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特表2024-508279電動航空機のバッテリ管理システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】電動航空機のバッテリ管理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/382 20190101AFI20240216BHJP
   G01R 31/3828 20190101ALI20240216BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20240216BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240216BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20240216BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20240216BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240216BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240216BHJP
   B64D 27/34 20240101ALI20240216BHJP
   B64D 27/357 20240101ALI20240216BHJP
   B64C 29/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01R31/382
G01R31/3828
G01R31/385
G01R31/389
G01R31/392
G01R31/367
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 X
H02J7/00 Q
B64D27/34
B64D27/357
B64C29/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550292
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2022053088
(87)【国際公開番号】W WO2022175146
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】21158091.5
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523315441
【氏名又は名称】リリウム ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】LILIUM GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100213333
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿山 昌代
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス クルツ
(72)【発明者】
【氏名】モリッツ シューマン
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA02
2G216BA07
2G216BA12
2G216BA21
2G216BA51
2G216CB11
2G216CB31
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503EA05
5G503EA09
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
本発明は、2つの冗長な独立した非類似のレーンを有する、バッテリ状態および必要に応じて健全性パラメータの観察、特にセルの充電率(SOC)観察を実行するためのバッテリ管理方法システムおよび方法に関する。具体的には、第1のレーンにおけるSOCの決定はクーロンカウンティングに基づく。他方のレーンでは、クーロンカウンティングとは異なるアルゴリズムが使用される。実施形態では、バッテリ健全性観察は、さらに2つのレーンによって独立して実行され、第1のレーンは経年変化モデルを使用し、他のレーンは異なる(非類似)アルゴリズムを使用する。状態および健全性状態の観察に基づいて、バッテリシステムの状態(機能状態)を予測し、所定の飛行プロファイルに従って飛行距離を決定し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動航空機用のバッテリ管理システムであって、前記バッテリ管理システムは、前記航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムの現在のバッテリ充電率(SOC)を観察するように適合されており、前記バッテリ管理システムは、
バッテリ状態を判定するための2つの冗長な非類似のレーンを備え、
前記2つのレーンのうちの第1のレーンは、クーロンカウンティングアルゴリズムを使用することによって前記バッテリシステムの複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのSOCを決定するための装置を備え、
前記2つのレーンのうちの第2のレーンは、前記クーロンカウンティングアルゴリズムとは異なる機構を使用して前記バッテリシステムの前記複数のバッテリセルの各個別バッテリセルの前記SOCを決定するための装置を備える、
電動航空機用のバッテリ管理システム。
【請求項2】
バッテリの健全性観察にさらに適合され、
前記レーンの各々は、前記複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのバッテリ健全性パラメータを決定するための装置をさらに備え、
前記第1のレーンによる前記バッテリ健全性パラメータの決定は、観察された利用に基づいて前記バッテリの健全性を決定する経年変化モデルに基づき、
前記第2のレーンによる前記バッテリ健全性パラメータの決定は、前記経年変化モデルとは異なるメカニズムに基づく、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
各個別バッテリセルのセルインピーダンスまたはセル容量は、バッテリ健全性パラメータとして使用される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1のレーンのバッテリ健全性パラメータを決定するための前記装置は、各個別セルの電流、電圧、および温度を測定するための装置を備える、請求項2または3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1のレーンのバッテリ健全性パラメータを決定するための前記装置は、定期的に実行される保守手順によってサポートされ、前記保守手順は、少なくとも代表的な充電手順またはパルス電力プロファイルの決定を含む、請求項2から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記第2のレーンは、バッテリ健全性状態観察のためにモデルベースのSOC推定アルゴリズムを使用し、必要に応じてモデルベースのセルパラメータ推定アルゴリズムを使用する、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1のレーンにおいてクーロンカウンティングアルゴリズムを使用することによってSOC決定を実行するための前記装置は、前記バッテリシステムを構成する前記複数のバッテリセルの各個別セルの充電電流を地上動作中に決定するための装置および各個別セルの全体的な負荷電流を決定するための装置を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1のレーンにおいてクーロンカウンティングアルゴリズムを使用することによってSOC決定を実行するための前記装置は、各個別セルの決定された充電電流および全体の負荷電流に基づいて充電率を計算するための処理回路をさらに備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第2のレーンは、前記バッテリシステムの複数のバッテリセルの各個別セルの電流、電圧、および温度のうちの少なくとも1つを測定するための装置を備える、請求項1から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記航空機は、電動垂直離着陸機、eVTOLである、請求項1から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のシステムを備える航空機。
【請求項12】
電動航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムの現在のバッテリ充電率(SOC)を観察するバッテリ管理方法であって、前記バッテリ管理方法は、
クーロンカウンティングアルゴリズムに基づくメカニズムを使用することによって、前記バッテリシステムの複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのSOCを決定するステップと、
前記クーロンカウンティングアルゴリズムとは異なる機構を使用することによって、前記バッテリシステムの前記複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのSOCを独立して決定するステップと、
を含む、バッテリ管理方法。
【請求項13】
観察された利用に基づいて前記バッテリの健全性を決定する経年変化モデルを使用するメカニズムに基づいて前記複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのバッテリ健全性パラメータを決定するステップと、
前記経年変化モデルとは異なるメカニズムに基づいて、前記複数のバッテリセルの各個別バッテリセルの前記バッテリ健全性パラメータを独立して決定するステップと、
を実行することによって、バッテリの健全性をさらに観察する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
個別バッテリセルのセルインピーダンスまたはセル容量は、バッテリ健全性パラメータとして使用される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
経年変化モデルを使用してバッテリ健全性パラメータを決定するステップは、各個別セルの少なくとも電流、電圧、および温度を測定するステップを含む、請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ管理システムに関する。より具体的には、本発明は、電動航空機のエネルギー貯蔵システムの健全性を監視するためのバッテリ管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機を駆動するためのエネルギーとして電気の重要性が高まっている。これには、特に垂直離着陸機能を備えた電動航空機(eVTOL)が含まれる。
【0003】
eVTOLを含む電動(すなわち、電気駆動/電気推進)航空機にとって重要な構成要素は、適切なエネルギー貯蔵システム(ESS)である。エネルギー貯蔵システムは、充電可能なバッテリのバッテリシステムの形態で実現され得、複数の個別バッテリセルに構成され得る。個別バッテリセルを組み合わせて、エネルギー貯蔵システムとして使用される航空機バッテリシステムの1つ以上のバッテリモジュールを形成し得る。本発明の枠組みで使用するのに適したバッテリタイプの例は、リチウム(Li)イオンバッテリであるが、本発明はこれに限定されない。
【0004】
一般的に言えば、エネルギー貯蔵システムの機能は、安全な飛行および着陸のために十分な利用可能なエネルギーを電気駆動の航空機に提供することである。これは航空交通に関して一般的に言えることであるが、ESSを含む航空機の構成要素には最高の安全基準が適用される。安全な操作、特に利用可能なエネルギーが十分な量残っている状態での安全な着陸を確保するために、利用可能なエネルギーの量を制限する臨界状態を定義するESSのパラメータを監視し、オペレータに伝達しなければならない。
【0005】
このようなパラメータには、例えば、ESSの個別バッテリセルのセル温度または充電率(SOC)が含まれるが、これらに限定されない。このようなパラメータの一部は直接測定可能な量ではなく、内部状態に関連するため、ESSの設計では、それぞれの状態の観察に適した装置を予測する必要がある。状態観察は、最終セルの電圧、セルの表面温度、または電流を含むがこれらに限定されない、物理データの測定に基づいている。さらに、状態決定において存在する可能性がある残差は、利用可能なエネルギーおよびひいては航空機の航続距離を制限する可能性があることを考慮する必要がある。このような残差は一般的に、ESSおよびその状態を説明するために使用される任意のモデルの精度が制限されていることを考慮して発生する。さらに、利用可能なバッテリのエネルギーは、飛行プロファイルに大きく依存する。したがって、エネルギー管理システムは、電動航空機が安全着陸を達成するまで、計画された飛行プロファイルに関する状態予測を実行する必要もある。具体的には、本開示の枠組みにおいて、「モニタリング」または「観察」のような用語は、それぞれのデータ(機能状態、健全性パラメータ)が特定の時点で決定されるだけでなく、それらの決定が時間の経過とともに、特に特定の飛行前および飛行中に、その進展に関する情報を収集するように繰り返されることを示すために使用される。それぞれの決定を更新する間隔は、状況に応じて設定され得、特に、準永続的な観察が可能になる程度に短く設定され得る。
【0006】
より一般的に言えば、バッテリシステムを特徴付ける2種類の関連する時間依存変数が区別される。一方で、(バッテリセルの)状態は、時間の経過とともに、すなわちシステム入力に応じて秒単位で急速に変化するシステム変数によって定義される。セル状態の例としては、セルの充電率、セルの中心温度、セルのタブ温度などがある。一方、健全性パラメータは、システム入力に応じて、時間の経過とともに、すなわち数日単位でゆっくりと変化するシステム変数である。
【0007】
健全性パラメータ監視の重要性は、バッテリの全体的な状態が、現在の充電率を反映する特定の変数に加えて、特に、「健全性パラメータ」という用語でまとめられる、経年変化などの、バッテリの寿命サイクル中のより大きな時間スケールでの変化を反映し得る追加の要因にさらに依存するという事実にある。特に、バッテリ健全性パラメータには、セル容量およびセルインピーダンスのうちの少なくとも1つが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0008】
したがって、ESSの現在の状態、特に残りの飛行距離を定義する残りの利用可能なエネルギーを決定するとき、計画された飛行の状態および健全性の予測の最大誤差を把握し、個別飛行の計画中および飛行中に都度考慮し得るようにすることは、ESSの設計段階中の重要なタスクである。計画されたプロファイルは、時間の経過に伴う消費電力を定義し、航空機の運用要件に厳密に準拠しなければならない。ESSの全寿命にわたる状態予測の最大誤差メトリックは、安全マージンとして考慮されなければならない。これによって、状態観察および状態予測における残差が、既知の物理的限界内でESSの利用に特に影響を与えないことが保証される。
【0009】
したがって、状態および健全性パラメータのモニタリングに基づく状態予測によって、安全着陸が達成されるまで、計画されたプロファイルが安全境界を侵害しないことが保証される。これによって、オペレータは、特定のプロファイルに従って飛行中いつでも、着陸前に特定のミッションで使用可能なエネルギーおよび航続距離を確認することが可能となる。
【0010】
特定の飛行プロファイルに従った飛行中の状態観察および状態予測のためにエネルギー管理システムによって実行されるタスクの概略図を、図1を参照して下記に説明する。
【0011】
図1の上部には、時間の経過に伴うプロファイルに応じて飛行中に必要な電力を示す図が示されている。このことからわかるように、離陸直後と飛行の最終段階である着陸前とにおいて必要な電力が特に高くなる。図示の例では、飛行状態にある航空機のシンボルによって示される現在時刻が、離陸段階と着陸段階の開始段階との間であると仮定されている。したがって、現在時刻に関して、以前の飛行フェーズは過去のことであり、次の飛行フェーズは計画された飛行プロファイルに従って実行されるものとする。さらに示されているように、安全上の理由から、飛行終了時のハッチングされたボックスによって、目的地で一定量のエネルギーが使用可能な状態に保たれる必要がある。したがって、タイムスケール上の終点は、所定の残りのエネルギーが依然として利用可能であるという条件(「終点条件」)によって定義される。言い換えれば、状態予測の不確実性を考慮するために、残りの利用可能なエネルギーに基づいてまだ到達可能であり得る後の時点(「物理的限界」)は、動作中に利用可能であるとみなされるべきではない。
【0012】
飛行中、ESSの状態は常時監視される(「状態観察」)。これには、物理測定、モデルベースの推定、ニューラルネットワークを利用した観察、およびモデルベースの測定データの補正/校正が含まれるが、これらに限定されない。状態観察は、具体的には、複数の機能状態(State of Function SOF)を観察する。これらには、セルの充電率(State of Charge SOC)、セルの中心温度、セル電流コネクタの温度、セル電流、HV(高電圧)ケーブルの温度などが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0013】
現在時刻以前(過去)の飛行フェーズでの状態観察に基づいて、将来の時点の状態予測を行う。特に、状態予測には、検索テーブルの使用、モデルベースの予測、ニューラルネットワークを使用した予測が含まれ得るが、これらに限定されない。これによって、事前に決定された安全マージンと残差とを考慮することによって、計画された飛行プロファイルの終了までの状態、例えば図面の上部にリストされ図面の下部に示されているSOFを予測することが可能である。特に、計画された飛行プロファイルに従って着陸時に利用可能な残りのエネルギーが、事前に定義された「目的地での残りのエネルギー」を下回るとすぐに、最も近い使用可能な飛行場に安全に着陸できるように、直ちにオペレータに警報を発さなければならない。
【0014】
利用可能なエネルギーの誤った決定は、致命的な故障状態につながる。この分類は、利用可能なエネルギーの誤った表示によって、パイロットが飛行操作、特に飛行距離を行うよう誘導され、これによってバッテリが安全な飛行の継続および着陸のための十分なエネルギーを維持し得ない、という仮定に基づく。
【0015】
上記で示したように、バッテリの状態または健全性、特にバッテリセルの充電率またはインピーダンスを決定するパラメータは、概して直接測定可能な量ではない。このため、航空交通、特に電動航空機に適用される最高の安全要件に準拠した信頼性の高い方法でバッテリの充電率または健全性をいかに決定するかが問題となる。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、航空交通に適用される高度な安全要件に適合するように、電動航空機用のESSのバッテリ状態を確実に決定および監視することが可能であるバッテリ管理システムおよびそれぞれの方法を提供することを目的とする。
【0017】
これは、独立請求項の特徴によって達成される。
【0018】
本発明の第1の態様によれば、電動航空機用のバッテリ管理システムが提供される。バッテリ管理システムは、航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムの現在のバッテリ充電率(SOC)を観察するように適合されている。バッテリ管理システムは、バッテリ状態を判定するための2つの冗長な非類似のレーンを備える。2つのレーンのうちの第1のレーンは、クーロンカウンティングアルゴリズムを使用することによってバッテリシステムの複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのSOCを決定するための装置を備える。2つのレーンのうちの第2のレーンは、クーロンカウンティングアルゴリズムとは異なる機構を使用してバッテリシステムの複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのSOCを決定するための装置を備える。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、電動航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムの現在のバッテリ充電率(SOC)を監視するバッテリ管理方法が提供される。バッテリ管理方法は、クーロンカウンティングアルゴリズムに基づく機構を使用することによって、バッテリシステムの複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのSOCを決定するステップと、クーロンカウンティングアルゴリズムと異なる機構を使用することによって、バッテリシステムの複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのSOCを独立して決定するステップとを含む。
【0020】
本発明の特別なアプローチは、電動航空機、特にeVTOL、のエネルギー貯蔵システムの各バッテリセルの充電率(SOC)を決定するためのクーロンカウンティングアルゴリズムを、独立かつ冗長な方法で、別のSOC決定アルゴリズムと組み合わせることである。特に、実施形態では、他のSOC決定アルゴリズムはモデルベースのアルゴリズムである。SOCの決定は、2つの冗長な非類似のレーンによって実行され、そのうちの1つは、クーロンカウンティングアルゴリズムを使用する。2つのレーンが冗長であるという事実は、各レーンがいつでも、他のレーンによる任意の決定に依存する必要がなく、ESSの完全な健全性パラメータの観察を実行可能であることを意味する。言い換えれば、2つのレーンによる測定は互いに完全に独立している。2つのレーンが非類似であるという事実は、2つのレーンによって使用されるSOCを決定するアルゴリズムが互いに異なることを意味する。
【0021】
クーロンカウンティングを使用する本発明のアプローチの実質的な利点は、クーロンカウンティングが単純で、実装が容易で、高度に決定論的なSOC監視アルゴリズムであるという事実にある。これによって、バッテリ管理システムの認証リスクが軽減される。認証上の理由から、eVTOLは、セルの充電率を観察する2つの冗長な非類似の手段(レーン)に依存する必要がある。
【0022】
クーロンカウンティングのさらなる利点は、複雑さが低いため、計算量が少なくて済むことである。実際、クーロンカウンティングが必要とするのは、積分だけでよい。これによって、重量とコストが節約される。
【0023】
実施形態によれば、バッテリ管理システムは、バッテリの健全性観察にさらに適合される。レーンの各々は、複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのバッテリ健全性パラメータを決定するための装置をさらに備える。第1のレーンによるバッテリ健全性パラメータの決定は、観察された利用に基づいてバッテリの健全性を決定する経年変化モデル(例えば、経験的経年変化モデル)に基づく。第2のレーンによるバッテリの健全性パラメータの決定は、経年変化モデルとは異なるメカニズムに基づいている。より具体的には、各個別バッテリセルのセルインピーダンスおよび/またはセル容量が、バッテリの健全性パラメータとして決定および監視され得る。
【0024】
電動航空機、特にeVTOL用途は、ホバリング時の高い電力需要に対応するために、低いセルインピーダンスに大きく依存する。セルインピーダンスの増加は、セルの主な経年変化メカニズムとセルの故障メカニズムとの両方である。したがって、セルのインピーダンスの増加は、使用可能な利用可能エネルギー、すなわち電動航空機(eVTOL)の航続距離、ひいては安全性に大きく影響する。もちろん、ESSにおいて節約され得るエネルギー量を決定するセル容量にも同様の考慮事項が適用される。
【0025】
したがって、バッテリシステムの健全性パラメータの現在の状態(利用可能なエネルギーの予測)を考慮に入れることが重要である。使用されるアルゴリズムに応じて、健全性パラメータを恒久的に更新するために、健全性パラメータの観察は、飛行中に継続され得るか、または飛行中一定のままであると仮定され得るが、これは、バッテリの状態に比べて健全性パラメータの変化の時間スケールが大きいことを考慮すると、合理的な仮定である。
【0026】
実施形態では、第1のレーンのバッテリ健全性パラメータを決定するための装置は、各個別セルのそれぞれの電流、電圧、および温度を測定するための装置を備える。さらに、第1のレーンのバッテリ健全性パラメータを決定するための装置は、定期的に実行される保守手順によってサポートされ得、保守手順には、少なくとも代表的な充電手順またはパルス電力プロファイルの決定が含まれる。あるいは、経年変化モデルに基づくアルゴリズムの代わりに、指定された保守手順および/または充電手順をバッテリの健全性パラメータの監視に使用することもできる。
【0027】
実施形態によれば、計画された飛行プロファイルのモデルベースの状態予測に基づいて飛行距離を決定するために、利用可能なエネルギー量は、各々2つのレーンにおけるSOCおよび必要に応じた健全性パラメータの観察結果に基づいて決定される。特に、これは2つのレーンによるデータ決定で誤差が検出されなかった場合に行われる。
【0028】
実施形態では、第2のレーンは、バッテリ健全性状態観察のために、モデルベースのSOC推定アルゴリズムおよび必要に応じてモデルベースのセルパラメータ推定アルゴリズムを使用する。より具体的には、第2のレーンで使用されるモデルベースのアルゴリズムは、デュアルカルマンフィルタの使用に基づく。
【0029】
ただし、第2のレーンで使用されるアルゴリズムはモデルベースのアルゴリズムに限定されない。当業者が認識している、または今後認識する他の適切なアルゴリズムも、本開示の枠組み内で同様に適切である。これには、例えば、電気化学インピーダンス分光法(EIS)による細胞インピーダンス(健全性パラメータ)の測定が含まれる。
【0030】
EISを使用する実施形態によれば、第2のレーンは、バッテリシステムのバッテリセルを可変周波数の正弦波電流で励起するための装置と、各セルの電圧応答を測定するための装置とを備える。より具体的には、第2のレーンは、入力励起電流と電圧応答との間の比に基づいてシステムインピーダンススペクトルを計算するための処理回路をさらに備える。スペクトルに基づいて、充電率、セルの中心温度、セルタブの温度など、バッテリの状態を特徴付けるさまざまな変数を導き出し得る。
【0031】
実施形態によれば、第1のレーンにおいてクーロンカウンティングアルゴリズムを使用することによってSOC決定を実行するための装置は、地上動作中にバッテリシステムを構成する複数のバッテリセルの各個別セルの充電電流を決定するための装置と、各個別セルの全体的な負荷電流を決定するための装置と、を備える。より具体的には、第1のレーンでクーロンカウンティングアルゴリズムを使用することによってSOC決定を実行するための装置は、決定された各セルの充電電流および全体の負荷電流に基づいて充電率を計算し、時間の経過に伴う測定された電流を統合するための処理回路をさらに備える。したがって、充電率は、セルへのエネルギー入力量とセルからのエネルギー出力量とのバランスに基づいて、クーロンカウンティングアルゴリズムによって決定論的に決定される。
【0032】
実施形態では、第2のレーンは、電圧(例えば、セル端子電圧)、電流(例えば、入力電流または出力電流)、および温度(例えば、表面温度またはセルタブ温度)のうちの少なくとも1つを測定するためのバッテリセル測定装置を備える。これらのパラメータは測定を通じて利用可能であり、モデルベースアルゴリズムを含むバッテリシステムおよびセルの特定のハードウェア構造を考慮した既知のアルゴリズムに従って、バッテリの充電率およびバッテリの健全性を示すパラメータを計算するための基礎を形成し得る。
【0033】
実施形態では、航空機は、電動垂直離着陸機、eVTOLである。
【0034】
本発明のさらなる特定の態様によれば、上記の態様または各実施形態によるバッテリ管理システムを備える航空機が提供される。
【0035】
本発明のさらなる特徴および利点は、従属請求項に記載されている。
【0036】
本明細書に記載または添付の特許請求の範囲に記載される本発明の実施形態および特徴は、特定の実施形態または特徴についてそのような組み合わせが不可能であることが文脈から明らかでない限り、組み合わせることができる。
【0037】
本発明の追加の特徴および利点は、添付の図面に示される以下のより詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】所定の飛行プロファイルに従って飛行する航空機のエネルギー貯蔵システムの状態観察および状態予測を示す概要図である。
図2】飛行前および飛行中の段階における、本発明の実施形態による状態および健全性状態を観察するための2つのレーンバッテリ管理システムの動作を示す図である。
図3】本発明の実施形態による、充電率およびバッテリ健全性観察を使用した、計画された飛行プロファイルに従った飛行中の状態予測の詳細を示す図である。
図4】例示的なバッテリ管理方法の基本ステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、エネルギー貯蔵システム(ESS)を形成するバッテリシステムの充電率および必要に応じてバッテリ健全性を決定するための、電気駆動航空機、特にeVTOL用のバッテリ管理システムに関する。これによって、特に飛行中の任意の時点で、所定の飛行プロファイルに従って飛行距離を決定(予測)するように、ESS内の利用可能なエネルギー量を決定することが可能になる。
【0040】
この目的のために、本発明の実施形態は、バッテリ状態観察の2つの冗長な非類似のレーンを提供する革新的な2レーンバッテリ管理システムアーキテクチャを利用し、そのうちの1つは、クーロンカウンティングによって充電率を決定する。実施形態では、さらに健全性状態が観察され、2つのレーンのうちの1つで経年変化モデルが使用される。
【0041】
本発明によれば、2つのレーンのうちの第1のレーンは、SOC決定のためにクーロンカウンティングに基づいて動作する。好ましい実施形態では、バッテリ健全性(SOH)を決定するために第1のレーンにおいて経年変化モデルが使用される。第1のレーンはさらに、第2のレーンによって使用されるものとは異なるおよび非類似の適切なアルゴリズムを使用することによって、セル中心温度などの他の状態変数(機能状態)を決定および監視(観察)することが可能であり得る。
【0042】
2つのレーンのうち第2のレーンは、異なるアルゴリズムに基づいて動作する。実施形態では、これは、例えば、充電率観察のためにデュアルカルマンフィルタを使用する、モデルベースのSOC推定アルゴリズムである。同様に、実施形態によれば、バッテリ健全性パラメータの観察のために、例えばデュアルカルマンフィルタを使用するセルパラメータ推定アルゴリズムが使用される。特に、セルのインピーダンスおよび/またはセルの容量は、バッテリの健全性パラメータとして使用される。
【0043】
各レーンでは、観察された状態および必要に応じて健全性パラメータに基づいて、計画された飛行プロファイルのモデルベースの状態予測を介してバッテリ状態を予測し得る。具体的には、バッテリの状態によって、計画された飛行プロファイルに従って飛行に利用可能なエネルギー量が決定される。このようにして決定された利用可能なエネルギーは、状態予測の所定の最大誤差に基づく安全マージンを含めて、飛行の最大航続距離を決定し、したがって計画された目的地に安全に到着できることを確認し得る。
【0044】
本発明の実施形態は、単一障害点を排除する認証要件を満たすような方法で、SOC観察とバッテリパラメータ健全性観察との両方の実装を提供する。これは、SOC観察とSOH観察とを冗長な非類似の方法で実装することによって、2つのそれぞれのレーンが並行して状態を決定することによって実現される。
【0045】
実施形態によれば、独立したレーンの各々のバッテリセル測定装置によって実行されるバッテリセル測定は、互いに非類似である。したがって、物理的に利用可能なパラメータの測定自体が、レーンの非類似性に寄与する。これによって、測定アルゴリズムまたは原理の主要な欠陥によってシステム障害が発生する状況が回避される。非類似の測定方式の例としては、温度測定にPTC(正の温度係数)素子を使用する方式およびNTC(負の温度係数)素子を使用する方式、電流測定にシャントを使用する方式およびホールセンサーを使用する方式、または電圧測定に2つの異なるADC(アナログ-デジタルコンバータ)サプライヤーを使用する方式がある。
【0046】
すべての飛行段階中のバッテリSOCおよび健全性パラメータ観察のこれら2つの冗長な非類似のレーンの動作の詳細について、図2を参照して下記に説明する。
【0047】
レーン1(図面の下の行に図示されており、本発明の上記の概要で紹介された第2のレーンに対応する)は、状態および健全性観察のために、例えばデュアルカルマンフィルタを使用して、従来のモデルベースのSOCおよび健全性パラメータ推定アルゴリズムを使用する。このアルゴリズムへの入力は、レーン1のそれぞれの測定装置によって測定された個別セルの電流、電圧、温度である。出力は、各個別セルのSOCおよび健全性パラメータの推定である。測定されたパラメータからSOCおよび健全性パラメータ出力を取得するために、モデルに基づいてそれぞれの評価が実行される。
【0048】
モデルベースの推定アルゴリズムは当業者にはよく知られているため、ここではその詳細な説明は省略する。これらは、セルの充電率、セルの中心温度、セルのインピーダンス、セル容量など、直接測定できないシステムの状態変数を推定するために使用される。モデルベースのアルゴリズムのアプローチは、概して、既知の入力変数値を有するシステムの測定可能な出力変数値と同じ入力値に対するシステムのモデルの出力との比較に基づいており、推定される状態変数を特徴付ける少なくとも1つのモデルパラメータは、測定されたシステム出力とモデル出力との間の差に基づいて、フィードバックとして定期的に更新される。
【0049】
入力として、モデルベース推定を使用するレーンのバッテリセル測定装置によって測定された各個別セルの電流、電圧、温度が使用される。推定されるシステム変数は、例えば、各個別セルのSOCおよび健全性パラメータである。さらに、図に示すように、モデルベースの健全性推定とモデルベースのSOC推定との両方が実装されている場合、モデルベースのSOC推定とモデルベースの健全性推定との間の結果の対話型更新が実行され得る。同様に、SOCに加えて、バッテリの状態を特徴付けるさらなる変数、例えばセルの中心温度も、同様の方法でモデルベースのアルゴリズムを使用して取得され得る。
【0050】
レーン2(図面の中央の行に図示されており、本発明の上記の概要で紹介された第1のレーンに対応する)は、SOC監視のためにクーロンカウンティングアルゴリズムを使用する。地上動作中のクーロンカウンティングへの入力は、各個別セルの充電電流である。初期SOCを知るために、充電操作の前に、特にバッテリシステムの自己放電による充電(エネルギー)損失を考慮した開回路電圧(OCV)測定を利用して初期SOCを決定する。この準備ステップは、左側の「OCV測定によるSOCのリセット」と標されたボックスに示されている。
【0051】
あるいは、バッテリが完全に充電されていると充電器が判定したときに、例えばSOCを100%にリセットすることによって、SOCをリセットまたは再校正する他の方法をも使用し得る。
【0052】
クーロンカウンティングアルゴリズムを使用する場合、観察結果の長期的なドリフトによる誤った結果を避けるために、定期的な再校正が必要である。
【0053】
飛行中、クーロンカウンティングは、各個別セルのすべての負荷電流に基づいてバッテリSOCを計算する。クーロンカウンティングからの出力は、各個別セルのSOCである。
【0054】
レーン2ではさらに、経年変化モデルを使用して、観察された利用に基づいてバッテリの健全性を判定する。バッテリシステムの利用を特徴付けるパラメータの例としては、充電(アンペア時Ah)スループット、平均温度、放電深度などがある。経験的経年変化モデルによるバッテリ健全性観察への入力は、レーン2のバッテリ管理装置によって測定された各個別セルの電流、電圧、温度である。さらに、この経験的モデルは、専用の(所定の)保守手順によってサポートされ得、バッテリの健全性パラメータは代表的な充電(および/または放電)手順またはパルス電力プロファイルによって決定される。出力は、各個別セルのそれぞれの健全性パラメータである。上で示したように、健全性パラメータの重要な例は、セル容量およびセルインピーダンスである。
【0055】
本質的に、経年変化モデルは、バッテリ管理システム(BMS)によって収集された各飛行のESSの利用データを受け取る。各飛行の後、収集されたデータは航空機の外部の保守施設にあるバックエンドコンピュータ(「バックエンド」)に送信され、そこでライフサイクル中の航空機構成要素のそれぞれのデータが維持される(「デジタルツイン」)。これらのデータには、例えば、セルの温度分布、電圧分布、電流分布、充電スループット(アンペア時Ah)などが含まれ得るが、これらに限定されない。各個別データポイントよりもむしろデータの分布または統合された値を使用する利点は、(すなわち、飛行中、BMSに)保存されるデータ量と(バックエンドに)転送されるデータ量とが大幅に削減されるという事実にある。経年変化モデルは、実験室テスト中に観察されたセルの経年変化によって校正され、校正されたモデルに従って、観察された1つ以上の最後の飛行の利用状況と、予想されるバッテリ健全性パラメータの進展とを相関させる。
【0056】
経年変化モデルを使用した健全性観察のアルゴリズムの性質を考慮すると、この場合、飛行中に健全性パラメータを更新することはできない。概して、実際のバッテリ状態と比較して健全性パラメータの変化のタイムスケールが比較的長いことを考慮すると、飛行中は健全性パラメータが一定のままであると仮定するだけで十分であるため、飛行中は一定の健全性パラメータ(すなわち、飛行直前に決定されたものと同じもの)が状態予測に使用される。あるいは、以前の決定によるバッテリの健全性履歴から、飛行中のバッテリの健全性の進展を推定することも可能であり得る(最悪の場合)。
【0057】
上記で示したように、(経験的)経年変化アルゴリズムは、健全性パラメータを決定するための専用の充電/放電手順および保守手順によって補完され得る。
【0058】
専用の充電または放電手順によって、固定の初期充電率から開始して、固定の最終充電率に到達するように、事前に定義された固定充電条件および環境条件でセルを充電/放電するときに、ESSの健全性パラメータとしてバッテリセルの現在の総容量を計算することが可能になる。より具体的には、専用の充電手順には、次の手順(基本原則)のいずれかが含まれ得る。
(1)ESSの少なくとも1つのセルは、事前に定義された定電流および事前に定義された安定したセル温度によって放電されたときに、セル電圧の下限に達するものとする。これによって、ESSは「完全放電」状態に達する。ESSの現在の総容量は、この完全放電状態から、ESSの少なくとも1つのセルがセル電圧の上限に達するまで、事前に定義された定電流および事前に定義された一定の温度で充電される電荷量である。
(2)ESSの少なくとも1つのセルは、事前に定義された定電流および事前に定義された安定したセル温度によって充電されたとき、セル電圧の上限に達するものとする。これによって、ESSは「満充電」状態に達する。ESSの現在の総容量は、この満充電率から、ESSの少なくとも1つのセルがセル電圧の下限に達するまで、事前に定義された定電流および事前に定義された一定温度で放電される電荷量である。
【0059】
これら2つの手順は、現在の総容量の計算を歪めるヒステリシスおよびクーロン効率の影響を軽減するために、その後数回繰り返され得る。
【0060】
専用の保守手順には、例えばパルス電力テストが含まれ得る。
【0061】
パルス電力テストは、異なる規模(システム励起)の充電または放電電流(電流パルス)にさらされたときのセルの電圧応答(システム応答)を測定することによって、事前定義されたセル温度およびセルSOCでのESSのセルインピーダンスを計算する。特定のSOCと温度とにおけるセルの内部抵抗は、電圧応答の差をセル電流の差で割ったものとして計算され得る。これは、システム特性を決定するための一般的なアプローチである。
【0062】
本開示の枠組みにおいて、すべての測定および観察は個別バッテリセルのレベルで行われることに留意されたい。航空交通における高い安全要件を考慮して、利用可能なエネルギーや航続距離の予測、潜在的な故障の予測などの評価では、常に最も性能の低いセルが基準として採用される。
【0063】
さらに図に示すように、各々のレーンでは、観察結果が状態予測に使用される。したがって、状態予測では、最新のセル状態と最新の健全性パラメータとが考慮される。状態予測は、計画された飛行に十分な使用可能エネルギーがあるかどうかを報告(確認)するのに役立つ。特に飛行プロファイルは、飛行計画段階中に、航空機モデル、気象モデル、経路モデルなどの入力に基づいて、例えば飛行管理システム(FMS)によって事前に計算され得る、計画された飛行に必要な電力を経時的に決定する。
【0064】
さらに図示されるように、このように決定された使用可能なエネルギー(計画された飛行プロファイルに基づく航続距離)は、航空機の操縦者(パイロット)に表示される。これは、独立した非類似のレーンの各々において個別に実装される。したがって、オペレータは、各々のレーンについて個別に表示装置が設けられており、結果を比較し得る。オペレータは、別々に表示された2つのレーンの状態予測結果を比較し得る。2つのレーンからの予測状態間に偏差がある場合およびこの偏差の大きさが所定の閾値を超える場合、その偏差はオペレータへの警告を促し得る。その後、オペレータは安全着陸可能な最も近い飛行場(eVTOLの場合は垂直ポート)に接近しなければならない。いずれの場合でも、オペレータは状態予測結果を個人で比較し、その指示が信頼できるか、それとも緊急着陸が必要かを判定し得る。
【0065】
通常の動作中、すなわち大きな偏差がないとき、両方のレーンの表示された後続距離(使用可能な利用可能エネルギー)の最小値が決定の基礎として使用される。この枠組みにおいて、「最小値」とは、利用可能な残存エネルギーの最低量、すなわち最低航続距離(残存安全飛行距離)に相当する値を意味する。同じ原理が、個別セルに関する測定と観察とに基づいたバッテリシステムの全体的な評価にも適用される。評価の基礎として常にセルが取得され、観察された状態または健全性パラメータについて上で説明した意味での「最小値」が決定される。
【0066】
図面の一番上の行にさらに示されているように、両方のレーンによるそれぞれの操作は、飛行前(特に、バッテリーシステムの充電動作中)および離陸と着陸との間の飛行中(上で示したとおり経年変化モデルに基づく健全性モニタリングを除く)の両方で継続的に実行される。
【0067】
図3は、バッテリ状態、特にSOCおよび健全性パラメータの観察結果を使用して、モデルベースの状態予測を通じて航空機の利用可能なエネルギーを決定し得る方法を示す。
【0068】
図3の上部の図は、図1の上部を繰り返しており、飛行プロファイルに応じた飛行中に必要な電力を示す図を示している。
【0069】
図の下部は、冗長な非類似のレーンによって現在のシステム機能状態、特にSOCの計算がどのように可能になるかを示している。観察されたバッテリの健全性パラメータに基づいて、計画された飛行プロファイルを使用して、航空機が安全な着陸状態に達するまでの各個別セルのSOCの進展を予測し得る。計画された飛行プロファイルは、状態予測が制限違反を除外する場合にのみ有効である。したがって、航空機、特にeVTOLの航続距離は(複数の)飛行プロファイルに基づいて決定され得、航空機の航続距離外の目的地は離陸前にすでに安全に除外され得る。
【0070】
高度な安全要件に準拠するために、計画された飛行の状態予測の最大誤差は、飛行中同様に個別の飛行計画中、毎回考慮されるように、事前に(例えば、ESSの計画段階中に)把握されていなければならない。図3の下部に、時間の経過に伴う充電率観察予測結果を示す図において、状態予測の最大誤差を点線と破線との間の距離によって示している。この誤差は実験室でのテスト中に測定され、状態予測の不確実性に対する安全マージンとして考慮される。
【0071】
より具体的には、「“最悪の場合”の誤った状態予測」と標された実線(2本の線のうち上の1本)は、上記最大誤差が存在すると仮定した場合の計画飛行プロファイルに従った飛行のSOC評価結果に相当する。「最悪の場合」という標は、この予測が使用可能なリソース(能力)の最大限の過大評価を含み、すなわち、パイロットの観点からは「最悪の場合」に相当する、という事実を指す。実際に使用可能な(「物理的」)能力は、実線と点線との差に相当する「最大誤差」の分、最悪の場合の推定値よりも低くなり得る。図1を参照して上記で説明したように、安全上の理由から、目的地には利用可能なエネルギーがいくらか残っている必要がある(「終点条件」)。これは、図3の下部に示されている状態予測の不確実性に対する5%の安全マージンに対応する。
【0072】
「「物理的」状態の進展」と標された点線(2つの線のうちの下方の1つ)は、実線による最大誤差を伴う予測の場合の実際の残りの機能状態(例:充電率)を示す。すなわち、最大誤差に対応する距離の分、実線の下側に進む。当業者には容易に理解されるように、飛行距離が増加すると、予測の不確実性が増大し、従って、2つの線間の距離を決定する誤差が増大する。その結果、飛行の計画された終点(目的地)では、状態予測の最大誤差が計画された安全マージンを超えてはならない(この例では、終点での最大誤差5%に対応する)。これによって、最大誤差を有する予測の場合でも、安全な飛行および着陸の可能性が保証される。
【0073】
図4は、本発明の実施形態によるバッテリ管理システム(BMS)によって実行され得る例示的な方法のフローチャートである。
【0074】
フローチャートの上部の左側には、図2の下部に示されているレーン1によって実行される動作が示される。具体的には、ステップS10において、個別バッテリセルにおいてそれぞれの測定が実行される。これには、特にセルの電圧、電流、温度の測定が含まれる。
【0075】
続くステップS12では、充電率SOCが測定値に基づいて導出される。実施形態では、これはモデルベースのアプローチを使用して行われ、SOCは等価回路モデルから導出される。必要に応じて、セル温度測定値からさらにセル中心温度を導出し得る。実施形態では、これはモデルベースのアプローチをも使用して行われ、セル中心温度もまた、等価回路モデルから導出される。ただし、レーン1による処理はこれに限定されるものではなく、クーロンカウンティング以外の他の手法もレーン1によって使用され得る。並行して、ステップS15は、SOHパラメータとしてセルインピーダンスおよび/またはセル容量の決定を実行する。実施形態では、これは、モデルベースのアプローチを使用することによっても行われる。その場合、図2に示すように、等価回路モデルの関連パラメータは、推定中および状態(SOC)推定とSOH推定との間においてオンラインで更新される。なお、レーン1による処理はこれに限定されるものではなく、レーン1におけるSOH推定には経年変化モデル以外の手法を用い得る。
【0076】
次に、処理はステップS17に進み、レーン1によって得られた(推定された)個別決定結果は、バッテリ状態、すなわち、計画された飛行プロファイルに従って残りの航続距離を定義する残りの利用可能なエネルギーを予測するための基礎として使用される。次のステップS19では、レーン1による予測に対応する第1のディスプレイ(または第1の表示部)上でオペレータに対するそれぞれの表示が行われる。表示は、状況、グラフィック表現または数値もしくは記号インジケータなど、特に今後起こり得る緊急事態を容易かつ迅速に把握するのに適したものであれば何でも、さまざまな形式で実装され得る。
【0077】
フローチャートの上部の右側には、図2の中央部分に示されているレーン2によって実行されるそれぞれの動作が示されている。具体的には、ステップS20において、バッテリシステムの各セルのSOC決定のためにクーロンカウンティング(CC)を実行するための測定が上述のように実行される。したがって、これには、OCV測定によってSOCがリセットされた後の地上で充電中の各個別セルの全体の入力電流のカウントと、飛行中の各個別セルの全体の負荷電流のカウントと(時間の経過とともに統合)が含まれる。
【0078】
ステップS22では、各セルについて、ステップS20での測定に基づいてSOCが導出される。
【0079】
並行して、ステップS23は、(経験的)経年変化モデルを採用することによって健全性パラメータ決定に必要な測定を実行する。上で示したように、これには、特に、各個別セルの電流、電圧、温度の測定が含まれる。
【0080】
ステップS25は、ステップS23での測定に基づいて、各個別バッテリセルのセルインピーダンスおよび/またはセル容量などの健全性パラメータを決定する。
【0081】
次に、処理はステップS27に進み、レーン2によって得られた個別決定結果が、バッテリ状態、すなわち、計画された飛行プロファイルに従って残りの航続距離を定義する残りの利用可能なエネルギーを予測するための基礎として使用される。次のステップS29では、レーン2による予測に対応する第2のディスプレイ(または第2の表示部)上でオペレータに対するそれぞれの表示が行われる。この場合も、表示は、グラフィック表現、数値または記号のインジケータなど、さまざまな形式で実装され得る。
【0082】
最後のステップS30では、オペレータは、表示された状態予測結果を比較する。特に、レーン1とレーン2とによる特定の変数の状態予測結果の差が所定の閾値を超えた場合、オペレータは、レーンの1つで障害が発生した場合、利用可能な残りのエネルギーについて信頼できる予測ができないため、レーンの少なくとも1つに誤差が存在すると結論付け得、最も近い使用可能な飛行場への着陸手順の開始を決定し得る。また、システムによって比較が実行され、レーン間の偏差が大きすぎることに基づいて誤差が検出された場合には、オペレータに警告を発することもできる。
【0083】
要約すると、本発明は、2つの冗長な独立した非類似のレーンを用いて、バッテリ状態および必要に応じて健全性パラメータの観察、特にセルの充電率(SOC)の観察を実行するためのバッテリ管理システムおよび方法に関する。具体的には、第1のレーンのSOC観察はクーロンカウンティングに基づく。他方のレーンでは、クーロンカウンティングとは異なるアルゴリズムが使用される。実施形態では、バッテリ健全性観察はさらに2つのレーンによって独立して実行され、第1のレーンは経年変化モデルを使用し、他のレーンは異なる(非類似)アルゴリズムを使用する。状態および健全性状態の観察に基づいて、バッテリシステムの状態(機能状態)を予測し、所定の飛行プロファイルに従って飛行距離を決定し得る。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-10-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動航空機用のバッテリ管理システムであって、前記バッテリ管理システムは、前記航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムの現在のバッテリ充電率(SOC)を観察するように適合されており、前記バッテリ管理システムは、
バッテリ状態を判定するための2つの冗長な非類似のレーンを備え、
前記2つのレーンのうちの第1のレーンは、クーロンカウンティングアルゴリズムを使用することによって前記バッテリシステムの複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのSOCを決定するための装置を備え、
前記2つのレーンのうちの第2のレーンは、前記クーロンカウンティングアルゴリズムとは異なる機構を使用して前記バッテリシステムの前記複数のバッテリセルの各個別バッテリセルの前記SOCを決定するための装置を備える、
電動航空機用のバッテリ管理システム。
【請求項2】
バッテリの健全性観察にさらに適合され、
前記レーンの各々は、前記複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのバッテリ健全性パラメータを決定するための装置をさらに備え、
前記第1のレーンによる前記バッテリ健全性パラメータの決定は、観察された利用に基づいて前記バッテリの健全性を決定する経年変化モデルに基づき、
前記第2のレーンによる前記バッテリ健全性パラメータの決定は、前記経年変化モデルとは異なるメカニズムに基づく、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
各個別バッテリセルのセルインピーダンスまたはセル容量は、バッテリ健全性パラメータとして使用される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1のレーンのバッテリ健全性パラメータを決定するための前記装置は、各個別セルの電流、電圧、および温度を測定するための装置を備える、請求項2または3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1のレーンのバッテリ健全性パラメータを決定するための前記装置は、定期的に実行される保守手順によってサポートされ、前記保守手順は、少なくとも代表的な充電手順またはパルス電力プロファイルの決定を含む、請求項2または3に記載のシステム。
【請求項6】
前記第2のレーンは、バッテリ健全性状態観察のためにモデルベースのSOC推定アルゴリズムを使用し、必要に応じてモデルベースのセルパラメータ推定アルゴリズムを使用する、請求項1からのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1のレーンにおいてクーロンカウンティングアルゴリズムを使用することによってSOC決定を実行するための前記装置は、前記バッテリシステムを構成する前記複数のバッテリセルの各個別セルの充電電流を地上動作中に決定するための装置および各個別セルの全体的な負荷電流を決定するための装置を備える、請求項1からのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1のレーンにおいてクーロンカウンティングアルゴリズムを使用することによってSOC決定を実行するための前記装置は、各個別セルの決定された充電電流および全体の負荷電流に基づいて充電率を計算するための処理回路をさらに備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第2のレーンは、前記バッテリシステムの複数のバッテリセルの各個別セルの電流、電圧、および温度のうちの少なくとも1つを測定するための装置を備える、請求項1からのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記航空機は、電動垂直離着陸機、eVTOLである、請求項1からのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
請求項1からのいずれか一項に記載のシステムを備える航空機。
【請求項12】
電動航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムの現在のバッテリ充電率(SOC)を観察するバッテリ管理方法であって、前記バッテリ管理方法は、
クーロンカウンティングアルゴリズムに基づくメカニズムを使用することによって、前記バッテリシステムの複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのSOCを決定するステップと、
前記クーロンカウンティングアルゴリズムとは異なる機構を使用することによって、前記バッテリシステムの前記複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのSOCを独立して決定するステップと、
を含む、バッテリ管理方法。
【請求項13】
観察された利用に基づいて前記バッテリの健全性を決定する経年変化モデルを使用するメカニズムに基づいて前記複数のバッテリセルの各個別バッテリセルのバッテリ健全性パラメータを決定するステップと、
前記経年変化モデルとは異なるメカニズムに基づいて、前記複数のバッテリセルの各個別バッテリセルの前記バッテリ健全性パラメータを独立して決定するステップと、
を実行することによって、バッテリの健全性をさらに観察する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
個別バッテリセルのセルインピーダンスまたはセル容量は、バッテリ健全性パラメータとして使用される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
経年変化モデルを使用してバッテリ健全性パラメータを決定するステップは、各個別セルの少なくとも電流、電圧、および温度を測定するステップを含む、請求項13または14に記載の方法。
【国際調査報告】