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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】チオエーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240216BHJP
   C07C 323/22 20060101ALI20240216BHJP
   C07C 319/18 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01N27/62 C
C07C323/22
C07C319/18
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548698
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2022053012
(87)【国際公開番号】W WO2022171627
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】63/148,182
(32)【優先日】2021-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】21158321.6
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009287
【氏名又は名称】フイルメニツヒ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Firmenich SA
【住所又は居所原語表記】7,Rue de la Bergere,1242 Satigny,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジル オドン
(72)【発明者】
【氏名】エリック フルロ
(72)【発明者】
【氏名】ラメス ボシュラ
【テーマコード(参考)】
2G041
4H006
【Fターム(参考)】
2G041FA06
2G041FA09
2G041GA01
2G041GA03
2G041GA06
4H006AA02
4H006AC63
4H006TA04
(57)【要約】
本発明は、有機合成の分野に関し、より具体的には、式(I)の化合物の製造方法に関する。さらに、本発明はまた、式R-SHのチオール中の炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物の量を測定する分析方法、および炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物を最大でも50μg/kgしか含まず、かつ式(I’)の化合物を最大でも1ppmしか含まない物質組成物を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式R-SH[式中、Rは、8~15個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、前記基は、硫黄原子に直接結合していないカルボン酸またはC~Cカルボン酸エステル官能基を含んでいてもよい]のチオール中における、炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物の量を、固相マイクロ抽出(SPME)と組み合わせたガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)により測定する方法であって、試料を-100℃~-50℃の温度に冷却した状態で前記SPMEを実施する、方法。
【請求項2】
前記炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物が、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、1-ブタンチオールおよびテトラヒドロチオフェンからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記GC/MSのMSが、トリプル四重極、四重極飛行時間(Q-TOF)または四重極オービトラップ型である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
GC-MSデータの取得モードが、選択イオンモニタリング(SIM)または選択反応モニタリング(SRM)である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】

【化1】
[式中、
波線は、前記Pと硫黄原子との結合の位置を示し;
Pは、発香性のα,β-不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルを生成可能な基を表し、式
【化2】
〔式中、
波線は、前記PとSとの結合の位置を示し;
は、水素原子、C~Cアルコキシル基、またはC~C15の直鎖状、環状もしくは分岐状のアルキル、アルケニルもしくはアルカジエニル基を表し、前記基は、1~4個のC~Cアルキル基で置換されていてもよく;
、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、芳香環、もしくはC~C15の直鎖状、環状もしくは分岐状のアルキル、アルケニルもしくはアルカジエニル基を表し、前記基は、C~Cアルキル基で置換されていてもよく;または基R~Rのうちの2つもしくは3つが一緒に結合して、飽和もしくは不飽和の環を形成し、前記環は、5~20個の炭素原子を有し、かつ前記R、R、RもしくはR基が結合している炭素原子を含み、前記環は、C~Cの直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキルもしくはアルケニル基で置換されていてもよい〕で表され;
Rは、8~15個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、前記基は、硫黄原子に直接結合していないカルボン酸またはC~Cカルボン酸エステル官能基を含んでいてもよい]
の化合物の製造方法であって、
前記方法は、式
【化3】
[式中、R、R、RおよびRは、上記で定義したのと同じ意味を有する]の化合物を、式R-SH[式中、Rは、上記で定義したのと同じ意味を有する]のチオールと反応させるステップを含み、
前記チオールが、炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物を最大でも50μg/kgしか含まないことを特徴とする、方法。
【請求項6】
前記式R-SHのチオールが、
a)最大でも5μg/kgの1-プロパンチオール
b)最大でも5μg/kgの2-プロパンチオール
c)最大でも5μg/kgの2-メチル-1-プロパンチオール
d)最大でも20μg/kgの2-メチル-2-プロパンチオール
e)最大でも5μg/kgの1-ブタンチオール、および
f)最大でも10μg/kgのテトラヒドロチオフェン
しか含まない、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記式R-SHのチオールが、痕跡量の1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、1-ブタンチオールまたはテトラヒドロチオフェンを含まない、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
前記式R-SHのチオールを、前記式(III)の化合物と反応させる前に蒸留によって精製する、請求項5から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
Rが、10~14個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基であってよい、請求項5から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記式R-SHのチオールが、1-ドデカンチオールである、請求項5から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記Pが、式(P-1)~(P-14):
【化4】
[式中、波線は、上記に示した意味を有し、点線は、単結合または二重結合を表し、Rは、水素原子またはメチル基であり、Rは、水素原子、ヒドロキシル基もしくはメトキシ基またはC~Cの直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表し、Rは、水素原子またはC~Cの直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表す]からなる群から選択される基であり、それらの異性体のいずれか1つの形態である、請求項5から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記Pが、(P-1)、(P-2)、(P-3)、(P-7)、(P-13)または(P-14)である、請求項5から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
式(I)の化合物が、3-(ドデシルチオ)-1-(2,6,6-トリメチルシクロヘキサ-3-エン-1-イル)ブタン-1-オン、2-(ドデシルチオ)-4-オクタノン、3-(ドデシルチオ)-1-(2,6,6-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-イル)ブタン-1-オン、4-(ドデシルチオ)-4-(2,6,6-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-イル)ブタン-2-オンおよび4-(ドデシルチオ)-4-(2,6,6-トリメチルシクロヘキサ-1-エン-1-イル)ブタン-2-オンおよび4-(ドデシルチオ)-4-メチルペンタン-2-オンの群から選択される、請求項5から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記式(III)の化合物と前記式R-SHのチオールとの反応を、塩基の存在下で行う、請求項5から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
式(I)の化合物を含み、炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物を最大でも50μg/kgしか含まず、かつ式
【化5】
[式中、波線は、前記Pと硫黄原子との結合の位置を示し;Pは、請求項5から14までで定義したのと同じ意味を有し、R’は、1~5個の炭素原子を有するアルキル基を表す]の化合物を最大でも1ppmしか含まない、物質組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成の分野に関し、より具体的には、式(I)の化合物の製造方法に関する。さらに、本発明はまた、式R-SHのチオール中の炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物の量を測定する分析方法、および炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物を最大でも50μg/kgしか含まず、かつ式(I’)の化合物を最大でも1ppmしか含まない物質組成物を含む。
【0002】
発明の背景
香料産業では、賦香効果を一定期間にわたって延長または増強することができる組成物または添加剤に特に関心が寄せられている。消費者の体験を増やすために、持続特性を得ることが特に望ましい。持続性香料は、例えばファインパフューマリーもしくは機能性香料または化粧品などの様々な用途に望ましい。テキスタイルの洗濯および柔軟処理は、活性物質、特に香料または賦香組成物の効果を、洗濯、柔軟処理および乾燥後に一定期間有効にできることが常に必要である特殊な分野である。実際、この種の用途に特に適した活性物質の多くは、洗濯物への付着性に欠けるか、またはすすいだ際に洗濯物に残らないことが知られており、その結果、その賦香効果は短時間しか得られず、またさほど強くもない。香料産業におけるこの種の用途の重要性を考慮し、この分野での研究は、特に前述の問題に対する新規の、より効果的な解決策を見出すことを目的として続けられてきた。
【0003】
このような観点から、プロフレグランスやプロパフュームとも呼ばれる前駆体化合物のような、施与中または施与後に化学反応によって活性材料を放出する(放出トリガーとしてO、光、酵素、水(pH)または温度を使用する)デリバリーシステムが開発されてきた。この目標に向けて、本明細書に以下に記載されており、国際公開第03/049666号で報告されている式(I)のβ-チオカルボニルプロフレグランス誘導体が開発され、特に3-(ドデシルチオ)-1-[(1RS,2SR)-2,6,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-イル]-1-ブタノンは、Haloscent(登録商標)D(供給元:Firmenich SA)としても知られている。
【0004】
しかし、式(I)の化合物の嗅覚的な品質は、一般的な分析方法では検出されない痕跡量の不純物によって著しく影響を受けることがあり、これにより、消費者製品に使用することができなくなる。一方で、式(I)の化合物は、一般的な精製法では分解する場合があり、これにより、さらなる精製工程は逆効果となる。
【0005】
そこで、オフノートの発生を制限しつつ式(I)の化合物へのアプローチを開発すること、また出発材料中に存在し、最終生成物中のオフノートの原因となる不純物の検出が可能な分析方法を開発することが必要である。
【0006】
本発明は、式(III)の化合物を、炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物を最大でも50μg/kgしか含まない式R-SHのチオールと反応させて式(I)の化合物を製造することによる、上記の課題に対する解決策を提供する。さらに、炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物を微量でも検出するための分析方法が開発された。
【0007】
発明の概要
本発明は、式(I)の化合物の分解を招く精製ステップを制限しながら、オフノートの存在なしに、式(III)のエナール、エノンまたはα,β-不飽和カルボン酸エステルへの式R-SHのチオールの1,4付加(マイケル型付加)により式(I)の化合物を製造することを可能にする新規な方法に関する。
【0008】
そこで、本発明の第1の主題は、式R-SH[式中、Rは、8~15個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、前記基は、硫黄原子に直接結合していないカルボン酸またはC~Cカルボン酸エステル官能基を含んでいてもよい]のチオール中における炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物の量を、固相マイクロ抽出(SPME)と組み合わせたガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)により測定する方法であって、試料を-100℃~-50℃の温度に冷却した状態でSPMEを実施する、方法である。
【0009】
本発明の第2の主題は、式
【化1】
[式中、
波線は、前記Pと硫黄原子との結合の位置を示し;
Pは、発香性α,β-不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルを生成可能な基を表し、式
【化2】
〔式中、
波線は、前記PとSとの結合の位置を示し;
は、水素原子、C~Cアルコキシル基、またはC~C15の直鎖状、環状もしくは分岐状のアルキル、アルケニルもしくはアルカジエニル基を表し、前記基は、任意に1~4個のC~Cアルキル基で置換されていてもよく;
、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、芳香環、もしくはC~C15の直鎖状、環状もしくは分岐状のアルキル、アルケニルもしくはアルカジエニル基を表し、前記基は、C~Cアルキル基で置換されていてもよく;または基R~Rのうちの2つもしくは3つが一緒に結合して、飽和もしくは不飽和環を形成し、前記環は、5~20個の炭素原子を有し、かつ前記R、R、RもしくはR基が結合している炭素原子を含み、前記環は、C~Cの直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキルもしくはアルケニル基で置換されていてもよい〕で表され;
Rは、8~15個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、前記基は、硫黄原子に直接結合していないカルボン酸またはC~Cカルボン酸エステル官能基を含んでいてもよい]
の化合物の製造方法であって、
該方法は、式
【化3】
[式中、R、R、RおよびRは、上記で定義したのと同じ意味を有する]の化合物を、式R-SH[式中、Rは、上記で定義したのと同じ意味を有する]のチオールと反応させるステップを含むものとする方法において、
チオールが、炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物を最大でも50μg/kgしか含まないことを特徴とする、方法である。
【0010】
本発明の第3の主題は、式(I)の化合物を含み、炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物を最大でも50μg/kgしか含まず、かつ式
【化4】
[式中、波線は、前記Pと硫黄原子との結合の位置を示し;Pは、上記で定義したのと同じ意味を有し、R’は、1~5個の炭素原子を有するアルキル基を表す]の化合物を最大でも1ppmしか含まない物質組成物である。
【0011】
発明の説明
本発明は、高い収率を維持しつつ、オフノートを有しない式(I)の化合物を製造するための新規の方法に関する。本発明の方法は、式(I)の化合物の官能特性に悪影響を与える不純物が存在しない、式(I)の化合物への効率的な経路を表す。実際、式(I)の化合物の製造に使用される式R-SHのチオール中の炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物の存在が、生成物収率を低下させることなく除去することが不可能であった最終的な式(I)の化合物の望ましくないオフノートの原因であることが驚くべきことに発見された。
【0012】
そこで、本発明の第1の主題は、式
【化5】
[式中、
波線は、前記Pと硫黄原子との結合の位置を示し;
Pは、発香性α,β-不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルを生成可能な基を表し、式
【化6】
〔式中、
波線は、前記PとSとの結合の位置を示し;
は、水素原子、C~Cアルコキシル基、またはC~C15の直鎖状、環状もしくは分岐状のアルキル、アルケニルもしくはアルカジエニル基を表し、前記基は、1~4個のC~Cアルキル基で置換されていてもよく;
、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、芳香環、もしくはC~C15の直鎖状、環状もしくは分岐状のアルキル、アルケニルもしくはアルカジエニル基を表し、前記基は、C~Cアルキル基で置換されていてもよく;または基R~Rのうちの2つもしくは3つが一緒に結合して、飽和もしくは不飽和環を形成し、前記環は、5~20個の炭素原子を有し、かつ前記R、R、RもしくはR基が結合している炭素原子を含み、前記環は、C~Cの直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキルもしくはアルケニル基で置換されていてもよい〕で表され;
Rは、8~15個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、前記基は、硫黄原子に直接結合していないカルボン酸またはC~Cカルボン酸エステル官能基を含んでいてもよい]
の化合物の製造方法であって、
該方法は、式
【化7】
[式中、R、R、RおよびRは、上記で定義したのと同じ意味を有する]の化合物を、式R-SH[式中、Rは、上記で定義したのと同じ意味を有する]のチオールと反応させるステップを含むものとする方法において、
チオールが、炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物を最大でも50μg/kgしか含まないことを特徴とする、方法である。
【0013】
明確にするために述べると、「炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物」または類似の表現は、当業者に理解される通常の意味、すなわち、-SH官能基を含む、炭素原子数が6未満の有機硫黄化合物、または-S-官能基を含む、炭素原子数が6未満の有機硫黄化合物を意味する。
【0014】
本発明のいずれかの実施形態によれば、本発明の方法は、式R-SHのチオール中の炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物の量を、固相マイクロ抽出(SPME)と組み合わせたガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)により測定するステップを含み、ニート試料を-100℃~-50℃の温度に冷却した状態でSPMEを実施する。SPME繊維は、好ましくは、StableFlex繊維(部品番号57329-U、Supelco)上のポリジメチルシロキサン上の50/30μmのジビニルベンゼン/カルボキセン、または2cmのStableFlex繊維上のポリジメチルシロキサン上の50/30μmのジビニルベンゼン/カルボキセンである。使用可能な別の繊維は、65μmのポリジメチルシロキサン/ジビニルベンゼンまたは75μm/85μmのカルボキセン/ポリジメチルシロキサンである。
【0015】
本発明のいずれかの実施形態によれば、炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物は、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、テトラヒドロチオフェンおよびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0016】
本発明のいずれかの実施形態によれば、式R-SHのチオールは、
a)最大でも5μg/kgの1-プロパンチオール
b)最大でも5μg/kgの2-プロパンチオール
c)最大でも5μg/kgの2-メチル-1-プロパンチオール
d)最大でも20μg/kgの2-メチル-2-プロパンチオール
e)最大でも5μg/kgの1-ブタンチオール、および
f)最大でも10μg/kgのテトラヒドロチオフェン
しか含まない。
【0017】
本発明の特定の一実施形態において、式R-SHのチオールは、
a)最大でも2.5μg/kgの1-プロパンチオール
b)最大でも3.5μg/kgの2-プロパンチオール
c)最大でも2.5μg/kgの2-メチル-1-プロパンチオール
d)最大でも18μg/kgの2-メチル-2-プロパンチオール
e)最大でも2.5μg/kgの1-ブタンチオール、および
f)最大でも5μg/kgのテトラヒドロチオフェン
しか含まない。
【0018】
本発明の特定の一実施形態において、式R-SHのチオールは、
a)最大でも1μg/kgの1-プロパンチオール
b)最大でも3μg/kgの2-プロパンチオール
c)最大でも1μg/kgの2-メチル-1-プロパンチオール
d)最大でも18μg/kgの2-メチル-2-プロパンチオール
e)最大でも1μg/kgの1-ブタンチオール、および
f)最大でも3μg/kgのテトラヒドロチオフェン
しか含まない。
【0019】
特定の一実施形態において、式R-SHのチオールは、痕跡量の1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、1-ブタンチオールまたはテトラヒドロチオフェンを含まない。
【0020】
本発明のいずれかの実施形態によれば、式R-SHのチオールを、式(III)の化合物と反応させる前に蒸留によって精製することができる。特に、蒸留は、バッチ蒸留であっても連続蒸留であってもよく、特にバッチ蒸留であってよい。蒸留は、低沸点留分の除去(トッピング)、所望の留分の選択(分別蒸留)、または流下(ワイプ式)薄膜蒸発装置を用いたフラッシュ蒸留によって実施することができる。
【0021】
本発明のいずれかの実施形態によれば、Rは、8~15個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基であってよい。特にRは、10~14個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基、特にn-ドデシル基であってよく;すなわちR-SHは、1-ドデカンチオールであってよい。
【0022】
Pの定義において使用される表現である「発香性α,β-不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステル」とは、香料において賦香成分として使用されていると当業者に認識されるα,β-不飽和のケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルであると理解される。一般的に、前述の発香性α,β-不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルは、8~20個の炭素原子、さらにより好ましくは10~15個の炭素原子を有する化合物である。
【0023】
同様に、式(I)の化合物の合成に使用することができる、現在知られている式(III)の発香性化合物の網羅的な一覧を提供することは不可能である。しかし、好ましい例として以下のものを挙げることができる:α-ダマスコン、β-ダマスコン、γ-ダマスコン、δ-ダマスコン、α-イオノン、β-イオノン、γ-イオノン、δ-イオノン、β-ダマセノン、1-[6-エチル-2,6-ジメチル-3-シクロヘキセン-1-イル]-2-ブテン-1-オン、3-メチル-5-プロピル-2-シクロヘキセン-1-オン、2-メチル-5-(1-プロペン-2-イル)-2-シクロヘキセン-1-オン、2,5-ジメチル-5-フェニル-1-ヘキセン-3-オン、1-(5,5-ジメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-4-ペンテン-1-オン、3,7-ジメチルオクタ-2,6-ジエナール、8-メチル-α-イオノンまたは10-メチル-α-イオノン、2-オクテナール、1-(2,2,3,6-テトラメチルシクロヘキシル)ブタ-2-エン-1-オン、4-(2,2,3,6-テトラメチルシクロヘキシル)ブタ-3-エン-2-オン、2-シクロペンタデセン-1-オン、4,4a-ジメチル-6-(1-プロペン-2-イル)-4,4a,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-2(3H)-ナフタレノン、(E)-3-フェニルプロパ-2-エナール、2,6,6-トリメチルスピロ[ビシクロ[3.1.1]ヘプタン-3,1’-シクロヘキサン]-2’-エン-4’-オン、エチル2,4-デカ-ジエノエート、エチル2-オクテノエート、メチル2-ノネノエート、エチル2,4-ウンデカジエノエート、4-メチルペンタ-3-エン-2-オン、オクタ-2-エン-4-オンおよびメチル5,9-ジメチル-2,4,8-デカトリエノエート。
【0024】
本発明のいずれかの実施形態によれば、式(I)の化合物は、その立体異性体のいずれか1つまたはそれらの混合物の形態であってよく、式(III)の化合物は、その立体異性体のいずれか1つまたはそれらの混合物の形態であってよい。明確にするために述べると、「その立体異性体のいずれか1つまたはそれらの混合物」または類似の表現は、当業者に理解される通常の意味、すなわち、式(I)および(III)の化合物が純粋なエナンチオマーまたはジアステレオマーであり得ることを意味する。換言すれば、式(I)および(III)の化合物は、複数の立体中心を有することができ、前記立体中心の各々は、2つの異なる配置(例えば、RまたはS)を有することができる。式(I)および(III)の化合物は、純粋なエナンチオマーの形態であってもよいし、エナンチオマーまたはジアステレオマーの混合物の形態であってもよい。式(I)および(III)の化合物は、ラセミ体であってもよいし、スカレミック体であってもよい。したがって、式(I)および(III)の化合物は、1つの立体異性体であってもよいし、様々な立体異性体を含むまたはそれらからなる物質組成物の形態であってもよい。
【0025】
本発明の上記の実施形態のいずれか1つによれば、式(III)の化合物は、そのE型異性体またはZ型異性体の形態であってもよいし、それらの混合物の形態であってもよく、例えば、本発明は、同一の化学構造を有するが二重結合の配置が異なる式(III)の1つ以上の化合物からなる物質組成物を含む。
【0026】
本発明のいずれかの実施形態によれば、Pは、式(P-1)~(P-14):
【化8】
[式中、波線は、上記に示した意味を有し、点線は、単結合または二重結合を表し、Rは、水素原子またはメチル基であり、Rは、水素原子、ヒドロキシル基もしくはメトキシ基またはC~Cの直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表し、Rは、水素原子またはC~Cの直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表す]からなる群から選択される基であり、それらの異性体のいずれか1つの形態である。したがって、式(I)[式中、Pは、式(P-1)~(P-14)からなる群から選択される]の化合物は、式
【化9】
[式中、点線、R、RおよびRは、上記で定義したのと同じ意味を有する]の化合物を反応させることにより製造される。
【0027】
明確にするために述べると、「式中、点線は、単結合または二重結合を表す」または類似の表現は、当業者に理解される通常の意味、すなわち、前記点線で結合された炭素原子間の結合全体(実線および点線)が炭素-炭素単結合または炭素-炭素二重結合であることを意味する。
【0028】
特定の一実施形態において、Pは、式
【化10】
[式中、波線は、上記に示した意味を有し、点線は、単結合または二重結合を表し、Rは、水素原子またはメチル基である]からなる群から選択される基を表す。したがって、式(I)[式中、Pは、式(P-1)’、(P-2)’、(P-3)、(P-5)、(P-6)、(P-7)、(P-13)および(P-14)’からなる群から選択される]の化合物は、式
【化11】
[式中、点線およびRは、上記で定義したのと同じ意味を有する]の化合物を反応させることにより製造される。
【0029】
特定の一実施形態において、Pは、上記で定義した式(P-1)、(P-2)、(P-1)’、(P-2)’、(P-3)、(P-7)、(P-13)、(P-14)または(P-14)’からなる群から選択される基を表す。特に、Pは、(P-1)、(P-2)、(P-3)、(P-7)、(P-13)または(P-14)であり得る。好ましくは、Pは、上記で定義した式(P-1)、(P-1)’、(P-2)、(P-2)’、(P-3)または(P-14)’からなる群から選択される基を表す。
【0030】
特定の一実施形態において、式(I)の化合物は、式a)~d)
【化12】
[式中、Rは、上記で定義したのと同じ意味を有する]からなる群から選択される化合物である。
【0031】
式a)の化合物は、式(III)の化合物の反応から得られ、ここで、式(III)の化合物はδ-ダマスコンである。前記式a)の化合物は、好ましくは、(±)-トランス-3-(ドデシルチオ)-1-(2,6,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-イル)-1-ブタノンであり得る。δ-ダマスコンは、1-[(1RS,2SR)-2,6,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-イル]-2-ブテン-1-オンとしても知られている。
【0032】
式b)またはc)の化合物は、式(III)の化合物の反応から得られ、ここで、式(III)の化合物はイオノンである。前記式b)またはc)の化合物は、式b)および式c)の異性体混合物として存在してもよい。異性体混合物は、式b)と式c)との重量比が40:60~60:40であってもよい。特に、異性体混合物は、式b)と式c)との重量比が約55:45であってもよい。特に、前記式b)またはc)の化合物は、フレグランス化合物としてイオノンの2つの異性体を放出する。
【0033】
特に、式b)の化合物は、式(III)の化合物の反応から得られ、ここで、式(III)の化合物はα-イオノンである。前記式b)の化合物は、好ましくは、(±)-4-(ドデシルチオ)-4-(2,6,6-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブタノンであり得る。α-イオノンは、(±)-(3E)-4-(2,6,6-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-イル)-3-ブテン-2-オンとしても知られている。
【0034】
特に、式c)の化合物は、式(III)の化合物の反応から得られ、ここで、式(III)の化合物はβ-イオノンである。前記式c)の化合物は、好ましくは、(±)-4-(ドデシルチオ)-4-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブタノンであり得る。β-イオノンは、(3E)-4-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-3-ブテン-2-オンとしても知られている。
【0035】
式d)の化合物は、式(III)の化合物の反応から得られ、ここで、式(III)の化合物はオクタ-2-エン-4-オンである。前記式d)の化合物は、好ましくは、(±)-2-(ドデシルチオ)オクタン-4-オンであり得る。オクタ-2-エン-4-オンは、その(E)型または(Z)型異性体として使用することも、それらの混合物として使用することもできるが、(E)型異性体が好ましい。
【0036】
本発明のいずれかの実施形態によれば、式(I)の化合物の非限定的な例として、以下のものを挙げることができる:3-(ドデシルチオ)-1-(2,6,6-トリメチルシクロヘキサ-3-エン-1-イル)ブタン-1-オン、2-(ドデシルチオ)-4-オクタノン、3-(ドデシルチオ)-1-(2,6,6-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-イル)ブタン-1-オン、4-(ドデシルチオ)-4-(2,6,6-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-イル)ブタン-2-オンおよび4-(ドデシルチオ)-4-(2,6,6-トリメチルシクロヘキサ-1-エン-1-イル)ブタン-2-オンおよび4-(ドデシルチオ)-4-メチルペンタン-2-オン。
【0037】
本発明のいずれかの実施形態によれば、式(III)の化合物と式R-SHのチオールとの反応は、塩基、ルイス酸、遷移金属または有機触媒などの1,4付加に一般的に使用される任意の試薬の存在下で実施することができる。特に、前記反応は、塩基の存在下で行うことができる。特に、塩基は、第三級アミンである。好適な塩基の非限定的な例としては、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ウロトロピン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、1,8-ジアゾビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン、またはそれらの混合物を挙げることができる。
【0038】
式(I)の化合物を形成するために、塩基を広範囲の濃度で本発明の方法の反応媒体に添加することができる。非限定的な例として、塩基濃度値として、式(III)の化合物の総量に対して0.001~2当量の範囲の値を挙げることができる。特に、塩基濃度は、式(III)の化合物の総量に対して0.005~1.5当量であってよい。より多くの塩基を使用した場合にも本方法が成功することは言うまでもない。しかし、塩基の最適濃度は、当業者であれば知っているとおり、塩基の性質、式(III)の化合物および式R-SHのチオールの性質、温度、ならびに所望の反応時間に依存する。
【0039】
式(I)の化合物を形成するために、式R-SHのチオールを広範囲の濃度で本発明の方法の反応媒体に添加することができる。非限定的な例として、チオール濃度値として、式(III)の化合物の総量に対して0.5~5当量の範囲の値を挙げることができる。特に、チオール濃度は、式(III)の化合物の総量に対して0.75~3当量であってよい。式R-SHのチオールをより多く使用した場合にも本方法が成功することは言うまでもない。しかし、式R-SHのチオールの最適濃度は、当業者であれば知っているように、式R-SHのチオールの性質、式(III)の化合物および塩基の性質、温度、ならびに所望の反応時間に依存する。
【0040】
本発明の実施形態のいずれか1つによれば、式(I)の化合物を形成する本発明の方法は、-10℃~150℃の温度で実施される。特に、温度は、30℃~70℃の範囲である。当然のことながら、当業者は、出発物および最終生成物の融点および沸点、ならびに所望の反応時間または転化時間に応じて好ましい温度を選択することもできる。
【0041】
式(I)の化合物を形成する本発明の方法は、溶媒の存在下でも非存在下でも実施することができる。実用的な理由で溶媒が必要であるかまたは使用される場合、そのようなタイプの反応で現在使用されている任意の溶媒を、本発明の目的のために使用することができる。非限定的な例としては、キシレン、トルエン、1,3-ジイソプロピルベンゼン、クメンもしくはプソイドクメンもしくはそれらの混合物のようなC~C12芳香族溶媒、シクロヘキサン、ヘプタンもしくはそれらの混合物のような炭化水素溶媒、アセトニトリルのようなニトリル溶媒、酢酸エチルのようなエステル系溶媒、またはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルテトラヒドロフランもしくはそれらの混合物のようなエーテル系溶媒が挙げられる。溶媒の選択は、基材および/または塩基の性質に依存し、当業者は、反応を最適化するために、それぞれの場合に最も適した溶媒を選択することが十分に可能である。特に、式(I)の化合物を形成する本発明の方法は、溶媒の非存在下で実施される。
【0042】
式(I)の化合物を形成する本発明の方法は、バッチ条件、セミバッチ条件または連続条件下で実施される。
【0043】
式(I)の化合物を形成する本発明の方法は、式(I)の化合物を精製するステップをさらに含み得る。当業者は、最も適合する精製方法を熟知している。好適な精製方法の非限定的な例としては、洗浄乾燥、減圧蒸留、特にワイプ式薄膜蒸留を用いた減圧蒸留、またはクロマトグラフィーが挙げられる。
【0044】
式(I)の化合物中に存在する微量の硫黄含有炭化水素不純物の存在は、最終生成物の望ましくないオフノートの原因となるため、最小限に抑えなければならない。驚くべきことに、式R-SHのチオール中に炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物が存在することと、最終生成物のオフノートが存在することとの間に関連性があることが発見され、このオフノートは、驚くべきことに、本方法の最後に精製しても除去することができなかった。式R-SHのチオール中の炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物の検出は、単純なGC法では実施することができず、それというのも、これらの非常に強力な臭気物質を、適切な感度で検出することができないためである。この特別な目的のために、新規の分析方法が開発された。
【0045】
そこで、本発明のもう1つの主題は、式R-SH[式中、Rは、上記で定義したのと同じ意味を有する]のチオール中の炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物の量を、固相マイクロ抽出(SPME)と組み合わせたガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)により測定する方法であって、ニート試料を-100℃~-50℃の温度に冷却した状態でSPMEを実施する、方法である。SPME繊維は、50/30μmのDVB/CAR/PDMS Stableflex(部品番号57329-U、Supelco)である。
【0046】
本発明のいずれかの実施形態によれば、本方法によって検出される炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物は、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、1-ブタンチオールおよびテトラヒドロチオフェンからなる群から選択される。
【0047】
本発明のいずれかの実施形態によれば、GC/MSのMSは、トリプル四重極、四重極飛行時間(Q-TOF)または四重極オービトラップである。使用されるガスは、ヘリウムである。
【0048】
本発明のいずれかの実施形態によれば、GC-MSデータの取得モードは、選択イオンモニタリング(SIM)または選択反応モニタリング(SRM)である。
【0049】
特定の一実施形態によれば、GCクロマトグラフィーでは、非極性GCカラム(DB-1、SPB-1)または場合によっては中程度の極性のGCカラム(DB-5)が使用される。GCグラジエントオーブンは、揮発性硫黄化合物を十分に分離するために低温で開始する必要がある。
【0050】
本発明のさらなる主題は、式(I)の化合物を含み、炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテル化合物を最大でも50μg/kgしか含まず、かつ式
【化13】
[式中、波線は、前記Pと硫黄原子との結合の位置を表し;Pは、上記で定義したのと同じ意味を有し、R’は、1~5個の炭素原子を有するアルキル基を表す]の化合物を最大でも1ppmしか含まない物質組成物である。
【0051】
式(I)の化合物中の式(I’)の生成物の量を測定するのに使用される分析方法は、HPLC/MSまたはUPLC/MSである。式(I)の生成物は、通常はC18カラムに最大10%の濃度で注入され、水/アセトニトリルで溶出される。MSへの流れは、通常、主生成物(I)の溶出時に迂回され、これは、式(I’)のより少量の生成物の場合よりも常に高い保持時間で行われる。MSは、トリプル四重極、Q-TofおよびQ-オービトラップからなる群から選択することができる。(I’)の分子イオンに対応するシグナルが見られない場合、対応する生成物は、総じて10μg/kg未満である。
【実施例
【0052】
以下、本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、略号は当該技術分野における通常の意味を有し、温度は摂氏(℃)で示す。溶媒は、通常の手順で乾燥させ、アルゴン雰囲気下で蒸留した。NMRスペクトルは、Bruker AV 300、AV 400、またはAV 500 MHzスペクトロメーターで20℃にて記録した。化学シフトは、溶媒シグナル(クロロホルム、δ=7.26ppm、δ=77.0ppm)に対してppmで報告されている。シグナルの割り当ては、H,H-COSY、-NOESY、13C,H-HSQCおよび-HMBC実験を記録することにより確認した。
【0053】
[実施例1]
(ドデカンチオール中の炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテルの量の測定)
ドデカンチオールの3つのバッチを、固相マイクロ抽出(SPME)およびGC/MSにより、以下のように分析した。バッチ3は、以下に報告するように、バッチ2の蒸留によって得られたものである。
【0054】
a)典型的なドデカンチオールの蒸留手順
600gのドデカンチオールを、サーモウェル、マグネチックスターラーバーを備え、分留カラムに接続した丸底フラスコに装入した。分留カラムには、約15の理論段数効率を持つ規則充填物を充填した。蒸留を減圧下(2~3mmHg)で開始し、ポットを最高温度161℃まで加熱した。以下の留分が得られた。
【0055】
【表1】
【0056】
b)SPME法
SPMEは、グレー繊維(50/30μmのDVB/CAR/PDMS Stableflex、部品番号57329-U、Supelco)を用いて行った。ドデカンチオール(1g)を入れた20mLヘッドスペースバイアルを、ドライアイス/エタノール浴中でバイアルのガラス壁にドデカンチオールが固着するまで手動で旋回させることにより、-80℃(15分間)での手動SPME抽出を行った。その後、バイアルをドライアイス/エタノール浴に部分的に浸したまま、繊維を試料のヘッドスペースに15分間曝露した。このSPME法は、最高の感度を保証した。また、オートサンプラー(combi-PAL、CTC)を用いて室温でSPMEを行うこともできるが、感度は低くなる。
【0057】
c)GC/MS法
7890/7000Bトリプル四重極GC/MSシステム(Agilent)を使用した。カラムは、SPB-1、30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm(Supelco)であり、キャリアーガスとしてHeを用いて0.7mL/minで溶出させ、オーブン:40℃、5分間、その後5℃/minで60℃、最後に20℃/minで250℃、250℃で1.5分間処理した。異なる生成物の親/生成物イオンおよび衝突エネルギー(eVで表示)は、以下のとおりであった:
1-ブタンチオール:90/56(3eV)および90/41(6eV);1-プロパンチオール:76/60(3eV)および76/47(6eV);2-メチル-1-プロパンチオール:90/56(4eV)および90/41(6eV);2-プロパンチオール:76/60(2eV)および76/43(6eV);2-メチル-2-プロパンチオール:90/57(2eV)および90/41(2eV);テトラヒドロチオフェン:88/60(14eV)および88/54(9eV)。
【0058】
オートサンプラーPAL自動化手順を使用してGC/MS注入する前に、SPME突出繊維を5分間露出させた。スプリットレス注入を使用した。
【0059】
d)結果
【表2】
【0060】
バッチ1、およびバッチ3の後留分は、本発明の方法で使用するドデカンチオールバッチを表す。バッチ2、ならびにバッチ3の初留分および中留分は、比較例の製造に使用するドデカンチオールバッチを表す。
【0061】
[実施例2]
(式(I)の化合物の製造および分析)
a)式(I)の化合物の製造
THF(150ml)中のδ-ダマスコン(10.0g;52.1mmol)および以下に報告する5つの異なるバッチを使用した1-ドデカンチオール(8.42g、41.7mmol)の溶液をDBU(7.92g;52.1mmol)で処理し、45℃で90分間撹拌した。反応液を5%塩酸で処理し、エーテルで2回抽出し、HO、飽和水性NaHCO、次いでブラインで洗浄し、NaSO上で乾燥させ、70℃/0.01mbarで濃縮させた。粗生成物の収率:16.2g(99%)
【化14】
【0062】
b)式(I)の生成物中の炭素原子数が6未満のチオールまたはチオエーテルの量の測定
式(I)の生成物中の炭素原子数が6未満のチオールの量の測定を、実施例1に記載のSPME GC/MS法を用いて行った。(I)のSPMEサンプリングを室温で行った。結果を表2に示す。
【0063】
また、異なるドデカンチオールバッチで得られた(I)の全バッチをUPLC/MSで分析し、式(I’)の化合物中のその含有量を評価した。このシステムは、Acquity I-Class UPLCシステム(Waters)とQExactive Plus質量分析計(Thermo)とを組み合わせて構成されていた。カラムは、Acquity BEH C18(1.7μm、2.1x100mm)であり、0.4ml/minのHO/ACN0.1%ギ酸で溶出させた。グラジエントは、以下のとおりであった:0%B、0.5分;0~100%B、10分;100%B、1分;1分間平衡化。MSを、ネガティブESIモード、電圧3500V、プローブヒーター(ソース)300℃、キャピラリー300℃、シースガス48、補助ガス11で操作した。フルスキャンddMS2モード[150-2000Da]を用い、10、30および45Vの段階的なNCEで定性および定量分析を行った。インクルージョン・リストおよび分離幅1.0Da(オフセットなし)を用いてPRMを行った。結果を表2に報告する。
【0064】
【表3】
【0065】
1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-2-プロパンチオール、1-ブタンチオールの存在は、以下に示すように、これらのバッチで製造した式(I)の化合物が強いオフノートを有しているにもかかわらず、最終生成物中に検出されなかった。これらの結果は、低分子チオールの分析を、出発材料であるドデカンチオールに対して事前に行う必要があることを裏付けている。実際、最終生成物中にこれらの化合物が非検出の痕跡量でも存在すると不利益がある。
【0066】
[実施例3]
(式(I)の化合物の官能評価)
実施例2で得られたバッチを、訓練された3人のパネリストが、開けたての瓶の上の匂いを嗅ぐことによって評価した。パネリストに、硫黄臭の強さを1から10までの等級で評価するよう求め、1が無臭、10が非常に強い匂いに相当する。結果を表3に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
ドデカンチオールのバッチ1およびバッチ3の後留分で製造した式(I)の化合物のみが、望ましくない硫黄臭を非常に低く抑えた。
【国際調査報告】