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特表2024-508290発熱を低減した液状樹脂の光硬化方法及びシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】発熱を低減した液状樹脂の光硬化方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/129 20170101AFI20240216BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240216BHJP
   B29C 64/286 20170101ALI20240216BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20240216BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240216BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240216BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240216BHJP
【FI】
B29C64/129
G03F7/20 505
B29C64/286
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023551688
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 US2022013933
(87)【国際公開番号】W WO2022182466
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】63/200,258
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518113546
【氏名又は名称】ネクサ3ディー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100224672
【弁理士】
【氏名又は名称】深田 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】メダルジー イズハル
【テーマコード(参考)】
2H197
4F213
【Fターム(参考)】
2H197CE01
2H197HA06
4F213AP20
4F213AR20
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL06
4F213WL43
4F213WL46
4F213WL76
4F213WL82
4F213WL83
4F213WL85
4F213WL96
(57)【要約】
【課題】本発明は、液状樹脂を光硬化させることによる3次元物体の印刷に関し、光源によって液状樹脂に付与される熱を低減する。
【解決手段】液槽光重合プリンターでは、ビームスキャナは、マスクを横切って光硬化性樹脂を含むタンクへの光ビームをスキャンする。マスクは、光ビームの一部に対して個別に透明又は不透明であるように構成可能なピクセルを有し、光ビームは、マスクのピクセルの断面寸法よりも大きな直径を有する。露光持続時間中、ピクセルの第1のサブセットは、印刷される3次元物体の断面に対応する位置で透明であるように制御され、ピクセルの第2のサブセットは、3次元物体の断面に対応しない位置で不透明であるように制御される。ビームスキャナは、光ビームが、透明であるように制御されるマスクのピクセルの少なくとも1つに常に入射するように、マスクを横切る光ビームをスキャンするように制御される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液槽光重合プリンター(100)であって、
光硬化性液状樹脂(18)を収容するように構成されたタンク(10)と、
光ビーム(28)を放出するように構成された光源(24)と、
前記光ビーム(28)の一部に対して個別に透明又は不透明であるように構成可能なピクセル(56、58)を有するマスク(30)であって、前記光ビーム(28)の断面(60)の直径(d2)は、前記各ピクセル(56、58)それぞれの断面寸法(w)よりも大きい、マスク(30)と、
前記マスク(30)を横切る光ビーム(28)をスキャンするように構成されたビームスキャナ(26)と、
メモリ(306)及びプロセッサ(304)を有するコントローラ(36)と、
を備え、
前記メモリ(306)は、実行されたときに、
露光持続時間の間、3次元物体(22)の断面(53)に対応する位置で透明であるように前記マスク(30)のピクセルの第1のサブセットを制御し、前記3次元物体(22)の断面(53)に対応しない位置で不透明であるように前記マスク(30)のピクセルの第2のサブセットを制御し、
前記露光持続時間の間、前記マスク(30)の1又は2以上の領域を横切る前記光ビーム(28)をスキャンさせ、前記光ビーム(28)が、透明であるように制御される前記マスク(30)のピクセル(58)の少なくとも1つに常に入射するように前記ビームスキャナ(26)を制御する、
ことによって、前記液槽光重合プリンター(100)を制御して前記3次元物体(22)の断面(53)を印刷する、
ように前記プロセッサ(304)に行わせる、
液槽光重合プリンターにおいて、
前記露光持続時間の間、命令は更に、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセル(58)を含む前記マスク(30)の第1の領域(64a)から、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセル(58)を含む前記マスク(30)の第3の領域(64c)の間で前記ビームスキャナ(26)が前記光ビーム(28)を再配置する間に前記プロセッサ(304)に前記光源(24)をオフにさせ、
前記マスク(30)の第3の領域(64c)は、不透明であるように制御されるピクセル(56)のみを含む前記マスク(30)の第2の領域(64b)によって前記マスク(30)の第1の領域(64a)から分離される、
ことを特徴とする液槽光重合プリンター(100)。
【請求項2】
前記光ビーム(28)の断面(60)の直径(d2)が、前記各ピクセル(56,58)それぞれの断面寸法(w)の少なくとも10倍である、請求項1に記載の液槽光重合プリンター(100)。
【請求項3】
前記光ビーム(28)の断面(60)の直径(d2)が、前記各ピクセル(56,58)それぞれの断面寸法(w)の少なくとも100倍である、請求項1に記載の液槽光重合プリンター(100)。
【請求項4】
前記3次元物体の断面の印刷中に、不透明であるように制御された前記ピクセル(56)の最大10パーセントが、前記3次元物体(22)の断面(53)の印刷中に前記光ビーム(28)によってスキャンされる、請求項1に記載の液槽光重合プリンター(100)。
【請求項5】
前記光源(24)は、
レーザビーム(42)を放出するように構成されたレーザ光源(40)と、
前記レーザビーム(42)から前記光ビーム(28)を生成するように構成されたビームエキスパンダ(44)であって、前記光ビーム(28)の断面(60)の直径(d2)が、前記レーザビーム(42)の断面の直径(d1)よりも大きい、ビームエキスパンダ(44)と、
を含む、請求項1に記載の液槽光重合プリンター(100)。
【請求項6】
前記命令は更に、前記プロセッサ(304)に、前記露光持続時間中に透明であるように制御された前記ピクセル(58)のそれぞれの位置に基づいて、前記光ビーム(28)のスキャン経路(62、62a、62c)を決定させる、請求項1に記載の液槽光重合プリンター(100)。
【請求項7】
(i)光硬化性液状樹脂(18)を収容するように構成されたタンク(10)と、(ii)光硬化領域(34)の底部境界を定める可撓性膜(14)と、(iii)光ビーム(28)を放出するように構成された光源(24)と、(iv)前記光ビーム(28)をスキャンするように構成されたビームスキャナ(26)と、(v)前記ビームスキャナ(26)と前記可撓性膜(14)との間に配置され前記光ビーム(28)の一部に対して個々に透明又は不透明であるように構成可能なピクセル(56、58)を有するマスク(30)であって、前記光ビーム(28)の断面(60)の直径(d2)が、前記各ピクセル(56、58)それぞれの断面寸法(w)よりも大きい、マスク(30)と、を含む槽光重合プリンター(100)の光硬化領域(34)において3次元物体(22)の断面(53)を印刷する方法であって、
前記方法が、
露光持続時間の間、前記3次元物体(22)の断面(53)に対応する位置で透明であるように前記ピクセル(58)の第1のサブセットを制御し、前記3次元物体(22)の断面(53)に対応しない位置で不透明であるように前記ピクセル(56)の第2のサブセットを制御するステップ(110)と、
前記露光持続時間の間、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセル(58)を有する前記マスク(30)の少なくとも1つの領域(64a、64c)を横切って前記光硬化領域(34)に前記光ビーム(28)をスキャンする(112)ステップであって、不透明であるように制御される前記ピクセル(56)の最大10パーセントが、前記3次元物体(22)の断面(53)の印刷中に前記光ビーム(28)によってスキャンされる、ステップと、
を含み、
前記露光持続時間の間、前記ピクセルの第1及び第2のサブセットの制御の結果として、前記マスク(30)の第1の領域(64a)が、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセル(58)を含み、前記マスク(30)の第2の領域(64b)が、不透明であるように制御されるピクセル(56)のみを含み、前記マスク(30)の第3の領域(64c)は、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセル(58)を含む、
方法において、
前記光ビーム(28)をスキャンするステップが、前記マスク(30)の第1の領域(64a)を横切って、透明であるように制御される前記第1の領域(64a)のピクセル(58)を通して前記光硬化領域(34)に前記光ビーム(28)を繰り返しスキャンするステップと、前記マスク(30)の第2の領域(64b)をスキャンすることなく前記マスク(30)の第1の領域(64a)から前記マスク(30)の第3の領域(64c)に前記光ビーム(28)を再配置するステップと、前記マスク(30)の前記第3の領域(64c)を横切って、透明であるように制御される前記第3の領域(64c)のピクセル(58)を通して前記光硬化領域(34)に光ビーム(28)を繰り返しスキャンするステップと、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記マスク(30)の第1の領域(64a)を横切る前記光ビーム(28)を繰り返しスキャンするステップは、前記マスク(30)の第1の領域(64a)のラスタースキャン又は前後スキャンの少なくとも一方を含み、前記マスク(30)の第3の領域(64c)を横切って前記光ビーム(28)を繰り返しスキャンするステップは、前記マスクの第3の領域(64c)のラスタースキャン又は前後スキャンの少なくとも一方を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記露光持続時間の間、前記ピクセルの第1のサブセット内のピクセルの総数が、前記ピクセルの第2のサブセット内のピクセルの総数よりも少ない、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2021年2月24日出願の米国仮出願第63/200,258号に対する優先権を主張する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、液状樹脂を光硬化させることによる3次元物体の印刷に関し、より詳細には、光源によって液状樹脂に付与される熱を低減することに関する。
【背景技術】
【0003】
光硬化性液状樹脂の硬化を伴う物体の3次元印刷において遭遇する1つの障害は、液状樹脂の加熱である。光硬化性液状樹脂の硬化は発熱反応(硬化が起こる光硬化性液状樹脂の領域を局所的に加熱する)であるだけでなく、光源、典型的には紫外線(UV)光源によるマスクの照射もまた、マスクの加熱を引き起こす。マスクは液状樹脂に近接しているため、マスクのあらゆる加熱はまた、光硬化性液状樹脂の更なる加熱をもたらす。
【0004】
液状樹脂の温度が臨界温度を超えると、紫外線がなくても樹脂の一部が硬化し始め、印刷される物体に欠陥が生じることがある。液状樹脂の温度がこの臨界温度を超えないようにするための従来の手法では、印刷方法を定期的に停止させ、光硬化性液状樹脂を冷却することができるが、その結果、印刷方法のスループットが低下することになる。また、従来の手法では、加熱された樹脂を冷却するために樹脂循環システムが採用されることがある。樹脂循環システムを介した熱除去は、液状樹脂の温度を制御するという所望の効果を効果的に達成できるが、本明細書に記載される手法は、他の手段又は追加の手段を介して液状樹脂の温度を制御する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一実施形態では、液槽光重合プリンターは、光硬化性液状樹脂を収容するように構成されたタンクと、光ビームを放出するように構成された光源と、光源とタンクの間に配置され、光ビームの一部に対して個別に透明又は不透明であるように構成可能なピクセルを有するマスクと、を含む。好ましくは、光ビームの断面の直径は、各ピクセルそれぞれの断面寸法よりも大きい。ビームスキャナは、マスクを横切って光ビームをスキャンするように構成され、記憶されたプロセッサ実行可能命令の下で動作するプロセッサは、露光持続時間の間、3次元物体の断面に対応する位置で透明であるようにピクセルの第1のサブセットを制御し、3次元物体の断面に対応しない位置で不透明であるようにピクセルの第2のサブセットを制御し、露光持続時間の間、マスクを横切って光ビームをスキャンさせ、光ビームが透明であるように制御されるマスクのピクセルの少なくとも1つに常に入射するように、ビームスキャナを制御することによって液槽光重合プリンターを制御して3次元物体の断面を印刷する。
【0006】
様々な実施形態において、光ビームの断面の直径は、マスクの各ピクセルそれぞれの断面寸法の少なくとも10倍又は少なくとも100倍とすることができる。更に、光源は、レーザビームを放出するように構成されたレーザ光源;及びレーザビームから光ビームを生成するように構成されたビームエキスパンダを含むことができ、光ビームの断面の直径は、レーザビームの断面の直径よりも大きい。
【0007】
様々な実施形態において、プロセッサ実行可能命令は更に、プロセッサに、露光持続時間期間中に透明であるように制御されたピクセルのそれぞれの位置に基づいて、光ビームのスキャン経路を決定させることができる。また、露光持続時間の間、プロセッサ実行可能命令は更に、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを含むマスクの第1の領域から、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを含むマスクの第3の領域との間でビームスキャナが光ビームを再配置する間に、プロセッサに光源をオフにさせることができ、マスクの第3の領域は、不透明であるように制御されるピクセルのみを含むマスクの第2の領域によってマスクの第1の領域から分離される。更に別の実施形態において、プロセッサ実行可能命令は更に、ビームスキャナが、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを含むマスクの第1の領域からマスクの第3の領域へ光ビームを再配置する間、光ビームを遮断するように遮断要素を制御するようプロセッサにさせることができる。様々な実施形態において、ピクセルは、電気的に変調された液晶ピクセル素子とすることができる。
【0008】
様々な実施形態において、液槽光重合プリンターは、マスクと可撓性膜との間に配置された透明バッキング部材を更に含むことができる。加えて、抽出プレートがタンク内に配置することができ、印刷中、光硬化性液状樹脂の硬化部分から形成された3次元物体は、抽出プレートに貼り付けられる。高さ調整器が、マスクの上方における抽出プレートの垂直位置を制御するように構成することができる。
【0009】
本発明の他の実施形態は、光硬化性液状樹脂を収容するように構成されたタンクと、光ビームを放出するように構成された光源と、光ビームの一部に対して個別に透明又は不透明であるように構成可能なピクセルを有するマスクとを含む液槽光重合プリンターを提供する。光ビームの断面の直径は、各ピクセルそれぞれの断面寸法よりも大きく、ビームスキャナは、マスクを横切って光ビームをスキャンするように構成される。コントローラのプロセッサは、露光持続時間の間、3次元物体の断面に対応する位置で透明であるようにピクセルの第1のサブセットを制御し、3次元物体の断面に対応しない位置で不透明であるようにピクセルの第2のサブセットを制御し、露光持続時間の間、透明であるように制御されるピクセルを有するマスクの少なくとも1つの領域を横切って光ビームをスキャンするようにビームスキャナを制御し、不透明であるように制御されるピクセルの最大10パーセントが、3次元物体の断面の印刷中に光ビームによってスキャンされるように制御することによって、液槽光重合プリンターを制御して3次元物体の断面を印刷する命令を実行する。
【0010】
幾つかの実施形態において、コントローラのプロセッサは更に、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを含むマスクの第1の領域を横切って光ビームを繰り返しスキャンするようビームスキャナを制御し、続いて、第1の領域と第3の領域とを分離する第2の領域内のビーム経路に沿って光ビームをスキャンするようにビームスキャナを制御して、第2の領域は、不透明であるように制御されるピクセルのみを含み、第3の領域は、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを含み、第2の領域内のビーム経路は、第1の領域内のビーム経路と第3の領域内のビーム経路とを接続する最短経路であり、続いて、マスクの第3の領域を横切って光ビームを繰り返しスキャンするようビームスキャナを制御する、ように命令を更に実行することができる。マスクの第1の領域を横切って光ビームを繰り返しスキャンするステップは、マスクの第1の領域のラスタースキャン又は前後スキャンの少なくとも一方を含み、マスクの第3の領域を横切って光ビームを繰り返しスキャンするステップは、マスクの第3の領域のラスタースキャン又は前後スキャンの少なくとも一方を含む。
【0011】
本発明の別の実施形態は、(i)光硬化性液状樹脂を収容するように構成されたタンクと、(ii)光硬化領域の底部境界を定める可撓性膜と、(iii)光ビームを放出するように構成された光源と、(iv)光ビームをスキャンするように構成されたビームスキャナ、及び(v)ビームスキャナと可撓性膜との間に配置され、光ビームの一部に対して個別に透明又は不透明であるように構成可能なピクセルを有するマスクであって、光ビームの断面の直径が各ピクセルそれぞれの断面寸法よりも大きい、マスクと、を含む液槽光重合プリンターの光硬化領域において、3次元物体の断面を印刷する方法を提供する。印刷方法によれば、露光持続時間の間、3次元物体の断面に対応する位置で透明であるようにピクセルの第1のサブセットを制御し、3次元物体の断面に対応しない位置で不透明であるようにピクセルの第2のサブセットを制御し、光ビームは、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを有するマスクの少なくとも1つの領域を横切って光硬化領域にスキャンされ、不透明であるように制御されるピクセルの最大10パーセントが、3次元物体の断面の印刷中に光ビームによってスキャンされる。
【0012】
この印刷方法において、露光持続時間の間、ピクセルの第1及び第2のサブセットの制御の結果として、マスクの第1の領域は、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを含み、マスクの第2の領域は、不透明であるように制御されるピクセルのみを含み、マスクの第3の領域は、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを含み、光ビームをスキャンするステップは、マスクの第1の領域を横切って、透明であるように制御される第1の領域のピクセルを通して光硬化領域に光ビームを繰り返しスキャンするステップと、その後に、第2の領域内で、第1の領域のビーム経路と第3の領域のビーム経路とを接続する最短経路に沿って光ビームをスキャンするステップと、その後に、マスクの第3の領域を横切って透明であるように制御される第3の領域のピクセルを通して光硬化領域に光ビームを繰り返しスキャンするステップとを含む。マスクの第1の領域を横切って光ビームを繰り返しスキャンするステップは、マスクの第1の領域のラスタースキャン又は前後スキャンの少なくとも一方を含み、マスクの第3の領域を横切って光ビームを繰り返しスキャンするステップは、マスクの第3の領域のラスタースキャン又は前後スキャンの少なくとも一方を含む。
【0013】
代替的に又は追加的に、露光持続時間の間、ピクセルの第1及び第2のサブセットの制御の結果として、マスクの第1の領域は、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを含み、マスクの第2の領域は、不透明であるように制御されるピクセルのみを含み、マスクの第3の領域は、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを含み、光ビームをスキャンするステップは、マスクの第1の領域を横切って、透明であるように制御される第1の領域のピクセルを通して光硬化領域に光ビームを繰り返しスキャンするステップと、マスクの第2の領域をスキャンすることなくマスクの第1の領域からマスクの第3の領域に光ビームを再配置するステップと、マスクの第3の領域を横切って、透明であるように制御される第3の領域のピクセルを通して光硬化領域に光ビームを繰り返しスキャンするステップとを含む。マスクの第1の領域を横切って光ビームを繰り返しスキャンするステップは、マスクの第1の領域のラスタースキャン又は前後スキャンの少なくとも一方を含み、及びマスクの第3の領域を横切って光ビームを繰り返しスキャンするステップは、マスクの第3の領域のラスタースキャン又は前後スキャンの少なくとも一方を含む。
【0014】
印刷方法の露光時間期間中、ピクセルの第1のサブセットにおけるピクセルの総数は、ピクセルの第2のサブセットにおけるピクセルの総数よりも少なくすることができる。
【0015】
本発明の更に別の実施形態は、(i)光硬化性液状樹脂を収容するように構成されたタンクと、(ii)光硬化領域の底部境界を定める可撓性膜と、(iii)光ビームを放出するように構成された光源と、(iv)光ビームをスキャンするように構成されたビームスキャナ、及び(v)ビームスキャナと可撓性膜との間に配置され、光ビームの一部に対して個別に透明又は不透明であるように構成可能なピクセルを有するマスクであって、光ビームの断面の直径が各ピクセルそれぞれの断面寸法よりも大きい、マスクと、を含む液槽光重合プリンターの光硬化領域において3次元物体の断面を印刷する方法を提供する。本方法は、露光持続時間の間、3次元物体の断面に対応する位置で透明であるようにピクセルの第1のサブセットを制御し、3次元物体の断面に対応しない位置で不透明であるようにピクセルの第2のサブセットを制御するステップと、露光持続時間の間、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを有するマスクの少なくとも1つの領域を横切って光硬化領域に光ビームをスキャンするステップであって、スキャンするステップは、(i)光ビームが少なくとも1つの領域上でスキャンされる間に光ビームの光強度を変化させるステップ、(ii)光ビームが少なくとも1つの領域上でスキャンされる間に光ビームのスキャン速度を変化させるステップ、又は(iii)光ビームが少なくとも1つの領域上で繰り返しスキャンされる回数を変化させるステップのうちの少なくとも1つによって、マスクの少なくとも1つの領域のそれぞれのピクセルを横切る光透過の不均一性を補償する。
【0016】
本発明のこれら及び更なる実施形態は、以下により詳細に説明される。
【0017】
次に、本発明について、本発明の範囲を限定することなく一例としてその実施形態を示す添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態による3次元(3D)印刷システムの断面図である。
図2】本発明の一実施形態による光源の構成要素を示す図である。
図3A】本発明の一実施形態による、マスクの透明領域及び不透明領域を示す図である。
図3B】本発明の一実施形態による、個々の透明及び不透明ピクセルが見える、図3Aに描かれたマスクの一部の拡大図である。
図4A】本発明の一実施形態による、図3Aに描かれたマスクの一部を照射する光ビームのビームスポットを示す図である。
図4B】本発明の一実施形態による、個々の透明及び不透明ピクセルが見える、図3Aに描かれたマスクの一部及びビームスポットの拡大図である。
図5】本発明の一実施形態による、透明ピクセルを有するマスクの制限領域(図3Aに描写)のラスタースキャンを実行する光ビームのビーム経路を示す図である。
図6】本発明の一実施形態による、マスクの透明領域及び不透明領域を示す図である。
図7】本発明の一実施形態による、透明ピクセルを有するマスクの制限領域(図6に描かれている)の往復スキャンを示す図である。
図8】本発明の一実施形態による、マスクの透明領域及び不透明領域を示す図である。
図9】本発明の一実施形態による、光ビームが透明ピクセルを有する第1の領域及び第2の領域を繰り返しスキャンする、図8のマスクをスキャンする光ビームのビーム経路を示す図である。
図10】本発明の一実施形態による、光ビームは透明ピクセルを有する第1の領域及び第2の領域を繰り返しスキャンし、更に第1の領域のビーム経路と第2の領域のビーム経路とを接続する最短経路をスキャンする、図8のマスクをスキャンする光ビームのビーム経路を示す図である。
図11】本発明の一実施形態による、液槽光重合プリンターのマスクをスキャンするように各々が構成された2つの光ビームを有する3Dプリンティングシステムを示す図である。
図12A】本発明の一実施形態による、発熱を低減した3次元物体の断面を印刷する方法のフローチャートである。
図12B】本発明の一実施形態による、発熱を低減した3次元物体の断面を印刷する別の方法のフローチャートである。
図13A】本発明の一実施形態による、3Dプリントシステムのマスクの表面を横切って光ビームをスキャンする方法のフローチャートである。
図13B】本発明の一実施形態による、3D印刷システムのマスクの表面を横切って光ビームをスキャンする別の方法のフローチャートである。
図14】本発明の一実施形態による、発熱を低減して3次元物体の断面を印刷し、印刷中に3D印刷システムのマスクのそれぞれのピクセルにわたる光透過率の不均一性を更に補償する方法のフローチャートである。
図15】本発明の方法をインスタンス化するコンピュータ可読命令を記憶及び実行できるコンピュータシステムの構成要素を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態の以下の詳細な説明では、本明細書の一部を構成する添付図面を参照し、その図面には、本発明を実施することができる特定の実施形態が例示として示されている。本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態が利用でき、構造変更をなし得ることは理解される。図の何れかに関する説明は、同様又は類似の構成要素/ステップを含む別の図に適用することができる。シーケンス図は、特定の順序で一連のステップを示すが、幾つかのステップの順序は変更してもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、液状樹脂を冷却する必要性は、液状樹脂が加熱される程度を低減することによって軽減される。液状樹脂の硬化中に起こる発熱反応に起因する液状樹脂の加熱は、を避けることはできないが、透明ピクセルを有するマスクの領域のみを選択的に照明し、及び/又はマスクの不透明ピクセルを有する領域の照明を最小限にすることによって、マスクの加熱を低減することができる。本発明のこれら及び他の実施形態は、以下の図面に関連してより完全に説明される。
【0021】
図1は、3次元(3D)印刷システム100(液槽光重合プリンターとも呼ばれる)の断面を示しており、ここでは、物体22(例えば、3D物体)を作製するために、電磁放射線(例えば、紫外線)を使用して光硬化性液状樹脂18を硬化させる。物体22は、層ごとに作製することができ、すなわち、物体22の新しい層は、物体22の底面に隣接する液状樹脂18の層34を光硬化させることによって形成することができ、物体は、抽出プレート20によって上昇させることができ、光硬化液状樹脂18の新しい層を新しく形成された層の下方に引き込むことができ、プロセスは、追加の層を形成するために繰り返される。
【0022】
3D印刷システム100は、光硬化性液状樹脂18を収容するためのタンク10を含む。タンク10の底部は、光源24からの電磁放射線(例えば、フィルタ光ビーム32)をタンク10に入射可能にする底部開口部12を含む。任意選択の放射線透過性バッキング部材16(例えば、厚さ約100μmのホウケイ酸ガラス又はアルカリアルミノケイ酸ガラスのような強化ガラス)を使用して、タンク開口部12をシールし(すなわち、光硬化性液体ポリマー18がタンク10から漏出するのを防止し)、同時に、液体ポリマーを硬化させるために電磁放射線がタンク10内に入るのを許容することができる。
【0023】
本発明の種類の3D印刷システムが直面する1つの課題は、物体22に付着することに加えて、新たに形成された層がタンクの底部に付着する傾向があることである。その結果、物体が取り付けられた抽出プレート20が高さ調整器39によって引き上げられると、新たに形成された層が断裂し及び/又は物体22から解離する可能性がある。この問題に対処するため、可撓性膜14をバッキング部材16(存在する場合)に隣接して配置することができ、又は(バッキング部材が使用されない場合)タンクの底部を形成することができる。可撓性膜14は、シリコーン又は他の材料から形成され、任意選択的に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような非粘着性材料でコーティングされ、新たに形成された層がタンク10の底部に付着する可能性を低減することができる。可撓性膜14は、液体ポリマー18を硬化させるためにその放射線がタンク10内に入ることができるように、光源24によって放出される放射線の波長に対して透明(又はほぼ透明)である。
【0024】
マスク30は、層34に入射する放射線を空間的にフィルタリングするように配置することができ、印刷される物体22の断面に対応する液状樹脂18の特定の領域が硬化されるようになる。マスク30は、アドレス指定可能なピクセルの2次元アレイを有する液晶ディスプレイ(LCD)などの透過型空間光変調器とすることができる。以下により明確に説明されるように、マスクのピクセルの特定のものは透明であるように制御することができ、他のものは不透明であるように制御することができる。透明ピクセルは、放射線がマスク30の特定の空間位置でマスク30を通過してタンク10に入ることができ、その結果、液状樹脂18の対応する部分(ボクセル)を硬化させ、一方、不透明ピクセルは、放射線がマスク30の特定の空間位置を通過することを阻止し、これにより、液状樹脂18の対応する部分(ボクセル)の硬化を回避する。
【0025】
ビームスキャナ26は、マスク30を横切る光ビーム28をスキャンすることができる。以下でより詳細に説明するように、ビームスキャナ26は、コントローラ36によって制御されて、マスク30の不透明なピクセルのみを有する領域を実質的に避けながら、透明なピクセルを有するマスク30の領域を横切る光ビーム28を選択的にスキャンすることができる。ビームスキャナ26は、ガルボスキャナ(ガルバノスキャナとしても知られている)などのx-yスキャナとすることができる。好ましい実施形態では(図1には描かれていないが)、ビームスキャナ26をマスク30から分離する距離は、マスク30の横方向の寸法よりも実質的に大きく、光ビーム28がマスク30の周辺領域をスキャンしているか又はマスク30の中央領域をスキャンしているかにかかわらず、光ビーム28が実質的に90°でマスク30に入射するようにする。マスク30に対するビームスキャナ26のこのような配置は、マスク30と樹脂層34との間の最小限の離隔と共に、光がマスク30を通過する際の回折の影響を低減し、これにより物体22を印刷することができる精度を向上させる。
【0026】
コントローラ36は、それぞれ制御信号経路38a、38b、38c及び38d(例えば、電気信号経路)を介して、マスク30、ビームスキャナ26、光源24及び高さ調整器39に通信可能にカップリングすることができる。コントローラ36は、印刷される物体の断面(例えば、その物体の層)にマスク30の透明ピクセルが対応するように、マスク30のアドレス指定可能なピクセルを制御することができる。コントローラ36は、透明ピクセルを有するマスク30の領域を横切る光ビームを選択的にスキャンする一方で、不透明ピクセルのみを有するマスク30の領域を実質的に回避するようにビームスキャナ26を制御することができる。多くの場合、透明ピクセルは、全ピクセルの一部(例えば、30%、50%等)を占めるに過ぎない。これらの透明ピクセルが特定の領域に集約されていると仮定すると(多くの場合そうである)、マスクのこれらの領域のみがスキャンされ、これにより不必要に照射される不透明ピクセルの数が実質的に減少し、ひいてはマスク30及び樹脂18の加熱が減少する。以下に、光ビーム28のスキャンの具体例を示す。
【0027】
コントローラ36はまた、光源24を制御することができる。例えば、マスク30の加熱を更に低減するために、コントローラ36は、光ビーム28がスキャナ26によって透明ピクセルを有するマスク30のある領域から、透明ピクセルを有するマスク30の別の領域に再配置されている間、光源24をオフにすることができる。コントローラ36はまた、高さ調整器39を制御して、高さ抽出器20の垂直位置、及び結果として高さ抽出器20に貼り付けられる物体22の垂直位置を制御することができる。
【0028】
図2に描かれているように、光源24は、レーザビーム42を生成するレーザ源40と、及びコリメートされ集光されたレーザビーム24を、コリメートされデフォーカスされた光ビーム28に変換するビームエキスパンダ44とを含むことができる。説明を簡潔にするために、コリメート及びデフォーカスされた光ビーム28は、本明細書全体を通して単に「光ビーム」28と呼ばれる。図2に描かれているように、光ビーム28の断面の直径d2は、レーザビーム42の断面の直径d1よりも大きくすることができる。
【0029】
図3Aは、露光持続時間中のマスク30を描いており、この間、マスク30の一部のピクセルは、透明状態であるように制御される一方、マスク30の他のピクセルは、不透明状態であるように制御される(ただし、マスク30は、個々のピクセルが見えるような詳細なレベルでは描かれていない)。説明を分かりやすくするために、不透明ピクセルを有するマスク30の領域50はグレーの陰影で描かれ、一方、透明ピクセルを有するマスク30の領域52は白で(すなわち、陰影なしで)描かれている。マスク30を横切るスキャンする光ビームは、マスクの領域52(及び液状樹脂18の層34の硬化部分)を通過するが、光ビームはマスクの領域50を通過しないことは理解される。領域52の形状は、印刷される物体の断面53にほぼ対応するように選択される(図3Aに挿入図として描かれた断面53を参照)。マスク30の典型的な寸法(すなわち、対角線方向)は、13.3インチとすることができるが、マスク30の寸法が将来増大すると、より大きな寸法の物体の印刷を可能にすることが企図される。
【0030】
図3Bは、図3Aに描かれたマスク30の部分54の拡大図を示し、この拡大図では、個々のピクセル(例えば、電気変調液晶ピクセル素子)が見える。参照数字56は不透明ピクセルの1つを示し、参照数字58はマスク30の透明ピクセルの1つを示す。説明を分かりやすくするために、不透明ピクセルはグレーの濃淡で描かれ、透明ピクセルは白(すなわち、濃淡なし)で描かれている。図3Bにおけるピクセルの視覚化は、単に概略的な図解であり、実際の図を描いていない場合があることを理解されたい。例えば、図3Bではピクセルが正方形の境界で描かれているが、長方形の境界、楕円形の境界、円形の境界など、他の境界形状も可能である。ピクセルの物理的構造(例えば、2つの電極の間に挟まれた液晶)は、当該技術分野において周知であり、簡潔にするために、本明細書では説明しない。
【0031】
図4Aは、マスク30の表面における光ビーム28の断面60を描いている。議論を簡潔にするために、断面60は「ビームスポット」と呼ばれることがあるが、マスク30の「照明された」領域が透明ピクセルからなる場合、光ビーム28はマスク30の表面で反射することなくマスク30を通って輝くことがあるので、「ビームスポット」は実際には見えないことがあることは理解される。
【0032】
図4Bは、図3Bに描かれたマスク30の部分54の拡大形態を示している。図4Bに示すように、ビームスポット60の直径d2は、各ピクセルそれぞれの断面寸法wよりも1桁(又は2以上)大きくすることができる。本発明の一実施形態では、直径d2は、各ピクセルそれぞれの断面寸法wの少なくとも10倍である。本発明の別の実施形態では、直径d2は、各ピクセルそれぞれの断面寸法wの少なくとも100倍である。一例として、wは25~150μmとすることができ、d2は10mmとすることができる。本発明の別の実施形態では、ビームスポット60の直径d2は、製造される物体の断面寸法に基づいて動的に調整することができる。製造される物体の断面寸法がおよそセンチメートルの大きさである場合、d2は1センチメートルとすることができる。製造される物体の断面寸法がおよそミリメートルの大きさの場合、d2は1ミリメートルとすることができる。このようなビームスポット径の動的な調整は、不透明ピクセルの照射を更に低減し(及びその結果、液状樹脂の加熱を低減し)、より大きな断面寸法を有する物体のスループットを維持することができる。
【0033】
図5は、マスク30の透明領域52のラスタースキャンを行う光ビームのビーム経路62を示している。ビームスポット60は、ビーム経路62に沿ってマスク30の表面を連続的に移動する(すなわち、掃引する)。ビーム経路62は、マスク30の透明のピクセルの位置に基づいてコントローラ36によって決定することができる(すなわち、ビーム経路62は、マスク30の透明のピクセルを均一に照射するように選択される)。マスク30上のビームスポット60の位置の制御に幾らかの不正確さが生じる可能性を許容するため、及びビームスポット径の制御に幾らかの不正確さが生じる可能性を許容するため、透明領域52を取り囲む不透明ピクセルの薄い境界部も照明することができることが理解される。しかしながら、光ビーム28によるマスク30の加熱を最小限にするために、照射される不透明ピクセル(例えば、薄肉境界部)の数を最小限にすることができる。透明ピクセルが単一の領域に集中しているシナリオ(図5の例など)では、(物体22の単一の断面の印刷中に)光ビーム28によって照射される不透明ピクセルの数が1%超えないことが可能である。透明ピクセルが複数の領域に集中しているシナリオ(図8の例など)では、(物体22の1つの断面の印刷中に)不透明ピクセルの10%以下が照射される可能性がある。ラスタースキャンの連続する「行」のビームスポットは、領域52が均一な光強度(すなわち、時間的に平均化された均一な強度)でスキャンされることを可能にするように、数ピクセルだけ重なることができることは理解される。更に、図5に描かれたビーム経路62は、光ビーム28によって複数回(図5に描かれた方向に1回、次は逆方向に経路をたどり、次は図5に描かれた方向をたどり、等々)トレースすることができることが理解される。ある領域の高速スキャンを繰り返し実行すること(例えば、ビーム経路62を通る10回の高速トラバースを実行すること)は、樹脂18の加熱が層34にわたってより均一に広がる可能性があるため、ある領域の1回の低速スキャンを実行すること(例えば、ビーム経路62を通る1回のトラバースを実行すること)よりも最適とすることができる。
【0034】
図6は、別の露光持続時間中の、マスク30の不透明領域50及び透明領域52を描いている。図6において、透明領域52は、ビームスポット60の直径d2よりも小さい幅寸法を有する「薄いストリップ」内に配置されている。その結果、図7に示すように、光ビーム28は、マスク30の透明領域52を照射するように、ビーム経路62に沿って「往復」方式で繰り返しスキャンすることができる。このようなスキャンの間、不透明領域50内の幾つかの不透明ピクセルも光ビーム28によってスキャンすることができるが(すなわち、光ビーム28がある透明領域から別の透明領域へ通過するとき)、マスク全体がラスタースキャンされたシナリオと比較して、スキャンされる不透明ピクセルの数はかなりの程度まで最小化されることが理解される。
【0035】
図8は、別の露光持続時間中のマスク30の不透明領域50及び透明領域52を描いている。図8の例では、マスク30の領域64aは高濃度の透明ピクセルを含み、同様に領域64cについても同様であり、領域64aは不透明ピクセルのみを有する領域64bによって領域64cから分離されている。図9は、マスク30の透明ピクセルをスキャンするために光ビーム28がたどることができるビーム経路62a、62bを描いている。一つのシナリオでは、光ビーム28は、ビーム経路62aに繰り返し従うことによって、領域64a内の透明ピクセルをスキャンすることができる。その後、ビームスキャナ26は、光ビーム28が不透明ピクセルだけを有する領域64bをスキャンすることなく、光ビーム28を領域64cに再配置することができる。光ビーム28の再配置の間、コントローラ36は、光源24をオフにするか、又は光ビーム28を遮断する遮断要素(図示せず)を制御することができる。例えば、遮断要素は、光ビーム28を遮断するようにコントローラ36によって制御可能な光源24のシャッタを含むことができる。再位置決め後、光ビーム28は、ビーム経路62bに繰り返し従うことによって、領域64c内の透明ピクセルをスキャンすることができる。領域64a内のレーザビーム28のスキャン速度は、領域64c内のレーザビーム28のスキャン速度と異なる場合があることに留意されたい。例えば、より小さい領域は、より大きい領域よりも遅い速度でスキャンすることができる。
【0036】
図10は、光源24をオフするか又は光ビーム28を遮断する必要もなく、不透明ピクセルのスキャンを最小化するスキャン方式を示す。図10のスキャン方式では、光ビーム28は同様に、ビーム経路62aに繰り返し従うことによって領域64a内の透明ピクセルをスキャンする。しかしながら、領域64aから64cへの光ビーム28の再配置の間、光ビーム28はビーム経路62bに沿ってスキャンする。ビーム経路62bは、領域64a内のビーム経路62a及び領域64c内のビーム経路62bを接続する、領域64bを通る最短経路とすることができる。再配置後、光ビーム28は、ビーム経路62bに繰り返し従うことによって、領域64c内の透明ピクセルをスキャンすることができる。
【0037】
図11は、マスク30をスキャンするために複数の光ビーム(例えば、2つの光ビーム)を用いる3D印刷システム101を示す。ビームスキャナ26aは、光源24aからの光ビーム28aをマスク30の特定の領域を横切る選択的にスキャンすることができ、及びスキャンされたピクセルが透明であるか又は不透明であるかに応じて、フィルタ光ビーム32aがマスク30を透過し、層34の樹脂の一部を硬化させることができる。同様に、ビームスキャナ26bは、光源24bからの光ビーム28bをマスク30の他の領域を横切る選択的にスキャンし、スキャンされたピクセルが透明であるか又は不透明であるかに応じて、フィルタリングされた光ビーム32bをマスク30を透過させて層34の樹脂の一部を硬化させることができる。一例として、光ビーム28aは図10のビーム経路62aに従うことができ、及び光ビーム28bは図10のビーム経路62bに従うことができる。D印刷システム101のコストを増加させる一方で、複数の光ビームは、単一の光ビームを採用する3D印刷システムと比較して、より速いスループット(すなわち、印刷速度)を提供することができる。描写を容易にするために、コントローラ36は図11に図示されていないが、コントローラ36は、ビームスキャナ26a及び26b並びに図11の他の既述の構成要素を制御するために使用することができることは明らかであろう。
【0038】
図12Aは、発熱を抑えて3次元物体の断面を印刷する方法のフローチャート102を示す。ステップ104において、コントローラ36は、露光持続時間の間、(印刷される)3次元物体の断面に対応する位置において透明であるようにピクセルの第1のサブセットを制御し、3次元物体の断面に対応しない位置において不透明であるようにピクセルの第2のサブセットを制御することができる。ステップ106において、コントローラ36は、ステップ104と同じ露光持続時間の間、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを有するマスクの少なくとも1つの領域を横切る光ビーム28をスキャンするようにビームスキャナ26を制御することができる。スキャンは、光ビーム28が、3次元物体の断面の印刷中に、透明であるように制御されるマスク30のピクセルの少なくとも1つに常に入射するように実行することができる。このようなスキャン方式を図5図7及び図9に示した。もちろん、熱の低減は、透明ピクセルがピクセルの総数のわずかな(又はより少ない)部分(例えば、ピクセルの総数の30%~50%未満)しか占めていない場合に最も顕著である。
【0039】
図12Bは、発熱を低下させて3次元物体の断面を印刷する別の方法のフローチャート108を示す。ステップ110において、コントローラ36は、露光持続時間の間、(印刷される)3次元物体の断面に対応する位置において透明であるようにピクセルの第1のサブセットを制御し、3次元物体の断面に対応しない位置において不透明であるようにピクセルの第2のサブセットを制御することができる。ステップ112において、コントローラ36は、ステップ110と同じ露光持続時間の間、ビームスキャナ26を制御して、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを有するマスクの少なくとも1つの領域を横切る光ビーム28をスキャンさせることができる。スキャンは、不透明であるように制御されるピクセルの最大10パーセントが、3次元物体の断面の印刷中に光ビーム28によってスキャンされるように実行することができる。このようなスキャン方式を図5図7図9及び図10に示した。ここでも、熱の低減は、透明ピクセルがピクセルの総数のうちの小さい(又はより少ない)部分(例えば、ピクセルの総数の30%~50%未満)しか占めていない場合に最も顕著である。
【0040】
図13Aは、3D印刷システムのマスクの表面を横切る光ビーム28をスキャンする方法のフローチャート200を示す。ステップ202において、光ビーム28は、少なくとも幾つかの透明ピクセルを含むマスク30の第1の領域を横切って繰り返しスキャンすることができる。ステップ202は、図9の領域64a内の透明ピクセルのスキャンによって上述した。ステップ204において、光ビーム28は、第1の領域と第3の領域とを分離するマスクの第2の領域をスキャンすることなく、第1の領域から、少なくとも幾つかの透明ピクセルを含むマスクの第3の領域へと再位置決めすることができ、マスクの第2の領域は、不透明ピクセルのみを含む。ステップ204は、領域64aから領域64cへの光ビーム28の再配置において図9で上述した。ステップ206において、光ビーム28は、少なくとも幾つかの透明ピクセルを含むマスクの第3の領域を横切って繰り返しスキャンすることができる。ステップ206は、図9の領域64c内の透明のスキャンによって上述した。
【0041】
図13Bは、3D印刷システムのマスクの表面を横切る光ビーム28をスキャンする方法のフローチャート208を示す。ステップ210において、光ビーム28は、少なくとも幾つかの透明ピクセルを含むマスク30の第1の領域を横切って繰り返しスキャンすることができる。ステップ210は、図10の領域64a内の透明のスキャンによって上述した。ステップ212において、光ビーム28は、第1の領域と第3の領域とを分離する第2の領域内の経路に沿ってスキャンすることができ、第2の領域は不透明ピクセルのみを含み、第3の領域は少なくとも幾つかの透明ピクセルを含み、経路は、第1の領域内のビーム経路と第3の領域内のビーム経路とを接続する最短経路である。ステップ212は、ビーム経路62cに沿った光ビーム28のスキャンによって図10で上述した。ステップ214において、光ビーム28は、少なくとも幾つかの透明ピクセルを含むマスクの第3の領域を横切って繰り返しスキャンすることができる。ステップ214は、図10の領域64c内の透明のスキャンによって上述した。
【0042】
実際には、マスクのそれぞれのピクセルにわたって光透過率に幾らかの不均一性(例えば、ピクセルにわたって10%以上のばらつき)が存在することができる。例えば、ピクセルが(完全に)透明であるように制御されていた場合でも、欠陥、ピクセルの経年劣化、その他に起因して、光に対して95%しか透明にならない場合がある。従って、明瞭化のために、上述の「透明ピクセル」は、光に対して100%透明なピクセル、光に対して99%透明なピクセル、光に対して95%透明なピクセル、その他を指す場合があることに留意されたい。同様に、上述の「不透明なピクセル」は、光に対して100%不透明、光に対して99%不透明、光に対して95%不透明、その他のピクセルを指す場合がある。
【0043】
図14は、スキャンがマスクのそれぞれのピクセルにわたる光透過率の不均一性を補償するように、3D印刷システムのマスクの表面を横切る光ビーム28をスキャンするステップを含む、3次元物体の断面を印刷する方法のフローチャート250を示す。ステップ252では、マスクのそれぞれのピクセルにわたる光透過率の均一性を評価することができる。このような評価は、全てのピクセルを(完全に)透明であるように制御し、マスク全体を照明し(例えば、マスク全体にわたって光ビームをスキャンし)、各ピクセルによって透過される光の強度を測定するステップを含むことができる。この初期評価の間、光ビームがマスクの中心領域又は周辺領域付近に照射されているかどうかにかからず、光ビーム自体の光強度はかなり均一であると仮定する。予想よりも低い光強度を有する(例えば、他のピクセル要素に対して光強度が減衰している)ピクセルのそれぞれの位置を特定することができる。
【0044】
ステップ254において、コントローラ36は、露光持続時間の間、(印刷される)3次元物体の断面に対応する位置において透明であるようにピクセルの第1のサブセットを制御し、3次元物体の断面に対応しない位置において不透明であるようにピクセルの第2のサブセットを制御することができる。ステップ256において、コントローラ36は、ステップ104と同じ露光持続時間の間、ビームスキャナ26を制御して、透明であるように制御される少なくとも幾つかのピクセルを有するマスクの少なくとも1つの領域を横切る光ビーム28をスキャンさせることができる。スキャンは、マスクの少なくとも1つの領域内のそれぞれのピクセルにわたる光透過の不均一性を補償するように実行することができる。補償は、(i)光ビームが少なくとも1つの領域上でスキャンされる間、光ビームの光強度を変化させるステップ、(ii)光ビームが少なくとも1つの領域上でスキャンされる間、光ビームのスキャン速度を変化させるステップ、又は(iii)光ビームが少なくとも1つの領域上で繰り返しスキャンされる回数を変化させるステップを含むことができる。より具体的には、ピクセルが減衰した光出力を出力することが(ステップ252の評価によって)分かっているこれらの領域については、減衰した光出力を補償するために、光ビームの光強度を増加させることができ、光ビームのスキャン速度を減少させることができ、及び/又はこれらの領域を通過するスキャン回数を増加させることができる。
【0045】
前述の議論から明らかなように、本発明の態様は、様々なコンピュータシステム及びその上に記憶されたコンピュータ可読命令を有するコンピュータ可読記憶媒体の使用を伴う。図15は、本明細書で論じるコンピューティングシステム(例えば、コントローラ36)の何れかを代表することができるシステム300の一例を提供する。様々なコンピュータシステムの全てが、システム300の特徴の全てを有するわけではない点に留意されたい。例えば、上述したコンピュータシステムの特定のものは、ディスプレイ機能がコンピュータシステムに通信可能にカップリングされたクライアントコンピュータによって提供することができる限り、又はディスプレイ機能が不要であり得る限り、ディスプレイを含まないことがある。このような詳細は、本発明にとって重要ではない。
【0046】
システム300は、情報を通信するためのバス302又は他の通信機構と、情報を処理するためにバス302とカップリングされたプロセッサ304とを含む。コンピュータシステム300はまた、プロセッサ304によって実行される情報及び命令を記憶するために、バス302にカップリングされたランダムアクセスメモリ(RAM)又は他の動的記憶デバイス等のメインメモリ306を含む。メインメモリ306はまた、プロセッサ304によって実行されるべき命令の実行中に一時変数又は他の中間情報を記憶するために使用することができる。コンピュータシステム300は、プロセッサ304のための静的情報及び命令を記憶するために、バス302にカップリングされた読み出し専用メモリ(ROM)308又は他の静的記憶デバイスを更に含む。記憶デバイス310、例えばハードディスク、フラッシュメモリベースの記憶媒体、又はプロセッサ304が読み取り可能な他の記憶媒体は、情報及び命令(例えば、オペレーティングシステム、アプリケーションプログラム等)を記憶するために提供され、バス302にカップリングされる。
【0047】
コンピュータシステム300は、コンピュータユーザに情報を表示するために、バス302を介して、フラットパネルディスプレイなどのディスプレイ312にカップリングすることができる。英数字及び他のキーを含むキーボード等の入力デバイス314は、プロセッサ304に情報及びコマンド選択を伝達するために、バス302にカップリングすることができる。別のタイプのユーザ入力デバイスは、方向情報及びコマンド選択をプロセッサ304に伝達し、及びディスプレイ312上のカーソル移動を制御するための、マウス、トラックパッド、又は同様の入力デバイス等のカーソル制御デバイス316である。マイク、スピーカ等の他のユーザインターフェースデバイスは、詳細には図示しないが、ユーザ入力の受信及び/又は出力の提示に関与することができる。
【0048】
本明細書で言及されるプロセスは、プロセッサ304がメインメモリ306に含まれるコンピュータ可読命令の適切なシーケンスを実行することによって実施することができる。そのような命令は、記憶デバイス310のような別のコンピュータ可読媒体からメインメモリ306に読み込まれてもよく、及びメインメモリ306に含まれる命令シーケンスの実行は、プロセッサ304に関連するアクションを実行させる。代替の実施形態では、本発明を実施するために、プロセッサ304及びその関連コンピュータソフトウェア命令の代わりに、又はプロセッサ304と組み合わせて、ハードワイヤード回路又はファームウェア制御処理ユニットを使用することができる。コンピュータ可読命令は、任意のコンピュータ言語でレンダリングすることができる。
【0049】
一般に、上記のプロセス説明は全て、任意のコンピュータ実行可能アプリケーションの特徴である、所定の目的を達成するために連続して実行される一連の論理ステップを包含することを意図している。特に断らない限り、本発明の説明全体を通して、「処理」、「計算」、「計算」、「決定」、「ディスプレイ」、「受信」、「送信」等の用語の使用は、適切にプログラムされたコンピュータシステムの動作及びプロセスを指すことを理解されたい、 コンピュータシステム300又は類似の電子計算デバイスのように、そのレジスタ及びメモリ内の物理的(電子的)量として表されるデータを、そのメモリ又はレジスタ又は他のそのような情報記憶、送信又はディスプレイデバイス内の物理的量として同様に表される他のデータに操作及び変換する。
【0050】
コンピュータシステム300はまた、バス302にカップリングされた通信インターフェース318を含む。通信インターフェース318は、コンピュータネットワークとの双方向データ通信チャネルを提供することができ、これにより、上述した様々なコンピュータシステムとの接続性及びコンピュータシステム間の接続性が提供される。例えば、通信インターフェース318は、それ自体が1又は2以上のインターネットサービスプロバイダネットワークを介してインターネットに通信可能にカップリングされている互換LANへのデータ通信接続を提供するためのローカルエリアネットワーク(LAN)カードとすることができる。このような通信経路の正確な詳細は、本発明にとって重要ではない。重要なのは、コンピュータシステム300が通信インターフェース318を介してメッセージ及びデータを送受信でき、そのようにしてインターネットを介してアクセス可能なホストと通信できることである。
【0051】
以上、発熱を低減した液状樹脂の光硬化方法及びシステムについて説明してきた。上記の説明は例示を意図したものであり、限定するものではないことを理解されたい。他の多くの実施形態は、上記の説明を検討すれば当業者には明らかであろう。従って、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照して、このような特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲と共に決定されるべきである。
【符号の説明】
【0052】
10 タンク
18 光硬化性液状樹脂
22 3次元物体
24 光源
26 ビームスキャナ
28 光ビーム
30 マスク
36 コントローラ
53 断面
56、58 ピクセル
58 ピクセル
60 断面
64a 第1の領域
64b 第2の領域
64c 第3の領域
100 液槽光重合プリンター
304 プロセッサ
306 メモリ
d2 直径
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15
【国際調査報告】