(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-22
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04746 20160101AFI20240215BHJP
H01M 8/04225 20160101ALI20240215BHJP
H01M 8/04302 20160101ALI20240215BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20240215BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20240215BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20240215BHJP
H01M 8/126 20160101ALI20240215BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240215BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20240215BHJP
H01M 8/04791 20160101ALI20240215BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04225
H01M8/04302
H01M8/04858
H01M8/04701
H01M8/0432
H01M8/126
H01M8/12 101
H01M8/1213
H01M8/04791
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553635
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(85)【翻訳文提出日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2022055150
(87)【国際公開番号】W WO2022184712
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508359550
【氏名又は名称】セレス インテレクチュアル プロパティー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】マクニコル,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ポストレスウェイト,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ハーマン,ジョナサン デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ミクッチ,ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】バラリ,ファルザド
(72)【発明者】
【氏名】ピライ,アヌパマ
(72)【発明者】
【氏名】マクローン,マイケル ジェームス
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H126GG13
5H127AA07
5H127AC07
5H127BA02
5H127BA13
5H127BA28
5H127BA36
5H127BA57
5H127BA58
5H127BB02
5H127DA01
5H127DB47
5H127DC02
5H127DC03
5H127DC09
5H127DC43
5H127DC44
5H127DC74
(57)【要約】
燃料電池システム(200、300)及び燃料電池システム(200、300)を作動するための方法。燃料電池システム(200、300)は、アノード入口(226)及びアノード出口(227)と;スタック(205)を加熱するための手段と;アノード出口(227)からアノード入口(226)へアノードオフガスを再循環させるガス流路を提供するように構成されたアノードオフガス再循環ループ(240)と;コントローラ(290)とを備える。方法は、燃料電池システム(200、300)の始動時に、スタック(205)を第1の閾値温度まで加熱することと;スタック(205)が第1の閾値温度を超えると、未改質炭化水素燃料を燃料供給部(225)から第1の燃料流量でアノード入口(226)に供給するが、スタック(205)が第1の閾値温度を超える前は供給しないことと;未改質燃料をアノード入口(226)に供給しながら、アノード出口(227)からアノード入口(226)にアノードオフガスを再循環させることと;アノードオフガスを再循環させながら燃料電池システム(200、300)から電流を引き出すこととを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムを作動させる方法であって、前記燃料電池システムは、スタック内に配置された複数のセルユニットを備え、各セルユニットは、電解質によって分離されたアノード及びカソードを備え、前記燃料電池システムは、各セルユニットへアノード入口ガスを供給するためのアノード入口と、各セルユニットからアノードオフガスを除去するためのアノード出口とを備え、本方法は、前記燃料電池システムの始動時に、
前記スタックを第1の閾値温度まで加熱することと、
前記スタックが前記第1の閾値温度を超えると、未改質炭化水素燃料を燃料供給部から第1の燃料流量で前記アノード入口に供給するが、前記スタックが前記第1の閾値温度を超える前は供給しないことと、
未改質燃料を前記アノード入口に供給しながら、前記アノード出口から前記アノード入口にアノードオフガスを再循環させることと、
前記アノードオフガスを再循環させながら前記燃料電池システムから電流を引き出すことと
を含む方法。
【請求項2】
スタック温度を監視することと、前記スタック温度が前記第1の閾値温度よりも高い第2の閾値温度に達したときに、前記未改質炭化水素燃料の燃料流量及び電流引き出し量を増加させることと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電流が、前記燃料電池の電圧を電圧閾値より上に維持しながら引き出される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電圧閾値が0.6~0.8Vの間である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アノード及び前記電解質の少なくとも一方がセリアを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アノードがCGOを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電解質がCGOを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
第1の閾値温度を超える始動中に供給される未改質炭化水素燃料が、定常動作中に前記アノード入口に供給される未改質炭化水素燃料と同じ組成を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の閾値温度が400~500℃、より好ましくは400~450℃の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
アノードオフガスを再循環させることにより、前記スタックによって生成された水が前記スタックの前記アノード入口に供給され、前記方法は、各セルユニットと隣接するセルユニットとの間に位置決めされた改質触媒において、前記再循環された水を用いて前記未改質炭化水素燃料を改質することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
シャットダウン手順をさらに含み、前記シャットダウン手順は、前記スタック電圧を閾値より上に維持しながら、前記未改質炭化水素燃料の燃料流量及び前記電力引き出し量を低減することを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記スタック温度が前記第1の閾値温度未満になったときに前記未改質炭化水素燃料の供給を停止し、前記スタック温度が前記第1の閾値温度未満になる前は停止しないことをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
燃料電池システムであって、
スタック内に配置された複数のセルユニットであって、各セルユニットは、電解質によって分離されたアノード及びカソードを備え、前記燃料電池システムは、各セルユニットへアノード入口ガスを供給するためのアノード入口、及び各セルユニットからアノードオフガスを除去するためのアノード出口を備える、複数のセルユニットと、
前記スタックを加熱するための手段と、
前記スタックの温度を測定するための手段と、
未改質炭化水素燃料の供給部に接続するように構成され、前記未改質炭化水素燃料を前記アノード入口に供給するように構成された燃料入口と、
前記アノード出口から前記アノード入口へアノードオフガスを再循環させるガス流路を提供するように構成されたアノードオフガス再循環ループと、
前記燃料電池システムから電流を引き出すための手段と、
前記測定手段から入力を受け取り、前記再循環ループ及び前記電流を引き出すための手段に出力を提供するように構成されたコントローラであって、前記再循環ループ、前記未改質炭化水素燃料の供給部、及び前記電流を引き出すための手段を、全て前記測定手段に応答して制御するためのコントローラとを備え、
外部源から前記燃料電池システムへ水を供給するように構成された手段はない、
燃料電池システム。
【請求項14】
前記アノードオフガス再循環ループが、前記アノードオフガス再循環ループ内のアノードオフガスの流量を変化させるように構成された手段であって、前記測定するための手段及び前記電流を引き出すための手段に応答して前記コントローラによって制御される手段を備える、請求項13に記載の燃料電池システム。
【請求項15】
前記アノードオフガス再循環ループが、前記アノード出口から、ヒータセクション、アノードオフガスを未改質炭化水素燃料と混合するように構成された混合セクションを経由して、前記アノード入口に至るアノードオフガスの流路をさらに備える、請求項14に記載の燃料電池システム。
【請求項16】
前記スタック内の各セルユニットが、相互接続構造によって隣接するセルユニットから分離され、前記相互接続構造は、前記隣接するセルユニットの前記アノードに面し且つそれと流体連通する側にコーティングを有し、前記コーティングは、前記未改質炭化水素燃料を前記スタック内で使用するための水素に改質するように構成された改質触媒を含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項17】
前記電解質が酸素イオン輸送を可能にする、請求項13~16のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項18】
前記アノード及び前記電解質の少なくとも一方がセリアを含む、請求項13~17のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項19】
前記アノードがCGOを含む、請求項18に記載の燃料電池システム。
【請求項20】
前記電解質がCGOを含む、請求項18又は19に記載の燃料電池システム。
【請求項21】
前記コントローラが、前記燃料電池システムの始動を制御するように構成され、前記コントローラは、
第1の閾値温度までの前記スタックの加熱を制御し、
前記アノード入口への未改質炭化水素燃料の供給を制御し、第1の閾値温度に達したと前記コントローラが判断したときに非ゼロの燃料流を提供し、判断する前は提供せず、
前記アノードオフガス再循環ループ内のアノードオフガスの流量を第1の非ゼロ流量で制御し、及び
前記燃料電池から電流を引き出すことを可能にする、
ように構成される、請求項13~20のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項22】
前記コントローラがさらに、前記アノード入口への未改質炭化水素燃料の供給を漸増させ、前記電流引き出しを漸増させて、温度及び電流を定常状態まで上昇させるように構成される、請求項21に記載の燃料電池システム。
【請求項23】
前記コントローラが、前記燃料電池の電圧を閾値電圧より上に維持しながら、前記アノード入口への未改質炭化水素燃料の供給、前記アノードオフガス再循環ループ内のアノードオフガスの流量、及び電流引き出し量を調整するように構成される、請求項21又は22に記載の燃料電池システム。
【請求項24】
前記コントローラが、(a)前記アノードと連通するガスの酸素対炭素比、及び(b)前記スタックの温度、を制御するように構成される、請求項21~23のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項25】
アノード入口温度及びアノード出口ガス温度の一方又は両方を示す信号を受信し、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法に従って、アノードオフガス再循環ループを通るアノードオフガスの流量を制御するように構成されたコントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム及び方法に関し、特に燃料電池システムの始動及びシャットダウンに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、燃料電池スタック、燃料電池スタックアセンブリ、及び熱交換器システム、配置、及び方法に関する教示は、当業者に周知であり、特に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる本出願人の国際公開第2015004419A号パンフレットを含む。本明細書で使用される用語の定義は、上記公告に必要に応じて見出すことができる。特に、本発明は、国際公開第2015004419A号パンフレットに開示されたシステム及び方法を改善しようとするものである。
【0003】
本発明は、炭化水素燃料が燃料電池スタックのアノード入口に供給される燃料電池システム及びそのシステムの作動方法に関する。
【0004】
典型的な燃料電池は、燃料及び酸化剤の形態にある化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。燃料電池によって使用される燃料は水素ガス及び酸化剤酸素であり得、排気ガスは水に限られる。燃料電池システムは天然ガスで作動させるのが好ましく、その場合、天然ガスは燃料電池システム内で水素に改質される。そのためには、天然ガスを水素に改質するための水の供給が必要である。
【0005】
燃料電池スタックが450~650℃の範囲(中間温度固体酸化物形燃料電池:IT-SOFC)、特に520~620℃の温度範囲で動作する炭化水素燃料燃料電池(例えばSOFC(固体酸化物形燃料電池))システムの作動では、一連の困難な技術的問題が発生する。
【0006】
このようなシステムでは、改質器での水蒸気改質が一般的に使用され、炭化水素燃料ストリーム(天然ガスなど)を水素リッチな改質液ストリームに変換して燃料電池スタックのアノード入口に供給する。国際公開第2015004419A号パンフレットは、炭化水素燃料を水素リッチな改質液ストリームに改質してからスタックのアノード入口に供給する、1つのこのようなシステムを開示している。このようなシステムでは、改質器内で炭化水素燃料を改質するために蒸気の供給が行われる。このため、水の供給部(例えばタンク)と、液体の水を加熱して蒸気にする手段が必要であり、この蒸気は、始動時(例えば周囲温度からの)及び定常運転の間(すなわち、動作温度で燃料電池システムから電流が引き出されている時)に使用することができる。燃料電池システムが定常状態で使用されている場合、燃料電池自体が水を生成し、この水はスタックから除去され、改質器で使用される可能性がある。システムは、水タンクの補給、及びその後の改質器での使用のために、オフガスから水を分離するために凝縮器を利用することがある。
【0007】
典型的な始動シーケンス(例えば周囲温度からの始動)では、スタックと改質器を加熱し、スタックから電流を引き出す前に一定時間、改質器とスタックに蒸気/燃料ストリームを供給する。蒸気は、別個の脱イオン水供給部と蒸気発生装置を経由して改質器に供給される。これにより、改質器内で水蒸気/メタン改質(SMR)反応が起こり、燃料電池反応のために水素が放出され、アノードの酸化を防ぐためにアノード上に還元雰囲気が提供される。供給部内の蒸気の改質器へ供給は、改質器内(及びスタック内)の炭素析出反応に熱力学的に不利な状態を提供する。炭素析出反応には、Bouduard反応(2CO<->CO2+C)、CO還元反応(H2+CO<->H2O+C)、及びメタン分解反応(CH4<->2H2+C)などがある。これらの反応は炭素の蓄積につながり、炭素の蓄積は、システムの寿命を通して、燃料電池のアノード及び/又は改質触媒の不活性化につながり、燃料供給チャネルの閉塞につながる可能性がある。次にこれが燃料の枯渇につながる。燃料電池システムの始動時及び定常状態における状態は、通常、このような炭素析出反応を回避するように設計されている。このような反応による炭素析出速度は低温の方が低いが、低温では別の問題が生じる。例えば、炭化水素燃料が燃料電池システム内のニッケル含有構成要素の上に流れると、潜在的に危険なニッケルテトラカルボニル(NiCO4)が形成される恐れがある。
【0008】
水タンクと、液体の水を加熱して蒸気にする手段を取り除いたいくつかの燃料電池システムも提案されている。これらのシステムの中には、改質器に加えて部分酸化(POX)反応器を使用し、炭化水素燃料供給源から水素リッチストリームを生成してアノード入口に供給するものもある。特開2012-243564号は、このようなシステムの一例であり、炭化水素燃料供給が酸化剤を用いてPOX反応器内で部分酸化され、水素分子と一酸化炭素を生成する。特開2012-243564号では、POX反応器の出力は蒸気改質器に供給され、その後、スタックのアノード入口に供給される。このようなシステムは、水の供給を必要としないため、始動時にPOX反応器を利用する。特開2012-243564号では、システムの始動の間POXによって生成された水素は燃料電池スタックによって利用され、そこで生成された水は炭化水素燃料を改質するためにPOX反応器と蒸気改質器に再循環させることができる。これにより、水の供給なしで始動することができるが、POX反応器が必要となる。米国特許出願公開第2005181247A号、国際公開第03092102号パンフレット、及び国際公開第03065488号パンフレットは、同様のシステムのさらなる例であり、場合によっては外部蒸気供給を用いて、始動の間改質器をPOX反応器として使用する。
【0009】
独国特許第102009053839号及び特開2009-099264号などの他のシステムは、炭化水素燃料を供給源から燃焼器(例えばバーナ)に仕向けることによって始動し、改質器において燃焼生成物中の水を利用して炭化水素燃料を水素に改質し、燃料電池スタックのアノードに供給する。
【0010】
米国特許出願公開第2018/145351 A1号は、燃料電池システムのシャットダウン手順に関する。米国特許出願公開第2018/145351 A1号は、燃料流量及び蒸気流量(燃料と蒸気が混合され、アノード再循環ループを介してアノードに供給される)と、燃料電池スタックから引き出される電流と、燃料電池スタックの温度との関係を使用して、燃料電池システムのシャットダウン中にアノードの酸化及び炭素析出を低減しようとする。蒸気は燃料電池システムの外部の源から供給される。燃料電池スタックのアノードから排出されるアノードオフガスは、燃料と蒸気を搬送する管に戻され、それらと混合される。混合ガスの一部はアノード再循環ループによってアノード入口に供給され、残りは排気として燃料電池システムから排出される。この部分は、シャットダウン時のアノードの酸化と炭素析出を低減するために使用される関係の部分ではない。
【0011】
燃料電池システムの始動のために一時的に水素を供給するシステムもある。独国特許第102013226305号は、1つのそのような例を提供している。この特許は、燃料電池システムの始動時に使用する水素を貯蔵する金属水素化物貯蔵タンクを提供している。
図1は、独国特許第102013226305号に基づいて描かれた。
図1は、炭化水素燃料供給部20、改質器14、金属水素化物貯蔵タンク24、及び燃料電池12を備える燃料電池システム10を示している。燃料は、アノード入口18で燃料電池のアノード側に供給される。アノードオフガスは、燃料電池12のアノード出口から排気ガス再循環ライン26を介して改質器14に再循環(28)させることができる。アノード入口18に供給される燃料は、バルブ32を使用して、改質器からの改質炭化水素供給と、ポンプ34を介した金属水素化物貯蔵タンク24からの水素供給との間で切り替えることができる。
図1の燃料電池システムの始動の間、金属水素化物貯蔵タンク24からの水素が燃料電池に供給される。アノードオフガスは改質器に再循環され、そこでその水分が炭化水素燃料の改質に使用され、改質された燃料は定常運転中に燃料電池のアノード入口18に供給される。アノードオフガスの一部は、出口22を介してシステムから排出される。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、燃料電池システムに必要な構成要素の数を減らし、それによってサイズ、重量及び/又はコストを削減することである。
【0013】
本発明は、従来技術の欠点の少なくとも1つに対処、克服、又は緩和しようとするものである。
【0014】
第1の態様によれば、燃料電池システムを作動させる方法が提供され、燃料電池システムは、スタック内に配置された複数のセルユニットを備え、各セルユニットは、電解質によって分離されたアノード及びカソードを備え、燃料電池システムは、各セルユニットへアノード入口ガスを供給するためのアノード入口と、各セルユニットからアノードオフガスを除去するためのアノード出口とを備え、本方法は、燃料電池システムの始動時に、スタックを第1の閾値温度まで加熱することと、スタックが第1の閾値温度を超えると、未改質炭化水素燃料を燃料供給部から第1の燃料流量でアノード入口に供給するが、スタックが第1の閾値温度を超える前は供給しないことと、未改質燃料をアノード入口に供給しながら、アノード出口からアノード入口にアノードオフガスを再循環させることと、アノードオフガスを再循環させながら燃料電池システムから電流を引き出すこととを含む。
【0015】
燃料電池システムの始動方法は、外部(スタックに対して)の改質器、水供給部、部分酸化反応器、及び燃焼器を使用することなく、未改質炭化水素燃料を使用して始動することを可能にする。これにより、燃料電池システムの構成要素の数が大幅に削減され、それによってコスト及び複雑さが軽減される。
【0016】
この方法は、始動方法の早い段階で燃料電池システムから電流を引き出すことを可能にする。電流の引き出しは、燃料電池の反応が進行中であり、副生成物の1つとして水を生成していることを意味する。この水は、炭素生成の割合を低下させる可能性がある(例えば、燃料電池の残りの部分を通過したり、アノードオフガスに再循環されたりするため)。一般的に、酸素イオン輸送を可能にする電解質の場合、水は電解質の燃料側(すなわちアノード側)で生成され、炭素析出を減少させる。
【0017】
未改質炭化水素燃料をアノード入口に供給し、アノードオフガスをアノード出口からアノード入口に再循環させることで、アノード入口への水素燃料供給を使用することなく燃料電池システムを始動(休止状態又は低温状態から運転を開始)することができる。休止状態とは、スタックが最低温度より上に保たれた待機状態のことであり得る。低温状態とは、周囲温度で存在することであり得る。
【0018】
燃料電池システムには通常、熱を加えると炭化水素燃料を分解する構成要素が含まれている。炭化水素燃料を使用するほとんどの燃料電池システムは、炭化水素燃料に蒸気を加え、それに伴う炭素析出による分解を回避しようとするが、この場合、分解は、各セルユニットのアノードで使用する水素の製造を可能にするので有利である。このように、蒸気の供給部の使用なしに、燃料電池反応に使用する水素を製造することができる。試験データでは、500サイクルにわたってスタック内の炭素の蓄積はごくわずかである、第1の態様の方法を用いた信頼性の高い始動が示されている。
【0019】
アノードオフガスをアノード入口に再循環させながら、また未改質炭化水素燃料をアノード入口に供給しながら、燃料電池(すなわちセルユニットのスタック)から電流を引き出す。このとき、各セルユニットは電気化学的燃料電池反応に従って動作し、アノードで水を生成する。この水は蒸気の形態である。この水はアノードオフガスの成分であるため、アノードオフガスを再循環させることによりアノード入口に供給され、スタック内のセルユニットに供給され、そこでその水(蒸気)はセルユニットで使用するために未改質炭化水素燃料を水素(及び一酸化炭素)に改質する際に使用され得る。再循環は、電流を引き出し始める前に開始してもよいし、電流を引き出し始めると同時に開始してもよいし、電流を引き出し始めた直後に開始してもよい。再循環は、発生した蒸気がアノードに到達する時間を最短にするため、電流を引き出し始める前に開始されてもよい。
【0020】
電流を引き出せるようになった結果、スタックによって水が生成される。水は蒸気の形態で生成され、その蒸気はアノードの出口からアノードの入口に再循環される。言い換えると、これは燃料電池ユニットによって生成された水をスタックに戻す。スタックには、蒸気改質を触媒して未改質炭化水素燃料を水素に改質する様々な成分が含まれている可能性があり、水素は燃料電池ユニットによって電流を供給するために使用される。つまり、スタック内で燃料の改質に使用される水はすべてスタック内で生成されるため、蒸気改質に水の供給源(例えば、水タンク、凝縮器、及び/又は浄化手段を備えた水の外部供給部)は必要ない。
【0021】
アノード入口に供給される未改質炭化水素燃料と同様に、アノード出口からアノード入口に再循環されるアノードオフガスは、改質器を通過しない。同様に、アノード出口からアノード入口へ再循環されたアノードオフガスは、燃焼器も部分酸化反応器も通過しない。
【0022】
未改質燃料をアノード入口に供給しながら、アノード出口からアノード入口にアノードオフガスを再循環させることは、アノード入口に供給される流体が、未改質炭化水素燃料とアノードオフガスの混合物であることを意味する。
【0023】
第1の閾値温度は、スタックの温度がNiCO4が形成される可能性のある温度を超えると、未改質炭化水素燃料がアノード入口に供給されるように選択される。第1の閾値温度はまた、燃料電池の電圧が燃料電池(具体的にはアノード、電解質、及びカソード)に損傷が生じる可能性のある電圧未満に引き下げられることなく、燃料電池から最小電流を引き出すことができる温度以上である。スタックが第1の閾値温度を上回るとすぐに未改質炭化水素燃料をアノード入口に供給するが上回る前には供給しないことで、アノードの酸化が起こり得る期間を最小限に抑えることができる。これはまた、未改質炭化水素燃料が、炭素形成反応の反応速度が低く、電流引き出しが開始される(それにより蒸気が発生する)温度で最初にアノード入口に供給されることを保証し、これによりスタック及び他の構成要素内での炭素の著しい蓄積を防止する。
【0024】
第1の閾値温度は、スタック内の触媒の存在下で炭化水素燃料が水素と炭素に分解されるような温度とすることができる。十分な触媒がスタック内に存在することで、水素の生成に必要な速度での分解が可能になり、燃料電池システムからの電流の引き出しが可能になる。燃料電池システムには通常、分解触媒に適した様々な材料が存在する。例えば、ニッケルは分解を触媒する可能性があり、アノードや、アノード、電解質、カソードを支持する金属支持板、セルユニット間の相互接続部やセパレータに存在する可能性がある。スタックは、内部改質の目的で触媒を含んでいてもよく、同じ触媒が分解を触媒することもある。
【0025】
第1の閾値温度まで始動の間に供給される未改質炭化水素燃料は、純粋な炭化水素燃料と呼ばれることもある(例えば、相当量の水素、酸素、水、一酸化炭素、及び二酸化炭素が添加されていないことによって)。未改質燃料には、少ない割合(例えば10%)の水素が添加されてもよい。いずれの場合も、未改質炭化水素燃料は、改質器も燃焼器も通さずにアノード入口に供給される。未改質炭化水素燃料は、天然ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、対応するアルコール、及びバイオガスのうちの1種又は複数種を含み得る。
【0026】
当業者は、1つ又は複数の異なる方法を用いてスタックを第1の閾値温度まで加熱できることを理解するであろう。例えば、スタックを加熱するために電気ヒータを使用してもよい。代替的に、燃料をバーナで燃焼させて、間接的にスタックに熱を供給するために使用することができる(典型的には、1つ又は複数の熱交換器を介して)。バーナは、燃料電池システムの動作中に、それぞれアノードオフガス及びカソードオフガス中の未使用の燃料及び酸化剤を燃焼させるためにも使用されるバーナであってもよい。
【0027】
燃料電池システムは、各セルユニットにカソード入口ガスを供給するためのカソード入口と、各セルユニットからカソードオフガスを除去するためのカソード出口とを備え得る。カソード入口ガスは酸化剤、例えば空気であり得る。セルユニットは、平面基板(又は金属支持板)とセパレータ(又は相互接続部)とを備えてもよく、本出願人の以前の特許出願である国際公開第2015/136295号パンフレットに記載されたものと同様であり得る。基板は、それぞれのアノード層、電解質層及びカソード層を備える電気化学的に活性な層(又は活性な燃料電池構成要素層)を担持する。これらの層は、それぞれ金属支持板(例えば鋼板又は箔)上に(例えば薄いコーティング/フィルムとして)堆積され、金属支持板によって支持されてもよく、電気化学的に活性な層は、隣接するセルユニットのセパレータに面していてもよい。金属支持板は、非多孔質領域で囲まれた多孔質領域を有し得、活性層は多孔質領域上に堆積され、それにより気体が金属支持板の一方の側から反対側へ孔を通過してその上にコーティングされた活性層にアクセスできるようにしてもよい。
【0028】
この方法はスタック温度を監視することを含み得る。スタック温度は直接的又は間接的に測定され得る。この方法は未改質炭化水素燃料とアノードオフガスの混合比を制御することを含み得る。アノード入口への未改質炭化水素燃料の燃料流量は、スタック温度が上昇するにつれて増加する。
【0029】
好ましくは、本方法は、スタック温度を監視し、スタック温度が第1の閾値温度よりも高い第2の閾値温度に達したときに、未改質炭化水素燃料の燃料流量と電流引き出し量を増加させることをさらに含む。
【0030】
これにより、電流引き出し量とスタック温度を定常運転状態に向けて段階的に増加させることができる。定常運転は、400~1000℃、好ましくは450~800℃、より好ましくは500~650℃の範囲の定常スタック温度によって、追加的にさらに又は代替的に、0.8~1.0Vの範囲の定常電圧、及び0.05~1.5A/cm2、好ましくは0.05~0.3A/cm2、より好ましくは0.1~0.25A/cm2の範囲の定常電流密度の1つ又は複数によって特徴付けられる。燃料を供給することで、各燃料電池ユニットでの電気化学反応が開始され、それによって電流が引き出され、システムの温度が上昇する。未改質炭化水素燃料の燃料流量が増加すると、電流引き出し量及びスタックの温度も上昇し得る。スタックの温度が上昇すると、セルユニットはより多くの燃料を利用することができ、それによってより多くの電流を供給することができる。
【0031】
スタック内(セルユニットのアノード側)の炭素析出は、通常、燃料中の酸素対炭素の比率に支配される。O:C比が低いと、例えば分解によって炭素が析出する。燃料電池はアノード側で水を生成するため、所与の未改質炭化水素燃料の燃料流量に対して、O:C比が増加する。燃料電池が水を生成する比率は、その電流引き出し量に関係する。電流が増加すると、燃料電池の反応に利用できるO2の量が増加する。定常運転に向けて燃料電池の温度が上昇するにつれて、燃料電池は未改質炭化水素燃料を利用できる割合が増え、それによって生成される水の量も増加する。未改質炭化水素燃料の燃料流量が増加するたびに、O:C比は低下する。したがって、スタック温度が第2の閾値温度に達したときに未改質炭化水素燃料の燃料流量を増加させ、電流引き出し量を増加させることにより、本方法は、炭素析出を最小化する比でO:C比を増加させることができる。
【0032】
O:C比は、スタック温度、アノード出口からアノード入口へのアノードオフガスの流量、未改質炭化水素燃料の流量、及び電流引き出し量から推測することができる。
【0033】
追加的又は代替的に、本方法は、未改質炭化水素燃料の燃料流量、アノード出口からアノード入口へのアノードオフガスの流量、及び電流引き出し量を制御して、スタック内の炭素に対する酸素の比率を目標時間内に最大2より上(好ましくは2.2より上)にするように構成される。目標時間は、酸素不足による有害な影響が、定常動作中及び/又はシャットダウン時に実質的に回復できるように、十分に短い時間である。これは、燃料電池の電圧を閾値電圧より上に維持しながら行ってもよく、閾値電圧は0.6~0.8V、好ましくは0.7~0.8V、より好ましくは0.75Vである。
【0034】
好ましくは、この方法は、未改質炭化水素燃料の燃料流量を増加させ、電流引き出し量を漸増ステップで、対応する漸増スタック温度で増加させることを含む。ステップのサイズは、測定と制御が許す限り小さくすることができる。言い換えると、電圧を好ましい最小値未満に低下させることなく電流を増加させるように、電圧に支配された制御フィードバックにより、増加を連続的に行うことができる。
【0035】
これにより、電圧を閾値より上に維持し、O:C比を増加させながら、電流引き出し量及びスタック温度を定常動作状態に向けて段階的に増加させ、その後、定常動作状態に近づき続けながら、O:C比を閾値より上に維持することができる。
【0036】
好ましくは、本方法は、スタック温度が第1の閾値温度より高くなるにつれて、アノード出口からアノード入口へのアノードオフガスの流量を減少させることをさらに含む。
【0037】
例えば、第1の閾値温度において、アノード出口からアノード入口へのアノードオフガスの再循環は、第1の流量で開始することができる。第2の閾値温度において、アノード出口からアノード入口への再循環アノードオフガスの流量を減少させてもよい。その後温度(例えば、その後の温度閾値)を上昇させることを、定常動作状態(例えば、電流、電圧、及び/又は温度)に達するまで繰り返す。温度と燃料利用率が上昇するにつれて、燃料電池システムは、アノード入口に供給される未改質炭化水素燃料のより大きな割合を利用することができるため、アノードオフガス中の未使用燃料の割合は減少する。さらに、燃料の利用率が増加するにつれて、O:C比は、セルユニットで生成される水、CO、CO2による炭素析出を最小限に抑えるレベルに維持され得、アノード出口から再循環される水、CO、CO2への依存度が減少する。
【0038】
好ましくは、温度が第1の閾値温度を超える場合のアノードオフガスの再循環は、アノードオフガスの最大80%、より好ましくはアノードオフガスの最大70%を再循環することを含む。アノードオフガスの80%超が再循環された場合、CO2及び蒸気がシステム内に蓄積し、始動手順のパフォーマンスが損なわれ、電流の引き出し量が制限される可能性がある。
【0039】
好ましくは、燃料電池の電圧を電圧閾値より上に維持しながら電流を引き出す。閾値電圧は、電気化学的に活性な層(すなわち、アノード、電解質、カソード)に対する損傷を防止するように設定される。電気化学的に活性な層は通常、様々な電圧で電流を引き出すことを可能にするが、特定の電圧未満で電流を引き出すと、電気化学的に活性な層に損傷を与える可能性がある。電圧閾値は、電気化学的に活性な層への損傷を確実に回避すると同時に、低い動作温度での電流引き出しを可能にするレベルに設定され、それによって電解液のアノード側に酸素を供給し、アノードが低温から酸素含有化合物(すなわち水/CO/CO2)を生成することを可能にする。
【0040】
好ましくは、電圧閾値は0.6~0.8Vである。これは、電気化学的に活性な層への損傷を回避することと、低温で電流を供給すること(それによって、O:C比を増加させるためにアノードに酸素含有化合物を供給すること)との間のバランスを提供する。これにより、最小限のステップ数、例えば2ステップでO:C比が2(好ましくは2.2)を超え、未改質炭化水素燃料の燃料流量及び電流引き出し量が定常状態に向けて増加するにつれてO:C比が2より上(好ましくは2.2より上)に維持されることが可能になり得る。好ましくは、電圧閾値は0.7~0.8V、より好ましくは0.75Vである。
【0041】
好ましくは、アノードと電解質の少なくとも一方はセリア(酸化セリウム)を含む。セリアは、始動手順の間にCe4+からCe3+に還元され得る。理論に制限されることなく、セリアは酸素源として作用し、O:C比を上昇させ、炭素の生成を減少させると考えられる。セリアによって放出された酸素は、分解された炭化水素からのH2との反応によってスタック内で蒸気も生成する。この蒸気は、未改質炭化水素燃料の蒸気改質を生じさせ、燃料電池システムで使用するための水素分子にする。このようにセリアは、第1の閾値温度では炭素析出を最小限に抑えながら、アノード側に水や水素を供給することなく燃料電池システムを始動させることを可能にする。O:C比が上昇すると、セリアはCe4+に酸化される可能性があり、代替的又は追加的に、セリアはシャットダウン手順の間に酸化される可能性がある。
【0042】
好ましくは、電解質は、酸素イオン輸送を可能にするタイプのもの、例えば固体酸化物燃料電池(SOFC)である。酸素イオン輸送が可能な電解質を用いた燃料電池の動作中、アノードで水が生成される。
【0043】
好ましくは、アノードはセリウム-ガドリニウム酸化物(CGO)を含む。CGOは、燃料電池システムが比較的低い第1の閾値温度で電流を供給することを可能にする可能性がある。
【0044】
好ましくは、アノードはニッケルを含む。これは、第1の閾値温度において燃料電池システムで使用するための水素を生成するために未改質炭化水素燃料の分解を触媒し得る。燃料電池システム内の他の構成要素もニッケルを含む可能性があり、それによって水素を生成するために未改質炭化水素燃料の分解を触媒する可能性がある。他の構成要素には、例えば、電気化学的に活性な層がコーティング又は堆積された金属支持板、又は隣接するセルユニットを分離するセパレータもしくは相互接続板が含まれ得る。
【0045】
好ましくは、電解質はセリウム-ガドリニウム酸化物(CGO)を含む。CGOは、燃料電池システムが比較的低い第1の閾値温度で電流を供給することを可能にし得る。
【0046】
好ましくは、第1の閾値温度を超える始動中に供給される未改質炭化水素燃料は、定常動作中にアノード入口に供給される未改質炭化水素燃料と同じ組成を有する。言い換えると、別個の改質器、水、及び水素の供給は、始動に必要ない。
【0047】
好ましくは、第1の閾値温度は400~500℃、より好ましくは400~450℃の範囲である。
【0048】
これは、炭化水素燃料の存在下でNiCO4が形成され得る温度を超えるものであり、燃料電池反応が開始し得る(すなわち、電流の引き出しを可能にする)温度である。言い換えると、これは燃料電池の電圧を最低限度未満に引き下げることなく、最低電流を引き出せる温度である。第1の閾値温度はまた、炭素生成反応の反応速度が比較的低い温度であるため、スタック又は他の構成要素内に炭素が著しく蓄積するのを防ぐことができる。未改質炭化水素燃料は、第1の閾値温度に達したときに供給され、第1の閾値温度は、アノードの酸化が著しくなる前に未改質炭化水素燃料が供給されるように設定することもできる。
【0049】
当業者であれば、1つ又は複数の異なる方法を用いてスタックを第1の閾値温度まで加熱できることを理解するであろう。例えば、電気ヒータを使用してスタックを加熱することができる。あるいは、燃料をバーナで燃焼させ、間接的にスタックに熱を供給するために使用することができる(典型的には、1つ又は複数の熱交換器を介して)。バーナは、燃料電池システムの動作中に、それぞれアノードオフガス及びカソードオフガス中の未使用の燃料及び酸化剤を燃焼させるためにも使用されるバーナであり得る。
【0050】
好ましくは、スタックの温度は、アノードオフガス温度及び/又はアノード入口ガス温度を測定することによって特定される。典型的には、カソードオフガス温度の測定(例えば、スタックからのカソード出口の近くに配置された熱電対の使用による)は、スタック内の最低温度の指標として使用されるが、これはアノード及びカソード入口の始動の間の温度が典型的に各出口よりも熱いためである。代替的又は追加的に、アノードオフガス温度は、(例えば、スタックからのアノード出口の近くに配置された熱電対を使用することによる)始動中のスタック内の温度の指標として測定することができる。
【0051】
好ましくは、第1の燃料流量で未改質炭化水素燃料を供給するステップは、スタック内の全てのセルユニットにわたる分配を提供する量で未改質炭化水素燃料を供給することを含む。これにより、スタック内の全てのセルユニットに未改質炭化水素燃料が供給され、全てのセルユニットから電流を引き出すことができる。これにより、温度や他の状態は各セルユニットで同様となる。
【0052】
好ましくは、アノードオフガスを再循環させることにより、スタックによって生成された水がスタックのアノード入口に供給され、本方法は、各セルユニットと隣接するセルユニットとの間に位置決めされた改質触媒において、再循環された水を用いて未改質炭化水素燃料を改質することを含む。言い換えると、各セルユニットは、改質触媒、特に蒸気改質触媒(内部蒸気改質器と呼ばれることもある)を含み得る。スタック内(例えば各セルユニット内)の改質触媒の量は、例えば未改質炭化水素燃料が定常動作に対応する燃料流量で供給される場合に、未改質炭化水素燃料の改質を触媒するのに十分である。
【0053】
電流を引き出すことができる結果、水がスタックによって生成される。水は蒸気の形態で生成され、その蒸気はアノード出口からアノード入口に再循環される。言い換えると、これは燃料電池ユニットで生成された水を内部蒸気改質器に戻し、内部蒸気改質器は未改質炭化水素燃料を水素に改質し、水素は電流を供給するために燃料電池ユニットによって使用される。これは、スタック内で燃料を改質するために使用されるすべての水がスタック内で生成され、蒸気改質のための水の供給源(例えば、水タンク、凝縮器、及び/又は浄化手段を備えた水の外部供給部)は不要であることを意味する。
【0054】
アノード入口に供給される未改質炭化水素燃料と同様に、アノード出口からアノード入口に再循環されるアノードオフガスは、改質器を通過しない。同様に、アノード出口からアノード入口へ再循環されるアノードオフガスは、燃焼器も部分酸化反応器も通過しない。
【0055】
好ましくは、スタック内の各セルユニットは、相互接続構造によって隣接するセルユニットから分離され、相互接続構造は、隣接するセルユニットのアノードに面し、隣接するセルユニットのアノードと流体連通する側にコーティングを有し、コーティングは、改質触媒を含み、スタック内で使用するために燃料を水素に改質するように構成される。好ましくは、改質触媒は蒸気改質触媒であり、例えば白金及び/又はロジウムである。この触媒はまた、水がごくわずかしか存在しない場合、第1の閾値温度を超える始動の間に分解を触媒し得る。
【0056】
好ましくは、本方法は、シャットダウン手順をさらに含み、シャットダウン手順は、スタック温度を低下させ、アノード出口からアノード入口へのアノードオフガスの流量を増加させることを含む。
【0057】
シャットダウン手順は、制御された方法で燃料電池システムの温度を低下させる。シャットダウン手順は、始動手順のステップを逆行することができ、始動手順で減少したセリアの再酸化を可能にすることができる。あるいは、セリアは定常動作中に再酸化し得るか、システムが冷却されると大気からの酸素の拡散によって再酸化し得る。
【0058】
スタック温度が低下すると、燃料電池反応によって生成される蒸気の量が減少する。その結果、スタック内のO:C比を維持するために、アノード出口からアノード入口へのアノードオフガスの流量が増加され得る(したがって、アノード入口における未改質炭化水素燃料に対する再循環アノードオフガスの比が増加される)。
【0059】
好ましくは、シャットダウン手順におけるスタック温度の低下は、未改質炭化水素燃料の燃料流量及び電流引き出し量を閾値より上に維持しながら、未改質炭化水素燃料の燃料流量及び電流引き出し量を低減することを含む。
【0060】
システムは、セルへの未改質炭化水素燃料の流量を除去することによって停止させることができるが(例えば、緊急時に燃料流量をゼロに変更することによって除去する)、これは少なくともアノードの酸化還元サイクルを引き起こす可能性が高い。シャットダウン手順は、アノードが活性でなくなるまで、セルが還元性燃料ストリームを確実に受けるようにする。対照的に、燃料電池システムは通常、酸化還元サイクルを避けるために、シャットダウン中に使用する専用の蒸気供給を必要とする。電流引き出しは、O:C比を2(好ましくは2.2)より上に維持し、それによって炭素の生成を防ぐために維持される。
【0061】
好ましくは、シャットダウン手順は、スタック温度が第1の閾値温度未満になったときに未改質炭化水素燃料の供給を停止するが、スタック温度が第1の閾値温度未満になる前は停止しないことをさらに含む。
【0062】
これにより、スタックの冷却が継続する間、NiCO4の生成が防止される。第1の閾値温度は、始動時に使用される第1の閾値温度と同じ温度である(すなわち、400~500℃、好ましくは400~450℃の範囲)。
【0063】
システムの安全性のために、燃料電池システムは、シャットダウン時及び/又は始動時にパージガスでパージされ得るが、本システムでは、炭素生成を防止するためにパージは必要ない。あるいは、シャットダウン手順は、スタック温度が第1の閾値温度を上回り、第3の閾値温度を下回る場合に、AOGを再循環させながら炭化水素燃料供給を停止することを含み得る。
【0064】
理論に制限されることなく、セリアが始動中に減少した場合、これによりセリアの再酸化が開始され得ると考えられる。例えば、第3の閾値温度は、第1の閾値温度よりも50℃程度高くてもよい(例えば、第1の閾値温度が400~450℃の範囲にある場合、第3の閾値温度は450~500℃の範囲にある)。
【0065】
第2の態様によれば、燃料電池システムを作動させるための方法が提供され、燃料電池システムは、スタック内に配置された複数のセルユニットを備え、各セルユニットは、電解質によって分離されたアノードとカソードとを備え、燃料電池システムは、各セルユニットへアノード入口ガスを供給するためのアノード入口と、各セルユニットからアノードオフガスを除去するためのアノード出口とを含み、アノード入口ガスは、未改質炭化水素燃料と、アノード出口から除去されたアノードオフガスの一部とを含み、本方法は、未改質炭化水素燃料をアノード入口に供給しながら燃料電池システムから電流を引き出すことと、スタック温度を低下させることとを含むシャットダウン手順を含む。スタック温度を低下させることは、好ましくは、アノード入口への未改質炭化水素燃料の供給の燃料流量及び電流引き出し量を閾値より上に維持しながら、未改質炭化水素燃料の燃料流量を低減すること及び/又は電流引き出し量を低減することを含む。
【0066】
好ましくは、電流引き出し量及び未改質炭化水素燃料の燃料流量は、段階的に(又はフィードバック制御下で連続的に)低減され、それによりスタック温度は、第1の閾値温度に達するまで徐々に低減される。フィードバック制御下での連続的な低減は、電圧が好ましい最小値を下回ることを許容することなく燃料を低減することを含む。
【0067】
第2の態様による方法は、上記第1の態様について概説した特徴のいずれかと組み合わせることができる。
【0068】
第3の態様によれば、燃料電池システムが提供される。第3の態様の燃料電池システムは、第1及び第2の態様の方法で使用するように構成される。燃料電池システムは、スタック内に配置された複数のセルユニットであって、各セルユニットは、電解質によって分離されたアノード及びカソードを含む、複数のセルユニットを備え、また燃料電池システムは、各セルユニットにアノード入口ガスを供給するためのアノード入口、及び各セルユニットからアノードオフガスを除去するためのアノード出口と;スタックを加熱するための手段と;スタックの温度を測定するための手段と;未改質炭化水素燃料の供給部に接続するように構成され、未改質炭化水素燃料をアノード入口に供給するように構成された燃料入口と;アノード出口からアノード入口へアノードオフガスを再循環させるガス流路を提供するように構成されたアノードオフガス再循環ループと;燃料電池システムから電流を引き出すための手段と;測定手段から入力を受け取り、再循環ループ及び電流を引き出すための手段に出力を提供するように構成されたコントローラであって、再循環ループ、未改質炭化水素燃料の供給部、及び電流を引き出すための手段を、全て測定手段に応答して制御するためのコントローラとを備える。
【0069】
燃料入口は、未反応炭化水素燃料をアノード入口に供給するように構成されている。言い換えると、燃料源からアノード入口までの燃料の流路は、改質器、燃焼器、及び部分酸化反応器を通過しない。同様に、アノードオフガス再循環ループに改質器、燃焼器、及び部分酸化反応器は存在しない。その結果、この燃料電池システムは複雑さとコストが削減される。
【0070】
コントローラは、第1及び/又は第2の態様の方法を実行するために、入力を受け取り、出力を提供し得る。コントローラは、未改質炭化水素燃料を提供し得、且つ、燃料電池電圧を閾値電圧より上に維持する電流を引き出すための手段からの対応する電流の引き出しを可能にし得る。始動中、コントローラは、未改質炭化水素燃料の流量を段階的に増加させ得、且つ、燃料電池電圧を閾値電圧より上のあるマージンに維持しながら段階的な増加が実行され得る温度(及びそれによって燃料利用率)に燃料電池システムが達したときに、電流を引き出すための手段からの電流の引き出しの対応する段階的な増加を可能にし得る。
【0071】
例えば、始動手順の間、燃料電池電圧は閾値より上に、閾値電圧の15%以内(より好ましくは10%以内)に維持することができる。言い換えると、燃料電池電圧は、始動手順の間、閾値電圧と閾値より15%高い(好ましくは10%高い)電圧との間に維持され得る。これにより、炭化水素燃料のより大きな燃料流量が許容され得るようなレベルに燃料電池電圧が達すると、コントローラが未改質炭化水素燃料のより大きな燃料流量を許容することが保証され、したがって改善された始動時間が達成される。
【0072】
コントローラは、スタック温度、アノード出口からアノード入口へのアノードオフガスの流量、未改質炭化水素燃料の流量、及び電流引き出し量から、スタック(すなわち、各セルユニットのアノード側)におけるO:C比を推測し得る。コントローラは、a)始動の間O:C比が2(好ましくは2.2)より上に達する、b)定常状態の間O:C比を2(好ましくは2.2)より上に維持する、c)第1の閾値温度を超えるシャットダウン時にO:C比を2(好ましくは2.2)より上に維持する、のうちの1つ又は複数を達成するように、出力の1つ又は複数を調整し得る。
【0073】
燃料電池システム内の水はすべて、燃料電池自体の反応によって供給される。言い換えると、水タンクや、外部源からシステムに水を供給するように構成された手段は存在しない。その結果、この燃料電池システムは複雑さ及びコストが削減される。
【0074】
アノード入口に供給される未改質炭化水素燃料は、純粋な(先に定義されたとおり)炭化水素燃料と呼ぶこともできる。未改質炭化水素燃料は、改質器や燃焼器を通過することなくアノード入口に供給される。未改質炭化水素燃料は、天然ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、対応するアルコール、及びバイオガスのうちの1種又は複数種を含み得る。
【0075】
燃料電池システムはまた、各セルユニットにカソード入口ガスを供給するためのカソード入口と、各セルユニットからカソードオフガスを除去するためのカソード出口とを備え得る。カソード入口ガスは酸化剤、例えば空気であり得る。セルユニットは、平面基板(又は金属支持板)とセパレータ(又は相互接続部)とを備えてもよく、本出願人の以前の特許出願である国際公開第2015/136295号パンフレットに記載されたものと同様であり得る。基板は、それぞれのアノード層、電解質層及びカソード層を備える電気化学的に活性な層(又は活性な燃料電池構成要素層)を担持する。これらの層は、それぞれ金属支持板(例えば鋼板又は箔)上に(例えば薄いコーティング/フィルムとして)堆積され、金属支持板によって支持されてもよく、電気化学的に活性な層は、隣接するセルユニットのセパレータに面していてもよい。金属支持板は、非多孔質領域で囲まれた多孔質領域を有し得、活性層は多孔質領域上に堆積され、それにより気体が金属支持板の一方の側から反対側へ孔を通過してその上にコーティングされた活性層にアクセスできるようにしてもよい。
【0076】
スタックの温度を測定するための手段は、アノードオフガス温度及び/又はカソードオフガス温度を測定するための手段を備え得る。典型的には、カソードオフガス温度の測定(例えば、スタックからのカソード出口の近くに配置された熱電対の使用による)は、スタック内の最低温度の指標として使用されるが、これはアノード及びカソード入口の始動の間の温度が典型的に各出口よりも熱いためである。代替的又は追加的に、アノードオフガス温度は、(例えば、スタックからのアノード出口の近くに配置された熱電対の使用による)始動中のスタック内の温度の指標として測定することができる。
【0077】
当業者であれば、スタックを加熱するための手段(例えば第1の閾値温度)は、1つ又は複数の異なる手段を備え得ることを理解するであろう。例えば、スタックを加熱するために電気ヒータを使用してもよい。あるいは、燃料をバーナで燃焼させ、間接的にスタックに熱を供給するために使用することができる(典型的には、1つ又は複数の熱交換器を介して)。バーナは、燃料電池システムの動作中に、それぞれアノードオフガス及びカソードオフガス中の未使用の燃料及び酸化剤を燃焼させるためにも使用されるバーナであり得る。
【0078】
電流を引き出す手段は、燃料電池が電力を供給するように構成された負荷であり得、コントローラは、始動及びシャットダウンの間に負荷によって引き出される電流を制限し得る。
【0079】
好ましくは、アノードオフガス再循環ループは、アノードオフガス再循環ループ内のアノードオフガスの流量を変化させるように構成された手段であって、測定するための手段及び電流を引き出すための手段に応答してコントローラによって制御される手段を備える。
【0080】
アノードオフガス再循環ループ内のアノードオフガスの流量を変化させるように構成された手段は、アノードオフガス再循環ループ内で(例えば、アノードオフガス中の凝縮水を防止するように、500℃を超える「熱い」温度又は120℃を超える「温かい」温度で)動作するように構成された可変スプリッタ、ポンプ又はエジェクタを備え得る。好ましくは、アノードオフガスの流量を制御するように構成された手段は、それによって、アノードオフガスの一部をアノード出口から再循環させてアノードに供給し、燃料電池システムは、アノードオフガスの残りの部分をアノード出口から燃料電池システムの外に除去するように構成された排気ガス流路をさらに備える}
【0081】
これにより、コントローラは、アノードオフガス再循環ループ内のアノードオフガスの流量を変化させることによって、燃料電池システム内のO:C比を制御し得る。
【0082】
好ましくは、アノードオフガス再循環ループは、アノード出口から、ヒータセクション、アノードオフガスを未改質炭化水素燃料と混合するように構成された混合セクションを経由して、アノード入口に至るアノードオフガスの流路をさらに備える。
【0083】
ヒータセクションは、少なくとも1つの熱交換器を備え得る。ヒータセクションは、アノード入口の前に、アノードオフガスから未改質炭化水素燃料に熱を伝達するように構成された第1の熱交換器を備え得る。ヒータセクションは、アノードオフガスからカソード入口に供給される酸化剤に熱を伝達するように構成された第2の熱交換器を備え得る。第1及び第2の熱交換器の両方が存在する例では、第2の熱交換器は、アノードオフガス再循環ループにおいて第1の熱交換器の後にある。
【0084】
好ましくは、燃料電池システムは、アノードオフガスの一部をアノードオフガス再循環ループに分割し、アノードオフガスの残りの部分を燃料電池システムの外にルーティングするために、アノード出口の後、及び混合セクションの前にスプリッタをさらに備える。存在する場合、第1の熱交換器はスプリッタの前にあり、第2の熱交換器はスプリッタの後にあり、ポンプ又はエジェクタ(再循環を制御する手段として使用される場合)は、アノードオフガス再循環ループにおいて第2の熱交換器の後に位置決めされる。アノードオフガスの残りの部分は、カソードオフガス中の酸化剤で可燃性物質を燃焼させるためにバーナを経由して燃料電池システムの外へルーティングされ得る。熱は、第3の熱交換器において酸化剤に熱を移すことによって燃焼生成物から回収され得、続いて、例えば煙道を介した適切な排気前に、第4の熱交換器において未改質炭化水素燃料に熱を移すことによって燃焼生成物から回収され得る。
【0085】
好ましくは、スタック内の各セルユニットは、相互接続構造によって隣接するセルユニットから分離され、相互接続構造は、隣接するセルユニットのアノードに面し且つそれと流体連通する側にコーティングを有し、コーティングは、未改質炭化水素燃料をスタック内で使用するための水素に改質するように構成された改質触媒を含む。
【0086】
言い換えると、各セルユニットは、改質触媒、特に蒸気改質触媒を含み得る。スタック内(例えば各セルユニット内)の改質触媒の量は、例えば未改質炭化水素燃料が定常運転に対応する燃料流量で供給される場合に、未改質炭化水素燃料の改質を触媒するのに十分である。好ましくは、改質触媒は蒸気改質触媒、例えば白金及び/又はロジウムである。この触媒はまた、水がごくわずかしか存在しない場合、第1の閾値温度より上の始動の間に分解を触媒し得る。
【0087】
好ましくは、電解質は酸素イオン輸送を可能にする。その結果、燃料電池反応によってセルユニットのアノード側で水が生成される。したがって、生成された水は、アノードオフガスの成分であり、未改質炭化水素燃料の中で生成されるため、未改質炭化水素燃料を蒸気改質する際に使用され得る。例えば、固体酸化物形燃料電池は、酸素イオン輸送を可能にする。
【0088】
好ましくは、アノードと電解質の少なくとも一方はセリアを含む。理論に限定されることなく、セリアは、始動手順の間にCe4+からCe3+に還元され得る。これにより、セリアは酸素源として作用し、O:C比を増加させ、炭素の生成を低減する。セリアによって放出された酸素はまた、スタック内で未改質炭化水素燃料を燃料電池システムで使用するための水素分子に蒸気改質する際に使用される蒸気を生成する。セリアはこのように、第1の閾値温度において炭素析出を最小限に抑えながら、アノード側に水も水素も供給することなく燃料電池システムを始動することを可能にする。O:C比が増加すると、セリアはCe4+に酸化される可能性があり、代替的又は追加的に、セリアはシャットダウン手順の間に酸化される可能性がある。
【0089】
好ましくは、電解質は、酸素イオン輸送を可能にするタイプのもの、例えば固体酸化物燃料電池(SOFC)である。酸素イオン輸送を可能にする電解質を用いて燃料電池の動作中にアノードで水が生成される。
【0090】
好ましくは、アノードはCGOを含む。CGOは、燃料電池システムが比較的低い第1の閾値温度で電流を供給することを可能にし得る。
【0091】
好ましくは、アノードはニッケルを含む。これは、第1の閾値温度において燃料電池システムで使用するための水素を生成するために未改質炭化水素燃料の分解を触媒し得る。燃料電池システム内の他の構成要素もニッケルを含む可能性があり、それによって水素を生成するために未改質炭化水素燃料の分解を触媒する可能性がある。他の構成要素には、例えば、電気化学的に活性な層がコーティング又は堆積された金属支持板、又は隣接するセルユニットを分離するセパレータもしくは相互接続板が含まれ得る。
【0092】
好ましくは、電解質はCGOを含む。CGOは、燃料電池システムが比較的低い第1の閾値温度で電流を供給することを可能にし得る。
【0093】
好ましくは、コントローラは、燃料電池システムの始動を制御するように構成され、コントローラは、第1の閾値温度までのスタックの加熱を制御し;アノード入口への未改質炭化水素燃料の供給を制御し、第1の閾値温度に達したとコントローラが判断したときに、非ゼロの燃料流を提供し、判断する前は提供せず;アノードオフガス再循環ループ内のアノードオフガスの流量を第1の非ゼロ流量で制御し;及び燃料電池から電流を引き出すことを可能にするように、構成される。
【0094】
第1の態様の方法と同様に、コントローラは、未改質炭化水素燃料を使用する燃料電池システムの始動を可能にする。
【0095】
好ましくは、コントローラはさらに、アノード入口への未改質炭化水素燃料の供給を漸増させ、電流引き出しを漸増させて温度及び電流を定常状態まで上昇させるように構成される。
【0096】
好ましくは、コントローラは、燃料電池の電圧を閾値電圧より上に維持しながら、アノード入口への未改質炭化水素燃料の供給、アノードオフガス再循環ループ内のアノードオフガスの流量、及び電流引き出しを調整するように構成される。
【0097】
閾値電圧は、電気化学的に活性な層(すなわち、アノード、電解質、カソード)への損傷を防ぐように設定される。電気化学的に活性な層は通常、様々な電圧での電流引き出しを可能にするが、特定の電圧未満で電流が引き出されると電気化学的に活性な層に損傷を与える可能性がある。電圧閾値は、電気化学的に活性な層への損傷を確実に回避すると同時に、低い動作温度での電流引き出しを可能にするレベルに設定され、それによって電解質のアノード側に酸素を供給し、アノードが低温から酸素含有化合物(すなわち水/CO/CO2)を生成することを可能にする。
【0098】
閾値電圧は0.6~0.8V、好ましくは0.7~0.8V、より好ましくは0.75Vであり得る。これにより、電気化学的に活性な層への損傷を回避することと、低温で電流を供給すること(それにより、酸素含有化合物をアノードに供給してO:C比を増加させること)とのバランスが取れる。これにより、O:C比が最小限のステップ数、例えば2ステップで2(好ましくは2.2)を超え、未改質炭化水素燃料の燃料流量及び電流引き出し量が定常状態に向かって増加するときにO:C比を2(好ましくは2.2)より上に維持することが可能になり得る。
【0099】
追加的又は代替的に、コントローラは、未改質炭化水素燃料の燃料流量、アノード出口からアノード入口へのアノードオフガスの流量、及び電流引き出し量を制御して、スタック内の炭素に対する酸素の比率を目標時間内に2より上(好ましくは2.2より上)にするように構成される。目標時間は、酸素不足による有害な影響が定常動作中及び/又はシャットダウン時に実質的に回復され得るように、十分に短い。
【0100】
好ましくは、コントローラは、(a)アノードと連通するガスの酸素対炭素比、及び(b)スタックの温度、を制御するように構成される。
【0101】
一態様によれば、アノード入口温度及びアノード出口ガス温度の一方又は両方を示す信号を受信し、上述の方法に従って、アノードオフガス再循環ループを通るアノードオフガスの流量を制御するように構成されたコントローラが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【
図1】従来技術の燃料電池システムの概略図である。
【
図2】本発明による燃料電池システムの概略図である。
【
図3】本発明による燃料電池システムの概略図である。
【
図4】本発明による燃料電池システムにおける始動手順を示す。
【
図5】本発明による燃料電池システムにおける始動手順、定常動作、及びシャットダウン手順を含むサイクルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0103】
以下の図及び記載中、異なる図において同様の要素には同様の参照数字を使用する。
【0104】
図2を参照すると、燃料電池システム200の概略図が示されている。燃料電池システム200は、「セルスタック」とも呼ばれるセルユニットのスタック205(明瞭化のため、セルユニットは1つのみ示されている)を含む。複数のセルユニットがセルユニットのスタックを形成する。各セルユニットは、アノード210と、カソード220と、アノード210及びカソード220の間に位置決めされた電解質215とを含む。アノード210、電解質215、及びカソード220は、合わせて電気化学的活性層、活性電気化学セル層、又は電気化学的活性領域と呼ばれることがある。電解質215は、アノード210とカソード220との間で負酸素イオン又は正水素イオンを伝導する。電気を生成する固体酸化物燃料電池(SOFC)システムは、電解質の反対側に位置するカソードからアノードに負酸素イオンを伝導する固体酸化物電解質に基づいている。このため、燃料又は改質燃料がアノード(燃料極)に接触し、空気又は酸素リッチ流体などの酸化剤がカソード(空気極)に接触する。カソードからアノードへ負酸素イオンを伝導する電解質を持つ燃料電池では、アノードでの燃料電池反応によって水が生成される。従来のセラミック支持型(例えばアノード支持型)SOFCは機械的強度が低く、破損しやすい。そこで近年、活性燃料電池構成要素層が金属基板に支持された金属支持型SOFCが開発されている。これらのセルでは、セラミック層は電気化学的機能のみを果たすため、非常に薄くすることができる。つまり、セラミック層は自己支持性ではなく、むしろ金属基板上に敷かれ、金属基板によって支持された薄いコーティング/フィルムである。このような金属支持型SOFCスタックは、セラミック支持型SOFCよりも堅牢、低コストであり、優れた熱特性を有し、従来の金属溶接技術を用いて製造することができる。
図2の例では、アノード210は、例えばCGOの形態のセリアを含み得る。電解質215は、例えばCGOの形態のセリアを含み得る。
【0105】
スタック205は、平面型燃料電池ユニットのスタックを含む場合もある。平面型セルユニットのスタックは、固体酸化物電解質、高分子電解質膜、又は溶融電解質、あるいは電気化学が可能な任意の他の変形物のいずれかに基づいてもよい。一例では、スタック205は、固体酸化物電解質を有する複数の平面型セルユニット(例えば、数十から数百のセルユニット)に基づいているため、燃料電池は固体酸化物燃料電池(SOFC)と呼ばれることがある。固体酸化物電解質は、箔(図示せず)によって支持されていてもよく、その場合、金属支持型セル、特に金属支持型固体酸化物燃料電池(MS-SOFC)と呼ばれることがある。
【0106】
各セルユニットは、セパレータプレートと、セルを支持する金属基板プレート(図示せず)とを備え得る。金属基板プレートは、それに対して接着された活性電気化学セル層(すなわち、動作中に電気化学反応が生じるもの)であって、それに対してコーティング、蒸着、又は他の方法で貼付され得る活性電気化学セル層を支持し、したがって、このセルユニットは、金属支持型セルユニットと呼ばれることがある。セパレータプレートは、スタックの各セルユニットにおいて酸化剤流体容積を燃料流体容積から分離し得、通常、流体の流れを制御するために、例えば、間隔をあけたチャネル及びリブのパターン、又は間隔をあけたディンプルを備える3D輪郭構造を備える。スタック内の隣接するセルユニット間のセパレータプレート又は相互接続は、スタック内で水素ガスを生成するために未改質の炭化水素燃料の水蒸気改質を触媒するように構成された触媒で、所与のセルユニットのアノードに面する側にコーティングされてもよい。改質触媒は内部改質器と呼ばれることがある。一例では、スタック内の各セルユニットは、相互接続構造(例えば、上記で言及したセパレータ及び/又は相互接続)によって隣接するセルユニットから分離され、相互接続構造は、隣接するセルユニットのアノードに面し、隣接するセルユニットのアノードと流体連通する側にコーティングを有し、コーティングは、改質触媒を含み、スタック内で使用するために燃料を水素に改質するように構成される。改質触媒は、蒸気改質触媒、例えば白金及び/又はロジウムであり得る。この触媒は、ごくわずかな水が存在する場合に、第1の閾値温度を超えると始動中に分解を触媒することもある。
【0107】
燃料電池システム200は、未改質の炭化水素燃料の供給部(図示せず)に接続するように構成された燃料入口225をさらに備える。燃料入口225は、スタック205内のセルユニットのアノード側(燃料体積とも呼ばれる)に分配するために、スタック205のアノード入口226に未改質の炭化水素燃料を供給する。スタック205のアノード出口227は、スタックへの排気を提供し、スタック205内のセルユニットのアノード側から流体を除去することを可能にする。アノード出口227を介してスタックから除去された流体は、アノードオフガスと呼ばれる。アノードオフガスは、流路235に沿ってスプリッタ265にルーティングされる。流路235からのアノードオフガスの一部(例えば、第1の部分)は、アノード出口227からアノード入口226まで、アノードオフガス再循環ループ240の周囲にルーティングされ得る。
図2に示す場合、再循環ループ240内のアノードオフガスの一部は、燃料入口225とアノード入口226の間に位置決めされた混合器270で、燃料入口225からの未改質炭化水素燃料と混合される。アノードオフガス再循環ループ240内のアノードオフガスの流量を変化させる手段は、エジェクタ又はポンプ245によって提供される。エジェクタ又はポンプ245は、スプリッタ265とミキサ270の間でアノードオフガス再循環ループ240内に位置決めされている。
【0108】
アノードオフガスは、スプリッタ265から流路250を通ってバーナ255にルーティングされることもある。流路250を介してルーティングされたアノードオフガスの量は、アノードオフガスの残りの部分と呼ばれることがある(又は代替的に第2の部分、アノードオフガス再循環ループ240にルーティングされた第1の部分と流路250を介してルーティングされた第2の部分との合計は、流路235内のアノードオフガスの総量に等しい。例えば、流路235内の質量流量は、アノードオフガス再循環ループ240及び流路250内の質量流量の合計に等しいかもしれない)。
【0109】
燃料電池システム200は、酸化剤の供給部に接続するように構成された酸化剤入口230をさらに備える。酸化剤は、例えば空気又は酸素であり得る。酸化剤入口230は、酸化剤をスタック205のカソード入口231に供給し、スタック250内で、スタック205内のセルユニットのカソード側(酸化剤体積とも呼ばれる)に分配する。スタック205のカソード出口232はスタック205に排気を提供し、スタック205内のセルユニットのカソード側からの流体の除去を可能にする。カソード出口232を介してスタックから除去される流体は、カソードオフガスと呼ばれる。カソードオフガスはバーナ255にルーティングされる。
【0110】
バーナ255は、アノードオフガス中に残存する可燃性燃料及びカソードオフガス中の酸化剤を燃焼させ、その結果生じるガスを排気流路260を介して燃料電池システム200から排出するように構成されている。排気流路260は、煙道を含む場合があり、得られたガスを冷却した後、大気に排気する場合がある。
【0111】
燃料電池システム200は、システムのパラメータを測定し、これを調整するための出力を提供するように構成されたコントローラ290をさらに備える。コントローラ290は、カソードオフガスの温度を測定する手段280と通信し、その手段は熱電対を含み得る。コントローラは、スタック205内のセルユニットの温度の指標としてカソードオフガスの温度を使用し得る(それは例えばスタック内の最低温度の指標とすることができる)。コントローラ290は、エジェクタ又はポンプ245と通信し、コントローラは、アノードオフガス再循環ループ240内のアノードオフガスの流量を変化させるようにこれを制御し得る。コントローラはまた、燃料入口225からアノード入口226への未改質炭化水素燃料の供給を調節するための手段285と通信する。調節手段285は、制御可能な流量制限器を備え得る。それにより、コントローラは、スタック205への未改質炭化水素燃料の質量流量を制御し得る。
【0112】
燃料電池システム200は、スタックを加熱するための手段(図示せず)をさらに備え、この手段は、当業者には公知の方法で、電気ヒータ又はバーナでの炭化水素燃料の燃焼を含み得る。燃料電池システム200はまた、スタック205から電流を引き出すための手段(図示せず)と、スタック205の電圧を測定するための測定手段(図示せず)とを含む。電流を引き出すための手段は、コントローラ290と通信しており、コントローラは、スタック205から引き出される電流を制限するか、又は他の方法で指定し得る。スタック205の電圧(ひいてはセルユニットのアノードとカソード間の電圧)を測定する手段は、コントローラ290と通信しており、コントローラ290はスタック205の電圧をその入力の1つとして使用する。
【0113】
燃料電池システム200の始動手順の間、コントローラ290は、温度測定手段280によって測定されるように、スタック205を第1の閾値温度まで加熱するように加熱手段を制御する。スタックが第1の閾値温度に達すると、コントローラは、未改質の炭化水素燃料が燃料入口225から流れてアノード入口226に供給されるように調節手段285を制御する。未改質炭化水素燃料は、天然ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、対応するアルコール、及びバイオガスのうちの1種又は複数を含み得る。それは純粋な炭化水素燃料と呼ばれることもある(例えば、水素や酸素が添加されていないことによって、すなわち、水素分子、水、一酸化炭素、二酸化炭素が添加されていないことによって)。未改質炭化水素燃料の流量は、スタック205内のセルユニットに未改質炭化水素燃料を均等に分配するようなものであってもよい。コントローラは、エジェクタ又はポンプ245に、アノード出口227からアノード入口226へのアノードオフガスの再循環を開始させ得る。再循環されたアノードオフガスは、ミキサ270で未改質炭化水素燃料と混合し、その結果、アノード入口226に供給される燃料は、アノードオフガス再循環ループ240によって供給されるアノードオフガスと、燃料入口225によって供給される未改質炭化水素燃料との混合物である。コントローラ290は、エジェクタ又はポンプ245及び調節手段285を変化させて、アノード入口における未改質炭化水素燃料と再循環されたアノードオフガスの相対量を制御し得る。アノードオフガス再循環ループで再循環されるアノードオフガスの割合は、流路235内のアノードオフガスの最大80%である(言い換えると、第1の部分は最大80%であり、流路250内の第2の部分は少なくとも20%である)。これにより、スタック内に過剰な量のCO及びCO2が蓄積されるのを防ぐことができる。
【0114】
第1の閾値温度は400~500℃の範囲である(他の例では400~450℃の範囲である場合もある)。これは、燃料電池の電圧が、燃料電池(具体的には、アノード、電解質、及びカソード)に損傷が生じる可能性のある電圧未満に引き下げられることなく、燃料電池から最小電流を引き出すことができる最低温度以上である。したがって、未改質炭化水素燃料の供給が開始されると、コントローラは、第1の電流での電流引き出しを許可する。
【0115】
第1の温度は、未改質炭化水素燃料が少なくとも水素分子(本明細書では水素と呼ぶ)と炭素に分解する温度である。分解は、スタック205内の様々な材料、例えば金属構成要素に含まれるニッケルによって触媒される。これにより、スタック内で水素が初期生成される。
【0116】
理論に束縛されることなく、アノード及び電解質の一方又は両方に存在するセリアは、始動中にCe4+からCe3+に還元され、セルユニットのアノード側に酸素を放出し、この酸素は適切な触媒の存在下で未改質炭化水素燃料を蒸気改質する際に使用され、最初に生成された水素に寄与すると考えられる。
【0117】
燃料電池は、この最初に生成された水素を燃料電池反応に利用し、これによりスタック205から電流を引き出すことができる。燃料電池反応では、副産物として蒸気の形で水が生成される。この蒸気は、電解質215が酸素イオンを伝導するため、
図2のスタックのアノード側で生成される。アノード側での蒸気は、アノード出口227で排気されるアノードオフガスの成分であり、アノードオフガス再循環ループ240によってアノード入口に再循環され、セルユニットのアノード側に供給され、ここで蒸気改質触媒の存在下に未改質炭化水素燃料が燃料電池反応で使用するために水素に改質される可能性がある。燃料電池反応は発熱性である。このためスタックの温度が上昇する。燃料電池反応によってアノードオフガスの蒸気含有量が増加すると、アノードオフガス再循環ループによってアノード入口に供給される蒸気含有量も増加する。温度上昇の結果、燃料電池スタック電圧が上昇する。燃料電池スタック電圧が上昇すると、最大の電流引き出しも上昇し、燃料電池はアノード入口で未改質炭化水素燃料の大きな燃料流量を受け取ることができるため、コントローラは未改質炭化水素燃料の流量の増加を開始し、これがスタック電圧の低下を引き起こすが、これは(燃料電池反応により)スタックの温度が上昇すると回復する。
【0118】
電圧と温度は、最終的に第1の温度と第1の閾値電圧から定常状態の動作温度と電圧状態まで上昇する。始動手順の間、コントローラは、スタック電圧が、燃料流量の増加によってスタック電圧が最小値を下回らないような値に達したときに、未改質炭化水素燃料の燃料流量を増加させる。最低電圧は、セルユニットの電気化学的に活性な層に損傷が生じる可能性のある電圧である。未改質炭化水素燃料の燃料流量が増加すると、同様に電流引き出しが増加し、スタックの温度が上昇し得る。スタックの温度が上昇すると、セルユニットはより多くの燃料を利用できるようになり、それによってより大きな電流を供給できるようになる。
【0119】
定常状態の動作状態は、400~1000℃、好ましくは450~800℃、より好ましくは500~650℃の範囲の定常状態のスタック温度によって特徴付けられる。AOGRループ240内の流量は定常運転でも継続し、スタック205内の内部改質器で使用するためにアノード出口からアノード入口への蒸気の再循環を可能にし、未使用燃料の再利用を可能にする。
【0120】
始動手順は、スタックを加熱する前にスタックをパージする最初のステップも含み得る。パージ前の環境は、通常、アノードには(前回運転時の)古い燃料があり、カソード/排気からは空気が拡散している。パージには窒素ガスの供給が使用される。しかしながら、本明細書に記載された始動手順で動作する場合、パージは必要ないことを理解されたい。
【0121】
シャットダウン手順の間、アノード入口226に供給される未改質炭化水素燃料に対するアノードオフガスの割合は、段階的又は反復的に増加され得、電流引き出し量も同様に減少され得る。この結果、スタックの温度は、第1の閾値温度に向かって徐々に低下する。第1の閾値温度になると、未改質炭化水素燃料の供給、AOGRループ240内のアノードオフガスの流量、及び電流の引き出しが停止される。その後、燃料電池システム200は、オフ状態まで冷却され得るか(例えば、周囲温度まで冷却される)、休止状態に維持され得(例えば、加熱手段によって周囲温度を超える温度に維持される)、その後、始動手順によって再始動され得る。シャットダウン手順は、始動手順中に減少したアノード及び/又は電解質中のセリアの再酸化を可能にし得る。
【0122】
試験データによれば、燃料電池システム200は、本明細書に記載されるように、始動、定常状態、及びシャットダウンの少なくとも500サイクルにわたって、ごくわずかな炭素析出物を伴って作動され得ることが示されている。したがって、本明細書に記載される手順は、燃料電池システムの信頼性の高い動作を提供する。
【0123】
図3を参照すると、燃料電池システム300の概略図が示されている。燃料電池システム300は、
図2の燃料電池システム200の変形であり、様々な任意選択の追加の特徴機能を示している。
【0124】
燃料電池システム300は、
図2のAOGRループ240と同様のAOGRループ340を備えるが、これは少なくとも1つの熱交換器を備えるヒータセクションをさらに含む。
図3のヒータセクションは、二次燃料ヒータと呼ばれることもある第1の熱交換器310と、AOGクーラと呼ばれることもある第2の熱交換器315と、燃料ヒータと呼ばれることもある第3の熱交換器305と、空気予熱器と呼ばれることもある第4の熱交換器320とを備える。
【0125】
第1の熱交換器310は、流路235を介してアノード出口227からアノードオフガスを受け取り、アノード入口226の前に、アノードオフガスから未改質炭化水素燃料に熱を伝達するように構成されている。第1の熱交換器310に続いて、アノードオフガスはスプリッタ265にルーティングされる。AOGRループ340を経由してルーティングされたアノードオフガスの一部は、スプリッタ265から第2の熱交換器315にルーティングされる。第2の熱交換器315は、アノードオフガスから酸化剤入口230によって供給される酸化剤に熱を伝達するように構成される。第2の熱交換器315に続いて、アノードオフガスは、
図2のAOGRループ240と同様に、エジェクタ又はポンプ245を介してAOGRループ340を回ってミキサ270に進む。
【0126】
ミキサ270(アノード入口流路内)において、AOGRループ340を介して再循環されたアノードオフガスは、燃料入口225からの未改質炭化水素燃料と混合され、その後、アノードオフガスと未改質炭化水素燃料の混合物に熱を伝達するために使用される第3の熱交換器305を通過することができる。続いて、アノードオフガスと未改質炭化水素燃料の混合物は、第1の熱交換器310に通され、ここでアノードオフガスから混合物に熱が伝達される。その後、混合物はアノード入口226に供給される。
【0127】
第2の熱交換器315を参照すると、この熱交換器は、AOGRループ340内のアノードオフガスから酸化剤入口230によって供給される酸化剤に熱を伝達するように構成されている。
【0128】
第2の熱交換器315によって加熱された酸化剤は、酸化剤入口230からのさらなる酸化剤と組み合わされ、第4の熱交換器320を通してルーティングされ得る。
【0129】
第4の熱交換器320において、熱は排気経路260のバーナ255からの排気ガスから酸化剤に伝達される。第4の熱交換器320からの酸化剤出力は、カソード入口231にルーティングされる。排気ガスは、第4の熱交換器320から第1の熱交換器305にルーティングされ、第1の熱交換器305は、未改質炭化水素燃料とアノードオフガスの混合物に熱を伝達するように構成される。その後、排気ガスは、例えば大気に至る煙道を通って、流路325によってシステム外へルーティングされる。
【0130】
上記において、酸化剤の流れは、ファン(図示せず)によって駆動されてもよく、各酸化剤経路を通る酸化剤の流量は、コントローラ390の制御下で、1つ又は複数のファンによって駆動されてもよい。
【0131】
燃料電池システム300のバーナ255には、燃料入口225によって供給される未改質炭化水素トップアップラインが設けられている。この供給は、コントローラ390によって制御されてもよく、コントローラは、燃料電池システムを第1の閾値温度まで加熱するための手段として(任意選択的に、電気ヒータなどの他の加熱手段と組み合わせて)、トップアップラインによって供給される未改質炭化水素燃料を燃焼させるためにバーナ255を利用し得る。この場合、バーナ255で燃焼された燃料は、排気経路260で熱い排気ガスを生成し、熱が排気ガスから第4の熱交換器320の酸化剤に伝達され、その酸化剤がカソード入口にルーティングされ、それによってスタック205が加熱される。
【0132】
燃料電池システム300は、温度を測定するためのさらなる手段を備え得る。これらには、カソード入口ガスの温度(言い換えると、カソード入口231に供給される酸化剤の温度)を測定するための手段330が含まれ得、これは、カソードオフガスの温度を測定するための手段280と組み合わされてもよく、又はこれに代えてもよい。カソード入口ガスの温度測定手段330は、スタックの温度を決定するためにコントローラ390によって使用され得る。スタック温度は、温度測定手段335によって直接測定することができ、これはコントローラ390と連通している。加えて又は代替的に、AOGRループ内のアノードオフガスの温度は、コントローラ390と通信する温度測定手段375によって測定することができる。温度測定手段375は、AOGRループ内の第2の熱交換器315に続いて位置決めされる。温度測定手段375は、コントローラ390によって、AOGRループ340内のアノードオフガスの温度が、AOGRループ内の蒸気が凝縮し得る程度まで第2の熱交換器315によって低下しないように使用され得る。例えば、アノード入口に再循環されるアノードオフガス中の蒸気は、500℃を超える温度であり得る「熱い」、又は120℃を超える温度であり得る「温かい」と呼ばれることがある。コントローラが、AOGRループ内の温度が蒸気が凝縮する可能性があるような温度であることを特定した場合、コントローラ390は、酸化剤入口230を調整して、第2の熱交換器315を通過する酸化剤の量を低減する。
【0133】
図2の燃料電池システム200について上述した始動、定常状態、及びシャットダウン手順は、既に上述したバーナ255及び第4の熱交換器320を利用する加熱のための追加的な任意選択の手段を備えた
図3の燃料電池システム300にも同様に適用される。
【0134】
図4は、
図2の燃料電池システム200又は
図3の燃料電池システム300の始動手順を示している。最初に、スタックは(適切な手段によって)時間405で到達される第1の閾値温度470まで加熱される。これは、時間405に(又はその直後に)、第1の燃料流量450で未改質炭化水素燃料の燃料フローを許可するようにコントローラをトリガする。時間405に続く時間410で、アノードオフガス出口からアノード入口へのAOGRループを介したアノードオフガスの再循環が、第1のAOGR流量で開始される。時間410に続く時間415で、第1の電流引き出しレベル460で電流引き出しが開始される。場合によっては、アノードオフガスの再循環は、燃料が供給される前又は同時に開始されることがある(言い換えると、時間405と410は同じ時間であることがある)。場合によっては、アノードオフガスの再循環が開始される前又は同時に電流が引き出されることもあるが、燃料が供給される前に引き出されることはない(言い換えると、時間415は時間405よりも早いことはないが、時間415は時間410と同時又はそれより早いことがある)。
【0135】
時間415から最初の電流引き出しレベル460で電流が引き出され、これは燃料電池反応が進行していることを意味し、したがって水が生成され、この水はAOGRループによってアノード入口に再循環され、時間415と420の間にアノード入口に到達する。その結果、各セルユニットのアノード側のガス中の炭素に対する酸素の比率が(ゼロの比率から)上がり始め、その結果、時間420までにO:C比が上昇する。一方、燃料電池反応によりスタックはさらに加熱される。
【0136】
時間425において、スタックは第2の閾値温度475に達し、したがって、コントローラは、未改質炭化水素燃料の燃料流量を、第1の燃料流量450よりも大きい第2の燃料流量455まで増加させ得る。これにより、O:C比が低下する(燃料が未改質炭化水素燃料であるため)。時間425の直後の時間430で、電流引き出しが、第1の電流引き出しレベル460よりも高い第2の電流引き出しレベル465まで増加する。これは、温度及び/又はO:C比が、スタック電圧が最小値より低下することなくスタックがより大きな電流を供給できるようなものであるためである。燃料流量が増加した結果、燃料電池反応はより大きなレートで継続し、スタックの温度を上昇させ、それによりO:C比を時間435において増加した値まで増加させる。
【0137】
燃料流量を増加させ、電流引き出しを増加させるプロセスは、定常状態の動作状態に達するまで、段階的又は反復制御の下で継続し得る。
【0138】
図5は、
図2の燃料電池システム200又は
図3の燃料電池システム300における始動、定常状態、及びシャットダウン手順の1サイクルを示す試験データである。当該燃料電池システムは、本明細書に記載されるように、始動、定常状態、及びシャットダウンの少なくとも500サイクルにわたって作動されても、ごくわずかな炭素析出しか生じない可能性がある。したがって、本明細書に記載される手順は、燃料電池システムの信頼性の高い動作を提供する。
【0139】
図5は、電流505と、スタック電圧510と、O:C比540と、カソード入口の温度545と、カソード出口の温度550と、アノード入口ガス中の水515、二酸化炭素520、水素525、一酸化炭素530、及び未改質炭化水素燃料535(この場合は主にメタン)の相対量とを示す。O:C比はリニアスケールで示されているが、スケールとゼロの交点はシステムによって異なる可能性が高い。時間は、任意の開始点に対して(直線的な)X軸上に示され、絶対値及び相対値はシステムごとに異なる可能性がある。始動サイクルは、システムのタイプやサイズに依存して、数時間から15時間の持続時間を有し得る。定常状態は、はるかにより長い時間運転するように許容され得る。
【0140】
図5の最初のステップは、
図4について詳細に記載したステップと同様である。最初にスタックが、第1の閾値温度に達するまで加熱され、第1の閾値温度に達すると、未改質炭化水素燃料が供給され、
図4に従って再循環が開始される(未改質炭化水素燃料の供給の量及びAOGRループ内の量は、
図5には示されていない)。電圧が特定の値に達するたびに、燃料流量と電流が増加し、電圧が低下する。電圧が特定の値に達するたびに、燃料流量と電流は段階的に増加する。増加するたびに電圧が低下し、その後電圧が回復する。電圧が回復すると、電流引き出しを増加することができる。燃料流量の各増加量は、スタック電圧が閾値又は最低電圧を下回るほど大きくないことが好ましい。電圧が閾値を下回ることなく、可能な限り早く、電流引き出しを毎回増加させる。電流の増加ごとにO:C比が増加し(AOGリサイクル遅延後)、それによって炭素の生成が減少する。
【0141】
時間555頃に定常状態の動作温度、電流、電圧に達する。時間555から560の間、燃料電池システムは定常状態で動作する。
【0142】
時間560で、シャットダウン手順が開始される。未改質炭化水素燃料の流量は減少し(止められることはない)、電流引き出しは減少する(止められることはない)。その結果、時間560から燃料電池の反応速度が低下し、スタックが冷却し始める。スタック電圧は温度に対応して低下し始める。スタック電圧が特定の値に達すると、燃料の供給と電流の引き出しが減少する。その結果、スタック電圧は上昇し、燃料電池の反応速度が低下するため、O:C比は低下する(その結果、生成される水が少なくなる)。この燃料の供給と電流引き出しの減少は、電流引き出しが最初の(ゼロでない最小の)電流引き出しに達し、未改質炭化水素燃料の燃料流量が対応する最小量になるまで繰り返され、スタック温度が第1の閾値電圧に達すると、電流引き出しと未改質炭化水素燃料の燃料流量はゼロまで減少する。その後、燃料電池システムは、スタンバイ状態(例えば、暖かい状態)に維持され得るか、又はオフ状態に冷却(例えば、周囲温度まで冷却)され得る。
【0143】
本発明は上記の例のみに限定されるものではなく、他の例は添付の特許請求の範囲から逸脱することなく当業者には容易に明らかであろう。
【0144】
本発明のこれら及び他の特徴を純粋に例として上に記載してきた。本発明は、特許請求の範囲の範囲内で、詳細に変更することができる。
【国際調査報告】