(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】ブレーキディスクのブレーキバンドの製造方法、ブレーキディスクの製造方法、ブレーキディスク及びブレーキディスクのブレーキバンド
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20240219BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20240219BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240219BHJP
C04B 35/569 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
F16D65/12 E
F16D65/12 R
C04B41/88 U
C04B38/00 303Z
C04B35/569
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549112
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 IB2022051546
(87)【国際公開番号】W WO2022180510
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】102021000004454
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(71)【出願人】
【識別番号】523309129
【氏名又は名称】エネア - アジェンツィア・ナツィオナーレ・ペル・レ・ヌオーヴェ・テクノロジエ・レネルジア・エ・ロ・スヴィルッポ・エコノミコ・ソステニビーレ
【氏名又は名称原語表記】ENEA - Agenzia Nazionale Per Le Nuove Tecnologie, L’energia E Lo Sviluppo Economico Sostenibile
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ミラネージ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】マニャーニ,ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】ブルジョ,フェデリカ
【テーマコード(参考)】
3J058
4G019
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058BA61
3J058BA68
3J058CB12
3J058CB24
3J058EA08
3J058EA17
3J058EA37
3J058FA01
4G019FA15
(57)【要約】
ディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)のブレーキバンド(2)の製造方法は、
a)内側キャビティ(11)を有する金型(10)を準備する工程であって、この金型は、製造されるブレーキバンド(2)に対応する形状の第1の部分(11a)からなる、工程;
b)中央プリフォーム(200)、上部外側プリフォーム(201)および下部外側プリフォーム(202)からなるバンドプリフォーム(20)を準備する工程であって、前記中央プリフォーム(200)は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなり、前記上部外側プリフォーム(201)および下部外側プリフォーム(202)は、炭化ケイ素(SiC)からなり、ケイ素(SiC+Si)が浸透された多孔質セラミック材料からなり、前記上部外側プリフォーム(201)と前記中央プリフォーム(200)との間、および前記下部外側プリフォーム(202)と前記中央プリフォーム(200)との間に、カーボンからなるカーボンバリア層(201a、200a、200b、202a)が介在され、前記プリフォーム(200、201、202)が、製造されるブレーキバンド(2)の形状を有する、工程;
c)前記バンドプリフォーム(20)を、前記内部キャビティ(11)の第1の部分(11a)において金型内に配置する工程;および
d) 前記金型(11)の内側キャビティ(11)全体の内部に液体または半固体のアルミニウム合金を注入して、多孔質セラミック材料からなる前記バンドプリフォーム(20)の中央プリフォーム(200)に前記アルミニウム合金を浸透させ、製造されるブレーキバンド(2)を画定する前記中央プリフォーム(200)によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を第1の部分(11a)で得る工程、を含む。少なくとも前述の方法により、ブレーキバンドと制動ディスクが製造される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)用のブレーキバンド(2)を製造する方法であって、前記方法は、
a)内側キャビティ(11)を有する金型(10)を準備する工程であって、前記金型は、製造される前記ブレーキバンド(2)に対応する形状の第1の部分(11a)からなる、準備する工程;
b)中央プリフォーム(200)、上部外側プリフォーム(201)および下部外側プリフォーム(202)からなるバンドプリフォーム(20)を提供する工程であって、
前記中央プリフォーム(200)は炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料で作られ、
前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)は炭化ケイ素(SiC)からなりケイ素(SiC+Si)が浸透された多孔質セラミック材料で作られ、
前記上部外側プリフォーム(201)と前記中央プリフォーム(200)との間、および前記下部外側プリフォーム(202)と前記中央プリフォーム(200)との間に、カーボンからなるカーボンバリア層(201a、200a、200b、202a)が介在され、
前記プリフォーム(200、201、202)が、製造される前記ブレーキバンド(2)の形状を有する、工程;
c)前記バンドプリフォーム(20)を、前記内部キャビティ(11)の第1の部分(11a)において前記金型内に配置する工程;および
d) 前記金型(10)の前記内側キャビティ(11)全体の内部に液体または半固体のアルミニウム合金を注入して、多孔質セラミック材料からなる前記バンドプリフォーム(20)の前記中央プリフォーム(200)に前記アルミニウム合金を浸透させ、第1の部分(11a)において、製造される前記ブレーキバンド(2)を画定する前記中央プリフォーム(200)によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を得る工程、
を含む方法。
【請求項2】
工程b)の前に、前記バンドプリフォーム(20)を製造するために、
a1)前記中央プリフォーム(200)、前記上側外側プリフォーム(201)および前記下側外側プリフォーム(202)を提供する工程であって、前記中央プリフォーム(200)、前記上側外側プリフォーム(201)および前記下側外側プリフォーム(202)はそれぞれ、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料で作られている、工程;
a2)前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)にケイ素(Si)を浸透させる工程;
a3)前記中央プリフォーム(200)上に、炭素からなる粒子状の材料を堆積させて、炭素からなる少なくとも1つの炭素バリア層(200a、200b)を得る工程;
a4)工程a3)の代わりに、前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)上に、炭素からなる粒子状の材料を堆積させて、前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)の各々に、炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層(201a、202a)を提供する工程;
a5)工程a3)およびa4)の代わりに、前記中央プリフォーム(200)および前記上部外側プリフォーム(201)および/または前記下部外側プリフォーム(202)上に、炭素からなる粒子状の材料を堆積させて、前記中央プリフォーム(200)および前記上部外側プリフォーム(201)および/または前記下部外側プリフォーム(202)上に炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層(200aおよび/または200b、201aおよび/または202a)を提供する工程;
a6)各カーボンバリア層(200aおよび/または200b、201aおよび/または202a)にケイ素を挿入し、前記カーボンバリア層(200aおよび/または200b、201aおよび/または202a)においてそれらの間に接合部が形成されるまで前記プリフォーム(200、201、202)を加熱することにより、前記中央プリフォーム(200)、前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)を接合し、前記バンドプリフォーム(20)を得る工程;を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)の前に、前記バンドプリフォーム(20)を製造するために、
a3)前記中心プリフォーム(200)上に、炭素からなる粒子状の材料を堆積させて、炭素からなる少なくとも1つの炭素バリア層(200a、200b)を得る工程;
a4)工程a3)の代わりに、前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)上に、炭素からなる粒子状の材料を堆積させて、前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)の各々に炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層(201a、202a)を設ける工程;
a5)工程a3)およびa4)の代わりに、前記中央プリフォーム(200)および前記上部外側プリフォーム(201)および/または前記下部外側プリフォーム(202)上に、炭素からなる粒子状の材料を堆積させて、前記中央プリフォーム(200)および前記上部外側プリフォーム(201)および/または前記下部外側プリフォーム(202)上に炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層(200aおよび/または200b、201aおよび/または202a)を提供する工程;
a11)前記上部外側プリフォーム(201)、前記下部外側プリフォーム(202)および前記中央プリフォーム(200)の1つまたは複数の領域を、例えば窒化ホウ素(BN)をベースとする離型層(200''、201''、202'')によって保護する工程;
a6)各カーボンバリア層(200aおよび/または200b、201aおよび/または202a)においてケイ素を挿入し、前記カーボンバリア層(200aおよび/または200b、201aおよび/または202a)においてそれらの間に接合が形成されるまで前記プリフォーム(200、201、202)を加熱することによって、前記中央プリフォーム(200)、前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)を一緒に接合する工程;
a61)工程a11)で使用された、例えば窒化ホウ素(BN)をベースとする離型層(200'')によって、または異なるもしくは追加の離型層、例えば窒化ホウ素(BN)をベースとする離型層によって、前記中央プリフォーム(200)の1つまたは複数の領域を保護する工程;
a62)前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)にケイ素(Si)を浸透させる工程;を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程a2)または工程a62)において、前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)が、例えば窒化ホウ素(BN)ベースの離型層で被覆された坩堝内に配置され、所定量の粉末状ケイ素(Si)が坩堝に添加され、前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)が、添加されたケイ素(Si)の融合を得るために加熱される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)を、大気圧下、不活性雰囲気下、好ましくはアルゴン雰囲気下において、Siの融解温度(1414℃)を超える温度まで加熱する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程a3)またはa4)またはa5)において、炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層(201a、202a)を得るために、炭素からなる粒子状の材料を堆積させる工程が、化学気相成長法、スパッタリング法、物理気相成長法(PVD)、またはグラファイトベースの接着剤による接着によって達成される、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
化学蒸着用の炭素前駆体として気体メタンを使用し、前記温度が1100℃と1300℃の間で構成され、前記圧力が10ミリバールと50ミリバールの間である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記化学気相成長工程中の混合ガスの寄与が
- 毎分0.4から3標準リットル(slm)の間のメタン;
- 毎分0.2~5標準リットル(slm)の水素
- 毎分0~4標準リットル(slm)のアルゴン;
メタンと水素の比率が0.3~5である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程a6)において、
前記プリフォーム(200、201、202)を約1450℃の温度に約2時間加熱する工程。
請求項2から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アルミニウム合金を前記鋳型内に導入する工程d)が、半固体または液体浸透法、またはスクイズ鋳造によって行われる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記中央プリフォーム(200)、前記下部外側プリフォーム(202)および前記上部外側プリフォーム(201)が、ポリマー結合組成物で表面被覆されたセラミック材料顆粒の塊を順次成形、脱脂および焼結に付すことによって得られる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記焼結が、2つの別個の焼結サイクルで実施され、
第1の焼結サイクルが1600℃以上、好ましくは約1800℃の温度で実施され、
第2の焼結サイクルが2000℃以上、好ましくは2100℃~2200℃の範囲の温度で実施され、
いずれも不活性雰囲気中で実施される、請求項6から10の1つまたは複数に記載の方法。
【請求項13】
前記工程d)において、前記金型が前記上側外側プリフォーム(201)および前記下側外側プリフォーム(202)を覆って閉じることにより、前記金型へのアルミニウムの導入中に、前記上側外側プリフォーム(201)上および前記下側外側プリフォーム(202)下へのアルミニウムの浸入が阻止され、前記ディスクの前記外側ブレーキ面(2a,2b)がアルミニウムから解放される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ブレーキディスクを製造するための方法であって、前記ブレーキディスクは、ブレーキバンド(2)とベル(3)とを含み、
a) 作製されるブレーキディスク(1)のブレーキバンド(2)に対応する形状の第1の部分(11a)と、作製されるブレーキディスク(1)のベル(3)に対応する形状の第2の部分(11b)とからなる内部キャビティ(11)を有する金型(10)を準備する工程であって、前記内部キャビティ(11)の第1の部分(11a)と第2の部分(11b)とが互いに連通する工程;
b)中央プリフォーム(200)、上部外側プリフォーム(201)および下部外側プリフォーム(202)からなるバンドプリフォーム(20)を提供する工程であって、
前記中央プリフォーム(200)は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料で作られており、
前記上部外側プリフォーム(201)および前記下部外側プリフォーム(202)は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料で作られており、ケイ素(SiC+Si)が浸潤されており;
前記上側外側プリフォーム(201)と前記中央プリフォーム(200)との間、および前記下側外側プリフォーム(202)と前記中央プリフォーム(200)との間に、カーボンからなるカーボンバリア層(201a、200a、200b、202a)が介在され、前記プリフォーム(200、201、202)が、製造されるブレーキディスク(1)のブレーキバンド(2)の形状を有する、工程;
c)前記バンドプリフォーム(20)を、前記内部キャビティ(11)の第1の部分(11a)の金型内に配置する工程;
d) 前記金型(10)の内側キャビティ(11)全体に液体または半固体のアルミニウム合金を注入して、多孔質セラミック材料からなる前記バンドプリフォーム(20)の前記中央プリフォーム(200)にのみ前記アルミニウム合金を浸透させ、製造されるブレーキディスクのブレーキバンド(2)を部分的に画定する前記中央プリフォーム(200)によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を第1の部分(11a)で得、第2部分(11b)を前記アルミニウム合金で充填し、複合金属マトリックス製のブレーキバンド(2)と一体に接続され、製造されるブレーキディスク(1)のベル(3)を画定するアルミニウム合金の融合を得る工程、を含む方法。
【請求項15】
ディスクブレーキ用ブレーキディスクのブレーキバンド(2)であって、前記ブレーキバンド(2)は、
炭化ケイ素(SiC)からなるセラミック材料で強化されたアルミニウム金属マトリックス複合材からなる中央バンド(200')であって、前記複合材は、前記ブレーキバンドに対応する形状の多孔質セラミック材料からなる中央プリフォーム(200)をアルミニウム合金で浸潤することによって得られる、中央バンド(200')と、
上部接合層(22a)に沿って前記中央バンド(200')に接合される上部バンド(201')であって、前記上部バンド(201')は、炭化ケイ素(SiC)を有し、ケイ素(SiC+Si)を浸潤させた多孔質セラミック材料からなり、その一側で前記中央バンド(200')を覆う上部バンド(201')と、
前記上側接合層(22a)に対して反対側、すなわち反対側に配置された下側接合層(22b)に沿って中央バンド(200')に接合された下側バンド(202')であって、前記下側バンド(202')は、炭化ケイ素(SiC)を有し、ケイ素(SiC+Si)が浸潤された多孔質セラミック材料からなり、前記上側バンド(201')に対して反対側、すなわち反対側で前記中央バンド(200')を覆っている、下側バンド(202')と、を備えるブレーキバンド(2)。
【請求項16】
ディスクブレーキ用のブレーキディスクであって、請求項15に記載のブレーキバンド(2)と、前記ブレーキバンド(2)に連結されたベル(3)とを備えるブレーキディスク。
【請求項17】
請求項16に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスクにおいて、前記ベル(3)は、前記ブレーキバンド(2)に一体に連結され、前記ブレーキバンド(2)を構成する複合材の金属マトリックスと共鋳されたアルミニウム合金からなることを特徴とするディスクブレーキ用ブレーキディスク。
【請求項18】
前記アルミニウム合金のマトリックスが、前記複合材の内部に均質に分布した構造を有する、請求項16または17に記載のブレーキディスク(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキディスクのブレーキバンドの製造方法、ブレーキディスクの製造方法、ブレーキディスク、および前記方法により製造されたブレーキディスクのブレーキバンドに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のディスクブレーキシステムのブレーキディスクは、環状構造体、すなわちブレーキバンドと、ベルとして知られる中央固定要素とからなり、この固定要素によってディスクが車両サスペンションの回転部分、たとえばハブに取り付けられる。ブレーキバンドは、摩擦要素(ブレーキパッド)と協働するのに適した対向するブレーキ面を備えており、このブレーキバンドにまたがって配置され、車両サスペンションの非回転部品と一体化された少なくとも1つのグリッパー本体に収容されている。対向するブレーキパッドとブレーキバンドの対向するブレーキ面との間の制御された相互作用は、摩擦による制動作用を引き起こし、車両を減速または停止させる。
【0003】
一般に、ブレーキディスクはねずみ鋳鉄製または鋼鉄製である。実際、これらの材料は比較的低コストで良好なブレーキ性能(特に摩耗の抑制)を得ることができる。カーボンまたはカーボンセラミック材料で作られたディスクは、はるかに高い性能を提供するが、はるかに高いコストがかかる。
【0004】
ねずみ鋳鉄またはスチール製ディスクに代わるものとして、ディスクの重量を減らすためにアルミニウム製のディスクが提案されている。アルミニウム製ディスクには保護コーティングが施されている。保護コーティングは、一方ではディスクの摩耗を低減し、鋳鉄製ディスクと同様の性能を確保する役割を果たし、他方では、アルミニウムの軟化温度(200~400℃)をはるかに超える制動時に発生する温度からアルミニウムベースを保護する役割を果たす。
【0005】
現在入手可能でアルミニウム製ディスクに塗布される保護コーティングは、耐摩耗性を提供する一方で、しばしば剥離の原因となり、コーティングがディスクから剥離する。このため、ディスクの製造工程が複雑になる。事実上、ディスクは表面仕上げ処理を受けなければならず、また、ベルとの接続のために準備されなければならない。
【0006】
上述したことから明らかなように、保護コーティングを施したアルミニウムまたはアルミニウム合金製ディスクは、現在のところ、鋼製またはねずみ鋳鉄製ディスクに完全に取って代わることはできない。
【0007】
しかしながら、鋼鉄およびねずみ鋳鉄の両方に対してアルミニウムの密度が低いため、ブレーキシステム産業関係者の間では、鋼鉄およびねずみ鋳鉄の優れた潜在的代替品としてアルミニウムに対する関心が非常に高い。
【0008】
したがって、この分野では、一方ではアルミニウムの特殊な操作上の特徴(何よりもまず、その密度の低さによる)を利用することを可能にし、他方では少なくとも鋼やねずみ鋳鉄のディスクに匹敵する機械的強度と摩耗特性を得ることができるアルミニウムベースのブレーキディスクが必要とされている。また、できるだけ簡単で経済的な製造工程でこれらのディスクを製造する必要もある。
【0009】
WO2019/123222A1には、溶融アルミニウム(液体または半固体状態)を浸透させた多孔質セラミックプリフォームを用いてアルミニウムディスクを製造する方法が記載されている。残念なことに、この方法で得られたディスクは、ブレーキパッドとアルミニウムをベースとする金属マトリックスとの直接接触をもたらし、アルミニウムが摩擦によって融点まで過熱された箇所で、ディスクに局所的な劣化現象が発生する可能性がある。
発明の開示
【0010】
したがって、当業界では、局所的に劣化せず、一方ではアルミニウムの特別な操作上の特徴(主に低密度)を利用することを可能にし、他方では、鋼またはねずみ鋳鉄ディスクに匹敵する機械的強度および摩耗特性を得ると同時に、可能な限り単純かつ経済的な製造工程で製造されるアルミニウムベースのブレーキディスクに対する強いニーズが存在する。
【0011】
前記の要求とともに、鋳鉄または鋼のディスクに対してより高い耐腐食性を有し、汚染する金属粒子の排出がより少ないブレーキディスクも必要である。
【0012】
前述の要求は、添付の独立請求項に係るブレーキディスクのブレーキバンドの製造方法、ブレーキディスクの製造方法、ディスクブレーキ用ブレーキディスクおよびブレーキバンドによって満足される。
【0013】
この発明によるブレーキバンドの製造方法は、次の工程からなる。
a) 作製されるブレーキバンドに対応する形状の第1の部分を構成する内側キャビティを有する金型を準備する工程;
b) 中央プリフォーム、上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォームからなるバンドプリフォームを準備する工程であって、中央プリフォームは炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなり、上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォームは炭化ケイ素からなりケイ素(SiC+Si)を浸透させた多孔質セラミック材料からなる; 上部外側プリフォームと中央プリフォームの間、および下部外側プリフォームと中央プリフォームの間にカーボンバリア層を介在させる工程;
c) バンドプリフォームを、前記内部キャビティの最初の部分で金型内に配置する工程;
d) 多孔質セラミック材料からなる前記バンドプリフォームの中央プリフォームに前記アルミニウム合金を浸透させるように、前記金型の内側キャビティ全体内に液体または半固体のアルミニウム合金を注入し、製造されるブレーキバンドを画定する前記中央プリフォームによって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を第1の部分に得、製造されるブレーキディスクのベルを画定する金属マトリックス複合材からなるブレーキバンドと一体に接続されたアルミニウム合金融着体を得るように、前記アルミニウム合金を第2の部分に充填する工程。
【0014】
有利には、バンドプリフォームを製造するために、本方法は以下の工程を含む。
a1)製造されるブレーキディスク(1)のブレーキバンド(2)の形状を有する炭化ケイ素(SiC)から成る多孔質セラミック材料から成る中央プリフォーム、上部外側プリフォーム、および下部外側プリフォームをそれぞれ準備する工程;
a2)上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォームにケイ素(Si)を浸透させる工程と
a3) 炭素からなる粒子状の材料を中央プリフォーム上に堆積させて、炭素からなる少なくとも1つの炭素バリア層を得る工程。
【0015】
工程a3)の代替として、本方法は、炭素からなる粒子状の材料を堆積させて、炭素からなる少なくとも1つの炭素バリア層を上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォーム上に得る工程a4)を有利に提供する。
【0016】
更に、工程a3)及びa4)の代替として、本方法は、中央プリフォームと、上部外側プリフォーム及び/又は下部外側プリフォームとに、炭素からなる粒子状の材料を堆積させて、中央プリフォームと、上部外側プリフォーム及び/又は下部外側プリフォームとに、炭素からなる少なくとも1つの炭素バリア層(C)を得る工程A5)を有利に備える。
【0017】
さらに好ましくは、本方法は、各カーボンバリア層にケイ素を介在させ、カーボンバリア層でそれらの間に接合が形成されるまで前記プリフォームを加熱することにより、中央プリフォーム、上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォームを一緒に接合し、バンドプリフォームを得る工程a6)を提供する。
【0018】
有利には、中央プリフォームと上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォームとの接合は、各カーボンバリア層に介在されたケイ素の融合により形成され、このケイ素は、バリアに堆積された炭素と反応して炭化ケイ素(SiC)を形成する。このようにして形成された炭化ケイ素(SiC)は、プリフォーム間の接合部として機能する。
【0019】
実施形態によれば、工程a2)において、上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォームは、例えば窒化ホウ素(BN)をベースとする離型層で被覆されたるつぼ内に配置され、所定量のケイ素(Si)粉末が、プリフォームのサイズの関数としてるつぼに添加され、上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォームは、添加されたケイ素の融合を得るために加熱される。
【0020】
好ましくは、上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォームは、大気圧で、不活性雰囲気中、好ましくはアルゴン雰囲気中で、Siの融解温度(1414℃)を超える温度に加熱される。
【0021】
有利には、工程a3)またはa4)またはa5)において、炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層を得るために、炭素からなる粒子状の材料を堆積させる工程は、化学蒸着によって得られる。
【0022】
好ましくは、炭素前駆体としてガス状メタンを化学蒸着に使用し、温度は1100℃~1300℃であり、圧力は10~50ミリバールである。
【0023】
有利には、化学蒸着工程中の混合ガスの寄与は、以下の通りである:
- 毎分0.4~3標準リットル(slm)のメタン;
- 毎分0.2~5標準リットル(slm)の水素;
- 毎分0~4標準リットル(slm)のアルゴン;
メタンと水素の比率は、0.3 から 5 の間である。
【0024】
変形実施形態によれば、工程a3)またはa4)またはa5)において、炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層を得るために、炭素からなる粒子状の材料を堆積させる工程は、スパッタリングまたは物理蒸着(PVD)技術によって、またはレーザクラッディング技術によって得られる。
【0025】
変形実施形態によれば、工程a3)またはa4)またはa5)において、炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層を得るために炭素からなる粒子状の材料を堆積させる工程は、グラファイトベースの接着剤を使用する接着技術によって達成される。
【0026】
好ましくは、工程a6)において、方法は、プリフォームの炭素表面のサイズに応じた化学量論的量のケイ素を介在させながら、約2時間の時間、約1450℃の温度にプリフォームを加熱することを提供する。好ましくは、アルミニウム合金を鋳型内に配置する工程d)は、半固体または液体浸透技術またはスクイズ鋳造技術に従って実施される。
【0027】
有利には、中央プリフォーム、下部外側プリフォーム、および上部外側プリフォームは、高分子結合組成物で表面被覆されたセラミック材料からなる顆粒の塊を、成形、場合によっては脱脂、および焼結に順次供することによって得られる。
【0028】
好ましくは、焼結は2つの別個の焼結サイクルで実施され、第1の焼結サイクルは1600℃以上、好ましくは約1800℃の温度で実施され、第2の焼結サイクルは2000℃以上、好ましくは2100℃~2200℃の範囲の温度で実施され、いずれも不活性雰囲気中で実施される。
【0029】
さらに好ましくは、工程d)において、金型へのアルミニウムの注入中に、上側外側プリフォームおよび下側外側プリフォームの上へのアルミニウムの浸入が阻止されるように、金型が上側外側プリフォームおよび下側外側プリフォームの上を閉じるので、ブレーキバンドの外側ブレーキ面にはアルミニウムが存在しない。
【発明の概要】
【0030】
この発明の一実施形態によるブレーキバンドとベルとからなるブレーキディスクの製造方法は、以下の工程からなる。
a)製造されるブレーキバンドに対応する形状の第1の部分と、製造されるブレーキディスクのベルに対応する形状の第2の部分とからなる内部キャビティを有する金型を準備する工程であって、前記内部キャビティの第1および第2の部分が互いに連通する、工程;
b)中央プリフォーム、上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォームからなるバンドプリフォームを準備する工程であって、中央プリフォームは炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなり、上部外側プリフォームおよび下部外側プリフォームは炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料にケイ素(SiC+Si)を浸透させたものである、工程;ここで、上側外側プリフォームと中央プリフォームとの間、および下側外側プリフォームと中央プリフォームとの間に、ケイ素(Si)と反応して上側外側プリフォームおよび下側外側プリフォームと中央プリフォームとの接合部として機能するように意図されたカーボンバリア層を介在させ、さらに、前記プリフォームは、製造されるブレーキディスクのブレーキバンドと同じ形状を有する;
c) 前記バンドプリフォームを、前記内側キャビティの最初の部分の金型内に配置する工程;
d) 前記金型の内側キャビティ全体に液体または半固体のアルミニウム合金を注入して、多孔質セラミック材料からなる前記バンドプリフォームの中央プリフォームに前記アルミニウム合金を浸透させ、第1の部分に、製造されるブレーキディスクのブレーキバンドを画定する、前記中央プリフォームによって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を得、第2の部分に前記アルミニウム合金を充填して、金属マトリックス複合材からなるブレーキバンドと一体に接続され、製造されるブレーキディスクのベルを画定するアルミニウム合金融合を得る工程。
【0031】
この発明によるディスクブレーキは、ブレーキバンドと、前記ブレーキバンドに連結されたベルとからなる。
【0032】
好ましくは、有利な態様において、ベルはブレーキバンドと一体に接続され、ブレーキバンドを形成する複合材料の金属マトリックスとアルミニウム合金からなる共鋳物で構成される。
【0033】
この発明によれば、ブレーキバンドは、炭化ケイ素(SiC)からなるセラミック材料で強化されたアルミニウム金属マトリックス複合材からなる中央バンドで構成される。この複合材は、ブレーキバンドに対応する形状を有する多孔質セラミック材料の中央プリフォームにアルミニウム合金を浸透させることによって得られる。ブレーキバンドはさらに上部バンドと下部バンドから構成される。上部バンドは、上部接合層に沿って中央バンドに接合される。前記上部バンドは、炭化ケイ素(SiC)からなり、ケイ素(SiC+Si)を浸透させた多孔質セラミック材料からなり、中央バンドの一方の側面を覆っている。下部バンドは、上部接合層とは反対側、すなわち対向して配置された下部接合層に沿って中央バンドに接合されている。下部バンドは、炭化ケイ素(SiC)からなり、ケイ素(SiC+Si)を浸透させた多孔質セラミック材料からなり、他方の側面、すなわち上部バンドと対向する側面から中央バンドを覆っている。
【0034】
好ましくは、アルミニウム合金マトリックスは、前記複合体内で均質に分布した構造を有する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明のさらなる特徴および利点は、その好ましい非限定的な実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう:
【
図1】
図1は、本発明の実施形態によるブレーキディスクの透視図である;
【
図2】
図2は、本方法の工程の一部、特に、本発明の実施形態によるブレーキディスク用のブレーキバンドを作製するための初期工程を概略的に示す図である;
【
図2a】
図2aは、本発明の方法の第1の実施形態によるブレーキディスク用ブレーキバンドの製造方法の工程を概略的に示す;
【
図2b】
図2bは、本発明の方法の第2の実施形態によるブレーキディスク用ブレーキバンドの製造方法の工程を概略的に示す図である;
【
図2c】
図2cは、本発明の方法の第3の実施形態によるブレーキディスク用ブレーキバンドの製造方法の工程を概略的に示す図である;
【
図2d】
図2dは、本発明の方法の第4の実施形態によるブレーキディスク用ブレーキバンドの製造方法の工程を概略的に示す図であり、上部および下部外側プリフォームにケイ素を浸透させる工程は、上部および下部プリフォームを中央プリフォームと機械的に接合する工程の後に実施される;
【
図2e】
図2eは、本発明の方法の第5の実施形態によるブレーキディスク用ブレーキバンドの製造方法の工程を概略的に示しており、上部および下部外側プリフォームにケイ素を浸透させる工程は、上部および下部プリフォームを中央プリフォームと機械的に接合する工程の後に実施される;
【
図2f】
図2fは、本発明の方法の第6の実施形態によるブレーキディスク用ブレーキバンドの製造方法の工程を概略的に示す図であり、上部および下部外側プリフォームにケイ素を浸透させる工程は、上部および下部プリフォームを中央プリフォームと機械的に接合する工程の後に実施される;
【
図3】
図3は、本発明の実施形態によるバンドプリフォームの透視図である;
【
図4】
図4は、本発明の実施形態によるブレーキディスクの製造方法における工程を示し、工程は、
図4から
図7まで順に互いに続いている。特に、
図7は、粗ブレーキディスクの直径平面上に作られた粗ブレーキディスクの断面を示し、粗ブレーキディスクは、
図1に示す最終ブレーキディスクの直前の中間製品であり、当該ブレーキディスクは、その後の機械加工によって粗ブレーキディスクの不要な部分を除去することによって得られる。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態によるブレーキディスクの製造方法における工程を示す。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態によるブレーキディスクの製造方法における工程を示す。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態によるブレーキディスクの製造方法における工程を示す。特に、
図7は、粗ブレーキディスクの直径平面上に作られた粗ブレーキディスクの断面を示し、粗ブレーキディスクは、
図1に示す最終ブレーキディスクの直前の中間製品であり、当該ブレーキディスクは、その後の機械加工によって粗ブレーキディスクの不要な部分を除去することによって得られる。
【0036】
以下に説明する実施形態に共通する要素または要素の一部には、同じ参照数字を付して示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
前述の図を参照して、参照数字1は、この発明によるブレーキディスクを全体的に示す。
【0038】
添付の図に示されたこの発明の一般的な実施形態によれば、ブレーキディスク1は、2つの対向する外側ブレーキ面2aおよび2bを備えたブレーキバンド2からなり、各ブレーキ面2aおよび2bは、少なくとも部分的にディスクの2つの主面のうちの1つを画定している。
【0039】
ブレーキディスク1は、ブレーキバンド2に連結されたベル3をさらに備えている。
【0040】
本発明の第1の態様によれば、ブレーキバンド2は、炭化ケイ素(SiC)からなるセラミック材料で強化されたアルミニウムベースの金属マトリックス複合材料からなる中央帯200'で構成される。
【0041】
前記複合材は、当業界でMMC(金属マトリックス複合材)として知られている複合材の範疇に入る。
【0042】
ブレーキバンド2にアルミニウムからなる前記MMC複合材を使用することにより、アルミニウムのものに関してさらに大きい機械的および化学的-物理的特徴(特に密度、したがって軽さを参照)を得ることができ、同時に(アルミニウムまたはその合金における単純な融合に関して)制動表面に保護コーティングを必要とすることなく、制動システムに要求されるような重い用途における機能的特徴を付加することができる。
【0043】
さらに、ブレーキバンド2は、上部接合層22aに沿って中央バンド200'に接合される上部バンド201'からも構成される。上部バンド201'は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料にケイ素を浸透させたもの(SiC+Si)である。さらに、上部バンド201'は、その片側で中央バンド200'を覆っており、当該側では、ブレーキディスクがディスクブレーキに取り付けられたときに中央バンド200'がブレーキパッドと接触しないようになっている。
【0044】
さらに、ブレーキバンド2は、上側中央層201'に対向して、すなわち対向して配置された下側接合層22bに沿って中央バンド200'に接合された下側バンド202'で構成されている。下部バンド202'も、炭化ケイ素(SiC)からなり、ケイ素(SiC+Si)を浸透させた多孔質セラミック材料からなる。さらに、下側バンド202'は、中央バンド200'を反対側、すなわち上側バンド201'とは反対側で覆っている。このようにして、中央バンド200'は、上部バンド201'と下部バンド202'との間に挟まれることになる。特に、ブレーキバンド2の外側ブレーキ面2a,2bは、中央バンド200'に接合されていない下側バンド202'及び上側バンド201'の各最外側面である。
【0045】
アルミニウムまたはその合金の1つだけで作られたブレーキバンドに関して、中央バンド200'にセラミック材料で作られた補強材が存在し、上部バンド201'および下部バンド202が存在することによって、より高い硬度、より高い剛性、より高い摩擦係数、およびより高い耐摩耗性が得られる。これらの特徴により、このブレーキバンドはブレーキディスクに使用するのに適している。
【0046】
このようにして、アルミニウムの有利な特徴(特に、鋼鉄や鋳鉄に対してより低い密度を参照)を有するブレーキバンドを作成することが可能であるが、同時に、ブレーキ面に保護コーティングを施す必要性や、生産上および操作上の制約や不都合を回避することができる。
【0047】
補強材が作られる前記セラミック材料は炭化ケイ素である。
【0048】
後の説明で取り上げるように、中央バンド200'を形成するMMC複合材は、多孔質セラミック材料プリフォームにアルミニウム合金を浸透させることによって得られる。有利なことに、炭化ケイ素を含む上記のセラミック材料は、その化学的および物理的構造を変化させることなく、また巨視的および微視的にいかなる程度も損傷されることなく、溶融金属による浸潤の工程に耐えることができる。この理由からも、これらは前述の複合体の製造に特に適している。
【0049】
好ましくは、アルミニウム合金は、少なくともケイ素、少なくともマンガン、少なくともマグネシウムを含む、融合プロセスに適した合金からなる群から選択される。
【0050】
有利な実施形態は、アルミニウム合金が高いマグネシウム(Mg)含有量を有し、より好ましくは高いマグネシウムおよびケイ素(Si)含有量を有することを提供する。
【0051】
好ましくは、マグネシウム(Mg)含有量は15%未満であり、さらに好ましくは10%未満であるが少なくとも0.2%である。これにより、機械的特性および工作機械での加工性が向上し、また、耐食性が向上し、液体状態の合金の表面張力を低下させることにより、複雑な金型形状に合金を充填する能力が向上する。好ましくは、アルミニウム合金はAlSi13Mg9Ti合金である。
【0052】
有利には、アルミニウム合金マトリックスは、複合材料内に均質に分布した構造を有する。後述するように、これは、その体積全体にわたって均質な気孔率を有する多孔質セラミック材料からなるプリフォームにアルミニウム合金を浸透させることによって達成することができる。アルミニウム合金は、浸透プロセスにより、セラミック材料の多孔性に浸透し、均質な構造を形成する。
【0053】
この発明の別の態様によれば、ブレーキディスク1は、前述のベル3がブレーキバンド2と一体に連結されるように設けられ、ブレーキバンド2を形成する複合材料の金属マトリックスと共鋳されたアルミニウム合金から構成される。
【0054】
以下の説明で取り上げるように、この変形例では、ベル3は、同じアルミニウム合金を用いて、セラミック材料中のプリフォームのアルミニウム合金による浸潤が実施される同じ金型内で得られる。このようにして、同じ操作工程で、複合材料の成形とベルの融合が行われ、2つの材料の完全な接合が達成される。
【0055】
ベルをブレーキバンドと共同鋳造することにより、製造工程を大幅に簡略化することができる。実際、ベルを製造するための専用の製造ラインと、ベルをバンドに組み付けるための組立ラインの両方を設ける必要がなくなる。
【0056】
本発明の前述の2つの本質的側面の組合せにより、一方ではアルミニウムに由来する特別な操作上の特徴(何よりもまず、より低い密度)を利用することが可能であり、他方では鋼またはねずみ鋳鉄ディスクに匹敵する機械的特徴および耐摩耗性特徴を有することが可能であり、同時に可能な限り単純かつ経済的な製造工程で製造され得るアルミニウムベースのブレーキディスクを有することが可能になる。
【0057】
実施形態によれば、本発明によるブレーキバンド2は、共融されていない(または一体的に作られている)ベル3とも接続可能であるが、先行技術によるベル-帯接続手段(組立、干渉嵌合、リベット止めなど)を介して接続されることは明らかである。
【0058】
換言すれば、ブレーキバンド2のみが一旦製造されると、それは、ブレーキディスクを製造するための公知の方法でベル3と組み合わされ、こうして、例えば、フローティングコンパウンドまたは干渉嵌合によってブレーキディスクを得るのに適している。
【0059】
したがって、この説明では、本発明によるブレーキバンド2とベル3との間の接続が、1つの共融片ではなく、例えば組立て、干渉嵌合、リベット止め等によるベル-帯接続手段を介して提供される、方法の最終段階をも含んでなるブレーキディスクの製造方法を保護することも意図していることが理解される。
【0060】
説明を簡単にするために、ブレーキバンド2とブレーキディスク1とを、この発明によるそれぞれの製造方法と関連付けて説明する。ブレーキディスク1は、好ましくは、これから説明する本発明による方法で製造されるが、必ずしもそうである必要はない。
【0061】
本発明による方法の一般的な実施形態によれば、ブレーキディスク1を製造するための方法は、製造されるブレーキディスク1のブレーキバンド2に対応する形状の第1の部分11aと、製造されるブレーキディスク1のベル3に対応する形状の第2の部分11bとを含む内側キャビティ11を有する金型10を準備するための第1の操作工程a)を備える。
【0062】
前記内部キャビティ11の第1の部分11aおよび第2の部分11bは、本発明による方法の文脈において使用可能な金型の一例を概略的に示す
図5および
図6に示されるように、互いに連通する。
【0063】
有利には、
図4および
図5に示されるように、鋳型は、アルミニウム合金を鋳型10の内側キャビティ11の第2の部分に直接注入するための1つまたは複数の注入口13を備える。前記注入口13は、製造されるブレーキディスク1のベル3に対応する形状の第2の部分11bの円周方向の展開と同軸に展開する。したがって、操作上、アルミニウム合金の注入は、入口開口部13から行うことができ、その後、入口開口部13から第1の部分11aに伝播する。
【0064】
本方法は、中央プリフォーム200、上部外側プリフォーム201、および下部外側プリフォーム202からなるバンドプリフォーム20を準備する第2の操作工程b)からなる。前記中央プリフォーム200は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる。さらに、上部外側プリフォーム201および下部外側プリフォーム202は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料にケイ素(SiC+Si)を浸透させたものである。上部外側プリフォーム201と中央プリフォーム200との間、および下部外側プリフォーム202と中央プリフォーム200との間には、炭素からなる炭素バリア層201a、200a、200b、202aが介在している。
【0065】
有利には、カーボン製の前記カーボンバリア層201a、200a、200b、202aは、プリフォーム200、201、202間の接合をより安定かつ信頼性のあるものにし、中央プリフォーム200にアルミニウムを浸入させる工程において補助バリア層として作用し、アルミニウムが上部外側プリフォーム201および下部外側プリフォーム202に浸入する可能性をさらに制限することを可能にする。前述のプリフォーム200、201、202は、製造されるブレーキディスク1のブレーキバンド2の形状と実質的に同じ形状を有する。
【0066】
本方法はさらに、以下の追加の操作工程を含む:
c)前記バンドプリフォーム20を、前記内部キャビティ11の第1の部分11aの金型内に配置する工程と、
d) 金型10の内側キャビティ11全体内に液体または半固体のアルミニウム合金を注入する工程。
【0067】
アルミニウム合金の注入は、前記バンドプリフォーム20の中央プリフォーム200に前記アルミニウム合金を浸透させるように行われ、第1の部分11aにおいて、製造されるブレーキディスクのブレーキバンド2を部分的に画定する中央プリフォーム200によって補強されたアルミニウムベースの金属マトリックス複合材を得る、そして、第2の部分11bに前述のアルミニウム合金を充填することにより、金属基複合材製のブレーキバンド2と一体に接続され、製造されるブレーキディスク1のベル3を画定するアルミニウム合金の融合を得る。
【0068】
一般的な実施形態によれば、ブレーキディスク1用のブレーキバンド2を製造するための方法は、金型10がブレーキバンド2のみを製造するための形状であり、ベル3を製造するための形状ではないという事実を除いて、ブレーキディスクを製造するための方法の工程と同様の一連の工程からなる。その結果、ブレーキディスクの製造方法の工程に関して、工程a)において、金型は、製造されるブレーキディスク1のベル3に対応する形状の第2の部分11bを構成しない。さらに、ブレーキディスク1の製造方法に関して、工程d)において、アルミニウム合金の浸入は、前記バンドプリフォーム20の中央プリフォーム200に前記アルミニウム合金を浸入させるようにのみ行われ、第1の部分11aにおいて、製造されるブレーキディスクのブレーキバンド2を部分的に画定する中央プリフォーム200によって補強されたアルミニウムベースの金属マトリックス複合材が得られる。ブレーキバンドのみを製造する場合、共鋳造によるブレーキディスク2のベルの同時製造が必要ないため、第2の部分11bを充填するアルミニウム合金を設ける必要がないことは明らかである。ブレーキバンドの製造方法のための金型は、添付の図には描かれていないが、ベルの製造のために意図された第2の部分11bがないように、前述の金型10をどのように修正するかは、当業者によって明確かつ明白に導き出され得る。
【0069】
したがって、一般的な実施形態において、この発明によるブレーキバンドの製造方法は、製造されるブレーキディスク1のブレーキバンド2に対応する形状の第1の部分11aを含む内部キャビティ11を有する金型10を準備する第1の操作工程a)からなる。
【0070】
またこの場合、金型は、アルミニウム合金を金型10の内側キャビティ11の第2の部分に直接注入するための1つまたは複数の注入口13を備える。
【0071】
本方法は、中央プリフォーム200、上部外側プリフォーム201、及び下部外側プリフォーム202からなるバンドプリフォーム20を準備する第2の操作工程b)を含む。前記中央プリフォーム200は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる。さらに、上部外側プリフォーム201および下部外側プリフォーム202は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料にケイ素(SiC+Si)を浸透させたものである。上部外側プリフォーム201と中央プリフォーム200との間、および下部外側プリフォーム202と中央プリフォーム200との間には、カーボン製のカーボンバリア層201a、200a、200b、202aが介在している。前記プリフォーム200、201、202は、製造されるブレーキディスク1のブレーキバンド2の形状と実質的に同じ形状を有する。
【0072】
本方法はさらに、以下の追加の操作工程を含む。
c)前記バンドプリフォーム20を、前記内部キャビティ11の第1の部分11aの金型内に配置する工程と、
d) 金型10の内側キャビティ11全体内に液体または半固体のアルミニウム合金を注入する工程。
【0073】
アルミニウム合金の注入は、前記バンドプリフォーム20の中央プリフォーム200に前記アルミニウム合金を浸透させるように行われ、第1の部分11aにおいて、製造されるブレーキディスクのブレーキバンド2を部分的に画定する中央プリフォーム200によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を得る。
【0074】
有利には、ブレーキディスク1を製造するためにも、ブレーキバンド2を製造するためにも、金型内にアルミニウム合金を注入する工程b)は、その目的に適合する任意の技術に従って実施することができる。
【0075】
特に、工程b)は、液体状態の浸潤技術に従って、スクイズ鋳造技術に従って、重力浸潤技術に従って、または半固体状態の浸潤技術に従って、または液体アルミニウムを用いたダイカスト鋳造によって実施することができる。
[重力浸潤の場合、浸潤は好ましくは不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気中で行われる。
【0076】
前記の浸潤技術は当業者に周知であるので、ここでは説明を省略する。
【0077】
好ましくは、アルミニウム合金を鋳型内に注入する工程b)は、半固体浸潤技術に従って実施される。実際、この技法はセラミックプリフォームを浸潤させるのに適しており、その結果、工程終了時にMMC材料からなるディスクは、その構造全体にわたって均質な特徴を有することが判明している。同時に、この技術は、同じ工程内でベルを形成するのに適している。
【0078】
より具体的には、半固体段階での浸透は、使用されるアルミニウム合金の液相線と固相線との間の温度、すなわち合金が半固体状態にある状態で行われる。半固体の塊の粘度が低いため、金型への射出と浸潤のプロセスは、乱流が少なくスムーズに行われる。
【0079】
特に有利なことは、ケイ素で浸潤された上部外側バンドおよび下部外側バンドの存在により、アルミニウムが前記上部外側バンドおよび下部外側バンドに浸潤することが防止されることである。その結果、一対の対向するブレーキ面2a、2bは、アルミニウムを含まず、アルミニウムディスクの先行技術に対して摩擦係数が改善されているため、ブレーキディスクに使用するのに特に適している。加えて、カーボンバリア層がさらに存在することにより、アルミニウムの浸入工程中に、中央プリフォームから上部および下部外側プリフォームへのアルミニウムの移動が起こらないことが、さらに有利に保証される。
【0080】
ブレーキバンド2を製造するための方法またはブレーキディスク1を製造するための方法の好ましい実施形態によれば、多孔質セラミック材料からなる前述のバンドプリフォーム20は、高分子結合組成物で表面的に被覆されたセラミック材料顆粒の塊を、以下の連続する操作工程:成形、剥離(または脱脂)、および焼結に供することによって得られる。
【0081】
有利には、前述のセラミック材料顆粒は、"Ready-to-Press "として知られる粉末顆粒である。この種の商業的に入手可能な粉末により、前記粉末以外に他の成分または添加剤を必要とすることなく、「ネットシェイプ成形品」を得ることができる。
【0082】
好ましくは、顆粒が形成される前記セラミック材料は炭化ケイ素である。
【0083】
好ましくは、セラミック材料顆粒を被覆する高分子結合組成物は、熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーからなる群から選択される。
【0084】
好ましくは、セラミック材料顆粒の塊の成形は、一軸的もしくは等静的に、またはそのようなサイズおよび形状のプリフォームを得ることを可能にする任意の他の技術を用いて行われる。
【0085】
成形プロセスの最後に、ポリマー結合組成物のそれぞれのコーティングによって促進されたセラミック微細構造によって連結された、前述のセラミック材料顆粒の凝集体が得られる。前記骨材は、顆粒コーティングからの有機残留物を含む。これらの有機残留物は、脱ボンディング(または脱ワックス)工程において除去される。
【0086】
有利には、剥離は、成形後のセラミック材料顆粒の塊中に存在する有機相が完全に除去されるまで、700℃未満の温度、気流条件下で実施される。
【0087】
変形例によれば、剥離は不活性大気条件下で行われる。
【0088】
剥離工程の最後に、本質的にセラミック材料のみからなるグリーン体が得られる。このグリーン体は、次に焼結段階に付され、個々のセラミック粒子を連結するブリッジの形成により、グリーン体を連続的な構造に変える。この結果、構造全体にわたって均質な特性を示す本体が得られる。
【0089】
好ましくは、焼結は2つの別個の焼結サイクルで実施される。第1の焼結サイクルは1600℃以上、好ましくは約1800℃の温度で実施され、第2の焼結サイクルは2000℃以上、好ましくは2100℃~2200℃の範囲の温度で実施され、いずれも不活性雰囲気下で実施される。
【0090】
有利なことに、多孔質セラミック材料からなる得られたバンドプリフォーム20は、その体積全体にわたって均一な密度分布および気孔率を有する。前記特徴により、プリフォームは、前記合金での浸潤後に均質に分布したアルミニウム合金マトリックスを製造するのに適している。
【0091】
有利な実施形態によれば、ブレーキバンドを製造するための方法およびブレーキディスクを製造するための方法の両方が、例えば
図2、2a、2b、2cに概略的に示されている、工程b)の前に実行される一連の操作工程を含んでいる。特に、前述の一連の操作工程は、中央プリフォーム200、上部外側プリフォーム201、および下部外側プリフォーム202を準備する最初の操作工程a1)を想定している。前記中央プリフォーム200、上部外側プリフォーム201、および下部外側プリフォーム202の各々は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料で作られている。前記各プリフォームは、接合されたときに、一緒になって、製造されるブレーキディスク1のブレーキバンド2と実質的に等しい形状をとるような形状を有する。
【0092】
さらに、前述の一連の操作工程は、上側外側プリフォーム201および下側外側プリフォーム202にケイ素(Si)を浸透させる後続の操作工程a2)を提供する。ケイ素による浸潤は、アルミニウム合金の浸潤工程において、アルミニウムがプリフォームに浸潤するための空間が存在することを防止する。
【0093】
好ましくは、この工程a2)において、上側外側プリフォーム201および下側外側プリフォーム202は、例えば窒化ホウ素(BN)をベースとする離型層で被覆された坩堝に入れられ、所定量のケイ素(Si)粉末が坩堝に加えられる。その後、上部外側プリフォーム201および下部外側プリフォーム202を加熱して、添加されたケイ素の融着を達成し、その結果、浸透が達成される。
【0094】
有利には、上部外側プリフォーム201および下部外側プリフォーム202は、大気圧で、不活性雰囲気中、好ましくはアルゴン雰囲気中で、Siの融解温度(1414℃)を超える温度まで加熱される。このプロセスは、適切な大きさの工業炉を使用して達成することができる。
【0095】
変形例によれば、上部外側プリフォーム201および/または下部外側プリフォーム202は、大気圧以外の圧力、例えば制御された真空中でも、Siの融解温度(1414℃)を超える温度に加熱される。
【0096】
さらに、好ましくは、浸潤工程に続いて、上側および下側外側プリフォームは、任意に、以下に説明する後続の工程に付される前に、水平にされる(ground)。
【0097】
前述の一連の操作工程は、例えば
図2aに示すように、炭素からなる少なくとも1つの炭素バリア層200a、200bを得るために、炭素からなる粒子状の材料を中央プリフォーム200上に堆積させるさらなる操作工程a3)を提供する。
【0098】
工程a3)の代替として、例えば
図2bに示すように、上側外側プリフォーム201および下側外側プリフォーム202のそれぞれに炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層201a、202aを設けるために、上側外側プリフォーム201および下側外側プリフォーム202上に炭素からなる粒子状の材料を堆積させる工程a4)を設けてもよい。
【0099】
さらに、工程a3)およびa4)の代替として、例えば
図2cに示すように、中央プリフォーム200および上部外側プリフォーム201および/または下部外側プリフォーム202上に、炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層200aおよび/または200b、201aおよび/または202aを達成するために、炭素からなる粒子状の材料を堆積させる工程a5)を設けてもよい。
【0100】
換言すれば、好ましくは、本明細書に記載の方法の任意の変形例において、上部外側プリフォーム201と中央プリフォーム200との間、および下部外側プリフォーム202と中央プリフォーム200との間に、上部および下部外側プリフォーム上にのみ堆積を設けることによって、または中央プリフォームの2つの対向する面2000、2001上にのみ堆積を設けることによって、または中央プリフォーム200と上部外側プリフォーム201および下部外側プリフォーム202との両方に堆積を設けることによって、炭素バリア層を形成することができる。
【0101】
好ましくは、カーボンバリア層(したがって、その堆積)は、上部および下部外側プリフォームの各々の2つの対向面2010、2011;2020、2021のうちの1つだけに形成されることは明らかである。
【0102】
また、好ましくは、中央プリフォーム200、上部外側プリフォーム201、および下部外側プリフォーム202は、環状ディスク形状を有し、好ましくは中央貫通孔5を有することは明らかである。好ましくは、2つの対向面2000、2001;2010、2011;2020、2021は、最大の延長部を有する円板形状の2つの対向面である。
【0103】
したがって、各プリフォームの2つの対向する面2000、2001;2010、2011;2020、2021は、上面2000;2010;2020と対向する下面2001;2011;2021とからなり、上面2000;2010;2020と下面2001;2011;2021に付随して、好ましくは垂直に展開する側壁2002;2012;2022によって一緒に接合され、すなわちディスクのシェルを形成する。
【0104】
好ましくは、各プリフォームが既に中央貫通孔5を備えている場合には、前記プリフォームは、従って、側壁2002;2012;2022に対向する内側側壁2003;2013;2023も備えることは明らかである。
【0105】
前述の一連の操作工程は、各カーボンバリア層200aおよび/または200b、201aおよび/または202aにケイ素(Si)を介在させ、カーボンバリア層200aおよび/または200b、201aおよび/または202aにおいてそれらの間に接合部が形成されるまで前記プリフォーム200、201、202を加熱することによって、中央プリフォーム200、上部外側プリフォーム201、および下部外側プリフォーム202を接合し、それによってバンドプリフォーム20を得る、さらなる後続の操作工程a6)を提供する。したがって、好ましくは、ケイ素(Si)、例えば固体ケイ素が、各カーボンバリア層200aおよび/または200bと、上側外側プリフォーム201および下側外側プリフォーム202との間、または各カーボンバリア層201aおよび/または202aと中央プリフォーム200との間、または各カーボンバリア層200aおよび/または200bと、対応する対向カーボンバリア層201aおよび/または202aとの間に介在される。
【0106】
有利には、中央プリフォーム200と上部外側プリフォーム201及び下部外側プリフォーム202との間に接合を形成する前記工程a6)は、前記プリフォームのサイズの関数として化学量論的な量のケイ素をプリフォーム間に介在させることによって、約2時間の時間、約1450℃の温度にプリフォーム200、201、202を加熱することを提供する。
【0107】
例えば、ケイ素の化学量論的量(MSi)は、炭素の総量が定義されると、以下のように計算することができる。
VC=π(R2-r2)h
ここで、半径Rおよびrは、それぞれ、プリフォーム200、201、または202によって記述される円形クラウンの外半径Rおよび内半径rであり、hは、カーボンバリア層の厚さである(層がコンパクトであり、空隙がないと仮定する)。堆積した炭素Cの質量は、以下のように計算することができる。
MC=VC x Dc
ここで、Dcは炭素密度である。
【0108】
Si+C=SiCの式が与えられ、1モルのケイ素(Si)が1モルの炭素(C)と反応して1モルの炭化ケイ素(SiC)を生成し、成分の原子量が既知であることを知っていると、ケイ素の化学量論的量を以下のように計算することが可能である:
MSi=MC×原子量Si/原子量C
【0109】
例えば、プリフォームの直径が約40ミリメートルで、必要なSiの量が約3グラムである場合、前記パラメータにより、プリフォーム間の適切かつ信頼性の高い接合を得ることができる。
【0110】
採用されるプロセスに応じて、前述の式に従って炭素Cと反応するのに必要な最小化学量論的量のSi(MSi)が判明したら、化学反応の完了を確実にするために、多かれ少なかれ超化学量論的条件をもたらすためにケイ素の量を増加させることによって任意に進行させることが可能であることは明らかである。
【0111】
明らかに、上記のようにバンドプリフォーム20が得られると、中央プリフォーム200はブレーキバンド20の中央帯200'に対応し、上部外側帯201および下部外側帯202はそれぞれブレーキバンド20の上部外側帯201'および下部外側帯202'に対応する。
【0112】
好ましい実施形態によれば、工程a3)またはa4)またはa5)において、炭素(C)からなる少なくとも1つの炭素バリア層200a、200b、201a、202aを得るために、炭素からなる粒子状の材料を堆積させる工程は、化学蒸着によって達成される。
【0113】
好ましくは、炭素前駆体として気体メタンを化学蒸着に使用し、温度は1100℃~1300℃であり、圧力は10~50ミリバールである。
【0114】
さらに好ましくは、化学気相成長工程中の混合ガスの寄与は、以下の通りである。
- 0.4~3標準リットル/分(slm)のメタン;
- 毎分0.2~5標準リットル(slm)の水素;
- 毎分0~4標準リットル(slm)のアルゴン;
メタンと水素の比率は、0.3 から 5 の間である。
【0115】
前記のパラメータにより、プリフォーム上に炭素バリア層、すなわち炭素被膜を得ることができ、前記プリフォームにおける浸入のリスクを可能な限り最小化することができる。
【0116】
有利なことに、本発明による方法の工程d)において、例えば
図5~
図6に見られるように、金型へのアルミニウムの注入中に、上側201および下側202の外側プリフォーム上へのアルミニウムの浸入が防止されるように、金型が上側外側プリフォーム201および下側外側プリフォーム202の上で閉じるので、ディスクの外側ブレーキ面2a,2bにはアルミニウムが存在しない。換言すれば、アルミニウム合金は、上部201および下部202外側プリフォームの上方、すなわち、各外側プリフォーム201,202の中央プリフォーム200に接合されていない側で、流動およびクリープすることが防止される。
【0117】
図2d、
図2e、および
図2fにおいてより明瞭に評価できる本方法の変形例によれば、上述した工程a6)を実行する前に、上側外側プリフォーム201および下側外側プリフォーム202にケイ素(Si)を浸透させるための操作工程a2)を実行することは想定されていない。しかしながら、本方法のこの変形例では、工程a1)の後、および先に説明した工程a3)またはa4)またはa5)の後、本方法は、最初に、好ましくは窒化ホウ素(BN)をベースとする離型層200"、201"、および202 "で上部外側プリフォーム201、下部外側プリフォーム202、および中央プリフォーム200の1つまたは複数の領域を保護し、その後、上述のように工程a6)を実行する操作工程a11)を備える。離型層200"、201"、202 "は、保護すべき領域への離型層を介したケイ素(Si)の浸入を防止する。これは、例えば窒化ホウ素ベースの離型層で得られる。
【0118】
好ましくは、この工程a11)において、上部外側プリフォーム201、下部外側プリフォーム202、および中央プリフォーム200の1つまたは複数の領域の保護は、必要に応じて、例えば窒化ホウ素(BN)をベースとする離型層で被覆されたるつぼ内に前述のプリフォーム200、201、202を配置することによって達成される。
【0119】
好ましくは、離型層200"、201"、202 "は、半径R方向へのケイ素のディスクを介した浸入を防止するように、中央プリフォーム200および/または上部外側プリフォーム201および/または下部外側プリフォーム202の側壁2002;2012;2022の近傍に配置される。
【0120】
この変形例では、工程a6)の後、すなわち、プリフォーム200、201、202間の接合が炭素バリア層200aおよび/または200b、201aおよび/または202aで形成された後、バンドプリフォーム20を得るために、本方法は以下の工程を実行することからなる。
a61)例えば窒化ホウ素(BN)をベースとする、以前に使用された離型層200 "によって、または例えば窒化ホウ素(BN)をベースとする、異なるまたは追加の離型層によって、中央プリフォーム200の1つまたは複数の領域を保護する工程;
a62)工程a2)で説明したのと同様の方法で、上部外側プリフォーム201および下部外側プリフォーム202にケイ素(Si)を浸透させる工程。ケイ素による浸潤は、アルミニウム合金の浸潤工程において、アルミニウムがプリフォームに浸潤するための空間が存在することを防止する。
【0121】
この方法のこの変形例における主な相違点は、下部外側プリフォームと中央プリフォームとの間の機械的接合、及び上部外側プリフォームと中央プリフォームとの間の機械的接合を炭素バリア層に沿って実行した後に、上部外側プリフォーム201及び下部外側プリフォーム202においてケイ素浸入工程を実行することにあることは明らかである。
【0122】
したがって、追加の工程、例えば工程a3)、a4)またはa5)、および上述した方法の工程の他のすべての工程および詳細は、さらに
図2d~
図2fに明確に示されているように、方法のこの変形例にも同様に有効であり、適用可能であると理解される。
【0123】
特に
図2e及び
図2fに示される、本方法の前述の変形例の実施形態によれば、本方法は、工程a3)、a4)又はa5)を実行する間に、上側外側プリフォーム201及び/又は下側外側プリフォーム202の少なくとも一部を、例えば上側外側プリフォーム又は下側外側プリフォームの各部分にグラファイト紙を配置することによって遮蔽する動作工程を備える。これにより、上部および/または下部プリフォームの一部が遮蔽され、その後にケイ素Siを浸透させることができる。
【0124】
特に、例えば、本方法は、上部外側プリフォーム201及び/又は下部外側プリフォーム202の上部面2010;2020及び/又は対向する下部面2011;2021を少なくとも部分的に又は完全にマスキングすることを提供する。
【0125】
これまで説明したことから理解されるように、本発明によるブレーキバンド、ブレーキディスク、および前記ブレーキディスクと前記ブレーキバンドを製造する方法は、従来技術に示された欠点を克服することを可能にする。
【0126】
特に革新的な態様において、実際、本発明のブレーキバンドおよび制動ディスクは、ブレーキパッドと、アルミニウム合金金属マトリックスを有する複合材料からなる中央帯との間に、セラミック複合材料からなる2つの外側ブレーキバンドを介在させることにより、従来技術において見出された、アルミニウムの過熱による局所的な劣化に関連する問題を、排除しないまでも、低減することを可能にする。さらに、摩擦係数の高い材料にパッドを結合させることで、より大きな制動力を同時に発生させることができる。同時に、効率性、簡便性、低導入コスト、腐食問題の低減が保証される。腐食の低減は、回生ブレーキの導入がディスクブレーキの不連続な使用を伴い、腐食現象につながる可能性がある電気自動車において特に有利である。
【0127】
当業者であれば、偶発的かつ特定のニーズを満たす目的で、上述したディスクおよびディスクブレーキに多数の修正および変形を加えることができるが、それらのすべては、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれる。
【国際調査報告】