(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】化学療法誘発性神経障害の予測のためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B10/00 X
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552218
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2022054024
(87)【国際公開番号】W WO2022179938
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523324948
【氏名又は名称】ヴィブロセンス ダイナミクス アー・ベー
【氏名又は名称原語表記】VibroSense Dynamics AB
【住所又は居所原語表記】Medeon Science Park, Per Albin Hanssons vaeg 41, 205 12 Malmoe, Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ボー オルデ
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ スパイデル
(57)【要約】
予測デバイスが、被検者における化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)のリスクを予測する予測方法を実行するように構成されている。予測方法は、低周波振動知覚データ(LF-VPD)を含む知覚データを受信すること(211)と、知覚データにつき少なくとも1つの予測モデルを動作させて、被検者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す少なくとも1つのリスク変数を決定すること(214)とを含む。LF-VPDは、被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所における振動の測定された知覚を示し、64Hz未満の1つ以上の既定の周波数のそれぞれにおける振動について、当該振動の知覚と非知覚との間の移行を被検者に生じさせる振動エネルギを表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測デバイスであって、
被検者における化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)のリスクを予測するように構成された回路(901)を備え、前記回路(901)が、
前記被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所における振動の測定された知覚を示す知覚データ(301)であって、1つ以上の既定の周波数のそれぞれにおける振動について、該振動の知覚と非知覚との間の移行を前記被検者に生じさせる振動エネルギを表し、前記1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが64Hz未満である、知覚データ(301)を含む入力データを受信し、
前記知覚データ(301)につき少なくとも1つの予測モデル(32,32’)を動作させて、前記被検者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す少なくとも1つのリスク変数(331,331’)を決定し、
前記少なくとも1つのリスク変数(331,331’)に基づいて予測データ(351)を生成する、
ように構成されている、
予測デバイス。
【請求項2】
前記1つ以上の既定の周波数が、64Hz未満の少なくとも2つの異なる周波数を含む、
請求項1記載の予測デバイス。
【請求項3】
前記1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが、60Hz以下、50Hz以下、40Hz以下、35Hz以下、30Hz以下、25Hz以下、20Hz以下、15Hz以下、または10Hz以下である、
請求項1または2記載の予測デバイス。
【請求項4】
前記知覚データ(301)が、既定の周波数、所定の場所、または前記被検者の肢、のうちの少なくとも1つによって異なる複数の知覚値を含む、
請求項1から3までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項5】
前記化学療法が、少なくとも1つの化学療法剤の投与を伴うセッションの時系列(TS)を含み、前記知覚データ(301)が、前記セッションの時系列(TS)における少なくとも1つのセッションの前の前記被検者による振動の測定された知覚を表す、
請求項1から4までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項6】
前記知覚データ(301)が、前記セッションの時系列(TS)における少なくとも2つのセッションのそれぞれの前の、かつ/または前記セッションの時系列(TS)におけるセッション間の1つ以上の休薬期間中の2つ以上の時点の、前記被検者による振動の測定された知覚を表す、
請求項5記載の予測デバイス。
【請求項7】
前記知覚データ(301)が、前記セッションの時系列(TS)における少なくとも最初のセッションの前の前記被検者による振動の測定された知覚を表す、
請求項6記載の予測デバイス。
【請求項8】
前記化学療法は、少なくとも1つの神経毒性物質の投与を含む、
請求項1から7までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項9】
前記化学療法は、白金含有化学療法剤、タキサン、免疫調節剤、ビンカアルカロイド、エポチロン、およびプロテアーゼ阻害剤からなる群における少なくとも1つの化学療法剤の投与を含む、
請求項1から8までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項10】
前記入力データはさらに、前記被検者および/または前記化学療法を表すパラメータ値の集合(302,303)を含み、
前記回路(901)は、前記知覚データ(301)および前記パラメータ値の集合(302,303)につき前記少なくとも1つの予測モデル(32,32’)を動作させることにより、前記少なくとも1つのリスク変数を決定するように構成されている、
請求項1から9までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項11】
前記パラメータ値の集合(302)は、前記被検者の年齢、前記被検者の性別、前記被検者の1つ以上の身体的特徴、前記被検者の現在の体温、前記被検者の健康状態、前記被検者の投薬状態、および前記被検者の病歴、のうちの1つ以上を示す、
請求項10記載の予測デバイス。
【請求項12】
前記パラメータ値の集合(303)が、前記被検者の化学療法治療歴、前記化学療法で投与された化学療法剤、前記化学療法中に投与された前記化学療法剤の累積用量、前記化学療法剤の投与方法、前記化学療法のスケジュール、のうちの1つ以上を示す、
請求項11または12記載の予測デバイス。
【請求項13】
前記1つ以上の肢が、足または手のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1から12までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項14】
前記1つ以上の所定の場所が、前記足の中足骨頭または前記手の指の少なくとも1つからなる、
請求項13記載の予測デバイス。
【請求項15】
前記測定された知覚は、前記知覚データ(301)において、少なくとも1つの振動知覚閾値(14)、VPT、または前記少なくとも1つのVPT(14)から導出された少なくとも1つのパラメータ値によって表される、
請求項1から14までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項16】
前記回路(901)は、さらに、前記入力データに基づいて複数の変数を生成するように構成されており、
前記少なくとも1つの予測モデル(32)は、複数の所定の重み係数を使用して前記複数の変数を組み合わせることにより、前記少なくとも1つのリスク変数(331)を決定するように構成されている、
請求項1から15までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項17】
前記少なくとも1つの予測モデル(32,32’)は、線形モデルまたは機械学習ベースのモデルのうちの1つである、
請求項1から16までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項18】
前記少なくとも1つのリスク変数(331,331’)は、前記化学療法の完了後少なくとも6ヶ月間持続する化学療法誘発性末梢神経障害を前記被検者が発症するリスクを示すリスク変数を含む、
請求項1から17までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項19】
前記少なくとも1つのリスク変数(331,331’)は、前記化学療法中に化学療法誘発性末梢神経障害を前記被検者が発症する前記リスクを示すリスク変数を含む、
請求項1から18までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項20】
前記予測データ(351)は、少なくとも3つの既定のリスククラス(351A,351B,351C)のうちの1つを示す、
請求項1から19までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項21】
前記少なくとも3つの既定のリスククラスは、低リスクに関連する第1のリスククラス(351A)、高リスクに関連する第2のリスククラス(351B)、および前記第1および第2のリスククラスの中間の第3のリスククラス(351C)からなる、
請求項20記載の予測デバイス。
【請求項22】
前記回路(901)は、前記少なくとも1つのリスク変数(331)と少なくとも1つの所定の閾値との比較に基づいて第1のカテゴリを決定し、前記第1のカテゴリに基づいて前記予測データ(351)を生成するように構成されている、
請求項1から21までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項23】
前記少なくとも1つのリスク変数が、第1のリスク変数および第2のリスク変数(331,331’)を含み、
前記回路(901)が、さらに、前記第1のリスク変数(331)に基づいて第1のカテゴリを決定し、前記第2のリスク変数(331’)に基づいて第2のカテゴリを決定し、前記第1のカテゴリと前記第2のカテゴリとの論理的な組み合わせとして前記予測データ(351)を生成するように構成されている、
請求項1から22までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項24】
前記回路(901)が、さらに、前記入力データ(301)につき第1の予測モデル(32)を動作させて前記第1のリスク変数を決定し、前記入力データ(301)につき第2の予測モデル(32’)を動作させて前記第2のリスク変数を決定するように構成されている、
請求項23記載の予測デバイス。
【請求項25】
前記第1のリスク変数は、CIPNを発症するリスクが低いことを示し、前記第2のリスク変数は、CIPNを発症するリスクが高いことを示す、
請求項23または24記載の予測デバイス。
【請求項26】
前記回路(901)が、さらに、内容要件の集合に関して前記入力データを評価(310)して妥当性スコアを決定し、選択的に、前記妥当性スコアに基づいてさらなる入力データの要求を出力する(313)ように構成されている、
請求項1から25までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項27】
前記回路(901)が、さらに、前記さらなる入力データに対する要求の数が既定の制限値を超えた場合に予測動作を中止するように構成されている、
請求項26記載の予測デバイス。
【請求項28】
前記予測デバイスが、さらに、前記回路(901)に接続される入力インタフェース(20A)および出力インタフェース(20B)を備え、前記回路(901)が、前記入力インタフェース(20A)を介して前記入力データを受信し、前記出力インタフェース(20B)を介して前記予測データ(351)を出力するように構成されている、
請求項1から27までのいずれか1項記載の予測デバイス。
【請求項29】
コンピュータに実装される予測方法であって、
被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所における振動の測定された知覚を示す知覚データであって、1つ以上の既定の周波数のそれぞれにおける振動について、該振動の知覚と非知覚との間の移行を前記被検者に生じさせる振動エネルギを表し、前記1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが64Hz未満である、知覚データを含む入力データを受信すること(211)と、
前記知覚データにつき予測モデルを動作させて、前記被検者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す少なくとも1つのリスク変数を決定すること(214)と、
前記少なくとも1つのリスク変数に基づいて予測データを生成すること(215)と
を含む、
方法。
【請求項30】
処理システムによって実行される際に、請求項29記載の方法を前記処理システムに実行させるためのコンピュータ命令を含む、
コンピュータ可読媒体。
【請求項31】
予測方法であって、
被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所における振動の測定された知覚を示す知覚データであって、1つ以上の既定の周波数のそれぞれにおける振動について、該振動の知覚と非知覚との間の移行を前記被検者に生じさせる振動エネルギを表し、前記1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが64Hz未満である、知覚データを決定すること(200)と、
請求項1から28までのいずれか1項記載の予測デバイスを前記知覚データにつき動作させて、前記被検者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す予測データを生成すること(210)と
を含む、
予測方法。
【請求項32】
前記知覚データを決定すること(200)が、
前記被検者からフィードバック(202)を受けながら、前記被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所のそれぞれにおいて、前記1つ以上の所定の周波数のそれぞれで変化する振動エネルギを誘発するように振動知覚検査システムを動作させること(201)と、
前記フィードバックに基づいて前記知覚データを演算すること(202)と
を含む、
請求項31記載の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化学療法を受けている個人のモニタリング、特に化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)を予測するための技術に関する。
【0002】
背景技術
化学療法(CTX)は、標準化された化学療法レジメンの一部として1つ以上の抗がん剤(化学療法剤)を使用するがん治療の一種である。化学療法は、治癒を目的として施されることもあるし、延命ないし症状の軽減(緩和化学療法)を目的として施されることもある。また、がん以外の疾患、例えば関節リウマチ、乾癬性関節炎、乾癬、多発性筋炎、クローン病、血管炎、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、ALアミロイド症などの自己免疫疾患および炎症性疾患の治療にも用いられる。化学療法は、骨髄移植前の前処置レジメンにも使用される。
【0003】
化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は、化学療法の一般的で重篤な副作用である。CIPNは、化学療法を受けている患者のかなりの割合が罹患する、手足の痛み、しびれ、刺痛、冷感などを特徴とする、進行性かつ持続性であってしばしば不可逆性の状態である。CIPNは、長期の障害を引き起こし、日常生活の妨げとなることがある。手が影響を受けると、患者は、小物の取り扱い、衣服の着脱、身の回りの世話、食事の準備が困難となることがある。足の感受性の低下は、バランス感覚、さらに足の水疱を知覚する能力に影響を及ぼし、ひいては足潰瘍を発症するリスクを高めることもある。
【0004】
白金系抗悪性腫瘍剤(オキサリプラチン、シスプラチンなど)、ビンカアルカロイド、エポチロン(イキサベピロンなど)、タキサン、プロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブなど)、免疫調節薬(サリドマイドなど)など、多くの化学療法剤が神経障害のリスク上昇と関連することが知られている。有病率は一般的に高い。例えば、オキサリプラチンは、患者の95%にCIPNを引き起こし、化学療法の完了後も20%が長期的(持続的)な触覚障害を示すことが示されている。治療の終了後1年が経過しても状態が持続する場合、その状態は慢性とみなされる。
【0005】
化学療法の主な目的は、がん細胞を復帰させたり除去したりして患者の命を救うことにあるが、化学療法の悪影響も医療関係者に認識されている。したがって、ほとんどの診療所では、患者は、化学療法中に末梢神経障害の症状についてモニタリングされる。モニタリングに基づいて、臨床医は、例えば、用量を減らしたり、別の化学療法剤に切り替えたり、または化学療法を中止したりすることにより、治療レジメンを変更することができる。
【0006】
現在の診療では、末梢神経障害の症状は、知覚される神経障害の症状および経験される日常生活能力の低下に焦点を当てた患者アンケートによって定量化されることが多い。症状の定量化には、NTI-CTCAE、NCI-CTC、DEB-NTC、オキサリプラチンスケール、EORTC QLQ-CIPN20など、多くの異なるスケールが利用可能である。
【0007】
アンケートによる自己申告は、迅速かつ安価である。しかし、自己申告は、基本的に主観的なものであるため、例えば患者の気分および問題の存在を認めようとする意欲などによって、誤解または過大評価もしくは過小評価という心理的バイアスが生じやすい。さらに、スケールによって結果が異なることがわかっており、医療関係者の間でも、どのスケールを使用するのが最も適切であるかについてのコンセンサスが得られていない。さらに、治療中に症状が現れたり消えたりすることもあり、治療中に経験した症状と長期的な症状との相関度が低い。したがって、長期的な神経障害を発症する可能性の高い患者を臨床医が正確に特定することは困難である。一部の患者では化学療法が不必要に調整され、不十分ながん治療をもたらす可能性がある一方、他の患者では化学療法を調整する必要性が見過ごされ、永続的な神経損傷をもたらす可能性がないとはいえない。
【0008】
アンケートを使用する以外に、臨床検査を行うこともある。様々な臨床検査の評価は、Clinical Colorectal Cancer, Vol.15, No.1, 37-46(2016)に掲載されているReddyらによる論文“Quantitative Sensory Testing at Baseline and During Cycle 1 Oxaliplatin Infusion Detects Subclinical Peripheral Neuropathy and Predicts Clinically Overt Chronic Neuropathy in Gastrointestinal Malignancies”に示されている。ここでは、オキサリプラチン治療を受けた患者におけるCIPN発症の早期バイオマーカーを特定する目的で、定量的感覚検査(QST)が適用されている。QSTは、体性感覚機能を評価するために使用する診断検査のパネルであり、広範な種々の感覚を含む。皮膚感覚閾値は、Von Freyモノフィラメントを使用して測定された。痛覚は、鋭利な先端を皮膚に当てることによって測定された。振動知覚(別名:振動触覚)は、64Hzの目盛付きRydell-Seiffer音叉によって測定された。温熱検査では、極端な熱さおよび冷たさに対する感受性および耐性が評価された。手先の器用さおよび細かい運動能力も定量化された。上記論文の研究では、CIPN発症の有望な早期バイオマーカーとして、冷熱感受閾値および皮膚感受閾値が特定された。痛覚および振動知覚については、CIPNとの明確な関係は認められなかった。
【0009】
患者におけるCIPNのリスクを予測する作業は、患者における末梢神経障害の存在を検出する作業とは異なることに留意されたい。末梢神経障害の検出には、例えば、自己申告および/または医学的試験に基づいて、患者の既存の状態を決定することが含まれる。既存の末梢神経障害に関する医師の診断に対するあらゆる入力データが、将来の時点で化学療法により末梢神経障害を発症するリスクのある患者を特定することにも有用であるという仮定には根拠がない。例えば、上記の先行技術は、このような予測について痛覚および振動知覚に基づくバイオマーカーを使用することを明らかに避けている。
【0010】
化学療法前または化学療法中に患者について行われた測定によって与えられた1つ以上のバイオマーカーに基づいて、CIPNを発症する可能性の高い患者を特定できる技術が引き続き必要とされている。これらの技術は、患者が長時間の試験および複数の検査を受ける必要がないように、時間効率が良いことが好ましい。
【0011】
発明の概要
先行技術の1つ以上の限界を少なくとも部分的に克服することが目的である。
【0012】
さらなる目的は、CIPNを発症するリスクのある患者を特定するための技術を提供することである。
【0013】
別の目的は、化学療法前または化学療法中に患者について取得された測定データに基づく、このような技術を提供することである。
【0014】
さらに別の目的は、非侵襲的かつ時間効率の良い、このような技術を提供することである。
【0015】
これらの目的の1つ以上、および以下の説明から明らかにされうるさらなる目的は、独立請求項によるデバイス、方法、およびコンピュータ可読媒体によって少なくとも部分的に達成され、その実施形態は各従属請求項によって定義される。
【0016】
本開示の第1の態様は、予測デバイスである。予測デバイスは、被検者における化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)のリスクを予測するように構成された回路を備える。回路は、被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所における振動の測定された知覚を示す知覚データであって、1つ以上の既定の周波数のそれぞれにおける振動について、当該振動の知覚と非知覚との間の移行を被検者に生じさせる振動エネルギを表し、1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが64Hz未満である、知覚データを含む入力データを受信するように構成されている。回路はさらに、知覚データにつき少なくとも1つの予測モデルを動作させて、被検者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す少なくとも1つのリスク変数を決定し、少なくとも1つのリスク変数に基づいて予測データを生成する、ように構成されている。
【0017】
第1の態様は、64Hz未満の1つ以上の振動周波数における振動の被検者による測定された知覚が、被検者が将来の時点で化学療法による末梢神経障害を発症する可能性に関する情報を含むという驚くべき発見に基づく。つまり、適切に構成された予測モデルを、振動触覚としても知られるこのような測定された知覚を表す1つ以上のバイオマーカーについて動作させることで、化学療法誘発性末梢神経障害すなわちCIPNのリスクを予測することができる。第1の態様の予測デバイスは、CIPNを発症するリスクのある患者を特定するための、長い間求められていた技術を提供する。さらに、予測デバイスの診断能力は、患者による主観的な自己申告に頼る必要がなく、化学療法前または化学療法中の測定によって定量化された患者の振動触覚に基づくものとすることができる。このような振動触覚は、非侵襲的かつ時間効率の良い方式で既存の機器によって測定することができる。
【0018】
第2の態様は、コンピュータに実装される予測方法である。予測方法は、被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所における振動の測定された知覚を示す知覚データであって、1つ以上の既定の周波数のそれぞれにおける振動について、当該振動の知覚と非知覚との間の移行を被検者に生じさせる振動エネルギを表し、1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが64Hz未満である、知覚データを含む入力データを受信することを含む。予測方法はさらに、知覚データにつき予測モデルを動作させて、被検者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す少なくとも1つのリスク変数を決定することと、少なくとも1つのリスク変数に基づいて予測データを生成することとを含む。
【0019】
第3の態様は、プロセッサによって実行される際に、第2の態様の予測方法またはその実施形態のいずれかをプロセッサに実行させるためのコンピュータ命令を含むコンピュータ可読媒体である。
【0020】
第4の態様は予測方法である。予測方法は、被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所における振動の測定された知覚を示す知覚データであって、1つ以上の既定の周波数のそれぞれにおける振動について、当該振動の知覚と非知覚との間の移行を被検者に生じさせる振動エネルギを表し、1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが64Hz未満である、知覚データを決定することを含む。予測方法はさらに、第1の態様の予測デバイスを知覚データにつき動作させて、被検者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す予測データを生成することを含む。
【0021】
さらに他の目的、態様および技術的効果ならびに特徴および実施形態が、以下の詳細な説明、添付の特許請求の範囲および図面から明らかにされうる。
【0022】
以下では、添付の図面を参照して、実施形態についてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】振動触覚を測定するための例示的な装置を示す、部分的に断面図である概略側面図である。
【
図1B】振動触覚閾値(VPT)を測定するためのシステムを示す図である。
【
図1C】
図1Aのシステムによって提供されるバイブログラムの例を示す図である。
【
図1D】VPTを決定する例示的な方法のフローチャートである。
【
図2A】CIPN予測のための例示的なデバイスのブロック図である。
【
図2B】低周波振動知覚データ(LF-VPD)を使用してCIPN予測を実行する例示的な方法のフローチャートである。
【
図2C】化学療法のセッションに関するLF-VPDの決定および使用を例示する図である。
【
図3A】予測モデルの数が異なる予測モジュールの機能ブロック図である。
【
図3B】予測モデルの数が異なる予測モジュールの機能ブロック図である。
【
図4A】分類機能が異なる予測モジュールの機能ブロック図である。
【
図4B】分類機能が異なる予測モジュールの機能ブロック図である。
【
図4C】分類機能が異なる予測モジュールの機能ブロック図である。
【
図5】CIPN予測のための入力データの妥当性を評価するための手順のフローチャートである。
【
図6】CIPN予測によって提供されるリスククラスの臨床使用例のフローチャートである。
【
図7】時間的に分離された入力データに基づくCIPN予測のための予測モジュールの組み合わせの使用例を示す図である。
【
図8A】例示的な予測モジュールについて決定されたROCプロットである。
【
図8B】例示的な予測モジュールについて決定されたROCプロットである。
【
図8C】例示的な予測モジュールについて決定されたROCプロットである。
【
図9】本明細書で説明する任意の方法、手順、機能またはステップを実行可能な機械のブロック図である。
【0024】
例示的な実施形態の詳細な説明
以下では、全てではないが、幾つかの実施形態を示す添付図面を参照しながら、実施形態についてより詳細に説明する。実際に、本開示の主題は多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきでなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が適用される法的要件を満たしうるように提供される。同様の番号は全体を通して同様の要素を指す。
【0025】
また、可能な場合、本明細書における実施形態および/または企図される実施形態のうちのいずれかの利点、特徴、機能、デバイス、および/または動作的態様のいずれかが、本明細書に記載する他の実施形態および/または企図する実施形態のいずれかに含まれうること、かつ/またはその逆であることが理解されるであろう。加えて、可能な場合、本明細書において単数形で表現される用語は、明示的に別段の記載がない限り複数形も含み、かつ/または逆に複数形で表現される用語も単数形を含みうることを意味する。本明細書で使用する場合、「少なくとも1つ」は「1つ以上」を意味し、これらの語句は交換可能であることが意図される。したがって、「1つの(a,an)」なる用語は、「1つ以上」または「少なくとも1つ」なる表現も本明細書で使用されている場合でも、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味するものとする。本明細書で使用する場合、文脈が明示的な文言または必然的な示唆によりそうでないことを要求している場合を除いて、「備える(comprise,comprises)」なる語および「備えている(comprising)」などの変形は、包括的な意味で、すなわち記載の特徴の存在を特定するために使用するものであり、本発明の様々な実施形態におけるさらなる特徴の存在または追加を排除するものではない。同様に、指定されたパラメータの集合などとの組み合わせにおける「~に応じて」および「~に基づいて」なる表現も包括的なものであり、さらなるパラメータの存在または追加を排除するものではない。
【0026】
本明細書で使用する場合、「複数の」、「幾つかの」、「多数の」なる用語は、2つ以上の要素を備えることを意味することを意図している。用語「および/または」は、列挙された関連する要素のうちの1つ以上の任意のおよび全ての組み合わせを含む。
【0027】
本明細書で使用する場合、「予測」とは、現在の時点で、被検者が将来の時点で特定の状態にある可能性を決定するプロセスを指す。
【0028】
本明細書で使用する場合、「化学療法」(CTX)とは、任意の療法目的のために被検者への化学療法剤の投与を伴う任意の療法を指す。CTXは、がん治療に限定されるものでなく、自己免疫疾患、炎症性疾患などの他の疾患の治療および骨髄移植の準備に適用することもできる。化学療法剤は、神経毒性物質のタイプを問わない。例えば、化学療法剤は、有糸分裂を阻害するかもしくはDNA損傷を誘発する、細胞毒性薬または抗悪性腫瘍薬でありうる。
【0029】
本明細書で使用する場合、「化学療法誘発性末梢神経障害」(CIPN)は、化学療法による被検者における末梢神経障害の発生を指す。この文脈において、「末梢神経障害」とは、脳および脊髄以外の神経(末梢神経)の損傷に起因する状態を指す。末梢神経障害の症状には、痛み、しびれ、刺痛、冷感、知覚鈍麻を含めることができる。末梢神経障害は、身体の任意の末梢部分に影響を及ぼす場合があるが、通常は手および/または足で最初に気づかれる。
【0030】
当該技術分野では、被検者の振動触覚を測定することが知られている。測定された振動触覚は、例えば振動曝露または糖尿病による被検者における進行中の感覚障害を検出するための医学的分析の入力として、医師により使用することができる。簡単な一例では、測定は、音叉を皮膚に当て、その共振周波数(典型的に100Hz前後)で振動させ、振動が知覚されるかどうかを被検者に申告させることによって行われる。また、バイブロメータ、バイオテシオメータ、パレステシオメータ、ニューロテシオメータとして知られる特殊な装置を使用して、振動触覚を測定することも知られている。当該装置は、1つ以上の振動周波数で振動触覚閾値(VPT)を測定するように構成されている。
【0031】
図1は、このような例示的な装置(以下では「バイブロメータ」と表記する)1の概略図である。バイブロメータ1は、検査される人(以下では「患者」または「被検者」と表記する)の身体部位BPにつき、1つ以上の周波数における振動触覚を表す測定データを形成するように構成されている。測定データは、手足を含む任意の身体部位について形成されうる。図示の例では、身体部位BPは手であり、振動触覚は手の指について測定される。
図1Aに示すバイブロメータは、例えば、国際公開第2006/046901号に記載されているように構成することができる。
【0032】
バイブロメータ1は、電気機械式測定システムを囲み、開口部を画定するハウジング2(一部のみを示す)を備えている。ハウジング2はまた、患者の快適性を向上させるために、また一貫した再現性のある方式で測定データを形成することを保証するために、身体部位BPを機械的に支持する役割を果たすことができる。測定システムは、遠位プローブ端4Aを露出させるために開口部を通して突出するように配置された振動プローブ4を有する測定デバイス3を含む。測定デバイス3は、電流または電圧が供給されると振動する電気力学的デバイスであるバイブレータ(図示せず)を含み、力センサ(図示せず)を含むこともできる。プローブ4は、バイブレータに結合されており、これにより、双方向矢印で示されているように、プローブ4に長手方向の振動を与えるように動作可能である。力センサは、プローブ端4Aに長手方向に印加される力をセンシングするために、プローブ4に直接にまたは間接的に結合することができる。バイブロメータ1は、プローブ4の振動を感受したことを患者が知らせるフィードバックデバイス5をさらに含む。フィードバックデバイス5は、ボタン、キーボード、キーパッド、タッチスクリーン、マイク、ジェスチャ認識システムなどの任意の組み合わせを含むことができる。他のタイプのフィードバックデバイスも考えられる。命令デバイス6は、バイブロメータ1が患者またはシステム1のオペレータに指示または命令を出力することを可能にする。命令デバイス6は、指示ランプ、ディスプレイ、スピーカなどの任意の組み合わせを含むことができる。制御ユニット7が、バイブロメータ1を動作させ、有線または無線で接続されて、測定デバイス3に制御信号を供給し、命令デバイス6に命令信号を供給し、フィードバックデバイス5からフィードバック信号を受信する。
【0033】
制御ユニット7は、測定データを形成するための検査手順を実行するように構成されている。検査手順の間、制御ユニット7は、測定デバイス3を動作させて、既定の周波数でそれぞれ異なるエネルギの振動をプローブ4に与える。患者は、指、例えば図示されているように指先をプローブ端4Aに係合させ、プローブ4の振動を感受すると、フィードバックデバイス5を介して指示する。こうした測定は1つ以上の付加的な周波数について繰り返すことができ、複数の周波数についての測定データをもたらす。検査手順の間、制御ユニット7は、プローブ端4Aに加えられる指先の力が適切であることを保証するために、力信号をモニタリングすることができる。
【0034】
図1Bには、フィードバックデバイス5が押しボタン付きハンドルであるバイブロメータ1の実施例が示されている。図示の例では、測定データは、例えば有線または無線で、バイブロメータ1から任意のタイプの演算デバイスでありうる分析デバイス10へと転送される。
【0035】
図1Cは、患者の検査手順について形成された、いわゆるバイブログラムである。
図1Cでは、縦軸は振動エネルギを表している。横軸は、この例では8Hz、16Hz、32Hz、64Hz、126Hz、250Hz、500Hzの、既定のそれぞれ異なる周波数で区切られている。既定の周波数のそれぞれについて、
図1Cには、プローブ4に与えられる振動エネルギを時間の関数として表す曲線12が示されている。図示の例では、曲線12はジグザグパターンを形成しており、このことは、振動エネルギが増減することを意味する。同時に、患者からのフィードバックが記録される。フィードバックは、振動エネルギが徐々に減少している間の知覚の終了、および/または振動エネルギが徐々に増大している間の知覚の開始を示すものでありうる。当該フィードバックに基づいて、振動触覚閾値(VPT)を演算することができる。
図1Cでは、VPTは水平線14で表されており、よって振動エネルギに対応する。VPTの演算は当該技術分野において周知であるので、さらなる詳細の説明を省略する。例えば、ISO13091-1および13091-2で与えられる振動触覚測定のISO規格を参照されたい。
【0036】
代替手段として、VPTは、標準スコアとしても知られる、いわゆるzスコアとして表すことができる。zスコアは、データ点が標準偏差のデータ点の平均値を幾つ分上回る(正)かまたは下回る(負)かを表す。例えば、zスコアは、選択された患者母集団について既定の周波数で測定されたVPTの平均値を表す平均値によって、年齢、性別などのパラメータについてVPTを正規化するために演算することができる。選択された母集団は、例えば、患者と同じ年齢、性別および生体データ(例えば、身長、指の温度)を有するように選択することができる。選択された母集団の患者は、振動に対する正常な(損傷していない)感受性を有することに基づいて選択することができる。
【0037】
図1Dは、患者について1つ以上のVPTを決定する例示的な方法200のフローチャートである。方法200は、分析デバイス10と組み合わせてバイブロメータ1によって実行することができる。代替的に、方法200は、バイブロメータ1自体が実行してもよい。
【0038】
ステップ201では、患者の1つ以上の肢の1つ以上の所定の場所において、例えば
図1Aのプローブ4により、振動エネルギを変化させながら1つ以上の既定の周波数で振動が引き起こされる。ステップ202では、ステップ201の間に、振動を知覚するか否かのフィードバックが患者から受け取られる。ステップ201~202は、限界法またはレベル法として実行することができる。限界法では、刺激(振動エネルギ)が徐々に増大または減少され(
図1Cの12を参照)、被検者は、刺激の増大中に刺激を最初に知覚したとき、または刺激の減少中に知覚しなくなったときに、フィードバックを提供する。これとは異なり、レベル法では、閾値を下回る閾値または上回る閾値が繰り返し印加され、被検者は、それぞれの刺激を知覚するかどうかを示すフィードバックを提供することを求められる。前述からも理解されるように、ステップ201~202は、既定の各周波数および所定の各場所について別々に実行される。ステップ203では、フィードバックに基づいて、患者が知覚から非知覚への移行または非知覚から知覚への移行またはその双方を経験したときの振動エネルギを表す少なくとも1つのVPTを周波数ごとおよび場所ごとに演算する。例えば、ステップ201で周波数および場所について複数の測定データのインスタンスを形成することが含まれる場合、1つの周波数および場所について複数のVPTを演算できることに留意されたい。ステップ203は、VPTに基づく1つ以上のzスコアの演算を含んでもよい。
【0039】
変形例では、ステップ201~202による測定は、複数の場所および/または身体部位について同時に実行することができる。例えば、バイブロメータには、身体部位の2つ以上の場所(例えば片手の複数の指)および/または2つ以上の身体部位の1つ以上の場所(例えば異なる手の同じ指)に係合される、複数の振動プローブまたは振動プレートを設けることができる。振動プローブ/プレートを2つ以上の周波数で同時に振動させるように制御することも考えられる。
【0040】
図2Aは、入力データ21に基づいて、患者が将来の時点でCIPNを経験するリスクを予測するように構成された例示的な予測デバイス20の概略図である。予測デバイス20は、本明細書に提示する方法、プロセス、ルーチンまたはステップのいずれかに従って動作するように構成することができる。図示の例では、予測デバイス20は、入力データ21を受けるための入力インタフェース20Aと、予測モジュール300と、CIPNの予測リスクを示す予測データ22を提供するための出力インタフェース20Bとを備える。予測データ22は、メモリへの記憶、表示ユニットへの表示、さらなる処理などのために予測デバイス20から出力することができる。予測デバイス20は、以下に限定されるものではないが、デスクトップコンピュータ、ラップトップ、タブレット、スマートフォンなどを含む任意のタイプのコンピュータデバイスであってよい。入力データ21は、患者の振動触覚の1つ以上の測定値を表す振動知覚データ(VPD)を含む。実現形態によっては、VPDは、上述の測定データ、または1つ以上のVPT、1つ以上のzスコアなどの測定データから導出されたパラメータデータを含むことができる。予測デバイス20は、分析デバイス10(
図1B)またはバイブロメータ1(
図1B)の一部であってもよいし、別個のデバイスであってもよい。インタフェース20A、20Bは、内部インタフェースであっても外部インタフェースであってもよく、入力データ21は、電子転送もしくは手入力またはこれらの任意の組み合わせによって提供可能であることが理解される。
【0041】
図2Bは、予測データ22を生成するために予測デバイス20によって実行可能な例示的な方法210のフローチャートである。方法210は、振動触覚の測定が約64Hz未満の振動周波数で行われればCIPNの将来のリスクを示すことができるという驚くべき発見につながった重要な実験の成果である。以下では、64Hz未満の1つ以上の周波数で得られたVPDを「低周波VPD」またはLF-VPDと表記する。
図1Cのバイブログラムに示されているように、8Hz、16Hz、32Hzでの測定はLF-VPDをもたらす。現在のところ、60Hz以下、50Hz以下、40Hz以下、35Hz以下、30Hz以下、25Hz以下、20Hz以下、15Hz以下または10Hz以下の周波数についてLF-VPDに基づくCIPN予測を実行することが考察されている。実用的な理由から、振動周波数は0.1Hz超または0.5Hz超にさらに制限されることもある。
【0042】
方法210は、化学療法前および/または化学療法中に実行することができる。ステップ211では、64Hz未満の1つ以上の周波数のVPD、すなわちLP-VPDが受信される。LP-VPDに加えて、ステップ211で64Hz以上の周波数のVPDが受信されてもよい。破線で示されているように、方法210は、オプションのステップ212~213をさらに含んでもよい。ステップ212で、患者を表す患者データ(PD)が受信される。ステップ213では、患者に処方された化学療法(進行中、今後予定、履歴)を表す療法データ(CTD)が受信される。患者データおよび療法データは、パラメータ値の集合の形式であってよい。さらに、PDおよびCTDの例を以下に示す。
図2Aの例では、VPDは、オプションとしてのPDおよび/またはCTDと共に、入力データ21に含まれる。
【0043】
以下の説明では、VPDは、患者の測定された振動触覚を表す1つ以上の「知覚値」の形式で入力データ21において表されるものであると仮定する。例えば、知覚値は、VPTまたはzスコアであってよい。そうでなく、VPDが上述の測定データの形式で表される場合、方法は、測定データから1つ以上の知覚値を演算する、
図1Dのステップ203と同様のステップを含むことができる。
【0044】
方法210はさらに、VPDにつき予測モデルを動作させて、患者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す少なくとも1つのリスク変数を決定するステップ214を含む。利用可能であれば、ステップ214は、PDおよび/またはCTDについても予測モデルを動作させて、リスク変数を決定することができる。ステップ215では、リスク変数に基づいて予測データ(
図2Aの22を参照)が生成される。幾つかの実施形態では、予測データはリスク変数を含むように生成される。幾つかの実施形態では、予測データは、
図3~
図4を参照して以下でさらに例示するように、リスク変数を処理することによって生成される。
【0045】
予測方法210の有用性について、患者に処方された化学療法(CTX)の例を概略的に示す
図2Cを参照してさらに説明する。CTXは、一般にサイクルと称される一定の間隔で実施される。サイクルは、1日以上にわたって1つ以上の化学療法剤を投与し、その後数日または数週間にわたって治療を行わない(「休薬期間」)ものとすることができる。休薬期間は、正常細胞が一過性の末梢神経障害などの副作用から回復する時間を与える。用量は、ある日数にわたって連続して与えられることもあるし、1日おきに数日間与えられることもある。幾つかの化学療法剤は、一定の日数にわたって連続して与えられるのが最も効果的である。本開示では、1回以上の用量を伴うサイクルを「療法セッション」または「セッション」と表記する。任意の2つのセッションが休薬期間によって区切られる。
図2Cの例では、CTXは、6回の療法セッションの時系列TSからなる。CTXは通常、いわゆる化学療法レジメン(「CTXレジメン」)によって実施され、当該レジメンは、担当の臨床医によって規定され、化学療法剤、その用量、治療セッションの頻度および時間長、化学療法剤の投与方法(注射、錠剤など)ならびに他の考慮事項を規定する。
【0046】
図2Cにはまた、破線矢印I~IVによって、CTX前およびCTX中に測定されたVPDに関する予測方法210の異なる使用方法が示されている。オプションIでは、方法210は、最初のTSの前すなわちCTXの開始前に測定されたVPDについて行われて、CTXの完了後の所与の期間ΔT、例えば6ヶ月、12ヶ月に設定されうる長期期限LTLにおけるCIPNのリスクが予測される。このような長期CIPNは、患者に長く続く影響を与える可能性が高いので避けるべきである。オプションIにより、臨床医は、長期CIPNを回避または軽減するようにCTXレジメンを調整することができる。オプションIIでは、方法210は、長期CIPNのリスクを予測するために、CTX中、この例では3回目のTSの前に測定されたVPDについて行われる。オプションIIにより、臨床医は、CTX中に長期CIPNのリスクをフォローアップし、これに応じてCTXレジメンを調整することができる。オプションIIIでは、方法210は、CTX中のCIPN(「短期CIPN」)のリスクを予測するために、1回目のTSの前に測定されたVPDについて行われる。オプションIIIにより、臨床医は、CTX中の患者の不快感を軽減するようにCTXレジメンを調整することができ、また短期CIPNとある程度相関する可能性が高い長期CIPNのリスクも軽減することができる。オプションIVでは、方法210は、CTX中、この例では2回目のTSの前に測定されたVPDについて行われ、CTX中の後期のリスク、この例では4回目のTSの前におけるCIPNのリスクを予測する。オプションIVは、オプションIIと同様に、臨床医がCTXレジメンをフォローアップし、調整することを可能にする。
図2Cには示されていないが、異なる時点で測定されたVPDの組み合わせについて方法210を行うことも考えられる。一般に、このようなVPDの組み合わせは、少なくとも2回のセッションのそれぞれの前に、かつ/またはセッション間の2つ以上の時点で、測定可能となる。一例では、組み合わせは、1回目のTSの前に測定されたVPDと、2回目のTSの前に測定されたVPDとを含む。別の例では、組み合わせは、1回の休薬期間中のそれぞれ異なる時点で測定されたVPDを含む。さらなる例では、組み合わせは、それぞれ異なる休薬期間中の時点で測定されたVPDを含む。
【0047】
予測データ(
図2Aの22)の精度は、入力データ(
図2Aの21)に療法データCTDを含め、VPDとCTDの組み合わせにつき予測モデルを動作させること(
図2Bのステップ214)によって向上させうることがわかっている。CTDは、CTXレジメンを表すことができ、例えば、化学療法剤、用量もしくはスケジュールを表す1つ以上のパラメータを含むことができる。例では、用量は、CTX中に投与される累積用量として与えられうる。さらなる例では、スケジュールは、セッション数、それぞれのセッションの時間長、休薬期間の時間長またはこれらの組み合わせとして与えられうる。CTDはまた、患者のCTX治療歴、例えば、以前のCTXのCTXレジメン、最後のCTXからの時間、進行中のCTXにおける最後の治療セッションからの時間などを含むことができる。VPDとCTDとの双方の使用には、臨床医がCTDを変更することにより、患者の異なるCTXレジメンに関してCIPNのリスクを評価できるという付加的な利点がある。
【0048】
また、予測データ(
図2Aの22)の精度を、入力データ(
図2Aの21)に患者データPDを含め、VPDとPDとの組み合わせについて予測モデルを動作させること(
図2Bのステップ214)によって向上させうることがわかっている。PDに含まれうるパラメータの例は、年齢、性別、身体的特徴、現在の体温、健康状態、投薬状態、および病歴である。身体的特徴は、身長、体重、BMI、肥満などのうちの1つ以上であってよい。現在の体温は、VPDが測定されたときの患者の体温であり、例えばVPDが測定された身体部位の体温である。健康状態は、予測が行われた時点における患者の状態である。健康状態は、例えば、患者が既存の神経障害および/または糖尿病、パーキンソン病、多発性硬化症(MS)などの任意の併存疾患を有するかどうかを示すものでありうる。投薬状態は、化学療法剤以外に患者に処方されている任意の薬剤を示すものでありうる。投薬歴はまた、このような薬剤の用量などを示すものでありうる。病歴(既往症)は、これに限定されるものではないが神経障害を含む、患者が以前に罹患した関連する任意の病気、疾患または障害を示すものでありうる。病歴はまた、病気の最終発現からの時間などを示すものでありうる。また、PDが、例えば、背景技術の項で述べた既存のスケールのいずれかに従った分類など、アンケートからの主観的データを含むことも考えられる。さらに、PDは、冷熱感受閾値、皮膚感受閾値、痛覚など、患者に関する他のタイプの測定からのデータを含むことができる。
【0049】
また、VPD、CTD、PDの組み合わせについて予測モデルを動作させることにより、予測をさらに向上させうることを理解されたい。
【0050】
また、64Hz未満の複数の振動周波数について測定されたVPDについて予測モデルを動作させることによっても、予測の向上が達成されうる。それぞれ異なる周波数におけるVPDは、同じ肢または異なる肢の同じ場所で測定することができ、または異なる場所で測定することもできる。幾つかの実施形態では、肢は手または足であってよく、場所は足の中足骨頭または手の指であってよい。患者が片側性神経障害を有する場合、VPDは、患者の影響を受けていない側で測定することができる。現在のところ、入力データが被検者の少なくとも片方の足で測定されたVPDからなる場合、人体の他の部位で測定されたVPDと比較して、予測の精度が向上すると考えられている。
【0051】
予測の向上は、複数の場所および/または1つ以上の肢で測定されたVPDについて予測モデルを動作させることによっても達成可能である。
【0052】
したがって、一般に、VPDにおける複数の知覚値について予測モデルを動作させることにより向上が達成され可能となるが、当該知覚値は、振動周波数、場所、または肢のうちの少なくとも1つによって異なる。
【0053】
予測方法210の有効性が、いわゆるROCプロットである
図8A~
図8Cにさらに示されている。ROCプロットは、自己申告(NTI-CTCAEスケール)または測定されたzスコアのいずれかに基づいて、CTXを受けている患者をCIPNの徴候について評価した臨床研究からの入力データに対して予測方法210を行うことによって生成された。患者は、いずれもオキサリプラチンを含む異なる薬剤の組み合わせに関して、2つのグループに分けられている。
図8Aにおいて、曲線801は、VPD(右足の第1中足骨頭で測定した4Hz、8Hz、16Hzのzスコア)、CTD(薬剤の組み合わせ、セッション数、累積用量)およびPD(年齢)に基づく、長期CIPN(CTXの完了から6ヵ月後、自己申告による)の予測に関するROC曲線である。
図8Bにおいて、曲線802は、VPD(右足の第1中足骨頭で測定した4Hz、8Hz、16Hz、32Hzのzスコア)、CTD(薬剤の組み合わせ、累積用量)に基づく、長期CIPN(CTXの完了から6ヵ月後、測定されたzスコアによる)の予測に関するROC曲線である。
図8Cにおいて、曲線803は、VPD(右足の第1中足骨頭で測定した4Hz、8Hz、16Hzのzスコア)、CTD(薬剤の組み合わせ)およびPD(性別)に基づく、短期CIPN(CTX中の任意の時間、自己申告による)の予測に関するROC曲線である。
【0054】
図8A~
図8Cには、例として、予測方法201が長期および短期のCIPNを良好な精度で予測できることが示されている。
図8A~
図8Cの例は、予測方法201の有効性を示すために含まれているに過ぎず、これらの例で使用されている入力データへの限定は全く意図されていない。特定のCTXレジメンに関する特定のCIPN予測に使用する入力データは、入力データの収集に必要な時間と、結果として得られるCIPN予測の精度との間のトレードオフである。入力データの選択は、臨床データまたはシミュレーションデータに基づく検査によって決定することができる。
【0055】
図8A~
図8Cの例は全て、オキサリプラチンを投与したCTXについて与えられる。しかし、他の神経毒性物質についても対応する結果が期待される。科学文献によると、化学療法薬の神経毒性は、主に、それぞれ異なる6つの機序、すなわち、(i)免疫細胞の活性化、(ii)ミトコンドリアDNA転写の損傷、(iii)イオンチャネルの活性変化、(iv)ミエリン鞘の損傷、(v)微小管の破壊、(vi)アストロサイトの代謝変化によって引き起こされる。当該知見は、例えば、Int. J. Mol. Sci. 2019, 20, 1451に掲載された、Zajaczkowskaらによる論文“Mechanisms of Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy”から知られる。機序は、並行して作用することがあり、互いに増幅し合うこともある。機序(i)はニューロンの炎症を促す一方、機序(iii)~(vi)は主に末梢ニューロンの興奮性の変化を引き起こす。機序(ii)は炎症作用と細胞損傷作用との双方を有する。神経毒性作用を有する既存の化学療法薬は、(a)白金含有薬、(b)タキサン、(c)免疫調節薬、(d)ビンカアルカロイド、(e)エポチロン、(f)プロテアーゼ阻害薬の異なる6つのグループに大別される。これらの各グループの神経毒性は、機序(i)~(vi)のうちの1つ以上に由来する。オキサリプラチンはグループ(a)に属し、機序(i)、(ii)、(iii)を示す。現在のところ、予測方法210は、オキサリプラチンの機序のうちの少なくとも1つを示す化学療法薬および/またはCIPNをもたらすことが知られている化学療法薬の投与を伴う任意のCTXに適用可能であると考えられている。したがって、方法210は、これらに限定されるものではないがカルボプラチンまたはシスプラチンを含む、グループ(a)の他の全ての薬剤に適用可能であるはずである。グループ(b)は機序(i)、(ii)、(iii)および(iv)を示し、これにより機序の観点からグループ(a)とも密接に類似する。したがって、方法210は、グループ(b)の全ての薬剤に適用可能であるはずである。グループ(c)~(f)は全て、グループ(a)と少なくとも1つの機序を共有し、かつ/またはCIPNをもたらすことが知られているという基準を満たす。したがって、方法210は、グループ(c)~(f)の全ての薬剤に適用可能であるはずである。
【0056】
図3Aは、
図2Aの予測デバイス20に使用するための例示的な予測モジュール300のブロック図である。図示の例では、モジュール300は、予測データ351を生成するために、VPD301、場合によってはPD302およびCTD303の形式の入力データを受信して処理するように構成されている。予測データ351は、Cで示される、CIPNのリスクの分類を含む。分類Cは、例えば高い(CIPNのリスクが高い)、低い(CIPNのリスクが低い)のような、既定の複数のリスククラスのうちのリスククラスの表示として、または既定の各リスククラスについての確率値として含むことができる。図示の予測モジュール300は、予測モデル32によって処理される前に入力データを調整するように構成可能な前処理ユニット30(オプション)を備える。例えば、前処理ユニット30は、入力データをモデル32が要求するフォーマットへ符号化し、かつ/または入力データから特定のパラメータを生成することができる。前処理ユニット30はまた、入力データから外れ値を除去し、かつ/または入力データの妥当性チェックを実行することができ、オプションとして妥当性チェックに基づいてさらなる入力データを要求することができる(後述の
図5を参照)。予測モデル32は、Rで示す1つ以上のリスク変数331を生成するように構成されている。リスク変数331は、患者が低期または短期のCIPNを発症するリスクを示すものでありうる。それぞれのリスク変数は、数値として与えることができる。モジュール300は、リスク変数Rを処理して分類Cを生成する評価ユニット34を備える。一例では、評価ユニット34は、リスク変数を1つ以上の閾値と比較する。評価ユニット34による処理の例について、
図4A~
図4Cを参照して以下に示す。幾つかの実施形態では、評価ユニット34は省略されてもよい。
【0057】
予測モデル32は、リスク変数と入力データ中の変数または入力データによって与えられる変数との間の任意の関数関係を定義することができる。幾つかの実施形態では、予測モデルは、演算を単純化するために線形である。線形モデルは、
【数1】
に従って、所定の複数の重み係数を用いて変数の集合を組み合わせてリスク変数とすることができ、ここで、r1はリスク変数、w
iは重み係数、v
iは変数、nは変数の数である。変数の数は任意であるが、nは典型的には少なくとも3であり、100であってもよい。変数は、量的変数と質的変数との双方を含むことができる。量的変数は、測定または計数に由来し、例えば、VPT、zスコア、セッション数、累積用量、年齢、身長などであってよい。質的変数は、測定に由来せず、例えば、薬物または薬物の組み合わせ、性別、医学的状態、健康状態、病歴などを表すことができる。それぞれの量的変数には、オプションで前処理ユニット30によって再フォーマット化された測定値を与えることができる一方、それぞれの質的変数には、例えば既定の数列中の任意の適切な数値を与えることができる。
【0058】
当該技術分野において周知のように、線形モデルは、重み係数wiの値を決定するために、参照データに基づいて較正または「トレーニング」される。重み係数が決定されると、線形モデルは、予測モデル32としてモジュール300に適用される。重み係数の決定は、以下に限定されるものではないが偏最小二乗判別分析(PLS-DA)、スパースPLS-DA、決定木(例えば、分類回帰木(CART)、ランダムフォレスト分類器など)、サポートベクターマシン(SVM)、k最近傍(k-NN)、ナイーブベイズ分類などを含む、多変量データの予測分析のための任意の従来の数学的手法を使用することによって実行することができる。
【0059】
代替手段として、予測モデル32は、例えば人工ニューラルネットワークを含む機械学習ベースのモデル(MLM)であってもよい。このようなモデルはまた、参照データに基づくモデルのトレーニングによって決定される係数を含む。トレーニングは、任意の従来の方法によって実行することができる。
【0060】
参照データは、リスク変数によって可能となる判別または分類を考慮しても選択可能であることが理解される。例えば、既定のカテゴリの集合を判別するために、参照データは、カテゴリの集合に分類された患者を含むはずである。カテゴリは相互排他的であってよいが、このことは必須ではない。任意の数のカテゴリを使用することができる。一例では、カテゴリは、「長期CIPN」および「CIPNなし」である。別の例では、カテゴリは、「短期CIPN」および「CIPNなし」である。別の例では、カテゴリは、CIPNの異なる重症度であり、例えば背景技術の欄で述べた既存のスケールのいずれかによって与えられる。別の例では、カテゴリは、「CIPNのリスクが低い」および「CIPNのリスクが低くない」である。別の例では、カテゴリは、「CIPNのリスクが高い」および「CIPNのリスクが高くない」である。別の例では、カテゴリは、CIPNの異なる症状、例えば「しびれ感」、「痛み」などである。
【0061】
図3Bは、
図3Aの予測モジュール30の変形例のブロック図である。モジュール300は、第1の予測モデル32および第2の予測モデル32’を備える。第1のモデル32は、Rで示す1つ以上の第1のリスク変数331を生成するように構成されており、第2のモデル32’は、R’で示す1つ以上の第2のリスク変数331’を生成するように構成されている。評価ユニット34は、RとR’の統合評価によって分類を決定するように構成されている。このような統合評価は、並行して、または連続して、またはその双方で行うことができる。2つのモデルを使用して統合評価を実行することにより、予測の精度を向上させることができる。こうした向上は、単に付加的なリスク変数を提供することの効果であるのみならず、2つのモデルの使用によってそれぞれ異なるタイプの判別に対してモデルが最適化可能であることからモジュール300の感度と特異度との双方を向上させることができることによる。2つよりも多くの予測モデルを使用することもできる。
【0062】
第1のモデル32および第2のモデル32’は、それぞれのモデルに含まれる変数によって異なることができる。変数は、モデル32,32’間で少なくとも部分的に重複してもよいが、重複する必要はない。好ましくは、2つのモデル32,32’の双方がLF-VPDを表す少なくとも1つの変数について動作する。変数の数(n)は、モデル32,32’間で異なっていてもよい。付加的にもしくは代替的に、モデル32,32’は、リスク変数によって可能になる判別または分類によって異なってもよい。付加的にもしくは代替的に、モデル32,32’は、それぞれのモデルの較正またはトレーニングに使用する数学的モデルによって異なってもよい。付加的にもしくは代替的に、モデル32,32’は、例えば線形モデルおよび非線形モデル、または線形モデルおよびMLMなど、異なるタイプのものであってもよい。
【0063】
上述したように、予測データは、患者のリスクの分類Cでありうる。分類Cは、既定のリスククラスの集合のうちの1つを示すものでありうる。例えば、既定のリスククラスは、上述のカテゴリに対応させることができる。例えば、Cは、「長期CIPN」および「CIPNなし」のいずれか、「短期CIPN」および「CIPNなし」のいずれか、CIPNの重症度分類の集合、「CIPNのリスクが低い」または「CIPNのリスクが低くない」のいずれか、「CIPNのリスクが高い」または「CIPNのリスクが高くない」のいずれか、症状分類の集合などであってよい。
【0064】
幾つかの実施形態では、予測モジュールは、少なくとも3つの既定のリスククラスのうちの1つを示す予測データを生成するように構成されている。これにより、患者を評価するための予測データの使い勝手が向上する。
【0065】
幾つかの実施形態では、少なくとも3つの既定のリスククラスは、低リスクに関連する第1のリスククラス、高リスクに関連する第2のリスククラス、および第1のリスククラスと第2のリスククラスの中間の第3のリスククラスを含む。第1のリスククラス、第2のリスククラスおよび第3のリスククラスは、長期CIPNのリスク、短期CIPNのリスクまたはこれら双方のリスクに関連する場合がある。第3のリスククラスにより、予測データは、臨床医がCTXレジメンを調整する必要がある患者(第2のリスククラス)と、単に注意深くモニタリングする必要がある患者(第3のリスククラス)とを判別することを助ける。これにより、医療リソースを大幅に節約できる可能性がある。
【0066】
幾つかの実施形態では、予測モジュール300は、リスク変数と少なくとも1つの所定の閾値との比較に基づいてリスクカテゴリを決定し、リスクカテゴリに基づいて予測データを生成するように構成されている。
図3A~
図3Bの例では、こうした処理が評価ユニット34によって実行される。リスク変数からリスクカテゴリへ、さらにリスクカテゴリから予測データへの2段階の手順により、予測データの精度を向上させることが可能になる。ここでの利点を、
図4A~
図4Cを参照して例示する。
【0067】
図4Aの例では、モジュール300は、患者がCIPNを発症するリスクを示すリスク変数Rを生成する予測モデル32を含む。評価ユニット34は、Rが第1および第2の閾値L1,L2(「判別閾値」)と比較される3つの判定ステップ341~343を定義するように構成されている。ステップ341でR≦L1が判明した場合、患者にはリスクカテゴリ「低い」が与えられ、予測データは、リスククラス351A「低い」(第1のリスククラス)に設定される。ステップ342でR>L2が判明した場合、患者にはリスクカテゴリ「高い」が与えられ、予測データは、リスククラス351B「高い」(第2のリスククラス)に設定される。そうでなく、ステップ343でL1<R≦L2が判明した場合、患者にはリスクカテゴリ「疑い」が与えられ、予測データは、リスククラス351C「疑い」(第3のリスククラス)に設定される。ステップ341~343のうちのいずれかが暗黙的であってもよいことが理解される。
【0068】
図4Bの例では、モジュール300は、リスク変数R,R’をそれぞれ生成する2つの予測モデル32,32’を含む。リスク変数Rは、リスクカテゴリ「低い」と「低くない」とを判別するために生成される。リスク変数R’は、リスクカテゴリ「高い」と「高くない」とを判別するために生成される。評価ユニット34は、Rと第1の閾値L1とを比較し、R’と第2の閾値L2とを比較する4つの判定ステップ341~344を定義するように構成されている。ステップ341~344は、(L1との比較によって)Rについて決定されたリスクカテゴリと、(L2との比較によって)R’について決定されたリスクカテゴリとの論理的な組み合わせに対応する。R>L1の場合、リスクカテゴリは「低い」である。R≦L1の場合、リスクカテゴリは「低くない」である。R’>L2の場合、リスクカテゴリは「高い」である。R’≦L2の場合、リスクカテゴリは「高くない」である。
図4Bの例では、ステップ341で、Rがカテゴリ「低い」をもたらし、R’がカテゴリ「高くない」をもたらす場合、予測データをリスククラス351A「低い」に設定する。ステップ342では、Rがカテゴリ「低くない」をもたらし、R’がカテゴリ「高くない」をもたらす場合、予測データをリスククラス351C「疑い」に設定する。ステップ343では、Rがカテゴリ「低い」をもたらし、R’がカテゴリ「高い」をもたらす場合、予測データをリスククラス351C「疑い」に設定する。ステップ344で、Rがカテゴリ「低くない」をもたらし、R’がカテゴリ「高い」をもたらす場合、予測データをリスククラス351B「高い」に設定する。
【0069】
2つのリスク変数R,R’について決定されたリスクカテゴリの論理的な組み合わせにより、
図4Bでは、
図4Aと比較して、リスククラス「低い」および「高い」のより高い感度および特異度が可能となることが理解される。
【0070】
図4Bの例は、RおよびR’のリスクカテゴリを最初に決定した後、予測データの生成のためにリスクカテゴリを評価することによって実行してもよいことに留意されたい。代替的な実施態様では、リスクカテゴリの決定と評価とが交互に行われる。
【0071】
また、リスクカテゴリの論理的な組み合わせは
図4Bとは異なってもよいことに留意されたい。一例では、モデル32は、R’のリスクカテゴリに関係なく、Rがリスクカテゴリ「低い」をもたらす場合にリスククラス「低い」を設定することにより、モデル32’よりも優位となりうる。別の例では、モデル32’は、Rのリスクカテゴリに関係なく、R’がリスクカテゴリ「高い」をもたらす場合にリスククラス「高い」を設定することにより、モデル32よりも優位となりうる。
【0072】
予測データについてさらなるリスククラスが定義されてもよいことも理解されたい。Rがカテゴリ「低い」をもたらし、R’がカテゴリ「高い」をもたらす場合、ステップ343で予測データをリスククラス351D「クラスなし」に設定する点で、
図4Bとは異なる例が
図4Cに示されている。第4のリスククラスの使用は、リスククラス351C「疑い」が割り当てられる患者の数を減らすことにより、医療リソースの必要性をさらに減らすことができる。リスククラス351Dの根拠は、RとR’が相反するリスクカテゴリ(「低い」と「高い」)をもたらす場合、何かが間違っている可能性が高いということである。したがって、リスククラス351Dを、潜在的な誤りを臨床医に知らせるために使用することができ、これにより、臨床医は入力データを見直し、場合によっては更新しなければならなくなる。
【0073】
図4B~
図4Cの例はまた、2つ以上のリスク変数を生成するように構成された単一の予測モデル32に適用可能である。例えば、このような予測モデルは、CIPNのリスクを示す第1のリスク変数と、第1のリスク変数の信頼性スコアである第2のリスク変数とを生成することができる。
図4B~
図4CのR,R’の処理と類似して、第1のリスク変数は、第1の閾値と比較されてリスクカテゴリを生成することができ、第2のリスク変数は、第2の閾値と比較されて信頼性カテゴリを生成することができ、予測データは、リスクカテゴリと信頼性カテゴリの論理的な組み合わせによって生成することができる。
【0074】
図5は、前処理ユニット30(
図3A~
図3B)によって実行可能な妥当性チェック手順のフローチャートである。手順は、予測モジュール300が入力データを受信するたびに実行される。ステップ310では、少なくとも1つの要件に関して入力データを分析する。それぞれの要件は、VPD、PDまたはCTDについて定義することができる。幾つかの実施形態では、1)例えば変数の数またはタイプの観点からデータが欠落している場合、2)VPTまたはzスコアの偏差が検出される場合、3)バイブロメータによって測定され、入力データに含まれる力値が既定の範囲外である場合、4)バイブロメータによって測定され、入力データに含まれる身体部位の温度が既定の範囲外である場合、5)(入力データに場所/肢が示されていることを前提として)VPDが誤った場所または誤った肢で形成された場合、6)バイブロメータによって形成され入力データに含まれる信頼性指数が制限値未満である場合に、VPDの要件への違反が生じる。幾つかの実施形態では、1)例えば変数の数またはタイプの観点からデータが欠落している場合、2)例えば値が既定の範囲外である、または例えば被検者の身長と体重の比が乖離しているなど、変数の値の組み合わせが非現実的であることにより、1つ以上の変数が不良であるもしくは疑わしいと判断される場合に、PDまたはCTDの要件への違反が生じうる。ステップ310で入力データが少なくとも1つの要件に照らして妥当であると決定された場合、手順は、入力データを予測モデル32に提供することによって予測へと進む。ステップ310で入力データが要件または要件の組み合わせに違反していると決定された場合、手順はステップ311へと進み、カウンタpがインクリメントされる。ステップ312でカウンタpと制限値pLimとが比較される。pがpLim未満である場合、方法は、新たな入力データの要求を出力するステップ313へ進む。要求は、ディスプレイおよびマイクなどに出力され、違反された要件などの観点から要求の理由を示すこともできる。要求に対して新たな入力データが受信されると、手順が繰り返される。手順が繰り返されすぎてp≧pLimとなった場合、ステップ312で、例えば図示のように予測データをリスククラス351D「クラスなし」に設定することにより、オペレータにその旨が通知される。これにより、予測動作が中止される。ステップ310で予測へと進んだ場合、またはステップ312でp≧pLimが判定された場合には、カウンタpがリセットされることが理解される。変形例では、制限値pLimはデータのタイプによって異なっていてよい。例えば、被検者の測定を通じて更新する必要がありうるVPD(
図1Dの方法200を参照)には、PDまたはCTDと比較して、より小さな制限値を設定することができる。
【0075】
当該技術分野で知られているように、予測モデル32が例えば予測値を代わりに使用することにより変数を補正するように構成されている場合、特定の変数が欠落している場合、不良である場合または疑わしい場合でも、ステップ310で予測へと進んでよいことに留意されたい。しかし、ステップ310で1つ以上の変数を必須とし、この変数が欠落している場合、不良である場合または疑わしい場合にはステップ311へ進ませることもできる。さらに、欠落している変数、不良である変数または疑わしい(必須ではない)変数の数が制限値を超えた場合、ステップ310からステップ311へと進むようにしてもよい。
【0076】
図6には、本明細書で説明しているCIPN予測が臨床現場でどのように使用されうるかの例が示されている。図示の例では、予測データがリスククラス「低い」、「高い」および「疑い」のいずれかを示すことを前提としている(
図4A~
図4Bの351A~351Cを参照)。ステップ600において、患者について基本のもしくはデフォルトの範囲の入力データが取得され、予測方法210が、予測データを生成するためにデフォルトの入力データについて行われる。例えば、デフォルトのプロトコルに従って測定を実行することによってVPDを取得することができる。当該VPDに加えて、デフォルトの入力データは、PDおよび/またはCTDの変数のデフォルトの集合を含むことができる。ステップ600で生成された予測データがリスククラス「低い」を示す場合(ステップ601)、臨床医は、患者をCIPNのルーチンモニタリングに付すこと(ステップ602)を決定することができる。このようなルーチンモニタリングには、各治療セッションに関連して、血液サンプルを採取して分析し、患者アンケートを使用して末梢神経症状を定量化することが含まれる。そうでなく、予測データがリスククラス「高い」を示す場合、臨床医は、患者がCIPNを発症するリスクが高いかどうかを評価するために、臨床試験(ステップ604)を受けるべきであると決定することができる(ステップ603)。臨床試験で高いリスクが確認された場合、臨床医は、ステップ605でCTXを再評価し、これに応じてCTXレジメンを調整することになる。破線で示されているように、臨床試験は省略されてもよい。そうでなく、予測データがリスククラス「疑い」を示す場合、臨床医は、拡張された範囲の入力データについての予測方法210(ステップ606)を行うべきであると決定することができる(ステップ603)。拡張された入力データは、ステップ600で使用されているデフォルトの入力データと比較して、VPD、CTDまたはPDのさらなる変数および/または他の変数を含むことができる。ステップ606は、拡張されたプロトコルに従って測定を実行することによってVPDを取得することを含みうる。
図6の例では、ステップ606で、リスククラス「低い」またはリスククラス「高い」のいずれかを示す予測データを生成することを前提としている。ステップ606からの予測データがリスククラス「高い」を示す場合、臨床医はCTXを再評価することになる(ステップ605)。そうでなく、ステップ606からの予測データがリスククラス「低い」を示す場合、臨床医は、患者をCIPNのルーチンモニタリングに付すことができる(ステップ602)。
【0077】
幾つかの利点が
図6から容易に理解できる。1つは、ステップ600,606のそれぞれにより、CIPNを発症しやすい患者を早期に発見できることである。したがって、CIPNを軽減または予防するための対策を早期に講じることができる。このことは、慢性化し不要な苦痛をもたらしうる長期CIPNに特に関連しうる。第2に、ステップ603による中間リスククラス「疑い」の患者を分離することにより、臨床医または医師が療法の潜在的に不要な再評価に費やす時間を削減することができる。またこれに代えて、再評価の必要性がステップ606によって定量化され、医学的資格の低いスタッフにより、時間効率のよい方式で再評価を実行することができる。
【0078】
図7には別の使用例が示されている。時点t=t1で、入力データ21が取得され、2つの予測モジュール300A,300Bが入力データ21について動作する。一方の予測モジュール300A(MOD1)は短期CIPNのリスクを決定するように構成されており、他方の予測モジュール300B(MOD2)は長期CIPNのリスクを決定するように構成されている。MOD1およびMOD2は入力データ21について動作するが、入力データ21のうち少なくとも部分的に異なる部分について動作可能であることが理解される。MOD1およびMOD2は、3つのリスククラス「低い」、「高い」および「疑い」のうちの1つを有する予測データを生成する。MOD1およびMOD2は、1つの予測デバイスに含めることができる。例えば、時点t=t1は、CTXの最初のセッションの前であってよい。モジュールの少なくとも1つによってリスククラス「低い」または「高い」が示された患者は、
図6に即して説明したように管理することができる。しかし、患者についてリスククラス「疑い」が示された場合、予測デバイスは、CTX中の後続の時点t=t2で、例えば次のセッションの前に、さらにCIPN予測を実行するよう臨床医に助言を出力することができる。当該助言は、
図7において矢印700で示されている。図示の例では、CIPN予測は、t=t2において、この時点で取得された入力データ21について動作する他の2つの予測モジュール300C,300D(MOD3、MOD4)により実行される。MOD3およびMOD4は、MOD1およびMOD2と同様に、それぞれ短期CIPNおよび長期CIPNのリスクを決定するように構成されているが、2つのリスククラス「低い」および「高い」のうちの1つを有する予測データを生成する。これにより、「低い」または「高い」への「疑い」の分離(
図6のステップ607を参照)は、治療セッション間で時間的に分散される。
【0079】
図8A~
図8Cは、既定の2つのリスククラス「高い」および「低い」のうちの1つを示すように構成された予測モジュールの異なる3つの例のROCプロットである。したがって、予測モジュールは、いわゆる2値分類器システムである。ROCプロットは、2値分類器システムの判別閾値を変化させたときの診断能力を示す周知の手法である。ROC曲線は、様々な閾値設定での偽陽性率(FPR)に対する真陽性率(TPR)をプロットすることによって作成される。TPRは感度とも称される。FPRは空振り率とも称され、(1-特異度)として計算することができ、特異度は真陰性率(TNR)である。ROC曲線は、2値分類器システムの性能を評価し、また判別閾値の値を設定するために使用可能である。
図8A~
図8Cでは、斜めの破線がランダムな推測の結果を表しており、ROC曲線が対角左側に離れているほど予測が優れていることを示している。
図8A~
図8のいずれにおいても、それぞれの予測モジュールが良好な予測能力を有することが示されている。例示的な基準によると、ある方法が実用的に有用であると判断されるのは、感度と特異度との合計が少なくとも1.5である場合である。当該基準は
図8A~
図8CのそれぞれのROC曲線801~803の大部分で満たされる。それぞれのROCプロットの基礎となる条件および仮定は既に上述したとおりであるので、ここでは繰り返さない。
【0080】
本明細書に開示する構造および方法は、ハードウェア、またはソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって実行することができる。幾つかの実施形態では、ハードウェアは、1つ以上のソフトウェア制御プロセッサを備える。
図9には、入力インタフェース20Aおよび出力インタフェース20Bを備える予測デバイス20が概略的に示されている。インタフェース20A,20Bは、ハードウェアまたはソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって実装することができ、有線データ通信もしくは無線データ通信のための標準化されたまたは独自の任意のプロトコルに従って動作することができる。予測デバイス20はさらに、処理回路901およびコンピュータメモリ902を備える。処理回路901は、CPU(「中央処理装置」)、DSP(「デジタルシグナルプロセッサ」)、GPU(「グラフィック処理装置」)、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、ASIC(「特定用途向け集積回路」)、アナログおよび/もしくはデジタルのディスクリート部品の組み合わせ、またはFPGA(「フィールドプログラマブルゲートアレイ」)などの何らかの他のプログラマブル論理デバイスのうちの1つ以上を含むことができる。コンピュータ命令を含む制御プログラム902Aは、メモリ902に記憶されており、前述の方法、手順、機能、動作またはステップのいずれかを実行するロジックを実装した処理回路901によって実行される。制御プログラム902Aは、有形の(非一時性の)製品(例えば、磁気媒体、光ディスク、読み出し専用メモリ、フラッシュメモリなど)または伝搬信号でありうるコンピュータ可読媒体910として予測デバイス20に供給することができる。
図9に示されているように、メモリ902はまた、上述の予測モデル、予測モデルの重み係数、判別閾値、制限値など、処理回路901が使用するための制御データ902Bを記憶することができる。
【0081】
現時点で最も実用的で好ましいと考えられる実施形態に関連して本発明について説明してきたが、本発明は開示の実施形態に限定されるものでなく、逆に、添付の特許請求の範囲の主旨および範囲に含まれる様々な変更および同等の構成をカバーすることが意図されていることを理解されたい。
【0082】
さらに、図面では特定の順序で動作を示しているが、このことは、望ましい結果を達成するために、こうした動作が示された特定の順序でもしくは順次に実行されること、または図示の全ての動作が実行されることを要求するものとして理解されるべきではない。状況によっては、並列処理が有利な場合もある。
【0083】
以下では、開示において前述した幾つかの態様および実施形態を要約するための条項を列挙する。
【0084】
条項1. 予測デバイスであって、被検者における化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)のリスクを予測するように構成された回路(901)を備え、前記回路(901)が、被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所における振動の測定された知覚を示す知覚データ(301)であって、1つ以上の既定の周波数のそれぞれにおける振動について、該振動の知覚と非知覚との間の移行を被検者に生じさせる振動エネルギを表し、前記1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが64Hz未満である、知覚データ(301)を含む入力データを受信し、前記知覚データ(301)につき少なくとも1つの予測モデル(32,32’)を動作させて、前記被検者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す少なくとも1つのリスク変数(331,331’)を決定し、前記少なくとも1つのリスク変数(331,331’)に基づいて予測データ(351)を生成する、ように構成されている、予測デバイス。
【0085】
条項2. 前記1つ以上の既定の周波数が、64Hz未満の少なくとも2つの異なる周波数を含む、条項1記載の予測デバイス。
【0086】
条項3. 前記1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが、60Hz以下、50Hz以下、40Hz以下、35Hz以下、30Hz以下、25Hz以下、20Hz以下、15Hz以下、または10Hz以下である、条項1または条項2記載の予測デバイス。
【0087】
条項4. 知覚データ(301)が、既定の周波数、所定の場所、または前記被検者の肢のうちの少なくとも1つによって異なる複数の知覚値を含む、条項1から条項3までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0088】
条項5. 前記化学療法が、少なくとも1つの化学療法剤の投与を伴うセッションの時系列(TS)を含み、前記知覚データ(301)が、セッションの時系列(TS)における少なくとも1つのセッションの前の前記被検者による振動の測定された知覚を表す、条項1から条項4までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0089】
条項6. 前記知覚データ(301)が、前記セッションの時系列(TS)における少なくとも2つのセッションのそれぞれの前の、かつ/または前記セッションの時系列(TS)におけるセッション間の1つ以上の休薬期間中の2つ以上の時点の、前記被検者による振動の測定された知覚を表す、条項5記載の予測デバイス。
【0090】
条項7. 前記知覚データ(301)が、前記セッションの時系列(TS)における少なくとも最初のセッションの前の前記被検者による振動の測定された知覚を表す、条項5または条項6記載の予測デバイス。
【0091】
条項8. 前記化学療法は、少なくとも1つの神経毒性物質の投与を含む、条項1から条項7までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0092】
条項9. 前記化学療法は、白金含有化学療法剤、タキサン、免疫調節剤、ビンカアルカロイド、エポチロン、およびプロテアーゼ阻害剤からなる群における少なくとも1つの化学療法剤の投与を含む、条項1から条項8までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0093】
条項10. 前記入力データはさらに、前記被検者および/または前記化学療法を表すパラメータ値の集合(302,303)を含み、前記回路(901)が、前記知覚データ(301)および前記パラメータ値の集合(302,303)につき少なくとも1つの予測モデル(32,32’)を動作させることにより、前記少なくとも1つのリスク変数を決定するように構成されている、条項1から条項9までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0094】
条項11. 前記パラメータ値の集合(302,303)は、前記被検者の年齢、前記被検者の性別、前記被検者の1つ以上の身体的特徴、前記被検者の現在の体温、前記被検者の健康状態、前記被検者の投薬状態、前記被検者の病歴、前記被検者の化学療法治療歴、前記化学療法で投与された化学療法剤、前記化学療法中に投与された化学療法剤の累積用量、前記化学療法剤の投与方法、および前記化学療法のスケジュールのうちの1つ以上を示す、条項10記載の予測デバイス。
【0095】
条項12. 前記1つ以上の肢が、足または手のうちの少なくとも1つを含む、条項1から条項11までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0096】
条項13. 前記1つ以上の所定の場所が、足の中足骨頭または手の指の少なくとも1つからなる、条項12記載の予測デバイス。
【0097】
条項14. 前記測定された知覚は、前記知覚データ(301)において、少なくとも1つの振動知覚閾値(14)、VPT、または少なくとも1つのVPT(14)から導出された少なくとも1つのパラメータ値によって表される、条項1から条項13までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0098】
条項15. 前記回路(901)はさらに、前記入力データに基づいて複数の変数を生成するように構成されており、前記少なくとも1つの予測モデル(32)は、複数の所定の重み係数を使用して複数の変数を組み合わせることにより、前記少なくとも1つのリスク変数(331)を決定するように構成されている、条項1から条項14までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0099】
条項16. 前記少なくとも1つの予測モデル(32,32’)は、線形モデルまたは機械学習ベースのモデルのうちの1つである、条項1から条項15までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0100】
条項17. 前記少なくとも1つのリスク変数(331,331’)は、化学療法の完了後少なくとも6ヶ月間持続する化学療法誘発性末梢神経障害を被検者が発症するリスクを示すリスク変数を含む、条項1から条項16までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0101】
条項18. 少なくとも1つのリスク変数(331,331’)が、化学療法中に化学療法誘発性末梢神経障害を被検者が発症するリスクを示すリスク変数を含む、条項1から条項17までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0102】
条項19. 前記予測データ(351)は、少なくとも3つの既定のリスククラス(351A,351B,351C)のうちの1つを示す、条項1から条項18までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0103】
条項20. 前記少なくとも3つの既定のリスククラスは、低リスクに関連する第1のリスククラス(351A)、高リスクに関連する第2のリスククラス(351B)、および第1および第2のリスククラスの中間の第3のリスククラス(351C)からなる、条項19記載の予測デバイス。
【0104】
条項21. 前記回路(901)は、少なくとも1つのリスク変数(331)と少なくとも1つの所定の閾値との比較に基づいて第1のカテゴリを決定し、第1のカテゴリに基づいて予測データ(351)を生成するように構成されている、条項1から条項20までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0105】
条項22. 前記少なくとも1つのリスク変数が、第1のリスク変数および第2のリスク変数(331,331’)を含み、前記回路(901)が、さらに、第1のリスク変数(331)に基づいて第1のカテゴリを決定し、第2のリスク変数(331’)に基づいて第2のカテゴリを決定し、前記第1のカテゴリと前記第2のカテゴリとの論理的な組み合わせとして前記予測データ(351)を生成するように構成されている、条項1から条項20までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0106】
条項23. 前記回路(901)が、さらに、前記入力データ(301)につき第1の予測モデル(32)を動作させて前記第1のリスク変数を決定し、前記入力データ(301)につき第2の予測モデル(32’)を動作させて前記第2のリスク変数を決定するように構成されている、条項22記載の予測デバイス。
【0107】
条項24. 前記第1のリスク変数は、CIPNを発症するリスクが低いことを示し、前記第2のリスク変数は、CIPNを発症するリスクが高いことを示す、条項22または条項23記載の予測デバイス。
【0108】
条項25. 前記回路(901)が、さらに、内容要件の集合に関して前記入力データを評価(310)して妥当性スコアを決定し、選択的に、前記妥当性スコアに基づいてさらなる入力データの要求を出力する(313)ように構成されている、条項1から条項24までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0109】
条項26. 前記回路(901)が、さらに、前記さらなる入力データに対する要求の数が既定の制限値を超えた場合に予測動作を中止するように構成されている、条項25記載の予測デバイス。
【0110】
条項27. 前記予測デバイスが、さらに、前記回路(901)に接続される入力インタフェース(20A)および出力インタフェース(20B)を備え、前記回路(901)が、前記入力インタフェース(20A)を介して入力データを受信し、前記出力インタフェース(20B)を介して予測データ(351)を出力するように構成されている、条項1から条項26までのいずれか1つ記載の予測デバイス。
【0111】
条項28. コンピュータに実装される予測方法であって、被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所における振動の測定された知覚を示す知覚データであって、1つ以上の既定の周波数のそれぞれにおける振動について、該振動の知覚と非知覚との間の移行を前記被検者に生じさせる振動エネルギを表し、前記1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが64Hz未満である、知覚データを含む入力データを受信すること(211)と、前記知覚データにつき予測モデルを動作させて、前記被検者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す少なくとも1つのリスク変数を決定すること(214)と、前記少なくとも1つのリスク変数に基づいて予測データを生成すること(215)と、を含む方法。
【0112】
条項29. 処理システムによって実行される際に、条項28記載の方法を処理システムに実行させるためのコンピュータ命令を含む、コンピュータ可読媒体。
【0113】
条項30. 予測方法であって、被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所における振動の測定された知覚を示す知覚データであって、1つ以上の既定の周波数のそれぞれにおける振動について、該振動の知覚と非知覚との間の移行を前記被検者に生じさせる振動エネルギを表し、前記1つ以上の既定の周波数のうちの少なくとも1つが64Hz未満である、知覚データを決定すること(200)と、条項1から条項27までのいずれか1つ記載の予測デバイスを知覚データにつき動作させて、前記被検者が化学療法により末梢神経障害を発症するリスクを示す予測データを生成すること(210)と、を含む予測方法。
【0114】
条項31. 前記知覚データを決定すること(200)が、前記被検者からフィードバック(202)を受けながら、前記被検者の1つ以上の肢上の1つ以上の所定の場所のそれぞれにおいて、前記1つ以上の所定の周波数のそれぞれで変化する振動エネルギを誘発するように振動知覚検査システムを動作させること(201)と、前記フィードバックに基づいて前記知覚データを演算すること(202)と、を含む、条項30記載の方法。
【国際調査報告】