(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-22
(54)【発明の名称】船舶の安定性制御システム
(51)【国際特許分類】
B63B 39/03 20060101AFI20240215BHJP
【FI】
B63B39/03 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532485
(86)(22)【出願日】2023-02-23
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 TR2023050175
(87)【国際公開番号】W WO2023107083
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2022-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523194765
【氏名又は名称】カラデニズ テクニーク ユニバーシティス テクノロジ トランスフェリ ウイグラマ ヴェ アラスティルマ メルケジ
(74)【代理人】
【識別番号】100145241
【氏名又は名称】鈴木 康裕
(72)【発明者】
【氏名】ペスマン、エムレ
(72)【発明者】
【氏名】セナー、メフメット ゼキ
(72)【発明者】
【氏名】チョプログル、ハサン イスラム
(72)【発明者】
【氏名】オルメズ、ハサン
(57)【要約】
本発明は、積載時の船舶を安定させるためのシステムを提案するものである。特に、本発明は、船舶の安定制御のためのブイと水路を使用することにより、バラストタンクを備えないシステムを提案する。バラストタンクがないため、幼生期や発育期の細菌、ウイルス、その他多くの海洋生物がバラスト水とともに異なる海洋生態系に運ばれることを防止することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積載時の船舶の安定性を提供する船舶安定化システムであって、
- 船舶の側面に位置し、船体(1)を安定位置に持っていくために上下に動くことにより、複数のチャンバー(6)を海水で満たされるようにすることで船体にモーメントを与え、内壁に連続して配置され、縦軸方向に上下動可能なブイ(3)と、
- 船首から船尾へ延在する、船体(1)内部の海水循環用の複数の水路(4)と、
- ブイ(3)の上下動に伴う位置の変化により海水の流れが阻害されることを防ぐために船体を貫通する水路(4)と一致するように位置するブイを貫通する複数の水路(5)と、
- 船体のフォアクォータに設置され、アフトクォータに設置された水路出口(8)と共に海水の受け入れと循環を提供する水路入口(7)と、
- 船体のアフトクォータに設置され、フォアクォータに設置された水路入口(7)と共に海水の受け入れと循環を提供する水路出口(8)と、
を備える船舶安定化システム。
【請求項2】
チャンバー(6)は、ブイ(3)により送られる海水で満たされ、船体(1)のトリムとヒールを制御することを特徴とする請求項1に記載の船舶安定化システム。
【請求項3】
ブイ(3)は、海水で満たされるチャンバー(6)が完全に満たされたとしても、安定性の消失角を増加させるための予備容積を提供することを特徴とする請求項1に記載の船舶安定化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最も一般的な意味で、積載運用中に船舶で使用される安定化のためのシステムに関するものである。本発明は、主に、ブイと水路を使用して、積載状況に応じて即座に船舶の安定性を動的に制御することを保証するバラストフリーシステムに関するものである。バラストタンクがないため、船内水がバクテリア、ウイルス、その他多くの幼生期や発育期の海の生き物を新しい海洋生態系に運ぶことはない。
【背景技術】
【0002】
すべての船舶の妨げとなる波の影響は、主に2つの形態がある。風の力によってできる海由来の波と、船舶の動きによってできる船舶由来の波である。海由来の波は望ましくないものであり、ほとんどすべての船舶がその影響を受ける。一方、船舶起源の波は、船舶が移動中に海面の水を押すことで形成される。海由来の波や風によって、船舶はヒール運動やロール運動を強いられる。バラストタンクは、波の影響による安定性の問題を防ぐためにも使用される。
【0003】
バラスト水とは、船舶が航行中の安定性を確保するためにバラストタンクで運ぶ水のことである。貨物船倉が空の船(無積載船)では、下部のタンクにバラストを入れ、重心を移動させる必要があることが多い。バラスト水を利用して船を安定させることで、船の操縦性とストレスレベルの両方を向上させることができる。一方、船舶のバラストタンクに貯蔵されるバラスト水には、いくつかの欠点がある。なぜなら、船内に取り込まれたバラスト水には、バクテリア、ウイルス、幼生や発育段階にある海の生き物が含まれている可能性があるからである。バラストの排出と取り込みのプロセスにもかかわらず、一部の生物は生き残り、他の生態系に運ばれることがある。このような状況は、生態系や経済的な問題を引き起こし、公衆衛生に危険を及ぼすことになる。
【0004】
水中の生態系が影響を受けていることが知られているにもかかわらず、船舶は毎年何十億トンものバラスト水を世界中に移動させ続けている。バラスト水中の生物の中には、バラスト水中の温度変化や食料不足、船舶での移動中の光のない環境などによって死んでしまうものもいる。しかし、生き残った抵抗力のある生き物の中には、到着した新しい海の生態系に混じっているものもいる。新しい生態系では、自然環境を占拠して外来種となる可能性がある。船舶がバラストタンク内の微生物を新しい環境に移動させた結果、海洋生態系は大きな脅威にさらされている。
【0005】
バラスト水のデメリットを防ぐために、いくつかの改善が行われているが、さらに多くのことが必要である。国際海事機関(IMO)は、バラスト水による微生物の拡散を防ぐため、「船舶のバラスト水及び沈殿物の制御及び管理のための国際条約」を策定した。その協定は、2004年に多くの国によって署名された。この協定に基づき、船舶はバラスト水を処理し、バラスト水の交換前に適合性を確認するためにバラスト水分析を行うことが義務付けられている。しかし、バラスト水の分析、処理、管理が義務化された結果、この予防措置には余分なコストと労力が必要となっている。
【0006】
現在、船舶で使用されているバラストシステムの欠点が知られているため、これらの問題を解決するためにいくつかの改良が行われている。その改良の第一が、バラストフリー船(無バラスト船)の採用である。バラストフリー船モデルは、バラストタンクのための余分な配管やポンプを船内に持たず、タンクを持たないことでメンテナンスコストを削減できるものである。このシステムは、船のキールの下に「トランク」と呼ばれる中空の空間や水路があるのが特徴である。このトランクの中を水が絶えず流れ、船のバラストシステムとして機能する。しかし、このシステムには多くのデメリットがある。水が水路を通して流れ続けることで、船舶の浮力の中心が常に船尾から船首に移動してしまい、船の安定性が損なわれる。また、船舶の大きさが制限されるという欠点もある。バラストタンクのない船舶では、安定性を損なわず、同じ貨物量を確保するためには、船の長さではなく幅を大きくする必要がある。しかし、この方法は、船舶の建設コストの上昇を招くことになる。したがって、安定化操作のために、ブイのような機構で水路に入る水を制御できる新しいシステムを開発する必要がある。
【0007】
「バラストフリー船の流体力学再考」という記事では、バラストタンクを介した有害種の輸送の防止、船の使用速度での船体抵抗の増加の回避、あらゆる海象条件下でのトリム、ヒール、安定性制御の確保について述べている。これらの目標を達成するために、水路の入り口と出口にあるバルブは、船の安定性によって開閉する。船の速度に応じて、海水は水路の入り口から入り、水路の出口から出る。バルブの開閉により、一定容積のタンクに水を入れる。流出弁を開けておくと水が流れ出し、有害な生物種が付着して各地に運ばれるのを防ぐことができる。バルブを追加することなく、船の安定性を維持するためには、新しい技術が必要である。これは、重量安定性を維持するため、船体の側面に沿って配置したブイのような構造物で実現可能である。当該技術分野における既存の解決策には、いくつかの問題や限界があり、イノベーションが必要である。
【0008】
特許出願「KR20150062310A」では、船体の重量と容積を安定させたまま船倉を船体内に浮かせることで、バラストタンクを不要にし、危険種の輸送を防止するシステムを提案している。しかし、このシステムは鉱石のような重い荷物の輸送には適さず、厳しい海象条件下での安全な航行には危険を伴う可能性がある。そこで、密度や重量の異なる貨物の輸送効率を落とさずに危険種を輸送できる新技術が求められている。また、この技術は、トリムや傾斜の補正、大型商船の長手方向の強度の維持、運航・製造コストの削減、水流の遮断と安定性の確保などの課題にも対応する必要がある。
【0009】
この技術分野の別の特許出願である「US4528927A」は、静水圧浮力とともに流体力学的浮力を利用して高速化を実現する高速艇用のものである。しかし、このシステムでは、急加速や高速走行時に船首が過度に浮き上がることがあり、大型商船の積載と無積載によるトリムや傾斜に対する長手方向の強度を向上させる新技術の必要性が指摘されている。
【0010】
その結果、上記のような欠点と、この課題に関する既存の解決策の不十分さにより、大型商業船舶の積載と無積載に起因するトリムやヒーリングの修正、細菌やウイルスなど多くの海洋生物の居場所の変化による生態系の劣化の防止、生産・運用コストの削減、途絶のない水流の確保、安定性維持のための関連技術分野での発展が必要になっている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の最も重要な目的は、船舶によって引き起こされる汚染を制限し、制御することである。この提案されたシステムでは、船舶のバラスト操作によって海に加えられる水の中にいる異なる生物を輸送する生態系輸送が確実に防止される。
【0012】
本発明の他の目的は、航行中の水流によって壁の部分に細菌やウイルスなどの海洋生物が運ばれるのを防ぐことによって、生態系バランスの悪化を防ぐことである。
【0013】
本発明のもう一つの目的は、船内に海水を持ち込まないことで、国際海事機関のバラスト水管理システムの要件を満たすことである。
【0014】
本発明の別の目的は、異なる積載シナリオを提供することである。この目的のために、このシステムでは、ブイを徐々に縦に動かすことができる。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、運用コストが低いシステムを開発することである。本システムでは、ポンプや開閉式ハッチなどの故障しやすい部品が存在しない。また、船首に水路の入り口、船尾に水路の出口があるため、連続した流れが確保され、船体表面の圧力分布に応じた自然な流れが得られる。
【0016】
さらに、船体の安定性を保つために、海水が入る量を変更することも目的である。そのために、船内には上下に動くことができるブイがある。徐々に上下に動くことで、必要な海水が入ることがきる容積を変えることができる。これにより、さまざまな積載状況に対応するため船の安定性を適宜変更することが可能になる。また、ブイが船体内部にあるため、船体の表面の流体力学的な設計に起因する抵抗値の過度な上昇を防ぐことができる。また、ブイが設置されている場所への圧力値の影響も少なくなる。船の安定性を提供することは、提案された発明のもう一つの目的である。すべてのブイがトップポジションにあるとき、すなわち海水で満たされることができる容積が最大であるときでさえ、極端なロール運動において大きな角度で追加の予備容積を有している。言い換えれば、チャンバー(6)が完全に海水で満たされていても、ブイのおかげで追加の予備容積を提供することができる。安定性の消失する最大角度を大きくすることが可能であるので、この状況は、安定性の面で有益である。
【0017】
本発明の他の目的は、海による波浪荷重と船による波浪抵抗を低減することである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】船舶の積載条件下で船体を安定させるためのシステムの図
【
図5】積載条件下で海水で満たされた容積と上下に動くブイの図
【
図6】船舶の積載条件下で船体の安定性確保に関連するシステムにおいて、海水で満たされた容積で安定性制御を如何に行うかを示す図
【0019】
図に記載されている数値に相当するもの。
1.船体
2.貨物室
3.ブイ
4.船体を貫通する水路
5.ブイを貫通する水路
6.チャンバー
7.水路入口
8.水路出口
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、船舶における積載条件下で船体(1)を安定させるためのシステムを提案するものである。特に、本発明は、船舶における安定制御のためのブイと水路を使用し、バラストタンクを備えないシステムを提案する。
【0021】
船舶の貨物室(2)には、積載運用に応じて様々な荷物が置かれる。このような状況により、船の重心が移動し、その結果、船はトリム及び/又はヒールする。船体(1)を安定位置に戻すのに必要なモーメントは、複数のブイ(3)の上下動により海水で満たされる複数のチャンバー(6)によって提供される。船上で上下動するブイ(3)の使用により、バラストタンクの使用は不要になる。このようにして、危険な海洋生物がバラストタンクを用いて異なる場所に輸送されることが防止される。
【0022】
船体(1)の内部に、船上におけるフォアクォータ(船体前部)からアフトクォータ(船体後部)まで延在する海水循環のための複数の水路(4)がある。海水循環に必要な海水は、フォアクォータに設置された水路入口(7)により供給される。海水が循環するためには、アフトクォータにある水路出口(8)から海水を排出できることが必要である。
【0023】
船舶の航行中、船体の表面の圧力分布は変化する。水路入口(7)がある船首の正圧と水路出口(8)がある船尾の負圧の差は、水路に流れをもたらす。この水流のおかげで、危険な種が異なる地域に輸送されるのを防ぐことができる。ブイ(3)の上下動に伴う位置の変化によって海水の流れが妨げられることを防ぐために、船体を貫通する水路(4)と一致するようにブイ(3)を貫通する水路(5)がある。静水圧揚力を提供する船の容積、すなわち海水で満たされたチャンバー(6)は、ブイ(3)の移動によって調整することができる。ブイの移動により、重心の高さや位置に応じた調整が可能である。また、過大なロール運動に対して追加の容積が提供され、船のロール角が大きくなる。
【0024】
本システムは、船の移動中に水流が発生する船体を貫通する水路(4)およびブイを貫通する水路(5)と、内壁に連続して設置され縦軸方向に移動可能なブイ(3)とを備える。このようにすることで、その水流が航行中に内壁にいる細菌やウイルス、他の海の生き物が運ばれることを防ぎ、生態系の安定性の悪化を防ぐことができる。
【0025】
さらに、船に沿って横隔壁で区切られた多くの船倉があり、異なる密度または重量の荷物がこれらの船倉に運ばれることがある。トリムとヒーリングは、提案されたシステムにおいて海水で満たされる調整チャンバー(6)によって制御することができる。なぜなら、船倉内の異なる密度の貨物荷重の輸送は、船の長手方向の強度にも影響するからである。このため、海水で満たされたチャンバー(6)は、長手方向の強度に悪影響を与えないように、ブイ(3)の移動によって調整する必要がある。その結果、上記要件を考慮することにより、異なる地域に生息する微生物や海洋生物の輸送や、これらの生物による海域の侵入を防止することができる。
【0026】
船の安定性は、船員、乗客、貨物の安全にとって重要である。本発明で開発したシステムのおかげで、縦軸上を移動するブイ(3)は十分な容積を提供することで安定制御を行い、あらゆる海象条件下で船舶を安全かつ安定的に航行させることができる。また、過大なヒーリングが発生した場合にブイ(3)システムが故障したとしても、船の安定性にとって重要である予備容積がある。なぜなら、安定性の消失角を大きくするために、海水で満たされたチャンバー(6)が完全に満たされたとしても、ブイ(3)のおかげで予備容積が形成されるからである。つまり、船の安全性を高めることができる。
【0027】
より少ない燃料で同じ距離を航行するためには、船舶の流体力学的な設計を最適なレベルで行う必要がある。しかし、船はトリミングをせずに航行することが望ましい。なぜなら、特に貨物が少ない間は、主機関の重量のために船尾でトリミングされ、船首でトリミングされた船は、海事上好ましくない状況であるからである。本発明で開発されたシステムのおかげで、船の抵抗の増加を防ぐことにより、燃料の節約が達成される。
【0028】
提案されたシステムでは、余分なバラストタンク、バルブ-水路構成が必要ないため、生産コストと運用コストの両方が削減される。また、バラストタンク、バルブ-水路構成において一定期間で発生するメンテナンス費用が発生しないので、この点でもコストが削減される。
【国際調査報告】