(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-21
(54)【発明の名称】真空列車チューブ用熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240214BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20240214BHJP
C22C 38/04 20060101ALI20240214BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C21D8/02 B
C22C38/04
C22C38/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555653
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-09-11
(86)【国際出願番号】 KR2021018200
(87)【国際公開番号】W WO2022124703
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0172030
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、 ホン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジュン-ハク
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 ソク-ジョン
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA05
4K032AA16
4K032AA22
4K032AA31
4K032AA32
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC04
4K032CD06
4K032CE02
(57)【要約】
本発明の一側面によると、降伏強度、振動減衰比及び低温靭性に優れて、真空列車チューブ用に適した物性を有する熱延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.15~0.25%、シリコン(Si):0.3~1.3%、マンガン(Mn):1.0~2.0%、残りのFe及びその他の不可避不純物を含み,
フェライト及びパーライト複合組織を微細組織として有し、
下記関係式1~関係式3を満たす、真空列車チューブ用熱延鋼板。
[関係式1]
350≦11+394*D
(-0.5)+448*[C]+94*[Si]+69*[Mn]
[関係式2]
100≦186-210*D
(-0.5)-121*[C]-13.2*[Si]+13.7*[Mn]
[関係式3]
303.78-85.22*ln(D)>27
前記関係式1~関係式3において、Dは前記熱延鋼板のフェライト平均結晶粒径(μm)を意味し、[C]、[Si]及び[Mn]はそれぞれ前記熱延鋼板の炭素(C)、シリコン(Si)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
【請求項2】
前記熱延鋼板の微細組織は、60~90面積%のフェライト、10~40面積%のパーライト及びその不可避組織からなる、請求項1に記載の真空列車チューブ用熱延鋼板。
【請求項3】
前記熱延鋼板に不可避に含まれるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の合計含有量は0.01%未満(0%含む)である、請求項1に記載の真空列車チューブ用熱延鋼板。
【請求項4】
前記フェライトの平均結晶粒径(D)は、10~30μmである、請求項1に記載の真空列車チューブ用熱延鋼板。
【請求項5】
前記熱延鋼板の降伏強度は350MPa以上であり、
前記熱延鋼板の-20℃基準のシャルピー衝撃エネルギーは27J以上であり、
前記熱延鋼板を長さ*幅*厚さが80*20*2mmである試験片に加工した後、曲げ振動モード(flexural vibration mode)で1650Hz周波数に対して測定した振動減衰比が100*10
-6以上である、請求項1に記載の真空列車チューブ用熱延鋼板。
【請求項6】
前記熱延鋼板の厚さは10mm以上である、請求項1に記載の真空列車チューブ用熱延鋼板。
【請求項7】
重量%で、炭素(C):0.15~0.25%、シリコン(Si):0.3~1.3%、マンガン(Mn):1.0~2.0%、残りのFe及びその他の不可避不純物を含むスラブを1100℃~1300℃の加熱温度(T
1)で加熱する段階;
前記加熱されたスラブを900℃~1000℃の仕上げ圧延温度(T
2)で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;及び
前記熱延鋼板を600℃~700℃の巻取り温度(T
3)で巻き取る段階を含み、
前記加熱温度(T
1)、仕上げ圧延温度(T
2)及び巻取り温度(T
3)は、下記関係式4を満たす、真空列車チューブ用熱延鋼板の製造方法。
[関係式4]
1≦0.0284*[T
1]+0.071*[T
2]+0.045*[T
3]-131≦3
前記関係式4において、[T
1]、[T
2]及び[T
3]はそれぞれスラブの加熱温度(T
1、℃)、仕上げ圧延温度(T
2、℃)及び巻取り温度(T
3、℃)を意味する。
【請求項8】
前記スラブに不可避に含まれるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の合計含有量は0.01%未満(0%含む)である、請求項7に記載の真空列車チューブ用熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板及びその製造方法に関するものであり、詳細には降伏強度、振動減衰比及び低温靭性に優れて、真空列車チューブ用に適した物性を有する熱延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空列車、いわゆるハイパーチューブ列車(hyper tube train)は、真空のチューブ内を磁気浮上列車が動くシステムである。真空列車は、列車の走行時に主要エネルギー損失の原因である空気やトラックとの摩擦がないため、超高速運行が可能である。エネルギー損失が少なくて航空機に対して93%のエネルギー節減が可能であるため、環境にやさしい次世代交通手段として注目を集めており、世界中で活発な研究が行われている。
【0003】
超高速真空列車に用いられる真空チューブは、その構造と素材がシステムの性能や費用に影響を及ぼす。現在、真空列車のチューブ素材として研究される材料は、大きく3つ程度である。一つは、コンクリートである。コンクリートチューブは、費用的な側面で有利であるが、10m内外の個別チューブを互いにつなぐ接合が難しい。また、コンクリート内部の気孔により真空を実現した時、外部の気体がチューブ内部に侵入して真空度が容易に脆くなるという欠点がある。研究が多く行われる他の素材のうち一つは、炭素繊維などの複合物質である。炭素繊維などの複合物質は、軽く高性能を有するが、高い費用が最も大きい欠点と挙げられる。
【0004】
現在、真空列車チューブ用素材として最も有力な素材は鉄鋼である。鉄鋼は低い費用で大量生産が可能な素材である。鉄鋼は、高い鋼性及び強度を有しており、加工が容易な素材である。また、チューブ間またはチューブに付属品を組み立てたり溶接しやすい素材であり、真空を維持する時、脱気体率も適正な素材でもある。但し、超高速真空列車は現行の高速列車に比べて顕著に速い速度で運行されるため、乗客及び周辺施設の安定性が最優先に考慮されるべきである。現在、超高速真空列車の安全基準すら成立されていない状況であり、超高速真空列車の安全確保のためのチューブ用素材の開発も不備な状況である。
【0005】
したがって、真空列車チューブ用に適した加工性及び脱気体率を有しながらも、安全性の確保が可能な真空列車チューブ用素材の開発が緊急な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国登録特許公報第10-2106353号(2020.05.04.公告)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面によると、降伏強度、振動減衰比及び低温靭性に優れて、真空列車チューブ用に適した物性を有する熱延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0008】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面による真空列車チューブ用熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.15~0.25%、シリコン(Si):0.3~1.3%、マンガン(Mn):1.0~2.0%、残りのFe及びその他の不可避不純物を含み、フェライト及びパーライト複合組織を微細組織として有し、下記関係式1~関係式3を満たすことができる。
[関係式1]
350≦11+394*D(-0.5)+448*[C]+94*[Si]+69*[Mn]
[関係式2]
100≦186-210*D(-0.5)-121*[C]-13.2*[Si]+13.7*[Mn]
[関係式3]
303.78-85.22*ln(D)>27
上記関係式1~関係式3において、Dは上記熱延鋼板のフェライト平均結晶粒径(μm)を意味し、[C]、[Si]及び[Mn]は、それぞれ上記熱延鋼板の炭素(C)、シリコン(Si)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
【0010】
上記熱延鋼板の微細組織は、60~90面積%のフェライト、10~40面積%のパーライト及びその他の不可避組織からなることができる。
【0011】
上記熱延鋼板に不可避に含まれるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の合計含有量は0.01%未満(0%含む)であることができる。
【0012】
上記フェライトの平均結晶粒径(D)は、10~30μmであることができる。
【0013】
上記熱延鋼板の降伏強度は350MPa以上であり、上記熱延鋼板の-20℃基準のシャルピー衝撃エネルギーは27J以上であり、上記熱延鋼板を長さ*幅*厚さが80*20*2mmである試験片に加工した後、曲げ振動モード(flexural vibration mode)で1650Hz周波数について測定した振動減衰比が100*10-6以上であることができる。
【0014】
上記熱延鋼板の厚さは10mm以上であることができる。
【0015】
本発明の一側面による真空列車チューブ用熱延鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.15~0.25%、シリコン(Si):0.3~1.3%、マンガン(Mn):1.0~2.0%、残りのFe及びその他の不可避不純物を含むスラブを1100℃~1300℃の加熱温度(T1)で加熱する段階;上記加熱されたスラブを900℃~1000℃の仕上げ圧延温度(T2)で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;及び上記熱延鋼板を600℃~700℃の巻取り温度(T3)で巻き取る段階を含み、上記加熱温度(T1)、仕上げ圧延温度(T2)及び巻取り温度(T3)は、下記関係式4を満たすことができる。
[関係式4]
1≦0.0284*[T1]+0.071*[T2]+0.045*[T3]-131≦3
上記関係式4において、[T1]、[T2]及び[T3]はそれぞれスラブ加熱温度(T1、℃)、仕上げ圧延温度(T2、℃)及び巻取り温度(T3、℃)を意味する。
【0016】
上記スラブに不可避に含まれるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の合計含有量は0.01%未満(0%含む)であることができる。
【0017】
上記課題の解決手段は、本発明の特徴をすべて列挙したものではなく、本発明の多様な特徴とそれによる利点及び効果は、下記の具体的な実現例及び実施例を参照してより詳細に理解することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一側面によると、降伏強度、振動減衰比及び低温靭性に優れて、真空列車チューブ用に適した物性を有する熱延鋼板及びその製造方法が提供されることができる。
【0019】
本発明の効果は、上述した事項に限定されるものではなく、通常の技術者が本明細書に記載された事項から合理的に類推可能な事項を含むと解釈することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】試験片1の微細組織観察に用いられた光学顕微鏡写真である。
【
図2】試験片5の微細組織観察に用いられた光学顕微鏡写真である。
【
図3】従来の構造用鋼材であるEN-S355の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、真空列車チューブ用熱延鋼板とその製造方法に関するものであって、以下では、本発明の好ましい実施例を説明する。本発明の実施例は、様々な形に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明される実施例に限定されるものと解釈されてはいけない。本実施例は、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0022】
真空列車は、真空又は亜真空状態のチューブ内を走る列車として現在、開発初期段階にある次世代運送手段である。真空列車は車輪と軌道との間の摩擦抵抗を除去し、空気の抵抗を最小化するため、高速化及び高効率性を効果的に達成することができる運送手段である。但し、超高速で運行する真空列車の特性上、真空列車の安定性が十分確保できない場合、大型事故が発生するおそれがある。特に、真空チューブが構造的に破損されたり崩壊される場合のみならず、チューブの一部形状に変更が発生した場合にも超大惨事を引き起こすことがあるため、真空列車用チューブ用素材は、さらに厳しい安全性が求められる。本発明の発明者は深度ある研究の結果、真空列車の安全性を確保するための真空チューブ用素材として次の物性が主要であることが分かった。
【0023】
真空チューブ用素材に要求される第一物性は、高強度特性である。真空列車は真空チューブの内部を通過して移動するため、真空チューブ用素材は、構造体として十分な強度を有することが求められる。また、真空チューブは内部が真空または亜真空状態に維持される必要があるため、内部と外部との圧力の差によりチューブの形状が変形しないように十分な高強度特性を有することが求められる。
【0024】
真空チューブ用素材に求められる第二物性は、振動減衰能である。真空列車は、数人~数十人が搭乗したポッド(pod)が数十秒~数分間隔で真空チューブの内部を通るようになる。先行ポッド(pod)の通過後、後行ポッド(pod)の通過時に真空チューブ内で振動が増幅されて共鳴が発生することがあり、深刻な場合、チューブの破損まで引き起こすことがある。したがって、一定水準以上の振動減衰比を有する素材を真空チューブに適用する場合、先行ポッド(pod)の通過後にチューブ内の振動を効果的に減少させることができ、真空列車の安定性に効果的に寄与することができる。
【0025】
真空チューブ用素材に求められる第三物性は、低温靭性である。真空列車は、極地方または深海でも運行されることがある。鉄鋼素材は、低温または極低温環境でより容易に破損される傾向を有するため、鉄鋼素材を真空チューブに適用する場合、安定性確保のために一定水準以上の低温靭性を有することが求められる。
【0026】
本発明の発明者は深度ある研究を介して、鋼板の合金組成の含有量及び微細組織を厳しく制御して、優れた降伏強度、振動減衰比及び低温靭性を両立させることができることを認識して、本発明を導出することとなった。
【0027】
以下、本発明の一側面による真空列車チューブ用熱延鋼板についてより詳細に説明する。
【0028】
本発明の一側面による真空列車チューブ用熱延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.15~0.25%、シリコン(Si):0.3~1.3%、マンガン(Mn):1.0~2.0%、残りのFe及びその他の不可避不純物を含み、フェライト及びパーライト複合組織を微細組織として有し、下記関係式1~関係式3を満たすことができる。
[関係式1]
350≦11+394*D(-0.5)+448*[C]+94*[Si]+69*[Mn]
[関係式2]
100≦186-210*D(-0.5)-121*[C]-13.2*[Si]+13.7*[Mn]
[関係式3]
303.78-85.22*ln(D)>27
上記関係式1~関係式3において、Dは上記熱延鋼板のフェライト平均結晶粒径(μm)を意味し、[C]、[Si]及び[Mn]はそれぞれ上記熱延鋼板の炭素(C)、シリコン(Si)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
【0029】
以下、本発明の熱延鋼板に含まれる鋼組成についてより詳細に説明する。以下、特に異なって表示しない限り、各元素の含有量を示す%は、重量を基準とする。
【0030】
炭素(C):0.15~0.25%
炭素(C)は、鋼板の強度に非常に大きな影響を及ぼす成分である。本発明は、構造体が要求する強度を確保するために0.15%以上の炭素(C)を含むことができる。一方、炭素(C)の含有量が過度の場合、素材の靭性が低下し、溶接性が劣り、降伏比が上昇することがある。好ましい炭素(C)の含有量の下限は0.17%であることができ、より好ましい炭素(C)の含有量の下限は0.20%であることができる。また、炭素(C)の含有量が過度の場合、結晶粒の粗大化に困難が伴うため、本発明は、炭素(C)の含有量の上限を0.25%に制限することができる。好ましい炭素(C)の含有量の上限は0.23%であることができ、より好ましい炭素(C)の含有量の上限は0.22%であることができる。
【0031】
シリコン(Si):0.3~1.3%
シリコン(Si)は、製鋼段階で酸素化結合してスラグを形成するため、酸素とともに除去される傾向にある。また、シリコン(Si)は素材の強度向上にも効果的に寄与する成分でもある。したがって、本発明は、このような効果のために0.3%以上のシリコン(Si)を含むことができる。好ましいシリコン(Si)の含有量の下限は0.5%であることができる。一方、シリコン(Si)の含有量が過度の場合、表面スケールの脱落を妨害して製品の表面品質を低下させることがある。また、シリコン(Si)の含有量が過度の場合、母材及び溶接部の低温靭性が低下して、素材の使用時に破壊の危険性を高めるため、本発明は、シリコン(Si)の含有量を1.3%以下に制限することができる。好ましいシリコン(Si)の含有量の上限は1.0%であることができる。
【0032】
マンガン(Mn):1.0~2.0%
マンガン(Mn)は、鋼の強度及び硬化能を向上させる成分である。したがって、本発明は、このような効果を確保するために1.0%以上のマンガン(Mn)を含むことができる。一方、マンガン(Mn)の含有量が過度の場合、中心部の偏析によって材質偏差が発生し、クラック(crack)の伝播抵抗性が劣化することがある。好ましいマンガン(Mn)の含有量の下限は1.2%であることができ、より好ましいマンガン(Mn)の含有量の下限は1.5%であることができる。また、マンガン(Mn)の含有量が過度の場合、鋼の靭性が低下することがあるため、本発明は、マンガン(Mn)の含有量を2.0%以下に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)の含有量の上限は1.8%であることができ、より好ましいマンガン(Mn)の含有量の上限は1.6%であることができる。
【0033】
本発明の熱延鋼板は上述した成分以外に残りのFe及びその他の不可避不純物を含むことができる。但し、通常の製造過程では原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入されることがあるため、これを全面的に排除することはできない。これら不純物は本技術分野で通常の知識を有する者であれば、誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を本明細書で特に言及しない。さらに、上述した成分以外に有効な成分の追加的な添加が全面的に排除されるものではない。
【0034】
本発明の熱延鋼板は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の添加を積極抑制し、これらの成分が不可避に含まれてもその合計含有量を0.01%未満(0%含む)に制限することができる。チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)は、代表的な析出強化元素として、微細炭窒化物を生成して鋼の強度向上に効果的に寄与する成分である。但し、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)は鋼の微細組織を過度に微細化して振動減衰能の確保に不利に作用するため、本発明は、これらの成分を積極抑制する。また、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)は、高価の成分として、経済性側面でも好ましくない。本発明は、これら成分を人為的に添加せず、不可避に添加される場合であってもこれらの成分の合計含有量を0.01%未満に積極抑制することができる。好ましいこれらの成分の合計含有量は0.005%以下であることができ、より好ましいこれらの成分の合計含有量は0%であることができる。
【0035】
本発明の一側面による熱延鋼板は微細組織として、フェライト及びパーライトからなる複合組織を有することができる。本発明は、ベイナイト及びマルテンサイトなどの低温組織の生成を積極抑制することができる。ベイナイト及びマルテンサイトなどの低温組織は、高い強度を有し、降伏比が低くて構造用材料として優れた物性を発揮することができる。但し、本発明の一例による真空列車チューブ用熱延鋼板は、厚さが10mm以上の水準で厚いため、低温組織を導入しても鋼板の厚さ方向に物性偏差が発生することがある。これは、鋼板の表面にのみ低温組織が形成され、鋼板の中心部まで低温組織が十分に生成されることが難しいためである。
【0036】
したがって、本発明は、物性偏差を低減するために、鋼板の微細組織をフェライト及びパーライトからなる複合組織として構成し、ベイナイト及びマルテンサイトなどの低温組織は不可避に形成されても、その分率を1面積%以下(0%含む)に積極抑制することができる。好ましい低温組織の分率は0.5面積%未満であることができる。物性確保の側面で、フェライトの分率は60~90面積%であることができ、パーライトの分率は10~40面積%であることができる。
【0037】
目的とする降伏強度、振動減衰比及び低温靭性を同時に確保するために、本発明は、フェライトの平均結晶粒径を一定範囲に制限することができる。結晶粒径が大きくなるほど振動減衰比の確保に有利であるため、本発明は、フェライトの平均結晶粒径を10μm以上に制限することができる。好ましい平均結晶粒径は10μm超過であることができ、より好ましい平均結晶粒径は15μm以上であることができる。一方、結晶粒径が過度に大きくなる場合、素材の強度及び低温靭性が劣化するため、本発明は、フェライトの平均結晶粒径を30μm以下に制限することができる。好ましい平均結晶粒径は25μm以下であることができる。
【0038】
本発明の発明者は、真空列車チューブ用素材の安定性の確保方案について深度ある研究を行った結果、本発明のような低合金系鋼板で炭素(C)、シリコン(Si)及びマンガン(Mn)の含有量とフェライトの平均結晶粒径を一定範囲に制御する場合、降伏強度、振動減衰比及び低温靭性の同時確保が可能であるという点を認識して、下記関係式1~関係式3を導出することとなった。
[関係式1]
350≦11+394*D(-0.5)+448*[C]+94*[Si]+69*[Mn]
[関係式2]
100≦186-210*D(-0.5)-121*[C]-13.2*[Si]+13.7*[Mn]
[関係式3]
303.78-85.22*ln(D)>27
上記関係式1~関係式3において、Dは上記熱延鋼板のフェライト平均結晶粒径(μm)を意味し、[C]、[Si]及び[Mn]はそれぞれ上記熱延鋼板の炭素(C)、シリコン(Si)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
【0039】
本発明の真空列車チューブ用熱延鋼板は、関係式1~3を全て満たすため、目的とする降伏強度、振動減衰比及び低温靭性を同時に確保することができる。
【0040】
本発明の真空列車チューブ用熱延鋼板は、350MPa以上の降伏強度及び27J以上の-20℃シャルピー衝撃エネルギーを有することができる。したがって、本発明の真空列車チューブ用熱延鋼板は、構造材として適切な強度及び低温靭性を確保して、真空列車用チューブの構造的安定性を効果的に確保することができる。
【0041】
本発明の真空列車チューブ用熱延鋼板は、100*10-6以上の振動減衰比を有することができる。ここで、振動減衰比は長さ*幅*厚さが80*20*2mmである試験片について、曲げ振動モード(flexural vibration mode)で打撃した後、1650Hz周波数について測定した振動減衰比を意味する。本発明の真空列車チューブ用熱延鋼板は、100*10-6以上の振動減衰比を有するため、真空チューブ内における振動増幅を効果的に抑制することができ、振動による真空列車用チューブの破損を効果的に防止することができる。
【0042】
したがって、本発明の一側面によると、降伏強度、振動減衰比及び低温靭性に優れて、真空列車チューブ用に適した物性を有する熱延鋼板を提供することができる。
【0043】
以下、本発明の一側面による真空列車チューブ用熱延鋼板の製造方法についてより詳細に説明する。
【0044】
本発明の一側面による真空列車チューブ用熱延鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.15~0.25%、シリコン(Si):0.3~1.3%、マンガン(Mn):1.0~2.0%、残りのFe及びその他の不可避不純物を含むスラブを1100℃~1300℃の加熱温度(T1)で加熱する段階;上記加熱されたスラブを900℃~1000℃の仕上げ圧延温度(T2)で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;及び上記熱延鋼板を600℃~700℃の巻取り温度(T3)で巻き取る段階を含み、上記加熱温度(T1)、仕上げ圧延温度(T2)及び巻取り温度(T3)は下記関係式4を満たすことができる。
[関係式4]
1≦0.0284*[T1]+0.071*[T2]+0.045*[T3]-131≦3
上記関係式4において、[T1]、[T2]及び[T3]はそれぞれスラブ加熱温度(T1、℃)、仕上げ圧延温度(T2、℃)及び巻取り温度(T3、℃)を意味する。
【0045】
鋼スラブの準備及び加熱
所定の合金組成を有する鋼スラブを準備する。本発明の鋼スラブは上述した熱延鋼板と対応する合金組成を備えるため、鋼スラブの合金組成に対する説明は上述した熱延鋼板の合金組成に対する説明に代える。
【0046】
準備された鋼スラブを1100℃~1300℃の加熱温度(T1)で加熱することができる。熱間圧延時の圧延負荷を考慮して、鋼スラブは1100℃以上の温度範囲で加熱されることができる。特に、本発明は、一定大きさ以上の微細組織を導入しようとするため、好ましい鋼スラブの加熱温度は1200℃以上であることができる。より好ましい鋼スラブ加熱温度は、1250℃以上であることができる。一方、鋼スラブ加熱温度が過度に高い場合、スケール生成による表面品質の低下が懸念されるため、本発明は、鋼スラブ加熱温度を1300℃以下に制限することができる。
【0047】
熱間圧延
加熱された鋼スラブを900℃~1000℃の仕上げ圧延温度(T2)で熱間圧延して熱延鋼板を提供することができる。本発明の熱間圧延によって提供される鋼板は10μm以上の厚さを有することができる。
【0048】
熱間圧延時に素材が圧延されながら結晶粒は変形するが、すぐ再結晶される。このような過程を経て粗大且つ不均一であった組織は、微細化されて均質化される。熱間圧延時に重要な工程面数は、圧延を終えたときの温度である仕上げ圧延温度(Finishing Delivery Temperature、FDT)である。これは、仕上げ圧延温度によって最終微細組織の結晶粒径などが制御されることができるためである。本発明は、最終微細組織を一定大きさ以上の水準に制御しようとするため、900℃以上の仕上げ圧延温度で熱間圧延を実施することができる。好ましい仕上げ圧延温度は950℃以上であることができる。一方、仕上げ圧延温度が過度に高い場合、最終微細組織を過度且つ粗大に実現することができるため、本発明は、仕上げ圧延温度の上限を1000℃に制限することができる。
【0049】
巻取り
熱間圧延によって提供された熱延鋼板は水冷を経た後、600℃~700℃の巻取り温度(T3)で巻き取られることができる。本発明は、最終組織としてフェライト及びパーライトの複合組織を実現しようとするため、600℃以上の温度範囲で巻取りを実施することができる。本発明は、一定大きさ以上の最終微細組織を実現しようとするため、650℃以上の温度範囲で巻取ることがより好ましい。但し、巻取り温度が過度に高い場合、粗大微細組織が形成されたり、表面品質が劣化することがあるため、本発明は、巻取り温度の上限を700℃に制限することができる。
【0050】
本発明の発明者は最終微細組織の結晶粒径を制御するための技術的手段に関して深度ある研究を実施し、本発明の成分系において最終微細組織の結晶粒径の制御のためには鋼スラブの加熱時の加熱温度(T1)、熱間圧延時の仕上げ圧延温度(T2)及び熱延鋼板の巻取り時の巻取り温度(T3)が独立的に一定範囲を満たすように制御する必要があるのみならず、これらのスラブの加熱温度(T1)、仕上げ圧延温度(T2)及び巻取り温度(T3)を互いに連係して一定の範囲内で制御する必要があることを確認し、下記の関係式4を導出することとなった。
[関係式4]
1261≦0.0284*[T1]+0.071*[T2]+0.045*[T3]-131≦3
上記関係式4において、[T1]、[T2]及び[T3]はそれぞれスラブの加熱温度(T1、℃)、仕上げ圧延温度(T2、℃)及び巻取り温度(T3、℃)を意味する。
【0051】
したがって、本発明の一側面による真空列車チューブ用熱延鋼板の製造方法は、1100℃~1300℃の加熱温度(T1)でスラブを加熱し、900℃~1000℃の仕上げ圧延温度(T2)で熱間圧延を実施し、600℃~700℃の巻取り温度(T3)で熱延鋼板を巻き取るだけでなく、スラブの加熱温度(T1)、仕上げ圧延温度(T2)及び巻取り温度(T3)が関係式4を満たすように工程条件を制御するため、目標とする熱延鋼板の微細組織を効果的に実現することができる。
【0052】
上述した製造方法によって製造された熱延鋼板は、下記関係式1~3を満たすことができる。
[関係式1]
350≦11+394*D(-0.5)+448*[C]+94*[Si]+69*[Mn]
[関係式2]
100≦186-210*D(-0.5)-121*[C]-13.2*[Si]+13.7*[Mn]
[関係式3]
303.78-85.22*ln(D)>27
上記関係式1~関係式3において、Dは上記熱延鋼板のフェライト平均結晶粒径(μm)を意味し、[C]、[Si]及び[Mn]はそれぞれ上記熱延鋼板の炭素(C)、シリコン(Si)及びマンガン(Mn)の含有量(重量%)を意味する。
【0053】
また、上述した製造方法によって製造された熱延鋼板は、350MPa以上の降伏強度及び27J以上の-20℃シャルピー衝撃エネルギーを有するのみならず、長さ*幅*厚さが80*20*2mmである試験片を準備して曲げ振動モード(flexural vibration mode)で1650Hz周波数に対して測定した振動減衰比100*10-6以上の水準を満たすことができる。
【0054】
したがって、本発明の一側面によると、降伏強度、振動減衰比及び低温靭性に優れて、真空列車チューブ用に適した物性を有する熱延鋼板の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0055】
以下、具体的な実施例を介して本発明の真空列車チューブ用熱延鋼板及びその製造方法についてより詳細に説明する。下記の実施例は、本発明の理解のためのものにすぎず、本発明の権利範囲を特定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されることができる。
【0056】
(実施例)
下記の表1の合金組成で備えられる厚さ250mmの鋼スラブを準備した後、表2の工程条件を適用して厚さ15mmの熱延鋼板を製造した。下記の表1に記載されていない合金成分は、不純物及び残部Feを意味し、「-」表示は誤差範囲内で0wt%に近接した場合を意味する。
【0057】
【0058】
【0059】
各試験片の微細組織及び機械的物性を分析して表3に記載し、各試験片の関係式1~関係式3の満足有無を表3に併せて記載した。微細組織は、ナイタール(Nital)エッチング法で各試験片をエッチングした後、500倍率の光学顕微鏡を用いて測定した。フェライトの結晶粒径はASTM E112によって測定した。
図1は、試験片1の微細組織の観察に用いられた光学顕微鏡写真であり、
図2は試験片5の微細組織観察に用いられた光学顕微鏡写真である。
【0060】
KS B 0802及びKS B 0810によって機械的物性を測定し、測定された降伏強度、降伏比及び-21℃におけるシャルピー衝撃靭性を表3に併せて記載した。
【0061】
振動減衰比は、長さ*幅*厚さが80*20*2mmである試験片を準備した後、IMCEのRFDA LTV800を用いて常温で測定した。曲げ振動モード(flexural vibration mode)で打撃した後、該当試験片の振動モードのうち、1stモードに該当する1650Hz領域の振動減衰比を測定して分析し、その結果を表3に併せて記載した。
【0062】
【0063】
表1~表3に記載されたように、本発明の合金組成、工程条件及び関係式1~4を満たす試験片は、350MPa以上の降伏強度、27J以上の-20℃シャルピー衝撃エネルギー及び100*10-6以上の振動減衰比を同時に満たす一方、本発明が制限する条件のいずれか一つ以上を満たさない試験片は、350MPa以上の降伏強度、27J以上の-20℃シャルピー衝撃エネルギー及び100*10-6以上の振動減衰比を同時に満たさないことが分かる。
【0064】
また、従来材との比較のために、従来の構造用鋼材であるEN-S355について同一の条件で試験を進行し、EN-S355の場合、同一の条件で測定された振動減衰比が60*10
-6の水準に過ぎないことが確認できた。
図3は、光学顕微鏡を用いて撮影したEN-S355の微細組織観察写真である。
【0065】
したがって、本発明の一側面によると、降伏強度、振動減衰比及び低温靭性に優れて、真空列車チューブ用に適した物性を有する熱延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0066】
以上で、実施例を介して本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。それ故に、以下に記載された請求項の技術的思想と範囲は実施例に限定されない。
【国際調査報告】