(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】水性多成分系から塩酸水性FECL3溶液を単離する方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
C01G49/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550569
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(85)【翻訳文提出日】2023-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2022054206
(87)【国際公開番号】W WO2022179969
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】313006625
【氏名又は名称】バイエル・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】エッサー,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ペパー,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,カルステン
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,ヴェルナー
【テーマコード(参考)】
4G002
【Fターム(参考)】
4G002AA12
4G002AB02
4G002AE05
(57)【要約】
本発明は、水性多成分系から塩酸水性FeCl3溶液を単離するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性多成分系からFeCl
3の水性塩酸溶液を単離するための方法であって、以下の:
a) Fe
3+イオンを含む水性塩酸多成分系が提供されるステップ、
b) ステップa)からの多成分系が有機溶媒で抽出されるステップ、
c) ステップb)からの有機溶媒が水で抽出され、ここで、FeCl
3の水性塩酸溶液が得られるステップ
を含み、
ステップa)の多成分系において、水性HCl対Fe
3+イオンのモル比率が、≧1.3:1であることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
水性HCl対Fe
3+イオンのモル比率が、1.5:1~2.5:1の範囲内にあること、好ましくは1.8:1~2.3:1の範囲内にあることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記有機溶媒が、ヘテロ原子、好ましくは酸素、硫黄または窒素原子、特に好ましくは酸素原子を含む分子を含むか、またはそれらからなることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、以下の有機溶媒:エーテル類、アルコール類、ケトン類の1つ以上を含むか、またはそれらからなる、および好ましくは以下の有機溶媒:2-メトキシ-2-メチルプロパン、ジイソプロピルエーテル、ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-エチルヘキサン-1-オール、4-メチルペンタン-2-オン、1-クロロ-4-メチルペンタン-2-オン、3-クロロ-4-メチルペンタン-2-オンの1つ以上を含むか、またはそれらからなることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記有機溶媒が、4-メチルペンタン-2-オンを含むかまたはそれからなることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップb)における抽出が、有機溶媒を用いて向流で実施されることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ステップb)における抽出が、多段階抽出であり、好ましくは3~7段階であることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ステップc)における抽出が、水を用いて向流で実施されることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ステップc)における抽出が、多段階抽出であり、好ましくは2~7段階であることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、0~80℃の範囲内、好ましくは10~50℃の範囲内、特に好ましくは20~40℃の範囲内の温度で実施されることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、連続的に実施されることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ステップc)における水での抽出後の有機溶媒が、ステップb)において再使用されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップa)の水性多成分系中のFe
3+イオンの濃度が、0.01~2.3mol/kgの範囲内に、好ましくは0.1~2mol/kgの範囲内に、特に好ましくは1.1~1.7mol/kgの範囲内にあることを特徴とする、請求項1~12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
ステップa)の水性多成分系が、溶解したアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、好ましくはNaClおよび/またはNaSCNを含むことを特徴とする、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
ステップa)の水性多成分系が、0.01~3.5mol/kgの範囲内の、好ましくは0.1~1.5mol/kgの範囲内の、特に好ましくは0.3~1mol/kgの範囲内の溶解NaClを含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性多成分系からFeCl3の水性塩酸溶液を単離するための方法であって、以下の:
a) Fe3+イオンを含む水性塩酸多成分系が提供されるステップ、
b) ステップa)からの多成分系が有機溶媒で抽出されるステップ、
c) ステップb)からの有機溶媒が水で抽出され、ここで、FeCl3の水性塩酸溶液が得られるステップ
を含む、前記方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的規模で実施される多くの合成において、FeCl3は、例えば酸化剤として使用され得る貴重な物質である。酸化剤としての使用後、それは、多くの場合、多成分系において他の成分と一緒にFeCl2の形態で存在する。例えばCl2のような酸化剤を多成分系に添加することにより、FeCl2を再度FeCl3に酸化することができる。これを再利用できるようにするためには、多成分系からFeCl3の水性塩酸溶液を単離しなければならない。
【0003】
先行技術では、第1のステップにおいて、Fe3+イオンを含む水性塩酸多成分系が提供される単離方法が記載されている。第2のステップにおいて、この多成分系は次いで、溶解したFeCl3を可能な限り多くの割合で有機相に移すために、有機溶媒で抽出される。第3のステップにおいて、有機溶媒を水で抽出し、FeCl3の水性塩酸溶液を得る。
【0004】
上述のタイプの方法は例えば、EP 0 675 077に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、公知の方法の欠点は、多成分系からの単離に対するFeCl3の水性塩酸溶液の収率が不充分であり、すなわち、かなりの割合のFeCl3が多成分系に残存し、したがって再利用することができないことである。
【0007】
本発明の目的は、水性多成分系からFeCl3の水性塩酸溶液を単離するための方法であって、特に高収率のFeCl3の水性塩酸溶液が得られる前記方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、水性多成分系からFeCl3の水性塩酸溶液を単離するための方法であって、以下の:
a) Fe3+イオンを含む水性塩酸多成分系が提供されるステップ、
b) ステップa)からの多成分系が有機溶媒で抽出されるステップ、
c) ステップb)からの有機溶媒が水で抽出され、ここで、FeCl3の水性塩酸溶液が得られるステップ
を含み、ステップa)の多成分系において、水性HCl対Fe3+イオンのモル比率が、≧1.3:1であることを特徴とする、前記方法により達成される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による方法を用いると、驚くべきことに、多成分系中に元々存在する特に高い割合のFeCl3を、FeCl3の水性塩酸溶液の形態で単離することができることが示された。
【0010】
好ましい実施形態によれば、水性HCl対Fe3+イオンのモル比率は、1.5:1~2.5:1の範囲内にあり、特に好ましくは1.8:1~2.3:1の範囲内にある。
【0011】
水性HCl対Fe3+イオンのモル比率が、1.3:1~1.8:1の範囲内に、特に好ましくは1.3:1~1.7:1の範囲内に、特に好ましくは1.3:1~1.5:1の範囲内にある場合も、さらに好ましい。
【0012】
有機溶媒が、ヘテロ原子、好ましくは酸素、硫黄または窒素原子、特に好ましくは酸素原子を含む分子を含むか、またはそれらからなる場合も好ましい。
【0013】
有機溶媒が以下の有機溶媒:エーテル類、アルコール類、ケトン類の1つ以上を含むか、またはそれらからなる場合がさらに好ましく、および特に好ましくは、以下の有機溶媒:2-メトキシ-2-メチルプロパン、ジイソプロピルエーテル、ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-エチルヘキサン-1-オール、4-メチルペンタン-2-オン、1-クロロ-4-メチルペンタン-2-オン、3-クロロ-4-メチルペンタン-2-オンの1つ以上を含むか、またはそれらからなる場合がさらに好ましい。
【0014】
有機溶媒が、4-メチルペンタン-2-オンを含むか、またはそれからなる場合が特に好ましい。
【0015】
さらに好ましい実施形態によれば、ステップb)における抽出は、有機溶媒を用いて向流で実施される。
【0016】
ステップb)における抽出が、多段階抽出である場合、好ましくは3~7段階である場合も好ましい。
【0017】
ステップc)における抽出を、水を用いて向流で実施する場合も好ましい。
【0018】
ステップc)における抽出が、多段階抽出である場合、好ましくは2~7段階である場合も好ましい。
【0019】
有機溶媒が4-メチルペンタン-2-オンを含むかまたはそれからなる場合、ステップb)における抽出が、有機溶媒を用いて向流で、3~7段階で実施され、ステップc)における抽出が、向流で2~6段階の多段階抽出であることも特に好ましい。
【0020】
この方法は、好ましくは0~80℃の範囲内、特に好ましくは10~50℃の範囲内、特に好ましくは20~40℃の範囲内の温度で実施することができる。
【0021】
有機溶媒が、4-メチルペンタン-2-オンを含むかまたはそれからなる場合、ステップb)における抽出が、有機溶媒を用いて向流で、3~7段階で実施され、ステップc)における抽出が、向流で2~6段階の多段階抽出であり、方法が、20~40℃の範囲内の温度で実施されることも特に好ましい。
【0022】
この方法が、連続的に実施される場合も好ましい。ステップc)における水での抽出後の有機溶媒が、ステップb)において再使用される場合、特に好ましい。
【0023】
ステップa)の水性多成分系中のFe3+イオンの濃度が、0.01~2.3mol/kgの範囲内、特に好ましくは0.1~2mol/kgの範囲内、特に好ましくは1.1~1.7mol/kgの範囲内にある方法も好ましい。
【0024】
また、有機溶媒が、4-メチルペンタン-2-オンを含むか、または4-メチルペンタン-2-オンからなる場合、ステップb)での抽出が、有機溶媒を用いて向流で、3~7段階で実施され、ステップc)での抽出が、向流で2~6段階の多段階抽出であり、方法が、20~40℃の範囲内の温度で実施され、ステップa)の水性多成分系溶液中のFe3+の濃度が、1.1~1.7mol/kgの範囲内である場合が特に好ましい。
【0025】
ステップa)の水性多成分系が、溶解したアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩および好ましくはNaClおよび/またはNaSCNを含む方法も有利である。ステップa)の水性多成分系が、0.01~3.5mol/kgの範囲内の、好ましくは0.1~1.5mol/kgの範囲内の、特に好ましくは0.3~1mol/kgの範囲内の溶解NaClを含む場合、特に有利である。該方法はまた、Fe3+イオンに酸化されていないFe2+イオンを、FeCl3から分離するのに特に好適である。
【0026】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明する。
【0027】
有機相へのFeCl3の抽出のための実験は、7段階のミキサーセトラープラントで、向流で実施した(いくつかの実験では、抽出の後半段階ではそれ以上の変化は生じなかった)。それぞれが21重量%のFeCl3、1重量%のFeCl2、3重量%の塩化ナトリウムおよび様々な量のHClを含有する水性多成分系を、様々な溶媒で、向流で抽出した。全ての試験において、NaClおよびFeCl2は、水相中に残っていた。それぞれ約1当量の塩酸がFeCl3とともに有機相に導入された。
【0028】
ステップb)からの有機溶媒を水で逆抽出するための実験を、7段階のミキサーセトラープラントで、向流で実施した(全ての実験において、抽出の後半段階ではそれ以上の変化は生じなかった)。
【実施例】
【0029】
実施例1:
水性多成分系を0.99kg/kgの4-メチルペンタン-2-オンで30℃で抽出した。水溶性多成分系における水性HCl対Fe3+イオンの当初の比率は、2.6mol/molであった。抽出後の有機相中のFeCl3の収率は、100%であった。
【0030】
実施例2:
水性多成分系を0.85kg/kgの4-メチルペンタン-2-オンで30℃で抽出した。水溶性多成分系における水性HCl対Fe3+イオンの当初の比率は、1.3mol/molであった。抽出後の有機相中のFeCl3の収率は、96.3%であった。
【0031】
実施例3:
水性多成分系を0.99kg/kgのn-ブタノールで40℃で抽出した。水溶性多成分系における水性HCl対Fe3+イオンの当初の比率は、1.8mol/molであった。抽出後の有機相中のFeCl3の収率は、78.8質量%であった。
【0032】
実施例4:
水性多成分系を0.60kg/kgの2-メトキシ-2-メチルプロパンで30℃で抽出した。水性多成分系中の水性HCl対Fe3+イオンの当初の比率は、2.1mol/molであり、系中に22重量%のFeCl3が存在した。抽出後の有機相中のFeCl3の収率は、99.2重量%であった。
【0033】
実施例5:
水性多成分系を0.61kg/kgの2-メトキシ-2-メチルプロパンで10℃で抽出した。水性多成分系中の水性HCl対Fe3+イオンの当初の比率は、1.5mol/molであり、系中に24重量%のFeCl3が存在した。抽出後の有機相中のFeCl3の収率は、92.9重量%であった。
【0034】
実施例6:
水性多成分系を0.57kg/kgのジイソプロピルエーテルで30℃で抽出した。水性多成分系中の当初の水性HCl対Fe3+イオンの比率は、1.5mol/molであり、系中に24重量%のFeCl3が存在した。抽出後の有機相中のFeCl3の収率は、79.9重量%であった。
【0035】
実施例7:
FeCl3およびHClが添加された、実施例2からのステップb)の有機溶媒を、0.54kg/kgの水分で抽出した。FeCl3およびHClは、完全に水中に抽出された。排出された有機溶媒4-メチルペンタン-2-オンは、鉄を含有せず、微量のHClのみを含有した。
【0036】
実施例8:
FeCl3およびHClが添加された、実施例4からのステップb)の有機溶媒を、0.6kg/kgの水で抽出した。FeCl3およびHClは、完全に水中に抽出された。排出された2-メトキシ-2-メチルプロパンは、鉄を含有せず、微量のHClのみを含有した。
【0037】
比較例:
水性多成分系を0.99kg/kgの4-メチルペンタン-2-オンで、40℃で抽出した。水性多成分系中の水性HCl対Fe3+イオンの当初の比率は、1.2mol/molであり、系中に22重量%のFeCl3が存在した。抽出後の有機相中のFeCl3の収率は、62.9質量%であった。
【国際調査報告】