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特表2024-508258ポリビニルアセタール樹脂およびポリビニルエチレンアセタール樹脂を含む複合フィルムの乾燥方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ポリビニルアセタール樹脂およびポリビニルエチレンアセタール樹脂を含む複合フィルムの乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240216BHJP
   B32B 37/24 20060101ALI20240216BHJP
   B32B 38/16 20060101ALI20240216BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240216BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B32B27/30 102
B32B37/24
B32B38/16
C08J5/18
C03C27/12 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548934
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(85)【翻訳文提出日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2021076329
(87)【国際公開番号】W WO2022171317
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】21157150.0
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, D-65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】六車 慎一
(72)【発明者】
【氏名】大元 英樹
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
4F071AA30
4F071AE04
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC02
4F071BC12
4F071BC17
4F100AG00C
4F100AG00D
4F100AJ06B
4F100AK03B
4F100AK04B
4F100AK07B
4F100AK21B
4F100AK23A
4F100AK25B
4F100AK41B
4F100AK42B
4F100AK45B
4F100AK46B
4F100AK51B
4F100AK74B
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100CA04A
4F100CC01A
4F100EH462
4F100EH46A
4F100EJ242
4F100EJ422
4F100EJ432
4F100EJ522
4F100EJ54A
4F100EJ862
4F100GB32
4G061AA13
4G061AA20
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB18
4G061CB19
4G061CD02
4G061CD18
(57)【要約】
本発明は、キャリア上にポリビニルアセタールを含む複合フィルムを乾燥させる方法、ならびにそのような方法で得られる複合フィルムおよびポリビニルアセタールフィルムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合フィルムを製造するための方法であって、
前記複合フィルムは、
i)ポリビニルアセタールおよび/またはポリビニルエチレンアセタールと、任意に可塑剤と、を含むフィルムAと、
ii)キャリアフィルムと、
を含み、
a)キャリアフィルムを準備する工程、
b)溶媒と、前記ポリビニルアセタールおよび/またはポリビニルエチレンアセタールと、任意に前記可塑剤と、を含む溶液で前記キャリアフィルムの1つの面をコーティングする工程、
c1)ロール支持体上で前記複合フィルムを25~90℃の温度で乾燥させる工程、ならびに
d)IR乾燥工程、UV乾燥工程、マイクロ波乾燥工程、真空乾燥工程、130℃超180℃未満の温度でのロール支持乾燥工程、130℃超180℃未満の温度でのエアーフローテーション乾燥工程からなるリストから選択される1つ以上の乾燥工程を行う工程
をこの順序で含む、方法。
【請求項2】
工程d)の前記1つ以上の乾燥工程のうちの少なくとも1つが、IR乾燥工程または130℃超180℃未満の温度でのエアーフローテーション乾燥工程である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの追加の乾燥工程c2)が、工程c1)と工程d)との間に行われ、前記追加の乾燥工程c2)が、90℃超130℃未満の温度でのエアーフローテーション乾燥工程である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程c1)、工程d)、および任意の工程c2)の総乾燥時間が1.0分~5.0分である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
工程d)の乾燥時間が1.0分~1.5分である、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程c1)、工程d)、および任意の工程c2)のそれぞれにおける空気流が独立して2.5m/秒~60m/秒である、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程d)における空気流が7.5m/秒~60m/秒である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記キャリアフィルムが、ポリ乳酸、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートコポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリウレタン;ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィン;アクリロニトリルスチレンアクリレート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニルアルコール、TAC(セルローストリアセテート)、およびそれらの混合物からなる群から選択されるポリマーから製造され、好ましくは、前記キャリアがポリエチレンテレフタレートから製造される、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
複合フィルムであって、
i)キャリアフィルムと、
ii)ポリビニルアセタールおよび/またはポリビニルエチレンアセタールと、任意に可塑剤と、を含むフィルムAと、
を含み、
フィルムAが、JIS K 5601-5-1に準拠して測定したとき2000ppm未満の総残留溶媒含有量を有する、複合フィルム。
【請求項10】
前記総残留溶媒含有量が、JIS K 5601-5-1に準拠して測定したとき500ppm未満である、請求項9記載の複合フィルム。
【請求項11】
それぞれの個別の残留溶媒の残留溶媒含有量が、JIS K 5601-5-1に準拠して測定したとき250ppm未満である、請求項9または10記載の複合フィルム。
【請求項12】
前記キャリアフィルムが、ポリ乳酸、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートコポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリウレタン;ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィン;アクリロニトリルスチレンアクリレート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニルアルコール、TAC(セルローストリアセテート)、およびそれらの混合物からなる群から選択されるポリマー製であり、好ましくは、前記キャリアがポリエチレンテレフタレート製である、請求項9から11までのいずれか1項記載の複合フィルム。
【請求項13】
請求項9から12までのいずれか1項記載の複合フィルムの前記キャリアフィルムと前記フィルムAとを分離することによって得られるフィルムA1であって、ポリビニルアセタールおよび/またはポリビニルエチレンアセタールと、任意に可塑剤と、を含み、JIS K 5601-5-1に準拠して測定したとき2000ppm未満の総残留溶媒含有量を有する、フィルムA1。
【請求項14】
少なくとも2枚のガラスと、請求項13記載のフィルムA1とを含む、ラミネート用の中間層。
【請求項15】
請求項14記載のラミネートを含む、自動車用のウィンドシールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア上のポリビニル(エチレン)アセタールを含む複合フィルムを乾燥させる方法、ならびにそのような方法で得られる複合フィルムおよびポリビニルアセタールフィルムに関する。
【0002】
ポリビニルアセタールを含む中間膜は、ガラスをラミネートするための接着層として以前から知られている。特に可塑化ポリビニルブチラール(PVB)フィルムは、例えば自動車用のウィンドシールド(フロントガラス)のためのガラス-ガラスラミネートの接着層として広く使用されている。
【0003】
また、ウィンドシールドに特定の機能を導入するため、かなり薄い不透明なプラスチックフィルムのパッチを、一般的な可塑化PVBフィルムと組み合わせて使用することも知られている。例えば、国際公開第2019/038043号には、ウィンドシールドをシャーシと機械的に結合するシーリングまたは接着剤を紫外線から保護するため、かつ、審美的な理由からセンサーシステムを車両の外側から見えないように隠すために、印刷された遮蔽領域を備えた薄い非可塑化PVBフィルムが開示されている。
【0004】
従来、PVBフィルムは二軸押出機などの装置を使用する溶融押出によって製造されている。溶媒流延(キャスティング)によるPVBフィルムの製造も当該技術分野で公知である。この目的のために、米国特許第7,012,746号明細書には、PETキャリア上でPVBフィルムを製造するための溶媒流延(キャスティング)プロセスが開示されている。このプロセスは、熱劣化による変色を避けるために、コーティングされたフィルムを異なるゾーンで95℃未満の温度で乾燥させることを含む。残留溶媒含有量のレベルは10重量%未満であると報告されているが、最も好ましい実施形態は1重量%未満である。
【0005】
しかしながら、本発明者らは、非常に低いレベルの残留溶媒含有量であっても、ポリビニルアセタールフィルムからのガラスラミネートの製造において問題を引き起こす可能性があることを見出した。これは、ウィンドシールドの製造において特に当てはまる。自動車業界は、例えば全自動運転技術のために、先進的な任意のセンサーの使用を可能にすべく、ラミネートの光学的品質の向上に常に努めている。理論に拘束されることを望むものではないが、ガラスプライを接合するためにポリビニルアセタールフィルムを加熱する必要があるラミネート工程中、低沸点の残留溶媒が、気泡形成などの光学的欠陥を引き起こす可能性があると考えられる。加えて、残留溶媒は、ポリマーフィルムとガラス表面との間の接着に悪影響を及ぼし得ると考えられる。
【0006】
そのため、産業界では、特に車両のウィンドシールドに使用されるポリビニルアセタールフィルムを製造するための改良された方法が求められている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、改善された特性、特に少ない残留溶媒含量、低い製造コストならびに/または高い光学的品質、特にしわ、気泡あるいは粒のような光学的欠陥に対して高い光学的品質、少ないヘイズおよび/もしくは低い黄色度を有するポリビニルアセタールフィルムを製造するための方法を提供することであった。
【0008】
上記および別の課題は本発明によって解決された。
【0009】
本発明の第1の態様は、複合フィルムを製造するための方法であって、前記複合フィルムは、
i)ポリビニルアセタールおよび/またはポリビニルエチレンアセタールと、任意に可塑剤とを含むフィルムAと、
ii)キャリアフィルムと、
を含み、
a)キャリアフィルムを準備する工程、
b)溶媒と、ポリビニルアセタールおよび/またはポリビニルエチレンアセタールと、任意に可塑剤とを含む溶液でキャリアフィルムの1つの面をコーティングする工程、
c1)ロール支持体上で複合フィルムを25~90℃の温度で乾燥させる工程、ならびに
d)IR(赤外線)乾燥、UV乾燥、マイクロ波乾燥、真空乾燥、130℃超180℃未満の温度でのロール支持乾燥、および130℃超180℃未満の温度でのエアーフローテーション乾燥から選択される1つ以上の乾燥工程を行う工程
をこの順序で含む、前記方法に関する。
【0010】
ロール支持乾燥
本発明との関係で使用されるロール支持乾燥とは、複合フィルムがロールによって支持され、加熱された空気が複合フィルムの片面、すなわちロール支持体の反対側からのみ来る空気乾燥方法である。従来の任意のエアノズルを使用することができる。適切なノズルタイプの例としては、ジェットノズル、フローティングノズル、および翼型ノズルが挙げられる。
【0011】
エアーフローテーション乾燥
本発明との関係で使用されるエアーフローテーション乾燥とは、複合フィルムの両側からの加熱された空気の流れの間で複合フィルムが浮遊状態に保たれる非接触式の乾燥方法である。従来の任意のエアノズルを使用することができる。適切なノズルタイプの例としては、ジェットノズル、フローティングノズル、および翼型ノズルが挙げられる。
【0012】
赤外線乾燥
本発明との関係で使用される赤外線乾燥とは、光源から放射された赤外線がコーティングフィルムを透過し、吸収されたエネルギーが分子を振動させて熱を発生させる方法である。そのため、コーティングフィルム全体の加熱と乾燥を同時に行うことができる。熱風乾燥と比較して加熱速度が速いことを特徴とする。好ましくは、本発明ではガスIR乾燥器または電気IR乾燥器が使用される。
【0013】
マイクロ波乾燥
本発明との関係で使用されるマイクロ波乾燥とは、複合フィルムがマイクロ波電場にさらされる方法である。分子レベルで熱が発生し、複合フィルム全体が加熱される。物質それ自体が発熱体となる内部加熱方法である。
【0014】
真空乾燥
本発明との関係で使用される真空乾燥とは、真空または減圧下で複合フィルムを乾燥する方法である。コーティングフィルム周囲の気圧が下げられると、溶媒の沸点が下がり、蒸発速度が速くなり、コーティングフィルムの乾燥を促進することができる。
【0015】
UV乾燥
本発明との関係で使用されるUV乾燥とは、複合フィルムへの熱伝達が、複合フィルムへのUV照射によって達成される方法である。
【0016】
好ましくは、工程d)の1つ以上の乾燥工程のうちの少なくとも1つは、IR乾燥工程または130℃超180℃未満の温度でのエアーフローテーション乾燥工程である。
【0017】
また好ましくは、少なくとも1つの追加の乾燥工程c2)が、工程c1)と工程d)との間に行われ、前記追加の乾燥工程c2)は、90℃超130℃未満の温度でのエアーフローテーション乾燥工程である。
【0018】
驚くべきことに、低温から中温での最初のロール支持乾燥工程を、130℃を超える温度での少なくとも1つの工程と組み合わせた組み合わせでは、優れたレベルの残留溶媒含有量が得られ、特にエアーフローテーション乾燥および/またはIR乾燥を使用する場合に、フィルムAに明らかな黄変は生じないことが見出された。
【0019】
「複合フィルム」という用語は、製造中に一方のフィルムが他方のフィルム上に付着する、少なくとも2つの層を含むフィルムを意味するものとする。本発明との関係では、フィルムAは溶媒キャストによってキャリアフィルム上に付着する。
【0020】
キャリアフィルムの材料は、ポリビニル(エチレン)アセタールと適合性を有し、かつ複合フィルムを得るために使用される製造方法にも適合性を有する任意の材料から選択することができる。したがって、キャリア材料はガラスまたは金属であってよい。しかしながら、ポリ乳酸、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートコポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリウレタン、ポリオレフィン、例えばポリエチレンまたはポリプロピレン、アクリロニトリルスチレンアクリレート、ポリアクリレートおよびポリメタクリレート、ポリビニルアルコール、TAC(セルローストリアセテート)からなる群から選択されるポリマー系材料を使用することが好ましい。最も好ましくは、キャリアはポリエチレンテレフタレート(PET)を含み、特にキャリアはPETからなるフィルムである。
【0021】
好ましくは、キャリアフィルムの厚さは、10~500μm、より好ましくは25~250μm、最も好ましくは50~100μmである。
【0022】
本発明に従って使用されるフィルムAは、ポリビニル(エチレン)アセタールを含み、これは、ポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーのアセタール化によって製造される。
【0023】
フィルムは、異なるポリビニルアセタールを含むことができ、これらのそれぞれは、異なるポリビニルアルコール含有量、アセタール化度、残留アセテート含有量、エチレン割合、分子量、および/またはアセタール基のアルデヒドの異なる鎖長を有する。
【0024】
特に、ポリビニルアセタールの製造に使用されるアルデヒドは、2~10個の炭素原子を含む直鎖または分岐(すなわち「n」または「iso」タイプ)であってよく、これは対応する直鎖または分岐アセタール基になる。ポリビニルアセタールは、それに応じて「ポリビニル(iso)アセタール」または「ポリビニル(n)アセタール」と呼ばれる。
【0025】
本発明に従って使用されるポリビニルアセタールは、特に、少なくとも1種のポリビニルアルコールと、2~10個の炭素原子を含む1種以上の脂肪族非分岐化合物との反応から得られる。この目的のために、n-ブチルアルデヒドが好ましくは使用される。
【0026】
フィルムA中のポリビニルアセタールを製造するために使用されるポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーは、同じであっても異なっていてもよく、純粋であっても、異なる重合度または加水分解度を有するポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーの混合物であってもよい。
【0027】
フィルムA中のポリビニルアセタールのポリビニルアセテート含有量は、適切な程度までけん化されたポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーを使用することによって設定することができる。ポリビニルアセタールの極性は、ポリビニルアセテート含有量の影響を受け、それにより可塑剤の相溶性およびそれぞれの層の機械的強度も変化する。多数のアルデヒド化合物の混合物を用いてポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーのアセタール化を行うことも可能である。
【0028】
フィルムAは、好ましくは、同じまたは異なるポリビニルアセテート基の割合が0.1~20モル%、好ましくは0.5~3モル%、または5~8モル%であるポリビニルアセタールを含む。
【0029】
フィルムAに使用されるポリビニルアセタールのポリビニルアルコール含有量は、6~26重量%、8~24重量%、10~22重量%、12~21重量%、14~20重量%、16~19重量%、好ましくは16~21重量%または10~16重量%であってよい。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、フィルムAは、ビニルアルコール基の割合が6~26重量%であるポリビニルアセタールを含み、フィルムBは、ビニルアルコール基の割合が14~26重量%であるポリビニルアセタールBを含む。
【0031】
ポリビニル(エチレン)アセタールのビニルアルコール含有量およびビニルアセテート含有量は、DIN ISO 3681(アセテート含有量)およびDIN ISO 53240(PVA含有量)に準拠して決定される。
【0032】
本発明に従って使用されるフィルムAは、任意に、可塑剤として、以下の群:
- 多価の脂肪族酸または芳香族酸のエステル、例えばアジピン酸ジアルキル、例えばアジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ヘプチルとアジピン酸ノニルとの混合物、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、アジピン酸と脂環式エステルアルコールとのもしくはエステルアルコール含有エーテル化合物とのエステル、セバシン酸ジアルキル、例えばセバシン酸ジブチル、セバシン酸と脂環式エステルアルコールとのもしくはエステルアルコール含有エーテル化合物とのエステル、フタル酸のエステル、例えばフタル酸ブチルベンジル、またはフタル酸ビス-2-ブトキシエチル;
- 1つ以上の非分岐または分岐の脂肪族または芳香族の置換基を有する多価脂肪族または芳香族のアルコールまたはオリゴエーテルグリコールのエステルまたはエーテル、例えばグリセロール、ジグリコール、トリグリコール、またはテトラグリコールと直鎖または分岐の脂肪族または脂環式のカルボン酸とのエステル;後者のグループの例としては、ジエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルブタノエート)、テトラエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、および/またはジプロピレングリコールベンゾエートが挙げられる;
- 脂肪族または芳香族のエステルアルコールを有するホスフェート、例えばトリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート(TOF)、トリエチルホスフェート、ジフェニル-2-エチルヘキシルホスフェート、および/またはトリクレジルホスフェート;
- クエン酸、コハク酸、および/またはフマル酸のエステル
から選択される1種以上の化合物を含み得る。
【0033】
定義上は、可塑剤は高沸点の有機液体である。このため、120℃を超える沸点を有する別のタイプの有機液体も可塑剤として使用することができる。
【0034】
好ましくは、フィルムAは、10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、最も好ましくは2.5重量%未満の可塑剤を含む。
【0035】
特に好ましい実施形態では、フィルムAは添加された可塑剤を含まない。
【0036】
好ましくは、フィルムAの厚さは、5~100μm、より好ましくは10~50μm、特に20~40μmである。
【0037】
同様に好ましくは、フィルムAは、JIS K 6854-3に準拠して測定したとき0.05~10N/3cm、好ましくは0.1~5N/3cm、最も好ましくは0.5~3N/3cmの接着強さでキャリアフィルムに接着される。
【0038】
今般、キャリアの特定の粗さRzにより、非常に滑らかな1つの表面と特定の粗さを有する1つの表面とを有するフィルムAの製造が可能になることが見出された。フィルムAの表面の特定の粗さは、相補的な粗さを有するキャリアを選択することによって調整することができ、フィルムAのもう一方の表面は、溶媒流延(キャスティング)されるフィルムの製造条件に起因して非常に滑らかである。
【0039】
好ましくは、コーティングまたは印刷されるフィルムAの表面の表面粗さRzは、0.01~10μm、好ましくは0.1~3.0μmである。
【0040】
同様に好ましくは、キャリアフィルムとフィルムAとが接触する前に測定される、フィルムAと接触する表面のキャリアフィルムの表面粗さRzは、1.0~10μm、好ましくは2.0~6.0μmである。
【0041】
フィルムAの表面に印刷、コーティング、または任意の他の形態の機能付与が行われる場合には、印刷、コーティング、または機能性フィルムの均質なパターンを得るために、1つの滑らかな表面を有することが有利である。しかしながら、フィルムAの印刷またはコーティングが行われない反対側の場所は、有利には、特定の粗さRzを有する。この粗さにより、ラミネートプロセス中の脱気を改善することができる。
【0042】
粗さRzは、DIN EN ISO4288に準拠して測定される。
【0043】
好ましくは、フィルムAの少なくとも1つの表面には、遮蔽領域、加熱目的の導電配線、銀ナノワイヤ、量子ドット、IRおよび/もしくはUV反射コーティング、光散乱粒子を有するコーティング、5Gアンテナのようなアンテナ、会社のロゴやカラーパターンなどの装飾要素を備えたプリント、またはそれらから選択される複数の要素が設けられる。
【0044】
「遮蔽領域」という用語は、可視スペクトル(380~780nm)における光透過率が10%未満であるフィルムAの領域を指す。変形形態では、例えば点線領域または傾斜の形態で、透明に向かって遮蔽が次第に弱くなっていてよく、あるいは遮蔽領域は、例えばカメラのための視野領域を提供するために、その中に埋め込まれた透明領域を備えることができる。そのような変形形態では、遮蔽領域の少なくとも一部は、可視スペクトルにおける光透過率が10%未満でなければならない。
【0045】
印刷された層またはコーティングされた層は、無機顔料または有機顔料を含む。顔料としては、好ましくはカーボンブラック、酸化鉄、ポリアニリン、ペリレン、またはスピネル顔料が使用される。顔料は、水、アルコール、またはアルコールと水との混合物のようなキャリア流体中に分散させることができる。
【0046】
本発明の別の態様は、複合フィルムであって、
i)キャリアフィルムと、
ii)ポリビニルアセタールおよび/またはポリビニルエチレンアセタールと、任意に可塑剤とを含むフィルムAと
を含み、
フィルムAが、JIS K 5601-5-1に準拠して測定したとき2000ppm未満の総残留溶媒含有量を有する、
複合フィルムに関する。
【0047】
好ましくは、総残留溶媒含有量は、JIS K 5601-5-1に準拠して測定したとき500ppm未満である。
【0048】
また好ましくは、それぞれの個別の残留溶媒の残留溶媒含有量は、JIS K 5601-5-1に準拠して測定したとき250ppm未満である。
【0049】
本発明のさらに別の態様は、キャリアフィルムと、上述した本発明の複合フィルムのフィルムAとを分離することによって得られるフィルムA1であって、ポリビニルアセタールおよび/またはポリビニルエチレンアセタールと、任意に可塑剤とを含み、JIS K 5601-5-1に準拠して測定したとき2000ppm未満の総残留溶媒含有量を有する、フィルムA1に関する。したがって、フィルムA1は、キャリアを有しない自立膜である。これは、例えばフィルムAからキャリアを剥離することによって得ることができる。
【0050】
「総残留溶媒含有量」という用語は、複合フィルム中に存在するあらゆる残留溶媒の量の合計を意味するものとする。フィルム中に存在する水は、総残留溶媒含有量に含まれないものとする。
【0051】
ポリビニルブチラール用の有機溶媒に関し、適切な溶媒としては、例えば塩素化溶媒(塩化メチレンおよび1,2ジクロロエタン)、アルコール(メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、イソアミルアルコール)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール)、エステル(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、および酢酸n-ブチル)、芳香族類(トルエンおよびキシレン)、およびエーテル(1,3-ジオキソランおよびテトラヒドロフラン)が挙げられる。ポリビニルブチラール溶液は、前述した溶媒のブレンドを用いて調製することができる。フィルムA中で低い残留溶媒含有量を実現するためには、PVBに好ましい溶媒として、メチルエチルケトン、酢酸エチル、メタノール、およびエタノールが挙げられる。
【0052】
本発明のさらに別の態様は、上述した本発明のフィルムA1を含む、自動車用のウィンドシールドに関する。
【0053】
標準(=可塑化)ポリビニルアセタールフィルム(以降「フィルムB」と呼ぶ)と一緒にラミネートされるウィンドシールドの製造に本発明のフィルムを使用するためには複数の方法が存在する。1つの簡単な方法では、キャリアフィルムが取り除かれ、剥離された印刷されたフィルムAが、サイズに合わせて切断され、重ね合わされ、ラミネートプロセスのためのガラスと中間層との最終的な組み立ての前に標準ポリビニルアセタールフィルムBの表面または内側ガラス面の1つに貼り付けられることによってラミネート用に準備することができる。
【0054】
あるいは、複合フィルムは、切断、重ね合わせ、および表面への貼り付けなどの、キャリアフィルム材料(PETなど)のより厚く、より弾性が低く、より溶融特性が高い特性が有利に働く工程においては一緒に加工することができる。40μm未満の厚さのフィルムAであっても、組み立て工程の直前、さらには最中にキャリアフィルムが取り除かれるまでは、安全に取り扱うことができる。フィルムAの不要なカット部分/フレームをキャリアフィルムから取り除き、最終的な大きさの必要な部分のみを貼り付けたままにしておくことも可能である。フィルムAを標準ポリビニルアセタールフィルムBまたは内側ガラス表面の1つに触れさせなくても、そのような印刷された「ステッカー」をより大きなキャリアフィルムと一緒に配置することが可能であり、またキャリアフィルムの剥離特性を利用して、1)薄いフィルムAの印刷された面を、標準ポリビニルアセタールフィルムBの適切なサイズにカットされたブランクの表面に、熱と圧力を加えるか、または超音波溶接によって予備接合し、2)任意に、このように準備した一体化させたブランクを複数重ね合わせて保管し、3)ラミネートプロセス開始前の組み立て時に「ステッカー」の裏面からキャリアフィルムを剥がす、ことが可能である。
【0055】
本発明の複合フィルムは、ロール形態で容易に保管することができ、フィルムAの裏面への表面汚染物質の付着および転写の防止に役立ち得る。
【0056】
本発明に従って使用される可塑剤含有フィルムBは、ラミネート前の開始状態で、少なくとも22重量%、例えば22.0~45.0重量%、好ましくは25.0~32.0重量%、特に26.0~30.0重量%の可塑剤を含む。
【0057】
加えて、フィルムA、A1、およびBは、残留量の水、UV吸収剤、酸化防止剤、接着制御剤、蛍光増白剤もしくは蛍光添加剤、安定剤、着色剤、加工助剤、無機もしくは有機ナノ粒子、熱分解ケイ酸、および/または界面活性物質などの追加の添加剤も含み得る。
【0058】
特に、フィルムBは、接着制御剤としてカルボン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を0.001~0.1重量%含み得る。フィルムBは、少なくとも10ppm、好ましくは20ppm、最も好ましくは30ppmの量でマグネシウムイオンを含むことが好ましい。
【0059】
合わせガラスを製造するためのラミネート工程は、好ましくは、2枚のガラス板の間にフィルムAまたはA1およびBを配置し、このようにして作製された積層体を加圧または減圧下かつ高温下でプレスしてラミネートを形成するように行われる。
【0060】
積層体のラミネートのためには、プレラミネートの事前の製造の有無にかかわらず、当業者によく知られている方法を使用することができる。
【0061】
いわゆる「オートクレーブ処理」は、約10~15barの高圧かつ100~150℃の温度で約2時間行われる。例えば欧州特許第1235683号明細書に従う真空バッグ法または真空リング法は、約200mbarかつ130~145℃で機能する。
【0062】
真空ラミネーターも使用することができる。これらは加熱および排気することができるチャンバーからなり、合わせガラスを30~60分以内にラミネートすることができる。0.01~300mbarの減圧および100~200℃、特に130~160℃の温度は、実際にその価値が証明されている。
【0063】
フィルムBがくさび形の厚さプロファイルを有することも可能である。本発明による合わせガラスラミネートでは、フィルムAの面に平行な厚さプロファイルであってもくさび形の厚さプロファイルが得られ、HUDディスプレイ用の自動車ウィンドシールドに使用することができる。
【0064】
本発明による合わせガラスは、自動車、バス、トラック、船舶、電車、または飛行機のウィンドシールド、バックライト、および側面ガラスに使用することができる。
【実施例
【0065】
PVB溶液1の調製
メタノール/酢酸エチル(50:50重量%)の混合物に溶解したポリビニルブチラール(PVB)粉末(市販グレードのMowital(登録商標)B60H)の16.0重量%溶液をコーティング流体「PVB溶液1」として調製した。
【0066】
複合フィルムの作製
厚さ50μmのマット面を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社から市販されているグレード#50-X42G)をキャリアとして使用した。表面粗さ(Rz)は4.0μmであった。
【0067】
巻出機と、コーターと、乾燥器と、巻取機とを含む市販の標準的な溶媒コーティング装置をスロットダイコーティングモードで使用した。基材速度は1.1m/分であり、移動基材上のPVB溶液1の湿潤厚さは200μmであった。コーティングは26℃の温度で行った。コーティングリップと移動基材との間のギャップは300μmであった。
【0068】
乾燥は3つのセクションで行った。長さ1.5mの第1の乾燥ゾーンではロール支持乾燥ユニットを使用した。第1のゾーンの温度は80℃に設定し、空気流は5m/秒に設定した。第2および第3の乾燥ゾーンとして、それぞれ1.5mの長さの2台のエアーフローテーション乾燥ユニットを使用した。第2のゾーンと第3のゾーンの温度は、それぞれ110℃と140℃に設定した。両方のゾーンで、空気流は10m/秒に設定した。3つのゾーンを合わせた合計乾燥時間は4分であった。
【0069】
目視検査(「目視検査1」)では、複合フィルムにしわおよび気泡欠陥は確認できなかった。
【0070】
PETキャリアを複合材料のサンプルから剥がして、乾燥PVBフィルムの厚さを測定した。厚さ計を用いた測定から、PVBフィルムが25μmの厚さを有していることが示された。
【0071】
JIS K 5601-5-1に準拠してガスクロマトグラフィーにより測定されたPVBフィルムの残留溶媒は60ppmであった。
【0072】
合わせガラスの作製
上で作製した20枚のPVBフィルムのスタックを製造した。2枚の一般的なフロートガラス間でこのスタックを用いて、真空バッグとオートクレーブを使用して30×30cmの合わせガラスを作製した。真空バッグの温度は100℃に設定した。オートクレーブの圧力は12barに設定し、温度は140℃に設定した。
【0073】
熱保管試験
合わせガラスを160℃で16時間処理した。目視検査(「目視検査2」)では欠陥は見られなかった。
【0074】
PVB溶液2および3の調製
以下の2つの他のコーティング液を調製した:
「PVB溶液2」は、市販グレードのMowital(登録商標)B75HとMowital(登録商標)B60Hとの混合物(22/75、重量比)から、メタノールとメチルエチルケトンとの50/50(重量比)混合物中の17.0重量%溶液として調製した。
【0075】
「PVB溶液3」は、市販グレードのMowital(登録商標)B75HとMowital(登録商標)B30Hとの混合物(50/50、重量比)から、メタノールとトルエンとの50/50(重量比)混合物中の13.5重量%溶液として調製した。
【0076】
乾燥条件の比較
上述した実施例1を繰り返したが、表1に記載の通りにPVB溶液1、2、および3を使用し、異なる乾燥条件を使用した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
本発明による代替の乾燥条件
ゾーン2および3における乾燥は、本発明による赤外線による加熱を使用して行うこともできる。赤外線加熱を使用すると、実施例1~5について説明したものと同じ低レベルの残留溶媒含有量を得ながらも、総乾燥時間をさらに短縮することができる。したがって、以下の乾燥条件が使用される:
【表4】
【0081】
本発明によらない代替の乾燥条件
第1の乾燥ゾーンの乾燥工程をロール支持からエアーフローテーション乾燥に置き換え、例えば3つの乾燥工程を全てエアーフローテーションモードで行うと、実施例1~5について説明したものに匹敵する残留溶媒含有量になる。しかしながら、ゾーン1のロール支持を省略すると、気泡欠陥が生じる。
【0082】
【表5】
【国際調査報告】