(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】非小細胞肺癌のモニタリング方法およびキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20240216BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240216BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20240216BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240216BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240216BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6837 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553089
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(85)【翻訳文提出日】2023-08-31
(86)【国際出願番号】 US2022018340
(87)【国際公開番号】W WO2022187246
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506292158
【氏名又は名称】国立台湾大学
【氏名又は名称原語表記】National Taiwan University
【住所又は居所原語表記】No. 1, Roosevelt Rd. Sec.4, Da‘an District, Taipei,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】董 成淵
(72)【発明者】
【氏名】蔡 幸真
(72)【発明者】
【氏名】余 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】呂 萱萱
(72)【発明者】
【氏名】林 書永
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 儀真
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX01
(57)【要約】
癌の進行または治療法の有効性を診断およびモニタリングするための方法を提供する。この方法は、循環遊離DNAを含む生物学的試料中の少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルを検出することを含む。また、それを必要とする対象における癌の診断または予後のためのプライマー対およびプローブも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象からの生体試料において、KCNS2、HOXA9、SCT、BARHL2、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルを検出する工程を含む、それを必要とする対象における非小細胞肺癌を特徴付ける方法であって、
生体試料が循環遊離DNAを含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの遺伝子がKCNS2である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メチル化レベルが、ビスルファイトシーケンス、アレイまたはビーズハイブリダイゼーション、定量的リアルタイムPCR、メチル化感受性エンドヌクレアーゼ消化後のシークエンス、PCRとシークエンス、メチル化特異的PCRおよびパイロシーケンスにより検出される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記メチル化レベルは、少なくとも1つのプライマー対と少なくとも1つのプローブによって検出され、
前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号1および2に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号3に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;
前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号4および5に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号6に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;
前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号7および8に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号9に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;
前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号10および11に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号12に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;または、
それらの任意の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルに基づいてメチル化リスクスコアを計算する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記メチル化リスクスコアを計算するために、前記少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルに異なる重みが与えられる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記メチル化リスクスコアの計算は、さらに、年齢、性別、現役喫煙状況および元喫煙状況の少なくとも1つに基づく、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記メチル化リスクスコアを計算するために、年齢、性別、現役喫煙状況及び元喫煙状況の少なくとも1つに異なる重みが与えられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記生体試料は、血液、喀痰、胸水、脳脊髄液およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される体液である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記対象は、ドライバー変異、パッセンジャー変異、またはそれらの組み合わせを保有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
非小細胞肺癌の診断を提供する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記非小細胞肺癌の初期段階または後期段階で診断が提供される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルを検出するためのプライマー対及びプローブを含む、非小細胞肺癌を特徴付けるためのキットであって、
前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号1および2に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号3に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;
前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号4および5に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号6に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;
前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号7および8に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号9に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;
前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号10および11に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号12に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;または、
それらの任意の組み合わせである、キット。
【請求項14】
非小細胞肺癌の治療を受けた対象から生体試料を取得する工程と、
KCNS2、HOXA9、SCT、BARHL2、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルを検出する工程と、
前記少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルに基づいて、メチル化リスクスコアを計算する工程と、
を含み、
前記メチル化リスクスコアの変化は、非小細胞肺癌治療の有効性を示す、非小細胞肺癌の治療法を評価する方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの遺伝子がKCNS2である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記メチル化リスクスコアの増加は、疾患進行を示す、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記疾患進行は、腫瘍サイズの増大または転移を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記非小細胞肺癌の治療は、手術、放射線療法、化学療法、標的療法、免疫療法またはそれらの任意の組み合わせである、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、必要とする対象において非小細胞肺癌をモニタリングするための方法またはキットに関する。また、本開示は必要とする対象における非小細胞肺癌を検出、診断、予後、および特徴付けるための方法、組成物およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
癌は依然として世界的な死因のトップである。国際癌研究機関(IARC)は、最近発表した『Globocan 2020』の最新情報では、2020年の死亡者数を1000万人、患者数を1930万人と推定している。
【0003】
すべての癌の中で、肺癌の世界的な発生率は、男女ともにトップ3に入っている。そのため、膨大な数の肺癌患者が治療や経過観察を受けており、治療に対する反応や癌の進行度合いを定期的に評価する必要がある。
【0004】
現在、癌の診断や様々な治療に対する反応の評価は、主に、感度にばらつきのあるコンピューター断層撮影(CT)や核スキャンなどの画像診断、あるいは侵襲的な腫瘍生検に依存している。ただし、これらの評価方法はいずれも再現性に乏しい。例えば、疾患進行の検出は、炎症や線維化などの非癌性実質的な変化(noncancerous parenchymal change)によって覆い隠される可能性がある。したがって、疾患状態の変化を確認するためには、腫瘍サイズの大幅な変化が必要である。実際、治療過程に伴う疾患の動態を追跡できる診断手段はほとんどない。
【0005】
さらに、肺癌患者はに定期的に追跡調査および評価される必要があるため、患者の治療反応や疾患進行を連続的にモニタリングできる低侵襲な方法は、患者にとっても医療従事者にとっても非常に望ましいものである。
【発明の概要】
【0006】
ここで、本開示では、必要とする対象において、非小細胞肺癌の進行または再発を特徴付け、診断、予後判定、層別化およびモニタリングするための少なくとも1つのバイオマーカー、および方法を提供する。本開示は、対象の変異状態や民族グループに関係なく、X線撮影による検出に立って対象の疾患進行を検出する方法およびバイオマーカーを提供する。
【0007】
少なくとも1つの実施形態では、対象からの生体試料において、KCNS2、HOXA9、SCT、BARHL2、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルを検出する工程を含み、生体試料は循環遊離DNAを含む、それを必要とする対象における非小細胞肺癌を特徴付ける方法が提供される。
【0008】
少なくとも1つの実施形態では、本開示の方法は、KCNS2のメチル化レベルを検出する工程をさらに含む。少なくとも1つの実施形態では、前記メチル化レベルは、少なくとも1つのプライマー対と少なくとも1つのプローブによって検出され、前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号1および2に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号3に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号4および5に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号6に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号7および8に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号9に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号10および11に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号12に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;または、それらの任意の組み合わせである。
【0009】
本開示の少なくとも1つの実施形態では、前記メチル化レベルが、ビスルファイトシーケンス、アレイまたはビーズハイブリダイゼーション、定量的リアルタイムPCR、メチル化感受性エンドヌクレアーゼ消化後のシークエンス、PCRとシークエンス、メチル化特異的PCRおよびパイロシーケンスにより検出される。
【0010】
本開示の少なくとも1つの実施形態では、前記それを必要とする対象における非小細胞肺癌を特徴付ける方法は、少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルに基づいてメチル化リスクスコアを計算する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記メチル化リスクスコアを計算するために、前記少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルに異なる重みが与えられる。いくつかの実施形態では、前記メチル化リスクスコアの計算は、さらに、年齢、性別、現役喫煙状況および元喫煙状況の少なくとも1つに基づく。本開示の少なくとも1つの実施形態では、メチル化特異的液滴デジタルPCRによって測定された血漿cfDNAにおける循環メチル化リスクスコアを計算するために、4つの遺伝子について数学的モデルが使用される。本開示の少なくとも1つの実施形態では、数学モデルを使用することで、全段階の肺癌患者のトレーニングコホート及び検証コホートにおける肺癌検出のための臨床メチル化リスクスコアを計算する。本開示の少なくとも1つの実施形態では、前記メチル化リスクスコアは、-1.547+0.024*SCT+0.084*HOXA9-0.039*BARHL2+0.031*KCNS2として計算される。
【0011】
本開示の少なくとも1つの実施形態では、前記対象の非小細胞肺癌を特徴付ける方法で使用される生体試料は、体液、例えば、血液、喀痰、胸水、脳脊髄液またはそれらの任意の組み合わせである。本開示の少なくとも1つの実施形態では、前記対象の非小細胞肺癌を特徴付ける方法で検査される少なくとも1つの遺伝子は、ドライバー変異(driver mutation)、パッセンジャー変異(passenger mutation)、またはそれらの組み合わせを保有する。
【0012】
本開示では、非小細胞肺癌を特徴付けるためのキットも提供される。少なくとも1つの実施形態では、前記キットは、少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルを検出するためのプライマー対と少なくとも1つのプローブを含み、前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号1および2に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号3に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号4および5に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号6に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号7および8に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号9に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;前記少なくとも1つのプライマー対は、それぞれ配列番号10および11に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、前記少なくとも1つのプローブは配列番号12に対して少なくとも80%の配列同一性を有し;または、それらの任意の組み合わせである。
【0013】
本開示では、非小細胞肺癌の治療法を評価する方法も提供される。前記方法は、非小細胞肺癌の治療を受けた対象から生体試料を取得する工程と、KCNS2、HOXA9、SCT、BARHL2、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルを検出する工程と、前記少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルに基づいて、メチル化リスクスコアを計算する工程とを含み、前記メチル化リスクスコアの変化は、非小細胞肺癌治療の有効性を示す。
【0014】
本開示の少なくとも1つの実施形態では、前記方法は、KCNS2のメチル化レベルを検出する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記メチル化リスクスコアの増加は、疾患進行を示す。少なくとも1つの実施形態では、前記非小細胞肺癌の治療は、手術、放射線療法、化学療法、標的療法、免疫療法またはそれらの任意の組み合わせである。少なくとも1つの実施形態では、前記疾患進行は、腫瘍サイズの増大または転移を含む。
【0015】
本開示は、添付の図面と併せて以下の説明を参照することにより、より容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示におけるバイオマーカーの発見、バイオマーカーを用いたアッセイの開発、バイオマーカーの検証を行う際の手順を示すフローチャートである。マーカー発見段階:国立台湾大学病院からの外科的に切除された腫瘍組織および癌ゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas(TCGA))肺癌コホートから得られたゲノム全体のメチル化データのインシリコ解析。候補メチル化プローブを同定するために、癌組織と隣接する肺組織との間の示差メチル化分析を実施した。台湾バイオバンクからの非癌対象の末梢血単核球 (PBMC) でメチル化されたプローブは除外された。癌特異的メチル化マーカーのパネルは、マルチプレックスメチル化特異的液滴デジタルPCR(MS-ddPCR) による測定用に設計されており、これらのマーカーは外科的に切除された肺癌組織を使用して検証された。アッセイ開発段階:肺癌患者の循環遊離DNA中の同定されたマーカーのメチル化レベルは、治療前の初回診断時にMS-ddPCRを使用して、非癌対象と比較して定量された。マーカーパネルに基づいて、k分割交差検証(k-fold cross validation)によるモデルフィッティングを実行して、メチル化リスクスコアを生成した。縦断的検証段階:268サンプル (肺癌患者58人)のcfDNAメチル化スコアは、初回診断時と治療期間中3ヶ月ごとのフォローアップ診察時に取得された。メチル化スコアと放射線学的/臨床的反応の間の関係が記録された。
【
図2A】
図2A~
図2Cは、原発性肺癌組織のゲノムワイドメチル化データからのマーカーの発見を示す。
図2Aは、NTUHからの外科的に切除された肺癌と隣接する肺組織(アデノ(Adeno) (肺腺癌組織)):30、SqCC(肺扁平上皮癌組織):35; AdjU(隣接する未患部組織):15)およびTCGAコホート(アデノ:460、SqCC:370、AdjU:74)において、Infinium MethylationEPIC BeadChipとHumanMethylation450で測定された4つのプローブパネル(SCT、KCNS2、HOXA9、BARHL2)のメチル化レベル(β値)を示すヒートマップを示す。対照としては、台湾バイオバンクの非癌患者からの末梢血単核細胞(PBMC)(N=550)におけるこれらのプローブのメチル化レベルを使用した。NTUH:国立台湾大学病院。TCGA:がんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas)。β値:特定の遺伝子座のメチル化シグナルと非メチル化シグナルの合計に対するメチル化シグナルの比率である。
【
図2B】
図2A~
図2Cは、原発性肺癌組織のゲノムワイドメチル化データからのマーカーの発見を示す。
図2Bは、Infiniumメチル化アレイによって測定された、NTUHおよびTCGAコホートからの肺癌組織対隣接する肺組織(対照、CTL)におけるHOXA9、KCNS2、BARHL2およびSCTのβ値を示す。
【
図2C】
図2A~
図2Cは、原発性肺癌組織のゲノムワイドメチル化データからのマーカーの発見を示す。
図2Cは、NTUHおよびTCGAコホートからの肺腺癌および扁平上皮癌患者における4つのプローブパネルの異なる組み合わせに基づく感度、特異性、陽性的中率(PPV)および陰性的中率(NPV)の概要を示す。β値が0.5を超えるものは、個々のプローブについて陽性と判断する。
【
図3A】
図3Aおよび3BはTCGA肺腺癌および扁平上皮癌組織における典型的なメチル化遺伝子のメチル化レベルを示す。
図3Aは、TCGAデータベース(アデノ:460、SqCC:370、AdjU:74)からの外科的に切除された肺癌および隣接する肺組織において、Infinium HumanMethylation450 BeadChipによって測定された、肺癌における典型的メチル化遺伝子のβ値を示すヒートマップである。
【
図3B】
図3Aおよび3BはTCGA肺腺癌および扁平上皮癌組織における典型的なメチル化遺伝子のメチル化レベルを示す。
図3Bは、TCGAデータベースからの肺腺癌および扁平上皮癌患者における典型的メチル化遺伝子のインシリコ感度、特異性、陽性的中率(PPV)および陰性的中率(NPV)の概要を示す。プロモータープローブの平均β値が0.5を超える遺伝子は、メチル化されていると見なされる。
【
図4A】
図4Aおよび4Bは、原発性肺癌組織におけるプローブ設計および検証を示す。
図4Aは、個々のマーカー遺伝子に対するプローブ位置の概略図を示し、アンプリコンおよびCpG島の位置および長さが示されている。矢印は転写の方向を示す。
【
図4B】
図4Aおよび4Bは、原発性肺癌組織におけるプローブ設計および検証を示す。
図4Bは、メチル化特異的リアルタイムPCRによって測定された、原発性肺癌組織の個々の候補プローブのメチル化レベルのヒートマップを示す。肺癌細胞株(例えば、A549、H1703、H1792、およびH1299)は陽性対照として使用した。健康なボランティアからの末梢血単核細胞 (PBMC) は、陰性対照として使用した。
【
図5】
図5は、H1703およびA549肺癌細胞株において、メチル化特異的液滴デジタルPCR(MS-ddPCR)により測定されたメチル化候補プローブの代表的な散布点プロットを示す。実験は連続希釈で行い、シングルプレックスPCRとマルチプレックスPCRで比較した。各ドットは液滴中のPCR反応シグナルを表す。各レーンの実験条件は、図中に明記した。
【
図6】
図6Aおよび6Bは、非小細胞肺癌(NSCLC)患者対非癌対照対象における血漿cfDNAの濃度および断片サイズを示す。
図6Aは、NSCLC患者(N=74)および非癌対照(N=63)における血漿中cfDNAの濃度を示す。**p<0.01はウェルチのt検定による。
図6Bは、NSCLC患者(N=74)および非癌対照(N=63)における血漿中cfDNAの断片サイズを示す。2つの集団の間でcfDNA断片サイズに有意な(NS)差はない。
【
図7-1】
図7A~7Dは、血漿中のメチル化cfDNAマーカーの4つのプローブパネルが、肺癌患者と非癌対照を区別することを示す。
図7Aは、MS-ddPCRにより非小細胞肺癌患者(N=74)対健康なドナー(N=63)の血漿中の個々の遺伝子プローブ(HOXA9、SCT、KCNS2、およびBARHL2)のメチル化シグナル(コピー/mL)を示す。*p<0.001はマン・ホイットニーのU検定による。
【
図7-2】
図7A~7Dは、血漿中のメチル化cfDNAマーカーの4つのプローブパネルが、肺癌患者と非癌対照を区別することを示す。
図7Bは、肺癌対非癌対照を予測するための4つのプローブパネルおよび個々のプローブの受信者動作特性(ROC)曲線分析を示す。4つのプローブの組み合わせからの最適なモデルを使用して計算されたメチル化スコアのROC曲線下面積 (AUC) は0.95であった。
図7Cは、メチル化スコア(>0.13)およびカルシーノエンブリオニック抗原(CEA>5ng/mL)によって識別できる臨床的に確定した肺癌患者のパーセンテージを示す。
【
図7-3】
図7A~7Dは、血漿中のメチル化cfDNAマーカーの4つのプローブパネルが、肺癌患者と非癌対照を区別することを示す。
図7Dは、メチル化スコアと喫煙、性別、EGFRの状態、腫瘍の病期分類、転移部位との関係を示す。箱ひげ図の中心線はメチル化スコアの中央値を表す。ひげは1.5*四分位範囲 (IQR) を示す。p値は、マン・ホイットニー検定またはテューキーの多重比較検定を使用した一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって計算された。MPE:悪性胸水(Malignant pleural effusion)である。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。NS:有意ではない。
【
図8A】
図8Aおよび8Bは、循環メチル化マーカーと対象の年齢の相関プロットを示す。
図8Aは、個々のプローブ(HOXA9、SCT、KCNS2およびBARHL2)のメチル化レベル(y軸)と年齢(x軸)との間の相関を示す散布図を示す。線形回帰直線を各プロットに当てはめた。相関係数 (r)とp値は、スピアマン相関検定によって計算された。
【
図8B】
図8Aおよび8Bは、循環メチル化マーカーと対象の年齢の相関プロットを示す。
図8Bは、メチル化リスクスコア(y軸)と年齢(x軸)との間の相関を示す散布図を示す。メチル化リスクスコアは、4つのプローブの重み付けされた組み合わせに基づいて計算された。
【
図9-1】
図9A~9Iは、連続血液サンプルにおけるメチル化スコアが臨床反応に対応することを示す。
図9Aは、連続血液サンプルを持つ58人の肺癌患者(N=268)のスイマープロットを示す。各バーは、本試験における1人の対象を表す。白バーは、部分奏効または疾患安定(PR/SD)の患者を表す。黒バーは疾患進行(PD)の患者を表す。白丸は採血の時点を表す。星印はX線撮影の進行時間を示す。PD:疾患進行。PR:部分奏効。SD:疾患安定。
【
図9-2】
図9A~9Iは、連続血液サンプルにおけるメチル化スコアが臨床反応に対応することを示す。
図9Bは、各肺癌患者の治療過程におけるメチル化リスクスコアの動的な変化を示すスパゲッティプロットを示す。各線は研究内の1つの被験者を表す。上段:疾患進行の患者。下段:部分奏効/疾患安定の患者。
図9Cは、一般化推定方程式(GEE)モデルから計算されたPD患者およびPR/SD患者のメチル化スコアの推定周辺平均のバーグラフを示す。エラーバーは95%信頼区間(CI)を表す。
【
図9-3】
図9A~9Iは、連続血液サンプルにおけるメチル化スコアが臨床反応に対応することを示す。
図9Dは、治療コース中の全患者の個別診察からのメチル化スコアを、異なるレベルのメチル化スコア(<0.13、0.13~5.56、>5.56)によって分類して示すバーグラフを示す。バーグラフの濃淡は採血時の疾患の状態を表す。
図9Eは、初回およびフォローアップ診察時に採取された血液サンプルのメチル化レベルを示すドットプロットを示す。疾患状態は、固形腫瘍における反応評価基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors, RECIST)基準 1.1 に従って定義された。PR:部分奏効。PD:疾患進行。SD:疾患安定。
【
図9-4】
図9A~9Iは、連続血液サンプルにおけるメチル化スコアが臨床反応に対応することを示す。
図9Fは、各フォローアップ診察時のメチル化リスクスコアと初回診察時(ベースライン)のメチル化リスクスコアとの間の差異を示す。メチル化スコアの増加は疾患進行とより関連している。p値は、マン・ホイットニー検定によって計算された。*p<0.05。
図9Gは、各フォローアップ診察時のメチル化リスクスコアと前回診察時のメチル化リスクスコアとの間の差異を示す。p値は、マン・ホイットニー検定によって計算された。***p<0.001。
【
図9-5】
図9A~9Iは、連続血液サンプルにおけるメチル化スコアが臨床反応に対応することを示す。
図9Hは、PR/SDまたはPDによって分類された初回診察時の各被験者のメチル化スコアを示す。p値は、マン・ホイットニー検定によって計算された。
図9Iは、ベースラインで低いメチル化スコアと高いメチル化スコア(カットオフ値=中央値)を有する患者間の無増悪生存期間のカプラン・マイヤープロットを示す。p値は、ログランク検定によって計算された。
【
図10-1】
図10A~10Dは、疾患モニタリングのために4つの遺伝子メチル化リスクスコアを使用する代表的なケースを示す。
図10Aは、EGFRエクソン19欠失を有するステージIVの肺腺癌と診断され、かつエルロチニブ治療を受けている46歳の患者を示す。当該患者は部分奏効を達成し、約800日間疾患がコントロールされた。メチル化リスクスコアの上昇は、10回目と11回目の診察で気づかれた。11回目の診察時に胸部断層撮影で右上葉の原発性肺腫瘍の拡大が確認された。
図10Bは、骨転移を伴うステージIVの肺腺癌と診断された56歳の患者を示す。特定のドライバー変異は確認されなかった。患者はカルボプラチンとペメトレキセドによる全身化学療法を受けた。メチル化スコアは治療後に減少したが、その時点では臨床的および放射線写真上進行の証拠がなかった次の診察時には上昇した。3ヶ月後、胸部断層撮影で循環メチル化スコアの顕著な増加と関連する原発性肺腫瘍の顕著な進行が示された。下大静脈血栓症も認められた。
【
図10-2】
図10A~10Dは、疾患モニタリングのために4つの遺伝子メチル化リスクスコアを使用する代表的なケースを示す。
図10Cは、エルロチニブ治療を受けているステージIVの肺腺癌と診断された69歳の患者を示す。患者のメチル化スコアは当初減少したが、胸部断層撮影で原発性肺腫瘍が縮小したにもかかわらず、約1年後に再び増加した。メチル化スコアは、6ヶ月後に腰椎と骨盤に新たな骨転移 (骨転移) が認められるまで上昇し続けた。メチル化スコアは、局所緩和放射線療法(RT)後に急速に低下した。逆に、癌胎児性抗原(CEA)の血清レベルには変化がなかった。
図10Dは、同時化学放射線療法(CCRT)およびゲフィチニブを受けているステージIIIbの肺腺癌と診断された48歳の患者を示す。CCRT後、患者のメチル化スコアは低下し、少なくとも600日間は低い状態が続く。当該患者は臨床的に安定しており、腫瘍進行の兆候がなかった。CEAレベルは治療過程全体を通じて情報提供することがなかった。
【
図11】
図11は、本開示におけるバイオマーカーの発見、バイオマーカーを用いたアッセイの開発、バイオマーカーの検証を行う際の手順を示すフローチャートである。マーカー発見段階:国立台湾大学病院からの外科的に切除された腫瘍組織および癌ゲノムアトラス(TCGA)肺癌コホートから得られたゲノム全体のメチル化データのインシリコ解析。候補メチル化プローブを同定するために、癌組織と隣接する肺組織との間の示差メチル化分析を実施した。台湾バイオバンクからの非癌対象の末梢血単核球 (PBMC) でメチル化されたプローブは除外された。癌特異的メチル化マーカーのパネルは、マルチプレックスメチル化特異的液滴デジタルPCR(MS-ddPCR) による測定用に設計されており、これらのマーカーは外科的に切除された肺癌組織を使用して検証された。これらの肺組織は、LUAD: 肺腺癌、LUSC: 肺扁平上皮癌であった。アッセイ開発段階:肺癌患者の循環遊離DNA中の同定されたマーカーのメチル化レベルは、治療前の初回診断時にMS-ddPCRを使用して、非癌対象と比較して定量された。ロジスティック回帰モデルを構築し、トレーニングコホートにおける4つの遺伝子の組み合わせに基づいてメチル化リスクスコアを計算した。検証段階:cfDNAメチル化スコアは、初期診断時に診断マーカーとして検証コホート(n=143)で測定された。疾患モニタリングのために、初回診断時と治療期間中3ヶ月ごとのフォローアップ診察時に合計261個のサンプル(肺癌患者57人)が採取された。メチル化スコアと放射線学的/臨床的反応の間の関係が記録された。
【
図12】
図12は、ステージIVの肺腺癌患者のトレーニングコホートにおける肺癌の診断のための個々のプローブのメチル化リスクスコアおよびメチル化レベルの受信者動作特性(ROC)曲線分析、およびステージIVの肺癌患者および検証コホートのすべてのステージの患者におけるメチル化リスクスコアと個々のプローブのメチル化レベルのROC曲線分析を示す。
【
図13】
図13は、非小細胞肺癌のメチル化スコアと臨床病期との関係を示す図である。カットオフ値(-0.764)以上の値を陽性と判断される。in situ、ステージI、II、III、IVを含む各ステージで検出された患者の数とパーセンテージを示した。
【
図14-1】
図14Aは、連続血液サンプル(N=261)を含む57人の肺腺癌患者のスイマープロットを示す。各バーは本研究の1つの対象を表す。各バーは本研究の1つの対象を表す。バーの色は臨床反応を表す(青緑色:PR/SD、赤色:PD)。黄色の丸は採血の時点を表す。黄色の星は、X線撮影/臨床的進行の時間を示す。PD:疾患進行。PR:部分奏効。SD:疾患安定。性別、喫煙歴、EGFRの状態は左側のサイドバーに示す。
【
図14-2】
図14Bは、各肺癌患者の治療過程中のメチル化リスクスコアの動的な変化を示すスパゲッティプロットを示す。各線は本研究の1つの対象を表す。上段:疾患進行の患者(PD)。下段:部分奏効/疾患安定の患者(PR+SD)。
図14Cは、一般化推定方程式(GEE)モデルから計算されたPD患者およびPR/SD患者のメチル化スコアの推定周辺平均のバーグラフを示す。エラーバーは95%信頼区間を表す。
【
図15-1】
図15A~15Cは、3人の非小細胞肺癌患者における疾患モニタリングのための連続血漿cfDNAメチル化スコアを示す。
図15Aは、骨転移を伴うステージIVの肺腺癌と診断された56歳の患者である患者L14の非小細胞肺癌における疾患モニタリングのための連続血漿cfDNAメチル化スコアを示す。患者L14の疾患は当初、カルボプラチンとペメトレキセドによって制御された。約9ヶ月後の患者L14の胸部断層撮影では、循環メチル化スコアの顕著な増加を伴う原発性肺腫瘍の顕著な進行が示された。下大静脈血栓症も患者L14で認められた。
図15Bは、アファチニブ治療を受けているステージIVの肺腺癌と診断された72歳の患者である患者L12の非小細胞肺癌における疾患モニタリングのための連続血漿cfDNAメチル化スコアを示す。患者L12は治療に反応したが、原発性肺腫瘍は引き続き縮小していたにもかかわらず、約270日で転移性肝腫瘍が認められた。
【
図15-2】
図15A~15Cは、3人の非小細胞肺癌患者における疾患モニタリングのための連続血漿cfDNAメチル化スコアを示す。
図15Cは、エルロチニブ治療を受けているステージIVの肺腺癌と診断された69歳の患者である患者L44の非小細胞肺癌における疾患モニタリングのための連続血漿cfDNAメチル化スコアを示す。患者L44dのメチル化スコアは最初は減少したが、約9ヶ月後に再び増加した。患者L44の腰椎と骨盤に新たな骨転移が6ヶ月後に認められた。注目すべきは、局所緩和放射線療法(RT)後にメチル化スコアが急速に低下することが観察された。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、対象から得られたサンプル中の1つまたは複数のバイオマーカーのレベルを分析することによって、それを必要とする対象における非小細胞肺癌を特徴付け、診断、層別化し、予後判定し、およびモニタリングするための方法およびバイオマーカーを提供する。本開示の少なくとも1つの実施形態では、1つ以上のバイオマーカーは、HOXA9、KCNS2、SCT、およびBARHL2からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルである。本開示の少なくとも1つの実施形態では、少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルは、循環腫瘍DNAまたは無細胞DNAを含む生物学的検体において測定される。
【0018】
本開示において、少なくとも1つの遺伝子のメチル化レベルは、それを必要とする対象における非小細胞肺癌を特徴づけ、診断し、層別化し、予後判定し、およびモニタリングするために、無細胞DNAを含む生物学的検体において評価される。少なくとも1つの実施形態では、メチル化リスクスコアは、HOXA9、KCNS2、SCT、およびBARHL2からなる群から選択される1、2、3または4つの遺伝子のメチル化レベルに基づいて計算される。少なくとも1つの実施形態において、本開示は、肺癌患者と非癌対照とを区別する際の少なくとも1つのバイオマーカーおよび方法を提供する。少なくとも1つの実施形態において、本開示は、疾患状態および治療反応を連続的に評価するための方法を提供する。
【0019】
循環遊離DNA(cfDNA)は、血漿に放出されるDNA断片である。cfDNAは、血流中を自由に循環するさまざまな形式のDNAを記述するために使用でき、循環腫瘍DNA(ctDNA)、循環無細胞ミトコンドリアDNA(ccf mtDNA)および無細胞胎児DNA(cffDNA)を含む。循環腫瘍DNA(ctDNA)は、アポトーシス、壊死、または能動放出などのメカニズムを通じて腫瘍細胞に由来し、元の腫瘍組織の分子特性を反映することができる。本開示において、cfDNAおよびctDNAは、cfDNAを含む血漿または他の体液などの対象からの生物学的検体から得られるDNA断片を示すために互換的に使用され得る。本明細書で使用される「体液」は、無傷の細胞を実質的に欠いている対象から得られる生物学的サンプルを意味する。これは、それ自体実質的に細胞を含まない生物学的サンプルに由来するものであってもよいし、細胞が除去されたサンプルに由来するものであってもよい。無細胞体液の例には、血清や血漿などの血液由来のもの;尿;または、精液、喀痰、糞便、管浸出液、リンパ液、胸水、脳脊髄液、回収洗浄液などの他の供給源に由来するサンプルが含まれむ。cfDNAまたはctDNAは、癌患者の治療反応をモニタリングするためのバイオマーカーを含む生物学的検体として使用される。現在、ほとんどのctDNAアッセイは、EGFRやKRASなどのドライバー変異に基づいている。
【0020】
ドライバー変異は、クローンの生存または増殖のいずれかを増加させることによって、その微小環境においてクローンに選択的利点を与える変異なので、発癌に因果的に関与している。ドライバー変異は、最終的な癌の維持に必要なわけではないが(必要な場合が多いが)、癌の進行過程のある時点で選択されているはずである。一方、パッセンジャー変異は選択されておらず、クローン増殖の利点を与えていないため、癌の発生には寄与していない。機能的な影響を伴わない体細胞変異は細胞分裂中にしばしば発生するため、パッセンジャー変異は癌ゲノム内で見つかる。したがって、ドライバー変異を獲得した細胞は、そのゲノム内に生物学的に不活性な体細胞変異を有することになる。これらはその後のクローン増殖にも引き継がれるため、最終的な癌のすべての細胞に存在することになる。
【0021】
個々の癌におけるドライバー変異の数、および異常な癌遺伝子の数は、十分に確立されていない。ほとんどの癌が複数のドライバー変異を持っている可能性が高く、その数は癌の種類によって異なる。乳癌、大腸癌、前立腺癌などの一般的な成人の上皮性癌では、5~7個の律速事象(rate-limiting event)が必要であり、おそらくドライバー変異の数に相当すると考えられている一方、血液系の癌では、より少ない数で済むと考えられる(Miller DG,“On the nature of susceptibility to cancer.The presidential address.”Cancer.1980 Sep15;46(6):1307-18)。
【0022】
したがって、EGFRなどの特定のドライバー変異の検査による疾患の状態や治療反応のモニタリングは、一部の患者のみに限定される。さらに、ドライバー変異ごとに、治療過程に沿って動的なクローン進化が起こる数十または数百のホットスポットが存在し、臨床疾患進行と相関する場合もあれば、相関しない場合もある。より適切にカバーするには大規模なマーカーパネルが必要であるが、これはコストがかかるだけでなく、検出対象が絶えず変化する中では、疾患負担の縦断的なモニタリングには適していない。数十から数百のホットスポットを持つ傾向がある突然変異とは異なり、DNAメチル化は遺伝子プロモーター近くの共通領域で起こることが多く、動的な疾患負担の縦断的な追跡に適している。
【0023】
DNAメチル化は、DNA分子にメチル基が追加される生物学的プロセスである。DNAメチル化は、遺伝子発現を制御する多くのメカニズムの1つであり、DNA配列を変更せずに遺伝子の活性を変化させることができる。DNAメチル化は、遺伝子プロモーターに位置すると、通常、遺伝子転写を抑制するように作用し、つまり、遺伝子発現を低下させることにより、遺伝子機能を抑制する。DNAメチル化の異常は、大規模なゲノム/エピゲノミクス研究によって明らかになったように、発癌プロセスの特徴である。遺伝子変異と同様に、DNAメチル化は遺伝性がありかつ安定しているため、分子マーカーとして大きな可能性を秘めている。多数のホットスポットを伴うドライバー変異とは異なり、プロモーター周囲のメチル化領域は、患者サンプル全体で各遺伝子に共通しているようである。ドライバー変異の有無にかかわらず、肺癌における縦断的な疾患モニタリングのためのメチル化ctDNAマーカーの使用については、まだ検討されていない。
【0024】
本開示において、本明細書で使用される説明用語または技術用語を含むすべての用語は、当業者にとって明らかな意味を有するものとして解釈されるべきである。しかしながら、これらの用語は、当業者の意図、判例、または新技術の出現に応じて、異なる意味を有する場合がある。また、一部の用語は出願人が任意に選択することができ、この場合、選択された用語の意味は本発明の説明で詳しく説明する。したがって、本明細書で使用される用語は、明細書全体の説明とともに用語の意味に基づいて定義される。
【0025】
さらに、本開示で使用される場合、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」、および「当該(the)」は、明示的かつ明確に1つの指示対象に限定されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。「または」という用語は、文脈で明確に別段の指示がない限り、「および/または」という用語と同じ意味で使用される。
【0026】
また、ある部品が構成要素または工程を「含む」または「備える」場合、特にこれに反する記載がない限り、その部品は、他の構成要素または他の工程をさらに含むことができ、それらを排除するものではない。
【0027】
対象または個体を「特徴づける」という用語には、疾患または状態の診断を提供すること、疾患のリスクの層別化を決定すること、疾患または状態のリスクを評価すること、疾患または状態の予後を提供する、疾患の段階または状態の段階を決定すること、疾患または状態の重症度を決定すること、疾患または状態の悪性度を評価すること、癌の再発を監視すること、薬効を評価すること、生理学的状態を説明すること、臓器障害または臓器拒絶反応を評価すること、疾患または状態の進行、疾患や病態の悪性度を評価するためをモニタリングする、疾患または状態と治療関連の関連性を判断すること、または生理学的または生物学的症状を説明することが含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書で使用される場合、癌の予後には、患者の臨床転帰の予測、癌再発のリスクの評価、治療様式の決定、または治療効果の決定が含まれ得る。
【0029】
本明細書で使用される「転移」という用語は、身体のある部分から別の部分への癌の広がりを表す。広がった細胞によって形成された腫瘍は、「転移性腫瘍(metastatic tumor)」または「転移(metastasis)」と呼ばれることがある。転移性腫瘍には、元の (原発) 腫瘍の細胞と類似した細胞が含まれることが多く、ゲノム変化、エピジェネティック変化、トランスクリプトーム変化、代謝変化が見られるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書で使用される「進行(progression)」という用語は、癌などの疾患または状態が悪化するか体内に広がる際の経過を表す。
【0031】
「対象」、「患者」、および「個体」という用語は、本明細書では互換的に使用され、
以下の疾患に罹患しているか、罹患するリスクがあるまたはその傾向があると疑われるか、または癌(実際の癌または癌の疑いなど)の検診を受けている哺乳動物などの温血動物を指す。これらの用語には、家畜、スポーツ動物、霊長類、ヒトが含まれるが、これらに限定されない。例えば、これらの用語はヒトを指す。
【0032】
「検出する(detect)」、「検出すること(detecting)」、または「検出(detection)」という用語は、ステージ、攻撃性、転移の可能性または患者の生存などの癌の1つまたは複数の事実上の特性を把握、確立、特徴付け、予測またはその他の方法で決定するために、選択した遺伝子(複数を含む)の発現レベルまたはメチル化レベルなどの標的バイオマーカー(複数を含む)をアッセイ、またはその他の方法で評価することを含む。カットオフ値または標準は、無病または低悪性度癌の対照健常対象からのサンプル、または対象の他のサンプルからのサンプルについて定量されたレベルに対応し得る。
【0033】
本明細書で使用される「マーカー」または「バイオマーカー」という用語は、組織、細胞または試料におけるメチル化レベルまたは発現レベルなどの特定の特性が、正常または健康な組織、細胞または試料におけるレベルと比較して、早期段階の疾患(例えば、疾患に関連する1つまたは複数の症状の検出前)を含む癌進行の進行段階などの疾患状態と関連している生物分子または生物分子のパネルである。
【0034】
本明細書で使用される「配列同一性」または、例えば、「~と80%の配列同一性を有する配列」を含む用語は、比較のウィンドウにわたって、配列がヌクレオチドごとに同一である程度を意味する。したがって、「配列同一性の割合」は、比較のウィンドウにわたって最適に整列した2つの配列を比較し、同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)が両方の配列で生じる位置の数を決定して一致した位置の数を得、一致した位置の数を比較のウィンドウにおける位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で割り、その結果に100を乗じて配列相同性の割合とすることによって算出することができる。本開示に含まれるのは、本明細書に記載の参照配列のいずれかと少なくとも約80%、少なくとも約83%、少なくとも約85%、少なくとも約88%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド(例えば、配列表を参照)、典型的には、ヌクレオチド変異体が、参照ヌクレオチドの少なくとも1つの生物学的活性または機能を維持し、例えば、参照ヌクレオチドに相補的である標的配列とのそれらの相補性を維持する場合などである。
【実施例】
【0035】
本開示の例示的な実施形態は、以下の実施例においてさらに説明されるが、これらは本開示の範囲を限定するように解釈されるべきではない。
【0036】
一般に、本明細書で使用される命名法および本開示で利用される実験手順は、分子技術、生化学技術および組換えDNA技術を含む。このような技術については、文献で十分に説明されている。例えば、“Molecular Cloning:A laboratory Manual,”Sambrook et al.,(1989);“Current Protocols in Molecular Biology,”Volumes I-III Ausubel,R.M.,ed.(1994);“A Practical Guide to Molecular Cloning,”John Wiley & Sons,New York(1988);Watson et al.,“Recombinant DNA,”Scientific American Books,New York; Birren et al.(eds)“Cell Biology:A Laboratory Handbook,”Volumes I-III Cellis,J.E.,ed.(1994);“Culture of Animal Cells - A Manual of Basic Technique,”Freshney,Wiley-Liss,N.Y.(1994),Third Edition;“Transcription and Translation,”Hames,B.D.,and Higgins S.J.,eds.(1984);“Animal Cell Culture,”Freshney,R.I.,ed.(1986);“Immobilized Cells and Enzymes,”IRL Press,(1986);“A Practical Guide to Molecular Cloning,”Perbal,B.,(1984)および“Methods in Enzymology,”Vol.1-317,Academic Press;“PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,”Academic Press,San Diego, Calif.(1990);Marshak et al.,“Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual,”CSHL Press(1996)を参照し、これらはすべて、参照することにより、本書に完全に記載されているかのように組み込まれる。他の一般的な参照は、本開示を通して提供される。その手順は、当技術分野でよく知られていると考えられ、読者の便宜のために提供される。その中に含まれるすべての情報は、参照することにより本書に組み込まれる。
【0037】
外科的切除肺癌組織のゲノムワイドDNAメチル化測定
【0038】
非小細胞肺癌患者からの外科的に切除された71個の肺腫瘍組織(肺腺癌(LUAD)、N=39、肺扁平上皮癌(LUSC)、N=32)および/または隣接する未患部組織(N=17)は、1994年9月から2011年10月まで国立台湾大学病院(NTUHコホート)で収集された。各患者の研究登録前にインフォームドコンセントが得られた。一次組織のDNA抽出は、伝統的なフェノール-クロロホルム法を使用して実行された。抽出されたDNAは、EZ DNAメチル化キット(Zymo Research、アーバイン、カリフォルニア州)を使用して亜硫酸水素塩処理され、続いてInfinium MmethylationEPICアレイ(Illumina、サンディエゴ、カリフォルニア州)を使用してゲノム全体のメチル化測定が行われた。生の強度データはIDATファイルとして取得され、Rパッケージ「minfi」v1.30.01を使用して処理された。検出p値>0.01の低品質プローブ、および一塩基多型(SNP)、交差反応性バリアント、遺伝的バリアントとして記述されたプローブは削除された。メチル化データは、アクセッション番号GSE159350でGene Expression Omnibus(GEO)にアップロードされた。この研究は、NTUHの治験審査委員会(IRB)によって承認された(201701010RINB、201605088RINDおよび201809080RINC)。
【0039】
候補メチル化マーカーのインシリコでの同定
【0040】
NTUH(NTUHコホート)および癌ゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas(TCGAコホート))からの肺腺癌および扁平上皮癌のゲノム全体のメチル化データをマーカーの同定に使用した。TCGA肺癌コホートのInfinium Human Mmethylation 450K BeadChipデータは、TCGAポータルからダウンロードされた。末梢血中の腫瘍由来DNAの対照として、台湾バイオバンクから550人の非癌対象の末梢血単核球(PBMC)からのInfinium MmethylationEPICメチル化データも取得した。転写開始部位の周囲1,500bp以内に位置する癌特異的メチル化プローブの候補は、癌組織と隣接する未患部組織間のメチル化差分析によって同定された。同定されたすべてのプローブのうち、台湾バイオバンクからの550人の非癌対象の末梢血単核球(PBMC)でメチル化シグナルを示したプローブは除外された。すべてのデータは、RおよびBioconductorパッケージを使用して分析された。
【0041】
無細胞腫瘍DNA解析への肺癌患者の登録
【0042】
2015年12月から2019年11月までに国立台湾大学病院(NTUH)でステージIIIまたはIVの非小細胞肺癌と新たに診断された20歳以上の患者が前向きに登録された。妊娠中または授乳中の女性は除外された。各参加者について、治療前と病気の進行(原発腫瘍の拡大または新たな転移の存在)または死亡まで、3ヶ月ごとに10mLの末梢血が採取された。年齢、性別、喫煙状況、臨床段階、組織学的診断、転移部位、変異状態、治療計画などの人口統計データと臨床情報が記録された。各患者の縦断的な追跡調査では、RECIST基準1.14(Eisenhauer EA, Therasse P, Bogaerts L, et al. et al. New response evaluation criteria in solid tumors; revised RECIST guideline(version 1.1). Eur J Cancer. 2009;45(2):228-247)に基づいて治療反応が評価された。各患者の医療記録と画像は、疾患進行、治療計画の変更、または研究からの脱落までの治療期間中の各フォローアップ診察時に、疾患進行(PD)、部分奏効(PR)、または疾患安定(SD)の状態を判断するために、2人の胸部医師によって独立して検査された。無増悪生存期間(PFS)は、研究登録からPDの発生までの間隔として定義された。さらに、20歳以上の健康なボランティアからの血漿無細胞DNA(cfDNA)を非癌対照として収集した。この研究はNTUHの治験審査委員会(IRB)によって承認された。各患者の研究登録前にインフォームドコンセントが得られた(IRB#201510099RINC)。
【0043】
末梢血サンプルからのcfDNAの分離
【0044】
K2EDTAを含むBD Vacutainer採血管(BD Biosciences、サンノゼ、カリフォルニア州)に血液サンプルを収集し、直ちに処理して、4℃、1,000×gで10分間遠心分離して血漿を得た(Eppendorf、エンフィールド、コネチカット州)。各患者または健康なボランティアについて、製造元 (Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州)の指示に従って、MagMAX無細胞DNA単離キット(MagMAX Cell-Free DNA Isolation Kit)を使用して、1mL血漿からのcfDNA抽出を実行した。続いて、抽出したcfDNAにEZ DNAメチル化キット(Zymo Research、カリフォルニア州アーバイン)を使用して重亜硫酸塩変換を施した。cfDNAの品質管理は、Agilent高感度DNAキット(Agilent、サンタクララ、カリフォルニア州)を使用して、Agilent 2100バイオアナライザーによって実行され、フラグメントサイズの分布をチェックした。cfDNA濃度は、Qubit dsDNA HSアッセイキット(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州)を使用して、Qubit2.0蛍光光度計によって測定された。
【0045】
メチル化特異的液滴デジタルPCR(MS-ddPCR)
【0046】
HOXA9、SCT、KCNS2、およびBARHL2を含む同定された遺伝子に特異的なプライマーおよびプローブは、MethPrimer2.0を使用して設計され、以下の表1に示す。PCR条件は、H1703肺癌細胞株(ATCC)のゲノムDNAを使用して最適化された。肺癌患者または非癌対照から抽出した血漿cfDNAを、EZ DNAメチル化キット(Zymo Research、アーバイン、カリフォルニア州) を使用して亜硫酸水素塩変換に供した。続いて、亜硫酸水素塩変換されたDNAをプライマー、プローブおよび2Xスーパーミックス(Bio-Rad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)の混合物に最終容量20μLで加えた。混合物と液滴生成オイル(Bio-Rad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)をDG8カートリッジ(Bio-Rad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)に加え、QX200液滴ジェネレーター(Bio-Rad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を使用してエマルジョンを生成した。液滴を別の96ウェルプレート(Bio-Rad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)に移し、適切に密閉した後、標準的なPCRサーモサイクラー内に置きた。サイクル条件は次のとおり:最初の変性は95℃で10分間、その後、変性は94℃で30秒間、アニーリングは55℃で60秒間を40サイクル行った。最後の10分間98℃にした後、反応物を12℃に保持した。QX200液滴リーダーを使用してストリーミングし、陽性反応を示した液滴の数を検出した。結果はQuantaSoftソフトウェアを使用して分析され、cfDNAのメチル化シグナルがコピー/mLとして表示される。
【0047】
【0048】
統計分析
【0049】
マン・ホイットニーU検定を使用して、癌患者と正常対象の間の個々のメチル化プローブのメチル化シグナルの差異を検査した。癌患者(n=74)と正常対象(n=63)を区別するために、5重交差検証ロジスティック回帰モデルを構築した。同定された4つのプローブのメチル化レベルと、年齢、性別、喫煙状況などの潜在的な交絡因子がモデル生成に含まれた。5つのロジスティッ モデルが生成された。メチル化リスクスコアは、個々のモデルの係数推定値を平均することによって構築された最終モデルを使用して計算された。(米国癌合同委員会第8版(American Joint Commission on Cancer 8th edition)による)腫瘍のTNM病期、EGFR変異状態、転移部位などの特定の臨床的特徴間のメチル化スコアの差異を、マン・ホイットニーU検定(2つのグループ間)またはクラスカル・ウォリス検定 (3つ以上のグループ間)を使用して比較した。受信者動作特性(ROC)分析を実行して、メチル化リスクスコアの精度と個々のプローブのメチル化レベルを評価した。受信者動作特性曲線下面積(AUROC)を計算して、肺癌診断の各マーカーの最高の感度と特異度の閾値を取得した。患者は、ログランク検定を使用してPFSを比較するために、4つのプローブの初期スコアおよび/またはメチル化スコアに基づいてグループ分けされ、データはカプラン―マイヤー曲線として表示された。グラフィカルなイラストは、RまたはPrism8 (GraphPad Software株式会社)を使用して作成された。個々の患者の縦断的追跡調査は、Rパッケージggplot2を使用して、スイマープロットおよびスパゲッティプロットとして表示された。一般化推定方程式(GEE)を使用して、各患者のメチル化スコアの繰り返し測定を分析した。追跡調査の診察回数、疾患進行(PD)、およびそれらの交互作用項をモデルに含めて、PD患者グループと非PD患者グループ間の周辺平均差を推定した。
【0050】
実施例1:原発性肺癌組織のゲノムワイドなメチル化データからのマーカーの発見
【0051】
血液ベースのアッセイ用の癌特異的メチル化マーカーを同定するために、Infinium MmethylationEPIC BeadChipを使用して、国立台湾大学病院(NTUH)から65人の肺癌患者 (腺癌30人、扁平上皮癌35人)からの外科的に切除された肺癌組織と15対の隣接する肺組織に対して、ゲノムワイドなメチル化プロファイリングが実行された。クロスエスニシティ比較のために、肺腺癌(N=460)、扁平上皮癌(N=370)、および隣接する肺組織(N=74)のInfinium HumanMmethylation450メチル化データも癌ゲノムアトラス(TCGA)から取得した。マーカースクリーニングの基準は、癌組織の50%以上で高メチル化シグナル(β>0.5)を示すプロモータープローブ候補、および隣接する肺組織の95%以上で低メチル化シグナル(β>0.25)を示すプロモータープローブ候補に焦点を当てた。末梢血単核球(PBMC)は、循環する無細胞DNAに含まれるゲノムDNAの重要な汚染源であるため、マーカー候補のリストは、台湾バイオバンクに自己申告した非癌患者550名からの末梢血単核球(PBMC)のMethylationEPICデータから高メチル化を持つプローブを除外することでさらに絞り込まれる。患者の疾患状態を特徴付けるためのマーカーを発見し、アッセイを開発および検証する際のさまざまな段階を
図1に示す。
【0052】
全ての可能な組み合わせを繰り返しを、各組み合わせが5つ未満のプローブを含むように実行した。4つのプロモータープローブの組み合わせは、NTUH肺癌コホートとTCGA肺癌コホートの両方において、癌組織と隣接する非癌組織との間の最適な区別が提供された。これらのプローブは、ホメオボックスA9(HOXA9)、カリウム電位依存性チャネル修飾因子サブファミリーSメンバー2(KCNS2)、BarH様ホメオボックス2(BARHL2)およびセクレチン(SCT)と関連していた(
図2Aおよび2B)。
図2Cに示すように、4つのプローブのいずれか1つの高メチル化(β>0.5)は、コンピュータ上で99.8%の陽性的中率(PPV)および79.8%の陰性的中率(NPV)を提供する。
【0053】
肺癌と隣接する非癌組織のTCGAコホートに基づいて、これまでに報告された癌特異的マーカー遺伝子の感度と特異性をインシリコで分析して比較し、例えば、APC、CDH13、GATA4、GATA5、SOX17、SFRP117-19など。
図3に示すように、ほとんどの個々の遺伝子のプロモーターメチル化状態は、TCGAコホートにおいて最適以下の感度または陰性的中率を示した。
【0054】
実施例2:マルチプレックスメチル化特異的液滴デジタルPCR(MS-ddPCR) 用のプライマーとプローブ
【0055】
図4A~
図4Bに示すように、メチル化特異的検出のための同定されたMethylationEPICプローブのゲノム位置に基づいて、特異的なプライマーおよびプローブの組み合わせを設計し、試験した。BARHL2、HOXA9、KCNS2、およびSCTのプロモーター領域を標的とするこれらのカスタマイズされたプライマーおよびプローブセットは、NTUHで得られた4つの肺癌株(A549、H1703、H1972、およびH1299)および39個の外科的に切除された肺癌組織で定量的メチル化特異的PCRを使用して、試験した。保存されている外科的に切除された肺癌組織の人口統計を以下の表2に示す。
【0056】
【0057】
すべての4つの肺癌株において、4つのプローブのうち少なくとも2つで高いメチル化が示された。さらに、マーカー発見のためのゲノムワイドのメチル化分析と一致して、
図4Bに示すように、4つのプローブパネルの少なくとも1つのプローブは、非癌対照からのPBMCとは対照的に、ほとんどの原発性肺癌組織において高いメチル化を示した。
【0058】
次に、一般に血漿無細胞DNAの量が少ないため、
図5に示すように、このアッセイはマルチプレックスMS-ddPCR用にさらに最適化されており、当該マルチプレックスMS-ddPCRは連続希釈で個々のマーカーについてシングルプレックスアッセイと同等のシグナルを示した
【0059】
実施例3:4つのメチル化血漿cfDNAマーカーに基づくスコアリングシステム
【0060】
非小細胞肺癌患者の診察時および治療効果を縦断的にモニタリングするためのフォローアップ診察時の血漿中の4つのマーカーパネルのパフォーマンスを評価するために、2015年12月から2019年11月まで、末期疾患患者74名と自己申告の健康対照者63名が前向きに国立台湾大学病院に登録された。募集された個人の人口統計を以下の表3に示す。
【0061】
【0062】
末梢血サンプルを血漿無細胞DNA抽出およびマルチプレックスMS-ddPCRを使用した4つのメチル化マーカーの定量分析に供した。治療前の最初の診察では、cfDNA濃度は非癌患者(中央値24.2ng/mL、5.4~152.1ng/mLの範囲)よりもNSCLC患者(中央値35.1ng/mL、範囲10.5~277.7ng/mL)の方が有意に高かった(p=0.0004、マン・ホイットニー検定)。対照的に、cfDNAの断片サイズは、
図6Aおよび6Bに示すように、2つのグループ間で有意な差はなかった。。
【0063】
個々のマーカーのメチル化シグナル中央値は、非癌対象と比較して、
図7Aに示すように、肺癌患者で有意に高かった、例えば、HOXA9では16.7コピー/mL対0.1コピー/mL(p< 0.05)、SCTでは16.5コピー/mL対0.1コピー/mL(p< 0.05)、KCNS2では91.5コピー/mL対0.1コピー/mL(p<0.05)、BARHL2では55.4コピー/mL対0.1コピー/mL(p<0.05)。
【0064】
年齢はDNAメチル化に影響を与える可能性がある既知の因子であるが、
図8Aおよび8Bに示すように、同定されたマーカーのメチル化値は年齢と相関しているようには見えなかった。
【0065】
診察時に癌と非癌を区別するためのこれらのマーカーの最適な組み合わせを決定するために、さまざまなロジスティック回帰モデルを使用して、個々のマーカーに適切な重みを割り当て、年齢、性別、喫煙状況などのDNAメチル化の潜在的な交絡因子を調整した。治療前の最初の診察時に採取されたサンプルがモデルの生成に使用された。以下の表4は、使用したさまざまなロジスティック回帰モデルの結果をまとめたものであり、ここで、Yは正常または癌であり、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、およびX8はそれぞれ年齢、性別、および現役喫煙者と元喫煙者の喫煙状態を表す2つのダミー変数、およびHOXA9、SCT、KCNS2、およびBARHL2のメチル化値である。また、変数の係数推定値とそれに対応する統計量も提供する。
【0066】
【0067】
上記のモデルに基づいて、メチル化リスクスコアは以下のように算出された:
-7.635+0.114*年齢-1.224*性別+2.946*現役喫煙状況-0.054*昔喫煙状況+0.079*HOXA9+0.008*SCT+0.004*KCNS2-0.008*BARHL2。
【0068】
上記のように計算されたメチル化リスクスコアを使用して、受信者動作特性(ROC)分析により、癌の初期診断のカットオフスコア0.13において、AUCが0.95(95%信頼区間(CI)、0.92~0.98)、感度が90.5%(95%CI、81.7~95.3)、特異性は84.1%(95%CI、73.2~91.1)であったと推定された。個々のマーカーのAUCは、SCTが0.67、BARHL2が0.66、HOXA9が0.85、KCNS2が0.66である。このデータは、
図7B及び以下の表5に示す。
【0069】
【0070】
したがって、0.13を超えるメチル化リスクスコアは、肺癌患者の90.5%(67/74)を同定することができる。一方、臨床で腫瘍マーカーとして一般的に使用されている血清糖タンパクであるカルシノエンブリオニック抗原(CEA)は、
図7Cに示すように、カットオフ値5ng/mLのコホートでは、肺癌患者の約75%(48/64)でのみ上昇することが判明した。
【0071】
上記で算出したメチル化リスクスコアについて、
図7Dに示すように、メチル化リスクスコアは、患者の喫煙状況(p=0.281)、性別(p=0.869)、EGFR変異状況(p=0.517)、年齢(p=0.934)には依存せず、腫瘍サイズおよび転移部位数(例えば、腫瘍径が7cm以上または局所浸潤がある場合(T4)だけでなく、複数の転移部位(M1c)がある場合)と高い相関を示すことがわかった。この結果、メチル化スコアは腫瘍量と疾患の重症度を反映していることを示した。
【0072】
実施例4:連続追跡調査におけるcfDNAのメチル化リスクスコアの縦断的な評価
【0073】
メチル化リスクスコアの臨床的有用性は、縦断的な追跡調査で評価される。cfDNAサンプルは、RECIST(固形腫瘍における反応評価基準)基準バージョン1.1に従って、疾患の進行(原発腫瘍の拡大または新たな転移の存在)が起こるまで3ヶ月ごとに非小細胞肺癌患者から採取された。2016年1月から2019年11月まで、初診時およびフォローアップ診察時に58人の肺癌患者から合計268個の連続血液サンプルが収集され、人口統計および治療効果が9Aに示す。
【0074】
すべての患者は標準治療を受け、そのうち47人はチロシンキナーゼ阻害剤を受け、6人はシスプラチンとペメトレキセドを受け、3人はカルボプラチンとペメトレキセドを受け、1人は同時化学放射線療法(CCRT)を受け、1人は手術を受けた。治療反応に基づいて、患者は次の3つのグループに分けられ:最初の3ヶ月以内に即時疾患進行(即時PD、N=10)、部分奏効または疾患安定(PR/SD、N=18)、初期PR/SD後の後期疾患進行(後期 PD、N=29)である。マーカーパネルの臨床評価では、初期メチル化スコアが癌カットオフ値0.13を超え、少なくとも6ヶ月間追跡調査された患者が分析に含まれた。
【0075】
PR/SDグループでは、最初の全身治療後にメチル化リスクスコアの大幅な低下が観察された。一方、メチル化スコアは、
図9Bに示すように、最初は低下したが、患者が疾患の進行(後期PD)を経験すると上昇した。一般化推定方程式(GEE)アプローチを適用して、各診察からの繰り返し測定を調整した。
図9Cに示すように、PDグループで推定周辺平均がより高い傾向が見られ(9.9対4.4、周辺平均差が5.5、95%CIが0.9~10.1)、繰り返しの診察(PDと診察の相互作用期間)の影響を考慮した場合、GEEモデルでは、PDグループにおけるメチル化スコアの上昇において、1.4(95%CIが1.1~1.8)の差(βの指数)を示し、以下の表6に示す。
【0076】
【0077】
さらに、毎日の診療における臨床的に実用的な閾値を見つけるために、パーセンタイルベースのアプローチを採用して、メチル化スコアをランク付けし、個々の診察時の疾患状態との相関を評価した。上述の診断カットオフ0.13(
図7B)に加えて、5.56が疾患進行の可能性を示唆する値であることが判明した。
図9Dに示すように、採血時にメチル化スコアが0.13未満の患者の93.8%、メチル化スコアが0.13~5.56の患者の88.5%がPR/SDを達成したことが判明した。メチル化スコアが5.56を超える患者のほぼ83.3%が、診察時または3ヶ月以内に疾患進行を示した。
【0078】
換言すれば、
図9Eに示すように、高いメチル化スコアを有する患者の3分の1は、画像化/臨床的進行よりも少なくとも3ヶ月早く、循環における分子的な進行を示した。
【0079】
同様に、
図9Fに示すように、個々のフォローアップ診察時のメチル化スコアと診断時のそれぞれのベースラインとの間の差は、臨床反応と一致していた(PR/SD対PD、p=0.0144)。さらに、
図9Gに示すように、連続2回の診察でのメチル化スコアの差は、各診察でのPR/SRまたはPD反応と一致する傾向を示したため(p=0.0006)、診察ごとのメチル化スコアは疾患状態の動態も追跡した(p=0.0006)。
【0080】
一方、
図9Hに示すように、初診時のメチル化スコアは、PR/SD群とPD群との間で有意な差はなかった(p=0.774、マン・ホイットニー検定)。
図9Iに示すように、ベースラインでより高いメチル化スコアを有する患者は、比較的短い無増悪生存期間(PFS)中央値(273日対419日)を示したが、傾向は統計的有意性に達しなかった (p=0.16、ログランク検定による) 。
【0081】
これらの結果は、1回限りの予後層別化ではなく、連続疾患モニタリングにおけるメチル化リスクスコアの有望な役割を示唆した。
【0082】
実施例5:EGFR野生型肺癌および変異肺癌の疾患モニタリングにおけるメチル化リスクスコアの適用
【0083】
特定のドライバー変異の有無にかかわらず、さまざまな治療を受けている肺癌患者の疾患モニタリングについて、メチル化リスクスコアの臨床的有用性が評価された。治療過程に沿ったメチル化リスクスコアの動的な変化を個々の患者で調べた。
【0084】
患者#3は、EGFRエクソン19欠失を有するステージIVの肺腺癌を有する46歳の患者であった。彼はエルロチニブの投与を受け、すぐに部分反応を達成した。彼の病気は約800日間コントロールされており、3ヶ月ごとのフォローアップ診察ではメチル化リスクスコアは低いままであった。10回目の採血では、進行の臨床的証拠が現れる前に、2回連続の診察でメチル化スコアが上昇する傾向が見られた。3ヶ月後、コンピュータ断層撮影法は、
図10Aに示すように、最終的に右上葉の原発腫瘍の拡大を示し、メチル化スコア16.5のさらなる増加を伴った。
【0085】
患者#15は、主要なドライバー変異が陰性のステージIVの肺腺癌を有する56歳の患者であった。彼は、カルボプラチンおよびペメトレキセド治療下で部分奏効を達成し、循環メチル化スコアの減少を伴なった。しかし、X線検査反応は持続していたものの、195日目にはメチル化スコアが8.51まで上昇したことが確認された。
図10Bに示すように、臨床的進行は最終的に約3ヶ月後の279日目に明らかとなった。
【0086】
メチル化スコアは、癌胎児性抗原(CEA)などの一般的に使用される血清マーカーと比較して、疾患の進行の検出においてより感度が高いようである。
【0087】
エルロチニブ治療を受けているステージIVの肺腺癌の69歳の患者#54では、胸部断層撮影で原発肺腫瘍が縮小したにもかかわらず、メチル化スコアは最初は減少したが、約1年後に再び増加した。メチル化スコアは、6ヶ月後に腰椎と骨盤に新たな骨転移(bone mets)が認められるまで上昇し続け、これはメチル化スコアの上昇は、明らかなX線写真および臨床的進行に先立って起こったことを示している。
【0088】
CEAレベルはコース全体を通じて低いままであった。
図10Cに示すように、局所緩和放射線療法(RT)後にメチル化スコアが急速に低下したことが注目された。。
【0089】
一方、
図10Dに示すように、ステージIIIbの肺腺癌を有する48歳の患者は、同時化学放射線療法(CCRT)とゲフィチニブを受けた。患者のメチル化スコアはCCRT後に大幅に減少し、少なくとも600日間は低いままであり、分子進行の兆候はなかった。
【0090】
これらの例は、非小細胞肺癌のさまざまな分子サブタイプの疾患モニタリングにおける循環4遺伝子メチル化スコアの臨床的有用性を実証した。例えば、このアッセイの臨床応用は、化学療法または標的療法を受けた患者において実現可能である。
【0091】
実施例6:コホート2における外科的に切除された肺癌組織のゲノムワイドなDNAメチル化測定
【0092】
実施例1に示すのと同様のフローを使用したが、
図11に示すように、トレーニングコホートと検証コホートを使用した。コホート2では、非小細胞肺癌患者から65個の外科的に切除された肺腫瘍組織(腺癌、N=30;扁平上皮癌、N=35)および/または隣接する未患部組織(N=15)は、1994年9月から2011年10月まで国立台湾大学病院(NTUHコホート)で収集された。各患者の研究登録前にインフォームドコンセントが得られた。一次組織のDNA抽出は、伝統的なフェノール-クロロホルム法を使用して実行された。抽出されたDNAは、EZ DNAメチル化キット(Zymo Research、アーバイン、カリフォルニア州)を使用して亜硫酸水素塩処理され、続いてInfinium MmethylationEPICアレイ(Illumina、サンディエゴ、カリフォルニア州)を使用してゲノム全体のメチル化測定が行われた。生の強度データはIDATファイルとして取得され、Rパッケージminfiv1.30.016を使用して処理された。メチル化データは、アクセッション番号GSE159350でGene Expression Omnibus(GEO、RRID:SCR_005012)にアップロードされた。この研究は、NTUHの治験審査委員会(IRB)によって承認された(201701010RINBおよび201605088RIND)。
【0093】
肺癌患者の無細胞DNA解析への登録
【0094】
2015年12月から2019年11月までに国立台湾大学病院(NTUH)で非小細胞肺癌と新たに診断された20歳以上の患者が前向きに登録された。妊娠中または授乳中の女性は除外された。20歳以上の非癌対象はNTUHの健康管理センターと遠東記念病院(FEMH)に登録された。研究登録前に各被験者からインフォームドコンセントを得た。各参加者について、トレーニングまたは検証コホートの治療前に10mLの末梢血が収集された。年齢、性別、喫煙状況、臨床段階、組織学的診断、転移部位、変異状態、治療計画などの人口統計データと臨床情報が記録された。各患者の縦断的な追跡調査のために、治療前と病気の進行または死亡まで3ヶ月ごとに血液が採取された。各患者の医療記録と画像は、疾患進行、治療計画の変更、または研究からの脱落までの治療期間中の各フォローアップ診察時に、疾患進行(PD)、部分奏効(PR)、または疾患安定(SD)の状態を判断するために、2人の胸部医師によって独立して検査された。この研究の一部は、NTUH(IRB#201510099RINC)およびFEMH(IRB#FEMH-IRB-107174-F)の治験審査委員会によって承認された。
【0095】
統計分析
【0096】
トレーニングおよび検証コホートにおける癌症例と非癌症例の間の臨床的特徴は、マン・ホイットニーU検定、t検定、またはカイ二乗(chi-squared)検定を適切に使用して比較された。4つのプローブのメチル化レベルに基づくロジスティック回帰モデルを使用して、メチル化リスクスコアを計算した。臨床的特徴間のメチル化スコアの差は、マン・ホイットニーU検定(2つのグループ間)またはクラスカル・ウォリス検定 (3つ以上のグループ)を使用して比較された。多変量ロジスティック回帰モデルを使用して、単変量分析で年齢、性別、パラメーターを調整した後、癌の予測におけるメチル化スコアの独立性を評価した(p<0.1)。受信者動作特性(ROC)分析を使用して、個々のプローブのメチル化リスクスコアとメチル化レベルのパフォーマンスを評価した。個々の患者の縦断的追跡調査は、Rパッケージggplot2(RRID:SCR_014601)を使用して、スイマープロットおよびスパゲッティプロットとして表示された。部分奏効/疾患安定を有する患者と疾患進行を有する患者との間の臨床的特徴は、マン・ホイットニーU検定またはカイ二乗検定を使用して比較された。一般化推定方程式(GEE)を使用して、各患者のメチル化スコアの繰り返し測定を分析した。
【0097】
原発性肺癌組織のゲノムワイドのメチル化データからマーカーを発見
【0098】
血液ベースのアッセイ用の癌特異的メチル化マーカーを同定するために、Infinium MethylationEPIC BeadChipsを用いて、国立台湾大学の肺癌患者65人(腺癌30人、扁平上皮癌35人)から外科的に切除した肺癌組織と、隣接する15対の肺組織に対して、ゲノムワイドなメチル化プロファイリングが実施された。民族を超えた比較のためにInfinium HumanMethylation450の肺腺癌(N=460)、扁平上皮癌(N=370)、および隣接肺組織(N=74)のメチル化データも、癌ゲノムアトラス(TCGA)から入手した。癌組織の50%以上で高いメチル化シグナル(β>0.5)を示し、隣接する肺組織の95%以上で低いメチル化シグナル(β<0.25)を示すプロモーター候補プローブに焦点を当てた。末梢血単核細胞(PBMC)は、循環無細胞DNA中のゲノムDNAの重要な汚染源であるため、台湾バイオバンク(www.twbiobank.org.tw)の550人の自己申告による非癌患者から、PBMC中のメチル化レベルの高いプローブを除外したリストをさらに改良した。
【0099】
日常的な臨床使用のためのアッセイの複雑さを簡素化するために、5つ未満のプローブからなるすべての可能な組み合わせについて反復を実行し、NTUHとTCGAの両方の肺癌コホートにおいて、癌組織と隣接する非癌組織との最適な区別を提供する4つのプロモータープローブの組み合わせを同定した。これらのプローブは、ホメオボックスA9(homeobox A9、HOXA9)、カリウム電位依存性チャネル修飾因子サブファミリーSメンバー2(potassium voltage-gated channel modifier subfamily S member 2、KCNS2)、BarH様ホメオボックス2(BarH-like homeobox 2、BARHL2)、セクレチン(SCT)と関連していた。4つのプローブのいずれかが高メチル化(β>0.5)されている場合、インシリコでは陽性的中率(PPV)は99.8%、陰性的中率(NPV)は79.8%であった。
【0100】
4つのメチル化血漿cfDNAマーカーに基づくスコアリングシステムの開発
【0101】
その後、多重メチル化特異的液滴デジタルPCR(MS-ddPCR)のための特異的なプライマーとプローブの組み合わせが設計された。NTUHで得られた39の外科的に切除された肺腺癌組織および4つの肺癌株(A549、H1703、H1972、H1299)のBARHL2、HOXA9、KCNS2、SCTのプロモーター領域を標的とし、
図4Aに示すこれらのカスタマイズされたプライマー/プローブセットを試験した。ゲノムワイドのメチル化解析と一致して、4つのプローブのうち少なくとも1つは、ほとんどの原発性肺腺癌組織で高いメチル化を示した。
【0102】
次に、国立台湾大学病院で非小細胞肺癌患者を登録し、血漿中の4つのマーカーパネルの性能を評価した。トレーニングコホートには、進行した肺腺癌患者41人と、自己申告による健常対照者40人が登録された。表7は、トレーニングコホートと検証コホートにおける非小細胞肺癌患者と非癌対照の人口統計を示す。
【表7】
【0103】
治療前のcfDNA濃度は、非癌患者(中央値21.6ng/mL、範囲5.4~93.6ng/mL)よりも肺癌患者(中央値28.5ng/mL、範囲11.1~201.6ng/mL)で有意に高かった(p=0.028、マン・ホイットニー検定)。性別とcfDNA断片サイズには、両群間で統計的に有意な差はなかった。個々のマーカーに適切な重みを割り当てるロジスティック回帰モデルを構築することによって、メチル化リスクスコアリングシステムが開発された。メチル化リスクスコアは、
-1.547+0.024*SCT+0.084*HOXA9-0.039*BARHL2+0.031*KCNS2
として計算された。
【0104】
メチル化リスクスコアで肺癌患者の全病期を特定
【0105】
トレーニングコホートにおいて、メチル化リスクスコアの受信者動作特性(ROC)解析は、
図12に示すように、曲線下面積(AUC)0.90(95%C.I.=0.83-0.97)と推定され、個々のマーカー(SCT:0.68、BARHL2:0.54、HOXA9:0.80、KCNS2:0.73)よりも優れていた。カットオフ値を-0.764とすると、メチル化スコアは肺癌診断において感度90.2%、特異度70.0%、陽性的中率75.5%、陰性的中率87.5%を達成した。この数値は、表8に示した他のカットオフ値を用いて計算された同様の指標を上回った。
【表8】
【0106】
このメチル化スコアリングシステムが進行性疾患患者のみから得られたものであることを考慮すると、特に早期の肺癌患者については利用可能な検査がほとんどなかったことから、表7に示すように、このシステムは、より広範な適用可能性を得るために、全ステージの肺癌患者68名と非癌対照75名からなる独立した検証コホートに適用された。
【0107】
メチル化スコアのAUCは、検証コホートの進行した疾患の患者で0.88(95%C.I.=0.85~0.95)と計算された。
図12に示すように、全体的なAUCは、全ステージの患者について、依然として、0.81(95%C.I.=0.73-0.88)を達成した。多変量解析の結果、表9に示すように、年齢、性別、喫煙状態、cfDNA断片のサイズと濃度を調整した後、トレーニングコホート(オッズ比、80.5、p=0.001)または検証コホート(オッズ比、3.15、p=0.019)のいずれにおいても、-0.764を超えるメチル化スコアが肺癌診断の独立した予測因子であることが明らかになった。
【表9】
【0108】
全体として、
図13に示されるように、トレーニング/検証を組み合わせたコホートにおいて、本アッセイはステージIおよびステージIVの疾患患者に対して、それぞれ82.8%および92.6%の感度を達成した。一方、臨床で腫瘍マーカーとして一般的に使用されている血清糖タンパク質であるカルサイノエンブリオニック抗原(CEA)は、
図13にも示すように、初期疾患ではほとんど上昇しなかった(カットオフ値5ng/mL)。さらに、初期疾患(平均3.89、S.D.=5.38)と比較して、後期疾患(平均8.43、S.D.=18.14)では高いメチル化スコアが観察された(マン・ホイットニー検定、p=0.049)。このデータは、メチル化スコアが疾患負荷と相関することを示している。
【0109】
連続追跡調査におけるcfDNAのメチル化リスクスコアの縦断的な評価
【0110】
その後、メチル化リスクスコアの動的変化を、病状モニタリングのための縦断的な患者コホートで評価した。cfDNAサンプルは、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)基準バージョン1.1に従って、進行肺腺癌患者から病勢進行(原発腫瘍の増大や新たな転移の存在など)まで3ヶ月ごとに採取された。
図14Aは、2016年1月から2020年12月まで、57人の肺癌患者から合計261の連続血液サンプルが初診時および経過観察時に採取されたことを示している。全患者が標準治療(チロシンキナーゼ阻害薬47例、シスプラチンとペメトレキセド6例、カルボプラチンとペメトレキセド3例、化学放射線療法1例)を受けた。治療効果に基づき、患者は最初の3ヶ月以内の即時疾患進行(即時PD、N=9人)、部分奏効または疾患安定(PR/SD、N=19人)、最初のPR/SD後の後期疾患進行(後期PD、N=29人)の3群に分類された。最初のメチル化スコアが癌のカットオフ値-0.764を超え、少なくとも6ヶ月間追跡された患者が解析に含まれた。
【0111】
一般に、表10に示すように、初期メチル化スコアはPR/SD群とPD群で類似していた。
【0112】
【0113】
PR/SD群では、初期の全身治療後のメチル化リスクスコアの有意な減少が観察された。一方、
図14Bは、メチル化スコアが最初は低下していたが、患者が疾患進行(PD)を経験すると上昇したことを示している。各診察からの繰り返し測定を調整する一般化推定方程式(GEE)アプローチが適用された。
図14Cに示すように、PD群では推定周辺平均がより高くなる傾向が見られた(5.5対2.9、周辺平均差が2.63、95%C.I.が-0.6~5.9)。
【0114】
表11は、非PDグループにおけるGEEモデルのオッズ比が0.251(95%C.I.が0.075-0.84)であることを示しており、繰り返しの診察の効果を考慮すると、治療中のメチル化スコアの動的変化がより小さいことを示す(PDと受診の交互作用項)。このデータから、メチル化リスクスコアは連続的な疾患モニタリングに大きな可能性があることが示唆された。
【0115】
【0116】
EGFR野生型および変異型肺癌の疾患モニタリングにおけるメチル化リスクスコアの応用
【0117】
異なる治療を受けた特定のドライバー変異の有無にかかわらず、肺癌患者における疾患モニタリングのためのメチル化リスクスコアの臨床的有用性を例示するために、
図15Aから15Cに示すように、個々の患者においてメチル化リスクスコアの動的変化を調べた。
【0118】
患者L14は、主要ドライバー変異が陰性のステージIVの肺腺癌を呈する56歳の患者であった。カルボプラチンとペメトレキセドの治療下で、メチル化スコアは約6ヶ月間有意な変化を示さず、これは疾患安定と相関していた。約9ヶ月後にはメチル化スコアが急上昇し、臨床的進行が明らかになった。
【0119】
患者L12は、アファチニブ治療を受けているEGFR変異肺腺癌を呈する72歳の患者であった。患者は当初治療に反応し、メチル化スコアは減少した。しかし、胸部断層撮影では原発性肺腫瘍が縮小していたにもかかわらず、約270日後にスコアが再び上昇した。その代わりに、メチル化スコアの上昇と相関する肝臓の転移病変の拡大が発見された。逆に、カルサイノエンブリオニック抗原(CEA)の血清レベルには変化がなかった。
【0120】
患者L44は、エルロチニブ治療を受けているステージIVのEGFR変異肺腺癌を呈する69歳の患者であった。この患者のメチル化リスクスコアは治療後徐々に減少した。しかしながら、胸部断層撮影では原発性肺腫瘍が縮小しているにもかかわらず、9ヶ月後にはメチル化スコアの増加が観察された。さらに6ヶ月後、ついに腰椎と骨盤に新たな骨転移が認められ、メチル化スコアの上昇が明らかなX線像と臨床的進行に先行していたことが示された。驚くべきことに、局所緩和的放射線治療(RT)後、メチル化スコアは急速に低下した。しかし、CEA値は全経過を通じて低いままであった。
【0121】
本開示は、その実施形態とともに説明されてきたが、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な変更が本開示の実施形態に従うことが理解される。したがって、記載された実施形態は、本開示を限定するのではなく、本開示の範囲内の修正をカバーすることを意図している。従って、特許請求の範囲は、全てのそのような改変を包含するように、最も広い解釈が与えられるべきである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-08-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】