離される(g=9379およびKファクタ=3242)。ペレットは除去され、上清は濾過によって清澄化される。
【0082】
実施例5.-ペリプラズム空間の成分および配列番号12を含有する上清の清澄化
浸透圧ショック後の細胞懸濁液の遠心分離(実施例4参照)から得られた上清を清澄化することは、2つの連続濾過工程からなる。最初の濾過のために、上清は400ml/分の速度で、0.8~0.45μmのメッシュサイズおよび0.2mの面積を有するフィルターを通してポンプ輸送される。次いで、1回濾過された溶液が、0.45~0.22μmのメッシュサイズおよび0.1mの面積を有する第2のフィルターを通して400ml/分の速度でポンプ輸送されて、清澄化されたペリプラズム抽出物を含有する溶液を提供する。
【0083】
本発明は上記の実施形態に決して限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく修正が加えられることができることを理解されたい。
図1
図2
図3
【配列表】
2024507994000001.app
【国際調査報告】