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特表2024-508368新規なシアロシド及び治療におけるそれらの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】新規なシアロシド及び治療におけるそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/00 20060101AFI20240219BHJP
   C07H 7/027 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240219BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240219BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240219BHJP
   C12P 19/00 20060101ALN20240219BHJP
【FI】
C08B37/00 Z
C07H7/027 CSP
A61K31/715
A61K31/702
A61K47/64
A61P31/16
C12N15/31 ZNA
C12P19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546012
(86)(22)【出願日】2022-01-28
(85)【翻訳文提出日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 EP2022051981
(87)【国際公開番号】W WO2022162111
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】21305131.1
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】523058250
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール ド リヨン
(71)【出願人】
【識別番号】511074305
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】505257028
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】サマン エリック
(72)【発明者】
【氏名】ロサ-カラトラバ マニュエル
(72)【発明者】
【氏名】トラヴェルシエ オーレリアン
(72)【発明者】
【氏名】リシャール エメリーヌ
【テーマコード(参考)】
4B064
4C057
4C076
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4B064AF11
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C057AA03
4C057CC03
4C057DD03
4C057EE02
4C076AA95
4C076CC35
4C076EE59
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA02
4C086EA25
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA56
4C086NA14
4C086ZB33
4C090AA01
4C090AA09
4C090BA70
4C090BB02
4C090BB13
4C090BB18
4C090BB25
4C090BB32
4C090BB36
4C090BB53
4C090BC19
4C090BD35
4C090CA42
4C090DA09
4C090DA23
(57)【要約】
本発明は、式(I)を示す合成シアロシドに関する。
Neu5Ac-α2-6-R1(R2)[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc 式
(式中、GlcNAcがN-アセチルグルコサミンであり、GlcNAcβ1-4は、β1-4結合で連結されたN-アセチルグルコサミン単位であり、nが、1以上であり、R1が、少なくとも1つのガラクトース(Gal)を含むグリカン構造であり、及びR2が、以下の群の中から選択される:H、α1-3結合(Fucα1-3)又はα1-4結合(Fucα1-4)で連結されたフコース)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)を示す合成シアロシド。
Neu5Ac-α2-6-R1(R2)[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc 式(I)
(式中、
GlcNAcはN-アセチルグルコサミンであり;
GlcNAcβ1-4は、β1-4結合で連結されたN-アセチルグルコサミン単位であり;
nは、1以上であり;
R1は、少なくとも1つのガラクトース(Gal)を含むグリカン構造であり;及び
R2が、以下の群の中から選択される:H、α1-3結合(Fucα1-3)又はα1-4結合(Fucα1-4)で連結されたフコース)
【請求項2】
R1が、最大限で5つの単糖を含む主鎖を有するグリカン構造である、請求項1に記載の合成シアロシド。
【請求項3】
R1が、1つ、2つ、又は3つの単糖を含む主鎖を有するグリカン構造である、請求項2に記載の合成シアロシド。
【請求項4】
R1が、少なくとも1つのガラクトースが主鎖の末端の1つで連結されている、グリカン構造である、請求項1~3のいずれか1項に記載の合成シアロシド。
【請求項5】
R1が、以下の群:Galβ1-4、Galβ1-3、Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4、及びGalβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3Galβ1-4の中から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の合成シアロシド。
【請求項6】
R2がHである、請求項1~5のいずれか1項に記載の合成シアロシド。
【請求項7】
以下の式(II)を示す、請求項1~6のいずれか1項に記載の合成シアロシド。
Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の複数の合成シアロシドを有する支持体を含む多価シアロシド。
【請求項9】
前記支持体が、リポソーム、デンドリマー、重合体、又はナノ粒子からなる、請求項8に記載の多価シアロシド。
【請求項10】
前記支持体がポリリジン(ε-ポリ-L-リジン)からなる、請求項8又は9に記載の多価シアロシド。
【請求項11】
前記支持体上のシアロシドのグラフティング率が20%~100%の間に含まれる、請求項8~10のいずれか1項に記載の多価シアロシド。
【請求項12】
薬学的に許容される媒体中に、請求項8~11のいずれか1項に記載の少なくとも1つの多価シアロシドを含む、薬学的組成物。
【請求項13】
吸入による投与に適した形をとる、請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
請求項8~11のいずれか1項に記載の少なくとも1つの多価シアロシドを含む医療デバイス。
【請求項15】
薬剤としての使用のための、請求項8~11のいずれか1項に記載の多価シアロシド又は請求項12若しくは13に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
シアル酸に対する親和性を有するウイルスによる感染の防止及び/又は処置における使用のための、請求項8~11のいずれか1項に記載の多価シアロシド又は請求項12若しくは13に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
前記ウイルスがインフルエンザウイルス、特に、ヒト、ウマ、ブタ、又はトリのインフルエンザウイルスである、請求項16に記載の、使用のための多価シアロシド又は薬学的組成物。
【請求項18】
前記インフルエンザウイルスがヒトインフルエンザウイルスであり、かつ株H1N1、H3N2、及びBの中から選択される、請求項17に記載の、使用のための多価シアロシド又は薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアロシドとも呼ばれる、合成シアル酸含有炭水化物に関する。これらの新規な化合物は、発酵によって産生することができる。これらのシアロシドはまた、いくつかのウイルスの表面タンパク質、特にインフルエンザウイルスの赤血球凝集素と結合することができる。結果的に、これらのシアロシドは、ウイルスの宿主細胞への接着を阻害し、それゆえに、ウイルスによる感染を防止又は処置するための有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、生物の3つ全てのドメイン:細菌、古細菌、及び真核生物由来の細胞に侵入するように進化してきた。3,600を超える既知のウイルスのうち、数百がヒト細胞に感染することができ、それらの大部分は、疾患に関連している。
ウイルスの動物細胞への侵入は、受容体への付着により開始され、その後、ウイルスタンパク質の重要な立体構造変化、細胞膜を通っての透過又は細胞膜との融合が続く。
インフルエンザウイルスなどのいくつかのウイルスは、エンドソーム膜を非常に迅速に横断することができ、侵入の効率は、50%より高くあり得る(すなわち、付着したウイルスの50%が細胞に侵入する)。
病原性ウイルスによる細胞のウイルス感染を防止し、又は少なくとも低下させるための方法は、ウイルスの宿主細胞受容体との相互作用を阻害及び/又は遮断することである。したがって、ウイルス/宿主細胞のこれらの相互作用に関する研究は、最も重要である。
オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)のウイルスの中で、インフルエンザウイルスは、最も研究されているものの一つである。インフルエンザウイルスの感染サイクルは、宿主細胞の表面に存在する糖タンパク質及び糖脂質に組み込まれたシアル酸含有グリカン(シアロシド)とのウイルス赤血球凝集素タンパク質(HA)の相互作用により開始される。
【0003】
ウイルス赤血球凝集素HAの、シアル酸を含む合成リガンドとの結合部位を飽和することにより、宿主細胞へのインフルエンザウイルスの付着を阻害することが提案されている(Matrosovich and Klenk, 2003)。
この有望なアプローチは、現在、特に、最も適切な合成リガンド、すなわち、各インフルエンザウイルスの赤血球凝集素に対するより良い親和性を示すものに関する研究により、追求されている。
インフルエンザウイルスの赤血球凝集素とシアロシドのこの相互作用に関する探索は、インフルエンザウイルスが、特定のシアロシドとの選択的結合による、それらの宿主細胞に対する特異性を有することを示した。
実際、ヒト及び動物のインフルエンザウイルスは、宿主細胞の表面上に発現した様々なシアロシドに対する異なる結合優先度を有する赤血球凝集素を提示する。
【0004】
トリインフルエンザウイルス株は、グリカン鎖の残りの部分とα2-3結合により連結されたシアル酸への結合優先を有する赤血球凝集素を発現する。対照的に、ヒトインフルエンザウイルス株由来の赤血球凝集素は、α2-6結合型シアル酸との増強した結合を示す。これは、インフルエンザウイルスのヒト株及びトリ株の複製がそれぞれ、起こる、ヒトの上気道におけるα2-6結合型シアル酸の存在量、及びトリの腸管粘膜におけるα2-3結合型シアル酸の存在と相関する。
全体的に、シアル酸連結特異性は、宿主範囲に影響する:インフルエンザウイルスのトリ及びウマ株は、ガラクトースとのα2,3結合におけるシアル酸を認識し、一方、ヒト株は、α2,6結合におけるシアル酸を好む。しかしながら、インフルエンザ向性の決定因子は、α2-6及びα2-3シアル酸との優先的結合だけより複雑である。
【0005】
ヒト呼吸上皮細胞は、伸長型ポリ-N-アセチルラクトサミン(poly-LacNAc)鎖を有するシアリル化N-グリカンを発現することが示され、ヒトHAが伸長型α2-6シアロシドと優先的に結合することが示唆されている。
これは、合成シアロシドに関するグリカンマイクロアレイ研究により確認され、亜型H1、H2、及びH3由来のヒトインフルエンザウイルスHAが、ジ-及びトリ-LacNAc伸長を有する直鎖状シアロシドと最も良く結合することが示された(Nycholat et al., 2012)。
興味深いことに、H3インフルエンザウイルス亜型由来のHAの受容体特異性は、最近、進化したように思われる;「最古の」H3ウイルスは短い分岐型シアロシドを好み、一方、「最近の」H3ウイルスは、トリ-LacNAc伸長を有する直鎖状シアロシドとのみ結合する(Yang et al., 2015)。
全てのシアロシドが、同等の効率でHAと結合するわけではないこと、及び異なるウイルス株が、それらの宿主向性に従っての異なる受容体特異性を示すことは、今、十分、確立されている。
【0006】
合成シアロシドの製造
これらの有望な治療用分子の開発における最も大きな技術的問題は、これらの特異的なシアロシドリガンドの獲得/製造である。
構造的に多様なシアロシドの調製は、化学合成、酵素的合成、又は天然シアロシドの改変を通して達成することができる。天然源からの抽出及び精製は、この方法により非常に少量のみが取得できるだけなので、検討されることはない。
長鎖シアリル化ポリラクトサミンは、デコイストラテジーによりインフルエンザ感染を効率的に防止又は処置するための最良の候補であると思われる。しかしながら、長鎖シアロシドの化学的又は酵素的製造は、ラージスケールでは不可能である。したがって、これらのシアロシドの製造のための最良の代替法は、微生物学的アプローチ、すなわち、特定の操作された微生物の発酵による製造である。
発酵による3’シアリルラクトース及び6’シアリルラクトースの製造の方法が、国際出願公開第2007/101862号に開示されている。
【0007】
さらに、発酵プロセスは、特殊調製粉乳市場向けのヒト乳オリゴ糖の工業的なラージスケール製造のためにすでに使用されている(Bych et al 2019)。このテクノロジーは、グリコシル化反応に用いられる糖ヌクレオチドを過剰発現するように代謝的に操作されている、大腸菌(Escherichia coli)株における特定の組換えグリコシルトランスフェラーゼ遺伝子の発現に基づいている。
代謝的に操作された細菌におけるポリラクトサミン構造の製造が報告されているとは言え、長鎖シアリル化ポリラクトサミンの微生物的製造は、以下の理由で、達成するのが困難に思われる:
- その分子構造の複雑性、及び
- 予想される副産物の数であり、その副産物の産生が生産収率を劇的に低下させるだろう。
病原性ウイルス、特にヒトインフルエンザウイルスと効率的に結合し、かつ発酵プロセスにより大量に製造することができる、長鎖シアロシドの新規な構造を開示することが、本発明の主な目的である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、以下の式(I)を示す合成シアロシドに関する。
Neu5Ac-α2-6-R1(R2)[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc 式(I)
(式中、
- GlcNAcは、N-アセチルグルコサミンであり;
- GlcNAcβ1-4は、β1-4結合で連結されたN-アセチルグルコサミン単位であり;
- nは、1以上であり;
- R1は、少なくとも1つのガラクトース(Gal)を含むグリカン構造であり;及び
- R2は、以下の群の中から選択される:H、α1-3結合(Fucα1-3)又はα1-4結合(Fucα1-4)で連結されたフコース)
本発明は又、上記のような複数の合成シアロシドを有する支持体を含む多価(multivalent)シアロシドに関する。
【0009】
本発明の別の目的は、薬学的に許容される媒体中に、上記のような少なくとも1つの多価シアロシドを含む薬学的組成物である。
本発明の別の目的は、上記のような少なくとも1つの多価シアロシドを含む医療デバイスである。
本発明は又、薬剤としての使用のための本発明の多価シアロシド又は本発明の薬学的組成物に関する。
さらに、本発明は、シアル酸に対する親和性を有するウイルスによる感染の防止及び/又は処置における使用のための、本発明の多価シアロシド又は本発明の薬学的組成物に関する。前記ウイルスは、特にインフルエンザウイルス、好ましくは、ヒト、ウマ、ブタ、又はトリのインフルエンザウイルスである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】SCH6株に関するCOV6S生合成についての遺伝子操作された代謝経路を示す図である。[10]キトペンタオース[11]中間体の六糖[12]シアリル化七糖COV6Sキトペンタオース[10]などのキトオリゴ糖は、β1-4ガラクトシルトランスフェラーゼによる受容体として用いられて、非還元末端に末端LacNAcモチーフを含有する六糖[11]を形成し得ることが示されている。その後、シアリル化七糖COV6S[12]を形成するための[11]のシアリル化は、代謝的に操作された大腸菌株におけるα2-6シアリルトランスフェラーゼの追加の発現で可能である。GlcNACは、α2-6シアリルトランスフェラーゼについての基質ではないため、副産物の形成が防止され、COV6S[12]がほとんど唯一の最終産物である。
図2】開発された、本発明の2つのシアロシドの構造を示す図である。式(II)のCOV6Sは、上端に示されている;別のシアロシド構造の例(R1=Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4、R2=H、n=4である、式(I))が下端に示されている。
図3】赤血球凝集阻害アッセイ(HI又はHAI)の概略図である。
図4】マイクロ中和アッセイ(MN)の概略図である。
図5】ER15化合物の潜在的治療効果が、D0(感染後1時間目)、D1、及びD2における3回の感染後処置に関して、アッセイされることを示す図である。A/California/7/09 H1N1ウイルスが、細胞上、37℃で1時間、インキュベートされる。ER15は、未処置の条件(NT:処置されない、及びPL:増加性量のポリリジンの送達)に対して、5つの異なる濃度(20μM、10μM、5μM、2.5μM、及び1.25μM)で用いられる。上清試料を、感染後D1、D2、及びD3において収集して、(i)MDCK細胞における1mlあたりの感染性粒子の数の滴定(TCID50/ml)及び(ii)ウイルスゲノムの定量化(RT-qPCR)により、ウイルス産生を定量化する。A及びC:TCID50/mlとして表現される、生じた感染性粒子の時間経過(感染後時間:hpi)にわたる測定;B及びD:RT-qPCRによるウイルスmRNAの時間経過(感染後時間:hpi)にわたる測定;A及びB:感染多重度(MOI)=0.1C及びD:感染多重度(MOI)=0.01
図6】ER15化合物の潜在的治療効果が、D0(感染後1時間目)、D1、及びD2における3回の感染後処置に関して、アッセイされることを示す図である。実験条件は、A/Texas/50/2012 H3N2ウイルスが細胞上、37℃で1時間、インキュベートされることを除いて、図5についてと同じである。A及びC:TCID50/mlとして表現される、生じた感染性粒子の時間経過(感染後時間:hpi)にわたる測定;B及びD:RT-qPCRによるウイルスmRNAの時間経過(感染後時間:hpi)にわたる測定;A及びB:感染多重度(MOI)=0.1C及びD:感染多重度(MOI)=0.01
図7】ER15化合物のA/California/7/09 H1N1株に対する潜在的治療効果が、D0(感染後1時間目)における単回の感染後処置に関してアッセイされることを示す図である。A:感染多重度(MOI)=0.1B:感染多重度(MOI)=0.01
図8】ウイルス感染と同時の単回の投与のみでのER15のA/California/7/09 H1N1株に対する治療特性を示す図である。A:感染多重度(MOI)=0.1B:感染多重度(MOI)=0.01
図9】感染の1日前に行われる単回処置でのER15のA/California/7/09 H1N1株に対する予防特性を示す図である。A:感染多重度(MOI)=0.1B:感染多重度(MOI)=0.01
図10】ER15のA/California/7/09 H1N1株に対する治療特性を示す図である。実験条件は、A/Lyon/969/09 H1N1ウイルスが細胞上、37℃で1時間、インキュベートされることを除いて、図5についてと同じである。A:感染多重度(MOI)=0.1B:感染多重度(MOI)=0.01
図11】感染したインビトロ上皮モデルにおいて試験されたER15効力及び細胞毒性の評価を示す図である。上皮を、150μl中、頂端極において、0.1の感染多重度で、A/California/7/2009 H1N1株に感染させる。凍結乾燥された化合物ER15は0.1mMの濃度で、以下と混合される: - 水 - ホスフェートバッファー(2g/Lグリセリン、9g/L NaCl、10mM pH=7.9)、及び - シトレートバッファー(2g/Lグリセリン、9g/L NaCl、10mM pH=6.0)A - 毎日の経上皮電気抵抗(TEER)の測定陰性対照は「モックNT」細胞:感染せず、処置されていない細胞である。別の陰性対照は「PL」:水中0.1mMで希釈されたポリリジンでの細胞の処置である。B - ER15、ポリリジン(PL)、又は未処置(NT)で処置されたモック(感染していない)細胞の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出の定量化。試料は毎日、基底培地から収集される。C - 1mlあたりの生じた感染性粒子の滴定(TCID50/ml)によるウイルス産生の定量化。試料は、D1、D2、及びD3に頂端極において収集される。D - 同じ試料が、RT-qPCRによるウイルスゲノムの定量化にかけられる。
図12】ER61のH1N1 A/California/7/09株に対する治療特性を示す図である。実験条件は、ER61化合物が用いられることを除いて、図5についてと同じである。TCID50/mlとして表現される、生じた感染性粒子の時間経過(感染後時間:hpi)にわたる測定。A:感染多重度(MOI)=0.1B:感染多重度(MOI)=0.01
図13】ER15及びER61化合物の最近の株に対する治療効果を示す図である。試験されるウイルス株は、MOI 0.1でA549細胞上、37℃で1時間、インキュベートされる。ER15及びER61化合物は、未処置の条件(NT:処置されない)に対して、3つの異なる濃度(20μM、5μM、及び1.25μM)で用いられる。D0(感染後1時間目)、D1、及びD2における3回の感染後処置が実施される。上清試料を、感染後D1、D2、及びD3に収集して、1mlあたりの感染性粒子の数の滴定(TCID50/ml)によりウイルス産生を定量化する。試験されるウイルス株は以下である:A) A/Michigan/45/2015 H1N1B) A/Kansas/14/2017 H3N2C) B/Phuket/3073/2013
図14】抵抗性H1N1ウイルス株に対するER15化合物の治療効果を示す図である。実験条件は、図13のそれらと同じである。3回の感染後処置は、逆遺伝学により得られた以下のウイルス株に感染した細胞において、D0(感染後1時間)、D1、及びD2にER15を用いて、実施される。A) RG H1N1 A/Lyon/969/09 I38TB) RG H1N1 A/Lyon/969/09 H275YC) RG H1N1 A/Lyon/969/09 I38T+H275Y
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、以下の式(I)を示す合成シアロシドに関する。
Neu5Ac-α2-6-R1(R2)[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc 式(I)
(式中、
- GlcNAcは、N-アセチルグルコサミンであり;
- GlcNAcβ1-4は、β1-4結合で連結されたN-アセチルグルコサミン単位であり;
- nは、1以上であり、特に、nは1~4の間に含まれ;
- R1は、少なくとも1つのガラクトース(Gal)を含むグリカン構造であり;及び
- R2は、以下の群の中から選択される:H、α1-3結合(Fucα1-3)又はα1-4結合(Fucα1-4)で連結されたフコース)
【0012】
他に記述がない限り、本明細書で用いられる場合の以下の用語及び句は、以下の意味をもつことを意図される。
本発明の意味において、シアロシドという用語は、O-グリコシド結合によって炭水化物と結合したシアル酸からなるシアル酸コンジュゲートを示す。
シアル酸は、全ての脊椎動物において遍在性に発現している、5-アミノ-3,5-ジデオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-ウロソン酸(ノイラミン酸)(9炭素の骨格で構成された糖)の43個の天然に存在する誘導体を含む単糖のファミリーである。最もよく見られるシアル酸は、N-アセチルノイラミン酸又はシアル酸とも名付けられ、略語Neu5Acで示される、5-アセトアミド-2-ケト-3,5-ジデオキシ-D-グリセロ-D-ガラクトノノン酸である。
シアル酸は、細菌毒素及び様々なウイルスに対する受容体の重要な成分として認識されている。
【0013】
用語「合成の」は、本発明によるシアロシドの人工という特質を強調する。実際、このシアロシドは、天然では見出されず、それの構造は、本発明者らによってデザインされている。有利には、この合成シアロシドは、シアル酸に対する親和性を有するウイルスの表面タンパク質、特に、インフルエンザウイルス株の赤血球凝集素との最良の親和性を示すためにデザインされている。本発明の各シアロシドは、様々な赤血球凝集素に対して異なる親和性を有し得、特に、本発明の各シアロシドは、1つの特定の赤血球凝集素との優先的結合を有し得る。
他の用語及び略語は、当業者によってよく知られており、特に以下である:
- N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)は、グルコースのアミド誘導体である。それは、グルコサミンと酢酸との二級アミドである。この分子は、細胞壁を構成する生体高分子の一部であるので、生きている生物体の間で広く発現している。それのCAS番号は7512-17-6である。
- β1-4結合は、炭水化物群を別の群へ連結するベータ型の共有結合性グリコシド結合を示す。
【0014】
α-及びβ-グリコシド結合は、糖におけるアノマー位及びC1から最も遠い立体中心の相対的な立体化学により区別される。α-グリコシド結合は、両方の炭素が同じ立体化学を有する場合に形成され、一方、β-グリコシド結合は、その2つの炭素が異なる立体化学を有する場合に生じる。
- 「グリカン構造」は、「鎖」を形成する、グリコシド結合した単糖からなる炭水化物構造である。
- ガラクトース(Gal)は、グルコースのエピマーである、アルドヘキソースである。それのCAS番号は59-23-4である。
- Hは水素原子を示す。
- フコース(Fuc)は、六炭糖のデオキシ糖であり、6-デオキシ-L-ガラクトースとも呼ばれる。それのCAS番号は2438-80-4である。それは、α1-3結合(Fucα1-3)又はα1-4結合(Fucα1-4)で結合され得る。
式(I)は、β1-4結合で連結された少なくとも1つのN-アセチルグルコサミン単位を含む(すなわち、nが1以上である)、本発明者らによってデザインされた新規な長鎖シアロシド構造に対応する。いくつかの実施形態において、nは、2、3、4、5、6、7、8、又はそれ以上と等しい。好ましい実施形態において、nは、1~4の間に含まれる。
式(I)において、成分R1は、少なくとも1つのガラクトース(Gal)を含むグリカン構造として定義される。R1は、R1の「主鎖」を規定する、列をなして連結される1つ又は複数の単糖の鎖で構成される。この主鎖において、単糖、又は少なくとも2つの単糖を含む二次的鎖がグラフトされ得る。
【0015】
R1は、化学修飾され得、特に、グリカン構造を構成する1つ又は複数の単糖上、特にその主鎖の単糖上での、1つ若しくは複数のメチル基(「メチル化」)又は1つ若しくは複数の硫酸(SO3)基(硫酸化)の付加により、化学修飾され得る。
本発明の特定の実施形態において、R1は、最大限で5つの単糖を含む主鎖を有するグリカン構造である。この実施形態において、R1は、1つの主要グリカン鎖を形成する、1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つの連結された単糖で構成される。この主要グリカン鎖は、その主鎖の1つ又は複数の単糖上で分岐される、二次的グリカン鎖でさらにグラフトされ得る。
優先的には、R1は、1つの主要グリカン鎖を形成する、1つ、2つ、又は3つの連結された単糖を含む主鎖で構成される。この主要グリカン鎖は、その主鎖の1つ又は複数の単糖上で分岐される、二次的グリカン鎖でさらにグラフトされ得る。
特定の実施形態において、R1は、3つの連結された単糖を含む主鎖で構成される。
【0016】
別の特定の実施形態において、R1は、3つの単糖を含む非グラフト化主鎖である。
別の特定の実施形態において、R1は、3つの単糖を含むグラフト化主鎖である。
別の特定の実施形態において、R1は、ガラクトースである単一の単糖で構成される。
別の特定の実施形態において、R1は、少なくとも1つのガラクトースが主鎖の末端の1つで連結されている、グリカン構造である。
第1の立体配置において、R1は、その主要グリカン鎖の末端の1つに1つのガラクトースを含む。第2の立体配置において、R1は、2つのガラクトースを含み、それぞれが、主要グリカン鎖の末端のそれぞれで連結されている。
本発明の特定の実施形態において、R1は、以下の群:
- Galβ1-4、
- Galβ1-3、
- Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4、及び
- Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3Galβ1-4
の中から選択される。
本発明の別の特定の実施形態において、R2はHである。この実施形態により、下記に提示されているような式(III)を有する構造が、本発明の目的である。
Neu5Ac-α2-6-R1-[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc (式III)
(式中:
- nは1以上であり、特に、nは1~4の間に含まれる;及び
- R1は、少なくとも1つのガラクトース(Gal)を含むグリカン構造である)
【0017】
本発明によるシアロシド構造の包括的でないリストは下記に提示される。
- Neu5Acα2-6Galβ1-4[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc
- Neu5Acα2-6Galβ1-4(Fuca1-3)[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc
- Neu5Acα2-6Galβ1-3[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc
- Neu5Acα2-6Galβ1-3(Fucα1-4)[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc
- Neu5Ac-α2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc
- Neu5Ac-α2-6Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3Galβ1-4[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc
- Neu5Ac-α2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4(Fucα1-3)[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc
- Neu5Ac-α2-6Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3Galβ1-4(Fucα1-3)[GlcNAcβ1-4]n-GlcNAc
【0018】
本発明の特定の実施形態により、R1は、β1-4結合で連結されたガラクトース(Galβ1-4)である。この実施形態において、その合成シアロシドは、以下の式(II)を示す。
Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc
式(II)のこの特定のシアロシドは又、本出願において、特に実施例セクションにおいて、「COV6S」とも呼ばれる。それの開発された構造は、図2の上端に表されている。
【0019】
実施例に示されているように、シアロシドの他の構造が合成及び試験されている。一般式(I)及び(III)に対応するこれらの構造は、以下の表1に提示されている。
【表1】
これらのシアロシドCOIII6S、COIV6S、1-COV6S、及びCOV6Sは、本発明による合成シアロシドを代表し、それらは、キトオリゴ糖末端鎖を含有する。これらの新規なシアロシドは、インフルエンザウイルスと効率的に結合することができる多価シアロシド化合物を構築するために用いることができ、インフルエンザ感染に対抗する薬物として用いることができる。
各シアロシドは、赤血球凝集素に対する別個の特異性を示し得る。実際、それらの構造に従って、シアロシドは、様々なウイルス株の赤血球凝集素との結合の特異性を示し得る。
【0020】
多価シアロシド
本発明は又、複数の合成シアロシドを有する支持体を含む多価シアロシドに関する。
本発明の意味において、「多価シアロシド」は、複数のシアロシドを含む分子構造を表し、前記構造が、単一のシアロシドの結合親和性と比較して、それの受容体(例えば、赤血球凝集素)との増加した結合親和性を示す。
宿主細胞への最初のウイルス付着は、複数のHA三量体が、細胞表面糖タンパク質及び糖脂質上に発現した複数のシアロシドリガンドとの相互作用に関与する、多価(multivalent)相互作用によって制御される。可溶性単量体シアロシドの結合は、これらの強い多価(polyvalent)相互作用を競合的に乱すには弱すぎる。「多価効果」の理論により、ウイルス/宿主細胞の結合の阻害に基づいた合理的薬物デザインは、多価シアロシド化合物の合成を含まなければならない。
【0021】
インフルエンザウイルスの阻害の場合、「多価シアロシド」リガンドが、赤血球凝集素に対するより強い親和性を有し、それゆえに、HA結合部位を遮断し、それに従って、宿主細胞の表面上に存在する糖タンパク質とのそれらの相互作用を阻害することにより、アンタゴニストとして作用するのにより適切であることが示されている。赤血球凝集素結合部位の飽和のこの過程は、安定性を獲得しかつウイルスの解離を防ぎ得る多価結合に基づいている。
様々な種類の多価シアロシド構造を作製するために多くの異なるストラテジーが開発されている。インフルエンザウイルス接着の様々な合成多価シアロシド阻害剤がすでに開発されている。それらは、リポソーム(Kingery-Wood et al 1992)、デンドリマー(Reuter et al 1999)、合成重合体(Gambaryan et al 2005)、キトサン(Umemura et al., 2010)、多糖(Li et al 2011)、及び金ナノ粒子(Papp et al 2010)などの支持体に基づいている。
【0022】
本明細書で用いられる場合、句「複数のシアロシドを有する支持体」、「複数のシアロシドを所有する支持体」、「支持体上にグラフトされた複数のシアロシド」、「シアロシドを保有する支持体」、及び「支持体上に搭載された複数のシアロシド」は、等価であり、差別せず用いられる;それらは全て、当業者によって知られた任意の支持体と、共有結合性又は非共有結合性に結合したシアロシドの複数の鎖を含む、本発明による多価シアロシドを指す。
前記複数のシアロシドは、通常、全て同一である;とは言っても、単一の支持体上に結合した少なくとも2つ、3つ、又は4つの異なるシアロシドを含む多価シアロシドも又、作製され得る。
本発明の特定の実施形態において、支持体は、リポソーム、重合体、デンドリマー、又はナノ粒子からなる。
リポソームは、イメージング及び薬物徐放における適用のために薬物、タンパク質、遺伝子、及び蛍光色素分子を被包するために用いることができる。シアロシドを保有するリポソームは、シアロシドリン脂質及び両親媒性前駆体から調製することができる。異なるサイズのリポソームを作製することができる。
【0023】
シアロシドの重合体ネットワークを作製する、重合体の使用は、多価シアロシドの知られているうちで最古の例の一つである。シアロシド所有重合体を得るために開発された主なアプローチは以下である:
・アクリレートフリーラジカル重合方法を用いることによる単量体シアロシドのアセンブリー;及び
・市販され、十分定義された重合体スキャフォールド上でのシアロシドリガンドのカップリング。
デンドリマーは、対象となるリガンドを明確な均一の対称形に装飾するために用いられる重要な多価スキャフォールドである。重合体と比較して、デンドリマーは、より制御可能な単分散度及び持続的な形を与える。さらに、シアロシド保有デンドリマーの3D幾何学は、細胞表面にわたるシアロシド基の装飾を厳密に模倣する。
ナノ粒子は、大きな表面積を示す、十分組織化された、ロバストなデンドリマーであり、特異的な相互作用のセンシング及びイメージングを促進する固有の光学的、電気化学的、及び磁気的性質を有する。シアロシド所有ナノ粒子のいくつかの型が、文献に報告されており、そのうちで最も普及しているものは、金、銀、シリカ、鉄、カドミウム、セレニウム、及びウイルス様ナノ粒子である。
本発明の特定の実施形態において、支持体は、重合体、優先的には、天然重合体であり、特に、ポリリジン(ε-ポリ-L-リジン)を含む。
【0024】
ε-ポリ-L-リジン(ε-PL)は、隣接するリジン分子のカルボキシル基とイプシロン-アミノ基との間のペプチド結合によって連結されたホモ重合体である。それは、天然に存在し、水溶性で、生分解性で、食用で、かつヒト及び環境に対して無毒である。ε-PLは、25~35個のL-リジン残基からなる。それは、ストレプトマイセス・アルブルス(Streptomyces albulus)を用いる好気性発酵によって工業的に製造される。それは、抗微生物活性を有し、日本及び米国において食品保存剤として認可されている。
多価シアロシドは、それの構成物(支持体及びシアロシド)によって、及び又、それのグラフティング率によって、構造的に特徴づけられる。
カップリング収率とも呼ばれる、グラフティング率は、シアロシドで置換される、支持体の反応基のパーセンテージとして定義される。
当業者は、シアロシドのそれらの支持体上へのグラフティング率を調節する方法を知っている。特に、グラフティング率は、実施例6に示されているように、反応条件により、とりわけ、支持体及びシアロシドの比例量により、制御される。
グラフティング率は、通常、10%から100%まで様々である。
本発明の特定の実施形態において、多価シアロシドは、20%~100%の間に含まれるグラフティング率を示す。
優先的には、グラフティング率は、30%~100%の間、40%~100%の間、50%~100%の間、60%~100%の間、70%~100%の間、80%~100%の間に含まれ、又は90%~100%の間に含まれる。
【0025】
薬学的組成物
本発明は又、薬学的に許容される媒体中に、上記のような少なくとも1つの多価シアロシドを含む、薬学的組成物に関する。
本発明は又、薬学的に許容される媒体中に、上記のような少なくとも1つの多価シアロシドを含む、獣医学的組成物に関する。有利には、前記多価シアロシドは、動物宿主細胞を有するウイルスの阻害のためにデザインされる。
この薬学的又は獣医学的組成物は、本発明による少なくとも1つの多価シアロシドの有効量を含む。
本発明の目的のために、「有効量」は、ウイルスの増殖及び/若しくは複製、並びに/又は感染した生物体内でのウイルス感染症の発生を阻害するのに十分な多価シアロシドの量を意味する。この阻害は、例えばウイルス複製を測定することにより、定量化することができる。
例えば、インビトロで、いわゆる「有効な」量は、実施例9~11に示されているように、1μM~1mMの間に含まれる。
【0026】
本発明による薬学的又は獣医学的組成物は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれ以上の多価シアロシドを含み得る。有利には、組成物中の各多価シアロシドは、特定のウイルス株に対して別々の特異性を示す。
本発明によれば、用語「薬学的に許容される媒体」は、個体又は動物へのそれの投与が、有意な有害効果を伴わず、かつ当業者によく知られている、1つ又は複数の薬学的に許容される媒体又は賦形剤を指す。
本発明による薬学的又は獣医学的組成物は、経口、舌下、吸入、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、眼、又は直腸の投与に適している。
本発明の好ましい態様によれば、薬学的組成物は、吸入による投与に適応したガレヌス形態をとることを特徴とする。
吸入は、呼吸器を通しての吸収を指す。それは、特に、ガス、微小滴、又は懸濁液中の粉末の形をとるある特定の物質の、治療のための化合物の吸収の方法である。
吸入による、すなわち、鼻腔及び/又は口腔を通しての、薬学的組成物の投与は、当業者によく知られている。
【0027】
以下の吸入による投与の2つの型がある:
- 組成物が散在の形をとる場合、ガス注入による投与、及び
- 組成物が、加圧下で、エアゾール剤(懸濁剤)の形又は液剤、例えば水溶液の形をとる場合、噴霧による投与。その時、噴霧器又は散布器の使用が、薬学的又は獣医学的組成物を投与するのに推奨される。
したがって、本明細書で考えられるガレヌス形態は、加圧下での、散剤、液滴の水性懸濁液、又は溶液から選択される。点鼻剤による投与が好ましい。
医療デバイス
本発明は又、上記のような少なくとも1つの多価シアロシドを含む医療デバイスに関する。
ある実施形態において、前記医療デバイスは、本発明の少なくとも1つの多価シアロシドでコーティングされた支持体からなる。
【0028】
特定の実施形態において、支持体は、複数(少なくとも2つ)の多価シアロシドでコーティングされており、各多価シアロシドが、異なるウイルス株の表面に発現した赤血球凝集素に対して特異的な親和性を有する。
例えば、支持体は、3つの多価シアロシドでコーティングされており、1つがH1N1インフルエンザウイルス株に対して特異的であり、第2のものが、H2N2インフルエンザウイルス株に特異的であり、第3のものが、H3N2インフルエンザウイルス株に特異的である。
前記支持体は、例えば、呼吸器保護マスク、又はマスクへ挿入され得るフィルターであり得る。保護マスクは、大パンデミックの出現後、一般大衆によって益々、必要とされている。前記支持体は又、手袋又は任意の他の個人用保護デバイスであり得る。
前記支持体は、例えば、本発明による多価シアロシドでグラフトされた重合体からなる多価シアロシドでコーティングされている。各シアロシドは、異なる赤血球凝集素に対して別個の特異性を示し得る。
有利には、この医療デバイスは、シアル酸に対する親和性を有する少なくとも1つのウイルス、特にヒトインフルエンザウイルス、又はヒトインフルエンザウイルスの複数株を捕捉かつ保持するために用いることができる。
本発明の別の実施形態において、医療デバイスは、注入液剤として、本発明による少なくとも1つの多価シアロシドを含む溶液を含む鼻用スプレー剤である。
【0029】
薬剤及び治療的使用
本発明は又、薬剤としての使用のための、記載されているような多価シアロシド、又は少なくとも1つの多価シアロシドを含有する薬学的組成物に関する。
本発明は又、シアル酸に対する親和性を有するウイルスによる感染の防止及び/又は処置における使用のための、記載されているような多価シアロシド、又は少なくとも1つの多価シアロシドを含有する薬学的組成物に関する。
本発明は又、1つの宿主生物体から別のものへのウイルス伝播の防止における使用のための、記載されているような多価シアロシド、又は少なくとも1つの多価シアロシドを含有する薬学的組成物に関する。
句「シアル酸に対する親和性を有するウイルス」は、病原性作用を有し、すなわち、生きている生物体において疾患の原因であり、シアル酸に対する受容体を発現し、及び、したがって、シアル酸コンジュゲートと結合することができる、任意のウイルスを示す。
【0030】
そのようなウイルスは、Matrosovich M et al., 2015の概説に、包括的でない様式で示されている。特に、シアル酸に対する親和性を有するそのようなウイルスは、オルトミクソウイルス科(インフルエンザウイルスを含む)、コロナウイルス科(Corinaviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、カリシウイルス科(Caliciviridae)、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)、レオウイルス科(Reoviridae)、ポリオーマウイルス科(Polyomaviridae)、アデノウイルス科(Adenoviridae)、及びパルボウイルス科(Parvoviridae)の中から選択される。
本発明の特定の実施形態において、このウイルスは、インフルエンザウイルス、特に、ヒト、ウマ、ブタ、又はトリのインフルエンザウイルスである。
インフルエンザウイルスは、インフルエンザ疾患の原因である。それらは、3つの型:A型、B型、C型へ分類される。
インフルエンザウイルスは又、それらの表面上のタンパク質の型によって定義される。それらの表面上に発現した赤血球凝集素(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)の糖タンパク質の性質に従って、様々なA型インフルエンザウイルス亜型がある;HAの16個の型及びNAの9個の型が、循環A型インフルエンザウイルスにおいて同定されている。
【0031】
ヒトにおいて、最もよく見られるA型インフルエンザウイルスは、亜型H1N1、H2N2、及びH3N2由来であり、トリウイルスH5N1、H7N7、H7N9、H5N2、及びH9N2の偶然の種間伝播、とりわけ、動物からヒトへの種間伝播がある。
特定の実施形態によれば、インフルエンザウイルスは、H1N1、H2N2、H3N2、H5N1、H7N7、H7N9、H5N2、及びH9N2亜型から選択されるA型ヒトウイルスである。
本発明の別の特定の実施形態において、インフルエンザウイルスはヒトインフルエンザウイルスであり、かつ株H1N1、H3N2、及びBの中から選択される。
本発明の意味において、用語「インフルエンザウイルス」は、インフルエンザウイルスの全ての型(A又はB)及び亜型(H1N1、N3N2など)を含む。この用語は、野生型インフルエンザ株、及び変異インフルエンザ株、特に、その株の抗ウイルス化合物に対する抵抗性をもたらす遺伝子変異を有する株を含む。
本発明による組成物は、特に、インフルエンザウイルスの感染の防止に使用することを目的とする。
有利には、これらの組成物は、オセルタミビル抵抗性株及びバロキサビル抵抗性株などの、通常の抗ウイルス化合物に対して抵抗性を示すインフルエンザ変異株の感染の防止に使用することを目的とする。この態様は、実施例13に詳細に示されている。
【0032】
用語「防止」は、少なくとも1つのインフルエンザウイルスによるヒト又は動物生物体における感染の出現の可能性を防止し、又は少なくとも減少させるという事実を指す。その方針は、ウイルスの表面上に存在する赤血球凝集素の抗原部位を、本発明の多価シアロシドで飽和し、それに従って、ウイルスの宿主細胞への付着を防止することである。
本発明による組成物は又、インフルエンザウイルスの感染の処置に使用することを目的とし得る。
用語「処置」は、ヒト又は動物生物体における少なくとも1つのインフルエンザウイルスの感染と闘うという事実を指す。本発明による少なくとも1つの組成物を投与することにより、生物体におけるウイルス感染のレベルが、徐々に減少し、その後、完全に消失するだろう。用語「処置」は又、ウイルス感染に関連した症状(発熱、疲労など)を軽減するという事実を指す。
本発明は又、インフルエンザウイルスによるウイルス感染の防止及び/又は処置における、同時の、別々の、又は逐次的な使用のための、少なくとも1つの多価シアロシド及び少なくとも1つの他の抗ウイルス化合物を含む組合せ製造物に関する。
好ましい態様において、抗ウイルス化合物は、インフルエンザを防止又は処置するための、古典的に用いられた抗ウイルス化合物の中から選択される。そのような抗ウイルス化合物は、市販されており、Vidalなどの参考図書に記載されている。例えば、オセルタミビル及びバロキサビルマルボキシルは、抗ウイルス化合物であり、本発明の多価シアロシドと組み合わせて用いることができる。
本発明は又、本発明による少なくとも1つの多価シアロシドの有効量のヒトへの投与を含む、ヒトにおいて、シアル酸に対する親和性を有するウイルスによる感染を防止又は処置するための方法に関する。
【実施例
【0033】
本明細書における本発明は、特定の実施形態に関して記載されているが、これらの実施形態は、単に、本発明の原理及び適用の例証となるにすぎないことは、理解されるべきである。したがって、例証となる実施形態に多数の改変がなされ得ること、及び添付の特許請求の範囲により定義されているような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、他のアレンジメントが工夫され得ることは理解されるべきである。
【0034】
(実施例1)
COV6Sシアロシドの製造
キトオリゴ糖は、いくつかの理由によって、ポリラクトサミン鎖の興味深い代替物である。第1に、ポリラクトサミンとキトオリゴ糖のどちらも、ベータグリコシド結合により連結されたヘキソースの長鎖である。第2に、どちらの構造も主成分としてN-アセチルグルコサミンを含有する。第3に、キトオリゴ糖は、キトオリゴ糖シンターゼnodCを発現する代謝的に操作された大腸菌によって、高収率で産生され得る(Samain et al 1997)。
さらに、図1に示されているように、キトペンタオース[10]などのキトオリゴ糖を、β1-4ガラクトシルトランスフェラーゼによる受容体として用いて、非還元末端に末端LacNAcモチーフを含有する六糖[11]を形成し得ることは、Bettler et al (1999)により示されている。
その後、シアリル化七糖COV6S[12]を形成するための[11]のシアリル化は、下記のように得られた代謝的に操作された大腸菌株SCH1におけるα2-6シアリルトランスフェラーゼの追加の発現によって可能である。
【0035】
株SCH1は、宿主株ZLKAを4つのプラスミドpBSnodC、pBBR3-SS、pWKS-lgtB、及びpSU6STで形質転換することにより、構築される。
a)宿主株ZLKAの構築は、Fierfort and Samain (2008)により記載された。
株ZLKAは、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen(参照DSM 4235)から入手され、かつlacZ lacA nanA、及びnanK遺伝子における追加の無発現変異を有する大腸菌K12株DH1(endA1 recA1 gyrA96 thi-1 glnV44 relA1 hsdR17)の誘導体である。
b)アゾリゾビウム・カウリノダンス(Azorhizobium caulinaudans)由来のキチンオリゴ糖シンターゼについてのnodC遺伝子を有するpBSnodCプラスミドは、Cottaz and Samain (2005)により記載されているように構築された。
c)pBBR3-SSプラスミドの構築は、Fierfort and Samain (2008)により記載された。それは、N-アセチルグルコサミン-6-Pエピメラーゼ、シアル酸シンターゼ、及びCMP-NeuAシンターゼ、それぞれをコードする、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)株ATCC 4343由来の3つの遺伝子neuC、neuB、及びneuAを有する。
d)ナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidis)由来のガラクトシルトランスフェラーゼlgtBを有するpWKS-lgtBプラスミドの構築。このプラスミドは、Cottaz and Samain (2005)に記載されているように構築された。
e)フォトバクテリウム種(Photobacterium sp.)JT-ISH-224由来のα2-6 NeuAcトランスフェラーゼを有するpSU6STプラスミドの構築。このプラスミドは、Richard et al (2017)により記載された。
【0036】
この株SCH1は、以前に記載されているように(Priem et al. 2002)、高い細胞密度で増殖する;培養を、1.5リットルのミネラル培地を含有する3リットルのリアクターにおいて行い、温度を、34℃に維持し、pHを、14%NH4OHで6.8へ調節する。
高い細胞密度培養は、以下の3つの相からなった:発酵槽の接種から始まって、炭素基質(グリセロール17.5g/L)の消耗まで持続する指数関数的増殖相、5g/L/時間の高いグリセロール供給速度での5時間の流加培養相、及び3g/L/時間のグリセロール供給速度での20時間の流加培養相。
発酵期間の終了時点で、細菌細胞を遠心分離(7000g、30分間)により回収した。細胞ペレットを、蒸留水中に再懸濁し、細胞を、100℃で50分間、オートクレーブすることにより、透過処理した。その混合物を、遠心分離し(7000g、30分間)、オリゴ糖を含有する上清を回収する。
【0037】
細胞外画分のpHを、強い陽イオン交換樹脂(AmberliteIR120 H+型)の添加により3.0へ低下させる。これは、タンパク質の沈澱を生じ、その沈澱を遠心分離によって除去した。その後、透明の上清のpHを、弱い陰イオン交換体(Dowex 66遊離塩基型)の添加により6.0へ調整し、デカントした後、その上清を、Dowex 1(HCO3型)カラム(5×20cm)上に負荷した。蒸留水で洗浄した後、Dowex 1樹脂上に保持された酸性オリゴ糖を、0~500mMの連続(NH42CO3勾配で溶出した。
COV6Sを含有する溶出された画分をプールし、(NH42CO3を凍結乾燥により除去する。
興味深いことに、GlcNAcがα2-6シアリルトランスフェラーゼの基質ではないという事実、それが、副生成物の形成を防ぐ;結果的に、COV6S(図1における産物[12])がほとんど唯一の最終産物である。
COV6Sの構造は、核磁気共鳴(NMR)及び質量分析により確認される。
【0038】
(実施例2)
1型COV6Sシアロシドの製造
1型COV6Sシアロシド(1-COV6S)は、以下の式を示す。
式(IV) Neu5Acα2-6Galβ1-3GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc
この式は、R1=Galβ1-3、R2=H、及びn=4である、一般式(I)に対応する。
それは、株SCH1について実施例1に記載されているように、株SCH11の発酵により製造される。
株SCH11は、SCH1と類似しているが、β1-3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を含有するプラスミドpWKS-lgtBが取り除かれて、pBBR3-SSが、β1-3ガラクトシルトランスフェラーゼについての追加の遺伝子を含有するpBBR3-SS-β-3GalTによって、置き換えられている。
【0039】
プラスミドpBBR3は、以下の通り、構築される:β1-3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子の配列を含有する1.34kb DNAは、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)ATCC43504のゲノムDNAを鋳型として用いるPCRにより増幅される。
以下のように、SalI部位が左のプライマーに付加されており:
5’GGTCGACGGTAAGGAGATATACATATGATTTCTGTTTATATCATTTCTTTAAAAG(配列番号1)
以下のように、PstI部位が右のプライマーに付加されている:
5’CTGCAGTTAAACCTCTTTAGGGGTTTTTAAAGG(配列番号2)
増幅された断片は、まず、pCR4Blunt-TOPOベクターへクローニングされ、その後、pBBR3-SSプラスミドのXhoI及びPstI部位へサブクローニングされて、pBBR3-SS-β-3GalTを形成する。
【0040】
(実施例3)
COIV6Sシアロシドの製造
COIV6Sシアロシドは、以下の式を示す。
式(V) Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc
この式は、R1=Galβ1-4、R2=H、及びn=3である、一般式(I)に対応する。
それは、株SCH1について実施例1に記載されているように、株SCH9の発酵により製造される。
株SCH9は、アゾリゾビウム・カウリノダンス(Azorhizobium caulinaudans)由来のキチンオリゴ糖シンターゼをコードするプラスミドpBS-nodCが、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)由来のキチンオリゴ糖シンターゼをコードし、かつSamain et al. (1997)により記載されたプラスミドpUC-nodCによって置き換えられていることを除いて、SCH1と似ている。
【0041】
(実施例4)
COII6S及びCOIII6Sシアロシドの製造
COII6S及びCOIII6Sシアロシドは以下の式を示す。
式(VI) Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc
式(VII) Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc
COII6S及びCOIII6Sのどちらの式も、R1=Galβ1-4、R2=H、及び、それぞれ、n=1又は2である、一般式(I)に対応する。
COII6S及びCOIII6Sシアロシドは、株SCH1が株SCH10によって置き換えられていることを除いて、実施例1に記載されているように、発酵によって同時に製造される。Dowex1における精製ステップ後、その2つのシアロシドは、HW40カラムにおけるサイズ排除クロマトグラフィーにより分離される。
株SCH10は、プラスミドpWKS-lgtBが、プラスミドpWKS-lgtB-ChiAによって置き換えられていることを除いて、株SCH1と似ており、プラスミドpWKS-lgtB-ChiAは、バチルス・サークランス(Bacillus circulans)WL12由来の追加のchiA遺伝子を含有した。chiA遺伝子は、キチンペンタオースを、キチントリオースの一過性蓄積と共に、キチンビオースへ切断するキチナーゼをコードすることが以前、示されている(Cottaz and Samain, 2005)。
プラスミドpWKS-lgtB-ChiAは、以下の通り、構築される:chiA遺伝子を含有する1.3kb DNAセグメントは、pBBR1-ChiAからKpnI NotI消化により切除され(Cottaz and Samain 2007)、XbaI/KpnIリンカーの存在下でpWKS-lgtBのXbaI NotI部位へクローニングされる。
【0042】
(実施例5)
LSTcシアロシド(シアロシドは本発明に含まれない)の製造
LSTcは、ヒト乳に見出される天然シアロシドであり、それは、参照化合物として用いられる。それの構造は以下である:
Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc
それは、株SCH1が株LST1によって置き換えられていること、及びラクトース(5g/l)が指数関数的増殖相の終了時点に加えられることを除いて、実施例1に記載されているように発酵により製造され得る。株LST1は、pBS-nodCプラスミドを含有しないことを除いて、株SCH14と似ている。
【0043】
(実施例6)
多価シアロシドの合成
天然重合体(ε-ポリ-L-リジン)のアミン基の還元的アミノ化に基づいた単純なアプローチを用いて、実施例1~5において得られた異なるシアロシドの還元末端を連結した。
シアロシドで置換されるε-ポリ-L-リジンのアミン基のパーセンテージとして定義されるグラフティング率は、反応条件により制御することができる。下記の表2に示されているように、それは、20%から100%まで様々である。
【0044】
ER15を得るための簡潔な実験プロトコールは下記に示されている:
1.5mlマイクロチューブにおいて、0.4mmolのシアロシド(1アミンあたり1当量)を、500μlの脱イオン水中に可溶化する。超音波処理は、完全な可溶化を達成するために必要である(溶液1)。別のマイクロチューブ1.5mlにおいて、50mgのポリリジンを、100μlの脱イオン水中に可溶化する(溶液2)。2つの溶液1及び2を混合し、100μlのホウ酸バッファー(500mM、pH8.5)を加える。
1.5mlマイクロチューブにおいて、ドラフト下で、123.6mg NaBH3CN(2mmol、1オリゴ糖あたり5当量)を、50μl脱イオン水中に可溶化し、生じた溶液3を、前の混合物へ液滴で加える。その反応混合物をボルテックスし、ドラフト下、ドライバス中、40℃で72時間、インキュベートする。
その反応混合物(1ml)を、15ml遠心チューブへ移す。前記マイクロチューブを、1ml脱イオン水で洗浄し、その洗浄液を15mlチューブに移す(総体積2ml)。4mlの96%エタノール(2体積)の添加後、そのチューブを、9000rpmで15分間、遠心分離する。上清(およそ6ml)を除去し、沈殿物を、2mlの1%NaCl溶液によって取り出す。4mlの96%エタノールの添加及び2回目の遠心分離(15分間、9000rpm、4℃)後、その沈殿物を、5ml脱イオン水中に収集し、調製用HW40立体クロマトグラフィーカラム(5×90cm)において精製する。溶出を、2ml/分の流速での100mM炭酸アンモニウムで、実施する。
精製後、生成物を含有するチューブを、プールする。その生成物を、蒸発乾固させて、炭酸アンモニウムを除去し、3mlの脱イオン水を加え、凍結乾燥する。
化合物ER59、60、及び61を得るために、以下の数のオリゴ糖当量が修飾された:それぞれ、1アミンあたり0.75当量、1アミンあたり0.5当量、及び1アミンあたり0.25当量。
そのカップリング率を、核磁気共鳴(NMR)1H、及び多角度光散乱法(MALS)と共のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定する。
【0045】
【表2】
【0046】
(実施例7)
赤血球凝集阻害アッセイ(HI又はHAI)
HI技術は、減少性用量の多価シアロシド(ウイルスの、可能性のある阻害剤)を一定量のウイルスとインキュベートすることを含む。認識及び結合がある場合には、ウイルスは、自分自身をその阻害剤に付着させるだろう。
その後、赤血球を加え、その混合物をインキュベートする。遊離ウイルスは、赤血球の表面上に存在するシアル酸を認識することができ、したがって、ネットワーク(赤血球凝集過程を表す赤色のベール)を生じ、一方、多価シアロシドに付着したウイルスは、赤血球と結合することができず、ウェルの底に沈降し、ペレット(赤血球凝集阻害を表す)を生じるだろう。
赤血球凝集力価は、赤血球凝集阻害が観察される最も高い希釈率の逆数に対応する。希釈を2の比率で行うと、<2の力価は、1/2における最初の希釈から、観察される赤血球凝集阻害がないことを意味し、一方、例えば、4096の力価は、1/4096の希釈率まで、赤血球凝集阻害があることを意味する。
図3は、HI技術の要約的スキームを示す。
【0047】
このHIアッセイについて、用いられたウイルス株は以下である:ウェルあたり4HAUの用量における、A/California/7/2009 H1N1、A/PortoRico/8/34 H1N1、A/Texas/50/12 H3N2、A/Moscow/10/99 H3N2、B/Massachusetts/2/2012、及びB/Brisbane/60/08。用いられた赤血球は、0.5%雌鳥の赤血球及び0.8%モルモット赤血球である。
【0048】
下記の表3は、表2に列挙された多価シアロシドを用いて得られた結果を示す。ER10及びER13は、式(I)に含まれない多価シアロシドであり、したがって、本発明に属さない。
【表3】
有意な結果は、太字になっている。
【0049】
表3に示された結果は、ER15が、H1N1ウイルス A/California/7/09及びA/PR/8/34に関して最も優れたパフォーマンスを示す化合物であり、それぞれ、128及び4096の力価を有し、一方、ER10又はER13化合物は、2及び16(ER10)並びに<2及び2(ER13)の力価を呈することを示す。
これらの実験は、それら、特にER15化合物のHI性質にとってのGlcNAcモチーフの存在の重要性を浮き彫りにしている。全ての化合物が同じ赤血球凝集阻害活性を有するわけではなく、又はさらに、ウイルスの型(A又はB)及び/若しくはA型ウイルス亜型によっては活性をもたない。
【0050】
(実施例8)
マイクロ中和アッセイ
マイクロ中和アッセイは、抗ウイルス化合物の感染性ウイルスへの阻害潜在能力を定量化することを可能にする。その技術の概略は図4に示されている。
このアッセイは、インフルエンザウイルスについての参照細胞システム:アルファ2.3結合か又はアルファ2.6結合のいずれかによってガラクトースと結合したシアル酸を表面上に提示するメイディン・ダービー・イヌ腎臓細胞(MDCK)において行われる。この試験に用いられたウイルス株は、50μL中100 TCID50の較正された用量におけるA/California/7/2009 H1N1であった。
その技術は、減少性用量の試験化合物を一定量のウイルスと1時間、インキュベートすることからなる。認識された場合には、ウイルスは、その化合物と結合するだろう。その後、このウイルス/化合物の混合物をMDCK細胞へ加え、72時間、インキュベートする。結合していないウイルスは、細胞表面上に存在するシアル酸を認識し、したがって、その細胞に感染することができるだろうし(細胞変性効果の可視化)、一方、前記シアリル化化合物と結合したウイルスは、自分自身を細胞に付着させることができず、したがって、それらに感染しないだろう(感染の「中和」)。
【0051】
マイクロ中和力価は、細胞変性効果の非存在の総数が、4ウェルのうちの少なくとも2ウェルに観察される、最も高い希釈率の逆数である。希釈を、1:5から開始して2の比率で行い、したがって、<5の力価は、最初の1:5の希釈率から感染の中和がないことを意味し、一方、例えば、160の力価は、最高1:160の希釈率まで、感染の中和があることを意味する。
【表4】
ER15多価シアロシドは、ウイルス株A/California/7/2009 H1N1への最も高い中和活性を示す。
【0052】
(実施例9)
ヒト細胞株A549における本発明の多価シアロシドのアッセイ
このアッセイの目的は、異なる処置条件(治療的/感染後処置、予防的/感染前処置)下で、異なる濃度で及び複数のウイルス用量を用いて(用量効果)の、ヒト呼吸細胞株A549(ヒト肺癌腫由来)におけるER15の抗ウイルス剤としてのパフォーマンスの評価である。
A549細胞を、37℃及び5%CO2でのインキュベーターにおいて、DMEM+SVF10%+L-グルタミン2mM+ペニシリン(100U/ml)+ストレプトマイシン(100μg/ml)中で培養する。感染及び化合物の評価について、細胞を、12ウェルプレートのDMEM+L-グルタミン2mM+ペニシリン(100U/ml)+ストレプトマイシン(100μg/ml)+ウシトリプシン(T6763 Sigma)0.5μg/ml中に接種する。
【0053】
A/California/7/2009 H1N1ウイルス株は、2つの異なる感染多重度(MOI):0.1及び0.01で用いられる。この株は、それに細胞受容体に対するより高い親和性を与える、D225G変異型赤血球凝集素を有する。
別のウイルス株A/Lyon/969/09 H1N1は、3つの異なるMOI:1、0.1、及び0.01で用いられる。この株はD225G変異を示さず、細胞受容体のアルファ2-6シアル酸に対するより低い親和性を有する。
凍結乾燥された化合物を、0.1mMの水と混合し、0.22μmで濾過し、-20℃で保存する。陰性対照として用いられる化合物はポリリジン単独(PL)である。
A549細胞の処置及び感染後、上清試料を、感染後D1、D2、及びD3において採取して、(i)MDCK細胞における1mlあたりの感染性粒子の数の滴定(TCID50/ml)及び(ii)ウイルスゲノムの定量化(RT-qPCR)により、ウイルス産生を定量化する。
【0054】
A - H1N1株に対するER15対ポリリジン単独(PL)の治療特性
ER15化合物の潜在的治療効果を、3回の感染後処置(D0(感染後1時間目)、D1、及びD2において)に関して、アッセイする。A/California/7/09 H1N1ウイルスを、細胞上、37℃で1時間、インキュベートし、その後、除去する。
ER15を含む培地を加える - ER15は、未処置の条件(NT:処置されない、及びPL:増加性量のポリリジンの送達)に対して、5つの異なる濃度(20μM、10μM、5μM、2.5μM、及び1.25μM)で存在する。ウイルス定量化のために、細胞上清のいくつかの試料を、3つの異なる時点で採取する。
図5に示された、得られた結果は、感染後1時間目、24時間目、及び48時間目に投与されたER15処置が、A/California/7/09 H1N1力価の5log~6logの低下を与えることを示している。ウイルス接種が0.1のMOIである場合、処置濃度に依存する用量依存的効果が観察される。0.01のMOIにおいて、試験された全てのER15濃度(20μM、10μM、5μM、2.5μM、及び1.25μM)が、早くも感染後24hpiに最大のウイルス負荷低下を可能にする。
RT-qPCRにおいて得られた結果は、一致しており、感染の有意な阻害を示している。
【0055】
B - H3N2株に対するER15対ポリリジン単独(PL)の治療特性
実験条件は、A/Texas/50/2012 H3N2ウイルスが細胞上、37℃で1時間、インキュベートされ、その後、除去されることを除いて、(A)についてと同じである。
図6に示された、得られた結果は以下を示している:
・感染後1時間目、24時間目、及び48時間目に20μMの用量で投与されたER15処置に関して、並びに試験された2つのMOI、すなわち、0.1及び0.01について、感染力価の有意な低下(およそ3log)が観察される。
・1.25~10μM用量の濃度におけるER15処置は、このH3N2株について、感染性ウイルス負荷を有意には低下させない。
これらの結果は、力価が<2であったHIAにおいて得られた結果と一致している。
したがって、H3N2株に対する有意な効果は、用量依存的様式で観察される。
RT-qPCRにおいて得られた結果は、一致しており、また、20μMでの処置に関してのみ、有意なウイルス負荷の低下を示している。
全体としては、A549細胞におけるHIA及び効力の結果は、A/California/7/09 H1N1と比較して、A/Texas/50/2012 H3N2株に対するER15のより低い親和性/パフォーマンスを示している。
【0056】
C - 感染後1回の投与のみでの、A/California/7/09 H1N1株に対するER15対ポリリジン単独(PL)の治療特性
実験条件は、ER15が、感染後1時間目である、D0における1回のみの培地への添加によって、感染細胞へ投与されることを除いて、(A)についてと同じである。3つの異なる濃度:20μM、5μM、及び1.25μMが試験される。
図7に示された、得られた結果は、感染後1時間目に投与されたER15処置が、開始のMOI(0.1又は0.01)が何であろうと、感染性ウイルス負荷を大幅に低下させるのに十分であることを示している。少なくとも2logの低下が24hpiに観察され、最大で5logより大きい低下が72hpiに観察される。したがって、その効果は、単回投与(1hpi)で持続的であり、用量効果は、MOI 0.1に関して観察される。
D - ウイルス感染と同時の1回の投与のみでの、A/California/7/09 H1N1株に対するER15対ポリリジン単独(PL)の治療特性
実験条件は、ER15が、D0における1回のみの培地への添加によって、細胞へ投与されることを除いて、(A)についてと同じである。3つの異なる濃度:20μM、5μM、及び1.25μMが試験される。
図8に示された、得られた結果は、ウイルスと同じ時点(感染段階中)に投与されたER15処置が、特に初期において(24hpi及び48hpi)、感染性ウイルス負荷の有意な減少(最大で3log)を可能にすることを示している。MOI 0.01の条件において、その効果は、時間経過にわたって、維持される(4log~5logの間)。MOIの用量依存的効果に加えて、ER15濃度の用量依存的効果が観察される。
【0057】
E - A/California/7/09 H1N1株に対するER15対ポリリジン単独(PL)の予防特性
ここにおける目的は、感染の1日前に、3つの異なる濃度(20μM、5μM、及び1.25μM)で行われた単回処置でのER15化合物の予防的効果を評価することである。
感染の時点において、A/California/7/09 H1N1ウイルスを、その化合物をすでに含有する培地へ直接、加える。5時間のインキュベーション後、ウイルスと化合物を含有する培地を除去し、新鮮な培地に置き換える。
感染性ウイルス定量化のために、試料をD1、D2、及びD3に採取する。
図9に示された、得られた結果は、感染の24時間前に行われたER15での単回の予防的処置が、MOIに依存して、時間と共に感染性ウイルス負荷を有意に低下させる(24hpiの2log~3logから最大で5logまでの低下)ことを示している。その効果は、時間経過にわたって、維持される(4log~5logの間)。ER15濃度及びMOIの用量依存的効果は、明らかに観察されている。
F - H1N1 A/Lyon/969/09株に対するER15対ポリリジン単独(PL)の治療特性
実験条件は、H1N1 A/Lyon/969/09株ウイルスが細胞上、37℃で1時間、インキュベートされ、その後、除去されることを除いて、(A)についてと同じである。
図10に示された、得られた結果は、ER15が、A/Lyon/969/09 H1N1株の感染性ウイルス負荷を有意に低下させることを示している。予想通り、Lyon株に関する結果は、D225G変異を示すCalifornia株での結果よりあまり良くない。
【0058】
(実施例10)
鼻起源の再構築されたヒト呼吸性上皮に基づいたインビトロ生理学的モデルにおけるER15化合物の評価
上皮を、24ウェルプレート中、空気/液体の界面に置かれたインサート上で増殖させる。このようにして、基底極を構成する細胞は培地と接触し、頂端極を構成する細胞は空気と接触している。培地はMucilair(Epithelix)であり、上皮は、ドナープール(Epithelix)からの鼻スワブに由来する。それらは、インキュベーター内、37℃、5%CO2での培養下で維持される。
A/California/7/2009 H1N1株による感染は、37℃及び5%CO2で1時間、0.1の感染多重度で、150μlのOptiMEM培地中、頂端極で起こる。その後、ウイルス懸濁液を除去し、洗浄を実施する。頂端極における全培地を慎重に除去した後、処置を、3つの異なる濃度(50μM、20μM、及び5μM)における10μl中、1hpiに実施する。
【0059】
凍結乾燥された化合物ER15を0.1mMの濃度で、以下と混合する:
- 水
- ホスフェートバッファー(2g/Lグリセリン、9g/L NaCl、10mM pH=7.9)、及び
- シトレートバッファー(2g/Lグリセリン、9g/L NaCl、10mM pH=6.0)
陰性対照は、0.1mMで水中に希釈されたポリリジン(PL)である。
一部の細胞は、処置されず(NT)及び/又はモックである(感染していない)。
経上皮電気抵抗(TEER)測定を、上皮の完全性をモニターするために毎日、実施する。D1、D2、及びD3において頂端極で試料を収集して、1mlあたりの感染性粒子の数の滴定(TCID50/ml - 図11C)及びRT-qPCRによるウイルスゲノムの定量化(図11D)により、ウイルス産生を定量化する。
【0060】
並行して、ER15の細胞毒性を、同じ処置条件でのモック感染した条件下で、評価する。ウイルス接種体積は、ここでは、OptiMEM培地に置き換えられた。乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH、細胞毒性の場合、放出される)の放出を定量化するために、試料を基底培地において毎日、採取する。図11Bに示された、得られた結果は、ER15化合物が、少なくとも50μMまで上皮において細胞毒性ではないことを示している。
さらに、50μMにおけるER15は、上皮において感染性ウイルス負荷を有意に低下させる(図11C及び11D)。ホスフェートバッファー及びシトレートバッファーは、溶媒の水と比較して、20μMにおけるER15のより優れた効力を可能にするように思われる。
これらの結果は、図11Dに示されているように、RT-qPCRにおいて確認されている。TEER測定も又、全体的な結果と一致している。
【0061】
(実施例11)
A/California/7/09 H1N1株に対するER61対ポリリジン単独(PL)の治療特性
ER61化合物の潜在的治療効果を、3回の感染後処置(D0(感染後1時間目)、D1、及びD2において)に関して、アッセイする。A/California/7/09 H1N1ウイルスを、0.1又は0.01の感染多重度で、A549細胞上、37℃で1時間、インキュベートし、その後、除去する。
実験条件は、ER61化合物が用いられることを除いて、実施例9(A)についてと同じである。
ER61を、未処置の条件(NT:処置されない、及びPL:増加性量のポリリジンの送達)に対して、5つの異なる濃度(20μM、10μM、5μM、2.5μM、及び1.25μM)において試験する。ウイルス定量化のために、細胞上清のいくつかの試料を、3つの異なる時点で採取する。
図12に示された、得られた結果は、感染後1時間目、24時間目、及び48時間目に投与されたER61処置が、A/California/7/09 H1N1力価の最大で5logの低下を与えることを示している。ウイルス接種が0.1のMOIである場合、処置濃度に依存する用量依存的効果が観察される。0.01のMOIにおいて、試験された全てのER61濃度(20μM、10μM、5μM、2.5μM、及び1.25μM)が、早くも24hpiに最大のウイルス負荷低下を可能にする。
【0062】
(実施例12)
最近の株に対するER15及びER61化合物の治療特性
ワクチン組成物中に入れられている、試験される「最近の」株は以下である:A/Michigan/45/2015 H1N1;A/Kansas/14/2017 H3N2;及びB/Phuket/3073/2013。
ER15及びER61化合物の潜在的治療効果を、(D0(感染後1時間目)、D1、及びD2における)3回の感染後処置に関して、アッセイする。ウイルスを、0.1の感染多重度で、A549細胞上、37℃で1時間、インキュベートし、その後、除去する。
【0063】
多価シアロシドER15及びER61を、未処置の条件(NT:処置されない)に対して、3つの異なる濃度(20μM、5μM、及び1.25μM)において試験する。ウイルス定量化のために、細胞上清のいくつかの試料を、3つの異なる時点(感染後24時間目、48時間目、及び72時間目)で採取する。
図13A、13B、及び13Cに示された、得られた結果は、感染後1時間目、24時間目、及び48時間目に投与されたER15及びER61処置が等価であることを示している。処置濃度に依存する用量依存的効果が観察される。20μMの濃度において、化合物ER15とER61のどちらも、3つのウイルス株に対して有意な抗ウイルス効果を示す。
【0064】
(実施例13)
組換えオセルタミビル抵抗性及びバロキサビル抵抗性H1N1ウイルスに対するER15化合物の治療効果
3つの組換えH1N1ウイルスを、ノイラミニダーゼにおけるH275Y変異(オセルタミビルに対する抵抗性を与える)か、又はポリメラーゼPAサブユニットにおけるI38T変異(バロキサビルに対する抵抗性を与える)か、又は両方(H275Y+I38T)のいずれかを有するA/Lyon/969/09 H1N1遺伝的バックボーンを用いて、逆遺伝学により作製した。ER15化合物の潜在的治療効果を、(D0(感染後1時間目)、D1、及びD2における)3回の感染後処置に関して、アッセイする。組換え抵抗性H1N1ウイルスを、0.1の感染多重度で、A549細胞上、37℃で1時間、インキュベートし、その後、洗浄により除去する。実験条件は、そのウイルスが用いられることを除いて、実施例9(A)についてと同じである。ER15を、未処置の条件(NT:処置されない、及びPL:増加性量のポリリジンの送達)に対して、5つの異なる濃度(20μM、10μM、5μM、2.5μM、及び1.25μM)において試験する。ウイルス定量化のために、細胞上清のいくつかの試料を、3つの異なる時点で採取する。
【0065】
図14Aに示された、得られた結果は、感染後1時間目、24時間目、及び48時間目に投与されたER15処置が、H1N1 I38T力価の最大で2log低下を与えることを示している。処置濃度に依存する用量依存的効果が観察される。同様の結果は、図14B及び図14C、それぞれに示されているように、H1N1 H275Y及び二重抵抗性H1N1(I28T+H275Y)ウイルスに関して得られている。
参考文献

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C
【配列表】
2024508368000001.app
【国際調査報告】