(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】ジフェニルピラジン誘導体を含む薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4965 20060101AFI20240219BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240219BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240219BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240219BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240219BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240219BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240219BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240219BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240219BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240219BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240219BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240219BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240219BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240219BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240219BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240219BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240219BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240219BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240219BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240219BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20240219BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240219BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240219BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240219BHJP
【FI】
A61K31/4965
A61K9/10
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/22
A61K47/24
A61K47/32
A61K47/20
A61K47/28
A61K47/44
A61K47/10
A61K47/38
A61K47/12
A61K9/19
A61P17/02
A61P3/10
A61P11/00
A61P9/12
A61P9/00
A61P35/00
A61P19/04
A61P13/12
A61K47/02
A61K47/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546048
(86)(22)【出願日】2022-01-28
(85)【翻訳文提出日】2023-09-25
(86)【国際出願番号】 EP2022052073
(87)【国際公開番号】W WO2022162158
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/052208
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/082830
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500226786
【氏名又は名称】アクテリオン ファーマシューティカルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Actelion Pharmaceuticals Ltd
【住所又は居所原語表記】Gewerbestrass 16,CH-4123 Allschwil,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ケイティ アムソムス
(72)【発明者】
【氏名】エディ ド プルースト
(72)【発明者】
【氏名】ウェンユウ ドン
(72)【発明者】
【氏名】ポール ハートマン コック
(72)【発明者】
【氏名】レネ ホルム
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ キンペ
(72)【発明者】
【氏名】グリート ミュース
(72)【発明者】
【氏名】マキシム フェルストラーテン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA29
4C076AA94
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4C076CC27
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4C086NA10
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4C086ZA36
4C086ZA42
4C086ZA59
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA96
4C086ZB26
4C086ZC35
(57)【要約】
本発明は、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートを含む薬学的組成物、特に、それを含む長時間作用型注射剤、特定の疾患の治療又は予防のための薬学的組成物の使用、及びそれを製造するプロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性懸濁液の形態の薬学的組成物であって、
(a)1~50μm(マイクロメートル)の粒径分布Dv50を有する式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物と、
【化1】
(b)界面活性剤及び/又は湿潤剤と、
(c)6~8.5の範囲のpHの薬学的に許容される水性担体と、を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
再懸濁化剤を更に含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記粒径分布Dv50が、2~30μm(マイクロメートル)である、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記界面活性剤及び/又は湿潤剤が、ポリソルベート、ポロキサマー、α-トコフェリルポリエチレングリコールスクシネート、負に荷電したリン脂質の塩、レシチン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ドキュセートナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、マクロゴール15ヒドロキシステアレート、又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記界面活性剤及び/又は湿潤剤が、ポロキサマー338、ポリソルベート20、及びビタミンE TPGS、又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記再懸濁化剤が、ポリエチレングリコール(PEG)、カルメロースナトリウム、及びポロキサマー、又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項2~5のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記再懸濁化剤が、PEG4000、PEG3350、PEG6000、PEG8000、PEG20000、カルメロースナトリウム、又はそれらの混合物からなる群、特にポリエチレングリコール4000から選択される、請求項2~6のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記水性担体が、pHを6~8.5の前記範囲にする1つ又は2つ以上の緩衝剤及び/又はpH調整剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記緩衝剤及び/又はpH調整剤が、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、HCl、及びNaOH、又はそれらの混合物からなる群
から選択される、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記緩衝剤が、5~100ミリモル(mM)の緩衝液強度の緩衝液である、請求項8又は9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記薬学的に許容される水性担体がクエン酸を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
組成物の総体積に基づく重量で、
(a)2%~50%(w/v)、又は2%~30%(w/v)、又は2%~15%(w/v)、又は2.5%~10%(w/v)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート(又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物、ただし、前記w/vは、その無水形態に基づいて計算される)と、
(b)0.5%~20%(w/v)、又は0.5%~15%(w/v)、又は0.5%~12%(w/v)、又は0.5%~10%、又は0.5%~8%(w/v)、又は0.5%~7%(w/v)、又は0.5%~6%(w/v)、又は0.5%~5%(w/v)、又は0.5%~4%(w/v)、又は0.5%~3%(w/v)の界面活性剤及び/若しくは湿潤剤、又は界面活性剤及び/若しくは湿潤剤の混合物と、
(c)0%~30%(w/v)、又は1%~30%(w/v)、又は1%~20%(w/v)、又は1~15%(w/v)、又は3~10%(w/v)の再懸濁化剤、又は再懸濁化剤の混合物と、
(d)0~100mM、又は5~50mM、又は10~50mMの緩衝剤、又はそれらの混合物と、
(e)100%まで適量添加した注射用水と、を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の薬学的組成物を収容する容器であって、前記容器がシリンジ又はバイアルである、容器。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の薬学的組成物を調製するためのプロセスであって、前記プロセスが、
(a)結晶形態のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を、界面活性剤及び/又は湿潤剤、任意選択的に再懸濁化剤、並びに薬学的に許容される水性担体を含む液体媒体に、6~8.5の範囲のpHで添加して、プレミックス/プレ分散液を形成する工程と、
(b)前記プレミックスを粉砕媒体の存在下で機械的手段に供して、平均有効粒径を減少させる工程と、を含む、プロセス。
【請求項15】
凍結乾燥した薬学的組成物を調製するためのプロセスであって、前記プロセスが、請求項1~12のいずれか一項に記載の薬学的組成物を凍結する工程と、続いて真空を適用することを含む乾燥工程と、を含む、プロセス。
【請求項16】
請求項15に記載のプロセスによって得られる、凍結乾燥した薬学的組成物。
【請求項17】
少なくとも1つの希釈剤を添加することによって、請求項16に記載の凍結乾燥した薬学的組成物から調製された、再構成された薬学的組成物。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか一項に記載の滅菌した薬学的組成物を調製するためのプロセ
スであって、前記薬学的組成物が、オートクレーブ処理(蒸気滅菌)によって、若しくはガンマ線照射によって滅菌されるか、又はカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートを、ガンマ線照射で滅菌し、前記薬学的組成物を調製するために使用する、プロセス。
【請求項19】
請求項18に記載のプロセスによって得られる、滅菌した薬学的組成物。
【請求項20】
潰瘍、手指潰瘍、糖尿病性壊疽、糖尿病性足潰瘍、肺動脈高血圧症、フォンタン病、サルコイドーシス、末梢循環障害、結合組織疾患、任意のステージの糸球体腎炎及び糖尿病性腎症を含む慢性腎疾患、器官又は組織の線維症が関与する疾患、並びに呼吸器疾患からなる群から選択される疾患並びに/又は障害の治療並びに/又は予防における使用のための、請求項1~12、又は16、17、及び19のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記疾患又は状態が、肺高血圧症であり、前記肺高血圧症が、肺動脈高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、フォンタン病と関連する肺高血圧症、又はサルコイドーシスと関連する肺高血圧症を含む、請求項20に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項22】
肺動脈高血圧症(PAH)の前記治療及び/又は予防における使用のための、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の前記治療及び/又は予防における使用のための、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記薬学的組成物が、筋肉内又は皮下注射剤の形態にある、請求項20~23のいずれか一項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項25】
薬学的組成物が、1週間~3ヶ月の時間間隔で投与される、請求項24に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項26】
肺高血圧症の治療及び/又は予防において長時間作用型注射剤として使用するための薬学的組成物であって、前記薬学的組成物が、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含む水性懸濁液の形態にある、薬学的組成物:
【化2】
【請求項27】
前記肺高血圧症が、肺動脈高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、フォンタン病と関連する肺高血圧症、又はサルコイドーシスと関連する肺高血圧症を含む、請求項26に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項28】
肺動脈高血圧症(PAH)の前記治療又は予防における使用のための、請求項27に記
載の薬学的組成物。
【請求項29】
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の前記治療及び/又は予防における使用のための、請求項27に記載の薬学的組成物。
【請求項30】
前記薬学的組成物が、筋肉内又は皮下注射剤の形態にある、請求項26~29のいずれか一項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項31】
薬学的組成物が、1週間~3ヶ月の時間間隔で投与される、請求項30に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項32】
式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物の微粒子であって、
【化3】
前記微粒子が、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm、又は2~20μm、又は5~15μmの粒径分布Dv50を有する、微粒子。
【請求項33】
前記微粒子が水性媒体中に懸濁され、前記水性媒体が、水に加えて、(i)界面活性剤及び/又は湿潤剤、並びに任意選択的に(ii)再懸濁化剤を含み得る、請求項32に記載の微粒子。
【請求項34】
肺高血圧症の治療における使用のための、請求項33に記載の微粒子。
【請求項35】
筋肉内又は皮下注射による投与用である、請求項34に記載の微粒子。
【請求項36】
前記筋肉内又は皮下注射が、1週間~3ヶ月の時間間隔、特に、2週間~1ヶ月の時間間隔での投与のためのものである、請求項35に記載の微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートを含む薬学的組成物に関する。
【0002】
【0003】
式(I)の化合物は、セレキシパグの代謝産物のカルシウム塩(ACT-333679のカルシウム塩)であり、式Ca(C25H28N3O3)2、すなわち、C50H56N6O6Ca(MW:877.109)を有する。本発明では、用語「カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート」、「カルシウム;2-[4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ]アセテート」、「カルシウム;2-[4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-イソプロピル-アミノ]ブトキシ]アセテート」、「カルシウム;2-[4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-(プロパン-2-イル)-アミノ]ブトキシ]アセテート」、「{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}酢酸のカルシウム塩」、「{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ}酢酸のカルシウム塩」、「2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ)ブトキシ)酢酸のカルシウム塩」、「2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ)ブトキシ)酢酸のカルシウム塩」、「ビス[[2-[4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-イソプロピル-アミノ]ブチル]アセチル]オキシ]カルシウム)」、及びセレキシパグの代謝産物のカルシウム塩(ACT-333679のカルシウム塩)は、同義的に使用される。
【0004】
セレキシパグ(INN)は、Uptravi(商標)としても知られる、2-{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}-N-(メタンスルホニル)アセトアミド(ACT-293987、NS-304、CAS:475086-01-2;2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド)である。セレキシパグの代謝産物は、2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ)ブトキシ)酢酸(MRE-269、ACT-333679、2-{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-プロパン-2-イルアミノ]ブトキシ}酢酸;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ]ブトキシ}酢酸;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}酢酸;CAS:475085-57-5(MW419.52))である。セレキシパグ代謝産物の塩は、出願特許第2019-149945号に記載されている。
【0005】
水性懸濁液の形態の本薬学的組成物は、筋肉内又は皮下注射に好適である。それはまた、固体生成物としてバイアルに充填されてもよく、又は凍結乾燥され、再構成されて、それぞれの水性懸濁液を与えてもよい。更に、本発明は、例えば、肺高血圧症、特に、肺動脈高血圧症(pulmonary arterial hypertension、PAH)及び慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension、CTEPH)などの特定の疾患の治療又は予防のための薬学的組成物の使用、並びにそれを製造するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0006】
セレキシパグ及びその活性代謝物2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ)ブトキシ)酢酸の調製及び医薬としての使用は、国際公開第2002/088084号、国際公開第2009/157396号、国際公開第2009/107736号、国際公開第2009/154246号、国際公開第2009/157397号、国際公開第2009/157398号、国際公開第2010/150865号、国際公開第2011/024874号、Nakamura et al.,Bioorg Med Chem(2007)157720-7725、Kuwano et al.,J Pharmacol Exp Ther(2007),322(3),1181-1188、Kuwano et al.,J Pharmacol Exp Ther(2008),326(3),691-699、OSitbon et al.,N Engl J Med(2015)3732522-33、Asaki et al.,Bioorg Med Chem(2007)156692-6704、Asaki et al.,J.Med.Chem.(2015),58,7128-7137に記載されている。セレキシパグの静脈内製剤は、国際公開第2018/162527号に開示されている。セレキシパグ代謝産物の塩は、出願公開第2019-149945号に記載されている。米国特許出願公開第2019/0022004号は、弱酸薬物を含むリポソーム組成物及びその使用を記載している。欧州特許第3718537号は、その中に封入されたプロスタグランジンI2受容体アゴニストを有するステルスリポソームを記載している。
【0007】
セレキシパグは、肺動脈高血圧症の治療に有益であることが示された。第III相臨床試験では、肺動脈高血圧症を有する患者間で、肺動脈高血圧症に関連する死又は合併症の主要な複合エンドポイントのリスクは、プラセボを受けた患者間よりもセレキシパグを受けた患者間で有意に低かった。セレキシパグは、例えば、米国で販売承認を受けており、疾患の進行を遅延させ、PAHの入院リスクを低減させるための肺動脈高血圧症(PAH、WHOグループI)の治療について示されている。
【0008】
これまで、1日2回の経口投与を意図したセレキシパグの標準的なフィルムコーティング錠剤製剤が使用されており、賦形剤は、D-マンニトール、コーンスターチ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びマグネシウムステアレートを含み、錠剤は、ヒプロメロース、プロピレングリコール、二酸化チタン、カルナウバワックスを酸化鉄の混合物と共に含有するコーティング材料でフィルムコーティングされる。
【0009】
更に、PAHを有する患者における経口セレキシパグから静脈内セレキシパグへの切り替えの安全研究が行われており(NCT03187678)、セレキシパグは、約87分間の注入として1日2回投与された。用量は、患者ごとに個別化され、患者の現在のセレキシパグの経口用量に対応した。
【0010】
セレキシパグは、哺乳動物、特にヒトにおいて、活性代謝産物2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ)ブトキシ)酢酸の持続的な選
択的IP受容体アゴニスト活性を発揮することができるプロドラッグとして(IP受容体に対するある程度のアゴニスト活性をそれ自体で保持しながら)機能すると考えられる。セレキシパグのインビボ代謝は、可能性として、活性を延長し、かつ高濃度のPGI2アゴニストと関連する典型的な有害反応を低減させる「遅放出機構」のような作用を効果的に発揮し得る(Kuwano et al.,J Pharmacol Exp Ther(2007),322(3),1181-1188)。
【0011】
ある特定の場合では、セレキシパグの経口製剤の使用は、例えば、緊急ケアにおいて、又は患者が何らかの理由で錠剤を飲み込めない場合に、不適切又は不可能であり得る。
【0012】
更に、一般に、特に数ヶ月以上続く可能性がある治療計画では、薬物負荷を低減することが望ましい。
【0013】
投与される必要がある剤形の数及び/又は体積は一般に、「薬物負荷」と称される。高い薬物負荷は、多くの場合大きな剤形を嚥下しなくてはならない不便と組み合わされた投与頻度、並びに多数又は大量の薬学的製剤を貯蔵及び輸送する必要性などの多くの理由のために、望ましくない。高い薬物負荷は、患者が彼らの全用量を服用せず、それにより処方された投薬レジメンを遵守しないリスクを増加させる。
【0014】
したがって、その薬学的効果が、例えば、1週間以上、又は1ヶ月以上維持され、それによって、1週間以上、又は更に1ヶ月以上(長時間作用型製剤)、すなわち3ヶ月などの長い時間間隔で投与するだけでよい薬学的組成物又は製剤を開発する必要性がある。
【0015】
1週間以上、更には1ヶ月以上ほどで、より少ない頻度の投薬を可能にする長時間作用型注射剤(long-acting injectable、LAI)薬物製剤は、患者コンプライアンスの課題に対処する選択肢であり、患者にとってより好都合である。更に、血中のより安定した薬物レベルは、有効性及び安全性を改善する。しかしながら、薬物の準最適な物理化学的特性は、しばしば、従来の薬物懸濁液としてのそれらの製剤化を制限し、懸濁液の安定性などの問題、並びに治療的に有効な血漿濃度の不十分な維持を引き起こす。
【0016】
セレキシパグ又はその代謝産物の持続型製剤も、PAH又はCTEPHを治療するための長時間作用型製剤も知られていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、セレキシパグ代謝産物である2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ)ブトキシル)酢酸の長時間作用型製剤を提供することである。
【0018】
本明細書に記載される治験薬の本発明者らは、治験薬が、IP受容体によって調節される疾患、特に肺高血圧症、特にPAH又はCTEPHを治療するのに安全かつ有効であるかどうかを最終的に評価するために、ヒトにおける試験に安全である治験薬を作製する任務を負った。
【0019】
例えば、PAH又はCTEPHの長期治療を考慮して、本発明者らは、2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ)ブトキシ)酢酸を含む治験薬の特異的かつ安定な製剤を決定する任務を負うだけでなく、この製剤が、投与後最初の数時間/数日に有意なバースト放出を示すことなく、少なくとも14日間、それを必要とするPAH又はCTEPH患者に2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ)ブトキシ)酢酸を放出し、同時に全放出期間にわたっ
て治療上有効な用量の2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ)ブトキシ)酢酸を患者に提供することを確実にする任務も負った。
【0020】
したがって、本発明者らは、懸濁液又は固体形態の微粉化形態のいずれかの、セレキシパグ代謝産物又はその水和物若しくは溶媒和物のカルシウム塩、すなわちカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートを使用することによって、セレキシパグ代謝産物を長時間作用型製剤に有利に製剤化することができることを見出した。
【0021】
したがって、本発明は、水性懸濁液の形態の、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート又はその水和物若しくは溶媒和物を含む、筋肉内注射又は皮下注射による投与に好適な薬学的組成物に関する。特に、そのような懸濁液は、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート又はその水和物若しくは溶媒和物の微粒子を含む水性懸濁液である。
【0022】
製剤の長時間作用型プロファイルは、血漿ピークレベルを回避することを可能にし、最小毒性濃度及びより長い治療持続時間を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】セレキシパグ、セレキシパグ代謝産物、(2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ)-ブトキシル)酢酸;ACT333679)、及びセレキシパグ代謝産物のカルシウム塩(カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート;ACT333679のCa塩)を含有する異なる試験製剤の血漿濃度を、時間の関数として示す。
【
図2】セレキシパグ代謝産物のカルシウム塩の異なる粒子(2、5、8μm(マイクロメートル))及び異なる界面活性剤/湿潤剤(ポリソルベート20及びポロキサマー338)を用いたpKラットプロファイルを示す。
【
図3】セレキシパグ代謝産物のカルシウム塩の異なる粒子(2、5、8μm(マイクロメートル))及び異なる界面活性剤/湿潤剤(ポリソルベート20及びポロキサマー338)を用いたpKラットプロファイルを示す。
【
図4】異なる粒径を有する異なって製剤化された薬物(セレキシパグ代謝産物のカルシウム塩)の得られた粒径分布を示す。
【
図5】異なる界面活性剤/湿潤剤を有する異なって製剤化された薬物(セレキシパグ代謝産物のカルシウム塩)の得られた粒径分布を示す。
【
図6】200mg/mLの濃度のセレキシパグ代謝産物のカルシウム塩を用いて得られた粒径分布を示す。
【
図7】異なる量の再懸濁化剤を有する異なって製剤化された薬物(セレキシパグ代謝産物のカルシウム塩)の得られた粒径分布を示す。
【
図8】懸濁液のpHの関数としてのゼータ電位の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含む水性懸濁液の形態である、薬学的組成物に関する:
【0025】
【0026】
いくつかの実施形態では、本発明は、水性懸濁液の形態の薬学的組成物であって、
(a)1~50μm(マイクロメートル)の粒径分布(particle size distribution、PSD)Dv50を有する式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートと、
【0027】
【0028】
(b)界面活性剤及び/又は湿潤剤と、
(c)任意選択的に、再懸濁化剤と、
(d)6~9の範囲、特に6~8.5の範囲のpHの薬学的に許容される水性担体と、を含む薬学的組成物に関する。
【0029】
本発明の薬学的組成物は懸濁液であり、これは、本明細書では、活性成分であるカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートが薬学的に許容される水性担体に懸濁されていることを意味する。
【0030】
それによって、水性懸濁液の形態の薬学的組成物は、特にそれを必要とするヒト患者への筋肉内及び/又は皮下注射に好適である。
【0031】
上記に示した、式(I)の構造を有する、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートは、無水形態、又は水和物形態若しくは薬学的に許容される溶媒和物形態にあってもよい。用語「薬学的に許容される溶媒」は、化合物の所望される生物活性を保持し、望ましくない毒性効果が最小限である溶媒を指す。無水形態又は水和物形態が好ましい。
【0032】
カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートは水和物形態にあってもよい。水和物形態は、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート分子当たり、約0.1~約1個の水分子であってもよい。いくつかの実施形態では、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート対する水のモル比は、約0.1~
約1、例えば、約0.1~約0.15、約0.15~約0.2、約0.2~約0.25、約0.25~約0.3、約0.3~約0.35、約0.35~約0.4、約0.4~約0.45、約0.45~約0.5、約0.5~約0.55、約0.55~約0.6、約0.6~約0.65、約0.65~約0.7、約0.7~約0.75、約0.75~約0.8、約0.8~約0.85、約0.85~約0.9、約0.9~約0.95、約0.95~約1の範囲である。水和物形態における水のモル比は、化合物の保存条件、化合物の形成方法、及び化合物の結晶構造に基づいて変化し得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート又はその水和物若しくは溶媒和物は、微粉化形態で、すなわち、1~50μm(マイクロメートル)、又は1~40μm(マイクロメートル)、又は1~30μm(マイクロメートル)、又は1~20μm(マイクロメートル)、又は1~18μm(マイクロメートル)、又は1~15μm(マイクロメートル)、又は2~50μm(マイクロメートル)、又は2~40μm(マイクロメートル)、又は2~30μm(マイクロメートル)、又は2~20μm(マイクロメートル)、又は2~18μm(マイクロメートル)、又は2~15μm(マイクロメートル)、又は3~50μm(マイクロメートル)、又は3~40μm(マイクロメートル)、又は3~30μm(マイクロメートル)、又は3~20μm(マイクロメートル)、又は3~18μm(マイクロメートル)、又は3~15μm(マイクロメートル)、又は4~50μm(マイクロメートル)、又は4~40μm(マイクロメートル)、又は4~30μm(マイクロメートル)、又は4~20μm(マイクロメートル)、又は4~18μm(マイクロメートル)、又は2~15μm(マイクロメートル)、又は5~50μm(マイクロメートル)、又は5~40μm(マイクロメートル)、又は5~30μm(マイクロメートル)、又は5~20μm(マイクロメートル)、又は5~18μm(マイクロメートル)、又は5~15μm(マイクロメートル)の粒径分布(PSD)Dv50を有する粒子で提供される。いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、5μmマイクロメートル)±10%、又は5μm(マイクロメートル)±5%であり、いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、6μmマイクロメートル)±10%、又は6μm(マイクロメートル)±5%であり、いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、7μmマイクロメートル)±10%、又は7μm(マイクロメートル)±5%であり、いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、8μmマイクロメートル)±10%、又は8μm(マイクロメートル)±5%であり、いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、9μmマイクロメートル)±10%、又は9μm(マイクロメートル)±5%であり、いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、10μmマイクロメートル)±10%、又は10μm(マイクロメートル)±5%であり、いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、11μmマイクロメートル)±10%、又は11μm(マイクロメートル)±5%であり、いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、12μmマイクロメートル)±10%、又は12μm(マイクロメートル)±5%であり、いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、13μmマイクロメートル)±10%、又は13μm(マイクロメートル)±5%であり、いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、14μmマイクロメートル)±10%、又は14μm(マイクロメートル)±5%であり、いくつかの実施形態では、粒径分布(PSD)Dv50は、15μmマイクロメートル)±10%、又は15μm(マイクロメートル)±5%である。
【0034】
本明細書で使用される粒子は微粒子であり、水性懸濁液はマイクロ懸濁液、すなわち水性マイクロ懸濁液と呼ばれる。
【0035】
粒径分布は、本明細書では、中央径としても知られるDv50として定義される。中央値は、集団の半分がこの点より上にあり、半分がこの点より下にある値として定義される
。粒径分布については、中央値は、D50(又は特定のISOガイドラインに従う場合にはx50)と呼ばれる。D50は、この直径の上半分及び下半分で分布を分割するミクロン(マイクロメートル、μm)単位のサイズである。Dv50(又はDv0.5)は、体積分布の中央値である。体積分布は、レーザ回折からの主要な結果である。本明細書では、PSDは体積分布で与えられる。
【0036】
粒径分布(PSD)は、当該技術分野で周知の方法、例えば、レーザ回折、沈降場流動分画、光子相関分光法又はディスク遠心分離によって測定することができる。
【0037】
それによって、レーザ回折は、レーザビームが分散された微粒子試料を通過するときに散乱される光の強度の角度変化を測定することによって粒径分布を測定する。
【0038】
大きな粒子はレーザビームに対して小さな角度で光を散乱し、小さな粒子は大きな角度で光を散乱する。より大きな粒子は、より小さな粒子よりも強く光を散乱させ、LD分析の出力、体積サイズ分布においてより強く提示される。次に、角度散乱強度データを分析して、散乱パターンの生成に関与する粒子のサイズを計算する。
【0039】
本出願において、PSDは、レーザ回折測定法及びMie理論を使用して、Malvern Panalytical製のMalvern Mastersizer 3000装置で測定した。レーザ回折分析の結果は、累積篩下値Dv50として粒径体積分布に基づいて報告される。測定方法は実験パートに開示されている。
【0040】
好ましくは、上記の式(I)の構造を有する、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートは、結晶形態で使用される。
【0041】
いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、界面活性剤及び/若しくは湿潤剤、又は界面活性剤及び/若しくは湿潤剤の混合物を含む。本明細書で使用される「界面活性剤及び/又は湿潤剤」(界面活性剤/湿潤剤)は、薬学的に許容され、有効期間中の粒径成長を回避するために水性懸濁液を安定化させることができる。界面活性剤及び/又は湿潤剤は、非イオン性又はイオン性であってもよい。界面活性剤及び/又は湿潤剤は当該技術分野において周知である。
【0042】
界面活性剤及び/又は湿潤剤の代表的な例としては、ゼラチン、カゼイン、レシチン、負に荷電したリン脂質の塩又はその酸形態(ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、リン酸、及びアルカリ金属塩などのそれらの塩、例えば、それらのナトリウム塩、例えば、商品名Lipoid(商標)EPGで入手可能な製品などの卵ホスファチジルグリセロールナトリウム)、アカシアゴム、ステアリン酸、塩化ベンザルコニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えば、セトマクロゴール1000などのマクロゴールエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、例えば、ポリオキシル35ヒマシ油(Cremophor(商標)EL)若しくはポリオキシル40水添ヒマシ油(Cremophor(商標)RH40)、ポリオキシエチレンステアレート、コロイド状二酸化ケイ素、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、デスオキシタウロコール酸ナトリウム、デスオキシコール酸ナトリウムなどの胆汁塩、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルミン酸ケイ酸マグネシウム、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)、ポロキサマー(エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー)、例えば、ポロキサマー188、ポロキサマー338、及びポロキサマー407(商品名はPluronic(商標)F68、F108及びF127である)、チロキサポール、ビタミンE-T
GPS(コハク酸α-トコフェリルポリエチレングリコール、特にコハク酸α-トコフェリルポリエチレングリコール1000)、エチレンジアミンへのエチレンオキシド及びプロピレンオキシドの逐次付加から誘導される四官能性ブロックコポリマーであるTetronic(商標)908(T908)などのポロキサミン、デキストラン、レシチン、スルホコハク酸ナトリウムのジオクチルエステル、例えば商品名Aerosol OT(商標)(AOT)として販売されている製品、ラウリル硫酸ナトリウム(Duponol(商標)P)、商品名Triton(商標)X-200として入手可能なアルキルアリールポリエーテルスルホネート、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル又はポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、40、60及び80、Tweens(商標)20、40、60及び80としても知られる)、脂肪酸のソルビタンエステル(Span(商標)20、40、60及び80又はArlacel(商標)20、40、60及び80)、ステアリン酸スクロース及びジステアリン酸スクロースの混合物(例えば、商品名Crodesta(商標)F110又はCrodesta(商標)SL-40として入手可能な製品)、ヘキシルデシルトリメチルアンモニウムクロリド(hexyldecyl trimethyl ammonium chloride、CTAC)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone、PVP)、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulphate、SDS)、ドキュセートナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、マクロゴール15ヒドロキシステアレート(Solutol(商標)HS 15)、オクトキシノール(オクトキシノール-9、オクトキシノール-10)、又はシメチコンが含まれる。必要に応じて、2つ又は3つ以上の界面活性剤及び又は湿潤剤が、組み合わせて使用され得る。
【0043】
一実施形態では、界面活性剤/湿潤剤は、ポリソルベート、ポロキサマー、α-トコフェリルポリエチレングリコールスクシネート、負に荷電したリン脂質の塩(例えば、卵ホスファチジルグリセロール)、レシチン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ドキュセートナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、マクロゴール15ヒドロキシステアレート、又はそれらの混合物のうちの1つ又は2つ以上から選択され得る。
【0044】
好ましい界面活性剤/湿潤剤は、ポリソルベート、ポロキサマー及びα-トコフェリルポリエチレングリコールスクシネート、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポロキサマー188、ポロキサマー338、ポロキサマー407、ビタミンE TPGS、卵ホスファチジルグリセロール(Egg PG)、及びそれらの混合物である。
【0045】
特に好ましい界面活性剤/湿潤剤は、ポリソルベート20、ポロキサマー338、及びビタミンE TPGS、例えばポリソルベート20及び/又はポロキサマー338である。
【0046】
ポリソルベートは、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル/ポリソルベートは、一般名であり、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、又はポリソルベート80などのいくつかのグレードが利用可能である。ポリソルベートは、脂肪酸でエステル化されたエトキシル化ソルビタン(ソルビトールの誘導体)から誘導される。ポリソルベートの例は、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)、及びポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)である。異なるタイプのポリソルベートは、脂肪酸、分子中のポリオキシエチレン単位の平均数、及びエステル化度が異なる。各ポリソルベートの名称の2桁の数字は、一定のスキームに従う。最初の数字は、主にエステル化された脂肪酸を表す:2=ラウリン酸、4=パルミチン酸、6=ステアリン酸、8=オレイン酸、12=イソステアリン酸。2番目の数字はエステル化のタ
イプを示す:0は20個のポリオキシエチレン単位を有するモノエステル、1は4個又は5個のポリオキシエチレン単位を有するモノエステル、5は20個のポリオキシエチレン単位を有するトリエステルを表す。好ましいポリソルベート20(CAS番号9005-64-5、E432)は、例えば、商標名Tween(商標)20で販売されている。
【0047】
ポロキサマーは、ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2本の親水性鎖が隣接するポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中央の疎水性鎖で構成される非イオン性トリブロックコポリマーである。好ましいポロキサマーは、ポロキサマー188、ポロキサマー338、及びポロキサマー407、特にポロキサマー338である。
【0048】
本明細書で使用されるα-トコフェリルポリエチレングリコールスクシネートは、ビタミンE TPGS、すなわち、トコフェルソラン(INCI)、CAS番号9002-96-4とも称されるdα-トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネートを指す。
【0049】
レシチンはホスファチジルコリンである。本明細書において、レシチンは、コリン、リン酸、脂肪酸、及びグリセロールの要素から構成される、動物及び植物組織並びに卵黄に存在するリン脂質の群のうちのいずれかを指す。
【0050】
負に荷電したリン脂質の塩又はその酸形態は、例えば、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノサイト(phosphatidinosite)、ホスファチジルセリン、リン酸、及びそれらの塩、例えばアルカリ金属塩、例えばそれらのナトリウム塩、例えば卵ホスファチジルグリセロールナトリウム、例えば商品名Lipoid(商標)EPGで入手可能な製品)である。
【0051】
ポリビニルピロリドン(ポビドン、PVP)は、(C6H9NO)nの分子式を有する。米国薬局方(United States Pharmacopeia、USP)32は、ポビドンを、直鎖1-ビニル-2-ピロリジノン基から本質的になる合成ポリマーとして記載しており、その異なる重合度は、様々な分子量のポリマーをもたらす。それは、10~120の範囲のK値として表される、水の粘度に対する水溶液中でのその粘度によって特徴付けられる。K値は、Fikentscherの式を使用して計算される。PVP K12、PVP K15、PVP K17、PVP K25、PVP K30、PVP K60、PVP K90又はPVP K120などのいくつかが利用可能である。好ましいのはPVPK17である。
【0052】
界面活性剤/湿潤剤に関連して、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートの最適な相対量は、選択された界面活性剤/湿潤剤、平均有効粒径及び薬物濃度によって決定される薬物懸濁液の比表面積、界面活性剤/湿潤剤がミセルを形成する場合の界面活性剤/湿潤剤の臨界ミセル濃度などに依存する。界面活性剤/湿潤剤に対する薬物の相対量(w/w)は、好ましくは、20:1~2:1の範囲、特に、18:1~4:1の範囲にある。
【0053】
薬学的組成物は、任意選択的に再懸濁化剤を含む。本明細書中で使用される場合、再懸濁化剤は、薬学的に許容され、かつ保存期間中のケーキング、又は必要な目詰まりを回避するために、又は貯蔵後の製剤の再懸濁を容易にするために、水性懸濁物を安定化することができる。
【0054】
再懸濁化剤は、様々な重合グレードのポリエチレングリコール(polyethyleneglycol、PEG)、カルメロースナトリウム、及びポロキサマー、又はそれらの混合物から、好ま
しくは、様々な重合グレードのポリエチレングリコール(PEG)、及びカルメロースナトリウム、又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0055】
好ましい再懸濁化剤は、PEG4000、PEG3350、PEG6000、PEG8000、PEG20000、及びカルメロースナトリウム、又はそれらの混合物からなる群から選択され、特にPEG4000である。
【0056】
ポロキサマーは、界面活性剤/湿潤剤として機能することができるが、懸濁化剤においていくらかの粘度に寄与するので、再懸濁化剤としても機能することができることに留意されたい。一実施形態では、再懸濁化剤は、PEG4000、PEG3350、PEG6000、PEG8000、PEG20000、カルメロースナトリウム、ポロキサマー338、及びポロキサマー407、又はそれらの混合物からなる群から選択される。好ましい再懸濁化剤は、PEG4000、PEG3350、PEG6000、PEG8000、PEG20000、及びカルメロースナトリウム、又はそれらの混合物からなる群、特にポリエチレングリコール4000から選択される。
【0057】
ポリエチレングリコール(PEG)は、様々な重合グレードで存在する。PEGの構造は、一般に、H-(O-CH2-CH2)n-OHとして表される。ポリエチレングリコール(PEG)は、例えば、PEG2000、PEG3000、PEG3350、PEG4000、PEG4600、PEG6000、PEG8000又はPEG20000のように、数字で示される様々なグレードで入手可能である。数字は、ポリマーの平均分子量を示す。
【0058】
好ましいカルメロースナトリウム(カルボキシメチルセルロースナトリウム)は、27~50mPa.sの粘度(粘度2%)、0.65~0.90の置換度、及び7.0~8.8%のNa含量(DSに対して計算)を有する。この製品は、現在の欧州薬局方におけるカルメロースナトリウムに関するモノグラフに適合する。
【0059】
再懸濁化剤に関連して、薬物、すなわち、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートの最適な相対量(w/w)は、選択された再懸濁化剤に依存し、好ましくは、2:1~1:3、特に2:1~1:1の範囲にある。
【0060】
上述された各示された界面活性剤/湿潤剤は、本明細書で言及した各再懸濁化剤と組み合わせることができることに留意されたい。特に好ましい組み合わせは、ポリソルベート20とPEG4000、ポロキサマー338とPEG4000、ビタミンE TPGSとPEG4000、ポロキサマー338とカルメロースナトリウム、ポリソルベート80とカルメロースナトリウム、及びポロキサマー338とビタミンE TPGSである。
【0061】
薬学的組成物は、薬学的に許容される水性担体を含む。前述の水性担体は、滅菌水、すなわち、注射用に好適な水を、任意選択的に、他の薬学的に許容される成分と混合して含む。これらの成分は、緩衝剤、pH調整剤、防腐剤、又は等張化剤のうちの1つ又は2つ以上から選択され得る。
【0062】
水性担体は、6~8.5の範囲のpHを有する。更に、pH範囲は、7~8.5、又はpH8、すなわちpH8±1/2、又はpH7.5、すなわち7.5±1/2である。
【0063】
一実施形態では、組成物は、水性担体のpHを6~8.5、pH7~8.5、又はpH8、すなわちpH8±1/2、又はpH7.5、すなわち7.5±1/2の範囲にする1つ又は2つ以上の緩衝剤及び/又はpH調整剤を含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、緩衝剤及び/又はpH調整剤は、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、ヒスチジン、HCl及びNaOH、又はそれらの混合物からなる群から選択される。それにより、緩衝剤は、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、及びヒスチジンであり、pH調整剤は、好ましくは水溶液中の、HCl又はNaOHである。特に、緩衝剤及び/又はpH調整剤は、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、HCl及びNaOH、又はそれらの混合物からなる群から選択される。それにより、緩衝剤は、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸、及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)である。pH調整剤は、好ましくは水溶液中の、HCl又はNaOHである。
【0065】
好ましくは、薬学的に許容される水性担体は、クエン酸を含む。それによって、クエン酸は緩衝剤として役立つが、キレート剤及び抗酸化剤としても役立つ。
【0066】
水性懸濁液の好ましいpHは、pH8±1/2である。マイクロ懸濁液は、TRIS緩衝液を用いて製剤化され得るが、McIlvaine緩衝液(クエン酸及びリン酸水素二ナトリウム)が好ましい。pH8±1/2のMcIlvaine緩衝液は、無水リン酸水素ナトリウム及びクエン酸からなり、緩衝液強度は5~100mMの範囲である。10~50mMが好ましい。しかしながら、より多くのクエン酸を添加し、NaOHでpHをpH8±1/2に調整することも可能である。
【0067】
緩衝剤又は緩衝液は、製剤に安定性を付与することができ、すなわち、セレキシパグの代謝産物の遊離形態、すなわち、遊離酢酸誘導体への解離を防止することができる。緩衝液強度は、5~100ミリモル(mM)、又は10~50mMの範囲である。
【0068】
薬学的組成物に好適な最適な防腐剤は、安息香酸、ベンジルアルコール、ブチル化ヒドロキシアニソール(butylated hydroxyanisole、BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene、BHT)、クロロブトール、ガラート、ヒドロキシベンゾエート、EDTA、フェノール、クロロクレゾール、メタクレゾール、塩化ベンゼトニウム、ミリスチル-γ-塩化ピコリニウム、酢酸フェニル水銀、及びチメロサールからなる群から選択することができる、抗菌剤及び抗酸化剤を含む。ラジカルスカベンジャとしては、BHA、BHT、ビタミンE及びパルミチン酸アスコルビル、並びにそれらの混合物が挙げられる。酸素スカベンジャとしては、アスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、L-システイン、アセチルシステイン、メチオニン、チオグリセロール、アセトン重亜硫酸水素ナトリウム、イソアコルビン酸(isoacorbic acid)、ヒドロキシプロピルシクロデキストリンが挙げられる。キレート剤としては、クエン酸ナトリウム、EDTAナトリウム、及びリンゴ酸が挙げられる。一実施形態では、組成物は、防腐剤を含有しない。
【0069】
等張化剤(isotonizing agent)又は等張化剤(isotonifier)は、薬学的組成物の等張性を確実にするために存在してもよく、マンニトール、グルコース、デキストロース、スクロース、フルクトース、トレハロース、ラクトースなどの糖、多価糖アルコール、好ましくは三価以上の糖アルコール、例えばグリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトールが挙げられる。代替的に、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、又は他の適切な無機塩が、溶液を等張性にするために使用され得る。これらの等張化剤は、単独で、又は組み合わせて使用することができる。水性懸濁液は、好都合に、0~10%(w/v)、特に0~6%の等張化剤を含む。電解質は、コロイド安定性に影響を及ぼし得るため、非イオン性等張化剤、例えばグルコースは興味深い。一実施形態では、組成物は、等張化剤又は等張化剤を含有し、これは、更なる一実施形態で
は、マンニトールなどの好適な糖などの非イオン性等張化剤である。
【0070】
薬学的組成物の望ましい特徴は、投与の容易さに関する。薬学的組成物の粘度は、注射による投与を可能にするために十分に低く、かつ遅い沈降及び良好な再懸濁性を維持するために十分に高くあるべきである。特に、シリンジ内に(例えばバイアルから)容易に取り込まれ、細針(例えば19G~25G針)を通して長すぎない時間間隔で注入され得るように設計されるべきである。一実施形態では、組成物の粘度は、200s-1で1mPa・s~75mPa・s、又は200s-1で5mPa・s~40mPa・sである。
【0071】
理想的には、水性懸濁液は、注射体積を最小に保つように許容され得るのと同じ量のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含み、特に2%~50%(w/v)、又は2%~45%(w/v)、又は2%~40%(w/v)、又は2%~35%(w/v)、又は2%~30%(w/v)、又は2%~25%(w/v)、又は2%~20%(w/v)、又は2%~15%(w/v)、特に2.5%~10%(w/v)である。
【0072】
理想的には、界面活性剤/湿潤剤の量は、可能な限り低く、しかし有効かつ強靭であるように選択され、特に、0.5%~20%(w/v)、又は0.5%~15%(w/v)、又は0.5%~12%(w/v)、又は0.5%~10%(w/v)、又は0.5%~8%(w/v)、又は0.5%~7%(w/v)、又は0.5%~6%(w/v)、又は0.5%~5%(w/v)、又は0.5%~4%(w/v)、又は0.5%~3%(w/v)、又は0.5%~2%(w/v)の界面活性剤/湿潤剤、又は界面活性剤/湿潤剤の混合物である。
【0073】
理想的には、再懸濁化剤の量は、可能な限り低いが有効であるように選択され、特に、0%~30%(w/v)、又は1%~30%(w/v)、又は1%~25%、又は1%~20%(w/v)、又は1~15%(w/v)、又は3~10%(w/v)の再懸濁化剤又は再懸濁化剤の混合物である。
【0074】
理想的には、緩衝剤の量は、可能な限り低いが有効であるように選択され、特に、0~100mM、又は5~100mM、又は5~50mM、又は10~50mMの緩衝剤、又は緩衝剤の混合物である。
【0075】
一実施形態では、薬学的組成物は、組成物の総体積に基づく重量で、
(a)2%~50%(w/v)、又は2%~30%(w/v)、又は2%~15%(w/v)、又は2.5%~10%(w/v)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート(又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物、ただし、w/vは、その無水形態に基づいて計算される)と、
(b)0.5%~20%(w/v)、又は0.5%~15%(w/v)、又は0.5%~12%(w/v)、又は0.5%~10%、又は0.5%~8%(w/v)、又は0.5%~7%(w/v)、又は0.5%~6%(w/v)、又は0.5%~5%(w/v)、又は0.5%~4%(w/v)、又は0.5%~3%(w/v)の界面活性剤/湿潤剤、又は界面活性剤/湿潤剤の混合物と、
(c)0%~30%(w/v)、又は1%~30%(w/v)、又は1%~20%(w/v)、又は1~15%(w/v)、又は3~10%(w/v)の再懸濁化剤、又は再懸濁化剤の混合物と、
(d)0~100mM、又は5~50mM、又は10~50mMの緩衝剤、又はそれらの混合物と、
(e)100%まで適量添加した注射用水と、を含む。
【0076】
一実施形態では、薬学的組成物は、重量基準で、組成物の総体積に基づく重量で、
(a)2%~15%(w/v)、又は2.5%~10%(w/v)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート(又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物、ただし、w/vは、その無水形態に基づいて計算される)と、
(b)0.5%~12%(w/v)、又は0.5%~10%、又は0.5%~8%(w/v)、又は0.5%~7%(w/v)、又は0.5%~6%(w/v)、又は0.5%~5%(w/v)、又は0.5%~4%(w/v)、又は0.5%~3%(w/v)の界面活性剤/湿潤剤、又は界面活性剤/湿潤剤の混合物と、
(c)0~15%(w/v)、又は1~15%(w/v)、又は3~10%(w/v)の再懸濁化剤、又は再懸濁化剤の混合物と、
(d)5~50mM、又は10~50mMの緩衝剤、又はそれらの混合物と、
(e)100%まで適量添加した注射用水と、を含む。
【0077】
それにより、界面活性剤/湿潤剤、任意選択的な再懸濁化剤、及び緩衝剤、並びにそれらの混合物は、上記の通りである。
【0078】
カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートは、実施例パートに記載されるように調製することができる。
【0079】
本明細書に記載される薬学的組成物は、容器、特にバイアル又はシリンジ中、特にシリンジ中にあってもよい。
【0080】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される薬学的組成物は、以下の:
(a)カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を、6~8.5の範囲のpHの界面活性剤及び/又は湿潤剤、任意選択的に再懸濁化剤、並びに薬学的に許容される水性担体を含む液体媒体に添加して、プレミックス/プレ分散液を形成する工程と、
(b)プレミックスを粉砕媒体の存在下で機械的手段に供して、平均有効粒径を減少させる工程と、を含むプロセスによって調製することができる。
【0081】
微粒子の粒径は、当該技術分野で既知の機械的手段によって調製することができる。一実施形態では、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物(薬物)を液体分散媒に分散させ、粉砕媒体の存在下で機械的手段を適用して、薬物の粒径を50μm(マイクロメートル)以下の平均有効粒径、特に上に示した所望の粒径分布Dv50に減少させる工程を含む方法が使用される。
【0082】
粒径を減少させる工程の粉砕媒体は、剛性媒体から選択することができ、好ましくは3mm未満、より好ましくは2mm未満、例えば、1mm±10%、又は1mm±5%の平均サイズを有する球状又は粒状の形態である。粉砕媒体の例は、マグネシアで安定化された又はイットリウムで安定化された95%のZrO2などのZrO2、ケイ酸ジルコニウム、ガラス粉砕媒体、ポリマービーズ、ステンレス鋼、チタニア、アルミナなどである。好ましい粉砕媒体は、約2.5g/cm3を超える密度を有し、マグネシア及びポリマービーズで安定化された約95%ZrO2を含む。
【0083】
粒子は、薬物を著しく分解しない温度で寸法を減少しなければならない。30未満~40℃の処理温度が、通常、好適である。必要に応じて、処理機器は、従来の冷却機器で冷却され得る。方法は、従来、周辺温度の条件下、及び粉砕処理に安全かつ効果的な処理圧力で実行される。
【0084】
粉砕用の液体媒体は、界面活性剤/湿潤剤、任意選択的に再懸濁化剤;及び6~8.5の範囲のpHの薬学的に許容される水性担体を含み、プレミックス/プレ分散液を形成する。界面活性剤/湿潤剤、任意選択的な再懸濁化剤、並びに薬学的に許容される緩衝剤及びpH調整剤を含む水性担体は、好ましくは、上記のものである。好ましくは、プレミックス/プレ分散液は過濃縮され、続いて充填直前に最終体積に希釈される。
【0085】
最終製剤は、当該技術分野で既知の適切な分離方法によって粉砕媒体から分離される。
【0086】
カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートは、ガンマ線照射を使用して滅菌することができ、最終薬物製品を無菌的に製造するために使用することができる。最終薬物製品は、ガンマ線照射又は熱滅菌、例えば、高温でのオートクレーブ(蒸気滅菌)を使用して滅菌することができる。
【0087】
オートクレーブ処理(蒸気滅菌)に好適な条件は、121~124℃(±2℃)で15分間である。圧力は、所望の温度を可能にするように構築される。薬局方、例えば、「US Pharmacopeia」、又は「The International Pharmacopoeia,Ninth Edition 2019」などに規定されている検証に関する条件が考慮される必要がある。
【0088】
ガンマ線照射に好適な条件は、60Co(コバルト60)などの好適な放射性同位体源からのガンマ線の形態の電離放射線、又は好適な電子加速器によってエネルギーを与えられた電子に曝露することによって達成される。好適な条件は、5~40kGy、例えば、5kGy、25kGy又は40kGyの放射線レベルである。薬局方、例えば、「US Pharmacopeia」、又は「The International Pharmacopoeia,Ninth Edition 2019」などに規定されている検証に関する条件が考慮される必要がある。
【0089】
したがって、本発明は、上記の滅菌した薬学的組成物を調製するためのプロセスに更に関し、薬学的組成物は、オートクレーブ処理(蒸気滅菌)によって、若しくはガンマ線照射によって滅菌されるか、又はカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートをガンマ線照射で滅菌し、次いで、薬学的組成物を調製するために使用される。
【0090】
滅菌した薬学的組成物は、前述のプロセスによって得られる。
【0091】
オートクレーブ処理(蒸気滅菌)プロセスの検証のために提案されたバイオインジケータ株は、インジケーター当たり約106個の胞子を使用して、D値(すなわち、微生物集団の90%減少)が121℃で1.5~2分であるBacillus stearothermophilusの胞子(例えば、ATCC 7953又はCIP 52.81)である。
【0092】
一般的なガンマ線照射滅菌プロセスの検証のために提案されたバイオインジケータ株は、バイオインジケータ当たり107~108個の胞子を使用して、D値が約3kGy(0.3Mrad)である、25kGy(2.5 Mrad)のBacillus pumi
lusの胞子(例えば、ATCC 27142又はCIP 77.25)であり、より高い用量のためには、Bacillus cereus(例えば、SS1 C1/1)又はBacillus sphaericus(例えば、SS1 C1A)の胞子が使用される。
【0093】
本明細書に記載の薬学的組成物は、更に凍結乾燥、すなわち、フリーズドライすることができ、凍結乾燥された注射剤組成物が得られる。
【0094】
薬学的組成物は、凍結乾燥前には、好ましくは、凍結乾燥ケーキの貯蔵に好適であり、かつ薬学的組成物のその後の再構成に好適である、容器(単位用量又は複数回用量容器、例えばバイアル)に充填される。そのような容器は、不活性ガス雰囲気(特に窒素雰囲気など)下で充填されてもよい。そのような不活性ガス雰囲気は、活性成分の酸化的分解を低減し得る。したがって、更なる実施形態は、例えば、上記の薬学的組成物を充填したバイアル、アンプル、シリンジ、連結チャンバデバイス、ペンデバイス、又はオートインジェクタデバイス、特にバイアルなどの容器に関する。
【0095】
本明細書に記載される水性懸濁液の形態の薬学的組成物の凍結乾燥/フリーズドライのための工程は、容器中で薬学的組成物を凍結し、真空を適用することによってそれを乾燥させる工程を含む。
【0096】
凍結温度は、-55℃~-35℃、好ましくは-50℃~-35℃、好ましくは-45℃~-35℃、例えば、-40℃±3℃の範囲にある。
【0097】
乾燥温度は、-55℃~+30℃、好ましくは-50℃~28℃、好ましくは-45℃~28℃の範囲にある。
【0098】
凍結及び乾燥温度は、固定温度として、又は温度勾配として適用されてもよい。好ましくは、各手順工程の最終温度は、温度勾配を介して到達される。
【0099】
凍結乾燥中、薬学的組成物に真空を適用する。好ましくは、0.05~1.5mbar、例えば、0.1mbarの真空が適用される。真空は、凍結工程後及び乾燥中に適用される。
【0100】
乾燥手順は、いくつかの工程、例えば、一次乾燥工程及び二次乾燥工程に分割されてもよく、それによって、各工程は、保持工程、すなわち、先行する乾燥工程の終わりに到達した温度及び圧力で薬学的組成物を保持する工程が続いてもよい。
【0101】
更に、凍結乾燥手順の後に容器に栓をすることができる。容器に栓をすることは、容器に蓋をする工程を更に含んでもよい。
【0102】
凍結乾燥の方法は、好ましくは、
a)上記の水性薬学的組成物を調製する工程、並びに
b)前述の水性薬学的組成物を凍結乾燥して、ケーキを形成する工程であって、
(i)液体製剤を固体状態に変換するのに十分な期間にわたって第1の温度で水性薬学的組成物を凍結させる工程であって、前述の第1の温度が、-55℃~-35℃、好ましくは、-50℃~-35℃、好ましくは、-45℃~-35℃、例えば、-40℃±3℃の範囲にある、工程と、
(ii)任意選択的に、凍結した組成物を工程(i)の温度で保持する工程と、
(iii)工程(i)又は(ii)の温度で凍結した組成物を真空(好ましくは、0.05~1.5mbarの真空)に供し、-55℃~-25℃、好ましくは、-50℃~
-25℃、好ましくは、-45℃~-25℃、例えば、-40℃±3℃~-20℃±3℃の範囲の温度勾配を適用することによって、一次乾燥工程を適用する工程と、
(iv)任意選択的に、凍結した組成物を真空下(好ましくは、0.05~1.5mbarの真空)で、工程(iii)の最終温度に保持する工程と、
(v)工程(iii)又は(iv)の組成物を真空(好ましくは、0.05~1.5mbarの真空)に供し、工程(iii)又は工程(iv)の最終温度から開始して、15℃~30℃、好ましくは、20℃~28℃、例えば、25℃±3℃の範囲の温度に進む温度勾配を適用することによって、二次乾燥工程を適用する工程と、
(vi)任意選択的に、工程(v)の最終温度及び真空を保持する工程と、
(vii)真空を解放する工程と、を含む方法を使用して、形成する工程を含む。
【0103】
この方法は、容器に収容された上述の水性組成物に適用することができ、それによって、真空を解除した後に容器に栓をし、任意選択的に蓋をする。
【0104】
「ケーキ」という用語は、液体製剤が凍結乾燥された(lyophilized)又は凍結乾燥された(freeze dried)ときに生じる乾燥固体材料を指す。
【0105】
本明細書に記載の薬学的組成物は、凍結乾燥した薬学的組成物の形態にあってもよい。特に、それは、上記の凍結乾燥プロセスによって、例えば、容器中で薬学的組成物を凍結し、真空を適用することによってそれを乾燥させることによって得られる、凍結乾燥した薬学的組成物であり得る。
【0106】
更に、本明細書に記載の凍結乾燥した薬学的組成物は、少なくとも1つの希釈剤を前述の凍結乾燥した薬学的組成物に添加して、再構成された薬学的組成物を提供することによって、再構成されてもよい。
【0107】
前述の薬学的組成物を再構成するのに好適な希釈剤には、安全で安定した、かつ薬学的に許容される担体である任意の希釈剤が含まれる。等張調整剤又はいくつかの等張調整剤の混合物、例えば、水性(好ましくは、生理的)食塩水を任意選択的に含有する、特に注射用滅菌水(sterile water for injection、SWFI)又は注射用静菌水(bacteriostatic water for injection、BWFI)などの注射用水(water for injection、WFI)が好ましい。
【0108】
一実施形態は、潰瘍、手指潰瘍、糖尿病性壊疽、糖尿病足潰瘍、褥瘡(床ずれ)、高血圧症、肺高血圧症、肺動脈高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、フォンタン病及びフォンタン病と関連する肺高血圧症、サルコイドーシス及びサルコイドーシスと関連する肺高血圧症、末梢循環障害(例えば、慢性動脈閉塞、間欠性跛行、末梢塞栓症、振動症候群、レイノー病)、結合組織疾患(例えば、全身性エリテマトーデス、強皮症、混合性結合組織疾患、血管炎症候群)、経皮経管冠動脈形成術(percutaneous transluminal coronary
angioplasty、PTCA)後の再閉塞/再狭窄、動脈硬化、血栓症(例えば、急性期脳血栓症、肺塞栓症)、一過性脳虚血発作(transient ischemic attack、TIA)、糖尿病性神経障害、虚血性障害(例えば、脳梗塞、心筋梗塞)、狭心症(例えば、安定狭心症、不安定狭心症)、任意のステージの糸球体腎炎及び糖尿病性腎症を含む慢性腎疾患、アレルギー、気管支喘息、アテレクトミー及びステント移植などの冠動脈インターベンション後の再狭窄、透析による血小板減少症、臓器又は組織の線維症が関与する疾患[例えば、尿細管間質性腎炎などの腎疾患)、呼吸器疾患(例えば、間質性肺炎(特発性)肺線維症、慢性閉塞性肺疾患)、消化性疾患(例えば、肝硬変、ウイルス性肝炎、慢性膵炎、及びスキルス胃がん)、心血管疾患(例えば、心筋線維症)、骨及び関節疾患(例えば、骨髄線維症及び関節リウマチ)、皮膚疾患(例えば、手術後の瘢痕、熱傷による瘢痕、ケロイド、及び肥厚性瘢痕)、産科疾患(例えば、子宮筋腫)、泌尿器疾患(例えば、前立腺肥
大)、他の疾患(例えば、アルツハイマー病、硬化性腹膜炎、I型糖尿病、及び手術後臓器癒着)]、勃起機能不全(例えば、糖尿病性勃起機能不全、心因性勃起機能不全、精神病性勃起機能不全、慢性腎不全と関連する勃起機能不全、前立腺を除去するための骨盤内手術後の勃起機能不全、並びに老化及び動脈硬化と関連する血管性勃起機能不全)、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸結核、虚血性大腸炎、及びベーチェット病と関連する腸潰瘍)、胃炎、胃潰瘍、虚血性眼科障害(例えば、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、虚血性視神経障害)、突発性難聴、無血管性骨壊死、非ステロイド性抗炎症剤の投与によって引き起こされる腸損傷、並びに腰部脊柱管狭窄症と関連する症状からなる群から選択される疾患及び/又は障害の治療及び/又は予防における使用のための、本明細書に記載の薬学的組成物に関する。
【0109】
好ましい疾患及び/又は障害は、潰瘍、手指潰瘍、糖尿病性壊疽、糖尿病性足潰瘍、肺高血圧症、肺動脈高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、フォンタン病及びフォンタン病と関連する肺高血圧症、サルコイドーシス及びサルコイドーシスと関連する肺高血圧症、末梢循環障害、結合組織疾患、任意のステージの糸球体腎炎及び糖尿病性腎症を含む慢性腎疾患、器官若しくは組織の線維症が関与する疾患、並びに呼吸器疾患からなる群から選択される。
【0110】
特定の実施形態では、本明細書に記載の薬学的組成物は、肺高血圧症、特に、肺動脈高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、フォンタン病と関連する肺高血圧症、又はサルコイドーシスと関連する肺高血圧症の治療及び/又は予防における使用のためのものである。特に好ましいのは、肺動脈高血圧症(PAH)、又は慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)である。
【0111】
特に上記の疾患及び/又は障害の治療のための、本明細書に記載の薬学的組成物は、好ましくは、筋肉内又は皮下注射剤の形態である。それによって、注射剤は、長時間作用型注射剤(long-acting injectable、LAI)である。「長時間作用型注射剤」という用語は、本明細書では、1週間~3ヶ月、又は1週間~2ヶ月、又は1週間~1ヶ月、又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11若しくは12週間の投与間隔で使用される。
【0112】
本明細書に記載される薬学的組成物は、長期間にわたる活性成分の放出を提供し、したがって、持続放出組成物又は遅延放出組成物と称され得る。投与後、組成物は体内に留まり、2-(4-((5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(イソプロピル)アミノ)ブトキシ)酢酸又はそのカルシウム塩を着実に放出し、この活性成分のそのようなレベルを患者の系において長期間維持し、それによって、上記の期間中に、上記の疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの適切な治療又は予防を提供する。本明細書に記載される薬学的組成物は、活性成分が体内に留まり、活性成分を着実に放出することを容易にするという事実から、長時間作用型(又はデポ)製剤として好適な薬学的組成物と称され得る。
【0113】
本明細書に記載される薬学的組成物は、本明細書に開示される疾患及び/又は障害、特に、PAH及びCTEPHの長期治療又は長期予防に適用され得る。
【0114】
本明細書に記載される薬学的組成物は、活性成分、すなわちカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート(又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物)を治療有効量で含む。
【0115】
「治療有効量」という用語は、示された疾患、特にPAH及びCTEPHを治療するのに有効な血漿レベルをもたらす組成物の量又は濃度(又はそのような組成物内の活性成分
の量/濃度)を指す。例えば、治療有効量は、1ヶ月当たり、1~200mg、例えば、2~150mg又は5~100mg、特に、25mg~100mgのカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートである。「有効血漿レベル」とは、示された疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの有効な治療又は有効な予防を提供する、{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}酢酸の血漿レベルを意味する。
【0116】
投与されるカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート(又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物)の用量(又は量)はまた、投与の頻度(すなわち、各投与間の時間間隔)に依存する。通常、投与頻度が低い場合には、用量は高くなる。
【0117】
用語「対象」は、特にヒトに関する。
【0118】
本発明は、上記疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHに罹患している対象を治療する方法であって、治療有効量の本明細書に記載の薬学的組成物を、それを必要とするヒト対象に投与することを含む方法に更に関する。本発明の薬学的組成物の投与は、筋肉内注射又は皮下注射による。
【0119】
特に、本発明は、潰瘍、手指潰瘍、糖尿病性壊疽、糖尿病性足潰瘍、肺高血圧症、肺動脈高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、フォンタン病及びフォンタン病と関連する肺高血圧症、サルコイドーシス及びサルコイドーシスと関連する肺高血圧症、末梢循環障害、結合組織疾患、任意のステージの糸球体腎炎及び糖尿病性腎症を含む慢性腎疾患、器官若しくは組織の線維症が関与する疾患、並びに呼吸器疾患を予防及び/又は治療するための方法であって、本明細書に記載の薬学的組成物を、それを必要とするヒト対象に投与することを含む、方法に関する。
【0120】
本発明はまた、上に示した疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの治療のための医薬の製造のための、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物に関し、前述の医薬は、水性懸濁液の形態の、治療有効量の式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0121】
本発明はまた、上に示した疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの治療において使用するための、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物にも関し、前述の式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物は、水性懸濁液中にある。
【0122】
本発明はまた、上に示した疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの治療のための医薬の製造のための、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物に関し、前述の医薬は、凍結乾燥ケーキの形態の、治療有効量の式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0123】
本発明はまた、上に示した疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの治療において使用するための、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物にも関し、前述の式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物は、凍結乾燥ケーキの形態にある。
【0124】
本発明はまた、上に示した疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの治療のための医薬の製造のための、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物にも関し、前述の医薬は、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有する、治療有効量の式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物と、界面活性剤及び/又は湿潤剤と、6~8.5の範囲のpHの薬学的に許容される水性担体と、を水性懸濁液の形態で含む。
【0125】
本発明はまた、上に示した疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの治療において使用するための、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物にも関し、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有する、式(I)の前述のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物と、界面活性剤及び/又は湿潤剤と、6~8.5の範囲のpHの薬学的に許容される水性担体とは、水性懸濁液中にある。
【0126】
本発明はまた、上に示した疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの治療のための医薬の製造のための、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物の使用にも関し、前述の医薬は、筋肉内又は皮下注射剤の形態で、治療有効量のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0127】
本発明はまた、上に示した疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの治療において使用するための、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物にも関し、前述の式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物は、筋肉内又は皮下注射剤の形態にある。
【0128】
本発明はまた、上に示した疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの治療のための医薬の製造のための、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物の使用にも関し、前述の医薬は、治療有効量の式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2
-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含み、前述の医薬は、1週間~3ヶ月、好ましくは、1週間又は1ヶ月又は3ヶ月の時間間隔で投与される。
【0129】
本発明はまた、上に示した疾患及び/又は障害、特にPAH及びCTEPHの治療において使用するための、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物にも関し、前述の式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物は、1週間~3ヶ月、好ましくは、1週間又は1ヶ月又は3ヶ月の時間間隔で投与される。
【0130】
本発明は、肺高血圧症の治療及び/又は予防において長時間作用型注射剤として使用するための薬学的組成物に更に関し、この薬学的組成物は、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含む水性懸濁液の形態にある:
【0131】
【0132】
特に、長時間作用型注射剤として使用するための前述の薬学的組成物は、肺動脈高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、フォンタン病と関連する肺高血圧症、又はサルコイドーシスと関連する肺高血圧症の治療及び/又は予防のためのものである。長時間作用型注射剤として使用するための前述の薬学的組成物は、特に、肺動脈高血圧症(PAH)の治療及び/又は予防における使用のためのものであり得る。長時間作用型注射剤として使用するための前述の薬学的組成物は、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療及び/又は予防における使用のためのものであり得る。前述の使用のための前述の薬学的組成物は、筋肉内又は皮下注射剤の形態にあってもよい。特に、前述の筋肉内又は皮下注射剤は、1週間~3ヶ月の時間間隔で、特に、2週間~1ヶ月の時間間隔で投与され得る。前述の筋肉内又は皮下注射剤の懸濁粒子は、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有し得る。
【0133】
本発明は、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有する、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物に更に関する
【0134】
【0135】
本発明は、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有する、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物に更に関し、
【0136】
【0137】
前述の粒子は、水性媒体中に懸濁されている。前述の水性媒体は、水に加えて、(i)界面活性剤及び/又は湿潤剤と、任意選択的に、(ii)再懸濁化剤と、含んでもよい。更に、前述の水性媒体のpHは、6~9の範囲、特に6~8.5の範囲にあってもよい。
【0138】
更に、本発明は、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有する、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物に関し、
【0139】
【0140】
前述の粒子は、潰瘍、手指潰瘍、糖尿病性壊疽、糖尿病足潰瘍、褥瘡(床ずれ)、高血圧症、肺高血圧症、肺動脈高血圧症、フォンタン病及びフォンタン病と関連する肺高血圧症、サルコイドーシス及びサルコイドーシスと関連する肺高血圧症、末梢循環障害(例えば、慢性動脈閉塞、間欠性跛行、末梢塞栓症、振動症候群、レイノー病)、結合組織疾患(例えば、全身性エリテマトーデス、強皮症、混合性結合組織疾患、血管炎症候群)、経皮経管冠動脈形成術(percutaneous transluminal coronary angioplasty、PTCA)後
の再閉塞/再狭窄、動脈硬化、血栓症(例えば、急性期脳血栓症、肺塞栓症)、一過性脳虚血発作(transient ischemic attack、TIA)、糖尿病性神経障害、虚血性障害(例えば、脳梗塞、心筋梗塞)、狭心症(例えば、安定狭心症、不安定狭心症)、任意のステージの糸球体腎炎及び糖尿病性腎症を含む慢性腎疾患、アレルギー、気管支喘息、アテレクトミー及びステント移植などの冠動脈インターベンション後の再狭窄、透析による血小板減少症、臓器又は組織の線維症が関与する疾患[例えば、尿細管間質性腎炎などの腎疾患)、呼吸器疾患(例えば、間質性肺炎(特発性)肺線維症、慢性閉塞性肺疾患)、消化性疾患(例えば、肝硬変、ウイルス性肝炎、慢性膵炎、及びスキルス胃がん)、心血管疾患(例えば、心筋線維症)、骨及び関節疾患(例えば、骨髄線維症及び関節リウマチ)、皮膚疾患(例えば、手術後の瘢痕、熱傷による瘢痕、ケロイド、及び肥厚性瘢痕)、産科疾患(例えば、子宮筋腫)、泌尿器疾患(例えば、前立腺肥大)、他の疾患(例えば、アルツハイマー病、硬化性腹膜炎、I型糖尿病、及び手術後臓器癒着)]、勃起機能不全(例えば、糖尿病性勃起機能不全、心因性勃起機能不全、精神病性勃起機能不全、慢性腎不全と関連する勃起機能不全、前立腺を除去するための骨盤内手術後の勃起機能不全、並びに老化及び動脈硬化と関連する血管性勃起機能不全)、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸結核、虚血性大腸炎、及びベーチェット病と関連する腸潰瘍)、胃炎、胃潰瘍、虚血性眼科障害(例えば、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、虚血性視神経障害)、突発性難聴、無血管性骨壊死、非ステロイド性抗炎症剤の投与によって引き起こされる腸損傷、並びに腰部脊柱管狭窄症と関連する症状からなる群から選択される疾患及び/又は障害、特に、肺高血圧症、特にPAH及びCTEPHからなる群から選択される疾患及び/又は障害、の治療において使用するために、水性媒体中に懸濁される。前述の水性媒体は、水に加えて、(i)界面活性剤及び/又は湿潤剤と、任意選択的に、(ii)再懸濁化剤と、含んでもよい。更に、前述の水性媒体のpHは、6~9の範囲、特に6~8.5の範囲にあってもよい。
【0141】
特に、本発明は、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有する、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物に関し、
【0142】
【0143】
前述の粒子は、肺高血圧症、特にPAH又はCTEPHの治療において使用するために、水性媒体中に懸濁されており、前述の水性媒体中に懸濁されている前述の粒子は、筋肉内注射又は皮下注射による投与のためのものである。前述の水性媒体は、水に加えて、(i)界面活性剤及び/又は湿潤剤と、任意選択的に、(ii)再懸濁化剤と、含んでもよい。更に、前述の水性媒体のpHは、6~9の範囲、特に6~8.5の範囲にあってもよい。特に、前述の筋肉内又は皮下注射剤は、1週間~3ヶ月の時間間隔で、特に、2週間~1ヶ月の時間間隔で投与するためのものである。
【0144】
最後に、本発明はまた、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的
に許容される水和物若しくは溶媒和物を含む水性懸濁液の形態である治験薬(「investigational drug、ID」)にも関する:
【0145】
【0146】
「治験新薬」又は「治験薬」とは、本明細書では、臨床試験において使用される新薬又は生物学的薬物を意味する。好ましくは、治験薬は、肺高血圧症、特にPAH又はCTEPHの治療に関する臨床試験において使用される。
【0147】
一実施形態によれば、前述のIDは、肺動脈高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、フォンタン病と関連する肺高血圧症、又はサルコイドーシスと関連する肺高血圧症の治療及び/又は予防、特に肺高血圧症の治療、特にPAH又はCTEPHの治療に安全かつ有効である。前述の使用のための前述のIDは、筋肉内注射又は皮下注射の形態にあってもよい。特に、前述の筋肉内又は皮下注射剤は、1週間~3ヶ月の時間間隔で、特に、2週間~1ヶ月の時間間隔で投与され得る。前述の筋肉内又は皮下注射剤の懸濁粒子は、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有し得る。
【0148】
本発明は、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有する、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含む水性懸濁液の形態のIDに更に関する
【0149】
【0150】
本発明は、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有する、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含む水性懸濁液の形態のIDに更に関し、
【0151】
【0152】
前述の粒子は、水性媒体中に懸濁されている。前述の水性媒体は、水に加えて、(i)界面活性剤及び/又は湿潤剤と、任意選択的に、(ii)再懸濁化剤と、含んでもよい。更に、前述の水性媒体のpHは、6~9の範囲、特に6~8.5の範囲にあってもよい。
【0153】
特に、本発明は、1~50μm(マイクロメートル)、好ましくは、2~30μm又は2~20μm又は5~15μmの粒径分布Dv50を有する、式(I)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート、又はその薬学的に許容される水和物若しくは溶媒和物を含む水性懸濁液の形態のIDに関し、
【0154】
【0155】
前述の粒子は、肺高血圧症、特にPAH又はCTEPHの治療において使用するために、水性媒体中に懸濁されており、前述の水性媒体中に懸濁されている前述の粒子は、筋肉内注射又は皮下注射による投与のためのものである。前述の水性媒体は、水に加えて、(i)界面活性剤及び/又は湿潤剤と、任意選択的に、(ii)再懸濁化剤と、含んでもよい。更に、前述の水性媒体のpHは、6~9の範囲、特に6~8.5の範囲にあってもよい。特に、前述の筋肉内又は皮下注射剤は、1週間~3ヶ月の時間間隔で、特に、2週間~1ヶ月の時間間隔で投与するためのものである。
【0156】
本明細書で引用される全ての文献は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0157】
以下の実施例は、本発明を例示することを意図しており、本発明をそれに限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0158】
【0159】
PSD測定
PSDは、レーザ回折測定法及びMie理論を使用して、Malvern Panalytical製のMalvern Mastersizer 3000装置で測定した。レーザ回折分析の結果は、累積篩下値dv50として粒径体積分布に基づいて報告される。以下の設定を使用した:
【0160】
【0161】
【0162】
使用したソフトウェア:Mastersizerソフトウェアv3.81;Malvern Instruments Ltd.
【0163】
実施例:
実施例1:カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートの調製:
12g(28.604mmol)の{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}酢酸をツーピース400ml反応器に添加し、145.34gのアセトン/水(95/5%w/w)を添加した。400rpmの速度までの勾配撹拌を適用し、反応器を1K/分で50℃まで加熱し、その温度で30分間維持した。次いで、水に溶解した15体積%(4.2ml)のCa(OAc)2×1/2H2O(26.66gの水中に2.51g(15.012mmol)のCa(OAc)2×1/2H2Oを含有するストック溶液))を30分かけて添加した。混合物を8時間保持した。次に、水に溶解したCa(OAc)2のストック溶液の残りを2時間かけて添加した。混合物を7.75時間撹拌し、得られた固体を濾別し、24g(2g/g)のアセトン/水、80/20%w/wで50℃にて洗浄した。真空及びN2パージ下、50℃で乾燥させた後、12.46gのカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2
-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]-ブトキシ}アセテート(99.3%)を結晶性固体として得た。
【0164】
実施例2:実現可能性pKラット研究
最初のpKラット研究を行って、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートの水性マイクロ懸濁液のLAI能力を実証した。この研究のために、セレキシパグ、{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}酢酸及びカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートの水性マイクロ懸濁液を調製した。研究設計の概要を表1に見出すことができる。
【0165】
【0166】
異なる製剤の放出プロファイル及び平均AUCを
図1に示す。
【0167】
図1に示されるように、ACT-333679のCa塩を投与された試験群は、両方の他の群と比較して有意に低い血漿濃度を示し、これは、336時間(すなわち14日)までの長時間作用型放出プロファイルを実証し、AUCは720時間まで増加する。セレキシパグ及びその代謝産物(群F及びH)は、それらの高い溶解性及び溶解速度のため、長時間作用型放出プロファイルを示さなかった。
【0168】
実施例3:粒径及び界面活性剤/湿潤剤を比較するpKラット研究
インビボ薬物放出速度に対するACT-333679のCa塩の物理的特性(すなわち、PSD)、界面活性剤/湿潤剤、及び投与経路の効果を評価するために、pKラット試験を設定した。Dv50でのカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートの粒径を、2、5及び8μmの間で変化させた。異なる試験した水性懸濁液のAPI濃度を、100mg/mL当量で一定に保持した。筋肉内及び皮下注射経路の両方を、本ラット研究において調査した。試験した群の概要を表2に示す。
【0169】
【0170】
異なる試験群についてのpKプロファイルの概要を
図2及び
図3に視覚化する。Dv50が2μm~8μmの全範囲では、長時間作用型に拡張されたインビボ放出プロファイルが観察されたと結論付けることができる。粒径が大きいほど、初期放出が低くなり、持続時間が長くなることが観察された。1ヶ月(又はそれ超)の薬物放出に達するために、Dv50での粒径は8μm以上であるべきである。
【0171】
実施例4:製剤例の調製-粒径
4つの別個のバイアル(体積=50mL)を、様々な標的粒径(2、5、8及び12μm(マイクロメートル)のDv50)で調製した。各バイアルに、1.568g(100mg/mL当量)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(
プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートを秤量した。活性成分の次に、45gの1mmのジルコニウムビーズを各バイアルに添加した。次の工程では、ポリソルベート20、PEG4000及び緩衝液の125%の過濃縮ストック溶液12mLを各バイアルに添加した。ストック溶液の組成は実験に依存した。各ストック溶液の組成を、以下の表3に示す。
【0172】
【0173】
最後の工程では、3mLの精製水を各バイアルに添加した。4つのバイアル全てを、300rpmの回転速度を有するローラーミル上に置いた。異なる粒径(2、5、8及び12μmのDv50)に到達するために、異なる粉砕時間が必要であった。異なる粉砕時間及び得られた粒径(Mastersizer(登録商標)3000を用いて得られた)の概要を表4に示す。
【0174】
【0175】
各粉砕懸濁液を8mLのバイアルに回収し、最終粒径をMastersizer(登録商標)3000で決定した。得られた粒径分布の概要を
図4に示す。
【0176】
実施例5:製剤実施例の調製-界面活性剤/湿潤剤
3つの別個のバイアル(体積=50mL)を、異なる界面活性剤/湿潤剤(ポリソルベート20、ポロキサマー338、及びビタミンE TPGS)を用いて調製した。各バイアルに、1.568g(100mg/mL当量)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートを秤量した。活性成分の次に、45gの1mmのジルコニウムビーズを各バイアルに添加した。次の工程では、界面活性剤/湿潤剤、PEG4000、及びMcIlvaine緩衝液の125%の過濃縮ストック溶液12mLを各バイアルに添加した。ストック溶液の組成は実験に依存した。各ストック溶液の組成を、以下の表24に示す。
【0177】
【0178】
最後の工程では、3mLの精製水を各バイアルに添加した。3つのバイアル全てを、300rpmの回転速度を有するローラーミル上に置いた。8μmの目標粒径Dv50に到達するために、異なる界面活性剤/湿潤剤について異なる粉砕時間が必要であった。異なる粉砕時間及び得られた粒径(Mastersizer(登録商標)3000を用いて得られた)の概要を表6に示す。
【0179】
【0180】
各粉砕懸濁液を、8mLのバイアル及び充填済みシリンジの両方に回収した。Mastersizer(登録商標)3000を用いて最終粒径を決定した。得られた粒径分布の概要を
図5に示す。
【0181】
全ての得られたバイアル及び充填済みシリンジを異なる条件下で保存した。バイアルを5、25及び40℃で12日間保存した。充填済みシリンジは、5℃のみで保存した。12日間の保存後、全ての異なるコンセプト(バイアル及びシリンジの両方)を再懸濁性(視覚的に均質な懸濁液に達する時間)について評価した。結果を表7に示す。
【0182】
【0183】
実施例6:製剤実施例の調製-原薬濃度
1つの個別バイアル(体積=50mL)を調製した。このバイアルに、3.1350g(200mg/mL当量)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートを秤量した。活性成分の次
に、45gの1mmのジルコニウムビーズをバイアルに添加した。次の工程では、ポリソルベート20、PEG4000及びMcIlvaine緩衝液の125%の過濃縮ストック溶液12mLをバイアルに添加した。ストック溶液の組成を、以下の表8に示す。
【0184】
【0185】
最後の工程では、3mLの精製水をバイアルに添加した。バイアルを300rpmの回転速度のローラーミル上に置いた。10μmの標的粒径(すなわちdv50)に到達するために、6分間の粉砕が必要であった。得られた粒径(Mastersizer(登録商標)3000を用いて得られた)の概要を表9に示す。
【0186】
【0187】
粉砕懸濁液を8mLのバイアルに回収し、最終粒径をMastersizer(登録商標)3000で決定した。得られた粒径分布を
図6に示す。
【0188】
実施例7:製剤実施例の調製-再懸濁化剤
3つの別個のバイアル(体積=50mL)を、様々な濃度のPEG4000(50、75、及び100mg/mL)で調製した。各バイアルに、1.568g(100mg/mL当量)のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートを秤量した。活性成分の次に、45gの1mmのジルコニウムビーズを各バイアルに添加した。次の工程では、ポリソルベート20、PEG4000及びトリス緩衝液の125%の過濃縮ストック溶液12mLを各バイアルに添加した。ストック溶液の組成は実験に依存した。各ストック溶液の組成を、以下の表10に示す。
【0189】
【0190】
最後の工程では、3mLの精製水を各バイアルに添加した。3つのバイアル全てを、300rpmの回転速度を有するローラーミル上に置いた。8μmの目標粒径(dv50に到達するために、各コンセプトについて異なる粉砕時間が必要であった。異なる粉砕時間及び得られた粒径(Mastersizer(登録商標)3000を用いて得られた)の概要を表11に示す。
【0191】
【0192】
各粉砕懸濁液を5mLのバイアルに回収し、最終粒径をMastersizer(登録商標)3000で決定した。得られた粒径分布の概要を
図7に示す。
【0193】
実施例8:ゼータ電位を測定することによる表面電荷の特徴付け
カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート(100mg/mL)の懸濁液を、約1マイクロメートルの粒径Dv50に調製した。懸濁液を水で10000倍に希釈した。HCl溶液又はNaOH溶液のいずれかを用いてpHをpH3.0からpH9.0に調整した。ゼータ電位は、MalvernからのZetasizer Ultra機器を使用して測定した。
図8は、懸濁液のpHの関数としてのゼータ電位の結果を示す。ゼータ電位は、懸濁液の安定性の指標である。
【0194】
実施例9:懸濁液コンセプトの凍結乾燥
室温(又はより高い温度)での懸濁液の安定性を更に改善するために、4つの懸濁液コンセプトの凍結乾燥の実現可能性を実施した。凍結乾燥前の懸濁製剤成分及び凍結乾燥プログラムを以下の表に示す。
【0195】
【0196】
【0197】
凍結乾燥されたコンセプトは、穏やかに振盪することによって30~60秒で水中で容易に再構成され、粒径(Dv50)結果は凍結乾燥の前後で同等であった。凍結乾燥後、粒子凝集は観察されなかった。
【0198】
【0199】
実施例10:ガンマ線照射による原薬の滅菌
ガンマ線照射を使用して滅菌製品を製造することができるかどうかを評価するために、異なる照射グレードをカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートに対して試験した。この研究では、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート(「化合物」)を3つの異なるグレード(すなわち、5、25及び40kGy)で照射した。各照射グレードを2つの異なる化合物バイアルに適用した。各グレードの2つのバイアルのうちの1つを窒素で10秒間フラッシュした。非照射化合物を含有する1つの参照バイアルをアッセイ/純度分析に含めた。全ての試料
を照射直後に分析し(表15)、室温で3ヶ月間保存した後に再分析した。
【0200】
【表17】
RRT1.16
*は、1.16分の相対保持時間を有する不純物である(1-ブタノール,4-[(5,6-ジフェニル-2-ピラジニル)(1-メチルエチル)アミノ]-)
RRT1.35
*は、1.31分の相対保持時間を有する不純物である
RRT1.34
*は、1.34分の相対保持時間を有する不純物である(酢酸,2-[4-[(5,6-ジフェニル-2-ピラジニル)(1-メチルエチル)アミノ]ブトキシ]-,エチルエステル)
【0201】
第2の研究はカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートについて行い、3つの異なる照射グレードを適用した(すなわち、5、25及び40kGy)。結果を表16に示す。
【0202】
【表18】
RRT1.15
*は、1.15分の相対保持時間を有する不純物である(N-イソプロピル-5,6-ジフェニル-ピラジン-2-アミン)
RRT1.16
*は、1.16分の相対保持時間を有する不純物である(1-ブタノール,4-[(5,6-ジフェニル-2-ピラジニル)(1-メチルエチル)アミノ]-)
RRT1.32
*は、1.32分の相対保持時間を有する不純物である(N-イソプロピル-N-(4-メトキシブチル)-5,6-ジフェニル-ピラジン-2-アミン)
【0203】
表15及び16の結果に基づいて、照射グレードの増加と共に、3つの不純物/分解生成物が徐々に増加すると結論付けることができる。それにもかかわらず、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートの化学的安定性は、許容可能であると考えられ、ガンマ線照射を用いた原薬の滅菌の実現可能性を実証している。
【0204】
使用した分析法:ガンマ線照射の前(参照)及び後のセレキシパグ代謝産物のカルシウム塩のアッセイ及び不純物を、逆相クロマトグラフィを使用して分析した。試料調製は、500mLフラスコ中に50mgの試料を秤量することによって行った。約100mLのpH7リン酸緩衝液:ACN(50:50)を添加し、その後フラスコを完全に溶解するまで少なくとも30分間機械的に振盪した。pH7のリン酸緩衝液:ACN(50:50)で容量を希釈する。得られた溶液を、5mLを25mLフラスコにピペットで移し、同じ希釈溶媒で希釈することによって5倍に希釈した。参照溶液は、同じ試料調製に従って作製されるが、セレキシパグ代謝産物(「API」)のカルシウムを使用する。
【0205】
分析は、DAD検出器、カラムマネージャ及びオートサンプラを備えたWaters UPLC H-クラスを使用して行った。60℃のカラム温度を使用して、Acquity UPLC BEH C18(2.1×150mm、1.7μm)分析カラム上で分離を行った。DAD検出器を230nmに設定した。10mMのNH4Ac:ACN:MeOH(950:38:12)溶液を移動相Aとして使用した。10mMのNH4Ac:ACN:MeOH(50:710:240)溶液を移動相Bとして使用した。移動相Bが20分間で5%~100%に増加する26分の線形勾配プログラムを適用した。その後、移動相Bの濃度を1分間で5%に戻し、続いて5分間の平衡時間をとった。流量は0.30mL/分であった。7μLの注入量を分析に使用した。試料のアッセイ値は、以下の式に従って計算される:
%=[APIピーク応答試料×濃度参照×純度参照×100%]/[ピーク応答参照×濃度試料]。
【0206】
不純物の濃度は、以下の式に従って計算される:
%=[不純物ピーク応答試料×濃度参照×純度参照×100%]/[ピーク応答参照×濃度試料]。
【0207】
実施例11:ガンマ線照射による薬物製品の滅菌
原薬のガンマ線照射の実行可能性は実証されているが、最終滅菌が依然として好ましい。このため、最終薬物製品のガンマ線照射及びオートクレーブ処理(蒸気滅菌)の両方を調査する必要がある。ガンマ線照射中の最終薬物製品の化学的安定性を評価するために、8マイクロメートルの粒径Dv50を有するカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートを伴う2つの異なるコンセプトを、40kGy及び60kGyの照射グレードに供した。関連するアッセイ/純度の結果を伴う研究の概要を表17に示す。
【0208】
【表19】
RRT0.60
*は、0.60分の相対保持時間を有する不純物である
RRT0.72
*は、0.72分の相対保持時間を有する不純物である
RRT1.11
*は、1.11分の相対保持時間を有する不純物である
RRT1.15
*は、1.15分の相対保持時間を有する不純物である(N-イソプロピル-5,6-ジフェニル-ピラジン-2-アミン)
RRT1.16
*は、1.16分の相対保持時間を有する不純物である(1-ブタノール,4-[(5,6-ジフェニル-2-ピラジニル)(1-メチルエチル)アミノ]-)
RRT1.32
*は、1.32分の相対保持時間を有する不純物である(N-イソプロピル-N-(4-メトキシブチル)-5,6-ジフェニル-ピラジン-2-アミン)
【0209】
異なるコンセプトがガンマ線照射を受けると、いくつかの不純物が形成される。全てのガンマ線照射コンセプトでは、RRT1.11を見出すことができる。同定結果に基づくと、この不純物は、PEG4000とカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートとのエステル化生成物(すなわち、PEG付加物)である。
【0210】
不純物RRT1.15及び1.16は、製剤化されていない原薬と比較して、製剤化された薬物製品のガンマ線照射中に存在することが少ない。薬物製品中に存在するラジカルは、PEG4000と反応する傾向がより高く、したがってRRT1.15の形成がより少ないと仮定される。更に、RRT1.16は薬物製品中でRRT1.32に変換されるという仮定がある。
【0211】
表17の結果に基づいて、照射グレードの増加と共に、不純物/分解生成物が徐々に増加すると結論付けることができる。それにもかかわらず、薬物製品中のカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートの化学的安定性は、許容可能であると考えられ、ガンマ線照射を用いた薬物製品の滅菌の実現可能性を実証している。
【0212】
使用した分析手法:セレキシパグ代謝産物懸濁液(製剤)のガンマ線照射及び非ガンマ線照射(参照)カルシウム塩のアッセイ及び不純物を、逆相クロマトグラフィを使用して分析した。試料調製は、500mLフラスコ中に0.5mLの懸濁液を秤量することによ
って行った。約200mLのpH7リン酸緩衝液:ACN(50:50)を添加し、その後フラスコを完全に溶解するまで少なくとも30分間機械的に振盪した。pH7のリン酸緩衝液:ACN(50:50)で容量まで希釈する。得られた溶液を、5mLを25mLフラスコにピペットで移し、同じ希釈溶媒で希釈することによって5倍に希釈した。参照溶液は、同じ試料調製に従って作製されるが、セレキシパグ代謝産物のカルシウム塩(実施例10を参照のこと)を使用する。
【0213】
分析は、DAD検出器、カラムマネージャ及びオートサンプラを備えたWaters UPLC H-クラスを使用して行った。60℃のカラム温度を使用して、Acquity UPLC BEH C18(2.1×150mm、1.7μm)分析カラム上で分離を行った。DAD検出器を230nmに設定した。10mMのNH4Ac:ACN:MeOH(950:38:12)溶液を移動相Aとして使用した。10mMのNH4Ac:ACN:MeOH(50:710:240)溶液を移動相Bとして使用した。移動相Bが20分間で5%~100%に増加する26分の線形勾配プログラムを適用した。その後、移動相Bの濃度を1分間で5%に戻し、続いて5分間の平衡時間をとった。流量は0.30mL/分であった。7μLの注入量を分析に使用した。試料のアッセイ値は、以下の式に従って計算される:
%=[APIピーク応答試料×濃度参照×純度参照×100%]/[ピーク応答参照×濃度試料×用量クレーム]。
【0214】
不純物の濃度は、以下の式に従って計算される:
%=[不純物ピーク応答試料×濃度参照×純度参照×100%]/[ピーク応答参照×濃度試料×用量クレーム]。
【0215】
実施例12:オートクレーブ処理(蒸気滅菌)による薬物製品の滅菌
8マイクロメートルの粒径Dv50を有する最終薬物製品(製剤化したカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート)のガンマ線照射と並行して、オートクレーブ処理(蒸気滅菌)も同様に評価した。表18に示すように、オートクレーブ処理実現性(122℃、15分)を、2つの別々の研究において2つの異なるコンセプトについて調査した。
【0216】
【表20】
RRT0.60
*は、0.60分の相対保持時間を有する不純物である
RRT0.72
*は、0.72分の相対保持時間を有する不純物である
RRT1.11
*は、1.11分の相対保持時間を有する不純物である
RRT1.15
*は、1.15分の相対保持時間を有する不純物である(N-イソプロピル-5,6-ジフェニル-ピラジン-2-アミン)
RRT1.16
*は、1.16分の相対保持時間を有する不純物である(1-ブタノール,4-[(5,6-ジフェニル-2-ピラジニル)(1-メチルエチル)アミノ]-)
RRT1.32
*は、1.32分の相対保持時間を有する不純物である(N-イソプロピル-N-(4-メトキシブチル)-5,6-ジフェニル-ピラジン-2-アミン)
【0217】
実施例11と同じ分析方法を使用している。
【0218】
結果は、オートクレーブ処理中に不純物が形成されず、したがってオートクレーブ処理(蒸気滅菌)は、異なる研究された薬物コンセプトの化学的安定性に影響を与えないことを示す。化学的安定性に対する効果だけでなく、再懸濁性に対する効果も、オートクレーブ処理(蒸気滅菌)のプロセスについて同様に評価した。実験142の試験試料を、オートクレーブ処理直後(T0)及び5℃で14日間保存した後の再懸濁性について評価した。結果の概要は表19に示されている。再懸濁性に必要な時間は、両方の時点で許容可能であった。
【0219】
【0220】
表18及び19の結果に基づいて、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートは、オートクレーブ処理(蒸気滅菌)を使用する薬物製品の滅菌後、薬物製品中で化学的に安定であると結論付けることができる。凝集は形成されず、薬物製品は、オートクレーブ処理後に容易に再懸濁化され得る。
【0221】
実施例13:結論
8マイクロメートルの粒径Dv50を有する最終薬物製品(製剤化されたカルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテート)の滅菌性を保証するために、3つの潜在的な経路の実現可能性を研究した:薬物製品のガンマ線照射及び薬物製品の加熱滅菌。実現可能性を実証するために、物理的安定性(すなわち、再懸濁性及び粒径)並びに化学的安定性(すなわち、不純物の形成)の両方が保証されるべきであり、結果を表20に示す。
【0222】
【表22】
DP:薬物製品(製剤化された)
DS:原薬(製剤化されていない)
PX338:ポロキサマー338
PS20:ポリソベート(polysobate)20
RRT0.60
*は、0.60分の相対保持時間を有する不純物である
RRT0.72
*は、0.72分の相対保持時間を有する不純物である
RRT1.11
*は、1.11分の相対保持時間を有する不純物である
RRT1.15
*は、1.15分の相対保持時間を有する不純物である(N-イソプロピル-5,6-ジフェニル-ピラジン-2-アミン)
RRT1.16
*は、1.16分の相対保持時間を有する不純物である(1-ブタノール,4-[(5,6-ジフェニル-2-ピラジニル)(1-メチルエチル)アミノ]-)
RRT1.32
*は、1.32分の相対保持時間を有する不純物である(N-イソプロピル-N-(4-メトキシブチル)-5,6-ジフェニル-ピラジン-2-アミン)
【0223】
実施例11と同じ分析方法を使用している。
【0224】
表20に基づいて、カルシウム;{4-[(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセテートは、最終薬物製品のオートクレーブ処理(蒸気滅菌)によって化学的に安定(stabile)である。薬物製品のガンマ線照射では、不純物レベルは比較的高いが、依然として許容範囲内である。したがって、最終薬物製品は、オートクレーブ処理(蒸気滅菌)及びガンマ線照射の両方によって滅菌することができると結論付けることができる。
【国際調査報告】