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特表2024-508330機械のため、より詳細にはポンプのための必要な保全処置を評価するための方法およびシステム
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  • 特表-機械のため、より詳細にはポンプのための必要な保全処置を評価するための方法およびシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】機械のため、より詳細にはポンプのための必要な保全処置を評価するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240216BHJP
   F04B 51/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G05B23/02 X
F04B51/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553309
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2022054403
(87)【国際公開番号】W WO2022184505
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】102021104826.5
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591040649
【氏名又は名称】カーエスベー ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディート ゲゼルシャフト アウフ アクチェン
【氏名又は名称原語表記】KSB SE & Co. KGaA
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】エムディ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ラウエ,シュテファン
【テーマコード(参考)】
3C223
3H145
【Fターム(参考)】
3C223AA17
3C223BA01
3C223CC01
3C223FF17
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF42
3C223FF52
3H145FA01
3H145FA16
3H145FA25
3H145FA26
(57)【要約】
本発明は、機械、より詳細にはポンプのための必要な保全処置を評価するための方法であって、機械構成要素の摩耗または機械構成要素に対する損傷に関連する1つまたは複数の影響変数を決定するステップと、少なくとも1つの機械構成要素の、および/または機械の故障リスクおよび/または故障確率を決定するために影響変数を予測モデルに供給するステップと、1つまたは複数の決定された故障リスク/故障確率に基づいて、保全処置のための推奨を生成するステップとを含む方法に関する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械のための、特にポンプのための必要な保全処置を評価するための方法であって、
機械構成要素の摩耗または損傷に関連する1つまたは複数の影響変数を決定し、それらを評価ユニットへ送るステップと、
前記評価ユニットによって前記1つまたは複数の影響変数を受け取り、前記1つまたは複数の影響変数が入力変数として供給される予測モデルによって、少なくとも1つの機械構成要素のおよび/または機械の、故障のリスクおよび/または故障の可能性を決定するステップと、
前記決定された故障のリスク/故障の可能性に基づいて、前記評価ユニットによって保全処置のための推奨を生成するステップと
を有する方法。
【請求項2】
前記評価ユニットが、前記機械の関連する構成要素の故障の可能性から前記機械の故障の可能性を決定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予測モデルが、生じ得る損傷および/または摩耗に対する前記1つまたは複数の影響変数の関連性を記述し、構成要素および/または機械の摩耗の現在の進行および/または損傷の程度の予測を可能にする損傷関連モデルであるか、または損傷関連モデルを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記評価ユニットの前記損傷関連モデルが、前記損傷関連の影響変数に加えて、前記機械の/機械構成要素の実施された保全処置に関するデータが入力を介して訓練データセットとして提供される機械学習アルゴリズムに基づくことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
訓練データセットが、前記機械/前記構成要素を評価する際に、保全スタッフのメンバーによって予測された、1つまたは複数の構成要素および/または前記機械に対する故障の可能性/故障のリスクを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
修正係数は、時間依存関数として記述することができ、前記修正係数が特に時間と共に小さくなることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
訓練データセットがデータベースに記憶され、必要に応じて前記評価ユニットまたは前記損傷関連モデルによって検索することができることを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
訓練データセットが異なる複数の機械および構成要素のために前記データベースに記憶され、前記複数の機械および/または構成要素が組み合わされて異なるクラスタを形成し、前記複数の機械/構成要素間の類似性、および/またはそれらの関連する影響変数間の類似性、および/またはそれらの機械アプリケーション間の類似性がクラスタ化のための基準として考慮されることを特徴とする請求項4から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
モデルを訓練するために前記損傷関連モデルが、現在考察中の機械が割り当てられているクラスタの前記機械および/または構成要素のすべてまたは少なくとも大部分の前記訓練データセットにアクセスすることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
機械保全が実施された後、および/または前記機械もしくは前記機械の構成要素が故障した後に前記損傷関連モデルがリセットされ、次に、前記割り当てられた機械/構成要素クラスタ中の前記機械または前記構成要素のために利用することができるすべての訓練データセットを使用して再訓練されることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの影響変数が、機械構成要素もしくは前記機械の負荷継続期間、および/または前記機械の動作点、および/または前記機械/構成要素の動作時間/休止時間、および/または前記機械/構成要素の切換え頻度、および/または前記機械の周囲温度もしくは媒体温度を特性化することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記評価ユニットが、時間依存の影響変数の代わりに、時間に対して積分される影響変数を入力変数として前記損傷関連モデルに供給することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
1つまたは複数の影響変数が機械アップタイムの間に獲得される、すなわちオンラインで獲得されることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記機械または別個の測定ユニットが、特に前記影響変数に関する他の特性情報と関連して、一回限りの測定または予測を介して前記機械の1つまたは複数の影響変数を決定することを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
保全処置のための推奨の前記生成が、柔軟に定義することができるリスク許容範囲値を考慮することを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
評価ユニットと、監視されるべき1つまたは複数の機械と、訓練データセットを記憶するための任意選択のデータベースとを備えるシステムであって、
前記評価ユニットが、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法を実行させる命令を備えるプログラムを含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械のための、特にポンプのための必要な保全処置を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の機械産業設備、特にポンプは、それらが適切に機能し、動作していることに関して、常に監視しなければならない。ここでの1つの特定の関心事は、機械の全面的な故障まで含む、機械のより重大な損傷が生じる前に可能な限り迅速に適切な警報メッセージを発信し、保全処置を取ることができるようにするために、生じ得る(または、可能性のある)摩耗および構成要素故障を早期に認識することである。
【0003】
機械の現在の摩耗状態を正確に得ることは、実際問題としてしばしば困難であり、また、信頼できない。このことは、機械、特に、回転可能構成要素を有する機械は、摩耗のしやすさの程度が異なる様々な副構成要素部品からなるので、なおさらである。また、このような機械は、機械の摩耗を進行させる影響を有し得る多くの外部影響を受ける。膨大な数の関連する影響要因のため、ますます複雑性が増しており、現在の摩耗状態を得ることは、実際にはほとんど達成することができない。
【発明の概要】
【0004】
したがって本出願の主題は、リスクに基づく評価に対応する適切な保全処置を取ることができるようにするために、摩耗または故障の可能なリスクを予測するための方法に対処することである。
【0005】
この目的は、請求項1の特徴による方法によって達成される。さらに、この方法の利点は従属請求項の主題である。
【0006】
本発明によれば、機械の、および/または機械の構成要素の摩耗または損傷に関連する、機械によって最初に決定されるべき1つまたは複数の影響変数が提案される。関連する影響変数は、機械または機械の少なくとも1つの構成要素の摩耗を進行させることに対して無視することができない影響を有し、したがって考察中の構成要素、または機械の故障の可能性または故障のリスクに対しても無視することができない影響を有する測定可能変数を意味するべく理解される。影響変数は、動作関連の影響および動作非依存の影響に分割することができる。動作関連の影響は、現在の動作状態、または圧力値、振動、動作点、温度値、動作継続期間、休止時間、等々の任意の動作パラメータに応じて変化する。動作非依存の影響変数はある程度固定されており、材料および組立て品質、製造公差、構成要素の老化、何らかの先行する損傷、等々を含む。
【0007】
決定された影響変数は機械によって評価ユニットへ送られ、評価ユニットは、受け取った影響変数を予測モデルに供給する。このようなモデルは、到着する影響変数に基づいて、機械および/または機械の構成要素に対する故障のリスクおよび/または故障の可能性を決定することができる。この場合、決定された故障の可能性または故障のリスクは、評価ユニットが適切な保全処置のための推奨を自動的に生成し、出力すべきかどうかについての決定を下すための基準(根拠、basis)を提供する。
【0008】
一例として、故障のリスクまたは可能性に対する対応する限界値を超えると、このような推奨を生成するオプションがある。同様に、複数の機械を監視し、故障の可能性が最も高い機械に対して常に推奨を生成するために使用される方法を想定することができる。
【0009】
評価ユニットは、例えば機械上に設置することができ、または制御室に設置することができる。評価ユニットは、同様に、ソフトウェアモジュールの形態でサーバファーム内のサーバ上に配置することも可能である。
【0010】
方法の好ましい一実施形態によれば、予測モデルは、個別の機械構成要素についての、個別の、詳細には相互に独立した故障の可能性を決定する。機械全体の故障の可能性または故障のリスクは、個別の故障の可能性から確認(決定)することができる。これは、個別の故障の可能性を加算し、積(product)を減じることによって得られる。
【0011】
予測モデルは損傷関連モデルであってもよく、または損傷関連モデルを備えることができる。損傷関連モデルは、構成要素の、または機械の生じ得る損傷および/または摩耗に対する1つまたは複数の影響変数間の関係を記述する。現在の入力変数が供給されると、次にこのモデルを使用して、構成要素および/または機械の摩耗の現在の進行、および/または損傷の程度を予測することができ、これらは、次に、構成要素の、および/または機械の故障のリスクまたは故障の可能性の評価のための基準として働くことができる。
【0012】
好ましい一変形実施形態によれば、機械学習アルゴリズム(MLA)が損傷関連モデルに対して使用される。それによりモデル品質を最適化することができ、経験が増えるにつれて、予測される故障の可能性の精度が高くなる。機械学習アルゴリズムには、特に、手動サンプルからデータが提供され、すなわち機械の手動オーバビューの間にモデル訓練セットとして収集されたデータが提供される。機械に対して手動での保全または修理処置を実施している間に訓練データセットをこの方法で生成することは特に便利である。このような訓練データセットは、それぞれの専門家によって、理想的には、予測される値に影響を及ぼす1つまたは複数の影響変数と共に予測された、構成要素の、および/または機械の故障に対する少なくとも1つのリスク値/可能性値を包含することを想定することができる。
【0013】
ニューラルネットワーク、さもなければサポートベクターマシンは、他の可能なアルゴリズムに加えて、機械学習アルゴリズムとして好ましい。
【0014】
手動で生成された訓練データセットは、修正係数で便宜的に補足される。このような修正係数は、予測された値からの起こり得る逸脱に対する公差範囲のタイプを定義する。この訓練セットの寿命にわたって値が変化し得るよう、時間依存関数によって修正係数を定義することを想定することができる。修正係数は、訓練データセットの寿命が長くなると便宜的に小さくなる。例えば十分に大きい数の訓練データセットが比較的長い期間にわたって生成され、収集されると、それぞれの修正係数を小さくすることができ、これは時間関数によって実現される。
【0015】
理想的には、損傷関連モデルには、現在考察中の機械のために直接作り出された訓練データセットを供給することができるだけではなく、どちらかと言えば、全く同じか、または同等の機械または構成要素のために生成された訓練データセットも考慮されるべきである。そのために、異なる機械および構成要素のために生成されたすべての訓練データセットを管理するデータベースが設置される。ここでは、同じ、または同様の機械/構成要素を共通のクラスタに割り当てるために、機械および/または構成要素のクラスタ化を実施するデータベースが準備される。
【0016】
評価ユニットは、次に、モデルを訓練するために、考察中の機械/構成要素も割り当てられている機械/構成要素のクラスタのすべての訓練データセットを使用することができる。それにより訓練セットの供給を著しく改善することができ、延いては損傷関連モデルの訓練品質を著しく改善することができる。
【0017】
機械または構成要素をクラスタ化するために、機械/構成要素間の構造的類似性に加えて、故障の可能性に対する関連する影響変数間の類似性も考慮することができる。クラスタ化のための他の基準は、機械アプリケーションと、それに伴う動作条件との間の類似性であってもよい。詳細には、これに関連して、機械および/または機械の周囲条件の急激な負荷変化の頻度が関連し得る。これらは、例えば遠心ポンプの場合、運ばれる媒体のタイプおよび特性を含む。
【0018】
当業者によって機械保全が実施された後、または機械の特定の構成要素が故障した後に損傷関連モデルがリセットされ、引き続いて最初にもう一度再訓練されることが特に有利である。最良事例シナリオでは、次に、機械/構成要素の、または構成要素/機械クラスタの利用可能なすべての訓練データセットを使用して再訓練されるべきである。代替として、モデルのリセットを不要にすることも可能であり、また、その代わりに利用可能なすべての訓練データセットを使用して前記モデルをさらに訓練することも可能である。
【0019】
特に平均故障追跡コストを有する機械に関して、データ収集のためのコストおよび資源経費を経済的にするために、基本影響変数のみを考慮して、モデル内で可能性/リスクが計算され、または決定される。一例として、機械の、または特定の機械構成要素の負荷継続期間を基本影響変数に割り当てることができる。基本影響変数として現在の動作点および/または機械の/構成要素の動作点プロファイルを考慮することをも想定することができる。機械の、または構成要素の動作時間および/または休止時間を同様に基本影響変数と見なすことも可能である。動作モード、すなわち切換え手順すなわち負荷変化の頻度についても同様である。他の基本影響変数は、周囲温度または媒体温度であってもよい。次に、上記影響変数のうちの1つまたは複数が損傷関連モデルに供給される。
【0020】
評価ユニットの計算経費は、影響変数の範囲が広くなるにつれて増加する。多次元影響変数、すなわち複数のパラメータに依存する影響変数を使用する場合も同様である。これに関連して、少なくとも1つの影響変数をデータ処理の対象にすることを想定することができる。一例として、ここでは、影響変数を複数の従属変数のうちの1つに対して積分することが便利である。時間依存の影響変数を時間に対して積分することができる。次に、積分された影響変数が元の影響変数の代わりに損傷関連モデルに供給される。
【0021】
影響変数は、理想的には、測定を介して機械によって決定することができる。この場合、影響変数は、直接測定するか、さもなければ他の測定値から誘導することができる。機械が規則的に動作している間に、詳細には連続的に、周期的に、さもなければ無作為に「オンライン」測定を実施することが優先される。特定の影響変数は、技術的または経済的理由で、恐らく「オンライン」では測定することができない。可能である場合、これらの影響変数は、少なくとも一度、測定および/または予測すべきである。便宜上、オンラインで測定することができないこのような影響変数のために、影響変数およびその挙動を記述している他の特性情報が作り出される。ここでは、影響変数および/または周期性、等々の最小値および/または最大値に関する詳細を想定することができる。
【0022】
例えば隣接する機械によってもたらされる外部励起振動は、静止機械の場合、運転中の機械の場合よりも大きい障害をころ軸受のジオメトリにさらにもたらし得る。
【0023】
故障の可能性/故障のリスクに加えて、ユーザによって定義することができるリスク許容範囲値をさらに考慮して、保全処置のための推奨を生成することができる。リスク許容範囲値を使用して、故障の可能性または故障のリスクに対する閾値の値を移動させることができる。したがって機械オペレータは、保全処置が実際に推奨され、実施される前に、比較的低いまたは比較的高い故障のリスクを受け入れるべきかどうかを規定することができる。
【0024】
本発明による方法に加えて、本発明は、評価ユニットおよび監視されるべき1つまたは複数の機械を備えるシステムに関する。システムは、任意選択で、訓練データセット、詳細には機械/構成要素に従ってクラスタ化された訓練データセットを記憶するためのデータベースを備えることができる。評価ユニットは、本発明による方法を実行することになるプログラム、すなわち命令を含む。したがってシステムは、本発明による方法を参照して上で既に説明した利点および特性と同じ利点および特性によって区別される。したがって説明の繰返しは省略することができる。
【0025】
本発明の他の利点および特性には、図に示されている例示的実施形態を参照して、以下でより詳細に説明されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】遠心ポンプの場合における動作関連の影響変数および動作非依存の影響変数の概要を与える表を示す図である。
図2】動作時間ヒストグラムを示す図である。
図3】動作時間ヒストグラムを故障のリスクの上にマッピングするための人工ニューラルネットワークを示す略図である。
図4a】本発明による方法を説明するためのブロック図である。
図4b】本発明による方法を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明による方法は、状態指向の保全に対する実際的で、有用な代替を提供する。状態指向の保全とは対照的に、本発明による方法は、摩耗状態を獲得し、評価することはほとんど不可能であるが、遠心ポンプの動作モードとその故障の可能性との間にはある関係が存在することに基づいている。
【0028】
本発明によれば、摩耗または損傷に関連する動作変数が、保全スタッフのメンバーからのフィードバックを介してさらに調整することができるモデルに組み込まれる。損傷関連モデルは、大型データベース(クラウド、ビッグデータ)にアクセスすることができ、したがって極めて多数の保全スタッフからのフィードバックをも組み込むことができる。
【0029】
この場合、リスクに基づく保全推奨は、保全スタッフまたはポンプのオペレータのメンバーの「リスク許容範囲」を組み込んだ、近い将来におけるポンプユニットの故障の可能性に関する統計量に基づいている。したがって、ここでは低い「リスク許容範囲」を設定する、保全スタッフのうちの「注意深い」メンバーは、比較的早い時期に保全推奨を受け取ることができる。その結果として、それらの保全戦略は最も広義の意味で「予防的」である。保全スタッフのうちの、より広い「リスク許容範囲」を設定するメンバーは、もっと後の、匹敵する(comparable)動作パラメータの事象の際に保全推奨を受け取り、したがってより故障の可能性が高いというリスクがあり、したがってこれはより大きいリスクの反応的保全処置の実施を必然的に伴う。
【0030】
まず始めに、このようなシステムは、損傷関連モデルのための何らかの検証済みデータに未だアクセスすることができない。それにもかかわらず、最初から、現状維持、予防的保全および反応的保全から始まって、さらに悪くなることは予期されない。含まれているポンプ母集団の数が増加するにつれて、様々なポンプタイプおよび使用条件に対して損傷関連モデルがますます良好に調整されるようになる。したがってクライアント使用が長くなり(より長い「平均故障間隔(mean time between failures)」(略してMTBF)および摩耗可能性のある用品のより良好な使用程度が期待される)、また、実際の動作情報が機械製造者にフィードバックされる。
【0031】
リスクに基づく保全推奨のためのこのような方法の基本概念は、以下のように説明することができる。
【0032】
機械
機械(例えば遠心ポンプ)は、故障のリスクに置かれている様々な構成要素からなっている。第1の単純化手法では、構成要素の故障の可能性は、他の構成要素の故障の可能性とは無関係である。この場合、機械の故障の可能性は、故障の個別の可能性の合計からその積を差し引いたものである。
【0033】
構成要素およびそれらの故障の可能性の影響
機械構成要素は、故障の可能性に作用する多くの影響を受ける。下記では、動作関連の影響と動作非依存の影響とが区別される。ころ軸受を有する遠心ポンプの場合、図1の表に挙げられている構成要素、およびそれらの動作関連の影響が特に関係している。
【0034】
すべての構成要素に対する1つの基本影響変数は負荷継続期間である。3つの例は、負荷継続期間は必ずしも機械の動作時間のみを包含しないことを立証している。
・ 腐食性媒体におけるポリマー(GLRDシール)の静止時間=休止時間+動作時間
・ 軸方向軸受負荷の継続期間=動作時間
・ ころ軸受における固体ボディ圧縮の継続期間=休止時間
【0035】
さらに、以下の動作非依存の影響は構成要素の故障の可能性を定義している。
・ アセンブリ品質
・ 材料品質
・ 製造公差
・ 老化(プラスチック)
・ 先行する損傷(輸送損傷、等々)
【0036】
結論および提案
故障の確率は極めて多数の影響を受ける。これらの影響変数のすべてを正確に決定し、またはそれらをオンラインで測定することは、平均故障追跡コストを有するアプリケーションでは経済的ではない。それにもかかわらず故障の可能性の予測を達成するために以下の手順が提案される。
≫ 機械毎の基本影響変数を獲得するための測定の決定または使用(以下を参照されたい)
≫ 類似性に基づく機械母集団のクラスタ化(以下を参照されたい)
≫ 機械のクラスタのためのサンプルからの、基本影響変数と故障の可能性との間の関係の決定(多変量回帰解析)
【0037】
決定される関係(故障の可能性=f(x))はクラスタ特化である。この関係を使用して、保全処置の実施に関する決定がなされる。以下の決定規則を想定することができる。すなわち故障の可能性が最も高い機械に保全処置が施される。故障の可能性が特定の限界値を超える機械に保全処置が施される。
【0038】
基本影響変数
影響が平均を超えるため、以下の影響変数が「基本」として分類される。
・ 負荷継続期間
・ 動作点(送込み圧力、終了圧力、流量、速度)
・ 動作時間/休止時間
・ 切換え頻度
・ 媒体温度
【0039】
オンライン測定される影響変数
媒体温度を除き、基本影響変数の収集は、センサによって直接測定するか、または予測することができる。この収集は「オンライン測定」の特質を有しており、流量はポンプのモデルを使用して予測される、という特定の特徴を有している。
【0040】
オンライン測定されない影響変数
特定の影響変数は、場合によっては合理的な努力ではオンラインで収集することができない。これは、特に媒体温度および機械振動にかかわることがある。それにもかかわらずこれを少なくとも大まかに考慮することができるようにするためには、少なくとも1つの一回限りの予測または測定を実施しなければならない。理想的には、以下の追加情報、すなわち平均値、最大値、最小値および周期性を利用することができる。
【0041】
サンプル
個々の保全処置はサンプルである。保全処置は、故障の可能性が高いこと、または実際の故障によって実施される。いずれの場合においても、実際に存在している故障の可能性が予測される。情報はデータベースへ戻る。したがって故障の可能性予測の品質を連続的に改善するために、次に回帰解析が繰り返される。
【0042】
クラスタ化
クラスタ化は、
・ 機械間の類似性(例えば設置サイズ、構造タイプ)
・ オンライン測定されない影響変数間の類似性(例えば媒体温度、振動)
・ アプリケーション間の類似性(例えば媒体、高速負荷変化)
に従って実施される。
【0043】
クラスタ中の機械は、3つのすべての点に関して類似性を示す。
【0044】
基礎をなしているデータベースでは、管理され、クラスタ化され、それらの故障の可能性が計算されるのは、厳密に言えば機械ではなく、むしろそれらの故障関連構成要素である。したがって他の大いに異なる機械の構成要素も同じクラスタ中に加えることができる。したがって恐らくクラスタの数を少なくすることができる。これは、ひいてはクラスタ中のより多くの構成要素がより速やかな知識の発見をもたらすことになるため、有利である。
【0045】
方法の例示的ブロック図が図4aまたは図4bに示されている。方法には、ディスクブレーキ(図4a)を参照して以下でもう一度より詳細に説明されることが意図されている。
【0046】
ここでは、ディスクブレーキの寿命は、本質的に、実施される制動仕事Wbrake=∫(M・ω)dt、および周囲温度
【数1】
に依存することが仮定されている。しかしながら厳密な関係は未知である。この厳密な関係を学習するためには、以下の方法を適用しなければならない。
【0047】
負荷関連の影響変数1、ここでは速度ω、トルクMおよび周囲温度
【数2】
が測定される。ブロック10で、測定データから動作時間ヒストグラム(離散負荷プロファイル)が決定される(図4aを参照されたい)。図2にこのような動作時間ヒストグラムの一例が示されている。
【0048】
動作時間ヒストグラムは生じた負荷を表している。しかしながら様々な負荷状況の順序に関する情報は失われている。訓練可能な分類子15、例えば人工ニューラルネットワークまたはサポートベクターマシンを使用して、動作時間ヒストグラム10から損傷の程度13または故障のリスク14が計算される。図3は、動作時間ヒストグラムを故障のリスクの上にマッピングするための人工ニューラルネットワークの一例を示したものである。
【0049】
分類子15は、分類子15が仮定された動作時間ヒストグラムのための想定可能な結果をもたらすよう、初期化される(パラメータ19によって)。ここではこれは、先行する経験に対応する故障のリスクを意味している。
【0050】
実際に獲得された動作時間ヒストグラムに対して、次に分類子15を使用して故障のリスクが計算され、それらがオペレータに通信される。詳細には、ここでは保全処置14のための推奨がオペレータに表示される。対応する推奨14を出力するかどうか、また、いつ出力するかに関する決定は、定義可能なリスク許容範囲16を介して、オペレータによって影響が及ぼされ得る。リスク許容範囲は、推奨14が生成される閾値の値を超える場合、故障の可能性の閾値の値を変える。
【0051】
特に以下のシナリオが生じ得る。
ケース1:高い故障のリスクによる保全の実施をオペレータが決定する。
ケース1A:予測された故障のリスクが高すぎること、または低すぎることをオペレータが識別する。この分類に基づいて、分類子15を改善するために新しい訓練データセット17が適用される。この訓練データセット17は、現在の動作時間ヒストグラムおよび故障のリスクに対する仕様からなっている。この仕様は、故障の報告されたリスク+修正値(例えば+/-20%)である。修正値は、時間の経過に伴って修正値が徐々に小さくなるよう、時間の関数の形態であってもよい。したがって、分類子15は新しい訓練データセット17によってこのような範囲までもはや変更されないため、数年にわたって得られた経験が例えば保護され得る。
ケース1B:決定された故障のリスクをオペレータが確認する。獲得された負荷プロファイルを包含している新しい訓練データセット17、および決定された故障のリスクが適用される。
ケース1C:オペレータは、実際の故障のリスクに関する詳細を提供することができない。新しい訓練データセットは適用されない。
ケース2:故障が生じる。オペレータが故障を報告する。獲得された負荷プロファイルを包含している新しい訓練データセット17、および100%の故障のリスクが適用される。いずれの場合においても分類子15は、保全または故障の後、初期値にリセットされ(ブロック18)、次に、利用可能なすべての訓練データセット17を使用して再訓練される。代替として分類子15をリセットしなくてもよく、その代わりに単に「さらに訓練する」ことも可能である。
【0052】
この方法が極めて多数のオペレータによって、IoT(モノのインターネット)を使用して同じタイプのおびただしい数の構成要素に適用されると、これは、分類が信頼性の高い、したがって有利な結果を速やかに引き渡すよう、極めて多数の新しい訓練データセット17および成長するデータベースを速やかにもたらす。
【0053】
機械、例えばポンプは、上で説明したように、その故障のリスクを決定しなければならない構成要素の集合と見なすことができる。故障のリスクの代わりに故障の可能性を使用する場合、以下の独立変数が与えられ得る。すなわち第1の単純化手法では、構成要素の故障の可能性は、他の構成要素の故障の可能性とは無関係である。この場合、機械の故障の可能性は、故障の個別の可能性の合計である。
【0054】
速やかに幾分か大きくなるn次元負荷プロファイル(図3)の代わりに、むしろ、時間に対して積分される負荷変数を使用することも可能である。例えば、∫(M・ω)dt、または
【数3】
。負荷変数が非常に小さく、損傷関連性が存在しない場合、積分を省略することができる。
【0055】
図4bの例示的ブロック図は、図4aによる実施形態と同じ方法で構造化されているが、ここでは方法は遠心ポンプのために使用され、ポンプ速度nおよび流量Qは入力変数と見なされる。
図1
図2
図3
図4a
図4b
【国際調査報告】