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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-22
(54)【発明の名称】IV族金属の表面硬化
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/24 20060101AFI20240215BHJP
   C23C 8/80 20060101ALI20240215BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20240215BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20240215BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240215BHJP
【FI】
C23C8/24
C23C8/80
C22C14/00 Z
C22F1/18 E
C22F1/18 H
C22F1/00 613
C22F1/00 630C
C22F1/00 675
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553320
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2022055363
(87)【国際公開番号】W WO2022184812
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】21160471.5
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522285129
【氏名又は名称】エロス・メドテック・パイノール・エー/エス
【氏名又は名称原語表記】Elos Medtech Pinol A/S
【住所又は居所原語表記】Engvej 33, 3330 Gorlose, Denmark
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアンセン、トーマス・ルンディン
(72)【発明者】
【氏名】イェレーセン、モーテン・ステンダール
(72)【発明者】
【氏名】サマーズ、マルセル・エー.・ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ケーケル、アンドレアス・フレデリック・キールスホルム
(72)【発明者】
【氏名】アンデルセン、オーレ・ゾフマン
【テーマコード(参考)】
4K028
【Fターム(参考)】
4K028AA02
4K028AB02
4K028AC08
(57)【要約】
本発明は、IV族金属又はIV族金属合金を肌焼硬化する方法、及びこの方法で硬化したコンポーネントに関する。この方法は、IV族金属又はIV族金属合金の加工物を準備する工程であって、加工物がその最終形状にある工程;窒化種としてNHを含む窒化雰囲気中で、450℃~750℃の第1の温度で、少なくとも16時間の窒化時間にわたって加工物を窒化して、水素含有拡散ゾーンを形成する工程;最大750℃の第2の温度及び最大10-4mbarのHの分圧で、少なくとも4時間の水素除去時間にわたって水素含有拡散ゾーンから水素を除去して、水素欠乏拡散ゾーンを形成する工程を含む。この方法及びコンポーネントは、インプラント、特に歯科用インプラントに有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IV族金属又はIV族金属合金を肌焼硬化する方法であって、
- IV族金属又はIV族金属合金の加工物を準備する工程、ここで前記加工物はその最終形状である、
- 窒化種としてNHを含む窒化雰囲気中で、450℃~750℃の第1の温度及び0.5bar~2barのNHの分圧で、少なくとも12時間の窒化時間にわたって前記加工物を窒化して、水素含有拡散ゾーンを形成する工程、並びに
- 600℃~750℃の第2の温度及び最大10-4mbarのHの分圧(pH)で、少なくとも4時間の水素除去時間にわたって前記水素含有拡散ゾーンから水素を除去して、水素欠乏拡散ゾーンを形成する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記窒化雰囲気が酸化種を含まない、請求項1に記載のIV族金属又はIV族金属合金を肌焼硬化する方法。
【請求項3】
前記第1の温度が580℃~700℃である、請求項1又は2に記載のIV族金属又はIV族金属合金を肌焼硬化する方法。
【請求項4】
前記水素含有拡散ゾーンから水素を除去する工程における全圧が最大10-4mbarである、請求項1~3のいずれか一項に記載のIV族金属又はIV族金属合金を肌焼硬化する方法。
【請求項5】
前記IV族金属がジルコニウム又は少なくとも2wt%のジルコニウムを含有するIV族金属合金である、請求項1~4のいずれか一項に記載のIV族金属又はIV族金属合金を肌焼硬化する方法。
【請求項6】
前記第2の温度が600℃~700℃である、請求項1~5のいずれか一項に記載のIV族金属又はIV族金属合金を肌焼硬化する方法。
【請求項7】
前記IV族金属がチタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金である、請求項1~6のいずれか一項に記載のIV族金属又はIV族金属合金を肌焼硬化する方法。
【請求項8】
ジルコニウム又は少なくとも2wt%のジルコニウムを含有するIV族金属合金のコンポーネントであって、前記コンポーネントが、微小硬度が前記コンポーネントの芯部硬度に50HV0.005を加えたものに等しくなる前記コンポーネントの表面からの深さまで延在する窒素含有拡散ゾーンを有し、前記コンポーネントの表面からの深さ2.5μmの硬度が、1000HV0.005~1500HV0.005の硬度であり、ここで、硬度はDIN EN ISO6507規格に従って測定され、前記コンポーネントが窒化物層を含まない、コンポーネント。
【請求項9】
チタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネントであって、前記コンポーネントの表面硬度が700HV0.005~2000HV0.005であり、前記コンポーネントが、微小硬度が前記コンポーネントの芯部硬度に50HV0.005を加えたものに等しくなる前記コンポーネントの表面からの深さまで延在する窒素含有拡散ゾーンを有し、ここで、硬度はDIN EN ISO6507規格に従って測定され、前記コンポーネントがTiNの表面窒化物層を有する、コンポーネント。
【請求項10】
前記表面がTiNを含まない、請求項9に記載のチタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネント。
【請求項11】
前記TiNの層がX線回折分析で識別される、請求項9又は10に記載のチタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネント。
【請求項12】
前記コンポーネントの表面からの深さ2.5μmの微小硬度が、700HV0.005~1200HV0.005である、請求項9~11のいずれか一項に記載のチタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネント。
【請求項13】
TiNが存在しないことがX線回折分析で識別される、請求項8に記載のジルコニウム若しくは少なくとも2wt%のジルコニウムを含有するIV族金属合金のコンポーネント、又は請求項9~12のいずれか一項に記載のチタン若しくはジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネント。
【請求項14】
前記コンポーネントの表面が、空気と接触するIV族金属の表面に自然に形成されるナノメートルスケールの酸化物層以外の酸化物層を含まない、請求項8若しくは13に記載のジルコニウム若しくは少なくとも2wt%のジルコニウムを含有するIV族金属合金のコンポーネント、又は請求項9~13のいずれか一項に記載のチタン若しくはジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネント。
【請求項15】
前記コンポーネントが、ISO1302:2002規格に準拠した算術平均偏差(Ra)粗さが0.1μm未満の表面として定義される鏡面研磨外観を有する、請求項8若しくは13~14のいずれか一項に記載のジルコニウム若しくは少なくとも2wt%のジルコニウムを含有するIV族金属合金のコンポーネント、又は請求項9~14のいずれか一項に記載のチタン若しくはジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネント。
【請求項16】
前記コンポーネントが請求項1~7のいずれか一項に記載の方法で得ることができる、請求項8若しくは13~15のいずれか一項に記載のジルコニウム若しくは少なくとも2wt%のジルコニウムを含有するIV族金属合金のコンポーネント、又は請求項9~15のいずれか一項に記載のチタン若しくはジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IV族金属又は合金の硬化に関する。具体的には、IV族金属又はIV族金属合金を肌焼硬化する方法、及び硬化したIV族金属又はIV族金属合金コンポーネントが提供される。この方法及びコンポーネントは、インプラント、特に歯科用インプラントに有用である。
【背景技術】
【0002】
チタンは、酸素と自然に反応して耐食性をもたらす酸化チタン層を表面に形成する、ステンレス鋼に匹敵する引張強度を有する軽金属である。これらの特徴により、チタンは、航空宇宙、軍事などの多くの分野で、及び工業的方法にとって非常に魅力的であり、さらに、チタンは生体適合性であるため、例えばインプラントのような医療用途にも適している。自然に形成される酸化チタンの層は、例えばナノメートルスケールで薄いが、特定の用途では、チタン及びその合金の表面隣接領域を改質することが望ましい場合がある。チタンや他のIV族金属は、格子間酸素及び他の元素によって硬化できることが周知であり、チタンの硬化は、相変態又はクリープに伴う、粒成長及び材料の全体的な歪みを避けるために、可能な限り低い温度で実施しなければならないことも周知である。
【0003】
チタンを硬化させる従来技術が公知である。例えば、欧州特許出願公開第885980号は、チタン又はジルコニウムの部品に高い硬度及びトライボロジー特性を有する表層を形成する方法を開示している。この方法は、部品の均質な温度を得るために500℃を超えて昇温させること;アンモニア、炭化水素及び/又は酸化ガスを含有する処理ガスを、500℃より高い温度に上昇させられた処理される部品に噴射すること、並びに所望の処理の深さに応じて、炉内の圧力を少なくとも100mbarで少なくとも数分間維持することを含んでいてもよい。チタンを処理するためにアンモニアを使用すると、Tiの黄色い表面層が得られる。
【0004】
Preisser et al., 1991 (HTM Harterei - Technische Mitteilungen 46 (1991) Nov./Dez., No.6, Munchen, DE)は、チタン加工物の高圧窒化を開示しており、加工物は窒化温度700℃又は900℃、圧力12barでアンモニアによって処理される。処理後の加工物はTiNの外層を有し、TiNの外層の下にTiNの層が形成される。
【0005】
特開平2-25559号は、400℃~850℃で、アンモニアを使用して少なくとも1時間チタン加工物を窒化し、その後少なくとも400℃で少なくとも1時間不活性ガス中で処理し、加工物から水素を除去することを開示している。処理により、加工物上にTiNの層が提供される。
【0006】
特開昭54-93700号は、窒化反応中のチタンをNHガス又はN-H混合ガス雰囲気中で処理した後、チタンを不活性雰囲気又は真空中で600℃超に加熱し、反応によって形成された水素化物を熱分解することを開示している。
【0007】
先行技術に照らして、チタン又は他のIV族金属及びそれらの合金を硬化させる改善された方法に対する必要性が依然として存在し、IV族金属及びそれらの合金の改善された肌焼硬化を提供することが本発明の目的である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、IV族金属又はIV族金属合金を肌焼硬化する方法であって、IV族金属又はIV族金属合金の加工物を準備する工程であって、加工物がその最終形状にある工程;窒化種としてNHを含む窒化雰囲気中で、450℃~750℃の第1の温度及び0.5bar~2barのNHの分圧で、少なくとも12時間の窒化時間にわたって加工物を窒化して、水素含有拡散ゾーンを形成する工程;並びに600℃~750℃の第2の温度及び最大10-4mbarのHの分圧(pH)で、少なくとも4時間の水素除去時間にわたって水素含有拡散ゾーンから水素を除去して、水素欠乏拡散ゾーンを形成する工程を含む、方法に関する。
【0009】
この方法は、加工物を窒化する工程を含む。本明細書では、この工程は「窒化工程」と称する場合がある。
【0010】
この方法は、水素含有拡散ゾーンから水素を除去する工程を含む。NHで処理した加工物を、低い圧力、特にHの低い分圧に高温で曝露することにより、水素が加工物から周囲雰囲気に拡散し、それにより加工物から除去されることを理解されたい。水素を除去する工程は、水素含有拡散ゾーンから「水素を拡散させる」又は「拡散工程」と称してもよく、本明細書では、これらの用語は互換的に使用できる。同様に、水素除去時間は拡散時間と称してもよく、本明細書では、2つの用語は互換的に使用できる。
【0011】
加工物はその最終形状で準備される。加工物への窒素及び水素の溶解は、一般に加工物の体積を増加させるが、加工物は、処理前の形状、すなわち最終形状に戻る。しかし、処理後に加工物がその最終形状にあっても、最終形状に実質的に影響を与えない工程、例えば研磨などで加工物を更に処理することが可能である。
【0012】
NHによる処理、すなわち450℃~750℃の第1の温度での処理により、IV族金属中に拡散ゾーンが形成され、この拡散ゾーンは、固溶体中の窒素及び固溶体中の水素、そして、通常IV族金属の水素化物も含有すると考えられる。その後の拡散処理、すなわち最大750℃の第2の温度での拡散処理により、IV族金属中に拡散ゾーンが形成され、この拡散ゾーンは固溶体中の窒素を含有するが、水素は欠乏している。したがって、本明細書では、「拡散ゾーン」という用語は、窒化処理後又は拡散処理後の拡散ゾーンのいずれかを指してもよい。窒化処理後であるが拡散処理前の拡散ゾーンは、一般に「水素含有拡散ゾーン」と称され、拡散処理後の拡散ゾーンは、一般に「水素欠乏拡散ゾーン」と称される。しかし、水素除去後の拡散ゾーンを「窒素拡散ゾーン」と称してもよい。
【0013】
拡散ゾーンは、IV族金属又はIV族金属合金の表面から延在する。本明細書では、拡散ゾーンは、IV族金属の表面から微小硬度がIV族金属又はIV族金属合金の芯部硬度に50HV0.005を加えたものに等しくなる深さまで延在すると考えられる。拡散ゾーンはまた、厚さによって特定してもよく、その場合、厚さは、微小硬度が芯部硬度に50HV0.005を加えたものに等しくなる表面からの深さから、IV族金属の表面までと計算される。また、NHによる処理、すなわち450℃~750℃の第1の温度での処理により、IV族金属又はIV族金属合金の表面に窒化物層が形成される。IV族金属は、チタン、ジルコニウム、又はチタン及びジルコニウムの両者を含有する合金であってもよく、本明細書では、IV族金属又はIV族金属合金の窒化物層は、チタン及びジルコニウムの両者を含有する合金の場合、(Ti,Zr)Nと総称してもよい。窒化物層の存在にかかわらず、拡散ゾーンは、IV族金属又はIV族金属合金の表面から延在すると考えられ、拡散ゾーンは窒化物層よりも深く延在する。したがって、拡散ゾーンは窒化物層の下にあると考えることもできるか、又は拡散ゾーンは窒化物層とIV族金属若しくはIV族金属合金の芯部の間にあると考えることもできる。窒化工程はまた、加工物の表面にIV族金属又はIV族金属合金の窒化物層を形成し、及び窒化物層とIV族金属又はIV族金属合金の芯部の間に水素含有拡散ゾーンを形成すると考えることができる。
【0014】
本発明の方法では、本発明の方法でアンモニア(NH)を本発明の方法で使用する。NHは、800℃を超える温度、特に更に高い温度、例えば1000℃を超える温度に曝露されるとNとHに解離し、一般に、Nも金属の窒化に使用できる。しかし、最大800℃でNHを窒化種として利用すると、窒素及び水素の両者が同時に金属中に溶解する。具体的には、本発明者らは、金属表面のNH分子は、高温でN原子とH原子に分裂し、N原子及びH原子の両者が金属中に拡散すると考えている。NHは、N単独よりもはるかに高い窒素の”仮想分圧”、さらにH単独よりもはるかに高い水素の仮想分圧を提供すると考えられ、そのため、NHは、Nよりもはるかに強力な窒化種であると同時に、Hよりもはるかに強力な水素化種である。Hの仮想分圧を、異なる全圧及び690℃におけるNH:N比の関数としてのpHとして図1に示す。しかし、IV族金属中の格子間水素は、IV族金属を脆化させると考えられるため、通常、水素はIV族金属の硬化では望ましくなく、さらに、IV族金属をNHで処理した場合、Hで処理した場合に比べてより多くの水素がIV族金属中に溶解するため、IV族金属をNHで処理した場合、IV族金属をN及びHで処理した場合に比べて格子間水素の悪影響がより顕著になると予想され得る。しかし、本発明者らは驚くべきことに、NHから、すなわち450℃~750℃で水素原子を導入することにより、その後、水素原子は、最大750℃、例えば400℃~700℃、特に600℃~700℃でIV族金属から拡散し、それによりNHによる窒化工程で得たIV族金属中の水素の量が増加したにもかかわらず、脆化の問題を防止できることを見いだした。さらに、IV族金属中の水素の溶解は水素化物の形成も引き起こし、例えば700℃を超える高温での処理によって、IV族金属水素化物を有するIV族金属から水素を除去すると、IV族金属中の粒が微細化することが公知である。IV族金属をNHで処理すると、Hで処理するよりもIV族金属中の水素濃度が高くなるため、Hを使用して得られる粒の微細化と比較して、IV族金属のより効率的な粒の微細化がこのようにして得られると本発明者らは考えている。したがって、IV族金属をNHで450℃~750℃で処理した後、最大750℃、例えば400℃~700℃で拡散によってIV族金属から水素を除去すると、硬化して粒が微細化されたIV族金属が得られる。具体的には、硬化したIV族金属は、IV族金属の芯部硬度によって規定される粒微細化芯部ゾーン、及び粒微細化芯部ゾーンとIV族金属の表面の間の固溶体中の窒素による水素欠乏拡散ゾーンを有する。
【0015】
窒化処理では、窒化種としてNHを含む窒化雰囲気を利用する。NHの分圧は自由に選択できるが、IV族金属に所望の量の窒素及び水素を溶解させるのに十分な値でなければならない。NHの分圧が低いと、IV族金属又はIV族金属合金に十分な窒素が溶解せず、NHの分圧は、一般に少なくとも1mbarでなければならず、例えば周囲圧力で0.5bar~2barであることが好ましい。NHの分圧が周囲圧力より低い場合、所望に応じて任意の手段で圧力を低減してもよい。例えば、分圧は全圧に等しくてもよく、すなわち窒化雰囲気は不可避の不純物を含む純粋なNHであるか、又は窒化雰囲気にさらなるガス種を含むことによって分圧を低減させてもよい。さらなるガス種は、不活性ガス又は特定の機能を提供するガス種であってもよい。窒化は450℃~750℃の第1の温度で実施されるため、窒素ガス、すなわちNは、窒素の溶解をもたらさない不活性ガスとみなされる。さらなる不活性ガスは、希ガス、例えばアルゴン及びヘリウムである。窒化雰囲気は、酸化種、例えばCO、O及びNOを含まないことが特に好ましい。窒化雰囲気は、酸素含有種を含まないことが更に好ましい。酸化種及び酸素含有種を避けることにより、この方法で得られる拡散ゾーンが、格子間酸素又は固溶体中の酸素を含有しないことが保証される。しかし、ナノメートルスケールの酸化物層は、空気と接触するIV族金属の表面に自然に形成するため、この方法で製造したコンポーネントは、依然として不可避の酸化物層を表面に有する可能性がある。本明細書では、ナノメートルスケールの酸化物層は悪影響を与えないと考えられ、自然に形成されたナノメートルスケールの酸化物層を有するコンポーネントは、酸化物層を実質的に有さないと考えられる。同様に、IV族金属は、IV族金属中に溶解された不可避の量の酸素を含有でき、IV族金属がIV族金属中に溶解された不可避の量の酸素を含有する場合、IV族金属は格子間酸素を実質的に含まない。
【0016】
窒化雰囲気は、特定の機能を提供するガス種を更に含んでいてもよい。窒化雰囲気は、例えば炭素含有ガス種を含んでいてもよい。一般に、炭素はIV族金属中に溶解してもよいが、炭素含有ガス種の濃度は、IV族金属中で炭化物や炭窒化物を形成するには低い濃度でなければならない。一般に、第1の温度が700℃を超えない場合、炭化物の形成が回避される。代表的な炭素含有ガス種は、アルカン(例.メタン)、アルケン(例.エチレン)及びアルキン(例.アセチレン)である。また、炭素含有ガス種は窒素を含有してもよいが、酸素を含有してはならない。
【0017】
窒化雰囲気は、酸素含有種を含まないことが好ましい。しかし、酸素を含む特定の種では、その酸素は、IV族金属に極めて多くの酸素を溶解させるのに利用できない。例えば、高い炭素活性を得るが、IV族金属に酸素を溶解させないためにCOを含めることができる。さらに、尿素(HNCONH)を、窒化種として又はNHを生成するために使用してもよい。例えば、尿素を加熱して、NH、CO及び他の種の混合物を生成してもよく、この混合物を窒化雰囲気として使用してもよい。
【0018】
水素含有拡散ゾーンは、450℃~750℃の第1の温度で窒化工程において形成される。窒化時間は一般に第1の温度に依存し、450℃~580℃の第1の温度では、窒化工程は一般に望ましくないほど遅くなるが、第1の温度が少なくとも580℃、例えば少なくとも581℃又は少なくとも585℃であれば、加工物の窒化速度は許容される。第1の温度が700℃~750℃の場合、IV族金属に対して望ましくない粒成長が観察される場合がある。したがって、粒成長が許容されない場合、第1の温度は最大700℃、例えば450℃~700℃又は580℃~700℃、例えば582℃~700℃でなければならない。しかし、水素含有拡散ゾーンでの水素量の増加により、700℃超での粒成長の悪影響を回避するのに十分な、拡散処理でもたらされる粒の微細化が可能になる。したがって、本発明は、望ましくない粒成長のリスクを減少させながら、700℃を超える温度でのIV族金属の硬化を可能にする方法を提供する。第1の温度と窒化時間の好ましい組合せを表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
第1の温度と窒化時間の特に好ましい組合せは、450℃~580℃と少なくとも24時間(例.最大200時間);580℃~700℃と少なくとも12時間(例.少なくとも16時間又は少なくとも20時間)及び最大100時間;及び700℃~750℃と少なくとも1時間及び最大50時間である。第1の温度と窒化時間の最も好ましい組合せは、600℃~700℃と少なくとも12時間(例.少なくとも16時間)である。
【0021】
窒化雰囲気は酸化種を含まないことが好ましい。しかし、一例では、加工物は、窒化工程での処理前又は拡散工程での処理後に、IV族金属に酸素を溶解させるために処理される。例えば、IV族、例えばその最終形状のIV族金属若しくはIV族金属合金の加工物、又は窒化工程及び拡散工程での処理後のIV族金属若しくはIV族金属合金の加工物は、格子間酸素を含む酸素拡散ゾーンを有するように処理してもよく、酸素拡散ゾーンの厚さは、表面から10μm~100μmである。酸素拡散ゾーンは、例えば、IV族金属の表面から微小硬度がIV族金属の芯部硬度に50HV0.005を加えたものに等しくなる深さまで延在してもよい。表面付近、例えば深さ5μmでは、酸素拡散ゾーンの微小硬度は600HV0.005~800HV0.005であってもよい。酸素拡散ゾーンは、例えば、最初にIV族金属を酸化してIV族金属上に酸化物層を形成し、その後酸化物層を有するIV族金属を真空処理で処理して、IV族金属中の酸化物層から酸素を溶解することによって形成できる。あるいは、窒化工程及び拡散工程で処理されたIV族金属又はIV族金属合金の加工物を酸化雰囲気中で処理して、IV族金属若しくはIV族金属合金中に酸素を溶解させるか、又はIV族金属若しくはIV族金属合金の表面に酸化物層を形成し、その後、酸化雰囲気中、例えば真空中で酸化種の低い分圧で処理してもよい。酸化工程及び溶解工程の条件、例えば温度、時間及び活性種である酸化種の分圧は、酸化種に関して本発明の窒化工程及び本発明の拡散工程と同様であってもよい。IV族金属に酸素拡散ゾーンを形成する場合、窒化工程に拡散工程が続き、水素欠乏拡散ゾーンは酸素及び窒素の両者を含有する。
【0022】
IV族金属及びその合金は、その硬度の観点から説明してもよい。IV族金属は、金属中の窒素、酸素、及び他の元素の溶解によって硬化させることができるが、どのような肌焼硬化にもかかわらず、IV族金属は芯部硬度を有する。したがって、芯部硬度は一般に、肌焼硬化前のIV族金属の硬度、例えば表面硬度に相当する。硬度は、一般にDIN EN ISO6507規格に従って測定される。芯部硬度は、一般に特定のIV族金属に依存するが、IV族金属が本発明の方法で処理された場合、表面硬度は芯部硬度より少なくとも200HV0.025単位高くなる。表面硬度は、50gまでの荷重、すなわちHV0.05を使用して分析することが好ましいが、別段の定めがある場合を除き、表面硬度の値はHV0.025である。最大50gの荷重、例えばHV0.01、HV0.025又はHV0.005の表面硬度値は、HV0.025の値も代表的であると考えられる。グレード2のチタンの芯部硬度は、通常約200HV0.025で、グレード5のチタンの芯部硬度は、通常約300HV0.025である。窒化工程では、IV族金属の表面から微小硬度が芯部硬度に50HV0.005を加えたものに等しくなる深さまで延在する拡散ゾーンが得られ、したがって、拡散ゾーンの厚さは、微小硬度が芯部硬度に50HV0.005を加えたものに等しくなる深さからIV族金属の表面までと計算される。
【0023】
一般に、前記深さは、第1の温度及び窒化時間だけでなくNHの分圧にも依存する。第1の温度が高く、窒化時間が長いほど、この深さは大きくなる。一般に、肌焼硬化は、この深さが約1μmのときに既に得られるが、この深さは最大約50μmであることが好ましい。深さは、通常10μm~30μmである。したがって、肌焼硬化したIV族金属又はIV族金属合金における、固溶体中の窒素を含む拡散ゾーンの深さは、最大50μm、例えば10μm~30μmである。拡散ゾーンの微小硬度は、芯部硬度に50HV0.005を加えたものに等しい硬度から表面で観察される硬度まで、例えば約300HV0.005から最大1000HV0.005以上の値まで増加する。特に、表面が(Ti,Zr)N層を有する場合、表面からの深さ2.5μmで、硬度は1000HV0.005~1500HV0.005である。一般に、本発明の方法で処理した加工物、例えば本発明のコンポーネントは、表面硬度が非常に高いが、非常に高い硬度が得られる表面からの深さは、特に深い必要はないため、コンポーネントは、表面からの深さ2.5μmで得られる微小硬度であるHV0.005で説明される。
【0024】
拡散工程では、水素が水素含有拡散ゾーンから拡散される、すなわち水素含有拡散ゾーンから除去される。水素は、一般に、水素含有種の分圧が低い場合に水素含有拡散ゾーンから拡散し、本発明の方法では、拡散工程は、とりわけHの分圧(pH)の観点で特定される。拡散工程は、最大750℃の第2の温度で実施してもよいが、実用的な理由から、第2の温度は通常少なくとも200℃である。例えば、第2の温度は、300℃~750℃、特に600℃~700℃であってもよい。水素含有ガス種、例えばNHは、Hとガス種の他の要素から関連するように他のガスに解離でき、それによりHが拡散工程に含まれていなくてもpHを特定できるため、拡散工程を特定するにはpHが適切である。例えば、図1は、異なる全圧におけるNH:N比の関数としてのpHを示す。特に、pHは可能な限り低くあるべきであり、例えば、pHは最大10-5mbarであってもよく、又はpHは最大10-6mbarであってもよく、拡散工程は真空中で実施してもよい。本明細書では、「真空」は、全圧が最大10-4mbarであることを意味し、pHが最大10-4mbarであれば、その組成は限定されない。窒化工程及び拡散工程の条件は独立して選択できる。Hの分圧は所望のように制御できる。例えば、pHは、全圧が最大10-4mbarであるように全圧と等しくてもよく、又は窒化雰囲気に不活性ガスを補充し、任意に全圧も低減させることによってpHを低減させてもよい。
【0025】
窒化工程及び拡散工程は、同じ炉で実施してもよい。例えば、窒化雰囲気を直接排気して最大10-4mbarのpHを得てもよく、又は炉を排気する前に、窒化雰囲気を不活性雰囲気、例えばN又はアルゴンで置換してもよい。窒化雰囲気を不活性雰囲気で置換すると、NHが炉から除去されるため、十分に低いpHが得られることを保証し易くなる。窒化工程と拡散工程の間に、さらなる工程を含めることも可能である。例えば、窒化工程が実施される炉から加工物を取り出し、周囲温度まで冷却してから、同じ又は別の炉で拡散工程を行ってもよい。水素含有拡散ゾーンからの水素の除去を保証することに加え、拡散工程はまた、格子間窒素及び窒化物層中の窒素を再分布させる。特に、窒素はより深く移動し、その結果、芯部と拡散ゾーンの間の界面をより深く押し込む。例えば、Ti15Zr合金を窒化工程で処理した場合、Ti15Zr合金の硬度は、深さ30μmで400HV0.005未満であったが、Ti15Zr合金に拡散工程を行った場合、硬度は、深さ50μmで400HV0.005未満であった(図2及び図3)。
【0026】
拡散工程では、汚染物質が少量であっても、加工物の表面に望ましくない着色及び他の望まれない影響をもたらす可能性があり、例えば汚染物質は、IV族金属がその金属光沢を保持するのを妨げる可能性があるため、NH及び他の望まれない種、例えばCO、O及びNOの分圧は、拡散工程における全圧を最大10-4mbarになるよう低下させること、及び/又は、それぞれの種の分圧、特にpHの分圧が最大10-4mbarである不活性ガス種のみを含めることによって制御されることが好ましい。NH、そして任意の酸化種、例えばCO、O及びNOの分圧がより低い、例えば最大10-5mbar又は最大10-6mbarであることが特に好ましい。一般に、不活性ガス、例えばアルゴン及びNは、汚染物質、特にOを十分な量で含むため、IV族金属がその金属光沢を保持することを目的とする場合には、非常に純粋な形態の不活性ガスのみが拡散工程に含まれることが好ましい。
【0027】
表面層が(Ti,Zr)Nの場合には金属光沢は得られないが、本発明の方法では、処理後の加工物はその金属光沢を取り戻すことができるため、目視検査によって本発明のコンポーネントを処理前の加工物と区別できない。したがって、加工物が鏡面研磨外観を有する場合、その鏡面研磨外観はこの方法で処理後のコンポーネントにも見いだされる。本明細書では、「鏡面研磨外観」は、ISO1302:2002規格に準拠した算術平均偏差(Ra)粗さが0.1μm未満である表面として定義される。例えば、Ra値は、1.25mmの長さにわたって測定するTaylor-Hubson Surtronic S25を使用して測定できる。鏡面研磨表面は、N3表面と称してもよく、2つの用語は互換的に使用できる。好ましい態様では、IV族金属の加工物は、IV族金属を窒化する前に研磨されて、表面粗さがISO1302:2002規格に準拠して0.1μm未満となる。0.1μm未満の表面粗さは、拡散工程後の加工物でも観察される。さらに、鏡面研磨外観が重要な場合、窒化雰囲気は炭素含有分子を含有してはならない。窒化雰囲気がさらなる炭素含有分子を有さない場合、鏡面研磨外観を保持しながら、商業的に純粋な(CP)チタン、例えばグレード2又はグレード4を、少なくとも1100HV0.005の表面硬度とともに得ることができる。したがって、本発明の方法は、表面硬度が少なくとも1100HV0.005で鏡面研磨外観を有するチタンコンポーネントを提供する。
【0028】
一般に、拡散工程の温度が高いほど、すなわち第2の温度が高いほど、拡散は速くなる。したがって、第2の温度は、望ましくない粒成長を防止しつつ、可能な限り高いことが好ましい。最大700℃の第2の温度が好ましく、例えば、第2の温度は600℃~700℃であってもよい。窒化物層の除去及び保持の両者をカバーする第2の温度と水素除去時間の代表的な組合せを表2に示す。ここで、窒化物層の除去を保証するために、第2の温度は少なくとも600℃でなければならず、水素除去時間は少なくとも4時間でなければならない。
【0029】
【表2】
【0030】
一般に、窒化時間と水素除去時間は組み合わせて検討でき、本発明者らは驚くべきことに、窒化時間が少なくとも12時間、例えば少なくとも16時間である場合、特に650℃~700℃の第1の温度で、十分な量の窒素がIV族金属又はIV族金属合金の加工物に溶解し、窒化物層は、少なくとも600℃の第2の温度で少なくとも4時間の水素除去時間を適用することによって除去でき、窒素拡散ゾーンを保持しながら、窒化物層、特に可視窒化物層をその表面に有さない硬化コンポーネントが得られることを見いだした。特に、本発明の方法は、チタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネントを処理する場合、表面硬度が700HV0.005~2000HV0.005でTiN層を有さないコンポーネントを得ることを提供にする。同様に、ジルコニウム又は少なくとも2wt%のジルコニウムを含有するIV族金属合金のコンポーネントを処理する場合、表面からの深さ2.5μmの硬度が1000HV0.005~1500HV0.005のコンポーネントを得ることができるが、窒化物層を有さないため、その硬度は窒化物層を必要とする。
【0031】
本発明者らは更に驚くべきことに、チタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネントを処理する場合、処理されたコンポーネントは、TiNの表面窒化物層を保持するがTiNを保持しないことを見いだした。したがって、本明細書では、コンポーネントからの窒化物の除去は、チタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネントからのTiNの除去を含まない。TiNはチタン又はチタン合金と視覚的に区別できないのに対して、TiNは金色又は黄色である。同様に、ジルコニウム又はジルコニウム合金の窒化物も金色又は黄色である。金色又は黄色の窒化物層を除去することにより、コンポーネントは、処理前の金属光沢を取り戻すと同時に、窒素拡散ゾーンを更に有することにより硬化する。したがって、本発明は、金属光沢を有するIV族金属、例えばチタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金、ジルコニウム又はジルコニウム合金の硬化コンポーネントを提供する。さらに、このコンポーネントは、IV族金属の窒化物による金色又は黄色を呈さない。
【0032】
一例では、同じ加工物に対して、窒化工程及び拡散工程を繰り返す。窒化工程及び拡散工程は、所望により何回でも繰り返すことができる。一般に、最初の繰り返しは、窒化工程及び拡散工程で1回だけ処理した加工物の表面硬度に比べて、表面硬度を増加させる。
【0033】
任意のIV族金属又はIV族金属合金がこの方法に適切である。特定の態様では、IV族金属は、チタン、チタン合金、ジルコニウム及びジルコニウム合金から選択される。本明細書において、コンポーネントは、IV族金属若しくはIV族金属合金、例えばチタン合金若しくはチタン-ジルコニウム合金で構成されていてもよく、又は他の材料を含んでいてもよい。例えば、コンポーネントは、別の材料、ポリマー、ガラス、セラミック又は別の金属である部分、及びチタン合金又はジルコニウムの外層を有していてもよい。同様に、本発明の方法で処理した加工物も、中心部は別の材料であってもよい。外層は、コンポーネントの外面を完全に覆う必要はない。コンポーネントは、例えば、本発明の方法に従って処理する前に、付加製造又は3D印刷で製造してもよい。
【0034】
本発明者らは、驚くべきことに、IV族金属又はIV族金属合金を硬化させるためにNHを利用した場合、ジルコニウムの存在が利用可能な肌焼硬化に影響を及ぼすことを発見した。IV族金属、例えばチタン又はジルコニウムにかかわらず、NHは、原子N及び原子Hを低温でIV族金属中に拡散させ、水素及び窒素含有拡散ゾーンを形成する。本発明者らは、特に、ジルコニウムが少なくとも2wt%(例.少なくとも3wt%又は少なくとも5wt%)の含有量で存在する場合、ジルコニウム含有IV族金属合金、特にジルコニウム含有チタン基合金は、ジルコニウムを含有しないIV族金属合金、例えばグレード2、グレード4又はグレード5のチタンよりも、少なくとも5倍、例えば約10倍大きい窒素取込みを可能にすることを見いだし、Nを使用して、例えば少なくとも800℃でジルコニウム含有チタン基合金を窒化すると、このような高い窒素取込みが利用できないことを、本発明者らは更に観察した。したがって、ジルコニウム又は少なくとも2wt%(例.少なくとも3wt%又は少なくとも5wt%)のジルコニウムを含有するチタン基合金を、450℃~750℃の第1の温度で、窒化種としてNHを使用して窒化すると、少なくとも800℃で、窒化種としてNを使用して合金を窒化する場合よりも少なくとも5倍大きい窒素取込みがもたらされる。本発明は、ジルコニウム又は少なくとも2wt%のジルコニウムを含有するチタン基合金の窒素取込みをいかに増大させるかという問題に対する解決策を提供する。水素含有拡散ゾーンに溶解した窒素の含有量の増加に加え、窒化工程後にジルコニウム含有チタン基合金の窒化物がチタン基合金の表面に存在し、特定の窒化物は、拡散工程で溶解してもよく、又は改質された形態で保持されてもよい。
【0035】
特定の例では、IV族金属合金は、ジルコニウムであるか、少なくとも2wt%(例.少なくとも3wt%又は少なくとも5wt%)のジルコニウムを例えば他の金属とともに含有するIV族金属合金であり、例えばチタン基合金は、10wt%~20wt%のジルコニウムを含有する。例えば、IV族金属は、少なくとも5wt%のジルコニウムを含むチタン基合金、又はジルコニウム基合金、例えば純粋なジルコニウムであってもよい。代表的なジルコニウム含有IV族金属及びIV族金属合金は、Zr702ジルコニウム、チタン/ニオブ合金、例えばTi13Nb13Zr及びTi15Zr(α合金)である。IV族金属合金、例えばチタン基合金が少なくとも2wt%(例.少なくとも3wt%又は少なくとも5wt%)のジルコニウムを含有する場合、窒化工程は、はるかに多くの含有量の窒素を拡散ゾーンに形成し、また合金がチタン基合金であるか、又はジルコニウム含有IV族金属合金の表面にチタンを含有する場合、窒化ジルコニウム(ZrN)及び窒化チタン(TiN)の窒化物層、例えば(Ti,Zr)Nを形成する。この窒化物層は、拡散工程で保持又は除去できる。特に、ジルコニウム含有量が10wt%~20wt%の場合、深さ2.5μmで少なくとも1000HV0.05の硬度が得られる。
【0036】
窒化工程でジルコニウム含有IV族金属の表面に形成された窒化物層は、拡散工程で保持又は除去できるが、コンポーネントがチタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金の場合、コンポーネントは、第2の温度に関係なくTiNの表面窒化物層を保持するが、TiNは保持しない。一般に、拡散工程を低い第2の温度で実施することにより、窒化物層を保持できる。例えば、窒化物層は、第1の温度よりも顕著に低い第2の温度で拡散工程を実施することによって保持でき、例えば、第1の温度は650℃~700℃であり、第2の温度は400℃~600℃である。したがって、窒化物層を除去する場合、第2の温度は少なくとも600℃でなければならず、窒化物層を保持する場合、第2の温度は最大600℃でなければならない。窒化物層を除去する場合、水素除去時間は窒化物層の除去を保証するのに十分でなければならず、窒化物層を保持しる場合、水素除去時間は窒化物層の除去を防ぐために制限されなければならない。一般に、例えば温度を下げることによって拡散工程を停止し、窒化物層の除去又は保持の進行を検査し、その後拡散工程を再開することが可能である。
【0037】
窒化物層を600℃未満で除去することが可能であるが、これは一般的に、水素除去工程を長時間実施し、窒化物層の除去の状態を監視することを伴う。したがって、特定の例では、水素含有拡散ゾーンから水素を除去する工程は、400℃~600℃の第2の温度を選択すること、及び選択された第2の温度で、IV族金属がチタン又はジルコニウムを含まないチタン合金である場合はTiNを除き、窒化物層の除去を保証するのに十分な水素除去時間にわたって最大10-4mbarのHの分圧(pH)で水素含有拡散ゾーンから水素を除去することを含む。窒化物層の除去は、所望の方法、例えばX線回折(XRD)分析で確認してもよい。一般に、窒化物層は、第2の温度が500℃~550℃の場合、少なくとも48時間の水素除去時間で、又は第2の温度が550℃~600℃の場合、少なくとも24時間の水素除去時間で除去できる。水素含有拡散ゾーンから水素を除去する工程は、例えば、XRD分析で窒化物層の存在を監視することも含んでいてもよい。
【0038】
第2の温度と水素除去時間の特に好ましい組合せは、600℃~650℃と少なくとも4時間(例.最大200時間);650℃~700℃と少なくとも4時間(例.最大100時間);700℃~750℃と少なくとも2時間(例.最大50時間)である。
【0039】
窒化工程及び水素除去工程における最も好ましい条件の組合せは:窒化工程における第1の温度及び窒化時間について、580℃~700℃と少なくとも12時間(例.少なくとも16時間又は少なくとも20時間)、最大100時間、第2の温度及び水素除去時間について、650℃~700℃と少なくとも4時間(例.最大100時間)である。第1の温度が580℃~700℃で、窒化時間が16時間~100時間の場合、十分な量の窒素がIV族金属に溶解され、第2の温度が650℃~700℃で、水素除去時間が4時間~100時間の場合、窒素拡散ゾーンで固溶体中の窒素から得られる硬化を保持しながら、IV族金属がチタン又はジルコニウムを含まないチタン合金である場合はTiNを除き、窒化物層が除去される。
【0040】
他の側面において、本発明は、本発明の方法で得ることができるコンポーネントに関する。したがって、別の側面において、本発明は、ジルコニウム又は少なくとも2wt%(例.少なくとも3wt%又は少なくとも5wt%)のジルコニウムを含有するIV族金属合金のコンポーネントであって、芯部硬度、及び、コンポーネントの表面から微小硬度が芯部硬度に50HV0.005を加えたものに等しくなる表面からの深さまで延在する窒素含有拡散ゾーンを有し、その表面からの深さ2.5μmの硬度が1000HV0.005~1500HV0.005であるコンポーネントに関する。このコンポーネントは窒化物層を含まないが、例えば水素の除去を最大600℃で実施する場合、窒化物層が保持できることも考えられる。
【0041】
表面に窒化物層を更に含むコンポーネントを得ることもできる。窒化物層はZrNを含み、合金中にチタンが存在する場合にはTiNも含む。特に、ZrN及びTiNは混在でき同形であるため、窒化物層は(Ti,Zr)Nと記載できる。窒化物層がコンポーネントに保持される場合、コンポーネントの表面硬度は、一般的に窒化物層が除去される場合よりも高いが、表面付近の拡散ゾーンは、窒素含有量が最も高く、硬度は少なくとも1000HV0.05である。一般に、(Ti,Zr)N層を有するコンポーネントの表面硬度は、1000HV0.005~2000HV0.005である。
【0042】
これらのコンポーネントの例において、拡散ゾーンは、自然に避けられない量の酸素を超える格子間酸素又は溶存酸素を含まず、拡散ゾーンの硬度は溶存窒素含有量に起因する。特に、コンポーネントは、格子間酸素又は溶存酸素を実質的に含まなくてもよい。理論に束縛されることなく、本発明者らは、拡散ゾーンにおける窒素の含有量と拡散ゾーンの硬度の間に直接的な相関があり、ジルコニウム又は少なくとも2wt%(例.少なくとも3wt%又は少なくとも5wt%)のジルコニウムを含有するIV族金属合金の芯部からコンポーネントの表面までの拡散ゾーンにわたって硬度が増加すると考える。コンポーネントは、空気と接触するIV族金属の表面に自然に形成されるナノメートルスケールの酸化物層を除き、酸化物層を含まないことが更に好ましく、そのため、実質的に酸化物層を含まない。しかし、他の例では、コンポーネントの拡散ゾーンは格子間酸素も含む。格子間酸素は、窒化工程での処理の前に、ジルコニウム又は少なくとも2wt%のジルコニウムを含有するIV族金属合金に酸素を溶解させるために加工物を処理することで提供される可能性がある。
【0043】
コンポーネントは、10wt%~20wt%のジルコニウムを含有するチタン基合金に由来するものであることが好ましいが、チタン基合金はまた、さらなる元素を有していてもよい。代表的なIV族金属及び合金には、Zr702ジルコニウム、Ti13Nb13Zr及びTi15Zrが含まれる。
【0044】
別の例では、IV族金属合金は、ジルコニウムを含有しないチタン基合金又は純チタンである。代表的なIV族金属及びIV族金属合金は、商業的に純粋な(CP)チタン、例えばグレード2又はグレード4、Ti6Al4Vとしても公知のグレード5チタン、又はグレード23としても公知のTi6Al4V ELIである。ジルコニウムを含有しないチタン基合金又は純チタンを窒化工程で処理する場合、窒化工程では合金又はチタンにTiNを代表する金色が付与され、拡散工程で処理すると金色が除去され、ジルコニウムを含有しないチタン基合金又は純チタンの処理後の加工物が、窒化処理前の加工物の金属光沢を含む元の外観に戻る。本発明者らは、驚くべきことに、金色の窒化物層はTiN及びTiNの両者を含有するが、拡散工程はTiNを除去することなくTiNを除去することを見いだし、その結果、この方法は、高硬度のTiNの表面窒化物層を提供し(例えば、図5及び図6を参照)、例えば、コンポーネントの表面硬度は、700HV0.005~2000HV0.005、例えば1000HV0.005~1800HV0.005であるが、窒化工程での処理前のジルコニウムを含有しないチタン基合金又は純チタンとコンポーネントを視覚的に区別することはできない。コンポーネントの表面からの深さ2.5μmの微小硬度は、通常700HV0.005~1200HV0.005である。本発明者らは、特に、処理後の加工物のXRD分析により、加工物の表面にTiNの層が存在したことを見いだした。処理後の加工物の代表的なXRDプロットを図6に示す。XRDプロットは、例えば図5の、拡散工程を伴わずに窒化処理後に得られたXRDプロットと比較できる。図6図5の比較は、両者の工程後にTiNが存在するが、拡散工程後に、XRDプロットはTiNのピークをもはや示さないことを示す。TiN層は、加工物が耐スクラッチ性を有するのに十分に硬く、その表面硬度は例えば少なくとも1000HV0.005である。したがって、本発明は、金属光沢を有するチタン又はチタン合金の耐スクラッチ性加工物を提供する。
【0045】
別の側面において、本発明は、チタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネントであって、芯部硬度、及び、コンポーネントの表面から微小硬度が芯部硬度に50HV0.005を加えたものに等しくなる表面からの深さまで延在する窒素含有拡散ゾーンを有し、TiNの層、特にTiNの表面窒化物層を有する表面を有するコンポーネントに関する。コンポーネントの表面硬度は、700HV0.005~2000HV0.005である。TiNの層は、450℃~750℃の第1の温度で、少なくとも12時間、例えば少なくとも16時間の窒化時間にわたって窒化工程でNHを用いて加工物を窒化し、その後600℃~750℃の第2の温度及び最大10-4mbarのHの分圧で、少なくとも4時間の水素除去時間にわたって拡散工程を続けることによって得ることができる。表面はTiNを含まないことが好ましい。特に、TiN及びTiNの両者はXRDで識別でき、特定の例では、コンポーネントはXRDで識別可能なTiNを含む。別の例では、コンポーネントはXRDで識別可能なTiNを含まない。コンポーネントがXRDで識別可能なTiNを含みTiNを含まないことが、最も好ましい。
【0046】
コンポーネントが金色を呈さず、また金属光沢を有することが更に好ましい。例えば、コンポーネントは、ISO1302:2002規格に準拠した算術平均偏差(Ra)粗さが0.1μm未満の表面として定義される鏡面研磨外観を有していてもよい。
【0047】
チタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネントの例では、拡散ゾーンは格子間酸素又は溶存酸素を含まず、特にコンポーネントは、格子間酸素又は溶存酸素を実質的に含まなくてもよく、拡散ゾーンの硬度は、窒素含有量に起因する。理論に束縛されることなく、本発明者らは、チタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金の芯部からコンポーネントの表面までの拡散ゾーンにわたって硬度が増加するように、拡散ゾーン中の窒素の含有量と拡散ゾーンの硬度の間に直接的な相関があると考える。しかし、別の例では、コンポーネントの拡散ゾーンは格子間酸素も含む。格子間酸素は、窒化工程での処理前又は拡散工程での処理後に、チタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金中に酸素を溶解させるために、加工物を処理することで提供される可能性がある。
【0048】
コンポーネントは、表面に耐スクラッチ性を付与するTiNの表面層を有する。一般に、表面の硬度が少なくとも1000HV0.025の場合に、耐スクラッチ性があるとみなされる。コンポーネントの表面硬度は、例えば700HV0.005~2000HV0.005、例えば1000HV0.005~1800HV0.005であってもよい。コンポーネントの表面硬度は1000HV0.005~1800HV0.005で、ISO1302:2002規格に準拠した鏡面研磨であることが特に好ましい。
【0049】
本発明の任意の態様は、本発明の任意の側面で使用されてもよく、特定の態様の任意の利点は、一態様が特定の側面で使用される場合に同様に適用される。
【0050】
以下では、実施例を援用して概略図を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、異なる全圧におけるNH:N比の関数としてのpHを示す。
図2図2は、NHを使用して硬化したTi15Zrの硬度プロファイルを示す。
図3図3は、本発明の方法に従って硬化したTi15Zrの硬度プロファイルを示す。
図4図4は、本発明の方法に従って硬化したTi15Zrの硬度プロファイルを示す。
図5図5は、NHを使用して硬化したTi6Al4VのXRD分析を示す。
図6図6は、本発明の方法に従って硬化したTi6Al4VのXRD分析を示す。
図7図7は、本発明の方法に従って硬化したチタンの硬度プロファイルを示す。
図8図8は、NHを使用して硬化したチタンの断面の顕微鏡画像を示す。
図9図9は、本発明の方法に従って硬化したチタンの断面の顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
詳細な説明
本発明は、図面に示した態様に限定されない。したがって、特許請求の範囲で言及された特徴の後に参照符号が続く場合、そのような符号は、特許請求の範囲の分かりやすさを向上させる目的のみで含まれており、決して特許請求の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0053】
本発明は、IV族金属又はIV族金属合金、ジルコニウム又は少なくとも2wt%のジルコニウムを含有するIV族金属合金のコンポーネント、及びチタン又はジルコニウムを含有しないチタン基合金のコンポーネントを肌焼硬化する方法に関する。このコンポーネントは、本発明の方法で得ることができる。
【0054】
本明細書において、「IV族金属」は、元素周期表のチタン族から選択される任意の金属、又はチタン族からの金属を少なくとも50%含む合金である。したがって、「チタン合金」は、少なくとも50%(a/a)のチタンを含有する合金であり、同様に「ジルコニウム合金」は、少なくとも50%(a/a)のジルコニウムを含有する合金である。本発明の方法及び本発明のコンポーネントの場合、チタンとジルコニウムの合計が少なくとも50%(a/a)の合金が適切であるとみなされる。同様に、合金はまた、チタン、ジルコニウム及びハフニウムの合計が少なくとも50%(a/a)の任意の合金が本発明に適切であり、元素周期表のIV族のメンバーであるハフニウムを含んでいてもよい。
【0055】
本発明の合金は、他の適切な元素を含有してもよく、本明細書において、「合金元素」は、合金中の金属成分若しくは元素、又は合金中の任意の構成成分を指してもよい。チタン及びジルコニウム合金は当業者に周知である。IV族金属の合金は、元素周期表の他の族からの金属、例えばアルミニウム又はニオブを含んでいてもよい。代表的なニオブ含有合金はTi13Nb13Zrである。アルミニウム含有合金は、一般にグレード23と称される「超低侵入型」(ELI)バージョンのTi6Al4V ELIとして存在するTi6Al4V(グレード5)である。さらなる重要な合金は、チタン6Al-2Sn-4Zr-6Mo、チタン6Al-2Sn-4Zr-2Mo、Ti-3Al-8V-6Cr-4Mo-4Zr(TB9)、Ti-5Al-2.5Sn(グレード6)、Ti-3Al-2.5V(グレード9)、Ti-15V-3Al-3Sn-3Cr、Ti-23Nb-0.7Ta-2Zr-1.2O(ゴムメタル)、Ti-6Al-7Nb、Ti-15Zr-4Nb-4Ta、Ti-35Nb-7Zr-5Ta、Ti-29Nb-4.6Zr-13Ta、Ti-15Mo-5Zr-3Al、Ti-15Moである。
【0056】
少なくとも約99%(w/w)のチタンを含有するチタンの任意のグレードは、本明細書では、「純チタン」、例えばグレード1チタン、グレード2又はグレード4チタンであるとみなされる;したがって、純チタンは、最大約1%(w/w)の微量元素、例えば酸素、炭素、窒素又は他の金属(例.鉄)を含有していてもよい。純チタンはまた、「商業的に純粋」(CP)と称してもよい。特に、本明細書におけるIV族金属に含まれる窒素及び炭素は、不可避の不純物となる可能性がある。「不可避の不純物」として存在する元素は、本発明の方法に従って処理された加工物又は本発明のコンポーネントに影響を与えないとみなされる。同様に、少なくとも約99%(w/w)のジルコニウムを含有するジルコニウムのグレードは、本明細書では、「純ジルコニウム」とみなされる。
【0057】
金属又は合金でパーセンテージが使用される場合、別段の定めがある場合を除き、パーセンテージは材料の重量に対する重量で、例えば%(w/w)と表記される。雰囲気でパーセンテージが使用される場合、別段の定めがある場合を除き、パーセンテージは体積によるもので、例えば%(v/v)と表記される。同様に、別段の定めがある場合を除き、ガスの混合物の組成は原子ベースであってもよく、その場合、パーセンテージとして又はppm(百万分率)単位で示されてもよい。
【0058】
本明細書において、硬度は、一般にDIN EN ISO6507規格に従って測定されるHV0.005又はHV0.025である。したがって、別段の定めがある場合を除き、単位「HV」はこの規格を指す。硬度は、例えば処理されたIV族金属の断面について測定してもよく、測定の深さに関して記載してもよい。断面での硬度測定値は「微小硬度」とも称してもよく、表面での硬度測定値は「マクロ硬度」とも称してもよい。硬度を表面で測定する場合、硬度測定値はトップダウン測定値とも称してもよい。
【0059】
一般に、微小硬度測定は、5g、すなわちHV0.005、25g、すなわちHV0.025、又は50g、すなわちHV0.05の荷重で実施してもよい。対照的に、マクロ硬度測定は、はるかに高い荷重、例えばHV0.5に相当する0.50kgで表面から実施してもよく、それ故、測定値は、それぞれの材料及びそれが含有するあらゆる表面層の硬度の全体的な値を表す。この明細書では、例えば本発明の方法に従って製造したコンポーネントの断面で得られる微小硬度測定は、5gの荷重、すなわちHV0.005で実施され、表面硬度値は25gの荷重、すなわちHV0.025を使用してトップダウン測定値として得られる。
【0060】
硬度が断面で記録する場合、測定値は、圧力が加えられた方向に関して均質な試料を表す考えられる。対照的に、硬度が表面での測定から得られる場合、測定値は複数の異なる硬度の値、すなわち異なる深さでの硬度の値の平均を表してもよい。したがって、表面硬度が高荷重、例えば0.50kgで測定される場合、値は、表面及び表面からの深さの両者の「平均」値を示すとみなすことができる。表面硬度は25g又は50gの荷重で測定することが好ましい。25gの荷重で表面硬度を測定する場合、650HV0.025の値が、材料が耐スクラッチ性であることを示すと考えられる。窒素が表面から溶解することの影響として、溶存窒素の含有量は表面からIV族金属の芯部に向かって減少し、同様に硬度も表面で最大となり、深さとともに減少する。
【実施例
【0061】
実施例1
Ti15Zr合金の2つの試料を準備し、Netzsch449熱分析装置(炉)を用いNHで窒化した。試料を20℃/分で690℃に加熱し、周囲圧力で20時間NHに曝露した。2つの試料を周囲温度まで冷却し、一方の試料はそれ以上処理しなかった。他方の試料は、その後、真空中で、すなわちEdwards85T-stationターボ真空ポンプを用いて得た全圧10-4mbar未満で4時間、690℃で処理した。
【0062】
どちらの試料も、窒化工程で金色の表面が得られたが、その後の拡散工程で金色が消滅した。したがって、窒化物層が除去され、窒化物層に存在する窒素が拡散ゾーンに溶解した。
【0063】
処理後の試料の硬度(HV0.005)を分析し、硬度プロファイルを図2及び図3に示す。図2及び図3で、エラーバーは平均からの1標準偏差を表す。いずれの場合も、処理により表面から2.5μmで1100HV0.005を超える硬度が得られた(図2図3)。本発明に従って処理した試料では、深さ約50μmで初めて400HV0.005未満の芯部硬度に到達した(図2)。拡散工程を行わなかった試料では、この硬度400HV0.005未満は、30μmで既に到達していた(図3)。
【0064】
この硬度は、ジルコニウムを含有しない従来のチタン合金に比べて、ジルコニウム含有チタン合金では10倍を超える多くの窒素が取り込まれたことに相当する。
【0065】
さらに、窒化工程では、試験体の粒内及び粒界に針状水素化物が形成された。拡散工程後、拡散工程での水素の除去及び針状水素化物の変態の結果として、バルクに新しいα粒の形成を見ることができた。したがって、本発明の方法は処理した金属の粒を微細化する。
【0066】
実施例2
Ti13Zr13Nbの試料を準備し、Netzsch449熱分析装置を用いNHで窒化した。試料を20℃/分で690℃に加熱し、周囲圧力で20時間NHに曝露した後、真空中で、すなわち全圧10-4mbar未満で4時間、690℃で処理した。窒化処理後、試料は金色を呈し、これはその後の拡散工程で消滅した。したがって、窒化物層が除去された。表面から2.5μmの硬度は1100HV0.005を超え、表面から約35μmの深さで500HV0.005未満の芯部硬度に到達したことが、硬度プロファイルから明らかになった。
【0067】
実施例3
Ti15Zrの試料を準備し、Netzsch449熱分析装置を用いNHで窒化した。試料を20℃/分で690℃に加熱し、周囲圧力で20時間NHに曝露した後、試料を真空中で、すなわち全圧10-4mbar未満で24時間、550℃で処理した。窒化処理後、試料は金色を呈し、これはその後の拡散工程で保持された。したがって、窒化物層は保持された。硬度プロファイルを図4に示す。表面硬度が1200HV0.025を超え、表面から2.5μmの硬度が1100HV0.005を超える。図4は、エラーバーは平均からの1標準偏差を表す。硬度プロファイルは、処理後の試料の表面硬度が非常に高いことを示す。
【0068】
実施例4
Ti13Zr13Nbの試料を準備し、Netzsch449熱分析装置を用いNHで窒化した。試料を20℃/分で690℃に加熱し、周囲圧力で20時間NHに曝露した後、試料を真空中で、すなわち全圧10-4mbar未満で24時間、550℃で処理し、このようにして拡散工程で窒化物層を保持した。同様に、処理後の試料は窒化工程で金色になり、この金色は拡散工程後にも視認可能であった。処理後の試料の表面硬度は1000HV0.025を超え、表面から2.5μmでの硬度は900HV0.005を超えた。表面から約40μmで400HV0.005未満の芯部硬度に到達した。
【0069】
実施例5
Ti6Al4V(α-β合金)の2つの試料を、Netzsch449熱分析装置で、周囲圧力で700℃において16時間NHで窒化した。処理により、表面硬度が2000HV0.005を超える窒化物層が得られた。窒化物層は金色を呈し、X線回折(XRD)分析を行った。XRDプロットを図5に示し、これによりTiN及びTiNの存在が裏付けられる。
【0070】
窒化試料の1つに拡散工程を行った。具体的には、試料を真空中で、すなわちEdwards85T-stationターボ真空ポンプによって得られた全圧10-4mbar未満で16時間、680℃で処理した。窒化物層は拡散工程で金色を失った。再びXRD分析を行い、その結果を図6に示す。図6図5の比較により、TiNは消失したが、TiNは依然として検出されたことが証明される。
【0071】
本発明に従って処理した試料は、拡散工程に曝露されなかった試料(すなわち、硬度が2000HV0.005を超える)と比較して、1300HV0.005を超える硬度と表面硬度が低下したが、このような硬度の低減にもかかわらず、耐スクラッチ性をもたらすには十分であった。さらに、表面から金色が除去されたことで、初期状態と同一の、はるかに魅力的な金属外観が得られた。拡散工程で窒素が再分布される間に水素が除去され、それにより水素脆化のリスクが大幅に低減された。
【0072】
実施例6
商業的に純粋な(CP)チタンの2つの試料を準備し、Netzsch449熱分析装置によりNHで窒化した。試料を20℃/分で690℃に加熱し、周囲圧力で20時間NHに曝露した後、一方の試料を真空中で、すなわち全圧10-4mbar未満で4時間、690℃で処理し、他方の試料はそれ以上の処理を行わなかった。
【0073】
窒化工程によって金色の表面が得られ、これはその後の拡散処理で消失したため、本発明の2工程の方法による処理後に、TiNは存在しないことが証明された。
【0074】
本発明の方法によって処理された試料の硬度プロファイルを図7に示す。表面硬度は1200HV0.005を超え、表面から2.5μmでの硬度は800HV0.005を超えることから、試料に耐スクラッチ性が付与されたことが明らかである。表面から約20μmで300HV0.005未満の硬度に到達した。図7で、エラーバーは平均からの1標準偏差を表す。
【0075】
2つの試料を切断して断面を暴露させ、これを微視的に分析し、図8及び図9に示す。図8は、窒化工程での処理後に針状水素化物が視認可能であることを明確に示しており、図9は、拡散処理で針状水素化物が消失したことを明確に示し、それにより拡散工程で水素が除去されたことが証明される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】