(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】肝臓の胆管系への投与による肝細胞の移植
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240216BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20240216BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240216BHJP
A61K 35/407 20150101ALI20240216BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240216BHJP
A61K 49/06 20060101ALI20240216BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20240216BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20240216BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20240216BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20240216BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240216BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240216BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20240216BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240216BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20240216BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/06
A61P1/16
A61K35/407
A61K9/10
A61K49/06
A61L29/08 100
A61L29/06
A61L29/12
A61L29/14
A61L31/14 500
A61L31/04
A61L27/36 400
A61L27/38 300
A61K45/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549609
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2022053910
(87)【国際公開番号】W WO2022175373
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500341551
【氏名又は名称】ケンブリッジ エンタープライズ リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サンパジオティス フォティオス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァリエ ルドヴィク
(72)【発明者】
【氏名】サエブ-パーシー クーロシュ
(72)【発明者】
【氏名】バトラー アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ワトソン クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】シー テク チョン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C081
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QQ02
4B065AA93X
4B065CA44
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4C076CC16
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4C087NA05
4C087NA13
4C087ZA75
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、肝臓の胆管系に肝細胞を投与することを含む、胆管細胞等の肝細胞を肝臓に生着させるためのin vitro及びin vivoの方法に関する。肝細胞は凝集体の形であってもよく、胆管の直径が減少する方向で投与されてもよい。これは、例えば罹患又は損傷した肝臓を有する個体の治療に有用であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を肝臓に投与する方法であって、
肝細胞の懸濁液を、胆管の直径が減少する方向で前記肝臓の胆管系に投与して、前記肝細胞が前記肝臓に生着するようにすることを含む、方法。
【請求項2】
in vitro又はex vivo又はin vivoの方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
罹患又は損傷した肝臓を有する個体の治療方法であって、
肝細胞の懸濁液を、胆管の直径が減少する方向で胆管系に投与して、前記肝細胞が前記肝臓に生着するようにすることを含む、方法。
【請求項4】
罹患又は損傷した肝臓を有する個体の治療方法に使用する肝細胞の懸濁液であって、
肝細胞の懸濁液を、胆管の直径が減少する方向で前記肝臓の胆管系に投与して、前記肝細胞が前記肝臓に生着するようにすることを含む、懸濁液。
【請求項5】
罹患又は損傷した肝臓を有する個体の治療方法に使用する医薬の製造における肝細胞の懸濁液の使用であって、
肝細胞の懸濁液を、胆管の直径が減少する方向で前記肝臓の胆管系に投与して、前記肝細胞が前記肝臓に生着するようにすることを含む、使用。
【請求項6】
前記懸濁液中の前記肝細胞が凝集体の形である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法、請求項4に記載の使用のための懸濁液、又は請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記肝細胞が、バッファーとRhoキナーゼ阻害剤とを含む培養培地中に懸濁されている、請求項1~3若しくは6のいずれか一項に記載の方法、請求項4若しくは6に記載の使用のための懸濁液、又は請求項5若しくは6に記載の使用。
【請求項8】
前記培養培地が、抗胆汁分泌促進剤及び/又は非接着性試薬を更に含む、請求項7に記載の方法、請求項7に記載の使用のための懸濁液、又は請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記肝細胞が胆管細胞である、請求項1~3、若しくは6~8のいずれか一項に記載の方法、請求項4、若しくは6~8に記載の使用のための懸濁液、又は請求項5~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記方法が、所望の生着部位までの前記個体の胆管系の体積を測定すること、及び前記個体について測定した前記体積に相当する体積に前記肝細胞を懸濁させることを含む、請求項1~3、若しくは6~9のいずれか一項に記載の方法、請求項4若しくは6~9のいずれか一項に記載の使用のための懸濁液、又は請求項5~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記個体の胆管系の体積が、
造影剤を含む流体を、前記個体の胆管系に、イメージング上で前記所望の生着部位が見えるまで投与すること、及び
前記造影剤流体の注入体積を決定すること、
によって測定される、請求項10に記載の方法、請求項10に記載の使用のための懸濁液、又は請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記個体の胆管系の体積が、MRイメージングによって測定される、請求項10に記載の方法、請求項10に記載の使用のための懸濁液、又は請求項10に記載の使用。
【請求項13】
前記方法が、前記肝細胞の懸濁液の投与前に、バッファーを含む洗浄液で前記肝臓の胆管系をフラッシングすることを含む、請求項1~3、若しくは6~12のいずれか一項に記載の方法、請求項4若しくは6~12のいずれか一項に記載の使用のための懸濁液、又は請求項5~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記フラッシング後の前記胆管系のpHが、前記投与された肝細胞に対して非毒性である、請求項13に記載の方法、請求項13に記載の使用のための懸濁液、又は請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記フラッシングが、前記生着部位にて罹患又は損傷した細胞を除去する、請求項13若しくは14に記載の方法、請求項13若しくは14に記載の使用のための懸濁液、又は請求項13若しくは14に記載の使用。
【請求項16】
前記個体に抗胆汁分泌促進剤を投与して、胆汁分泌を低下させることを更に含む、請求項1~3、若しくは6~15のいずれか一項に記載の方法、請求項4若しくは6~15のいずれか一項に記載の使用のための懸濁液、又は請求項5~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記細胞懸濁液が、カテーテル又はカニューレを介して前記胆管系に注入される、請求項1~3、若しくは6~16のいずれか一項に記載の方法、請求項4若しくは6~16のいずれか一項に記載の使用のための懸濁液、又は請求項5~16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記カテーテル又はカニューレの内面が、細胞の接着を防止するためにタンパク質でコーティングされている、請求項14に記載の方法、請求項14に記載の使用のための懸濁液、又は請求項14に記載の使用。
【請求項19】
前記方法が、前記投与後に前記胆管系内で前記肝細胞の懸濁液を保持することを含む、請求項1~3、若しくは6~18のいずれか一項に記載の方法、請求項4若しくは6~18のいずれか一項に記載の使用のための懸濁液、又は請求項5~18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記肝細胞の懸濁液が、前記胆管系の胆管の内腔を閉塞することにより前記胆管系に保持されて、前記懸濁液の流出を低減又は防止する、請求項19に記載の方法、請求項19に記載の使用のための懸濁液、又は請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記胆管系が、前記胆管内でバルーンを膨張させることによって閉塞される、請求項20に記載の方法、請求項20に記載の使用のための懸濁液、又は請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記胆管系が、生分解性ビーズによって閉塞される、請求項20に記載の方法、請求項20に記載の使用のための懸濁液、又は請求項20に記載の使用。
【請求項23】
前記胆管系が、30分間以上閉塞される、請求項22までのいずれか一項に記載の方法、請求項22までのいずれか一項に記載の使用のための懸濁液、又は請求項22までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記方法が、前記投与後に前記肝臓で生成された胆汁のpH、電解質含有量及び/又は体積をモニタリングすることを含み、前記胆汁のpH、電解質含有量及び/又は体積の増加は、前記肝細胞が生着していることを示す、請求項1~3、若しくは6~23のいずれか一項に記載の方法、請求項4若しくは6~23のいずれか一項に記載の使用のための懸濁液、又は請求項5~23のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[資金提供]
本出願につながるプロジェクトは、欧州連合のHorizon 2020研究イノベーション計画(助成契約番号741707)に基づく欧州研究評議会(ERC)から資金提供を受けた。
【0002】
本発明は、例えば再生医療等の治療用途において使用するための、中空内腔器官(hollow lumen organs)又は分岐管状網目構造の内腔に細胞を投与する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
肝外胆管の障害は、かなりの罹患率及び死亡率をもたらす。実際、小児肝移植の70%は胆管閉鎖症を治療するために行われる(非特許文献1)。原発性硬化性胆管炎(PSC)単独で米国の肝移植の5%を占め(非特許文献2)、そして胆管合併症は死肝移植後の移植不全の主な原因である(非特許文献3、非特許文献4)。しかしながら、肝外胆管上皮の研究は、長期培養と初代胆管細胞の大規模な増殖とにおける技術的課題より限定される。これらの課題により、これまでPSC及びその他の胆管症を標的とする薬物スクリーニング及び細胞療法のための大規模な実験は不可能となっていた。さらに、罹患した胆管を再建及び置換するために使用され得る健康なドナー組織が不足しているため、治療の選択肢は限られたままである(非特許文献5、非特許文献6)。
【0004】
胆管細胞等の肝細胞のin vitroでの増殖によって、この課題に対処し、胆管再建等の組織エンジニアリング用途に適した細胞を提供できる可能性がある。
【0005】
しかしながら、このような細胞の投与には、問題が残されたままである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Murray K.F. & Carithers R.L., Hepatology 2005, 41:1407-1432
【非特許文献2】Perkins J.D., Liver Transplant 2007, 13, 465-466
【非特許文献3】Skaro A.I. et al., Surgery 2009, 146:543-553
【非特許文献4】Enestvedt C.K. et al., Liver Transpl. 2013, 19:965-72
【非特許文献5】Gallo A. & Esquivel C.O, Pediatr. Transplant. 2013, 17:95-98
【非特許文献6】Felder S.I. et al., JAMA Surg 2013, 148:253-7-8
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、患者の肝臓への肝細胞の直接投与及び生着を可能にする技術を開発した。これは、再生医療、例えば疾患肝組織又は損傷した肝組織の治療において有用であり得る。
【0008】
本発明の第1の態様は、細胞を肝臓に投与する方法であって、
肝細胞の懸濁液を胆管系に投与して、肝細胞が肝臓に生着するようにすることを含む、方法を提供する。
【0009】
本方法は、分離された肝臓に対して例えばex vivoで実施することができる。あるいは、本方法は、in vivoで実施することができる。例えば、細胞は、治療を必要とする個体、例えば罹患又は損傷した肝組織を有する個体の治療方法において投与されてもよい。
【0010】
本発明の第2の態様は、治療を必要とする個体、例えば罹患又は損傷した肝組織を有する個体の治療方法において使用する肝細胞懸濁液を提供し、該方法は、
肝細胞の懸濁液を個体の胆管系に投与して、肝細胞が個体の肝臓に生着するようにすることを含む。
【0011】
本発明の第3の態様は、治療を必要とする個体の治療のための医薬の製造における肝細胞懸濁液の使用を提供し、該治療は、
肝細胞の懸濁液を個体の肝臓の胆管系に投与して、肝細胞が個体の肝臓に生着するようにすることを含む。
【0012】
好ましくは、肝細胞は胆管細胞である。
【0013】
好ましくは、懸濁液中の肝細胞は、複数の肝細胞を含む集成体、クラスター又は凝集体の形である。幾つかの好ましい実施の形態において、肝細胞はオルガノイドの形であってもよい。他の好ましい実施の形態において、肝細胞は、オルガノイドから解離した細胞クラスターの形であってもよい。
【0014】
第1の態様~第3の態様の方法及び治療において、肝細胞は、胆管の直径が増大する方向、又はより好ましくは胆管の直径が減少する方向で投与することができる。
【0015】
第1の態様~第3の態様の方法及び治療において、肝細胞のクラスターの直径等の寸法は、疾患又は損傷部位における個体の胆管の直径に相当し得る。
【0016】
第1の態様~第3の態様の方法及び治療において、肝細胞懸濁液は、疾患又は損傷部位まで肝臓の胆管系を満たすことができる。例えば、肝細胞懸濁液の体積は、投与部位から個体の肝臓の疾患又は損傷部位までの胆管系の体積に相当してもよい。幾つかの実施の形態において、肝細胞懸濁液の体積は、個体の肝臓の胆管系の総体積に相当してもよい。
【0017】
第1の態様~第3の態様の方法及び治療は、個体の胆管系の体積を測定することを更に含んでもよい。幾つかの実施の形態において、個体の胆管系の体積は、
造影剤を含む溶液を、個体の胆管系に、例えば胆管造影を使用したイメージングにより生着部位、例えば疾患又は損傷部位が見えるまで投与すること、及び
投与された造影剤溶液の体積を決定すること、
によって測定することができる。
【0018】
肝細胞は、造影剤流体の投与体積に相当する体積の溶液に懸濁させることができる。これにより、肝細胞懸濁液は、送達部位まで胆管系を満たすことができる。
【0019】
第1の態様~第3の態様の方法及び治療は、懸濁液の投与前に肝臓の胆管系を洗浄又はフラッシングして、損傷、罹患又は壊死した胆管細胞等の内因性細胞を生着部位から除去し、下にある胆管マトリックスを、投与された細胞の生着のために露出させることを更に含んでもよい。
【0020】
第1の態様~第3の態様の方法及び治療は、懸濁液の投与前に肝臓の胆管系を洗浄又はフラッシングして、胆汁のpHを変化させること、例えば胆汁を正常化させること、又は生理学的範囲内に戻すことを更に含んでもよい。例えば、胆管系は、バッファーでフラッシング又は洗浄することができる。バッファーは、胆管系への胆汁の分泌を減少させために、ソマトスタチン類似体等の抗胆汁分泌促進剤(anti-choleretic agent)を更に含んでもよい。
【0021】
第1の態様~第3の態様の方法及び治療は、肝細胞懸濁液を、投与後に胆管系内に保持することを更に含んでもよい。懸濁液は、肝細胞が、肝臓の胆管系の生着部位に生着するまで保持することができる。好ましい実施の形態は、胆管系からの懸濁液の流出を低減又は防止するために、投与後に胆管系を閉塞することを含むことができる。懸濁液は、投与された懸濁液が保持されている間、胆管系への胆汁の分泌を減少させる、ソマトスタチン等の抗胆汁分泌促進剤を含んでもよい。
【0022】
第1の態様~第3の態様の方法及び治療は、肝細胞懸濁液の投与後に肝機能をモニタリングすることを更に含んでもよい。胆汁分泌、グルコース、重炭酸塩及び塩化物等の胆汁電解質の濃度、並びに/又は胆汁のpHがモニタリングされることが好ましい。肝細胞懸濁液は、肝機能の増加、例えば、胆汁のpH、電解質濃度、電解質濃度の比率及び/又は胆汁分泌の増加が肝細胞の生着を示すまで、肝臓の胆管系に保持することができる。
【0023】
本発明の他の態様及び実施形態を、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】胆管細胞オルガノイド(CO)による移植後の胆管症のレスキューを示す図である。
図1Aは、実験の概略を示す図である。
図1Bは、胆嚢オルガノイド注入後の動物レスキューを示すカプランマイヤー曲線を示す図である。P=0.0018(
**)、ログランク検定。
図1Cは、オルガノイド注入後の胆管症のレスキューを示す磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)を示す図である。
図1Dは、肝内(SOX4)マーカーのアップレギュレーションとともに、門脈三管における赤色蛍光タンパク質(RFP)発現胆嚢オルガノイドの生着を示す免疫蛍光を示す図である。スケールバー;黄色、50μm;白色、100μm。PV、門脈。
【
図2】正常温度灌流(NMP)を受けたヒト肝臓における逆行注入を使用した胆管細胞オルガノイド(CO)の生着及び胆汁の特性の改善を示す図である。
図2Aは、オルガノイド注入技術の概略を示す図である。
図2Bは、使用されたNMP回路の写真を示す図である。BD、胆管;GB、胆嚢;HA、肝動脈;PV、門脈;IVC、下大静脈;L、肝臓;RFP、赤色蛍光タンパク質;P、ポンプ;O、酸素供給器;PRC、濃縮赤血球。
図2Cは、フローサイトメトリーにより灌流液中にRFP細胞が存在しないことが明らかになったことを示す図である。
図2Dは、免疫蛍光により、肝内(SOX4)マーカーのアップレギュレーション及び胆嚢(SOX17)マーカーの喪失と共に、RFP胆嚢オルガノイドの生着が明らかになったことを示す図である。スケールバー、50μm。
図2Eは、オルガノイド注入が胆汁のpH及び胆汁分泌を改善することを示す図である。
***P<0.001。N=3 NMP肝臓。各測定値は異なるデータポイントで表され、各臓器は異なる記号で表される。
【
図3】正常温度灌流(NMP)を受けているヒト肝臓における逆行注入による胆嚢オルガノイドの投与を示す図である。
図3Aは、解剖学的目印を示したNMP上のヒト肝臓、及び赤色蛍光タンパク質(RFP)発現オルガノイドの投与に使用される胆管カテーテルの写真を示す図である。PV、門脈;IVC、下大静脈;HA、肝動脈;BD、胆管;GB、胆嚢;L、肝臓。
図3Bは、末梢管カニューレ挿入の蛍光透視画像を示す図である。肝臓の区域3及び区域5の末梢管にそれぞれ細胞又は担体を注入するために使用される胆管カテーテルの位置を上の画像に示す。カテーテルの末梢位置及び注入された細胞の分布領域を示す、カテーテル配置後の区域3の胆管造影を下の画像に示す。拡大され、コントラストが強調された画像が挿入図に提供される。黒い矢印、シース;赤い矢印、カテーテル先端;白い矢印、胆管造影。
図3Cは、肝臓の注入領域の超音波イメージングにより、実験の終了時に管の拡張又は他のいかなる異常もないことが明らかになったことを示す図である。
図3Dは、NMPヒト肝臓における移植後のヒト赤色蛍光タンパク質(RFP)発現細胞における生着、重要な胆管マーカーの発現、胆嚢マーカーの喪失、肝内マーカーの発現及び他の系譜のマーカーの喪失を示す免疫蛍光分析を示す図である。スケールバー、50μm。
【
図4】正常温度灌流(NMP)を受けたヒト肝臓における胆嚢オルガノイドの生着を示す図である。
図4Aは、NMPヒト肝臓における移植後の、ヒト赤色蛍光タンパク質(RFP)発現細胞の生着を示す免疫蛍光分析を示す図である。スケールバー、100μm。画像は
図1及び
図2を補完するものである。
図4Bは、注入したヒト胆管対注入しなかったヒト胆管における胆嚢由来RFP発現細胞の定量化を示す図である。
****P<0.0001、マンホイットニー検定。データは、3つの異なる肝臓及び肝臓当たり5つのランダムな切片に対応している。各切片はデータポイントで表され、一方、各臓器は異なる記号で表される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、例えば罹患又は損傷した肝組織の治療のために、肝組織に肝細胞及びオルガノイドを投与する方法に関する。本方法は、個体の肝臓の胆管系の体積に相当する体積における肝細胞の懸濁液の投与を伴う。
【0026】
肝細胞は、肝実質細胞、マクロファージ、及び胆管細胞等の胆管上皮細胞を含み得る。好適な肝細胞は、初代肝細胞であってもよく、又は当該技術分野において利用可能な方法を使用して初代肝細胞から生成若しくは増殖させてもよい。
【0027】
幾つかの好ましい実施形態において、肝細胞は胆管細胞である。胆管細胞は、胆管系の内腔表面を覆う単層である胆管組織の上皮に由来する細胞である。胆管細胞は、in vivoで胆汁分泌及び電解質輸送に重要な役割を担う。本明細書に記載されるように胆管細胞の投与は、例えば、胆管障害又は罹患若しくは損傷した胆管組織の治療において有用であり得る。
【0028】
好適な胆管細胞としては、初代胆管細胞、当該技術分野において利用可能な方法を使用して初代胆管細胞から生成若しくは増殖させた胆管細胞(例えば国際公開第2018/234323号を参照)又は当該技術分野において利用可能な方法を使用して多能性細胞からin vitroで分化することにより生成された胆管細胞(例えばSampaziotis et al Nat Biotech 33 (8) 845-853 (2015)、国際公開第2016/207621号を参照)が挙げられる。
【0029】
胆管細胞等の初代肝細胞は、任意の好適な方法によって得ることができる。例えば、吸引カテーテルを用いて初代肝細胞を得ることができ、又は初代肝細胞は経胆管(transbiliary)鉗子組織生検から得ることができる。
【0030】
幾つかの実施形態において、溶液中の肝細胞は、例えば、アルギン酸又はマトリゲル(商標)等のヒドロゲル中に封入することができる。
【0031】
肝細胞の集団は自系であってもよい。すなわち、肝細胞は、後に投与される個体と同じ個体から得られた初代肝細胞であってもよく、又はこれらの初代肝細胞から増殖された肝細胞であってもよい(すなわち、ドナー個体とレシピエント個体とは同じである)。レシピエント個体に投与するのに好適な肝細胞の集団は、本明細書に記載されるように、個体から得られた初代肝細胞の初期集団を準備すること、及び肝細胞の集団を増殖させて、懸濁液での投与のための増殖された肝細胞の集団を生成することを含む方法によって生成することができる。
【0032】
増殖された肝細胞の集団は同種異系あってもよい。すなわち、肝細胞は、後に投与される個体とは異なる個体から得られた初代肝細胞であってもよく、又はこれらの初代肝細胞から増殖された肝細胞であってもよい(すなわち、ドナー個体とレシピエント個体とは異なる)。ドナー個体とレシピエント個体とは、拒絶反応及び他の望ましくない免疫効果を避けるために、HLA適合及び/又は血液型適合されてもよい。ドナー個体とレシピエント個体はまた、過去のウイルス感染歴及び/又はウイルス免疫の状態、例えば過去のCMV感染が適合されてもよい。幾つかの実施形態において、レシピエント個体は、同種異系肝細胞の拒絶反応を低減又は防止するために免疫抑制療法を受けることができる。レシピエント個体に投与するのに好適な増殖された肝細胞の集団は、本明細書に記載されるように、ドナー個体から得られた初代肝細胞の初期集団を準備すること、及び肝細胞の集団を増殖させて、懸濁液での投与のための増殖された肝細胞の集団を生成することを含む方法によって生成することができる。
【0033】
懸濁液中の肝細胞は、単一細胞の形であってもよい。より好ましくは、懸濁液中の肝細胞は、複数の肝細胞を含む集成体、クラスター又は凝集体の形である。例えば、肝細胞は、オルガノイド、又はオルガノイドに満たない集成体若しくはクラスター、例えばオルガノイドから解離した集成体若しくはクラスターの形であってもよい。肝細胞の好適な集成体、クラスター又は凝集体は、10個~500個の細胞、10個~100個の細胞、好ましくは20個~50個の細胞を含むことができる。
【0034】
幾つかの実施形態において、懸濁液中の肝細胞の凝集体の大きさは、損傷又は疾患部位等の細胞送達部位の胆管の大きさに依存し得る。例えば、肝細胞凝集体の直径又は最長寸法は、細胞送達部位の胆管の直径に相当してもよい。これにより、細胞送達部位の胆管内で凝集体が捕捉され、その部位の肝細胞の生着が促進され得る。
【0035】
好ましくは、懸濁液中の肝細胞は、オルガノイド又はオルガノイドに由来する細胞凝集体である。例えば、胆管細胞は、胆管細胞オルガノイド(CO)又は胆管細胞オルガノイドに由来する胆管細胞凝集体の形であってもよい(例えば、Sampaziotis et al Nat Med 23 954-963 (2017)、国際公開第2018/234323号を参照)。
【0036】
胆管細胞オルガノイドは、内腔を取り囲み、それを外部環境から隔離する、密着結合により連結された胆管細胞の層を含む3次元多細胞集成体又は嚢胞である。胆管細胞は、CFTR等のマーカーの極性発現を示し得る。胆管細胞オルガノイドは、胆管細胞の形態又は物理的特性を示し得る。オルガノイドは、例えば繊毛、密着結合、微絨毛、エキソソーム及び/又は管状構造を含み得る。オルガノイドの形態及び物理的特性は、標準的な顕微鏡法によって測定され得る。
【0037】
胆管細胞は1つ以上の胆管マーカーを発現し得る。例えば、胆管細胞は、サイトケラチン7(KRT7又はCK7)、サイトケラチン19(KRT19又はCK19)、γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、肝実質細胞核因子1ベータ(HNF1B)、セクレチン受容体(SCTR)、ナトリウム依存性胆汁酸輸送体1(ASBT/SLC10A2)、SRY-box 9(SOX9)、Jagged 1(JAG1)、NOTCH2、SCR、SSTR2、頂端側塩胆汁輸送体(Apical Salt and Bile Transporter)(ASBT)、アクアポリン1及び陰イオン交換体並びに嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)を発現し得る。典型的には、集団中の胆管細胞の少なくとも98%は、本明細書に記載されるように増殖培地中で20代継代した後にCK7及びCK19を同時発現し得る。
【0038】
凝集体、オルガノイド又は個別の細胞の形でも、懸濁液中の肝細胞は、他の細胞型を含み得ないか、又は実質的に含み得ない。すなわち、肝細胞の集団は、均質又は実質的に均質であり得る。例えば、懸濁液中の細胞の集団は、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の肝細胞を含有し得る。
【0039】
幾つかの好ましい実施形態において、本明細書に記載される方法は、肝細胞懸濁液の投与前に、肝臓の胆管系を洗浄又はフラッシングすることを含むことができる。これは、例えば、生着部位の罹患若しくは損傷した肝細胞を、取り除くこと若しくは除去すること、又は例えばpHの最適化により、生着部位の微小環境を改変して、細胞の生存をサポートすることにおいて有用であり得る。
【0040】
胆管系は、洗浄液でフラッシング又は洗浄することができる。洗浄液は、PBS又はHEPES等のバッファーを含んでもよい。これは、例えば胆管系の胆管内のpHの中和において有用であり得る。
【0041】
胆管系は、2回連続した洗浄で流出液中に戻る細胞の数が減少しなくなるまでフラッシング又は洗浄することができる。例えば、胆管系は、新しい洗浄バッファーで1回以上、2回以上、3回以上、4回以上又は5回以上、フラッシング又は洗浄することができる。
【0042】
幾つかの実施形態において、洗浄液は、抗胆汁分泌促進剤、例えばソマトスタチン(STT)、ソマトスタチン類似体、CFTR-inh172、又はオクトレオチドを更に含むことができる。これは、例えば胆管系における胆汁分泌を減少させるのに有用であり得る。
【0043】
他の実施形態において、抗胆汁分泌促進剤は、肝臓及び/又は個体に全身的に投与することができる。
【0044】
肝細胞懸濁液は、細胞の生着が必要とされる部位、例えば、疾患又は損傷部位まで、肝臓の胆管系を満たすことができる。例えば、肝細胞懸濁液の体積は、個体の胆管系の生着部位までの胆管系の体積に相当してもよい。これにより、胆管に過剰な圧力をかけることによって胆管を損傷させることなく、所望の生着部位まで、及び所望の生着部位を含んで、胆管系の胆管が細胞懸濁液に曝される。
【0045】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載されるような生着に好適な胆管系の疾患又は損傷部位は、経胆管血管内超音波法及びMR胆管造影法等のイメージング技術によって特定することができる。
【0046】
幾つかの実施形態において、肝細胞懸濁液は、胆管系を完全に満たすことができる(すなわち、末端枝を含む全ての胆管を懸濁液に曝すことができる)。例えば、懸濁液の体積は、個体の肝臓の肝内胆管系又は胆管系全体の体積に相当してもよい。これにより、胆管に過剰な圧力をかけることによって胆管を損傷させることなく、胆管系の全ての胆管が細胞懸濁液に曝される。
【0047】
胆管系の体積は個体間で異なる。好ましい実施形態において、本明細書に記載される方法は、細胞懸濁液の投与前に、生着部位までの個体の胆管系の体積を測定することを含むことができる。これにより、細胞懸濁液の体積を、個体の生着部位に肝細胞を送達するのに必要な特定の体積に調整することが可能となる。
【0048】
幾つかの実施形態において、個体の胆管系の体積は、磁気共鳴(MR)イメージング、例えばMR胆管造影法を含む放射線技術によって測定することができる。
【0049】
他の実施形態において、個体の胆管系の体積は、
造影剤を含む溶液を、個体の胆管系に、イメージングにより上記胆管系の所望の生着部位が見えるまで投与すること、及び
造影剤溶液の注入体積を決定すること、
によって測定することができる。
【0050】
好適な造影剤は、当該技術分野においてよく知られており、ガドリニウム剤、及び水溶性ヨウ素系剤を含む。造影剤溶液の注入及びイメージングに好適な技術は、当該技術分野においてよく知られている(例えばGastrointestinal Endoscopy 62 4 2005 480-484を参照)。
【0051】
造影剤のイメージングに好適な技術は、当該技術分野においてよく知られており、胆管造影法、内視鏡的逆行性胆管膵管造影法(ERCP)、及び経皮経肝胆管造影法(PTC)を含む。
【0052】
肝細胞は、個体に注入された造影剤溶液の測定体積に相当する体積に再懸濁させることができる。肝細胞は、細胞培養培地中に懸濁させることができる。好適な基礎細胞培養培地は、当該技術分野においてよく知られている。
【0053】
細胞培養培地は、Rhoキナーゼ(ROCK)阻害剤を更に含んでもよい。ROCK阻害剤は、肝細胞のプライミング及び胆管系の送達部位への肝細胞の付着の増加において有用であり得る。好適なROCK阻害剤は市販されており、Y-27632及びファスジルを含む。
【0054】
細胞培養培地は、バッファーを更に含んでもよい。
【0055】
細胞培養培地は、カテーテル壁等の固体表面への細胞の付着を防止する1つ以上の成分を更に含んでもよい。好適な成分は、当該技術分野においてよく知られており、BSAを含む。
【0056】
胆管系は、胆汁を十二指腸に輸送できるように肝実質から胆汁を収集する、肝臓内の胆管の集合体である。
【0057】
幾つかの実施形態において、肝細胞の懸濁液は、胆管の直径が増大する方向、すなわち、胆汁の流れの方向で、個体の肝臓の胆管系に投与される。この方向は、本明細書において「順行方向」と呼ぶことができる。これは、例えば細胞の区域送達のための経皮投与に有用であり得る。
【0058】
更に好ましい実施形態において、肝細胞の懸濁液は、胆管の直径が減少する方向、すなわち、胆管系の末端枝に向かって胆管系に投与される。この方向は、本明細書において「逆行方向」(すなわち、胆汁の流れの方向と反対)と呼ぶことができる。細胞懸濁液は、個体の肝臓の胆管系に逆行方向で投与されてもよい。
【0059】
懸濁液は、総肝管、左肝管若しくは右肝管、又は胆管系の管の1つに投与されてもよい。懸濁液は、例えばカニューレ又はカテーテルを使用して、注入によって胆管系に投与されることが好ましい。
【0060】
幾つかの実施形態において、懸濁液は、総肝管、左肝管又は右肝管に挿入されたカテーテルを介して投与されてもよく、又は内視鏡的経路を使用して、若しくは経皮的に、例えば経皮的に胆嚢、次いで胆管系に導入されたカテーテルを介して投与されてもよい。幾つかの実施形態において、懸濁液は、反対側の経皮投与を介して投与されてもよい。例えば、右側の胆管を穿刺してカテーテルを可能な限り末梢に配置してもよく、又は胆管系の左の胆管に楔入してもよい。好適なカニューレ又はカテーテルは、胆管の肝内支流に対して楔入するように設計又は成形されてもよい。好適なカニューレ又はカテーテルは、カニューレ又はカテーテルの内部表面への細胞の付着を防止するために、非接着性試薬、例えばBSA等のコーティングタンパク質で内部コーティングされてもよい。幾つかの実施形態において、カニューレ又はカテーテルの内面は、コーティングタンパク質が内面に接着し、細胞の付着をブロックするように、BSA溶液、FBS又はタンパク質リッチ培地等のコーティングタンパク質溶液に曝されてもよい。
【0061】
細胞は、細胞に損傷を与えない条件下にて注入されることが好ましい。例えば、細胞は、細胞に損傷を与えるには不十分な流体力学的圧力で注入されてもよい。
【0062】
カニューレ又はカテーテルの内表面等の、細胞懸濁液と接触する表面は、懸濁液中の細胞の付着を防止するためにコーティングされることが好ましい。例えば、表面は、ウシ血清アルブミン等のタンパク質でコーティングされてもよい。
【0063】
肝細胞は、胆管系の生着部位に送達されてもよい。生着部位は、損傷又は疾患部位であってもよい。生着部位の位置は、疾患に依存し得る。例えば、原発性胆汁性胆管炎(PBC)を伴う個体の胆管系の生着部位は末端小管であり、原発性硬化性胆管炎(PSC)を伴う個体の胆管系の生着部位は中間管であり得る。
【0064】
細胞懸濁液を胆管系に投与するために使用されるカニューレ又はカテーテルは、肝細胞が肝組織に生着するまで所定位置に保持されることが好ましい。
【0065】
投与後、肝細胞懸濁液は、肝細胞が肝臓に生着するまで肝臓の胆管系内に維持又は保持することができる。例えば、胆管系の1つ以上の胆管を、注入後に可逆的に閉塞して、懸濁液を所定位置に維持し、胆管系からの懸濁液の流出を低減又は防止することができる。胆管は、圧力損傷又は壊死を引き起こすことなく、胆管の内腔を物理的にブロックすることによって閉塞されてもよい。これにより、細胞懸濁液の逆流が防止される。例えば、細胞懸濁液を投与する部位に応じて、総肝管、左肝管若しくは右肝管、又は(1つ以上の)より小さな胆管を閉塞することができる。胆管を閉塞する好適な方法は、当該技術分野においてよく知られており、バルーン、チューブ、ステント及びビーズを含む。
【0066】
幾つかの好ましい実施形態において、胆管系は、細胞懸濁液の投与後に胆管内でバルーンを膨張させることによって閉塞することができる。この目的に使用できるバルーンカテーテルは市販されている。
【0067】
胆管系は、肝細胞が肝組織に生着するまで閉塞することができる。例えば、胆管系は、2時間以上、3時間以上又は4時間以上閉塞することができる。生着後、閉塞は、除去するか、又は元に戻すことができる。
【0068】
細胞懸濁液の投与後に肝臓の胆管系をモニタリングして、肝細胞がいつ肝組織に生着したかを決定することができる。例えば、肝機能の1つ以上のパラメータを定期的にモニタリング又は測定することができる。1つ以上のパラメータの変化は、肝細胞の生着及び肝組織の機能改善を示し得る。
【0069】
1つ以上のパラメータには、胆汁のpH、グルコース/重炭酸塩レベル、及び/又は胆汁分泌(細胞の投与以降に生成された胆汁の体積)が含まれることが好ましい。胆汁のpH及び/又は胆汁の体積の増加は、胆管細胞の生着及び肝臓における胆管組織の機能改善を示し得る。
【0070】
胆汁のpHは、標準的な生化学的アッセイを使用して決定することができる。胆汁の体積は、例えば、一定時間にわたるカテーテルからの自由ドレナージによって決定することができる。
【0071】
本明細書に記載される方法は、ex vivoでの肝細胞の投与において有用であり得る。例えば、細胞が投与される肝臓は、灌流装置上で分離された肝臓であってもよい。生着後、肝臓を個体に移植するこができる。肝臓は、肝臓全体であってもよく、又は肝葉若しくは肝区域であってもよい。
【0072】
本明細書に記載される方法は、in vivoでの肝細胞の投与において有用であり得る。例えば、肝臓は、個体中にin situに存在していてもよい。これは、例えば、個体、例えば罹患又は損傷した肝組織を有する個体の治療方法において有用であり得る。好適な個体としては、哺乳動物、好ましくはヒトが挙げられる。
【0073】
幾つかの実施形態において、個体は、罹患又は損傷した胆管組織、例えば罹患又は損傷した胆管上皮組織を有していてもよい。個体は、例えば胆管障害を有していてもよい。本明細書に記載されるように胆管細胞の投与は、胆管障害の治療において有用であり得る。
【0074】
胆管障害は、個体における胆管組織が損傷、欠陥又はその他には機能不全に陥っている状態、例えば胆管の損傷若しくは胆管の破壊、胆管の異常又は胆管の欠如を特徴とする障害である。胆管障害としては、胆管組織損傷、虚血性狭窄、外傷性胆管損傷及び胆管症、例えば遺伝性、発達性、自己免疫性及び環境誘発性の胆管症、例えば嚢胞性線維症関連胆管症、薬物誘発性胆管症、アラジール症候群、多発性肝嚢胞症、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、AIDS関連胆管症、胆管消失症候群、胆管癌、突発性成人胆管減少症等の胆管減少症、術後胆管合併症、並びに胆管閉鎖症が挙げられ得る。
【0075】
幾つかの好ましい実施形態において、本明細書に記載されるような胆管細胞の集団の懸濁液での投与は、例えば胆管減少症、例えば虚血性胆管減少症、先天性胆管減少症、例えばアラジール症候群、代謝性胆管減少症、複合病、例えば肝内PSC及びPBC、薬物誘発性胆管減少症、胆管消失症候群、並びに胆管系を冒す状態の治療において有用であり得る。
【0076】
本発明による組成物の投与は、好ましくは「予防的有効量」又は「治療的有効量」(場合に応じて、予防が治療とみなされる場合がある)でなされ、その際、この量は個体に有益性を示すのに十分である。投与される実際の量並びに投与の速度及び時間的経過は、治療対象の性質及び重症度に依存することとなる。治療の処方、例えば投与量の決定等は、一般開業医及び他の医師の責任の範囲内である。
【0077】
肝細胞を含む組成物は、単独で、又は他の治療と組み合わせて、治療される状態に応じて同時に又は逐次的に投与することができる。例えば、他の治療剤又は細胞は、胆管を介して投与することができ、又は全身的に、例えば門脈(PV)、肝静脈(HV)若しくは肝動脈(HA)を介して投与することができる。
【0078】
本発明の他の態様及び実施形態は、「からなる(consisting of)」の用語によって置き換えられる「含む、有する(comprising)」の用語を伴う上に記載される態様及び実施形態、並びに「本質的にからなる(consisting essentially of)」の用語によって置き換えられる「含む、有する(comprising)」の用語を伴う上に記載される態様及び実施形態を提供する。
【0079】
本出願は、文脈上他の意味に解釈すべき場合を除き、あらゆる上の態様及び上に記載される実施形態の互いとの全ての組み合わせを開示することが理解される。同様に、本出願は、文脈上他の意味に解釈すべき場合を除き、好ましい及び/又は任意の特徴の単独の又はあらゆる他の態様との全ての組み合わせを開示する。
【0080】
上の実施形態の変形形態、更なる実施形態及びそれらの変形形態は、本開示を読むことによって当業者に明らかとなり、それら自体が本発明の範囲に含まれる。
【0081】
本明細書で言及される全ての文書及び配列データベースエントリは、全ての目的に対してそれらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0082】
本明細書において使用される場合、「及び/又は」は、2つの明示される特徴又は成分の各々の他方を含む又は他方を含まない具体的な開示として理解される。例えば、「A及び/又はB」は、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBの各々の具体的な開示として、それぞれが本明細書において個別に述べられているかのように理解される。
【0083】
[実験]
[材料及び方法]
ドナー肝臓のex vivo正常温度灌流
先に記載したようなヒト肝臓のex vivo灌流には、メトラ(OrganOx、英国、オックスフォード)正常温度肝臓灌流デバイスを使用した(Haghverdi et al Nat. Methods. 13, 845-848 (2016))。この装置は、移植用肝臓の保存に臨床的に使用されており(A. Lanzini, BILE. Encycl. Food Sci. Nutr. 471-478 (2003))、臓器をABO血液型に適合した正常温度酸素化血液で灌流することで、長期の自動臓器保存を可能にする。灌流デバイスには、オンライン血液ガス測定に加えて、pH、PO2及びPCO2(生理学的範囲内)、温度並びに生理学的正常範囲内の平均動脈圧を維持するためのソフトウェア制御アルゴリズムが組み込まれている。簡単に説明すると、肝動脈、門脈、下大静脈及び胆管にカニューレを挿入し、デバイスに接続し、灌流を開始した。
【0084】
胆管カニューレ挿入
胆管のカニューレ挿入は、蛍光透視法誘導下で2本のFrシースを総胆管に挿入し、続いて、シースを介して2本の2.7Frマイクロカテーテルを使用して、左右の肝管、その後にそれぞれ区域3及び区域管のカニューレ挿入によって達成した。マイクロカテーテルの末梢配置は、少量のイオン性造影剤を用いた胆管造影によって確認した。細胞は区域3に注入し、担体は区域5に注入した。
【0085】
細胞送達
RFP発現オルガノイドを小さな塊と単一細胞との混合物に機械的に解離させ、約10×10
6個のRFP発現細胞を約2cm
3の分布領域を有する区域3の末梢管に投与し、蛍光透視誘導下でカニューレを挿入して、細胞送達を最大化した(胆管カニューレ挿入の項を参照)(
図3B)。同じ技術を使用して区域の末梢枝に担体培地を送達し、臓器を最大100時間NMP上で維持した。
【0086】
ヒト肝臓における移植細胞の定量化
RFP標識胆嚢オルガノイドを注入した3つのヒト肝臓を分析した。細胞の分布領域(約2cm3)から切片を得た。肝臓当たり5つの切片、合計4463個の細胞を分析した。
【0087】
胆汁吸引
胆管カニューレ挿入は、関連する項に記載されているように実施した。カニューレ挿入後、ガイドワイヤー交換技術を使用してマイクロ流体カテーテル(CMAマイクロダイアリシスカテーテル、Harvard Bioscience Inc、米国)をそれぞれの区域管内に配置した。カテーテルの内シャフト及び外シャフト並びに入口チューブ及び出口チューブはポリウレタンから製造されており、膜は膜孔径100kDa及び外径0.4mmを有するポリアリールエーテルスルホンから構成される。各カテーテルについて入口チューブをポータブルバッテリー駆動のCMA107マイクロダイアリシスポンプ(Harvard Bioscience Inc、米国)に接続し、ポンプを1μl/分の速度で吸引するように設定した。
【0088】
胆汁の体積及びpHの測定
測定は、n=3の異なる肝臓で実施した。先に記載したように、可能な限り各肝臓の増加について最低2回の繰り返し測定を実施した(Haghverdi et al Nat. 12 Biotechnol. 36, 421-427 (2018).)。胆汁の体積は、胆汁を生成する胆管の体積に対して正規化され、これは対照治療群における細胞又は担体の分布の体積に相当する。これは、胆管造影上でこれらの管を描写するのに必要な造影剤の体積を使用して計算した。全てのカテーテルは体積測定の前にプライミングされたことに留意されたい。
【0089】
超音波イメージング
肝臓は、日立Aloka Arrieta V70及び10MHzハンドヘルドプローブを使用して、正常温度灌流デバイスにてex-vivoでイメージングした。画像を軸面及び矢状面で取得し、門脈、肝静脈及びそれらの主要な分枝の評価を行った。肝内胆管も評価され、特にオルガノイドが注入された区域3、及び担体を投与された区域5の対照領域に注目した。
【0090】
[結果]
本発明者らは、4,4’-メチレンジアニリン(MDA)を使用して免疫不全マウスに胆管症を誘発させ(Lee et al Nat Protoc 14 1884-1925 (2019))(
図1A及び
図1B)、赤色蛍光タンパク質発現(RFP)を発現するヒト胆嚢オルガノイドの管内送達(Bernsten et al Am. J. Physiol. - Gastrointest. Liver Physiol. 314, G349-G359 (2018))による表現型のレスキューを試みた。細胞を含まない担体培地を投与された対照動物は、体重が減少し、3週間以内に死亡し(
図1B)、IF)、組織学及び磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)(
図1C)によって示される胆汁鬱滞及び胆管症を発症していた。これに対して、オルガノイドを投与された動物は、実験の終了時に選択的に屠殺されており、胆管症が解消し、血清生化学が正常な状態で最長で3ヶ月間生存した(
図1B及び
図1C)。移植された胆嚢胆管細胞は、再生胆管上皮の約25%~55%に相当する様々なサイズの肝内管に生着し(
図1D)、胆嚢マーカー(SOX17)を喪失し、肝内マーカー(SOX4、DCDC2、BICC1)を発現することにより、肝内同一性を仮定した(
図1D)。コア胆管マーカー(KRT7、KRT19、CFTR)もまた発現していたが、本発明者らは、以前の報告(Pepe-Mooney et al Cell Stem Cell. 25, 23-38.e8 (2019))に従い生着細胞及び天然細胞の両方でYAP活性化を観察した。注目すべきことに、アルブミン等の他の肝系譜マーカーの発現は観察されず、胆管細胞オルガノイドの可塑性は胆管系譜に限定される可能性が高いことを示している。さらに、生着した細胞は、天然マウス胆管細胞と同様のレベルで増殖マーカーを発現し、一方、実験の終了時にT1計量身体MRイメージングを含む、実施された全ての分析(
図1C、
図1D)において異常な増殖又は腫瘍形成は認められなかった。したがって、オルガノイド移植は、損傷した上皮の修復及び急性損傷のレスキューに必要な健常な細胞を提供する。
【0091】
ヒト胆管を修復する細胞の治療可能性を評価するために、虚血性管損傷を意味する、実験の開始時に胆汁のpHが7.5未満である死亡した移植ドナー肝臓(n=3)の肝内管にRFP胆嚢オルガノイドを注入した。臓器は、生理的に近い微小環境を維持するために、最長で100時間、正常体温にて酸素化血液及び栄養素で灌流した(Nasralla Nature. 557, 50-56 (2018))、
図2A~
図1B、
図3A)。重要なことに、オルガノイドは、細胞の分布領域を最小限に抑え、細胞密度を最大化するために、蛍光透視誘導下で肝内管の末端枝に送達された(
図3B)。実験の終了時に、超音波イメージングは管の拡張又は閉塞の痕跡を示さず(
図3C)、一方、フローサイトメトリーでは灌流液中にRFP発現細胞は検出されず、注入された細胞が胆管区画に残っていることが確認された(
図2C)。より重要なことに、移植されたオルガノイドは肝内胆管系に生着し(
図2D、
図4A)、注入された管の約40%~85%がRFP細胞で再生されており(
図4B)、重要な胆管マーカー(KRT7、KRT19、CFTR、GGT)を発現している。さらに、生着した胆嚢オルガノイドは、他の肝系譜に分化することなく、胆嚢(SOX17)マーカーの喪失及び肝内(SOX4、BICC1、DCDC2)マーカーの上方制御を示した(
図2D、
図3D、
図4A~
図3B)。したがって、実験の終了時に、注入された管は、天然胆管細胞と移植胆管細胞との混合物で構成され(
図4A~
図3B)、ドナー細胞とレシピエント細胞との間に複数の転移点があり、胆管症の痕跡はなかった(
図2D、
図3D、
図4A)。逆に、細胞を投与されていない対照管は、管内腔における上皮の連続性の喪失及び細胞の脱落を伴う虚血性損傷の痕跡を示す(
図2D)。本発明者らは、続いて、臓器機能に対する生着の影響を特徴付けた。生理学的には、胆管細胞は、水の移動及び重炭酸塩の分泌により胆汁の組成及びpHを変更する(Yoo et al Gut Liver. 10, 851-8 (2016))。そのため、本発明者らはオルガノイド注入管と担体注入管の胆汁を比較した。これによって、細胞を注入した管から吸引された胆汁は、より高いpH及び体積を示し(
図2E)、移植された胆管細胞が胆汁組成を変更する機能を保持していることが確認された。
【国際調査報告】