(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-22
(54)【発明の名称】可変面積排気ノズルを備えた航空機エンジン
(51)【国際特許分類】
B64C 29/00 20060101AFI20240215BHJP
B64D 27/31 20240101ALI20240215BHJP
B64D 27/32 20240101ALI20240215BHJP
B64D 33/04 20060101ALI20240215BHJP
B64U 50/19 20230101ALI20240215BHJP
B64U 10/20 20230101ALI20240215BHJP
B64U 50/18 20230101ALI20240215BHJP
【FI】
B64C29/00 A
B64D27/31
B64D27/32
B64D33/04
B64U50/19
B64U10/20
B64U50/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553728
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-11-06
(86)【国際出願番号】 EP2022052238
(87)【国際公開番号】W WO2022184355
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523315441
【氏名又は名称】リリウム ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】LILIUM GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ファン デア メーア ピーター ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】クヴァッハ ペトル
(72)【発明者】
【氏名】サインス デ ラ マーサ ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】ブラス キリアン
(72)【発明者】
【氏名】ベルメーレン セバスチャン
(57)【要約】
本発明は、垂直離着陸航空機300のエンジン310を提供する。エンジンは、航空機300の航空機部品342に対して、離着陸のためのホバリング位置と前進飛行のための巡航位置との間で可動に構成される。エンジン310は、航空機の第1の運航状態に従う第1の位置336と、航空機の第2の運航状態に従う第2の位置338との間で可動な少なくとも1つの空力要素334を有する空力部品332を備え、空力要素は、エンジンを通る空気流に接触する空力面を規定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直離着陸航空機のエンジン(110~610)であって、前記エンジンは、前記航空機の航空機部品(102、342)に対して、離着陸のためのホバリング位置と前進飛行のための巡航位置との間で可動に構成され、前記エンジンは、前記エンジンの排気部分に取り付けられた可変面積排気ノズルを備え、前記可変面積排気ノズルは、前記エンジンに対して、開位置と閉位置との間で可動な少なくとも1つの空力要素(334)を備え、
前記エンジンは、トランスミッション(350)を備え、前記トランスミッション(350)は、前記可変面積排気ノズルに接続された第1の端部(352)と、前記航空機部品(342)に接続されるように構成された第2の端部(354)とを有し、前記トランスミッション(350)は、前記航空機部品(342)に対する前記エンジン(310)の動きを前記少なくとも1つの空力要素(334)の動きに変換するように構成されている、エンジン。
【請求項2】
前記トランスミッション(350)は、前記エンジンが前記ホバリング位置をとるときに、前記空力要素を前記開位置に設定し、前記エンジンが前記巡航位置をとるときに、前記空力要素を前記閉位置に設定するように構成されている、請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記航空機部品は、翼形部又は航空機の胴体、あるいは翼形部又は航空機の胴体に固定された部品である、請求項1又は請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
ホバリング位置と巡航位置との間の前記航空機部品に対する前記エンジンの可動範囲は、第1の範囲と第2の範囲とを含み、前記トランスミッションは、前記エンジンが前記第1の範囲内で動くときに第1の伝達比を有し、前記エンジンが前記第2の範囲内で動くときに前記第1の伝達比より低い第2の伝達比を有するように構成されている、先行する請求項のうちの少なくとも1つに記載のエンジン。
【請求項5】
ホバリング位置と巡航位置との間の前記航空機部品に対する前記エンジンの可動範囲は、アイドル範囲(374b)を含み、前記アイドル範囲内の前記エンジン(310)の動きは、前記空力要素の動き(334)に変換されない、先行する請求項のうちの少なくとも1つに記載のエンジン。
【請求項6】
前記アイドル範囲において、前記空力要素(534)又は前記トランスミッション(550)は、前記エンジン(510)に対して前記空力要素(534)の位置を固定するためのメカニカルストップ(549)に当接した状態に留まる、及び/又は、
前記トランスミッションは、前記エンジンの動きが前記可変面積排気ノズル(534)の動きに変換されないように、前記航空機部品(542)に対する前記エンジン(510)の動きを前記アイドル範囲(574b)内に調整するように配置された弾性部材(561)を備えている、請求項5に記載のエンジン。
【請求項7】
前記トランスミッション(350、450)は、リンク手段(356、456)、好ましくはロッド及び/又はカム機構(358、458)、例えば、スロット付きのカムを備えている、先行する請求項のうちの少なくとも1つに記載のエンジン。
【請求項8】
前記空力要素(534)は、弾性部材(565)によって、前記第1の位置(536)に向かって、又は前記第2の位置(538)に向かって付勢されている、先行する請求項のうちの少なくとも1つに記載のエンジン。
【請求項9】
前記トランスミッションは、プーリトランスミッション(667)を備えている、先行する請求項のうちのいずれかに記載のエンジン。
【請求項10】
前記プーリ機構は、前記空力要素(634)に接続された第1のプーリ(669)と、航空機部品に対して接続又は固定されるように構成された第2のプーリ(671)と、前記プーリの一方の動きを前記プーリの他方に伝達するためのベルト(673)とを少なくとも備え、好ましくは、前記プーリ(669、671)のうちの少なくとも一方は、非円形の断面を有する、請求項9に記載のエンジン。
【請求項11】
可変面積排気ノズル(330)は、第1の空力要素(334)と第2の空力要素(334)とを備え、前記第1及び第2の空力要素は、リンク機構(380)、好ましくはリンク及び/又はスロット付きのカムを備えているリンク機構によって互いに接続されていることで、前記第1の空力要素の動きが、前記第2の空力要素の動きを駆動する、先行する請求項のいずれかに記載のエンジン。
【請求項12】
前記少なくとも1つの空力要素(334)は、前記エンジンの排気流を偏向させ、前記エンジンの排気領域を規定するように構成された前記可変面積排気ノズルのバッフルプレート又は顎部である、先行する請求項のうちの少なくとも1つに記載のエンジン。
【請求項13】
前記エンジンは、電気エンジン、好ましくは電動ダクテッドファンである、先行する請求項のうちの少なくとも1つに記載のエンジン。
【請求項14】
航空機部品と、先行する請求項のうちの少なくとも1つに記載のエンジンと、を備えている垂直離着陸航空機。
【請求項15】
翼形部と、列をなすように互いに隣接して前記翼形部に取り付けられた複数のエンジン、好ましくは5基よりも多いエンジン、より好ましくは10基よりも多いエンジンと、を備えている、請求項14に記載の垂直離着陸航空機。
【請求項16】
前記複数のエンジンの各々は、他のエンジンとは独立して前記翼形部に対して旋回可能である、請求項14又は請求項15に記載の垂直離着陸航空機。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、垂直離着陸航空機のエンジンに関する。エンジンは、離着陸時のホバリング位置と前進飛行時の巡航位置との間で航空機の航空機部品に対して可動に構成される。さらに、本発明は、そのようなエンジンを備えた垂直離着陸航空機に関する。
【0002】
垂直離着陸航空機(VTOL機)は、都市部等のサイズの限られた領域で発進及び着陸できる能力によりここ数年でますます注目を集めている。ホバリングモード(離着陸時)と巡航モード(前進飛行時)の両方でエンジンの効率と性能を向上させるため、VTOL機のエンジンの最適化には広範な研究開発作業が行われている。VTOL機エンジンの設計における課題の1つは、ダクトの内壁、及び吸排気部における流動領域の形状、ロータブレード及びステータブレードの形状と角度等のエンジンの空気力学が、単一の流動状態に対してしか最適化できないことである。しかしながら、特にVTOL機では、エンジンの動作要件と負荷の両方が、一方の離着陸時のホバリングモードと他方の前進飛行時の巡航モードとで大きく異なる。その結果、VTOL機のエンジンは通常、両方のモードで信頼性の高い動作を可能にするために大きめに設計されている。
【0003】
可動空力要素によってエンジン内の空力条件を変更する例として、従来のジェット機のガスタービンには、過去に可変面積排気ノズルが使用されており、異なる飛行状況に対応するために流動状態を最適化するようにエンジンの排気ノズル領域を変更していた。これにより、特定の飛行状況の特定の要求に適応した推力の生成を可能にしつつ、エネルギー消費の削減をもたらすことができる。特に、可変面積排気ノズルは、異なる動作条件に対し最適化された流動状態を作り出すために、エンジンの排気部で静圧を調整できる。従来、可変面積排気ノズルは、専用のアクチュエータにより調整されている。
【0004】
米国特許第4176792号は、4バーリンクシステムと、排気ノズル領域を変更するための複数の顎部用の複数のサーボアクチュエータとを備えた収束発散ノズルを開示している。このような可変面積排気ノズルは、複数の複雑な結合部品を有し、重量が重いためかなりの量の燃料を消費する。
【0005】
エンジン用の別の可変面積排気ノズルが、米国特許第10570926号により知られている。別の可変面積排気ノズルは、飛行モードを考慮して専用のアクチュエータによって調整される顎部を備えている。ここでも、アクチュエータにより飛行機の重量が大幅に増加し、消費燃料が増加する。さらに、ノズルはかなりの設置スペースを必要とする。
【0006】
したがって、本発明の目的は、複雑さ及び/又は重量を制限しながら、異なる複数の動作モードにおいて改善された空力条件を有するエンジンを提供することである。
この目的は、垂直離着陸航空機のエンジンによって達成される。エンジンは、航空機の航空機部品に対して、離着陸のためのホバリング位置と前進飛行のための巡航位置との間で可動に構成される。エンジンは、エンジンの排気部分に取り付けられた可変面積排気ノズルを備える。可変面積排気ノズルは、エンジンに対して、開位置と閉位置との間で可動な少なくとも1つの空力要素を有する空力部品を備える。エンジンは、トランスミッションを備え、トランスミッションの第1の端部は、可変面積排気ノズルに接続されており、第2の端部は、航空機部品に接続されるように構成されている。トランスミッションは、航空機部品に対するエンジンの動きを少なくとも1つの空力要素の動きに変換するように構成されている。したがって、本発明の重要な特徴によれば、飛行モードに従って可動な空力要素を有する可変面積排気ノズルが提供されることにより、ホバリングモードと巡航モードの両方で、エンジン内の空力条件を変更し、エンジンの最適な動作に空気流を適合させることが可能になる。具体的には、空力要素を動かすことで、空力面、例えば流入する空気流に対する空力面の角度又はその空気流が空力面と衝突する角度も、排気領域又はエンジンの排気部分の空力断面を変更するように動くため、飛行モードに合わせてエンジンの動作特性が変更される。したがって、ホバリングモードと巡航モードの両方で、同等又は類似の流量係数及び低減された摩擦損失、並びにエンジンの実効動作点での動作を保証するように、空力部品を調整できる。
【0007】
本発明によれば、エンジンは、航空機部品に対するエンジンの動きを、少なくとも1つの空力要素の動き、すなわち可変面積排気ノズルの開閉運動に、変換するように構成されたトランスミッションを備えている。したがって、そのようなエンジンを使用する垂直離着陸航空機では、巡航位置とホバリング位置との間のエンジンの動きを、可変面積排気ノズルの空力要素に直接伝達できるため、空力要素が動かされる。その結果、可変面積排気ノズルを、特定の飛行モード(ホバリング又は巡航)に適した構成に設定できる。具体的には、トランスミッションは、エンジンがホバリング位置をとるとき可変面積排気ノズル(すなわち、空力要素)を開位置に設定し、エンジンが巡航位置をとるとき可変面積排気ノズル(すなわち、空力要素)を閉位置に設定するように構成されてもよい。巡航時の排気ノズル領域、すなわちノズルの閉位置での排気断面積と、ホバリング時の排気ノズル領域、すなわちノズルの開位置での排気断面積との比率が、0.53から0.76の範囲内、好ましくは0.61から0.69の範囲内、最も好ましくは0.65に設定された場合に、エンジン、したがって航空機が最適な性能を達成することがわかっている。
【0008】
トランスミッションの第1の利点として、可変面積排気ノズルを駆動するための別個のアクチュエータを省略できるため、エンジンの複雑さと重量とを軽減できる。トランスミッションは完全に機械的な装置であるため、アクチュエータ制御システム等の追加の電気又は電気機械部品を回避できる。トランスミッションの第2の利点として、可変面積排気ノズルの動きがエンジンの動きによって決定されるため、制御とテストに関する1つの自由度を省略でき、それが制御労力の軽減と安全性の向上をもたらす。さらに、ホバリングと巡航の間のエンジンのあらゆる旋回軸上の位置に対する可変面積排気ノズルのあらゆる位置又は開度をテストする必要がなくなるため、テストの労力も著しく減少する。
【0009】
エンジンが可動に取り付けられる可変面積排気ノズルは、翼や先尾翼等の翼形部であってもよいし、航空機の胴体、又は翼形部又は航空機の胴体に固定された部品であってもよい。したがって、航空機の主キャリアに対して固定された構造が、可変面積排気ノズルの動きを制御する基準点として選択されるのが好ましい。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、ホバリング位置と巡航位置との間の航空機部品に対するエンジンの可動範囲は、第1の範囲と第2の範囲とを含み、トランスミッションは、エンジンが第1の範囲内で動くときに第1の伝達比を有し、エンジンが第2の範囲内で動くときに第1の伝達比よりも低い第2の伝達比を有するように構成される。したがって、トランスミッションには、航空機部品に対するエンジンの位置に応じて異なる伝達比が提供される。例えば、エンジンが一定の角速度でホバリングモードから巡航モードに旋回する場合でも、関連する空力要素の旋回運動は、エンジンの位置に応じて2つ以上の異なる速さで実行され得る。したがって、可変面積排気ノズルの開度は、エンジンの各旋回軸上の位置に対して要求どおりに設定可能である。
【0011】
さらに、ホバリング位置と巡航位置との間の航空機部品に対するエンジンの可動範囲は、アイドル範囲を含んでもよく、アイドル範囲内でのエンジンの動きは、空力要素の動きに変換されない。特に、エンジンに対する空力要素の位置は、アイドル範囲内でエンジンが動く間、固定されてもよい。このようにして、可変面積排気ノズルの開度の調整は、ホバリング位置と巡航位置との間の中間の状態に適応可能である。
【0012】
単純な機械的手段でアイドル範囲の機能を実現するために、空力要素又はトランスミッションは、アイドル範囲内のエンジンに対する空力要素の位置を固定するためのメカニカルストップと当接した状態に留まってもよく、及び/又は、トランスミッションは、エンジンの動きが可変面積排気ノズルの開度の変化に変換されないように、航空機部品に対するエンジンの動きをアイドル範囲内に調整するように配置された弾性部材を備えてもよい。
【0013】
トランスミッションは、例えば、ロッド及び/又はカム機構、より具体的にはスロット付きのカム等のリンク手段を備えるのが好ましい。特にカム機構を使用する場合、カム機構のカム面の特定の形状(スロット付きカムのスロットの形状等)を選択することにより、空力要素の動きを、エンジンと航空機部品との間の相対位置に依存するものとして事前に規定できる。さらに、空力要素を、例えば引張ばね等の、弾性部材によって第1の位置又は第2の位置に向かって付勢し、単純な機械的手段によって空力要素を動かしてもよい。
【0014】
航空機部品と可変面積排気ノズルとの間の比較的長い距離を橋渡しするように設計された別の信頼性の高い機械式トランスミッションは、プーリトランスミッションを備えてもよい。プーリトランスミッションは、具体的には、空力要素に接続された少なくとも1つの第1のプーリと、航空機部品に接続又は固定されるように構成された第2のプーリと、一方のプーリの動きを他方のプーリに伝達するベルトと、を備える。航空機部品に対するエンジンの位置によって異なる伝達比を提供するために、少なくとも一方のプーリは、非円形の断面を有してもよい。非円形の断面は、単一の円から逸脱する任意の断面である。ベルトは、張力付与手段により張力がかけられてもよい。
【0015】
本発明の別の実施形態では、可変面積排気ノズルは、第1の空力要素と第2の空力要素とを備え、第1及び第2の空力要素は、第1の空力要素の動きにより第2の空力要素の動きが駆動されるように、リンク機構、好ましくはリンク及び/又はスロット付きのカムを備えたリンク機構によって互いに接続される。したがって、トランスミッションは、単に第1の空力要素のみを駆動するだけで、第2の空力要素(又は追加の空力要素)を、リンク機構を介して第1の空力要素によって駆動できる。したがって、第2の空力要素(又はさらなる空力要素)用の追加のトランスミッション又はアクチュエータを省略できる。
【0016】
本発明の別の実施形態では、エンジンは、空力制御装置を備えてもよい。空力制御装置は、航空機部品に対するエンジンの動きに基づいて空力要素の動きを制御するように構成される。その結果、空力要素の動きは、制御装置を介した専用制御により、ホバリング位置と巡航位置との間のエンジンの動きに直結される。この意味での専用制御とは、制御装置が電子レベル及び/又はハードウェアレベルで動作し、少なくとも航空機の通常(非緊急)運航状態において、制御装置の動作が航空機のフライトコンピュータ及び/又はパイロットコマンドにより無効化されないことが保証されることを意味する。このようにして、制御及びテストに関する1つの自由度を省略でき、制御労力の軽減と安全性の向上をもたらす。さらに、エンジンのあらゆる旋回軸上の位置に対し可変面積排気ノズルのあらゆる位置又は開度をテストする必要がなくなるため、テストの労力も著しく減少する。
【0017】
例えば、制御装置は、ホバリング位置と巡航位置との間でエンジンを動かすエンジンモードアクチュエータから信号を受信するように接続されてもよい。加えて、又は代わりに、制御装置は、トランスミッション、例えば上記のさまざまな実施形態で説明したトランスミッション等の一部であってもよいし、あるいはトランスミッションに接続されてもよい。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの空力要素は、エンジンの排気流を偏向させ、エンジンの排気領域を規定するように構成されたバッフルプレート又は可変面積排気ノズルの顎部である。エンジンの排気領域を調整することにより、エンジン内の静圧を現在の負荷及び特定の飛行モードに適応させることができ、ホバリング中と巡航中の両方で同等又は少なくとも類似の実効動作点でエンジンを動作させることができる。
【0019】
より具体的には、空力要素は、エンジンの推力方向から見たときに一般的なC字形の顎部であってもよく、これにより顎部が排気領域を少なくとも部分的に取り囲むことができる。例えば、一般的なC字形の2つの顎部は、それらのC字形状が互いに向き合うように配置された場合に、排気領域を規定し、ノズルの開位置と閉位置との間で排気領域を変更可能にできる。さらに、少なくとも1つの顎部の特定のC字形状に応じて、排気領域を、円形、あるいは、実質的に多角形、例えば実質的に長方形の形状に構成してもよい。乱流を低減するために、実質的に多角形の形状は、丸みを帯びたエッジを有していてもよい。
【0020】
本発明はさらに、胴体、翼等の航空機部品と、上述した本発明の実施形態に従って構成された1つ以上のエンジンとを備える垂直離着陸航空機を提供する。垂直離着陸航空機は、翼形部と、複数のエンジン、好ましくは5基よりも多いエンジン、より好ましくは10基よりも多いエンジンを備え、これらのエンジンは、隣接するエンジンの空気流が合流して互いに支え合うことを可能にする列をなすように、翼形部に互いに隣接して取り付けられる。これにより、分散推進が実現する。
【0021】
各エンジンは、他のエンジンとは独立して翼形部に対して旋回可能であってもよい。特に、各エンジンは、他のエンジンの位置、特にその隣接するエンジン又は他のすべてのエンジンとは異なる位置(翼形部に対する角度)をとるために、翼形部に対して旋回してもよい。これにより、操縦性及び動作の冗長性を高めることができる。
【0022】
あるいは、固定された複数のエンジン、例えば3基のエンジンを搭載するエンジン装置を使用して、エンジン装置を旋回させることによって複数のエンジンを同時に旋回させてもよい。さらに、そのようなエンジン装置は、複数のエンジンのすべてのエンジンの排気領域が、共通の可変面積排気ノズルによって制御されるように、1つの共通の可変面積排気ノズルを有してもよい。エンジン装置の複数のエンジンは、エンジンが互いに隣接して並んで配列されるように、一列に、特に横方向に延びる一列に配置されてもよい。
【0023】
本発明のすべての実施形態において、翼にかかる空気力学的負荷を制御するために、少なくとも1基のエンジン又は少なくとも1基のエンジン装置を翼形部の後端に取り付けてもよい。さらに、翼形部の上側の空気流を制御するために、少なくとも1基のエンジン又は少なくとも1基のエンジン装置を、翼形部の上部に取り付けてもよい。
【0024】
本発明を、添付の図面を参照しながら、特定の実施形態に関してさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るエンジン装置及び可変面積排気ノズルを備えた航空機の概略配置図を示す。
【
図2a-2b】それぞれ、本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態に係る可変面積排気ノズルを備えたエンジン装置の断面図を示す。
【
図3a-3b】本発明の第3の実施形態に係る、閉位置(
図3a)及び開位置(
図3b)にある可変面積排気ノズルを示す。
【
図4a】本発明の第4の実施形態に係る閉位置にある可変面積排気ノズルを示す。
【
図4b-4c】本発明の第4の実施形態に係る閉位置にある可変面積排気ノズルの変形例を示す。
【
図5】本発明の第5の実施形態に係る閉位置にある可変面積排気ノズルを示す。
【
図6a-6b】本発明の第6の実施形態に係る、閉位置(
図6a)及び開位置(
図6b)にある可変面積排気ノズルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示全体を通じて、方向は通常、航空機が駐機しているとき、又は地面と平行に飛行しているときの状況を指す。これは、航空機の進行方向Xが、航空機のロール軸に沿って延び、横方向Yが、航空機の横軸(ピッチ軸)に沿って水平に延び、垂直方向Zが、航空機の垂直軸(ヨー軸)に沿って上向きに延びることを意味する。
【0027】
図1では、垂直離着陸航空機(VTOL機)を概して参照符号100で示す。航空機100は、胴体101と翼形部102、例えば胴体101の後部に配置された一対の翼102aと、胴体101の前部に配置された一対の先尾翼102bとを備える。各翼形部102は、少なくとも1つの、好ましくは複数のエンジン装置106を搭載し、各エンジン装置106は、少なくとも1基のエンジン110、具体的には電動ダクテッドファン等の電気エンジンを備える。図示した例では、各エンジン装置106は、3基のエンジン110を含む。
【0028】
複数のエンジン110、好ましくは5基よりも多いエンジンは、互いに隣接して一列に配置されているため、隣接するエンジンの空気流が合流して互いを支え合い、それにより横方向の幅が比較的大きい連続した流れを形成できる。図示した例では、後部の翼102aはそれぞれ10基よりも多い、具体的には12基のエンジンを搭載し、先尾翼102bはそれぞれ5基よりも多い、具体的には6基のエンジンを搭載している。その結果、エンジンの総数は30基よりも多く、具体的にはちょうど36基であり、これにより、航空機は、高い冗長性、高効率、低騒音で運航できる。
【0029】
各エンジン装置106は、離着陸に適したホバリング位置と前進飛行に適した巡航位置との間で横方向のエンジン旋回軸を中心に旋回できるように、翼形部102に旋回可能に取り付けられている。ホバリング位置では、エンジン装置106の少なくとも1基のエンジン110の推力方向が垂直方向Zに向けられる。巡航位置では、エンジン装置106の少なくとも1基のエンジン110の推力方向が進行方向Xと実質的に平行に向けられる。
【0030】
本発明の第1の実施形態によれば、各エンジン装置106は、エンジン装置106の排気部分に取り付けられた可変面積排気ノズル130を備える。可変面積排気ノズル130は、比較的大きな排気ノズル領域を規定する開位置と、比較的小さな排気ノズル領域を規定する閉位置との間で動くように構成された少なくとも1つの可動顎部134、好ましくは2つの顎部、を有する顎部装置132を備えるのが好ましい。
【0031】
1基のエンジン装置が、可変面積排気ノズル130を1つだけ有し、1基のエンジン装置106が複数のエンジン、例えば3基のエンジン110を含む場合に、すべてのエンジンの排気領域が、共通の可変面積排気ノズルによって制御されるのが好ましい。
【0032】
可変排気ノズル130を動かして、異なる排気ノズル領域、具体的には、閉じた構成又は巡航構成に設定された場合の巡航排気ノズル領域と、開かれた構成又はホバリング構成に設定された場合のホバリング排気ノズル領域とに対応する異なる開度を規定できる。巡航時とホバリング時の排気ノズル領域を変えることにより、排気部分の静圧が変化し、空力特性を巡航位置及びホバリング位置に適合させることができる。したがって、エンジン110は、特に巡航飛行とホバリング飛行の両方の間、類似の実効動作点及び/又は類似の流動状態で、所望通りに効率的に動作できる。巡航時とホバリング時の排気ノズル領域の比率が0.53から0.76の範囲内、好ましくは0.61から0.69の範囲内、最も好ましくは0.65に設定された場合に、エンジン、したがって航空機が最適な性能を達成することがわかっている。
【0033】
図2aは、巡航位置にある第1の実施形態のエンジン装置106の詳細を示す。エンジン110は、入口部分114から排気部分116へ進行方向Xに延びるエンジンハウジング112を備える。エンジンハウジング112内には、ロータブレード124及びステータブレード126を有するロータ122が配置されている。ステータブレード126は、エンジンハウジング112の中心にロータ122を保持する。
【0034】
排気部分116に隣接して、可変面積排気ノズル130が、エンジンハウジング112に取り付けられている。可変面積排気ノズル130は、顎部装置132を備える。顎部装置132は、横方向Yに配置されてもよい顎部旋回軸134aを中心に可動な少なくとも1つの顎部134を有する。顎部旋回軸134aは、一点鎖線の十字で示されている。顎部装置132は、開位置136(図示せず)と閉位置138との間で可動である。
【0035】
閉位置138では、2つの隣接する顎部134は、実質的に垂直方向Zに互いに当接し得る。さらに、隣接する顎部134の周面135の間の距離133は、ロール軸Xの方向の排気部分116の端部から反対側の端部に向かって減少している。少なくとも1つの顎部134は、ロール軸Xの方向から見たときにC字形の断面を有するように形成されてもよい。
【0036】
エンジン装置及び可変面積排気ノズルの第2の実施形態を
図2bに示す。
図2bは、
図2aの実施形態に実質的に対応している。したがって、
図2bでは、類似する部品には
図2aと同じ参照番号に100を加えた番号が付されている。例えば、
図2bに示す閉位置238は、
図2aに示す閉位置138に対応する。さらに、エンジン装置206及び可変面積排気ノズル230は、
図2aの第1の実施形態の可変面積排気ノズル130及びエンジン装置106と異なる場合に限り以下に説明され、他のすべての特徴及び機能に関しては、第1の実施形態の説明を参照する。
【0037】
エンジン装置206は、入口部分214から排気部分216へ延びるエンジンハウジング212を備える。さらに、エンジンハウジング212は、ロータブレード224及びステータブレード226を有するロータ222を収容する。
【0038】
エンジンハウジング212に隣接して、可変面積排気ノズル230が配置される。可変面積排気ノズル230は、顎部装置232を備える。顎部装置232は、顎部旋回軸234aを中心に可動な少なくとも1つの顎部234を有する。この顎部旋回軸234aは、横方向Yに配置されてもよい。
【0039】
第2の実施形態によれば、顎部装置は、破線で示す閉位置238で互いに接近する2つの顎部234を有してもよく、それらの間に閉距離又は巡航排気ノズル領域238aが形成される。実線で示される開位置236にある顎部装置232は、2つの顎部234の間に、開距離又はホバリング排気ノズル領域236aを形成する。少なくとも1つの顎部234は、横方向Yから見て実質的に台形形状を有してもよい。
【0040】
排気ノズル領域238a、236aは、可変面積排気ノズルの断面の形状及び距離dによって決定される。可変面積排気ノズル230は、ロール軸Xの方向から見て長方形の断面を有してもよい。
【0041】
図3a及び
図3bは、
図2a及び
図2bの第1の実施形態及び第2の実施形態に実質的に対応する、可変面積排気ノズルの第3の実施形態を示す。したがって、
図3a及び
図3bでは、類似する部品には
図2aと同じ参照番号に200を加えた番号が付されており、
図2bについては100を加えた番号が付されている(例えば、顎部旋回軸334aは、顎部旋回軸134a及び顎部旋回軸234aに類似し、航空機300は、航空機100に類似し、エンジン装置306は、エンジン装置106に類似する)。さらに、可変面積排気ノズル330は、
図2aの可変面積排気ノズル130及び
図2bの可変面積排気ノズル230と異なる場合に限り以下に説明される。
【0042】
第3実施形態の顎部装置332は、取付部340でエンジン310の排気部分316、又はエンジンハウジング312、に取り付けられた少なくとも1つの顎部334を備える。取付部340は、ヒンジやリンク機構等であってもよい。少なくとも1つの顎部334は、破線で示される開位置336と実線で示される閉位置338との間で可動である。
【0043】
図3a及び
図3bを参照すると、巡航位置306aでは、エンジン310の推力方向THは、進行方向X又はロール軸と平行であってもよく、あるいは進行方向X又はロール軸に対して15度未満の角度で傾斜していてもよい。さらに、ホバリング位置306bでは、エンジン310の推力方向TVは、垂直方向Zと平行であってもよく、あるいは垂直軸Zに対して15度未満の角度で傾斜していてもよい。エンジン310が、巡航位置306aからホバリング位置306bに回転する場合、少なくとも1つの顎部334が、閉位置338から開位置336に動く。
【0044】
エンジン310は、航空機部品342に対してエンジン旋回軸344を中心に可動である。このエンジン310の動きは、モータ(図示せず)により周知の方法で駆動されてもよい。
【0045】
エンジン310の動きを少なくとも1つの顎部334の動きに変換するために、リンク手段356とカム機構358を備えたトランスミッション350が提供される。例えば、リンク手段356は、ロッドであり、カム機構358は、スロット付きのカムである。トランスミッション350は、第1の端部352で顎部装置332に接続され、第2の端部354で航空機部品342に接続される。航空機部品342は、航空機100の翼形部302であってもよい。
【0046】
第2の端部354で、リンク手段356は、エンジン旋回軸344に対してオフセット距離362においてヒンジジョイントによって航空機部品342に接続される。リンク手段356は、別のヒンジジョイントによってカム機構358に接続される。カム機構358は、少なくとも1つの顎部334に接続される。カム機構358は、一点鎖線の十字で示されるカム軸366を中心に可動である。
【0047】
エンジン310は、
図3bに示すホバリング位置と
図3aに示す巡航位置との間で、航空機部品342に対し約90°可動である。エンジン310が、エンジン旋回軸344を中心に動くと、リンク手段356も移動を実行する。ヒンジジョイントにより、エンジン310が回転すると、カム機構358は、カム軸366を中心に回転する。
【0048】
第3の実施形態によれば、カム機構358は、相互に係合するスロット付きのカム370とピン364aとを備える。ピン364aは、顎部装置332に固定接続される。スロット付きのカム370が動くと、ピン364aが、スロット付きのカム370のスロットの形状に応じて動く。この動きにより、顎部装置332と少なくとも1つの顎部334が動く。エンジンの製造中に、例えば、顎部334を(例えば、シミュレーション又は幾何学計算で)巡航モードとホバリングモードの間のエンジンの各位置に対して所望の角度まで回転させ、ピン364aの対応する経路を決定してスロットのパスを規定することにより、スロットの形状を設計してもよい。動作中、エンジンが旋回しているときに、ピン364aは、強制的にこの経路をたどる。
【0049】
カム機構358、特にスロット付きのカム370のスロットは、第1の伝達比を規定する第1の形状を有する第1の部分372aと、第2の伝達比を規定する第2の形状を有する第2の部分372bとを備えてもよい。第1の部分372内でのピン364aの動きは、顎部334の動きをより高速にし、第2の部分372b内でのピン364aの動きは、顎部334の動きをより低速にし得る。これは、航空機部品342に対するエンジン310の動きに関する限り、例えば、巡航位置又はその近くに、顎部334が比較的高速で開閉する第1の範囲が設けられ、例えば、ホバリング位置あるいはその近くに、顎部334が比較的低速で開閉する第2の範囲が設けられることを意味する。その結果、顎部334の動く速さは、エンジンの動きに厳密に線形ではなく、エンジンの位置が異なれば異なり得る。したがって、排気ノズル領域は、顎部334の開き角度αに応じて、航空機部品342とエンジン310との間のエンジン角度βに関して決定される。
【0050】
さらに、スロット付きのカム370のスロットは、スロットがカム軸366を中心とした一定半径の円形断面をたどる第3の部分(図示せず)を備えてもよい。これにより、円形断面内のスロット付きのカム370とピン364aとの間の相対運動は、顎部軸334aを中心としたピン364aの動きにつながらず、顎部334の角度位置がエンジン310に対して固定した状態に保たれる。換言すれば、ピン364aが、スロットの第3の部分内を動く限り、航空機部品342に対するエンジン310の動きは、顎部334の動きに変換されない。
【0051】
顎部装置332は、複数の顎部、例えば、2つの顎部334b、334cを備えてもよい。これらの顎部334b、334cは、リンク機構380によって互いに接続されてもよい。リンク機構380は、顎部334b、334cに固定されたヒンジであってもよい。一方の顎部334bの動きは、リンク機構380を介して、少なくとも1つの他方の顎部334cに伝達される。そのため、顎部334b、334cの両方が、エンジン310の動きに従って、且つエンジン310の動きにより駆動されて、例えば、閉位置338から開位置336に動く。2つの顎部334b、334cの動きは、基本的に同時であってもよい。あるいは、2つの顎部334b、334cを交互に開閉してもよい。
【0052】
図4aは、
図3a及び
図3bの第3の実施形態に実質的に対応する可変面積排気ノズルの第4の実施形態を示す。したがって、
図4aでは、類似する部品には
図3a及び
図3bと同じ参照番号に100を加えた番号が付されている(例えば、エンジン410は、エンジン310に類似する)。さらに、可変面積排気ノズル430は、
図3a及び
図3bの可変面積排気ノズル330と異なる場合に限り以下に説明され、他のすべての特徴及び機能に関しては、第3の実施形態の説明を参照する。
【0053】
第4の実施形態の変形例を
図4b及び
図4cに示す。第4の実施形態の変形例は、
図4aに関して図示及び説明されたトランスミッションの概念に関連する。したがって、
図4b及び
図4cの参照番号は、主に
図4aに類似するが、アポストロフィが追加されている(例えば、エンジン410’)。
図4a及び
図4bは、横方向Yから見たエンジン410、410’を示し、
図4cは、エンジン410’の斜視図である。
【0054】
図4aでは、顎部装置432が、取付部440でエンジン410の排気部分416に取り付けられている。少なくとも1つの顎部434を備えた顎部装置432の動きを制御し、エンジン410の動きを少なくとも1つの顎部434の動きに変換するために、トランスミッション450が、可変面積排気ノズル430に関連付けられている。その結果、可変面積排気ノズル430の動きが、エンジン410の動きに直結される。エンジン410を、実質的に垂直推力方向のホバリング位置(図示せず)から進行方向Xに実質的に平行又は略平行な推力方向THの巡航位置に回転してもよい。
【0055】
トランスミッションの第1の端部452と第2の端部454とは、リンク手段456で互いに接続されている。トランスミッションは、第1の端部452で、ヒンジジョイントによって少なくとも1つの顎部434、具体的には顎部装置432の第1の顎部434bに接続される。各顎部434は、横方向Yに配向された顎部旋回軸434aを中心に可動である。
図4aでは、トランスミッション450は、顎部旋回軸434aに対して顎部オフセット距離492において第1の顎部434bに接続されている。
【0056】
トランスミッション450は、第2の端部454で、カム機構458により航空機部品に接続される。カム機構458は、リンク手段456に接続された作動ピンと係合して航空機部品に固定されたスロット付きのカムで構成されてもよい。さらに、カム機構458は、エンジン旋回軸444の周りに配置される。
【0057】
図4aに示すように、エンジン410が巡航位置からホバリング位置又はその逆への旋回する時、リンク手段456は、第2の端部454において、エンジン旋回軸444を中心にカム機構458によってガイドされて動く。トランスミッション450の第1の端部452と顎部旋回軸434aとの間の顎部オフセット距離492により、エンジン410の動きは、第1の顎部434bの顎部旋回軸434aを中心とした動きに変換される。
【0058】
この動きを少なくとも1つの他の顎部434cに変換するために、第1の顎部434bと少なくとも1つの他の顎部434cは、リンク機構480によって互いに接続される。第4の実施形態によれば、このリンク機構480は、スロット付きのカム機構484であってもよい。したがって、作動ピン486は、少なくとも1つの他の顎部434c内に突出する第1の顎部434bに取り付けられる。作動ピン486は、第1の顎部434bに一体的に接続されてもよい。少なくとも1つの他の顎部434cに、スロット付きのカム機構484のスロットが設けられる。作動ピン486は、スロット付きのカム機構484のスロットに係合している。スロットは、顎部装置432を開閉するように反対方向に顎部434b、434cを回転させるために、傾きのある曲線として形成されてもよい。もちろん、第1の顎部434bに、スロット付きのカム機構484のスロットが設けられてもよく、少なくとも1つの他の顎部434cに、作動ピン486が設けられてもよい。
【0059】
図4aに対し、
図4b及び
図4cは、代替となる顎部設計を示し、さらに、エンジン410’の旋回運動時、可変面積排気ノズル430’に関連付けられたトランスミッション450’と航空機部品442’との間の相互作用を含むカム機構458’を特定する。
図4aに示した顎部434に対してに、顎部装置432’の顎部434b’、434c’は、進行方向Xにおける長さが実質的により短いことで、顎部434b’、434c’の重量を軽くしていてもよい。顎部434’の面取り形状と組み合わせることにより、エンジン410’の排気部分の空力断面は、さらに最適化できる。
図4b及び
図4cに示した代替の顎部設計は、他の実施形態にも適用してもよく、対応するエンジン410’は、
図4aに示す顎部434を備えてもよい。
【0060】
各エンジン410’は、接続部446’、例えば2つの接続部446’を介して航空機部品442’と回転可能に係合し、共通の軸(図示せず)により、エンジン旋回軸444’を中心としたエンジン410’の旋回運動を制御できるように構成されている。第1の端部452’を介してトランスミッション450’を顎部装置432’、具体的には顎部434b’に接続する第1のリンク手段456a’に加え、第2のリンク手段456b’を設けてもよい。第1のリンク手段456a’よりも短いこのような第2のリンク手段456b’は、ピン462’を介して、第2の端部454’で航空機部品442’の接続部446’に回転可能に接続され、それにより、エンジン410’の旋回方向に従って第2のリンク手段456b’を回転可能にする。カム機構458’は、第1及び第2のリンク手段456a’、456b’との間に配置され、カム軸466’でエンジン410’に回転可能に固定される。
【0061】
それぞれ第1及び第2の中間端部460a’、460b’を介してカム機構458’のスロット付きプレートに接続された第1及び第2のリンク手段456a’、456b’は、主延在方向に対して実質的に整列し、エンジン410’が旋回する間もその状態を維持する。第1の中間端部460a’で第1のリンク手段456a’に取り付けられたピン470’は、カム機構458’のガイドパス468’によってガイドされる。航空機部品442’に対してエンジン410’が旋回運動するとき、すなわち、巡航位置からホバリング位置又はその逆へ動くとき、スロット付きのカムは、カム軸466’を中心に回転するが、その向きは、航空機部品442’に対して実質的に一定のままであってもよい。
【0062】
エンジン410’の旋回運動とスロット付きのカムのカム軸466’を中心とした回転とにより、ガイドパス468’の事前規定されたパスに沿った、第1のリンク手段456a’の第1の中間端部460a’でのピン470’の相対的な動きが開始される。このパスは、ピン470’がエンジン410’の旋回方向に従って動き、ガイドパス468’の第1、第2及び第3の角度範囲を横切るように配置される。推力方向THに対しエンジン410’が実質的に平行に配置されることに似ている巡航位置と、エンジン410が実質的に垂直に整列されるホバリング位置との間の総角度範囲に対し、第1の角度範囲は、0°から30°、第2の角度範囲は、30°から60°、第3の角度範囲は60°から90°として規定されてもよく、第3の角度範囲は、120°まで拡張されてもよい。
【0063】
図4b及び
図4cに示す閉位置438’では、カム軸466’へのガイドパス468’の距離は、第1の角度範囲で最も短いが、対応する距離は、第2の角度範囲で徐々に増加する。その結果、ピン470’が第2の角度範囲を横断する間、ピン470’及び第1のリンク手段456a’は、徐々にエンジン410’の後部に向かって、すなわち、顎部装置432’に向かって、押し進められる。第3の角度範囲では、ガイドパス468’からカム軸466’への距離は最大となるため、ピン470’は、第3の角度範囲にある間、カム軸466’から最も遠い。
【0064】
ガイドパス468’の第2の角度範囲で、ピン470’及び第1のリンク手段456a’のカム軸466’への距離が、徐々に変化しているとき、第1のリンク手段456a’の動きが、第1の端部452’での顎部434b’の動き、すなわち閉位置438’から開位置へ又はその逆の動きに変換される。したがって、顎部434b’の動きは、エンジン410’の旋回運動によって支配される。リンク機構480’は、顎部434b’の動きを顎部434c’の動きに変換するために使用される。リンク機構480’は、第3の実施形態について記載されるように、あるいは
図4aに示すリンク機構480について記載されるように、スロット付きのカム機構484とピン486とを含むように構成されてもよい。さらに、顎部434’は、顎部旋回軸434a’を中心に旋回するように配置されてもよい。
図4b及び
図4cに示す顎部装置432’の代わりに、顎部434b’は、
図4aに示すオフセット距離492において第1の端部452’でトランスミッション450’に接続されてもよい。
【0065】
図4b及び
図4cに示す第4の実施形態の変形例の構成によれば、顎部装置432’は、第1の角度範囲の間、閉位置438’に留まり、第2の角度範囲で閉位置438’から開位置に移行し、第3の角度範囲で開位置に留まる。逆に、すなわち、エンジン410’がホバリング位置から巡航位置に旋回するとき、顎部装置432’は、第3の角度範囲の間、開位置に留まり、第2の角度範囲の間に閉位置438’に移行し、第1の角度範囲の間、閉位置438’に留まる。
【0066】
図5は、
図3a及び
図3bの第3の実施形態に実質的に対応する可変面積排気ノズルの第5の実施形態を示す。したがって、
図5では、類似する部品には
図3a及び
図3bと同じ参照番号に200を加えた番号が付されている(例えば、エンジン510は、エンジン310に類似する)。さらに、可変面積排気ノズル530は、
図3a及び
図3bの可変面積排気ノズル330と異なる場合に限り以下に説明され、他のすべての特徴及び機能に関しては、第3の実施形態の説明を参照する。
【0067】
第5の実施形態に係るトランスミッション550は、顎部旋回軸534aに対してオフセット距離592において、顎部装置532の顎部534に、第1の端部552で接続された弾性部材561、例えばバネ、を備える。弾性部材561は、エンジン旋回軸544に対してオフセット距離562で、航空機部品542(図示せず、航空機部品342に対応する)に、第2の端部554で接続される。
【0068】
顎部534の位置を固定するために、メカニカルストップ594が設けられる。エンジンがアイドル範囲で旋回すると、顎部534は、弾性部材561によりメカニカルストップ594に当接して保持される一方、弾性部材561は、圧縮又は伸張される。したがって、エンジン510が、第1の角度範囲内でエンジン旋回軸544を中心に回転すると、トランスミッション550は、顎部534を回転させるために、航空機部品542に対するエンジン510の動きを顎部534に伝達する。対照的に、エンジン510が、第2の角度範囲(アイドル範囲)内でエンジン旋回軸544を中心に回転すると、エンジン510に対する顎部534の位置が、固定される。
【0069】
エンジン510は、開位置又は閉位置538に向かって顎部534にあらかじめ張力をかけるための弾性手段565を更に備えてもよい。弾性手段565は、第1の端部565aで少なくとも1つの顎部534に接続される。引張ばねであってもよい弾性手段565は、第2の端部565b上で、エンジンハウジング部512aに接続される。
【0070】
例えば、弾性手段565は、閉位置538で顎部534にあらかじめ張力をかける。エンジン510は、顎部534が閉位置538にある巡航位置から顎部534が開位置にあるホバリング位置に下向きに回転してもよい。最初に、エンジン510は、顎部534が閉位置538に留まるアイドル範囲で動く。その後、エンジンは、第1の範囲に動き、弾性手段565が伸張される。その結果、顎部534は、最大で開位置に到達するまでエンジン510の動きに応じて開かれる。
【0071】
図6a及び
図6bは、
図3a及び
図3bの第3の実施形態に実質的に対応する可変面積排気ノズルの第6の実施形態を示す。したがって、
図6a及び
図6bでは、類似する部品には、
図3a及び
図3bと同じ参照番号に300を加えた番号が付されている(例えば、エンジン610は、エンジン610に類似する)。さらに、可変面積排気ノズル630は、
図3a及び
図3bの可変面積排気ノズル330と異なる場合に限り以下に説明され、他のすべての特徴及び機能に関しては、第3の実施形態の説明を参照する。
【0072】
第6の実施形態は、トランスミッション650を備え、トランスミッション650は、プーリトランスミッション667を備える。プーリトランスミッション667は、顎部装置632の顎部634の顎部旋回軸634aに接続された第1のプーリ669と、エンジン610に向かってエンジン旋回軸644に接続された別の第2のプーリ671とを有してもよく、可動である。第1のプーリ669と第2のプーリ671とは、少なくとも1つの接続手段673で接続されてもよい。さらに、第2のプーリ671は、非円形の断面、好ましくは小半径部671cと大半径部671dを含む楕円形の断面を有してもよい。
【0073】
第6の実施形態によれば、第1のプーリ669及び第2のプーリ671は、ベルト装置673、具体的には、張り側ベルト673a及び緩み側ベルト673bに接続される。張り側ベルト673aと緩み側ベルト673bとは、各プーリ669、671に、具体的には、互いに反対側で固定される。例えば、緩み側ベルト673bは、右側669aで第1のプーリ669に接続され、左側671bで第2のプーリ671に接続され、張り側ベルト673aは、第1のプーリの左側669b、及び第2のプーリ671の右側671aに接続される。その結果、張り側ベルト673a及び緩み側ベルト673bは、第1のプーリ669と第2のプーリ671との間の交差部分675で互いに交差する。
【0074】
張り側ベルト673aと緩み側ベルト673bとの間の距離を維持し、緩み側ベルト673bの緩んだ部分を収容するために、緩み側ベルト673bに接触したベルト張力装置679を設けてもよい。
【0075】
図6aの巡航位置で、小半径部671cが第1のプーリ669に面した状態に、第2のプーリ671が配向される。エンジン610を、ホバリング位置(
図6b)に向かってエンジン旋回軸644を中心に航空機部品642(図示せず)に対して回転すると、第1のプーリ669は、エンジン旋回軸644を中心としてエンジンとともに回転するが、第2のプーリ671は、航空機部品に固定されているためこの回転に追随しない。その結果、第2のプーリ671の大半径部671dが、第1のプーリ669に面する。結果として、張り側ベルト673aは張力をかけられ、緩み側ベルト673bは排出されて、第1のプーリ669が、エンジンに対して回転する。これにより、顎部634が、閉位置638から開位置636へ動く。
【0076】
張り側ベルト673a及び緩み側ベルト673bを利用する代わりに、上述した構成は、プーリ669、671の両方を取り囲み、摩擦係合する1本の連続ベルトを使用してもよい。実施形態のさらなる変形では、1本又は2本のベルトの代わりに、1本の連続した又は2本の別々のケーブル、チェーン又は他の縦長の伝動部材を使用してもよい。
【国際調査報告】