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特表2024-508018平鋼製品、その製造方法、およびそのような平鋼製品の使用
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  • 特表-平鋼製品、その製造方法、およびそのような平鋼製品の使用 図1
  • 特表-平鋼製品、その製造方法、およびそのような平鋼製品の使用 図2
  • 特表-平鋼製品、その製造方法、およびそのような平鋼製品の使用 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】平鋼製品、その製造方法、およびそのような平鋼製品の使用
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240214BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240214BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/58
C21D9/46 G
C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553033
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2022055359
(87)【国際公開番号】W WO2022184811
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】21160462.4
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514309479
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】THYSSENKRUPP STEEL EUROPE AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ボチャロバ,エカテリーナ
(72)【発明者】
【氏名】スコパール,オルガ
(72)【発明者】
【氏名】パウル,ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ヴェストマン,シュテファン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB11
4K037EB12
4K037EC02
4K037FC04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FG01
4K037FH01
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037FM02
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、冷間圧延平鋼製品に関し、その鋼基材は、750~940MPaの引張強度、高強度、改善された溶接性および最適化された成形特性を有し、同時に低コストで製造することができる。本発明による冷間圧延平鋼製品は、質量パーセントで、C:0.040~0.100%;Mn:2.10~2.50%;Si:0.10~0.40%;Cr:0.30~0.90%;Ti:0.020~0.080%、B:0.0005~0.0020%;N:0.003~0.010%;Al:最大0.10%;Ca:最大0.005%;P:最大0.025%;S:最大0.010%;場合により、以下の元素:Mo:最大0.20%;Nb:最大0.050%;Cu:最大0.10%;V:最大0.020%;Ni:最大0.10%の1つまたは複数で構成される鋼からなり、残部は鉄および不可避不純物であり、不純物の総含有量は0.5質量%以下に制限され、リン(「P」)および硫黄(「S」)の含有量は不純物に属する。さらに、鋼基材は、10~40体積%のマルテンサイト、30~90体積%のベイナイト系フェライトを含むフェライト、5%以下の残留オーステナイト、製造に関連する不可避の他の構造成分である残部からなる二相構造を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
750~940MPaの引張強度を有する冷間圧延平鋼製品であって、その鋼基材が、質量%で
-C:0.040-0.100%、
Mn:2.10-2.50%、
Si:0.10-0.40%、
Cr:0.30-0.90%、
Ti:0.020-0.080%、
B:0.0005-0.0020%、
N:0.003-0.010%、
Al:最大0.10%、
Ca:最大0.005%、
P:最大0.025%、
S:最大0.010%、
場合により、以下の元素のうちの1つ以上:
Mo:最大0.20%、
Nb:最大0.050%、
Cu:最大0.10%、
V:最大0.020%、
Ni:最大0.10%
および残部としての鉄および不可避の不純物からなる鋼からなり、不純物の総分率が0.5質量%以下に制限され、リン(「P」)および硫黄(「S」)の分率が前記不純物に属し、
-10~40体積%のマルテンサイト、ベイナイト系フェライトを含む30~90体積%のフェライト、5%以下の残留オーステナイト、および製造プロセスによる不可避の他の構造成分の残部からなる二相構造を有する、冷間圧延平鋼製品。
【請求項2】
0.2~2.2%の膨張区間で測定された歪硬化指数nが少なくとも0.22%であることを特徴とする、請求項1に記載の平鋼製品。
【請求項3】
%TiでのTi分率について、
%Ti≦11×(%N+%B)
が適用され、式中、%N=所与のN分率であり、%B=所与のB分率であることを特徴とする、請求項1~2のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項4】
その引張強度Rmが780~900MPaであり、その弾性限界Rp0.2が440~650MPaであり、その破断伸びA80が13%超である(いずれの場合もDIN ISO 6892(長手引張方向、試料形態2)に従って決定)ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項5】
DIN ISO 16630に従って決定された20%を超える穴広げ率HERを有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項6】
180°の円錐パンチでの前記穴広げ率HERが少なくとも15%であり、50°の円錐パンチでの穴広げ率HERが少なくとも25%であることを特徴とする、請求項5に記載の平鋼製品。
【請求項7】
LDH試験で決定された、33mmを超える引き抜き深さを有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項8】
溶融めっきコーティングまたは電解コーティングによって塗布された腐食防止層でコーティングされていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項9】
以下の作業工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に従って形成される冷間圧延平鋼製品の製造方法:
a)C:0.040~0.100質量%、Mn:2.10~2.50質量%、Si:0.10~0.40質量%、Al:最大0.10質量%、Cr:0.30~0.90質量%、Ti:0.020~0.080質量%、B:0.0005~0.0020質量%、Ca:最大0.005質量%、P:最大0.025質量%、S;最大0.010質量%、N:0.003~0.010質量%、最大0.20質量%のMo、最大0.050質量%のNb、最大0.10質量%のCu、最大0.020質量%のV、および最大0.10質量%のNi、ならびに残部としての鉄および不可避の不純物を含む鋼溶融物を溶融する工程;
b)前記溶融物を鋳造してスラブまたは薄スラブなどの前駆体を作製する工程、
c)850~980℃の熱間圧延終了温度で前記前駆体を熱間圧延して熱間圧延帯を作製する工程;
d)480~650℃のコイリング温度で前記熱間圧延帯をコイル化する工程;
e)前記熱間圧延帯を酸洗いする工程;
f)前記熱間圧延帯を冷間圧延して、合計冷間圧延率が25~70%の冷間圧延平鋼製品を形成する工程;
g)780~920℃のアニーリング温度GTの連続炉内で前記冷間圧延平鋼製品をアニーリングする工程;
h)前記アニーリング温度GTに加熱された前記冷間圧延平鋼製品を380~500℃の冷却終了温度KETに冷却する工程であって、
前記アニーリング温度GTに加熱された前記冷間圧延平鋼製品が、2つの工程で冷却終了温度KETに冷却され、前記冷間圧延平鋼製品が、その冷却の第1の工程において前記所与のアニーリング温度GTから、750~620℃の範囲にある中間温度ZTまで、1.5K/sを超える冷却速度AR1で冷却され、第2の工程において前記中間温度ZTから前記所与の冷却終了温度KETまで、冷却速度AR2で冷却され、その場合、AR2>4×AR1が適用され、
または
前記アニーリング温度GTに加熱された前記冷間圧延平鋼製品が、2つの工程で冷却終了温度KETまで冷却され、前記冷間圧延平鋼製品がその冷却の第1の工程において、前記所与のアニーリング温度GTから、700~450℃の範囲にある中間温度ZTまで、5K/sを超える冷却速度AR1で冷却され、第2の工程において、前記中間温度ZTから前記所与の冷却終了温度KETまで冷却速度AR2で冷却され、その場合、AR2<(AR1)/3が適用される工程;
i)任意で、前記冷間圧延平鋼製品を前記冷却終了温度KETから、450~490℃の浴入口温度BTまで冷却または加熱する工程、および亜鉛または亜鉛合金からなり、少なくとも75重量%のZn分率を有する溶融浴に通して搬送する工程;
j)出現する前記冷間圧延平鋼製品を室温まで冷却する工程、および/または前記冷間圧延平鋼製品を前記冷却終了温度KETから室温まで冷却する工程;
k)任意で、最大2%、好ましくは0.2~0.7%のスキンパス率で前記冷間圧延平鋼製品をスキンパス圧延する工程。
【請求項10】
前記コイリング温度が500~600℃であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アニーリング温度GTが810~890℃であることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
軸方向応力を受けるコンポーネント、例えば縦材および横材を製造するための、または曲げ応力を受けるコンポーネント、例えば自動車車体のBピラー、Bピラー補強材、もしくはシルを製造するための、請求項1~8のいずれか一項に従って得られる冷間圧延平鋼製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延平鋼製品、その製造方法、および本発明による平鋼製品の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
「平鋼製品」は、ここでは圧延製品として理解され、その長さおよび幅のそれぞれは、それらの厚さよりも実質的に大きい。これらには、特に鋼帯、鋼板、およびそれらから得られるプレカット部品、例えばブランクなどが含まれる。
【0003】
本明細書では、特に明記しない限り、アロイング成分に関する情報は常に質量%で示される。
【0004】
式または条件が本文で言及され、その中の値が特定のアロイング元素の割合を基にして計算または見出されている場合、特に明記しない限り、アロイング元素の考えられる割合は、これらの式または条件における質量%でそれぞれのケースにおいて示される。
【0005】
特に自動車車体構造の分野では、高強度鋼に対する要求が存在し、同時に良好な成形性を有さなければならない。特に、複雑な形状に形成される部品の製造においては、例えば、穴広げ試験における良好な値によって定量化され得る、局所的な形状変化能力およびエッジクラック耐性に関して高い要求がある。
【0006】
冷間圧延平鋼製品は、欧州特許第2031081B1号から知られており、それは、亜鉛ベースの防食コーティングで溶融めっきすることができ、20~70%のマルテンサイト、最大8%の残留オーステナイトからなり、フェライトおよび/またはベイナイトの残部を有する構造を有する。平鋼製品は、少なくとも950MPaの引張強度を有し、C:0.050~0.105%、Si:0.10~0.60%、Mn:2.10~2.80%、Cr:0.20~0.80%、Ti:0.02~0.10%、B:<0.0020%、Mo:<0.25%、Al:<0.10%、Cu:最大0.20%、Ni:最大0.10%、Ca:最大0.005%、P:最大0.2%、S;最大0.01%、N:最大0.012%(重量%)、ならび残部としての鉄および不可避不純物からなる鋼からなる。
【0007】
この種の鋼の概念は、構造成分間の著しい強度差に起因する低い弾性限界比によって特徴付けられる。
【0008】
実際には、上記で説明したタイプの平鋼製品は特に高い強度を有するが、それらの加工性を害するエッジクラックを形成する傾向があることが見出されている。さらに、そのような平鋼製品は、溶接に対する適合性をさらに改善する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第2031081B1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この背景に対向して、高強度、改善された溶接性、および最適化された成形特性を有する鋼基材を有し、費用効果的に製造することができる平鋼製品を開発する必要がある。
【0011】
さらに、そのような平鋼製品を製造する方法および使用も明記され、本発明による平鋼製品は、特にそれらに適しているものとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この必要性に対処するために提案された製品は、請求項1に記載の特徴を少なくとも有する。
【0013】
本発明による製品の費用効果的な製造を可能にする方法は、請求項9に記載されている。そのような製品は、特に亜鉛(「Zn」)をベースとする防食コーティングを用いる、請求項8に示す方法で提供することができる。
【0014】
この場合、ここで説明されるように本発明による方法ならびにその変形および拡張の可能性を実施する場合、当業者が本例で明示的に言及されていない作業工程を追加することは明らかなはずであり、それは、彼らの実務経験に基づいて、そのような方法を実行する場合に通常適用されることが知られている。
【0015】
したがって、本発明による平鋼製品の鋼基材は、C:0.040~0.100%、Mn:2.10~2.50%、Si:0.10~0.40%、Cr:0.30~0.90%、Ti:0.020~0.080%、B:0.0005~0.0020%、N:0.003~0.010%、Al:0.10%まで、Ca:0.005%まで、P:0.025%まで、S;0.010%まで、Mo:0.20%まで、Nb:0.050%まで、Cu:0.10%まで、V:0.020%まで、Ni:0.10%まで(質量%)、ならびに残部としての鉄および不可避不純物からなる鋼から製造される。
【0016】
この場合、本発明による平鋼製品の鋼基材は、10~40体積%のマルテンサイト、30~90体積%のフェライト(ベイナイト系フェライトを含む)、5%以下の残留オーステナイト、および残部としての、製造プロセスに起因する不可避の他の構造成分からなる二相構造を有し、このような他の構造成分は、構造の他の成分の分率の合計が100%未満である場合にのみ存在する。
【0017】
本発明に従って提供されるそれぞれのアロイング成分の分率は、以下のように決定され、以下の説明はそれぞれ、本発明による1つの平鋼製品のみが議論される場合の本発明による平鋼製品の鋼基材の組成にも言及する。
【0018】
本発明による平鋼製品は、0.040~0.100質量%の炭素(「C」)を含む。Cの分率が0.040質量%未満の場合、強度が大幅に低下する。本発明に従って提供される0.100重量%の最大炭素分率は、鋼の良好な溶接性に関して選択された。さらに、炭素分率が0.100重量%を超えると、より硬い炭素豊富マルテンサイト相の形成をもたらし、それによりマルテンサイトとフェライトとの間の硬度の差が著しく増加する。これは、本発明による平鋼製品の穴広げ挙動および溶接性に悪影響を及ぼす。本発明による平鋼製品の鋼中のCの存在のプラスの効果は、C分率が0.05質量%以上、0.08質量%以下である場合、特に十分に活用され得る。
【0019】
ケイ素(「Si」)は、Siがフェライトに及ぼす硬化効果によって強度を高めるために、本発明による平鋼製品中に0.10~0.40質量%の分率で含有される。Si分率の上限は、鋼のコーティング性および表面特性に悪影響を及ぼし得る粒界酸化を回避するために、0.40質量%である。
【0020】
2.10~2.50質量%の分率のマンガン(「Mn」)は、アニーリングラインの冷却中に本発明による平鋼製品中のパーライトの形成を確実に防止する。同時に、本発明に従って決定された分率のMnは、構造中のマルテンサイトの形成を媒介し、したがって強度の増加に実質的に寄与する。とりわけ、本発明に従って提供されるMn分率は、本発明に従って比較的低い値に設定されたC分率の結果として別途予想される、強度の損失を補う。Mn分率は、2.20質量%以上、2.40質量%以下であることが好ましい。
【0021】
鋼製造中の脱酸には、アルミニウム(「Al」)を最大0.10質量%の分率で要する。
【0022】
鋼製造中に鋼を脱酸するために、本発明による平鋼製品の鋼にカルシウム(「Ca」)を最大0.005質量%の分率で同様に添加することができる。この効果は、少なくとも0.0005質量%のCaを添加することによって達成され得る。
【0023】
クロム(「Cr」)も同様に、本発明による平鋼製品の鋼中の強度を高めるのに役立つ。この目的のためには、少なくとも0.30質量%、特に少なくとも0.40質量%のCr分率が必要である。顕著な粒界酸化のリスクを低減するために、本発明に従ってCr分率について指定される範囲の上限は、0.90質量%まで、特に0.80質量%までに制限される。クロム分率が0.80質量%を超える場合、本発明により得られる平鋼製品の製造方法は、本発明による平鋼製品の所望の二相構造および所望の機械的特性を確実な方法で得るために、少なくとも840℃のアニーリング温度GTが設定されるように実施されるべきである。
【0024】
同様に微細なTi析出物、例えばTiCまたはTi(C,N)析出物の形成によって強度を改善し、微粒子状構造を得るために、本発明による平鋼製品の鋼中にチタン(「Ti」)が0.020~0.080質量%の分率で提供される。この効果を特に確実に達成するために、少なくとも0.030質量%のTi分率が提供され得る。本発明に従って提供されるTi分率によって可能になる析出量は、とりわけ、本発明による鋼を特徴付ける機械的特性の最適な組み合わせに寄与する。本発明による平鋼製品の鋼中のTiの存在のプラスの影響は、Ti分率が0.07質量%以下である場合、特に効果的に活用され得る。
【0025】
本発明による平鋼製品の鋼中のTiの効果は、Tiを本発明による平鋼製品の鋼のそれぞれのN分率およびB分率の11倍以下に相当する量で添加することによって、さらに援助され得る。したがって、この実施形態では、以下のTi分率の%Tiが適用される:
%Ti≦11×(%N+%B)
式中、%N=所与のN分率であり、%B=所与のB分率である。Ti分率をこのように制限することにより、最適な量のTi析出物が得られ、同時に、成形性に悪影響を及ぼす窒化ホウ素の形成が防止される。
【0026】
ホウ素(「B」)は、本発明による平鋼製品の、一方では強度を高めるが、他方では成形性を低下させないために、本発明による平鋼製品の鋼中に0.0005~0.0020質量%の分率で存在する。
【0027】
Tiが構造中のアロイング元素として作用し、Nと完全には結合しないように、窒素(「N」)分率を本発明による平鋼製品の鋼中で0.010質量%までに制限する。構造中に十分な量のTi(C、N)析出物を確保するために、少なくとも0.003質量%の分率のNが提供される。
【0028】
本発明による平鋼製品の鋼では不純物が許容される。それらは、本発明による平鋼製品の実用的で経済的な製造において技術的に不可避であるが、非常に少量に抑えられているので本発明による平鋼製品の所望の特性に悪影響を及ぼさない。
【0029】
不純物には、リン(「P」)および硫黄(「S」)の分率が含まれる。Pの分率は、溶接性の低下を回避するために、0.025質量%まで、特に0.015質量%未満に制限される。S分率は、本発明による鋼の引張特性に悪影響を及ぼすMnSおよび/または(Mn/Fe)Sの形成を回避するために、最大で0.010質量%に制限される。
【0030】
不純物の総分率は、本発明による平鋼製品の鋼中で0.5質量%以下に制限され、不純物の合計が0.3質量%以下であると、平鋼製品の特性の低下が特に確実に回避される。
【0031】
本発明による鋼には場合により、最大0.20質量%のモリブデン(「Mo」)、最大0.050質量%のニオブ(「Nb」)、最大0.10質量%の銅(「Cu」)、最大0.020質量%のバナジウム(「V」)および最大0.10質量%のニッケル(「Ni」)を添加することができる。これらの元素の分率は、本発明による平鋼製品の特性にわずかな影響しか及ぼさないように制限される。したがって、それらはまた、技術的意味で「0%」、すなわち、不純物と見なすことができるほど低くてもよく、本発明による平鋼製品においていかなる効果ももたらさない。
【0032】
本発明による平鋼製品の鋼の組成の、本発明による記載された調整の結果として、750~940MPaの引張強度Rm、440~650MPaの弾性限界、および13%を超える破断伸びA80を有し、エッジクラック性向が最小限に抑えられた特に良好な成形特性、および同様に良好な溶接性を特徴とする、二相鋼からなる平鋼製品を提供することが可能である。引張強度Rm、弾性限界Rp0.2、および破断伸びA80は、それぞれDIN ISO 6892に従って決定される(長手引張方向;試料形態2)。
【0033】
本発明と、例えば欧州特許第2031081B1号から知られている冒頭に記載された従来技術との間の本質的な違いは、マルテンサイト相およびフェライト相への硬度値の分布、ならびに大量の微細な析出物を特徴とする、本発明による平鋼製品の構造の1つの析出状態にある。この構造状態は、主に、本発明に従って限定される炭素分率、ならびにTiおよびB量の一定の添加によって達成することができる。このようにして、穴広げ試験における変形勾配が増加する、平均を上回る強固な挙動が達成される。
【0034】
本発明による平鋼製品の構造中のマルテンサイト、およびベイナイト系フェライトを含むフェライトの分率は、画像分析によって定量化される。
【0035】
本発明による合金選択の結果として、本発明による平鋼製品の構造中のマルテンサイト分率は、40体積%以下に制限され、必要な強度を確保するために、少なくとも10体積%のマルテンサイトが存在する。
【0036】
本発明による平鋼製品の構造の残部は、5体積%以下の残留オーステナイト分率の他は主にフェライトであり、これは、90体積%以下であり得、少なくとも30体積%であるベイナイト系フェライトを含む。
【0037】
本発明による平鋼製品は、20%を超える穴広げ率HER(DIN ISO 16630に従って測定)および33mmを超える最大引き抜き深さ(100mm半球型ダイを用いた限界ドーム高さ(LDH)試験で測定)での高い値に現れる、特に良好な成形特性を示す。これらは早期の局所焼入れによって達成され、それは、この強度クラスの同等の商品よりも高度であり、DIN EN ISO 10275:2014に従って0.2%~2.2%の弾性区間で測定される少なくとも0.22%の引張歪硬化指数nに反映される。
【0038】
それらの特有の特性によって、本発明による平鋼製品は、特に軸方向荷重コンポーネント、例えば縦材および横材の製造、または耐曲げ荷重コンポーネント、例えばBピラー、Bピラー補強材、もしくは自動車車体のシルの製造に適している。
【0039】
本発明にしたがって、本発明により得られる冷間圧延平鋼製品は、少なくとも以下の作業工程を行うことによって製造することができる:
a)C:0.040~0.100質量%、Mn:2.10~2.50質量%、Si:0.10~0.40質量%、Al:最大0.10質量%、Cr:0.30~0.90質量%、Ti:0.020~0.080質量%、B:0.0005~0.0020質量%、Ca:最大0.005質量%、P:最大0.025質量%、S;最大0.010質量%、N:0.003~0.010質量%、および場合により最大0.20質量%のMo、最大0.050質量%のNb、最大0.10質量%のCu、最大0.020質量%のV、および最大0.10質量%のNi、ならびに残部としての鉄および不可避の不純物を含む鋼溶融物を溶融する工程;
b)溶融物を鋳造してスラブまたは薄スラブなどの前駆体を作製する工程、
c)850~980℃の熱間圧延終了温度で前駆体を熱間圧延して熱間圧延帯を作製する工程;
d)480~650℃のコイリング温度で熱間圧延帯をコイル化する工程;
e)熱間圧延帯を酸洗いする工程;
f)熱間圧延帯を冷間圧延して、合計冷間圧延率が25~70%の冷間圧延平鋼製品を形成する工程;
g)780~920℃のアニーリング温度GTの連続炉内で冷間圧延平鋼製品をアニーリングする工程;
h)アニーリング温度GTに加熱された冷間圧延平鋼製品を380~500℃の冷却終了温度KETに冷却する工程であって、
アニーリング温度GTに加熱された冷間圧延平鋼製品が、2つの工程で冷却終了温度KETに冷却され、冷間圧延平鋼製品が、その冷却の第1の工程において所与のアニーリング温度GTから、750~620℃の範囲にある中間温度ZTまで、1.5K/sを超える冷却速度AR1で冷却され、第2の工程において中間温度ZTから所与の冷却終了温度KETまで、冷却速度AR2で冷却され、その場合にAR2>4×AR1が適用され、
または
アニーリング温度GTに加熱された冷間圧延平鋼製品が、2つの工程で冷却終了温度KETまで冷却され、冷間圧延平鋼製品がその冷却の第1の工程において、所与のアニーリング温度GTから、700~450℃の範囲にある中間温度ZTまで、5K/sを超える冷却速度AR1で冷却され、第2の工程において、中間温度ZTから所与の冷却終了温度KETまで冷却速度AR2で冷却され、その場合にAR2<(AR1)/3が適用される工程;
i)任意で、冷間圧延平鋼製品を冷却終了温度KETから、450~490℃の浴入口温度BTまで冷却または加熱する工程、および亜鉛または亜鉛合金からなり、少なくとも75重量%のZn分率を有する溶融浴に通して搬送する工程;
j)出現する冷間圧延平鋼製品を室温まで冷却する工程、および/または冷間圧延平鋼製品を冷却終了温度KETから室温まで冷却する工程;
k)任意で、最大2%、好ましくは0.2~0.7%のスキンパス率で冷間圧延平鋼製品をスキンパス圧延する工程。
【0040】
本発明に従って合金化された溶融物の溶融は、溶融物を鋳造して、典型的にはスラブまたは薄スラブである前駆体を製造することができるように、従来の方法で行うことができる(作業工程a)およびb)。この場合のスラブは、典型的には180mm~260mmの厚さを有するが、薄スラブの厚さは、典型的には約40mm~60mmである。
【0041】
前駆体の熱間圧延は、同様に、先行技術から知られている組立物上で従来の方法で行うことができる。熱間圧延終了温度は、850~980℃、好ましくは880~950℃に設定される。
【0042】
熱間圧延後、得られた熱間圧延帯は、480~650℃のコイリング温度まで冷却され、この温度でコイルに巻き取られる。特に信頼できるコイリング温度の範囲は、500℃以上かつ600℃以下に限定される。コイリング温度が600℃を超えると、平鋼製品の表面品質を悪化させる粒界酸化のリスクが増加する。コイリング温度が500℃未満であると、熱間圧延帯の強度が大きく低下し、その後の成形において困難をもたらす。コイル化熱間圧延平鋼製品は、コイルで室温まで冷却される。
【0043】
その後、任意選択的に平鋼製品をデスケーリングすることができる。この目的のために、例えば、平鋼製品に付着したスケールを除去する酸洗装置を通過させることができる。
【0044】
次いで、任意選択でデスケーリングされた熱間圧延帯を冷間圧延して冷間圧延平鋼製品を形成し、冷間圧延の過程で達成される総冷間圧延率KG([冷間圧延前の平鋼製品の厚さ-冷間圧延後の平鋼製品の厚さ]/冷間圧延前の平鋼製品の厚さ]×100%)は、25~70%である。
【0045】
本発明による平鋼製品が溶融めっきコーティングによって亜鉛ベースの防食層でコーティングされる場合、冷間圧延平鋼製品は、作業工程a)~f)に従って製造することができ、次いで以下の作業工程を連続的な流れで完了することができる:
g)冷間成形後に十分な量の再結晶を達成するために、冷間圧延平鋼製品を780~920℃のアニーリング温度GTの連続炉内でアニーリングする工程。ここで、アニーリング温度を810~890℃に設定すると、アニーリングの最適な結果が得られる。平鋼製品がアニーリング温度GTでアニーリング炉内に保持される典型的なアニーリング時間Gtは、10~1000秒である。
【0046】
h)アニーリング温度GTに加熱された冷間圧延平鋼製品を380~500℃の冷却終了温度KETに冷却する工程。
【0047】
この冷却は、以下の2つの工程で行われる:
第1の方法の変形にしたがって、冷間圧延平鋼製品は、その冷却の第1の工程において、所与のアニーリング温度GTから、750~620℃の範囲にある中間温度ZTまで、1.5K/sを超える冷却速度AR1で冷却され、第2の工程において、中間温度ZTから所与の冷却終了温度KETまで、冷却速度AR2で冷却され、この場合に、AR2>4×AR1が適用される。
【0048】
第2の方法の変形にしたがって、他方で冷間圧延平鋼製品は、その冷却の第1の工程において、所与のアニーリング温度GTから、700~450℃の範囲にある中間温度ZTまで、5K/sを超える冷却速度AR1で冷却され、第2の工程において、中間温度ZTから所与の冷却終了温度KETまで、冷却速度AR2で冷却され、この場合に、AR2<(AR1)/3が適用される。
【0049】
第1および第2の工程におけるそれぞれの冷却速度の選択は、本発明による平鋼製品の所望の構造形成を達成する。
【0050】
i)冷間圧延平鋼製品を冷却終了温度KETから、450~490℃の浴入口温度BTまで冷却および/または加熱し、亜鉛または亜鉛合金からなる溶融浴を通して冷間圧延平鋼製品を搬送し、溶融浴から出るときに、平鋼製品上に形成される層の厚さを調整する工程。溶融浴の組成は従来の方法で選択することができ、溶融浴は純粋な亜鉛溶融物であり得るか、または少なくとも75重量%のZnからなる。
【0051】
j)溶融浴から現れる冷間圧延平鋼製品を室温まで冷却する工程。
【0052】
本発明による冷間圧延平鋼製品をコーティングしないままにする、または電解コーティングする場合、連続炉内で780~920℃の範囲のアニーリング温度で、10~1000秒のアニーリング時間Gtでアニーリング処理が行われる。続いて、加熱された冷間圧延平鋼製品は、アニーリング温度GTまで加熱された冷間圧延平鋼製品の冷却終了温度KETへの冷却が2つの工程で行われるように、380~500℃の範囲の冷却終了温度KETまで冷却され、冷間圧延平鋼製品は、その冷却の第1の工程において所与のアニーリング温度GTから、700~450℃の範囲にある中間温度ZTまで5K/sを超える冷却速度AR1で冷却され、第2の工程において、中間温度ZTから所与の冷却終了温度KETまで冷却速度AR2で冷却され、この場合、AR2<(AR1)/3が適用される。この後、冷間圧延平鋼製品を室温まで冷却する。
【0053】
任意選択的に、得られた冷間圧延平鋼製品は、防食コーティングの有無にかかわらず、その機械的特性、その表面特性、およびその寸法精度を最適化するために、さらにスキンパス圧延に供することができる。この目的のために、最大2%、特に0.2~0.7%の成形率(「スキンパス率」)で成功が証明されている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】材料が材料破損に及ぶことを示す図である。
図2】フランジ領域からの材料の流れが完全に防止されることを示す図である。
図3】変換に従って達成された穴広げを、各ケースにおいて中心面に対して使用される成形パンチの開口角度の関数として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
[実施例]
本発明は、例示的な実施形態を参照して以下により詳細に説明される。
【0056】
本発明を試験するために、10個の溶融物A~Jを溶融し、その組成を表1に示す。溶融物A~Jを従来の連続鋳造プラントでスラブに鋳造し、続いて熱間圧延して熱間圧延帯を形成し、コイル化してコイルを形成し、室温に冷却した。続いて、熱間圧延帯は、酸洗され、総冷間圧延率KGで冷間圧延されて、冷帯として存在する冷間圧延平鋼製品を形成する。
【0057】
このようにして得られた冷間圧延平鋼製品をZnベース防食コーティングでコーティングするために、冷間圧延平鋼製品を所与のアニーリング温度GTで所与のアニーリング時間Gtにわたってアニーリングした。アニーリング温度GTから開始して、冷間圧延平鋼製品を冷却終了温度KETまで冷却した。この目的のために、平鋼製品の冷却は、1つの工程または2つの工程で行われ、冷却は、冷却の第1の工程において冷却速度AR1で中間温度ZTまで進行し、次いで冷却の第2の工程において中間温度ZTから始まり、冷却速度AR2で冷却終了温度KETまで進行した(表2)。
【0058】
冷却された冷間圧延平鋼製品は、続いて浴入口温度BTまで加熱または冷却され、少なくとも75%のZnからなる溶融浴を通って運ばれる。溶融めっきによってこのようにして冷間圧延平鋼製品上に塗布される防食コーティングの厚さは、平鋼製品が溶融浴から出る際に過剰のコーティング材料を吹き飛ばすことによる従来の方法で調整された。
【0059】
水または空気によって従来通り室温へ冷却した後、防食コーティングを施された冷間圧延平鋼製品をスキンパス圧延に供し、それらを0.2~0.7%のスキンパス率でスキンパス圧延した(スキンパス率=[(スキンパス圧延前の平鋼製品の厚さ-スキンパス圧延後の平鋼製品の厚さ)/スキンパス圧延前の平鋼製品の厚さ]×100%)。
【0060】
このようにして得られた冷間圧延平鋼製品について、引張強度Rm、弾性限界Rp0.2および伸びA80、ならびにDIN ISO 16630による穴広げ率HERを、DIN ISO 6892に従って決定した(長手引張方向、試料形態2)。フェライトFおよびマルテンサイトMの構造分率は、DIN 50601:1985-08に従って光学顕微鏡を使用して決定された。残りの構造は、存在する場合、少量のベイナイトおよび残留オーステナイトからなっていた。後者は、リートベルト法を用いて、DIN EN 13925(2003.07)に従って標準定量相分析によって決定した。これらの特性を表3に示す。
【0061】
本発明による、成形性および穴広げ挙動に関する特定の効果を実証するために、DIN ISO 16630に従って実施される穴広げ率HERの試験以外に以下の試験が実施される。
【0062】
本発明による合金概念を用いて製造された少なくとも750MPaの引張強度Rmを有する鋼帯は、円錐の角度を縮小させる穴広げ試験について、0mm~5mmに近い幅の穿孔の領域の形状変化分布に目標とする様式で影響を及ぼすために、180°~50°の範囲で円錐の角度を変化させて試験を実施した場合、測定された穴広げにおいて平均を上回る増加が達成されるという事実を特徴とする。
【0063】
これらの試験では、穿孔は機械的剪断切断によってもたらされる。全ての試料に対して同一の切断パラメータが設定される。切断間隙の幅は、試験される平鋼製品の厚さの9~15%の範囲である。同じように打ち抜かれた穿孔を使用することにより、切断プロセスによる影響が排除され、すべての打ち抜き形状について同じ条件が達成される。
【0064】
材料の破損は、刃先の領域におけるシート厚さ全体にわたる狭窄またはクラックによって特徴付けられる。DIN ISO 16630による試験と比較して著しく大きい20mmの穿孔の直径では、1.0~2.0mmの典型的なシート厚さ範囲におけるシート厚さの影響は比較的低い。種々の打ち抜きの達成された穴広げ値は、金属シートの中心面への幾何学的変換によってより容易に比較される。エッジ上の「単軸引張力」を仮定し、測定された穴広げを使用すると、シート厚さ減少は、表4に示す関係に従って見出すことができる。
【0065】
シート厚さ、エッジ[mm]=当初のシート厚さ×e(-0.5*LN((HER/100)+1))、
中心面[mm]O=破損時の穿孔辺O+2×COS(円錐角度/2)×板金厚さ、エッジ/2、
中心面HER[%]=[(中心面O HER-出口O)/出口O]×100%
図1も参照されたい)。
【0066】
上記の方式で行われた穴広げ実験において生じる効果は、FE分析によって検出することができる。破損の瞬間および/または可能性ある最大拡張は、映像分析によって決定される。この目的のために、プロセスは、カメラによって上方から中心で観察される。テレセントリックレンズを使用することにより、穴の拡張および/または所与の穴を画定する内縁の直径を、破損の瞬間の前に測定し、出口直径に関して穴の拡張の割合として計算することができる。この目的のために、ビデオフィルムの画像周波数は、1mm/sのパンチ速度について、パンチ軌道1mm当たり少なくとも10画像である。
【0067】
また、延伸成形領域での全体的な成形性を評価するために、限界ドーム高さ試験(LDH試験)で引き抜き深さを分析した。この試験では、図2に概略的に示すように、形成中にフランジ領域からの材料の流れが完全に防止され、材料は、材料破損に及ぶ(図1参照)O100mmの半球形パンチ(Nakazima tool)と共に形成される。押さえ力は400kN、引き抜き速度は1.0mm/sec(+/-0.2)に設定した。
【0068】
図3は、上記で説明した変換に従って達成された穴広げを、各ケースにおいて中心面に対して使用される成形パンチの開口角度の関数として示す図を示す。試験される金属シートは、それぞれ厚さ1.5mmであった。1つの群は、本発明に従って表1の溶融分析Aに従って構成された鋼からなった(関連する値は、点線で互いに接続された円によって図2に複写されている)。他の群は、「DP800-DH」という名称で入手可能な従来の鋼からなり、それは質量%で、0.157%のC、1.98%のMn、0.114%のSi、0.324%のAl、0.106%のCr、0.004%のTi、0.0002%のB、0.012%のP、0.001%のS、0.0038%のN、0.02%のMo、0.022%のNb、0.01%のCu、0.001%のV、0.02%のNi、ならびに残部としての鉄および不可避の不純物からなる。本発明による材料からなる板金試料で達成された穴の拡張は、従来の鋼からなる板金試料の場合よりも明らかに良好であった。
【表1】
【表2】
【表3】
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-11-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
750~940MPaの引張強度を有する冷間圧延平鋼製品であって、その鋼基材が、質量%で
C:0.040-0.100%、
Mn:2.10-2.50%、
Si:0.10-0.40%、
Cr:0.30-0.90%、
Ti:0.020-0.080%、
B:0.0005-0.0020%、
N:0.003-0.010%、
Al:最大0.10%、
Ca:最大0.005%、
P:最大0.025%、
S:最大0.010%、
場合により、以下の元素のうちの1つ以上:
Mo:最大0.20%、
Nb:最大0.050%、
Cu:最大0.10%、
V:最大0.020%、
Ni:最大0.10%
および残部としての鉄および不可避の不純物からなる鋼からなり、不純物の総分率が0.5質量%以下に制限され、リン(「P」)および硫黄(「S」)の分率が前記不純物に属し、
10~40体積%のマルテンサイト、ベイナイト系フェライトを含む30~90体積%のフェライト、5%以下の残留オーステナイト、および製造プロセスによる不可避の他の構造成分の残部からなる二相構造を有する、冷間圧延平鋼製品。
【請求項2】
0.2~2.2%の膨張区間で測定された歪硬化指数nが少なくとも0.22%であることを特徴とする、請求項1に記載の平鋼製品。
【請求項3】
%TiでのTi分率について、%Ti≦11×(%N+%B)が適用され、式中、%N=所与のN分率であり、%B=所与のB分率であることを特徴とする、請求項1~2のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項4】
その引張強度Rmが780~900MPaであり、その弾性限界Rp0.2が440~650MPaであり、その破断伸びA80が13%超である(いずれの場合もDIN ISO 6892(長手引張方向、試料形態2)に従って決定)ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項5】
DIN ISO 16630に従って決定された20%を超える穴広げ率HERを有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項6】
180°の円錐パンチでの前記穴広げ率HERが少なくとも15%であり、50°の円錐パンチでの穴広げ率HERが少なくとも25%であることを特徴とする、請求項5に記載の平鋼製品。
【請求項7】
LDH試験で決定された、33mmを超える引き抜き深さを有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項8】
溶融めっきコーティングまたは電解コーティングによって塗布された腐食防止層でコーティングされていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項9】
以下の作業工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に従って形成される冷間圧延平鋼製品の製造方法:
a)C:0.040~0.100質量%、Mn:2.10~2.50質量%、Si:0.10~0.40質量%、Al:最大0.10質量%、Cr:0.30~0.90質量%、Ti:0.020~0.080質量%、B:0.0005~0.0020質量%、Ca :最大0.005質量%、P:最大0.025質量%、S;最大0.010質量%、N: 0.003~0.010質量%、最大0.20質量%のMo、最大0.050質量%のNb、最大0.10質量%のCu、最大0.020質量%のV、および最大0.10質量%のNi、ならびに残部としての鉄および不可避の不純物を含む鋼溶融物を溶融する工程;
b)前記溶融物を鋳造してスラブまたは薄スラブなどの前駆体を作製する工程;
c)850~980℃の熱間圧延終了温度で前記前駆体を熱間圧延して熱間圧延帯を作製する工程;
d)480~650℃のコイリング温度で前記熱間圧延帯をコイル化する工程;
e)前記熱間圧延帯を酸洗いする工程;
f)前記熱間圧延帯を冷間圧延して、合計冷間圧延率が25~70%の冷間圧延平鋼製品を形成する工程;
g)780~920℃のアニーリング温度GTの連続炉内で前記冷間圧延平鋼製品をアニーリングする工程;
h)前記アニーリング温度GTに加熱された前記冷間圧延平鋼製品を380~500℃の冷却終了温度KETに冷却する工程であって、
前記アニーリング温度GTに加熱された前記冷間圧延平鋼製品が、2つの工程で冷却終了温度KETに冷却され、前記冷間圧延平鋼製品が、その冷却の第1の工程において前記所与のアニーリング温度GTから、750~620℃の範囲にある中間温度ZTまで、1.5K/sを超える冷却速度AR1で冷却され、第2の工程において前記中間温度ZTから前記所与の冷却終了温度KETまで、冷却速度AR2で冷却され、その場合、AR2>4×AR1が適用され、
または
前記アニーリング温度GTに加熱された前記冷間圧延平鋼製品が、2つの工程で冷却終了温度KETまで冷却され、前記冷間圧延平鋼製品がその冷却の第1の工程において、前記所与のアニーリング温度GTから、700~450℃の範囲にある中間温度ZTまで、5K/sを超える冷却速度AR1で冷却され、第2の工程において、前記中間温度ZTから前記所与の冷却終了温度KETまで冷却速度AR2で冷却され、その場合、AR2<(AR1)/3が適用される工程;
i)任意で、前記冷間圧延平鋼製品を前記冷却終了温度KETから、450~490℃の浴入口温度BTまで冷却または加熱する工程、および亜鉛または亜鉛合金からなり、少なくとも75重量%のZn分率を有する溶融浴に通して搬送する工程;
j)出現する前記冷間圧延平鋼製品を室温まで冷却する工程、および/または前記冷間圧延平鋼製品を前記冷却終了温度KETから室温まで冷却する工程;
k)任意で、最大2%、好ましくは0.2~0.7%のスキンパス率で前記冷間圧延平鋼製品をスキンパス圧延する工程。
【請求項10】
前記前駆体が、スラブまたは薄スラブである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記コイリング温度が500~600℃であることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記アニーリング温度GTが810~890℃であることを特徴とする、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
軸方向応力を受けるコンポーネントを製造するための、または曲げ応力を受けるコンポーネントを製造するための、請求項1~8のいずれか一項に従って得られる冷間圧延平鋼製品の使用。
【請求項14】
軸方向応力を受けるコンポーネントが、縦材または横材である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
曲げ応力を受けるコンポーネントが、自動車車体のBピラー、Bピラー補強材、またはシルである、請求項13または14に記載の使用。
【国際調査報告】