(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】金属切削フライス工具
(51)【国際特許分類】
B23C 9/00 20060101AFI20240216BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B23C9/00 Z
B23C5/10 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553260
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2022051462
(87)【国際公開番号】W WO2022184343
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バーリマン, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ルーマン, ステファン
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022KK03
3C022KK11
3C022QQ07
(57)【要約】
金属切削フライス工具100であって、中心軸Cの周りを回転方向に回転可能である本体を備え、本体が、前端部106と、前端部106から軸方向後方に延びる複数のランド部156と、前端部から軸方向後方に延びる複数のチップルーム146とを備え、複数のランド部のうちの各ランド部156が、回転方向に見て前面157と後面158とによって境界付けられ、前面157が後面158の回転前方向にあり、径方向外側前方領域における前面157の一部としての各ランド部156が、切削インサート114を受け入れるためのインサートシート110を備え、複数のチップルームのうちの各チップルーム146が、複数のランド部のうちの2つの隣接するランド部156間に位置し、各チップルーム146が、第1のランド部156の後面157と、第2のランド部156の前面157と、後面158および前面157の間に位置する底面とを含むチップルーム面によって境界付けられ、第1のランド部156が第2のランド部156の回転前方向にあり、中心軸Cに垂直な断面で見て、各チップルーム面が、最小半径rを持つ湾曲を有し、第2の断面の最小半径r2および第3の断面の最小半径r3が、第1の断面の最小半径r1よりも大きく、第1の断面が、第2の断面および第3の断面の軸方向前方にあることを特徴とする、金属切削フライス工具。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属切削フライス工具(100)であって、
中心軸(C)の周りを回転方向に回転可能である本体を備え、
前記本体が、
-前端部(106)と、
-前記前端部(106)から軸方向後方に延びる複数のランド部(156)と、
-前記前端部から軸方向後方に延びる複数のチップルーム(146)と
を備え、
-前記複数のランド部のうちの各ランド部(156)が、前記回転方向に見て前面(157)と後面(158)とによって境界付けられ、前記前面(157)が前記後面(158)の回転前方向にあり、径方向外側前方領域における前記前面(157)の一部としての各ランド部(156)が、切削インサート(114)を受け入れるためのインサートシート(110)を備え、
-前記複数のチップルームのうちの各チップルーム(146)が、前記複数のランド部のうちの2つの隣接するランド部(156)間に位置し、各チップルーム(146)が、第1のランド部(156)の前記後面(158)と、第2のランド部(156)の前記前面(157)と、前記後面(158)および前記前面(157)の間に位置する底面とを含むチップルーム面によって境界付けられ、前記第1のランド部(156)が前記第2のランド部(156)の回転前方向にあり、前記中心軸(C)に垂直な断面で見て、各チップルーム面が、最小半径(r)を持つ湾曲を有し、
第2の断面の最小半径(r2)および第3の断面の最小半径(r3)が、第1の断面の最小半径(r1)よりも大きく、前記第1の断面が、前記第2の断面および前記第3の断面の軸方向前方にあることを特徴とする、金属切削フライス工具。
【請求項2】
前記第1の断面が、前記インサートシート(110)の軸方向長さに沿って軸方向に位置し、前記第2の断面および前記第3の断面が、前記インサートシート(110)の前記軸方向長さよりも前記前端部(106)から軸方向に離れて位置する、請求項1に記載の金属切削フライス工具。
【請求項3】
前記第3の断面の前記最小半径(r3)が、前記第2の断面の前記最小半径(r2)よりも大きい、請求項1または2に記載の金属切削フライス工具。
【請求項4】
前記最小半径(r)が、厳密には前記第2の断面の前記最小半径(r2)と前記第3の断面の前記最小半径(r3)との間で増加している、請求項3に記載の金属切削フライス工具。
【請求項5】
前記最小半径(r)が、前記第2の断面の前記最小半径(r2)と前記第3の断面の前記最小半径(r3)との間で直線的に増加する、請求項3または4に記載の金属切削フライス工具。
【請求項6】
前記最小半径(r)が、前記インサートシート(110)の前記軸方向長さに沿ったすべての断面において略一定である、請求項1から5のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項7】
前記第3の断面の前記最小半径(r3)が、前記第1の断面の前記最小半径(r1)の2から4倍である、請求項1から6のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項8】
前記第3の断面の前記最小半径(r3)が、2から10mmである、請求項1から7のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項9】
第3の断面における前記チップルーム(146)の深さが、第1の断面における前記チップルーム(146)の深さよりも小さい、請求項1から8のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【請求項10】
前記第2の断面と前記第3の断面との間のすべての断面における前記チップルーム(146)の底面が、前記チップルーム(146)の長さ方向に実質的に平行な断面における円弧(r4)の形状を有する、請求項9に記載の金属切削フライス工具。
【請求項11】
前記第2の断面で、前記チップルーム(146)が、周方向において、前記インサートシート(110)の仮想軸方向伸長部に配置された箇所まで延びる、請求項1から10のいずれか一項に記載の金属切削フライス工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心軸の周りを所定の方向に回転可能であり、かつ前端面と、前端面から軸方向後方に延びる外囲面とを有する基体を備える種類の、チップ除去機械加工のための金属切削フライス工具に関する。フライス工具は、周囲に離間したシートに取り付けられ、かつ被加工物から材料を除去する切れ刃を有する切削インサートを受け入れるためのインサートシートをさらに備える。
【背景技術】
【0002】
金属切削フライス工具には、切削インサートを収容するため、かつフライス加工されたチップを被削面から移すためのチップルームが備え付けられている。フライス工具のチップルームを設計するときに、常に妥協が必要とされている。切削インサートは、好ましくはチップルームに嵌入すべきであり、フライス加工されたチップを被削面から移すのに十分な場所も必要である。しかしながら、上記の事項を考慮した設計は、フライス工具の他の部分の強度に関する問題を有する。
【0003】
したがって、切削インサートを収容するのに十分大きいチップルームを有しながら、フライス工具の強度を高めるように、金属切削フライス工具を改良する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
したがって、本発明の目的は、上記の問題のうちのいくつかを軽減する、改良された金属切削フライス工具を提供することである。
【0005】
本発明によれば、上記の目的は、請求項1に定義される特徴を有する金属切削フライス工具によって実現される。
【0006】
本発明による金属切削フライス工具は、中心軸の周りを回転方向に回転可能である本体を備え、本体は、前端部と、前端部から軸方向後方に延びる複数のランド部と、前端部から軸方向後方に延びる複数のチップルームとを備える。複数のランド部のうちの各ランド部は、回転方向において前面と後面とによって境界付けられ、前面は後面の回転前方向にあり、径方向外側前方領域における前面の一部としての各ランド部は、切削インサートを受け入れるためのインサートシートを備える。複数のチップルームのうちの各チップルームは、複数のランド部のうちの2つの隣接するランド部間に位置し、各チップルームは、第1のランド部の後面と、第2のランド部の前面と、後面および前面の間に位置する底面とを含むチップルーム面によって境界付けられる。第1のランド部は第2のランド部の回転前方向にあり、中心軸に垂直な断面で見て、各チップルーム面は、最小半径を持つ湾曲を有する。第2の断面の最小半径および第3の断面の最小半径は、第1の断面の最小半径よりも大きく、第1の断面は、第2の断面および第3の断面の軸方向前方にある。
【0007】
発明者らは、この構成が、切削インサートを収容するのに十分大きいチップルームを持つフライス工具を有しながら、フライス工具の強度を高めるという問題を軽減することに気付いた。第1の断面の比較的小さい半径は、フライス工具から過剰な量の材料を除去することなく、フライス工具の前端部に最も近い箇所に、切削インサートが通常位置する深いチップルームを有することを可能にする。これは、比較的小さい半径により、チップルームが狭くなるからである。これは、切削インサートをチップルーム内に嵌合させることを可能にする。大量の材料をフライス工具から除去すると、フライス工具の強度が低下する。第2の断面および第3の断面の比較的大きい半径を有することは、第1の断面と比較して、フライス工具の前端部から離れた箇所に浅いチップルームを有することを可能にする。この箇所により大きい半径のより浅いチップルームを有すると、強度が最も重要である断面において、フライス工具からそれほど多くの材料が除去されない。半径が大きいほど、小さい半径よりも亀裂発生に対する耐性も高くなる。これにより、第1の断面の比較的小さい半径と第2の断面および第3の断面のより大きい半径とを有する組合せは、切削インサートを収容するのに十分大きいチップルームを有しながら、フライス工具の強度を高める。
【0008】
チップルームの底面は、中心軸に垂直な各断面の一部であり、ここで後面と前面とが合う。各断面における、各チップルーム面の最小半径を持つ湾曲は、チップルームの底面に見付けられる。底面は、各断面の、フライス工具の中心軸に最も近い部分でもあることが好ましい。
【0009】
インサートシートは、より詳細には、インサートシート底部、すなわち、切削インサートの下側に接触するインサートシートの面を指す。切削インサートの下側は、切削インサートの上側と反対側の面として定義され、上側はレーキ面を備える。インサートシートは、必ずしも1つの平坦面ではなく、平坦な下側を有する切削インサートに接触するインサートシート底部の点によって囲まれた箇所として定義される。これにより、インサートシートは、例えば凹面であってよく、インサートシートの外側点のみが切削インサートに接触する。
【0010】
軸方向前方とは、フライス工具の前端部により近いことを指す。
【0011】
一実施形態によれば、第1の断面は、インサートシートの軸方向長さに沿って軸方向に位置し、第2の断面および第3の断面は、インサートシートの軸方向長さよりも前端部から軸方向に離れて位置する。
【0012】
この構成は、半径が、インサートシートが位置する軸方向位置で比較的小さく、フライス工具の前端部から離れた軸方向位置で比較的大きいことを保証する。これは、フライス工具の強度について最適化されたフライス工具を有しながら、切削インサートを収容する深さを持つチップルームを前端部に有することを可能にする。
【0013】
インサートシートの軸方向長さは、インサートシートがそれに沿って伸長部を有する軸方向距離を指す。
【0014】
一実施形態によれば、第3の断面の最小半径は、第2の断面の最小半径よりも大きい。
【0015】
一実施形態によれば、最小半径は、厳密には第2の断面の最小半径と第3の断面の最小半径との間で増加している。
【0016】
一実施形態によれば、最小半径は、第2の断面の最小半径と第3の断面の最小半径との間で直線的に増加する。
【0017】
この構成により、フライス工具の前端部から離れるほど最小半径が大きくなるため、フライス工具のさらに良好な強度が実現される。これは、フライス工具の強度を高め、半径の滑らかな増加は、亀裂発生点が生じないことを保証する。
【0018】
一実施形態によれば、最小半径は、インサートシートの軸方向長さに沿ったすべての断面において略一定である。
【0019】
この構成は、第1の断面における最適な半径を保証する。これは、切削インサートを収容するのに十分な深さのチップルームを実現するために、この半径を最適に設定すべきであるからである。
【0020】
一実施形態によれば、第3の断面の最小半径は、第1の断面の最小半径の2~4倍である。
【0021】
一実施形態によれば、第3の断面の最小半径は、2~10mmである。
【0022】
第3の断面の最小半径は、3~8mmであることがより好ましい。
【0023】
この構成により、チップルームが、標準的な切削インサートを収容するのに十分大きいが、不要な量の材料がフライス工具から除去されるほど大きくはないことを保証する。第3の断面の最小半径と第1の断面の最小半径との特定の割合は、亀裂発生点が生じるほど速く半径が変化することはないが、フライス工具の最適な強度を実現するのに十分に、チップルームの軸方向長さに沿って変化することを保証する。
【0024】
一実施形態によれば、第3の断面におけるチップルームの深さは、第1の断面におけるチップルームの深さよりも小さい。
【0025】
深さは、各断面において、チップルーム面の底面から、フライス工具の周囲面の仮想周方向伸長部、すなわち2つの隣接するランド部が仮想円弧によって接続されるときに得られる円弧までの最短距離として定義される。
【0026】
フライス工具の中心軸から底面までの半径方向距離は、第1の断面と比較して、第3の断面でさらに大きい。
【0027】
この構成は、チップルームがフライス工具の前端部から離れた断面に不要な深さを有することがないことを保証する。チップルームの深さが小さいほど、フライス工具の強度が高まる。
【0028】
一実施形態によれば、第2の断面と第3の断面との間のすべての断面におけるチップルームの底面は、チップルームの長さ方向に実質的に平行な断面における円弧の形状を有する。
【0029】
チップルームの長さ方向は、第2の断面の最小半径と第3の断面の最小半径とを通る線の方向である。
【0030】
この構成は、フライス工具の前端部近くの比較的大きい深さを持つチップルームから、フライス工具の前端部から軸方向に離れた比較的小さい深さを持つチップルームへの滑らかな移行を可能にする。この滑らかな移行は、亀裂発生点についての危険性を最小限に抑える。
【0031】
一実施形態によれば、第2の断面で、チップルームは、周方向において、インサートシートの仮想軸方向伸長部に配置された箇所まで延びる。
【0032】
この構成は、インサートシートのすぐ軸方向近傍に、したがって暗示的に、切削インサートの軸方向伸長部にも、十分なチップルーム空間があることを保証する。チップを被削面から効果的に移すために、十分に大きいチップルームが必要である。
【0033】
仮想軸方向伸長部は、インサートシートと同じ周方向位置を占める箇所を指し、インサートシートよりも前端部から軸方向に離れている。
【0034】
以下で、本発明の実施形態を添付図面に関して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の実施形態による金属切削フライス工具の側面図である。
【
図2】切削インサートがフライス工具に取り付けられている、
図1に示す金属切削フライス工具の別の側面図である。
【
図3】フライス工具の前端部を示す、
図2に示す金属切削フライス工具の端面図である。
【
図4a-4c】
図1に示す金属切削フライス工具の断面図である。
【
図5】
図1に示す金属切削フライス工具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下の定義は、すべての実施形態について有効である。
【0037】
シートピッチ角αは、第1のランド部のインサートシートの径方向外側点に交わる半径と、第2のランド部のインサートシートの対応する点に交わる半径との間の角度として定義され、第1のランド部と第2のランド部とは、回転方向における隣接した連続するランド部である。
【0038】
弧長ALは、フライス工具の前端部で、各ランド部について、インサートシートとそれぞれのランド部の後面との間の、フライス工具の半径方向周囲に沿った周方向距離として定義される。
【0039】
ピッチ角βは、フライス工具の前端部で、中心軸Cに垂直な平面において、第1の切削インサートの上側に平行な線と、第2のインサートの上側に平行な同様の線との間の角度として定義され、第2のインサートは、フライス工具の回転方向における隣接した連続するインサートである。
【0040】
それぞれの切削インサートの開口角γは、フライス工具の前端部で、中心軸Cに垂直な平面において、切削インサートの上側に平行な線と、隣接するランド部の、切削インサートと同じチップルームに関連付けられた後面に平行な線との間の角度として定義される。
【0041】
以下で、本発明による実施形態を示す
図1および
図2を参照する。図には、全体を100で示す金属切削フライス工具が示されている。金属切削フライス工具100は、回転可能な工具ホルダ(図示せず)に取り付けるための後端部104と、前端部106と、外周面108とを有する。本実施形態において、外周面108は、前端部106に最も近い領域で概ね円筒形であり、円筒形領域に近接する領域で概ね円錐形である。
【0042】
フライス工具は中心軸Cを規定し、中心軸Cは、フライス工具がその周りを回転方向Rに回転する長手方向軸でもある。以下の説明において、軸方向に延びると記載する方向は、実質的に中心軸Cに平行な方向であり、半径方向に延びると記載する方向は、実質的に中心軸Cに垂直な方向である。
【0043】
金属切削工具100は、フライス加工したチップを機械加工作業面から移すための、接線方向に離間したチップルーム146をさらに備える。各チップルーム146間に、ランド部156が配置されている。ランド部156は、中心軸Cから半径方向に延びる翼部として機能する。ランド部156は、フライス工具100の半径方向外周を形成する。図示の実施形態において、ランド部156の外周は、前端部106、およびさらには後端部104に最も近い箇所で軸方向に延び、ランド部156の外周は中心軸Cに近付く。
【0044】
各ランド部156は、前面157および後面158によって回転方向Rに境界付けられる。前面157は後面158の回転前方向にある。各前面157は、対応するチップルーム146の境界面の一部と、対応するランド部156の境界面の一部とを形成する。ここで、対応するとは、図において「a」を付けた特徴が「a」を付けた他の特徴に関連付けられ、「b」を付けた特徴が「b」を付けた他の特徴に関連付けられることなどを指す。各後面158はチップルーム146の境界面の一部を形成し、後面158bはチップルーム146aの境界面の一部を形成し、後面158cはチップルーム146bの境界面の一部を形成するなどである。さらに、各後面158は、対応するランド部156の境界面の一部を形成する。
【0045】
各前面157は、着脱可能に取り付けられた切削インサート114のためのインサートシート110を有する。本実施形態において、すべての切削インサート114が、フライス工具100の前端部106に位置する。フライス工具100を正面フライス加工に使用する場合、各切削インサート114は、半径方向に延びる少なくとも1つの切れ刃を有する。フライス工具100を直角端面フライス加工に使用する場合、各切削インサートは、半径方向に延びる少なくとも1つの切れ刃と、軸方向に延びる1つの切れ刃とを有する。本明細書において、正面フライス加工および直角端面フライス加工は、エンドミル加工と総称される。
【0046】
本実施形態において、切削インサート114は、切削インサートの中心通し孔に、フライス工具100のねじ孔112を通って位置するねじを締め付けることによって取り付けられる。図示の実施形態において、各ねじ孔112は、対応するインサートシート110を横切って延び、各ねじ孔112は通し孔である。各通しねじ孔112は、インサートシート110から始まり、ランド部156の半径方向外面、後面158、または部分的にランド部156および部分的に後面158のいずれかで終わると言える。詳細に後述するように、すべてのねじ孔112は、略等しい長さを有し、対応する切削インサート114に対して略同じ位置で終わり、すなわち、ねじ孔112の端部は、主前端部106から略同じ軸方向位置にあり、かつ各ねじ孔112についてそれぞれのインサートシート110から略同じ接線距離にある。図示の実施形態によれば、最長ねじ孔は、最短ねじ孔よりも最大で10%長い。最長ねじ孔は、最短ねじ孔よりも最大で5%長いことがより好ましい。図示の実施形態において、すべてのねじ孔112は、それぞれのインサートシート110に対して同じ角度で延びる。ねじ孔112が貫通孔として形成されることは、ねじ切りを孔の両側から行うことができるため、フライス工具100の製造を簡略化し、より長いねじ山を有することを可能にする。より長いねじ山を有することは、インサートシート110によりしっかりと安定して取り付けられた切削インサート114を有することを可能にする。貫通孔の構成により、ねじが孔に詰まった場合にねじを後ろから押すことができるため、切削インサート114の交換も簡略化される。すべてのねじ孔112が略約等しい長さを有し、略同じ相対位置で終わるという特徴の利点は、製造が非常に簡略化されることである。これは、孔の穿孔およびねじ切りを、すべてのねじ孔112について同じ工具で行うことができ、すべてのねじ孔112が略同じ相対位置で終わる場合、このプロセスは、通常、自動ロボットによって行われ、ロボットアームの位置決めがより簡単になるからである。
【0047】
次に、
図1および
図2のフライス工具100の端面図である
図3を参照する。シートピッチ角αは、第1のランド部156のインサートシート110の径方向外側点に交わる半径と、第2のランド部156の対応する点に交わる半径との間の角度として定義され、第1のランド部と第2のランド部とは、回転方向における隣接した連続するランド部である。
【0048】
シートピッチ角αのうちの少なくとも3つの値が異なり、すなわち、少なくとも3つのシートピッチ角αが等しくない。シートピッチ角αのうちの4つの値が異なることがより好ましく、シートピッチ角αのすべての値が異なることが最も好ましい。最大シートピッチ角αは、最小シートピッチ角よりも少なくとも5°大きいことが好ましい。最大シートピッチ角αは、最小シートピッチ角よりも少なくとも8°大きいことがより好ましい。この構成は、切削インサート114間に差動ピッチを持つフライス工具100を有することを可能にし、すなわち、フライス工具が回転し、被削材を機械加工するときに、切削インサートの係合頻度が変化する。これは、フライス工具100の自励発振の危険性を低下させ、これにより、振動が低減する。値の異なるシートピッチ角αの数が大きいほど、かつ最大シートピッチ角と最小シートピッチ角との間の差が大きいほど、振動を低減させる傾向がより良好になる。
【0049】
弧長ALは、フライス工具100の前端部106で、各ランド部156について、インサートシート110とそれぞれのランド部156の後面158との間の、フライスカッタの半径方向周囲に沿った周方向距離として定義される。最長弧長ALは、最短弧長ALよりも最大で10%長い。最長弧長ALは、最短弧長ALよりも最大で5%長いことが好ましい。この構成により、フライス工具100のバランスが向上し、個々のランド部156は、差動ピッチを持つ既知のフライス工具と比較してより均一な強度を有する。すべてのインサートシート110の背後の材料の量は、差動ピッチを持つ既知のフライス工具と比較して、より均一になる。この材料は、フライス工具100の中心軸Cから最も離れて位置するため、フライス工具100のバランスに大きく影響を及ぼす。さらに、すべてのランド部156の充分な強度を確保するために、最短弧長ALは、少なくとも切削インサート114の厚さと同じ長さであることが好ましい。切削インサート114の厚さは、切削インサートの上側と切削インサートの下側との間の距離として定義される。
【0050】
ピッチ角βは、フライス工具の前端部で、中心軸Cに垂直な平面において、第1の切削インサート114の上側に平行な線と、第2のインサートの上側に平行な同様の線との間の角度として定義され、第2のインサートは、フライス工具100の回転方向における隣接した連続するインサートである。すべてが互いに同一である切削インサート114を使用することによって、ピッチ角βは、対応するシートピッチ角αに等しくなる。これは、シートピッチ角αが差動ピッチおよび振動の低減に関して最適化されるため、大きな利点である。すべての切削インサート114を同一にすることにより、異なる種類の切削インサートを取り違える危険性がなくなるため、切削インサート114を交換するときのインサートの取扱いも簡略化される。
【0051】
切削インサート114はすべて、中心軸Cから同じ半径方向距離をおいて位置することが好ましい。この利点は、使用する歯送りおよび送り速度に関係なく、フライス加工中にすべての切削インサート114が動作することである。
【0052】
それぞれの切削インサート114の開口角γは、フライス工具の前端部106で、中心軸Cに垂直な平面において、切削インサート114の上側に平行な線と、隣接するランド部156の、切削インサート114と同じチップルーム146に関連付けられた後面158に平行な線との間の角度として定義される。開口角γのうちの少なくとも3つ、好ましくはすべての値が異なる。さらに、開口角γの範囲は60~100°である。この構成は、振動を低減させるフライス工具100の能力をさらにいっそう向上させる。
【0053】
図4は、
図1に示すフライス工具100の断面図である。各チップルーム146は、第1のランド部156の後面158と、第2のランド部156の前面157と、後面158および前面157の間に位置する底面とを含むチップルーム面によって境界付けられる。ここでは、第1のランド部156は第2のランド部の回転前方向にある。各チップルーム146の湾曲の最小半径rが、フライス工具100の前端部106から様々な距離をおいた3つの異なる断面に示されている。断面は、中心軸Cに垂直である。第2の断面の最小半径r2および第3の断面の最小半径r3は、第1の断面の最小半径r1よりも大きい。第1の断面は、第2の断面および第3の断面の軸方向前方にある。
【0054】
この構成は、切削インサート114を収容するのに十分な大きさのチップルーム146を持つフライス工具を有しながら、フライス工具の強度を高めるという問題を軽減する。第1の断面の比較的小さい半径r1は、フライス工具から過剰な量の材料を除去することなく、フライス工具100の前端部106に最も近い箇所に、切削インサート114が通常位置する深いチップルーム146を有することを可能にする。これは、比較的小さい半径r1により、チップルーム146が狭くなるからである。これは、切削インサート114をチップルーム146内に嵌合させることを可能にする。大量の材料をフライス工具100から除去すると、フライス工具の強度が低下する。第2の断面および第3の断面の比較的大きい半径r2、r3を有することは、第1の断面と比較して、フライス工具の前端部106から離れた箇所に浅いチップルーム146を有することを可能にする。この箇所により大きい半径のより浅いチップルーム146を有すると、強度が最も重要である断面において、フライス工具からそれほど多くの材料が除去されない。半径が大きいほど、小さい半径よりも亀裂発生に対する耐性も高くなる。これにより、第1の断面の比較的小さい半径r1と第2の断面および第3の断面のより大きい半径r2、r3とを有する組合せは、切削インサート114を収容するのに十分な大きさのチップルーム146を有しながら、フライス工具の強度を高める。
【0055】
チップルーム146の底面は、中心軸Cに垂直な各断面の一部であり、ここで後面158と前面157とが合う。各断面における、各チップルーム面の最小半径rを持つ湾曲は、チップルーム146の底面に見付けられる。底面は、各断面の、フライス工具100の中心軸Cに最も近い部分でもあることが好ましい。
【0056】
第1の断面は、インサートシート110の軸方向長さに沿って軸方向に位置し、第2の断面および第3の断面は、インサートシート110の軸方向長さよりも前端部106から軸方向に離れて位置することが好ましい。第3の断面の最小半径r3は、第2の断面の最小半径r2よりも大きいことが好ましい。これにより、半径は、r3>r2>r1の関係を有することが好ましい。これにより、チップルーム146の湾曲の最小半径r1、r2、r3は、フライス工具100の後端部104に近付くほど増加する。最小半径rは、厳密には第2の断面の最小半径r2と第3の断面の最小半径r3との間で増加していることが好ましい。最小半径rは、第2の断面の最小半径r2と第3の断面の最小半径r3との間で直線的に増加することがより好ましい。
【0057】
インサートシート110の軸方向長さは、インサートシート110がそれに沿って伸長部を有する軸方向距離を指す。
【0058】
一実施形態において、第1の断面の最小半径r1は、インサートシート110の軸方向全長に沿って略一定である。第3の断面の最小半径r3は、2~10mmであることが好ましい。第3の断面の最小半径r3は、第1の断面の最小半径r1の2~4倍であることがより好ましい
【0059】
図5に示すように、第3の断面におけるチップルーム146の深さは、第1の断面におけるチップルームの深さよりも小さい。
【0060】
深さは、各断面において、チップルーム面の底面から、フライス工具100の外周面108の仮想周方向伸長部、すなわち2つの隣接するランド部156が仮想円弧によって接続されるときに得られる円弧までの最短距離として定義される。
【0061】
この構成は、チップルームがフライス工具の前端部から離れた断面に不要な深さを有することがないことを保証する。チップルームの深さが小さいほど、フライス工具の強度が高まる。
【0062】
フライス工具100の中心軸Cから底面までの半径方向距離は、第1の断面と比較して、第3の断面でさらに大きい。
【0063】
第2の断面と第3の断面との間のすべての断面におけるチップルーム146の底面は、チップルーム146の長さ方向に実質的に平行な断面における円弧r4の形状を有することが好ましい。
【0064】
チップルーム146の長さ方向は、第2の断面の最小半径r2と第3の断面の最小半径r3とを通る線の方向である。
【0065】
この構成は、フライス工具100の前端部106近くの比較的大きい深さを持つチップルーム146から、フライス工具100の前端部から軸方向に離れた比較的小さい深さを持つチップルームへの滑らかな移行を可能にする。この滑らかな移行は、亀裂発生点についての危険性を最小限に抑える。
【0066】
図1に示すように、チップルーム146は、周方向において、インサートシート110の仮想軸方向伸長部に配置された箇所まで延びることが好ましい。
【0067】
仮想軸方向伸長部は、インサートシート110と同じ周方向位置を占める箇所を指し、インサートシート110よりも前端部106から軸方向に離れている。
【0068】
この構成は、インサートシート110のすぐ軸方向近傍に、したがって暗示的に、切削インサート114の軸方向伸長部にも、十分なチップルーム空間があることを保証する。チップを被削面から効果的に移すために、十分に大きいチップルーム146が必要である。
【0069】
本明細書に開示されたチップルーム146の形状は、自由形状のボールノーズフライス加工によって可能になる。
【0070】
図1~
図3に関連して開示した差動ピッチの発明を、
図1、
図4、および
図5に関連して開示したチップルーム146の形状に関する本発明と組み合わせて、これらの概念の利点を組み合わせたフライス工具を実現することができる。
【0071】
本発明は、フライス工具100に5個の切削インサート114が組み込まれた状態で示されている。しかしながら、本発明の実施形態を、限定されないが8個、10個、12個、または20個などの他の数の切削インサート114を有するフライス工具100で実施することが等しく可能である。切削インサート114の最小数は、3個である。
【0072】
本発明は、エンドミル工具に組み込まれた状態で示されている。しかしながら、図示の実施形態のうちのいくつかは、溝フライス工具で実施することが等しく可能である。
【国際調査報告】