(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】金属切削フライス工具
(51)【国際特許分類】
B23C 9/00 20060101AFI20240216BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B23C9/00 Z
B23C5/10 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553258
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2022051456
(87)【国際公開番号】W WO2022184342
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バーリマン, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ルーマン, ステファン
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022KK01
3C022KK11
3C022QQ03
(57)【要約】
金属切削フライス工具100であって、中心軸Cの周りを回転方向に回転可能である本体を備え、本体が、前端部106と、前端部106から軸方向後方に延びる複数のランド部156と、前端部から軸方向後方に延びる複数のチップルーム146とを備え、複数のチップルームのうちの各チップルーム146が、複数のランド部のうちの2つの隣接するランド部156間に位置決めされ、複数のランド部のうちの各ランド部156が、回転方向に見て前面157と後面158とによって境界付けられ、前面157が後面158の回転前方向にあり、径方向外側前方領域における前面157の一部としての各ランド部156が、切削インサート114を受け入れるためのインサートシート110を備え、フライス工具100の前端部106で、中心軸Cに垂直な平面において、第1のランド部156のインサートシート110の径方向外側点に交わる半径と、第2のランド部156のインサートシート110の対応する点に交わる半径との間の角度が、第1のランド部156のシートピッチ角αを規定し、第1のランド部と第2のランド部156とが、回転方向における隣接した連続するランド部であり、複数のランド部のうちの少なくとも3つの異なるランド部156が、値の異なるシートピッチ角αを有し、フライス工具の前端部で、各ランド部156が、インサートシート110とそれぞれのランド部156の後面158との間で、フライス工具100の半径方向周囲に沿った周方向距離によって規定される、それぞれの弧長ALを有し、最長弧長ALが、最短弧長ALよりも最大で10%長いことを特徴とする、金属切削フライス工具。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属切削フライス工具(100)であって、
中心軸(C)の周りを回転方向に回転可能である本体を備え、
前記本体が、
-前端部(106)と、
-前記前端部(106)から軸方向後方に延びる複数のランド部(156)と、
-前記前端部から軸方向後方に延びる複数のチップルーム(146)と
を備え、
-前記複数のチップルームのうちの各チップルーム(146)が、前記複数のランド部のうちの2つの隣接するランド部(156)間に位置決めされ、
-前記複数のランド部のうちの各ランド部(156)が、前記回転方向に見て前面(157)と後面(158)とによって境界付けられ、径方向外側前方領域における前面(157)の一部としての各ランド部(156)が、切削インサート(114)を受け入れるためのインサートシート(110)を備え、
-前記フライス工具(100)の前記前端部(106)で、前記中心軸(C)に垂直な平面において、第1のランド部(156)の前記インサートシート(110)の径方向外側点に交わる半径と、第2のランド部(156)の前記インサートシート(110)の対応する点に交わる半径との間の角度が、前記第1のランド部(156)のシートピッチ角(α)を規定し、前記第1のランド部と第2のランド部(156)とが、前記回転方向における隣接した連続するランド部であり、
-前記複数のランド部のうちの少なくとも3つの異なるランド部(156)が、値の異なるシートピッチ角(α)を有し、
-前記フライス工具(100)の前記前端部(106)で、各ランド部(156)が、前記インサートシート(110)とそれぞれのランド部(156)の前記後面(158)との間の、前記フライス工具(100)の半径方向周囲に沿った周方向距離によって規定される、それぞれの弧長(AL)を有し、
最長弧長(AL)が、最短弧長(AL)よりも最大で10%長いことを特徴とする、金属切削フライス工具。
【請求項2】
前記金属切削フライス工具(100)が、前記インサートシート(110)のそれぞれに1つが位置決めされた切削インサート(114)をさらに備え、すべての前記切削インサート(114)が同一である、請求項1に記載の金属切削フライス工具。
【請求項3】
前記フライス工具(100)の前記前端部(106)で、前記中心軸(C)に垂直な平面において、切削インサート(114)の上側に平行な線と、前記隣接するランド部(156)の、前記切削インサート(114)と同じチップルーム(146)に関連付けられた前記後面(158)に平行な線とが、それぞれの切削インサート(114)の開口角(γ)を規定し、前記開口角(γ)のうちの少なくとも3つの値が異なる、請求項2に記載の金属切削フライス工具。
【請求項4】
すべての開口角(γ)が60~100°である、請求項3に記載の金属切削フライス工具。
【請求項5】
前記インサートシート(110)が、前記切削インサート(114)のうちの1つを固定するためのねじ孔(112)をそれぞれ備え、前記ねじ孔(112)が、前記インサートシート(110)を横切って延び、すべてのねじ孔(112)が貫通孔である、請求項1から4のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項6】
すべてのねじ孔(112)が、あるチップルーム(146)から前記回転方向において隣接するチップルーム(146)まで延びる、請求項5に記載の金属切削フライス工具。
【請求項7】
最長ねじ孔(112)が、最短ねじ孔(112)よりも最大で10%長い、請求項5または6に記載の金属切削フライス工具。
【請求項8】
最長弧長(AL)が、最短弧長(AL)よりも最大で5%長い、請求項1から7のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項9】
最短弧長(AL)が、前記切削インサート(114)の厚さと少なくとも同じ長さである、請求項2から4のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項10】
最大シートピッチ角(α)が、最小シートピッチ角(α)よりも少なくとも5°大きい、請求項1から9のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項11】
前記最大シートピッチ角(α)が、前記最小シートピッチ角(α)よりも少なくとも8°大きい、請求項1から10のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項12】
すべてのシートピッチ角(α)が異なる値を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項13】
すべての前記切削インサート(114)が、前記中心軸(C)から同じ半径方向距離をおいて位置決めされる、請求項2または3に記載の金属切削フライス工具。
【請求項14】
割出し可能なフライス工具がエンドミル工具である、請求項1から13のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項15】
割出し可能なフライス工具が溝フライス工具である、請求項1から13のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属切削フライス工具に関し、より詳細には、使用中の振動を抑制するための差動ピッチを持つ金属切削フライス工具に関する。
【背景技術】
【0002】
チャタリングとしても知られる振動は、チタン、鋼、アルミニウム、および鋳造物などの材料のフライス加工中によく見られる問題である。振動は、被加工物とフライス工具との相対運動に相当し、機械加工面に望ましくない凹凸/起伏を生じさせる。
【0003】
振動に関する問題は、差動ピッチを使用することによって、ある程度まで解決することができる。差動ピッチとは、フライス工具の周囲において2つの隣接する切削インサート間に異なる角度があることを意味する。差動ピッチを有することによって、切削インサートの係合頻度を変化させることができ、これは、フライス工具の自励発振の危険性を低下させ、これにより、振動を低減させることができる。
【0004】
EP2335853は、差動ピッチを持つフライス工具を開示している。開示されているフライス工具は、フライス工具の周囲に沿って切削インサート間に異なる角度を有することによって、差動ピッチを組み込んでいる。また、切削インサートは、回転軸から異なる半径方向距離をおいて位置決めされて、より均一なチップ厚を実現し、それに応じて切削インサートにかかる負荷を低減させる。
【0005】
この既知の工具は、大部分の適用について良好に機能する。しかしながら、ある一定の適用において、工具は、時には工具の故障を生じさせ得るバランスおよび強度に関する問題を有することがある。
【0006】
したがって、フライス工具の差動ピッチを維持しながら、上記の問題のうちのいくつかを軽減するように、金属切削フライス工具を改良する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
したがって、本発明の目的は、上記の問題のうちのいくつかを軽減する、差動ピッチを持つ改良された金属切削フライス工具を提供することである。
【0008】
本発明によれば、上記の目的は、請求項1に定義される特徴を有する金属切削フライス工具によって実現される。
【0009】
本発明による金属切削フライス工具は、中心軸の周りを回転方向に回転可能である本体を備え、本体は、前端部と、前端部から軸方向後方に延びる複数のランド部と、前端部から軸方向後方に延びる複数のチップルームとを備える。複数のチップルームのうちの各チップルームは、複数のランド部のうちの2つの隣接するランド部間に位置決めされる。複数のランド部のうちの各ランド部は、回転方向に見て前面と後面とによって境界付けられ、前面は後面の回転前方向にあり、径方向外側前方領域における前面の一部としての各ランド部は、切削インサートを受け入れるためのインサートシートを備える。フライス工具の前端部で、中心軸に垂直な平面において、第1のランド部のインサートシートの径方向外側点に交わる半径と、第2のランド部のインサートシートの対応する点に交わる半径との間の角度が、第1のランド部のシートピッチ角を規定する。第1のランド部と第2のランド部とは、回転方向における隣接した連続するランド部である。複数のランド部のうちの少なくとも3つの異なるランド部が、値の異なるシートピッチ角を有する。フライス工具の前端部で、各ランド部は、インサートシートとそれぞれのランド部の後面との間の、フライスカッタの半径方向周囲に沿った周方向距離によって規定される、それぞれの弧長を有する。最長弧長は、最短弧長よりも最大で10%長い。
【0010】
本発明者らは、この構成が、フライスカッタのバランスの問題、および一部のランド部の強度が他のランド部の強度よりもかなり低いという問題を軽減することに気付いた。各ランド部の弧長が、すべての他のランド部と比較して最大で10%異なるため、すべてのインサートシートの背後の材料の量は、略同じである。この材料は、フライスカッタの中心軸から最も離れて位置決めされるため、カッタのバランスに大きく影響を及ぼす。ランド部間に最大で10%異なる弧長を有することは、通常、振動を低減させるための差動ピッチを実現することは困難であることを暗示する。しかしながら、値の異なるシートピッチ角を持つ本構成は、この問題を軽減し、ランド部間の強度が均一に分散され、かつ他のランド部よりもかなり弱いランド部がない、バランスのとれたフライス工具を有しながら、差動ピッチの実現を可能にする。
【0011】
値の異なる少なくとも3つのシートピッチ角を有すること、すなわち、少なくとも3つのシートピッチ角が等しくないことは、フライス工具が差動ピッチにより振動を低減させることができることを保証する。
【0012】
インサートシートは、より詳細には、インサートシート底部、すなわち、切削インサートの下側に接触するインサートシートの面を指す。切削インサートの下側は、切削インサートの上側と反対側の面として定義され、上側はレーキ面を備える。インサートシートは、必ずしも1つの平坦面ではなく、平坦な下側を有する切削インサートに接触するインサートシート底部の点によって囲まれた箇所として定義される。これにより、インサートシートは、例えば凹面であってよく、インサートシートの外側点のみが切削インサートに接触する。
【0013】
一実施形態によれば、フライス工具は、インサートシートのそれぞれに1つが位置決めされた切削インサートをさらに備え、すべての切削インサートが同一である。
【0014】
一般に、使用される切削インサートは、任意の種類のものであってよく、必ずしも同一である必要はない。しかしながら、すべてが同じ厚さを有する切削インサートを使用することが好ましい。すべてが同一である切削インサートを使用することがより好ましい。
【0015】
この構成は、すべての切削インサートが同じ厚さを有することにより、切削インサートの切れ刃のピッチ角が最適なシートピッチ角と同じになることを暗示している。これは、フライスカッタの使用中の振動をより良好に低減させる。すべてのインサートを同一にすることにより、インサートを取り替えるときのインサートの取扱いも非常に簡略化される。
【0016】
一実施形態によれば、フライス工具の前端部で、中心軸に垂直な平面において、切削インサートの上側に平行な線と、隣接するランド部の、切削インサートと同じチップルームに関連付けられた後面に平行な線とが、それぞれの切削インサートの開口角を規定する。開口角のうちの少なくとも3つの値が異なり、すなわち、少なくとも3つの開口角が等しくない。
【0017】
この構成は、フライス工具の使用中の振動を良好に低減させながら、長さが同様の弧長を有することを可能にする。
【0018】
すべての開口角の値が異なることが好ましい。
【0019】
この構成により、フライス工具の使用中の振動をさらに良好に低減させる。
【0020】
一実施形態によれば、すべての開口角は60~100°である。
【0021】
本実施形態は、最大5個の切削インサートを持つフライス工具のみに適用される。
【0022】
この構成により、チップルームは、チップを機械加工面から効率的に移すことができるように十分大きく、同時に、フライス工具の強度を維持するために、充分な量の材料がフライス工具内に保持される。
【0023】
一実施形態によれば、インサートシートは、切削インサートのうちの1つを固定するためのねじ孔をそれぞれ備え、ねじ孔は、インサートシートを横切って延びる。すべてのねじ孔が貫通孔である。
【0024】
切削インサートをインサートシートに多くの方法で固定することができ、すなわち、クランプによって、または、切削インサートの中心孔を通り、かつインサートシートから延びる止まり孔もしくは貫通孔に挿入されるねじなどの締付要素によって、固定することができる。切削インサートは、ねじ付貫通孔に挿入されたねじによって固定されることが好ましい。
【0025】
この構成の利点は、ねじ孔の穿孔およびねじ切りを2つの方向から行うことができるため、フライス工具の製造が簡略化されることである。別の利点は、ねじ孔を長くすることができ、より長いねじを使用することができることである。これは、インサートシートにおける切削インサートの安定性を向上させる。
【0026】
すべてのねじ孔が、それぞれのインサートシートに対して同じ角度で延びることが好ましい。
【0027】
一実施形態によれば、すべてのねじ孔は、あるチップルームから回転方向において隣接するチップルームまで延びる。これにより、ねじ孔は、1つのチップルームに開口部を有し、隣接するチップルームに終点を有する。
【0028】
一実施形態によれば、最長ねじ孔は、最短ねじ孔よりも最大で10%長い。
【0029】
最長ねじ孔は、最短ねじ孔よりも最大で5%長いことが好ましい。
【0030】
最短ねじ孔よりも最大で10%長い最長ねじ孔を有することと、ねじ孔がインサートシートを横切ることとの組合せは、すべてのねじ孔が、それぞれのチップルームまたはランド部のそれぞれの弧長の略同じ位置で終わることを暗示する。これは、孔の穿孔またはねじ切りのための正しい位置に製造ロボットを位置決めすることがより容易になるため、フライス工具の製造を簡略化する。
【0031】
一実施形態によれば、最長弧長は、最短弧長よりも最大で5%長い。
【0032】
この構成により、フライスカッタのバランスがさらに向上し、ランド部間の強度がさらにいっそう等しくなる。
【0033】
一実施形態によれば、最短弧長は、少なくとも切削インサートの厚さと同じ長さである。
【0034】
この構成は、ランド部の弧長、したがって厚さが、切削インサートをインサートシートにおいて安定させるのに十分な長さのねじ孔およびねじを有するのに充分であることを保証する。
【0035】
切削インサートの厚さの少なくとも1.5倍の最短弧長を有することがさらにいっそう好ましい。
【0036】
切削インサートの厚さは、切削インサートの上側と切削インサートの下側との間の距離として定義される。
【0037】
一実施形態によれば、最大シートピッチ角は、最小シートピッチ角よりも少なくとも5°大きい。
【0038】
この構成は、振動を低減させるフライス工具の傾向をさらに高める。
【0039】
一実施形態によれば、最大シートピッチ角は、最小シートピッチ角よりも少なくとも8°大きい。
【0040】
この構成は、振動を低減させるフライス工具の傾向をさらにいっそう高める。
【0041】
一実施形態によれば、すべてのシートピッチ角が異なる値を有する。
【0042】
この構成は、振動を低減させるフライスカッタの傾向をさらにいっそう高める。
【0043】
一実施形態によれば、すべての切削インサートは、中心軸から同じ半径方向距離をおいて位置決めされる。
【0044】
この構成は、使用する歯送りおよび送り速度に関係なく、フライス加工中にすべての切削インサートが動作することを保証する。
【0045】
一実施形態によれば、割出し可能なフライス工具は、エンドミル工具である。
【0046】
この構成は、フライスカッタが、直角端面フライス加工または正面フライス加工を行うのに適したものであることを保証する。
【0047】
一実施形態によれば、割出し可能なフライス工具は、溝フライス工具である。
【0048】
この構成は、フライスカッタが、溝フライス加工動作に適したものであることを保証する。
【0049】
本発明のさらなる利点が、以下の説明から明らかになろう。
【0050】
以下で、本発明の実施形態を添付図面に関して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明の実施形態による金属切削フライス工具の側面図である。
【
図2】切削インサートがフライス工具に取り付けられている、
図1に示す金属切削フライス工具の別の側面図である。
【
図3】フライス工具の前端部を示す、
図2に示す金属切削フライス工具の端面図である。
【
図4a-4c】
図1に示す金属切削フライス工具の断面図である。
【
図5】
図1に示す金属切削フライス工具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下の定義は、すべての実施形態について有効である。
【0053】
シートピッチ角αは、第1のランド部のインサートシートの径方向外側点に交わる半径と、第2のランド部のインサートシートの対応する点に交わる半径との間の角度として定義され、第1のランド部と第2のランド部とは、回転方向における隣接した連続するランド部である。
【0054】
弧長ALは、フライス工具の前端部で、各ランド部について、インサートシートとそれぞれのランド部の後面との間の、フライス工具の半径方向周囲に沿った周方向距離として定義される。
【0055】
ピッチ角βは、フライス工具の前端部で、中心軸Cに垂直な平面において、第1の切削インサートの上側に平行な線と、第2のインサートの上側に平行な同様の線との間の角度として定義され、第2のインサートは、フライス工具の回転方向における隣接した連続するインサートである。
【0056】
それぞれの切削インサートの開口角γは、フライス工具の前端部で、中心軸Cに垂直な平面において、切削インサートの上側に平行な線と、隣接するランド部の、切削インサートと同じチップルームに関連付けられた後面に平行な線との間の角度として定義される。
【0057】
以下で、本発明による実施形態を示す
図1および
図2を参照する。図には、全体を100で示す金属切削フライス工具が示されている。金属切削フライス工具100は、回転可能な工具ホルダ(図示せず)に取り付けるための後端部104と、前端部106と、外周面108とを有する。本実施形態において、外周面108は、前端部106に最も近い領域で概ね円筒形であり、円筒形領域に近接する領域で概ね円錐形である。
【0058】
フライス工具は中心軸Cを規定し、中心軸Cは、フライス工具がその周りを回転方向Rに回転する長手方向軸でもある。以下の説明において、軸方向に延びると記載する方向は、実質的に中心軸Cに平行な方向であり、半径方向に延びると記載する方向は、実質的に中心軸Cに垂直な方向である。
【0059】
金属切削工具100は、フライス加工したチップを機械加工作業面から移すための、接線方向に離間したチップルーム146をさらに備える。各チップルーム146間に、ランド部156が配置されている。ランド部156は、中心軸Cから半径方向に延びる翼部として機能する。ランド部156は、フライス工具100の半径方向外周を形成する。図示の実施形態において、ランド部156の外周は、前端部106、およびさらには後端部104に最も近い箇所で軸方向に延び、ランド部156の外周は中心軸Cに近付く。
【0060】
各ランド部156は、前面157および後面158によって回転方向Rに境界付けられる。前面157は後面158の回転前方向にある。各前面157は、対応するチップルーム146の境界面の一部と、対応するランド部156の境界面の一部とを形成する。ここで、対応するとは、図において「a」を付けた特徴が「a」を付けた他の特徴に関連付けられ、「b」を付けた特徴が「b」を付けた他の特徴に関連付けられることなどを指す。各後面158はチップルーム146の境界面の一部を形成し、後面158bはチップルーム146aの境界面の一部を形成し、後面158cはチップルーム146bの境界面の一部を形成するなどである。さらに、各後面158は、対応するランド部156の境界面の一部を形成する。
【0061】
各前面157は、着脱可能に取り付けられた切削インサート114のためのインサートシート110を有する。本実施形態において、すべての切削インサート114が、フライス工具100の前端部106に位置決めされる。フライス工具100を正面フライス加工に使用する場合、各切削インサート114は、半径方向に延びる少なくとも1つの切れ刃を有する。フライス工具100を直角端面フライス加工に使用する場合、各切削インサートは、半径方向に延びる少なくとも1つの切れ刃と、軸方向に延びる1つの切れ刃とを有する。本明細書において、正面フライス加工および直角端面フライス加工は、エンドミル加工と総称される。
【0062】
本実施形態において、切削インサート114は、切削インサートの中心通し孔に、フライス工具100のねじ孔112を通って位置決めされるねじを締め付けることによって取り付けられる。図示の実施形態において、各ねじ孔112は、対応するインサートシート110を横切って延び、各ねじ孔112は通し孔である。各通しねじ孔112は、インサートシート110から始まり、ランド部156の半径方向外面、後面158、または部分的にランド部156および部分的に後面158のいずれかで終わると言える。詳細に後述するように、すべてのねじ孔112は、略等しい長さを有し、対応する切削インサート114に対して略同じ位置で終わり、すなわち、ねじ孔112の端部は、主前端部106から略同じ軸方向位置にあり、かつ各ねじ孔112についてそれぞれのインサートシート110から略同じ接線距離にある。図示の実施形態によれば、最長ねじ孔は、最短ねじ孔よりも最大で10%長い。最長ねじ孔は、最短ねじ孔よりも最大で5%長いことがより好ましい。図示の実施形態において、すべてのねじ孔112は、それぞれのインサートシート110に対して同じ角度で延びる。ねじ孔112が貫通孔として形成されることは、ねじ切りを孔の両側から行うことができるため、フライス工具100の製造を簡略化し、より長いねじ山を有することを可能にする。より長いねじ山を有することは、インサートシート110によりしっかりと安定して取り付けられた切削インサート114を有することを可能にする。貫通孔の構成により、ねじが孔に詰まった場合にねじを後ろから押すことができるため、切削インサート114の交換も簡略化される。すべてのねじ孔112が略約等しい長さを有し、略同じ相対位置で終わるという特徴の利点は、製造が非常に簡略化されることである。これは、孔の穿孔およびねじ切りを、すべてのねじ孔112について同じ工具で行うことができ、すべてのねじ孔112が略同じ相対位置で終わる場合、このプロセスは、通常、自動ロボットによって行われ、ロボットアームの位置決めがより簡単になるからである。
【0063】
次に、
図1および
図2のフライス工具100の端面図である
図3を参照する。シートピッチ角αは、第1のランド部156のインサートシート110の径方向外側点に交わる半径と、第2のランド部156の対応する点に交わる半径との間の角度として定義され、第1のランド部と第2のランド部とは、回転方向における隣接した連続するランド部である。
【0064】
シートピッチ角αのうちの少なくとも3つの値が異なり、すなわち、少なくとも3つのシートピッチ角αが等しくない。シートピッチ角αのうちの4つの値が異なることがより好ましく、シートピッチ角αのすべての値が異なることが最も好ましい。最大シートピッチ角αは、最小シートピッチ角よりも少なくとも5°大きいことが好ましい。最大シートピッチ角αは、最小シートピッチ角よりも少なくとも8°大きいことがより好ましい。この構成は、切削インサート114間に差動ピッチを持つフライス工具100を有することを可能にし、すなわち、フライス工具が回転し、被削材を機械加工するときに、切削インサートの係合頻度が変化する。これは、フライス工具100の自励発振の危険性を低下させ、これにより、振動が低減する。値の異なるシートピッチ角αの数が大きいほど、かつ最大シートピッチ角と最小シートピッチ角との間の差が大きいほど、振動を低減させる傾向がより良好になる。
【0065】
弧長ALは、フライス工具100の前端部106で、各ランド部156について、インサートシート110とそれぞれのランド部156の後面158との間の、フライスカッタの半径方向周囲に沿った周方向距離として定義される。最長弧長ALは、最短弧長ALよりも最大で10%長い。最長弧長ALは、最短弧長ALよりも最大で5%長いことが好ましい。この構成により、フライス工具100のバランスが向上し、個々のランド部156は、差動ピッチを持つ既知のフライス工具と比較してより均一な強度を有する。すべてのインサートシート110の背後の材料の量は、差動ピッチを持つ既知のフライス工具と比較して、より均一になる。この材料は、フライス工具100の中心軸Cから最も離れて位置決めされるため、フライス工具100のバランスに大きく影響を及ぼす。さらに、すべてのランド部156の充分な強度を確保するために、最短弧長ALは、少なくとも切削インサート114の厚さと同じ長さであることが好ましい。切削インサート114の厚さは、切削インサートの上側と切削インサートの下側との間の距離として定義される。
【0066】
ピッチ角βは、フライス工具の前端部で、中心軸Cに垂直な平面において、第1の切削インサート114の上側に平行な線と、第2のインサートの上側に平行な同様の線との間の角度として定義され、第2のインサートは、フライス工具100の回転方向における隣接した連続するインサートである。すべてが互いに同一である切削インサート114を使用することによって、ピッチ角βは、対応するシートピッチ角αに等しくなる。これは、シートピッチ角αが差動ピッチおよび振動の低減に関して最適化されるため、大きな利点である。すべての切削インサート114を同一にすることにより、異なる種類の切削インサートを取り違える危険性がなくなるため、切削インサート114を交換するときのインサートの取扱いも簡略化される。
【0067】
切削インサート114はすべて、中心軸Cから同じ半径方向距離をおいて位置決めされることが好ましい。この利点は、使用する歯送りおよび送り速度に関係なく、フライス加工中にすべての切削インサート114が動作することである。
【0068】
それぞれの切削インサート114の開口角γは、フライス工具の前端部106で、中心軸Cに垂直な平面において、切削インサート114の上側に平行な線と、隣接するランド部156の、切削インサート114と同じチップルーム146に関連付けられた後面158に平行な線との間の角度として定義される。開口角γのうちの少なくとも3つ、好ましくはすべての値が異なる。さらに、開口角γの範囲は60~100°である。この構成は、振動を低減させるフライス工具100の能力をさらにいっそう向上させる。
【0069】
図4は、
図1に示すフライス工具100の断面図である。各チップルーム146は、第1のランド部156の後面158と、第2のランド部156の前面157と、後面158および前面157の間に位置する底面とを含むチップルーム面によって境界付けられる。ここでは、第1のランド部156は第2のランド部の回転前方向にある。各チップルーム146の湾曲の最小半径rが、フライス工具100の前端部106から様々な距離をおいた3つの異なる断面に示されている。断面は、中心軸Cに垂直である。第2の断面の最小半径r2および第3の断面の最小半径r3は、第1の断面の最小半径r1よりも大きい。第1の断面は、第2の断面および第3の断面の軸方向前方にある。
【0070】
この構成は、切削インサート114を収容するのに十分な大きさのチップルーム146を持つフライス工具を有しながら、フライス工具の強度を高めるという問題を軽減する。第1の断面の比較的小さい半径r1は、フライス工具から過剰な量の材料を除去することなく、フライス工具100の前端部106に最も近い箇所に、切削インサート114が通常位置決めされる深いチップルーム146を有することを可能にする。これは、比較的小さい半径r1により、チップルーム146が狭くなるからである。これは、切削インサート114をチップルーム146内に嵌合させることを可能にする。大量の材料をフライス工具100から除去すると、フライス工具の強度が低下する。第2の断面および第3の断面の比較的大きい半径r2、r3を有することは、第1の断面と比較して、フライス工具の前端部106から離れた箇所に浅いチップルーム146を有することを可能にする。この箇所により大きい半径のより浅いチップルーム146を有すると、強度が最も重要である断面において、フライス工具からそれほど多くの材料が除去されない。半径が大きいほど、小さい半径よりも亀裂発生に対する耐性も高くなる。これにより、第1の断面の比較的小さい半径r1と第2の断面および第3の断面のより大きい半径r2、r3とを有する組合せは、切削インサート114を収容するのに十分な大きさのチップルーム146を有しながら、フライス工具の強度を高める。
【0071】
チップルーム146の底面は、中心軸Cに垂直な各断面の一部であり、ここで後面158と前面157とが合う。各断面における、各チップルーム面の最小半径rを持つ湾曲は、チップルーム146の底面に見付けられる。底面は、各断面の、フライス工具100の中心軸Cに最も近い部分でもあることが好ましい。
【0072】
第1の断面は、インサートシート110の軸方向長さに沿って軸方向に位置し、第2の断面および第3の断面は、インサートシート110の軸方向長さよりも前端部106から軸方向に離れて位置することが好ましい。第3の断面の最小半径r3は、第2の断面の最小半径r2よりも大きいことが好ましい。これにより、半径は、r3>r2>r1の関係を有することが好ましい。これにより、チップルーム146の湾曲の最小半径r1、r2、r3は、フライス工具100の後端部104に近付くほど増加する。最小半径rは、厳密には第2の断面の最小半径r2と第3の断面の最小半径r3との間で増加していることが好ましい。最小半径rは、第2の断面の最小半径r2と第3の断面の最小半径r3との間で直線的に増加することがより好ましい。
【0073】
インサートシート110の軸方向長さは、インサートシート110がそれに沿って伸長部を有する軸方向距離を指す。
【0074】
一実施形態において、第1の断面の最小半径r1は、インサートシート110の軸方向全長に沿って略一定である。第3の断面の最小半径r3は、2~10mmであることが好ましい。第3の断面の最小半径r3は、第1の断面の最小半径r1の2~4倍であることがより好ましい
【0075】
図5に示すように、第3の断面におけるチップルーム146の深さは、第1の断面におけるチップルームの深さよりも小さい。
【0076】
深さは、各断面において、チップルーム面の底面から、フライス工具100の外周面108の仮想周方向伸長部、すなわち2つの隣接するランド部156が仮想円弧によって接続されるときに得られる円弧までの最短距離として定義される。
【0077】
この構成は、チップルームがフライス工具の前端部から離れた断面に不要な深さを有することがないことを保証する。チップルームの深さが小さいほど、フライス工具の強度が高まる。
【0078】
フライス工具100の中心軸Cから底面までの半径方向距離は、第1の断面と比較して、第3の断面でさらに大きい。
【0079】
第2の断面と第3の断面との間のすべての断面におけるチップルーム146の底面は、チップルーム146の長さ方向に実質的に平行な断面における円弧r4の形状を有することが好ましい。
【0080】
チップルーム146の長さ方向は、第2の断面の最小半径r2と第3の断面の最小半径r3とを通る線の方向である。
【0081】
この構成は、フライス工具100の前端部106近くの比較的大きい深さを持つチップルーム146から、フライス工具100の前端部から軸方向に離れた比較的小さい深さを持つチップルームへの滑らかな移行を可能にする。この滑らかな移行は、亀裂発生点についての危険性を最小限に抑える。
【0082】
図1に示すように、チップルーム146は、周方向において、インサートシート110の仮想軸方向伸長部に配置された箇所まで延びることが好ましい。
【0083】
仮想軸方向伸長部は、インサートシート110と同じ周方向位置を占める箇所を指し、インサートシート110よりも前端部106から軸方向に離れている。
【0084】
この構成は、インサートシート110のすぐ軸方向近傍に、したがって暗示的に、切削インサート114の軸方向伸長部にも、十分なチップルーム空間があることを保証する。チップを被削面から効果的に移すために、十分に大きいチップルーム146が必要である。
【0085】
本明細書に開示されたチップルーム146の形状は、自由形状のボールノーズフライス加工によって可能になる。
【0086】
図1~
図3に関連して開示した差動ピッチの発明を、
図1、
図4、および
図5に関連して開示したチップルーム146の形状に関する本発明と組み合わせて、これらの概念の利点を組み合わせたフライス工具を実現することができる。
【0087】
本発明は、フライス工具100に5個の切削インサート114が組み込まれた状態で示されている。しかしながら、本発明の実施形態を、限定されないが8個、10個、12個、または20個などの他の数の切削インサート114を有するフライス工具100で実施することが等しく可能である。切削インサート114の最小数は、3個である。
【0088】
本発明は、エンドミル工具に組み込まれた状態で示されている。しかしながら、図示の実施形態のうちのいくつかは、溝フライス工具で実施することが等しく可能である。
【国際調査報告】