IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シェンズェン カプチェム テクノロジー カンパニー リミテッドの特許一覧

<>
  • 特表-リン酸鉄リチウム電池 図1
  • 特表-リン酸鉄リチウム電池 図2
  • 特表-リン酸鉄リチウム電池 図3
  • 特表-リン酸鉄リチウム電池 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】リン酸鉄リチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240216BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240216BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20240216BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240216BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/58
H01M4/136
H01M10/0567
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552071
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(85)【翻訳文提出日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 CN2022083551
(87)【国際公開番号】W WO2022218143
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】202110392924.0
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513222359
【氏名又は名称】シェンズェン カプチェム テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN CAPCHEM TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 1901, Capchem Plaza, No. 9 Changye Road, Liulian Community, Pingshan Street, Pingshan District, Shenzhen City, 518118, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】銭 ▲ゆぃん▼嫻
(72)【発明者】
【氏名】胡 時光
(72)【発明者】
【氏名】向 暁霞
(72)【発明者】
【氏名】李 紅梅
(72)【発明者】
【氏名】曹 朝偉
(72)【発明者】
【氏名】▲とう▼ 永紅
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ08
5H029HJ18
5H050AA07
5H050AA09
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050HA08
5H050HA18
(57)【要約】
既存の高圧縮リン酸鉄リチウム電池に存在するリチウムデンドライト及び鉄イオン溶出の問題を克服するために、本発明は、リン酸鉄リチウム電池を提供する。このリン酸鉄リチウム電池は、正極、負極及び非水電解液を含む。正極は正極材料層を含み、正極材料層の圧縮密度は2.3~2.8g/ccである。正極材料層は正極活物質を含み、正極活物質はLiFePOを含む。非水電解液は、溶媒と、電解質塩と、ビニレンカーボネートと、構造式1で示される化合物とを含み:
A-D-B-E-C
構造式1
非水電解液の総質量を100%として、前記構造式1で示される化合物の添加量は0.01~5%である。本発明によって提供されるリン酸鉄リチウム電池は、ビニレンカーボネートと構造式1で示される化合物との組み合わせを採用することにより、負極界面でのリチウムデンドライトの生成及び正極のFe溶出を抑制することができ、最終的に高圧縮密度リン酸鉄リチウム電池の高温性能と安全性能などの性能を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸鉄リチウム電池であって、正極と、負極と、非水電解液とを含み、前記正極は正極材料層を含み、前記正極材料層の圧縮密度は2.3~2.8g/ccであり、前記正極材料層は正極活物質を含み、前記正極活物質はLiFePOを含み、
前記非水電解液は、溶媒と、電解質塩と、ビニレンカーボネートと、構造式1で示される化合物とを含み:
A-D-B-E-C
構造式1
式中、A、B、Cは、それぞれ独立して、環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基、又は環状酸無水物基を含有する基から選択され、
D、Eは、それぞれ独立して、単結合、又はアルキレン基、エーテル結合、硫黄-酸素二重結合若しくは炭素-酸素二重結合を含有する基から選択され、
前記非水電解液の総質量を100%として、前記構造式1で示される化合物の添加量は0.01~5%である、ことを特徴とするリン酸鉄リチウム電池。
【請求項2】
前記非水電解液の総質量を100%として、前記ビニレンカーボネートの添加量は0.01~5%であり、より好ましくは、前記ビニレンカーボネートの添加量は0.1~2%である、ことを特徴とする請求項1に記載のリン酸鉄リチウム電池。
【請求項3】
前記正極表面は、X線光電子分光法により検出され、284.5eVに炭素の1sピークが得られると、162~174eVの領域にSの特徴的なピークが現れる、ことを特徴とする請求項1に記載のリン酸鉄リチウム電池。
【請求項4】
前記リン酸鉄リチウム電池の充放電電圧範囲は、2.0~3.8Vである、ことを特徴とする請求項1に記載のリン酸鉄リチウム電池。
【請求項5】
A、B、Cがそれぞれ独立して含有する環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基及び環状酸無水物基の数は、1~5であり、A、B、Cが含有する環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基及び環状酸無水物基の合計数は、10以下である、ことを特徴とする請求項1に記載のリン酸鉄リチウム電池。
【請求項6】
A、Cは、それぞれ独立して、構造式2で示される基から選択され:
【請求項7】
Bは、構造式3で示される基から選択され:
【請求項8】
D、Eは、それぞれ独立して、構造式4で示される基から選択され:
【請求項9】
AとCは互いに同じであり、AとBは互いに同じか異なっており、DとEは互いに同じである、ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載リン酸鉄リチウム電池。
【請求項10】
前記構造式1で示される化合物は、以下の化合物の1つ又は複数から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のリン酸鉄リチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の技術分野に関し、具体的には、リン酸鉄リチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、動作電圧が高く、サイクル寿命が長く、エネルギー密度が大きく、メモリー効果がないなどの利点を有するため、1991年に市場に投入されて以来、移動通信、ノートパソコンなどの分野で幅広く使用されている。近年、新エネルギー自動車の急速な発展と普及に伴い、リチウムイオン電池のエネルギー密度に対する消費者の要求がますます高まっている。三元電池と比較して、リン酸鉄リチウム電池は、サイクル寿命、安全性、及びコストの点でより多くの利点があるが、リン酸鉄リチウムのエネルギー密度と三元系材料のエネルギー密度の間には、依然として大きな隔たりがある。現在、単体リン酸鉄リチウム電池のエネルギー密度は、主にリン酸鉄リチウム正極の圧縮密度を高めることによって向上している。
【0003】
しかしながら、リン酸鉄リチウム正極材料の圧縮密度をやみくもに増加させると、第一に、正極のFeイオンの溶出が増加し、電解質の酸化と分解現象が激しくなり、それにより、電池の高温保存やサイクルなどの性能が低下する。第二に、これは、電極界面でのリチウムデンドライトの生成につながるため、電池内で短絡や発火を引き起こし、電池の安全性能に重大な影響を与える。これにより、高圧縮密度のリン酸鉄リチウム正極材料の応用が制限される。正極材料のメーカーも正極材料構造の安定性を向上させるために様々なドーピング・コーティングを使用しているが、現在の市販の電解液を高圧縮リン酸鉄リチウム正極材料システムに使用して、高温サイクル、高温保存、及び高温でのFeイオンの溶出などの問題を改善することは、依然として大きなチャレンジである。従って、高圧縮密度(2.3~2.8g/cc)のリン酸鉄リチウム電池用の添加剤を開発し、リン酸鉄リチウム電池の高温保存、高温サイクル及びFeイオン溶出の電解液を改善することは、比較的大きな意義がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、既存の高圧縮リン酸鉄リチウム電池におけるリチウムデンドライトと鉄イオン溶出の問題に対して、リン酸鉄リチウム電池を提供する。
【0005】
本発明が上述の技術的課題を解決するために採用する技術的解決策は下記のとおりである。
本発明は、リン酸鉄リチウム電池を提供する。このリン酸鉄リチウム電池は、正極、負極及び非水電解液を含む。前記正極は正極材料層を含み、前記正極材料層の圧縮密度は2.3~2.8g/ccである。前記正極材料層は正極活物質を含み、前記正極活物質はLiFePOを含む。
前記非水電解液は、溶媒と、電解質塩と、ビニレンカーボネートと、構造式1で示される化合物とを含み:
A-D-B-E-C
構造式1
式中、A、B、Cは、それぞれ独立して、環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基、又は環状酸無水物基を含有する基から選択され、
D、Eは、それぞれ独立して、単結合、又はアルキレン基、エーテル結合、硫黄-酸素二重結合若しくは炭素-酸素二重結合を含有する基から選択され、
前記非水電解液の総質量を100%として、前記構造式1で示される化合物の添加量は0.01~5%である。
【0006】
オプションで、前記非水電解液の総質量を100%として、前記ビニレンカーボネートの添加量は、0.01~5%であり、より好ましくは、前記ビニレンカーボネートの添加量は、0.1~2%である。
【0007】
オプションで、前記正極表面は、X線光電子分光法により検出され、284.5eVに炭素の1sピークが得られると、162~174eVの領域にSの特徴的なピークが現れる。
【0008】
オプションで、前記リン酸鉄リチウム電池の充放電電圧範囲は、2.0~3.8Vである。
【0009】
オプションで、A、B、Cがそれぞれ独立して含有する環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基及び環状酸無水物基の数は、1~5であり、A、B、Cが含有する環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基及び環状酸無水物基の合計数は、10以下である。
【0010】
オプションで、A、Cは、それぞれ独立して、構造式2で示される基から選択され:
【0011】
オプションで、Bは構造式3で示される基から選択され:
【0012】
オプションで、D、Eは、それぞれ独立して、構造式4で示される基から選択され:
【0013】
オプションで、D、Eは、それぞれ独立して、単結合又はC1~C5のアルキレン基から選択され、A、B、Cは、それぞれ独立して、置換若しくは非置換の環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基又は環状酸無水物基から選択される。A、B又はCが置換されている場合、置換基は、ハロゲン、アルキル基又はハロゲン化アルキル基から選択される。
【0014】
オプションで、AとCは互いに同じであり、AとBは互いに同じか異なっており、DとEは互いに同じである。
【0015】
オプションで、前記構造式1で表される化合物は、以下の化合物のうちの1つ又は複数から選択され:
【0016】
本発明によって提供されるリン酸鉄リチウム電池によれば、非水電解液にビニレンカーボネート及び構造式1で示される化合物が加えられ、ビニレンカーボネート及び構造式1で示される化合物は、正極と負極表面の界面膜の成形に関与する。ビニレンカーボネートの分解生成物と構造式1で示される化合物の分解生成物は一緒になって有機-無機結合の界面膜を形成すると推測される。この界面膜は、電池の高温サイクル過程中のリチウムイオンの移動速度を効果的に向上させることができ、同時に電極材料に対する比較的良好な保護作用を有し、電解液と電極材料との間の酸化還元反応を低下させ、負極界面でのリチウムデンドライトの生成及び正極のFeイオンの溶出を抑制し、最終的にリン酸鉄リチウム電池の高温性能と安全性能などの性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例5で提供される電池の容量グレーディング後の電池正極片のXPSスペクトルの全スペクトルである。
図2図1における特徴的なピークの微細なスペクトルである。
図3】本発明の実施例5で提供される電池の1000回サイクル後の負極のSEM画像である。
図4】本発明の比較例1で提供される電池の1000回サイクル後の負極のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明が解決しようとする技術的課題、技術的解決策及び有益な効果をさらに明らかにするために、以下、図面及び実施例を組み合わせて、本発明をさらに詳細に説明する。ここで述べる具体的な実施例は本発明の解釈のために用いられ、本発明を限定するためのものではないことを理解するべきである。
【0019】
本発明の実施例は、正極、負極及び非水電解液を含むリン酸鉄リチウム電池を提供する。前記正極は正極材料層を含み、前記正極材料層の圧縮密度は2.3~2.8g/ccである。前記正極材料層は正極活物質を含み、前記正極活物質はLiFePOを含む。
前記非水電解液は、溶媒と、電解質塩と、ビニレンカーボネートと、構造式1で示される化合物とを含み:
A-D-B-E-C
構造式1
式中、A、B、Cは、それぞれ独立して、環状エステル基又は環状酸無水物基を含有する基から選択される。前記環状エステル基は、環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基及び環状カルボン酸エステル基のうちの1つ又は複数を含む。
D、Eは、それぞれ独立して、単結合、又はアルキレン基、エーテル結合、硫黄-酸素二重結合若しくは炭素-酸素二重結合を含有する基から選択される。
前記非水電解液の総質量を100%として、前記構造式1で示される化合物の添加量は0.01~5%である。
【0020】
本発明者は、研究により、ビニレンカーボネート及び構造式1で示される化合物が、正極と負極の表面の界面膜の成形に関与し、ビニレンカーボネートの分解生成物と構造式1で示される化合物の分解生成物が一緒になって有機-無機結合の界面膜を構成するものと推測している。この界面膜は、電池の高温サイクル過程中のリチウムイオンの移動速度を効果的に向上させることができ、同時に電極材料に対する比較的良好な保護作用を有し、電解液と電極材料との間の酸化還元反応を低下させ、負極界面でのリチウムデンドライトの生成及び正極のFeイオンの溶出を抑制し、最終的にリン酸鉄リチウム電池の高温性能と安全性能などの性能を向上させることができる。
【0021】
ビニレンカーボネートは、電極の表面に重合体構造の有機界面を形成することができるが、高圧縮密度のリン酸鉄リチウム系では、負極上のこのような有機界面は、リチウムイオンの移動を助長せず、負極の表面に堆積して、リチウムデンドライトを形成する。リチウムデンドライトと電解液の反応により、電池性能の更なる低下及び鉄イオンの溶出などの問題が引き起こされる。本発明者は、実験により、非水電解液にビニレンカーボネートと構造式1で示される化合物を同時に添加すると、高圧縮密度のリン酸鉄リチウム電池とのより良好な相乗効果を形成でき、構造式1で示される化合物を添加した後、構造式1で示される化合物は電極表面に特殊成分を含む界面膜を形成することができ、即ち、界面膜のリチウムイオンの伝導速度を向上させることができるとともに、正負極の構造を保護することができ、電池材料の高温サイクル下での安定性を向上させることができることを見出した。
【0022】
好ましい実施例では、前記構造式1で示される化合物の添加量は、0.1~2%である。
【0023】
幾つかの実施例で、前記正極表面をX線光電子分光法により検出した。図1及び図2に示すように、284.5eVに炭素の1sピークが得られると、162~174eVの領域にSの特徴的なピークが現れる。これは、ビニレンカーボネートと構造式1で示される化合物とが一緒に正極表面に界面膜を形成することを示している。この界面膜は、比較的優れた有機・無機組成を有し、それにより、高圧縮リン酸鉄リチウム電池の性能が明らかに向上する。
【0024】
幾つかの実施例では、前記非水電解液の総質量を100%として、前記ビニレンカーボネートの添加量は、0.01~5%である。
【0025】
好ましい実施例では、前記非水電解液の総質量を100%として、前記ビニレンカーボネートの添加量は、0.1~2%である。
【0026】
前記リン酸鉄リチウム電池において、ビニレンカーボネートと構造式1で示される化合物とは、比較的良好な相乗関係を有しており、ビニレンカーボネート又は構造式1で示される化合物のいずれかの添加量が少なすぎると、比較的良好な相乗効果を得ることが困難であり、ビニレンカーボネート又は構造式1で示される化合物のいずれかの添加量が多すぎると、膜が厚くなりすぎてインピーダンスが上昇するだけでなく、電解液の粘度が著しく上昇し、電池の性能発揮に影響を与える。
【0027】
幾つかの実施例では、前記リン酸鉄リチウム電池の充放電電圧範囲は、2.0~3.8Vである。
【0028】
幾つかの実施例では、A、B、Cがそれぞれ独立して含有する環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基及び環状酸無水物基の数は、1~5であり、A、B、Cの環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基及び環状酸無水物基の合計数は、10以下である。
【0029】
幾つかの実施例では、A、Cは、それぞれ独立して、構造式2で示される基から選択され:
【0030】
【0031】
幾つかの実施例では、Bは、構造式3で示される基から選択され:
【0032】
幾つかの実施例では、D、Eは、それぞれ独立して、構造式4で示される基から選択され:
【0033】
幾つかの実施例では、AとCは互いに同じであり、AとBは互いに同じか異なっており、DとEは互いに同じである。
【0034】
AとCが互いに同じであり、DとEが互いに同じである場合、前記構造式1で示される化合物は対称構造である。非対称構造と比較すると、対称構造の構造式1で示される化合物は、合成が容易であり、生成物の収率が高いため、コストの低減に有利である。
【0035】
幾つかの実施例では、D、Eは、それぞれ独立して、単結合又はC1~C5のアルキレン基から選択され、A、B、Cは、それぞれ独立して、置換若しくは非置換の環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基又は環状酸無水物基から選択される。好ましくは、A、B又はCが置換されている場合、置換基は、ハロゲン、炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基から選択される。より好ましくは、A、B又はCが置換されている場合、置換基は、ハロゲン、アルキル基又はハロゲン化アルキルから選択される。
【0036】
一例として、構造式1で示される化合物は、以下の化合物のうちの1つ以上から選択することができる:
【0037】
幾つかの実施例では、D、Eは、それぞれ独立して、構造式4で示される基から選択され:
A、B、Cは、それぞれ独立して、置換若しくは非置換の環状炭酸エステル基、環状硫酸エステル基、環状亜硫酸エステル基、環状スルホン酸エステル基、環状スルホン基、環状スルホキシド基、環状カルボン酸エステル基又は環状酸無水物基から選択される。好ましくは、A、B又はCが置換されている場合、置換基は、ハロゲン、炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基から選択される。より好ましくは、A、B又はCが置換されている場合、置換基は、ハロゲン、アルキル基又はハロゲン化アルキルから選択される。
一例として、構造式1で示される化合物は、以下の化合物のうちの1つ以上から選択することができる:
【0038】
一例として、構造式1で示される化合物は、以下の化合物のうちの1つ以上から選択することもできる:
【0039】
なお、上記は本発明の特許請求の範囲に記載の化合物の一部であるが、これらに限定されるものではなく、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0040】
当業者は、構造式1の化合物の構造式を知っている場合、化学合成分野における一般知識に従って上記化合物の製造方法を知ることができる。例えば:
【0041】
化合物1は、以下の方法により調製することができる。
ソルビトール、炭酸ジメチル、メタノールアルカリ性物質触媒である水酸化カリウム、及びDMFなどの有機溶媒を反応容器に入れ、加熱条件下で数時間反応させた後、一定量のシュウ酸を加えてpHを中性に調整し、濾過して再結晶した後、中間生成物1を得ることができる。次に、中間生成物1、炭酸エステル、塩化チオニルなどを高温条件下でエステル化して中間生成物2を得る。その後、過ヨウ素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用して中間生成物2を酸化することで、化合物1を得る。
【0042】
化合物2は、以下の方法により調製することができる。
ジアセトン-D-マンニトール、炭酸ジメチル、メタノール、炭酸カリウム及びジオキサンなどを加熱、撹拌条件下で数時間反応させた後、一定量のシュウ酸を加えてpHを中性に調整し、濾過して濃縮した後、中間生成物3を得る。中間生成物3に適量の純水、炭酸エステル、酸などを加えて加水分解し、中間生成物4を得る。その後、中間生成物4、塩化チオニル及び炭酸エステル溶媒を加熱条件下で調製して、中間生成物5を得る。最後に、過ヨウ素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用して中間生成物5を酸化することで、化合物2を得ることができる。
【0043】
幾つかの実施例では、前記溶媒は、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒、炭酸エステル系溶媒、及びカルボン酸エステル系溶媒のうちの1つ又は複数を含む。
【0044】
エーテル系溶媒は、環状エーテル又は鎖状エーテルを含む。
【0045】
環状エーテルの例として、例えば、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,4-ジオキサン(DX)、クラウンエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-CH-THF),2-トリフルオロメチルテトラヒドロフラン(2-CF-THF)のうちの1つ又は複数を挙げることができる。
【0046】
鎖状エーテルの例として、例えば、ジメトキシメタン(DMM)、1,2ジメトキシエタン(DME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)のうちの1つ又は複数を挙げることができる。
【0047】
ニトリル系溶媒の例として、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、マロノニトリルのうちの1つ又は複数を挙げることができる。
【0048】
炭酸エステル系溶媒は、環状炭酸エステル又は鎖状炭酸エステルを含む。
【0049】
環状炭酸エステルの例として、例えば、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(GBL)、炭酸ブチレン(BC)のうちの1つ又は複数を挙げることができる。
【0050】
鎖状炭酸エステルの例として、例えば、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(EMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸メチルn-プロピル、炭酸エチルn-プロピル、炭酸ジプロピル(DPC)のうちの1つ又は複数を挙げることができる。
【0051】
カルボン酸エステル系溶媒は、環状カルボン酸エステル又は鎖状炭酸エステルを含む。
【0052】
環状カルボン酸エステルの例として、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトンのうちの1つ又は複数を挙げることができる。
【0053】
鎖状炭酸エステルの例として、例えば、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(EP)、酢酸ブチル、プロピオン酸プロピル(PP)、プロピオン酸ブチルのうちの1つ又は複数を挙げることができる。
【0054】
幾つかの実施例では、前記電解質塩は、リチウム塩から選択される。好ましい実施例では、前記電解質塩は、LiPF、LiBF、LiBOB、LiDFOB、LiN(SOCF、LiN(SO、LiC(SOCF、LiN(SOF)、LiClO、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl、LiDFOP、LiPOのうちの1つ又は複数から選択される。より好ましい実施例では、前記電解質塩は、LiPF、LiPO及びLiFSIのうちの1つ又は複数から選択される。
【0055】
幾つかの実施例では、前記非水電解液において、前記電解質塩の濃度は、0.1mol/L~8mol/Lである。好ましい実施例では、前記非水電解液において、前記電解質塩の濃度は、0.5mol/L~4mol/Lである。具体的には、前記電解質塩の濃度は、0.5mol/L、1mol/L、1.5mol/L、2mol/L、2.5mol/L、3mol/L、3.5mol/L又は4mol/Lであってもよい。
【0056】
幾つかの実施例では、前記非水電解液は補助添加剤をさらに含む。前記補助添加剤は、フッ素化環状炭酸エステル系化合物、スルトン系化合物、芳香族添加剤、含フッ素アニソール化合物、ジカルボン酸無水物、ジフルオロリン酸リチウム、硫酸エチレン(DTD)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、メチレンメタンジスルホネート、リン酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)のうちの少なくとも1つを含む。
【0057】
幾つかの実施例では、前記フッ素化環状炭酸エステル系化合物は、フッ素化炭酸エチレン(FEC)、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)エチレンカーボネート、4-(ジフルオロメチル)エチレンカーボネート、4-(トリフルオロメチル)エチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-4-フルオロエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-5-フルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5,5-ジメチルエチレンカーボネートのうちの1つ又は複数を含む。
【0058】
前記非水電解液がフッ素化環状炭酸エステル系化合物を含む場合、前記非水電解液の総質量を100%として、前記フッ素化環状炭酸エステル系化合物の含有量は0.1~30%である。
【0059】
幾つかの実施例では、前記スルトン系化合物は、1,3-プロパンスルトン(PS)、1,4-ブタンスルトン(BS)、1,3-プロペンスルトン(PST)のうちの1つ又は複数から選択される。
【0060】
前記非水電解液がスルトン系化合物を含む場合、前記非水電解液の総質量を100%として、前記スルトン系化合物の含有量(質量百分率)は0.1~5%である。
【0061】
幾つかの実施例では、前記芳香族添加剤は、ビフェニル、アルキルビフェニル、テルフェニル、テルフェニルの部分水素化物、シクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフランなどの芳香族化合物と、2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼンのうちの1つ又は複数を含む。
【0062】
前記非水電解液が芳香族添加剤を含む場合、前記非水電解液の総質量を100%として、前記芳香族添加剤の含有量(質量百分率)は0.1~5%である。
【0063】
幾つかの実施例では、前記含フッ素アニソール化合物は、2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソールのうちの1つ又は複数を含む。
【0064】
前記非水電解液が含フッ素アニソール化合物を含む場合、前記非水電解液の総質量を100%として、前記含フッ素アニソール化合物の含有量(質量百分率)は0.1~5%である。
【0065】
幾つかの実施例では、前記ジカルボン酸無水物は、コハク酸、マレイン酸、フタル酸のうちの1つ又は複数を含む。
【0066】
前記非水電解液がジカルボン酸無水物を含む場合、前記非水電解液の総質量を100%として、前記ジカルボン酸無水物の含有量(質量百分率)は0.1~5%である。
【0067】
幾つかの実施例では、前記非水電解液がジフルオロリン酸リチウムを含む場合、前記非水電解液の総質量を100%として、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量(質量百分率)は0.1~2%である。
【0068】
幾つかの実施例では、前記非水電解液が硫酸エチレン(DTD)を含む場合、前記非水電解液の総質量を100%として、前記硫酸エチレン(DTD)の含有量(質量百分率)は0.1~5%である。
【0069】
幾つかの実施例では、前記非水電解液がリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含む場合、前記非水電解液の総質量を100%として、前記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の含有量(質量百分率)は0.1~5%である。
【0070】
幾つかの実施例では、前記補助添加剤はまた、1-メチル-2-ピロリドン、1-メチル-2-ピペリドン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチルスクシンイミドなどの含窒素化合物と、ヘプタン、オクタン、シクロヘプタンなどの炭化水素化合物と、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロトルエンなどの含フッ素芳香族化合物などを含む。
【0071】
なお、特に断りのない限り、一般に、非水電解液における前記補助添加剤中の任意物質の含有量(質量百分率)の範囲は10%以下であり、好ましくは、含有量(質量百分率)は0.1~5%である。
【0072】
好ましい実施例では、前記補助添加剤は、1,3-プロパンスルトン、メチレンメタンジスルホネート、フッ素化炭酸エチレン、及び硫酸エチレンのうちの1つ又は複数から選択される。
【0073】
幾つかの実施例では、前記正極は正極集電体をさらに含む。前記正極材料層は、前記正極集電体の表面を覆う。前記正極集電体は、電子を伝導できる金属材料から選択される。好ましくは、前記正極集電体は、Al、Ni、ステンレスのうちの1つ又は複数を含む。より好ましい実施例では、前記正極集電体はアルミ箔から選択される。
【0074】
幾つかの実施例では、前記正極材料層は、正極バインダーと正極導電剤をさらに含む。前記正極活物質、前記正極バインダー及び前記正極導電剤を混合して前記正極材料層を得る。
【0075】
前記正極バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-フッ素化エチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン及ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂と、アクリル樹脂と、スチレンブタジエンゴムとのうちの1つ又は複数を含む。
【0076】
前記正極導電剤は、導電性カーボンブラック、導電性炭素球、導電性グラファイト、導電性炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン又は還元型酸化グラフェンのうちの1つ又は複数を含む。
【0077】
幾つかの実施例では、前記負極は負極材料層を含み、前記負極材料層は負極活物質を含む。前記負極活物質は、シリコン系負極、炭素系負極、スズ系負極、リチウム負極のうちの1つ又は複数を含む。前記シリコン系負極は、シリコン材料、シリコンの酸化物、シリコン-炭素複合材料、及びシリコン合金材料のうちの1つ又は複数を含む。前記炭素系負極は、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラフェン、及びメソカーボンマイクロビーズのうちの1つ又は複数を含む。前記スズ系負極は、スズ、スズ-炭素、スズ-酸素、およびスズ金属化合物のうちの1つ又は複数を含む。前記リチウム負極は、金属リチウム又はリチウム合金のうちの1つ又は複数を含む。前記リチウム合金は、具体的には、リチウム-シリコン合金、リチウム-ナトリウム合金、リチウム-カリウム合金、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-スズ合金、及びリチウム-インジウム合金のうちの少なくとも1であってもよい。
【0078】
好ましい実施例では、前記負極活物質は、人造グラファイト、天然グラファイト、及びシリコン-酸素-炭素のうちの1つ又は複数から選択される。幾つかの実施例では、前記負極は負極集電体をさらに含む。前記負極材料層は、前記負極集電体の表面を覆う。前記負極集電体は、電子を伝導できる金属材料から選択される。好ましくは、前記負極集電体は、Cu、Ni、ステンレスのうちの1つ又は複数を含む。より好ましい実施例では、前記負極集電体は銅箔から選択される。
【0079】
幾つかの実施例では、前記負極材料層は、負極バインダーと負極導電剤をさらに含む。前記負極活物質、前記負極バインダー及び前記負極導電剤を混合して前記負極材料層を得る。
【0080】
前記負極バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-フッ素化エチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン及びポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂と、アクリル樹脂と、スチレンブタジエンゴムとのうちの1つ又は複数を含む。
【0081】
前記負極導電剤は、導電性カーボンブラック、導電性炭素球、導電性グラファイト、導電性炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン又は還元型酸化グラフェンのうちの1つ又は複数を含む。
【0082】
幾つかの実施例では、前記電池は隔膜をさらに含む。前記隔膜は、前記正極と前記負極との間に位置する。前記隔膜は、既存の通常の隔膜であってもよく、セラミック隔膜、ポリマー隔膜、不織布、無機-有機複合隔膜などであってもよく、単層PP(ポリプロピレン)、単層PE(ポリエチレン)、二層PP/PE、二層PP/PP及び三層PP/PE/PPなどの隔膜を含むが、これらに限定されない。
【0083】
以下、実施例によって本発明をさらに説明する。
1、実施例1~29及び比較例1~13
【0084】
1)電解液の調製:炭酸エチレン(EC)と炭酸メチルエチル(EMC)を質量比EC:EMC=3:7に従って混合し、次に、モル濃度が1mol/Lになるまでヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を添加し、その後、以下の各表中の添加剤をそれぞれ添加した。添加剤の使用量は、電解液の総質量に対する百分率に基づいて計算した。
【0085】
2)正極板の製造
93:4:3の質量比で、正極活物質のリン酸鉄リチウム、導電性カーボンブラックSuper-P、及びバインダーのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合し、次にそれらをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させて、正極スラリーを得た。スラリーをアルミ箔の両面上に均一に塗布し、ベーキング乾燥し、圧延し、真空乾燥し、超音波溶接機によりアルミニウム製リード線を溶接して正極板を得た。極板の厚さは120~150μmである。正極材料層の圧縮密度を以下の各表に示す。
【0086】
3)負極板の製造
94:1:2.5:2.5の質量比で、負極活物質の改質天然グラファイト、導電性カーボンブラックSuper-P、バインダーのスチレンブタジエンゴム(SBR)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を混合し、次にそれらを脱イオン水中に分散させて、負極スラリーを得た。スラリーを銅箔の両面上に塗布し、ベーキング乾燥し、ローラで押圧し、超音波溶接機によりニッケル製リード線を溶接して負極板を得た。ローラで押圧した後の各テストグループ及び対照グループの孔隙率を表1に示す。
【0087】
4)電池セルの製造
正極板と負極板との間に厚さ20μmのポリエチレン微孔膜を隔膜として配置し、次に正極板、負極板及び隔膜からなるサンドイッチ構造を巻回した後、巻回体を扁平にしてアルミニウムプラスチックフィルムに入れ、正極と負極のリード線をそれぞれ引き出した後、アルミニウムプラスチックフィルムを熱圧着して封止し、注液される電池セルを得た。
【0088】
5)電池セルの注液と形成
露点が-40℃以下に制御されたグローブボックス内で、上記で調製された電解液を注液孔から電池セル内に注入した。電解液の量は、電池セル内の隙間が確実に満たされるようにする必要がある。次に、0.05Cの定電流で180分間充電し、0.1Cの定電流で180分間充電し、24時間放置した後、形状調整して封止し、その後、さらに0.2Cの定電流で3.65Vまで充電し、常温で24時間放置した後、0.2Cの定電流で2.0Vまで放電するというステップに従って形成を行った。
2、性能テスト
【0089】
実施例1~29及び比較例1~13で製造されたリチウムイオン電池に対して、以下の性能テストを行った。
【0090】
高温サイクル性能テスト
1)45℃の条件下、1Cの定電流で3.65Vまで充電し、次に、定電圧で電流が0.1Cに下がるまで充電し、その後、1Cの定電流で2.0Vまで放電した。このようにして1000回サイクルし、1週目の放電容量と1000回目の放電容量を記録し、以下の式により容量維持率を算出した。
容量維持率=(1000回目の放電容量÷1週目の放電容量)×100%
【0091】
2)3.65V満充電状態、60℃保存テスト:
室温下で、容量グレーディング後の電池を0.5Cで3.65V、カットオフ電流0.02Cまで充電し、5分間放置した後、0.5Cで2.0Vまで放電して、初期容量D1を記録した。次に、0.5Cの定電流、定電圧で3.65V、カットオフ電流0.02Cまで充電して、電池の厚さT1、電圧及び内部抵抗をテストした。満充電状態の電池を60℃の恒温箱内で30日間保存した後、電池の熱間厚さをT2として記録し、常温で4時間放置した後に電池の冷間厚さT3、電圧及び内部抵抗をテストした。次に、0.5Cで2.0Vまで放電して、維持容量D2を記録し、5分間放置した後に0.5Cの定電流、定電圧で3.65V、カットオフ電流0.02Cまで充電し、5分間放置した後、0.5Cで2.0Vまで放電して、回復容量D3を記録した。
電池容量維持率(%)=D2/D1*100%、
電池容量回復率(%)=D3/D1*100%
【0092】
3)鉄イオン溶出テスト:
サイクル後の電池を分解し、電池の負極と負極側隔膜を取り外し、水:濃硝酸=2:1(質量比)の混合溶液に溶解した。消化終了後、20gの消化液を取り、50mlの試薬瓶に分注した後、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)により、負極及び隔膜上に溶出した鉄イオンの量を測定した。
【0093】
1、実施例1~12及び比較例1~2で得られたテスト結果を表1に記入した。
【0094】
実施例1~12及び比較例1、2のテストデータから分かるように、高圧縮密度(2.5g/cm)のリン酸鉄リチウム電池では、ビニレンカーボネート(VC)及び構造式1で示される化合物を単独で添加する場合と比較して、電解液中にビニレンカーボネート(VC)及び構造式1で示される化合物を同時に添加する場合、45℃での高温サイクル及び60℃での高温保存性能の向上が非常に明らかであり、鉄イオンの溶出が効果的に抑制される。即ち、本発明によって提供される添加剤の組み合わせは、高圧縮密度リン酸鉄リチウム電池の高温サイクルと保存性能を明らかに改善することができる。
【0095】
実施例1~8のテストデータから、2%VCの非水電解液では、構造式1で示される化合物の含有量が増加するにつれて、45℃、1C/1Cで1000回サイクルし、60℃で30日間保存した後の性能が最初は良好であるが、その後悪くなることが分かる。構造式1で示される化合物の非水電解液への添加量が0.5%である場合、2%VCとの良好な相乗効果が得られ、電池の全体性能を効果的に向上させることができる。含有量が0.5%を超えると、正極片中の残存量も増加し、構造式1で示される化合物が過量になると、電池内部での副反応が増加し、電池インピーダンスが増加し、電池性能の更なる向上に不利である。含有量が0.5%未満である場合、負極に形成される界面膜が十分に安定せず、リン酸鉄リチウム電池の性能の改善は明らかでない。
【0096】
実施例5、9~12のテストデータから分かるように、上記のように決定された0.5%添加量の構造式1で表される化合物を基準として、ビニレンカーボネート(VC)の添加量が増加するにつれて、リチウムイオン電池の高温サイクル性能が最初は良好であるが、その後低下し、特に、ビニレンカーボネート(VC)の添加量が2%の場合、構造式1で示される化合物との最適な相乗効果を有する。ビニレンカーボネート(VC)の添加量が少なすぎると、膜形成が安定せず、リン酸鉄リチウム電池の高温サイクル性能の改善は明らかでない。ビニレンカーボネート(VC)の含有量が多すぎると、構造式1で示される化合物を添加しても、VC含有量の増加による界面膜の厚さの増加を抑制できず、リン酸鉄リチウム電池はかえって性能が低下する。
【0097】
2、実施例5、13~16及び比較例1、3~11で得られたテスト結果を表2に記入した。
【0098】
実施例5、13~16及び比較例1、3~11のテスト結果から分かるように、ビニレンカーボネート(VC)を含む電解液に構造式1で示される化合物を添加することにより、高圧縮密度(2.3~2.8g/cm)リン酸鉄リチウム電池の高温保存とサイクル性能が効果的に改善され、低圧縮密度(1.8~2.3g/cm)リン酸鉄リチウム電池の高温保存とサイクル性能がある程度向上するが、向上の効果は明らかでない。即ち、高圧縮密度リン酸鉄リチウム電池(2.3~2.8g/cm)の高温サイクルと保存性能に対する構造式1で示される化合物の作用がより著しい。テスト結果は、構造式1で示される化合物がVCと一緒に電極表面に界面膜を形成し、高温サイクルなどのプロセスにおける高圧縮密度リン酸鉄リチウム電池のリチウムイオンの移動速度を向上させ、電解液溶媒と電極材料との間の酸化還元反応を低下させ、負極界面でのリチウムデンドライトの生成を抑制し、最終的にはリン酸鉄リチウム電池の高温サイクルと高温保存性能を向上させることを示している。
【0099】
3、実施例5、17~27及び比較例1~2で得られたテスト結果を表3に記入した。
【0100】
実施例5、17~26と比較例1~2のテストデータを比較すると、高圧縮密度(2.5g/cm)のリン酸鉄リチウム電池では、ビニレンカーボネート(VC)を含有する電解液に構造式1で示される様々な化合物を添加することにより、45℃での高温サイクル及び60℃での高温保存性能が様々な程度で向上し、鉄イオンの溶出が効果的に抑制されることが分かる。これは、構造式1で示される化合物が、高圧縮密度(2.5g/cm)のリン酸鉄リチウム電池においてビニレンカーボネート(VC)とよく相乗するという共通性を有することを示している。
【0101】
4、実施例5、28~29及び比較例1、12~13で得られたテスト結果を表4に記入した。
【0102】
実施例5、28~29及び比較例1、12~13のテストデータから分かるように、ビニレンカーボネート(VC)と構造式1で表される化合物の非水電解液系に硫酸エチレン(DTD)又はメチレンメタンジスルホネート(MMDS)をさらに添加することにより、高圧縮リン酸鉄リチウム電池の高温サイクル性能の高温保存性能がさらに改善される。
【0103】
同時に、実施例5と比較例12~13のテストデータを比較すると、ビニレンカーボネート(VC)の非水電解液中に硫酸エチレン(DTD)又はメチレンメタンジスルホネート(MMDS)を添加した場合と比較して、ビニレンカーボネート(VC)の非水電解液における構造式1で示される化合物は、高密度リン酸鉄リチウム電池に対する改善効果がより顕著である。
【0104】
5、実施例5と比較例1で取得されたリチウムイオン電池を1000回サイクルさせた後、分解して負極片を得、SEMで撮影した。実施例5で得られたテスト構造は図3に示され、比較例1で得られたテスト結果を図4に示す。
【0105】
図3及び図4から分かるように、電解液に2.0%VCを添加しただけで、1000回サイクル後の負極片上に明らかなリチウムデンドライト(図4の棒状構造)が存在する比較例1と比較して、実施例1では、2.0%VCに加えて構造式1で示される化合物を0.5%添加した場合、1000回サイクル後の負極上にはリチウムデンドライトがほとんど存在しないため、構造式1で示される化合物とビニレンカーボネート(VC)との組み合わせを添加することで、リチウムデンドライトの形成を著しく抑制することができる。
【0106】
以上の説明は本発明の好適な実施形態に過ぎず、本発明はこれに限定されるものでなく、本発明の精神および原則内に属する限り、行われる全ての修正、同等の置き換え、改善などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】