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特表2024-508284プラスチック加工用途におけるコーティングシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】プラスチック加工用途におけるコーティングシステム
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240216BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C23C14/06 P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551110
(86)(22)【出願日】2022-02-23
(85)【翻訳文提出日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 EP2022054519
(87)【国際公開番号】W WO2022180093
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】102021000958.4
(32)【優先日】2021-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518396013
【氏名又は名称】エリコン サーフィス ソリューションズ アーゲー ファフィコン
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,アンダース オロフ
【テーマコード(参考)】
4F100
4K029
【Fターム(参考)】
4F100AA12A
4F100AA12B
4F100AA12C
4F100AA12D
4F100AA22B
4F100AA22D
4F100BA05
4F100BA08A
4F100BA08B
4F100BA08C
4F100BA08D
4F100EH662
4F100EH66A
4F100EH66B
4F100EH66C
4F100EH66D
4K029BA41
4K029BA58
4K029BB02
4K029BD05
4K029CA04
4K029CA13
4K029DB03
4K029DD06
4K029EA01
(57)【要約】
良好な耐食性と良好な耐摩耗性を示す多層コーティングに関する。該多層コーティングは、...A/B/A/B/A...型のシーケンスを形成するように堆積されたA層およびB層を有する。A層は、CrNベースの層またはCrN層であり、B層は、CrONベースの層またはCrON層である。多層コーティングは、A層およびB層の層厚の調節された比率を示す。多層コーティングは、層厚の比率が異なるように調整されたA層とB層を有する少なくとも2つの異なるコーティング部分を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
...A/B/A/B/A...型のシーケンスを形成するように堆積されたA層およびB層を有する多層コーティングであって、前記A層は、CrNベースの層またはCrN層であり、前記B層は、CrONベースの層またはCrON層であり、前記多層コーティングは、前記A層および前記B層の層厚の調節された比率を示し、前記多層コーティングは、前記多層コーティング全体の厚さに沿って、層厚の比率が異なるように調整された前記A層と前記B層を有する少なくとも2つの異なるコーティング部分を含み、
前記多層コーティングは、
・ 前記B層(B100)の平均層厚に対する前記A層(A100)の平均層厚の平均層厚比LTR100を有する下部多層コーティング部分(100)と、
・ 前記B層の平均層厚に対する前記A層の平均層厚の平均層厚比LTR200を有する上部多層コーティング部分(200)と、
を含み、
・ LTR100>LTR200であることを特徴とする、
多層コーティング。
【請求項2】
前記多層コーティングが基材表面に堆積されるときに、前記下部多層コーティング部分(100)が前記上部多層コーティング部分(200)よりも前記基材表面の近くに堆積されることを特徴とする、請求項1に記載の多層コーティング。
【請求項3】
a.前記下部多層コーティング部分(100)において、前記A層(A100)と前記B層(B100)と間の平均層厚比LTR100は、1よりも大きく、すなわちLTR100>1であり、
b.前記上部多層コーティング部分(200)において、前記A層(A200)と前記B層(B200)と間の平均層厚比LTR200は、LTR200<1であることを特徴とする、
請求項2に記載の多層コーティング。
【請求項4】
さらなるコーティング部分またはさらなるコーティング層を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の多層コーティング。
【請求項5】
前記下部多層コーティング部分(100)と前記上部多層コーティング部分(200)との間に堆積された中間多層コーティング部分(150)を含むことを特徴とする、請求項4に記載の多層コーティング。
【請求項6】
前記中間多層コーティング部分(150)において、前記A層と前記B層との間の平均層厚比LTR150は、LTR100>LTR150>LTR200を満たすことを特徴とする、請求項5に記載の多層コーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック加工用途におけるコーティングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形または押出成形などのプラスチック加工用途には、金属工具がプラスチックと物理的に接触する様々な段階がある。このため、押出成形用金型などの工具は、腐食と摩耗を含む複合的な攻撃を受けることになる。プラスチックによって引き起こされる腐食媒体は、例えばプラスチックに使用される軟化剤、着色料、および遊離塩酸などに由来する場合がある。同時に、例えば自動車産業向けの射出成形部品などを含む様々なプラスチック加工用途においてガラス繊維強化プラスチックの使用に対する関心が高まっていることに伴って、工具の摩耗が激しくなっている。ガラス繊維含有量が30%を超えるガラス繊維強化プラスチックは、非常に摩耗性が高く、工具の寿命を低下させる。
【0003】
プラスチック加工用途に使用される工具の寿命を延ばす目的で、耐摩耗性と耐食性を兼ね備えたPVDコーティングが求められている。
【0004】
国際公報第2020099605号において、Bolvardiは、プラスチック加工用途の要件を満たすコーティングシステムを提案している。該コーティングシステムは、
・ 少なくとも1つの耐食性材料層、好ましくは耐食性層として1つまたは複数のAlCrO層を含む下層と、
・ 1つまたは複数の耐摩耗性材料層、好ましくは耐摩耗性層として1つまたは複数のCrON層を含む上層と、
・ 第1の層と第2の層との間に設けられた遷移層と、
を備える。
【0005】
さらに、Bolvardiは、国際公報第2020099605号において...CrN/CrON/CrN/CrON...型の多層コーティングが良好な耐摩耗性を提供するだけで、その耐食性は劣ると記載している。
【0006】
先行技術によって達成された進歩にもかかわらず、プラスチック加工用途において要求されている工具性能を持続可能に達成するためのさらなる改善に対する要求の増大により、それを満たすためのさらなるコーティング解決策に取り組むことが必要となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、プラスチック加工用途で使用される工具の性能を向上させるのに適した耐食性と耐摩耗性の良好な組み合わせを達成するために、持続可能に作製されるコーティングシステムを提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、プラスチック加工中にプラスチックとの接触に曝される表面を有する成形工具を提供することである。ここで、この表面は、使用中に良好な耐摩耗性と良好な耐食性の適切な組み合わせを示すように、使用前(プラスチック加工用途に使用される前)に処理および/またはコーティングされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、互いに重なり合うように堆積された複数の層を含む多層コーティングを提供することで達成される。ここで、
・ 個々の窒化クロムベース(CrNベース)の層または個々の窒化クロム(CrN)層、および
・ 個々の酸窒化クロムベース(CrONベース)の層または個々の酸窒化クロム(CrON)層
が...CrN/CrON/CrN/CrON/CrN...型のシーケンスを形成して互いに重なり合うように堆積される。ここで、互いに重なり合うように堆積された2つの層の層厚間の比率は、多層コーティングの厚さに沿って調節される。
【0010】
本発明の説明を簡略化するために、個々のCrNベースの層または個々のCrN層をA層と呼び、個々のCrONベースの層または個々のCrON層をB層と呼ぶ。
【0011】
「互いに重なり合うように堆積された2つの層の層厚間の比率は、多層コーティングの厚さに沿って調節される」という表現は、2つの個々の層、すなわち1つのA層が1つのB層上に堆積されたときの、1つのA層と1つのB層の層厚間の比率の特定の変動を意味する。
【0012】
同じコーティングプロセスパラメータを設定したにもかかわらず、コーティング堆積中のコーティング条件の軽い本質的な変動のために個々の層(A層またはB層)の層厚がわずかに変化し得るので、個々の層(A層またはB層)の層厚は、個々の層(A層またはB層)の平均層厚であることに留意されたい。
【0013】
本発明者は、上述したA層およびB層を含む...A/B/A/B/A...型の多層コーティングを用いて以下のことを見出した。
・ A層の平均層厚がB層の平均層厚よりも厚くなるように、B層の層厚に対してA層の層厚を調整することで、多層コーティングの耐食性を向上させることができる。
・ A層の平均層厚がB層の平均層厚よりも薄くなるように、B層の層厚に対してA層の層厚を調整することで、同様に多層コーティングの耐摩耗性を向上させることができる。
・ A層とB層の層厚の比率を調節して多層コーティングを堆積することで、多層コーティングの耐摩耗性および耐食性の両方を向上させることができる。ここで、多層コーティングは、多層コーティング全体の厚さに沿ってA層とB層の層厚の比率が異なるように調整された少なくとも2つの異なるコーティング部分を含む。特に、多層コーティングは、
・ A層の平均層厚がB層の平均層厚よりも厚い下部多層コーティング部分と、
・ A層の平均層厚がB層の平均層厚よりも薄い上部多層コーティング部分と、
を含むことができ、
・ 多層コーティングが基材表面に堆積されるときに、好ましくは下部多層コーティング部分が上部多層コーティング部分よりも基材表面の近くに堆積される。
【0014】
本発明の文脈において、CrNベースの層またはCrN層(本発明の文脈においてA層とも呼ぶ)は、ドーピング元素または合金元素として他の化学元素を含む可能性のある窒化クロム層である。このような層は、例えば、次式による平均化学組成を有することができる:
・ (Cr(N
ここで、a、b、d、およびeは、それぞれCr、X、N、およびZの原子濃度の割合を表す係数であり、qおよびrは、化学量論(r/q=1)、または超化学量論(r/q>1)、または亜化学量論(r/q<1)を表す係数である。また、
・ Crは化学元素のクロムであり、
・ Nは化学元素の窒素であり、
・ Xは、Ti、Zr、Hf、Sc、Y、V、Nb、Ta、In、Si、Ge、Sn、Al、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Bから選択される1種または複数種の化学元素であり、
・ Zは、炭素(C)および酸素(O)から選択される1種または複数種の化学元素である。XがOである場合、またはXがOを含む場合、N+Zの合計におけるOの濃度は、原子百分率で5を超えてはならない。これは、具体的には、例えばX=Oの場合、eを最大5とすることができ、すなわち、X=Oの場合、0≦e≦5とすることができることを意味し、
・ a+b=100で、0≦b≦20、好ましくは0≦b≦15、より好ましくは0≦b≦10または0≦b≦5であり、
・ d+e=100で、0≦e≦30、好ましくは0≦e≦20、より好ましくは0≦e≦10または0≦e≦5であり、
・ 0.90<r/q°≦1.10である。
【0015】
本発明の文脈において、CrON層は、ドーピング元素または合金元素として他の化学元素を含む可能性のある酸窒化クロム層である。このような層は、例えば、次式による平均化学組成を有することができる:
・ (Cr(O
ここで、f、t、h、j、およびmは、それぞれCr、D、O、N、およびQの原子濃度の割合を表す係数であり、gおよびuは、化学量論(u/g=1)、超化学量論(u/g>1)、または亜化学量論(u/g<1)を表す係数である。また、
・ Crは化学元素のクロムであり、
・ Nは化学元素の窒素であり、
・ Dは、Ti、Zr、Hf、Sc、Y、V、Nb、Ta、In、Si、Ge、Sn、Al、Mo、W、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Bから選択される1種または複数種の化学元素であり、
・ Cは化学元素の炭素(C)であり、
・ f+t=100で、0≦t≦20、好ましくは0≦t≦15、より好ましくは0≦t≦10または0≦t≦5であり、
・ h+j+m=100で、5<j≦70、好ましくは5<j≦60、より好ましくは10≦j≦60または10≦j≦55であり、0≦m≦15、好ましくは0≦e≦10であり、
・ 0.90<r/q°≦1.10である。
【0016】
換言すれば、平均層厚比LTRは、次式で定義される:
【数1】
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下、添付の図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
図1】下部多層コーティング部分100および上部多層コーティング部分200を含むコーティング設計の模式図であり、A層を明るいグレー色、B層を暗いグレー色で示している。
図2】下部多層コーティング部分100および上部多層コーティング部分200を含むコーティング設計の模式図であり、A層を明るいグレー色、B層を暗いグレー色で示している。
図3】下部多層コーティング部分100、中間多層コーティング部分150、および上部多層コーティング部分200を含むコーティング設計の模式図であり、A層を明るいグレー色、B層を暗いグレー色で示している。
図4】下部多層コーティング部分100、中間多層コーティング部分150、および上部多層コーティング部分200を含むコーティング設計の模式図であり、A層を明るいグレー色、B層を暗いグレー色で示している。
図5】耐摩耗性を評価するためのSRV測定後の摩耗痕深さを示す図である。摩耗が少ないほど摩耗痕深さが浅い、すなわち、グラフの棒が低いほど耐摩耗性が高い。値は、実施例に対応する結果に対して正規化されている。実施例1は比較例であり、実施例2および3は本発明の実施例である。
図6】NSST試験で異なる経過時間後に記録された鋼サンプルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
したがって、下部多層コーティング部分100において、平均層厚比LTR100は、下部多層コーティング部分100におけるA層の平均層厚、すなわちA層100の平均層厚と、下部多層コーティング部分100におけるB層の平均層厚、すなわちB層100の平均層厚とを考慮して定義される:
【数2】
【0019】
同様に、上部多層コーティング部分200において、平均層厚比LTR200は、上部多層コーティング部分200におけるA層の平均層厚、すなわちA層200の平均層厚と、上部多層コーティング部分200におけるB層の平均層厚、すなわちB層200の平均層厚とを考慮して定義される:
【数3】
【0020】
本発明者は、少なくとも2つの多層コーティング部分を有する多層コーティングを作製する際に、下部多層コーティング部分100における平均層厚比LTR100が上部多層コーティング部分200における平均層厚比LTR200よりも大きい場合、すなわちLTR100>LTR200である場合に、耐食性と耐摩耗性の組み合わせにおいて重要な改善を観察した。
【0021】
特に、平均層厚比LTR100>1を有する下部多層コーティング部分100と、平均層厚比LTR200<1を有する上部多層コーティング部分200と、を含む少なくとも2つの多層コーティング部分を有するように作製された多層コーティングを含む本発明の好ましい実施形態において、高い耐食性と高い耐摩耗性の驚くべき良好な組み合わせが得られた。
【0022】
また、本発明による多層コーティングは、さらなるコーティング部分またはさらなるコーティング層を含むことができる。
【0023】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、多層コーティングは、下部多層コーティング部分100と上部多層コーティング部分200との間に堆積された中間多層コーティング部分150を含む。
【0024】
中間多層コーティング部分150の平均層厚比LTR150は、中間多層コーティング部分150におけるA層の平均層厚、すなわちA層150の平均層厚と、中間多層コーティング部分150におけるB層の平均層厚、すなわちB層150の平均層厚とを考慮して定義される:
【数4】
ここで、LTR100>LTR150>LTR200である。
【0025】
さらに好ましい実施形態によれば、多層コーティングは、4つ以上の多層コーティング部分を含む。ここで、最初の多層コーティング部分が下部多層コーティング部分100であり、最後の多層コーティング部分が上部多層コーティング部分200である。また、各多層コーティング部分は、異なる平均層厚比LTRを有し、LTRは、下部多層コーティング部分から上部多層コーティング部分まで徐々に(連続的または段階的に)減少する。
【0026】
好ましくは、1つのコーティング部分内の複数のCrN層はほぼ同じコーティング厚さを有し、好ましくは、1つのコーティング部分内の複数のCrON層はほぼ同じコーティング厚さを有する。ただし、基材の回転とPVD堆積装置内の堆積源の相対的な向きにより、変動が生じる場合がある。
【0027】
好ましくは、1つの二重層の層厚、すなわち、互いに重なり合うように堆積された1つのB層と1つのA層の合計の層厚は、30nm~500nmの範囲であり、より好ましくは100nm~200nmの範囲であり、例えば、二重層の層厚を150nmとすることができる。
【0028】
多層コーティング全体の厚さは、好ましくは1μm~30μmの範囲であり、より好ましくは2μm~20μmの範囲であり、さらにより好ましくは5μm~10μmの範囲である。
【0029】
1つの多層コーティング部分の厚さ、例えば下部多層コーティング部分100の厚さまたは上部多層コーティング部分200の厚さは、好ましくは多層コーティング全体の厚さに対して10%を下回らない。
【0030】
好ましくは、コーティングは、立方晶fcc-CrN相を含む。これは、例えばX線回析によって特徴付けることができる。
【0031】
好ましくは、コーティングは、20GPaよりも大きい、特に25GPa~35GPaの範囲の押し込み硬さを有する。
【0032】
また、本発明によるコーティングは、多層コーティングが堆積された基材表面と下部多層コーティング部分との間に堆積された底部コーティング層を含むことができる。
【0033】
例えば、基材表面へのコーティングの密着性を向上させるために、底部コーティング層を基材表面上に直接堆積させることができる。この場合、底部コーティング層を、例えばCrN層またはCr層とすることができ、あるいはCrNまたはCrのいずれかを含む層とすることができる。
【0034】
また、本発明によるコーティングは、上部多層コーティング部分の上方でコーティング上に堆積された頂部コーティング層を含むことができる。
【0035】
例えば、さらに表面特性を向上させるために、頂部コーティング層を上部多層コーティング部分上に最外層として直接堆積させることができる。
【0036】
例えば、頂部コーティング層を、プラスチック材料への付着傾向を低減するためのCrON層とすることができる。
【0037】
上述したコーティングの塗布と、窒化前処理とを組み合わせることができる。これは、第1の表面層への塗布前に別の真空プロセスまたは大気窒化プロセスで行うことができ、あるいはin situで行うこともできる。
【0038】
本発明のコーティングは、既知のPVD技術を用いて堆積され得る。
【0039】
多層コーティング部分の堆積中に基材に加えられる負のバイアス電圧(例えば、10V~150V(絶対値)の範囲の負のバイアス電圧)の使用が有利であることが見出された。
【0040】
[本発明の実施例と比較例]
添付の図面および実施例を含む本明細書は、本発明を限定するように意図されておらず、本発明を理解する一助となるように提供されているものである。したがって、本明細書における実施例は、本発明を限定するものとして理解されるべきではない。
【0041】
以下に記載する実施例における本発明のコーティングの堆積および比較例の堆積には、Oerlikon Balzers社のINNOVENTA mega PVD堆積システムを用いた。
【0042】
以下に示す本発明のコーティングの実施例は、Crターゲットからのアーク堆積によって堆積された。その多層構造は、CrNを堆積するための純N2雰囲気と、N2とO2の混合雰囲気とを交互に繰り返すことで得られた。純N2雰囲気およびN2/O2混合雰囲気のシーケンスを数回繰り返して、CrNとCrONの個々の層からなる複数の二重層のシーケンスを含むコーティングを得た。
【0043】
CrN層とCrON層の層厚間の比率は、純N2雰囲気での堆積シーケンスの持続時間とN2/O2混合雰囲気での時間を調整することで調節(すなわち制御)された。
【0044】
図5および図6には、実施例1による比較例、ならびに実施例2および3による2つの比較例でコーティングされた基材の耐食性試験および耐摩耗性試験に関する結果が示されている。
【0045】
[比較例1]
平均層厚比LTR=1のCrN層およびCrON層、すなわち個々のCrN層の平均層厚が個々のCrON層と同じ大きさ(同じ平均層厚値)であるCrN層およびCrON層を含む多層コーティングを堆積し、試験した。いくつかの試験、特に図5および図6に示す試験では、基材表面と多層コーティングとの間にCrNの底部層を堆積した。
【0046】
[本発明の実施例2]
CrN層型のA層とCrON層型のB層とを含む別の本発明の多層コーティングについて、LTRが2~1.3の下部多層コーティング部分と、LTRが0.8~0.3の上部多層コーティング部分とを含む2つの異なる多層コーティング部分によって形成された多層コーティングを堆積し、試験した。いくつかの試験、特に図5および図6に示す試験では、基材表面と多層コーティングとの間にCrNの底部層を堆積した。図5および図6に示す試験では、下部多層コーティング部分におけるLTRが1.55~1.75であり、上部多層コーティング部分におけるLTRが0.4~0.7であった。
【0047】
[本発明の実施例3]
実施例2と実施例3の唯一の違いは、多層コーティングを追加の多層コーティング部分、より正確にはLTRが1.2~0.9の中間多層コーティング部分で堆積したことである。図5および図6に示す試験では、中間多層コーティング部分におけるLTRは、約1であった。
【0048】
[試験の説明]
振動摩擦摩耗(SRV)測定を用いてコーティングの耐摩耗性を調査した。Al2O3製のボールを用いて、一定の力(50N)で10Hz、60分間の往復振動を行った。得られた摩耗痕の深さを測定した。その結果を図5に示す。摩耗痕の深さが浅いほど耐摩耗性が高い。図5に示すように、本発明のコーティング(図5の実施例2および3を参照)は、先行技術に従って作製された比較例のコーティング(図5の実施例1を参照)よりも高い耐摩耗性を示した。
【0049】
コーティングの耐食性を評価するために、中性塩水噴霧試験(NSST)を用いて、本発明のコーティングと先行技術に従って作製された比較例のコーティングを試験した。0.4%Crを含む1.2842の冷間加工鋼製の基材にコーティングを塗布した。図6に示すように、比較例のコーティング(図6の実施例1を参照)では、72~96時間後に表面の主要部分に孔食が発生した。本発明のコーティング(図6の実施例2を参照)では、良好な耐食性が得られた。
【0050】
これら2つの試験により、本発明のコーティングが良好な耐食性と高い耐摩耗性を兼ね備えていることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】