(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】電動航空機用のバッテリ管理システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/389 20190101AFI20240216BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240216BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240216BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240216BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240216BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240216BHJP
B64C 29/00 20060101ALI20240216BHJP
B64D 27/34 20240101ALI20240216BHJP
B64D 27/357 20240101ALI20240216BHJP
【FI】
G01R31/389
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/367
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/48 301
B64C29/00 Z
B64D27/34
B64D27/357
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550556
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(85)【翻訳文提出日】2023-10-16
(86)【国際出願番号】 EP2022053083
(87)【国際公開番号】W WO2022175145
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523315441
【氏名又は名称】リリウム ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】LILIUM GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100213333
【氏名又は名称】鹿山 昌代
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス クルツ
(72)【発明者】
【氏名】モリッツ シューマン
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA01
2G216BA12
2G216BA21
2G216BA51
2G216BA56
2G216CB11
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
本発明は、2つの冗長な独立した類似していないレーンを用いて、バッテリ健全性パラメータの観察、特に、セルインピーダンスの観察を実行するためのバッテリ管理システムおよび方法に関する。具体的には、第1のレーンでのセルインピーダンスの観察は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)に基づく。もう一方の他のレーンは、EISとは異なるアルゴリズムを使用する。実施形態では、バッテリ状態の観察は、さらに2つのレーンによって独立して実行され、ここでも第1のレーンはEISを使用し、もう一方の他のレーンは異なる(類似していない)アルゴリズムを使用する。状態観察および健全性観察に基づいて、バッテリシステムの状態(機能の状態)を予測し、所定の飛行プロファイルに従って飛行範囲を決定することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動航空機用のバッテリ管理システムであって、
前記バッテリ管理システムは、
前記航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムにおける現在のバッテリ健全性を観察するように適合され、
前記バッテリ管理システムは、
バッテリセル測定用の2つの冗長且つ類似していないレーンを備え、
前記2つのレーンのうちの第1のレーンは、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用することによって、前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルの個々のバッテリセルのバッテリ健全性パラメータとして、セルインピーダンスを決定するための装置を備え、
前記2つのレーンのうちの第2のレーンは、EISとは異なるアルゴリズムを使用して、セルインピーダンスの決定を実行するための装置を備える、
バッテリ管理システム。
【請求項2】
さらに、バッテリ状態の観察に適合され、
前記2つのレーンのそれぞれは、個々のバッテリセルの充電率(SOC)および/またはセル中心温度の決定を実行するための装置を備え、
前記第1のレーンによる決定は、EISに基づき、
前記第2のレーンによる決定は、EISとは異なるアルゴリズムに基づく、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第2のレーンは、
モデルベースのセルインピーダンス推定アルゴリズムを使用し、任意で、モデルベースのセルSOCおよび/またはセル中心温度推定アルゴリズムを使用する、
請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第2のレーンによって使用される前記モデルベースのアルゴリズムは、デュアルカルマンフィルタの使用に基づく、
請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2のレーンは、前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルの個々のセルの電流、電圧、および温度のうちの少なくとも1つを測定するための装置を備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1のレーンは、
可変周波数の正弦波電流で前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルを励起するための装置と、
それぞれのセルの電圧応答を測定するための装置と、
を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1のレーンは、
入力励起電流と電圧応答との間の比に基づいてシステムインピーダンススペクトルを計算するための処理回路と、
をさらに備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記航空機は、
電動垂直離着陸機(eVTOL)である、
請求項1から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のシステムを備える航空機。
【請求項10】
電動航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムにおける現在のバッテリ健全性を観察するバッテリ管理方法であって、
前記バッテリ管理方法は、
電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して、前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルの個々のバッテリセルのバッテリ健全性パラメータとして、セルインピーダンスの決定を実行するステップと、
EISとは異なるアルゴリズムに基づいて、前記複数のバッテリセルの個々のバッテリセルの前記セルインピーダンスを、前記バッテリ健全性パラメータとして、独立して決定するステップと、
を含む、バッテリ管理方法。
【請求項11】
前記バッテリシステムのバッテリ状態を観察するステップは、
EISに基づいて、個々のバッテリセルの充電率(SOC)および/またはセル中心温度の決定を実行するステップと、
EISとは異なるアルゴリズムに基づいて、個々のバッテリセルの前記充電率および/または前記セル中心温度の決定を、独立して決定するステップと、
をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記異なるアルゴリズムは、
モデルベースのセルインピーダンス推定アルゴリズムであり、
前記方法は、
モデルベースのセルSOCおよび/またはセル中心温度推定アルゴリズムによって、充電率および/またはセル中心温度を任意選択で決定する、
請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
第2のレーンによって使用される前記モデルベースのアルゴリズムは、デュアルカルマンフィルタの使用に基づく、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
モデルベースの推定は、
前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルの個々のセルの電流、電圧、および温度のうちの少なくとも1つを測定することを含む、
請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記EISに基づく決定は、
前記バッテリシステムの複数のバッテリセルを、可変周波数の正弦波電流で励起するステップと、
それぞれのセルの電圧応答を測定するステップと、
を含む、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バッテリ管理システムに関する。より具体的には、本開示は、電動航空機のエネルギー貯蔵システムの健全性を監視するためのバッテリ管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機を駆動するためのエネルギーとして電気の重要性が高まっている。これには、特に、垂直離着陸機能を備えた電動航空機(eVTOL)が含まれる。
【0003】
eVTOLを含む電動(例えば、電気による駆動/電気による推進)航空機にとって重要な構成要素は、適切なエネルギー貯蔵システム(ESS)である。エネルギー貯蔵システムは、充電可能な複数のバッテリのバッテリシステムの形態で実現されてよく、複数の個々のバッテリセルとして構成されてよい。個々のバッテリセルは、エネルギー貯蔵システムとして使用される航空機バッテリシステムの1つまたは複数のバッテリモジュールを形成するために、組み合わされてよい。本発明の枠組みで使用されるのに適したバッテリタイプの例は、リチウム(Li)イオン電池であるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0004】
一般的に言えば、エネルギー貯蔵システムの機能は、安全な飛行および着陸のために十分に利用可能なエネルギーを電気駆動の航空機に提供することである。これは、航空交通に関して一般的に言えることであるが、ESSを含む航空車両の構成要素には最高の安全基準が適用される。安全な操作、特に、十分な量の利用可能なエネルギーが残っている状態での安全な着陸を確保するために、利用可能なエネルギーの量を制限する臨界状態を定義するESSのパラメータが、監視され、オペレータに伝達される必要がある。
【0005】
このようなパラメータは、例えば、ESSの個々のバッテリセルのセル温度または充電率(SOC)を含むが、これらに限定されるものではない。このようなパラメータの一部は、直接測定可能な量ではなく、内部の状態に関連するため、ESSの設計では、それぞれの状態の観察に適した装置を予測しなければならない。状態の観察は、最終的なセルの電圧、セルの表面温度または電流などの物理データの測定に基づいているが、これらに限定されるものではない。さらに、状態の決定に残留する可能性のある誤差は、利用可能なエネルギー、ひいては航空機の航続距離を制限する可能性があることを考慮する必要がある。このような残留誤差は、一般に、ESSおよびその状態を記述するために使用されるモデルの精度が限られていることを考慮して発生する。さらに、利用可能なバッテリのエネルギーは、飛行プロファイルに大きく依存する。したがって、エネルギー管理システムは、電動航空機が安全に着陸するまで、計画された飛行プロファイルに関する状態予測を実行する必要もある。具体的には、本開示の枠組みにおいて、「モニタリング」または「観察」のような用語は、それぞれのデータ(機能の状態、健全性パラメータ)が、特定の時点で決定されていることを示すために使用されるだけでなく、時間の経過に伴って、特に、特定の飛行前および飛行中に、それらの進行に関する情報を収集するために繰り返し決定されていることを示すために使用される。時間の経過、特に、特定の飛行前および飛行中の発達に関する情報を収集するために繰り返されます。それぞれの決定を更新する間隔は、状況に応じて設定されてよく、特に、準永続的な観察が可能になる程度に短く設定されてよい。
【0006】
より一般的に言えば、バッテリシステムを特徴付ける時間依存変数が、2種類の間で区別される。一方で、(バッテリセルの)状態は、時間の経過に伴って、つまり、システム入力に応じて、秒単位で急速に変化するシステム変数によって定義される。バッテリセルの状態の一例としては、セルの充電率、セル中心温度またはセルタブ温度などが挙げられる。一方、健全性パラメータは、時間の経過に伴って、つまり、システム入力に応じて、数日単位でゆっくりと変化するシステム変数である。
【0007】
健全性パラメータのモニタリングの重要性は、現在の充電状態を反映する特定の変数に加えて、バッテリの全体的な状態が、追加的な要因、特に、経年劣化などのバッテリのライフサイクル中のより大きな時間スケールでの変化を反映する可能性があるという追加的な要因に依存するという事実にあり、それらの追加的な要因は、「健全性パラメータ」という用語にまとめられている。特に、バッテリ健全性パラメータは、セル容量およびセルインピーダンスのうちの少なくとも1つを含んでよいが、これらに限定されるものではない。
【0008】
したがって、計画された飛行における状態および健全性の予測の最大誤差が、把握され、個々の飛行の計画中も、飛行している間も、常に考慮されることが可能になるようにすることは、ESSの設計段階において、重要なタスクである。そして、その際、ESSの現在の状態、特に、残りの飛行距離を定義している残りの利用可能なエネルギー、が決定されている。計画されたプロファイルは、時間の経過に伴う消費電力を定義し、航空機の運用要求に厳密に準拠する必要がある。ESSの全寿命にわたる状態予測の最大誤差の測定基準は、安全尤度として考慮される。これにより、状態観察および状態予測における残留誤差が、既知の物理的制限内で、ESSの利用に特に影響を与えないということが保証される。
【0009】
したがって、状態および健全性パラメータのモニタリングに基づく状態予測により、安全な着陸に到達するまで、計画されたプロファイルが安全境界を違反しないことが保証される。これにより、オペレータは、特定のプロファイルに従って飛行中いつでも、および着陸前に、与えられた飛行で使用可能なエネルギーと航続距離を確認することができる。
【0010】
特定の飛行プロファイルに従った飛行中の状態観察および状態予測のためにエネルギー管理システムによって実行されるタスクの概略図を、
図1を参照して以下に説明する。
【0011】
図1の上部には、時間の経過に伴うプロファイルに応じた飛行中に必要な電力を示す図が示されている。
図1からわかるように、離陸直後および着陸前の飛行最終段階では、必要な電力が、特に高くなる。図示の例では、飛行状態にある航空機の記号によって示される現在時刻が、離陸段階と着陸段階の開始との間であると仮定されている。したがって、現在時刻に関して、以前の飛行段階は過去のことであり、次の飛行段階は計画された飛行プロファイルに従って実行されるだろう。さらに、飛行終了時のハッチングされた四角い箇所で示されているように、安全上の理由から、一定量のエネルギーは、目的地で利用可能な状態に保たれる必要がある。したがって、タイムスケール上の終点は、所定の残りのエネルギーが依然として利用可能であるという条件(「終点条件」)によって定義される。言い換えれば、状態予測の不確実性を考慮するために、残りの利用可能なエネルギーに基づいて、後に、まだ到達可能である可能性があると示された時点(「物理的限界」)は、操作中に利用可能であるとみなされるべきではない。
【0012】
飛行中、ESSの状態は常時監視される(「状態観察」)。これには、物理的な測定、モデルベースの推定、ニューラルネットワークを利用した観察、および測定データにおけるモデルベースの補正/校正が含まれるが、これらに限定されるものではない。状態観察とは、具体的には、複数の機能の状態(SOF)を観察するものである。これらには、例えば、セルの充電率(SOC)、セル中心温度、セル電流コネクタ温度、セル電流、HV(高電圧)ケーブル温度などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
現在時刻(過去)より前の飛行段階前および飛行段階中の状態および健全性パラメータの観察に基づいて、将来の時点における状態予測が実行される。特に、状態予測には、検索テーブルの使用、モデルベースの予測、ニューラルネットワークを使用した予測が含まれるが、これらに限定されるものではない。これにより、事前に決定された安全マージンおよび残留誤差を考慮することによって、計画された飛行プロファイルの終了までの状態、例えば、上にリストされ、図面の下部に示されているSOFを予測することができる。特に、計画された飛行プロファイルに従って着陸時に利用可能な残りのエネルギーが、事前に定義された「目的地での残りのエネルギー」を下回るとすぐに、最も近い利用可能な飛行場への安全な着陸を確保するために、直ちにオペレータに警告を発する必要がある。
【0014】
利用可能なエネルギーの誤った決定は、致命的な故障状態につながる。この分類は、利用可能なエネルギーの誤った表示が、パイロットの飛行操作、特に飛行距離の誘導につながる可能性があり、バッテリが、安全な飛行および着陸を継続するために十分なエネルギーを維持できなくなるという仮定から導かれている。
【0015】
上で示したように、バッテリの状態または健全性、特に、バッテリセルの充電率またはインピーダンスを決定するパラメータは、一般に直接測定可能な量ではない。このため、航空交通、特に、電動航空機に適用される最高の安全要件に準拠した信頼性の高い方法で、バッテリの充電率または健全性をどのように判断するかという問題が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、電動航空機用のESSのバッテリ健全性パラメータとして、航空交通に適用される高度な安全要件に適合するように、バッテリセルインピーダンスを、確実に決定および監視することができるバッテリ管理システム、およびバッテリ管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これは、独立請求項の特徴によって達成される。
【0018】
本発明の第1実施形態によれば、
電動航空機用のバッテリ管理システムであって、
前記バッテリ管理システムは、
前記航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムにおける現在のバッテリ健全性を観察するように適合され、
前記バッテリ管理システムは、
バッテリセル測定用の2つの冗長且つ類似していないレーンを備え、
前記2つのレーンのうちの第1のレーンは、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用することによって、前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルの個々のバッテリセルのバッテリ健全性パラメータとして、セルインピーダンスを決定するための装置を備え、
前記2つのレーンのうちの第2のレーンは、EISとは異なるアルゴリズムを使用して、セルインピーダンスの決定を実行するための装置を備える、
バッテリ管理システム。
【0019】
本発明の第2実施形態によれば、
電動航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムにおける現在のバッテリ健全性を観察するバッテリ管理方法であって、
前記バッテリ管理方法は、
電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して、前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルの個々のバッテリセルのバッテリ健全性パラメータとして、セルインピーダンスの決定を実行するステップと、
EISとは異なるアルゴリズムに基づいて、前記複数のバッテリセルの個々のバッテリセルの前記セルインピーダンスを、前記バッテリ健全性パラメータとして、独立して決定するステップと、
を含む、バッテリ管理方法。
【0020】
本発明の特別なアプローチは、バッテリセル測定手段(バッテリセル測定装置)における2つの冗長且つ類似していないレーンを利用して、バッテリ健全性パラメータとしてセルインピーダンスを決定し、任意選択で電動航空機バッテリシステムにおける充電率を決定することである。ここで、前記2つのレーンの1つは、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用する。前記2つのレーンが冗長であるという事実は、各レーンがいつでも、他のレーンによる決定に依存することなく、ESSにおける完全な健全性パラメータの観察を実行できることを意味する。言い換えれば、前記2つのレーンによる測定は互いに完全に独立している。前記2つのレーンが類似していないという事実は、セルインピーダンスを決定するアルゴリズム、任意で、前記2つのレーンで使用される充電率およびその他の状態変数を決定するアルゴリズムが、相互に異なることを意味する。特に、前記2つのレーンのうちの別の1つのレーンは、電気化学インピーダンス分光法とは異なるアルゴリズムを使用する。
【0021】
EISを使用する本発明のアプローチの本質的な利点は、EISが細胞インピーダンス観察において高精度かつ高速であるという事実にある。
【0022】
電動航空機、特に、eVTOLアプリケーションは、ホバリング時の高い電力需要に対応するために、低いセルインピーダンスに大きく依存している。セルインピーダンスが増加するのは、主要なセルの経年メカニズムと主要なセルの故障メカニズムとの両方である。したがって、セルのインピーダンスの増加は、利用可能なエネルギー、例えば、電動航空機(eVTOL)の航続距離、ひいては安全性に大きく影響する。
【0023】
認証上の理由から、eVTOLは、セルインピーダンス観察の2つの冗長且つ類似していない手段(レーン)に依存する必要がある。従来のアプローチでは、2つのレーンのうちの1つで、バックエンドで実行され、航空機の使用状況データが供給される経年モデル(例えば、経験的経年モデル)が使用される。ただし、この経年モデルでは、モジュール内の複数のセルのインピーダンスの不均一性を観察したり、非線形な経年変化およびセルの故障を観察したりすることはできない。
【0024】
EISの利点は、個々のセルのインピーダンスを正確かつ迅速にオンデマンドで物理的に測定できることである。これにより、経年劣化モデルの上記の欠点が全て克服され、利用可能なエネルギーの決定において高いレベルの信頼が得られる。実際、これにより、利用可能なエネルギーの計算における不確実性に対する安全バッファのロックが解除され、電動航空機(eVTOL)の航続距離が延長される。
【0025】
EISのさらなる利点は、飛行中のバッテリの健全性、特に、飛行中におけるバッテリセルのインピーダンスの状態の予測を、最新の状態のみならず、更新された健全性情報にも基づいて、監視および更新できることである。
【0026】
実施形態によれば、バッテリ管理システムは、バッテリ状態の観察にさらに適合される。
2つのレーンのそれぞれは、個々のバッテリセルの充電率および/またはセル中心温度の決定を実行するための装置をさらに備える。第1のレーンによる判定は、EISに基づく。第2のレーンによる判定は、EISとは異なるアルゴリズムに基づく。
【0027】
実施形態によれば、モデルベースの状態予測に基づいて、計画された飛行プロファイルにとっての飛行範囲を決定するために、利用可能なエネルギー量は、2つのレーンのそれぞれにおける健全性および任意選択でのSOCの観察結果に基づいて決定される。特に、これは2つのレーンによるデータの決定でエラーが検出されなかった場合に行われる。
【0028】
実施形態では、第2のレーンは、モデルベースのセルインピーダンス推定アルゴリズムを使用し、任意で、モデルベースのセルSOCおよび/またはセル中心温度推定アルゴリズムを使用する。それぞれのモデルベースのアルゴリズムは異なり、第1のレーンで使用されるEISから完全に独立している。より具体的には、第2のレーンで使用されるモデルベースのアルゴリズムは、デュアルカルマンフィルタの使用に基づく。
【0029】
2つの冗長且つ独立したレーンにおいてEISおよびモデルベースの推定を組み合わせた実施形態のさらなる利点は、両方のアルゴリズムが根本的に異なるという事実にある。これにより、両方のレーンでの共通原因による障害が回避される。これは、このアプローチの認証リスクを軽減させる。
【0030】
ただし、第2のレーンで使用されるアルゴリズムはモデルベースのアルゴリズムに限定されない。当業者が認識している、あるいは、今後認識するであろう他の適切なアルゴリズムも、本開示の枠組み内において、同様に適切である。これには、例えば、クーロンカウンティングによるSOCの測定を含む。クーロンカウンティングは、セルの充電率を決定するために使用される簡単且つ広く普及している方法である。これは、個々のバッテリセルの全体的な充電電流および負荷電流を測定し、測定された電流を時間の経過とともに積分することに基づいている。
【0031】
最初に、充電率は、OCV(開回路電圧)測定によって決定(リセット)されることが可能である。あるいは、充電器によりバッテリが完全に充電されていると決定されたときに、SOCを100%にリセットするなど、SOCをリセットまたは再校正する他の方法が使用されることも可能である。クーロンカウンティングアルゴリズムを使用する場合、観察結果の長期的なドリフトによる誤った結果を避けるために、定期的な再校正が必要である。
【0032】
クーロンカウンティング(CC)は、簡易であり、且つ、決定性が高いため、計算量が少なくなるという利点がある。これにより、重量およびコストが削減され、認証リスクが軽減される。
【0033】
SOCの監視にCCを採用しているレーンでは、経年モデルが、バッテリの健全性状態(SOH)の監視に使用できる。このモデルは、観察された使用率に基づいてバッテリの健全性を推定する。バッテリシステムの使用率を特徴付けるパラメータの例としては、充電(アンペアアワー、Ah)スループット、平均温度、放電深度などが挙げられる。経年モデルによるバッテリ健全性の観察に関する入力は、個々のセルの電流、電圧、温度である。出力は、個々のセルの健全性パラメータ(セルインピーダンス、セル容量)である。
【0034】
バッテリ状態の監視のためにレーン内において経年モデルを使用するアルゴリズムは、専用の充電手順または事前定義されたパルス電力テストを含む専用のメンテナンス手順によってさらにサポートされてよい。
【0035】
実施形態によれば、第1のレーンは、可変周波数の正弦波電流でバッテリシステムにおける複数のバッテリセルを励起するための装置と、それぞれのセルの電圧応答を測定するための装置と、を備える。より具体的には、第1のレーンは、入力励起電流と電圧応答との間の比に基づいてシステムインピーダンススペクトルを計算するための処理回路をさらに備える。
【0036】
実施形態では、第2のレーンは、電圧(例えば、セルの端子電圧)、電流(例えば、入力電流または出力電流)、および温度(例えば、表面温度またはセルタブ温度)のうちの少なくとも1つを測定するためのバッテリセル測定装置を備える。これらのパラメータは、測定を通じてアクセス可能であり、複数のモデルベースのアルゴリズムを含むバッテリシステムおよび複数のセルの特定のハードウェア構造を考慮した良く知られたアルゴリズムに従って、バッテリの充電率およびバッテリ健全性を示すパラメータを計算するための基礎を形成してよい。
【0037】
実施形態では、航空機は、電気垂直離着陸機、eVTOLである。
【0038】
本発明のさらなる特定の態様によれば、上記の態様または各実施形態に係るバッテリ管理システムを備える航空機が提供される。
【0039】
本発明のさらなる特徴および利点は、従属請求項に記載されている。
【0040】
本明細書に記載または添付の特許請求の範囲に記載される本発明の実施形態および特徴は、特定の実施形態または特徴について、このような組み合わせが不可能であることが文脈から明らかでない限り、組み合わせられてよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明の追加の特徴および利点は、添付の図面に示される以下のより詳細な説明から明らかになるであろう。
【
図1】所定の飛行プロファイルに従って飛行する航空機のエネルギー貯蔵システムの状態観察および状態予測を示す概要図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る飛行前および飛行中の段階における状態および健全性を観察するための2つのレーンのバッテリ管理システムの動作を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る充電率およびバッテリ健全性の観察を使用し、計画された飛行プロファイルによる飛行中の状態予測の詳細を示す図である。
【
図4】例示的なバッテリ管理方法の基本ステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、エネルギー貯蔵システム(ESS)を形成するバッテリシステムにおけるバッテリの健全性、および任意で充電率を決定するするための、電気駆動航空機、特に、eVTOL用のバッテリ管理システムに関する。これにより、特に、飛行中の任意の時点で、所定の飛行プロファイルに従って飛行範囲を決定(予測)するために、ESS内の利用可能なエネルギー量を決定することが可能になる。
【0043】
この目的のために、本発明は、バッテリ健全性パラメータおよび状態観察における2つの冗長且つ類似していないレーンを提供する革新的な2レーンバッテリ管理システムアーキテクチャを利用し、そのうちの1つは電気化学インピーダンス分光法(EIS)に基づく。
【0044】
本発明によれば、2つのレーンのうちの第1のレーンは、EISに基づいて動作する。2つのレーンのうちの第2のレーンは、異なるアルゴリズムに基づいて動作する。実施形態では、これは、状態観察、特に、充電率の観察のために、例えば、デュアルカルマンフィルタを使用するモデルベースの状態推定アルゴリズム、特に、SOC推定アルゴリズムである。同様に、実施形態によれば、バッテリ健全性パラメータの観察のために、例えば、デュアルカルマンフィルタを使用するモデルベースのセルパラメータ推定アルゴリズムが使用される。特に、セルインピーダンスは、バッテリ健全性のパラメータとして使用される。
【0045】
各レーンでは、観察された状態および健全性パラメータに基づいて、計画された飛行プロファイルに対するモデルベースの状態予測を介して、バッテリ状態が予測されてよい。具体的には、バッテリの状態は、計画された飛行プロファイルに従って飛行するために利用できるエネルギー量を決定する。このように決定された利用可能なエネルギーは、状態予測の所定の最大誤差に基づく安全マージンを含めて、飛行の最大航続距離を決定し、計画された目的地に安全に到着できることを確認してよい。
【0046】
本発明は、単一の障害点を排除する認証要件を満たすような方法で、バッテリ健全性パラメータ(SOH)の観察およびバッテリ状態、特に、SOC観察の両方の実装を提供する。これは、バッテリ状態の観察およびセルインピーダンスの観察(SOH観察)を、2つのそれぞれのレーンが並行して状態を決定することにより、冗長且つ類似していない手段を実装することによって実現される。
【0047】
実施形態によれば、独立したレーンにおけるそれぞれのバッテリセル測定装置によって実行されるバッテリセル測定は、互いに類似していない。したがって、物理的にアクセス可能なパラメータの測定自体が、レーンの非類似性に寄与する。これにより、測定アルゴリズムまたは測定原理の主要な欠陥によってシステム障害が発生する状況が回避される。類似していない測定方式の例としては、温度測定に、PCT(正の温度係数)素子を使用する方式およびNTC(負の温度係数)素子を使用する方式、電流測定に、シャントを使用する方式およびホールセンサーを使用する方式、または、電圧測定に、2つの異なるADC(アナログデジタルコンバータ)供給源を使用する方式などが挙げられる。
【0048】
全ての飛行段階におけるバッテリ状態および健全性パラメータ観察におけるこれらの2つの冗長且つ類似していないレーンの動作の詳細な説明は、
図2を参照して、以下に与えられる。
【0049】
レーン1(図面の一番下の行に示されており、本発明の上記の概要で紹介した第2のレーンに対応する)は、状態および健全性の観察に、例えば、デュアルカルマンフィルタなど、従来のモデルベースの状態および健全性パラメータ推定アルゴリズムを使用する。このアルゴリズムへの入力は、レーン1のそれぞれの測定装置によって測定された個々のセルの電流、電圧、温度である。出力は、個々のセルの状態(上記で紹介した機能の状態、SOF)および健全性パラメータの推定値である。測定されたパラメータからSOFおよび健全性パラメータの出力を取得するために、モデルに基づいて、それぞれの評価が実行される。
【0050】
モデルベースの推定アルゴリズムは、当業者にはよく知られているため、ここではその詳細な説明は省略する。これらは、セルの充電率、セル中心温度、セルインピーダンス、セル容量など、直接測定できないシステムの状態変数を推定するために使用される。モデルベースのアルゴリズムのアプローチは、一般に、既知の入力変数値を有するシステムの測定可能な出力変数値と、同じ入力値に対するシステムのモデルの出力値との比較に基づいている。そして、推定される状態変数を特徴付ける少なくとも1つのモデルパラメータは、測定されたシステムの出力値とモデル出力値との間の差に基づいて、フィードバックとして定期的に更新される
【0051】
入力として、モデルベースの推定を使用するレーンにおけるバッテリセル測定装置によって測定された個々のセルの電流、電圧、温度が使用される。推定されるシステム変数は、例えば、個々のセルの状態および健全性パラメータである。さらに、図示のように、モデルベースの健全性推定およびモデルベースの状態推定の両方が実装されている場合、モデルベースの状態推定とモデルベースの健全性推定との間の結果の対話型の更新を実行可能である。特に、SOC、およびバッテリの機能の状態を特徴付けるその他の変数、例えば、セル中心温度などは、同様の方法で、モデルベースのアルゴリズムを使用して取得可能である。
【0052】
レーン2(図面の中段に示されており、本発明の上記の概要で紹介した第1のレーンに対応する)は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)に基づいた状態および健全性パラメータ観察のアルゴリズムを使用する。EISは、可変周波数の正弦波電流で、全ての個々のセルをアクティブに励起し、各セルの電圧応答を測定する。出力信号と入力信号との比により、励起周波数、すなわち、システムインピーダンススペクトルに依存する(複雑な)システムインピーダンスの計算が可能になる。励起電流の典型的な周波数範囲は、ヘルツ(Hz)オーダーからキロヘルツ(kHz)オーダーである。システムインピーダンススペクトルにより、主要なバッテリ健全性パラメータとして、セルインピーダンスを計算できる。このアルゴリズムへの入力は、EISの励起電流、およびレーン2のそれぞれの測定装置によって測定された個々のセルの電圧である。
【0053】
EISは、正弦波電流による個々のセルすべての能動励起、および各セルの電圧応答の測定に基づいている。出力信号と入力信号との比率により、複雑なシステムインピーダンスの計算が可能となる。励起は、さまざまな周波数の正弦波電流で行われる。したがって、周波数依存の電圧応答が得られる。これにより、周波数に依存するシステムインピーダンス(システムインピーダンススペクトル)を決定することができる。システムインピーダンススペクトルにより、基本的な健全性パラメータとして、個々のセルバッテリにおけるセルインピーダンスの導出が可能となる。さらに、周波数に依存するシステムインピーダンスにより、個々のセルのセル状態を特徴付けるSOCおよびセル中心温度の導出が可能となる。
【0054】
さらに、本開示の枠組みでは、全ての測定および観察が、個々のバッテリセルのレベルで行われることに留意されたい。航空交通における高い安全要件を考慮して、アクセス可能なエネルギーまたは範囲の予測、および潜在的な故障の予測についての決定などの評価は、常に最も低い能力を有するセルを基準として、採用される。
【0055】
さらに図に示されるように、各レーンでは、観察結果が状態予測に使用される。したがって、状態予測において、最新のセル状態も、最新の健全性パラメータも、考慮される。状態予測は、計画された飛行に十分利用可能なエネルギーがあるか否かを報告(確認)するのに役立つ。特に、飛行プロファイルは、計画された飛行に必要な時間の経過に伴う電力を決定する。これは、例えば、飛行管理コンピュータシステム(FMS)による航空機モデル、気象モデル、経路モデルなどの入力に基づいて、飛行計画段階中に、事前に計算されてよい。
【0056】
さらに、図示されるように、このように決定された利用可能なエネルギー(計画された飛行プロファイルに基づく航続距離)は、航空機の操縦者(パイロット)に表示される。これは、独立し、且つ、類似していないレーンのそれぞれで個別に実装されている。したがって、オペレータは、レーンごとに個別に設けられた表示装置によって、複数の結果を比較することができる。オペレータは、別々に表示された2つのレーンからの状態予測結果を相互に比較してよい。2つのレーンからの予測状態間には偏差があり、この偏差の大きさが所定の閾値を超える場合、その偏差はオペレータへの警告を促してよい。次に、オペレータは、安全に着陸できる最も近い飛行場(eVTOLの場合は垂直ポート)に近づく必要がある。いずれの場合でも、オペレータは、状態予測結果を個人的に比較し、その指示が信頼できるか、あるいは、緊急着陸が必要であるか、を判断することができる。
【0057】
通常の動作中、すなわち、大きな偏差がない場合、両方のレーンの表示範囲(利用可能なアクセス可能なエネルギー)の最小値が、決定の基礎として使用される。この枠組みにおいて、「最小値」とは、利用可能な残存エネルギーの最低量、すなわち、最低航続距離(残存安全飛行距離)に相当する値を意味する。同じ原理は、個々のセルに関する測定および観察に基づいたバッテリシステムの全体的な評価にも適用される。評価の基礎として、常にセルが取得され、観察された状態または健全性パラメータについて上記で説明した意味での「最小値」が決定される。
【0058】
図面の一番上の行にさらに示されているように、両方のレーンによるそれぞれの動作は、飛行前(特に、バッテリシステムの充電動作中)および離陸と着陸との間の飛行中の両方で継続的に実行される。
【0059】
図3は、モデルベースの状態予測によって航空機の利用可能なエネルギーを決定するために、バッテリの状態および健全性パラメータの観察結果が、どのように使用されることが可能であるか、を示している。
【0060】
図3の上部の図は、
図1の上部を繰り返しており、飛行プロファイルに応じた飛行中に必要な電力を示す図を示している。
【0061】
図の下部は、冗長且つ類似していないレーンが、現在のシステム機能状態をどのように計算することが可能であるかを示している。観察されたバッテリ健全性パラメータに基づいて、計画された飛行プロファイルは、航空機が安全な着陸状態に達するまでの個々のセルのSOFの変化を予測するために、使用されることが可能である。計画された飛行プロファイルは、状態予測が制限の違反を除外する場合にのみ有効である。したがって、航空機、特に、eVTOLの航続距離は、(複数の)飛行プロファイルに基づいて決定されることが可能であり、航空機の航続距離範囲外の目的地は、離陸前にすでに安全に除外されることが可能である。
【0062】
高度な安全要件に適合するために、計画された飛行の状態予測の最大誤差は、個々の飛行の計画中も、飛行自体中にも、毎回考慮されるように、事前に(例えば、ESSの計画段階中に)、知られていなければならない。
図3の下段には、時間の経過に伴う充電率観察の予測結果を示す図において、状態予測の最大誤差が、点線と破線との間の距離により示されている。この誤差は、実験室でのテスト中に測定され、状態予測の不確実性に対する安全マージンとして考慮される。
【0063】
より具体的には、「“最悪の場合”の誤った状態予測」とラベル付けされた実線(2本の線のうちの上の1本の線)は、上記最大誤差が存在すると仮定した場合の計画された飛行プロファイルに従った飛行における状態評価の結果に相当する。“最悪の場合”というラベルは、この予測が利用可能なリソース(能力)の最大限の過大評価を含むという事実を指す。つまり、パイロットの観点からは“最悪の場合”に相当する。実際に利用可能な(「物理的」)能力は、実線と点線との差に相当する「最大誤差」だけ最悪の場合の推定値よりも低くなる可能性がある。
図1を参照して、上記で説明したように、安全上の理由から、目的地では、利用可能なエネルギーがまだ残っている必要がある(「終点条件」)。これは、
図3の下部に示されている状態予測の不確実性に対する5%の安全マージンに対応する。
【0064】
「“物理的”状態変化」とラベル付けされた点線(2本の線のうちの下の1本の線)は、実線による最大誤差を伴う予測の場合における実際の残りの機能の状態を示している。つまり、実線よりも最大誤差に相当する距離だけ下方に進む。当業者には容易に理解されるように、飛行距離が増加すると、予測の不確実性が増大し、これにより、2つの線と線との間の距離を決定する誤差が増大する。その結果、計画された飛行の終点(目的地)では、状態予測の最大誤差が、計画された安全マージンを超えてはならない(本実施例では、終点での最大誤差に相当する5%)。これにより、最大誤差の予測の場合でも、安全な飛行および着陸の可能性が保証される。
【0065】
図4は、本発明の実施形態に係るバッテリ管理システムによって実行可能な例示的な方法のフローチャートである。
【0066】
フローチャートの上部の左側には、
図2の下部に示されているレーン1によって実行される動作が示されている。具体的には、ステップS10において、個々のバッテリセルにおいて、それぞれの測定が実行される。これには、特に、セルの電圧、電流、および温度の測定が含まれる。
【0067】
続くステップS12において、状態、特に、SOCが、測定に基づいて導出される。実施形態では、これは、モデルベースのアプローチを使用して行われ、状態は、等価回路モデルから導出される。任意で、セル中心温度は、セル温度測定値からさらに導出されることが可能である。実施形態では、これも、モデルベースのアプローチを使用して行われ、セル中心温度も、等価回路モデルから導出される。ただし、レーン1による処理は、これに限定されるものではなく、EIS以外の他の手法をレーン1で利用することも可能である。並行して、ステップS15は、SOHパラメータとしてセルインピーダンスの決定を実行する。実施形態では、これは、モデルベースのアプローチを使用することによっても行われる。その場合、
図2に示されるように、等価回路モデルの関連パラメータは、推定中、および状態推定と健全性推定との間にオンラインで更新される。なお、レーン1による処理は、これに限定されるものではなく、レーン1におけるSOH推定には、EIS以外の手法が使用されることも可能である。
【0068】
次に、処理はステップS17に進み、レーン1によって得られた(推定された)個々の判定結果は、バッテリ状態、すなわち、計画された飛行プロファイルに従って残りの航続距離を定義する残りの利用可能なエネルギーを予測するための基礎として使用される。次のステップS19では、レーン1による予測に対応する第1のディスプレイ(または第1の表示部)上でオペレータに対するそれぞれの表示が行われる。そのディスプレイは、状況、特に、今後起こり得る緊急事態を容易かつ迅速に把握するのに適したものであれば何でも良く、例えば、グラフィック表現、数値または記号インジケータなど、さまざまな形式で実装可能である。
【0069】
フローチャートの上部の右側には、
図2の中央部分に示されているレーン2によって実行されるそれぞれの動作が示されている。具体的には、ステップS20において、バッテリシステムにおける各セルのインピーダンススペクトルを取得するためのEIS測定が、上述のように、すなわち、周波数依存の励起電流をそれぞれの電圧応答と比較することによって実行される。
【0070】
ステップS22では、各セルについて、ステップS20で得られたインピーダンススペクトルに基づいて、バッテリセルの状態、特に、SOCが導出される。任意選択で、ステップS22において、インピーダンススペクトルに基づいて、セル中心温度が導出されることもできる。並行して、ステップS25は、ステップS20での測定に基づいて、個々のバッテリセルのセルインピーダンスを決定する。
【0071】
次に、処理はステップS27に進み、レーン2によって得られた(推定された)個々の判定結果が、バッテリ状態、すなわち、計画された飛行プロファイルに従って残りの航続距離を定義する残りの利用可能なエネルギーを予測するための基礎として使用される。次のステップS29では、レーン2による予測に対応する第2のディスプレイ(または第2の表示部)上でオペレータに対するそれぞれの表示が行われる。この場合も、そのディスプレイは、グラフィック表現、数値または記号のインジケータなど、さまざまな形式で実装可能である。
【0072】
最後のステップS30では、オペレータは、表示された状態予測結果を比較する。特に、レーン1およびレーン2による状態予測結果の差が所定の閾値を超えた場合、オペレータは、2つのレーンのうちの少なくとも1つにエラーが存在すると結論付けることができ、そして、2つのレーンの1つで障害が発生した場合、利用可能な残りのエネルギーに関する信頼できる予測が不可能になるため、最も近い利用可能な飛行場で着陸手順を開始することを決定できる。また、システムによって比較が実行されてもよく、2つのレーン間の非常に大きな逸脱に基づいて誤差が検出された場合には、オペレータに警告が発せられてもよい。
【0073】
要約すると、本発明は、2つの冗長な独立した類似していないレーンを用いて、バッテリ健全性パラメータ観察、特に、セルインピーダンスの観察を実行するためのバッテリ管理システムおよび方法に関する。具体的には、第1のレーンでのセルインピーダンスの観察は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)に基づく。もう一方の他のレーンは、EISとは異なるアルゴリズムを使用する。実施形態では、バッテリ状態の観察は、さらに2つのレーンによって独立して実行され、ここでも第1のレーンはEISを使用し、もう一方の他のレーンは異なる(類似していない)アルゴリズムを使用する。状態観察および健全性観察に基づいて、バッテリシステムの状態(機能の状態)を予測し、所定の飛行プロファイルに従って飛行範囲を決定することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動航空機用のバッテリ管理システムであって、
前記バッテリ管理システムは、
前記航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムにおける現在のバッテリ健全性を観察するように適合され、
前記バッテリ管理システムは、
バッテリセル測定用の2つの冗長且つ類似していないレーンを備え、
前記2つのレーンのうちの第1のレーンは、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用することによって、前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルの個々のバッテリセルのバッテリ健全性パラメータとして、セルインピーダンスを決定するための装置を備え、
前記2つのレーンのうちの第2のレーンは、EISとは異なるアルゴリズムを使用して、セルインピーダンスの決定を実行するための装置を備える、
バッテリ管理システム。
【請求項2】
さらに、バッテリ状態の観察に適合され、
前記2つのレーンのそれぞれは、個々のバッテリセルの充電率(SOC)および/またはセル中心温度の決定を実行するための装置を備え、
前記第1のレーンによる決定は、EISに基づき、
前記第2のレーンによる決定は、EISとは異なるアルゴリズムに基づく、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第2のレーンは、
モデルベースのセルインピーダンス推定アルゴリズムを使用し、任意で、モデルベースのセルSOCおよび/またはセル中心温度推定アルゴリズムを使用する、
請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第2のレーンによって使用される前記モデルベースのアルゴリズムは、デュアルカルマンフィルタの使用に基づく、
請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2のレーンは、前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルの個々のセルの電流、電圧、および温度のうちの少なくとも1つを測定するための装置を備える、
請求項1
または2に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1のレーンは、
可変周波数の正弦波電流で前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルを励起するための装置と、
それぞれのセルの電圧応答を測定するための装置と、
を備える、請求項1
または2に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1のレーンは、
入力励起電流と電圧応答との間の比に基づいてシステムインピーダンススペクトルを計算するための処理回路と、
をさらに備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記航空機は、
電動垂直離着陸機(eVTOL)である、
請求項1
または2に記載のシステム。
【請求項9】
請求項1
または2に記載のシステムを備える航空機。
【請求項10】
電動航空機のエネルギー貯蔵システムを形成するバッテリシステムにおける現在のバッテリ健全性を観察するバッテリ管理方法であって、
前記バッテリ管理方法は、
電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して、前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルの個々のバッテリセルのバッテリ健全性パラメータとして、セルインピーダンスの決定を実行するステップと、
EISとは異なるアルゴリズムに基づいて、前記複数のバッテリセルの個々のバッテリセルの前記セルインピーダンスを、前記バッテリ健全性パラメータとして、独立して決定するステップと、
を含む、バッテリ管理方法。
【請求項11】
前記バッテリシステムのバッテリ状態を観察するステップは、
EISに基づいて、個々のバッテリセルの充電率(SOC)および/またはセル中心温度の決定を実行するステップと、
EISとは異なるアルゴリズムに基づいて、個々のバッテリセルの前記充電率および/または前記セル中心温度の決定を、独立して決定するステップと、
をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記異なるアルゴリズムは、
モデルベースのセルインピーダンス推定アルゴリズムであり、
前記方法は、
モデルベースのセルSOCおよび/またはセル中心温度推定アルゴリズムによって、充電率および/またはセル中心温度を任意選択で決定する、
請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
第2のレーンによって使用される前記モデルベースのアルゴリズムは、デュアルカルマンフィルタの使用に基づく、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
モデルベースの推定は、
前記バッテリシステムにおける複数のバッテリセルの個々のセルの電流、電圧、および温度のうちの少なくとも1つを測定することを含む、
請求項1
2に記載の方法。
【請求項15】
前記EISに基づく決定は、
前記バッテリシステムの複数のバッテリセルを、可変周波数の正弦波電流で励起するステップと、
それぞれのセルの電圧応答を測定するステップと、
を含む、請求項10
または11に記載の方法。
【国際調査報告】