(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-22
(54)【発明の名称】全身送達及び抗腫瘍活性の向上のための腫瘍溶解性ウイルス
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20240215BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20240215BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240215BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240215BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240215BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240215BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240215BHJP
【FI】
C12N7/01
A61K35/763 ZNA
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K35/17
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541092
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 US2022015703
(87)【国際公開番号】W WO2022173767
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510194415
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ヒューストン システム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ショーン・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】シンピン・フ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA91Y
4B065AA93X
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
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4B065BA05
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4B065CA24
4B065CA26
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BC83
4C087CA04
4C087CA09
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA20
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、免疫系による中和及び食作用に対してより耐性のある腫瘍溶解性ウイルス、ならびにそれらの調製方法ならびにそれらを用いた障害及び疾患(がん等)の治療方法に関する。本明細書に記載するのは、高レベルの抗HSV抗体を含む免疫血清中で処理された腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)または単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)である。1つの好ましい実施形態では、該腫瘍溶解性ウイルスは、食作用活性を阻害するために、糖タンパク質のN末端に挿入された細胞外CD47ドメインを含む。該腫瘍溶解性ウイルスは、がん治療のための全身投与に適する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)または単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)を含む組成物であって、前記腫瘍溶解性HSV1またはHSV-2が、腫瘍溶解性HSV1またはHSV-2を、抗HSV抗体のレベルが上昇した免疫血清とともに少なくとも2回継代することによって調製される、前記組成物。
【請求項2】
前記腫瘍溶解性HSV1またはHSV-2が、糖タンパク質を含む膜エンベロープを有し、少なくとも1つの糖タンパク質が、糖タンパク質のN末端に挿入された細胞外CD47ドメインを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記糖タンパク質が、糖タンパク質C、糖タンパク質B、糖タンパク質D、糖タンパク質H、及び糖タンパク質Lから選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記糖タンパク質が、糖タンパク質Cである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記免疫血清での継代が、前記腫瘍溶解性HSV-1またはHSV-2の糖タンパク質B及び糖タンパク質D上の中和エピトープを変異させる、先行請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記細胞外CD47ドメインが、CD47のアミノ酸19~141を含む、請求項2~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記細胞外CD47ドメインを有する腫瘍溶解性HSV1またはHSV-2が、gEを含まないかまたは実質的に含まない、請求項2~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス1型または単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)を含む組成物であって、前記腫瘍溶解性HSV1またはHSV-2が、腫瘍溶解性HSV-1またはHSV-2を、免疫血清の混合物にて少なくとも2回継代することによって調製される前記組成物であり、前記免疫血清の混合物が、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清及びヒト血清から構成される、前記組成物。
【請求項9】
腫瘍溶解性HSV-2を含み、前記腫瘍溶解性抗HSV-2が、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清の存在下で腫瘍溶解性HSV-2を7回継代し、続いて抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清と少なくとも1人のヒト血清の混合物の存在下で17回継代することによって調製されたものである、先行請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
腫瘍溶解性HSV-2を含み、前記腫瘍溶解性抗HSV-2が、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清の存在下で腫瘍溶解性HSV-2を7回継代し、続いて抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清と少なくとも1人のヒト血清の混合物の存在下で23回継代することによって調製されたものである、先行請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記腫瘍溶解性HSV-1または腫瘍溶解性HSV-2が、内因性ICP10コード領域のヌクレオチド1~1204を欠く改変ICP10コード領域を含み、前記腫瘍溶解性HSV-1またはHSV-2が、内因性または構成的プロモーターに作動可能に連結された前記改変ICP10を含み、プロテインキナーゼ(PK)活性を欠くがリボヌクレオチドレダクターゼ活性を保持する改変ICP10ペプチドを発現し、前記腫瘍溶解性HSV-1またはHSV-2が、がん細胞を選択的に殺傷することが可能である、先行請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
腫瘍溶解性HSV-2を含み、前記継代に供される腫瘍溶解性HSV-2が、FusOn-H2腫瘍溶解性ウイルスである、先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
腫瘍溶解性HSV-2を含み、前記継代に供される腫瘍溶解性HSV-2が、FusOn-CD47腫瘍溶解性ウイルスである、先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)または単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)を含む組成物の調製方法であって、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)または単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)を、抗HSV抗体のレベルが上昇した免疫血清とともに少なくとも2回継代することを含む、前記方法。
【請求項15】
前記腫瘍溶解性HSV1またはHSV-2が、糖タンパク質を含む膜エンベロープを有し、少なくとも1つの糖タンパク質が、前記糖タンパク質のN末端に挿入された細胞外CD47ドメインを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記糖タンパク質が、糖タンパク質C、糖タンパク質B、糖タンパク質D、糖タンパク質H、及び糖タンパク質Lから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記糖タンパク質が、糖タンパク質Cである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記免疫血清での継代が、前記腫瘍溶解性HSV-1またはHSV-2の糖タンパク質B及び糖タンパク質D上の中和エピトープを変異させる、請求項14~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞外ドメインが、CD47のアミノ酸19~141を含む、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記免疫血清が、哺乳類の抗HSV抗体を含む、請求項14~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記腫瘍溶解性HSV-2を、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清の存在下で少なくとも2回継代し、続いて抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清と少なくとも1人のヒト血清の混合物の存在下で少なくとも1回継代することを含む、請求項14~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記腫瘍溶解性HSV-2を、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清の存在下で7回継代し、続いて抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清と少なくとも1人のヒト血清の混合物の存在下で17回継代することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記腫瘍溶解性HSV-2を、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清の存在下で7回継代し、続いて抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清と少なくとも1人のヒト血清の混合物の存在下で23回継代することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が、腫瘍溶解性HSV-2を含み、前記継代に供される腫瘍溶解性HSV-2が、FusOn-H2腫瘍溶解性ウイルスである、請求項14~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物を投与することを含む、HSVベースの腫瘍溶解性ウイルス療法によって、がんの治療を必要とする患者のがんを治療する方法。
【請求項26】
前記組成物が全身投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記がんが、転移性がんである、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
請求項15~24のいずれか1項に記載の方法によって調製される組成物を投与することを含む、HSVベースの腫瘍溶解性ウイルス療法によって、がんの治療を必要とする患者のがんを治療する方法。
【請求項29】
前記組成物が全身投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物が腫瘍内注射または腹腔内注射によって投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記がんが、転移性がんである、請求項28または29に記載の方法。
【請求項32】
前記患者が、HSV-1及び/またはHSV-2のワクチン接種を受けているか、またはHSV-1及び/またはHSV-2を有する、請求項25~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
さらに、前記患者をチェックポイント阻害免疫療法で治療することを含む、請求項25~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記チェックポイント阻害免疫療法が、(a)PD-L1阻害剤、PD-1阻害剤、もしくはCTLA-4阻害剤を前記患者に投与すること、または(b)前記患者を養子T細胞移入によって治療することから選択される、請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年2月9日に出願された米国仮出願第63/200,011号及び2021年11月4日に出願された米国仮出願第63/263,528号の利益を主張するものであり、これらは各々、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦支援の研究または開発の記載
本発明は、国立衛生研究所から与えられた助成金G110207に基づく政府の支援によりなされた。政府は、本発明においてある特定の権利を有する。
【0003】
本発明は、免疫系によるクリアランス及び中和に対してより耐性のある腫瘍溶解性ウイルス、ならびにそれらの調製方法ならびにそれらを用いた障害及び疾患(転移性のがんを含めたがん等)の治療方法に関する。
【背景技術】
【0004】
がんのウイルス療法は、悪性細胞の選択的破壊のためにウイルスの固有の感染/細胞溶解活性を利用する、簡素で実用的な治療メカニズムを備えた実際的なアプローチに基づいている。近年、がんのウイルス療法の開発は目覚ましい進歩を遂げている。現在、I型単純ヘルペスウイルス(HSV-1)に由来する1つの腫瘍溶解性ウイルスであるImlygicまたはT-VECが、最初の手術後に再発した黒色腫患者の切除不能な皮膚、皮下及び結節性病変の治療のための臨床応用に関して承認されている(Greig,2016)。さらに、異なるウイルスから構築された様々な腫瘍溶解性ウイルスの有効性を調べる複数の進行中の臨床試験が存在する(Macedo et al.,2020)。
【0005】
現在、腫瘍溶解性ウイルス療法は、主に腫瘍内経路で投与されている。しかしながら、多くの悪性腫瘍を有する患者、特に転移性疾患を発症した患者の治療には、全身送達が望ましい。実際、ウイルス療法を受ける患者の圧倒的多数は、転移性疾患を有する可能性がある。この送達経路の重要性にもかかわらず、最適な全身送達戦略はまだ開発されていない。研究によれば、腫瘍溶解性HSVが全身経路で送達された後にいくつかの実験で治療効果が検出されたものの、全体的な治療効果は腫瘍内送達で見られた効果よりも有意に低かった(Fu et al.,2006、Nakamori et al.,2004)。いくつかの主要な要素が、全身経路による腫瘍溶解性ウイルスの送達効率を妨げている。
【0006】
第一に、当該患者の以前のウイルス曝露に起因してすでに存在している場合もあれば、治療の過程で当該腫瘍溶解性ウイルスの投与の繰り返しから新たに発生する場合もある抗HSV中和抗体が、導入されたウイルス粒子に結合する可能性がある。これにより、当該ウイルスの腫瘍細胞への感染が阻止され、当該宿主の抗体依存性細胞食作用(ADCP)による迅速なクリアランスにつながる(Huber et al.,2001、Tay,Wiehe,and Pollara,2019)。実際、動物実験では、既存の体液性免疫が腫瘍溶解性HSVの感染性に有害であることが示されている(Fu and Zhang,2001)。
【0007】
抗HSV中和抗体は、主にウイルスがコードする2つの糖タンパク質である糖タンパク質D(gD)及びgBを標的とすることがわかっている(Cairns et al.,2015、Cairns et al.,2014)。gDとgBの両方が多くの中和エピトープを含み、異なる個体で様々な順序の免疫優性階層で提示される(Bender et al.,2007)。全体として、これらのエピトープは、感染した個体及び/または異なる種間でよく保存される(Eing,Kuhn,and Braun,1989)。これらの研究では、HSV-2はHSV-1よりも中和が難しいことも示されている(Silke Heilingloh et al.,2020)。強力なエピトープの存在は、中和抗体がそれらを容易に認識し、治療活性を無効にする可能性があるため、HSVベースの腫瘍溶解性ウイルスの全身投与の主要な障害として現れる。
【0008】
全身送達された腫瘍溶解性ウイルス療法の有効性を低下させる別の重要な制限要因は、宿主の単核食細胞系(MPS)である。全身送達後、ウイルス粒子はMPSによって迅速に除去され得ることが分かっている(Ellermann-Eriksen,2005、Hume,2006、Van Strijp et al.,1989)。具体的には、Fulci et al.による研究により、マクロファージの枯渇が、腫瘍溶解性HSVの治療効果を大幅に改善することができることが分かった(Fulci et al.,2007)。
【0009】
HSVによるウイルス送達の有効性を低下させる可能性のあるさらに別の重要な抗ウイルスメカニズムは、ナチュラルキラー(NK)細胞である(Alvarez-Breckenridge et al.,2012a、Alvarez-Breckenridge et al.,2012b)。ウイルスの糖タンパク質E(gE)は、IgGに結合することが知られている(Dubin et al.,1994)。最近の研究では、NK細胞は、表面のCD16活性化受容体とgEに結合したIgGのFc領域との結合を介して、HSVまたはHSV感染細胞を認識することができることが示されている(Dai and Caligiuri,2018)。
【0010】
中和抗体が腫瘍溶解性ウイルスの感染性に与える影響を制限する1つの方法は、主要なエピトープの各々に突然変異を誘発することである。実際、最近の研究では、腫瘍溶解性HSVのgDからこれらのエピトープの2つの変異を誘発すると、対応するモノクローナル抗体(mAb)による中和を実際に無効にすることができることが示されている(Tuzmen et al.,2020)。しかしながら、HSV-1及びHSV-2のgBとgDの両方が中和抗体の主要な標的であり、その各々がほぼ12個の中和エピトープを含む。150kb長を超えるウイルスゲノムという観点から、2つの糖タンパク質からこれらのエピトープの各々の変異を誘発する従来の方法を使用することは、実際には実用的ではない。さらに、このアプローチは、腫瘍溶解性ウイルス療法の全身送達が直面する3つの主な障害のうちの1つ、すなわち、中和抗体に対応するのみであり、MPSをそのままにする。
【0011】
米国特許公開第2012/0301506号は、HSV-2由来の腫瘍溶解性ウイルスであるFusOn-H2の構築、及び悪性腫瘍の治療におけるその使用を開示している。FusOn-H2の投与により、好中球を介した腫瘍細胞に対する患者の自然免疫応答が誘導される。好中球は、腫瘍塊に移行すると、腫瘍を効率的に破壊することができる。誘導された自然抗腫瘍免疫により、FusOn-H2は、非常に低用量で使用された場合でも、腫瘍の根絶に効果的である。
【0012】
米国特許第10,039,796号及び第8,986,672号は、がんの治療用の改変単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)の組成物及び使用を開示している。該改変HSV-2は、リボヌクレオチドレダクターゼ活性を有し、プロテインキナーゼ活性を欠くポリペプチドをコードする改変/変異ICP10ポリヌクレオチドを含む。
【0013】
Fu et al.,Oncotarget,2018,9(77):34543-34553は、腫瘍溶解性HSVの膜エンベロープにCD47を遺伝子的に移植して、それがMPSから逃れることを可能にすることを記載している。
【0014】
全身投与に適した腫瘍溶解性ウイルスが依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国仮出願第63/200,011号
【特許文献2】米国仮出願第63/263,528号
【特許文献3】米国特許公開第2012/0301506号
【特許文献4】米国特許第10,039,796号
【特許文献5】米国特許第8,986,672号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Greig,2016
【非特許文献2】Macedo et al.,2020
【非特許文献3】Fu et al.,2006
【非特許文献4】Nakamori et al.,2004
【非特許文献5】Huber et al.,2001
【非特許文献6】Tay,Wiehe,and Pollara,2019
【非特許文献7】Cairns et al.,2015
【非特許文献8】Cairns et al.,2014
【非特許文献9】Bender et al.,2007
【非特許文献10】Eing,Kuhn,and Braun,1989
【非特許文献11】Silke Heilingloh et al.,2020
【非特許文献12】Ellermann-Eriksen,2005
【非特許文献13】Hume,2006
【非特許文献14】Van Strijp et al.,1989
【非特許文献15】Fulci et al.,2007
【非特許文献16】Alvarez-Breckenridge et al.,2012a
【非特許文献17】Alvarez-Breckenridge et al.,2012b
【非特許文献18】Dubin et al.,1994
【非特許文献19】Dai and Caligiuri,2018
【非特許文献20】Tuzmen et al.,2020
【非特許文献21】Fu et al.,Oncotarget,2018,9(77):34543-34553
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ある対象の免疫クリアランスに耐性のある、全身投与に適した腫瘍溶解性ウイルスを対象とする。本明細書に記載するのは、単純ヘルペスウイルス、例えば、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)または単純ヘルペスウイルス-2(HSV-2)ベースの腫瘍溶解性ウイルス(FusOn-H2等)に導入される一連の改変のための方法であり、これにより、ウイルスは、対象で行われるクリアランス及び中和から逃れることができる。これらの改変としては、1)免疫血清または高レベルの抗HSV抗体を含む血清での一連のFusOn-H2の継代、及び任意に、2)糖タンパク質C(gC)のN末端に、「don’t eat me」シグナルを含む分子であるCD47の細胞外ドメインを挿入することが挙げられる。その結果、改変されたウイルスであるFusOn-SDは、全身経路で投与された場合、腫瘍細胞の感染及び溶解において、親FusOn-H2よりもはるかに効果的になる。
【0018】
FusOn-SDの詳細な分析により、いくつかの新規な結果が明らかになった。顕著な所見は、ウイルス粒子からのgEのほぼ完全な欠如である。これにより、ウイルスは、NK細胞介在性の抗ウイルスメカニズムから逃れることができる。ウイルス粒子からのgEの欠如は、抗ウイルス血清の存在下で連続継代した後のCD47含有ウイルス(例えば、FusOn-CD47)でのみ見られ、抗ウイルス血清の存在下で同様の継代に供された非CD47含有ウイルス(例えば、FusOn-gC-Luc)では見られなかった。別の新規な発見は、CD47の細胞外ドメインをgCのN末端に挿入することで、継代なしであっても、ウイルスが抗HSV抗体による中和を逃れることができることも分かったことである。これらの改変及び予想外の結果的な変化により、複製及び安全性を損なうことなく、全身送達によるがん治療における腫瘍溶解性ウイルスの能力が大幅に向上した。
【0019】
1つの実施形態は、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)または単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)を含む組成物であり、該腫瘍溶解性HSV1またはHSV-2は、腫瘍溶解性HSV1またはHSV-2を、抗HSV抗体のレベルが上昇した免疫血清とともに少なくとも2回継代することによって調製される。1つの好ましい実施形態では、該腫瘍溶解性HSV1またはHSV-2は、糖タンパク質を含む膜エンベロープを有し、ここで、少なくとも1つの糖タンパク質は、該糖タンパク質のN末端に挿入された細胞外CD47ドメイン(例えば、CD47のアミノ酸19~141(配列番号21)を含む細胞外CD47ドメイン)を含む。該糖タンパク質は、糖タンパク質C、糖タンパク質B、糖タンパク質D、糖タンパク質H、糖タンパク質G、糖タンパク質L、または任意の他のウイルス膜タンパク質から選択され得る。例えば、1つの実施形態では、該糖タンパク質は、糖タンパク質Cである。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、本発明者らは、免疫血清における継代が、腫瘍溶解性HSV-1もしくはHSV-2の糖タンパク質B及び糖タンパク質D上の中和エピトープまたは他のウイルス遺伝子を変異させるか、あるいはこれらの膜タンパク質の他の変化を余儀なくすると考える。
【0020】
別の実施形態では、該免疫血清は、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清とヒト血清の混合物である。
【0021】
該腫瘍溶解性HSV-2を含む組成物は、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清の存在下で腫瘍溶解性HSV-2を7回継代し、続いて抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清と少なくとも1人のヒト血清の混合物の存在下で17回継代することによって調製され得る。該腫瘍溶解性HSV-2は、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清の存在下で腫瘍溶解性HSV-2を7回継代し、続いて抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清と少なくとも1人のヒト血清の混合物の存在下で23回継代することによって調製され得る。
【0022】
1つの実施形態では、該腫瘍溶解性HSV-1または腫瘍溶解性HSV-2は、内因性ICP10コード領域のヌクレオチド1~1204を欠く改変ICP10コード領域を含み、該腫瘍溶解性HSV-1またはHSV-2は、内因性または構成的プロモーターに作動可能に連結された該改変ICP10を含み、プロテインキナーゼ(PK)活性を欠くがリボヌクレオチドレダクターゼ活性を保持する改変ICP10ペプチドを発現する。好ましくは、該腫瘍溶解性HSV-1またはHSV-2は、がん細胞を選択的に殺傷することが可能である。
【0023】
本明細書に記載の組成物の1つの実施形態では、該組成物は、FusOn-H2腫瘍溶解性ウイルスを継代することによって調製された腫瘍溶解性HSV-2を含む。
【0024】
別の実施形態では、該細胞外CD47ドメインを有する腫瘍溶解性HSV1またはHSV-2は、gEを含まないかまたは実質的に含まない。
【0025】
別の実施形態は、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)または単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)を含む組成物の調製方法であり、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)または単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)を、抗HSV抗体のレベルが上昇した免疫血清とともに少なくとも2回継代することを含む。継代される腫瘍溶解性HSV-1またはHSV-2及び該免疫血清は、本明細書に記載されている通りでよい。抗HSV抗体のレベルが上昇した血清は、HSV(例えば、HSV-2)のワクチン接種を受けた動物から得ることができる。1つの実施形態では、該方法は、ラット血清の存在下で腫瘍溶解性HSV-1またはHSV-2を少なくとも2回継代し、続いて抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清と少なくとも1人のヒト血清の混合物の存在下で、少なくとも1回継代することを含む。別の実施形態では、該方法は、該腫瘍溶解性HSV-1またはHSV-2を、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清の存在下で7回継代し、続いて抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清と少なくとも1人のヒト血清の混合物の存在下で17回継代することを含む。さらに別の実施形態では、該方法は、該腫瘍溶解性HSV-2を、抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清の存在下で7回継代し、続いて抗HSV抗体のレベルが上昇したラット血清と少なくとも1人のヒト血清の混合物の存在下で23回継代することを含む。
【0026】
本明細書に記載の組成物または方法のいずれかの好ましい実施形態では、継代される腫瘍溶解性HSV-2は、FusOn-H2腫瘍溶解性ウイルスである。
【0027】
本明細書に記載の組成物または方法のさらに別の好ましい実施形態では、継代される腫瘍溶解性HSV-2は、FusOn-CD47腫瘍溶解性ウイルスである。
【0028】
さらに別の実施形態は、本明細書に記載の組成物またはHSV-1もしくはHSV-2腫瘍溶解性ウイルスを投与することを含む、HSVベースの腫瘍溶解性ウイルス療法によって、がんの治療を必要とする患者のがん(例えば、転移性がん)を治療する方法である。1つの実施形態では、有効量の該組成物が投与される。好ましい実施形態では、該組成物は、全身投与される。ある特定の実施形態では、該組成物は、固形腫瘍を治療するために使用され得る。1つの実施形態では、該患者は、HSV-1及び/またはHSV-2のワクチン接種を受ける。別の実施形態では、該患者は、HSV-1及び/またはHSV-2を有する。
【0029】
本発明を、特徴及び利点を含め、より完全に理解するために、添付の図面とともに本発明の詳細な説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】抗HSV血清に対して養成された(trained)及び未養成の(untrained)FusOn-H2の異なる感受性を示す棒グラフである。1X10
4個の未養成のFuson-H2または養成されたFusOn-SS9を、ヒトまたはラットのいずれかの抗HSV-2血清と1:5の最終濃度で混合した。37℃で1時間インキュベーション後、溶液を12ウェルプレートのベロの単層に載せた。プラークを、クリスタルバイオレット染色の48時間後に計数した。
【
図2A】FusOn-cd47の構築戦略の略図である。これは、FusOn-H2の骨格へのEGFP-Luc遺伝子カセット及びCMVp-HAtag-CD47ECDの挿入が、左側の隣接(LF)配列及び右側の隣接配列としてgCの3’領域(膜貫通ドメインからポリA)とともに、相同組み換えを介して行われたことを示す。この遺伝子カセットの個々の構成要素の詳細は図面に示され、それに応じてラベルが付けられている。略語は次の通りである:CMVp、サイトメガロウイルス前初期プロモーター、LTR、このウイルスのプロモーター領域を含むラウス肉腫の長い末端反復、GFP-Luc、EGFP-ルシフェラーゼ融合遺伝子、HA、HAタグ、CD47、マウスCD47細胞外ドメイン、gC、完全なgCコード領域。LF、gCの左隣接領域。組み換えウイルスを、GFP発現によって同定し、均質になるまで精製した。
【
図2B】FusOn-cd47の構築戦略の略図である。対照ウイルスとして使用されたFusOn-Lucが、CD47細胞外ドメインを含まないことを除いて、同様の方法で構築されたことを示す。
【
図3】食細胞によるクリアランスを回避する能力についてのFusOn-CD47とFusOn-Lucの比較を示すグラフである。これは、食細胞の有無によるウイルス収量の比較である。12ウェルプレートのベロ細胞に、200,000個の脾細胞なしでまたはそれとともに、0.1pfu/細胞でいずれかのウイルスを感染させた。細胞を48時間回収し、ウイルス収量をプラークアッセイによって決定した。
【化1】
他の3つのウェルと比較してp<0.05。
【
図4A】CT26腫瘍モデルにおいて全身経路によりFusOn-CD47がFusOn-Lucよりも効率的に送達され得ることを実証する、毎日のIVIS撮像測定からの平均光子読み取りを示すグラフである。CT26細胞の皮下移植により、Balb/cマウスの右脇腹に腫瘍を定着させた。腫瘍が直径約8mmのサイズに達した後、2X10
6pfuのFusOn-CD47またはFusOn-Lucのいずれかを全身投与した。
【
図4B】FusOn-CD47の全身送達から数日後の典型的なマウスの画像のタイムラプスである。CT26腫瘍モデルでは、全身経路によりFusOn-CD47がFusOn-Lucよりも効率的に送達され得ることが示される。CT26細胞の皮下移植により、Balb/cマウスの右脇腹に腫瘍を定着させた。腫瘍が直径約8mmのサイズに達した後、2X10
6pfuのFusOn-CD47またはFusOn-Lucのいずれかを全身投与した。ルシフェラーゼ発現について、動物を2日目から毎日撮像した。
【
図5】養成後の抗HSV血清による中和効果に対するFusOn-CD47の耐性の向上を示すグラフである。1X10
4個の未養成のFusOn-CD47または養成されたFusOn-CD47-SS24(ラット血清の存在下で7回継代及びラット血清と1人のヒト血清の存在下で17回継代)を、ヒトまたはラットのいずれかの抗HSV-2血清と1:5の最終濃度で混合した。37℃で1時間インキュベーション後、溶液を12ウェルプレートのベロの単層に載せた。プラークを、クリスタルバイオレット染色の48時間後に計数した。
【
図6】養成されたFusOn-CD47が抗HSV免疫血清に対してさらなる耐性を獲得したことを示すグラフである。5X10
3個の未養成のFusOn-CD47または養成された異なる段階の同じウイルス[シリアルセレクション24(FusOn-CD47-SS24)、シリアルセレクション49(HR49、N2~N5及びN7~N8)]を、8人のヒト血清混合物と異なる希釈で混合した。養成されたFusOn-H2(FusOn-SS9)もこの実験に含めた。37℃で1時間インキュベーション後、溶液を12ウェルプレートのベロの単層に載せた。プラークを、クリスタルバイオレット染色の48時間後に計数した。
【
図7】CD47の挿入が、中和HSV抗体を逃れる腫瘍溶解性HSVの能力を増強することができることを示す棒グラフである。500pfuのFusOn-CD47及びFusOn-Lucを、示された希釈(1:40または1:160)の抗HSV-2血清と37℃で1時間インキュベートした後、これらを使用して、6ウェルプレートでベロ細胞に感染させた。対照として、同数のウイルスを培地のみでインキュベートした。ウイルスプラークを計数するために、細胞を48時間後にクリスタルバイオレットで染色した。抗HSV血清を含むウェル中のプラーク数を、抗HSV血清を含まない同じウイルスを含むウェル(対照)からのプラーク数で割ることによって、プラークのパーセンテージを計算した。
【化2】
は、FusOn-Lucと比較してp<0.05を示す。
【
図8】FusOn-CD47、FusOn-LucまたはFusOn-SDの全身送達から数日後の典型的なマウスの画像のタイムラプスである。FusOn-Lucではなく、FusOn-CD47は、全身経路によって、既存の抗HSV免疫を有する担腫瘍マウスに十分に送達され、抗HSVを含む血清中でFusOn-CD47を継代する(FusOn-SDを生成する)ことで、これらのマウスにおいて、ウイルスが全身的に送達される能力がさらに高まることを示している。Balb/cマウスにFusOn-H2をワクチン接種し、次いで右脇腹にCT26腫瘍細胞を移植した。別々の群のマウスに、これら3つのウイルスの各々を尾静脈から1X10
7pfuの用量で投与した。ウイルス注射後の示された日にIVIS撮像装置を使用してマウスを撮像した。
【
図9A】マウス抗HSV-2gE(1:1000希釈)及びHPRコンジュゲートウサギ抗マウスIgG(1:10,000希釈)での処理後のFusOn-H2、FusOn-SD、及びPBS(陰性対照)の450nmの吸光度を示す棒グラフである。
【
図9B】マウス抗HSV-2gE(1:1000希釈)及びHPRコンジュゲートウサギ抗マウスIgG(1:10,000希釈)での処理後のFusOn-SD及びFusOn-H2のサンプルにおけるgEの検出を示すウェスタンブロットである。
【
図9C】gEを介したHSVまたはHSV感染細胞のNK細胞認識のメカニズムに関する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図面に示される本発明の好ましい実施形態を説明する際に、分かりやすくするために特定の用語を用いる。しかしながら、本発明は、そのように選択される特定の用語に限定されることを意図せず、各特定の用語は、類似する目的を達成するために、類似する様式で操作されるすべての技術的等価物を含むことが理解される。本発明のいくつかの好ましい実施形態は、例示を目的として記載されているが、本発明は、特に図に示されていない他の形態で具現化され得ることが理解される。
【0032】
定義
【0033】
本明細書で使用される、「単純ヘルペスウイルス」または「HSV」という用語は、ヒトを含めた哺乳類に感染する、エンベロープを有する二十面体の二本鎖DNAウイルスを指す。野生型HSVは、最終分化した非分裂細胞と分裂細胞の両方に感染し、複製する。「HSV-2」は、ICP10遺伝子を含むHSVファミリーのメンバーを指す。本明細書で使用される、「FusOn-H2」という用語は、本明細書に記載のリボヌクレオチドレダクターゼ活性を有し、プロテインキナーゼ活性を欠くポリペプチドをコードする改変ICP10ポリヌクレオチドを有するHSV-2変異体を指す。FusOn-H2及び改変ICP10ポリヌクレオチドは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,986,672号及び第10,039,796号、ならびに米国特許公開第2015/0246086号に記載されている。
【0034】
「HSV-2腫瘍溶解性ウイルス」及び「HSV-2変異体」という用語は、本明細書では同義で使用される。
【0035】
本明細書で使用される、「細胞膜融合」及び「融合」という用語は、例えば、隣接する2つの細胞等の、少なくとも2つの細胞の外膜の融合を指す。
【0036】
本明細書で使用される、「増強された融合活性」という用語は、細胞膜融合の強化、増加、増大、増強、増幅、またはそれらの組み合わせを指す。
【0037】
本明細書で使用される、「腫瘍溶解性」という用語は、悪性細胞の破壊を直接または間接的にもたらし得る作用物質の特性を指す。特定の実施形態では、この特性は、悪性細胞の膜を別の膜に融合させることを含む。
【0038】
本明細書で使用される、「ベクター」という用語は、複製可能な細胞への導入のために核酸配列を挿入することができる担体核酸分子を指す。挿入された核酸配列は、ベクターが導入される細胞にとってそれが外来である場合に、または細胞内のある配列と相同であるが、型配列が通常は見られない宿主細胞の核酸内のある位置では相同でない場合に、「外因性」と呼ばれる。ベクターは、非ウイルスDNAベクターまたはウイルスベクターのいずれかであり得る。ウイルスベクターは、ウイルスタンパク質に封入されており、細胞に感染することが可能である。ベクターの非限定的な例としては、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、裸のDNA発現ベクター、プラスミド、コスミド、人工染色体(例えば、YACS)、ファージベクター、カチオン性縮合剤と会合したDNA発現ベクター、リポソームに封入されたDNA発現ベクター、またはある特定の真核細胞、例えば、プロデューサー細胞が挙げられる。別段の記載がない限り、本明細書で使用される、「ベクター」は、DNAベクター及びウイルスベクターの両方を指す。当業者であれば、標準的な組み換え技術によってベクターを構築する知識を備えているであろう。一般に、これらとしては、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、及びそこに引用されている参考文献が挙げられる。ウイルス学的考察は、Coen D.M,Molecular Genetics of Animal Virus in Virology,2nd Edition,B.N.Fields(editor),Raven Press,NY(1990)及びそこに引用されている参考文献にも概説されている。
【0039】
「発現ベクター」という用語は、転写可能なRNAをコードする核酸を含む任意のタイプの遺伝子構築物を指す。場合によっては、RNA分子は、その後タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳される。他の場合では、これらの配列は、例えば、アンチセンス分子またはリボザイムの産生では翻訳されない。発現ベクターは、特定の宿主細胞において作動可能に連結されたコード配列の転写及び恐らくは翻訳に必要な核酸配列を指すものである様々な「制御配列」を含み得る。転写及び翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクター及び発現ベクターは、他の機能も果たす以下に記載する核酸配列を含み得る。
【0040】
「プロモーター」は、転写の開始及び速度が制御される核酸配列の領域である制御配列である。それは、調節タンパク質及び分子が結合し得る遺伝要素、例えば、RNAポリメラーゼならびに核酸配列の時間的及び空間的転写を開始または調節する他の転写因子を含み得る。「作動可能に配置された」、「作動可能に連結された」、「制御下にある」、及び「転写制御下にある」という表現は、プロモーターが、核酸配列に関して、その配列の転写開始及び/または発現を制御するための正しい機能的位置及び/または方向にあることを意味する。例示的な非限定的なプロモーターとしては、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、腫瘍特異的プロモーター、または外因性誘導要素の制御下にある内因性プロモーターが挙げられる。
【0041】
本明細書で使用される、「構成的プロモーター」という用語は、細胞周期全体にわたって連続的な時間的様式で遺伝子またはポリヌクレオチドの発現を駆動するプロモーターを指す。構成的プロモーターは、それが関連する遺伝子またはポリヌクレオチドの発現を駆動するために細胞周期を通して連続的に作動する限り、細胞または組織型特異的であり得る。例示的な非限定的な構成的プロモーターとしては、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40初期プロモーター、RSV LTR、ベータニワトリアクチンプロモーター、及びHSV TKプロモーターが挙げられる。
【0042】
「エンハンサー」という用語は、核酸配列の転写活性化の制御に関与するシス作用性調節配列を指す。
【0043】
「改変ICP10ポリヌクレオチド」という表現は、リボヌクレオチドレダクターゼ(RR)活性を有するが、プロテインキナーゼ活性を欠くICP10ポリペプチドをコードするICP10ポリヌクレオチドを指す。
【0044】
「リボヌクレオチドレダクターゼ活性」という表現は、ICP10ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのC末端ドメインが、ウイルス複製に必要な十分なデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)を生成する能力を指す。
【0045】
「プロテインキナーゼ活性」という表現は、ICP10ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのアミノ末端ドメインが、Ras/MEK/MAPK経路を活性化することができるセリン及びスレオニン残基をリン酸化する能力を指す。
【0046】
本明細書で使用される、「有効な」または「治療上有効な」という用語は、症状の悪化を抑制もしくは阻害すること、疾患の発症を阻害、抑制、もしくは予防すること、疾患の広がりを阻害、抑制、もしくは予防すること、疾患の少なくとも1つの症状を改善すること、またはそれらの組み合わせを指す。
【0047】
「患者」または「対象」という用語は、ヒトまたは家畜(例えば、犬または猫)等の哺乳類を指す。好ましい実施形態では、該患者または対象は、ヒトである。
【0048】
「血清(sera)」または「血清(serum)」という用語は、血球及び凝固タンパク質が除去された際に残る血液からの液体を指す。
【0049】
本明細書で使用される、「抗がん剤」という用語は、例えば、がん細胞を殺傷すること、がん細胞にアポトーシスを誘導すること、がん細胞の増殖速度を低下させること、転移の発生率または数を減少させること、腫瘍サイズを縮小すること、腫瘍増殖を阻害すること、腫瘍またはがん細胞への血液供給を減少させること、がん細胞または腫瘍に対する免疫応答を促進すること、がんの進行を予防または阻害すること、またはがんを有する対象の生存期間を延長することによって対象におけるがんに悪影響を与えることが可能な作用物質を指す。
【0050】
本明細書で使用される、「医薬的に」または「医薬的に許容される」という表現は、必要に応じて動物、またはヒトに投与された際に、有害反応、アレルギー反応、または他の厄介な反応を生成しない分子実体及び組成物を指す。「医薬的に許容される担体」という表現は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤等を含む。
【0051】
「単位用量」という用語は、対象での使用に適切な物理的に別個の単位を指し、各単位は、その投与、すなわち、適切な経路及び治療計画に関連して所望の応答を生じるよう計算された所定量の治療用組成物を含む。
【0052】
序文
ウイルスは、生きた細胞内でしか複製することができず、その複製には通常、ある特定の細胞シグナル伝達経路の活性化が必要である。多くのウイルスは、進化の過程でこれらのシグナル伝達経路を活性化し、複製に役立つ様々な戦略を獲得してきた。単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)リボヌクレオチドレダクターゼ(ICP10またはRR1)の大きなサブユニットは、セリン/スレオニンプロテインキナーゼ(PK)活性を有する独自のアミノ末端ドメインを含む。このPK活性は、細胞のRas/MEK/MAPK経路を活性化することがわかっている(Smith,et al.,(2000)J Virol 74(22):10417-29)。その結果、リボヌクレオチドレダクターゼ遺伝子からのこのPKドメイン(ICP10PK)の欠失は、既存の活性化されたRasシグナル伝達経路が存在しない細胞等の細胞でウイルスが複製する能力を著しく損なうことが報告されている(Smith,et al.,(1998)J.Virol.72(11):9131-9141)。
【0053】
HSV-2のPKドメインが、改変ICP10遺伝子によってコードされるタンパク質がリボヌクレオチドレダクターゼ活性を有するがプロテインキナーゼ活性を欠くように置換及び/または改変された場合、該ウイルスは、腫瘍細胞(少なくともRasシグナル伝達経路が腫瘍形成により構成的に活性化される腫瘍細胞)内で選択的に複製し、該腫瘍細胞を破壊する。さらに、本明細書に記載のICP10ポリヌクレオチドの改変により、ウイルスが本質的に融合性になる、すなわち、ウイルスによる腫瘍細胞の感染は、広範な細胞膜融合(合胞体形成)を誘導する。この特性は、腫瘍細胞に対するウイルスの破壊力を高める。さらに、インビボ試験は、このウイルスが、局所投与または全身投与のいずれに対しても非常に安全であることを示している。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態では、該PKドメインの改変は、緑色蛍光遺伝子を発現するもの等のレポーター遺伝子の挿入、及び/または天然のプロモーター遺伝子の前初期サイトメガロウイルスプロモーター等の構成的プロモーターによる置換を含む。
【0055】
いくつかの実施形態では、該HSV-2は、第二のポリヌクレオチドを、ICP10遺伝子のプロテインキナーゼ活性ドメインをコードするポリヌクレオチドに挿入することによって、またはプロテインキナーゼドメインの一部を第二のポリヌクレオチドで置換することによって、改変されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが、リボヌクレオチドレダクターゼ活性を有するが、プロテインキナーゼ活性を欠くように遺伝子操作される。例えば、該第二のポリヌクレオチドは、糖タンパク質、例えば、融合性膜糖タンパク質をコードし得る。本発明の範囲内で使用するための好ましい糖タンパク質は、テナガザル白血病ウイルスエンベロープ融合性膜糖タンパク質(GALV.fus)の切断型である。本発明のある特定の態様では、本発明の腫瘍溶解性ウイルスという観点から、GALV.fusの発現により、該ウイルスの抗腫瘍効果が有意に高まる。
【0056】
いくつかの実施形態では、本発明の改変HSV-2は、該ウイルスに細胞融合特性を与えるICP10における欠失等の変異を含む。かかる変異は、ウイルススクリーニングの過程でランダムに生じる場合もあれば、自然界から得られる場合もあり、細胞融合特性を有する可能性のある候補のプールは、次いで本明細書に記載の、及び/または当技術分野で既知の手段によって該機能についてアッセイされる。該融合性の表現型につながる変異は、点突然変異、フレームシフト、反転、欠失、スプライシングエラー突然変異、転写後プロセシング突然変異、ある特定のウイルス糖タンパク質の過剰発現、それらの組み合わせ等であり得る。該変異は、特定のHSV-2を配列決定し、それを既知の野生型配列と比較することによって同定され得る。
【0057】
本発明の改変HSV-2は、悪性細胞の治療、例えば、それらの広がりの阻害、それらの分裂の減少または阻害、それらの根絶、それらの生成もしくは増殖の予防、またはそれらの組み合わせ等に有用である。該悪性細胞は、任意の形態のがん、例えば、固形腫瘍に由来し得るが、他の形態も治療可能である。本発明の改変HSV-2は、肺、肝臓、前立腺、卵巣、乳房、脳、膵臓、精巣、結腸、頭頸部、黒色腫、及び他の型の悪性腫瘍の治療に有用である。本発明は、疾患の転移段階を含めたがん疾患の任意の段階における悪性細胞の治療に有用である。本発明は、単独の治療法として、または化学療法、手術、もしくは放射線を含めた別の治療手段と併せて使用され得る。
【0058】
改変ICP10ポリヌクレオチド
本発明は、改変ICP10ポリヌクレオチドを有するHSV-2変異体を記載し、該改変ICP10ポリヌクレオチドは、リボヌクレオチドレダクターゼ活性を有するが、プロテインキナーゼ(PK)活性を欠くポリペプチドをコードする。該ICP10ポリヌクレオチドは、機能的PKドメインをコードするために必要な配列の少なくとも一部を削除することによって、または該PKドメインをコードする配列の少なくとも一部を第二のポリヌクレオチドで置換することによって改変され得る。当業者には、突然変異誘発、ポリメラーゼ連鎖反応、相同組み換え、または当業者に既知の任意の他の遺伝子操作技術を含めた任意の適切な方法を、該改変ICP10ポリヌクレオチドを生成するために使用され得ることが認識されよう。
【0059】
突然変異誘発
本発明の特定の実施形態では、HSV-2ウイルスのICP10配列は、様々な標準的な突然変異誘発手順のいずれかを使用して、削除等によって変異する。変異は、ヌクレオチド配列、単一の遺伝子、または遺伝子のブロックの改変を含み得る。変異には、単一のヌクレオチド(DNA配列内の単一のヌクレオチド塩基の除去、付加または置換を含む点突然変異等)が含まれる場合もあれば、多数のヌクレオチドの挿入または欠失が含まれる場合もある。変異は、DNA複製の忠実度のエラー等の事象の結果として自然に発生する場合もあれば、化学的もしくは物理的突然変異原への曝露後に誘発される場合もある。変異はまた、当業者に周知の特定の標的化法を使用することによって部位特異的でもあり得る。
【0060】
遺伝子組み換え
本発明の他の実施形態では、該ICP10ポリヌクレオチドは、該PKドメインをコードする配列の少なくとも一部を削除または置換する遺伝子組み換え技術を使用して改変される。該削除/置換されるPKドメインの領域は、該改変ICP10ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが、リボヌクレオチドレダクターゼ活性を保持し、プロテインキナーゼ活性を欠く限り、任意の適切な領域でよい。ある特定の実施形態では、しかしながら、該PKドメインの改変は、8つのPKの触媒モチーフ(アミノ酸残基106~445であるが、該PK活性は、アミノ酸残基1~445と見なされる場合もある)のうちの1つ以上、及び/または膜貫通(TM)領域、及び/または不変のLys(Lys176)に影響を与える。例示的な野生型ICP10ポリペプチド配列は、配列番号15(National Center for Biotechnology InformationのGenBankデータベースアクセッション番号1813262A)で提供される。ICP10ポリペプチドをコードする例示的な野生型ポリヌクレオチドは、配列番号17で提供される。
【0061】
ある特定の実施形態では、該ICP10ポリヌクレオチドは、PK活性に必要なPKドメインをコードする配列の一部を単に削除することによって改変される。PKドメインをコードする少なくともいくつかの配列を欠く例示的なICP10ポリヌクレオチドは、配列番号18で提供される。別の例示的な実施形態では、ICP10ポリヌクレオチドは、配列番号19で提供されるように、PKドメインが全体として削除されるように改変される。配列番号18及び配列番号19は両方とも、リボヌクレオチドレダクターゼ活性を有するが、プロテインキナーゼ活性を欠くポリペプチドをコードするため、本明細書に記載のHSV-2変異体を生成する際の使用に適している。本発明のある特定の実施形態では、配列番号18または配列番号19に開示される改変ICP10ポリヌクレオチドは、内因性HSV-2プロモーターの制御下にあってもよいし、構成的プロモーター、例えば、配列番号20に記載の前初期サイトメガロウイルスプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。
【0062】
本発明のさらに他の実施形態では、該ICP10ポリヌクレオチドは、該PKドメインをコードする配列の少なくとも一部を、第二のポリヌクレオチド、例えば、緑色蛍光タンパク質で置換することによって改変され、これは、該ICP10ポリヌクレオチドのRRドメインをコードする配列とともにインフレームに配置される。この構築物は、内因性HSV-2プロモーターの制御下にある場合もあれば、構成的プロモーター、例えば、CMVプロモーター(配列番号20)の制御下にある場合もある。
【0063】
本発明の別の態様では、HSV-2における内因性ICP10のプロテインキナーゼ活性ドメインの少なくとも一部を置換するポリヌクレオチドは、少なくとも細胞膜融合誘導ポリペプチドの融合性部分、例えば、ウイルスの融合性膜糖タンパク質(FMG)をコードし得る。該ポリペプチドは、好ましくは、例えば、実質的に中性pH(例えば、pH約6~8)で細胞膜融合を誘導することが可能である。
【0064】
特定の実施形態では、該FMGは、C型レトロウイルスエンベロープタンパク質、例えば、MLV(例として、配列番号6)またはGALV(例として、配列番号5)から少なくとも融合性ドメインを含む。細胞質ドメインの一部、大部分、またはすべてが欠失したレトロウイルスエンベロープタンパク質は、かかる操作がヒト細胞の超融合活性をもたらすために有用である。いくつかの実施形態では、細胞膜融合を誘導する機能を高めるために、特定の改変がウイルス膜糖タンパク質に導入される。例えば、いくつかのレトロウイルス及びヘルペスウイルスの糖タンパク質の細胞質ドメインの切断は、それらの融合活性を高めることが示されており、ビリオンに組み込まれる効率が同時に低下することもある(Rein et al.,(1994)J Virol 68(3):1773-81)。
【0065】
細胞膜融合ポリペプチドのいくつかの例としては、麻疹ウイルス融合タンパク質(配列番号7)、HIV gp160(配列番号8)及びSIV gp160(配列番号9)タンパク質、レトロウイルスEnvタンパク質(配列番号10)、エボラウイルスGp(配列番号11)、ならびにインフルエンザウイルスヘマグルチニン(配列番号12)が挙げられる。
【0066】
他の実施形態では、第二の機能的ポリヌクレオチドが該PKドメインに挿入される場合もあれば、該PKドメインの一部または全部を置換するために使用される場合もある。この第二の機能的ポリヌクレオチドは、免疫調節剤または他の治療薬をコードしてもよい。これらのさらなる薬剤は、細胞表面受容体及びギャップ結合の上方制御、細胞増殖抑制剤及び分化剤に影響を与え、細胞接着を阻害し、またはアポトーシスに対する悪性細胞の感受性を高めることが企図される。免疫調節剤または他の治療薬をコードするポリヌクレオチドの例示的な非限定的な例としては、腫瘍壊死因子、インターフェロン、アルファ、ベータ、ガンマ、インターロイキン-2(IL-2)、IL-12、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、F42K、MIP-1、MIP-1β、MCP-1、RANTES、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HSV-tk)、シトシンデアミナーゼ、及びカスパーゼ-3が挙げられる。
【0067】
本発明のさらに他の実施形態では、該ICP10ポリヌクレオチドは、レポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドの挿入によって改変される。レポータータンパク質をコードする例示的な非限定的なポリヌクレオチドとしては、緑色蛍光タンパク質、高感度緑色蛍光タンパク質、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びHSV-tkが挙げられる。
【0068】
リボヌクレオチドレダクターゼ活性アッセイ
RRの生物活性は、以下の修正を加えて、以前に記載された通りに検出され得る(Averett,et al.,J.Biol.Chem.258:9831-9838(1983)及びSmith et al.,J.Virol.72:9131-9141(1998))。BHK細胞を、最初に完全GMEM(10%FBSを含む)でコンフルエンスまで増殖させ、次に0.5%FBS EMEMで3日間インキュベートし、続いて20pfuの野生型HSV、HSV-2変異体、または模擬感染にて感染させる。感染後20時間で細胞を回収し、500μlのHD緩衝液[100mMのHEPES緩衝液(pH7.6)、2mMのジチオスレイトール(DTT)]に再懸濁し、氷上で15分間インキュベートした後、30秒の超音波処理を行う。遠心分離(16,000g、20分、4℃)により細胞片を除去し、45%飽和の結晶性硫酸アンモニウム(0.258g/ml)で上清を沈殿させる。2回目の遠心分離(16,000g、30分)後、ペレットを100μlのHD緩衝液に溶解し、そこから50μlを取り出し、等量の2倍反応緩衝液(400mMのHEPES緩衝液(pH8.0)、20mMのDTT及び0.02mM[3H]-CDP(24Ci/mmol、Amersham,Chicago,Ill.)と混合する。10mMのEDTA(pH8.0)を含む100mMのヒドロキシウレアを添加し、3分間沸騰させることにより、反応を終了させる。次いで、1mlのCrotalux atrox毒(Sigma,St.Louis,Mo.)を添加し、37℃で30分間インキュベートし、続いてさらに3分間沸騰させる。次いで、その溶液を0.5mlのDowex-1ボレートカラムに通し、サンプルを2mlの水で溶出し、Biofluor(New England Nuclear,Boston,Mass.)と混合した後、シンチレーション計数のために4つの溶出画分に収集する。リボヌクレオチドレダクターゼ活性は、単位/mgタンパク質として表され、1単位は1nmolの[3H]CDPのdCDP/時間/mgタンパク質への変換を表す。
【0069】
プロテインキナーゼ活性アッセイ
改変ICP10ポリヌクレオチドがプロテインキナーゼ活性を欠くポリペプチドをコードするかどうかを判断するために、改変ICP10ポリヌクレオチドを有するHSV-2または野生型HSV-2に感染した細胞(moi=200、感染後16時間)の抽出物を抗LA-1抗体で免疫沈降させ、Chung et al.J.Virol.63:3389-3398,1998及び米国特許第6,013,265号に記載のPKアッセイに供する。一般に、細胞抽出物の免疫沈降物を、BCAタンパク質アッセイキット(PIERCE,Rockford Ill.)を使用して、タンパク質濃度に関して標準化し、20mMのTris-HCL(pH7.4)、0.15MのNaClを含むTS緩衝液で洗浄し、20mMのTris-HCL(pH7.4)、5mMのMgCl2、2mMのMnCl2、10μCiの[32p]ATP(3000Ci/mmol、DuPont,New England Research Prod.)からなる50μlのキナーゼ反応緩衝液に懸濁し、30℃で15分間インキュベートする。これらのビーズを1mlのTS緩衝液で1回洗浄し、100μlの変性溶液に再懸濁し、5分間沸騰させる。次に、タンパク質を7%ポリアクリルアミドゲルのSDS-PAGEで分離する。次いでタンパク質を、以前に記載された通りにニトロセルロース膜上に電気泳動で転写し(Aurelian et.al.,Cancer Cells 7:187-191 1989参照)、特異的抗体、続いてプロテインA-ペルオキシダーゼ(Sigma,St.Louis,Mo.)とともに室温で1時間インキュベートすることにより免疫ブロットする。検出は、ECL試薬(Amersham,Chicago,Ill.)を使用して、Smith et al.,Virol.200:598-612,(1994)に記載の通りに行うことができる。
【0070】
ベクターの構築
本発明は、改変ICP10ポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質が、リボヌクレオチドレダクターゼ活性を有するが、プロテインキナーゼ活性を欠くように、ICP10配列の少なくとも一部の置換または欠失を含み、特定の実施形態では、さらに、調節配列、例えば、構成的プロモーターを含む、HSV-2ベクターを対象とする。いくつかの実施形態では、該組成物は、該改変ICP10遺伝子を含む裸の(非ウイルス)DNAベクターであり、他の実施形態では、該組成物は、該改変ICP10遺伝子を有する組み換えHSV-2である。該裸のDNAベクター及び該組み換えウイルスの両方は、以下の構成要素のいくつかまたはすべてからさらに構成され得る。
【0071】
ベクター
上記で定義されるベクターとしては、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、及び植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えば、YAC)が挙げられるがこれらに限定されない。操作されたウイルス及びDNAベクターの構築のための方法は、当技術分野で既知である。一般に、これらとしては、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、及びそこに引用されている参考文献が挙げられる。ウイルス学的考察は、Coen D.M,Molecular Genetics of Animal Virus in Virology,2.sup.nd Edition,B.N.Fields(editor),Raven Press,NY(1990)及びそこに引用されている参考文献にも概説されている。
【0072】
発現ベクターは、特定の宿主細胞において作動可能に連結されたコード配列の転写及び恐らくは翻訳に必要な核酸配列を指すものである様々な「制御配列」を含み得る。転写及び翻訳を支配する制御配列に加えて、DNAベクター、発現ベクター、及びウイルスは、他の機能も果たす以下に記載する核酸配列を含み得る。
【0073】
1.プロモーター及びエンハンサー
プロモーターは、一般に、RNA合成の開始部位の位置決めをするように機能する配列を含む。これの最もよく知られている例はTATAボックスであるが、TATAボックスを欠いている一部のプロモーター(例えば、哺乳類のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーター及びSV40後期遺伝子のプロモーター)では、開始部位に重なる個別の要素自体が開始場所の決定に役立つ。さらなるプロモーター要素が、転写開始の頻度を調節する。通常、これらは開始部位の30~110bp上流の領域に位置するが、いくつかのプロモーターは、開始部位の下流にも機能要素を含むことが分かっている。コード配列をプロモーターの「制御下」に置くために、転写リーディングフレームの転写開始部位の5’末端を、選択したプロモーターの「下流」(すなわち、3’)に配置する。この「上流」のプロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされたRNAの発現を促進する。
【0074】
プロモーター要素間の間隔は柔軟であることが多いため、要素が互いに反転または移動してもプロモーター機能は保持される。tkプロモーターでは、活性が低下し始める前に、プロモーター要素間の間隔を50bpまで広げることができる。プロモーターによって、転写を活性化するために個々の要素が協調的に機能する場合もあれば、独立して機能する場合もあると思われる。プロモーターは、エンハンサーと併せて使用してもしなくてもよい。
【0075】
プロモーターは、コードセグメント及び/またはエクソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することによって得られる場合があるように、核酸配列と天然に関連するものであり得る。同様に、エンハンサーは、その配列の下流または上流のいずれかに位置する核酸配列と天然に関連するものであり得る。代替的に、該コード核酸セグメントを、その自然環境では核酸配列と通常は関連しないプロモーターを指す組み換えプロモーターまたは異種プロモーターの制御下に配置することによって、ある特定の利益が得られる。組み換えまたは異種エンハンサーは、その自然環境では核酸配列と通常は関連しないエンハンサーを指す。かかるプロモーターまたはエンハンサーとしては、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、及び任意の他のウイルス、または原核もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、及び「天然に存在する」ものではない、すなわち、異なる転写調節領域の異なる要素、及び/または発現を変化させる変異を含むプロモーターまたはエンハンサーを挙げてもよい。例えば、組み換えDNA構築で最も一般的に使用されるプロモーターとしては、βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトース、及びトリプトファン(trp)のプロモーター系が挙げられる。プロモーター及びエンハンサーの核酸配列を合成的に生成することに加えて、配列は、本明細書に開示する組成物と関連して、PCRを含めた組み換えクローニング及び/または核酸増幅技術を使用して生成され得る(米国特許第4,683,202号及び第5,928,906号参照)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体等の非核オルガネラ内の配列の転写及び/または発現を指示する制御配列も同様に使用され得ることが企図される。
【0076】
当然のことながら、発現のために選択されたオルガネラ、細胞型、組織、器官、または生物において、DNAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーター及び/またはエンハンサーを使用することが重要である。使用されるプロモーターは、構成的、組織特異的、誘導プロモーターでよく、及び/または組み換えタンパク質及び/またはペプチドの大規模生産において有利であるように、導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指示する適切な条件下で有用であり得る。該プロモーターは、異種でも内因性でもよい。
【0077】
さらに、発現を駆動するために任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせを使用してもよい。T3、T7またはSP6細胞質発現系の使用は、別の可能な実施形態である。真核細胞は、送達複合体の一部として、または追加の遺伝子発現構築物としてのいずれかで、適切な細菌ポリメラーゼが提供された場合、ある特定の細菌プロモーターからの細胞質転写を支援することができる。
【0078】
組織特異的プロモーターまたは要素の同一性、及びそれらの活性を特徴付けるアッセイは、当業者に周知である。かかる領域の非限定的な例としては、ヒトLIMK2遺伝子(Nomoto et al.(1999)Gene 236(2):259-271)、ソマトスタチン受容体-2遺伝子(Kraus et al.,(1998)FEBS Lett.428(3):165-170)、マウス精巣上体レチノイン酸結合遺伝子(Lareyre et al.,(1999)J.Biol.Chem.274(12):8282-8290)、ヒトCD4(Zhao-Emonet et al.,(1998)Biochem.Biophys.Acta,1442(2-3):109-119)、マウスα-2(XI)コラーゲン(Tsumaki,et al.,(1998),J.Biol.Chem.273(36):22861-4)D1Aドーパミン受容体遺伝子(Lee,et al.,(1997),DNA Cell Biol.16(11):1267-1275)インスリン様成長因子II(Vu et al.,(1997)Biophys Biochem Res.Comm.233(1):221-226)及びヒト血小板内皮細胞接着分子-1(Almendro et al.,(1996)J.Immunol.157(12):5411-5421)が挙げられる。
【0079】
2.開始シグナル及び配列内リボソーム結合部位
コード配列の効率的な翻訳には、特異的な開始シグナルも必要となる場合がある。これらのシグナルとしては、ATG開始コドンまたは隣接配列が挙げられる。ATG開始コドンを含めた外因性の翻訳制御シグナルの提供が必要なこともある。当業者には、これを判断すること及び必要なシグナルを提供することが容易にできるであろう。挿入物全体の翻訳を確実にするために、開始コドンが、所望のコード配列のリーディングフレームと「インフレーム」でなければならないことは周知である。該外因性の翻訳制御シグナル及び開始コドンは、天然でも合成でもよい。発現の効率は、適切な転写エンハンサー要素を含めることによって向上され得る。
【0080】
本発明のある特定の実施形態では、配列内リボソーム進入部位(IRES)要素の使用を用いて、多重遺伝子または多シストロン性の伝令を作成する。IRES要素は、5’メチル化キャップ依存性の翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、配列内部位で翻訳を開始することができる。IRES要素は、異種のオープンリーディングフレームに連結することができる。複数のオープンリーディングフレームをまとめて転写することができ、各々がIRESで区切られ、多シストロン性の伝令が作成される。IRES要素によって、各オープンリーディングフレームは効率的な翻訳のためにリボソームにアクセスすることができる。複数の遺伝子が、単一のプロモーター/エンハンサーを使用して効率的に発現され、単一の伝令を転写することができる(米国特許第5,925,565号及び第5,935,819号参照)。
【0081】
3.終結シグナル
本発明のベクターまたは構築物は、一般に、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写物の特異的な終結に関与するDNA配列から構成される。したがって、ある特定の実施形態では、RNA転写物の産生を終了させる終結シグナルが企図される。ターミネーターは、インビボで望ましい伝令レベルを達成するために必要であり得る。
【0082】
真核生物系では、ターミネーター領域は、ポリアデニル化部位を露出させるために、新たな転写物の部位特異的切断を可能にする特定のDNA配列も含み得る。これは、転写物の3’末端に約200個のA残基(ポリA)のストレッチを追加するように特殊な内因性ポリメラーゼにシグナル伝達する。このポリAテールで改変されたRNA分子は、より安定していると思われ、より効率的に翻訳される。したがって、真核生物が関与する他の実施形態では、該ターミネーターがRNAの切断のためのシグナルを含み、該ターミネーターのシグナルが、該伝令のポリアデニル化を促進することが企図される。該ターミネーター及び/またはポリアデニル化部位の要素は、伝令レベルを高め、該カセットから他の配列へのリードスルーを最小限に抑えるのに役立ち得る。
【0083】
本発明での使用が企図されるターミネーターとしては、本明細書に記載の、または当業者に知られる任意の既知の転写ターミネーターが挙げられ、例えば、遺伝子の終結配列、例えば、ウシ成長ホルモンターミネーターまたはウイルスの終結配列、例えばSV40ターミネーター等が挙げられるがこれらに限定されない。ある特定の実施形態では、該終結シグナルは、例えば、配列切断による、転写可能または翻訳可能配列の欠如であり得る。
【0084】
4.ポリアデニル化シグナル
発現、特に真核生物発現では、通常はポリアデニル化シグナルを含めることにより、転写物の適切なポリアデニル化を行う。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明の実施を成功させるために極めて重要であるとは考えられておらず、任意のかかる配列が使用され得る。好ましい実施形態としては、SV40のポリアデニル化シグナルまたはウシ成長ホルモンのポリアデニル化シグナルが挙げられ、これらは両方とも使いやすく、様々な標的細胞において良好に機能することが知られている。ポリアデニル化は、転写物の安定性を高める場合もあれば、細胞質輸送を促進する場合もある。
【0085】
5.選択及びスクリーニングが可能なマーカー
本発明のある特定の実施形態では、本発明の核酸構築物を含む細胞は、発現ベクターにマーカーを含めることによって、インビトロまたはインビボで同定され得る。かかるマーカーは、当該発現ベクターを含む細胞の識別を容易にする識別可能な変化を細胞に与える。一般に、選択マーカーとは、選択を可能にする特性を与えるものである。正の選択なマーカーとは、マーカーの存在がその選択を可能にするものであり、負の選択マーカーとは、その存在がその選択を妨げるものである。正の選択マーカーの例は、薬剤耐性マーカーである。
【0086】
通常、薬剤選択マーカーを含めると、形質転換体のクローニング及び同定に役立つ。例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、及びヒスチジノール耐性を付与する遺伝子は、有用な選択マーカーである。条件の実施に基づいて形質転換体の識別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、比色分析に基づくGFP等のスクリーニングが可能なマーカーを含む他のタイプのマーカーもまた企図される。代替的に、スクリーニングが可能な酵素、例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)が使用され得る。当業者にはまた、恐らくは蛍光活性化細胞分類(FACS)分析と併せて、免疫学的マーカーを使用する方法が既知であろう。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現することが可能な限り、重要であるとは考えられていない。選択及びスクリーニングが可能なマーカーのさらなる例は、当業者に周知である。
【0087】
該ベクターは、適切な方法によって最初に感染した細胞に導入される。本発明で使用するためのオルガネラ、細胞、組織または生物の形質転換用の核酸送達のためのかかる方法は、本明細書に記載のまたは当業者に既知の、核酸(例えば、HSVベクター)をオルガネラ、細胞、組織または生物に導入することができる事実上任意の方法を含むと考えられる。非限定的な例示的方法としては:エキソビボトランスフェクションによるDNAの直接送達、注射(米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号、及び第5,580,859号)、マイクロインジェクション(米国特許第5,789,215号)、エレクトロポレーション(米国特許第5,384,253号)、リン酸カルシウム沈殿、DEAEデキストランに続いてポリエチレングリコール、直接超音波負荷、リポソーム介在性トランスフェクション、受容体介在性トランスフェクション、微粒子銃(PCT出願第WO94/09699号及び第95/06128号、米国特許第5,610,042号、第5,322,783号、第5,563,055号、第5,550,318号、第5,538,877号、及び第5,538,880号)、炭化ケイ素繊維による攪拌(米国特許第5,302,523号及び第5,464,765号)、Agrobacterium介在性形質転換(米国特許第5,591,616号及び第5,563,055号)、プロトプラストのPEG介在性形質転換(米国特許第4,684,611号及び第4,952,500号)、乾燥/阻害介在性DNA取り込み、ならびにこれらの方法の任意の組み合わせ、または当業者に既知の他の方法が挙げられる。該組成物はまた、医薬的に許容される賦形剤中で、それを全身的に、例えば、静脈内に投与することによって哺乳類の細胞に送達され得る。
【0088】
細胞へのDNAベクターの送達方法
1.エキソビボ形質変換
エキソビボの設定で生物から取り出された細胞及び組織をトランスフェクトする方法は、当業者に既知である。したがって、本発明では、細胞または組織を取り出し、本明細書に記載の核酸及び組成物を使用してエキソビボでトランスフェクトしてもよいことが企図される。特定の態様では、移植された細胞または組織は、生物に配され得る。いくつかの実施形態では、核酸は、移植された細胞または組織で発現される。
【0089】
2.注射
ある特定の実施形態では、核酸は、オルガネラ、細胞、組織または生物に、1回以上の注射(すなわち、針注射)、例えば、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、腹腔内等を介して送達され得る。注射の方法は、当業者に周知である(例えば、生理食塩水を含む組成物の注射)。本発明のさらなる実施形態としては、直接マイクロインジェクションによる核酸の導入が挙げられる。使用される本発明の組成物の量は、患側の細胞、組織または生物の性質に応じて変化し得る。
【0090】
3.エレクトロポレーション
本発明のある特定の実施形態では、核酸は、オルガネラ、細胞、組織または生物に、エレクトロポレーションを介して導入される。エレクトロポレーションは、細胞及びDNAの懸濁液を高電圧放電にさらすことを含む。この方法のいくつかの異形では、ある特定の細胞壁分解酵素、例えば、ペクチン分解酵素を使用し、標的レシピエント細胞が、未処理の細胞よりエレクトロポレーションによる形質転換の影響を受けやすくする(米国特許第5,384,253号)。別の方法として、レシピエント細胞を、機械的損傷によって形質転換を受けやすくすることができる。
【0091】
4.リポソーム介在性トランスフェクション
本発明のさらなる実施形態では、本明細書に記載の組成物、例えば、改変ICP10ポリヌクレオチドを有するベクターは、脂質複合体、例えば、リポソーム等に取り込まれ得る。リポソームは、リン脂質二重層膜及び内部の水性媒体を特徴とする小胞構造である。多層リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。それらは、リン脂質が過剰の水溶液に懸濁された際に自然に生じる。該脂質成分は、自己再編成を経て閉じた構造を形成し、その脂質二重層間に水及び溶解溶質を取り込む。同様に企図されるのは、リポフェクタミン(Gibco BRL)またはSuperfect(Qiagen)と複合体を形成した核酸である。
【0092】
本発明のある特定の実施形態では、リポソームは、血球凝集ウイルス(HVJ)と複合体を形成し得る。これは、細胞膜との融合を促進し、リポソーム封入DNAの細胞移入を促進することが分かっている(Kaneda et al.,(1989)Science 20;243(4889):375-8)。他の実施形態では、リポソームは、核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG1)と複合体化または併用され得る(Kato et al.,(1991)J Biol Chem.(1991)February 25;266(6):3361-4)。さらなる実施形態では、リポソームは、HVJ及びHMG1の両方と複合体化または併用され得る。他の実施形態では、送達媒体は、リガンド及びリポソームを含み得る。
【0093】
5.受容体介在性トランスフェクション
核酸は、受容体介在性送達媒体を介して標的細胞に送達され得る。このアプローチは、受容体介在性エンドサイトーシスによる高分子の選択的取り込みを利用する。様々な受容体の細胞型特異的分布を考慮して、この送達方法は、本発明に別の程度の特異性を加える。
【0094】
ある特定の実施形態では、該受容体介在性遺伝子標的化媒体は、受容体特異的リガンド及び核酸結合剤を含む。他の実施形態は、送達される核酸が作動可能に結合された受容体特異的リガンドを含む。いくつかのリガンドが、欧州特許第EPO 0 273 085に記載されているように、扁平上皮癌細胞に遺伝子を送達するために使用されている上皮成長因子(EGF)を含めた受容体介在性遺伝子導入に使用されている。
【0095】
他の実施形態では、細胞特異的核酸標的化媒体の核酸送達媒体成分は、リポソームと組み合わせて特異的結合リガンドを含み得る。送達される核酸(複数可)は、リポソーム内に収容され、該特異的結合リガンドは機能的にリポソーム膜に組み込まれる。したがって、リポソームは、標的細胞の受容体(複数可)に特異的に結合し、内容物を細胞に送達する。
【0096】
さらなる実施形態では、標的化送達媒体の核酸送達媒体成分は、リポソーム自体であってもよく、これは、好ましくは、細胞特異的結合を指示する1つ以上の脂質または糖タンパク質を含む。例えば、ガラクトース末端アシアロガングリオシドであるラクトシルセラミドがリポソームに取り込まれ、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加が観察された(Nicolau et al.,(1987)Methods Enzymol.149:157-76)。本発明の組織特異的形質転換構築物は、同様の方法で標的細胞に特異的に送達され得ることが企図される。
【0097】
6.微粒子銃
微粒子銃技術を使用して、核酸を、少なくとも1つのオルガネラ、細胞、組織または生物に導入することができる(米国特許第5,550,318号、米国特許第5,538,880号、米国特許第5,610,042号、及びPCT出願第WO94/09699号)。この方法は、DNAでコーティングされた、またはDNAを含む微小発射体を高速に加速して、細胞膜を突き破り、細胞を殺傷することなく細胞に進入できるようにする能力による。該微小発射体は、タングステン、白金、または金等の任意の生物学的に不活性な物質から構成され得る。砲撃に関しては、懸濁液に含まれる細胞をフィルターまたは固体培地で濃縮する。別の方法として、未熟胚または他の標的細胞を固体培地に配置してもよい。砲撃される細胞は、停止プレート上で、微粒子銃装置の下の適切な距離に配置される。本発明の実施に有用な多種多様な微粒子銃技術は、当業者には既知であろう。
【0098】
宿主細胞
本明細書で使用される、「細胞」、「細胞株」、及び「細胞培養物」という用語は、同義で使用され得る。これらの用語のすべては、ありとあらゆるその後の世代であるそれらの後代も含む。すべての後代が、意図的なまたは想定外の変異に起因して、同一でなくてもよいことが理解される。異種核酸配列を発現するという観点から、「宿主細胞」は、原核細胞または真核細胞を指し、それは、ベクターを複製すること、及び/またはベクターによってコードされる異種遺伝子を発現することが可能な任意の形質転換可能な生物を含む。宿主細胞は、ベクターのレシピエントとして使用することができ、使用されている。宿主細胞は、「トランスフェクトされる」または「形質転換される」場合があり、これは、外因性核酸が該宿主細胞に移入または導入されるプロセスを指す。形質転換細胞には、初代対象細胞及びその後代が含まれる。本明細書で使用される、「操作された」及び「組み換え」細胞または宿主細胞という用語は、外因性核酸配列、例えば、ベクターが導入された細胞を指すことを意図している。したがって、組み換え細胞は、組み換えにより導入された核酸を含まない天然に存在する細胞と区別可能である。
【0099】
組織は、細胞膜融合生成HSV-2変異体で形質転換される宿主細胞または細胞を含み得る。該組織は、生物の一部であってもよいし、生物から分離されていてもよい。ある特定の実施形態では、組織は、脂肪細胞、肺胞、エナメル芽細胞、神経細胞、基底細胞、血液(例えば、リンパ球)、血管、骨、骨髄、グリア細胞、乳房、軟骨、頸部、結腸、角膜、胚、子宮内膜、内皮、上皮、食道、筋膜、線維芽細胞、濾胞、神経節細胞、グリア細胞、杯細胞、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、筋肉、ニューロン、卵巣、膵臓、末梢血、前立腺、皮膚、小腸、脾臓、幹細胞、胃、精巣、及びそれらのすべてのがんを含み得るが、これらに限定されない。
【0100】
ある特定の実施形態では、該宿主細胞または組織は、少なくとも1つの生物に含まれ得る。ある特定の実施形態では、該生物は、当業者には理解されるように、原核生物(例えば、真正細菌、古細菌)または真核生物であり得るが、これらに限定されない。
【0101】
多数の細胞株及び培養物が宿主細胞として利用可能であり、American Type Culture Collection(ATCC)等の組織を通じて市販されている。適切な宿主は、ベクター骨格及び所望の結果に基づいて、当業者によって特定され得る。ベクター複製及び/または発現に利用可能な例示的な非限定的な細胞型としては、細菌、例えば、E.coli(例えば、E.coli株RR1、LE392、B、X 1776(ATCC番号31537)、W3110、F、ラムダ、DH5α、JM109、及びKC8)、桿菌、例えば、Bacillus subtilis、他の腸内細菌、例えば、Salmonella typhimurium、Serratia marcescens、ならびにいくつかの市販の細菌宿主及びコンピテント細胞、例えば、SURE(登録商標)コンピテント細胞及びSOLOPACK(商標)Gold Cells(STRATAGENE(登録商標),La Jolla,Calif.)が挙げられる。ベクターの複製及び/または発現のための真核宿主細胞の非限定的な例としては、HeLa、NIH3T3、Jurkat、293、Cos、CHO、Saos、及びPC12が挙げられる。
【0102】
一部のベクターは、原核細胞と真核細胞の両方で複製及び/または発現することができるようにする制御配列を使用する場合がある。当業者には、さらに、上記の宿主細胞のすべてをインキュベートしてそれらを維持し、ベクターの複製を可能にする条件が理解されよう。同様に理解され及び知られているのは、ベクターの大規模な生産、ならびにベクターによってコードされる核酸及びそれらの同族ポリペプチド、タンパク質、またはペプチドの生産を可能にする技術及び条件である。
【0103】
ウイルスベクターのパッケージング及び増殖
1.ウイルスパッケージング
本発明の特定の実施形態では、ICP10遺伝子は、改変された後、相同組み換えによってウイルスに挿入される。通常、これは、リポフェクタミンを使用して、改変ICP10遺伝子を含むプラスミドDNAと精製されたHSV-2ゲノムDNAをVero細胞に共トランスフェクトすることによって行われる。次いで、その組み換えウイルスを同定し(通常は、選択マーカーの存在についてウイルスプラークをスクリーニングすることによって)、改変ICP10ポリヌクレオチドを含むプラークを選択する。次に、選択された組み換えウイルスをインビトロで特性評価して、改変ICP10遺伝子がHSV-2ゲノムに正しく挿入され、元のICP10遺伝子が置換されていることを確認する。
【0104】
2.ウイルスストックの調製
組み換えHSV-2変異ウイルスが選択された後、ウイルスストックを次の通りに調製することができる。ベロ細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)中で増殖させ、細胞あたり0.01プラーク形成単位(pfu)で感染させる。次いで、2日後に、凍結及び解凍ならびに超音波処理を繰り返すことにより、ウイルスを細胞から採取する。次いで、採取したウイルスを、記載の通りに精製する(Nakamori,et al.,(2003)Clinical Cancer Res.9(7):2727-2733)。その後、精製されたウイルスを力価測定し、アリコートに分け、使用するまで-80℃で保存する。
【0105】
タンパク質発現系
タンパク質発現系は、例えば、機能試験のため、改変ICP10ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを発現させるために、本発明のDNAベクター組成物の生成において使用され得る。上記の組成物の少なくとも一部または全部を含む多数の発現系が存在する。原核生物及び/または真核生物ベースの系を本発明で使用して、核酸配列、またはそれらの同族ポリペプチド、タンパク質及びペプチドを生成することができる。かかる系の多くは、市販されており、広く利用されている。
【0106】
昆虫細胞/バキュロウイルス系は、例えば、米国特許第5,871,986号及び第4,879,236号に記載されている異種核酸セグメントの高レベルのタンパク質発現を生じさせることができ、商業的に入手可能である(例えば、CLONTECH,Inc.Mountain View,Calif.)。
【0107】
市販の発現系の他の例としては、合成エクジソン誘導性受容体を含む誘導性哺乳類発現系、またはpET発現系、またはE.coli発現系(STRATAGENE,LaJolla,Calif.)、テトラサイクリン調節発現系、完全長CMVプロモーターを使用する誘導性哺乳類発現系、またはメチロトローフ酵母Pichia methanolica(INVITROGEN,Carlsbad,Calif.)における組み換えタンパク質の高レベル産生用に設計された酵母発現系が挙げられる。
【0108】
本発明の方法によって産生されるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは、「過剰発現」、すなわち、細胞におけるその天然の発現と比較して高いレベルで発現され得ることが企図される。かかる過剰発現は、放射標識及び/またはタンパク質精製を含めた様々な方法によって評価され得る。しかしながら、簡単で直接的な方法、例えば、SDS/PAGE及びタンパク質染色またはウェスタンブロッティングに続いて、得られたゲルまたはブロットの比重走査等の定量分析を含むものが好ましい。天然細胞におけるレベルと比較した組み換えタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドのレベルの特定の増加は、宿主細胞によって産生される他のタンパク質に関する特定のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの、例えば、ゲル上で見ることができる相対的存在量と同様に、過剰発現を示している。
【0109】
HSV-2変異体の機能的役割
本明細書に記載のHSV-2変異体は、腫瘍溶解剤として複数の機能的役割を示す。例えば、該ウイルスは、溶解によって、ならびに感染細胞とバイスタンダー細胞の両方における合胞体形成及びアポトーシスの誘導によって腫瘍細胞を破壊することができる。さらに、HSV-2変異体による腫瘍破壊は、悪性疾患の治療のための腫瘍溶解剤としての変異ウイルスの治療効果にさらに寄与する強力な抗腫瘍免疫応答を誘導する。
【0110】
HSV-2変異ウイルスは、循環(cycling)細胞では選択的複製を示すが、非循環(non-cycling)細胞では示さない。プロテインキナーゼ活性を欠く変異体HSV-2は、循環細胞における増殖と比較して、非循環細胞における増殖が少なくとも40倍の減少を示す。対照的に、野生型HSV-2は、循環細胞と非循環細胞の間の増殖特性にわずかな影響があるのみである。したがって、本明細書に記載のHSV-2変異体は、腫瘍細胞等の活性化Ras経路を有する循環細胞における腫瘍溶解剤としての使用に適している。
【0111】
溶解及び融合活性に加えて、HSV-2変異体は、強力なアポトーシス誘導活性も有し、強力な抗腫瘍免疫応答を誘導することが可能である。インビトロ設定では、該HSV-2変異体は、ウイルスに感染した細胞だけでなく、感染した細胞を取り囲む感染していないバイスタンダー細胞にもアポトーシスを誘導することができる。さらに、HSV-2変異体は、インビボで腫瘍細胞のアポトーシスを誘導するのに効果的である。本明細書に記載の組成物は、他の腫瘍溶解性ウイルスよりも腫瘍細胞を殺傷するのに効果的であるだけでなく、該HSV-2変異体は、強力な抗腫瘍免疫応答の誘導により、インビボで原発性及び転移性腫瘍に対して強力な治療効果を示す。FusOn-H2処理マウスから養子移入されたCTLは、元の腫瘍の増殖を阻害し、転移の発生を効果的に予防することができる。
【0112】
アポトーシス、またはプログラム細胞死は、正常な胚発生、成体組織の恒常性の維持、及び発がん抑制に不可欠なプロセスである。本発明のいくつかの実施形態では、該改変HSV-2は、ウイルスが感染した腫瘍細胞及び感染していないバイスタンダー腫瘍細胞におけるアポトーシスの強力な誘導因子である。例えば、特定の実施形態では、ICP10遺伝子のプロテインキナーゼドメインの一部が緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子で置換されたHSV-2構築物で腫瘍細胞を感染させた。感染細胞は、GFPを可視化することによって蛍光顕微鏡下で識別することができ、アポトーシスを受けている細胞は、クロマチン凝縮を証拠として識別した。クロマチン凝縮を示す細胞のGFP発現に対する比は2.6:1であり、改変されたHSV-2が感染していないかなりの数の腫瘍細胞がアポトーシスを起こしていることが示唆された。
【0113】
強力な抗腫瘍免疫応答は、悪性疾患の治療に有用である。本明細書に記載のHSV-2変異体は、インビボで原発性及び転移性腫瘍に対する強力な抗腫瘍免疫応答を誘導することが可能である。特定の実施形態では、該変異体HSV-2(FusOn-H2)は、4T1マウス乳腺腫瘍細胞株を使用して、マウス乳腺腫瘍モデルにおいて選択的に複製され、腫瘍細胞を溶解し、強力な抗腫瘍免疫応答の誘導によってインビボで原発性及び転移性腫瘍に対して強力な治療効果を示した。具体的には、FusOn-H2処理マウスから養子移入された細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、FusOn-H2で処理されていないマウスにおいて元の腫瘍の増殖を阻害し、転移を効果的に防ぐことができる。
【0114】
医薬組成物及び投与経路
本発明の組成物は、本明細書に記載の通り、改変ICP10遺伝子を有する組み換えHSV-2変異体、または改変ICP10遺伝子を有する裸の(非ウイルス)DNAベクターのいずれかを含む医薬組成物として投与され得る。本発明の組成物は、標準的な医薬製剤を含む。一般に、本発明の組成物は、該組成物を医薬的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散させることにより、薬理作用のある物質として投与され得る。医薬活性物質用のかかる媒体及び作用物質の使用は、当技術分野では周知である。任意の従来の媒体または作用物質が本発明の組成物と不適合である場合を除き、治療用組成物においてその使用が企図される。補助的な活性成分、例えば、他の抗疾患剤もまた、該医薬組成物に組み込まれ得る。該組成物の投与は、標的細胞がその経路を介して利用可能である限り、任意の一般的な経路を通る。例示的な投与経路としては、経口、経鼻、口腔、直腸、膣または局所が挙げられる。代替的に、投与は、同所性、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、または直接腫瘍内注射によるものであってもよい。本発明の組成物の製剤処方、用量及び投与経路は、以下に記載される。
【0115】
HSV-2変異体の製剤処方
本発明の変異体ウイルス組成物は、薬理学的に許容される製剤として調製され得る。通常、該変異体ウイルスは、医薬的に許容されかつ該ウイルスと適合する賦形剤と混合される。適切な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等、及びそれらの組み合わせである。さらに、必要に応じて、該調製物は、該ウイルス変異体の有効性を高める補助物質、例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、アジュバントまたは免疫増強物質を少量含んでもよい(Remington’s Pharmaceutical Sciences,Gennaro,A.R.et al.,eds.,Mack Publishing Co.,pub.,18th ed.,1990参照)。例えば、注射目的の典型的な医薬的に許容される担体は、リン酸緩衝生理食塩水1ミリリットルあたり50mgから約100mgまでのヒト血清アルブミンを含み得る。薬理学的に許容される組成物の製剤に使用するのに適したさらなる非限定的な例示的な非水性溶媒としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、ゴマ油、落花生油及び注射用有機エステル、例えば、オレイン酸エチルが挙げられる。例示的な非限定的な水性担体としては、水、水溶液、生理食塩水、非経口媒体、例えば、塩化ナトリウム、リンガーデキストロース等が挙げられる。静脈内媒体としては、液体及び栄養補給剤が挙げられる。該医薬組成物の様々な成分のpH及び正確な濃度の決定は、日常的であり、当業者が備える知識の範囲内である(Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis for Therapeutics,Gilman,A.G.et al.,eds.,Pergamon Press,pub.,8th ed.,1990参照)。
【0116】
無菌注射液は、該活性化合物の必要量を、適切な溶媒に、必要に応じて上記の様々な他の無菌成分とともに組み込むことによって調製される。一般に、分散体は、該様々な無菌の活性成分を、上記の基本的な分散媒及び必要な他の成分を含む無菌の媒体に組み込むことによって調製される。
【0117】
HSV-2変異体の投与経路及び用量
該変異体ウイルス組成物は、標的組織へのアクセスを提供する任意の経路によって送達され得る。例示的な非限定的な投与経路としては、経口、経鼻、口腔、直腸、膣、局所、または注射によるもの(同所性、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、または直接腫瘍内注射を含む)を挙げてもよい。通常、該ウイルス変異体は、注射物質として、溶液または懸濁液のいずれかとして調製され、注射前に液体に溶解または懸濁するのに適した固体形態もまた調製され得る。該調製物は、乳化されてもよい。
【0118】
水溶液での非経口投与の場合、例えば、該溶液を必要に応じて適切に緩衝化する必要があり、最初に十分な生理食塩水またはグルコースで液体希釈剤を等張にする必要がある。これらの特定の水溶液は、特に、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に適切である。これに関して、使用され得る無菌水性媒体は、本開示に照らせば、当業者には既知であろう。例えば、1用量を1mlの等張NaCl溶液に溶解し、1000mlの皮下注射液に加えるか、予定注入部位に注射することができる(例えば、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”15th Edition,pages 1035-1038 and 1570-1580参照)。用量については、治療がなされる対象の状態に応じて、いくらかの変動が必然的に生じる。いずれにしても、投与を担当する者が個々の対象に適切な用量を決定する。
【0119】
当業者には、治療法を提供するために本発明の組成物を使用するための最良の治療計画が直接決定され得ることが認識されよう。これは実験の問題ではなく、医療分野で日常的に行われている最適化の問題である。例えば、マウスでのインビボ試験は、用量と送達体制の最適化を開始する出発点を提供する。注射の頻度は、最初は週1回でよい。しかしながら、この頻度は、最初の臨床試験から得られた結果と特定の患者のニーズに応じて、1日から2週間ごと~毎月まで、最適に調整される場合がある。ヒトの投与量は、最初にマウスで使用した組成物の量から外挿することによって決定することができる。
【0120】
用量
送達されるウイルスベクターの量は、治療の回数、治療を受ける対象、抗ウイルス抗体を合成する対象の免疫系の能力、破壊される標的組織、及び望ましい保護の程度を含めたいくつかの要因に依存する。投与されるウイルス組成物の正確な量は、医師の判断に依存し、各個体に固有のものである。しかしながら、適切な用量は、105プラーク形成単位(pfu)~1010pfuに及ぶ。ある特定の実施形態では、ウイルスDNAの用量は、約105、106、107、108、109、1010pfuを含むそれ以下であり得る。
【0121】
非ウイルスDNAベクター製剤
ウイルス製剤処方のための上記製剤に加えて、非ウイルスDNAベクターもまた、薬理学的に許容される無菌溶液の調製用の無菌粉末として調製され得る。代表的な無菌粉末の調製方法としては、真空乾燥及び凍結乾燥技術が挙げられ、これにより、活性成分と任意のさらなる所望の成分の粉末が、予め滅菌濾過したその溶液から得られる。
【0122】
非ウイルスDNAベクターの投与経路及び用量
哺乳類細胞への本発明のポリヌクレオチドの移入のための非ウイルスベクターの送達のためのいくつかの方法が企図される。これらとしては、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、直接マイクロインジェクション、DNA担持リポソーム及びリポフェクタミン-DNA複合体、細胞超音波処理、高速微小発射体を使用した遺伝子銃、ならびに前述の受容体介在性トランスフェクションが挙げられる。これらの技術のいくつかは、インビボまたはエキソビボでの使用に良好に適応し得る。
【0123】
本発明のいくつかの実施形態では、該発現ベクターは、該ポリヌクレオチドを含む裸の組み換えDNAまたはプラスミドから単純に構成され得る。該構築物の移入は、細胞膜を物理的または化学的に透過化する、本明細書に記載の方法のいずれかによって行われ得る。これは、特にインビトロでの移入に適用可能であるが、インビボでの使用に適用してもよい。
【0124】
他の実施形態では、該送達媒体は、リガンド及びリポソームを含み得る。例えば、Nicolau et al.は、リポソームに取り込まれるガラクトース末端アシアロガングリオシドであるラクトシルセラミドを使用し、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加を観察した(Nicolau et al.,(1987)Methods Enzymol.149:157-76)。したがって、特定の遺伝子をコードする核酸は、リポソームの有無にかかわらず、いくつもの受容体-リガンド系によって同様に細胞型に特異的に送達され得る可能性がある。例えば、上皮成長因子(EGF)を、EGF受容体の上方制御を示す細胞への核酸の介在性送達のための受容体として使用してもよく(欧州特許第EP 0 273 085号に記載の通り)、マンノースを、肝臓細胞のマンノース受容体を標的とするために使用することができる。
【0125】
ある特定の実施形態では、DNA移入は、エキソビボ条件下でより容易に行われ得る。エキソビボ遺伝子治療とは、動物からの細胞の単離、インビトロで細胞への核酸の送達、及びその後改変された細胞を動物へ戻すことを指す。これは、動物からの組織/器官の外科的切除または細胞及び組織の初代培養を含み得る。
【0126】
用量
ある特定の実施形態では、該用量は、約103pfu/kg体重~約108pfu/kg体重の間で変動し得ることが想定される。ある特定の実施形態では、該用量は、約103、104、105、106、107、108pfu/kg体重を含むそれ以下であり得る。当然ながら、この投与量は、かかる治療プロトコルにおいて日常的に行われているように、最初の臨床試験の結果及び特定の患者のニーズに応じて、上方または下方に調節され得る。
【0127】
併用治療
本発明の方法及び組成物の有効性を高めるために、本明細書に開示する方法及び組成物を他の抗がん剤と組み合わせることが望ましい場合がある。このプロセスは、がん細胞を、少なくとも1つの他の抗がん剤と併せて本発明の組成物と接触させることを含み得る。これは、該細胞を両方の薬剤を含む単一の組成物または薬理学的製剤と接触させることによって、または該細胞を2つの別個の組成物または製剤と接触させることによって達成され得る。2つの別個の製剤が使用される場合、該がん細胞は、同時に両方の製剤に接触する場合もあれば、一方の製剤が他方に先行する場合(例えば、本発明の組成物が別の抗がん剤の投与の前または後に投与される場合)もあり、それらの任意の組み合わせでも繰り返しサイクルでもよい。本発明の組成物及び他の薬剤が別々に投与される実施形態では、本発明の組成物及び他の薬剤が該がん細胞に依然として有利に複合効果を発揮することができるように、通常は、各送達時間の間の長期間が、有効期限切れにならないようにする。2つの製剤の投与間のこの時間間隔は、数分から数週間の範囲であり得る。
【0128】
本発明の組成物または方法と併せて使用され得る抗がん剤の非限定的な例としては、化学療法剤(例えば、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール、ゲムシタビエン、ナベルビン、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナム(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン及びメトトレキサート、または前述の任意の類似体もしくは誘導体バリアント)、放射線治療薬(例えば、γ線、X線、マイクロ波及びUV照射、及び/または腫瘍細胞への放射性同位体の指向性送達)、免疫療法及び免疫調節剤、遺伝子治療薬、アポトーシス促進剤ならびに当業者に周知の他の細胞周期調節剤が挙げられ得る。
【0129】
免疫療法もまた、悪性疾患の治療のための併用療法として、本明細書に記載の組成物及び方法と併せて使用することができる。免疫療法は一般に、がん細胞を標的として破壊する免疫エフェクター細胞及び分子の使用に依存する。該免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞表面上のいくつかのマーカーに特異的な抗体であり得る。該抗体は、単独で治療のエフェクターとして機能する場合もあれば、他の細胞(例えば、細胞傷害性T細胞またはNK細胞)を動員して実際に細胞殺傷をもたらす場合もある。該抗体はまた、薬物または毒素(例えば、化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素等)にコンジュゲートされ、単に標的化剤としても機能し得る。いくつかの実施形態では、該エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接または間接的に相互作用する表面分子を担持するリンパ球であり得る。他の実施形態では、該腫瘍細胞は、標的化に適したなんらかのマーカーを有する必要がある。標的化に適した非限定的な例示的な腫瘍マーカーとしては、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺特異抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erb B、及びp155が挙げられ得る。
【0130】
1つの好ましい実施形態では、チェックポイント阻害免疫療法が、本明細書に記載の組成物及び方法と組み合わせて使用される。チェックポイント阻害免疫療法は、PD-L1阻害剤(アテゾリズマブ、アベルマブ、及びデュルバルマブ等)、PD-1阻害剤(ペムブロリズマブ、ニボルマブ、及びセミプリマブ等)、またはCTLA-4阻害剤(イピリムマブ等)等のチェックポイント阻害剤を投与することによって、または養子T細胞移入によって行われ得る。
【0131】
遺伝子治療もまた、悪性疾患の治療のための併用療法として、本明細書に記載の組成物及び方法と併せて使用することができる。併用治療としての遺伝子治療は、本明細書に記載の変異体HSV-2とは別に、治療遺伝子の送達及び発現に依存する。該遺伝子治療は、本明細書に記載のHSV-2変異体の前、後、またはそれと同時に施すことができる。遺伝子治療の例示的な非限定的な標的としては、免疫調節剤、細胞表面受容体とギャップ結合の上方制御に影響を与える薬剤、細胞増殖抑制剤及び分化剤、細胞接着の阻害剤、またはアポトーシスに対する標的細胞の感受性を誘導または増加させる薬剤が挙げられる。本発明と組み合わせて遺伝子治療の一部として使用することができる例示的な非限定的な免疫調節遺伝子としては、腫瘍壊死因子、インターフェロンアルファ、ベータ、及びガンマ、IL-2及びその他のサイトカイン、F42K及びその他のサイトカイン類似体、または、MIP-1、MIP-1ベータ、MCP-1、RANTES、及びその他のケモカインが挙げられる。
【0132】
細胞増殖の阻害剤の例は、p16である。真核生物の細胞周期の主要な移行は、サイクリン依存性キナーゼ、すなわち、CDKによって引き起こされる。CDKの1つであるサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)は、G1の進行を調節する。この酵素の活性は、後期G1でRbをリン酸化することである可能性がある。CDK4の活性は、活性化サブユニットであるD型サイクリンによって、及びCDK4に特異的に結合して阻害する抑制性サブユニットであるp16INK4によって制御され、ひいてはRbリン酸化を調節し得る。該p16INK4遺伝子は、p16B、p19、p21WAF1、及びp27KIP1も含む、新たに報告されたCDK阻害タンパク質のクラスに属する。p16INK4遺伝子のホモ接合性欠失及び変異は、ヒト腫瘍細胞株でよく見られる。p16INK4タンパク質はCDK4阻害因子であるため、この遺伝子の欠失は、CDK4の活性を増加させ、Rbタンパク質の過剰リン酸化をもたらし得る。細胞増殖を阻害するために遺伝子治療で使用され得る他の遺伝子としては、Rb、APC、DCC、NF-1、NF-2、WT-1、MEN-I、MEN-II、zac1、p73、VHL、MMAC1/PTEN、DBCCR-1、FCC、rsk-3、p27、p27/p16融合、p21/p27融合、抗血栓遺伝子(例えば、COX-1、TFPI)、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、frns、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、血管新生に関与する遺伝子(例えば、VEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI-1、GDAIF、またはそれらの受容体)及びMCCが挙げられる。
【0133】
細胞表面受容体またはそれらのリガンド、例えば、Fas/Fasリガンド、DR4またはDR5/TRAILの上方制御は、過剰増殖細胞に対するオートクリンまたはパラクリン作用の確立により、本発明のアポトーシス誘導能力を増強するであろうことがさらに企図される。ギャップ結合の数を増やすことによる細胞間シグナル伝達の増加は、隣接する過剰増殖細胞集団に対して抗過剰増殖効果を高める。他の実施形態では、細胞増殖抑制剤または分化剤を本発明と組み合わせて使用して、該治療の抗過剰増殖効果を改善することができる。細胞接着の阻害剤は、本発明の有効性を改善することが企図される。細胞接着阻害剤の例は、焦点接着キナーゼ(FAK)阻害剤及びロバスタチンである。過剰増殖細胞のアポトーシスに対する感受性を高める他の薬剤、例えば、抗体c225を本発明と組み合わせて使用して、治療効果を改善することができることがさらに企図される。
【0134】
ホルモン療法もまた、本発明と併せて使用され得る。ホルモンの使用は、ある特定のがん、例えば、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、または子宮頸癌の治療に使用され、ある特定のホルモン、例えば、テストステロンまたはエストロゲンのレベルを低下させたり、作用が遮断されたりする。この治療法は、治療の選択肢として、または転移のリスクを軽減するために、少なくとも1つの他のがん治療と組み合わせて使用されることが多い。
【0135】
耐性腫瘍溶解性ウイルスの開発
腫瘍溶解性ウイルス療法の有効性を低下させる血流中のすべての制限要因を回避することができる、FusOn-H2ベースの腫瘍溶解性ウイルスを生成するための高度なプロセスを本明細書に記載する。本開示はまた、新規ウイルスであるFusOn-SDの設計についても記載する。
【0136】
天然HSV-2ウイルスは、プロテインキナーゼ(PK)活性、例えば、セリン/スレオニンプロテインキナーゼ活性を備えたアミノ末端ドメイン、及びリボヌクレオチドレダクターゼ活性を有するc末端ドメインを有するポリペプチドをコードするICP10ポリヌクレオチド(RR1ポリヌクレオチドとも呼ばれる場合がある)を含む。本発明の特定の態様では、該内因性PKドメインは、該ウイルスが腫瘍細胞において選択的複製活性を含む(ひいては腫瘍細胞を破壊する活性を含む)ように、及び/または該ウイルスが、膜融合(合胞体形成)活性を含むという点において、それを融合性にするか、もしくは融合活性を高めるようにする活性を含むように改変される。いくつかの実施形態では、該ICP10ポリヌクレオチドは、コードされたポリペプチドがプロテインキナーゼ活性を欠くように、プロテインキナーゼドメインをコードする内因性配列の少なくとも一部を削除することによって改変される。
【0137】
ウイルスは、生きた細胞内でしか複製することができず、その複製には通常、ある特定の細胞シグナル伝達経路の活性化が必要である。多くのウイルスは、進化の過程でこれらのシグナル伝達経路を活性化し、複製に役立つ様々な戦略を獲得してきた。単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)リボヌクレオチドレダクターゼ(ICP10またはRR1)の大きなサブユニットは、セリン/スレオニンプロテインキナーゼ(PK)活性を有する独自のアミノ末端ドメインを含む。このPK活性は、細胞のRas/MEK/MAPK経路を活性化することがわかっている(Smith,et al.,(2000)J Virol 74(22):10417-29)。その結果、リボヌクレオチドレダクターゼ遺伝子からのこのPKドメイン(ICP10PK)の欠失は、既存の活性化されたRasシグナル伝達経路が存在しない細胞等の細胞でウイルスが複製する能力を著しく損なうことが報告されている(Smith,et al.,(1998)J.Virol.72(11):9131-9141)。
【0138】
ある特定の実施形態では、HSV-2ウイルスのICP10配列は、様々な標準的な突然変異誘発手順のいずれかを使用して、削除等によって変異する。変異は、ヌクレオチド配列、単一の遺伝子、または遺伝子のブロックの改変を含み得る。変異には、単一のヌクレオチド(DNA配列内の単一のヌクレオチド塩基の除去、付加または置換を含む点突然変異等)が含まれる場合もあれば、多数のヌクレオチドの挿入または欠失が含まれる場合もある。変異は、DNA複製の忠実度のエラー等の事象の結果として自然に発生する場合もあれば、化学的もしくは物理的突然変異原への曝露後に誘発される場合もある。変異はまた、当業者に周知の特定の標的化法を使用することによって部位特異的でもあり得る。
【0139】
該ICP10ポリヌクレオチドは、該PKドメインをコードする配列の少なくとも一部を削除または置換する遺伝子組み換え技術を使用して改変される。該削除/置換されるPKドメインの領域は、該改変ICP10ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが、リボヌクレオチドレダクターゼ活性を保持し、プロテインキナーゼ活性を欠く限り、任意の適切な領域でよい。該ICP10ポリヌクレオチドはまた、PK活性に必要なPKドメインをコードする配列の一部を単に削除することによって改変され得る。該ICP10ポリヌクレオチドはまた、該PKドメインをコードする配列の少なくとも一部を、第二のポリヌクレオチド、例えば、緑色蛍光タンパク質で置換することによって改変され、これは、該ICP10ポリヌクレオチドのRRドメインをコードする配列とともにインフレームに配置され得る。
【0140】
HSV-2における内因性ICP10のプロテインキナーゼ活性ドメインの少なくとも一部を置換するポリヌクレオチドは、細胞膜融合誘導ポリペプチドの少なくとも融合性部分、例えば、ウイルスの融合性膜糖タンパク質(FMG)をコードし得る。該ポリペプチドは、好ましくは、例えば、実質的に中性pH(例えば、pH約6~8)で細胞膜融合を誘導することが可能である。細胞質ドメインの一部、大部分、またはすべてが欠失したレトロウイルスエンベロープタンパク質は、かかる操作がヒト細胞の超融合活性をもたらすために有用である。いくつかの実施形態では、細胞膜融合を誘導する機能を高めるために、特定の改変がウイルス膜糖タンパク質に導入される。例えば、いくつかのレトロウイルス及びヘルペスウイルスの糖タンパク質の細胞質ドメインの切断は、それらの融合活性を高めることが示されており、ビリオンに組み込まれる効率が同時に低下することもある(Rein et al.,(1994)J Virol 68(3):1773-81)。
【実施例】
【0141】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。以下に続く実施例において開示する技術は、本発明の実行において良好に機能するように本発明者によって発見された技術を表し、したがって、その実行のために最もよく使われる方法を構成すると考えられ得ることを、当業者には理解されたい。しかしながら、当業者には、本開示に照らして、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多くの変更が開示される特定の実施形態においてなされ得ること、及びそれでも同様のまたは類似する結果を得ることができることを理解されたい。
【0142】
実施例1:FusOn-H2の構築
最初に、ICP10左隣接領域(HSV-2ゲノムのヌクレオチド番号85994~86999に相当)を含むHSVゲノム領域を、以下の例示的なプライマー対で増幅した:5’-TTGGTCTTCACCTACCGACA(配列番号1)、及び3’-GACGCGATGAACGGAAAC(配列番号2)。RRドメイン及び右隣接領域(HSV-2ゲノムのヌクレオチド配列番号88228~89347に相当)を、以下の例示的なプライマー対で増幅した:5’-ACACGCCCTATCATCTGAGG(配列番号13)、及び5’-AACATGATGAAGGGGCTTCC(配列番号14)。これらの2つのPCR産物を、pNeb193に、EcoRI-NotI-XbaIライゲーションによってクローニングし、pNeb-ICP10-deltaPKを生成した。次いで、CMVプロモーター-EGFP遺伝子を含むDNA配列を、以下の例示的なプライマー対を用いてpSZ-EGFPからPCRにより増幅した:5’-ATGGTGAGCAAGGGCGAG(配列番号3)、及び3’-CTTGTACAGCTCGTCCATGC(配列番号4)。次いで、このPCR増幅DNAを、pNeb-ICP10-deltaPKの削除されたPK遺伝子座に、BglII及びNotIライゲーションによってクローニングし、pNeb-PKF-2を生成した。PCR増幅戦略の設計の過程で、これらのプライマーを、EGFP遺伝子がこのICP遺伝子の残りのRRドメインとインフレームで融合されるように設計したため、この融合遺伝子の新たなタンパク質産物は、以下の実験ステップにおける組み換えウイルスの選択が容易になるインタクトな機能的EGFPを含む。
【0143】
その改変ICP10遺伝子を、pNeb-PKF-2プラスミドDNAと精製HSV-2ゲノムDNA(株186)をリポフェクタミンによりベロ細胞に共トランスフェクトし、相同組み換えを介してウイルスに挿入した。GFP陽性ウイルスプラークを選択することにより、組み換えウイルスをスクリーニング及び同定した。このスクリーニングプロセス中、GFP陽性プラークのすべてが明確な感染細胞の合胞体形成を示すことが分かり、本発明の特定の実施形態において、この改変ウイルスが広範な細胞膜融合を誘導することが示された。合計6個のプラークを採取した。そのうちのFusOn-H2と呼ばれる1つを、さらなる特性評価及びその後のすべての実験用に選択した。
【0144】
実施例2
gBとgDの両方の中和エピトープの大部分を全身的に変異させ、gCの補体拮抗能力を高めるために、FusOn-H2を抗HSV-2血清の存在下で一連の選択に供した。最初に、FusOn-H2を、HSVをワクチン接種した血中に高い抗HSV抗体を有する5匹のラットから収集された血清の混合物の存在下で、細胞培養での選択に供した。ラット血清でこの選択を開始する主な理由の1つは、それが、HSVに対する補体を活性化することができる天然の免疫グロブリンとマンナン結合レクチン(MBL)の両方を含む一方、マウス及びヒトの血清は、これら2つの活性化メカニズムのうちの一方(それぞれ、マウスではMBL、ヒトでは天然の免疫グロブリン)しか含まないためである(Wakimoto et al.,2002)。このラット血清混合物の下での7回連続の選択の後、高レベルの抗HSV-2抗体を含む1人のヒト血清を、このラット血清に添加し、選択を続けた。
【0145】
抗HSV血清の存在下でのウイルスの感染性を、この選択プロセス中に定期的に観察したところ、その結果は、中和抗体に対する耐性が、選択されなかったFusOn-H2よりも継続的に改善されていることを示した。試験結果の1つを
図1に示す。これは、ウイルスが合計9回の選択(すなわち、ラット血清による7回の選択、及びラット血清とヒト血清の混合物による2回の選択)を受けた後に行った。その結果、養成されたウイルス(FusOn-SS9と命名)は、ヒト及びラットの抗HSV-2血清の中和効果に対して、それぞれ、28.5倍及び27.2倍の耐性を示した。
【0146】
全身送達中に血中の単核食細胞系(MPS)による宿主のクリアランスを逃れる能力を備えたFusOn-H2を可能にするために、「don’t eat me」シグナル分子であるCD47をウイルスの膜エンベロープに遺伝子的に移植する可能性を探索した。マクロファージは、HSV粒子の迅速なクリアランスに関与する主要な食細胞であり、マクロファージの枯渇が腫瘍溶解性HSVの治療効果を大幅に改善し得ることが報告されている(Fulci et al.,2007)。マクロファージの食作用活性は、正と負の両方の調節メカニズムによって制御されている。CD47とその受容体であるSIRPαとの相互作用は、マクロファージに強力な負の調節シグナル(「don’t eat meシグナル」)を提供する(Kinchen and Ravichandran,2008)。
【0147】
HSVは、ウイルスエンベロープの表面で組み立てられるいくつかの糖タンパク質をコードする。それらとしては、糖タンパク質C(gC)、gB、gD、gH、及びgLが挙げられる。それらの各々は、マウスCD47(mCD47)の細胞外ドメイン(ECD)を組み込むための候補分子として機能することができ、ウイルスエンベロープの表面に生着し得る。糖タンパク質C(gC)は、言及されている他の糖タンパク質とは異なり、ウイルスの感染性に必須ではないため、ここで選択された。そのため、mCD47を組み込むためにそれを改変しても、腫瘍溶解性ウイルスの自然な向性が変更されるリスクはない。mCD47のECD(aa19~141)(配列番号16)(以下の表に示す)を、最初にgCのN末端に挿入し、gCのキメラ型(cgC)を創出し、その発現をCMV IEプロモーターによって駆動する。
【表1】
【0148】
キメラ分子を簡単に検出できるように、HA(ヘマグルチニン)タグをcgCに含めた。組み換えウイルスの同定とインビボ撮像を容易にする目的で、cgCをEGFP-ルシフェラーゼ遺伝子を含む別の遺伝子カセットに連結した。これらの2つの遺伝子カセットを、ウイルスからGFP遺伝子を削除することにより、HSV-2ベースの腫瘍溶解性ウイルス(FusOn-H2)に由来するFusOn-H3の骨格に一緒に挿入した。FusOn-H2は、ICP10遺伝子のN末端領域を削除し、GFPで置換することによって構築し、それが腫瘍細胞で選択的に複製し、これを殺傷する能力を与えた。GFP陽性プラークを採取することにより、組み換えウイルスを同定した。個別に採取された各ウイルスを、複数回のプラーク精製により均質なGFPに陽性に濃縮した。新たに生成されたウイルスを、FusOn-CD47-Lucと命名する(
図2A)。FusOn-H3の骨格に、EGFP-Luc遺伝子カセットのみを単独で挿入した対照ウイルスも構築した、FusOn-Luc(
図2B)。選択されたすべてのウイルスは、親のFusOn-H2の融合特性を維持している。
【0149】
興味深い最近の研究では、ナノ粒子をCD47模倣ペプチドでコーティングすると、ナノ粒子がMPSの食作用によるクリアランスを逃れるのに役立つことが分かった(Rodriguez et al.,2013)。CD47分子の細胞外ドメインをFusOn-H2の膜エンベロープに遺伝子的に移植する可能性を探索し、全身送達の場合にMPSから逃れることを可能にした。このウイルス構築戦略を
図2に示す。インビトロアッセイは、組み換えgCを介してウイルス粒子をCD47の細胞外ドメインでコーティングすると、ウイルスが食作用に対してより耐性になることを示している(
図3)。マウス結腸癌モデルにてインビボで試験した結果、FusOn-CD47は、全身経路で腫瘍部位に送達されるのにFusOn-Lucよりも15倍効果的であることが示された。さらに、このデータはまた、FusOn-CD47が全身送達後に腫瘍部位でFusOn-Lucよりも有意に長く持続できることも示した。
【0150】
最初に、フローサイトメトリーまたはウェスタンブロット分析のいずれかによって導入遺伝子の発現を調べた。フローサイトメトリー分析では、293細胞を1pfu/細胞のFusOn-CD47-LucまたはFusOn-Lucのいずれかに感染させた。24時間後、PEコンジュゲート抗mCD47抗体またはウサギ抗HAタグ抗体のいずれかで細胞を標識した。HAタグ検出のために、FITCとコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ抗体を添加した。CD47及びHAタグ標識細胞の両方をフローサイトメトリー分析に供した。
図2Aの結果は、抗mCD47抗体と抗HAタグ抗体の両方が、FusOn-CD47-Lucに感染した細胞を容易に検出することができたが、FusOn-Lucに感染した細胞を検出することはできなかったことを示している。ウェスタンブロット分析では、293細胞にこれら2つのウイルスを同様に感染させたか、またはcgCを発現するプラスミドもしくはHAタグを含まない野生型gCを発現するプラスミドをトランスフェクトした。細胞溶解物を24時間後に調製し、ウエスタンブロット分析に供した。
図2Bに含まれる結果は、cgCがFusOn-CD47-Lucによって豊富に発現されるが、FusOn-Lucによっては発現されないことを示している。
【0151】
次に、これら2つのウイルスからのLuc遺伝子発現の定量化を比較した。ベロ、CT26及び4T1細胞に、FusOn-CD47-LucまたはFusOn-Lucのいずれかを1pfu/細胞で感染させた。ルシフェラーゼ活性の測定のために、細胞を24時間後に回収した。
図3Aに含まれる結果は、これら2つのウイルスに感染した細胞からのルシフェラーゼ活性がほぼ同一レベルであることを示した。次に、mCD47のECDを腫瘍溶解性HSVに移植することで、ウイルスが食細胞による貪食及びクリアランスを回避することができるかどうかをインビボ設定で判断するために、別の実験を行った。脾臓は、単核食細胞系の最大単位であるため、マウス脾細胞を新鮮な食細胞の供給源として使用した。マウス脾細胞の存在下または非存在下で、ベロ細胞にFusOn-CD47-LucまたはFusOn-Lucを感染させた。プラークアッセイによるウイルス収量の定量的測定のために、48時間後に細胞を収集した。
図3Bに含まれる結果は、脾細胞を含まないウェルにおいて、FusOn-CD47-Luc及びFusOn-Lucの両方が良好に複製し、ウイルス収量がこれら2つのウェルで同様であることを示した。しかしながら、脾細胞を含むウェルでは、FusOn-Luc収量は大幅に減少したが、FusOn-CD47-Lucの複製はわずかしか影響を受けなかった。これらの結果は、ウイルス粒子にmCD47 ECDが存在することで、ウイルスが、ウイルス感染の過程でマクロファージ及び恐らくは一部の他の免疫細胞からの影響に耐性を示す能力を備えるようになることを示す。
【0152】
組み込まれたmCD47 ECDがウイルスの全身送達を可能にする能力を測定するために、CD26マウス結腸癌細胞を免疫が保たれているBalb/cマウスの右脇腹に移植した。腫瘍が直径約8mmのサイズに達した後、本発明者らは、2×106pfuのFusOn-CD47-LucまたはFusOn-Lucのいずれかを各マウスに全身注射した。マウスのルシフェラーゼ活性を、IVIS Spectrum Systemにより、2日目から、その後シグナルが完全に消失するまで毎日観察した。
図4に含まれる結果は、ウイルス投与後2日目に、FusOn-CD47-Lucからの画像シグナルが、FusOn-Lucからのものより約1.5対数強かったことを示している。これは、前者が全身経路によって後者よりも効率的に腫瘍部位に送達されたことを示している。さらに、FusOn-CD47-Lucは、FusOn-Lucよりもかなり長く腫瘍組織に留まるようである。5日目までに、FusOn-Lucを投与されたマウスの腫瘍では画像シグナルがほとんど検出できなくなったが、FusOn-CD47-Lucからの腫瘍におけるシグナルは、7日目まで検出可能であった。それにもかかわらず、このHSV-2ベースの腫瘍溶解性ウイルスは、CT26腫瘍細胞ではほとんど増殖しないため、どちらのウイルスも腫瘍組織で有意な増幅を示さなかった。興味深いことに、数匹のマウスがウイルス送達後1日目に撮像されたある場合に、有意な画像シグナルが肝臓で一時的に検出された。これらのシグナルは、2日目までに完全に消失した。
【0153】
FusOn-CD47-Lucが他の腫瘍モデルでの全身送達についてもFusOn-Lucより優れているかどうかを判断するために、上記の実験を繰り返したが、4T1マウス乳腺腫瘍細胞の移植で定着した腫瘍を右脇腹に有するマウスでは、FusOn-H2は適度に増殖できることが分かった。さらに、4T1腫瘍細胞は、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)及び顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を分泌し、これらがマクロファージによる浸潤及び食作用を促進し得る。これにより、CD47介在性の回避戦略をより精力的に調べることができるようになる。実際、
図5Aに含まれるIVIS撮像の結果は、一般に、4T1腫瘍に含まれるシグナルが、CT26腫瘍で検出されたものよりも低いことを示した(
図4に示す通り)。それにもかかわらず、これらの結果もやはり、FusOn-CD47-Lucが全身経路によってFusOn-Lucよりも効率的に局所腫瘍に送達され得ることを示した。2日目までに、これら2つのウイルス間の画像シグナル強度の差は、約1.5対数になった。最大の差は4日目に記録され、このとき、FusOn-Lucからの画像シグナルはほぼバックグラウンドレベルまで低下した一方、FusOn-CD47-Lucでは最高値に達した。これらのデータもやはり、CD47による改変により、ウイルスが全身経路によってより効率的に送達されると同時に、腫瘍組織に到達した後は、対照ウイルスよりも長くそこに持続することが可能になることを示した。
【0154】
血流中での3つの主要な制限要因、すなわち、中和抗体、補体、及び食細胞のすべてに抵抗することができるFusOn-H2産物を生成するために、本発明者らは、FusOn-CD47を上記の抗HSV-2血清選択に供した。それを、上記の通り、7回連続の抗HSVラット血清のセクション及びその後極めて高レベルの抗HSV-2抗体を含むラット血清と1人のヒト血清の存在下、23回連続の継代に供した。この場合もやはり、選択の過程でいくつかの試験を行い、ウイルスがこれら免疫血清の中和作用に対して耐性を示す能力を獲得しているかどうかを判断した。かかる試験の結果の1つを
図5に示す。これは、FusOn-CD47を最初に7回のラット血清のセクション及び17回のラット血清とヒト血清のセクションに供された後に行った。これらの結果は、FusOn-SS9と同様、養成されたFusOn-CD47(FusOn-CD47-SS24と命名)が免疫抗HSV-2血清の存在下で感染力を維持する上で実質的な能力を獲得したことを明確に示している。
【0155】
ヒトにおける中和抗体に対するより完全な耐性を確実にするため、本発明者らは、12人から得たHSV-2陽性血清を一度に4つずつ混合した混合物を用いて、ウイルスをさらに3回のセクションに供した。選択回数は、バッチ1では8回、バッチ2では6回、及びバッチ3では4回である。これらの幅広い選択の後、得られたウイルスをプラーク精製し、採取した6つのプラークをさらなる分析用に増殖させた。それらを、HR49-N2~5、HR49-N7、及びHR49-N8と命名する。第一に、それらを、選択に使用した8つのヒト血清の混合物からの中和に対して耐性を示す能力に関して調べた。これは、本発明者らが行った中で最も厳しい中和試験である。比較のために、FusOn-SS9とFusOn-CD47-SS24の両方をこの実験に含めた。抗HSV血清混合物を様々な希釈で使用し、示されたウイルスとインキュベートし、その後ウイルスの感染力を測定した。
図6に含まれる結果は、この厳しい中和条件(複数人からの抗ウイルス血清の混合物を含む)下、選択されたウイルスは、かなりの数のプラークを産生することが依然として可能であった一方で、未選択のウイルスは、血清混合物が80倍に希釈されるまでプラークを産生しなかったことを示している。このデータはまた、ヒト血清混合物でのその後のさらに3回の選択により、中和作用に対して耐性を示す能力における選択されたウイルスの能力がさらに高まったことも示した。また、このデータは、採取されたウイルスの一部が、ヒト抗ウイルス血清の混合物によって中和に対する耐性において他よりも良好な能力を有することも示した。
【0156】
実施例3
gCのN末端へのCD47の細胞外ドメインの挿入を有する及び有さない、腫瘍溶解性ウイルスFusOn-H2が抗HSV抗体による中和から逃れる能力を評価した。このインビトロ実験では、500プラーク形成単位(pfu)のFusOn-CD47またはFusOn-Lucのいずれかを、希釈抗HSV-2血清(1:40または1:160希釈)と混合したかまたは混合せずに、37℃でインキュベートした後、感染性のアッセイ及びプラーク形成の定量化のため、ベロ細胞の単層に載せた。
図7に含まれる結果は、1:40希釈では、この血清がFusOn-Lucのウイルス感染性をほぼ完全に中和することができることを示した。1:160希釈であっても、この血清はFusOn-Lucの感染(したがってプラーク形成数)を大幅に減らすことができた。対照的に、FusOn-CD47は、同じ希釈の抗HSV血清の存在下では中和がはるかに少なかった。1:40希釈の血清の存在下では、FusOn-CD47は、かなりの数のプラーク(抗HSV血清を添加しなかったウェルの約15%)を生成したが、FusOn-Lucは、ウイルスプラークをほとんど示さなかった。
【0157】
全身経路によるインビボ送達を、FusOn-CD47、FusOn-Luc、及びFusOn-SDについて、HSV-2をワクチン接種され、右脇腹にCT26マウス結腸癌細胞が移植されたBalb/cマウスで評価した。1x10
7個のFusOn-CD47、FusOn-Luc、またはFusOn-SDのいずれかを、異なる群のマウスに尾静脈から注射することにより、全身的に送達した。これらのマウスを、
図8に示される日にIVIS撮像装置で撮像した。これらの結果は、FusOn-Lucが、抗HSV免疫の存在下では全身経路によって腫瘍に送達されないことを示した。対照的に、FusOn-CD47は、抗HSV免疫の存在下で、同じ送達経路により腫瘍組織で容易に検出された。さらに、FusOn-CD47は、抗ウイルス免疫の存在にもかかわらず、腫瘍部位に到達してからほぼ8日間、腫瘍組織にとどまった。CD47は、予想外にも腫瘍溶解性ウイルスが抗HSV抗体による中和作用から逃れることを支援し、全身送達のために中和抗体から逃れるFusOn-SDの全体的な能力に寄与した。したがって、FusOn-SDは、腫瘍部位への全身送達において最良の挙動を示した。FusOn-SDは、したがって、HSV-1及び/またはHSV-2抗体を有する患者、例えば、HSV-1及び/またはHSV-2のワクチン接種を受けた患者、またはHSV-1及び/またはHSV-2を有する患者において有用である。
【0158】
予想外にも、FusOn-SDウイルス粒子には、gEが存在しないことが分かった。これは、
図9A~9Cに示されている。
【0159】
図9Aは、マウス抗HSV-2gE(1:1000希釈)及びHPRコンジュゲートウサギ抗マウスIgG(1:10,000希釈)での処理後のFusOn-H2、FusOn-SD、及びPBS(陰性対照)の吸光度を示す棒グラフである。より具体的には、
図9Aでは、1X10
6pfuのウイルス(親FusOn-H2及びFusOn-SD)を、ELISAアッセイ用の96ウェルプレートにコーティングした。PBSでコーティングされたウェルは、陰性対照の役割を果たした。使用した第一の抗体は、マウス抗HSV-2gE(1:1000希釈)であり、第二の抗体は、HPRコンジュゲートウサギ抗マウスIgG(1:10,000希釈)であった。FusOn-H2では有意な測定値が検出されたが、FusOn-SDでは検出されず、FusOn-H2ウイルス粒子にはgEが存在するが、FusOn-SDには存在しないことが示された。
【0160】
図9Bは、FusOn-SD及びFusOn-H2に関するgEの検出を示すウェスタンブロットである。タンパク質を、1X10
6pfuのウイルス(FusOn-H2及びFusOn-SD)から取り、ウェスタンブロット分析のため、アクリルアミドゲルにて泳動させた。
図9Aに関して使用されたマウス抗HSV-2gE及びHPRコンジュゲートウサギ抗マウスIgGの同じ抗体を、このウェスタンブロットに使用した。これらの結果は、FusOn-H2に関しては明確なgEのバンドを示したが、FusOn-SDからのタンパク質をロードしたレーンにはそれがなかった。この結果は、
図9Aの所見を裏付ける。
【0161】
図9Cは、gEを介したHSVまたはHSV感染細胞のNK細胞認識のメカニズムに関する模式図である。この図は、gEがIgG(ウイルス特異的または非ウイルス特異的のいずれか)に結合することを示している。次に、最も重要なNK細胞活性化受容体の1つであるCD16aが、IgGのFc領域に結合し、NK細胞の活性化及びウイルス粒子またはウイルス感染細胞のクリアランスがもたらされる。これにより、腫瘍溶解性ウイルスの送達及び複製が減少するため、ウイルス療法の治療効果が最小限に抑えられる。FusOn-SDは、このメカニズムによって認識されないため、NK細胞はそれらを除去せず、FusOn-SDの治療効果は持続する。
【0162】
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【0206】
本明細書に引用されるすべての出版物、特許及び特許出願は、参照により、全体として本明細書に記載されているものとして本明細書に組み込まれる。本発明を、例示的な実施形態を参照して説明してきたが、この説明は、限定的な意味で解釈されることを意図していない。本発明の他の実施形態と同様に、例示的な実施形態の様々な修正及び組み合わせは、該説明を参照した後、当業者には明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、かかる修正及び強化を包含することが意図されている。
【配列表】
【国際調査報告】