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特表2024-508374リポソームおよび酵素送達のためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】リポソームおよび酵素送達のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20240219BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20240219BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20240219BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240219BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240219BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20240219BHJP
【FI】
A61K9/127 ZNA
A61K47/60
A61K47/24
A61K38/06
A61K38/47
A61P3/00
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61K47/18
A61K47/28
A61K47/26
C12N15/56
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546036
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(85)【翻訳文提出日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 EP2022051727
(87)【国際公開番号】W WO2022161990
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】21382062.4
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】511000083
【氏名又は名称】コンセホ スペリオール デ インベスティガシオネス シエンティフィカス(セエセイセ)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
【住所又は居所原語表記】C/Serrano,117,E-28006 Madrid,Spain
(71)【出願人】
【識別番号】523285731
【氏名又は名称】ナノモル テクノロジーズ,エセ.エレ.
(71)【出願人】
【識別番号】523285742
【氏名又は名称】リーンバイオ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ヴェントサ ラル,レオノール
(72)【発明者】
【氏名】ヴェシアナ ミロ,ジャウメ
(72)【発明者】
【氏名】ロヨ エスポシト,ミリアム
(72)【発明者】
【氏名】トムセン メレロ,ジュディット
(72)【発明者】
【氏名】アバソロ オラオルチュア,イバネ
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ ナヴァッロ,シモン
(72)【発明者】
【氏名】コルケロ ニエト,ホセ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】プリド マルティネス,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】クリストバル レシナ,エドガー
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ミラ,エリザベット
(72)【発明者】
【氏名】サラ ヴェルゲス,サンティアゴ
(72)【発明者】
【氏名】コルドバ インセンス,アルバ
(72)【発明者】
【氏名】メルロ マス,ジョゼップ
(72)【発明者】
【氏名】スルダヴィラ ファブラガ,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】フォント イングレス,アルベルト
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC21
4C076CC41
4C076DD19
4C076DD63H
4C076DD67
4C076DD70H
4C076EE59
4C076FF63
4C076FF70
4C076GG31
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA15
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA36
4C084BA37
4C084BA44
4C084CA56
4C084CA62
4C084DC22
4C084MA02
4C084MA05
4C084MA24
4C084MA66
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZC191
4C084ZC192
4C084ZC541
4C084ZC542
4C084ZC751
4C084ZC752
(57)【要約】
本発明は、a) リン脂質と;b) コレステロール(chol)と;c) コレステロール部分、ポリエチレングリコール(PEG)部分、およびRGD配列を含むペプチド部分を含むコンジュゲートであって、PEG部分が、一端がアルキルエーテルタイプの結合を介してコレステロール部分に共有結合され、他端がRGD配列を含むペプチド部分に共有結合されているコンジュゲートと;d) 非脂質カチオン性界面活性剤であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総モルに対して30モル%未満の割合で存在する非脂質カチオン性界面活性剤と;e) α-ガラクトシダーゼ酵素であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総量(mg)に対するGLAの量(μg)の比率が2~35となるように存在するα-ガラクトシダーゼ(GLA)酵素と、を含むリポソームに関する。それはまた、それを含む医薬組成物、および特にファブリー病の治療に使用するための医薬として使用するためのリポソームまたは医薬組成物に関する。それはまた、リポソームの製造方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームであって、
a) ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)であるリン脂質と、
b) コレステロール(chol)と、
c) コレステロール部分、ポリエチレングリコール(PEG)部分、およびRGD配列を含むペプチド部分を含むコンジュゲートであって、前記PEG部分が、一端がアルキルエーテルタイプの結合を介して前記コレステロール部分に共有結合され、他端が前記RGD配列を含む前記ペプチド部分に共有結合されている、コンジュゲートと、
d) 非脂質カチオン性界面活性剤であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総モルに対して30モル%未満の割合で存在する非脂質カチオン性界面活性剤と、
e) α-ガラクトシダーゼ酵素であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総量(mg)に対するGLAの量(μg)の比率が2~35となるように存在するα-ガラクトシダーゼ酵素と、
を含むことを特徴とする、リポソーム。
【請求項2】
前記α-ガラクトシダーゼ酵素において、その単量体の各々が、配列番号1の配列であるか、または配列番号1と少なくとも85%の配列同一性を有する配列であることを特徴とする、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
前記α-ガラクトシダーゼ酵素が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養物から得られることを特徴とする、請求項1または2に記載のリポソーム。
【請求項4】
前記非脂質カチオン性界面活性剤が、第四級アンモニウム型であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項5】
非脂質カチオン性第四級アンモニウム界面活性剤が、塩化ミリスタルコニウム(MKC)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化ベンザルコニウム(BAC)、塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)、塩化メネゼトニウム(BZT)、塩化ステアラルコニウム、セトリミド、塩化ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、およびそれらの任意の組み合わせからなるリストから選択されることを特徴とする、請求項4に記載のリポソーム。
【請求項6】
前記非脂質カチオン性第四級アンモニウム界面活性剤がMKCであり、リポソームa)、b)、c)およびd)の成分の総モルに対して5モル%以下の割合で存在することを特徴とする、請求項5に記載のリポソーム。
【請求項7】
前記PEGが、PEG50~PEG600、好ましくはPEG200~PEG400の分子量を有するPEGであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項8】
前記PEGがPEG400であり、前記RGD配列が配列番号2であり、前記非脂質性カチオン性第四級アンモニウム界面活性剤がリポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総モルに対して5モル%以下の割合で存在するMKCであり、請求項1に記載されるGLAの比率が20~30であり、前記GLAにおいて、その単量体の各々が、配列番号1の配列であるか、または配列番号1と少なくとも85%の配列同一性を有する配列であり、モル比率DPPC:chol:chol-PEG-RGDが10:6.5:0.5であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項9】
薬学的に許容される賦形剤またはビヒクルと共に、請求項1~8のいずれか一項に記載されるリポソームの治療有効量を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項10】
薬学的に許容される賦形剤またはビヒクルと共に、組成物の総体積に対して2~10重量%の量の、グルコース、スクロースまたはトレアロースを含むことを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物1mL当たり少なくとも0.2mgの量の前記α-ガラクトシダーゼ酵素を含むことを特徴とする、請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
医薬として使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載のリポソームまたは請求項9~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ファブリー病の治療に使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載のリポソームまたは請求項9~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載のリポソームまたは請求項9~11のいずれか一項に記載の医薬組成物が、ファブリー病に罹患している対象に、単回投与として、または、少なくとも2週間に1回反復して、投与される、請求項13に記載の使用のためのリポソーム。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載のリポソームを製造する方法であって、
工程a) 請求項1~8のいずれか一項に記載のGLA酵素を含む水溶液を調製する工程と、
工程b) 有機溶媒に溶解した、請求項1~8のいずれか一項に記載のコンジュゲートと、コレステロールと、リン脂質とを含む溶液を調製し、前記有機溶液を圧縮流体で膨張させる工程と、
工程c) 非脂質カチオン性界面活性剤を、工程a)の溶液または膨張させる前の工程b)の溶液のいずれかに添加する工程と、
工程d) 工程b)から得られた溶液を工程a)の得られた溶液上にて減圧する工程と、
工程e) 任意の順序で、工程d)で得られた溶液の透析濾過および濃縮を行う工程と、
を含むことを特徴とする、リポソームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年1月27日に出願された欧州特許出願EP21382062の利益を主張する。
【0002】
本発明は一般に、酵素、特にα-ガラクトシダーゼ酵素の送達に有用なリポソームの分野に関する。本発明は、とりわけ、リポソーム、ならびにこれらのリポソームの調製方法、およびファブリー病などの疾患の治療におけるその使用を提供する。
【背景技術】
【0003】
特定の疾患はファブリー病などのリソソーム疾患の場合のように、特定のタンパク質の活性の欠如または特定の酵素の活性の欠如によって、不完全または欠損によって、引き起こされ得る。
【0004】
ファブリー病(FD)は、リソソーム加水分解酵素であるα-ガラクトシダーゼA(GLA)の欠乏または欠損を特徴とする稀なリソソーム蓄積症である。GLA活性の欠損は、血管内皮細胞、有足細胞、心筋細胞、および神経細胞を含む多種多様な細胞型のリソソーム内で、その中性スフィンゴ糖脂質基板、主にグロボトリアオシルセラミド(Gb3)の蓄積をもたらす。ファブリー患者では、腎臓におけるGb3蓄積が妊娠17週という早い時期に始まり、徐々に増加し、初期の腎臓損傷およびアルブミン尿と直接相関する(Najafian、B.ら、2011)。腎細胞におけるGb3の蓄積、したがって有足細胞の尿中の喪失は臨床症状(例えば、タンパク尿)の前に起こり、これは、組織損傷が臨床的に明らかになる前に細胞損傷が起こることを意味する(Schiffmannら、2017年)。他の器官におけるGb3の蓄積および臨床症状の後の開発は、心臓を含む他の器官においても同じ傾向に従うようである(Hsu M.Jら、2019)。前臨床および臨床試料において、Gb3蓄積は、免疫組織化学、薄層クロマトグラフィー、電子顕微鏡および質量分析(MS)を用いて可視化または定量化することができる。
【0005】
ファブリー患者の主要な治療は酵素補充療法(ERT)であり、これは、1週間おきに外因性の組換えGLAの静脈内注入に依存する。現在、1kgあたり1mgおよび1kgあたり0.2mgをそれぞれ投与されるアガルシダーゼベータ(Fabrazyme(登録商標)、Sanofi-Genzyme)およびアガルシダーゼアルファ(リプレガル(登録商標)、Shire-Takeda)の2つのGLA酵素がFDにおいてERTのために承認されている。Fabrazyme(登録商標)(遺伝子操作されたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において産生される)およびリプレガル(登録商標)(ヒト細胞株において産生される)は同等の生化学的特性を示し、比活性に有意差はない(Leeら、2003)。両方の化合物は組織におけるGb3蓄積を減少させるが、いずれの処置も、特に進行期において、疾患を完全には逆転させないようである(Fervenza、FC.ら、2008)。
【0006】
裸のGLAを投与する酵素補充療法は、不十分な生体内分布、短い血漿半減期、限られた有効性、およびファブリー患者における比較的高い免疫原性を含むいくつかの欠点を示す。これらの問題を克服するための魅力的な戦略は、酵素をカプセル化するためのナノ担体の使用である。ガイドリガンドで官能化されたナノリポソームはGLAを保護し、内皮細胞に送達するためにすでに出現しているが(例えば、Cabrera、I.ら、2016)、低いコロイド安定性および制限された酵素捕捉効率は、これらのナノ製剤の医薬開発および臨床変換のための問題を提示する。
【0007】
当該分野で知られていることから、酵素を効率的に捕捉し、酵素活性を改善する、ファブリー病などの治療薬として酵素を使用する疾患のための特定の酵素送達方法を見出す必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らはα-ガラクトシダーゼA(GLA)酵素送達のための強固なツールを開発し、輸送された酵素がその活性をin vivoで高い有効性で実施することを可能にし、これはファブリー病の治療に有用である。このツールは、各リポソーム(本明細書では「ハイブリッドリポソーム」(HLP)または「ナノ-GLA」または「ナノGLA」とも呼ばれる)が:
a) リン脂質(例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC))と、
b) コレステロール(chol)と、
c) コレステロール部分、ポリエチレングリコール(PEG)部分、およびRGD配列を含むペプチド部分を含むコンジュゲートであって、PEG部分が、一端がアルキルエーテルタイプの結合を介してコレステロール部分に共有結合され、他端がRGD配列を含むペプチド部分に共有結合されている、コンジュゲートと、
d) 非脂質カチオン性界面活性剤であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)、すなわち、リン脂質、chol、コンジュゲートおよび非脂質カチオン性界面活性剤の総モルに対して30モル%未満の割合で存在する非脂質カチオン性界面活性剤と、
e) α-ガラクトシダーゼ酵素であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)、すなわち、リン脂質、chol、コンジュゲートおよび非脂質カチオン性界面活性剤の総量(mg)に対するGLAの量(μg)の比率が2~35となるように存在するα-ガラクトシダーゼ酵素と、
を含む。
【0009】
本実施例はCabrera、I.ら、2016(実施例1参照)に開示された既知のリポソーム系、および遊離酵素リプレガル(登録商標)(in vitro実験については実施例2、in vivo実験については実施例3参照)との比較結果を提供し、驚くべき結果を提供する。本発明において、GLAは、単量体がタグおよびタグフリーの両方を含有する配列番号1の配列であるヒトGLAで例示された。
【0010】
Cabrera、I.ら、2016に開示されている既知のリポソーム系との比較はGLA送達のためにリポソーム系(本明細書では実施例1において「LP」または「LP-GLA」と命名される)が以前に開発されたようにして実施され、それはリン脂質DPPC、コレステロール、および内皮細胞において発現されるαvβ3-インテグリンの認識に有利に働くコレステロール部分(chol-PEG200-RGD)に連結されたRGD単位(トリペプチドArg-Gly-Aspを含む)から構成されていた。それにもかかわらず、Cabrera、I.ら、2016のGLA負荷リポソーム系では、酵素捕捉効率は約40%であり、in vivo治療用量を達成するのに不十分な薬物濃度をもたらした(図2参照)。
【0011】
驚くべきことに、(リポソームの成分a)、b)、c)およびd)での総モルに対して)30モル%未満の濃度のカチオン性塩化ミリスタルコニウム(MKC)界面活性剤の本発明のリポソームへの組み込みは、GLA捕捉(図2参照)、および/またはin vitroでのGLA酵素活性(図4Aおよび図4B参照)に関して、以前から知られているリポソームよりも優れていた。さらに、本発明のリポソームは安全であった。低濃度(リポソームの構成成分a)、b)、c)およびd)の総モルに対して30%以下)のMKCがin vitroでのGLAの有効性を驚くほど改善したと言う事実は、より高濃度のMKC、例えば他のナノベシクル中のMKCの50%モル以上の濃度が、GLAの捕捉を可能にしたが(図2参照)GLA酵素活性を消失させた(図4A参照)ことを考慮すると、意外であった。
【0012】
本発明のリポソームを用いて得られた結果は、実施例2に見られるような相乗効果によるものであった。GLAとリポソーム成分a)、b)、c)およびd)との重量比率は、本発明のリポソームの物理化学的性質および安定性に重大な影響を及ぼした(実施例2.1)。リポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総量(mg)に対するGLAの量(μg)の比率(GLAのμg/成分a)、b)、c)およびd)のmg)が30でα-ガラクトシダーゼ酵素が存在するリポソームはin vitroでリプレガル(登録商標)のものの150%の活性で実施され、一方、その比率が少なくとも36であるリポソームは安定ではなく、それらの物理化学的性質が変化した(図5Aおよび図5B参照)。
【0013】
in vivo実験のために、驚くべきことに、本発明のリポソームを含む組成物がグルコース、スクロースまたはトレアロースを含む場合、GLA酵素活性は、他の等浸透圧溶液(実施例3および図6Aおよび図6Bを参照されたい)、特に5%w/vのグルコースと比較して改善された。さらに、遊離酵素(リプレガル(登録商標)または組換えヒトGLA)よりも血漿中のGLA酵素活性を上昇させた(図7)。
【0014】
in vivoで、FDのマウスモデルにおいて、DPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC(ここで、MKCはリポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総モルに対して5%モルであった)は、単回投与(図8Aおよび図8B参照)および反復投与(8回まで1週間あたり2回)(図9A図9Bおよび図9C参照)として、いくつかの器官におけるGb3の減少におけるリプレガル(登録商標)および遊離組換えGLAよりも良好な成績を示した。本発明のリポソームは、有意に、単回投与および反復投与の両方で、脳内のGb3の減少を示したが、これは遊離酵素(リプレガル(登録商標)を含む)では観察されなかった(図10参照)。
【0015】
以下に提供するデータから、本発明のリポソームは、ファブリー病の治療のための酵素補充療法システムとして使用することができることは注目に値する。
【0016】
したがって、本発明の第1の態様は、以下を含むリポソームを指す:
a) リン脂質(例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC))と、
b) コレステロール(chol)と、
c) コレステロール部分、ポリエチレングリコール(PEG)部分、およびRGD配列を含むペプチド部分を含むコンジュゲートであって、PEG部分が、一端がアルキルエーテルタイプの結合を介してコレステロール部分に共有結合され、他端がRGD配列を含むペプチド部分に共有結合されている、コンジュゲートと、
d) 非脂質カチオン性界面活性剤であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)、すなわち、リン脂質、chol、コンジュゲートおよび非脂質カチオン性界面活性剤の総モルに対して30モル%未満の割合で存在する非脂質カチオン性界面活性剤と、
e) α-ガラクトシダーゼ酵素であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)、すなわち、リン脂質、chol、コンジュゲートおよび非脂質カチオン性界面活性剤の総量(mg)に対するGLAの量(μg)の比率が2~35となるように存在するα-ガラクトシダーゼ酵素と、
を含む。
【0017】
本発明の第2の態様は、治療有効量の本発明の第1の態様のリポソームを、薬学的に許容される賦形剤またはビヒクルと共に含む医薬組成物に関する。
【0018】
本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物は本発明の第1の態様で定義される酵素を治療剤として使用する疾患の治療、例えば、ファブリー病としてのヒト疾患の治療に使用することができる。
【0019】
本発明の第3の態様は、医薬として使用するための本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物に関する。
【0020】
本発明の第4の態様は、ファブリー病の治療に使用するための本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物に関する。
【0021】
本発明の第5の態様は、バイオイメージングツールとしての本発明の第1の態様のリポソームの使用に関する。
【0022】
本発明の第6の態様は、GLA酵素置換のための送達システムとしての本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物に関する。
【0023】
リポソームの調製はWO2014001509およびCabrera、I.ら、2013に開示されたCOベースのDELOS-SUSP方法論によって行うことができ、これは、前臨床試験および臨床試験の両方に充分な量のナノ医薬の調製を可能にするリポソームの堅牢性および再現性のあるスケールアップを保証し、続いて、本明細書に説明されるように濃縮および透析濾過(透析濾過)を(任意の順序で)行う。
【0024】
本発明の第7の態様は、
工程a) 本発明の第1の態様に記載のGLA酵素を含む水溶液を調製する工程と、
工程b) 有機溶媒に溶解した、本発明の第1の態様に記載のコンジュゲートと、コレステロールと、リン脂質とを含む溶液を調製し、有機溶液を圧縮流体で膨張させる工程と、
工程c) 本発明の第一の態様に記載の非脂質カチオン性界面活性剤を、工程a)の溶液または膨張させる前の工程b)の溶液のいずれかに添加する工程と、
工程d) 工程b)から得られた溶液を工程a)の得られた溶液上にて減圧する工程と、
工程e) 任意の順序で、工程d)で得られた溶液の透析濾過および濃縮を行う工程と、
を含む、本発明の第1の態様のリポソームの製造方法に関する。
【0025】
本発明の第8の態様は、本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物を含む装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】HLP-GLAナノベシクルの、直径サイズ、PDIおよびζ電位に関する安定性を、時間の関数として測定した結果を示す。アッセイは、3つの独立した測定で、反復された、単一の代表的な実験に対応する。
図2】試験したすべての系のGLA捕捉効率。非含有MKCリポソーム(LP-GLA)、クアトソーム(MQ-GLA)およびハイブリッドリポソーム(HLP-GLA)。結果は、3つの独立したアッセイの平均に対応する。
図3】3つの異なるナノ製剤のCryo-TEM画像: A)非含有MKCリポソーム(LP-GLA20)、B)クアトソーム(MQ-GLA20)およびC)ハイブリッドリポソーム(HLP-GLA8.5)。
図4A】異なるGLA-ナノベシクル複合体の酵素活性とin vitro細胞活性:リポソーム(LP-GLA)、クアトソーム(MQ-GLA)、およびMKC(HLP-GLA)を含むハイブリッドリポソーム(HLP-GLA)における酵素活性。全ての値は、参照として遊離GLAを用いた酵素活性を指す。結果は、3つの独立したアッセイの平均に対応する。
図4B】異なるGLA-ナノベシクル複合体の酵素活性とin vitro細胞活性:遊離MKCの存在下での酵素活性はHLP-GLA系と同じ濃度を再現する(アッセイは、3つの独立したアッセイで再現された、単一の代表的な実験に対応する。);
図4C】異なるGLA-ナノベシクル複合体の酵素活性とin vitro細胞活性:Fabry KOマウス由来の一次内皮細胞におけるGb3の喪失(GLAによるその加水分解による)として測定されるin vitro有効性アッセイ。アッセイは、3つの独立したアッセイで再現された、単一の代表的な実験に対応する。
図5A】ナノ-GLA「NF-630」(リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC)のMAECにおけるin vitro有効性アッセイは遊離タンパク質(LeanBio(rh-GLA)およびリプレガル(登録商標)からのGLA最終版)と比較して約36の比率でrh-GLAを含む;「NF-631_w/o RGD」および「NF-629_w/o GLA」を対照として使用した(これらは「NF-630」(DPPC、cholおよびMKCを含む)と同じ構造だが、「NF-631」はchol-PEG400-RGDを含まず、GLAを含まず、「NF-629」はchol-PEG400-RGDを含み、GLAを含まない)。
図5B】30の比率のrh-GLAを有するリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC(「ナノ-GLA」)(遊離rh-GLA、および遊離リプレガル(登録商標)と比較して、GLAは、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総質量に対して30の比率で存在した(271ug/mlでのGLA)。)の細胞培養におけるGb3の減少:「NF-empty」は、GLAを含まないリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCによって構成されるナノ製剤である。
図6A】異なる培地で透析濾過したナノ-GLAの捕捉効率。
図6B】ナノ-GLA試料の比酵素活性(EA)は、対照(リプレガル(登録商標)酵素活性を1に正規化した)に関連している。
図6C】グルコース5%およびスクロース10%の水溶液中で透析濾過したナノ-GLA試料、およびグルコース5%およびスクロース10%の水溶液中で7倍濃縮および透析濾過したナノ-GLA試料のMAECにおけるin vitro有効性アッセイ。
図7】rh-GLAを有するリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC、遊離rh-GLA、および遊離リプレガル(登録商標)の血漿活性。血漿において、投与後30分での酵素活性(EA)は注射用量(ID)のパーセンテージを計算するために、1分での活性を参照した。
図8A】ファブリーKOマウスモデルの肝臓および脾臓における、遊離rh-GLAおよび遊離リプレガル(登録商標)と比較した、rh-GLAを有するリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCの単回投与でのin vivoでの有効性。
図8B】ファブリーKOマウスモデルの腎臓および心臓における、遊離rh-GLAおよび遊離リプレガル(登録商標)と比較した、rh-GLAを有するリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCの単回投与でのin vivoでの有効性。
図9A】ファブリーKOマウスモデルの肝臓、脾臓および肺臓における、遊離rh-GLAおよび遊離リプレガル(登録商標)と比較した、rh-GLAを有するリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCの反復単回投与でのin vivoでの有効性。
図9B】ファブリーKOマウスモデルの血漿、腎臓および心臓における、遊離rh-GLAおよび遊離リプレガル(登録商標)と比較した、rh-GLAを有するリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCの反復単回投与でのin vivoでの有効性。
図9C】ファブリーKOマウスモデルの皮膚における、遊離rh-GLAおよび遊離リプレガル(登録商標)と比較した、rh-GLAを有するリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCの反復単回投与でのin vivoでの有効性。「(I)」、Gb3レベルpmol eq./mg prot;および「(II)」、Gb3損失値(WTに言及)。
図10】単回および反復での静脈内投与後のファブリーKOマウスモデルの脳における、遊離rh-GLAおよび遊離リプレガル(登録商標)と比較した、rh-GLAを有するリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCのin vivoでの有効性。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本出願において本明細書で使用されるすべての用語は特に明記しない限り、当技術分野で知られているそれらの通常の意味で理解されるものとする。本出願において使用される特定の用語についての他のより具体的な定義は以下に記載される通りであり、他に明示的に記載される定義がより広い定義を提供しない限り、本明細書および特許請求の範囲を通して均一に適用することが意図される。
【0028】
本発明の目的のために、与えられた任意の範囲は、範囲の下端点および上端点の両方を含む。記載されている範囲は特に明記されていない限り、おおよそのものとみなされるべきである。
【0029】
本発明の第一の態様は、リポソームに関し、リポソームは、
a) リン脂質(例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC))と、
b) コレステロール(chol)と、
c) コレステロール部分、ポリエチレングリコール(PEG)部分、およびRGD配列を含むペプチド部分を含むコンジュゲートであって、PEG部分が、一端がアルキルエーテルタイプの結合を介してコレステロール部分に共有結合され、他端がRGD配列を含むペプチド部分に共有結合されている、コンジュゲート(chol-PEG-RGD)と、
d) 非脂質カチオン性界面活性剤であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)(すなわち、リン脂質、chol、コンジュゲートおよび非脂質カチオン性界面活性剤)の総モルに対して30モル%(30モル%)未満の割合で存在する非脂質カチオン性界面活性剤と、
e) α-ガラクトシダーゼ酵素であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総量(mg)に対するGLAの量(μg)の比率が2~35となるように存在するα-ガラクトシダーゼ酵素と、
を含む。
【0030】
用語「リポソーム」は脂質二重層によって構成される1つ以上の膜を含む自己組織化構造として理解されるべきであり、その各々は、反対に配向された両親媒性脂質分子を含有する2つの単層を含む。リポソームは、単一の二重層膜(小単層ベシクル「SUV」および大単層ベシクル「LUV」)、または複数の二重層膜(多層大ベシクル「MLV」)を有することができる。
【0031】
リポソーム膜はジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルイノシトール(PI)およびホスファチジン酸(PA)などのリン脂質を含むことができるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明の第1の態様の一実施形態において、任意選択で以下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、リン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)である。
【0033】
コレステロール(Chol)、CAS番号: 57-88-5は、コレステン-3β-オールとしても知られている。
【0034】
本発明の第1の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、コンジュゲートc)は式コレステロール-(ポリエチレングリコール)-(RGD配列を含むペプチド)(chol-PEG-RGD)のコンジュゲートであり、PEGは、一端がアルキルエーテルタイプの結合を介してコレステロールに共有結合され、他端がカルバメート結合を介してRGD配列を含むペプチドに共有結合されている。
【0035】
WO2014001509、またはCabrera、I.ら、2013、またはCristobal-Lecina、E.et al.2020の教示に続いて、濃縮および透析濾過工程により、本発明のコンジュゲートを得ることができる。
【0036】
本発明のリポソームはまた、本明細書において、DPPC:Chol:(Chol-PEG-RGD):非脂質カチオン性界面活性剤(例えば、DPPC:Chol:(Chol-PEG-RGD):MKC)と命名され;特定の実施形態において、DPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCである。
【0037】
RGDペプチド(Arg-Gly-Aspモチーフを含む)は細胞の膜中に存在するインテグリンと相互作用することができるペプチドとして当技術分野で一般的に記載されているペプチドであり、細胞間および細胞と異なる組織または基底膜との間の両方での細胞接着の研究のために特に興味深い。
【0038】
本発明の第1の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、RGDペプチドは配列番号2(RGDfK)の配列を含む(例えばそれからなる)。
【0039】
RGDfK配列(配列番号2)を有するペプチドにおいて、フェニルアラニンは唯一のD-アミノ酸であり(これが、小文字で配列において区別されている理由である)、ポリエチレングリコールとの共有結合はWO2014001509に記載されているように、リジン側鎖を官能化することによって行われている。
【0040】
本発明の第1の態様の別の実施形態では必要に応じて、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、RGD配列はCabrera、I.ら、2013およびWO2014001509に記載されているようなhead to tail循環配列番号2(「cRGDfK」)である。
【0041】
上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組合せた、第1の態様の別の実施形態において、ポリエチレングリコール(PEG)分子量はPEG50およびPEG600(下付き文字は分子量を指す)の間であり、例えば、PEG50、PEG100、PEG200、PEG300、PEG400、PEG500、またはPEG600である。
【0042】
本発明の第1の態様の実施形態において、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、非脂質カチオン性界面活性剤は、リポソームの構成要素a)、b)、c)およびd)の総モルに対して、少なくとも0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%、4.6%、4.7%、4.8%、4.9%、5%、5.1%、5.2%、5.3%、5.4%、5.5%、5.6%、5.7%、5.8%、5.9%、6%;7%、8%、9%、10%、11%、12%;13%、14%、15%;16%;17%、18%、19%;20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、または30%モル、または、リポソームの構成要素a)、b)、c)およびd)の総モルに対して、0.1%~30%、0.1%~20%、0.1%~15%、0.4%~6%、4%~6%、または4.5~5.5%モル未満の割合で存在する。
【0043】
非脂質カチオン性界面活性剤としては非脂質カチオン性第四級アンモニウム界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の第1の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、非脂質カチオン性界面活性剤は非脂質カチオン性第四級アンモニウム界面活性剤である。
【0045】
本発明において、非脂質第四級アンモニウム界面活性剤は、1個の窒素置換基が長鎖アルキル基である第四級アンモニウム塩を指す。非脂質第四級アンモニウム界面活性剤は水溶性であり、臨界ミセル濃度(cmc)を超えるミセルを形成するように自己組織化する。逆に、脂質第四級アンモニウム界面活性剤は、自己組織化して、ベシクル、平面二重層、または逆ミセルなどの他の構造を形成する。本発明の第四級アンモニウム界面活性剤は脂質ではない。
【0046】
本発明の第1の態様の一実施形態では任意選択で上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、非脂質カチオン性第4級アンモニウム界面活性剤は塩化ミリスタルコニウム(MKC)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化ベンザルコニウム(BAC)、塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)、塩化ベンゼトニウム(BZT)、塩化ステアラルコニウム、塩化セトリミド、塩化ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、およびそれらの組み合わせからなるリストから選択される。
【0047】
本発明の第1の態様の実施形態において、任意選択で上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、非脂質カチオン性第4級アンモニウム界面活性剤はリポソームの成分a)、b)、c)およびd)(すなわち、リン脂質、chol、コンジュゲートおよび非脂質カチオン性界面活性剤)の総モルに対して30%未満の割合で存在する塩化ミリスタルコニウム(MKC)であり、例えば、MKCは、リポソームの構成要素a)、b)、c)およびd)の総モルに対して、少なくとも0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%、4.6%、4.7%、4.8%、4.9%、5%、5.1%、5.2%、5.3%、5.4%、5.5%、5.6%、5.7%、5.8%、5.9%、6%;7%、8%、9%、10%、11%、12%;13%、14%、15%;16%;17%、18%、19%;20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、または30%モル、または、リポソームの構成要素a)、b)、c)およびd)の総モルに対して、0.1%~30%、0.1%~20%、0.1%~15%、0.4%~6%、4%~6%、または4.5~5.5%モル未満の割合で存在する。
【0048】
塩化ミリスタルコニウム(MKC)、CAS番号139-08-2は、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリドまたはミリスチルジメチルベンジルアンモニウムクロリドまたはN-ベンジル-N-テトラデシルジメチルアンモニウムクロリドまたはN、N-ジメチル-N-テトラデシルベンゼンメタンアミニウムクロリドまたはテトラデシルベンジルジメチルアンモニウムクロリドとしても知られる。
【0049】
本発明の第1の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、DPPC:コレステロール:chol-PEG-RGDのモル比は10:6.5:0.5であり、例えば、DPPC:コレステロール:chol-PEG400-RGDであり、RGDは環状配列番号2である(例えば、Cabrera、I.ら、2013およびWO2014001509に記載されるようなRGDペプチドである(したがって、chol-PEG-RGDは構成要素に関して3%モルを表す))。
【0050】
用語「α-ガラクトシダーゼ」(α-ガラクトシダーゼAまたはガラクトシダーゼα(略してGLA)とも呼ばれる)は、本明細書で使用される場合、糖脂質および糖タンパク質から末端α-ガラクトシル部分を加水分解するグリコシド加水分解酵素を指す。これは、GLA遺伝子によってコードされる(例えば、GenBank(登録商標)Gene ID: 2717、2020年12月13日、DNA >NC_000023.11:c101407925-101397803 ヒト染色体X、GRCh38.p13一次アセンブリ; UniProt番号P06280)。これは主にセラミドトリヘキソシドを加水分解し、メリビオースのガラクトースおよびグルコースへの加水分解を触媒することができる。本明細書において理解されるように、GLAは、プロカリオテスおよびユーカリオテの両方においてクローニングされ、発現されるα-ガラクトシダーゼを意味し得る。
【0051】
本発明の第1の態様の一実施形態では、任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、本発明のGLA(本明細書では「酵素」とも呼ばれる)は48.8kDaの単量体質量を有するホモ二量体酵素であるヒトGLA(EC 3.2.1.22)であり、したがって、GLA全体は100KDaの近似分子量を示す;または代わりに、配列番号1と少なくとも85%の配列同一性を有し、その酵素活性を保持する酵素である。一例では、本発明のGLAは、例えば、ヒスタグまたはcmyctagなどのタグを含まない。さらに別の例では、本発明のGLAは、少なくとも1つのタグ、例えば、ヒスタグまたはcmyctagを含む酵素GLAである。
【0052】
本発明の第1の態様の一実施形態では上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、酵素は配列番号1の配列の2つのモノマーを含む(例えばそれからなる)二量体である。
【0053】
本発明の第1の態様の一実施形態において、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、酵素はGLAcmycHisであり、このアミノ酸配列は、Corchero Jl et al、2011に開示されている。
【0054】
本発明の第1の態様の一実施形態では必要に応じて、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、アルファ-ガラクトシダーゼ酵素はリポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総量(mg)に対するGLAの量(μg)の比率が2~35、2~34、2~33、2~32、2~31、2~30、10~35、14~35、14~33、14~30、15~35、15~34、15~33、15~32、15~31、15~30、20~35、20~34、20~33、20~32、20~31、20~30となるように存在し、または別の実施形態では2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34または35となるように存在する。
【0055】
本発明の第一の態様の実施形態において、場合により以下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、リポソームは、
a) リン脂質(例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC))と、
b) コレステロール(chol)と、
c) コレステロール部分、ポリエチレングリコール(PEG)部分、およびRGD配列を含むペプチド部分を含むコンジュゲートであって、PEG部分が、一端がアルキルエーテルタイプの結合を介してコレステロール部分に共有結合され、他端がRGD配列を含むペプチド部分に共有結合されている、コンジュゲート(chol-PEG-RGD)(例えば、RGD配列は、head to tail循環配列番号2(「cRGDfK」)である)と、
d) 非脂質カチオン性界面活性剤であって、リポソームの成分(すなわち、リン脂質、chol、コンジュゲートおよび非脂質カチオン性界面活性剤)の総モルに対して30モル%未満の割合で存在する非脂質カチオン性界面活性剤(例えば、少なくとも0.1%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.1%、5.2%、5.3%、5.4%、5.5%、6%;または、0.1%-30%、0.1%-20%、0.1%-15%、0.4%-6%、または4.5-5.5%より小さい割合で存在する)と、
e) α-ガラクトシダーゼ酵素であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総量(mg)に対するGLAの量(μg)の比率が2~35、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34または35となるように存在し、ここで、その単量体の各々は配列番号1の配列または配列番号1と少なくとも85%の配列同一性(例えば、配列番号1の配列と85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%の配列同一性)である、α-ガラクトシダーゼ酵素と、
を含む。
【0056】
本発明において、用語「同一性」は、配列が最適にアラインメントされる場合、2つの配列において同一である残基の割合を指す。最適なアラインメントにおいて、第1の配列中の位置が第2の配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基によって占められる場合、配列は、その位置に関して同一性を示す。2つの配列間の同一性のレベル(または「配列同一性パーセント」)は配列のサイズに対する、配列によって共有される同一の位置の数の比率として測定される(すなわち、配列同一性パーセント=[同一の位置の数/位置の総数]×100)。
【0057】
最適なアラインメントを迅速に取得し、2つ以上の配列間の同一性を計算するための多数の数学的アルゴリズムが知られており、多数の利用可能なソフトウェアプログラムに組み込まれている。そのようなプログラムの実施例としては、とりわけ、アミノ酸配列分析のためのMATCH-BOX、MULTAIN、GCG、FASTA、およびROBUSTプログラムが挙げられる。好ましいソフトウェア分析プログラムには、ALIGN、CLUSTAL W、およびBLASTプログラム(例えば、BLAST 2.1、BL2SEQ、およびその後のバージョン)が含まれる。
【0058】
アミノ酸配列分析のために、重量マトリックス、例えばBLOSUMマトリックス(例えば、BLOSUM45、BLOSUM50、BLOSUM62、およびBLOSUM80マトリックス)、ゴネットマトリックス、またはPAMマトリックス(例えば、PAM30、PAM70、PAM120、PAM160、PAM250、およびPAM350マトリックス)が、同一性を決定するのに使用される。
【0059】
BLASTプログラムはデータベース中の複数の配列(例えば、GenSeq)に対して選択された配列をアラインメントすることによって、または2つの選択された配列の間でBL2SEQを用いて、少なくとも2つのアミノ酸配列の分析を提供する。BLASTプログラムは、好ましくはBLASTプログラム動作に統合されるDUSTまたはSEGプログラムなどの低複雑度フィルタリングプログラムによって修正されることが好ましい。ギャップ存在コスト(またはギャップスコア)が使用される場合、ギャップ存在コストは、好ましくは約-5~-15に設定される。同様のギャップパラメータは、必要に応じて、他のプログラムと共に使用することができる。BLASTプログラムおよびそれらの基礎をなす原理は例えば、Altschul et al、”Basic local alignment search tool”、1990、JMol.Biol、v.215、pages 403-410.に記載されている。
【0060】
多重配列解析には、CLUSTAL Wプログラムを使用できる。CLUSTAL Wプログラムは、望ましくは「動的」(対「高速」)設定を使用して実行される。アミノ酸配列は、配列間の同一性のレベルに応じて、BLOSUMマトリックスの可変セットを用いて評価される。CLUSTAL Wプログラムおよび動作の基本原理は例えば、Higgins et al、”CLUSTAL V: improved software for multiple sequence alignment”、1992、CABIOS、8(2)、pages 189-191にさらに記載されている。
【0061】
本発明の第1の態様の実施形態において、必要に応じて、上記または以下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、酵素(本発明のGLA)は例えば、Sambrook J. et al. Molecular Cloning a Laboratory Manual, Third Edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press. Chapter 16, 16.1-16-54に記載されているような、標準的な細胞培養技術(例えば、安定した発現に基づく製造方法)に続いて、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養物から組換えにより得られる。
【0062】
上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組合せた、第1の態様の一実施形態では、GLA酵素がFabrazyme(登録商標);またはFabrazyme(登録商標)からのバイオシミラー;またはリプレガル(登録商標)もしくはそのバイオシミラーである。
【0063】
本発明の第1の態様の実施形態において、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、リポソームは:
a) DPPCであるリン脂質と、
b) コレステロール(chol)と、
c) コレステロール部分、ポリエチレングリコール(PEG)部分、およびRGD配列を含むペプチド部分を含むコンジュゲートであって、PEG部分が、PEG400であり、一端がアルキルエーテルタイプの結合を介してコレステロール部分に共有結合され、他端がカルバメート結合を介してRGD配列を含むペプチド部分に共有結合され、RGDペプチドが配列番号2の配列(例えば、環状、例えば、cRGDfKである、)コンジュゲートと、
d) 非脂質カチオン性界面活性剤であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)(すなわち、リン脂質、chol、コンジュゲートおよびMKC)の総モルに対して30モル%(例えば、少なくとも0.1%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.1%、5.2%、5.3%、5.4%、5.5%、6%)未満の割合で存在する、MKCである非脂質カチオン性界面活性剤と、
e) α-ガラクトシダーゼ酵素であって、本発明の第1の態様で定義され、その単量体の各々が配列番号1の配列であるα-ガラクトシダーゼ酵素と、
を含む。
【0064】
本発明の第1の態様の実施形態において、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、リポソームは:
a) ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)と、
b) コレステロール(chol)と、
c) コレステロール部分、ポリエチレングリコール(PEG400)部分、およびRGD配列を含むペプチド部分を含むコンジュゲート、例えば、配列番号2(例えば、cRGDfK)であって、PEG400部分が、一端がアルキルエーテルタイプの結合を介してコレステロール部分に共有結合され、他端がRGD配列を含むペプチド部分に共有結合されたコンジュゲート(chol-PEG-RGD)と、
d) 非脂質カチオン性界面活性剤であって、リポソームの成分(すなわち、リン脂質、chol、コンジュゲートおよびMKC)の総モルに対して約5%モル(例えば、4.5~5.5%)の割合で存在する、MKCである非脂質カチオン性界面活性剤と、
e) α-ガラクトシダーゼ酵素であって、リポソームの成分a)、b)、c)およびd)の総量(mg)に対するGLAの量(μg)の比率が2~35となるように存在するα-ガラクトシダーゼ酵素であって、1つの実施形態において、比率は30であり、その単量体の各々は配列番号1の配列であるか、または配列番号1と少なくとも85%の配列同一性(例えば、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の配列同一性)を有する配列であり、例えば、GLAは、CHO細胞において得られ、ここで、DPPC:コレステロール:chol-PEG-RGDのモル比は、10:6.5:0.5である、α-ガラクトシダーゼ酵素と、
を含む。
【0065】
本発明の第1の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、本発明の酵素は非共有結合的にリポソームに組み込まれる。
【0066】
本発明の第1の態様の一実施形態では上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、酵素(本発明のGLA)はリポソームの内側にあるか、または代替として、リポソームの外側にあるか、または代替として、酵素はリポソームを横断する。
【0067】
本発明の第1の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、リポソームは球状、単層、サイズが均質、および安定である。
【0068】
本発明のリポソームを、例えば、ζ電位によって特徴付けるための、当技術分野において周知の方法が存在する。ナノビヒクルのサイズは当業者に公知の任意の方法、例えば、動的光散乱(DLS)、質量分析、小角X線散乱(SAXS)、透過型電子顕微鏡(TEM)または高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)によって測定することができる。本発明のリポソームの安定性は、動的光散乱(DLS)によって測定することができる。
【0069】
本発明の第1の態様の一実施形態において、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、リポソームは300nm未満、例えば20~300nm、例えば80~200nm、または例えば100~160nm、例えば120~155nmの平均直径を有し、例えば動的光散乱(DLS)によって測定される。
【0070】
「均質なサイズ」という用語は、0.05~0.40、例えば0.05~0.30、または例えば0.05~0.2の多分散指数(PDI)を有するリポソームを指す。
【0071】
本発明の第1の態様の一実施形態では上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、リポソームは20~65mV、例えば30~50mV、または例えば35~50mVのζ電位を有する。
【0072】
本発明の第1の態様の一実施形態では、任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、リポソームは平均直径100~160nmの球状であり、単層であり、PDIは0.05~0.3であり、ζ電位は20~65mVであり、分散液中で少なくとも2ヶ月間安定であり;例えば、リポソームは平均直径120~155nmの球状であり、単層であり、PDIは0.05~0.2であり、ζ電位は35~50mVであり、分散液中で少なくとも2ヶ月間安定である。
【0073】
本発明の第1の態様の一実施形態では上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、リポソームはフルオロフォア、放射性医薬品、ペプチド、ポリマー、無機分子、脂質、単糖、オリゴ糖、抗体または抗体の断片、抗原、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される要素にさらに結合する。
【0074】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様のリポソームの治療有効量を、薬学的に許容される賦形剤または担体、またはビヒクルと共に含む医薬組成物に関する。
【0075】
「治療有効量」という表現は本明細書で使用される場合、投与された場合、対処される疾患の症状の1つまたは複数の発症を予防するか、またはある程度軽減するのに十分な化合物(すなわち、本発明のリポソーム)の量を指す。本発明に従って投与される化合物の特定の用量は、もちろん、投与される化合物、投与経路、治療される特定の状態、および同様の考慮事項を含む、症例を取り巻く特定の状況によって決定される。
【0076】
「薬学的に許容される賦形剤または担体、またはビヒクル」という表現は、薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクルを指す。各成分は、医薬組成物の他の成分と適合性であるという意味で薬学的に許容されなければならない。また、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、または合理的なベネフィット/リスク比に相応する他の問題もしくは合併症を伴わずに、ヒトおよび動物の組織または器官と接触して使用するのに適していなければならない。
【0077】
本発明の第2の態様の一実施形態では、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、本発明の第1の態様のリポソームの治療有効量を含む医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤またはビヒクルと共に、組成物の総体積(%w/v)に対して2~15%(2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%;例えば、2%~10%、2%~8%、または2~5%、例えば、5%)の量でグルコース、スクロースまたはトレアロースを含む。
【0078】
本発明の第2の態様の一実施形態では、任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤またはビヒクルと共に、組成物の総体積に対して2~15重量%(2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%;例えば、2%~10%、2%~8%、または2~5%、例えば、5%)の量でグルコースを含む。
【0079】
本発明の第2の態様の一実施形態では、任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、医薬組成物は薬学的に許容される賦形剤またはビヒクルと共に、組成物の総体積に対して5重量%の量のグルコースを含む。
【0080】
本発明の第2の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、医薬組成物はGLA酵素を、少なくとも0.1mg/mL(医薬組成物1mL当たりmg)、例えば、少なくとも0.2mg/mL、別の例では少なくとも0.225mg/mL、または少なくとも0.271mg/mL、または少なくとも0.35mg/mLの量で含む。
【0081】
本発明の第3の態様は、医薬として使用するための本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物に関する。
【0082】
本発明の第3の態様は、医薬の製造のための本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物の使用として再配合することができる。
【0083】
本発明の第4の態様は、ファブリー病の治療に使用するための本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物に関する。
【0084】
本発明の第4の態様は、ファブリー病の治療のための薬物の製造のための、本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物の使用として再配合することができる。それはまた、治療有効量の本発明のリポソームの第1の態様を、薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤と共に、それを必要とする対象(ヒトを含む)に投与することを含む、ファブリー病の治療または予防のための方法として再配合され得る。
【0085】
薬剤は、非経口、皮膚、経口、硬膜外、舌下、経鼻、髄腔内、気管支、リンパ管、直腸、経皮、または吸入投与に適合した形態で提供することができる。非経口投与に適合した形態はその注射用投与を可能にすることができる物理的状態、すなわち、好ましくは液体状態を指す。非経口投与は筋肉内、動脈内、静脈内、皮内、皮下または骨内投与によって行うことができるが、これらのタイプの非経口投与経路に限定されない。経口投与に適合させた形態は滴下、シロップ剤、チザン剤、エリキシル剤、懸濁剤、即時懸濁剤、飲用バイアル剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、スタンプ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ剤、トローチ剤または凍結乾燥剤を含むが、これらに限定されないリストから選択される。直腸投与に適合させた形態は坐剤、直腸被膜、直腸分散液または直腸軟膏を含むが、これらに限定されないリストから選択される。経皮投与に適合した形態は経皮パッチまたはイオン導入を含むが、これらに限定されないリストから選択される。
【0086】
本発明の第3および第4の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、医薬品は静脈内投与に適合した形態で提供される。
【0087】
本発明の第3および第4の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、医薬は例えば、少なくとも週1回、さらに別の例では少なくとも2週間に1回、例えば、症状が逆転するまで、または代替的に、患者の全生涯(生涯)の間、繰り返し投与される。
【0088】
本発明の第3および第4の態様の一実施形態では、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意に組み合わせて、GLAの少なくとも0.20mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1mg、1.5mg、2mg、2.5mgがファブリー病に罹患している対象の1Kgあたり1週間おきに該対象に投与される。
【0089】
本発明のリポソームは例えば色素で標識し、部位特異的標識のための標的化リガンドで官能化し、最終的に酵素を送達することができる。
【0090】
したがって、本発明の第5の態様は、バイオイメージングツールとしての本発明の第1の態様のリポソームの使用に関する。
【0091】
本発明の第5の態様の一実施形態では、任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、酵素の内部移行および送達を追跡するためのバイオイメージングツールとして使用される。
【0092】
「バイオイメージングツール」は本明細書によれば、細胞または特定の組織のいくつかの区画を追跡するために生物学において使用されるイメージング技術において使用される試薬であると理解されるべきである。バイオイメージングツールの例としては、化学発光化合物、蛍光およびリン光化合物、X線またはα、β、またはγ線放出化合物などが挙げられる。
【0093】
本発明の第6の態様は、本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物を、GLA酵素置換のための送達システムと呼ぶ。
【0094】
第1の態様のリポソームは、超音波処理(US)、薄膜水和(THF)、および(例えば、WO2014001509;または濃縮および透析濾過後のEP1843836に開示されているような)膨張液体有機溶液体懸濁液体の減圧(DELOS-SUSP)と呼ばれるCO膨張溶媒を使用する1工程スケーラブル法などの様々な技術によって形成することができる。
【0095】
本発明の第7の態様は、以下の工程を含む、本発明の第1の態様のリポソームの製造方法に関する:
工程a) 本発明の第1の態様で定義されるGLA酵素を含む水溶液を調製する工程と、
工程b) 有機溶媒に溶解した、本発明の第1の態様で定義されるコンジュゲート、コレステロール、およびリン脂質を含む溶液を調製する工程であって、有機溶液が圧縮流体で膨張される、工程と、
工程c) 本発明の第一の態様において定義される非脂質カチオン性界面活性剤を、工程a)の溶液または膨張させる前の工程b)の溶液のいずれかに添加する工程と、
工程d) 工程b)で得られた溶液を工程a)で得られた溶液上で減圧する工程と、
工程e) 任意の順序で、工程d)で得られた溶液を透析濾過および濃縮する工程。
【0096】
本発明の第7の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、工程a)の水溶液は、緩衝液、塩、糖および/または他の賦形剤も含有することができる。
【0097】
透析濾過工程は、例えば、KrosFlo(登録商標)Research IIi TFF透析濾過システム(KR2i)によって、例えば、Cabrera、I.ら、2016に既に記載されている手順に従い、例えば、透析濾過サイクルを4または5に低下させるなどの特定の改変を伴って実施することができ;濃縮工程は例えば、以下の改変を伴う同じ装置によって実施することができる:
a)透析濾過および濃縮プロセスの順序は交換可能である:透析濾過および濃縮、または濃縮および透析濾過;
b)操作流量(ポンプによって提供される)は、20~200mL/分であり得る;
c)操作TMP(膜貫通圧力)は、2.5~10psiであり得る;
d)中空繊維フィルターカラムは、作業体積重量計に応じて、13~235cm2の変性ポリエーテルスルホン(mPES)および300kDaであってよく;および/または;
e)商業的提供者からのリザーバーがプロセス体積に応じて、ガラスフラスコに置き換えられ得る。
【0098】
例えば、濃縮を実施するために、10~5000mLの容量を、カラムのみに接続された試料容器に加えることができる。この場合、試料は、体積が除去されるにつれてより濃縮される。濃縮の程度(濃縮係数、CF)は最終体積(Vf)に分割された初期体積(Vi)に対応し、CF=Vi/Vfである。例えば、初期容量が50mLであり、所望のCFが5である場合、試料容器内の試料容量が10mLであるとき、プロセスは停止する。プロセスの完了のための時間は処理される総体積および操作パラメータに依存し、現場の専門家は、それをどのように調整するかを知っている。
【0099】
本発明の第7の態様の一実施形態では、任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、透析濾過および濃縮ステップは、分散液から非組み込みGLAおよび有機溶媒を除去するために、水溶液、例えば、水または等浸透圧溶液中で実施される。
【0100】
本発明の第7の態様の一実施形態では、任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、透析濾過および濃縮ステップは、2~15%w/vのスクロース、グルコースまたはトレハロース、例えば、スクロース10%、グルコース5%またはトレハロース10%w/v、例えば、グルコース5%w/vを含む水溶液中で実施される。
【0101】
本発明の第7の態様の一実施形態では任意選択で、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、透析濾過は、少なくとも3回、例えば3回、4回、5回、6回または7回行われ、別の例では少なくとも4回、例えば4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回または12回行われる。
【0102】
本発明の別の態様は、本発明の第7の態様の方法によって得ることができるリポソームでもある。
【0103】
また、本発明の一部は、リン脂質、コレステロール、本発明の第1の態様のコンジュゲート、および本発明の第1の態様の非脂質カチオン性界面活性剤(例えば、DPPC、Chol、コンジュゲートChol-PEG-RGDおよびMKC)の自己組織化と、その後の、例えばリポソームの表面におけるGLAの吸着によるGLA捕捉(本発明の第1の態様のGLA)とによる、本発明の第1の態様のリポソームの製造方法である。また、本発明の一部は、この製造方法によって得られるリポソームである。
【0104】
本発明の第8の態様は、本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物を含むキット(パーツのキット)に関し、これは、場合により、本発明の第1の態様のリポソームまたは本発明の第2の態様の医薬組成物に含まれる酵素の送達のための説明書を含むことができる(これ以降、「本発明のキット」)。必要に応じて、キットは、本発明のリポソームを可視化するためのさらなる手段をさらに含んでもよい。
【0105】
また、本発明の一部は、本発明の態様のいずれかに記載の使用のための本発明のキットの使用でもある。
【0106】
また、本発明の一部は、本発明の第1の態様のリポソームまたはそれらを含む本発明の第2の態様の医薬組成物の放出のための装置である。
【0107】
本明細書および特許請求の範囲全体を通して、単語「含む(comprise)」および単語の変動は、他の技術的特徴、添加剤、構成要素、または工程を排除することを意図しない。さらに、「含む」という用語は、「からなる」の場合を包含する。本発明のさらなる物体、利点、および特徴は、説明を検討することによって当業者に明らかになるか、または本発明を実施することによって知ることができる。以下の実施例および図面は、例示のために提供され、本発明を限定することを意図するものではない。図面に関連し、請求項の括弧内に配置された参照符号は単に請求項の明瞭性を高めることを試みるためのものであり、請求項の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。さらに、本発明は、本明細書に記載の特定の好ましい実施形態の全ての可能な組み合わせを包含する。
【実施例
【0108】
〔実施例1. GLA酵素の細胞内送達におけるナノベシクルおよびその性能:〕
異なるRGD標的化ナノベシクルを得て、それらのGLAの細胞内送達(ナノベシクルに含まれるGLAとしてRepalgal(登録商標)を使用)における性能を比較した:(i)リポソーム系であって、リン脂質DPPC、コレステロール、および、RGDペプチドが環状cRGDfkであるCabrera、I.ら、2016に記載されたコレステロール部分(chol-PEG200-RGD)に連結されたRGD単位(トリペプチドArg-Gly-Asp)から構成される、組換えGLAを含有するリポソーム系(本明細書において「LP」と命名される);(ii)ナノベシクルであって、第四級アンモニウム界面活性剤である塩化ミリストニウム(MKC)を高量(全膜成分の50mol%を超える量、「h-MKC」)を含有し、「クアトソーム」(Ferrer-Tasies、L.et al.2013)として知られるナノベシクル(本明細書において「MQ」と命名される)、および、(iii)リポソームであって、それらの膜中に様々な濃度のカチオン性界面活性剤(例えばMKC)を有し、低MKC量(全膜成分の5mol%未満、「l-MKC」)を含有するリポソーム(本明細書において「ハイブリッドリポソーム」(「HLP」)と命名される)。全ては、他のナノベシクルプロセシング技術(Cabrera、I.ら、2016)と比べて、高いバッチ間の一貫性および容易なスケーラビリティを有するナノベシクルの調製を可能にする、WO2006/079889に記載されているような圧縮COの使用に基づいて、DELOS-SUSP法を使用して得られた。
【0109】
〔材料および方法〕
〔材料:〕
コレスト-5-エン-3β-オール(コレステロール;純度95%)は、Panreac(Barcelona、スペイン)から購入した。1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)は、CordenPharma(Plankstadt、ドイツ)から入手した。塩化ミリスタルコニウム(MKC)は、US Biological(Salem、米国)から購入した。コレステロール-PEG200-RGDは、Cabrera、I.ら、2013またはCristobal-Lecina、E.、et al.2020に以前に記載されているように調製した(PEG部分は、アルキルエーテルタイプの結合を介して一端がコレステロール部分に共有結合し、カルバメートタイプの結合を介して他端がRGD配列を含むペプチド部分に共有結合した)。GLA酵素は、Shire-Takeda(タグフリー酵素である)から購入したアガルシダーゼアルファ(GLA、1mg mL-1、リプレガル(登録商標))によって例示された。エタノールHPLCグレード(Teknocroma Sant Cugat del Valles、スペイン)は、高純度で購入し、さらなる精製なしで使用した。ジメチルスルホキシド(DMSO、ACS試薬、純度99.9%)は、Sigma-Aldrich(マドリード、スペイン)から入手した。二酸化炭素(純度99.9%)は、Carburos Metalicos S.A(Barcelona、スペイン)から供給された。使用した水は、MilliQ Advantage A10浄水システム(Millipore Iberica、マドリード、スペイン)で前処理した。
【0110】
〔ナノベシクルの調製:〕
すべての製剤はCabrera、I.ら、2013、Ventosa、N.、et al.2005およびWO2006/079889に記載されているDELOS-SUSP方法論を用いて同じ調製経路を用いて調製し、その後濃縮工程を行った。
【0111】
すべての場合(LP、MQおよびHLP)において、RGDペプチドはCabrera、I.ら、2013および2016に開示されているhead to tail循環配列番号2(「cRGDfK」)であり、コンジュゲートは、Cabrera、I.ら、2013に記載されているのと同じ文書に記載されているように得られた。
【0112】
〔クアトソーム(MQおよびMQ-GLA)調製:〕
GLA非負荷クアトソーム(MQ)について、chol-PEG200-RGDをDMSOに溶解した後、コレステロールおよびMKCのエタノール溶液を滴下し、2:5体積比のDMSOおよびEtOHを含む溶液を得た。25mLの高圧容器に充填し、圧縮COで体積膨張させ、10MPaの作動圧(Pw)を得た。完全な均質化および熱平衡を達成するために、系を約15分間308Kおよび10MPaに保った。GLA負荷クアトソーム(MQ-GLA)については、GLAを注射用水(Iタイプ)に添加して、所望の最終酵素濃度(20μg mL-1)に到達させた。ナノベシクルを形成するために、膨張した有機相を冷水溶液上で減圧した。この工程では、CO膨張液を容器から押し下げ、減圧中に容器内の11MPaの一定圧力を維持するためのプランジャーとして、作動圧力のN2の流れを用いた。3.6mg mL-1の総濃度(それぞれの成分の詳細な最終モル濃度は、chol-PEG200-RGD、コレステロール、およびMKCについてそれぞれ0.35、2.59、および5.87μmol mL-1であった)のナノベシクルの、低量のDMSOおよびEtOH(それぞれ3%および7% v/v)を含む水系培地中での分散を得て、特性評価まで4℃で保存した。
【0113】
〔リポソーム(LPおよびLP-GLA)調製:〕
リポソーム(LP)を、Cabrera、I.ら、2016に記載された手順に従って、わずかな改変を加えて調製した。簡単に説明すると、コレステロールおよびDPPCのエタノール溶液を滴加する前に、chol-PEG200-RGDをDMSOに溶解し、1:5の体積比のDMSOおよびEtOHを含む溶液を得た。混合物を25mLの高圧容器に充填し、圧縮COで体積膨張させて10MPaの作動圧にした。完全な均質化および熱平衡を達成するために、系を約15分間308Kおよび10MPaに保った。GLA負荷リポソーム(LP-GLA20)については、GLAを注射用水(Iタイプ)で希釈し、所望の最終酵素濃度(20μg mL-1)に到達させた。ナノベシクルを形成するために、膨張した有機相を水溶液上にて室温で減圧した。次の工程は、クアトソーム調製の場合と同じ順序に従った。1.5mg mL-1の総濃度(それぞれの成分の詳細な最終モル濃度は、chol-PEG200-RGD、コレステロール、およびDPPCについて、それぞれ0.10、0.91、および1.45μmol mL-1であった)のナノベシクルの、低量のDMSOおよびEtOH(それぞれ0.8%および4% v/v)を含む水系培地中での分散液を得、特性決定まで4℃で保存した。
【0114】
〔ハイブリッドリポソーム(HLPおよびHLP-GLA)調製:〕
ハイブリッドリポソームの調製のために、リポソームのためのものと同様の調製経路を使用した。MKC(膜成分の総モルの0.4、2.2、または4.3モル%)を、反応器に装填する前にエタノール溶液に組み込んだ。次の工程はリポソーム調製と同じ順序に従い、(0.4%MKC)-HLP、(2.2%MKC)-HLP、および(4.3%MKC)-HLP系を得た。GLA負荷ハイブリッドリポソームについては、以前に記載されたように、GLAを注射用水(Iタイプ)で希釈して最終酵素濃度に到達させた:(0.4%MKC)-HLP-GLA20、(2.2%MKC)-HLP-GLA20(4.3%MKC)-HLP-GLA20については20μg mL-1、および、(2.2%MKC)-HLP-GLA8.5については8.5μg mL-1であった。総脂質濃度1.5mg mL-1(各成分の詳細な最終モル濃度はchol-PEG200-RGD、コレステロール、およびDPPCについてそれぞれ0.10、0.91、および1.45μmol mL-1であり、(0.4%MKC)-HLP、(2.2%MKC)-HLP、または(4.3%MKC)-HLPについてそれぞれ0.01、0.06、または0.11μmol mL-1であった)のハイブリッドリポソームを、低量のDMSOおよびEtOH、0.8%および4% v/vを含有する水性培地中で得て、特性評価まで4℃で保存した。
【0115】
〔透析濾過および濃縮:〕
KrosFlo(登録商標)Research IIi TFF透析濾過系(KR2i)を用いて、Cabrera、I.ら、2016に既に記載されている手順に従って、本明細書に説明されている濃縮工程などの改変を用いて、非コンジュゲートGLA酵素をGLA負荷リポソームから分離した。
【0116】
簡潔には、遊離GLA(≒100kDa)を分離するために、300kDaカットオフmPES中空繊維カラムを使用した。各GLA含有製剤について、10mLのナノベシクル分散液を、注射用の冷水純水(Iタイプ)(60mL)を用いた6サイクルの透析濾過に供し、取り込まれていないGLAおよび分散液からの有機溶媒の排除をもたらした。
【0117】
in vivo試験のための用量に達するために、(2.2%MKC)-HLPハイブリッドリポソーム系を、300kDaカットオフmPESフィルターカラムを有するKrosFlo(登録商標)Research IIi TFF透析濾過システム(KR2i)を使用して濃縮した。74mLの初期体積を×12の濃縮係数にかけ、最終ナノ製剤6mLを得た。in vivo試験を通して新鮮な製剤の投与を確実にするために、同じ手順に従って3つの独立したバッチを作製したが、物理化学的特性に有意差はなかった(以下を参照されたい)。
【0118】
試料(2.2%MKC)-HLPハイブリッドリポソームをin vivo試験のために濃縮するために、透析濾過に指定されたものと同じプロセスを使用したが、この場合、緩衝液リザーバーは系に接続されなかった。これは、体積が除去されるにつれて、試料がより濃縮されることを可能にした。濃縮の程度(濃縮係数、CF)は最終体積(Vf)に分割された初期体積(Vi)に対応し、CF=Vi/Vfであり、in vivo毒性学のために、試料は12のCFで濃縮された。
【0119】
手順自体が関連する影響を有さないことを確実にするために、濃縮工程後にDLSによってリポソーム系の物理化学的特性(サイズ、PDIおよびζ電位)を決定した。リポソームはナノスケールサイズ(250nm以下)および低多分散性(PDI<0.35)を維持したため、サイズ(p=0.169)、PDI(p=0.903)およびζ電位(p=0.116)に関して濃縮後に有意な変化は観察されなかった。統計は、Minitab(登録商標)17統計ソフトウェア(2013)を使用して、2試料t検定によって行った。形態もまた、cryoTEM画像によって検査した。画像は、ナノメートル範囲のサイズを有する、球状で、大部分が単層のベシクルを示した。
【0120】
〔サイズ、多分散性指数およびζ電位の特性評価:〕
作製された全てのベシクルのサイズ、多分散性指数(PDI)およびζ電位を、非侵襲的後方散乱技術(NIBS)(Malvern Zetasizer Nano ZS、Malvern Instruments、UK)と組み合わせた動的光散乱(DLS)および電気泳動光散乱(ELS)分析器を用いて測定した。試料(1mL)を、前もって変更または希釈することなく分析した。報告されたすべての値は、Zetasizer Softwareを用いて、作製後翌日、同じ試料について20℃で3回連続して測定した平均結果であった。サイズデータは強度サイズ分布に基づいており、3つの測定値間のz平均値±標準偏差に対応していた。
【0121】
〔Cryo-TEMによる形態学的特性評価:〕
ナノ製剤をcryo-TEMにより調べ、ベシクル形態を直接分析し、構造の均一性(不均一性)と共存について学習した。サイズ、形状、二重層の数および二重層分布に関する情報を収集した。短期安定性を知るために、数日のナノ製剤製造後にガラス化試料を調製し、翌月に2~3回調製した。ナノ製剤は、cryo-TEM分析まで4℃で保存した。そのために、それらを25℃で30分間平衡化し、次いで、十分に確立された手順(Danino、D.2012)に従って、制御された試料調製チャンバー中でこの温度からガラス化し、極低温でT12 G2 Tecnai(FEI)およびTalos F200C(Thermo Fisher)顕微鏡で試験した。穿孔されたTed Pellaグリッドを使用し、ガラス化試料の温度は常に-170℃未満に保った。画像は、以前に記載されたように(Danino、D.2012)、低用量操作でGatan UltraScan 2kx2k CCDカメラまたはCetaカメラを用いて記録した。画像を様々な倍率(8.8K~53K)で記録して、全ての構造、すなわち、数nm~数百の範囲の異なる長さスケールで適切に捕捉した。バックグラウンド減算を除き、画像処理は適用されなかった。全ての測定は、CryoEM Laboratory of Soft Matter at Technion(イスラエル工科大学、イスラエル)で行った。
【0122】
〔小角X線散乱(SAXS)を用いたリポソームの形態特性評価:〕
リポソームの二重層の厚さおよびプロファイル、ラメラ構造の程度、ならびに取り込まれたGLAの量についての定量的情報を、Aarhus大学に設置され、液体Ga金属ジェットX線源(Excillum)(Schwamberger、A.et al.2015)および散乱なしスリット(Li、Y.、et al.2008)を備えたBruker AXSからの最適化NanoSTAR SAXS器具(Pedersen、J.S.、2004)上で小角X線散乱(SAXS)を用いて調査した。水中のGLA(1mg mL-1)およびそれらの分散媒質中のリポソームまたはハイブリッドリポソーム(1.5mg mL-1)(水または4% EtOHおよび0.8% DMSO v/vを含む水)を測定し、一致するバックグラウンドを差し引いて、水を絶対スケール校正に使用した。測定の前に、ALV-6010/EPPマルチタウデジタル相関器を備えたALV/CGS-8Fゴニオメーターを備えたALV器具(ALV、Langen、ドイツ)上でAarhus中のDLSを実施することによって、出荷中の試料の変化をチェックしたことに留意されたい。
【0123】
〔ナノベシクルの安定性:〕
リポソーム系の4℃での安定性に続いて、前述のようにDLS装置(Malvern Zetasizer Nano ZS; Malvern Instruments)を使用して、異なる時点(作製の1、7、14、および31日後)でのナノベシクルのサイズ、多分散指数(PDI)およびζ電位を測定した。
【0124】
〔酵素の定量および捕捉効率:〕
捕捉効率(EE%)は、透析濾過によって遊離GLAを除去した後のナノベシクル中に封入された酵素の量(プロトタイプLoaded、Lと称する)を、それらの作製直後に得られた原料バッチ中に存在する初期GLAの量(プロトタイプTotal、Tと称する)と比較することによって決定した(式(1)を参照されたい)。遊離GLAの除去後のリポソームに負荷されたGLAの量を、ベシクルの膜成分の総量と比較することによって、GLA負荷量を計算した(式(2)参照)。
EE%=(質量GLA Loaded /質量GLA Total)×100 (式1)
GLA負荷=質量GLA Loaded /質量膜成分 (式2)
統計は、Minitab(登録商標)17統計ソフトウェア(2013)を使用して、2試料t検定によって行った。
【0125】
これらの試料のそれぞれにおける組換え酵素濃度を検出および定量するために、SDS-PAGEを、TGX Stain-Free(商標)FastCast(商標)アクリルアミド12%ゲル(Bio-Rad、参照番号161-185)を使用することによって行った。蛍光バンドを可視化するために、ChemiDoc(商標)Touch Imaging System(Bio-Rad)を使用した。SDS-PAGEおよび光活性化後のデンシトメトリーによってGLAタンパク質量を推定し、既知量の制御Hisタグ付きGLAを生成し、精製し、社内で定量した。定量的に比較される試料および標準を、同じゲル中で流し、データセットとして処理した。バンドの密度測定分析は、Image Lab(商標)ソフトウェア(バージョン5.2.1.、Bio-Rad)を用いて行った。
【0126】
〔in vitro酵素活性:〕
GLA酵素活性は、以前に記載されたように(Cabrera、I.ら、2016)、Desnick .et al.1973によって最初に記載された蛍光測定法を用いて、Mayes .et al.1981の改変を用いてアッセイした。プロトコールは、アッセイ緩衝液(0.01M酢酸、0.01M酢酸塩、pH 4.5)中の基質(2.46×10-3M)として4-メチルウンベリフェリルα-D-ガラクトピラノシド(4-MUG、M-7633 Sigma Aldrich)の使用を含んでいた。グリシン緩衝液(0.1M、pH 10.4)で反応を停止させ、放出された生成物(4-メチルウンベリフェロンまたは4-MU)を蛍光測定(λexc=365nm、λem=450nm)で測定し、回帰プロットを用いて蛍光測定値を4-MU μmolに変換し、時間およびタンパク質量ごとに調整した。
【0127】
〔in vitro有効性アッセイ:〕
リソソームに到達し、Gb3を加水分解するGLA負荷ナノベシクルの能力を、GLA欠損マウス(GlatmKul1)由来のマウス大動脈内皮細胞(MAEC)の初代培養物において試験した(Oshima、T.et al.1997)。これらの細胞を、ICTS NANBIOSISのin vivo実験プラットフォーム/U20で単離し、非必須アミノ酸(Gibco)、ヘパリン(0.1mg mL-1、Sigma Aldrich)、内皮細胞増殖サプリメント(ECGS)(0.05mg mL-1、BD)、ヒドロコルチゾン(1μg mL-1、Sigma Aldrich)およびウシ胎仔血清(10~20%、Gibco)を補充したRPMI培地中で、以前に記載されたように増殖させ(Cabrera、I.ら、2016)、内皮細胞の増殖を可能にした。継代2~5の細胞を、コンフルエンスの60~80%まで24ウェルプレートに播種し、Gb3-NBD(0.8×10-6M、Matreya)と共に、指定された濃度の試験化合物と共にインキュベートした。48時間後、Gb3-NBD蛍光シグナルを、生細胞(7-アミノアクチノマイシンD染色陰性)中のフローサイトメトリー(FacsCalibur、Beckton Dickinson)によって分析した。対照細胞(処理なし)における蛍光シグナルを100%として確立し、Gb3損失値の割合(%Gb3損失値=100-%Gb3-NBDシグナル)を用いて結果をプロットした。
【0128】
〔in vitro毒性:〕
HeLa細胞に対する3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)を用いて、細胞の細胞傷害性を試験した(Botella P .et al.2011)。簡潔に述べると、2,000個の細胞を96ウェルプレートに播種し、接着させ、次いで異なる投与のナノベシクルに72時間曝露した。次いで、PBS中のMTT溶液(5mg mL-1)をウェルに添加し、さらに4時間インキュベートした。活性ミトコンドリアによるMTT減少から生じたホルマザン結晶をDMSOで溶解し、590nmで分光光度的に測定した(Biotek ELx800 Absorbance Microplate Reader、Izasa Scientific)。データは、未処理対照群の細胞生存率と比較した生存細胞の割合として表した。
【0129】
〔In vitro血液適合性:〕
ナノ系の血液適合性を試験するために、2つのタイプのアッセイを実施した。一方では、赤血球の完全性に対するそれらの効果を、溶血試験を用いて測定した(Giannotti、M.I.et al.2016)。一方、血漿凝固時間を分析することにより、血液凝固に対するそれらの潜在的干渉を研究した。詳細には、溶血試験のために、マウス赤血球(RBC)を3つの野性タイプC57BL6マウスから隔離し、PBSの2%(v/v)に再懸濁し、重複中、37℃で1hの間に異なる濃度の試験化合物に曝露した。放出されたヘモグロビンの量を、遠心分離(1000g、10分)後、分光光度計において405nm(Biotek ELx800)で測定した。吸収値は、1%のTriton-Xと共にRBCをインキュベートした後に得られた100%溶血の陽性対照とした。5%未満の試料は、非溶血性であるとみなされた。
【0130】
血漿凝固におけるナノベシクルの効果を、以前に報告されたように(Rafael、D.、et al.2018)、Start4装置(Stago、France)を使用し、製造業者のプロトコールに従って、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)、およびトロンビン時間(TT)を決定するために試験した。値を、正常な基準時間範囲と比較した。APTTアッセイを用いて内因性経路を評価したが、プロトロンビン時間(PT)アッセイは外因性経路の尺度であった。外因性および内因性経路は共通経路に収束した。トロンビン時間(TT)は、最終共通経路の機能性のインジケータであった。
【0131】
〔in vivo毒性:〕
MKC含有ナノベシクルの反復投与の実現可能性を試験するために、3つの異なる用量(1回の投与あたり0.37、1.22および3.67mg脂質)でのハイブリッドリポソームの8回の静脈内(i.v.)投与の効果を、ヘテロ接合性(GlatmKul1)(Oshima、T.、et al.1997)で維持された我々のGLAトランスジェニックコロニーから得られた野生型C57BL6雌マウス(22~38g)において試験した。動物医療はVall d’Hebron University Hospital animal Facilityの実験動物の医療および使用のためのガイドに従って取り扱い、動物実験のためにEU指令2010/63/EUに従った。正確な実験手順は、施設および地域政府の動物実験倫理委員会によって承認された(参照番号9572)。
【0132】
MAEC取得および血液適合性アッセイを含む、動物または動物に由来する試料を用いた全ての研究は、CIBER-BBNのin vivo Experimental Platform of the Functional Validation & Preclinical Research (FVPR) area (U20 In vivo Experimental Platform, Nanbiosis, Barcelona, スペイン)にて、ICTS NANBIOSISによって行われた。
【0133】
〔アッセイ状態におけるナノ構造化製剤の安定性:〕
4-MUG基質(2.46×10-3M)、37℃、60分を含む、酢酸緩衝液(0.01M酢酸、0.01M酢酸塩、pH 4.5)中で1:1600に希釈したアッセイ状態におけるナノ構造化製剤の安定性もチェックした。アッセイ条件においてナノ構造化されたナノ粒子の完全性を、DLSおよびナノ粒子追跡分析-ナノサイト(NTA)によって評価した。NTA (Nanosight NS300、Malvern Instuments、英国、sCMOSカメラおよび488nmレーザを装備)は粒子を個々に追跡し、それらの流体力学的直径ならびに粒子濃度を計算するためにストークス・アインシュタイン方程式を使用する。100μm×80μm×10μmの視野内でブラウン運動下にて移動する粒子のビデオを記録し、NTAソフトウェアによって分析した。ナノベシクルの平均サイズ、PDI、および粒子濃度をアッセイした。
【0134】
〔ヒト血清中の(2.2%MKC)-HLPの安定性〕
ヒト血清中の12倍濃縮(2.2%MKC)-HLPの安定性を、濁度測定によって測定し、これにより、経時的な系の変化のモニタリングが可能になった。濁度測定法により、透過率、したがって光の減衰を測定することが可能であった。経時的な透過率の変化は例えば、沈降またはナノ粒子サイズの増加が生じた場合、懸濁液の変化のインジケータとして作用し得る。次いで、吸光度が透過率に対して対数関係を有するので、濁度を吸光度によって評価することができる。
【0135】
12倍濃縮(2.2%MKC)-HLP系を、2つの異なる濃度のヒト血清(H4522、Sigma-Aldrich)、75%および90%(vol %)と共に、48ウェルプレート中で3回インキュベートした。次いで、試料をオービタルシェーカー撹拌中、37℃でインキュベートし、0分、15分、30分、60分、90分、および120分で分析した。各時点で、試料の吸光度をλ=300nm(Microplate reader Infinite 200 Pro、Tecan)で読み取り、対応する量の血清のみを参照として用いた。相対濁度を、試料濁度を時間ゼロでの濁度で割って決定した(式S1)。有意な変化は観察されなかった。
【0136】
さらに、濃縮(2.2%MKC)-HLPを50%(体積%)のヒト血清(1時間、37℃、オービタルシェーカーによる撹拌)と共にインキュベートした。肉眼的外観は観察されなかった。次いで、リポソームの完全性もcryoTEM画像によって評価し、血清の存在下でのリポソームベシクル構造の安定性を実証した。
【0137】
〔ベシクル当たりのGLAの理論数:〕
ヒトGLAは48.8kDaの単量体重量を有するホモ二量体酵素であるため、GLA全体は100KDaの近似分子量を示した。取り込まれていないGLAが除去されたので、透析濾過(Loaded prototype)による精製後に、以下の理論的(表1)および実験的(表2)な系データを用いて、ナノベシクル当たりのホモ二量体GLA単位の理論的数を、近似されたアプローチで計算した。LP-GLA不安定性の問題およびMQ-GLAクアトソームのためのSAXS技術の不適切さのために、HLP-GLAハイブリッドリポソームについてこれらの計算を行うことしかできなかった。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
【数1】
【0141】
〔統計学的分析:〕
特に明記しない限り、すべての結果を、いくつかの実験反復の平均値±標準偏差(SD)として表した。ANOVA試験、スチューデントt検定または同等のノンパラメトリック検定を使用して、Prism 6.02ソフトウェア(GraphPad Software、Inc.、CA、USA)を使用して、異なる製剤間の差異を調査した。統計的差異は、得られたp値に従って、有意(p<0.05、*)、非常に有意(p<0.01,**)または極めて有意(p<0.001,***)であると認められた。
【0142】
〔結果:〕
〔1.1 ナノベシクルのキャラクタリゼーション:〕
3つの異なる膜組成物を使用してGLA-ナノベシクル系を得、すべてchol-PEG200-RGDで官能化して、内皮細胞において過剰発現されたαvβ3-インテグリンの認識を可能にした(Cabrera、I.ら、2016に説明されているように)。第1の製剤は、DPPC、コレステロール、およびchol-PEG200-RGDから構成され、リポソーム(LP)を生じた。第2の製剤は、コレステロール、chol-PEG200-RGD、およびh-MKC(材料および方法の節で説明したように50%を超えるMKC)から構成され、クアトソーム(MQ)を形成した。第3の系については、少量のMKCを、3つの異なるl-MKC濃度:0.4、2.2、および4.3mol%でリポソーム製剤に添加し、正に荷電した膜を有するハイブリッドリポソーム(HLP)の生成を可能にした。すべてのGLA負荷系(それぞれLP-GLA20、MQ-GLA20、およびHLP-GLA20と名付けた)を、同じ初期理論GLA濃度、すなわち20μg/mlを用いて調製した。8.5μg/mlの低GLA濃度で追加のHLP-GLA8.5系を調製して、MQ-GLA20と同じ3.4μg μmol-1の酵素および膜成分比率を得た(表3参照)。全てのナノベシクルは、実験の節に記載されたDELOS-SUSP製造経路を用いて調製した。
【0143】
得られたナノベシクルの組成を以下の表3に記載し、それらの物理化学的特性を以下の表4に記載する。
【0144】
【表3】
【0145】
【表4】
【0146】
〔1.2 MKCは、ナノベシクルのコロイド安定性およびGLA捕捉効率を改善した〕
Cabrera、I.ら、2016に記載されているものと同様のGLA負荷リポソーム(LP-GLA20)を調製したが、市販のアガルシダーゼアルファ(リプレガル(登録商標))を高品質、タグフリーのモデル酵素として使用し、また、社内で製造されたHisタグGLAの代わりに、すでに承認され商品化されているGLAを使用し、同様の低酵素捕捉効率を得るが、以前に報告された系(Cabrera、I.ら、2016)よりも不安定であった。市販のGLAを捕捉すると、LP-GLA20は、LPおよび以前に評価された系(Cabrera、I.ら、2016)と比較して、より高い平均粒径およびより広い粒径分布を示し、また、有意に高い多分散性指数によって反映された。加えて、LP-GLA20は、低い負のζ電位値、すなわち、それらの安定性に直接的な負の影響を有する事実を示した。具体的には、これらのLP-GLA20リポソームは、製造後数日で沈降した。
【0147】
比較して、MQ製剤は、約70nmの狭いサイズ分布および有意に小さい平均サイズを示した。特に、それらの物理化学的性質は、GLAが系(MQ-GLA20)に組み込まれたときにも維持された。
【0148】
すべての3つのHLP系(表4参照)は直径が約110nmの小さなベシクルを形成し、MQベシクルよりもわずかに大きいが、依然として狭いサイズ分布を有していた。ζ電位値はMKC濃度と直接相関し、より多くのMKCを構造に添加すると増加した。MKCの添加は、GLAが捕捉された場合(HLP-GLA20系)でも高い陽性のζ電位値を維持したが、GLA(HLP)の非存在下で得られた値よりわずかに低い値であった。ナノ製剤の安定性は、カチオン性MKC界面活性剤を含有するMQ-GLA20およびHLP-GLA20を、非含有MKC LP-GLA20系と比較した場合に明瞭に観察されたが、これは第1の系の製造後1ヶ月までベシクル沈降が観察されなかったためである。MKC含有系の著しい安定性は、それらのサイズ、PDI、およびζ電位の経時的変化をモニターすることによっても観察された(図1)。
【0149】
次に、ナノベシクル中のGLAの濃度をSDS-PAGEおよびデンシトメトリー分析(表4に示される各ナノベシクル系についてのGLA濃度)によって定量し、それに基づいて、捕捉効率(EE%)およびGLA負荷を決定した(実験の節を参照されたい)。図2に見られるように、MKCは、ナノ製剤へのGLAの組み込み能力において重要な役割を果たした。遊離MKC LP-GLA20(EE~30%)と比較して、MQ-GLA20(EE>80%)において有意に高い捕捉効率が達成された。前述のように、第四級アンモニウム界面活性剤MKCはMQ-GLA20製剤の主な膜成分であり、その結果、膜中のより高いカチオン性表面電荷をもたらし、静電相互作用によるGLAのより高い捕捉を誘導した。図2に示されるように、ハイブリッドリポソーム系において同様の効果が見出され、HLP-GLA20系において、EEおよびGLA負荷は、存在するMKCの量と直接相関した。(0.4%MKC)‐HLP-GLA20(最低MKC濃度)について、23±5%の捕捉効率が得られ、LP-GLA20に匹敵し、これは、MKC添加によって与えられる物理化学的特性(サイズ、PDI、および安定性)の改善にもかかわらず、EEの改善を達成するためにより多くの静電相互作用が必要であることを示唆する。より高いMKCレベル、(2.2%MKC)‐HLP-GLA20および(4.3%MKC)‐HLP-GLA20を有する製剤では、それぞれ60±20%および100±20%までの著しく改善されたEEが検出された。しかし、(4.3%MKC)‐HLP-GLA20とMQ-GLA20のEE%間の差は20μg/mlのこの特異的GLA濃度で統計的に有意ではなく、MKC濃度≧4.3mol%によって提供される静電相互作用はこの量のGLAを捕捉するのに十分以上であることを示した。
【0150】
SAXSを使用して、リポソーム形態の変化のさらなる理解を得た。最初に、GLAが負荷リポソーム試料中の全散乱信号に有意に寄与したので、遊離GLAからの散乱を調べた。GLAの既知の二量体結晶構造(PDB: 1r4626、χ2=1.8)に基づいて、純粋な酵素のSAXSデータにrigid-body refineされた二量体構造(Steiner、E.M.、et al.2018)をフィッティングすることができた。フィッティングは絶対スケールで行い、1.10mg mL-1の濃度推定値を得た(全てのGLAが二量体形態であると仮定する)これは、市販のGLA試料の1mg mL-1の濃度よりもわずかに高かった。低散乱ベクトル係数qにおける強度のわずかな増加は、試料中のわずかな凝集を示唆し得、いくぶん高い濃度推定値をもたらす。ナノ製剤では、SAXSデータは、二重層膜の断面プロファイルにわたる電子密度の変動から生じる、リポソームに典型的な中間体qにおける特性最小値を示した。データは、Pabst .et al.2000および2003に基づくパラクリスタルモデル(Hosemann、R.et al.1963)に適合させ、層の平均数(N層)および二層の厚さ(T)を決定することができる。データをフィッティングするとき、良好なフィッティングを得るために、ポリマー散乱からのさらなる寄与を含めなければならないことが観察された(表5)。GLA(LPおよびHLP)を含まない試料では、この散乱寄与は一定であり、おそらく膜表面上の可撓性chol-PEG200-RGDから生じる。したがって、GLAを含有する試料については、ポリマー散乱は、GLAフリーフィットから得られた平均値に固定された。LP-GLA20およびHLP-GLA20ではGLAは散乱パターンにも寄与し、したがって、遊離GLAからの理論的信号はそれ自体の個々のスケール因子との線形結合を通してリポソーム散乱に加えられた。ポリマーおよびGLAからの散乱寄与は小さく、ある程度相関していたが、SAXSを用いてGLA濃度を決定することはこのアプローチによってなお可能であり、これは理論的に計算されたGLA濃度とかなりよく一致した(表5)。
【0151】
【表5】
【0152】
MKC濃度の増加は、GLA含有(51.0Åから49.3Å)およびGLA非含有(51.5Åから48.5Å)リポソームの両方で二重層厚さ(T)をわずかに減少させた。さらに、MKCを有する試料では、GLAが添加されたときにTはわずかに高く、このことは、タンパク質が、正に荷電したリポソーム表面に結合し、それによって見かけの二重層の厚さを増加させる可能性があることを示唆している。LPとLP-GLA20の両方は、MKCがリポソームに導入されるにつれて減少する多層を示し、おそらく、HLPとHLP-GLA20と比較して、LPとLP-GLA20で観察された一般的なより低い安定性と初期沈降の効果である。
【0153】
cryo-TEMによるナノベシクルの直接分析は、SAXS分析と完全に一致した(図3)。ナノ製剤は予想されたように大部分が単層であり、サイズがかなり均一であった。LP-GLAおよびHLP-GLA8.5ナノベシクルは直径が約120nmであり、MQ-GLA20ナノベシクルはより小さく、平均して直径が60~70nmであり、全て表3に示されるDLSデータと優れた一致を示した。cryo-TEMは個々のナノベシクルを示したので、いくつかの二重層構造を有する特定の多分散性が認められたが、全体的かつSAXS分析と一致して、ベシクルは高度の単層性を示した。
【0154】
全体として、物理化学的性質は、クアトソームおよびハイブリッドリポソームの両方がGLA酵素の潜在的担体としてのさらなる探索のための有望な系であることを示した。カチオン性界面活性剤の存在による膜の正電荷の増加はより狭くより単分散のサイズ分布をもたらし、コロイド安定性の著しい改善を伴った。これは、MKCフリー系(LP-GLA20)で見られる初期の不安定化現象を修正し、MQ-GLA20およびHLP-GLA系をさらなる審査に適したものにした。特に重要なのは、LP-GLA20と比較して、GLA捕捉効率の2倍の増加であった。これは、酵素ナノ製剤における大きな進歩であり、ナノベシクルへの大きな生体高分子の高いまたは完全な組み込みを得ることはしばしば非常に困難であった。
【0155】
〔1.3. GLAの比酵素活性は、MKCを30%モル未満で使用した場合に増加した〕
ナノベシクルに結合したGLA酵素の特異的酵素活性を、Cabrera、I.ら、2016に従う蛍光アッセイを用いて測定した。GLAはリソソーム酵素であったので、酵素活性アッセイは低pHで起こる必要があった。変化していないカプセル化パターンにわたって酵素活性が測定されたことを確実にするために、ナノ構造化製剤の安定性を、アッセイ条件の酸性培地中で、方法の節で説明した酵素アッセイを実施する前に確認し、ナノベシクルの平均サイズ、PDI、および粒子濃度を、有意な変化なしに、酵素アッセイ状態中で維持した。
【0156】
驚くべきことに、図4Aに見られるように、結果は、ナノベシクル中のMKCの存在がタンパク質酵素活性に劇的な影響を及ぼすことを示した。MQ-GLA20におけるh-MKCの使用は、最大80%の酵素活性のかなりの減少を引き起こした。一方、MKCを使用しない場合(LP-GLA20系)、酵素活性は市販のGLAの約半分であった(市販されているリプレガル(登録商標)は、一連の賦形剤(ポリソルベート-20、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウムおよびリン酸一塩基ナトリウム)を最終医薬形態で含む溶液として製剤化された)。市販のGLA製剤の非含有MKCリポソームへの封入は酵素をおそらく不安定化し、最初は0.2μg/mlの非イオン性ポリソルベート-20界面活性剤でその元の製剤中で安定化した。
【0157】
興味深いことに、HLP-GLAの場合、リポソーム膜中のl-MKCの存在は、全てのハイブリッドリポソームの酵素活性が、膜中にMKCを含まない市販の遊離酵素およびLP-GLA20の酵素活性を上回るので、ナノ製剤中の酵素活性を実質的に増加させるのに役立った。
【0158】
LP-GLAおよびHLP-GLAまたはLP-GLAおよびMQ-GLA間の統計的比較はそれぞれ極めて有意(p=0.0001、***)であり、非常に有意(p=0.004、**)であった(明確にするために、図4Aの図中には示されていない)。(0.4%MKC)-HLP-GLA20を、より高いMKC含有量を含む他のHLP-GLAと比較した場合にのみ有意であるHLP-GLAの間の酵素活性に関する統計的比較(p=0.004、**)である。
【0159】
純粋なMKCの存在下で、HLP-GLA製剤中のものと同等の界面活性剤濃度で測定したGLAの酵素活性は、対応する製剤について測定したものよりも低かった(図4Bを参照されたい)。この結果は、酵素活性増強が、l-MKCをその膜中に含有するHLP-GLAリポソーム中のGLAの捕捉に関連しており、製剤中のこの界面活性剤の存在のみによるものではないことを指摘した。
【0160】
ハイブリッドリポソーム系は、使用される他のナノベシクル系と比較して、改善されたGLA負荷、物理化学的安定性、ならびにコンジュゲートGLAのより高い酵素活性に関して驚くべき結果をもたらした。
【0161】
〔1.4. 本発明のリポソームは、安全なin vivo毒物学的プロファイルを維持しながら、GLA酵素のin vitro有効性を増加させた〕
HLP-GLAが細胞に入り、リソソーム内のGb3堆積を減少させる能力を、蛍光標識Gb3(NBD-Gb3)を添加することによって測定した(Cabrera、I.ら、2016)。このアッセイでは、内因性GLA活性を有さないFabry KOマウス由来のマウス大動脈内皮細胞(MAEC)を、異なる濃度のHLP-GLAで刺激した。結果として、総Gb3損失値は、低pHが酵素活性を可能にした、細胞内在化およびリソソーム局在化後のナノベシクルによって担持された酵素の作用のみに起因した。結果は、内因性酵素活性の以前に記載された増加に従って(図4C)、ならびに以前に公開されたGLA負荷リポソーム系Cabrera、I.ら、2016と一致して、遊離GLAを用いた実験と比較して、ナノ製剤化酵素のより良好な効力を示した。しかし、以前の系とは異なり、これらの新しいHLP-GLA系はコロイド安定性の増強およびより高いGLA捕捉効率(EE≧90%)を示し、したがって、それらは、前臨床開発の進行段階へのそれらの進行を保証するために、全体的に物理化学的および生物学的要件を満たす、より良好な品質のものであった。
【0162】
HLP-GLA系の安全性および毒性プロファイルを特徴付けるために、いくつかのin vitroアッセイを実施した。最初に、HeLa細胞を異なる濃度のHLP-GLAに曝露し、MTTアッセイにより72時間インキュベーション後に細胞生存率を測定した。細胞生存率は全ての場合において75%を超えて維持され、ハイブリッドリポソームへのMKCの組み込みはいかなる用量依存性細胞毒性も誘導しなかったことを示した。
【0163】
さらに、十分に確立された血液適合性試験を用いて、HLP-GLAを安全に静脈内投与できるかどうかも試験した。最初に、赤血球脆弱性における異なるナノ製剤の影響を、マウス血液試料における溶血試験を用いて研究した。試験したHLP-GLA系のいずれも有意な溶血を誘導せず、測定値は全溶血の5%を決して超えないことが見出された。
【0164】
同様に、ヒト血漿を0.154mg mL-1の(2.2%MKC)-HLP-GLA20と共にインキュベートした後、血漿凝固時間の有意な変動は検出されず、結果は正常な予想範囲内であった(表6参照)。
【0165】
【表6】
【0166】
HLP-GLAがin vitroで安全であることが証明されたら、ビヒクル(GLAを含まない)のみを用いてin vivo反復投与毒性アッセイを実施した。この予備的なin vivo研究の背後にある理論的根拠は、MKC含有リポソームを使用することの妥当性を評価し、したがって、in vivoでビヒクルによって引き起こされる潜在的な毒性を同定することであった。したがって、C57BL6野生型マウスを、3つの異なった用量(0.37、1.22および3.67mgの脂質/注射、これは、約12、41および105mg kg-1の脂質に相当する)の非GLA(2.2%MKC)-HLPハイブリッドリポソームで、4週間に、1週間に2回処置した。投与前に、リポソーム系の濃縮は所望の用量に達するために必要であり、治療用量をin vivoで達成するためにナノ製剤中の十分なGLA濃度に達するために必要であった濃縮因子を模倣する。この工程は、系の物理化学的特性のいかなる有意な変化も誘発せず、12倍濃縮試料を得た(材料および方法の節に示されるように濃縮した)。また、(材料および試験法の節に示されるような)濁度測定によってヒト血清(37℃)中のこの系の安定性を評価した。濁度の有意な変化は観察されず、ベシクルの完全性もcryoTEMによって確認された。
【0167】
治療計画はファブリーマウスにおけるGLAを用いた有効性アッセイのそれを模倣することを目的とし、この場合、持続的な効果を確実にするために、(リプレガル(登録商標)またはFabrazyme(登録商標)を用いた)酵素の反復投与が必要とされた。動物の全体的な福祉(一般的な外観、飲食行動および刺激に対する応答)ならびに重量を、5週間(4週間の処置+追加のサーベイランスの週)の間にモニターし、モニターしたパラメータのいずれにも有意な変化はなく、反復投与時のHLP系の良好な耐容性を実証した。
【0168】
〔結論:〕
異なるMKC含量を有する、GLA酵素捕捉のための2つの異なるRGD標的化脂質ベースのナノベシクル、例えば、高いMKC濃度(総膜成分の>50モル%)を含有するクアトソームとして知られる非リポソームナノベシクル、および、低いMKC濃度(総膜成分の<5モル%)を含有するハイブリッドリポソームの使用を探求した。DELOS-SUSP法を用いて両系の調製に成功し、高レベルの均一性を有する多機能ナノベシクルの調製に対するこの技術の適合性を確認した。これらのベシクルの膜組成は、ナノ製剤の物理化学的および生物学的特性の両方に強く影響した。MKCを組み込むことによる膜への正電荷の添加は、ナノ製剤のコロイド安定性を改善した。
【0169】
さらに、系に添加された正電荷の量は、酵素を捕捉する能力に直接影響を及ぼした。その結果、クアトソームは、高い捕捉効率を示したが、驚くべきことに、低レベルのMKCを有するハイブリッドリポソームはクアトソームと同様の酵素捕捉効率を達成した。しかし、高い捕捉効率および良好なコロイド安定性にもかかわらず、クアトソームは、GLA酵素の活性を完全に消失させた。In vitroで、l-MKCハイブリッドリポソーム(全膜成分の0.4~4.3mol%)は、非細胞毒性で非溶血性であることを示した。さらに、これらのハイブリッドリポソームへのGLAの捕捉は、酵素の有効性を増強し、遊離投与GLAよりも、リソソームGb3のより大きな減少を示した。MKC含有リポソームの反復投与後、マウスにおいて良好な忍容性が観察され、有害な副作用は観察されなかった。全体として、本明細書に記載されるGLAのコロイド安定性、捕捉効率、および生物学的活性の改善は、ファブリー患者における電流酵素的補充療法に対するこれらの系の有意な利益を実証するために必要なステップである、in vivoで投与されるGLAコンジュゲートリポソームの用量および体積の低減を可能にした。この結果は、ファブリー病治療のためのl-MKCハイブリッドリポソームの使用を可能にする。
【0170】
〔実施例2. 膜賦形剤に対するGLAの比率の影響〕
GLA濃度と、ナノリポソーム系(すなわち、DPPC、コレステロール、およびコレステロール-PEG400-RGDおよび非脂質カチオン性界面活性剤)を形成する膜賦形剤の濃度との間の関係を分析した。
【0171】
MKC界面活性剤を含まないGLA-HIS(HEK細胞において得られる)およびChol-PEG200-RGDを使用する非GLA製剤に関する以前に公表された研究は、Cabrera、I.ら、2016に記載されているように、14μgを超えるGLA/mg膜賦形剤(膜賦形剤1mgに対して14μgを超えるGLA)の比が不安定な中間体製剤をもたらし、高い多分散性値および不十分な経時安定性を示すことを示した。さらに、これらの以前の製剤は、低いカプセル化効率を有していた。一方、膜に対するGLAの比が6.1より低いことは、安定な製剤を可能にしたが、達成されたGLA濃度は8.5μg/mLのみであった(Cabrera、I.ら、2016)。
【0172】
MKCの添加が実施例1に示されるようにナノリポソームの物理化学的および封入特性の改善を明らかにしたら、範囲設定試験を実施して、(Cabrera、I.ら、2016に開示された)約30μg GLA/mg膜賦形剤の以前に記載された比を有する最適化された製剤が安定な様式で得られたかどうかを評価した。
【0173】
〔材料および方法〕
この実施例で使用された全ての材料および方法は、別段の指示がない限り、実施例1に示されたものと同じであった。
【0174】
GLA負荷ナノリポソーム(ナノ-GLA)製剤は、DPPC、コレステロールおよびコレステロール-PEG400-RGDを含有する水溶液リポソーム系におけるGLAタンパク質(この場合、タグを含まない(タグフリー)αガラクトシダーゼ(「組換えヒトGLA」、「rh-GLA」と命名される)と、少量の界面活性剤ミリスタルコニウムクロリド(MKC)(他の膜賦形剤に関しては5%モル)との捕捉からなる。ナノ-GLAは2つの工程、工程(1)で、DELOS-suspにより中間分散液を得て、工程(2)で、この中間体を濃縮し、タンジェンシャルフローろ過(TFF)により透析濾過した。
【0175】
in vitro実験のために、実施例1のHLPと同様の低MKC(全膜成分の5モル%)を含む「ハイブリッドリポソーム」(HLP)を得たが(実施例1の材料および方法に記載されるように)、この場合、PEGは、本明細書で「リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC」または「HLPDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC」または「ナノ-GLA」と命名されたPEG400であった。したがって、このリポソームは、Cabrera、I.ら、2016に記載されているように、示されたMKC含有量、ならびにリン脂質DPPC、コレステロール、およびコレステロール部分(chol-PEG400-RGD)に連結されたRGDユニット(トリペプチドArg-Gly-Asp)も含有し、ここで、PEG400(下付き文字はPEG分子量に対応する)は、アルキルエーテルタイプの結合を介して一端がコレステロールに共有結合され、カルバメート結合を介して他端がRGD配列を含むペプチドに共有結合され、RGDペプチドはhead to tail環状cRGDfk(配列番号2)であった。このリポソームは、実施例1に示されるDELOS-SUSP方法を使用して得られ、透析濾過および濃縮工程にわずかな差異があった。DELOS-SUSPによって製造されたリポソームを7.0~7.5倍に濃縮し、4~5回の透析濾過サイクルを適用して、水で、または5%w/vのグルコースを含む水で透析濾過した。
【0176】
DPPC:コレステロール:chol-PEG400-RGDのモル比は10:6.5:0.5であった。したがって、chol-PEG400-RGDは、成分に関して3%モルを表した。
【0177】
リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCはまた、タグフリーアルファガラクトシダーゼ(「rh-GLA」)を有し、rh-GLAは、その単量体が、配列番号1の配列(非修飾遺伝子を有する約100KDaのタグフリータンパク質であり、ヒトGLAと同じ配列であるが、2021年1月25日の日付においてUniProt番号P06280に含まれるシグナルペプチドを有さない(遺伝子番号:2717))を有し、また、rh-GLAは、スタンダード細胞培養技術(安定発現ベースの製造方法)(Sambrook J. et al. Molecular Cloning a Laboratory Manual, Third Edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press. Chapter 16, 16.1-16-54)に従い、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養(CHOK1細胞)を用いてGLA遺伝子を用いて組み替えて得られた。
【0178】
rh-GLAを、実施例1に示されるように負荷し、それを、非共有結合を通してナノリポソーム(リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC)に捕捉した;例えば、質量比率30のために、0.27mg/mlのGLAを負荷し、これは、(DPPC、Chol、Chol-PEG400-RGDおよびMKCに関して)約30μg GLA/mg膜賦形剤のGLA/膜成分比率を表す。
【0179】
例えば、ナノ-GLA製剤比率GLA/膜成分の物理化学的性質および安定性に対する影響に関連して、ナノ-GLA試料は、5mol%のMKCおよび3mol%のコレステロール-PEG400-RGDを含有するタグフリーGLAバージョン(「rh-GLA」)を用いて調製された。試料は、第1のDELOS工程中に、1.2mg/mLの膜賦形剤と共に0、30および45μg/mLのGLAを製剤化して得た。次いで、第2の製造工程(TFF)中に、試料を7.0~7.5倍に濃縮し、最大343μg/mLのGLAおよび8.4または9.0mg/mLの脂質膜成分を含有し、膜に対するGLAの比が0~41μg/mgであるナノ-GLAの異なる製剤を得た。
【0180】
ナノ-GLA製剤の細胞培養におけるin vitro酵素有効性のために、この実験において、細胞に入り、リソソーム内のGb3堆積を減少(加水分解)させるHLP-GLAの能力を、Fabry KOマウスに由来するマウス大動脈内皮細胞(MAEC)に蛍光標識Gb3(ニトロベンゾオキサジアゾールGb3、NBD-Gb3)基質を添加することによって測定した(実施例1およびCabrera、I.ら、2016に開示)、このアッセイにおいて、内因性GLA活性を有さないFabry KOマウス由来のマウス大動脈内皮細胞(MAEC)を、異なる濃度のHLP-GLAで刺激した。結果として、総Gb3損失値は、低pHが酵素活性を可能にした、細胞内在化およびリソソーム局在化後のナノベシクルによって担持された酵素の作用のみに起因した。
【0181】
〔結果:〕
〔2.1. ナノ-GLA製剤の物理化学的性質および安定性、またはGLA/膜成分比率への影響〕
結果は、質量比率GLA/膜成分が、その巨視的および微視的外観、平均粒径および多分散性に関してナノ-GLAの物理化学的安定性に重大な影響を及ぼすことを示した。非脂質カチオン性界面活性剤(例えば、MKC)の低濃度(リン脂質、chol、コンジュゲートおよび界面活性剤に関して30モル%未満)での存在に加えて、別のパラメータ、すなわち、GLA重量とナノリポソーム系を形成する膜賦形剤(すなわち、DPPC、コレステロール、コレステロール-PEG400-RGDおよびMKC)の重量との間の関係も重要であった。
【0182】
【表7】
【0183】
表7に見られるように、一方で、0、20および30μg/mLの、膜に対するGLAの比は、均質な乳白色および経時的に安定な外観を示し、平均粒径は約120~150nmであり、多分散指数(PdI)は、すべての場合において0.20未満であった。最大271μg/mlのGLAを含有する濃縮ナノ-GLAバージョンは2ヶ月以上安定であり、中間製剤は1ヶ月以上安定であった。
【0184】
一方、36および41μg/mgのより高いGLA/膜比で調製されたバッチは、調製後、より乳状であり、いくつかの沈殿物は、調製後わずか数時間で中間製剤中に現れ、約200nmのサイズおよび0.40を超えるPdIをもたらした。これらの高い比率で調製した最終ナノ-GLA濃縮バージョンでは有意なサイズ差は観察されなかったが、PdIは全ての場合で0.25を超えた。その安定性も損なわれており、凝集体の形成によって引き起こされるそれらの生成後7日未満で沈降を呈していた。
【0185】
〔2.2. GLA:膜成分の比率が約30マイクログラムGLA/mg膜成分であるような本発明のリポソームを使用するナノ-GLA製剤比率GLA/膜成分の細胞培養物におけるin vitro酵素効力に対する影響:〕
マウス大動脈内皮細胞(MAEC)におけるin vitro有効性に対するこれらのより高いGLA対膜比の影響も見出され、実施例2.1に開示された高比率のナノ製剤(少なくとも36の比率)ではGb3レベルをより効果的に減少させることができなかった(図5Aを参照されたい、ここで、rh-GLAを約36の比率で含むリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC(「NF-630」と呼ばれる)は、遊離タンパク質(リプレガル(登録商標)およびrh-GLA)よりも優れた有効性を示さなかった)。一方、約30(μg GLA/mg脂質膜成分)の比率でrh-GLAを含むリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC(図5Bにおいて「ナノ-GLA」と命名される)は、遊離GLAを用いた実験と比較して、ナノ製剤化酵素のより良好な効力を示し、それはリプレガル(登録商標)の150%の活性を有した(図5Bを参照されたい)。図5Bに見られるように、rh-GLAを含まないDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCは、活性を示さなかった(前記図において「NF-empty」と命名された)。rh-GLA効果を含むリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCは、別個のアイテム(空のリポソームにrh-GLAを加えたもの)の効果の加算によるものではなく、図5Bに見られるように、驚くべき相乗効果によるものであった。
【0186】
〔結論:〕
したがって、GLAと膜賦形剤との間の質量比率は、遊離タグGLA、5mol%のMKCおよび3mol%のコレステロール-PEG400-RGDを用いて調製されたナノ-GLA製剤の物理化学的性質および安定性に重大な影響を及ぼした。実験的に見られるように、36μg GLA/mg膜賦形剤の比率は、リポソーム分散体の沈降を引き起こす凝集体の形成、および粒度分布におけるより高い多分散性値の取得を導いた。ナノ製剤の物理化学的性質におけるこの障害は、ナノ製剤の有効性に直接的な影響を及ぼした。一方、約30μg GLA/mg膜賦形剤の比率は、物理化学的性質、安定性、ひいては有効性の点で高品質のナノ-GLA製剤を生成した。したがって、GLAと膜賦形剤との間の最大比率は、安定なナノ-GLA製剤について、36μg GLA/mg膜賦形剤未満である必要があった。
【0187】
〔実施例3.リポソームまたは本発明を用いたファブリー病のin vivo処置:〕
〔材料および方法〕
この実施例で使用された全ての材料および方法は、特に指示がない限り、実施例1および実施例2(2.2で得られた結果について)で示されたものと同じであった。
【0188】
in vivo実験のために、実施例1および2のHLPと同様の低MKC(全膜成分(DPPC、chol、コンジュゲートおよび非脂質カチオン性界面活性剤)の5モル%)を含む「ハイブリッドリポソーム」(HLP)が得られたが(実施例1の材料および方法に記載されるように)、この場合、PEGは、本明細書で「リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC」または「HLPDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC」(「ナノ-GLA」)と命名されたPEG400であった。したがって、このリポソームは、示されたMKC含有量、ならびにリン脂質DPPC、コレステロール、およびコレステロール部分(chol-PEG400-RGD)に連結されたRGDユニット(トリペプチドArg-Gly-Asp)を含有し、ここで、PEG400は、アルキルエーテルタイプの結合を介して一端がコレステロールに共有結合され、カルバメート結合を介して他端がRGD配列を含むペプチドに共有結合され、RGDペプチドは環状cRGDfk(配列番号2)であった(実施例1および2に記載の通り)。このリポソームは、実施例1および2に示すDELOS-SUSP方法を用いて得た。
【0189】
DPPC:コレステロール:chol-PEG400-RGDのモル比は10:6.5:0.5であった。したがって、chol-PEG400-RGDは、成分に関して3%モルを表した。
【0190】
in vivo実験のために、リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCまた、実施例2に示すように、タグフリーαガラクトシダーゼ(GLA)またはrh-GLAも含んでいた。CHO細胞中で産生されるように、rh-GLAのグリコシル化プロファイルは、Fabrazyme(登録商標)と同等であった。この実験で使用することができた他の可能なGLA酵素は、Sanofi GenzymeからのFabrazyme(登録商標)、またはFabrazyme(登録商標)からのBiosimilarsなどの他の供給源であった。in vivo実験のために、rh-GLAを、実施例1および2に示されるように負荷し、それを、非共有結合(0.27mg/mL GLA、比率30)を通してナノリポソーム(リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC)に捕捉した。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明者らは、rh-GLA酵素がおそらく、活性部位が(二重層とは反対の)水相に曝露され、二重層の表面に吸着された組み込まれたrh-GLAの一部であり、別の画分がナノリポソームの内部に封入された、末梢タンパク質として膜に組み込まれたと考えた。本発明のリポソームにおいて、リポソームの成分の総ミリグラムに対するGLAのマイクログラムの比率は30であった(実施例2.2に記載の通り)。
【0191】
〔非経口投与のための医薬組成物の緩衝液製剤:〕
本発明のリポソームの非経口投与のための適切な緩衝液を選択するために、いくつかの培地を、表8(結果の節の以下を参照されたい)に示されるように透析濾過に使用した。材料緩衝液:実施例1に記載されたミリQ水;スクロース: D-(+)-スクロース、フロッカバイオケミカ、CAS 57-50-1;グルコース: D-(+)-グルコース、デキストロース、シグマ-アルドリッチ;トレハロース: D(+)-トレハロース2水和物、パンリアックAppliChem、CAS 6138-23-4;ヒスチジン: L-ヒスチジン純粋、パンリアックAppliChem;グリシン:グリシンバイオウルトラ、シグマ-アルドリッチ、CAS 56-40-6;NaCl:分析用塩化ナトリウム、パンリアックAppliChem、ITW試薬;二塩基性リン酸ナトリウム:シグマアルドリッチ、CAS 7558-79-4;一塩基性リン酸ナトリウム一水和物:フルカバイオケミカ、CAS 13472-35-0.塩化ナトリウム(5.494mg/mL)、二塩基性リン酸ナトリウム(0.44mg/mL)、および一塩基性リン酸ナトリウム二水和物(0.14mg/mL)を用いて調製したPBS 100mM。緩衝液製剤(以下の結果節3.1に関連する)に関する実験のために、モデルとして使用したGLAは、Corchero JL.et al.2011に記載されたGLAcmycHisであった。
【0192】
〔in vivo酵素活性(EA):〕
リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC(実施例1および2に説明されるように透析濾過および濃縮)、リプレガル(登録商標)、またはリポソームを含まないrh-GLAをファブリーマウスモデルに投与した後の血漿中のEAを分析して、GLAのGLA血漿含有量を決定した(Ohshimaら、1997)。Fabry KOマウスに、各グループにおいて1mg/kgのGLAを投与し、1または30分後に安楽死させた(グループおよび時点あたり4匹の動物)。
【0193】
〔単回投与有効性試験:〕
リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC、遊離rh-GLAまたは遊離リプレガル(登録商標)の1mg/kg(酵素の投与量)の単回静脈内(i.v.)投与をファブリーKOマウス(1グループあたり8匹)に行った。1週間後、マウスを安楽死させて臓器試料(肝臓、脾臓、腎臓および心臓)を採取した。器官をホモジナイズし、液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析(LC-HRMS)によってGb3レベルを決定した。遊離rh-GLAおよびリプレガル(登録商標)を、1mg/kgのGLA(同量のタンパク質)の同じ投与量で投与し、酵素(リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC)のナノカプセル化が、遊離GLA(rh-GLAおよびリプレガル(登録商標))の投与を上回る任意の優位性を与えたかどうかをよりよく調べた。このアッセイで使用される方法論および実験設計は、現在臨床実践中または前臨床開発中のタンパク質の効力を試験するために以前に使用された手順に従った(Ioannou et al、2001、Shen et al、2016)。相対的Gb3損失値の計算のために、非処置KOマウスとWT対応物との間のGb3レベルの差は、WTにおけるGb3損失値の100%に相当すると仮定された。次いで、異なる治療群におけるGb3レベルは、WTにおけるこの総Gb3損失値に差し向けられ、より高いパーセンテージのGb3損失値を有する処置がより高い有効性を有する処置であったことを意味する。結果を比較するために、多重比較によるANOVA検定およびt検定を実施した。
【0194】
〔Gb3の測定:〕
Gb3レベルは、Institute of Advanced Chemistry of Catalonia(IQAC-CSIC)で液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析(LC-HRMS)を用いて測定した。詳細には、内部標準(N-ドデカノイルスフィンゴシン、N-ドデカノイルグルコシルスフィンゴシン、N-ドデカノイルスフィンゴシルホスホリルコリン、およびN-ヘプタデカノイルセラミドトリヘキソシド、それぞれ0.2nmol)を含有するメタノール-クロロホルム(2:1、vol/vol)溶液750μLを、血漿(0.1mL)または腎臓ホモジネート(0.1mL、約0.3mg/mLタンパク質)に添加した。試料を48℃で一晩抽出し、冷却し、メタノール中の1M KOH 75μlを加え、混合物を37℃で2時間インキュベートした。75μLの1M酢酸の添加後、試料を蒸発乾固させ、スフィンゴ脂質の分析まで-20℃で保存した。分析前に、150μLのメタノールを試料に添加し、13000gで5分間遠心分離し、130μLの上清を新しいバイアルに移し、注入した。スフィンゴ脂質を、Waters/Micromass MassLynxソフトウェアで制御される飛行時間型(LCT Premier XE)検出器に接続されたAcquity超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)システムで測定した。試料をUPLC BEH C8カラム(粒径1.7μm、100mm×2.1mm)に注入し、流速0.3ml/分およびカラム温度30℃を使用した。移動相は1mMギ酸アンモニウムおよび0.2%ギ酸(溶液A)を含むメタノール、2mMギ酸アンモニウムおよび0.2%ギ酸(溶液B)を含む水であった。勾配溶出は80%溶液Aで開始し、3分間かけて90%溶液Aに増やし、3分間かけて保持し、9分間かけて99%溶液Aに増やし、3分間保持した後に行った。初期条件を2分間達成し、系を3分間安定化した。TOF検出器の取得範囲はm/z50~1500、キャピラリー電圧は3.0 kV、脱溶媒温度は350℃、脱溶媒ガス流量は600リットル/hであった。定量は、50 mDaの窓を用いて、各化合物について得られたイオンクロマトグラムを用いて行った。線形ダイナミックレンジは、標準混合物の注入によって決定した。化合物の陽性の同定は、標準(<2%)のものと比較して、<5ppmのエラーおよびLC保持時間を有する正確な質量測定に基づいた。内部標準(N-ヘプタデカノイルセラミドトリヘキソシド)に対して定量を行った。
【0195】
〔反復投与効力アッセイ:〕
反復投与効力アッセイを実施し、成分比率10:6.5:0.5(DPPC:コレステロール:Chol-PEG400-RGD)のrh-GLA(「ナノ-GLA」と命名)と5.3%mol MKCとを含有するDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKCを、遊離酵素rh-GLA(本明細書において「GLAvf」と命名)およびリプレガル(登録商標)と比較した。動物(上記で説明した単回投与実験で使用したのと同じ種類の動物、対照としてFabry KOマウス、C57BL6 WTマウス、および非処置Fabry KOマウス)を、比較製剤のそれぞれについて、各化合物1mg/kg(各群についてn=6)で、8回までの用量(投与用量から1日目、3日目、5日目、8日目、10日目、12日目、15日目、および17日目に1回)で投与した。WTマウスを対照として使用し、それらには何も与えず、それらは、WTが有するGb3のレベルを知るための対照としての役割を果たした(未処理のKOが有するGb3のレベルから健常なWTが有するそれを差し引いたGb3のレベルの差は、100%の有効な治療が減らさなければならないGb3のレベルであり、したがって、図8Aおよび図8Bおよび図9A図9Bおよび図9Cに含まれるグラフの100%のGb3損失値であった)。次いでマウスを安楽死させ、最後の投与の24時間後に試料(血液、腎臓、肝臓、脾臓、肺、皮膚、心臓および脳)を採取した。Gb3を、先に説明したようにLC-MS/MSによって分析した。結果を比較するために、多重比較によるANOVA検定およびt検定を実施した。差は、p<0.05の場合、統計学的に有意であるとみなした。
【0196】
〔結果:〕
〔3.1. リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG-RGD):MKCおよびrh-GLAを含む非経口製剤〕
非経口製剤はリポソーム構造の破裂または収縮を防ぐためにならびに組織への損傷を避けるために血液と等浸透圧(約275~300mOsm/Kgの浸透圧)である必要があるので、糖(トレハロース、グルコース、スクロース)、アミノ酸(ヒスチジンおよびグリシン)、リン酸塩および他の化合物ならびに標準NaCl溶液を含有する異なる培地を評価した。
【0197】
まず、PBS 100mMを用いた第1の試験を評価した。GLAタンパク質モデルとしてこの場合にはGLAcmycHisを含むリポソームを、実施例1で先に示したようにDELOS-SUSPによって調製し、通常は水中で減圧した。次いで、透析濾過工程において、試料を、水の代わりにPBS 100mMを使用する5サイクルの透析濾過に供した。
【0198】
透析濾過後の差異が試料について観察された。第一に、透析濾過直後の肉眼的外観はわずかに白色であり、2日後にいくらかの沈降が観察された。PDIの増加も観察された(0.31)。さらに、GLA定量化は、透析濾過中にGLAが失われたことを示した。使用される培地が、リポソームの物理化学的性質(サイズ、PDI、形態)に影響を及ぼし得るだけでなく、GLAとリポソームとの相互作用にも影響を及ぼし得、リポソームからの酵素の剥離を誘発し得ることを示す。
【0199】
結論として、水中での生成およびPBSリポソーム中での後の透析濾過は、同様の物理化学的特性を維持した。しかしながら、透析濾過緩衝液交換中にGLAが失われる可能性がある。
【0200】
これらの結果を考慮すると、透析濾過による緩衝液交換は、浸透圧調整剤を組み込むための良好な戦略であると思われた。
【0201】
第2の研究では、異なる浸透圧調整剤のスクリーニングが検討され、リポソーム特性ならびにGLAの捕捉効率に及ぼし得る影響が研究された。
【0202】
最初に、異なる化合物の濃度を、以下の表8に示すように、血液に対して等浸透性(約270~300mOsm/Kg)であるように調整した。次いで、これらの培地中の透析濾過を、2つの異なる実験(スクリーニング1および2)において、表8に示す培地中で行った。
【0203】
【表8】
【0204】
第1の試みにおいて、GLA負荷リポソーム(MKC=0.04mg/mLおよびGLA 35μg/mLを有するモル比10:6.5:0.5のDPPC:Chol:chol-PEG400-RGD、「NF-411」と命名されたプロトタイプ)の1つのバッチを、理論濃度35μg/mLのGLAを有するDELOS-suspによって製造した。次いで、MilliQ水の代わりに異なる緩衝液/培地に対して全試料を透析濾過した(表10/スクリーニング1に要約し、NF-411と同じリポソーム組成を有するが、表9に説明されるように異なる培地を有するNF-412~NF-417を得た)。
【0205】
試料をDLSによって分析(サイズ、PDIおよびζ電位)し、GLA濃度をTGXによって評価した。捕捉効率を、全試料中のGLAの質量当たりの負荷試料中の質量GLAとして計算し、透析濾過が、以前にPBSについて見られたようなGLAの損失を引き起こしたかどうかを調べた。結果を表9にまとめる。
【0206】
【表9】
【0207】
選択された培地中の透析濾過された(「透析濾過」)試料について、試験された濃度(スクロース10%、グルコース5%、およびトレハロース10%w/v)の全ての糖は、280~300mOsm/Kgの浸透圧値を有する等張性試料になった。これらの製剤はまた、PDI<0.25および元の試料と同様のサイズ(約110~130nm)を有する良好な物理化学的特性を維持した。カプセル化効率は3つの系について高(>70%)であり、トレハロース(90%および100%に対して73%)についての捕捉効率(EE)%はわずかに低かったが、この差は関連しなかった。
【0208】
沈降および乳状の外観が観察され、より高いPDI(NF-416およびNF-417)と相関しているので、ヒスチジン10mMを含有する培地中で透析濾過したものを除いて、全ての試料の肉眼的外観は良好であった。
【0209】
結論として、この最初のスクリーニング後、リポソームに提供された3つの可能な培地、すなわちスクロース10%、グルコース5%、およびトレハロース10%が正しい浸透圧および物理化学的性質を有する。
【0210】
第2の試みにおいて、別のバッチのGLA負荷リポソーム(MKC=0.04mg/mLおよびGLA=25μg/mLを有するモル比10:6.5:0.5のDPPC:Chol:chol-PEG400-RGD、NF-431と命名された(または「NF-431(オリジナル)」と命名された)プロトタイプをDELOS-suspによって生成した。次いで、前の実施例で行ったように、MilliQ水の代わりに異なる緩衝液/培地に対して全試料を透析濾過し、NF-431~NF-441(NF-431と同じリポソーム組成物を用いたが、表10で説明されるように異なる培地中)を得た。
【0211】
試料をDLSによって分析(サイズ、PDIおよびζ電位)し、GLA濃度および捕捉効率も計算した(表10参照)。
【0212】
【表10】
【0213】
この一連の透析濾過試料において、追加の培地も試験した:LeanBioからの緩衝液(マンニトールおよびリン酸ナトリウムを含有するFabrazyme(登録商標)の組成に類似)、グリシン2.5%、スクロース8.5%およびグリシン0.4%の混合物、および最後に、塩化ナトリウム0.9%。
【0214】
試験された濃度の全ての培地は、250~300mOsm/Kgの間の浸透圧値を有する等張性試料になることが分かった。指摘すると、トレハロース(NF-437)を含有する試料は、予想よりも高い浸透圧を示した(第1のアッセイで得られた301 mOsm/Kg(NF-415)に対して347 mOsm/Kg、およびトレハロース10%ストックに対して295 mOsm/Kg)。
【0215】
これらの製剤はまた、PDI<0.30および元のものと比較して同様のサイズ(約110~170nm)を有する良好な物理化学的特性を維持した。スクロースを含有する試料の場合、それらは1週間後に少し乳白色になり、グリシン(NF-440)も含有する試料の場合に特にわずかにサイズが増加したが、PDIは影響を受けなかった。
【0216】
捕捉効率に関して、2つの傾向が観察された(図6A参照):一方で、GLAは、透析濾過後に維持されたので、糖またはアミノ酸が浸透剤として使用された場合、十分に取り込まれた。この場合、グルコース、スクロース、トレハロース、グリシンおよびスクロース/グリシンで透析濾過された試料に見られるように、高い捕捉効率(<85%)が得られた。一方、塩(例えば、塩化ナトリウムまたはリン酸塩)が使用された場合、それらはリポソームからのGLAの分離を引き起こし、透析濾過中にその損失をもたらした。この効果は、ナトリウムおよびリン酸塩、NaClを含有する緩衝液中で透析濾過された試料、ならびにPBSを用いて行われた第1の実験において見られた。
【0217】
次に、培地のこの第2のスクリーニングのために、GLA酵素活性も評価した(図6B)。(DELOS-SUSPによる減圧の直前の)水中の希釈GLAは、リプレガル(登録商標)(1に正規化)の約半分で、酵素活性の急激な低下を示した。一方、ナノリポソーム中に捕捉されたGLAは、グリシン中のGLAが他の試料よりもわずかに少ないEAを示すように見えるにもかかわらず、全ての試験培地においてその良好な酵素活性(リプレガル(登録商標)よりも高い)を維持した。
【0218】
結論として、グルコース5%、スクロース10%、およびトレハロース10%は、良好な物理化学的特性、GLA濃度および酵素活性を維持することができる等浸透性ナノ製剤を得るための最良の結果を示した。
【0219】
in vitroでの有効性(Gb3減少)に関する最後の実験では、等浸透圧培地としてのグルコース5%:およびスクロース10%(グルコース5%もしくはスクロース10%で透析濾過、または、濃縮x7およびグルコース5%もしくはスクロース10%で透析濾過)におけるリポソーム(DPPC:Chol:chol-PEG400-RGD、モル比10:6.5:0.5、MKC=0.04mg/mL(5%mol MKC)およびGLA=25μg/mL)の比較を行い、GLA負荷リポソームがリソソームに到達し、Gb3を加水分解する能力を検討した。これを、GLA欠損マウス由来のマウス大動脈内皮細胞(MAEC)の初代培養物において試験した(実施例1で説明したのと同じ材料および方法)。結果は、グルコース5%で製剤化されたリポソームが、スクロース10%で製剤化されたリポソームよりも高いin vitro有効性(Gb3減少)を示したことを示した(図6C)。
【0220】
したがって、in vivo実験(「ナノ-GLA」)における使用のために決定された最終的な医薬形態は、水溶液ナノリポソーム分散液であった。ナノ-GLA中の成分および各成分の役割を以下の表11に記載する(ここで、MKCは5%モルであり、前に説明したGLA/リポソーム膜賦形剤の質量比率は30であり、グルコースは5%w/vであった)。表11に開示されるナノ-GLA組成物は、等浸透性培地の選択のための実験におけるGLAcmycHisの代わりに、前の実施例で説明したタグフリー「rh-GLA」を含んでいた。
【0221】
【表11】
【0222】
〔3.2. In vivo酵素活性(EA)〕
rh-GLAを有するリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC(表11に開示される製剤中)は、遊離酵素(リプレガル(登録商標)またはrh-GLA)よりも血漿中のEA濃度を増加させた(図7)。投与30分後、血漿は、GLAが前の節3.1に記載されるように本発明のリポソーム中にナノ製剤化された場合、注射用量(ID)の18.9±0.7%(1分と称される)を保持し、遊離酵素の場合、わずか2.9±0.2%のIDを保持した(p=0.024)。したがって、リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC(ここで、MKCは5%モルであり、前に説明したGLA/リポソーム膜賦形剤の質量比率は30であった)は、活性成分(GLA)のin vivo循環寿命を延長した。
【0223】
〔3.3. In vivo単回投与有効性試験〕
rh-GLAを有するリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC(表11に開示される製剤中)(前の節3.1および3.2に記載されたリポソームの成分)、遊離(非封入)rh-GLA、または、臨床的に利用可能なリプレガル(登録商標)(同様に遊離酵素)の、単回投与で処置した動物におけるGb3濃度を比較することによって、ファブリーKOマウスにおいてナノ-GLAのin vivo有効性を試験した。Fabry KOマウスモデル(C57BL6バックグラウンドにおけるGlatmKul)であることは、FDのための最も広範な動物モデルであり、GLA遺伝子が完全に欠如していた(Ohshimaら、1997)。これらのマウスは、ヒトファブリー患者と同じパターンに従って、リソソームにおけるラメラ構造を有する典型的な脂質封入体、および心臓および腎臓を含む標的組織におけるGb3の進行性蓄積を示した。C57BL6 WTマウスおよび非処置Fabry KOマウスも対照として含めた。
【0224】
明確にするために、図8Aおよび図8Bでは、絶対Gb3レベル(タンパク質のpmol eq/mg単位)および相対Gb3損失値(%)の両方を表した。Gb3レベルはGLA KOマウスの組織間で有意に変動し、ここで、組織は、腎臓、脾臓、心臓、および脳であり、組織は、Gb3蓄積によって主に影響を受ける(図8Aおよび図8Bに見られるように)。比較して、脾臓は、より低いレベルのGb3を示した。非処置KOマウスにおけるGb3レベル(図8Aおよび図8BにおけるKO)は、腎臓(22,686±1024pmol/mg)および脾臓(6,828±500.4pmol/mg)、続いて心臓(694±161pmol/mg)および肝臓(2,375±712.1pmol/mg)において高かった。さらに、マウスをナノ-GLAの単回投与で処置した場合、脳においても約21%のGb3レベルの低下が観察された(図10)。
【0225】
相対的Gb3損失値の計算のために、非処置KOマウスとWT対応物との間のGb3レベルの差は、WTにおけるGb3損失値の100%に相当すると仮定された。次いで、異なる治療群におけるGb3レベルは、WTにおけるこの総Gb3損失値に差し向けられ、より高いパーセンテージのGb3損失値を有する処置がより高い有効性を有する処置であったことを意味する。脾臓、肝臓および心臓において、Gb3の濃度は、リプレガル(登録商標)処理によるよりもリポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC(ナノ-GLA)によって有意に良好に減少し、これは、本発明のリポソームにおけるタンパク質の封入がその有効性を改善したことを意味する。
【0226】
〔3.4. In vivo反復投与有効性試験〕
得られた結果は、1mg/kg当量をFabry KOマウスおよびそれらのWT同腹仔に8回静脈内投与した後、リポソームDPPC:Chol:(Chol-PEG400-RGD):MKC(ナノ-GLA)(表11に開示される製剤中)中のナノ製剤化rh-GLAが全ての試験組織においてGb3損失値を誘導したことを示した(図9A図9Bおよび図9Cを参照されたい)。また、ナノ-GLAは、達成されたGb3損失値において、血漿、肝臓、脾臓、肺、腎臓および皮膚において遊離rh-GLA(GLAvf)よりも優れていることが見出された。また、反復投与におけるナノ-GLAは、脳内のGb3堆積を約29%減少させることができることも見出された。脳におけるこの有効性はナノ-GLAの単回投与で観察されたものよりも高かったが、これらの差は有意ではなかった(図10参照)。
【0227】
〔先行技術文献〕
〔特許文献〕
WO2014001509
WO2006/079889
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図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10
【配列表】
2024508374000001.app
【国際調査報告】