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特表2024-508399薄型ガラスリボンの延伸方法および延伸装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】薄型ガラスリボンの延伸方法および延伸装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
C03B17/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548266
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2022055226
(87)【国際公開番号】W WO2022189222
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】102021106106.7
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ヴェーゲナー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー シュヴェアトフェーガー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ギール
(72)【発明者】
【氏名】カール-ハインツ シュミット
(57)【要約】
本発明は、ガラス融液から薄型ガラスリボンを延伸する方法であって、該方法で使用される装置は、突出部を有するノズルを備え、該突出部によりガラスリボンのネッキングを防ぐものとする、方法に関する。本装置は、ガラス融液を収容するための延伸槽を備え、該延伸槽は、吐出開口部を有するノズルを備え、該ノズルを通じてガラス融液が下向きに流れ出ることができる。吐出開口部は、2つの端部を有するノズルスリットとして形成されており、ノズルスリットの長さは、ノズルスリットの幅よりも大きい。ノズルスリットは、第1の側方領域および第2の側方領域において、ノズルスリットのこれらの端部に向かって、特に一貫してまたは連続的に下向きに湾曲しているため、これらの端部は、これらの端部の間に配置されたノズルスリットの中央領域よりも低い位置にあり、ノズルスリットの幅は、中央部からこれらの端部に向かって変化している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス融液(9)からガラスリボン(10)を延伸する装置(1)であって、前記装置(1)は、ガラス融液(9)を収容するための延伸槽(2)を備え、前記延伸槽(2)は、吐出開口部(5)を有するノズル(4)を備え、前記ノズル(4)を通じて前記ガラス融液(9)が下向きに流れ出ることができ、前記吐出開口部は、2つの端部(7a,7b)を有するノズルスリット(5)として形成されており、前記ノズルスリット(5)の長さ(L)は、前記ノズルスリット(5)の幅(B)よりも大きく、前記ノズルスリット(5)は、第1の側方領域(8a)および第2の側方領域(8b)において、前記ノズルスリット(5)の前記端部(7a,7b)に向かって、特に一貫してまたは連続的に、延伸方向(Z)に下向きに湾曲しているため、前記端部(7a,7b)は、前記端部(7a,7b)の間に配置された前記ノズルスリット(5)の中央領域(8c)よりも低い位置にあり、前記ノズルスリット(5)の前記幅は、中央部から前記端部(7a,7b)に向かって変化している、装置(1)。
【請求項2】
前記ノズルスリット(5)が、前記中央部から前記端部に向かって先細りになっているため、前記中央領域(8c)における前記ノズルスリット(5)の前記幅が、前記ノズルスリット(5)の前記端部(7a,7b)に比べて大きい、請求項1記載の装置(1)。
【請求項3】
前記ノズルスリット(5)が、前記第1の側方領域(8a)および第2の側方領域(8b)において、高さ(H)に関して半径(R)を有する連続的な湾曲を示し、前記高さ(H)が、前記延伸方向(Z)に対して平行に延びている、請求項1または2記載の装置(1)。
【請求項4】
前記ノズルスリットが、以下の特徴:
- 前記ノズルスリット(5)が、前記端部(7a,7b)まで常に湾曲している、
- 前記ノズルスリット(5)が、前記端部(7a,7b)へと曲がりこんでおり、前記曲がりが、変曲点(W)を有する
のうち少なくとも1つを有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項5】
前記ノズルスリット(5)が、上面図で、すなわち前記長さ(L)および幅(B)に関して長円形、楕円形、凹状またはレンズ状の形状を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項6】
前記ノズル(4)が、前記ガラス融液(9)の追加の通過体積を収容するための突出部(20)を前記第1の側方領域(8a)および第2の側方領域(8b)にそれぞれ1つ備え、前記突出部(20)が、前記延伸方向(Z)に沿って延在し、前記突出部(20)の内部空間が、前記追加の通過体積の大きさを定める、請求項1から5までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項7】
前記突出部(20)の内部空間の幅(B)に対する前記突出部(20)の内部空間の高さ(H)の比が、0.2超、好ましくは0.5超、好ましくは0.8超でかつ/または2未満、好ましくは1.6未満、好ましくは1.2未満である、請求項6記載の装置(1)。
【請求項8】
前記ノズルスリット(5)の前記湾曲の前記半径(R)が、前記突出部(20)の高さ(H)および前記突出部(20)の長さ(L)によって定められている、請求項7記載の装置(1)。
【請求項9】
前記突出部(20)の高さ(H)に対する前記突出部(20)の長さ(L)の比が、2.8未満、好ましくは2.6未満、好ましくは2.4未満である、請求項7または8記載の装置(1)。
【請求項10】
前記第1の側方領域(8a)の前記突出部(20)の湾曲した部分が、前記第2の側方領域(8b)の前記突出部(20)の湾曲した部分に対向している、請求項1から9までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項11】
前記突出部(20)の前記内部空間の前記高さ(Hv)が、10mm超、好ましくは15mm超、好ましくは20mm超でかつ/または80mm未満、好ましくは60mm未満、好ましくは40mm未満である、請求項7から10までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項12】
前記突出部(20)の前記幅(B)が、前記ノズルスリット(5)の前記幅(B)、特に前記吐出開口部の断面の前記幅(B)と、1mm超、好ましくは1.5mm超、好ましくは2mm超でかつ/または15mm未満、好ましくは10mm未満、好ましくは5mm未満の値との積によって与えられる、請求項7から11までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項13】
前記ノズルスリット(5)の前記湾曲の前記半径(R)が、100mm超、好ましくは130mm超、好ましくは160mm超でかつ/または260mm未満、好ましくは230mm未満、好ましくは200mm未満である、請求項7から12までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項14】
前記突出部(20)が、前記突出部(20)の前記内部空間を延伸方向(Z)に閉鎖する下壁(21)を有し、前記下壁(21)に、前記吐出開口部が配置されている、請求項6から12までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項15】
前記延伸槽(2)に、前記延伸槽(2)の加熱が電気加熱回路(62)に分割されるように、複数の加熱素子(60)が配置されており、前記延伸槽(2)の前記加熱回路(62)は、有利には前記ノズルスリット5の前記長さLに対して並んで配置されている、請求項1から14までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項16】
前記装置(1)は、空間的に分けて配置された少なくとも1つの、特に複数の冷却および/または加熱ユニット(50)を備え、前記冷却および/または加熱ユニット(50)は、成形領域(14)内に配置されている、請求項1から15までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項17】
ガラス融液(9)から薄型ガラスリボン(10)を延伸する方法であって、ガラスを溶融させ、前記ガラスが、吐出開口部を有する、前記ガラス融液(9)を通す延伸槽(2)から流れ出て、前記ガラスを延伸方向(Z)に下向きに離れるように引き出すことにより薄型ガラスリボン(10)が得られ、前記薄型ガラスリボン(10)を、前記吐出開口部からの流出後に、ガラス転移温度Tを下回るまで冷却し、前記薄型ガラスリボン(10)を、前記薄型ガラスリボン(10)に引張力を伝達する延伸ローラ(15)との接触により延伸方向(Z)に引き出し、前記延伸ローラ(15)は、前記ガラスの温度が前記ガラス転移温度Tを下回る位置で前記ガラスと接触し、請求項1から16までのいずれか1項記載の装置(1)を使用し、前記装置(1)は、前記ガラスリボン(10)のネッキングを阻止する突出部(20)を有するノズル(4)を備えている、方法。
【請求項18】
前記ノズルが、前記吐出開口部の下方で発生する前記ガラスリボン(10)の引張力が、前記突出部(20)において垂直方向の力成分(Kv)と水平方向の力成分(Kh)とに分けられるように形成されており、前記ガラスリボン(10)には、相反する作用を有する変形力(Uz)が生じ、垂直方向の変形力成分(Uv)の割合に対する水平方向の変形力成分(Uh)の割合が、前記第1の端部(7a)および前記第2の端部(7b)に向かって増加する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
以下の特徴:
- 最大で70μm、有利には最大で50μm、好ましくは最大で20μmの厚みを有する薄型ガラスリボン(10)を延伸する、
- 厚みが少なくとも1.5倍、有利には少なくとも2倍異なるガラスリボンを、同一のノズルから連続して引き出す
のうち少なくとも1つを有する、請求項17または18記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス融液からガラスリボンを延伸する装置であって、該装置は、ガラス融液を収容するための延伸槽を備え、該延伸槽は、吐出開口部を有するノズルを備え、該ノズルを通じてガラス融液が下向きに流れ出ることができ、該吐出開口部は、スリット形状であり、かつノズルスリットを形成しており、該ノズルスリットは、少なくとも1つの側方領域において少なくとも1つの方向に湾曲した状態となるように形成されている、装置に関する。
【0002】
非常に薄いガラス、例えば250μm未満の厚みを有するガラスの大規模生産は、特に表面品質、最大の厚みばらつき、および一様の幅に関して高い要求が課される場合には依然として特に困難である。非常に薄いガラスの製造方法の1つとして、例えば、いわゆるダウンドロー法を使用した薄型ガラスリボンの製造が挙げられる。
【0003】
標準的なダウンドロー法では、スリットノズルを使用して薄い平板ガラスが製造される。この場合、溶融槽で溶融されたガラスは導管システムに導かれ、様々なプロセスステップを経た後に延伸槽に供給される。延伸槽の下端部には、スリットを有するノズルが形成されており、このノズルを通じてガラスが延伸槽から流れ出て、延伸ローラによって下向きに延伸される。ここで、製造される薄型ガラスリボンの最終的な厚みを調整するために、延伸速度が用いられる。ガラスを下向きに延伸する速度が高いほど、ガラスは薄くなる。ガラス厚は、スリットの幅にも影響を受け得る。
【0004】
さらに、延伸槽では温度勾配を設定することができ、その際、スリット端部の縁部温度がスリット中央部の温度より低くなるようにする。その結果、下向きに延伸されたガラスリボンは、常に中央部よりも外側の方の粘度が高くなり、これにより、ガラスリボンの縁部、いわゆるエッジの間でガラスが引き伸ばされることになる。このようにして、平板ガラスの幅を製造時に制御して決定することができる。粘度がガラスリボンの幅にわたって一様に分布している場合には、ネッキングが発生し、ひいてはガラスリボンの幅が無秩序に狭まることになる。
【0005】
しかし、ガラスリボンの縁部領域では粘度が高いため、リボンの中央部よりもガラス厚を薄く設定するために延伸速度を上げると、変形力がより増加する。このため、リボンの縁部領域ではスループットが若干向上し、引張力なしに流れ出る場合に比べて、より多くのガラスがスリットから延伸されることになる。このスループットの一様でない増加によってガラスリボンの厚み分布が変化し、ここで、この変化は、中央部に比べて縁部領域が厚くなり、厚み分布が凹状となるというものである。このような非平坦性は、その後、ノズルの下方に配置されたエッジローラによって補償することができる。しかし、約250μm未満の極薄のガラスリボンを製造する場合には、このようなエッジローラがガラスリボンの破損の原因となることがある。
【0006】
この問題に対処すべく、米国特許第1626382号明細書では、平行なスリット形状がスリット端部でスリットの中央領域に比べて狭くなるように構成されている漏斗形状のノズルスリットが提示された。一方では、漏斗形状は、スリット端部ではさほど顕著でないため、スリット端部ではより多くの高温のガラス材が準備され、ガラスは、スリット端部ではさほど急速には冷却されず、温度は、実質的にスリット全長にわたって均一に維持される。他方では、スリット端部でスリットを狭くすることで、引張抵抗の増加の達成が意図されている。しかし、このようなスリット形状はさほど実用的ではない。第一に、同一のスリットの長さにわたって2つの異なるスリット幅の機械的に予め定められた比率が非常に特殊に選択されており、ガラス組成と、所定のガラス厚と、それに適合する引張力との非常に特定の組み合わせにしか適用することができず、第二に、ガラスの引張特性および厚み比率は、引張力がわずかに変化するだけでも変化し得る。したがって、所望のガラス厚が変わるたびに、またはプロセスに起因して引張力が変動する場合には、ノズルを交換する必要があり、また、最適な結果を得るためには極めてわずかな公差しか許容できない。さらに、2つの異なるスリット幅の組み合わせでは勾配を補償することもできないため、温度勾配によって生じるガラスリボンの幅にわたる一様でない厚み分布も確実に補償することができない。
【0007】
中国特許出願公開第110590132号明細書には、同様のスリット形状が記載されており、その際、ノズルスリットは、中央領域では平行となるように形成されており、側方では非線形状に狭くなっており、それによって、より有利な厚み分布を達成することが意図されている。しかし、ガラス厚が変わるたびにノズルを交換しなければならず、温度勾配によりエッジでの粘度が高くなるという問題は残っている。
【0008】
米国特許第3473911号明細書には、開口部の幅を変更することができる漏斗状のノズルが記載されている。しかしこれは、この幅を手動で変更するためにガラス成形工程を中断しなければならないため、高い労力を伴うものである。また、この方法では、既存の粘度勾配を補償することはできない。
【0009】
米国特許第2422466号明細書にもノズルが提示されているが、このノズルは、中央領域でのみ漏斗状である。米国特許第1626382号明細書と同様に、このノズルスリットは、中央領域よりも側方でより狭くなっていることが特徴的である。さらに、同様に追加の体積が側方に設けられているため、スリット端部ではガラスがさほど迅速には冷えない。しかし、ノズルは、側方では漏斗状ではなく、ポケット状である。これにより、確かにガラスがさほど迅速には冷えないが、スリットから流れ出ることもできず、能動的に引っ張る必要がある。そのため、引張力が均一であると、ポケット内にガラスが一定量残留し、それによりポケット内に一様でない温度分布が生じるという問題が起こる。また、スリット内に折れ曲がり部があると、延伸されたガラスリボンの引張力がノズルスリットの幅にわたって部分的に偏在することになる。したがって、ガラスリボンの均一な幅の達成は、困難であるかまたはさらには全く不可能である。
【0010】
したがって、本発明の課題は、非常に薄いガラスリボンを延伸するダウンドロー法および装置であって、延伸槽温度を大幅に変化させることなく異なるガラス厚を生じさせることができ、したがってプロセスに起因する公差も補償することができ、ガラスリボンの均一な厚みに加え、一様でかつ制御可能な幅も保証される、方法および装置を提供することにある。これにより、より安定したプロセス操作を実現することが望ましい。さらに、ガラスリボンのネッキング、特に高い延伸速度でのネッキングを可能な限り良好に抑制することが望ましい。
【0011】
本課題は、独立請求項の主題によって解決される。有利な発展形態は、それぞれの従属請求項に示されている。
【0012】
したがって、本発明は、ガラス融液からガラスリボンを延伸する装置に関する。本装置は、ガラス融液を収容するための延伸槽を備え、該延伸槽は、吐出開口部を有するノズルを備え、該ノズルを通じてガラス融液が下向きに流れ出ることができる。吐出開口部は、2つの端部を有するノズルスリットとして形成されており、ノズルスリットの長さは、ノズルスリットの幅よりも大きい。ノズルスリットは、第1の側方領域および第2の側方領域において、ノズルスリットのこれらの端部に向かって、特に一貫してまたは連続的に、したがって延伸方向に下向きに湾曲しているため、これらの端部は、これらの端部の間に配置された、特に直線状に延在するノズルスリットの中央領域よりも低い位置にあり、ノズルスリットの幅は、中央部からこれらの端部に向かって変化している。
【0013】
ノズルスリットは、特に長さ、幅および高さにわたって延在しており、高さは、ガラスリボンの延伸方向に対して平行に延びている。幅および長さは、それぞれ互いに垂直に、また高さに対しても垂直に延びている。したがって、ノズルスリットの長さとは、幅および高さに対して横方向の長さであると理解することもできる。この場合、ノズルスリットの長さは、その幅および高さよりも大きい。以下でノズルまたはノズルスリットの高さについて言及する場合、これは延伸方向に沿った広がりであって、有利には重力とは逆のものを意味する。したがって、ノズルあるいはノズルスリットの高さは、ノズルの上壁の上面から下端部まで延びる。したがって、ノズルあるいはノズルスリットの幅および長さは、水平に、すなわち特にガラスの延伸方向に対して垂直に延び、その際、ノズルスリットの長さは、有利には第1の端部から第2の端部までの距離によって与えられる。
【0014】
ノズルスリットの幅の変化とは、ノズルスリットが、第1および/または第2の側方領域において、長さに沿っておよびその幅に関して一貫して非直線的にまたは有利には湾曲した状態となるように形成されていることと理解することができる。下向きに湾曲した状態とは、第1および/または第2の側方領域のノズルスリットが、その高さに沿って、有利には一貫して非直線的にまたは特に湾曲した状態となるように形成されているため、第1および/または第2の端部が、中央領域よりも低い位置にあることと理解することができる。
【0015】
吐出開口部は、出口面を有し、この出口面を通じてガラス融液が流れ出ることに留意すべきである。特に、ノズルスリットは、有利には出口面に対応するスリット形状のノズル開口部に開口している。この場合、出口面は、ノズルスリットの下端部に配置されており、ノズルの下面によって囲まれている。ノズルスリットと同様に、その出口面は、長さ、幅、およびガラスリボンの延伸方向に対して平行な高さに延在しており、その際、出口面は、有利には中央領域において、特にノズルスリットの長さおよび幅に対して平行に延在している。第1および/または第2の側方領域では、出口面は、理想的には、出口面の長さに沿っておよびその高さに関して一貫して非直線的にまたは特に湾曲した状態で、好ましくはまたその高さに関して一貫して非直線的にまたは特に湾曲した状態で延在している。したがって、ノズルスリットの形状について言及する場合、ノズルの下側のノズルスリットを画定する出口面の構成をも意味する。
【0016】
ノズルスリットの幅を変更することにより、ガラス融液の局所的なスループットに影響を与えることができる。これにより、ガラスリボンのネッキングが低減され、厚くなったエッジの間のリボンの有効幅が可能な限り大きくなるように、ノズルスリットの長さに沿ってスループットを調整することができる。有利には、ガラスリボンの幅のネッキングは、少なくとも部分的に湾曲したノズルスリットあるいは少なくとも部分的に湾曲した出口面によって強度に抑制される。特に、高さにおいて下向きに湾曲したノズルスリットの形状は、ガラスリボンの延伸時の力分布の改善をもたらすため、ガラスリボンは、水平方向に作用する力によって幅方向にも延伸される。
【0017】
有利には、吐出開口部、特にノズルスリットは、中央部から端部に向かって先細りになっているため、中央領域におけるノズルスリットの幅は、ノズルスリットの端部に比べて大きい。端部に向かって先細りになっているノズルスリットは、有利にはノズルスリットを通るガラスのスループットの減少をもたらし、その際、ガラスの粘度は、スリットの長さにわたって同じままである。しかし、しばしば存在する温度勾配は、ノズルスリット端部におけるガラスの粘度が低温ゆえに増加し、それによりガラスに作用する引張力が増加し、これがスループットの増加につながるという結果をもたらす。同時に、このことは、温度勾配がある場合に、先細りのノズルスリット端部のスループットを中央領域のスループットに適合させることができ、それによりガラスリボンの可能な限り均一な厚みを達成することができることをも意味する。
【0018】
吐出開口部、特にノズルスリットが、中央部から、有利には側端部の方向に長さに沿って連続的に先細りになっているか、または側端部から長さに沿って中央部に向かって単調に増加するように形成されている場合にも有利である。このようにして、温度勾配、ひいては粘度勾配がある場合にガラスのスループットがノズルスリットの長さに沿って一様に、特に均一になるように、スループットを調整することができる。
【0019】
したがって、吐出開口部、特にノズルスリットが、上面図で、あるいは延伸方向で、すなわち長さおよび幅に関して長円形、楕円形、凹状またはレンズ状の形状を有することも考えられる。この場合、この形状は、ノズルスリットが凸形状を形成するため、特にその端部よりも中央部で広くなっていることと理解することができる。この形状では、ノズルスリットは、緩やかにあるいは線形的または指数関数的に先細りになり、したがって、特定の程度まで温度勾配に適合させることができる。
【0020】
有利な一実施形態では、ノズルスリットは、第1および第2の側方領域において高さに関してある半径を有する連続的な、または有利には緩やかな湾曲を示し、高さは、延伸方向に対して平行に延びている。高さにおいて下向きに湾曲したノズルスリットの形状は、ガラスリボンの延伸時の力分布の改善をもたらすため、ガラスリボンは、水平方向に作用する力によって幅方向にも延伸される。ノズルスリットの高さを連続的に変化させると、ノズルスリット端部に向かう出口面も同様に連続的に湾曲するため、力のうち水平方向に作用する部分がスリット端部に向かって連続的に増加する。つまり、ガラスリボンのネッキングが強く促されるほど、そのネッキングを阻止する力も強く作用し、その結果、ガラスリボンの均一な幅が達成される。理想的には、有利には線形的におよび/または高さに対して垂直に延在する中央領域から下向きに湾曲した側方領域への移行も、緩やかにまたは線形的に行われているため、特に折れ曲がり部が発生せず、作用力の滑らかな移行あるいは緩やかな変化が確保されている。このようにして、ガラスリボンの厚みや幅のばらつきを回避することができる。したがって、中央領域も、特に側方領域の方向に、あるいは端部の方向にわずかに下向きに湾曲していることも考えられる。有利には、この場合の最高点は、中央領域の中央部に存在する。
【0021】
さらなる一実施形態では、ノズルスリットは、以下の特徴:
- ノズルスリットは、端部まで常に湾曲しており、ノズルスリットは、特に中央領域から端部まで常に湾曲しており、有利には、中央領域で直線状に延在しているか、またはわずかにのみ湾曲している、
- ノズルスリットは、端部へと曲がりこんでおり、その曲がりは、変曲点を有する
のうち少なくとも1つを有する。
【0022】
ノズルスリットが、その幅および高さに関して先細りとなるように、有利には漏斗状またはトラフ状となるように形成されていてもよいことは自明である。この場合、ノズルスリットの幅における先細りは、線形または非線形、特に湾曲した状態となるように延びていてよく、それにより、ノズルスリットを通るガラスの引き出しまたは流出が支援され、これに対応して、このために必然的に加えなければならない引張力が低減される。
【0023】
ノズルが、ガラス融液の追加の通過体積を収容するための突出部を第1および第2の側方領域にそれぞれ1つ備え、この突出部が、延伸方向に沿って延在し、すなわち下向きに突き出ており、突出部の内部空間が、追加の通過体積の大きさを定めることが提供されていてよい。また、この突出部は、ノズルスリット端部、特に第1および第2のノズルスリット端部における深部とみなすこともできる。この深部あるいはこの突出部により、ノズルスリットの下向きに湾曲した経路、および有利には突出部の内部空間をも提供することができる。その際、内部空間は、好ましくは、ノズルスリットを囲む壁、すなわちノズルの壁、特に突出部の側方領域の壁により画定されている。内部空間は、有利には、ガラス融液を収容するための追加の体積を提供するように形成されており、内部空間の壁、あるいはノズルスリットの壁は、より高い表面積を提供し、したがって、ガラス融液の冷却を加速させることができる。この場合、ガラス融液は、増加した表面積で熱を放出することができる。その結果、ガラスがノズルスリットから流れ出る際にガラスが有する温度は、これらの突出部/深部が存在しない場合よりも低くなる。温度が低いために粘度が高くなり、これによって、ガラスリボンの強度のネッキングが抑制される。よって、適切な追加の体積あるいは内部空間を選択することで、温度勾配、ひいてはガラス融液の粘度をも狙いどおりに制御することができる。
【0024】
また、突出部の内部空間の幅に対する突出部の内部空間の高さの比が、0.2超、好ましくは0.5超、好ましくは0.8超でかつ/または2未満、好ましくは1.6未満、好ましくは1.2未満であることも提供される。この関係性は重要である。なぜならば、幅が小さいほど、流入するガラスがクリアしなければならない圧力損失が高くなるためである。一方で、内部空間が広すぎると、このガラス体積の冷却が劣悪となる。なぜならば、その場合、ガラスを通じたノズルスリットの、あるいは内部空間の冷却壁までの熱伝導の経路が長くなるためである。したがって、内部空間の幅に対する高さのこのような比は、圧力損失とガラス融液の冷却との間の最適な比である。
【0025】
有利な一実施形態では、ノズルスリットの湾曲の半径、特に最小半径は、ノズルスリット、特に出口面が下向きに湾曲するように、突出部の高さおよび突出部の長さによって定められている。
【0026】
また、ノズルスリットの湾曲の半径が、100mm超、好ましくは130mm超、好ましくは160mm超でかつ/または260mm未満、好ましくは230mm未満、好ましくは200mm未満であることも考えられる。これにより、端部に向かって増加する水平方向成分を有する力の最適な力の移動を達成することができる。有利には、平均半径は、100mm~260mmである。一実施形態によれば、垂直方向の力成分に対する水平方向の力成分の連続的な増加を保証するために、半径は、ノズルスリットの長さの増加に伴って、あるいはその端部に向かって、特に線形的または指数関数的に減少する。このようにして、例えば100μm未満の厚みを有するガラスリボンに使用されるような特に高い延伸速度において、ガラスリボンの過度のネッキングを阻止することができ、ガラスリボンを特に端部において大きく引き伸ばすことができる。
【0027】
また、突出部の高さに対する突出部の長さの比が、2.8未満、好ましくは2.6未満、好ましくは2.4未満である場合も有利である。これは、適切な力分布を実現するための最適比である。水平方向成分が垂直方向成分と同様の大きさ、またはさらにはそれよりも大きい場合、すなわち突出部の高さに対する長さの比が2.4未満である場合、ノズルスリットに対する垂直方向が延伸方向に対して≧45°であると、これはガラスリボンの幅に不利な影響を与え、なぜならば、水平方向成分の割合が高すぎると、ネッキングを招きかねないためである。
【0028】
また、第1の側方領域の突出部の湾曲した部分が、第2の側方領域の突出部の湾曲した部分に対向していることも考えられる。特に、突出部あるいは深部を有するノズルスリットは、少なくとも1つの方向、しかし有利には長さおよび/または幅において鏡映対称となるように形成されている。このようにすると、ガラスリボンの全幅にわたって均一な厚みおよび幅を作り出すことができる。
【0029】
突出部の内部空間の高さが、10mm超、好ましくは15mm超、好ましくは20mm超でかつ/または80mm未満、好ましくは60mm未満、好ましくは40mm未満であることが提供されていてよい。
【0030】
有利な一実施形態では、突出部の幅は、ノズルスリットの幅、特に吐出開口部の断面の幅と、1mm超、好ましくは1.5mm超、好ましくは2mm超でかつ/または15mm未満、好ましくは10mm未満、好ましくは5mm未満の値との積によって与えられる。突出部あるいは突出部の内部空間の高さおよび幅は、ガラス融液を収容するための利用可能な追加の体積が画定され、ひいてはガラスの温度および粘度を調整する可能性が定められる。よって、先に示した値により、ガラス融液の最適な温度もしくは粘度勾配をノズルスリットの幅にわたって達成することができ、それにより、均一な引張力でガラスリボンの均一な幅および厚みが保証される。
【0031】
また、突出部が、突出部の内部空間を延伸方向に閉鎖する下壁を有し、この下壁に、吐出開口部あるいは出口面が配置されていることが提供されていてよい。有利には、ノズルは、下壁に加えて、下壁に対向する上壁と、特に第1および第2の側方領域において側壁とを備え、この側壁により、突出部の内部空間が画定されている。理想的には、突出部の下壁は、下壁と上壁との間に内部空間を設けることができるように、延伸方向に、特に一貫してまたは連続的に湾曲した状態となるように形成されている。下壁の湾曲により、内部空間は、ノズルの中央領域の方向に先細りとなっている。
【0032】
本課題はまた、ガラス融液から薄型ガラスリボンを延伸する方法であって、ガラスを溶融させ、このガラスが、吐出開口部を有する、ガラス融液を通す延伸槽から流れ出て、このガラスを延伸方向に下向きに離れるように引き出すことにより薄型ガラスリボンが得られる、方法により解決される。薄型ガラスリボンは、吐出開口部からの流出後に、ガラス転移温度Tを下回るまで、少なくとも1つの冷却ユニットによって冷却することができる。薄型ガラスリボンは、薄型ガラスリボンに引張力を伝達する延伸ローラとの接触により延伸方向に引き出される。延伸ローラは、温度がガラス転移温度Tを下回る位置でガラスと接触する。ここで、ガラスの受動的な冷却も考えられるであろう。本方法には、先に述べた装置が使用され、この装置は、ガラスリボンのネッキングを阻止する突出部を有するノズルを備えている。この突出部を有するノズルは、2つの作用機序を特徴とする。一方では、突出部は、ガラス融液が、端部に向かってより低い温度で流れ出るように構成されており、それにより粘度勾配が生じ、この粘度勾配によって、ノズル端部でのガラス融液の粘度が増加し、ひいてはガラスリボンの引張力も増加する。これにより、ガラスリボンは、その幅方向により強度に延伸されることになる。したがって、ノズルの幅にわたって温度勾配が生じ、その際、ガラス融液の温度は、端部に向かって低下する。
【0033】
さらに、ノズルスリットの中央部で流れ出るガラスは、突出部の高さにより定められる区間だけ進んで、ノズルスリットの端部または端点と同じ高さになる。よって、中央部から進んでくるガラスは、同じ高さでガラスがノズルスリットの端部から流れ出るときに、既に若干冷めている。このため、中央部の薄いガラスは、この時点で高い粘度を得ており、これも同様にガラスリボンのネッキングを阻止する。
【0034】
他方で、ノズルが、吐出開口部の下方で発生するガラスリボンの引張力が、突出部において垂直方向の力成分と水平方向の力成分とに分けられるように形成されており、ガラスリボンには、相反する作用を有する変形力が生じ、垂直方向の変形力成分の割合に対する水平方向の変形力成分の割合が、第1の端部および第2の端部に向かって増加することも提供されている。ここで、水平方向の変形力成分によって、エッジにおけるガラスリボンのネッキングが阻止される。この水平方向の変形力成分によって、ガラスリボンが水平方向に引き伸ばされ、これによりネッキングが低減される。ノズルスリットの特定の形状あるいは構成、特に側方領域における特定の形状あるいは構成によって、水平方向の変形力成分と垂直方向の変形力成分との比が、例えばノズルスリットの高さに関して、好ましくは突出部の高さに関してノズルスリットの湾曲によって狙いどおりに制御される。ここで、この湾曲の半径は、理想的には、端部に向かって連続的に線形的または指数関数的に減少するが、しかし、ガラスリボンの厚みおよび幅の不規則性を防止するために、ノズルの特に水平および/または直線状の中央領域への緩やかな移行も明示的に保証される。
【0035】
示された方法を用い、また特に装置をも用いることにより、特に薄いガラスリボンを製造することができる。ガラスリボンの幅にわたって作用する引張力を、狙いどおりに、また特に各領域に対して個別に調整することができるノズルスリットおよび突出部を有する特殊な形状のノズルを使用することにより、ガラスリボンの破損を招きかねないエッジローラを省くことができる。
【0036】
本装置および方法は、薄型および超薄型ガラスの製造に特に適している。したがって、一実施形態によれば、最大で200μm、有利には最大で100μmの厚みを有する薄型ガラスリボンが延伸される。さらにはるかにより薄いガラスリボン、例えば、最大で70μm、有利には最大で50μm、特に好ましくは最大で20μmの厚みを有するガラスリボンを延伸することも可能である。少なくとも5μm、好ましくは少なくとも10μmの厚みも考えられる。このようなガラスリボン厚は、例えばフレキシブルディスプレイのような多層の可撓性のまたは屈曲性のカバーに関して特に有利である。延伸ノズルの特別な構成により、特に、ノズルギャップを変更することなく、厚みが大きく異なるガラスリボンを製造することが可能である。ここで、厚みが少なくとも1.5倍、有利には少なくとも2倍異なるガラスリボンを、同一のノズルから連続して引き出すことができる。このようにして、ノズルを交換することなく、ひいてはまた製造プロセスを中断することなく、厚みもしくは厚さの異なるガラスリボンを製造することができる。
【0037】
以下、本発明を、添付の図面を参照しながらより詳細に説明する。図面において、同一の参照符号は、それぞれ同一のまたは対応する構成要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】ガラス融液からガラスリボンを延伸する装置の概略図である。
図2】ノズルスリットの上面図および薄型ガラスリボンの幅に沿った厚み分布の概略図である。
図3】ノズルスリットの上面図および薄型ガラスリボンの幅に沿った厚み分布の概略図である。
図4】突出部を有するノズルの側方領域の概略断面図である。
図5】ノズルの概略上面図である。
図6】突出部および短いノズルスリットを有するノズルの側方領域の概略透視図である。
図7】突出部および短いノズルスリットを有するノズルの側方領域の概略透視図である。
図8】突出部を有するノズルの側方領域の概略断面図である。
図9】ノズルの概略断面図である。
図10】ガラス融液からガラスリボンを延伸する装置の概略図である。
図11】冷却炉の概略図である。
図12】加熱ユニットあるいは冷却ユニットを備えた成形領域の概略図である。
図13】坩堝、排出管および延伸槽の概略図である。
【0039】
図1は、ガラス融液9からガラスリボン10を延伸する装置1の概略図である。本装置は、延伸槽2と冷却ユニット3とを備え、延伸槽2の下方にはノズル4が配置されており、冷却ユニット3ではガラスリボン10が冷却される。ガラス融液9は、まず延伸槽2に送られ、この延伸槽2では、温度制御が行われるか、あるいはガラス融液9の温度が延伸槽の長さ方向および幅方向にわたって調整される。次に、ガラス融液9はノズル4に入り、ノズル4の開口部を通じてガラス融液9が延伸槽2から流れ出る。既にノズルを通過する間に、特にノズルから流れ出る時点で、ガラス融液9は、成形領域14で最終形状であるガラスリボン10に成形される。ガラスリボン10は、縁部でガラスリボン縁部あるいはエッジ11によって画定されている。
【0040】
ノズル4から流れ出た後、ガラスリボン10は、ガラス転移温度Tを下回るまで、成形領域14の中またはその下方で冷却される。有利には、冷却ユニット3の下方、すなわち有利には低温領域には延伸ローラ15が配置されており、この延伸ローラ15を通じて引張力がガラスリボン10に伝達される。有利には、延伸ローラとの接触箇所でのガラスの温度は、最大で200℃、特に好ましくは最大で100℃である。ガラスを低温領域で、すなわちTを下回る温度で、特に好ましくは最大で200℃の温度でのみ延伸ローラと接触させることは、破損の確率を低減するために好ましいことが判明した。また、低温では、延伸ローラの材料の選択にも大きな自由度がある。例えば、延伸ローラは、わずかな滑り性しか示さないエラストマー表面を有することができる。
【0041】
有利には、少なくとも2対の延伸ローラ15が、延伸方向Zに対して横方向に間隔を置いて配置され、延伸ローラの対は、それぞれ2つの延伸ローラ15間のエッジ11の領域でガラスリボン10を両側から把持する。ガラスリボン10の所望の厚さに応じて、延伸ローラ15によって伝達される引張力が適合または調整される。これに関して、一実施形態によれば、厚さが小さい場合には、所望の大きな厚さの場合、すなわち厚いガラスリボン10の場合よりも引張力が高くなるように調整することができる。したがって、ガラスリボン10は、有利には延伸ローラ15によって伝達される引張力によって所望の厚さに調整されて、ガラス融液9としてノズル4から引き出される。
【0042】
図2および図3にはそれぞれ、ノズルスリットの形状が上面図で示されているとともに、薄型ガラスリボンの幅に沿った典型的な厚み分布が示されている。ノズル4は、延伸方向Zに沿って幅B、長さLおよび高さHに沿って延在し、特にノズルスリット5として形成された、有利にはスリット形状の吐出開口部を有している。ノズルスリットは、ノズル4の壁6によって囲まれている。ここで、ノズルスリット5は、第1の端部7aと第2の端部7bとを有し、第1の端部7aは、ノズルスリット5の第1の側方領域8aに配置され、第2の端部7bは、第2の側方領域8bに配置され、2つの側方領域8a,8bは、実質的に長さLに沿って延在している。ここで、第1の側方領域8aと第2の側方領域8bとの間に、中央領域8cが配置されている。
【0043】
図2および図3の下方にはそれぞれ、平行に形成されたノズルスリット5における薄型ガラスリボン10の幅に沿った厚み分布が示されており、その際、図2には、300μm未満の厚さあるいは厚みを有する薄型ガラスリボン10の典型的な厚み分布が示されており、図3には、300μm超の厚さを有する薄型ガラスリボン10の典型的な厚み分布が示されている。300μm未満の厚さを有するガラスリボン10(図2)は、エッジ11において、エッジの間の中央部よりも顕著に厚いことがわかる。これに対して、300μm超の厚さを有するガラスリボン10(図3)では、逆の効果が観察される。この場合、厚み分布の最大値は、中央部に存在する。これは主に、延伸速度に関連して、冷却挙動が異なること、あるいは各厚みのガラスリボン10の幅にわたって温度勾配が形成されることに起因するものである。ガラス融液の既存の温度勾配、またはノズル4に意図的にもたらされた温度勾配を有するノズルスリット5を通るガラスの延伸速度あるいはスループットを均一にするために、ノズルスリット5は湾曲した状態となるように形成されている。しかし有利には、温度勾配が中央部から外側に向かって存在するように、すなわち特にノズルスリットの中央部から端部7a,7bに向かって増加または減少するように、温度勾配を意図的に調整することも可能である。特に、第1の側方領域8aおよび/または第2の側方領域8bは、ノズルスリット5の長さLに沿っておよびその高さHに関して一貫して非直線的にまたは有利には湾曲した状態となるように形成されている。したがって、理想的には、特に300μm未満の厚さを有するガラスリボン10の場合には、ノズルスリット5は、縁部11におけるスループットを低減するために、高さに対して垂直な長円形、楕円形、またはレンズ状、あるいはより一般的には凸状の断面を有し、これは特に、ノズルスリット5の幅Bsが、中央部から端部7a,7bに向かって減少することと理解される。これに対して、300μm超の厚さを有するガラスリボン10の場合には、ガラスリボン10の中央部でのスループットをエッジ11よりも減少させるために、骨状の断面が好ましく、ここで、骨状の断面とは、有利には凹状に形成された断面であると理解され、したがって特に、ノズルスリット5の幅Bsは、中央部から端部7a,7bに向かって増加する。したがって、どちらの場合にも、ノズルスリットの形状に基づいてスループットを調節することによって、ガラスリボン端部10の幅にわたって、あるいはノズルスリット5の長さLにわたって均一なガラスリボン厚さを達成することができる。好ましくは、長さLに沿った一様の成形を可能にするために、湾曲は、一貫して、またはさらには連続的に存在し、特に線形的または指数関数的である。
【0044】
図4および図5はそれぞれ、側方領域8bの概略断面を示す。ここで、図4は、突出部20を有するノズル4の側方領域8bを示し、突出部20は、ノズルスリット5の深部、あるいはガラス融液9を収容するための追加の体積を提供する深部であると理解される。突出部は、好ましくは、下壁21、端壁22、および好ましくはさらに、少なくとも1つの、好ましくは2つ以上の側壁25によって画定される。側壁は、ノズル4の高さH、突出部20の幅Bv、および場合によっては突出部20の長さに関しても、線形状または曲がった形状であってよい。下壁21は、有利には幅Bvにおいて側壁25の間に延在し、特に端壁22によって長さ方向に画定されている。
【0045】
しかし、ガラスリボン10の延伸時に作用する力に対する効果を得るために、下壁21は、湾曲した状態となるように形成されており、特に、連続的に、有利にはまた長さLに沿っておよび高さHに関して線形的にまたは指数関数的に湾曲した状態となるように形成されている。このようにして、一定に曲がった形状を実現することができ、その際、突出部20の下壁21は、理想的には、ノズルスリット5の中央領域8cの下方境界部30への穏やかな移行部を形成する。最良の場合でも、下壁21および中央領域8cの下方境界部30は、有利には下壁21の湾曲が側方領域8bで始まって突出部の下端部23まで延在するように、均一な面を形成する。下端部23において、下壁21は端壁22に接し、これと1つまたは2つのピースで接続されていてよい。
【0046】
有利には、下壁21および/または下方境界部30は、ノズル4あるいは延伸槽2を下向きに閉鎖し、その際、特に下方境界部30は、水平に延在している。この場合、ノズルスリットは、特に、ガラス融液9が下端部23から流出可能であるか、またはガラス融液9を少なくとも引き出すことができ、それによってガラスリボン10を下端部23のエッジ11において幅方向に延伸することができるように、下方境界部30および下壁21に配置されている。したがって、ノズルスリット5は、図7に示すように、その長さL方向に下端部を越えて延在することもできる。
【0047】
ノズル4の下端部23から上壁24までのノズル4の高さHと、側方領域8a,8bにおける突出部20の長さLvとによって、半径Rが決定される。ノズルスリット5あるいは下壁21の湾曲の半径Rを、理想的には下端部23に向かって減少する、有利には160mm~200mmの値に調整するために、突出部20を、20mm~40mmの高さとする。もう1つの重要な相関関係は、ノズル4の高さHと突出部20の幅Bvとの比であり、これは、図5に概略図でも示されている。幅Bvが小さいほど、流入するガラスがクリアしなければならない圧力損失は高くなる。一方で、突出部20の幅が広すぎると、ガラスを通じた突出部の冷却壁21,22への熱伝導の経路が長くなるため、このガラス体積の冷却がより劣悪になる。したがって、突出部20の内部空間における幅Bvに対するノズル4の高さHの比は、理想的には0.8~1.2である。ノズルスリット5は、実質的に長円形または楕円形であるため、ノズルスリット5は、幅Bsの変動によって規定されていてよい。例えば、50μmの厚みのガラスを製造するためには、ノズルスリット幅Bsの中央部から外側の面までの差が3mmを上回ることが考えられる。この場合、ノズルスリット幅は、側方領域8a,8b、すなわち突出部20の領域と、ノズル4の中央領域8cとの双方で変化し得る。
【0048】
突出部20の最適な内部空間を規定または提供し、それによってガラス融液9の粘度を調整するために、突出部20の幅Bvは、ノズルスリット幅Bsに基づいて算出される。
【0049】
Bv=2×Bs~5×Bs
【0050】
長さに沿って、突出部20は、好ましくは、端壁22が上壁24から斜めおよび/または湾曲した状態で延在することができるように、下端部23を越えて延在している。有利には、ノズル4の上壁24の上方開口部は、下壁21より広くかつ/または長いが、特にノズルスリットの幅Bsより広くかつ/または長い。
【0051】
図6および図7は、ノズル4のノズルスリット5の2つの実施形態を透視図で示したものである。一実施形態(図6)では、ノズルスリット5は、図7の実施形態よりも若干短く表されており、したがって、ノズルスリット5は、依然として突出部20の下向きに湾曲した領域で終わっている。したがって、本実施形態では、ノズルスリット5は、その端部まで常に下向きに湾曲している。図7に示す実施形態では、ノズルスリットは、若干長く表されている。したがって、ノズルスリット5は、突出部20の下壁21を越えて下端部23まで、またはさらにはそれを越えて延在している。有利には、ノズルスリット5の湾曲は、下壁21から下端部23への移行領域において変曲点Wを有しており、したがって、特に傾きは再び減少しており、またはさらには逆行することさえある。ノズルスリット5は、変曲点に折れ曲がり部を有することもできる。
【0052】
図8は、突出部20における力分布を例示的に示すものである。ガラスリボン10が延伸方向に引っ張られることによって生じる力は、1つ以上の突出部20において、ノズルスリット5の湾曲によって、垂直方向の力成分Fvと水平方向の力成分Fhとに分けられる。これにより、ノズルスリット5または下壁21の下向きに湾曲した部分8bにおいて、ノズル端部の方向に引張力の横方向成分が連続的に増加することになる。つまり、半径Rが下端部23の方向に小さくなるほど、ガラスリボン10を延伸する際の変形力の水平方向成分Uhが大きくなり、この成分は、ガラスリボン10を引き伸ばして幅広く保つために非常に重要である。高靭性ガラスの反力は、変形加工、すなわちガラス材の薄肉化の役割を担っている。したがってここでも、水平方向成分Uhは、変形加工されるガラスを、特にエッジ11において、外側に、すなわち幅方向に引っ張り、したがってネッキングにも進み、一方で、変形力の垂直方向成分Uvは、ガラスを延伸方向Zに下向きに引っ張る。水平方向の力成分と垂直方向の力成分との和から生じる力は、ガラスリボン10において、引張力についてはFzと示されており、変形力についてはUzとして示されている。
【0053】
ガラスリボン10の所望の幅および/または引張力に応じて、ノズルスリット5の湾曲の半径Rは、均一であってもよく、すなわち有利には、下端部の方向に小さくなることはない。しかし、「折れ曲がり部」は、いわば点状の一様でないあるいは同じでない力分布を招くため、下壁21から中央領域8cの下方境界部30への移行部に「折れ曲がり部」が発生しないことが特に重要である。特に、変形力UhおよびUvの一様でない力分布は、高靭性ガラスの厚みまたは幅の局所的な変化を招きかねないため、安定した変形加工プロセス、あるいはガラスリボン10の幅にわたって均一なパラメータまたはガラス特性を保証することができなくなる。
【0054】
全体として、ノズルスリット5が長さL、幅Bおよび高さHにおいて湾曲しているノズル4を用いることで、湾曲がない場合に比べて、所定の延伸槽幅から、より幅の広いガラスリボンを製造することができると考えられる。100μm未満のガラス厚、さらには50μm未満のガラス厚を延伸することも可能である。図9に、湾曲スリットによって生じるガラスリボン10の幅の変化を、全方向に平行に延びるノズルスリット5と比較して例示的に示す。ここで、破線のエッジライン11は、平行なノズルスリット5を用いて製造されるガラスリボン10の幅Bpを示し、実線のエッジライン11は、湾曲したノズルスリット5を用いて製造することができるガラスリボン10の幅Bkを示す。単なる例示であるが、以下に、長さ700mmのノズルスリット5によって生じた、各種厚みを有するガラスリボン10の公称幅のいくつかの典型的なデータを示し、また、湾曲したノズルスリット5を用いた場合に生じ得る幅の変化も示す。
【0055】
【表1】
【0056】
図1に示す装置1の実施形態に対して、図10は、冷却ユニット3および/または延伸槽2に関するさらなる実施形態を有する装置1の概略図を示す。これらの実施形態の1つによれば、冷却ユニット3は、少なくとも1つの冷却炉40を備え、この冷却炉40を通って、特に冷却炉40の入口開口部および出口開口部を通ってガラスリボン10を移動させる。冷却炉40は、有利には、ガラスリボン10の成形領域14の下方に配置されており、これにより特に、成形後の成形ガラスリボン10が所望の温度、例えば室温まで冷却され、特にまた制御された状態で徐冷され、それにより、例えばガラスリボン10の応力が回避または低減される。
【0057】
ガラスリボン10の幅にわたって特に正確に冷却するために、冷却炉40が、並んで/重なり合って、有利には互いに隣接して配置された複数の冷却および/または加熱部41を有することが提供されていてよい。少なくとも1つの冷却および/または加熱部41、好ましくは複数の、より好ましくは全ての冷却および/または加熱部41は、温度を測定および制御するための熱電対42を備えている。好ましくは、冷却および/または加熱部41は、タイル状に、特にタイル張りの様式で並べて配置されている。これは、特に冷却および/または加熱部41を介在する自由空間なしに互いに隣接して配置することができるように、冷却および/または加熱部がタイルとして形成されているか、あるいは矩形、正方形または六角形であることと理解される。このような実施形態は、例えば、図11に示されている。冷却および/または加熱部41が異なる大きさを有することが提供されていてよい。例えば、特にエッジ11または冷却炉縁部の領域に配置される冷却および/または加熱部41は、冷却炉40またはガラスリボン10の中央部に配置されるものよりも大きく形成されていても、小さく形成されていてもよい。このようにして、ガラスリボン10の特定の領域を、局所的に強くまたは弱く冷却および/または加熱することができ、それにより、各ガラスリボン幅およびガラスリボン形状に対して個別の冷却および/または加熱手法を提供することができる。したがって、冷却および/または加熱部41が、冷却炉40の上部領域よりも冷却炉40の下部領域で、より大きくまたは小さく形成されていることも考えられる。
【0058】
ガラスリボン10の温度を制御するために、装置1が少なくとも1つの温度測定ユニット45を備えることが提供されている。温度測定ユニット45は、特に、ガラスリボン10の温度を、ガラスリボンの有利には全幅にわたって検出あるいは測定することができるように形成されている。図10に示すように、温度測定ユニット45は、成形領域14、特に冷却炉40の上方に配置されていてよく、そうすることで、例えば、ガラスリボン10を冷却炉40で冷却する前にガラスリボン10の温度を検出することができる。このようにして、ガラスリボン10に対する最適な冷却プログラムを実現することができる。同様に、温度測定ユニット45または少なくとも1つ以上のさらなる温度測定ユニット45が、冷却炉40の一部であってもよく、かつ/または冷却炉内に、例えば中央部に配置されていてもよい。
【0059】
いくつかの事例において、例えば、あるガラス厚に最適化されたノズル4が、逸脱したガラス厚の製造に使用される場合、既に成形領域14においてガラスリボン10の温度に影響を与えることが必要となり得る。したがって、さらなる一実施形態では、装置1は、空間的に分けて配置された少なくとも1つの、特に複数の冷却および/または加熱ユニット50を備え、これらのユニットは、有利には成形領域14内に配置されている。この場合、冷却および/または加熱ユニット50は、成形領域14におけるガラスリボン10の幅を狙いどおりに調整できるように、冷却および/または加熱ユニット50がそれぞれ狙いどおりに少なくとも特定の領域においてガラスリボン10を局所的に加熱および/または冷却できるように構成されていてよい。したがって、冷却または加熱が、ガラスリボン10の幅全体にわたって行われるのではなく、ガラスリボン10の温度を所望の領域で局所的に変化させることができることが理解される。結果的に、ガラスリボン幅にわたって不均一なおよび/または均一な冷却または加熱を実現することができる。
【0060】
したがって、ガラスリボン10内の局所的なガラス分布に影響を与え、かつガラス分布の微調整も行うことができるようにするため、異なる加熱および/または冷却ユニット50が空間的に分かれて、特にガラスリボン10に対して横方向に分かれて配置されていると、特に好ましい。この場合、加熱および/または冷却ユニット50は、例えば、成形領域14の全面にわたって分かれて配置されており、有利には、成形領域14の長さの5%超、好ましくは10%超、好ましくは15%超の高さに、かつ/または成形領域14の長さの50%未満、好ましくは30%未満の高さに分かれて配置されており、その際、成形領域14の長さは特に、ガラスリボン10の幅に対して横方向に延びる。ここで、成形領域14の長さは、100mm~300mmであることができる。言い換えれば、加熱および/または冷却ユニット50は、例えばガラスリボン10の厚みの微調整が可能となるように、ノズル4と冷却炉40との間に配置されていてよい。これにより、ノズルスリット5の実際の最適化の対象となっている範囲よりも広い範囲の各種ガラス厚を有する各種ガラスリボンを、1つのノズルスリット5で延伸することも可能となる。
【0061】
このようにして、例えば、ガラスリボン10の中央部に凹状の厚み分布を有する薄型ガラスにおいて、ガラス温度を下げるため、あるいはガラスの粘度を上げるために、異なる加熱および/または冷却ユニット50を使用することができる。このようにすると、成形が早期に終了されるとともに、この領域でガラスが、これらの加熱および/または冷却ユニット50が存在しない場合のように薄く引き出されることがない。ガラスリボン10の所望の位置で個別に温度を制御できるようにするために、複数の加熱および/または冷却ユニット50が、ガラスリボン10の幅に沿って、あるいはガラスリボン10の幅に関して並んだ状態でおよび/または斜めにあるいは横方向に配置されていてよいことが考えられる。また、複数の加熱および/または冷却ユニット50が、特に延伸方向に重なり合って配置されていることも同様に可能である。用途に応じて、例えば、2~6つの加熱および/または冷却ユニット50が、並んで重なり合っておよび/または互いに斜めに配置されていることが提供されていてよい。
【0062】
有利には、加熱および/または冷却ユニット50は、それぞれ空冷式または水冷式冷却装置として形成されていてよく、特に、例えば図12に概略的に示されているように、空気流、噴射水流、水滴、霧および/またはエアロゾルを発生させることができる。これらの媒体を、特に局所的に、かつ必要に応じて直接、ガラスリボン10に向けることができる。
【0063】
しかし、加熱および/または冷却ユニット50が、間接型の加熱および/または冷却ユニット50として、例えば、少なくとも1つの媒体が循環する閉鎖型導管システムとして形成されており、それによって、ガラスリボン10が、特にさらなる媒体、例えば水と接触しないようにすることも可能である。この場合、加熱および/または冷却ユニット50は、それぞれ熱エネルギーを放出または吸収あるいは搬出することができるように形成されている。このような導管システムの少なくとも1つの導管が、延伸方向に対して横方向または平行に整列されていることが考えられる。温度、有利には媒体および/またはガラスリボンの温度を検出するために、温度測定ユニット45が設けられていてよく、この温度測定ユニット45は、例えばガラスリボン10から引き出される熱エネルギーをも測定することができるように、特に少なくとも1つの、有利にはそれぞれ1つの加熱および/または冷却ユニット50上に配置されていてよい。前述の実施形態に限定されるものではないが、直接および間接型の加熱および/または冷却ユニット50の組み合わせも使用することができる。加熱および/または冷却ユニット50による冷却あるいは加熱が間接型であるか直接型であるかに関わらず、加熱および/または冷却ユニット50の断面の形状は様々なものが考えられ、例えば円形、長円形、または矩形や六角形のような多角形の形状が考えられる。
【0064】
ここで、それぞれガラスリボン10からの加熱および/または冷却ユニット50の距離を変更することができる。これにより、例えば、空冷式の冷却を、空気量の調整により微調整することができる。この場合、単位時間当たりの通気量が多いほど、ガラスは厚くなる。空冷のさらなる非常に効果的な変形例は、エアロゾルが形成されるように霧化された水を混ぜることである。このエアロゾルは、水量に応じて、単なる乾燥空気よりもかなり多くの熱エネルギーを輸送することができ、その際、エアロゾル、あるいは霧化した水、または別の霧化した液体を空気または特定のガス組成物と混合して、効果的に冷却することも可能である。
【0065】
加熱および/または冷却ユニット50を、例えば水冷式および/または空冷式冷却装置の形態で使用する場合、その位置あるいはガラスリボン10からの距離を変更することができる。この場合、水冷式冷却装置とガラスリボン10との間の距離が小さいほど、ガラスは厚くなる。加熱ユニットは、同一の、ただし逆方向の効果を有し、加熱ユニットによって、ガラスリボン10を所望の領域でより薄く成形することが可能である。ここで、加熱ユニットは、空気および/または加熱コイルベースの加熱ユニットとして形成されていてよい。加熱および/または冷却ユニット50を正確に調整できるようにするために、ノズル4と加熱および/または冷却ユニット50との間に配置された温度測定ユニット45が設けられていてよい。
【0066】
さらなる一実施形態では、装置1は、清澄処理済みのガラスを収容し、均質化するための坩堝55を備え、この坩堝55には、有利には特別に適合された直径を有する少なくとも1つの排出管56が配置されており、この排出管56は、特に延伸槽2に開口している。したがって、ガラスを、坩堝55から排出管56を通って延伸槽2に搬送することができる。ここで、装置は、少なくとも1つの、有利には複数の、またはさらには多数の加熱素子60を備えることができ、少なくとも1つの加熱素子60は、少なくとも延伸槽2、排出管56および/または坩堝55の付近に配置されている。図13に示す例によれば、温度および延伸槽2内のガラスの分布を正確に調整できるようにするために、複数の加熱素子60が、それぞれ延伸槽2、排出管56および/または坩堝55の付近に配置されていてもよい。
【0067】
加熱素子60とは、本発明の意味では、延伸槽2、排出管56および/もしくは坩堝55ならびに/またはそれらの内容物にエネルギーを放出するのに適し、またそうしたことが意図された器具として理解される。このエネルギーは、例えば、熱エネルギー、またはさらには電気エネルギー、または例えば磁気エネルギーの形態で放出することができる。ここで、加熱素子60は、1つ以上の加熱コイルおよび/またはフランジを備えることができ、これらは、延伸槽2、排出管56および/または坩堝55を少なくとも部分的にまたは完全に少なくとも一方向に取り囲むことができる。したがって、総じて、延伸槽2、排出管56、坩堝55および/またはそれらの内容物を、加熱素子60により供給される熱エネルギーによって直接加熱することも、延伸槽2、排出管56および/または坩堝55を、例えば誘導または電流供給によって、有利には少なくとも1つの、または複数の特にフランジによって自己加熱することもできる。ここで、延伸槽2、排出管56および/もしくは坩堝55を流れる電流を少なくとも2つのフランジによって発生させること、または少なくとも1つのフランジによって磁場を発生させ、これにより延伸槽2、排出管56および/もしくは坩堝55に誘導的にエネルギーを供給することが考えられる。したがって、有利には、延伸槽2、排出管56および/または坩堝55は、熱および/または電流を伝導する材料、例えば金属を有することができる。総じて、加熱素子60による加熱は、特に間接的に、有利にはより広い面積で行うことができ、したがって、例えばガラスの欠陥の形成を低減することができる。温度の、特に局所的な微調整も可能である。
【0068】
図13の例に限定されるものではないが、坩堝55の付近で、上方流入開口部と下方流出開口部とにそれぞれ1つの加熱素子60が配置されており、それにより、ガラスを所望の温度で排出管56に送ることができることが提供されている。排出管56は、3つの加熱素子60を備え、上側3分の1、中央3分の1および下側3分の1にそれぞれ1つの加熱素子60が配置されている。有利には、排出管56は、このように2~4つの電気加熱回路61に分割されており、特にそれにより、非常に細かな温度制御が可能となり、かつガラスを既に延伸槽への流入時に一様に分配することができる。
【0069】
さらなる一実施形態では、延伸槽2は、有利には延伸槽(2)の加熱が有利には3つの電気加熱回路に分割されるように、複数の、特に少なくとも4つの加熱素子60を備えている。加熱回路とは、特に、例えばそれぞれ延伸槽内のガラスの所定の体積範囲を加熱することができる、延伸槽2の空間的に異なって配置されたまたは異なる加熱ゾーンであると理解することもできる。ここで、延伸槽2の加熱回路62は、有利にはノズルスリット5の長さLに対して並んで配置されており、それによって、横方向あるいはノズルスリット5の長さLに沿った延伸槽2内のガラス分布に影響が及ぼされる。したがって、ノズルスリット5におけるガラス分布およびノズル4におけるガラス量のスループットを、排出管56および延伸槽2の温度制御により調整することができる。好ましくは、加熱素子60は、少なくとも2つまたは3つ、特にそれよりも多くの加熱回路62が形成されるように配置されている。この場合、加熱回路62および/または加熱素子60のうち少なくとも2つは、延伸槽2の側方に配置されていてよく、特に、少なくとも3つの加熱回路62が形成され、そのうちの少なくとも1つのさらなる加熱回路62が延伸槽2の中央部に配置されるように、配置されていてよい。ここで、各加熱回路62は、少なくとも2つの加熱素子60によって囲まれ、あるいは画定または包囲されていてよい。
【0070】
したがって、前述の課題は、総じて、特定の実施形態の特定の特徴に限定されることなく、ガラス融液9からガラスリボン10を延伸する装置1であって、該装置1は、清澄処理済みのガラスの融液を収容するための坩堝55と、ガラス融液を延伸槽2に搬送するための排出管56とを備えており、少なくとも延伸槽2は、複数の加熱素子60を備え、これらの加熱素子60は、有利には、ノズル4のノズルスリット5の長さLに対して横方向に配置されており、このノズル4を通じてガラス融液9が下向きに流れ出ることができ、該装置1は、成形領域14に配置されている少なくとも1つの、特に複数の冷却および/または加熱ユニット50を備える、装置1によっても解決することができる。有利には、本実施形態でも、ノズルスリット5は、第1の側方領域8aおよび第2の側方領域8bにおいて、ノズルスリット5の端部7a,7bに向かって、特に一貫してまたは連続的に、延伸方向Zに下向きに湾曲しているため、端部7a,7bは、端部7a,7bの間に配置されたノズルスリット5の中央領域8cよりも低い位置にある。ガラスの均質化のために、坩堝55に撹拌ユニットが設けられていてよく、特にその単位時間当たりの回転数を調整することができる。
【符号の説明】
【0071】
1ガラスリボンの延伸装置
2 延伸槽
3 冷却ユニット
4 ノズル
5 ノズルスリット
6 ノズルあるいはノズルスリットの壁
7a 第1の端部
7b 第2の端部
8a ノズルスリットの第1の側方領域
8b ノズルスリットの第2の側方領域
8c ノズルスリットの中央領域
9 ガラス融液
10 ガラスリボン
11 エッジ
14 成形領域
15 延伸ローラ
20 突出部
21 突出部の下壁
22 突出部の端壁
23 突出部の下端部
24 ノズルの上壁
25 側壁
30 中央領域の下方境界部
40 冷却炉
41 冷却および/または加熱部
42 熱電対
45 温度測定ユニット
50 冷却および/または加熱ユニット
55 坩堝
56 排出管
60 加熱素子
61 排出管の加熱回路
62 延伸槽の加熱回路
B 幅
Bk 湾曲したノズルスリットを用いて製造されたガラスリボンの幅
Bp 平行なノズルスリットを用いて製造されたガラスリボンの幅
Bs ノズルスリットの幅
Bv 突出部の幅
H ノズルの高さ/突出部の高さ
L ノズルスリットの長さ
Lv 突出部の長さ
R 湾曲の半径
W 湾曲の変曲点
Z 延伸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】