(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】パワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばす方法及びデバイス
(51)【国際特許分類】
H02M 1/00 20070101AFI20240216BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240216BHJP
【FI】
H02M1/00 R
H02M7/48 M
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576257
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2021046896
(87)【国際公開番号】W WO2022254762
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503163527
【氏名又は名称】ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】Capronilaan 46, 1119 NS Schiphol Rijk, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】ウハヴ、マルアン
(72)【発明者】
【氏名】デグランヌ、ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ピション、ピエール-イヴ
(72)【発明者】
【氏名】ブランデレロ、ジュリオ・セザール
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H740AA08
5H740BA11
5H740BA12
5H740BB01
5H740BB08
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740MM08
5H770AA17
5H770BA01
5H770GA02
5H770GA19
5H770HA06X
5H770JA10X
5H770JA19X
5H770LA04X
5H770LB05
5H770PA21
(57)【要約】
本発明は、少なくとも2つのパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばす方法及びシステムに関する。本発明は、パワーダイ又はパワーモジュールの温度を検知し、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、検知された温度から温度サイクルを識別し、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、識別された温度サイクルから信頼性パラメータを求め、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、基準温度を求め、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、そのパワーダイ又はそのパワーモジュールの検知された温度をそのパワーダイ又はそのパワーモジュールの求められた基準温度から減算し、減算の出力の正負符号に従って少なくとも1つのパワーダイ又はパワーモジュールの導通時間及び/又はスイッチング遅延を調整する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばす方法であって、
前記パワーダイ又はパワーモジュールの温度を検知するステップと、
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれについて、検知された温度から温度サイクルを識別するステップと、
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれについて、識別された温度サイクルから信頼性パラメータを求めるステップと、
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれについて、基準温度を求めるステップと、
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれについて、前記パワーダイ又はパワーモジュールの検知された温度を、前記パワーダイ又はパワーモジュールの求められた基準温度から減算するステップと、
前記減算するステップの出力の正負符号に従って、少なくとも1つの前記パワーダイ又はパワーモジュールの導通時間及び/又はスイッチング遅延を調整するステップと、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれについて、前記温度サイクルの振幅は、直近に検知された局所最大温度と、直近の局所最小温度として求められる初期温度との間の温度差に等しいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記信頼性パラメータR1及びR2は、
【数1】
として求められ、
ここで、α
1、α
2、β
1及びβ
2は、パワーサイクリング試験から求めることができる信頼性定数であり、前記パワーダイ又はパワーモジュールの製造業者によって提供される試験データに適合することができ、ΔT
1及びΔT
2は、前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれの前記温度サイクルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1つの前記パワーダイ又はパワーモジュールの前記基準温度は、前記温度サイクルの振幅の間の比が、前記パワーダイ又はパワーモジュールの接合部温度と周囲温度との間の比に等しいと仮定し、前記パワーダイ又はパワーモジュールの前記信頼性パラメータを等しくすることによって求められることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記信頼性パラメータは、
【数2】
として表すことができる寿命モデルNf1及びNf2から求められ、
ここで、α
1、α
2、β
1及びβ
2は、パワーサイクリング試験から求めることができる信頼性定数であり、前記パワーダイ又はパワーモジュールの製造業者によって提供される試験データに適合することができ、ΔT
1及びΔT
2は、前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれの前記温度サイクルであり、前記信頼性パラメータR1及びR2は、
【数3】
として求められ、
ここで、n
i(ΔT
1)及びn
i(ΔT
2)は、ΔT
1及びΔT
2におけるサイクルの数を表すことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれの前記基準温度は、前記パワーダイ又はパワーモジュールの前記温度サイクルを、前記信頼性パラメータの比較に応じた増分だけ増加又は減少させ、増加又は減少された温度サイクルを所定の温度に合計することによって求められることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれの前記基準温度は、前記パワーダイ又はパワーモジュールの前記信頼性パラメータの損傷変化速度であって、
【数4】
として計算される損傷変化速度を計算することと、前記損傷変化速度を平衡させることと、前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれについて、前記パワーダイ又はパワーモジュールの前記損傷変化速度と前記損傷変化速度の平均値との間の差を最小にする温度の増分を求めることと、前記パワーダイ又はパワーモジュールの前記温度の増分を所定の温度に合計することとによって求められることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記信頼性パラメータは、寿命モデルの事前知識から、
【数5】
として求められ、
ここで、γ
1及びγ
2は、2つの異なる温度サイクル数から求められ、a
1,0及びa
1,1は、第1のパワーダイ又はパワーモジュールの接続部の亀裂の長さ変化を表し、a
2,0及びa
2,1は、第2のパワーダイの接続部の亀裂の長さ変化を表し、ΔT
1は、前記第1のパワーダイ又はパワーモジュールの前記温度サイクルであり、ΔT
2は、第2のパワーダイ又はパワーモジュールの前記温度サイクルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれの前記基準温度は、前記パワーダイ又はパワーモジュールの前記温度サイクルを、前記信頼性パラメータの比較に応じた増分だけ増加又は減少させ、前記増加又は減少された温度サイクルを所定の温度に合計することによって求められることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記信頼性パラメータは、寿命モデルの事前知識から、
【数6】
として求められ、
ここで、ΔK
1及びΔK
2は、それぞれ前記温度サイクルΔT
1及びΔT
2の関数である前記パワーダイの応力拡大係数であり、寿命を拡張するために最適化が使用され、それによって、前記基準温度は、以下の2つの主方程式
【数7】
の解に基づいて計算される双方のパワーダイの応力拡大係数ΔK
ref1及びΔK
ref2を使用して前記パワーダイの故障判定基準に同時に達する目標値を用いて計算され、
ここで、N
1は、前記寿命の拡張前の所与のサイクル数を表し、N
1は、1と、前記パワーダイの故障までの前記サイクル数を表すN
fとの間で選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも2つのパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムであって、
前記パワーダイ又はパワーモジュールの温度を検知する手段と、
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれについて、検知された温度から温度サイクルを識別する手段と、
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれについて、識別された温度サイクルから信頼性パラメータを求める手段と、
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれについて、基準温度を求める手段と、
前記パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれについて、前記パワーダイ又はパワーモジュールの前記検知された温度を、前記パワーダイ又はパワーモジュールの求められた基準温度から減算する手段と、
前記減算する手段の出力の正負符号に従って、少なくとも1つの前記パワーダイ又はパワーモジュールの導通時間及び/又はスイッチング遅延を調整する手段と、
を備えることを特徴とする、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には、パワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばす方法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パワーダイ又はパワーモジュールは並列に接続される。これらのパワーダイ又はパワーモジュールの劣化は、プロセスのばらつき又はパワーモジュール設計の幾何学的非対称性により、異なる速度で発生する場合がある。したがって、現在のところ、製造中に、並列接続されたパワーダイ又はパワーモジュールは、同じ電気熱機械特性を示すようにソートされる。並列のパワーダイの劣化を一様にすることは、信頼性が最もクリティカルな構成要素に依存するものではなく、ソートプロセスを回避できることから、そのようなパワーダイ又はパワーモジュールを備えるシステムの寿命に有益である。
【0003】
極端なシナリオによると、異種のパワーダイ又はパワーモジュールを接続した場合、通常、劣化速度及び劣化モードのばらつきが大きくなる。パワーダイ又はパワーモジュールが異種であるということは、例えば、SiC MOSFET及びSi IGBTのように技術が相違すること及び/又はダイサイズが相違すること及び/又は相互接続技術が相違することの意味である。
【0004】
異種のパワーダイ及び/又はパワーモジュールを並列に接続することは、効率性等の性能の観点から有益であるが、実際には、電気熱機械的相違に起因して、不均衡並びに信頼性及びロバスト性に問題が発生するため困難である。このように、劣化を一様にすることにより、異種のアセンブリの大きなボトルネックを取り除くことが可能になる。
【0005】
従来技術では、温度を均衡させること等の全体的性能を改善するために、異種(例えば、並列のSiC MOSFET及びSi IGBT)のパワーモジュールのスイッチングイベントを調整するいくつかの方法が提示されている。スイッチングパターンは、電気熱性能の事前知識に基づいて求められる。この種の手法では、各パワーダイ又は各パワーモジュールの電気熱性能の事前特性評価が必要となる。加えて、温度が変化し、及び/又は劣化が生じると、劣化による電気熱パラメータに対する影響のため、事前特性評価は有効でなくなる。その結果、この種の「開ループ」手法では、コストが高くなり、性能が低下する。
【0006】
従来技術のいくつかの方法では、感温性電気パラメータを監視し、それらのパワーダイ及び/又はパワーモジュールの電源投入を遅延させることで、最も高温のパワーダイ及び/又は最も高温のパワーモジュールの損失を削減し、温度を平衡させている。
【0007】
そのようなアルゴリズムは、熱的不均衡を有するパワーモジュールの温度を均衡させるのに効率的である。しかしながら、強い電気的不均衡又は信頼性不均衡がある場合には、この種のアルゴリズムは、効率性等の性能指標及び/又は寿命等の信頼性指標を改善するのに適応していない。実際、信頼性数値が異なるパワーダイ又はパワーモジュールの場合には、劣化速度又は劣化モードのばらつき及び製造プロセスのばらつきのために、温度を均衡させても、寿命は均一とならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、より高いレベルの信頼性及びロバスト性を達成するために、いくつかの並列のパワーダイ及び/又はパワーモジュールの劣化を、ゲート制御による平衡化できる方法及びデバイスを提供することを目的とする。加えて、本発明は、新たなビジネスケース、すなわち、さまざまな構成要素及び技術の改造、二次使用、価値化を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明は、少なくとも2つのパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばす方法であって、
パワーダイ又はパワーモジュールの温度を検知するステップと、
各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、検知された温度から温度サイクルを識別するステップと、
各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、識別された温度サイクルから信頼性パラメータを求めるステップと、
各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、基準温度を求めるステップと、
各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、パワーダイ又はパワーモジュールの求められた基準温度から、パワーダイ又はパワーモジュールの検知された温度を減算するステップと、
減算するステップの出力の正負符号に従って少なくとも1つのパワーダイ又はパワーモジュールの導通時間及び/又はスイッチング遅延時間を調整するステップと、
を含むことを特徴とする、方法に関する。
【0010】
本発明はまた、少なくとも2つのパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムであって、
パワーダイ又はパワーモジュールの温度を検知する手段と、
各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、検知された温度から温度サイクルを識別する手段と、
各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、識別された温度サイクルから信頼性パラメータを求める手段と、
各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、基準温度を求める手段と、
各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、そのパワーダイ又はそのパワーモジュールの求められた基準温度から、そのパワーダイ又はそのパワーモジュールの検知された温度を減算する手段と、
減算する手段の出力の正負符号に従って少なくとも1つのパワーダイ又はパワーモジュールの導通時間及び/又はスイッチング遅延時間を調整する手段と、
を備えることを特徴とする、システムに関する。
【0011】
したがって、同じ又は異なる技術の並列接続されたパワーダイ又はパワーモジュールの間で劣化レベルを監視し、制御し及び均衡させることができ、これによって、全体的なシステム寿命を延ばすことが可能になる。
【0012】
特定の特徴によれば、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、温度サイクルの振幅は、直近に検知された局所最大温度と、直近の局所最小温度として求められる初期温度との間の温度差に等しい。
【0013】
したがって、各単一のパワーダイ又はパワーモジュールの信頼性パラメータの応力入力として使用するために、温度サイクル又は温度変化を動作中に連続して求めることができる。
【0014】
特定の特徴によれば、信頼性パラメータR1及びR2は、
【数1】
として求められる。
ここで、α
1、α
2、β
1及びβ
2は、パワーサイクリング試験から求めることができる信頼性定数であり、パワーダイ又はパワーモジュールの製造業者によって提供される試験データに適合するものであり、ΔT
1及びΔT
2は、パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれの温度サイクルである。
【0015】
したがって、各パワーダイ又は各パワーモジュールの信頼性パラメータを、計算された温度サイクルに基づいて動作状態中に連続して求めることができる。その上、信頼性パラメータは、その後、各パワーダイ又は各パワーモジュールの基準温度を求めるのに使用される。
【0016】
特定の特徴によれば、1つのパワーダイ又はパワーモジュールの基準温度は、温度サイクルの振幅の間の比が、パワーダイ又はパワーモジュールの接合部温度と周囲温度との間の比に等しいと仮定し、パワーダイ又はパワーモジュールの信頼性パラメータを等しくすることによって求められ、他のパワーダイ又はパワーモジュールの基準温度は、そのパワーダイ又はパワーモジュールで検知された温度に等しいとして求められる。
【0017】
したがって、基準温度は、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、動作状態下で連続してそれらの劣化レベルを制御するために求められる。
【0018】
特定の特徴によれば、信頼性パラメータは、
【数2】
として表すことができる寿命モデルNf1及びNf2から求められる。
ここで、α
1、α
2、β
1及びβ
2は、パワーサイクリング試験から求めることができる信頼性定数であり、パワーダイ又はパワーモジュールの製造業者によって提供される試験データに適合するものであり、ΔT
1及びΔT
2は、パワーダイ又はパワーモジュールのそれぞれの温度サイクルであり、信頼性パラメータR1及びR2は、
【数3】
として求められる。
ここで、n
i(ΔT
1)及びn
i(ΔT
2)は、ΔT
1及びΔT
2におけるサイクルの数を表す。
【0019】
したがって、各パワーダイ又は各パワーモジュールの信頼性パラメータは、例えば[0,1]、又は[0%,100%]の区間内において動作状態下で連続して評価される仮想劣化量と相関する。その結果、健全状態と故障状態との間の全ての劣化レベルを推定することができる。
【0020】
特定の特徴によれば、各パワーダイ又は各パワーモジュールの基準温度は、そのパワーダイ又はそのパワーモジュールの温度サイクルを、信頼性の比較に応じた増分だけ増加又は減少させ、増加又は減少された温度サイクルを所定の温度に合計することによって求められる。
【0021】
したがって、並列接続されたパワーダイ又はパワーモジュールの温度によって全ての劣化レベルを監視及び制御することによって、平衡状態を確立することができる。
【0022】
特定の特徴によれば、各パワーダイ又は各パワーモジュールの基準温度は、そのパワーダイ又はそのパワーモジュールの信頼性パラメータの損傷変化速度であって、
【数4】
として計算される損傷変化速度を計算することと、損傷変化速度を平衡させることと、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、そのパワーダイ又はそのパワーモジュールの損傷変化速度と損傷変化速度の平均値との間の差を最小にする温度の増分を求めることと、そのパワーダイ又はそのパワーモジュールの温度の増分を所定の温度に合計することとによって求められる。
【0023】
したがって、損傷変化速度間の差を最小にすることによって、各パワーダイ又は各パワーモジュールの損傷又は劣化レベルの間の差を最小にすることが可能になる。その結果、システム全体の寿命を延ばすことができる。
【0024】
特定の特徴によれば、信頼性パラメータは、寿命モデルの事前知識から、
【数5】
として求められる。
ここで、γ
1及びγ
2は、2つの異なる温度サイクル数から求められ、a
1,0及びa
1,1は、第1のパワーダイの接続部の亀裂の長さ値変化を表し、a
2,0及びa
2,1は、第2のパワーダイの接続部の亀裂の長さ値変化を表し、ΔT
1は、第1のパワーダイ又はパワーモジュールの温度サイクルであり、ΔT
2は、第2のパワーダイ又はパワーモジュールの温度サイクルである。
【0025】
したがって、各パワーダイ又は各パワーモジュールの信頼性パラメータは、オンラインモード又はオフラインモードを使用する亀裂長測定に基づいて識別される。その結果、各パワーダイ又は各パワーモジュールの信頼性パラメータを定義するのに信頼性試験データは必要とされない。
【0026】
特定の特徴によれば、各パワーダイ又は各パワーモジュールの基準温度は、そのパワーダイ又はそのパワーモジュールの温度サイクルを、信頼性の比較に応じた増分だけ増加又は減少させ、増加又は減少された温度サイクルを所定の温度に合計することによって求められる。
【0027】
したがって、各パワーダイ又は各パワーモジュールの劣化レベルは、各パワーダイ又は各パワーモジュールに適用された温度サイクルに基づいて制御及び均衡される。
【0028】
特定の特徴によれば、信頼性パラメータは、寿命モデルの事前知識から、
【数6】
として求められる。
ここで、ΔK
1及びΔK
2は、それぞれ温度サイクルΔT
1及びΔT
2の関数であるパワーダイの応力拡大係数であり、システム寿命を拡張するために最適化が使用され、それによって、基準温度は、以下の2つの主方程式
【数7】
の解に基づいて計算される双方のパワーダイの応力拡大係数ΔK
ref1及びΔK
ref2を使用してパワーダイの故障判定基準に同時に達する目標値を用いて計算される。
ここで、N
1は、システム寿命の拡張前の所与のサイクル数を表し、N
1は、1と、パワーダイの故障までのサイクル数を表すN
fとの間で選択される。
【0029】
本発明の特徴は、例示の実施形態の以下の説明を読むことによってより明らかになる。この説明は、添付図面に関して作成されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1a】本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第1の例を表す図である。
【
図1b】本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第2の例を表す図である。
【
図1c】本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第3の例を表す図である。
【
図1d】本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第4の例を表す図である。
【
図1e】本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第5の例を表す図である。
【
図2】本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第6の例を表す図である。
【
図3】本発明に従って実行されるアルゴリズムの一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1aは、本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第1の例を表している。
【0032】
図1aの例では、システムは、電気的に並列に接続された2つのパワーダイD1及びD2を備えている。
【0033】
図1aでは、明瞭にするために2つのパワーダイのみが示されている。本発明は、3つ以上のパワーダイにも適用可能である。
【0034】
パワーダイは、シリコンカーバイド(SiC)及びシリコン(Si)等の種々の材料、及び/又は、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)及び絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の種々の構造、及び/又は、面積10mm2及び面積100mm2等の種々のサイズ、及び/又は、はんだ及び焼結ダイアタッチ等若しくはアルミニウムワイヤボンド及び銅ワイヤボンド等の種々のタイプの相互接続から構成することができる。
【0035】
パワーダイは、パワーモジュールに置き換えることができ、各パワーモジュールは並列の複数のパワーダイから構成される。
【0036】
一般に、異種のパワーダイ及び/又はパワーモジュールは、異なる電気熱機械特性を示し、これは、並列に接続されたときに異なる疲労挙動及び信頼性性能をもたらす。
【0037】
インダクタL1及びL2は、モータの負荷を表す負荷インダクタを表す。
【0038】
各パワーダイD1、D2について、システムは、温度検知手段Ts1及びTs2を備えている。
【0039】
温度検知手段Ts1及びTs2は、各パワーダイ上に若しくはその近くに配置された温度センサであるか、又は、パワーダイの感熱性電気パラメータである。例えば、感熱性電気パラメータは、パワーダイの内部ゲート抵抗である。
【0040】
温度検知手段Ts1は、パワーダイD1の温度T1(t)を提供する。温度検知手段Ts2は、パワーダイD2の温度T2(t)を提供する。温度T1(t)及びT2(t)は、最終的にはフィルタリングされる。これらの温度は、基準温度決定モジュール100aと、減算モジュール122及び124と、サイクル識別モジュール120とにそれぞれ提供される。
【0041】
基準温度モジュール100aは、各パワーダイD1及びD2について、温度T1、T2と、それぞれの信頼性パラメータR1及びR2とから基準温度Tref1及びTref2をそれぞれ求める。
【0042】
信頼性パラメータは、例えば、それぞれのパワーダイD1及びD2のデータシートによって提供される信頼性パラメータである。
【0043】
例えば、信頼性パラメータは、信頼性決定モジュール110aによって求められる。
【0044】
信頼性決定モジュール110aは、各パワーダイD1及びD2について、一定の温度スイングΔT
1、ΔT
2から構成される温度プロファイルから、信頼性パラメータR1及びR2を以下の式として求める。
【数8】
【0045】
そのようなモデルによって、応力変数ΔT1及びΔT2が制御される実験室の場合について信頼性変数を計算することが可能になる。より一般的には、ほとんどの信頼性モデルは、温度差を入力変数として取る。これは、温度サイクルの終わりにおいてのみ、R1=f(ΔT1,α1,β1,δ1...)及びR2=f(ΔT2,α2,β2,δ2...)に従って損傷を推定することができることを意味する。
【0046】
これらの式において、α
1、β
1、δ
1...は、実験室の試験によって求められるモデル定数である。ΔT
1及びΔT
2は、サイクル識別モジュール120によって、それぞれ温度T1(t)及びT2(t)から求められる。ΔT
1及びΔT
2は、通常、温度サイクル又は動作サイクル期間若しくは試験サイクル期間にわたる最大値と最小値との間の温度変化を表す。すなわち、
【数9】
である。
【0047】
min(Ti(t))(ただし、i=1,2)の値は、動作開始温度、すなわちTi(tstart)(ただし、i=1,2)を表すことができ、この温度は、一般的にはサイクル期間における最低温度である基準温度を表す。
【0048】
例えば、信頼性パラメータR1及びR2は、以下の式となる。
【数10】
ここで、α
1、α
2、β
1及びβ
2は、パワーダイの製造業者によって提供される試験データに適合させることができるので、パワーサイクリング(エージング)試験から求めることができる信頼性定数である。一例として、これらのパラメータは、次の値、すなわち、α
1=1.5×10
14、α
2=2×10
14、β
1=-6及びβ
2=-4とすることができる。
【0049】
サイクル識別モジュール120は、例えば、2つの連続した温度測定の間の各離散時間間隔Δtにおいて評価される温度プロファイルの1次導関数を使用して温度サイクルの開始t
startを求める。正負符号の反転を使用すると、局所温度最小値を識別することができ、したがって、温度サイクルの開始は、
【数11】
且つ
【数12】
であるとき、t
start=t-Δtとして求められる。
【0050】
信頼性関数R1及びR2は、それぞれR1=f(max(T1(t))-T1(tstart),α1,β1)及びR2=f(max(T2(t))-T2(tstart),α2,β2)として表すことができ、温度サイクル中に離散時間間隔Δtにおいて評価される。所与の時点において、信頼性関数の入力は、ΔT1=max(T1(t))-T1(tstart)として取り込まれる。すなわち、サイクルの開始から測定された最大温度とサイクルの開始時における温度との間の差は、このサイクルの場合にΔT1であると考えられる。
【0051】
局所温度最小値が満たされるとき、tstartはリセットされ、新たな値tstartが使用される。
【0052】
基準温度モジュール100aは、温度サイクル振幅の間の比が接合部温度と周囲温度との間の比に等しいと仮定して、すなわち、
【数13】
であると仮定して、各パワーダイD1及びD2について、それぞれ基準温度Tref1及びTref2を求める。
【0053】
換言すれば、温度サイクルの振幅は、以下の式のように、或る係数を伴う温度に比例する。
【数14】
【0054】
一例として、このパラメータaは値0.5とすることができる。
【0055】
基準温度モジュール100aは、以下の式のように、パワーダイの寿命を均衡させることによって基準温度Tref1及びTref2を求める。
【数15】
【0056】
この関係は、寿命の均衡をもたらすlog(T1)とlog(T2)との間の関係を表す。
【0057】
例えば、測定された温度log(T2)について、基準温度Tref1は、基準温度モジュール100aによって以下の式に従って求められる。
【数16】
【0058】
この場合に、パワーダイD2の基準温度Tref2は、測定された温度と同じ値になるように設定(確定)することができ、これは、
【数17】
を意味する。
【0059】
同様にして、Tref1を、測定された温度と同じ値になるように設定(確定)することができ、Tref2は、以下の式に基づいて推定することができる。
【数18】
【0060】
測定された値T1及びT2にそれぞれ従ってTref1及び/又はTref2を確定する決定は、任意の動作基準に基づくことができる。例えば、最も劣化したパワーダイの温度基準を確定することができ、それほど劣化していないパワーダイの温度は、最も劣化したパワーダイと同じ劣化レベルに達するように増加させることができる。
【0061】
温度サイクル振幅のべき関数を含む簡単な寿命モデルは、例えば、平均温度、加熱時間及び/又は電流等を考慮することによって強化することができる。そのような依存関係は、同じ原理を使用して加えることができる。
【0062】
測定された温度T1(t)は、減算モジュール124によって基準温度Tref1から減算され、測定された温度T2(t)は、減算モジュール122によって基準温度Tref2から減算される。
【0063】
減算モジュール122及び124の出力は、ゲート信号コントローラ130に提供される。ゲート信号コントローラ130は、減算モジュール122及び124の出力の正負符号に従ってパワーダイD1及びD2の導通時間及び/又はスイッチング遅延を調整する。
【0064】
例えば、減算モジュール122の出力が正である場合には、ゲート制御信号130は、駆動信号g1を得るために信号SP1の導通時間を増加させ、及び/又は、パワーダイD1の駆動信号g1のスイッチング遅延を増加させる。減算モジュール122の出力が負又はヌルである場合には、信号SP1の導通及び/又はスイッチング遅延は変更されず、駆動信号g1は、その場合に信号SP1に等しい。減算モジュール124の出力が正である場合には、ゲート制御信号130は、駆動信号g2を得るために信号SP2の導通時間を増加させ、及び/又は、パワーダイD2の駆動信号g2のスイッチング遅延を増加させる。減算モジュール124の出力が負又はヌルである場合には、信号SP2の導通及び/又はスイッチング遅延は変更されず、駆動信号g2は、その場合に信号SP2に等しい。
【0065】
導通時間の増加は、10マイクロ秒と50マイクロ秒との間に含まれてもよいし、遅延時間は、10ナノ秒と50ナノ秒との間に含まれてもよい。
【0066】
図1bは、本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第2の例を表している。
【0067】
図1bの例では、システムは、並列に接続された2つのパワーダイD1及びD2を備えている。
【0068】
図1bでは、明瞭にするために2つのパワーダイのみが示されている。本発明は、3つ以上のパワーダイにも適用可能である。
【0069】
パワーダイは、シリコンカーバイド(SiC)及びシリコン(Si)等の種々の材料、及び/又は、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)及び絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の種々の構造、及び/又は、面積10mm2及び面積100mm2等の種々のサイズ、及び/又は、はんだ及び焼結ダイアタッチ等若しくはアルミニウムワイヤボンド及び銅ワイヤボンド等の種々のタイプの相互接続から構成することができる。
【0070】
パワーダイは、パワーモジュールに置き換えることができ、各パワーモジュールは並列の複数のパワーダイから構成される。
【0071】
一般に、異種のパワーダイ及び/又はパワーモジュールは、異なる電気熱機械特性を示し、これは、並列に接続されたときに異なる疲労挙動及び信頼性性能をもたらす。
【0072】
インダクタL1及びL2は、モータの負荷を表す負荷インダクタを表す。
【0073】
各パワーダイD1、D2について、システムは、温度検知手段Ts1及びTs2を備えている。
【0074】
温度検知手段Ts1及びTs2は、各パワーダイ上に若しくはその近くに配置された温度センサであるか、又は、パワーダイの感熱性電気パラメータである。例えば、感熱性電気パラメータは、パワーダイの内部ゲート抵抗である。
【0075】
温度検知手段Ts1は、パワーダイD1の温度T1(t)を提供する。温度検知手段Ts2は、パワーダイD2の温度T2(t)を提供する。温度T1(t)及びT2(t)は、最終的にはフィルタリングされる。これらの温度は、基準温度決定モジュール100bと、減算モジュール122及び124と、サイクル識別モジュール120とにそれぞれ提供される。
【0076】
基準温度モジュール100bは、各パワーダイD1及びD2について、温度T1、T2と、それぞれの信頼性パラメータR1及びR2とから基準温度Tref1及びTref2をそれぞれ求める。
【0077】
信頼性パラメータは、信頼性決定モジュール110bによって求められる。
【0078】
信頼性決定モジュール110bは、各パワーダイD1及びD2について、一定の温度スイングΔT
1、ΔT
2から構成される温度プロファイルと、通常は以下のように表すことができる寿命モデルNf1及びNf2に基づいて損傷パラメータR1及びR2を求める。
【数19】
ここで、α
1、α
2、β
1及びβ
2は、パワーダイの製造業者によって提供される試験データに適合させることができるので、パワーサイクリング(エージング)試験から求めることができる寿命モデル定数である。一例として、これらのパラメータは、次の値、すなわち、α
1=1.5×10
14、α
2=2×10
14、β
1=-6及びβ
2=-4とすることができる。
【0079】
ΔT1及びΔT2は、通常、温度サイクル又は動作サイクル期間若しくは試験サイクル期間にわたる最大値と最小値との間の温度変化を表す。
【0080】
そのような寿命モデルによって、以下の式を用いて、パワーダイD1及びD2の線形損傷累積(合計)を表す信頼性パラメータR1及びR2を計算することが可能になる。
【数20】
ここで、n
i(ΔT
1)及びn
i(ΔT
2)は、それぞれパワーダイD1及びD2が受けるΔT
1及びΔT
2におけるサイクル数を表す。それらは、応力カウントアルゴリズム、例えばレインフローカウンター(Rainflow counter)を使用して求めることができる。これは、IEEE Transactions on Industry Applications, vol. 51, no. 4, pp. 3368-3375, July-Aug. 2015, doi: 10.1109/TIA.2015.2407055に掲載されたR. GopiReddy、L. M. Tolbert、B. Ozpineci及びJ. O. P. Pintoによる「Rainflow Algorithm-Based Lifetime Estimation of Power Semiconductors in Utility Applications」という題名の論文に開示されている。
【0081】
Nf1(ΔT1)及びNf2(ΔT2)は、それぞれパワーダイD1及びD2のΔT1及びΔT2における故障までのサイクル数を表す。
【0082】
図1bの例では、信頼性パラメータは、健全な状態の0%から寿命の終わり又は劣化した状態の100%まで増加する損傷パーセンテージを表す。
【0083】
特定の特徴によれば、信頼性パラメータR1及びR2によって表される損傷のレベルは、パワーダイD1及びD2の損傷のレベルを推定する
図1bに図示されていない外部状態監視装置によって提供することもできる。
【0084】
例えば、外部状態監視装置は、故障前兆の監視に基づいて損傷のレベルを推定する。損傷は、例えば、オン状態電圧の変遷又は熱抵抗の変遷又は所与の動作状態の温度T1及びT2の変遷から推定することができる。
【0085】
したがって、温度T1及びT2の知識と、スイッチングパターンの知識とを通じて損傷レベルの不一致を内部で推定することも可能である。
【0086】
サイクル識別モジュール120は、温度T1(t)及びT2(t)からΔT
1及びΔT
2を求める。ΔT
1及びΔT
2は、通常、温度サイクル又は動作サイクル期間若しくは試験サイクル期間にわたる最大値と最小値との間の温度変化を表す。すなわち、
【数21】
である。
【0087】
min(Ti(t))(ただし、i=1,2)の値は、動作開始温度、すなわちTi(tstart)(ただし、i=1,2)を表すことができ、この温度は、一般的にはサイクル期間における最低温度である基準温度を表す。
【0088】
サイクル識別モジュール120は、例えば、2つの連続した温度測定の間の各離散時間間隔Δtにおいて評価される温度プロファイルの1次導関数を使用して温度サイクルの開始t
startを求める。正負符号の反転を使用すると、局所温度最小値を識別することができ、したがって、温度サイクルの開始は、
【数22】
且つ
【数23】
であるとき、t
start=t-Δtとして求められる。
【0089】
局所温度最小値が満たされるとき、tstartはリセットされ、新たな値tstartが使用される。
【0090】
基準温度モジュール100bは、各パワーダイD1及びD2について、それぞれ基準温度Tref1及びTref2を求める。
【0091】
温度情報ΔT1、ΔT2及び信頼性パラメータR1、R2に基づいて、基準温度モジュール100bは温度基準の増分を求める。ΔTref1及びΔTref2は、以下のように計算することができる。
【0092】
R1がR2よりも大きい場合には、ΔTref1=ΔT1-ΔTincr及び/又はΔTref2=ΔT2+ΔTincrである。
【0093】
そうでない場合には、ΔTref1=ΔT1+ΔTincr及び/又はΔTref2=ΔT2-ΔTincrである。
【0094】
ΔTincrは、例えば、損傷差R1-R2に応じて5℃~50℃の範囲で変化することができる温度増分を表す。
【0095】
温度基準ΔTref1及びΔTref2の増分の計算に基づいて、基準温度モジュール100bは、以下の式のように基準温度を求める。
【数24】
ここで、T
min1及びT
min2は、パワーダイD1及びD2のそれぞれの最小温度を表す。T
min1及びT
min2は、周囲温度又はヒートシンク温度とすることができ、例えば20℃又は70℃とすることができる。
【0096】
測定された温度T1(t)は、減算モジュール124によって基準温度Tref1から減算され、測定された温度T2(t)は、減算モジュール122によって基準温度Tref2から減算される。
【0097】
減算モジュール122及び124の出力は、ゲート信号コントローラ130に提供される。ゲート信号コントローラ130は、減算モジュール122及び124の出力の正負符号にそれぞれ従ってパワーダイD1及びD2の導通時間及び/又はスイッチング遅延を調整する。
【0098】
例えば、減算モジュール122の出力が正である場合には、ゲート制御信号130は、駆動信号g1を得るために信号SP1の導通時間を増加させ、及び/又は、パワーダイD1の駆動信号g1のスイッチング遅延を増加させる。減算モジュール122の出力が負又はヌルである場合には、信号SP1の導通及び/又はスイッチング遅延は変更されず、駆動信号g1は、その場合に信号SP1に等しい。減算モジュール124の出力が正である場合には、ゲート制御信号130は、駆動信号g2を得るために信号SP2の導通時間を増加させ、及び/又は、パワーダイD2の駆動信号g2のスイッチング遅延を増加させる。減算モジュール124の出力が負又はヌルである場合には、信号SP2の導通及び/又はスイッチング遅延は変更されず、駆動信号g2は、その場合に信号SP2に等しい。
【0099】
導通時間の増加は、10マイクロ秒と50マイクロ秒との間に含まれてもよいし、遅延時間は、10ナノ秒と50ナノ秒との間に含まれてもよい。
【0100】
図1cは、本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第3の例を表している。
【0101】
図1cの例では、システムは、並列に接続された2つのパワーダイD1及びD2を備えている。
【0102】
図1cでは、明瞭にするために2つのパワーダイのみが示されている。本発明は、3つ以上のパワーダイにも適用可能である。
【0103】
パワーダイは、シリコンカーバイド(SiC)及びシリコン(Si)等の種々の材料、及び/又は、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)及び絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の種々の構造、及び/又は、面積10mm2及び面積100mm2等の種々のサイズ、及び/又は、はんだ及び焼結ダイアタッチ等若しくはアルミニウムワイヤボンド及び銅ワイヤボンド等の種々のタイプの相互接続から構成することができる。
【0104】
パワーダイは、パワーモジュールに置き換えることができ、各パワーモジュールは並列の複数のパワーダイから構成される。
【0105】
一般に、異種のパワーダイ及び/又はパワーモジュールは、異なる電気熱機械特性を示し、これは、並列に接続されたときに異なる疲労挙動及び信頼性性能をもたらす。
【0106】
インダクタL1及びL2は、モータの負荷を表す負荷インダクタを表す。
【0107】
各パワーダイD1、D2について、システムは、温度検知手段Ts1及びTs2を備えている。
【0108】
温度検知手段Ts1及びTs2は、各パワーダイ上に若しくはその近くに配置された温度センサであるか、又は、パワーダイの感熱性電気パラメータである。例えば、感熱性電気パラメータは、パワーダイの内部ゲート抵抗である。
【0109】
温度検知手段Ts1は、パワーダイD1の温度T1(t)を提供する。温度検知手段Ts2は、パワーダイD2の温度T2(t)を提供する。温度T1(t)及びT2(t)は、最終的にはフィルタリングされる。これらの温度は、基準温度決定モジュール100cと、減算モジュール122及び124と、サイクル識別モジュール120とにそれぞれ提供される。
【0110】
基準温度モジュール100cは、各パワーダイD1及びD2について、温度T1、T2と、それぞれの信頼性パラメータR1及びR2とから基準温度Tref1及びTref2をそれぞれ求める。
【0111】
信頼性パラメータは、信頼性決定モジュール110cによって求められる。
【0112】
信頼性決定モジュール110cは、各パワーダイD1及びD2について、一定の温度スイングΔT
1、ΔT
2から構成される温度プロファイルと、通常は以下のように表すことができる寿命モデルNf1及びNf2に基づいて損傷パラメータR1及びR2を求める。
【数25】
ここで、α
1、α
2、β
1及びβ
2は、パワーダイの製造業者によって提供される試験データに適合させることができるので、パワーサイクリング(エージング)試験から求めることができる寿命モデル定数である。一例として、これらのパラメータは、次の値、すなわち、α
1=1.5×10
14、α
2=2×10
14、β
1=-6及びβ
2=-4とすることができる。
【0113】
ΔT1及びΔT2は、通常、温度サイクル又は動作サイクル期間若しくは試験サイクル期間にわたる最大値と最小値との間の温度変化を表す。
【0114】
そのような寿命モデルによって、以下の式を用いて、パワーダイD1及びD2の線形損傷累積(合計)を表す信頼性パラメータR1及びR2を計算することが可能になる。
【数26】
ここで、n
i(ΔT
1)及びn
i(ΔT
2)は、それぞれパワーダイD1及びD2が受けるΔT
1及びΔT
2におけるサイクル数を表す。それらは、応力カウントアルゴリズム、例えばレインフローカウンターを使用して求めることができる。これは、IEEE Transactions on Industry Applications, vol. 51, no. 4, pp. 3368-3375, July-Aug. 2015, doi: 10.1109/TIA.2015.2407055に掲載されたR. GopiReddy、L. M. Tolbert、B. Ozpineci及びJ. O. P. Pintoによる「Rainflow Algorithm-Based Lifetime Estimation of Power Semiconductors in Utility Applications」という題名の論文に開示されている。
【0115】
Nf1(ΔT1)及びNf2(ΔT2)は、それぞれパワーダイD1及びD2のΔT1及びΔT2における故障までのサイクル数を表す。
【0116】
図1cの例では、信頼性パラメータは、健全な状態の0%から寿命の終わり又は劣化した状態の100%まで増加する損傷パーセンテージを表す。
【0117】
特定の特徴によれば、信頼性パラメータR1及びR2によって表される損傷のレベルは、パワーダイD1及びD2の損傷のレベルを推定する
図1cに図示されていない外部状態監視装置によって提供することもできる。
【0118】
例えば、外部状態監視装置は、故障前兆の監視に基づいて損傷のレベルを推定する。損傷は、例えば、オン状態電圧の変遷又は熱抵抗の変遷又は所与の動作状態の温度T1及びT2の変遷から推定することができる。
【0119】
したがって、温度T1及びT2の知識と、スイッチングパターンの知識とを通じて損傷レベルの不一致を内部で推定することも可能である。
【0120】
サイクル識別モジュール120は、温度T1(t)及びT2(t)からΔT
1及びΔT
2を求める。ΔT
1及びΔT
2は、通常、温度サイクル又は動作サイクル期間若しくは試験サイクル期間にわたる最大値と最小値との間の温度変化を表す。すなわち、
【数27】
である。
【0121】
min(Ti(t))(ただし、i=1,2)の値は、動作開始温度、すなわちTi(tstart)(ただし、i=1,2)を表すことができ、この温度は、一般的にはサイクル期間における最冷点である基準温度を表す。
【0122】
サイクル識別モジュール120は、例えば、2つの連続した温度測定の間の各離散時間間隔Δtにおいて評価される温度プロファイルの1次導関数を使用して温度サイクルの開始t
startを求める。正負符号の反転を使用すると、局所温度最小値を識別することができ、したがって、温度サイクルの開始は、
【数28】
且つ
【数29】
であるとき、t
start=t-Δtとして求められる。
【0123】
局所温度最小値が満たされるとき、tstartはリセットされ、新たな値tstartが使用される。
【0124】
基準温度モジュール100cは、各パワーダイD1及びD2について、それぞれ基準温度Tref1及びTref2を求める。
【0125】
基準温度モジュール100cは、以下の微分方程式を使用して損傷速度を求める。
【数30】
【0126】
少なくとも2つのパワーダイの損傷変化速度を平衡させるために、コスト関数が、以下の式として表すことができる各損傷変化速度の平均値に基づいて計算される。
【数31】
【0127】
ここで、2つのパワーダイの基準損傷変化速度(DCR)は等しい。すなわち、
【数32】
である。ここで、∂R
REF1及び∂R
REF2は、それぞれ時間離散化ステップ∂tに従った基準信頼性パラメータRref1及びRref2の離散化された導関数である。
【0128】
Rref1及びRref2は、それぞれ
【数33】
及び
【数34】
の時間積分によって求められる。
【0129】
基準温度は、その後、次のように計算される。すなわち、コスト関数
【数35】
を用いてΔTref1を見つける。
【0130】
以下の積分を解くことができるとき、
【数36】
R1
initialは、通常は0に等しいパワーダイD1内の初期損傷を表す。同じ計算を使用すると、ΔTref2の値を求めることができる。
【0131】
ΔTref1及びΔTref2の計算に基づくと、基準温度を以下のように表すことができる。
【数37】
【0132】
Tmin1及びTmin2は、それぞれパワーダイD1及びD2の最小温度を表す。それらは、周囲温度又はヒートシンク温度とすることができ、例えば20℃又は70℃とすることができる。
【0133】
損傷速度は、離散時間値を使用して計算することもでき、したがって、微分は除算に置き換えられ、積分は乗算に置き換えられる。時間間隔は、例えば100時間とすることができる。
【0134】
測定された温度T1(t)は、減算モジュール124によって基準温度Tref1から減算され、測定された温度T2(t)は、減算モジュール122によって基準温度Tref2から減算される。
【0135】
減算モジュール122及び124の出力は、ゲート信号コントローラ130に提供される。ゲート信号コントローラ130は、減算モジュール122及び124の出力の正負符号に従ってパワーダイD1及びD2の導通時間及び/又はスイッチング遅延を調整する。
【0136】
例えば、減算モジュール122の出力が正である場合には、ゲート制御信号130は、駆動信号g1を得るために信号SP1の導通時間を増加させ、及び/又は、パワーダイD1の駆動信号g1のスイッチング遅延を増加させる。減算モジュール122の出力が負又はヌルである場合には、信号SP1の導通及び/又はスイッチング遅延は変更されず、駆動信号g1は、その場合に信号SP1に等しい。減算モジュール124の出力が正である場合には、ゲート制御信号130は、駆動信号g2を得るために信号SP2の導通時間を増加させ、及び/又は、パワーダイD2の駆動信号g2のスイッチング遅延を増加させる。減算モジュール124の出力が負又はヌルである場合には、信号SP2の導通及び/又はスイッチング遅延は変更されず、駆動信号g2は、その場合に信号SP2に等しい。
【0137】
導通時間の増加は、10マイクロ秒と50マイクロ秒との間に含まれてもよいし、遅延時間は、10ナノ秒と50ナノ秒との間に含まれてもよい。
【0138】
図1dは、本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第4の例を表している。
【0139】
図1dの例では、システムは、並列に接続された2つのパワーダイD1及びD2を備えている。
【0140】
図1dでは、明瞭にするために2つのパワーダイのみが示されている。本発明は、3つ以上のパワーダイにも適用可能である。
【0141】
パワーダイは、シリコンカーバイド(SiC)及びシリコン(Si)等の種々の材料、及び/又は、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)及び絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の種々の構造、及び/又は、面積10mm2及び面積100mm2等の種々のサイズ、及び/又は、はんだ及び焼結ダイアタッチ等若しくはアルミニウムワイヤボンド及び銅ワイヤボンド等の種々のタイプの相互接続から構成することができる。
【0142】
パワーダイは、パワーモジュールに置き換えることができ、各パワーモジュールは並列の複数のパワーダイから構成される。
【0143】
一般に、異種のパワーダイ及び/又はパワーモジュールは、異なる電気熱機械特性を示し、これは、並列に接続されたときに異なる疲労挙動及び信頼性性能をもたらす。
【0144】
インダクタL1及びL2は、モータの負荷を表す負荷インダクタを表す。
【0145】
各パワーダイD1、D2について、システムは、温度検知手段Ts1及びTs2を備える。
【0146】
温度検知手段Ts1及びTs2は、各パワーダイ上に若しくはその近くに配置された温度センサであるか、又は、パワーダイの感熱性電気パラメータである。例えば、感熱性電気パラメータは、パワーダイの内部ゲート抵抗である。
【0147】
温度検知手段Ts1は、パワーダイD1の温度T1(t)を提供する。温度検知手段Ts2は、パワーダイD2の温度T2(t)を提供する。温度T1(t)及びT2(t)は、最終的にはフィルタリングされる。これらの温度は、基準温度決定モジュール100dと、減算モジュール122及び124と、サイクル識別モジュール120とにそれぞれ提供される。
【0148】
基準温度モジュール100dは、各パワーダイD1及びD2について、温度T1、T2と、それぞれの信頼性パラメータR1及びR2とから基準温度Tref1及びTref2をそれぞれ求める。
【0149】
信頼性パラメータは、信頼性決定モジュール110dによって求められる。
【0150】
信頼性決定モジュール110dは、例えば、様々な温度サイクルが観測された時点の数を表す温度サイクルのヒストグラムとして温度履歴を求める。変化する温度サイクルのスペクトルを単純な温度サイクルの同等集合に変形することは、レインフローアルゴリズム等の応力カウントアルゴリズムによって行うことができる。
【0151】
信頼性決定モジュール110dは、例えば、少なくとも1つの相互接続部の亀裂長さを表す少なくとも1つの値から得られる健全状態を判断する。例えば、Sjはワイヤボンド内の亀裂長さであり、又は、Sij=‘aij’は、パワーダイDjの各ワイヤボンドiの値を有する亀裂長さアレイであり、又は、Sj=‘aeq j’は、パワーダイDjの等価亀裂長さであり、又は、Sj=ΔRelec jは、パワーダイDjの亀裂伝播に起因する電気抵抗の増加である。
【0152】
信頼性パラメータR1及びR2は、寿命モデルの事前知識から計算される。この事前知識は、パワーダイ温度履歴及び健全状態変数S1、S2を入力パラメータとして取り、寿命を出力として計算する法則である。最も簡単な場合には、一定の温度スイングΔT1、ΔT2から構成される温度プロファイルを仮定すると、そのような法則の一例は、以下のものである。
【数38】
【0153】
したがって、モデル較正は、システム寿命の間に行われる。
【0154】
1つの例はパリス則である。このパリス則では、可変の温度プロファイル下でパワーダイD1について以下の式を記述することができる。
【数39】
【0155】
N0は、所与のサイクル数を表し、例えばN0=1000サイクルであり、
【数40】
は、サイクル数に対する第iの亀裂長さの導関数を表し、ΔT1
iは、パワーダイD1における第iの温度サイクルを表す。上記例では、応力パラメータは、温度サイクルΔT1
iと同等である。しかしながら、一般に、応力パラメータは、異なる物理的意味と、温度サイクルΔT1
iの関数とすることができる異なる式とを有することができる。この場合を以下で説明する。
【0156】
この式の例では、2つの異なるN0値、例えばN0=1000サイクル及びN0=5000サイクルにおける2つの反復によって、R1を構成するγ1及びδ1の識別が可能になる。γ1及びδ1は、例えば、それぞれ2×106及び-4の値とすることができる。
【0157】
より具体的には、2つのパワーダイの基本的な場合に、対応する相互接続部の亀裂長さa
1及びa
2を用いると、寿命モデルは、パリス則を使用して以下のように表すことができる。
【数41】
ここで、ΔG
1及びΔG
2は、それぞれパワーダイD1及びD2の応力度を特徴付ける。それらは、例えば0.5J/m
2とすることができ、γ
1’、γ
2’、δ
1’、δ
2’は、パリスモデル定数であり、例えば、それらは、次の値、すなわち、それぞれ3×10
6、3.5×10
5、-5、-7とすることができる。一般に、ΔG
1及びΔG
2は、以下の式として表すことができる。
【数42】
【0158】
例えば、最も簡単な解析形式では、ΔG
1及びΔG
2は、それぞれ(l
0-a
1)・ΔT
1
2及び(l
0-a
2)・ΔT
2
2に比例する。ここで、l
0は、初期結合長に関する形態係数であり、例えば、800マイクロメートルとすることができる。a
1及びa
2は、亀裂長さを表し、0とl
0との間で変化する。ΔG
iとΔT
iとの間のより正確な関係は、特定の幾何形状、材料特性及び材料構成則について、例えば、シミュレーションソフトウェアANSYS又はCOMSOL Multiphysicsを使用して、有限要素解析によって計算することができる。したがって、式は以下の式となる。
【数43】
【0159】
ここで、ΔT1及びΔT2は、通常、温度サイクル又は動作サイクル期間若しくは試験サイクル期間にわたる最大値と最小値との間の温度変化を表し、dNは、Nに関する離散化ステップである。
【0160】
R1、温度履歴及びモデル変数の間の明示的な関係を更に与えるために、信頼性関数は、値a
1,0から値a
1,1までの亀裂長さの変化にわたるdNの積分によって計算することができる。破壊力学において一般に観測されるように、δ
1=1である場合に、l
0-a
1,0とl
0-a
1,1との間の上記式におけるdNの積分によって、以下のものが得られる。
【数44】
【0161】
或いは、より一般的にδ
1≠1である場合には、以下の式となる。
【数45】
【0162】
2つの異なるサイクル数におけるa
1の2つの値(a
1,0、a
1,1)の測定値によって、γ
1及びδ1の推定が可能になる。この実施モードは、オンライン又はオフラインで行うことができる。オフライン実施の場合には、健全状態の値S1及びS2を、例えばメンテナンスルーチン中に少ない回数で、例えば1回~5回で高精度に推定することができる。オンライン実施の場合には、健全状態の値S1及びS2は、オンラインで測定可能なパラメータの測定値、例えばオン状態抵抗増加ΔRelec1、ΔRelec2から推定される。この場合には、aeq
1によって示されるパワーダイD1における等価亀裂長さを、以下の式を使用して計算することができる。
【数46】
ここで、ε
1は、幾何形状及び材料特性に依存する定数であり、l
0は、初期結合長に関する形態係数である。
【0163】
有利には、そのようなオンライン実施によって、前述したようなシステム寿命中におけるモデルパラメータγ1、δ1及び信頼性モデル精度の増加のより高頻度の評価が可能になる。
【0164】
サイクル識別モジュール120は、温度T1(t)及びT2(t)からΔT
1及びΔT
2を求める。ΔT
1及びΔT
2は、通常、温度サイクル又は動作サイクル期間若しくは試験サイクル期間にわたる最大値と最小値との間の温度変化を表す。すなわち、
【数47】
である。
【0165】
min(Ti(t))(ただし、i=1,2)の値は、動作開始温度、すなわちTi(tstart)(ただし、i=1,2)を表すことができ、この温度は、一般的にはサイクル期間における最冷点である基準温度を表す。
【0166】
サイクル識別モジュール120は、例えば、2つの連続した温度測定の間の各離散時間間隔Δtにおいて評価される温度プロファイルの1次導関数を使用して温度サイクルの開始t
startを求める。正負符号の反転を使用すると、局所温度最小値を識別することができ、したがって、温度サイクルの開始は、
【数48】
且つ
【数49】
であるとき、t
start=t-Δtとして求められる。
【0167】
局所温度最小値が満たされるとき、tstartはリセットされ、新たな値tstartが使用される。
【0168】
基準温度モジュール100dは、各パワーダイD1及びD2について、それぞれ基準温度Tref1及びTref2を求める。
【0169】
基準温度Tref1及びTref2は、劣化を可能な限り早く等しくして、1つのダイが安全動作域を超えて、又は或る時点後に又は寿命の終わりにオーバーヒートしないことを確保するために求められる。
【0170】
基準温度モジュール100dは、各パワーダイD1及びD2について、それぞれ基準温度Tref1及びTref2を求める。
【0171】
温度情報ΔT1、ΔT2及び信頼性パラメータR1、R2に基づいて、基準温度モジュール100dは温度基準の増分を求める。ΔTref1及びΔTref2は、以下のように計算することができる。
R1がR2よりも大きい場合には、ΔTref1=ΔT1-ΔTincr及び/又はΔTref2=ΔT2+ΔTincrである。
そうでない場合には、ΔTref1=ΔT1+ΔTincr及び/又はΔTref2=ΔT2-ΔTincrである。
【0172】
ΔTincrは、例えば、損傷差R1-R2に応じて5℃~50℃の範囲で変化することができる温度増分を表す。
【0173】
温度基準ΔTref1及びΔTref2の増分の計算に基づいて、基準温度モジュール100dは、以下の式のように基準温度を求める。
【数50】
ここで、T
min1及びT
min2は、パワーダイD1及びD2のそれぞれの最小温度を表す。T
min1及びT
min2は、周囲温度又はヒートシンク温度とすることができ、例えば20℃又は70℃とすることができる。
【0174】
測定された温度T1(t)は、減算モジュール124によって基準温度Tref1から減算され、測定された温度T2(t)は、減算モジュール122によって基準温度Tref2から減算される。
【0175】
減算モジュール122及び124の出力は、ゲート信号コントローラ130に提供される。ゲート信号コントローラ130は、減算モジュール122及び124の出力の正負符号に従ってパワーダイD1及びD2の導通時間及び/又はスイッチング遅延を調整する。
【0176】
例えば、減算モジュール122の出力が正である場合には、ゲート制御信号130は、駆動信号g1を得るために信号SP1の導通時間を増加させ、及び/又は、パワーダイD1の駆動信号g1のスイッチング遅延を増加させる。減算モジュール122の出力が負又はヌルである場合には、信号SP1の導通及び/又はスイッチング遅延は変更されず、駆動信号g1は、その場合に信号SP1に等しい。減算モジュール124の出力が正である場合には、ゲート制御信号130は、駆動信号g2を得るために信号SP2の導通時間を増加させ、及び/又は、パワーダイD2の駆動信号g2のスイッチング遅延を増加させる。減算モジュール124の出力が負又はヌルである場合には、信号SP2の導通及び/又はスイッチング遅延は変更されず、駆動信号g2は、その場合に信号SP2に等しい。
【0177】
導通時間の増加は、10マイクロ秒と50マイクロ秒との間に含まれてもよいし、遅延時間は、10ナノ秒と50ナノ秒との間に含まれてもよい。
【0178】
図1eは、本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第5の例を表している。
【0179】
図1eの例では、システムは、並列に接続された2つのパワーダイD1及びD2を備えている。
【0180】
図1eでは、明瞭にするために2つのパワーダイのみが示されている。本発明は、3つ以上のパワーダイにも適用可能である。
【0181】
パワーダイは、シリコンカーバイド(SiC)及びシリコン(Si)等の種々の材料、及び/又は、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)及び絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の種々の構造、及び/又は、面積10mm2及び面積100mm2等の種々のサイズ、及び/又は、はんだ及び焼結ダイアタッチ等若しくはアルミニウムワイヤボンド及び銅ワイヤボンド等の種々のタイプの相互接続から構成することができる。
【0182】
パワーダイは、パワーモジュールに置き換えることができ、各パワーモジュールは並列の複数のパワーダイから構成される。
【0183】
一般に、異種のパワーダイ及び/又はパワーモジュールは、異なる電気熱機械特性を示し、これは、並列に接続されたときに異なる疲労挙動及び信頼性性能をもたらす。
【0184】
インダクタL1及びL2は、モータの負荷を表す負荷インダクタを表す。
【0185】
各パワーダイD1、D2について、システムは、温度検知手段Ts1及びTs2を備える。
【0186】
温度検知手段Ts1及びTs2は、各パワーダイ上に若しくはその近くに配置された温度センサであるか、又は、パワーダイの感熱性電気パラメータである。例えば、感熱性電気パラメータは、パワーダイの内部ゲート抵抗である。
【0187】
温度検知手段Ts1は、パワーダイD1の温度T1(t)を提供する。温度検知手段Ts2は、パワーダイD2の温度T2(t)を提供する。温度T1(t)及びT2(t)は、最終的にはフィルタリングされる。これらの温度は、基準温度決定モジュール100eと、減算モジュール122及び124と、サイクル識別モジュール120とにそれぞれ提供される。
【0188】
基準温度モジュール100eは、各パワーダイD1及びD2について、温度T1、T2と、それぞれの信頼性パラメータR1及びR2とから基準温度Tref1及びTref2をそれぞれ求める。
【0189】
信頼性パラメータは、信頼性決定モジュール110eによって求められる。信頼性決定モジュール110eは、信頼性決定モジュール110a、110b、110c又は110dと同一のものとすることができる。
【0190】
信頼性パラメータR1及びR2が判明すると、将来の劣化速度は、基準温度モジュール100eによって基準温度の関数として推定することができる。将来の温度プロファイルの性質が未知であることを前提とすると、並列ダイの基準温度の分布則が必要とされる。温度分布則は、種々の形態を取ることができ、例えば、基準温度比K1及びK2を基準温度に従属するものとして定義することができる。例えば、
【数51】
である。
【0191】
信頼性パラメータR1及びR2の知識によって、各パワーダイD1、D2の健全変数の状態がそれぞれの致命故障値Dfiに同時に達するような基準温度比K1及びK2が計算される。例えば、i=1又は2であるダイDiの致命故障値は、少なくとも1つの相互接続部の亀裂長さが所定の値afiに達した時の値とすることができる。
【0192】
したがって、有利には、全てのパワーダイは同時に故障し、全体的なシステム寿命は最大化される。
【0193】
パワーダイD1及びD2ごとの損傷は、亀裂長さ又は初期ワイヤ接触長に正規化された値を表す。
【0194】
第5の実施態様例の目的は、システム寿命拡張を最適化し、その結果、基準温度がパワーダイの故障判定基準に同時に達する目標値を用いて計算されるようにすることである。
【0195】
2つのパワーダイD1及びD2の基本的な場合には、寿命モデルは、以下のようにパリス則を使用して表すことができる。
【数52】
ここで、ΔK
1及びΔK
2は、提案された寿命/損傷均衡技法の適用前、すなわちN≦N1であるときのそれぞれパワーダイD1及びD2の応力拡大係数である。ここで、
【数53】
である。
【0196】
ΔK
1及びΔK
2は、例えば、
【数54】
に等しくすることができる。a
1及びa
2は、それぞれパワーダイD1及びD2のサイクル数の関数としての亀裂長さの変遷を表す。γ
1、γ
2、δ
1、δ
2はパリスモデル定数であり、例えば、次の値、すなわち、それぞれ3×10
6、3.5×10
5、-5、-7とすることができる。N1は、提案された寿命/損傷技法の適用がその後に開始される所与のサイクル数(例えば2000サイクルに等しい)を表す。ΔK
1及びΔK
2は、例えば、異なる温度サイクル及び異なる亀裂長さの下でANSYS又はCOMSOL Multiphysicsを使用して数値シミュレーションによって求めることができる。例えば、それらは、以下の式のように、通常は解析的に表すことができる。
【数55】
ここで、x
1、x
1’、x
2、x
2’、x
3及びx
3’は、それぞれ次の値、すなわち、2、2.5、3、3.5、1及び1.5とすることができる定数である。a
1,0及びa
2,0は、それぞれパワーダイD1及びD2の初期結合長に関する形態係数である。例えば、それらは、800マイクロメートルとすることができる。
【0197】
その上、ΔT1及びΔT2は、通常、温度サイクル又は動作サイクル期間若しくは試験サイクル期間にわたる最大値と最小値との間の温度変化を表す。温度サイクルは、前述したようにサイクル識別モジュール120によって求められる。
【0198】
パワーダイD1及びD2の寿命の終わりに同時に達するために、双方のデバイスの応力拡大係数ΔK
ref1及びΔK
ref2は、以下の2つの主方程式の解に基づいて計算することができる。
【数56】
ここで、N
1は、提案された技法の適用がその後に開始される所与のサイクル数を表す。N
1は、1と、パワーダイD1及び/又はD2の故障までのサイクル数を表すN
fとの間で選択することができる。上記2つの式は、3つの変数ΔK
ref1、ΔK
ref2及びN
fがあるので、無限個の解を与えることに留意しなければならない。ただし、負荷条件(例:定負荷電流、定負荷電力等)又はスイッチング限界によって課される第3の式がある。そうでない場合には、上記式は、以下のコスト関数を考慮して解かれる。
【数57】
【0199】
ΔK
ref1及びΔK
ref2に基づいてΔT
ref1及びΔT
ref1を計算するために、応力度式の以下の逆関数が使用される。
【数58】
【0200】
最後に、Tref1及びTref2は、上記2つの式に基づいて、以下の式を用いて評価することができる。
【数59】
【0201】
ΔTref1及びΔTref2の計算に基づくと、基準温度を以下のように表すことができる。
【数60】
【0202】
Tmin1及びTmin2は、それぞれパワーダイD1及びD2の最小温度を表す。それらは、周囲温度又はヒートシンク温度とすることができ、例えば20℃又は70℃とすることができる。
【0203】
測定された温度T1(t)は、減算モジュール124によって基準温度Tref1から減算され、測定された温度T2(t)は、減算モジュール122によって基準温度Tref2から減算される。
【0204】
減算モジュール122及び124の出力は、ゲート信号コントローラ130に提供される。ゲート信号コントローラ130は、減算モジュール122及び124の出力の正負符号に従ってパワーダイD1及びD2の導通時間及び/又はスイッチング遅延を調整する。
【0205】
例えば、減算モジュール122の出力が正である場合には、ゲート制御信号130は、駆動信号g1を得るために信号SP1の導通時間を増加させ、及び/又は、パワーダイD1の駆動信号g1のスイッチング遅延を増加させる。減算モジュール122の出力が負又はヌルである場合には、信号SP1の導通及び/又はスイッチング遅延は変更されず、駆動信号g1は、その場合に信号SP1に等しい。減算モジュール124の出力が正である場合には、ゲート制御信号130は、駆動信号g2を得るために信号SP2の導通時間を増加させ、及び/又は、パワーダイD2の駆動信号g2のスイッチング遅延を増加させる。減算モジュール124の出力が負又はヌルである場合には、信号SP2の導通及び/又はスイッチング遅延は変更されず、駆動信号g2は、その場合に信号SP2に等しい。
【0206】
導通時間の増加は、10マイクロ秒と50マイクロ秒との間に含まれてもよいし、遅延時間は、10ナノ秒と50ナノ秒との間に含まれてもよい。
【0207】
図2は、本発明によるパワーダイ又はパワーモジュールの寿命を延ばすシステムの第6の例を表している。
【0208】
システムは、例えば、バス201によってともに接続された構成要素と、
図3に開示されるようなプログラムによって制御されるプロセッサ200とに基づくアーキテクチャを有する。
【0209】
バス201は、プロセッサ200を、リードオンリーメモリROM202、ランダムアクセスメモリRAM203、及び入出力インターフェースI/O IF205にリンクさせる。
【0210】
メモリ203は、
図3に開示されるようなアルゴリズムに関連したプログラムの変数及び命令を受信するように意図されたレジスタを含む。
【0211】
リードオンリーメモリ、又は場合によっては、フラッシュメモリ202は、システムの電源が投入されると、ランダムアクセスメモリ203にロードされる、
図3に開示されるようなアルゴリズムに関連したプログラムの命令を含む。代替的に、プログラムは、ROMメモリ202から直接実行することもできる。
【0212】
システムによって行われる制御は、PC(パーソナルコンピュータ)、DSP(デジタル信号プロセッサ)又はマイクロコントローラ等のプログラマブルコンピューティングマシンによる命令又はプログラムのセットの実行によってソフトウェアにおいて実現することもできるし、マシン、又は、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)若しくはASIC(特定用途向け集積回路)等の専用構成要素によってハードウェアにおいて実現することもできる。
【0213】
換言すれば、システムは、システムに、
図3に開示されるようなアルゴリズムに関連したプログラムを実行させる回路部、又は回路部を備える装置を備える。
【0214】
図3は、本発明に従って実行されるアルゴリズムの一例を表している。
【0215】
本アルゴリズムは、プロセッサ200によって実行される一例において開示される。
【0216】
ステップS30において、プロセッサ200は、パワーダイ又はパワーモジュールの温度を取得する。
【0217】
ステップS31において、プロセッサ200は、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、検知された温度から温度サイクルを識別する。
【0218】
ステップS32において、プロセッサ200は、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、識別された温度サイクルから信頼性パラメータを求める。
【0219】
ステップS33において、プロセッサ200は、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、基準温度を求める。
【0220】
ステップS34において、プロセッサ200は、各パワーダイ又は各パワーモジュールについて、そのパワーダイ又はそのパワーモジュールの検知された温度をそのパワーダイ又はそのパワーモジュールの求められた基準温度から減算する。
【0221】
ステップS35において、プロセッサ200は、減算の出力の正負符号に従ってパワーダイ又はパワーモジュールの導通時間及び/又はスイッチング遅延を調整する。
【0222】
当然のことながら、本発明の範囲から逸脱することなく、上記で説明した本発明の実施形態に対して多くの変更を行うことができる。
【国際調査報告】