(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】磁気剪断バイオリアクタ装置および方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240219BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20240219BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240219BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/42
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550213
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 US2022017164
(87)【国際公開番号】W WO2022178357
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ギル, ブリジェシュ エス.
(72)【発明者】
【氏名】コックス, チャールズ エス. ジュニア
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA11
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029DB08
4B029DC07
4B065AA93X
4B065BC08
4B065BC41
4B065BC50
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
本発明の実施形態は、療法薬としての使用のための改良された特性のために、細胞集団を調整するための方法および装置に関する。より具体的には、本発明の実施形態は、幹細胞が配置される流動チャンバの境界に沿って配置される幹細胞上に制御された剪断応力を課すように、磁力および/または回転力を印加することによって、幹細胞を調整するための装置および方法に関する。流体中に磁性ビーズを含む細胞培養培液内で細胞を培養するための装置および方法。可変磁場が、磁性ビーズに印加され、ビーズの表面上の細胞上に剪断力を生成することができる。ある実施形態では、回転力もまた、磁性ビーズに印加されることができ、磁力は、回転力に対抗することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
定常部材と、
磁場発生器と、
コントローラと、
前記定常部材の中に位置する細胞培養培液であって、
前記細胞培養培液は、流体中に磁性ビーズを含み、
前記コントローラは、前記磁性ビーズ上に可変磁場を発生させるように、前記磁気発生器を制御するように構成される、
細胞培養培液と
を備える、装置。
【請求項2】
回転部材をさらに備え、前記回転部材は、前記定常部材内で回転するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記細胞培養培液は、前記定常部材と前記回転部材との間に位置する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記回転部材は、前記細胞培養培液の流体を介して前記磁性ビーズに回転力を印加し、前記回転力は、第1の方向にあり、
前記可変磁場は、前記磁性ビーズに磁力を印加し、前記磁力は、第1の方向と異なる第2の方向にある、
請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の方向は、前記第2の方向に対して直角である、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記磁性ビーズに印加される前記磁力は、前記磁性ビーズに印加される前記回転力を上回る、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記可変磁場は、パルス化された磁場である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記回転部材は、複数のディスクを備える、請求項2に記載の装置。
【請求項9】
前記定常部材は、複数の環状表面を備える、請求項2に記載の装置。
【請求項10】
前記複数の環状表面は、前記複数のディスクと噛合される、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記複数のディスクを通して延在する開口をさらに備える、請求項8に記載の装置。
【請求項12】
前記可変磁場は、前記複数のディスクを通して延在する前記開口を通して前記磁性ビーズを移動させる、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記回転部材は、複数の無作為に配向されるファイバを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項14】
前記定常部材は、トロイダル型のコンテナとして構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記磁場発生器は、前記トロイダル型のコンテナの周囲に巻着される一連のコイルとして構成される、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記コントローラは、前記トロイダル型のコンテナの周囲に巻着される前記一連のコイルを通して、電流をパルス化するように構成される、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記磁性ビーズは、前記一連のコイルを通してパルス化された前記電流を介して、前記トロイダル型のコンテナの周囲で移動される、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記定常部材は、線形の管状コンテナとして構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
前記磁場発生器は、前記線形の管状コンテナの周囲に巻着される一連のコイルとして構成される、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記コントローラは、前記トロイダル型のコンテナの周囲に巻着される前記一連のコイルを通して、電流をパルス化するように構成される、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記磁性ビーズは、前記一連のコイルを通してパルス化された前記電流を介して、前記線形の管状コンテナ内で移動される、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
細胞を培養する方法であって、前記方法は、
流体中に磁性ビーズを含む細胞培養培液を取得することと、
前記磁性ビーズに可変磁力を印加することと
を含む、方法。
【請求項23】
前記可変磁力は、パルス化された磁力である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞培養培液の流体を介して前記磁性ビーズに回転力を印加することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記回転力は、第1の方向において前記磁性ビーズに印加され、
前記可変磁力は、前記第1の方向と異なる第2の方向において前記磁性ビーズに印加される、
請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の方向は、前記第2の方向に対して直角である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記磁性ビーズに印加される前記磁力は、前記磁性ビーズに印加される前記回転力を上回る、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記回転力は、複数のディスクを備える回転部材によって印加される、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞培養培液は、複数の環状表面を備える定常部材内に含有される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記複数の環状表面は、前記複数のディスクと噛合される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記複数のディスクは、前記複数のディスクを通して延在する開口を備え、
前記可変磁場は、前記複数のディスクを通して延在する前記開口を通して前記磁性ビーズを移動させる、
請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞培養培液の流体を介して前記磁性ビーズに回転力を印加するための、複数の無作為に配向されるファイバを含む回転部材を回転させることをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項33】
前記流体中に磁性ビーズを含む前記細胞培養培液は、トロイダル型のコンテナ内に含有される、請求項22に記載の方法。
【請求項34】
前記可変磁力は、前記トロイダル型のコンテナの周囲に巻着される一連のコイルとして構成される磁場発生器を介して、前記磁性ビーズに印加される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記トロイダル型のコンテナの周囲に巻着される前記一連のコイルを通して、電流をパルス化することをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記一連のコイルを通してパルス化された前記電流を介して、前記磁性ビーズを前記トロイダル型のコンテナの周囲で移動させることをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記流体中に磁性ビーズを含む前記細胞培養培液は、線形の管状コンテナ内に含有される、請求項22に記載の方法。
【請求項38】
前記可変磁力は、前記線形の管状コンテナの周囲に巻着される一連のコイルとして構成される磁場発生器を介して、前記磁性ビーズに印加される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記線形の管状コンテナの周囲に巻着される前記一連のコイルを通して、電流をパルス化することをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記一連のコイルを通してパルス化された前記電流を介して、前記磁性ビーズを前記線形の管状コンテナ内で移動させることをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる、2021年2月22日に出願された、米国仮特許出願第63/151,968号の利益を主張する。
【0002】
本発明の実施形態は、療法薬としての使用のための改良された特性のために、細胞集団を調整するための方法および装置に関する。より具体的には、本発明の実施形態は、幹細胞が配置される流動チャンバの境界に沿って配置される幹細胞上に制御された剪断応力を課すように、磁力および/または回転力を印加することによって、幹細胞を調整するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
系統特異的分化細胞集団は、疾患または障害を患う患者のための細胞置換療法における使用のために検討される。特殊化された細胞型(幹細胞)に分化する、および/またはある因子を分泌するための能力を留保する、細胞集団が、様々な疾患または障害を患う患者のための細胞ベースの療法における使用のために検討されている。
【0004】
それらの療法的作用において予測可能であるように確実に調整される、十分なドナー細胞集団を取得するための能力の必要性が、存在する。本方法および装置は、これらの問題に対する解決策を提供し、したがって、細胞療法薬として、または可溶性因子の源としての細胞の使用を促進する。
【0005】
バイオリアクタは、その中で幹細胞含有流体等の生物学的材料の成分が、材料に影響を及ぼす因子の操作によって調整され得る、デバイスである。幹細胞含有流体の条件は、pHと、廃棄物含有量と、栄養素含有量と、例えば、酸素等の溶存ガスのタイプおよび濃度とを含む、複数の因子によって影響を受ける。これらの因子は、概して、幹細胞含有流体中の幹細胞の条件に影響を及ぼす、化学的因子と称され得る。
【0006】
バイオリアクタは、非化学的因子の制御によって幹細胞含有流体の条件の操作を可能にし得る。従来の細胞療法のために細胞集団を調整する、従来の装置および方法は、調整されるべき細胞に対する機械的剪断の精密な制御を可能にすることができない。大規模な細胞産生が可能である、バイオリアクタ流動チャンバ内で調整されるべき細胞に剪断応力を制御可能に印加するための装置および方法が、したがって、所望される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態は、既存のシステム内の欠点に対処するための装置と、方法とを含む。具体的実施形態は、バイオリアクタ内の細胞に剪断応力を印加するように、磁力および/または回転流体力を印加することができる。
【0008】
ある実施形態は、定常部材と、磁場発生器と、コントローラと、定常部材の中に位置する細胞培養培液であって、細胞培養培液は、流体中に磁性ビーズを含み、コントローラは、磁性ビーズ上に可変磁場を発生させるように、磁気発生器を制御するように構成される、細胞培養培液とを備える、装置を含む。特定の実施形態はさらに、回転部材を備え、回転部材は、定常部材内で回転するように構成される。いくつかの実施形態では、細胞培養培液は、定常部材と回転部材との間に位置する。具体的実施形態では、回転部材は、細胞培養培液の流体を介して磁性ビーズに回転力を印加し、回転力は、第1の方向にあり、可変磁場は、磁性ビーズに磁力を印加し、磁力は、第1の方向と異なる、第2の方向にある。
【0009】
ある実施形態では、第1の方向は、第2の方向に対して直角であり、特定の実施形態では、磁性ビーズに印加される磁力は、磁性ビーズに印加される回転力を上回る。いくつかの実施形態では、可変磁場は、パルス化された磁場である。具体的実施形態では、回転部材は、複数のディスクを備える。ある実施形態では、定常部材は、複数の環状表面を備え、特定の実施形態では、複数の環状表面は、複数のディスクと噛合される。いくつかの実施形態はさらに、複数のディスクを通して延在する、開口を備える。具体的実施形態では、可変磁場は、複数のディスクを通して延在する、開口を通して磁性ビーズを移動させる。
【0010】
ある実施形態では、回転部材は、複数の無作為に配向される、ファイバを含み、特定の実施形態では、定常部材は、トロイダル型のコンテナまたは線形の管状コンテナとして構成される。いくつかの実施形態では、磁場発生器は、トロイダル型のコンテナまたは線形の管状コンテナの周囲に巻着される、一連のコイルとして構成される。具体的実施形態では、コントローラは、トロイダル型のコンテナまたは線形の管状コンテナの周囲に巻着される一連のコイルを通して、電流をパルス化するように構成される。ある実施形態では、磁性ビーズは、一連のコイルを通してパルス化された電流を介して、トロイダル型のコンテナの周囲または線形の管状コンテナ内で移動される。
【0011】
特定の実施形態は、細胞を培養する方法であって、流体中に磁性ビーズを含む、細胞培養培液を取得することと、磁性ビーズに可変磁力を印加することとを含む、方法を含む。いくつかの実施形態では、可変磁力は、パルス化された磁力である。具体的実施形態はさらに、細胞培養培液の流体を介して、磁性ビーズに回転力を印加することを含む。
【0012】
特定の実施形態では、回転力は、第1の方向において磁性ビーズに印加され、可変磁力は、第1の方向と異なる、第2の方向において磁性ビーズに印加される。いくつかの実施形態では、第1の方向は、第2の方向に対して直角である。具体的実施形態では、磁性ビーズに印加される磁力は、磁性ビーズに印加される回転力を上回る。ある実施形態では、回転力は、複数のディスクを備える、回転部材によって印加される。
【0013】
特定の実施形態では、細胞培養培液は、複数の環状表面を備える、定常部材内に含有される。いくつかの実施形態では、複数の環状表面は、複数のディスクと噛合される。具体的実施形態では、複数のディスクは、複数のディスクを通して延在する、開口を備え、可変磁場は、複数のディスクを通して延在する、開口を通して磁性ビーズを移動させる。
【0014】
いくつかの実施形態はさらに、細胞培養培液の流体を介して、磁性ビーズに回転力を印加するための複数の無作為に配向されるファイバを含む、回転部材を回転させることを含む。具体的実施形態では、流体中に磁性ビーズを含む、細胞培養培液は、トロイダル型のコンテナ内に含有される。ある実施形態では、可変磁力は、トロイダル型のコンテナの周囲に巻着される、一連のコイルとして構成される磁場発生器を介して、磁性ビーズに印加される。具体的実施形態はさらに、トロイダル型のコンテナの周囲に巻着される一連のコイルを通して、電流をパルス化することを含む。ある実施形態はさらに、一連のコイルを通してパルス化された電流を介して、磁性ビーズをトロイダル型のコンテナの周囲で移動させることを含む。
【0015】
実施形態のさらなる側面は、バイオリアクタ(例えば、本明細書において詳述されるようなバイオリアクタ装置等)内での剪断応力の印加を開示する。
【0016】
本発明のある実施形態は、調整された組成物を産生する方法に関する。本明細書で使用されるように、調整された組成物は、機械力の調整効果を受けている、組成物を指す。例えば、機械力は、調整された組成物を産生するために十分な力を伴う、制御された剪断応力の印加であることができる。いくつかの側面では、調整された組成物は、調整された多能性細胞(例えば、MSC)の集団を含む。したがって、ある側面は、調整された多能性細胞の集団の単離に関する。さらなる側面では、調整された組成物は、制御された剪断応力を受けている、多能性細胞からの分泌因子を含む、培液(例えば、無細胞培液)である。
【0017】
実施形態の側面は、細胞接着を可能にするための、基質上での幹細胞の培養を伴う。ある場合には、基質は、単分子層内での幹細胞の成長を支援する、表面である。例えば、いくつかの側面では、表面は、細胞外マトリクス材料(例えば、IV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、および/またはビトロネクチン)でコーティングされている表面等のプラスチックまたはガラス表面である。さらなる側面では、基質は、増加または減少された表面エネルギーを伴う表面(または表面コーティング)を組み込むように修正されてもよい。表面または表面コーティングとして使用され得る、低エネルギー材料の実施例は、限定ではないが、ポリエチレン等の炭化水素ポリマー、またはポリプロピレン、および窒化物を含む。例えば、表面または表面コーティングは、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタクリル酸メチル)、すなわち、PMMA、ポリスチレン、ポリアミド、ナイロン-6,6、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ(例えば、ゴム強化型またはアミン硬化型)、フェノールレゾルシノール樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、および/または炭素繊維強化プラスチックを含んでもよい。表面または表面コーティングとして使用され得る、高エネルギー材料の実施例は、限定ではないが、金属および酸化物を含む。例えば、表面または表面コーティングは、酸化アルミニウム、酸化ベリリウム、銅、黒鉛、酸化鉄(Fe2O3)、鉛、水銀、雲母、ニッケル、白金、二酸化ケイ素、すなわち、シリカ、および/または銀を含んでもよい。
【0018】
実施形態のさらなる側面は、調整された組成物を産生するために十分な力を伴う、制御された剪断応力の印加に関する。ある側面では、剪断応力は、流体層流剪断応力の形態において印加される。例えば、剪断応力の力は、平方センチメートルあたり少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10ダインである。ある事例では、剪断応力の力は、平方センチメートルあたり約5~20、5~15、10~20、または10~15ダイン等、平方センチメートルあたり少なくとも5、10、または15ダインである。いくつかの側面では、制御された剪断応力が、約1分~2日の期間にわたって印加される。例えば、制御された剪断応力は、5分~24時間、10分~24時間、0.5時間~24時間、または1時間~8時間の期間にわたって印加されることができる。さらなる側面では、本実施形態の細胞は、高い圧力に暴露される。
【0019】
なおもさらなる側面では、本実施形態の培養物からの細胞または培液が、周期的に検査され、調整のレベルを決定する。例えば、細胞または培液を含むサンプルが、約10分、15分、30分、または毎時間毎に培養物から採取されることができる。そのようなサンプルは、例えば、転写因子またはサイトカイン等の抗炎症因子の発現レベルを決定するために検査されてもよい。特定の側面では、細胞または培液が、例えば、本装置を通して流体を指向するように構成される、ポンプの入口の近傍を含む、より低い流体圧力の場所に位置付けられる、サンプリングポートから採取されることができる。
【0020】
ある側面では、幹細胞の開始集団が、取得される。例えば、開始幹細胞集団は、人工多能性幹(iPS)細胞または間葉系幹細胞(MSC)を含むことができる。いくつかの側面では、MSCは、組織から単離される。例えば、いくつかの側面では、組織は、骨髄、臍帯血、末梢血、卵管、胎児肝臓、肺、歯髄、胎盤、脂肪組織、または羊水を含む。さらなる側面では、細胞は、ヒト細胞である。例えば、細胞は、自己幹細胞であることができる。いくつかの側面では、幹細胞は、遺伝子導入細胞である。
【0021】
本実施形態のさらなる側面では、調整された組成物を産生する方法は、制御された剪断応力の印加のために幹細胞にわたって流体を通過させることを含む。例えば、幹細胞にわたって通過される流体は、細胞成長培液であることができる。いくつかの側面では、成長培液は、少なくとも第1の外因性サイトカイン、成長因子、TLRアゴニスト、または炎症刺激剤を含む。例えば、成長培液は、IL1B、TNF-α、IFNγ、PolyI:C、リポ多糖(LPS)、ミリスチン酸ホルボールアセテート(PMA)、および/またはプロスタグランジンを含むことができる。ある具体的側面では、プロスタグランジンは、16,16’-ジメチルプロスタグランジンE2(dmPGE2)である。
【0022】
ある側面では、本実施形態の調整された幹細胞は、幹細胞の開始集団と比較して、抗炎症遺伝子の少なくとも2、3、4、5、または6倍より高い発現を有する。例えば、抗炎症遺伝子は、TSG-6、PGE-2、COX-2、IL1Ra、HMOX-1、LIF、および/またはKLF2であることができる。
【0023】
さらなる実施形態では、調整された組成物は、調整された培液組成物を含む。したがって、ある側面は、剪断応力の印加の後の、調整された培液の単離に関する。ある場合には、調整された培液は、本質的には、細胞が存在しない。
【0024】
本発明の他の目的、特徴、および利点が、以下の詳細な説明から明白な状態になるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的実施例が、本発明の精神および範囲内の種々の変更および修正が、本詳細な説明から当業者に明白な状態になるであろうため、本発明のある実施形態を示しながら、例証として与えられるにすぎないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本方法、システム、および装置の目的および利点は、実施例として、本システムおよび方法の好ましい実施例を例証する、以下の詳細な説明および付随の図面と併せて検討されると、より深く理解され、より容易に明白となるであろう。
【0026】
【
図1】
図1は、本開示による、バイオリアクタ装置の分解概略図である。
【0027】
【0028】
【
図3】
図3は、
図1の実施形態の回転部材の第1の斜視図である。
【0029】
【0030】
【
図5】
図5は、本開示による、定常部材の一部の斜視図である。
【0031】
【0032】
【
図7】
図7は、本開示による回転部材の斜視図である。
【0033】
【0034】
【
図9】
図9は、本開示による装置の部分断面図である。
【0035】
【
図10】
図10のグラフは、転写誘導が、流体剪断応力を受けたヒトMSC中のCOX2、TSG6、HMOX1、およびIL1RNに関してロバストであることを実証する。hBM MSCは、ヒト骨髄MSCであり、hAF MSCは、羊水MSCであり、hAD MSCは、脂肪由来MSCである。P値が、対応のあるt検定(等分散)によって計算される。
【0036】
【
図11】
図11は、NF-kBアンタゴニストBAY11-7085(10μM)によって低減される、細胞内COX2タンパク質の増加を示す、代表的ウェスタンブロットを図示する。
【0037】
【
図12】
図12は、MSC免疫修飾の機能的増強を強調する、TNF-αサイトカイン抑制アッセイを図示する。機械力(3時間にわたる、15ダイン/cm
2の剪断応力)によって予め調整されたヒトMSCが、マクロファージ、好中球、NK、B、およびT細胞を含む、リポ多糖(LPS)またはフィトヘマグルチニン(PHA)で活性化された脾細胞との静的共培養物中に設置される。アッセイの結果は、MSCが、剪断応力を用いて一過性に調整されると、脾細胞によるTNF-α分泌が、10~50%低減されることを示す。より低い値は、より優れた抗炎症効能に対応する。hBM MSCは、ヒト骨髄MSCであり、hAF MSCは、羊水MSCであり、hAD MSCは、脂肪由来MSCである。P値が、対応のあるt検定(等分散)によって計算される。
【0038】
【
図13】
図13は、COX2の阻害(10μMのインドメタシン、10μMのNS-398)およびNF-kBの阻害(10μMのBAY11-7085)が、剪断応力の好影響を無効にする一方、異所性dmPGE2(10μM)が、MSC抑制を模倣することを図示する。アスタリスクは、静的賦形剤と比較した、p<0.001を示す。n=6は、示されるデータ内に含まれる、6つの異なるMSCドナー株を示す。
【0039】
【
図14】
図14は、プライミング剤が、剪断誘導性抗炎症シグナル伝達を補完することを図示する。濃着色バーは、剪断応力およびサイトカイン(20ng/mlのIFN-γ、50ng/mlのTNF-α)による経路の実質的な誘導を示す、治療の組み合わせを表す。本低性能のヒト羊水MSC株では、TSG6が、剪断応力のみによって誘導された。IDOが、IFN-γのみによって誘導された。hAF MSCは、ヒト羊水MSCである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
例示的実施形態の説明
間葉系幹細胞(MSC)等の複能性幹細胞を取り扱うとき、一貫した結果を発生させることは、いくつかのパラメータを含む、細胞の環境の厳密な制御を要求する。これらは、栄養素、老廃生成物、pH、および溶存ガス等の化学的因子を含む。多くの最先端のバイオリアクタは、これらの化学的パラメータを制御および監視するために設計および構築されている。
【0041】
しかしながら、機械的環境もまた、幹細胞の転帰において重要な役割も果たす。機械的環境は、2つの主要要素、すなわち、基質と、周囲の培液の動的状態とに依存する。基質の硬度が、基質への細胞の接着に影響を及ぼし得る、表面処理またはコーティングの慎重な選択を通して制御されることができる。
【0042】
細胞の集団が、基質に接着した後、それらは、細胞が浸漬される培液によって印加される、機械力を受ける。従来の細胞培養では、これらの力は、培液のバルク流動が存在しないため、本質的にゼロである。既存のバイオリアクタシステムは、一定または可変の流体流動(培液)を有するが、細胞と相互作用する、流動のパターン(単方向または双方向の層流対乱流)または剪断力の程度の設計制御を欠いている。流体を移動させることは、細胞上に、流体の速度および粘度に比例する、剪断応力を付与する。大部分のメカノトランスダクション研究は、剪断応力挙動が周知であり、単純な方程式によって特徴付けられる、層流体制において実施されている。層流は、流体チャネルの断面を横断した、不均一な速度プロファイルによって特徴付けられる。境界(例えば、壁)における流体速度は、「滑りなし条件」または「境界条件」として公知である、ゼロであると仮定されることができる。層流内のニュートン流体に関する剪断応力
【化1】
を説明する、簡単な方程式は、
【化2】
であり、式中、μは、粘度であり、uは、チャネル内の特定の深度における、流体の速度である。培液粘度および流体速度を把握することによって、印加される剪断応力が、計算されることができる。
【0043】
複数の細胞型(例えば、幹細胞)に分化するための能力を留保する、細胞集団が、より大きい数の系統特異的分化細胞集団を発達させるために有用であることが証明されている。間葉系幹細胞(MSC)は、1つのそのようなタイプの幹細胞であり、複能性および自己複製性の両方であることが公知である。MSCは、したがって、候補細胞療法として台頭しており、潜在的に、生理活性免疫調節分子の持続的源を提供することができる。しかしながら、現在のところ、MSCの使用の臨床的有効性を限定する、障害のうちの1つは、MCS機能の誘導が、ひいては、MSCの免疫調節作用を開始する、活性化された免疫細胞によって産生される、サイトカインおよびシグナルの存在に非常に依存することである。本方法以前は、例えば、本変動性は、幹細胞組成物の予測不可能な療法的作用に変換されている。
【0044】
いくつかの側面では、本明細書に説明されるバイオリアクタシステムは、幹細胞(例えば、MSC)の数の増加を提供し、これはまた、免疫調節機能に関して、試験管内で予測通りかつ確実に調整されている。そのように取得された幹細胞は、免疫調節機能に関して確実かつ一貫して調整される、療法的に有効な数のMSCを提供する。他の実施形態では、本システムは、療法としての使用のために単離および精製され得る、分泌因子源を提供する。
【0045】
いくつかの実施形態では、そのような方法は、療法、例えば、損傷、移植片対宿主病、および自己免疫と関連付けられる、慢性または急性炎症の抑制における使用のための、MSC等の調整された細胞を提供することができる。
【0046】
ある実施形態は、限定ではないが、細胞ベースの療法における使用のためのMSC等、増加された数の療法的に予測通りに調整された細胞を産生することにおける使用のための、システムを含む。いくつかの実施形態では、説明されるシステムは、とりわけ、MSCを抗炎症および免疫調節性質を呈するように調整するために使用され、例えば、そのような調整された細胞またはそれらが産生する因子が、損傷の部位に注入されると、多くのタイプの筋骨格外傷および炎症病状を治療することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、本システムは、流体力学的微小環境の制御を、限定ではないが、MSC等の細胞の機械ベースの調整を導くように統合する、モジュール式のバイオリアクタシステムを備える。
【0048】
バイオリアクタ装置は、本発明の実施形態による、培液流体の流内で細胞を調整するために使用されることができる(例えば、培液は、印加された剪断力を提供するために接着細胞にわたって通過される)。そのような装置の実施形態が、下記に議論される、添付の図に図示される。
【0049】
最初に
図1-4を参照すると、装置100の分解図および部分断面図が、示される。本実施形態では、装置100は、定常部材110と、回転部材120と、磁場発生器130とを備える。本明細書で使用されるように、「磁場発生器」は、例えば、永久磁石、電磁気、ソレノイドコイル等を含む、磁場を発生させることが可能である、任意のデバイスを含む。
【0050】
加えて、装置100は、流体116中に磁性ビーズ117を伴う、細胞培養培液115を備え、細胞培養培液115は、定常部材110内および回転部材120の近位に含有される。示される実施形態では、定常部材110は、培養培液115を循環させるための、1つまたはそれを上回る入口119と、1つまたはそれを上回る出口112とを備える。装置100はさらに、磁気発生器130および/または回転部材120を制御するように構成される、コントローラ140を備える。
【0051】
下記にさらに詳細に解説されるように、装置100の動作の間に、磁気発生器130は、磁性ビーズ117上に可変磁場135を発生させることができる。
図1-4に示される実施形態は、水平方向における左から右への力を伴う、磁性ビーズ117に作用している、磁場135を発生させる、磁気発生器130を伴う構成を図示する。しかしながら、他の実施形態も、磁気発生器130が異なる配向における磁場135を発生させるように構成され得ることを理解されたい。例えば、他の実施形態では、磁気発生器130は、磁性ビーズ117に作用する磁力が、重力に対抗するように(例えば、上向き方向において)作用するように、垂直方向に磁場135を発生させてもよい。さらに他の実施形態では、磁気発生器130は、例えば、回転部材120の回転軸に対するある角度、下向きの方向、または所望に応じた他の方向を含む、他の方向において磁場135を発生させてもよい。
【0052】
装置100の動作の間に、回転部材120は、定常部材110内で回転する。回転部材120の本回転移動は、細胞培養培液115の粘度と、細胞培養培液115と回転部材120および定常部材110の表面との間の表面張力とに起因して、細胞培養培液115上に回転剪断力を付与する。しかしながら、回転部材120または定常部材110のいずれかの表面の近位にない、細胞培養培液115の細胞は、細胞培養培液115の粘度および表面張力に依存する、剪断応力の低減を認め得る。表面の近位にない、細胞培養培液115の体積内では、細胞培養培液115の差速の不在が、剪断応力の低減につながり得る。
【0053】
故に、装置100は、磁性ビーズ117に作用する磁力を発生させることによって、細胞培養培液115内の細胞上への剪断力の増加を提供する。これらの磁力は、回転部材120によって印加される回転力に加えて、磁性ビーズ117に作用する。本明細書で使用されるように、用語「磁性ビーズ」は、例えば、常磁性ビーズを含む、種々のタイプの磁性ビーズを含む。常磁性ビーズは、残留磁気を留保せず、強磁性ビーズに優る、ある用途における利点を提供することができる。例えば、残留磁気に抵抗するための常磁性ビーズの能力は、ビーズがともに集塊する尤度を低下させることができ、これは、細胞にとって利用可能なビーズの表面積を縮小させるであろう。
【0054】
例示的実施形態では、細胞培養培液115内の細胞は、磁性ビーズ117の表面上に分散され、細胞発生のための表面積の増加を提供する。しかしながら、磁力が、磁性ビーズ117に印加されなかった場合、回転部材120によって磁性ビーズ117に印加される回転剪断力は、磁性ビーズ117が、回転部材120によって生成される、流体流動の方向に移動するにつれて、低減されるであろう。
【0055】
本開示の例示的実施形態では、装置100は、磁性ビーズ117に作用する磁力が、回転部材120によって発生される回転流体力に対抗する、またはそれを克服するように、磁場135をパルス化することによって、磁性ビーズ117に作用する回転流体力に対抗することができる。例えば、磁場135は、急速にパルス化され、磁性ビーズ117に作用する、回転流体力(回転流体力は、磁力と異なる方向において、磁性ビーズに作用している)より強力である、一方向において力を発生させることができる。そのような作用は、磁性ビーズ117を、磁場135によって発生される力の方向に移動させるであろう。磁場135は、次いで、磁性ビーズ117に作用する磁力が、元の磁力の反対方向に作用するように、(例えば、コイル内の電流の方向を変更することによって)反転されることができる。磁場135は、細胞培養培液115が、回転部材によって回転される間、磁性ビーズ117が、本質的に定常状態であるように、コントローラ140によって、反対方向に短い持続時間内に急速にパルス化されることができる。それに応じて、磁性ビーズ117の表面に位置する、細胞上の流体剪断応力が、磁性ビーズ117の表面と細胞培養培液115との間の相対速度の増加に起因して、増加される。本開示の他所において議論されるように、細胞に制御された剪断力を提供することによって細胞を調整するための能力は、実質的な恩恵を提供することができる。
【0056】
示される実施形態では、電動モータ125が、シャフト123に結合される開口122を伴う複数のディスク121を備える、回転部材120を回転させるために使用される。回転部材120が、一例示的構成であること、および他の実施形態が、
図1-4に示される異なる構成を伴う回転部材を備え得ることを理解されたい。ディスク121は、細胞発生のための表面積の増加を提供し、装置100の動作の間に、剪断力は、回転部材120の回転速度および磁気発生器130によって印加される磁力を調節することによって、制御されることができる。
【0057】
ここで
図5を参照すると、定常部材110の一実施形態の1つの部品の斜視図が、示される。本実施形態では、定常部材110は、
図6の部分概略図に示されるように、ディスク121と噛合するように構成される、複数の環状表面111を備える。ある実施形態では、ディスク121および環状表面111の重複が、送達される剪断応力の範囲を制限する(例えば、具体的実施例では、7~10ダイン/cm
2)。中心部分の近傍の間隙が、細胞培養培液の循環を可能にし、(細胞が中心により近接して位置するにつれて、剪断が減少するという事実に対抗するために)送達される剪断を、所望の範囲を下回って降下しないように保つ。
【0058】
ここで
図7を参照すると、回転部材120の別の実施形態が、示される。本実施形態では、回転部材120は、固定子の環状表面と噛合される、複数のディスクを伴うロータとして構成されない。代わりに、回転部材120は、ミクロンレベル範囲(例えば、10~100ミクロン、またはより具体的には、約50ミクロン)内の直径を伴う、無作為に配向されるファイバ129の網目状ネットワークを備える、円筒形管128として構成される。
【0059】
動作の間に、細胞は、無作為に配向されるファイバ129のメッシュ上で培養され、細胞培養培液115の流体(
図7に図示せず)を通して回転され得る。
図7に示される実施形態は、本開示の他所において議論されるように、磁場発生器と併用されることができる。円筒形管の回転および磁場の印加が、細胞に印加される剪断応力を制御するために使用されることができる。なおも他の実施形態は、上記に説明されるメッシュ管に類似する寸法のケージを組み込み得、ケージは、その上で細胞が培養される、磁性ビーズを保持するように設計される。そのような実施形態では、ケージは、流体培液を通してビーズの経路を制約することができる。
【0060】
ここで
図8を参照すると、装置100の別の実施形態は、トロイダル型のコンテナ118として構成される、定常部材110を備えるが、定常部材110内に配置される、回転部材は含まない。
図8に示される図内では可視ではないが、装置100は、本開示内の他の実施形態に説明されるように、磁性ビーズを含む、細胞培養培液を備える。加えて、装置100は、トロイダル型のコンテナ118の周囲に巻着される一連のコイル131として構成される、磁気発生器130を備える。コントローラ140は、磁性ビーズをトロイダル型のコンテナ118の周囲で、細胞培養培液の流体を通して移動させるように、細胞培養培液の磁性ビーズに作用する、磁場を発生させるように、磁気発生器130の動作を制御する。磁性ビーズの表面上の細胞は、したがって、細胞培養培液の流体を通して移動するにつれて、剪断応力を受ける。剪断応力は、細胞培養培液内の磁性ビーズへの磁場の印加を介して、制御されることができる。
【0061】
ここで
図9を参照すると、定常部材110と、複数の磁場発生器130とを備える、装置100のある実施形態が、示される。図示される実施形態では、定常部材110は、第1の端部136と、第2の端部137とを備える、線形の管状コンテナ138として構成され、磁場発生器130は、線形の管状コンテナ138の周囲に巻着される、一連のコイル131として構成される。加えて、装置100は、流体116中の磁性ビーズ117を伴う、細胞培養培液115を備え、細胞培養培液115は、定常部材110内に含有される。
【0062】
ある実施形態では、細胞培養培液115は、例えば、間葉系幹細胞(MSC)を含む、幹細胞の成長のために適切である。特定の実施形態では、MSCが、細胞接着のために好適である、ポリマー、例えば、ポリスチレンまたはポリカーボネート内でコーティングされる、磁性ビーズ117の表面上に堆積され、さらに、具体的な接着分子、例えば、コラーゲンまたはフィブロネクチンでコーティングされてもよい。そのようなビーズの実施例は、商業的に利用可能である(例えば、Miltenyi Biotec製MACS(登録商標)細胞分離システム)。いったんMSCが、ビーズの上に堆積されると、それらは、成長培液とともに管の中に設置される。
【0063】
装置100はさらに、細胞培養培液115の磁性ビーズ117に作用し、磁性ビーズ117を、第1の端部136から第2の端部137に向かって(および/または逆もまた同様)、細胞培養培液115の流体116を通して移動させる、磁場135を発生させるための磁気発生器130をアクティブ化するように構成される、コントローラ140を備える。磁性ビーズ117の表面上の細胞は、したがって、細胞培養培液115の流体116を通して移動するにつれて、剪断応力を受ける。剪断応力は、細胞培養培液115内の磁性ビーズ117への磁場135の印加を介して、制御されることができる。
【0064】
装置100の動作の間に、磁気発生器130は、磁性ビーズ117上に可変磁場135を発生させることができる。
図9に示される実施形態は、第1の端部136から第2の端部137に向かう、水平方向における左から右への力を伴う、磁性ビーズ117に作用している、磁場135を発生させる、磁気発生器130を伴う構成を図示する。しかしながら、図示される実施形態が、磁気発生器130が異なる配向における磁場135を発生させるように動作され得ることを理解されたい。例えば、他の実施形態では、磁気発生器130は、磁性ビーズ117に作用する磁力が、第2の端部137から第1の端部136に向かって、水平方向において右から左に、または所望に応じて他の方向に作用するような方向において磁場135を発生させてもよい。
【0065】
ある実施形態では、コントローラ140は、隣接するコイル131に提供される電流を制御することによって、順次、磁気発生器130をアクティブ化および非アクティブ化することができる。例えば、コントローラ140は、電流を最左の磁気発生器130内のコイル131に提供することができ、これは、磁性ビーズ117をコイルの中心に引き込み、その時点で、コイルは、オフにされ、次の隣接するコイルが、通電され、磁性ビーズ117を線形の管状コンテナ138に沿って引動させるであろう。このように、磁性ビーズ117は、線形の管状コンテナ138の長さに沿って加速され、線形の管状コンテナ138内で移動される。これは、磁性ビーズ117が流体116を通して流動するにつれて、その表面上に細胞に関する剪断を生成する。電流およびコイルタイミングを改変することによって、流体剪断応力の具体的なパターンが、細胞内で達成されることができる。いったん細胞が、線形の管状コンテナ138の反対端部に到達すると、本プロセスは、磁性ビーズ117を反対方向に(例えば、第2の端部137から第1の端部136に向かって離れるように)駆動するように反転されることができる。それに応じて、装置100は、磁性ビーズ117に作用する磁力を発生させることによって、細胞培養培液115内の細胞上の剪断力の増加を提供する。
【0066】
ある実施形態では、本明細書に開示されるようなモジュール式の細胞調製装置が、制御された様式において、限定ではないが、MSC等の細胞のメカノトランスダクション調整を導くように、流体力学的微小環境を制御するように動作されることができる。実施例として、本明細書に提供される研究は、説明される方法および装置が、例えば、MSCを含む細胞集団を、必要に応じてそれらに均一かつ制御可能な剪断応力を受けさせ、限定ではないが、免疫調節因子の誘導および放出を含む、特定の作用を発現させるような細胞を調整することによって、調整することを実証する。
【0067】
下記の実施例に提供される研究は、ヒト細胞培養物、例えば、MSCが、剪断応力を施すためのその能力のスケーリングがはるかにより限定され、あまり実験規模ではないデバイスを使用する、あまり柔軟ではないシステムを使用しているにもかかわらず、本装置によって提供されるものに類似のタイプの剪断応力を受ける、方法を実証する。しかしながら、これらの研究は、剪断応力が、限定ではないが、免疫調節因子の誘導および放出等の特定の作用を発現させるように細胞を調整するために使用され得ることを例証する。
【0068】
本明細書に提示される結果は、機能性MSCが、抗炎症および免疫調節因子を発現させ、産生するように直接調整され得ることを実証する。細胞療法の文脈において、本技法は、損傷または疾患と関連付けられる炎症に罹患している、またはそれに関するリスクがある患者に緩和を提供することを確約する。これは、本システムによって提供されるタイプの剪断応力を使用するMSCの調整が、以前から存在する炎症環境内の炎症細胞を阻害するためのそれらの能力を実質的に向上させ、炎症の防止および解決を補助し得ることを示す。
【0069】
また、本明細書に説明されるシステムを使用することによって、調整が、例えば、抗炎症分子の産生を含む、MSC細胞免疫調節作用を誘導する、代替として利用可能な技法を使用するときより迅速、均一、および確実に完了されることができる。細胞を調整するための説明されるシステムは、対象自身の(自家)細胞が、療法的に有効であるものとして使用されるべきであり、細胞の増殖および調整のための方法が要求されるときに、特に有利であることができる。
【0070】
調整がない状態では、ナイーブMSCは、多機能性抗炎症タンパク質TNF-α刺激タンパク質6(TSG-6)、プロスタグランジンE2(PGE2)、およびインターロイキン(IL)-1受容体アンタゴニスト(IL1RN)等の免疫抑制の重要となる媒介物質を殆どまたは全く発現させない。下記の実施例に詳述されるように、3つのヒト組織源、すなわち、骨髄、脂肪、および羊水に由来するMSCが全て、免疫調節シグナル伝達の活性化が種々の程度まで検出可能であるように、剪断応力ベースの調整の本システムに対して応答することが見出された。具体的には、本システムによって提供されるタイプの層流剪断応力を使用した、調整されたヒト骨髄由来MSCの評価が、TSG-6、COX-2、IL1Ra、HMOX-1、LIF、およびKLF2をエンコードするMSC遺伝子の転写において、6~120倍の増加を伴う、遺伝子発現の著しい発現上昇をシミュレートした。
【0071】
例示的実施形態は、調整された細胞の集団を提供するための方法であって、細胞の集団を取得することと、細胞に制御された剪断応力を受けさせることとを含む、方法を含む。ある実施形態は、調整された細胞の集団を提供するための方法であって、細胞の集団を取得することと、該細胞を細胞培液内で培養することと、細胞に細胞を調整するために十分な力の制御可能な剪断応力を受けさせることとを含む、方法を含む。いくつかの実施形態では、細胞は、由来源として、哺乳動物から取得される。いくつかの実施形態では、細胞は、由来源として、伴侶動物から取得される。好ましい実施形態では、細胞は、由来源として、ヒトから取得される。いくつかの実施形態では、細胞は、由来源として、骨髄から取得される。いくつかの実施形態では、細胞は、他の実施形態における場合には、由来源として、羊水から取得される。一方、いくつかの実施形態では、細胞は、由来源として、脂肪組織から取得される。いくつかの実施形態では、制御された剪断応力を受ける細胞は、MSCである。
【0072】
付加的な実施形態では、療法的に有効な数の調整された細胞を取得する方法が、存在する。いくつかの実施形態では、本明細書に説明される装置および方法を使用して調整される、療法的に有効な数の細胞を取得する方法が、存在する。いくつかの実施形態では、細胞の集団を取得することと、そのような細胞を所望に応じて作用させるように調整するために十分な力の制御された剪断応力を印加することとを含む、方法を使用して調整される、療法的に有効な数の細胞を取得する方法が、存在する。いくつかの他の実施形態では、細胞の集団を取得することと、そのような細胞を所望に応じて作用させるように調整するために十分な力の制御された剪断応力を印加することとを含む、方法を使用して調整される、療法的に有効な数の細胞を取得する方法が、存在する。いくつかの実施形態では、細胞の集団を取得することと、細胞が、第1の培養表面上に接着するように、細胞を細胞培液内の第1の培養表面上で培養することと、そのような細胞を所望に応じて作用させるように調整するために十分な力の制御された剪断応力を印加することとを含む、方法を使用して調整される、療法的に有効な数の細胞を取得する方法が、存在する。いくつかの実施形態では、細胞の集団を取得することと、細胞が、障壁上に接着するように、細胞を細胞培液内の培養表面上で培養することと、そのような細胞を所望に応じて作用させるように調整するために十分な力の制御された剪断応力を印加することとを含む、方法を使用して調整される、療法的に有効な数の細胞を取得する方法が、存在する。
【0073】
類似の実施形態では、細胞の集団を取得することと、細胞が、障壁に接着するように、細胞を細胞培液内の培養システム内で培養することと、該細胞にわたって細胞培液を通過させ、該細胞を調整するために十分な力の制御された流体層流剪断応力を提供することとを含む、調整された細胞の集団を提供するための方法が、存在する。いくつかの実施形態では、調整された細胞は、抗炎症作用を発現させる。いくつかの実施形態では、抗炎症作用は、TSG-6、COX-2、IL1RN、HMOX-1、LIF、またはKLF2をエンコードするものを含む群から選択される、遺伝子の発現の増加を含む。いくつかの実施形態では、作用は、調整された細胞による、COX2タンパク質の発現の増加を含む。
【0074】
付加的実施形態は、請求項1-10に説明される装置内で制御された剪断応力を使用して調整された細胞を含む、組成物を含む。いくつかの実施形態は、細胞の集団を取得することと、細胞が、障壁に接着するように、該細胞を細胞培液内の培養システム内で培養することと、該細胞を調整するために十分な力の流体層流剪断応力を印加することとを含む、方法を使用して調整された細胞を含む、組成物を含む。類似の実施形態では、細胞の集団を取得することと、細胞が、障壁に接着するように、細胞を細胞培液内の培養システム内で培養することと、該細胞にわたって該細胞培液を通過させ、該細胞を調整するために十分な力の流体層流剪断応力を提供することとを含む、調整された細胞の集団を提供するための方法を使用して調整された細胞を含む、組成物が、存在する。いくつかの実施形態では、組成物は、抗炎症作用を発現させる、調整された細胞を含む。いくつかの実施形態では、抗炎症作用は、TSG-6、COX-2、IL1RN、HMOX-1、LIF、またはKLF2をエンコードするものを含む群から選択される、遺伝子の発現の増加を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、増加されたレベルのCOX2タンパク質を発現させる、調整された細胞を含む。付加的実施形態では、説明されるデバイスおよび方法が、抗炎症因子の発現および放出を刺激するために使用され得、これは、培液から単離され、療法として使用されることができる。
【0075】
付加的実施形態では、そのような治療を必要とする対象を、説明される方法によって調整される細胞を用いて治療する方法が、存在する。代替実施形態では、そのような治療を必要とする対象を治療する方法は、説明される方法を使用して調整された細胞によって放出される因子を含み得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、対象を治療する方法は、限定ではないが、説明されるシステムに従って産生された、調整された細胞の集団を取得することと、治療を必要とする対象に細胞を投与することとを含む。いくつかの実施形態では、対象は、抗炎症療法を必要としており、細胞の集団は、その抗炎症作用が、説明されるシステムを使用して誘導されている、ヒトMSCである。いくつかの実施形態では、そのような細胞の療法用量は、療法を必要とする対象に導入される、少なくとも1×102個、1×103個、1×104個、1×105個、または1×106個の細胞を含み得る。いくつかの実施形態では、調整された細胞集団の抗炎症作用は、限定ではないが、整形外科的または脊髄の損傷または外傷性脳損傷等の筋肉骨格損傷等の急性障害を治療するために使用されることができる。
【0077】
細胞培養調整システムが、本明細書の種々の実施形態において説明され、細胞の培養および維持のための付加的な方法が、当業者に公知であろうように、本実施形態と併用され得ることを理解されたい。ある実施形態では、培養に関して、種々のマトリクス成分が、ヒト幹細胞を培養、維持、または分化させるために使用されてもよい。下記の実施例に説明されるものに加えて、例えば、組み合わせにおけるIV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、およびビトロネクチンが、多能性細胞成長のための固体支持体を提供する手段として、培養表面をコーティングするために使用され得る。マトリゲルTMもまた、ヒト多能性幹細胞の細胞培養および維持のための基質を提供するために使用され得る。マトリゲルTMは、マウス腫瘍細胞によって分泌される、ゼラチン状のタンパク質混合物であり、BD Biosciences(New Jersey, USA)から商業的に利用可能である。本混合物は、多くの組織内で見出される、複雑な細胞外環境に似ており、細胞生物学者によって、細胞培養の基質として使用される。
【0078】
細胞培養のいくつかの実施形態では、いったん培養コンテナが満杯(例えば、コンフルエント)になると、コロニーが、解離のために好適な任意の方法によって、凝集細胞またはさらに単一細胞に分割され、その細胞は、次いで、継代のために新しい培養コンテナの中に設置される。細胞の継代または分割は、細胞が長時間にわたって培養される条件下で生存および成長することを可能にする、技法である。細胞は、典型的には、それらが約70%~100%コンフルエントであるときに継代されるであろう。
【0079】
ある側面では、本調整システムの開始細胞は、少なくともまたは約104個、105個、106個、107個、108個、109個、1010個、1011個、1012個、1013個の細胞、またはその中で導出可能な任意の範囲を含み得る。開始細胞集団は、少なくともまたは約10個、101個、102個、103個、104個、105個、106個、107個、108個の細胞/mLまたはその中で導出可能な任意の範囲の播種密度を有し得る。
【0080】
基礎培液として、下記の実施例に説明されるものに加えて、Eagle基礎培液(BME)、BGJb、CMRL 1066、Glasgow MEM、改良MEM Zinc Option、Iscove改質Dulbecco培液(IMDM)、培液199、Eagle MEM、αMEM、DMEM、Ham、RPMI 1640、およびFischer培液等の定義された培液を含む、ある範囲の培液が、利用可能である。本実施形態に従って使用され得る、培液の付加的実施例は、限定ではないが、Lonza製Therapeak(既知組成)培液、Irvine Scientific製Prime-XV(SFMまたはXSFM)、PromoCell製MSC成長培液(DXF)、StemCell Technologies製Mesencult(ACF)、またはヒト血小板または血小板溶解物濃縮培液を含む。
【0081】
さらなる実施形態では、培液はまた、B-27サプリメント、インスリン/トランスフェリン/セレン(ITS)サプリメント、L-グルタミン、NEAA(非必須アミノ酸)、P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)、N2サプリメント(5μg/mLのインスリン、100μg/mLのトランスフェリン、20nMのプロゲステロン、30nMのセレン、100μMのプトレシン)、およびβ-メルカプトエタノール(β-ME)等のサプリメントを含有することができる。限定ではないが、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパリン、ヘパリン硫酸、レチノイン酸を含む、付加的因子が、添加される場合とそうではない場合があることを想定されたい。
【0082】
付加的因子が、調整された細胞の集団等の調整された組成物を発生させるために、剪断応力との併用のために培液に添加されてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、造血の少なくとも1つの化学調節物質が、生体力学的刺激の前、間、または後に投与されてもよい。培液に添加され得る、付加的成分の実施例は、限定ではないが、アテノロール、ジゴキシン、ドキサゾシン、ドキシサイクリン、フェンジリン、ヒドララジン、13-ヒドロキシオクタデカジエン酸(13(s)-HODE)、ラナトシドC、NG-モノメチル-L-アルギニン(L-NMMA)、メトプロロール、ネリフォリン、ニカルジピン、ニフェジピン、一酸化窒素(NO)またはNOシグナル伝達経路アゴニスト、lH-[l,2,4]オキサジアゾロ-[4,3-a]キノキサリン-l-オン(ODQ)、ペルボシド、ピンドロール、プロネタロール、シナプトソームタンパク質(SNAP)、ニトロプルシドナトリウム、ストロファンチジン、トドララジン、1,5-ペンタメチレンテトラゾール、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2メチルエステル、PGE2セリノールアミド、11-デオキシ-16,16-ジメチルPGE2、15(R)-15-メチルPGE2、15(S)-15-メチルPGE2、6,16-ジメチルPGE2、16,16-ジメチルPGE2p-(p-アセトアミドベンズアミド)フェニルエステル、16-フェニルテトラノールPGE2、19(R)-ヒドロキシPGE2、プロスタグランジンB2、プロスタサイクリン(PGI2、エポプロステノール)、4-アミノピリジン、8-ブロモ-cAMP、9-デオキシ-9-メチレンPGE2、9-デオキシ-9-メチレン-16,16-ジメチルPGE2、PGE2受容体アゴニスト、バプタ-AM、ベンフォチアミン、ビククリン、(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)、ブラジキニン、ブタプロスト、CaylO397、クロロトリアニセン、クロルプロパミド、ジアゾキシド、エイコサテトラエン酸、エポキシエイコサトリエン酸、フルドロキシコルチド、フォルスコリン、ガボキサドール、ガラミン、インダニロキシ酢酸94(IAA94)、イミプラミン、キヌレン酸、L-アルギニン、リノール酸、LY171883、ミード酸、メベベリン、12メトキシドデカン酸、N-ホルミル-メット-ロイ-フェ、プロスタグランジンE2受容体EP2-選択的アゴニスト(ONO-AEl-259)、ペルボシド、ピモジド、ピンドロール、ニトロプルシドナトリウム、バナジン酸ナトリウム、ストロファンチジン、スルプロストン、チアベンダゾール、ベサミコール、1,2-ジデカノイルグリセロール(10:0)、11,12-エポキシエイコサトリエン酸、1-ヘキサデシル-2-アラキドノイルグリセロール、5-ヒドロキシデカン酸、6-ホルミルインドロ[3,2-B]カルバゾール、アナンダミド(20:3,n-6)、カルバサイクリン、カルバミル血小板活性化因子(C-PAF)、またはS-ファルネシル-L-システインメチルエステルを含む。
【0083】
さらなる側面では、培液は、上皮成長因子ファミリー、例えば、EGFの構成要素、FGF2および/またはFGF8を含む、線維芽細胞成長因子ファミリー(FGF)の構成要素、血小板由来成長因子ファミリー(PDGF)の構成要素等の1つまたはそれを上回る成長因子を含むことができ、限定ではないが、ノギン、フォリスタチン、コーディン、グレムリン、ケルベロス/DANファミリータンパク質、ベントロピンアムニオンレス、TGF、BMP、およびGDFアンタゴニストを含む、形質転換成長因子(TGF)/骨形成タンパク質(BMP)因子ファミリーアンタゴニストもまた、TGF、BMP、およびGDF受容体-Fcキメラの形態において添加され得る。添加される場合とそうではない場合がある、他の因子は、限定ではないが、デルタ様およびジャッグドファミリーのタンパク質およびガンマセクレターゼ阻害剤およびDAPT等のノッチ処理または切断の他の阻害剤を含む、ノッチ受容体ファミリーを通したシグナル伝達を活性化または不活性化し得る分子を含む。付加的成長因子は、インスリン様成長因子ファミリー(IGF)、無翼関連(WNT)因子ファミリー、およびヘッジホッグ因子ファミリーの構成要素を含み得る。
【0084】
なおもさらなる側面では、培液は、炎症性サイトカイン、LPS、PHA、ポリI:C、および/またはConA等の1つまたはそれを上回るプライミング剤を含むことができる。本実施形態に従って使用され得る付加的プライミング剤は、Wagner et al.(2009年)(参照することによって本明細書に組み込まれる)によって詳述されるものを含む。
【0085】
培液は、血清含有培液または無血清培液であることができる。無血清培液は、いかなる未処理または未精製血清も伴わない培液を指し得、故に、精製された血液由来成分または動物組織由来成分(成長因子等)を伴う培液を含むことができる。異種動物由来成分との汚染を防止する側面から、血清は、細胞のものと同一の動物に由来することができる。
【0086】
培液は、血清に対する任意の代替物を含有する場合とそうではない場合がある。血清に対する代替物は、アルブミン(脂質に富むアルブミン、組換アルブミン等のアルブミン代用物、植物澱粉、デキストラン、およびタンパク質加水分解物等)、トランスフェリン(または他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール、またはそれらの均等物を適切に含有する、材料を含むことができる。血清に対する代替物は、例えば、国際公開第WO98/30679号に開示される方法によって調製されることができる。代替として、任意の商業的に利用可能な材料も、さらなる利便性のために使用されることができる。商業的に利用可能な材料は、ノックアウト血清代替物(KSR)と、既知組成脂質濃縮物(Gibco)と、グルタマックス(Gibco)とを含む。
【0087】
培液はまた、脂肪酸または脂質、アミノ酸(非必須アミノ酸等)、ビタミン、成長因子、サイトカイン、抗酸化物質、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、および無機塩類を含有することができる。2-メルカプトエタノールの濃度は、例えば、約0.05~1.0mM、特に、約0.1~0.5、または0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.1、0.2、0.5、0.8、1、1.5、2、2.5、5、7.5、10mM、または任意の中間値であり得るが、濃度は、これが幹細胞を培養するために適切である限り、特にそれらに限定されるものではない。
【0088】
細胞は、培養の必要性に応じて、少なくともまたは約0.005、0.010、0.015、0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、800、1,000、1,500mL、またはその中で導出可能な任意の範囲の体積内で培養され得る。バイオリアクタは、少なくともまたは約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートル、またはその中で導出可能な任意の範囲の体積を有し得る。
【0089】
本装置が組み立てられるときに給送キャップ12の壁13と中間モジュール30の障壁39との間に形成される、培養表面およびチャンバは、目的に応じて、細胞接着剤を使用して調製されることができる場合とそうではない場合がある。細胞接着性培養容器は、容器表面と細胞の接着性を改良するために、細胞接着のための好適な基質(例えば、細胞外基質[ECM])でコーティングされることができる。細胞接着のために使用される基質は、幹細胞または支持細胞(使用される場合)を付着させることが意図される、任意の材料であることができる。細胞接着のための非限定的な基質は、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ポリ-D-オルニチン、ラミニン、ビトロネクチン、およびフィブロネクチン、およびそれらの混合物、例えば、エンゲルブレス-ホルム-スウォームマウス肉腫細胞からのタンパク質混合物(マトリゲルTMまたはゲルトレックス等)、および溶解された細胞膜調製物を含む。具体的実施形態では、培養物は、ポリ-L-リジン(またはポリ-D-リジン)と、ラミニンとを含む、マトリクスを含む。
【0090】
他の培養条件も、適切に定義されることができる。例えば、培養温度は、約30~40℃、例えば、少なくともまたは約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃であることができるが、特にそれらに限定されるものではない。CO2濃度は、約1~10%、例えば、約2~7%、またはその中で導出可能な任意の範囲であることができる。酸素圧は、少なくともまたは約1、5、8、10、20%、またはその中で導出可能な任意の範囲であることができる。
【0091】
「外添」成分が本質的に存在しないことは、培液内の細胞以外の源からの規定された成分を有していない、または本質的にそのいかなるものも有していない、培液を指す。FGFまたはEGF等の外添された成長因子またはポリペプチドが「本質的に存在しない」ことは、最小限の量または検出不可能な量の外添成分を意味し得る。例えば、FGFまたはEGFポリペプチドが本質的に存在しない培液または環境は、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.01、0.001ng/mL未満またはその中で導出可能な任意の範囲を含有することができる。
【0092】
いくつかの実施形態では、説明されるシステムを使用して調整される細胞は、様々な療法的使用を有する。特に、細胞が、ヒトMSCである場合、そのためにそのような調整された細胞が療法的に使用され得る疾患または障害、または代替として、そのために、限定ではないが、説明されるシステムを用いて調整することを受けるMSCを含む、培養された細胞から産生および単離された因子を用いた療法が療法的に使用され得る、それらの疾患または障害は、限定ではないが、自己免疫疾患(限定ではないが、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)を含む)、移植片対宿主病、クローン病、炎症性腸疾患、神経変性障害、神経機能障害、脳障害、中枢神経系障害、末梢神経系障害、神経学的疾患、記憶障害および学習障害、心不整脈、パーキンソン病、眼障害、脊髄損傷、神経の治癒および再生を要求する障害、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、卒中、慢性または急性損傷、骨修復、外傷性脳損傷、整形外科的脊椎症状、軟骨骨格または筋肉障害、変形性関節症、骨壊死、心血管疾患、重症肢虚血等、心臓発作または疾患に関係する血管障害、末梢動脈疾患、アテローム性動脈硬化症、新血管形成、創傷、熱傷、および潰瘍から恩恵を享受するものを含む。
【0093】
ある実施形態では、本開示されるシステムは、細胞を調整し、それらの免疫調整性質を改善するために適用されることができる。ある実施形態では、そのような組成物は、とりわけ、自己免疫疾患および障害の治療、管理、および/または防止のために、1つまたはそれを上回る付加的な化合物または薬品(「付加的な活性剤」)との組み合わせにおいて投与されることができる。そのような療法は、とりわけ、免疫調節疾患または障害を治療または改善するために、療法的に有効な用量において患者に投与されることができる。
【0094】
そのような調整された細胞または因子組成物の毒性および療法的有効性は、例えば、LD50(集団の50%にとって致死的な用量)およびED50(集団の50%において療法的に有効な用量)を決定するために、例えば、細胞培養物または実験動物を使用する、標準的な製薬手順によって決定されることができる。有毒効果と療法効果との間の用量比は、比LD50/ED50として表現される、療法指数である。大きい療法指数を呈する組成物が、好ましい。毒性副作用を呈する化合物は、ある実施形態において使用され得るが、しかしながら、罹患していない細胞に対する潜在的障害を最小限化し、それによって、副作用を低減させるために、罹患した組織の部位に優先的にそのような組成物を標的化する送達システムを設計するために、注意が、通常、払われるべきである。
【0095】
細胞培養アッセイおよび動物実験から取得されるデータが、ヒトにおける使用のための投薬量の範囲を定式化することにおいて使用されることができる。そのような組成物の投薬量は、好ましくは、毒性を殆どまたは全く伴わない、ED50を含む、血中濃度の範囲内にある。投薬量は、採用される投薬形態および利用される投与経路に応じて、本範囲内で変動し得る。任意の組成物に関して、療法的に有効な用量は、最初に、細胞培養アッセイから推定され得る。用量は、細胞培養において決定されるような、IC50(すなわち、症状の最大半量の阻害を達成する、検査組成物の濃度)を含む、血中血漿濃度範囲を達成するために、動物モデルにおいて定式化され得る。そのような情報が、ヒトにおいて有用である用量をより正確に決定するために使用されることができる。血漿レベルが、例えば、高性能液体クロマトグラフィによって測定され得る。
【0096】
とりわけ、自己免疫疾患の療法的治療が、検討されるとき、適切な投薬量はまた、検査対象の体重キログラムあたりの生理活性剤の最大耐用用量、すなわち、MTDを決定するために動物実験を使用して決定され得る。一般に、検査される少なくとも1つの動物種は、哺乳類である。当業者は、有効性のため、およびヒトを含む、他の種に対する毒性を回避するために、用量を定期的に外挿する。有効性のヒト研究が、着手される前に、第I相臨床研究が、安全な用量を確立することに役立つであろう。
【0097】
加えて、生理活性剤は、例えば、生理活性剤の安定性を増強させる、または別様にその薬理学的性質を増強させる(例えば、生体内の半減期を増加させること、毒性を低減させること等)、様々な良好に確立された組成物または構造と結合または複合化され得る。
【0098】
本システムを使用して調整される細胞、またはそのような細胞から放出される因子、および他のそのような療法薬が、限定ではないが、外科手術の間の細胞挿入、静脈内(I.V.)、腹腔内(I.P.)、筋肉内(I.M.)、または髄腔内注入、吸入、皮下(sub-q)、を含む、当業者に公知である任意の数の方法によって投与される、または局所的に適用される(経皮、軟膏、クリーム、膏薬、点眼薬、および同等物)ことができる。
【0099】
以下の実施例の節は、種々の実施形態の実施例に関するさらなる詳細を提供する。後に続く実施例に開示される技法が、本発明者らによって、良好に機能することが発見された技法および/または組成物を表すことが、当業者によって理解されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、多くの変更が、開示される具体的実施形態において行われ、依然として、本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を取得し得ることを理解するはずである。これらの実施例は、本明細書に説明される方法およびシステムの例証であり、本発明の範囲を限定することは意図していない。その非限定的な実施例は、限定ではないが、下記に提示されるものを含む。
【0100】
本明細書で使用されるように、別様に示されない限り、用語「treat(~を治療する)」、「treating(治療すること)」、「treatment(治療)」、および「therapy(療法)」は、患者が疾患または障害に罹患している間に生じる、そのような疾患または障害の1つまたはそれを上回る症状または効果の重症度を低減させる措置を想定する。文脈が可能にする場合、用語「treat(~を治療する)」、「treating(治療すること)」、および「treatment(治療)」はまた、疾患または障害の増加されたリスクにおける個人が、疾患または障害の発症に先立って、適切な外科手術および/または他の医療介入を受けることが可能であることを確実にするように、講じられる措置も指す。本明細書で使用されるように、別様に示されない限り、用語「prevent(~を防止する)」、「preventing(防止すること)」、および「prevention(防止)」は、患者が疾患または障害を被り始める前に生じる、疾患または障害の発症を遅延および/または阻害する、またはその重症度を低減させる、措置を想定する。
【0101】
本明細書で使用されるように、別様に示されない限り、用語「manage(~を管理する)」、「managing(管理すること)」、および「management(管理)」は、すでにそのような疾患、障害、または病状を被っている患者内の疾患または障害の再発を防止する、遅延させる、またはその重症度を低減させることを包含する。本用語は、疾患または障害の閾値、発達、および/または持続時間を変調させること、または患者が疾患または障害に応答する方法を変更することを包含する。
【0102】
本明細書で使用されるように、別様に規定されない限り、細胞、因子、または化合物の「療法的に有効な量」は、疾患または障害の治療または管理において任意の療法的恩恵を提供する、または疾患または障害と関連付けられる、1つまたはそれを上回る症状を遅延させる、または最小限化するために十分な量である。療法的に有効な量は、疾患または障害の治療または管理において任意の療法的恩恵を提供する、単独の、または1つまたはそれを上回る他の療法および/または療法薬との組み合わせにおける、細胞、因子、または化合物の量を意味する。用語「療法的に有効な量」は、疾患または障害を緩和する、疾患または障害を改善または低減させる、療法全体を改善する、または別の療法薬の療法的有効性を増強させる、量を包含することができる。
【0103】
本明細書で使用されるように、別様に規定されない限り、細胞、因子、または化合物の「予防的に有効な量」は、疾患または障害、または疾患または障害と関連付けられる1つまたはそれを上回る症状の発症を防止または遅延させる、またはその再発を防止または遅延させるために十分な量である。細胞、因子、または化合物の予防的に有効な量は、疾患または障害の防止において予防的恩恵を提供する、単独の、または1つまたはそれを上回る他の治療および/または予防薬との組み合わせにおける、細胞、因子、または化合物の量を意味する。用語「予防的に有効な量」は、疾患または障害を防止する、全体的予防を改良する、または別の予防薬の予防有効性を増強させる、細胞、因子、または化合物の量を包含することができる。「予防的に有効な量」は、例えば、疾患または障害に先立って処方されることができる。
【0104】
本明細書で使用されるように、「患者」または「対象」は、ヒトおよび非ヒト哺乳動物、例えば、限定ではないが、齧歯類、マウス、ラット、非ヒト霊長類、イヌおよびネコ等の伴侶動物、および、例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ等の家畜等、本明細書に説明されるような、疾患または障害を患うことが可能である、哺乳類生物を含む。
【0105】
本明細書で使用されるように、「MSC」は、間葉系幹細胞であり、そのような細胞はまた、間葉系間質細胞とも称されている。
【0106】
本明細書で使用されるように、「制御された剪断応力」は、表面を横断して培液の流率を調節することによって、細胞に印加される剪断応力の量を設定するための能力を指す。応力は、プレートの表面積全体を横断して均一に印加される。
【0107】
本明細書で使用されるように、「調整された細胞」は、剪断応力に暴露されたことの結果として付加的な機能性を発現させる、細胞を指す。
【0108】
本明細書で使用されるように、「磁場発生器」は、例えば、永久磁石、電磁気、ソレノイドコイル等を含む、磁場を発生させることが可能である、任意のデバイスを含む。
【0109】
本明細書で使用されるように、用語「磁性ビーズ」は、例えば、常磁性ビーズを含む、種々のタイプの磁性ビーズを含む。常磁性ビーズは、残留磁気を留保せず、強磁性ビーズに優る、ある用途における利点を提供することができる。
【0110】
下記の請求項内の全ての手段またはステップおよび機能要素の対応する構造、材料、行為、および均等物は、具体的に請求されるような他の請求される要素との組み合わせにおいて機能を実施するための任意の構造、材料、または行為を含むことを意図する。本発明の説明は、例証および説明の目的のために提示されているが、これは、網羅的であること、または開示される形態における発明に限定されることを意図していない。多くの修正および変形例が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者に明白となるであろう。実施形態は、本発明の原理および実践的用途を最良に解説し、当業者が、検討される特定の使用に適するように、種々の修正を伴う種々の実施形態に関して本発明を理解することを可能にするために、選定および説明された。
【0111】
さらなる詳述を伴わず、当業者が、本明細書における説明を使用して、本方法をその最大限まで利用し得ると考えられる。本明細書に説明される実施形態は、本開示の残りをいかようにも制約するものしてではなく、例証的であるものとして解釈されるものとする。好ましい実施形態が、示され、説明されているが、多くの変形例およびそれらの修正が、当業者によって、本開示される方法の精神および教示から逸脱することなく行われることができる。
【0112】
故に、保護の範囲は、上記に提示される説明によって限定されず、本請求項の主題の全ての均等物を含む、請求項のみによって限定される。本明細書において引用される全ての特許、特許出願、および刊行物の開示は、本明細書に述べられる本開示に一貫する限り、参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0113】
(実施例)
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。続く実施例に開示される技法が、本発明者によって、本発明の実践において良好に機能することが発見された技法を表し、したがって、その実践のために好ましいモードを成すと見なされ得ることが当業者によって理解されるはずである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、多くの変更が、開示され、依然として、本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を取得する、具体的実施形態において行われ得ることを理解するはずである。
【0114】
予備研究が、流体剪断応力が、幹細胞を調整し、遺伝子の発現を改変し、機能的活性を増強させるために使用され得るという原理の証明を提供するために行われた。本システムによってであるが、はるかにより小さい分析規模において提供されるタイプの剪断応力の調整作用を例示するために、力(剪断応力)が、カスタム加工されたスライド、すなわち、IBIDI, LLC. (Verona, WI, USA)製のIBIDI(登録商標)小スケール微小流体チャネルスライドを使用して印加された。ヒトサンプルが、hMSCの単離および増殖のために処理された、骨髄(BM)、羊水(AF)、または脂肪(AD)組織から採集され、凍結された状態で貯蔵された。凍結されたhMSCが、融解され、50mlの最小必須培液(MEM-α)(20%のFBS、5%のペニシリン/ストレプトマイシン、5%のグルタミン)を伴うT225細胞培養フラスコの中に播種された。培液は、3~4日毎に交換された。hMSCは、ほぼ100%コンフルエントになるまで、培液内で維持された。細胞は、繊維芽細胞表現型を有していた。細胞を本デバイス(IBIDI(登録商標)マイクロ流体チャネルスライドまたはカスタム加工されたスライド)上に播種し、本システムによって提供されるものよりはるかに石灰化されたスケールにおいて類似する流体層流剪断応力を提供することに先立って、培養表面は、37℃において30~45分にわたってPBS内で100μg/mlのフィブロネクチンで事前コーティングされ、細胞を播種する前にPBSで2回洗浄され、細胞が播種のために調製される間に30~45分にわたってインキュベータ内に放置された。培養されたhMSCは、真空およびガラスパスツールピペットを使用してT225フラスコ容器から培液を除去することによって調製され、細胞は、室温PBSで1回洗浄され、これは、吸引によって除去された。3mlの0.25%トリプシン溶液が、添加され、フラスコ容器が、5分にわたって37℃においてインキュベートされた。本インキュベーションに続いて、フラスコ容器が、インキュベータから除去され、力強く叩打され、細胞を遊離させた。フラスコ容器は、解剖顕微鏡下で調査され、細胞の全てが、剥離し、浮動性であることを確実にした。本時点で、9mlのMEM-αが、フラスコ容器に添加され、総体積(12ml)が、除去され、15mlの円錐形管内に設置された。管は、遠心分離機内に設置され、室温において5分にわたって300RCFにおいて高速回転された。浮遊物が、吸引され、細胞ペレットの上方に少量の培液を残し、3mlのMEM-αが、添加され、細胞ペレットが、本培液内に再懸濁された。存在する生細胞の数が、トリパンブルー染料除外法を使用して決定された。生細胞数が、血球計上で決定され、細胞が、アッセイ毎に所望の濃度を取得するために再懸濁された(表1参照)。IBIDIチャネルが、本システムによって提供されるタイプに類似するが、それよりあまり良好に制御されていない、流体層流剪断応力を提供するために利用された。細胞が、ウェルあたり60μlの培液でウェルを充填する前に、30~45分にわたって放置された(長すぎる時間が経過する場合、培液は、チャネルから気化し始めるであろう)。細胞は、12~18時間にわたってインキュベートされた。管類が、次いで、清浄な三方活栓(全て事前に加圧滅菌処理またはEtO滅菌され、蠕動ポンプとの併用のために要求される、3つの停止管類が、EtOまたはUV滅菌され得る)を伴う安全性キャビネット内でIBIDI(登録商標)スライドに取り付けられ、次いで、インキュベータに移送された。IBIDIチャネル実験は、6mlの総体積を再循環させ、大きく加工されたスライド実験が、50mlの総体積を再循環させた。蠕動ポンプまたはHarvardシリンジポンプが、培養表面を横断して15ダイン/cm
2において培液を押動するようにプログラムされた。流体剪断応力が、3、6、または8時間にわたって印加された。
【表1】
【0115】
流体層流剪断応力に起因する免疫調節変化
ナイーブMSCは、TNF-α刺激タンパク質6(TSG-6)、プロスタグランジンE2(PGE2)、およびインターロイキン(IL)-1受容体アンタゴニスト(IL1RN)等の多機能性抗炎症タンパク質等、免疫抑制の重要となる媒介物質を発現させない。3つのヒト組織源、すなわち、骨髄、脂肪、および羊水に由来するMSCは全て、種々の程度まで、剪断応力に応答することが見出された。例えば、15ダイン/cm
2の力において印加された剪断応力は、複数のヒト組織から収集されたMSC内での免疫調節シグナル伝達を活性化させた。骨髄由来MSCの評価では、層流剪断応力が、TSG-6、COX-2、IL1RN、HMOX-1、LIF、およびKLF2をエンコードするMSC遺伝子の転写において、6~120倍の増加に相当する、著しい発現上昇をシミュレートした。例えば、
図10を参照されたい。
【0116】
同様に、商業的に利用可能なELISAを利用して、流体剪断応力を受けているヒトMSC培養からの培液もまた、プロスタグランジンE2等の免疫調節タンパク質を含有していたことが、決定された。加えて、ウェスタンブロッティングが、COX2、TSG6、およびIL1RNのタンパク質レベル(翻訳)の上昇を確認した。一定である、アクチンタンパク質発現レベルが、ベースラインタンパク質発現のための対照として使用された。本研究では、ヒトMSC(hBM(ヒト骨髄MSC)、hAF MSC(羊水MSC)、hAD MSC(脂肪由来MSC)に由来する)の流体剪断応力への8時間の暴露の後、流体剪断応力を受けていないMSCから取得された培液と比較して、COX2タンパク質の発現に有意な増加が存在したことが決定された。本誘導が、10μMのNF-カッパBアンタゴニストBAY11-7085の添加によって無効にされ得ることもまた、決定された(
図11)。さらに、商業的に利用可能なELISAを利用することによって、3時間と同程度に短い時間にわたって流体剪断応力を受けているヒトMSC培養物からの培液が、処理されたhMSCが、脾臓からの活性化された免疫細胞とともに共培養されたときのTNF-αの10~50%の低減によって立証されるように、免疫抑制性作用を有していたことが、決定された(
図12)。サイトカイン抑制アッセイを使用して、COXまたはNF-kB阻害剤の適用が、剪断処理されたMSCのTNF-αの産生を抑制するための能力を無効にした一方、安定化された合成形態のPGE2(dmPGE2)の添加が、TNF-αを、剪断されたMSCの存在下で産生されたレベルまで低減させたこともまた、決定された(
図13)。付加的な証拠はさらに、剪断されたMSCが、COX2およびHMOX1のより大きい誘導が、IFN-γの添加に伴って生じたため、流体剪断応力を受けていないMSCより他のプライミング剤に対して応答し得ることを示唆する(
図14)。したがって、流体剪断応力を受けるヒトMSCが、例えば、併用療法において提示されると、サイトカインと相乗的に作用し得ることを示している。
【0117】
炎症性サイトカインによる事前調整を伴わない、剪断応力に暴露されたナイーブMSCが、リポ多糖(LPS)によって活性化されたマウス脾細胞によるTNF-α分泌を遮断する(MSCドナーおよび源の変動性に応じて、完全な阻害から、静的条件下で培養されたMSCの2分の1への低減までの範囲に及ぶ)ことが可能であったことが、さらに決定された。
【0118】
神経保護能力:
研究が、制御された剪断応力に暴露されたMSC等の細胞が、例えば、外傷性脳損傷(TBI)に続いて、神経保護を提供し得ることを確立するために、実施された。これを行うために、ラットモデルが、機能転帰を評価するために利用された。ラットにおける、制御された皮質衝撃(CCI)が、ヒト頭部外傷に似た、形態学的な脳血管損傷応答を提示する。したがって、神経学的障害および炎症を強める、細胞および分子改変の特性評価が、MSC事前調整の潜在的な臨床的有効性を測定するための有効なツールを提供する。
【0119】
12匹のラットが、0.05のアルファ過誤水準において、80%の出力を達成するために、調整あたりに必要であると予測された(SAS予測分析ソフトウェア)。細胞療法のために投与されるべき細胞は、骨髄由来MSCであった。MSCが、15ダイン/cm2の強度において、3時間にわたって静的条件または剪断応力に暴露され、流体流率および持続時間が、COX2、TSG6、IL1RN、およびHMOX1のロバストな誘導を産生し、活性化された免疫細胞内でのサイトカイン産生を抑制することを実証した。大容量の側方流動システムによる力の印加の直後に、細胞10×106個/kgのMSCが、尾部静脈注入を介してレシピエントラットに移送された(ラットあたりMSC約2.5×106個の用量)。
【0120】
血液脳関門(BBB)浸透率が、(本明細書に説明されるような懸濁液中のデキストランビーズを利用して)血管系を横断した漏出を調査するための標準的方法を使用して決定された。右頭頂葉連合皮質における損傷が、CCIデバイス(Leicaインパクタ1)によって、オスのラット(225~250グラム)に導入された。並行して、対照ラットが、CCIのみを用いて、または単純に麻酔をかけられた状態で(偽対照)治療された。損傷の48時間後、MSCが、投与された。MSCの注入の24時間後、蛍光共役Alexa 680-デキストランビーズ(10kDa、1mg/mlの0.5ml)が、尾部静脈を介して送達された。本染料が注入された30分後、動物が、安楽死され、4%パラホルムアルデヒドで灌流された。固定された脳が、1mmの厚さにおいて、冠状に断片化された。血管の漏出が、700および800nmのチャネルを使用して、LI-COR Odyssey CLx赤外線レーザスキャナ内で、脳断片の蛍光強度によって測定された(800nmの信号が、バックグラウンド除去のために使用された)。神経炎症に応答して急速に改変されることが公知である、ある免疫および神経細胞型の周波数の組織学的分析は、予後の重要なインジケータである。将来の研究では、ラットの独立的コホートにおいて、8~50μmの脳断片が、免疫組織化学によって、小膠細胞(Iba1、ED1、またはCD63)、浸潤好中球(RP-3)、星状膠細胞(GFAP)、およびニューロン(NeuN)、および細胞胞死のインジケータ(切断されたカスパーゼ3)を検出するための抗体を使用して、CNS内の炎症表現型について分析されるであろう。脳断片の染色が、標準的な浮動性染色プロトコルまたはスライド搭載凍結断片を使用して行われるであろう。
【0121】
治療されたラットおよび対照ラットの認知回復が、ラットが迷路外の手掛かりに基づいて水中プラットフォーム内に定置される、古典的な海馬依存性空間学習課題である、Morris水迷路によって査定されることができる。これらの研究のために、損傷から2週間後、学習が、プラットフォームを見出すための速さ、各象限内で費やされた時間、および辿られた経路の距離によって測定される。同一の個体が、損傷後4週間において、迷路における同一の測定によって、記憶機能に関して検査されるであろう。予期される結果は、剪断されたMSCの送達が、BBB浸透率を低減させるであろうこと、およびナイーブな静的培養されたMSCに対する脳内の炎症細胞表現型もまた、改善された認知回復をもたらすであろうことである。
【0122】
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【0123】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載されるものに対する例示的な手続き上または他の詳細補助を提供する限り、参照することによって本明細書に具体的に組み込まれる。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【国際調査報告】